特許第6736797号(P6736797)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6736797自動分析装置での免疫測定における異常検出抑制方法、及び免疫測定試薬
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6736797
(24)【登録日】2020年7月17日
(45)【発行日】2020年8月5日
(54)【発明の名称】自動分析装置での免疫測定における異常検出抑制方法、及び免疫測定試薬
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/531 20060101AFI20200728BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20200728BHJP
【FI】
   G01N33/531 B
   G01N33/543 581J
【請求項の数】11
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2020-511408(P2020-511408)
(86)(22)【出願日】2019年11月8日
(86)【国際出願番号】JP2019043799
【審査請求日】2020年2月21日
(31)【優先権主張番号】特願2018-211559(P2018-211559)
(32)【優先日】2018年11月9日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390037327
【氏名又は名称】積水メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 忠晃
(72)【発明者】
【氏名】水庭 千尋
(72)【発明者】
【氏名】北原 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】高橋 弘至
【審査官】 三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−042057(JP,A)
【文献】 特開平04−363660(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/021387(WO,A1)
【文献】 特開2007−225343(JP,A)
【文献】 特開2009−040824(JP,A)
【文献】 特開2018−173334(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/052620(WO,A1)
【文献】 特開2011−058903(JP,A)
【文献】 油化製品総合カタログ,日油株式会社,2019年 2月
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/531
G01N 33/543
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体中の測定対象物質と免疫測定試薬の反応を自動分析装置で光学的に検出する方法における異常検出値の発生抑制及び測定再現性の向上方法であって、前記免疫測定試薬が重量平均分子量300〜3000のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール及びポリグリセリンからなる群から選ばれる一種以上のポリエチレングリコール類を含有し、かつ、反応系内の前記ポリエチレングリコール類の濃度が0.05〜0.5%であることを特徴とする前記方法。
【請求項2】
前記ポリエチレングリコール類が、ポリエチレングリコールである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記免疫測定試薬がラテックス免疫凝集測定試薬である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
検体中の測定対象物質と免疫測定試薬の反応を自動分析装置で光学的に検出する方法であって、前記免疫測定試薬が重量平均分子量300〜3000のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール及びポリグリセリンからなる群から選ばれる一種以上のポリエチレングリコール類を含有し、かつ、反応系内の前記ポリエチレングリコール類の濃度が0.05〜0.5%であることを特徴とする前記検出方法。
【請求項5】
前記ポリエチレングリコール類が、ポリエチレングリコールである請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記免疫測定試薬がラテックス免疫凝集測定試薬である請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
自動分析装置で光学的に検出する方法に使用される免疫測定試薬であって、重量平均分子量300〜3000のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール及びポリグリセリンからなる群から選ばれる一種以上のポリエチレングリコール類を含有し、かつ、反応系内の前記ポリエチレングリコール類の濃度が0.05〜0.5%となるように調整されていることを特徴とする前記免疫測定試薬。
【請求項8】
前記ポリエチレングリコール類が、ポリエチレングリコールである請求項7に記載の免疫測定試薬。
【請求項9】
前記免疫測定試薬がラテックス免疫凝集測定試薬である請求項7又は8に記載の免疫測定試薬。
【請求項10】
前記免疫測定試薬が、緩衝液を含む第一試薬とラテックスを含む第二試薬とを含み、いずれか一方あるいは両方に重量平均分子量300〜3000の前記ポリエチレングリコール類を含有する請求項に記載の免疫測定試薬。
【請求項11】
請求項10のいずれかに記載の免疫測定試薬を含む免疫測定試薬キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動分析装置を用いた免疫測定において、免疫反応による濁度変化を光学的に検出する場合に発生する異常検出を抑制し、測定再現性を向上させる方法、及びその方法に用いる免疫測定試薬に関する。特に詳しくは、自動分析装置を用いたラテックス免疫凝集測定において、前記異常検出を抑制し、測定再現性を向上させる方法、及びその方法に用いる免疫測定試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
臨床検査では、検体中に含まれる測定対象物質の濃度を測定し、該測定値を疾病の早期発見や治療効果判定に活用している。近年、臨床検査においては、精度良く多数検体を短時間で行うための自動分析装置が汎用されている。自動分析装置で測定対象物質の濃度を測定する方法としては、検体と自動分析用試薬を混合し、測定対象物質の単位時間当たりの濃度依存的な変化を光学的に検出して測定する方法が広く用いられている。該光学的検出方法には、透過光、散乱光などが一般的に用いられている。
【0003】
自動分析用試薬には、例えばラテックス免疫凝集法(ラテックス免疫凝集比濁法:以下、LTIA法ということがある)を原理とした試薬がある。LTIA法の試薬は、例えば、測定対象物質に対する抗体を結合させた免疫測定粒子(以下、抗体結合免疫測定粒子ということがある)を用い、測定対象物質である抗原と抗体結合免疫測定粒子の抗体が抗原抗体反応により結合し、抗体結合免疫測定粒子が凝集することによって生じる濁度変化を、光学的手段(例えば、透過光を測定する比濁法、散乱光を測定する比朧法など)などにより検出する測定方法である。
【0004】
現在汎用されている自動分析装置の多くは、光を照射した反応キュベットと呼ばれる透明のプラスチック製、あるいはガラス製容器中で検体と試薬を混合させ、一定時間毎に透過光、あるいは散乱光といった光学的変化の検出を行っている。この反応キュベットには、測定毎に廃棄するディスポーザブル(使い捨て)タイプと、測定後に洗浄して再利用するタイプが存在する。自動分析装置を用いた測定では、いずれのタイプにおいても光学的な検出を妨害し、測定精度や測定再現性を低下させる異常検出の原因因子の存在が知られている。具体的には、例えば反応キュベットに吸着する気泡や汚れ、試薬の混合不良(溶液の不均一)などが挙げられる。
【0005】
なお、本明細書中で示す「異常検出」とは、例えば検体を連続測定する同時再現性試験を実施した際に、他の測定値とは明らかに異なる値が示される場合や、その影響により、同時再現性試験のCV値(変動係数)が10%を超える場合を言う。前記場合の具体例としては、既知濃度試料を測定した際に、既知の濃度と実際の測定値との比率(以下、正確性という)が80〜120%の範囲外となる値が示される場合や、さらに深刻な影響を受けるときは測定値の正確性が50〜150%を外れる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−140035号公報
【特許文献2】特開2013−068443号公報
【特許文献3】特開2003−226893号公報
【特許文献4】国際公開WO2011/065573号パンフレット
【特許文献5】特開昭58-47256号公報
【特許文献6】特開2003−66047号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ディスポーザブルタイプの反応キュベットに吸着する気泡の発生を抑制する方法としては、例えば特許文献1のように界面活性剤を含む免疫分析試薬が報告されている。本文献には、ポリオキシエチレン型非イオン系界面活性剤の存在下で反応及び/または測定を行うことで乾燥したキュベット側面への気泡吸着を抑制する方法が示されている。
しかし、界面活性剤が免疫測定系内に存在する場合、種類によっては抗原抗体反応自体を阻害したり、該抗原抗体反応によって形成された凝集を再び解離させてしまったりすることがあるため、適切な界面活性剤を選択しても、測定感度の低下を招く可能性が否定できない。さらに、例えば、界面活性剤による測定対象物質自体の構造変化の惹起、測定対象物質との複合体形成、抗体結合ラテックス粒子への非特異的吸着、ラテックス粒子に結合していた抗体やブロッキング用タンパク質の剥離などの測定系への干渉が、複合して発生する場合もある。
【0008】
再利用タイプの反応キュベットに於いては、例えば特許文献2のように、反応キュベットの汚れをはじめとする装置分析部の状態チェックが定期的に、かつ自動的にチェックされることにより、測定データの正確性を高めた自動分析装置が提供されている。
また、反応キュベット、特に、LTIA法の試薬を使用した後の反応キュベットの汚れの除去に関しては、例えば特許文献3のような特定の有機溶媒を含む反応キュベット洗浄液が提供されている。
【0009】
試薬の混合不良(溶液の不均一)を抑制する方法としては、例えば特許文献4のように、測定試薬にシリコーン系消泡剤を添加処方することにより、攪拌・混合工程の方式が異なる仕様の自動分析装置間でも測定精度を改善する方法が提供されている。
【0010】
一方、LTIA法の試薬にPEG(ポリエチレングリコール)を含有させた場合、抗体結合免疫測定用粒子の凝集を促進し、シグナルを増強させる効果については公知であり、例えば特許文献5、6が挙げられる。特許文献5においては、PEGの含有により透過光や散乱光の強度の変化速度を大きくし(凝集促進)、シグナルを増強して高感度かつ高精度の定量を行うことができること、ポリエチレングリコールの平均分子量が増大するにつれてその効果が大きくなることが記されている。事実、特許文献5の実施例では平均分子量1540(PEG1540)、4000(PEG4000)の場合には、その効果は無添加の対照とさほど変わりなく、平均分子量が6000以上のPEGを使用した場合に効果が高く、他の実施例はすべてPEG6000で測定されている。また、特許文献6にも平均分子量6000のPEG6000が免疫凝集反応における凝集反応促進、高感度測定のために広く用いられていることが記載されている。つまり、免疫凝集法におけるPEGの利用は、比較的高分子量のPEGを含有させることにより、感度を上昇させて高感度かつ高精度の定量を可能とすることを目的としたものに限定されている。
しかし、特許文献5、6に開示されているPEGの平均分子量は6000と比較的高分子量であるため、感度増強効果が強く現れることで、測定値に影響を与える恐れもある。また、特許文献5、6の測定手法は用手法であり、自動分析装置の測定における異常検出の抑制と再現性向上などの課題に関しては、何ら言及されていない。
【0011】
このように、上記のような技術を駆使しても、自動分析装置を用いた免疫測定において回避が困難な異常検出が依然として存在し、測定再現性の課題が解決されていないのが現状である。
【0012】
本発明は、上記現状に鑑み、自動分析装置を用いた免疫測定において、使用する反応キュベットがディスポーザブルタイプであるか再利用タイプであるかに関わらず、また、光学的検出方法が透過光か、散乱光かに関わらず、当該測定における異常検出値の発生を抑制し、再現性良く測定する方法、及び、これに用いられる免疫測定試薬を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らが鋭意検討したところ、免疫測定試薬中に特定の平均分子量(重量平均分子量として規定したことは後述する)を持つポリエチレングリコール類(以下、ポリエチレングリコールをPEG、ポリエチレングリコール類をPEG類ということがある)を含有させることで、測定感度の変化を引き起こすことなく、異常検出が抑制され、測定再現性が向上することを見出した。
【0014】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(17)に係るものである。
(1)検体中の測定対象物質と免疫測定試薬の反応を自動分析装置で光学的に検出する方法における異常検出値の発生抑制及び測定再現性の向上方法であって、前記免疫測定試薬が重量平均分子量300〜3000のポリエチレングリコール類を含有することを特徴とする前記方法。
(2)前記ポリエチレングリコール類が、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリグリセリンからなる群より選ばれる少なくとも一種以上である(1)に記載の方法。
(3)反応系内の前記ポリエチレングリコール類の濃度が0.05〜0.5%である(1)又は(2)に記載の方法。
(4)前記ポリエチレングリコール類が、ポリエチレングリコールである(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5)前記免疫測定試薬がラテックス免疫凝集測定試薬である(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6)検体中の測定対象物質と免疫測定試薬の反応を自動分析装置で光学的に検出する方法であって、前記免疫測定試薬が重量平均分子量300〜3000のポリエチレングリコール類を含有する前記検出方法。
(7)前記ポリエチレングリコール類が、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリグリセリンからなる群より選ばれる少なくとも一種以上である(6)に記載の方法。
(8)反応系内の前記ポリエチレングリコール類の濃度が0.05〜0.5%である(6)又は(7)に記載の方法。
(9)前記ポリエチレングリコール類が、ポリエチレングリコールである(6)〜(8)のいずれかに記載の方法。
(10)前記免疫測定試薬がラテックス免疫凝集測定試薬である(6)〜(9)のいずれかに記載の方法。
(11)自動分析装置で光学的に検出する方法に使用される免疫測定試薬であって、重量平均分子量300〜3000のポリエチレングリコール類を含有することを特徴とする前記免疫測定試薬。
(12)前記ポリエチレングリコール類が、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリグリセリンからなる群より選ばれる少なくとも一種以上である(11)に記載の免疫測定試薬。
(13)反応系内の前記ポリエチレングリコール類の濃度が0.05〜0.5%となるように調整されている(11)又は(12)に記載の免疫測定試薬。
(14)前記ポリエチレングリコール類が、ポリエチレングリコールである(11)〜(13)のいずれかに記載の免疫測定試薬。
(15)前記免疫測定試薬がラテックス免疫凝集測定試薬である(11)〜(14)のいずれかに記載の免疫測定試薬。
(16)前記免疫測定試薬が、緩衝液を含む第一試薬とラテックスを含む第二試薬とを含み、いずれか一方あるいは両方に重量平均分子量300〜3000のポリエチレングリコール類を含有する(15)に記載の免疫測定試薬。
(17)(11)〜(16)のいずれかに記載の免疫測定試薬を含む免疫測定試薬キット。
【0015】
また、上記の検出方法(1)〜(10)は換言すれば以下のように表現することもできる。
(18)検体中の測定対象物質と免疫測定試薬の反応を自動分析装置で光学的に検出する方法における異常検出値の発生抑制及び測定再現性の向上方法であって、重量平均分子量300〜3000のポリエチレングリコール類存在下、検体中の測定対象物質と免疫測定試薬を接触させる工程を含む前記方法。
(19)前記ポリエチレングリコール類が、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリグリセリンからなる群より選ばれる少なくとも一種以上である(18)に記載の方法。
(20)反応系内の前記ポリエチレングリコール類の濃度が0.05〜0.5%である(18)又は(19)に記載の方法。
(21)前記ポリエチレングリコール類が、ポリエチレングリコールである(18)〜(20)のいずれかに記載の方法。
(22)前記免疫測定試薬がラテックス免疫凝集測定試薬である(18)〜(21)のいずれかに記載の方法。
(23)検体中の測定対象物質と免疫測定試薬の反応を自動分析装置で光学的に検出する方法であって、重量平均分子量300〜3000のポリエチレングリコール類存在下、前記測定対象物質と免疫測定試薬とを接触させる工程を含む前記検出方法。
(24)前記ポリエチレングリコール類が、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリグリセリンからなる群より選ばれる少なくとも一種以上である(23)に記載の方法。
(25)反応系内の前記ポリエチレングリコール類の濃度が0.05〜0.5%である(23)又は(24)に記載の方法。
(26)前記ポリエチレングリコール類が、ポリエチレングリコールである(23)〜(25)のいずれかに記載の方法。
(27)前記免疫測定試薬がラテックス免疫凝集測定試薬である(23)〜(26)のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、自動分析装置で測定する免疫測定試薬に特定な平均分子量のPEG類を含有させることにより、測定感度の低下を引き起こすことなく、かつ異常検出の発生を抑制し、測定再現性が向上する方法を提供することができる。これにより、自動分析装置における免疫測定の測定精度、再現性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】代表的なPEG類の化学構造を示す。(i)はポリエチレングリコール、(ii)はポリプロピレングリコール、(iii)はポリブチレングリコール、(iv)はポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、(v)はポリグリセリンの化学構造を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について説明する。なお、本明細書中のPEG類の含量%は、特に断りがない限り、質量基準(W/V%)を意味する。
【0019】
(免疫測定試薬)
本発明の免疫測定試薬(試液)は、反応の主成分の他に、後述する特定の重量平均分子量のPEG類を含むことを特徴とする。
免疫測定試薬中には、試料のpH、イオン強度、浸透圧などを緩衝、調整する成分として、例えば、酢酸、クエン酸、リン酸、トリス、グリシン、ホウ酸、炭酸、及びグッドの緩衝液や、それらのナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩などを含んでも良い。また凝集形成を増強する成分としてポリビニルピロリドン、リン脂質ポリマーなどの高分子を含んでも良い。また、凝集の形成をコントロールする成分として、タンパク質、アミノ酸、糖類、金属塩類、界面活性剤類、還元性物質やカオトロピック物質など汎用される成分を1種類、または複数の成分を組み合わせて含んでも良い。
本発明は、検体中の測定対象物質と上記の免疫測定試薬の反応を自動分析装置で光学的に検出する方法あるいは、当該検出方法において異常検出値の発生抑制及び測定再現性の向上方法であるところ、換言すれば、特定の重量平均分子量のPEG類の存在下で検体中の測定対象物質と免疫測定試薬を接触させる工程を含むこれらの方法であるとも言える。
【0020】
(免疫測定用粒子)
本発明に用いられる免疫測定用粒子は、所望される目的成分に対して特異的な結合パートナーを担持できるものであれば、公知の粒子を使用できる。好適にはポリスチレン等の高分子材料を用いたラテックス粒子を使用できるが、測定対象物質に対して特異的な結合パートナーを担持する方法に応じて、金属コロイド、シリカ、カーボン等の無機物粒子も、本発明の免疫測定用粒子として用いることができる。
免疫測定用粒子のサイズは、使用する光学的測定法(例えば、透過光を測定する比濁法、散乱光を測定する比朧法など)を考慮し、所望の測定感度、測定範囲などが得られるよう、0.05〜1μmの範囲から適宜選択することができる。なお、自動分析装置における光学的測定においては平均粒子径0.1〜0.4μmが汎用されているが、これに限定されない。
免疫測定用粒子の平均粒子径は粒度分布計や透過型電子顕微鏡像などで確認することができる。免疫測定用粒子の試液中の濃度は、使用する免疫測定用粒子の粒径や測定系全体の設計にあわせ、例えば0.0001mg/mL〜10mg/mLの範囲から適宜選択をすることができる。
【0021】
本発明の免疫測定用粒子としてラテックス粒子を採用する場合、ラテックス粒子を構成する合成高分子としては特に限定はないが、例えば、ポリスチレン、スチレン−スチレンスルホン酸塩共重合体、メタクリル酸重合体、アクリル酸重合体、イタコン酸重合体、スチレン−親水性カルボキシモノマー共重合体:例えば、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−イタコン酸共重合体等が挙げられる。その中で、好ましくはスチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−イタコン酸共重合体、スチレンおよびスチレン−スチレンスルホン酸塩共重合体である。特に好ましくは、スチレン及びスチレン−(メタ)アクリル酸共重合体である。
【0022】
スチレンスルホン酸塩の塩としては、特に限定されず、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。なかでも、スチレンスルホン酸ナトリウムが好ましく用いられる。
本発明に使用される親水性カルボキシルモノマーとしては、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などを用いることができる。好ましくは、メタクリル酸、アクリル酸を用いることができる。
【0023】
(測定対象試料)
本発明の測定対象物質を含む試料としては、例えばヒト又は動物の血液、血清、血漿、培養上清、尿、髄液、唾液、汗、腹水、又は細胞あるいは組織の抽出液等が挙げられる。
【0024】
本発明の免疫測定試薬は、前記試料に含有される種々の物質を測定対象とすることができる。測定対象物質としては、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、脂質、糖質、核酸、ハプテンなどが挙げられるが、理論的に測定可能な物質であれば特に制限はない。例えばCRP(C反応性タンパク質)、Lp(a)、MMP3(マトリクスメタロプロテイナーゼ3)、抗CCP(環状シトルリン化ペプチド)抗体、抗リン脂質抗体、RPR、IV型コラーゲン、PSA、BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)、NT−proBNP、インスリン、マイクロアルブミン、シスタチンC、RF(リウマチ因子)、CA―RF、KL−6、PIVKA―II、FDP、Dダイマー、SF(可溶性フィブリン)、TAT(トロンビン−アンチトロンビンIII複合体)、PIC、PAI、XIII因子、ペプシノーゲンI・IIや、フェニトイン、フェノバルビタール、カルバマゼピン、バルプロ酸、テオフィリンなどが挙げられる。
【0025】
本発明の免疫測定試薬は、一試液、もしくは二試液以上の複数の試液から構成される。複数の試液の例としては、測定対象物質を測定に好適な濃度に調整したり、抗原抗体反応の環境を調整したりするなどを目的とする緩衝液からなる試液、抗体結合粒子を含有する試液等が挙げられる。本発明のPEG類は試薬を構成する全ての試液に含まれていても良いし、測定試薬を構成する試液のいずれかに選択的に含まれていても良い。ラテックス粒子を用いる免疫測定試薬の場合は、緩衝液を含む第一試薬とラテックスを含む第二試薬とを含み、いずれか一方あるいは両方に重量平均分子量300〜3000のポリエチレングリコール類を含有する試薬が例示できる。
本発明の免疫測定試薬を含むキットは、上記の免疫測定試薬のほかに測定に必要な他の構成を含んでもよく、他の構成としては、例えば洗浄液、試料希釈液、試料抽出液、試料採取用ピペット、標準品、取扱説明書などが挙げられる。
【0026】
(PEG類)
本発明で用いられるPEG類は、異常検出を抑制する効果を有するものであれば特に制限されない。代表的なPEG類は以下の通りである(図1参照)。
・ポリエチレングリコール(i)
・ポリプロピレングリコール(ii)
・ポリブチレングリコール(iii)
・ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(iv)
・ポリグリセリン(v)
尚、図中のm、nは繰り返し構造を示し、後述する重量平均分子量の範囲であればいかなる数値でもかまわない。また、ポリエチレン鎖及びポリプロピレン鎖が混在する場合、その混在度合いはランダムでかまわない。これらのうち、ポリエチレングリコール(PEG)が好適に用いられるが、上記物質の混合物を用いても何らかまわない。
これらのPEG類としては、以下の製品が一例として挙げられる。ポリエチレングリコールとしては、ポリエチレングリコール(キシダ化学)、アデカPEG(アデカ)、PEG(三洋化成工業)、ポリプロピレングリコールとしてはユニオール(登録商標)D(日油)、ニューポール(登録商標)PP(三洋化成工業)、ポリブチレングリコールとしてはユニオール(登録商標)PB(日油)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールとしては、エマルゲン(登録商標)PP−290(花王)、プロノン(登録商標)(日油)、アデカ(登録商標)プルロニックL/P/F(アデカ)、ニューポール(登録商標)PE(三洋化成工業)、ポリグリセリンとしては、ポリグリセリン(阪本薬品工業)等が挙げられる。
【0027】
異常検出を抑制する効果は以下の実施例で詳述しているように、PEG類の重量平均分子量で決定される。
本発明におけるPEG類の重量平均分子量は、高すぎると感度増強効果が大きくなり、測定値自体を大きく変化させる為3000以下が好ましい。上限としては、3000以下が好ましく、2800以下がさらに好ましく、2500以下がさらにいっそう好ましく、2100以下がもっとも好ましい。
また、低すぎると抑制効果そのものが消失してしまう為、300以上が好ましい。下限としては、300以上が好ましく、400以上がさらに好ましく、1000以上がさらにいっそう好ましく、1900以上がもっとも好ましい。
したがって、本発明において利用されるPEG類の重量平均分子量の範囲は、PEG類の有する感度増強効果および異常検出抑制効果の両方を発揮できる範囲であり、このような両機能を有する範囲は本発明によって初めて見出されたものである。本発明のPEG類の重量平均分子量の好ましい範囲としては、300〜3000であり、さらに好ましくは、400〜2500であり、よりいっそう好ましくは400〜2100である。最も好ましくは1900〜2100である。
本発明において用いるPEG類の測定反応系内における濃度は、PEG類の分子量により所望の抑制効果を示す濃度とすればよく、一般には、高すぎると重量平均分子量と同様に感度増強効果が大きくなる為、5%以下が好ましく、更に好ましくは1.0%以下であり、更にいっそう好ましくは0.5%以下である。低すぎる場合も同様に抑制効果が薄れてしまう為、0.005%以上が好ましく、更に好ましくは0.01%以上であり、更にいっそう好ましくは0.05%以上である。好ましい濃度の範囲としては、0.005%以上5%以下であり、更に好ましくは0.01%以上1.0%以下であり、更にいっそう好ましくは0.05%以上0.5%以下である。
本発明の測定試薬中にあらかじめPEG類を含有させる場合には、反応系内における濃度が上記濃度になるようにあらかじめ測定試薬中に含有させればよい。
【0028】
本発明のPEG類の「重量平均分子量」は、以下の重量平均分子量の測定方法により算出される。
重量平均分子量の測定方法:各種PEG水溶液(5%)20μLとテトラヒドロフラン980μLを混合した溶液を試料(試料濃度:1.0g/L)として、サイズ排除クロマトグラフィー装置(東ソー社製高速GPC装置:ECO SEC HLC-8320GPC、カラム:TSKgel Super Multiporehz−H(4.6mmI.D.×15cm×1本)、カラム温度:40.0℃、溶離液流量:0.2mL/min.、検量線サンプル:PstQuick MP-H)によるクロマト解析を3回実施する。3回の重量平均分子量(Mw)の平均値を「重量平均分子量」とする。
下記試験例で使用するキシダ化学社製のPEGを例に、メーカー標榜の平均分子量と上記測定方法による重量平均分子量を示す。
PEG200(製品コード番号010-62905、平均分子量190〜210、重量平均分子量401)、PEG400(製品コード番号010-62925、平均分子量380〜420、重量平均分子量562)、PEG1000(製品コード番号010-62945、平均分子量950〜1050、重量平均分子量1033)、PEG2000(製品コード番号010-62965、平均分子量1800〜2200、重量平均分子量2072)、PEG4000(製品コード番号010-62975、平均分子量2700〜3400、重量平均分子量3400)、PEG6000(製品コード番号010-62985、平均分子量7400〜9000、重量平均分子量10736)、PEG20000(製品コード番号020-63005、平均分子量18000〜25000、重量平均分子量23555)。
【0029】
なお、PEG類は高分子化合物であるため、分子量分布がブロードとなる特性がある。そのため、本発明で用いられるPEG類は、測定された重量平均分子量の値が上記の範囲300〜3000を満たしていればよい。すなわち、例えば異なる重量平均分子量を持つ2種類以上のPEG類を混合する等して、新たに得られた上記重量平均分子量のPEG類を添加した測定試薬等も本発明に含まれる。具体的には、PEG類の重量平均分子量が2072以上のものが含まれる試薬に、さらにPEG類の分子量が300〜3000のPEG類を添加して共存させても、添加後の試薬中のPEG類の重量平均分子量が300〜3000の範囲内であれば差し支えない。
【実施例】
【0030】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0031】
1.Dダイマー測定用ラテックス免疫凝集試薬の調製
(第一試薬の調製)
(1)本発明試薬
30mMトリス緩衝液(pH8.5)に、500mM 塩化ナトリウム、0.4%BSA、0.052%プロクリン300を溶解した。これにPEG200(重量平均分子量401)、PEG400(重量平均分子量562)、PEG1000(重量平均分子量1033)、PEG2000(重量平均分子量2072)(以上、PEGはキシダ化学株式会社製)をそれぞれ、最終濃度0.05%、0.5%となるように添加し、それぞれ本発明試薬1、2、3、4とした。
(2)対照試薬
30mMトリス緩衝液(pH8.5)に、500mM 塩化ナトリウム、0.4%BSA、0.052%プロクリン300を溶解し、PEGを添加しないものを対照試薬1とした。対照試薬1にPEG4000(重量平均分子量3400)、PEG6000(重量平均分子量10736)、PEG20000(重量平均分子量23555)(以上、PEGはキシダ化学株式会社製)をそれぞれ、最終濃度0.05%、0.5%となるように添加し、それぞれ対照試薬2、3、4とした。
(第二試薬の調製)
抗Dダイマーモノクローナル抗体03204を3.2mg/mL含む20mMトリス緩衝液(pH8.5)3mLに、平均粒子径120nmの5%ラテックス懸濁液3mLを加え、4℃にて2時間撹拌した。これに2.0%牛血清アルブミンを含む20mMトリス緩衝液(pH8.5)6mLを加え、4℃で1時間撹拌した。遠心分離後、沈殿を5mM MOPS緩衝液(pH7.0)で、波長600nmにおける吸光度が3.0ODとなるように再懸濁し、第二試薬を調製した。
【0032】
2.Dダイマー測定用ラテックス免疫凝集試薬の同時再現性測定
(1)日立7180形自動分析装置での測定(再利用タイプの反応キュベット、透過光検出)
(i)測定方法
第一試薬80μLにDダイマー濃度0.0、1.0、3.0、15、30、60μg/mLのキャリブレーター9.6μLを加えて撹拌後、37℃で5分間加温し、さらに第二試薬80μLを添加して37℃、5分間の主波長570nm/副波長800nmにおける吸光度変化量を測定した。当該Dダイマー濃度0.0、1.0、3.0、15、30、60μg/mLのキャリブレーター6ポイントから検量線を作成した。同様に、0.33μg/mLの既知濃度Dダイマー試料(クエン酸ナトリウム血漿)を10回連続測定して、変動係数を算出し、測定値の正確性及び同時再現性を確認した。
【0033】
【表1】
【0034】
(ii)測定結果
表1に日立7180形自動分析装置においてPEG種類ならびに添加濃度を変動させた場合の同時再現性測定結果を示した。本自動分析装置は再利用タイプの反応キュベットを用い、透過光検出にて測定する方式である。また、表1中、0.33μg/mLの既知濃度Dダイマー試料の測定値の正確性が80〜120%の範囲外(測定値で0.26μg/mL以下及び0.40μg/mL以上)の値と、変動係数が10%以上の場合を灰色で示した。
本測定結果によれば、PEGを含まない対照試薬1では、正確性が80〜120%の範囲外となる測定値が6つ存在し、変動係数は24.0%と不良であった。また、対照試薬2では、PEG4000を0.05%含有した場合、変動係数は10%以下となったが、正確性が80〜120%の範囲外となる測定値が1つ存在した。さらに、0.5%含有した場合、正確性80〜120%の範囲外となる測定値が6つ存在し、変動係数は14.8%と不良であった。対照試薬3〜4でも同様に、正確性が80〜120%の範囲外となる測定値が2〜6つ存在し、変動係数が14.3〜19.2%と不良であった。
これに対し、本発明試薬1〜4では正確性が80〜120%の範囲外となる測定値は存在せず、変動係数は10%以下であった。以上のことから、PEG200〜2000(重量平均分子量300〜3000)を0.05〜0.5%添加した場合に、正確性の改善と再現性が向上することが確認された。
【0035】
(2)自動分析装置コアプレスタ3000での測定(ディスポーザブルタイプの反応キュベット、透過光検出)
(i)測定方法
第一試薬100μLにDダイマー濃度0.0、1.0、3.0、15、30、60μg/mLのキャリブレーター20.0μLを加えて撹拌後、37℃で5分間加温し、さらに第二試薬100μLを添加して37℃、2分間の570nmにおける吸光度変化量を測定した。当該Dダイマー濃度0.0、1.0、3.0、15、30、60μg/mLのキャリブレーター6ポイントから検量線を作成した。同様に、0.55μg/mLの既知濃度Dダイマー試料(クエン酸ナトリウム血漿)を10回連続測定し、変動係数を算出して同時再現性及び測定値の正確性を確認した。
【0036】
【表2】
【0037】
(ii)測定結果
表2にコアプレスタ3000自動分析装置においてPEG2000を0.05〜0.5%添加した場合(本発明試薬4)ならびに対照試薬1を用いた場合の測定結果を示した。本自動分析装置はディスポーザブルタイプの反応キュベットを用い、透過光検出にて測定する方式である。また、表2中、0.55μg/mLのDダイマー試料の正確性が80〜120%の範囲外(測定値で0.44μg/mL以下及び0.66μg/mL以上)を示す値と変動係数が10%以上を示す場合を灰色で示した。対照試薬1では正確性が80〜120%の範囲外となる測定値が1つ存在し、その正確性は185%である異常検出を認めた。この影響を受け、変動係数は25.8%と不良となった。
一方、本発明試薬4では正確性が80〜120%の範囲外となる測定値が存在せず、変動係数は3.4〜4.1%と良好であった。
以上のことから、反応キュベットがディスポーザブルタイプの自動分析装置であっても本発明のPEG添加における異常値検出の抑制と、測定再現性向上効果が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明により、自動分析装置で測定する免疫測定試薬に特定の重量平均分子量のポリエチレングリコール類を含有させることにより、反応キュベットがディスポーザブルタイプ、再利用タイプに関わらず、また、光学的検出方法が透過光、散乱光に関わらず、測定感度の低下を引き起こすことなく、かつ異常検出の発生を抑制し、測定再現性が向上する自動分析測定方法を提供することができる。これにより、自動分析装置における免疫測定の測定精度、再現性が向上する。
【要約】
自動分析装置を用いた免疫測定方法において、反応キュベットがディスポーザブルタイプ、再利用タイプに関わらず、また、光学的検出方法が透過光、散乱光に関わらず、異常検出値の発生を抑制し、再現性良く測定する方法、及び、当該方法に用いる免疫測定試薬の提供を課題とする。
免疫測定試薬中に重量平均分子量300〜3000のポリエチレングリコール類を含有させることを特徴とする、異常検出値の発生抑制、測定再現性の向上方法。
図1