(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6736768
(24)【登録日】2020年7月17日
(45)【発行日】2020年8月5日
(54)【発明の名称】熱媒液を用いた照射済み材料固体の熱処理
(51)【国際特許分類】
B29B 13/02 20060101AFI20200728BHJP
B01J 19/00 20060101ALI20200728BHJP
B01J 19/12 20060101ALI20200728BHJP
B29B 9/16 20060101ALI20200728BHJP
B29C 71/02 20060101ALI20200728BHJP
C08J 3/12 20060101ALI20200728BHJP
C08J 7/00 20060101ALI20200728BHJP
B29B 13/08 20060101ALI20200728BHJP
B29C 71/04 20060101ALN20200728BHJP
【FI】
B29B13/02
B01J19/00 301Z
B01J19/12 C
B29B9/16
B29C71/02
C08J3/12 ACEW
C08J3/12CEZ
C08J3/12CER
C08J7/00 301
C08J7/00 302
B29B13/08
!B29C71/04
【請求項の数】9
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2019-517756(P2019-517756)
(86)(22)【出願日】2016年6月10日
(65)【公表番号】特表2019-527644(P2019-527644A)
(43)【公表日】2019年10月3日
(86)【国際出願番号】US2016036879
(87)【国際公開番号】WO2017213665
(87)【国際公開日】20171214
【審査請求日】2019年5月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】518436054
【氏名又は名称】イー−ビーム・サービシーズ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ポール・アール・ミンビオレ
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル・エフ・ヤセンチャク
【審査官】
▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】
特表2008−534123(JP,A)
【文献】
特開昭62−256639(JP,A)
【文献】
特表2005−511216(JP,A)
【文献】
国際公開第99/010025(WO,A1)
【文献】
特開昭48−065273(JP,A)
【文献】
特開2004−224805(JP,A)
【文献】
特開平01−115934(JP,A)
【文献】
特表2016−536391(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0243159(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0031657(US,A1)
【文献】
特表2004−504185(JP,A)
【文献】
特開平02−069533(JP,A)
【文献】
特表2005−523964(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 71/00−71/04
C08J 3/00− 3/28
C08J 7/00− 7/02
C08J 7/12− 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
照射して長鎖分岐プロピレンポリマー又はコポリマーをもたらした、実質的に直鎖状のポリプロピレンポリマー又はそのコポリマーのバルクポリマー粒子を提供する工程を含む、ポリプロピレン又はそのコポリマーの溶融強度を上昇させる方法であって、
前記照射済みポリマー粒子を加熱して、長鎖分岐が促進され、次に前記照射済みポリマー粒子中に存在する全てのフリーラジカルが失活することによりポリプロピレン又はそのコポリマーの溶融強度を上昇させるための所定の温度で、水又は水性組成物を含む熱媒液と前記照射済みバルクポリマー粒子を直接接触させる工程を含むことにより特徴づけられる、方法。
【請求項2】
前記ポリマー粒子を熱媒液から回収する追加の工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記加熱工程が、前記ポリマー粒子の熱処理、硬化若しくはアニーリング、又は前記ポリマー粒子のフリーラジカルの失活の工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ポリマー粒子の汚染物質又は望ましくない副生物を熱媒液によって分離する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ポリマー粒子を前記加熱処理のための容器中で前記熱媒液と直接接触させる工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記容器が、前記ポリマー粒子を加圧下で前記熱媒液で加熱するための圧力容器である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記加熱処理後に前記ポリマー粒子を前記容器から分離する工程を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記加熱処理工程の前及び/又は間に、熱媒液が窒素又は他の不活性ガスでパージされる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記ポリマー粒子による酸素の吸収を最小限に抑えるために、脱酸素剤が、熱媒液中で利用される、請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照射済み材料固体の様々な物理的、化学的、機械的及び/又は生化学的特性を向上させるための、熱媒液を用いた照射済み材料固体の熱処理に関する。
【背景技術】
【0002】
電子線(eビーム)又は他の高エネルギー放射線、高エネルギー処理により多種の製品が作り出され、又は改良されている。これらの製品には、家電部品、ガスケット、マニホールド、管材料、電気コネクタ、成形部品、樹脂ペレット等が含まれる。多数の商品において、eビーム処理により特性向上が達成できるので、可能性は無限である。ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、及びネオプレンゴム、シリコーンゴム、エチレン−プロピレンゴム等のある種のゴム等の汎用樹脂及び高分子材料は、全て実質的な特性強化を実現することができる。これらの高分子材料の特性向上には引張強さ、衝撃強さ、耐摩耗性、耐薬品性、熱たわみ性、弾性率、硬度、使用温度、バリア性、耐亀裂性、耐クリープ性及び耐疲労性の上昇が含まれうる。熱収縮性、正の温度係数を有する特性等の他の特殊な属性、及びポリマーの架橋又は切断により得られる他の様々な特殊な特性をポリマーに与えることができる。多くの場合このような特性向上は、成形部品のeビーム処理により達成される。
【0003】
溶融強度、耐熱性又はその他の物性を向上させるためにポリプロピレン及び他のポリオレフィンポリマー等のバルク高分子材料固体を処理することについて、米国特許第4916198号、第5047446号、第5047485号、第5541236号、第5554668号、第5591785号、第5605936号、第5731362号等の複数の特許が付与されている。一般にこれらの特許に記載されている工程には微粉化した高分子材料の処理が必要であり、この高分子材料は必要な環境において走行ベルト上に層状に重ねられる。走行ベルトの速度は、微粉化した高分子材料の層が所期の放射線量を受ける速度で電子線を通過するように選択する。他の工程には照射済みポリマーを流動床内で窒素ガス又は他の不活性ガスで処理すること等が含まれうる。環境制御区域内でポリマー粒子を処理するために高価な装置を使用する。
【0004】
高分子材料固体及び他の材料固体には照射に次いで熱処理が必要となることが多い。照射済み材料固体の熱処理は一般に炉、流動床反応器又は他の装置内で伝熱流体としてガスを用いて達成される。複数の特許が授与されている。例えば、米国特許第4220511号においては、ガスベースの炉内での熱処理により、ポリマー鎖の切断を促進するフリーラジカルとの所期の化学反応が促進される。ポリテトラフルオロエチレンの照射に関する米国特許第6340718号においては、閉ループ式の空気圧回路内で行われる照射後冷却工程即ちガスベース冷却工程が存在する。高溶融強度のポリプロピレンの場合には、米国特許第4916198号及び第5047446号に開示されているように、照射により生じたフリーラジカルを流動床反応器内で窒素を用いて高温で失活させる。他の特許及び出願は高溶融強度ポリプロピレンに関し、米国特許第8220226号及び第8399536号に開示されているように、ガスベースの熱処理方法の使用を想定している。
【0005】
物性を向上させるために照射処理される高分子量ポリエチレン(HMWPE)の場合、次に高分子材料を空気、窒素又は場合によってはアセチレンのような反応物を含むガスを循環させた炉内で加熱する。照射工程後にHMWPE中に残っている望ましくないフリーラジカルは、熱により失活する。
【0006】
したがって、物理的、機械的特性を向上させるために高分子量の固体有機ポリマーを高エネルギー放射線で照射し、続いて循環炉又は類似の加熱装置により更に処理することは、従来特許技術で十分に開発されている。ほとんど一般に、従来技術特許に規定され、商業的実施において行われている熱処理方法は、炉又は流動床内で熱い空気又は他のガスを使用する。高価な装置を省き、現行の処理工程を単純化することが非常に望ましいであろう。
米国特許出願公開第2014/0183794号明細書は、例えば超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)のポリマー材料を含む耐酸化性の医療装置のための方法を開示している。
米国特許出願公開第2004/054024号明細書は、請求項1の前置きに関するポリプロピレン又はそのコポリマーの溶融強度を増加させる方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第4916198号
【特許文献2】米国特許第5047446号
【特許文献3】米国特許第5047485号
【特許文献4】米国特許第5541236号
【特許文献5】米国特許第5554668号
【特許文献6】米国特許第5591785号
【特許文献7】米国特許第5605936号
【特許文献8】米国特許第5731362号
【特許文献9】米国特許第4220511号
【特許文献10】米国特許第6340718号
【特許文献11】米国特許第8220226号
【特許文献12】米国特許第8399536号
【特許文献13】米国特許第6641617号
【特許文献14】米国特許第7714036号
【特許文献15】米国特許出願公開第2014/0183794号明細書
【特許文献16】米国特許出願公開第2004/054024号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は
特許請求の範囲に定義される。照射済み材料固体を加熱又は冷却するために、熱媒液を用いてその固体を熱処理する方法
が本明細書内で記載される。熱媒液は照射済み固体材料の物理的、機械的、化学的及び/又は生化学的特性を向上させるために、ある温度で直接その固体に接触する。これらの特性の任意のいずれか1つ又は複数を熱的に実現するために適用される温度又は温度範囲は、処理する固体材料の性質、特定の固体材料に必要な、向上した1つ又は複数の特性、使用する熱媒液、使用する処理容器及び圧力を含むがそれらには限定されない、複数の因子によって異なるであろう。これらの因子は全て下記の詳細な説明及び例に鑑みて理解されるであろう。したがって、従来技術における照射済み固体の熱処理のためのガスの使用とは異なり、本発明はこの処理の目的を達成するために熱媒液を用いている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の1つの好ましい形態においては、熱媒液として水を用いている。例えば水には、熱媒液として、従来熱処理に使用されているガスよりも実質的に有利な点がいくつかある。水の密度は大気圧においてガスの密度の約1,000倍である。このことは、水を用いた処理装置の容量は以前に照射済み材料固体の熱処理に使用していた炉、流動床処理装置又は他のガスベースの処理装置の容量、大きさ及び資本経費のほんのわずかの割合でしかないことを意味している。更に、水の熱容量即ち比熱は、質量単位を基準に比較して、空気又は窒素等のガスの熱容量即ち比熱の約4倍である。このことは、本例における水のような液体を利用する熱伝達装置は同等のガスベースの装置よりもはるかに低質量を扱うことになるので、はるかに費用効率が高いことを意味する。更に、本発明の利点の1つは、照射済み材料固体と接触した熱媒液の熱伝達係数は、照射済み材料固体と接触したガスを利用する熱伝達係数より何倍も大きく、それが有意により速い熱伝達速度、したがってより効率的な処理に通じるということである。
【0010】
本発明の一形態において、予め照射したバルク材料固体を熱処理した後、単に熱媒液を分離するだけでその固体が熱媒液から容易に回収される。材料固体がポリマーである場合、照射は一般にポリマーの長鎖分岐、硬化、鎖の切断又は架橋を向上させるために行われる。酸素の吸収を最小限に抑え、又は熱媒液中に溶解した酸素のレベルを低減させる必要がある場合、熱媒液は窒素又はその他の不活性ガスを熱媒液に通気させて溶解した酸素を取り除くことにより処理してもよい。したがって、照射済み材料固体の保管及び取り扱いシステムにおいて空気又は他の酸素源への曝露を最小限に抑えることが達成される。その上、本方法の準備段階又は継続的使用段階のいずれかで熱媒液又は熱伝達システム中で脱酸素剤を利用できる。
【0011】
本発明の別の好ましい形態において、熱媒液は水性組成物を含む。したがって、水から得られる実質的な利点は水性熱媒液組成物にも及びうる。例えば、従来使用してきた炉、流動床処理装置又は他のガスベースの処理装置が一般に直面している処理装置の容量、大きさ及び資本経費の問題は軽減又は防止できる。更に、水性熱媒液で達成できる熱容量は空気又は窒素等のガスの熱容量の約4倍であり、はるかに費用効率の高い、照射済み材料固体の熱処理のための方法及びシステムが可能になる。その上、水性組成物は熱媒液として照射済み材料固体に接触すると、より速い熱伝達速度及びより効率的な処理が可能になる。
【0012】
本発明の他の利点又は目的の1つは、熱媒液を使用することにより照射済み材料固体の硬化又はアニーリングが容易になることである。その上、熱媒液を使用することにより、予め照射した望ましくない気体性、液体性又は固体性の副生物を除去でき、次いでその副生物を効果的に処分できる。照射済み材料固体を熱媒液で熱処理することにより、少し他の利点を挙げるだけでも、照射によって生じるガス放出物質の取り扱い又は望ましくない変色の回復も促進される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
発明の詳細な説明
記載された本方法の1つの好ましい形態においては、照射済みバルク材料固体は熱可塑性ポリマーの粒子(粉末、ペレット、チップ等)からなる。より詳細には、このポリマーの例としてはポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンテレフタラート、ポリブチレンテレフタラート、ポリアミド、エチレン酢酸ビニル、熱可塑性ポリウレタン、クロロスルホン化ポリエチレン、ポリエステル、ポリフッ化ビニリデン、エチレンテトラフルオロエチレン、エチレンクロロトリフルオロエチレン、塩素化ポリ塩化ビニリデン、フッ化エチレンプロピレン、フルオロエラストマー、熱可塑性ポリエステルエラストマー、ネオプレンゴム、シリコーンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、及びエチレン−プロピレンゴムが挙げられる。
【0014】
電子線処理の結果である、これらの材料の特性向上には、引張強さ、衝撃強さ、耐摩耗性、耐薬品性、熱たわみ性、弾性率、硬度、使用温度、バリア性、耐応力亀裂性、耐クリープ性、及び耐疲労性の上昇が含まれうる。ポリテトラフルオロエチレンの場合、照射によりマイクロ粉末をその後形成できる。
この電子線処理法は結晶構造の改変(宝石着色法)にも、シリコン固体デバイスのスイッチング速度を上昇させるのにも使用できる。上記のように、ナット、ねじ、ボルト、座金、スペーサ、リベット、噴霧ノズル、濾過器、取付部品、アダプタ、プラグ、管材料、ストレーナ、ボトル、バイアル、ガスケット、Oリング、封止装置、プローブ、カップリング、コネクタ、ケーブルタイ、軸受、車輪、緩衝器、ロール、滑車、歯車、ブッシュ、ベルト、他のポリマー性機能性部品等のポリマー部品も特性を向上させるため
に電子線処理できる。
【0015】
好ましくは、照射済み材料固体を容器又は密封管内で熱媒液により熱処理することであり、このように照射済み材料固体を容器内で処理することにより環境への影響が避けられる。更に、照射済み材料固体は液体中での処理中及び処理後に効果的且つ好都合に取り扱うことができる。特定の用途では次の処理工程で取り扱い上の利点が享受できる。熱処理した照射済み固体は分離により熱媒液から回収でき、熱媒液は多くの場合再使用可能である。
【0016】
この方法の他の利点には、環境制御室、流動床、混合装置及び/又は取扱装置、粉塵制御装置及び汚染制御装置等、既知の方法で使用される高価な装置が不要であることが含まれる。その上、開放型移動床、炉又は従来技術の方法による環境汚染の可能性を避けることができる。本発明の原理を利用することで、処理する照射済み材料固体の制御が達成できる。
これらの利点及び目的は実施例を参照しながら理解されるであろう。
【実施例】
【0017】
実施例1
下記は、事前に照射済みの材料固体を熱媒液で直接熱処理する一例である。本例では最終生産物はメルトインデックスレベルが上昇したフッ化エチレンプロピレン(FEP)ポリマー樹脂の粒子である。メルトインデックスレベルの上昇は特定の用途で好まれる。この場合、FEPを照射するのはポリマー鎖の切断を引き起こし、それによってメルトインデックスを所期のレベルに上昇させるためである。次の熱処理は所望のメルトインデックスが得られてその後維持されるような次の時点で、鎖の切断反応を失活させるために用いられる。従来ならば、FEP粒子はガス環境下での熱処理のために熱対流炉に入れられていた。
【0018】
本例では、FEP粒子の3試料を空気中で照射線量200kGyまで照射した。第1の試料は全く熱処理しなかった。第2の試料は従来の方法で175℃で3時間熱対流炉内で熱処理した。第3の試料は浴内の油にFEP粒子を直接接触させることにより、175±5℃に加熱した油浴で3時間直接熱処理した。この場合は鉱物油を使用したが、グリコール又は他の炭化水素液を使用することもできたであろう。更に、グリコール又はその他の相溶性の液体の水性混合物を使用することもできる。
【0019】
FEP材料はASTM D1238により測定した出発メルトインデックス2dg/10分を有した。熱処理しなかった照射済み試料のメルトインデックスを照射から48、72及び96時間後に測定した。メルトインデックスは48時間後で30dg/10分、72時間後で40dg/10分、96時間後で44dg/10分であった。第2の試料については、照射から72時間後に従来の熱処理を行い、メルトインデックスは41dg/10分と測定した。96時間後にもメルトインデックスは41dg/10分のままであった。第3の試料については、照射から72時間後に油で直接熱処理し、メルトインデックスは40dg/10分と測定した。96時間後にもメルトインデックスは40dg/10分のままであった。(下表参照。)これらの結果から、所期のメルトインデックスが照射の効果を高めることが分かり、次いで熱媒液を用いた熱失活処理が従来のガスベースの方法即ち熱対流炉方式と同じくらい有効であることが分かる。
【0020】
【表1】
【0021】
実施例2
事前に照射済みの材料固体を熱媒液を用いて熱処理するもう1つの例は、架橋超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)の生成である。この場合、ポリマーの長期劣化を防ぐために、照射工程中に生じるフリーラジカルを、熱処理により照射架橋済みUHMWPE固体材料から除去する必要がある(米国特許第6641617号及び第7714036号を参照)。UHMWPE材料固体は酸化反応を制限するために低酸素環境に置くことが多い。低酸素環境に置かない場合は照射工程中に起こる結合の切断により、ポリマー固体中に酸化反応が生じる恐れがある。従来ならばUHMWPEは予め照射した熱処理のために真空密封包装のままで熱対流炉に入れられていた。
【0022】
本例では、真空密封された2試料を照射線量75kGyまで照射した。1つの試料を上記のように熱対流炉に入れた。第2の試料を包装から取り出して、溶解酸素レベルを0.3ppm未満に低下させるように窒素で処理した水に入れた。第3の試料は照射せずに対照例として使用した。次にこれらの試料に120分間20ポンド/平方インチの過重を加えた後、200℃の温度でクリープを試験した。未処理試料のクリープ試験結果は0.08%であった。照射して従来どおり熱処理した試料のクリープ試験結果は0.01%であった。照射して水中で熱処理した試料のクリープ試験結果は0.01%であった。これらの試験結果により、架橋のクリープ低減効果が分かり、また熱媒液での熱処理が従来のガスベースの方法即ち熱対流炉方式と同じくらい有効であることが分かる。
【0023】
実施例3
事前に照射済みの材料固体を熱処理するもう1つの例であって、その固体材料がポリマーであり、熱媒液を使用する例は、長鎖分岐ポリプロピレンの生成である。この場合、熱処理の目的は(1)長鎖分岐ポリプロピレンの分岐が作れるようにすること、及び(2)フリーラジカルを失活させて、分岐反応を終わらせることである。
【0024】
直鎖状ポリプロピレン樹脂の粒子をプラスチックフィルム包装内に入れ、次に環境を制御すると同時にバルク材料から硬質の矩形ブロックを作り出すために真空包装した。次に、その結果できたポリプロピレンブロックの両面をバルク平均照射線量50kGyまで照射した(米国特許第8220226号参照)。従来(米国特許第5047446号のように)、続いてポリプロピレン材料は、酸素により望ましくない反応が起きるのを防ぐために、熱い窒素を用いて、分岐に適した温度(例えば80℃)、次にフリーラジカルの失活に適した温度(例えば120℃)まで熱処理する。或いはプラスチックフィルム包装中で熱処理する。その代わりに本例では、照射済み樹脂の粒子を包装から取り出し、水中に溶解した酸素レベルを0.3ppm未満に低下させるように窒素で処理した水を入れた圧力容器に直接入れた。この樹脂と水との混合物の温度を15分間80℃に保持して分岐をもたらし、次に120℃に昇温し30分間でフリーラジカルを失活させた。
【0025】
その結果生じた長鎖分岐ポリプロピレンを測定したところ、照射処理及び熱処理の前には2〜3センチニュートン(cN)であった溶融張力特性と比較して、処理後は20cNを超える、上昇した大きな溶融張力特性を有していた。溶融張力はISO 16790で測定した。照射処理及び熱処理の前には0.7dg/10分であったメルトインデックスと比較して、長鎖分岐ポリプロピレンのメルトインデックスは約2dg/10分と測定された。メルトインデックスはASTM D1238で測定した。
【0026】
もう1つの試験を60℃から80℃の異なる分岐温度及びより高い照射線量で実施した。測定結果は下表に示されている。
【0027】
【表2】
【0028】
このように、熱媒液での熱処理の有効性が示された。
【0029】
実施例4
事前に照射済みの材料固体を熱媒液を用いて熱処理するもう1つの例は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)微細粉末又はマイクロ(微小)粉末の生成である。PTFE材料固体(多くの場合、屑PTFE、再利用PTFE又は規格外PTFE)に照射してPTFEポリマーの分子量を減少させると、これにより次にPTFEを粉砕又は研削して微細粉末にすることができるようになる。次の熱処理の1つの目的は照射により起動したフリーラジカルを介して、鎖切断反応を熱的に促進し継続することにより、分子量を更に大きく減少させることである。照射後にPTFEを熱処理する従来の方法(米国特許第4220511号参照)は、例えば250℃で6時間、PTFEを熱対流炉に入れることである。
【0030】
本例では、PFEPチップの3試料を空気中で照射線量400kGyまで照射した。1つの試料は熱対流炉に入れて250℃で4時間熱処理した。第2の試料は250℃で4時間グリセリン浴に浸潰した。第3のPTFE試料は熱処理しなかった。
【0031】
分子量の減少を求めるために、各試料について360℃の温度で質量2.16kgにおけるメルトフローインデックスを測定した。生PTFEチップは流れなしであった。熱処理なしの試料は溶融流れ8.9dg/10分と測定され、これは熱処理した試料の溶融流れが12dg/10分を超えると測定されたのに対して約40%低かった。熱処理した試料を測定したところ、いずれもほぼ同一の結果であった。結果は下表のとおりである。
【0032】
【表3】
【0033】
これらの結果から、照射により開始する鎖切断反応を最大化するために予め照射した熱処理が望ましい場合、液体伝熱剤での熱処理は従来のガスベースの方法即ち熱対流炉方式と同じくらい有効であることが分かった。
【0034】
照射済みPTFEを熱処理するもう1つの目的は、僅かなものでも、PTFE照射の副生物である残存フッ化水素(HF)をPTFE材料から除去することであり、これは実務で広く使用されている。一般にこの目的のためには熱対流炉を用いる。代替方法として、水を伝熱流体として用いることができ、フッ化水素は効果的に水に溶解する。したがって、この方法はHF即ち照射の望ましくない副生物を分離する方法となる。