(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記天然由来のフィブロインが、クモ類の大瓶状スパイダータンパク質(MaSp)又は小瓶状スパイダータンパク質(MiSp)である、請求項5に記載の改変フィブロイン。
前記ドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、更に少なくともREP中の1又は複数のグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当する、グリシン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有する、請求項1〜9のいずれか一項に記載の改変フィブロイン。
前記ドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中のGGX及びGPGXX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)から選ばれる少なくとも一つのモチーフ配列において、少なくとも1又は複数の当該モチーフ配列中の1つのグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当するアミノ酸配列を有する、請求項10に記載の改変フィブロイン。
前記原核生物が、エシェリヒア属、ブレビバチルス属、セラチア属、バチルス属、ミクロバクテリウム属、ブレビバクテリウム属、コリネバクテリウム属及びシュードモナス属からなる群より選択される属に属する微生物である、請求項18に記載の宿主。
前記酵母が、サッカロマイセス属、シゾサッカロマイセス属、クリベロマイセス属、トリコスポロン属、シワニオミセス属、ピキア属、キャンディダ属、ヤロウィア属及びハンゼヌラ属からなる群より選択される属に属する酵母である、請求項21に記載の宿主。
前記サッカロマイセス属に属する酵母が、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)であり、前記シゾサッカロマイセス属に属する酵母が、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)であり、前記クリベロマイセス属に属する酵母が、クリベロマイセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)であり、前記トリコスポロン属に属する酵母が、トリコスポロン・プルランス(Trichosporon pullulans)であり、前記シワニオミセス属に属する酵母が、シワニオマイセス・アルビウス(Schwanniomyces alluvius)であり、前記ピキア属に属する酵母が、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)であり、前記キャンディダ属に属する酵母がキャンディダ・アルビカンス(Candida albicans)であり、前記ヤロウィア属に属する酵母が、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)であり、前記ハンゼヌラ属に属する酵母が、ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)である、請求項22に記載の宿主。
前記アスペルギルス属に属する糸状真菌が、アスペルギルス・オリゼであり、前記ペニシリウム属に属する糸状真菌が、ペニシリウム・クリゾゲナムであり、前記ムコア属に属する糸状真菌が、ムコア・フラギリスである、請求項24に記載の宿主。
前記昆虫細胞が、スポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)由来の昆虫細胞、又はイラクサギンウワバ(Trichoplusia ni)由来の昆虫細胞である、請求項21に記載の宿主。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
フィブロインは、その優れた特性により、医療、航空、衣料等の様々な産業分野における新素材として注目されている。しかしながら、商業レベルに見合う生産量を達成するためには、フィブロインの生産性をより向上させることが必要である。
【0010】
本発明は、フィブロインの強度と伸度を維持しつつ、生産性が向上した改変フィブロインの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、工業的に大量生産可能な方法を種々検討した結果、フィブロインの強度(応力及びタフネス)に関与していると考えられている(A)
nモチーフの含有量を低減させることにより、意外にも応力を維持したまま、生産性を向上させることができ、かつタフネス及び伸度も向上させることができることを見出した。本発明はこの新規な知見に基づく。
【0012】
すなわち、本発明は、例えば、以下の各発明に関する。
[1]
式1:[(A)
nモチーフ−REP]
mで表されるドメイン配列を含む改変フィブロインであって、
上記ドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、少なくとも1又は複数の(A)
nモチーフが欠失したことに相当する、(A)
nモチーフの含有量が低減されたアミノ酸配列を有する、改変フィブロイン。
[式1中、(A)
nモチーフは4〜20アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示し、かつ(A)
nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数が83%以上である。REPは10〜200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。mは8〜300の整数を示す。複数存在する(A)
nモチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。]
[2]
上記ドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、少なくともN末端側からC末端側に向かって1〜3つの(A)
nモチーフ毎に1つの(A)
nモチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を有する、[1]に記載の改変フィブロイン。
[3]
上記ドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、少なくともN末端側からC末端側に向かって2つ連続した(A)
nモチーフの欠失、及び1つの(A)
nモチーフの欠失がこの順に繰り返されたことに相当するアミノ酸配列を有する、[1]に記載の改変フィブロイン。
[4]
式1:[(A)
nモチーフ−REP]
mで表されるドメイン配列を含む改変フィブロインであって、
N末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)
nモチーフ−REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比が1.8〜11.3となる上記隣合う2つの[(A)
nモチーフ−REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、上記ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが50%以上である、改変フィブロイン。
[式1中、(A)
nモチーフは4〜20アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示し、かつ(A)
nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数が83%以上である。REPは10〜200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。mは8〜300の整数を示す。複数存在する(A)
nモチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。]
[5]
天然由来のフィブロインと比較して、1又は複数の(A)
nモチーフが欠失したことに相当するのに加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列を有する、[1]〜[4]のいずれかに記載の改変フィブロイン。
[6]
上記天然由来のフィブロインが、昆虫又はクモ類由来のフィブロインである、[5]に記載の改変フィブロイン。
[7]
上記天然由来のフィブロインが、クモ類の大瓶状スパイダータンパク質(MaSp)又は小瓶状スパイダータンパク質(MiSp)である、[5]に記載の改変フィブロイン。
[8]
上記ドメイン配列が、上記天然由来のフィブロインと比較して、少なくともN末端側からC末端側に向かって1〜3つの(A)
nモチーフ毎に1つの(A)
nモチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を有する、[5]〜[7]のいずれかに記載の改変フィブロイン。
[9]
上記ドメイン配列が、上記天然由来のフィブロインと比較して、少なくともN末端側からC末端側に向かって2つ連続した(A)
nモチーフの欠失、及び1つの(A)
nモチーフの欠失がこの順に繰り返されたことに相当するアミノ酸配列を有する、[5]〜[7]のいずれかに記載の改変フィブロイン。
[10]
上記ドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、更に少なくともREP中の1又は複数のグリシン残基が置換されたことに相当する、グリシン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有する、[1]〜[9]のいずれかに記載の改変フィブロイン。
[11]
上記ドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中のGGX及びGPGXX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)から選ばれる少なくとも一つのモチーフ配列において、少なくとも1又は複数の当該モチーフ配列中の1つのグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当するアミノ酸配列を有する、[10]に記載の改変フィブロイン。
[12]
グリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたモチーフ配列の割合が、全モチーフ配列に対して、40%以上である、[11]に記載の改変フィブロイン。
[13]
上記ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列中の全REPに含まれるXGX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)からなるアミノ酸配列の総アミノ酸残基数をzとし、上記ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列中の総アミノ酸残基数をwとしたときに、z/wが30%以上である、[10]〜[12]のいずれかに記載の改変フィブロイン。
[14]
配列番号2、配列番号4若しくは配列番号10で示されるアミノ酸配列、又は配列番号2、配列番号4若しくは配列番号10で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロイン。
[15]
更に、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含む、[1]〜[14]のいずれかに記載の改変フィブロイン。
[16]
上記タグ配列が、配列番号5で示されるアミノ酸配列を含む、[15]に記載の改変フィブロイン。
[17]
配列番号7、配列番号9若しくは配列番号11で示されるアミノ酸配列、又は配列番号7、配列番号9若しくは配列番号11で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロイン。
[18]
[1]〜[17]のいずれかに記載の改変フィブロインをコードする核酸。
[19]
[18]に記載の核酸の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ式1:[(A)
nモチーフ−REP]
mで表されるドメイン配列を含む改変フィブロインをコードする核酸。
[式1中、(A)
nモチーフは4〜20アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示し、かつ(A)
nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数が83%以上である。REPは10〜200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。mは8〜300の整数を示す。複数存在する(A)
nモチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。]
[20]
[18]に記載の核酸と90%以上の配列同一性を有し、かつ式1:[(A)
nモチーフ−REP]
mで表されるドメイン配列を含む改変フィブロインをコードする核酸。
[式1中、(A)
nモチーフは4〜20アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示し、かつ(A)
nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数が83%以上である。REPは10〜200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。mは8〜300の整数を示す。複数存在する(A)
nモチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。]
[21]
[18]〜[20]のいずれかに記載の核酸配列と、当該核酸配列に作動可能に連結された1又は複数の調節配列とを有する発現ベクター。
[22]
プラスミドベクター又はウイルスベクターである、[21]に記載の発現ベクター。
[23]
[21]又は[22]に記載の発現ベクターで形質転換された宿主。
[24]
原核生物である、[23]に記載の宿主。
[25]
上記原核生物が、エシェリヒア属、ブレビバチルス属、セラチア属、バチルス属、ミクロバクテリウム属、ブレビバクテリウム属、コリネバクテリウム属及びシュードモナス属からなる群より選択される属に属する微生物である、[24]に記載の宿主。
[26]
真核生物である、[23]に記載の宿主。
[27]
上記真核生物が、酵母、糸状真菌又は昆虫細胞である、[26]に記載の宿主。
[28]
上記酵母が、サッカロマイセス属、シゾサッカロマイセス属、クリベロマイセス属、トリコスポロン属、シワニオミセス属、ピキア属、キャンディダ属、ヤロウィア属及びハンゼヌラ属からなる群より選択される属に属する酵母である、[27]に記載の宿主。
[29]
上記サッカロマイセス属に属する酵母が、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)であり、上記シゾサッカロマイセス属に属する酵母が、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)であり、上記クリベロマイセス属に属する酵母が、クリベロマイセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)であり、上記トリコスポロン属に属する酵母が、トリコスポロン・プルランス(Trichosporon pullulans)であり、上記シワニオミセス属に属する酵母が、シワニオマイセス・アルビウス(Schwanniomyces alluvius)であり、上記ピキア属に属する酵母が、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)であり、上記キャンディダ属に属する酵母がキャンディダ・アルビカンス(Candida albicans)であり、上記ヤロウィア属に属する酵母が、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)であり、上記ハンゼヌラ属に属する酵母が、ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)である、[28]に記載の宿主。
[30]
上記糸状真菌が、アスペルギルス属、ペニシリウム属及びムコア属からなる群より選択される属に属する糸状真菌である、[27]に記載の宿主。
[31]
上記アスペルギルス属に属する糸状真菌が、アスペルギルス・オリゼであり、上記ペニシリウム属に属する糸状真菌が、ペニシリウム・クリゾゲナムであり、上記ムコア属に属する糸状真菌が、ムコア・フラギリスである、[30]に記載の宿主。
[32]
上記昆虫細胞が、鱗翅類の昆虫細胞である、[27]に記載の宿主。
[33]
上記昆虫細胞が、スポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)由来の昆虫細胞、又はイラクサギンウワバ(Trichoplusia ni)由来の昆虫細胞である、[27]に記載の宿主。
[34]
[1]〜[17]のいずれかに記載の改変フィブロインを含み、
繊維、糸、フィラメント、フィルム、発泡体、球体、ナノフィブリル、ヒドロゲル、樹脂及びその等価物からなる群から選択される、製品。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、フィブロインの強度と伸度を維持しつつ、生産性が向上した改変フィブロインの提供が可能となる。フィブロインの(A)
nモチーフは、フィブロインの強度(応力及びタフネス)に密接に関係していると考えられていたため、これまで(A)
nモチーフの含有量を増加させる方向で研究開発が進められており、(A)
nモチーフの含有量を減少させることにより著しく強度が減少すると考えられていた。しかしながら、本発明者らは、(A)
nモチーフの含有量を減少させても著しく応力が減少することはなく、また組換えタンパク質生産系での生産量を著しく向上させることができ、更にはタフネス及び伸度も向上することを見出した。本発明によれば、このような予想外の効果が奏される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0016】
〔改変フィブロイン〕
本発明に係る改変フィブロインは、式1:[(A)
nモチーフ−REP]
mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。改変フィブロインは、ドメイン配列のN末端側及びC末端側のいずれか一方又は両方に更にアミノ酸配列(N末端配列及びC末端配列)が付加されていてもよい。N末端配列及びC末端配列は、これに限定されるものではないが、典型的には、フィブロインに特徴的なアミノ酸モチーフの反復を有さない領域であり、100残基程度のアミノ酸からなる。
【0017】
本明細書において「改変フィブロイン」とは、そのドメイン配列が天然由来のフィブロインのアミノ酸配列とは異なるフィブロインを意味する。本明細書でいう「天然由来のフィブロイン」もまた、式1:[(A)
nモチーフ−REP]
mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。
【0018】
「改変フィブロイン」は、本発明で特定されるアミノ酸配列を有するものであれば、天然由来のフィブロインに依拠してそのアミノ酸配列を改変したもの(例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列を改変することによりアミノ酸配列を改変したもの)であってもよく、また天然由来のフィブロインに依らず人工的に設計及び合成したもの(例えば、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより所望のアミノ酸配列を有するもの)であってもよい。
【0019】
本明細書において「ドメイン配列」とは、フィブロイン特有の結晶領域(典型的には、アミノ酸配列の(A)
nモチーフに相当する。)と非晶領域(典型的には、アミノ酸配列のREPに相当する。)を生じるアミノ酸配列であり、式1:[(A)
nモチーフ−REP]
mで表されるアミノ酸配列を意味する。ここで、(A)
nモチーフは4〜20アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示し、かつ(A)
nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数が83%以上である。REPは10〜200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。mは8〜300の整数を示す。複数存在する(A)
nモチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。
【0020】
(A)
nモチーフは、(A)
nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数が83%以上であればよいが、86%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましく、100%であること(アラニン残基のみで構成されることを意味する)が更により好ましい。ドメイン配列中に複数存在する(A)
nモチーフは、少なくとも7つがアラニン残基のみで構成されることが好ましい。アラニン残基のみで構成されるとは、(A)
nモチーフが、(A)
n(Aはアラニン残基を示し、nは4〜20の整数、好ましくは4〜16の整数を示す。)で表されるアミノ酸配列を有することを意味する。
【0021】
一実施形態に係る改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、(A)
nモチーフの含有量が低減されたアミノ酸配列を有する。当該改変フィブロインのドメイン配列は、天然由来のフィブロインと比較して、少なくとも1又は複数の(A)
nモチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を有するものということができる。
【0022】
本実施形態に係る改変フィブロインは、例えば、天然由来のフィブロインから(A)
nモチーフを10〜40%欠失させたことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。(A)
nの含有量の減少がこの範囲内であると、著しく強度(応力及びタフネス)を減少させることなく、組換えタンパク質生産系での生産量を著しく向上させることができるという本発明による効果をより安定して発揮できる。
【0023】
本実施形態に係る改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、少なくともN末端側からC末端側に向かって1〜3つの(A)
nモチーフ毎に1つの(A)
nモチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を有するものであることが好ましい。これにより、本発明による効果がより一層顕著に奏される。
【0024】
本実施形態に係る改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、少なくともN末端側からC末端側に向かって2つ連続した(A)
nモチーフの欠失、及び1つの(A)
nモチーフの欠失がこの順に繰り返されたことに相当するアミノ酸配列を有することが好ましい。これにより、本発明による効果がより一層顕著に奏される。
【0025】
本実施形態に係る改変フィブロインは、そのドメイン配列が、少なくともN末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)
nモチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を有することが好ましい。これにより、本発明による効果がより一層顕著に奏される。
【0026】
本実施形態に係る改変フィブロインは、上述した(A)
nモチーフに関する改変に加え、更に、天然由来のフィブロインと比較して、1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変があってもよい。
【0027】
本実施形態に係る改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列から(A)
nモチーフをコードする配列の1又は複数を欠失させることにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から1又は複数の(A)
nモチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から(A)
nモチーフが欠失したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行ってもよい。アミノ酸残基の置換、欠失、挿入及び/又は付加は、部分特異的突然変異誘発法等の当業者に周知の方法により行うことができる。具体的には、Nucleic Acid Res.10,6487(1982)、Methods in Enzymology,100,448(1983)等の文献に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0028】
天然由来のフィブロインは、式1:[(A)
nモチーフ−REP]
mで表されるドメイン配列を含むタンパク質であり、具体的には、例えば、昆虫又はクモ類が産生するフィブロインが挙げられる。
【0029】
昆虫が産生するフィブロインとしては、例えば、ボンビックス・モリ(Bombyx mori)、クワコ(Bombyx mandarina)、天蚕(Antheraea yamamai)、柞蚕(Anteraea pernyi)、楓蚕(Eriogyna pyretorum)、蓖蚕(Pilosamia Cynthia ricini)、樗蚕(Samia cynthia)、栗虫(Caligura japonica)、チュッサー蚕(Antheraea mylitta)、ムガ蚕(Antheraea assama)等のカイコが産生する絹タンパク質、スズメバチ(Vespa simillima xanthoptera)の幼虫が吐出するホーネットシルクタンパク質が挙げられる。
【0030】
昆虫が産生するフィブロインのより具体的な例としては、例えば、カイコ・フィブロインL鎖(GenBankアクセッション番号M76430(塩基配列)、AAA27840.1(アミノ酸配列))が挙げられる。
【0031】
クモ類が産生するフィブロインとしては、例えば、オニグモ、ニワオニグモ、アカオニグモ、アオオニグモ及びマメオニグモ等のオニグモ属(Araneus属)に属するクモ、ヤマシロオニグモ、イエオニグモ、ドヨウオニグモ及びサツマノミダマシ等のヒメオニグモ属(Neoscona属)に属するクモ、コオニグモモドキ等のコオニグモモドキ属(Pronus属)に属するクモ、トリノフンダマシ及びオオトリノフンダマシ等のトリノフンダマシ属(Cyrtarachne属)に属するクモ、トゲグモ及びチブサトゲグモ等のトゲグモ属(Gasteracantha属)に属するクモ、マメイタイセキグモ及びムツトゲイセキグモ等のイセキグモ属(Ordgarius属)に属するクモ、コガネグモ、コガタコガネグモ及びナガコガネグモ等のコガネグモ属(Argiope属)に属するクモ、キジロオヒキグモ等のオヒキグモ属(Arachnura属)に属するクモ、ハツリグモ等のハツリグモ属(Acusilas属)に属するクモ、スズミグモ、キヌアミグモ及びハラビロスズミグモ等のスズミグモ属(Cytophora属)に属するクモ、ゲホウグモ等のゲホウグモ属(Poltys属)に属するクモ、ゴミグモ、ヨツデゴミグモ、マルゴミグモ及びカラスゴミグモ等のゴミグモ属(Cyclosa属)に属するクモ、及びヤマトカナエグモ等のカナエグモ属(Chorizopes属)に属するクモが産生するスパイダーシルクタンパク質、並びにアシナガグモ、ヤサガタアシナガグモ、ハラビロアシダカグモ及びウロコアシナガグモ等のアシナガグモ属(Tetragnatha属)に属するクモ、オオシロカネグモ、チュウガタシロカネグモ及びコシロカネグモ等のシロカネグモ属(Leucauge属)に属するクモ、ジョロウグモ及びオオジョロウグモ等のジョロウグモ属(Nephila属)に属するクモ、キンヨウグモ等のアズミグモ属(Menosira属)に属するクモ、ヒメアシナガグモ等のヒメアシナガグモ属(Dyschiriognatha属)に属するクモ、クロゴケグモ、セアカゴケグモ、ハイイロゴケグモ及びジュウサンボシゴケグモ等のゴケグモ属(Latrodectus属)に属するクモ、及びユープロステノプス属(Euprosthenops属)に属するクモ等のアシナガグモ科(Tetragnathidae科)に属するクモが産生するスパイダーシルクタンパク質が挙げられる。スパイダーシルクタンパク質としては、例えば、MaSp(MaSp1及びMaSp2)、ADF(ADF3及びADF4)等の牽引糸タンパク質、MiSp(MiSp1及びMiSp2)等が挙げられる。
【0032】
クモ類が産生するフィブロインのより具体的な例としては、例えば、fibroin−3(adf−3)[Araneus diadematus由来](GenBankアクセッション番号AAC47010(アミノ酸配列)、U47855(塩基配列))、fibroin−4(adf−4)[Araneus diadematus由来](GenBankアクセッション番号AAC47011(アミノ酸配列)、U47856(塩基配列))、dragline silk protein spidroin 1[Nephila clavipes由来](GenBankアクセッション番号AAC04504(アミノ酸配列)、U37520(塩基配列))、major angu11ate spidroin 1[Latrodectus hesperus由来](GenBankアクセッション番号ABR68856(アミノ酸配列)、EF595246(塩基配列))、dragline silk protein spidroin 2[Nephila clavata由来](GenBankアクセッション番号AAL32472(アミノ酸配列)、AF441245(塩基配列))、major anpullate spidroin 1[Euprosthenops australis由来](GenBankアクセッション番号CAJ00428(アミノ酸配列)、AJ973155(塩基配列))、及びmajor ampullate spidroin 2[Euprosthenops australis](GenBankアクセッション番号CAM32249.1(アミノ酸配列)、AM490169(塩基配列))、minor ampullate silk protein 1[Nephila clavipes](GenBankアクセッション番号AAC14589.1(アミノ酸配列))、minor ampullate silk protein 2[Nephila clavipes](GenBankアクセッション番号AAC14591.1(アミノ酸配列))、minor ampullate spidroin−like protein[Nephilengys cruentata](GenBankアクセッション番号ABR37278.1(アミノ酸配列)等が挙げられる。
【0033】
天然由来のフィブロインのより具体的な例としては、更に、NCBI GenBankに配列情報が登録されているフィブロインを挙げることができる。例えば、NCBI GenBankに登録されている配列情報のうちDIVISIONとしてINVを含む配列の中から、DEFINITIONにspidroin、ampullate、fibroin、「silk及びpolypeptide」、又は「silk及びprotein」がキーワードとして記載されている配列、CDSから特定のproductの文字列、SOURCEからTISSUE TYPEに特定の文字列の記載された配列を抽出することにより確認することができる。
【0034】
他の実施形態に係る改変フィブロインは、式1:[(A)
nモチーフ−REP]
mで表されるドメイン配列を含み、N末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)
nモチーフ−REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比が1.8〜11.3となる隣合う2つの[(A)
nモチーフ−REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが50%以上であるアミノ酸配列を有する。本実施形態に係る改変フィブロインは、(A)
nモチーフの含有量が低減されているため、隣合う2つの[(A)
nモチーフ−REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数の比が上記範囲に入る割合が高くなっている。
【0035】
x/yの算出方法を
図1を参照しながら更に詳細に説明する。
図1には、改変フィブロインからN末端配列及びC末端配列を除いたドメイン配列を示す。当該ドメイン配列は、N末端側(左側)から(A)
nモチーフ−第1のREP(50アミノ酸残基)−(A)
nモチーフ−第2のREP(100アミノ酸残基)−(A)
nモチーフ−第3のREP(10アミノ酸残基)−(A)
nモチーフ−第4のREP(20アミノ酸残基)−(A)
nモチーフ−第5のREP(30アミノ酸残基)−(A)
nモチーフという配列を有する。
【0036】
隣合う2つの[(A)
nモチーフ−REP]ユニットは、重複がないように、N末端側からC末端側に向かって、順次選択する。このとき、選択されない[(A)
nモチーフ−REP]ユニットが存在してもよい。
図1には、パターン1(第1のREPと第2のREPの比較、及び第3のREPと第4のREPの比較)、パターン2(第1のREPと第2のREPの比較、及び第4のREPと第5のREPの比較)、パターン3(第2のREPと第3のREPの比較、及び第4のREPと第5のREPの比較)、パターン4(第1のREPと第2のREPの比較)を示した。なお、これ以外にも選択方法は存在する。
【0037】
次に各パターンについて、選択した隣合う2つの[(A)
nモチーフ−REP]ユニット中の各REPのアミノ酸残基数を比較する。比較は、よりアミノ酸残基数の少ない方を1としたときの、他方のアミノ酸残基数の比を求めることによって行う。例えば、第1のREP(50アミノ酸残基)と第2のREP(100アミノ酸残基)の比較の場合、よりアミノ酸残基数の少ない第1のREPを1としたとき、第2のREPのアミノ酸残基数の比は、100/50=2である。同様に、第4のREP(20アミノ酸残基)と第5のREP(30アミノ酸残基)の比較の場合、よりアミノ酸残基数の少ない第4のREPを1としたとき、第5のREPのアミノ酸残基数の比は、30/20=1.5である。
【0038】
図1中、よりアミノ酸残基数の少ない方を1としたときに、他方のアミノ酸残基数の比が1.8〜11.3となる[(A)
nモチーフ−REP]ユニットの組を実線で示した。以下このような比をギザ比率と呼ぶ。よりアミノ酸残基数の少ない方を1としたときに、他方のアミノ酸残基数の比が1.8未満又は11.3超となる[(A)
nモチーフ−REP]ユニットの組は破線で示した。
【0039】
各パターンにおいて、実線で示した隣合う2つの[(A)
nモチーフ−REP]ユニットの全てのアミノ酸残基数を足し合わせる(REPのみではなく、(A)
nモチーフのアミノ酸残基数もである。)。そして、足し合わせた合計値を比較して、当該合計値が最大となるパターンの合計値(合計値の最大値)をxとする。
図1に示した例では、パターン1の合計値が最大である。
【0040】
次に、xをドメイン配列の総アミノ酸残基数yで除すことによって、x/y(%)を算出することができる。
【0041】
本実施形態に係る改変フィブロインにおいて、x/yは、50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、65%以上であることが更に好ましく、70%以上であることが更により好ましく、75%以上であることが更によりまた好ましく、80%以上であることが特に好ましい。x/yの上限に特に制限はなく、例えば、100%以下であってよい。ギザ比率が1:1.9〜11.3の場合には、x/yは89.6%以上であることが好ましく、ギザ比率が1:1.8〜3.4の場合には、x/yは77.1%以上であることが好ましく、ギザ比率が1:1.9〜8.4の場合には、x/yは75.9%以上であることが好ましく、ギザ比率が1:1.9〜4.1の場合には、x/yは64.2%以上であることが好ましい。
【0042】
本実施形態に係る改変フィブロインが、ドメイン配列中に複数存在する(A)
nモチーフの少なくとも7つがアラニン残基のみで構成される改変フィブロインである場合、x/yは、46.4%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、55%以上であることが更に好ましく、60%以上であることが更により好ましく、70%以上であることが更によりまた好ましく、80%以上であることが特に好ましい。x/yの上限に特に制限はなく、100%以下であればよい。
【0043】
ここで、天然由来のフィブロインにおけるx/yについて説明する。まず、上述のように、NCBI GenBankにアミノ酸配列情報が登録されているフィブロインを例示した方法により確認したところ、663種類のフィブロイン(このうち、クモ類由来のフィブロインは415種類)が抽出された。抽出された全てのフィブロインのうち、式1:[(A)
nモチーフ−REP]
mで表されるドメイン配列で構成される天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から、上述の算出方法により、x/yを算出した。ギザ比率が1:1.9〜4.1の場合の結果を
図2に示す。
【0044】
図2の横軸はx/y(%)を示し、縦軸は頻度を示す。
図2から明らかなとおり、天然由来のフィブロインにおけるx/yは、いずれも64.2%未満である(最も高いもので、64.14%)。
【0045】
本実施形態に係る改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列から、x/yが64.2%以上になるように(A)
nモチーフをコードする配列の1又は複数を欠失させることにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から、x/yが64.2%以上になるように1又は複数の(A)
nモチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から(A)
nモチーフが欠失したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行ってもよい。
【0046】
本発明の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、(A)
nモチーフの含有量が低減されたことに加え、グリシン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有することが好ましい。これにより、本発明による効果がより一層顕著に奏される。当該改変フィブロインのドメイン配列は、天然由来のフィブロインと比較して、少なくとも1又は複数の(A)
nモチーフが欠失したことに加え、更に少なくともREP中の1又は複数のグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当するアミノ酸配列を有するものということができる。
【0047】
次に、グリシン残基の含有量が低減されたドメイン配列の具体的な実施形態を説明する。なお、(A)
nモチーフ含有量の低減については記載を省略するが、上述した(A)
nモチーフ含有量の低減に関する各実施形態と以下のグリシン残基の含有量の低減に関する各実施形態は任意に組み合わせることができる。
【0048】
一実施形態における改変フィブロインは、ドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中のGGX及びGPGXX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)から選ばれる少なくとも一つのモチーフ配列において、少なくとも1又は複数の当該モチーフ配列中の1つのグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当するアミノ酸配列を有する。
【0049】
フィブロインのGGXモチーフ及びGPGXXモチーフは、フィブロイン繊維の伸度に関与していると考えられており、これらのモチーフのグリシン残基(G)を別のアミノ酸残基に置換することは、このフィブロインの伸度に大きく影響すると考えられていた。しかしながら、本発明者らは、GGXモチーフ及びGPGXXモチーフの1つのGを別のアミノ酸に置換しても、他方のGを残存させておくことによって、フィブロイン繊維の伸度に影響することはなく、また組換えタンパク質生産系での生産量を著しく向上させることができることを見出した。本実施形態に係る改変フィブロインによれば、このような予想外の効果も奏される。
【0050】
本実施形態では、グリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたモチーフ配列の割合が、全モチーフ配列に対して、40%以上であることが好ましい。これにより、上述の効果をより一層顕著に発揮できる。
【0051】
他の実施形態における改変フィブロインは、ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列中の全REP中に含まれるXGX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)からなるアミノ酸配列の総アミノ酸残基数をzとし、ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列中の総アミノ酸残基数をwとしたときに、z/wが30%以上であるアミノ酸配列を有する。
【0052】
z/wの算出方法を更に詳細に説明する。まず、ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列中の全てのREPから、XGXからなるアミノ酸配列を抽出する。XGXを構成するアミノ酸残基の総数がzである。例えば、XGXからなるアミノ酸配列が50個抽出された場合(重複はなし)、zは50×3=150である。また、例えば、XGXGXからなるアミノ酸配列の場合のように2つのXGXに含まれるX(中央のX)が存在する場合は、重複分を控除して計算する(XGXGXの場合は5アミノ酸残基である)。wは、ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列に含まれる総アミノ酸残基数である。例えば、
図1に示したドメイン配列の場合、wは4+50+4+100+4+10+4+20+4+30=230である(最もC末端側に位置する(A)
nモチーフは除いている。)。次に、zをwで除すことによって、z/w(%)を算出することができる。z/wは、XGXからなるアミノ酸配列の含有割合に相当する。
【0053】
本実施形態に係る改変フィブロインは、GGXモチーフの1つのグリシン残基を別のアミノ酸残基に置換することにより、XGXからなるアミノ酸配列の含有割合を高めることが好ましい。本実施形態に係る改変フィブロインは、ドメイン配列中のGGXからなるアミノ酸配列の含有割合が6%以下であることが好ましく、4%以下であることがより好ましく、2%以下であることが更に好ましい。ドメイン配列中のGGXからなるアミノ酸配列の含有割合は、上記XGXからなるアミノ酸配列の含有割合(z/w)の算出方法と同様の方法で算出することができる。
【0054】
ここで、天然由来のフィブロインにおけるz/wについて説明する。まず、上述のように、NCBI GenBankにアミノ酸配列情報が登録されているフィブロインを例示した方法により確認したところ、663種類のフィブロイン(このうち、クモ類由来のフィブロインは415種類)が抽出された。抽出された全てのフィブロインのうち、式1:[(A)
nモチーフ−REP]
mで表されるドメイン配列を含み、フィブロイン中のGGXからなるアミノ酸配列の含有割合が6%以下である天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から、上述の算出方法により、z/wを算出した。その結果を
図3に示す。
図3の横軸はz/w(%)を示し、縦軸は頻度を示す。天然由来のフィブロインにおけるz/wは、いずれも50.9%未満である(最も高いもので、50.86%)。なお、式1:[(A)
nモチーフ−REP]
mで表されるドメイン配列を含み、かつドメイン配列中に複数存在する(A)
nモチーフの少なくとも7つがアラニン残基のみで構成される天然由来のフィブロイン(上述のとおりx/yは、いずれも46.4%未満)においては、z/wが14.2%以上であれば効果が認められる。
【0055】
本実施形態に係る改変フィブロインにおいて、z/wは、30%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、50.9%以上であることが更に好ましく、56.2%以上であることが更により好ましく、70%以上であることが更によりまた好ましく、75%以上であることが特に好ましい。z/wの上限に特に制限はないが、例えば、95%以下であってもよい。
【0056】
グリシン残基の含有量が低減されたドメイン配列を含む改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列から、グリシン残基をコードする塩基配列の少なくとも一部を置換して別のアミノ酸残基をコードするように改変することにより得ることができる。このとき、改変するグリシン残基として、GGXモチーフ及びGPGXXモチーフにおける1つのグリシン残基を選択してもよいし、またz/wが上記値以上になるように置換してもよい。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から上記各実施形態を満たすアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。
【0057】
グリシン残基をコードする塩基配列の少なくとも一部を置換して別のアミノ酸残基をコードするように改変する場合、当該別のアミノ酸残基としては、グリシン残基以外のアミノ酸残基であれば特に制限はないが、バリン(V)残基、ロイシン(L)残基、イソロイシン(I)残基、メチオニン(M)残基、プロリン(P)残基、フェニルアラニン(F)残基及びトリプトファン(W)残基等の疎水性アミノ酸残基、グルタミン(Q)残基、アスパラギン(N)残基、セリン(S)残基、リシン(K)残基及びグルタミン酸(E)残基等の親水性アミノ酸残基が好ましく、バリン(V)残基、ロイシン(L)、残基イソロイシン(I)残基及びグルタミン(Q)残基がより好ましく、グルタミン(Q)残基が更に好ましい。
【0058】
本発明に係る改変フィブロインのより具体的な例として、(i)配列番号2、配列番号4若しくは配列番号10で示されるアミノ酸配列、又は(ii)配列番号2、配列番号4若しくは配列番号10で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0059】
(i)の改変フィブロインについて説明する。配列番号2で示されるアミノ酸配列は、天然由来のフィブロインに相当する配列番号1で示されるアミノ酸配列から、N末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)
nモチーフを欠失させ、更にC末端配列の手前に[(A)
nモチーフ−REP]を1つ挿入したものである。配列番号4で示されるアミノ酸配列は、配列番号2で示されるアミノ酸配列のREP中の全てのGGXをGQXに置換したものである。配列番号10で示されるアミノ酸配列は、配列番号4で示されるアミノ酸配列の各(A)
nモチーフのC末端側に2つのアラニン残基を挿入し、更に一部のグルタミン(Q)残基をセリン(S)残基に置換し、配列番号4の分子量とほぼ同じとなるようにN末端側の一部のアミノ酸を欠失させたものである。なお、配列番号3で示されるアミノ酸配列は、配列番号1で示されるアミノ酸配列のREP中の全てのGGXをGQXに置換したものである。
【0060】
配列番号1で示されるアミノ酸配列(天然由来のフィブロインに相当)のギザ比率1:1.8〜11.3におけるx/yの値は15.0%である(表1参照)。配列番号2で示されるアミノ酸配列、及び配列番号4で示されるアミノ酸配列におけるx/yの値は、いずれも93.4%である(表2及び表3参照)。配列番号10で示されるアミノ酸配列におけるx/yの値は、92.7%である(表4参照)。配列番号1、2、4及び10で示されるアミノ酸配列におけるz/wの値は、それぞれ46.8%、56.2%、70.1%及び66.1%である(表5参照)。
【0066】
(i)の改変フィブロインは、配列番号2、配列番号4又は配列番号10で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0067】
(ii)の改変フィブロインは、配列番号2、配列番号4又は配列番号10で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)
nモチーフ−REP]
mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0068】
(ii)の改変フィブロインは、配列番号2、配列番号4又は配列番号10で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつN末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)
nモチーフ−REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比が1.8〜11.3(ギザ比率が1:1.8〜11.3)となる隣合う2つの[(A)
nモチーフ−REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが64.2%以上であることが好ましい。
【0069】
上述の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含んでいてもよい。これにより、改変フィブロインの単離、固定化、検出及び可視化等が可能となる。
【0070】
タグ配列として、例えば、他の分子との特異的親和性(結合性、アフィニティ)を利用したアフィニティタグを挙げることができる。アフィニティタグの具体例として、ヒスチジンタグ(Hisタグ)を挙げることができる。Hisタグは、ヒスチジン残基が4から10個程度並んだ短いペプチドで、ニッケル等の金属イオンと特異的に結合する性質があるため、金属キレートクロマトグラフィー(chelating metal chromatography)による改変フィブロインの単離に利用することができる。タグ配列の具体例として、例えば、配列番号5で示されるアミノ酸配列(Hisタグを含むアミノ酸配列)が挙げられる。
【0071】
また、グルタチオンに特異的に結合するグルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)、マルトースに特異的に結合するマルトース結合タンパク質(MBP)等のタグ配列を利用することもできる。
【0072】
さらに、抗原抗体反応を利用した「エピトープタグ」を利用することもできる。抗原性を示すペプチド(エピトープ)をタグ配列として付加することにより、当該エピトープに対する抗体を結合させることができる。エピトープタグとして、HA(インフルエンザウイルスのヘマグルチニンのペプチド配列)タグ、mycタグ、FLAGタグ等を挙げることができる。エピトープタグを利用することにより、高い特異性で容易に改変フィブロインを精製することができる。
【0073】
さらにタグ配列を特定のプロテアーゼで切り離せるようにしたものも使用することができる。当該タグ配列を介して吸着したタンパク質をプロテアーゼ処理することにより、タグ配列を切り離した改変フィブロインを回収することもできる。
【0074】
タグ配列を含む改変フィブロインのより具体的な例として、(iii)配列番号7、配列番号9若しくは配列番号11で示されるアミノ酸配列、又は(iv)配列番号7、配列番号9若しくは配列番号11で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0075】
配列番号6、7、8、9及び11で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号1、2、3、4及び10で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号5で示されるアミノ酸配列(Hisタグを含む)を付加したものである。
【0076】
(iii)の改変フィブロインは、配列番号7、配列番号9又は配列番号11で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0077】
(iv)の改変フィブロインは、配列番号7、配列番号9又は配列番号11で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)
nモチーフ−REP]
mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0078】
(iv)の改変フィブロインは、配列番号7、配列番号9又は配列番号11で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつN末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)
nモチーフ−REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比が1.8〜11.3となる隣合う2つの[(A)
nモチーフ−REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが64.2%以上であることが好ましい。
【0079】
上述の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
【0080】
[核酸]
本発明に係る核酸は、本発明に係る改変フィブロインをコードする。核酸の具体例として、配列番号2若しくは配列番号4で示されるアミノ酸配列を含む改変フィブロイン、又はこれらのアミノ酸配列のN末端及びC末端のいずれか一方若しくは両方に配列番号5で示されるアミノ酸配列(タグ配列)を結合させたタンパク質等をコードする核酸等が挙げられる。
【0081】
一実施形態に係る核酸は、本発明に係る改変フィブロインをコードする核酸の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ式1:[(A)
nモチーフ−REP]
mで表されるドメイン配列を含み、N末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)
nモチーフ−REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比が1.8〜11.3となる上記隣合う2つの[(A)
nモチーフ−REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、上記ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが64.2%以上である、改変フィブロインをコードする核酸である。
【0082】
「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。「ストリンジェントな条件」は、低ストリンジェントな条件、中ストリンジェントな条件及び高ストリンジェントな条件のいずれでもよい。低ストリンジェントな条件とは、少なくとも85%以上の同一性が配列間に存在する時のみハイブリダイゼーションが起こることを意味し、例えば、0.5%SDSを含む5×SSCを用い、42℃でハイブリダイズする条件が挙げられる。中ストリンジェントな条件とは、少なくとも90%以上の同一性が配列間に存在する時のみハイブリダイゼーションが起こることを意味し、例えば、0.5%SDSを含む5×SSCを用い、50℃でハイブリダイズする条件が挙げられる。高ストリンジェントな条件とは、少なくとも95%以上の同一性が配列間に存在する時のみハイブリダイゼーションが起こることを意味し、例えば、0.5%SDSを含む5×SSCを用い、60℃でハイブリダイズする条件が挙げられる。
【0083】
一実施形態に係る核酸は、本発明に係る改変フィブロインをコードする核酸と90%以上の配列同一性を有し、かつ式1:[(A)
nモチーフ−REP]
mで表されるドメイン配列を含み、N末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)
nモチーフ−REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比が1.8〜11.3となる上記隣合う2つの[(A)
n−REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、上記ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが64.2%以上である、改変フィブロインをコードする核酸である。配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0084】
[宿主及び発現ベクター]
本発明に係る発現ベクターは、本発明に係る核酸配列と、当該核酸配列に作動可能に連結された1又は複数の調節配列とを有する。調節配列は、宿主における組換えタンパク質の発現を制御する配列(例えば、プロモーター、エンハンサー、リボソーム結合配列、転写終結配列等)であり、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。発現ベクターの種類は、プラスミドベクター、ウイルスベクター、コスミドベクター、フォスミドベクター、人工染色体ベクター等、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。
【0085】
本発明に係る宿主は、本発明に係る発現ベクターで形質転換されたものである。宿主として、原核生物、並びに酵母、糸状真菌、昆虫細胞、動物細胞及び植物細胞等の真核生物のいずれも好適に用いることができる。
【0086】
発現ベクターとしては、宿主細胞において自立複製が可能、又は宿主の染色体中への組込みが可能で、本発明に係る核酸を転写できる位置にプロモーターを含有しているものが好適に用いられる。
【0087】
細菌等の原核生物を宿主として用いる場合は、本発明に係る発現ベクターは、原核生物中で自立複製が可能であると同時に、プロモーター、リボソーム結合配列、本発明に係る核酸及び転写終結配列を含むベクターであることが好ましい。プロモーターを制御する遺伝子が含まれていてもよい。
【0088】
原核生物としては、エシェリヒア属、ブレビバチルス属、セラチア属、バチルス属、ミクロバクテリウム属、ブレビバクテリウム属、コリネバクテリウム属及びシュードモナス属等に属する微生物を挙げることができる。
【0089】
エシェリヒア属に属する微生物として、例えば、エシェリヒア・コリ BL21(ノバジェン社)、エシェリヒア・コリ BL21(DE3)(ライフテクノロジーズ社)、エシェリヒア・コリ BLR(DE3)(メルクミリポア社)、エシェリヒア・コリ DH1、エシェリヒア・コリ GI698、エシェリヒア・コリ HB101、エシェリヒア・コリ JM109、エシェリヒア・コリ K5(ATCC 23506)、エシェリヒア・コリ KY3276、エシェリヒア・コリ MC1000、エシェリヒア・コリ MG1655(ATCC 47076)、エシェリヒア・コリ No.49、エシェリヒア・コリ Rosetta(DE3)(ノバジェン社)、エシェリヒア・コリ TB1、エシェリヒア・コリ Tuner(ノバジェン社)、エシェリヒア・コリ Tuner(DE3) (ノバジェン社)、エシェリヒア・コリ W1485、エシェリヒア・コリ W3110(ATCC 27325)、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli) XL1−Blue、エシェリヒア・コリ XL2−Blue等を挙げることができる。
【0090】
ブレビバチルス属に属する微生物として、例えば、ブレビバチルス・アグリ、ブレビバチルス・ボルステレンシス、ブレビバチルス・セントロポラスブレビバチルス・フォルモサス、ブレビバチルス・インボカツス、ブレビバチルス・ラチロスポラス、ブレビバチルス・リムノフィルス、ブレビバチルス・パラブレビス、ブレビバチルス・レウスゼリ、ブレビバチルス・サーモルバー、ブレビバチルス・ブレビス47(FERM BP−1223)、ブレビバチルス・ブレビス47K(FERM BP−2308)、ブレビバチルス・ブレビス47−5(FERM BP−1664)、ブレビバチルス・ブレビス47−5Q(JCM8975)、ブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31(FERM BP−1087)、ブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−S(FERM BP−6623)、ブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−OK(FERM BP−4573)、ブレビバチルス・チョウシネンシスSP3株(Takara社製)等を挙げることができる。
【0091】
セラチア属に属する微生物として、例えば、セラチア・リクエファシエンス(Serratia liquefacience)ATCC14460、セラチア・エントモフィラ(Serratia entomophila)、セラチア・フィカリア(Serratia ficaria)、セラチア・フォンティコーラ(Serratia fonticola)、セラチア・グリメシ(Serratia grimesii)、セラチア・プロテアマキュランス(Serratia proteamaculans)、セラチア・オドリフェラ(Serratia odorifera)、セラチア・プリムシカ(Serratia plymuthica)、セラチア・ルビダエ(Serratia rubidaea)等を挙げることができる。
【0092】
バチルス属に属する微生物として、例えば、バチルス・サチラス(Bacillus subtilis)、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)等を挙げることができる。
【0093】
ミクロバクテリウム属に属する微生物として、例えば、ミクロバクテリウム・アンモニアフィラム ATCC15354等を挙げることができる。
【0094】
ブレビバクテリウム属に属する微生物として、例えば、ブレビバクテリウム・ディバリカタム(コリネバクテリウム・グルタミカム)ATCC14020、ブレビバクテリウム・フラバム(コリネバクテリウム・グルタミカムATCC14067)ATCC13826、ATCC14067、ブレビバクテリウム・インマリオフィラム(Brevibacterium immariophilum)ATCC14068、ブレビバクテリウム・ラクトフェルメンタム(コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13869)ATCC13665、ATCC13869、ブレビバクテリウム・ロゼウムATCC13825、ブレビバクテリウム・サッカロリティカム(Brevibacterium saccharolyticum)ATCC14066、ブレビバクテリウム・チオゲニタリスATCC19240、ブレビバクテリウム・アルバムATCC15111、ブレビバクテリウム・セリヌムATCC15112等を挙げることができる。
【0095】
コリネバクテリウム属に属する微生物として、例えば、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)ATCC6871、ATCC6872、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)ATCC13032、コリネバクテリウム・グルタミカム ATCC14067、コリネバクテリウム・アセトアシドフィラム(Corynebacterium acetoacidophilum)ATCC13870、コリネバクテリウム・アセトグルタミカムATCC15806、コリネバクテリウム・アルカノリティカムATCC21511、コリネバクテリウム・カルナエATCC15991、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13020,ATCC13032,ATCC13060、コリネバクテリウム・リリウムATCC15990、コリネバクテリウム・メラセコーラATCC17965、コリネバクテリウム・サーモアミノゲネスAJ12340(FERMBP−1539)、コリネバクテリウム・ハーキュリスATCC13868等を挙げることができる。
【0096】
シュードモナス(Pseudomonas)属に属する微生物として、例えば、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)、シュードモナス・ブラシカセラム(Pseudomonas brassicacearum)、シュードモナス・フルバ(Pseudomonas fulva)、及びシュードモナス・エスピー(Pseudomonas sp.)D−0110等を挙げることができる。
【0097】
上記宿主細胞への発現ベクターの導入方法としては、上記宿主細胞へDNAを導入する方法であればいずれも用いることができる。例えば、カルシウムイオンを用いる方法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA,69,2110 (1972)〕、プロトプラスト法(特開昭63−248394)、又はGene,17,107(1982)やMolecular & General Genetics,168,111(1979)に記載の方法等を挙げることができる。
【0098】
ブレビバチルス属に属する微生物の形質転換は、例えば、Takahashiらの方法(J.Bacteriol.,1983,156:1130−1134)や、Takagiらの方法(Agric.Biol.Chem.,1989,53:3099−3100)、又はOkamotoらの方法(Biosci.Biotechnol.Biochem.,1997,61:202−203)により実施することができる。
【0099】
本発明に係る核酸を導入するベクター(以下、単に「ベクター」という。)としては、例えば、pBTrp2、pBTac1、pBTac2(いずれもベーリンガーマンハイム社より市販)、pKK233−2(Pharmacia社製)、pSE280(Invitrogen社製)、pGEMEX−1(Promega社製)、pQE−8(QIAGEN社製)、pKYP10(特開昭58−110600)、pKYP200〔Agric.Biol.Chem.,48,669(1984)〕、pLSA1〔Agric.Biol.Chem.,53,277(1989)〕、pGEL1〔Proc.Natl.Acad.Sci.USA,82,4306(1985)〕、pBluescript II SK(−)(Stratagene社製)、pTrs30〔Escherichia coli JM109/pTrS30(FERM BP−5407)より調製〕、pTrs32〔Escherichia coli JM109/pTrS32(FERM BP−5408)より調製〕、pGHA2〔Escherichia coli IGHA2(FERM B−400)より調製、特開昭60−221091〕、pGKA2〔Escherichia coli IGKA2(FERM BP−6798)より調製、特開昭60−221091〕、pTerm2(US4686191、US4939094、US5160735)、pSupex、pUB110、pTP5、pC194、pEG400〔J.Bacteriol.,172,2392(1990)〕、pGEX(Pharmacia社製)、pETシステム(Novagen社製)等を挙げることができる。
【0100】
宿主としてEscherichia coliを用いる場合は、pUC18、pBluescriptII、pSupex、pET22b、pCold等を好適なベクターとして挙げることができる。
【0101】
ブレビバチルス属に属する微生物に好適なベクターの具体例として、枯草菌ベクターとして公知であるpUB110、又はpHY500(特開平2−31682号公報)、pNY700(特開平4−278091号公報)、pHY4831(J.Bacteriol.,1987,1239−1245)、pNU200(鵜高重三、日本農芸化学会誌1987,61:669−676)、pNU100(Appl.Microbiol.Biotechnol.,1989,30:75−80)、pNU211(J.Biochem.,1992,112:488−491)、pNU211R2L5(特開平7−170984号公報)、pNH301(Appl.Environ.Microbiol.,1992,58:525−531)、pNH326、pNH400(J.Bacteriol.,1995,177:745−749)、pHT210(特開平6−133782号公報)、pHT110R2L5(Appl.Microbiol.Biotechnol.,1994,42:358−363)、又は大腸菌とブレビバチルス属に属する微生物とのシャトルベクターであるpNCO2(特開2002−238569号公報)等を挙げることができる。
【0102】
プロモーターとしては、宿主細胞中で機能するものであれば制限されない。例えば、trpプロモーター(Ptrp)、lacプロモーター、PLプロモーター、PRプロモーター、T7プロモーター等の大腸菌又はファージ等に由来するプロモーターを挙げることができる。またPtrpを2つ直列させたプロモーター(Ptrp×2)、tacプロモーター、lacT7プロモーター、let Iプロモーターのように人為的に設計改変されたプロモーター等も用いることができる。
【0103】
リボソーム結合配列であるシャイン−ダルガノ(Shine−Dalgarno)配列と開始コドンとの間を適当な距離(例えば6〜18塩基)に調節したプラスミドを用いることが好ましい。本発明に係る発現ベクターにおいて、本発明に係る核酸の発現には転写終結配列は必ずしも必要ではないが、構造遺伝子の直下に転写終結配列を配置することが好ましい。
【0104】
真核生物の宿主としては、例えば、酵母、糸状真菌(カビ等)及び昆虫細胞を挙げることができる。
【0105】
酵母としては、例えば、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、シゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)属、クリベロマイセス(Kluyveromyces)属、トリコスポロン(Trichosporon)属、シワニオミセス(Schwanniomyces)属、ピキア(Pichia)属、キャンディダ(Candida)属、ヤロウィア属及びハンゼヌラ属等に属する酵母を挙げることができる。より具体的には、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、クリベロマイセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)、クリベロマイセス・マルキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)、トリコスポロン・プルランス(Trichosporon pullulans)、シワニオマイセス・アルビウス(Schwanniomyces alluvius)、シワニオマイセス・オシデンタリス(Schwanniomyces occidentalis)、キャンディダ・ユーティリス(Candida utilis)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)ピキア・アングスタ(Pichia angusta)、ピキア・メタノリカ(Pichia methanolica)、ピキア・ポリモルファ(Pichia polymorpha)、ピキア・スチピチス(Pichia stipitis)、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)、ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)等を挙げることができる。
【0106】
酵母を宿主細胞として用いる場合の発現ベクターは通常、複製起点(宿主における増幅が必要である場合)及び大腸菌中でのベクターの増殖のための選抜マーカー、酵母における組換えタンパク質発現のためのプロモーター及びターミネーター、並びに酵母のための選抜マーカーを含むことが好ましい。
【0107】
発現ベクターが非組込みベクターの場合、さらに自己複製配列(ARS)を含むことが好ましい。これにより細胞内における発現ベクターの安定性を向上させることができる(Myers、A.M.、et al.(1986)Gene 45:299−310)。
【0108】
酵母を宿主として用いる場合のベクターとしては、例えば、YEP13(ATCC37115)、YEp24(ATCC37051)、YCp50(ATCC37419)、YIp、pHS19、pHS15、pA0804、pHIL3Ol、pHIL−S1、pPIC9K、pPICZα、pGAPZα、pPICZ B等を挙げることができる。
【0109】
プロモーターとしては、酵母中で発現できるものであれば制限されない。例えば、ヘキソースキナーゼ等の解糖系の遺伝子のプロモーター、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター、gal 1プロモーター、gal 10プロモーター、ヒートショックポリペプチドプロモーター、MFα1 プロモーター、CUP 1プロモーター、pGAPプロモーター、pGCW14プロモーター、AOX1プロモーター、MOXプロモーター等を挙げることができる。
【0110】
酵母への発現ベクターの導入方法としては、酵母にDNAを導入する方法であればいずれも用いることができ、例えば、エレクトロポレーション法(Methods Enzymol.,194,182(1990))、スフェロプラスト法(Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,81,4889(1984))、酢酸リチウム法(J.Bacteriol.,153,163(1983))、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,75,1929(1978)記載の方法等を挙げることができる。
【0111】
糸状真菌としては、例えば、アクレモニウム(Acremonium)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ウスチラーゴ(Ustilago)属、トリコデルマ(Trichoderma)属、ノイロスポラ(Neurospora)属、フザリウム(Fusarium)属、フミコーラ(Humicola)属、ペニシリウム(Penicillium)属、マイセリオフトラ(Myceliophtora)属、ボトリティス(Botryts)属、マグナポルサ(Magnaporthe)属、ムコア(Mucor)属、メタリチウム(Metarhizium)属、モナスカス(Monascus)属、リゾプス(Rhizopus)属、及びリゾムコア属に属する菌等を挙げることができる。
【0112】
糸状真菌の具体例として、アクレモニウム・アラバメンゼ(Acremonium alabamense)、アクレモニウム・セルロリティカス(Acremonium cellulolyticus)、アスペルギルス・アクレアツス(アキュレータス)(Aspergillus aculeatus)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・サケ(Aspergillus sake)、アスペルギルス・ゾジエ(ソーヤ)(Aspergillus sojae)、アスペルギルス・テュビゲンシス(Aspergillus tubigensis)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)、アスペルギルス・パラシチクス(Aspergillus parasiticus)、アスペルギルス・フィクム(フィキュウム)(Aspergillus ficuum)、アスペルギルス・フェニクス(Aspergillus phoeicus)、アスペルギルス・フォエチズス(フェチダス)(Aspergillus foetidus)、アスペルギルス・フラーブス(Aspergillus flavus)、アスペルギルス・フミガタス(Aspergillus fumigatus)、アスペルギルス・ヤポニクス(ジャポニカス)(Aspergillus japonicus)、トリコデルマ・ビリデ(Trichoderma viride)、トリコデルマ・ハージアヌム(Trichoderma harzianum)、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reseei)、クリソスポリウム・ルクノエンス(Chrysosporium lucknowense)、サーモアスクス(Thermoascus)、スポロトリクム(Sporotrichum)、スポロトリクム・セルロフィルム(Sporotrichum cellulophilum)、タラロマイセス(Talaromyces)、チエラビア・テレストリス(Thielavia terrestris)、チラビア(Thielavia)、ノイロスポラ・クラザ(Neurospora crassa)、フザリウム・オキシスポーラス(Fusarium oxysporus)、フザリウム・グラミネルム(Fusarium graminearum)、フザリウム・ベネナツム(Fusarium venenatum)、フミコーラ・インソレンス(Humicola insolens)、ペニシリウム・クリゾゲナム(Penicillium chrysogenum)、ペニシリウム・カマンベルティ(Penicillium camemberti)、ペニシリウム・カネセンス(Penicillium canescens)、ペニシリウム・エメルソニ(Penicillium emersonii)、ペニシリウム・フニクロスム(Penicillium funiculosum)、ペニシリウム・グリゼオロゼウム(Penicillium griseoroseum)、ペニシリウム・パープロゲナム(Penicillium purpurogenum)、ペニシリウム・ロケフォルチ(Penicillium roqueforti)、マイセリオフトラ・サーモフィルム(Myceliophtaora thermophilum)、ムコア・アンビグス(Mucor ambiguus)、ムコア・シイルシネロイデェス(Mucor circinelloides)、ムコア・フラギリス(Mucor fragilis)、ムコア・ヘマリス(Mucor hiemalis)、ムコア・イナエクイスポラス(Mucor inaequisporus)、ムコア・オブロンジエリプティカス(Mucor oblongiellipticus)、ムコア・ラセモサス(Mucor racemosus)、ムコア・レクルバス(Mucor recurvus)、ムコア・サトゥルニナス(Mocor saturninus)、ムコア・サブティリススミウス(Mocor subtilissmus)、オガタエア・ポリモルファ(Ogataea polymorpha)、ファネロケーテ・クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium)、リゾムコア・ミーヘイ(Rhizomucor miehei)、リゾムコア・プシルス(Rhizomucor pusillus)、リゾプス・アルヒザス(Rhizopus arrhizus)等を挙げることができる。
【0113】
宿主が糸状真菌である場合のプロモーターとしては、解糖系に関する遺伝子、構成的発現に関する遺伝子、加水分解に関する酵素遺伝子等いずれであってもよく、具体的にはamyB、glaA、agdA、glaB、TEF1、xynF1tannasegene、No.8AN、gpdA、pgkA、enoA、melO、sodM、catA、catB等を挙げることができる。
【0114】
糸状真菌への発現ベクターの導入は,従来公知の方法を用いて行うことができる。例えば、Cohenらの方法(塩化カルシウム法)[Proc.Natl.Acad.Sci.USA,69:2110(1972)]、プロトプラスト法[Mol.Gen.Genet.,168:111(1979)]、コンピテント法[J.Mol.Biol.,56:209(1971)]、エレクトロポレーション法等が挙げられる。
【0115】
昆虫細胞として、例えば、鱗翅類の昆虫細胞が挙げられ、より具体的には、Sf9、及びSf21等のスポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)由来の昆虫細胞、並びに、High 5等のイラクサギンウワバ(Trichoplusia ni)由来の昆虫細胞等が挙げられる。
【0116】
昆虫細胞を宿主として用いる場合のベクターとしては、例えば、夜盗蛾科昆虫に感染するウイルスであるアウトグラファ・カリフォルニカ・ヌクレアー・ポリヘドロシス・ウイルス(Autographa californica nuclear polyhedrosis virus)等のバキュロウイルス(Baculovirus Expression Vectors, A Laboratory Manual,W.H.Freeman and Company,New York(1992))を挙げることができる。
【0117】
昆虫細胞を宿主として用いる場合には、例えばカレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー、Baculovirus Expression Vectors, A Laboratory Manual,W.H.Freeman and Company, New York(1992)、Bio/Technology,6,47(1988)等に記載された方法によって、ポリペプチドを発現することができる。すなわち、組換え遺伝子導入ベクター及びバキュロウイルスを昆虫細胞に共導入して昆虫細胞培養上清中に組換えウイルス(発現ベクター)を得た後、さらに組換えウイルスを昆虫細胞に感染させ、ポリペプチドを発現させることができる。該方法において用いられる遺伝子導入ベクターとしては、例えば、pVL1392、pVL1393、pBlueBacIII(ともにInvitorogen社製)等を挙げることができる。
【0118】
組換えウイルスを調製するための、昆虫細胞への組換え遺伝子導入ベクターとバキュロウイルスの共導入方法としては、例えば、リン酸カルシウム法(特開平2−227075)、リポフェクション法(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,84,7413(1987))等を挙げることができる。
【0119】
本発明に係る組換えベクターは、形質転換体選択のための選択マーカー遺伝子をさらに含有していることが好ましい。例えば、大腸菌においては、選択マーカー遺伝子としては、テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン等の各種薬剤に対する耐性遺伝子を用いることができる。栄養要求性に関与する遺伝子変異を相補できる劣性の選択マーカーも使用できる。酵母においては、選択マーカー遺伝子として、ジェネティシンに対する耐性遺伝子を用いることができ、栄養要求性に関与する遺伝子変異を相補する遺伝子、LEU2、URA3、TRP1、HIS3等の選択マーカーも使用できる。糸状真菌においては、選択マーカー遺伝子として、niaD(Biosci.Biotechnol.Biochem.,59,1795−1797(1995))、argB(Enzyme Microbiol Technol,6,386−389,(1984)),sC(Gene,84,329−334,(1989))、ptrA(BiosciBiotechnol Biochem,64,1416−1421,(2000))、pyrG(BiochemBiophys Res Commun,112,284−289,(1983)),amdS(Gene,26,205−221,(1983))、オーレオバシジン耐性遺伝子(Mol Gen Genet,261,290−296,(1999))、ベノミル耐性遺伝子(Proc Natl Acad Sci USA,83,4869−4873,(1986))及びハイグロマイシン耐性遺伝子(Gene,57,21−26,(1987))からなる群より選ばれるマーカー遺伝子、ロイシン要求性相補遺伝子等が挙げられる。また、宿主が栄養要求性変異株の場合には、選択マーカー遺伝子として当該栄養要求性を相補する野生型遺伝子を用いることもできる。
【0120】
本発明に係る発現ベクターで形質転換された宿主の選択は、本発明に係る核酸に選択的に結合するプローブを用いたプラークハイブリダイゼーション及びコロニーハイブリダイゼーション等で行うことができる。当該プローブとしては、本発明に係る核酸の配列情報に基づき、PCR法によって増幅した部分DNA断片をラジオアイソトープ又はジゴキシゲニンで修飾したものを用いることができる。
【0121】
(改変フィブロインの生産)
本発明に係る発現ベクターで形質転換された宿主において、本発明に係る核酸を発現させることにより、本発明に係る改変フィブロインを生産することができる。発現方法としては、直接発現のほか、モレキュラー・クローニング第2版に記載されている方法等に準じて、分泌生産、融合タンパク質発現等を行うことができる。酵母、動物細胞、昆虫細胞により発現させた場合には、糖又は糖鎖が付加されたポリペプチドとして改変フィブロインを得ることができる。
【0122】
本発明に係る改変フィブロインは、例えば、本発明に係る発現ベクターで形質転換された宿主を培養培地中で培養し、培養培地中に本発明に係る改変フィブロインを生成蓄積させ、該培養培地から採取することにより製造することができる。本発明に係る宿主を培養培地中で培養する方法は、宿主の培養に通常用いられる方法に従って行うことができる。
【0123】
本発明に係る宿主が、大腸菌等の原核生物又は酵母等の真核生物である場合、本発明に係る宿主の培養培地として、該宿主が資化し得る炭素源、窒素源及び無機塩類等を含有し、該宿主の培養を効率的に行える培地であれば天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。
【0124】
炭素源としては、該宿主が資化し得るものであればよく、例えば、グルコース、フラクトース、スクロース、及びこれらを含有する糖蜜、デンプン及びデンプン加水分解物等の炭水化物、酢酸及びプロピオン酸等の有機酸、並びにエタノール及びプロパノール等のアルコール類を用いることができる。
【0125】
窒素源としては、例えば、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム及びリン酸アンモニウム等の無機酸又は有機酸のアンモニウム塩、その他の含窒素化合物、並びにペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスチープリカー、カゼイン加水分解物、大豆粕及び大豆粕加水分解物、各種発酵菌体及びその消化物を用いることができる。
【0126】
無機塩としては、例えば、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅及び炭酸カルシウムを用いることができる。
【0127】
大腸菌等の原核生物又は酵母等の真核生物の培養は、例えば、振盪培養又は深部通気攪拌培養等の好気的条件下で行うことができる。培養温度は、例えば、15〜40℃である。培養時間は、通常16時間〜7日間である。培養中の培養培地のpHは3.0〜9.0に保持することが好ましい。培養培地のpHの調整は、無機酸、有機酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム及びアンモニア等を用いて行うことができる。
【0128】
また、培養中必要に応じて、アンピシリン及びテトラサイクリン等の抗生物質を培養培地に添加してもよい。プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときには、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド等を、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドールアクリル酸等を培地に添加してもよい。
【0129】
昆虫細胞の培養培地としては、一般に使用されているTNM−FH培地(Pharmingen社製)、Sf−900 II SFM培地(Life Technologies社製)、ExCell400、ExCell405(いずれもJRH Biosciences社製)、Grace’s Insect Medium(Nature,195,788(1962))等を用いることができる。
【0130】
昆虫細胞の培養は、例えば、培養培地のpH6〜7、培養温度25〜30℃等の条件下で、培養時間1〜5日間とすることができる。また、培養中必要に応じて、ゲンタマイシン等の抗生物質を培養培地に添加してもよい。
【0131】
宿主が植物細胞の場合、形質転換された植物細胞をそのまま培養してもよく、また植物の器官に分化させて培養することができる。該植物細胞を培養する培地としては、一般に使用されているムラシゲ・アンド・スクーグ(MS)培地、ホワイト(White)培地、又はこれらの培地にオーキシン、サイトカイニン等、植物ホルモンを添加した培地等を用いることができる。
【0132】
動物細胞の培養は、例えば、培養培地のpH5〜9、培養温度20〜40℃等の条件下で、培養時間3〜60日間とすることができる。また、培養中必要に応じて、カナマイシン、ハイグロマイシン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
【0133】
本発明に係る発現ベクターで形質転換された宿主を用いて改変フィブロインを生産する方法としては、該改変フィブロインを宿主細胞内に生産させる方法、宿主細胞外に分泌させる方法、及び宿主細胞外膜上に生産させる方法がある。使用する宿主細胞、及び生産させる改変フィブロインの構造を変えることにより、これらの各方法を選択することができる。
【0134】
例えば、改変フィブロインが宿主細胞内又は宿主細胞外膜上に生産される場合、ポールソンらの方法(J.Biol.Chem.,264,17619(1989))、ロウらの方法(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,86,8227(1989)、Genes Develop.,4,1288(1990))、又は特開平5−336963号公報、国際公開第94/23021号等に記載の方法を準用することにより、改変フィブロインを宿主細胞外に積極的に分泌させるように変更させることができる。すなわち、遺伝子組換えの手法を用いて、改変フィブロインの活性部位を含むポリペプチドにシグナルペプチドを付加した形で発現させることにより、改変フィブロインを宿主細胞外に積極的に分泌させることができる。
【0135】
本発明に係る発現ベクターで形質転換された宿主により生産された改変フィブロインは、タンパク質の単離精製に通常用いられている方法で単離及び精製することができる。例えば、改変フィブロインが、細胞内に溶解状態で発現した場合には、培養終了後、宿主細胞を遠心分離により回収し、水系緩衝液にけん濁した後、超音波破砕機、フレンチプレス、マントンガウリンホモゲナイザー及びダイノミル等により宿主細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。該無細胞抽出液を遠心分離することにより得られる上清から、タンパク質の単離精製に通常用いられている方法、すなわち、溶媒抽出法、硫安等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)−セファロース、DIAION HPA−75(三菱化成社製)等のレジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S−Sepharose FF(Pharmacia社製)等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の方法を単独又は組み合わせて使用し、精製標品を得ることができる。
【0136】
上記クロマトグラフィーとしては、フェニル−トヨパール(東ソー)、DEAE−トヨパール(東ソー)、セファデックスG−150(ファルマシアバイオテク)を用いたカラムクロマトグラフィーが好ましく用いられる。
【0137】
また、改変フィブロインが細胞内に不溶体を形成して発現した場合は、同様に宿主細胞を回収後、破砕し、遠心分離を行うことにより、沈殿画分として改変フィブロインの不溶体を回収する。回収した改変フィブロインの不溶体は蛋白質変性剤で可溶化することができる。該操作の後、上記と同様の単離精製法により改変フィブロインの精製標品を得ることができる。
【0138】
改変フィブロイン、又は改変フィブロインに糖鎖の付加された誘導体が細胞外に分泌された場合には、培養上清から改変フィブロイン又はその誘導体を回収することができる。すなわち、培養物を遠心分離等の手法により処理することにより培養上清を取得し、該培養上清から、上記と同様の単離精製法を用いることにより、精製標品を得ることができる。
【0139】
(紡糸)
本発明に係る改変フィブロインは、上述のように生産及び精製した後、更に紡糸してもよい。本発明に係る改変フィブロインは、フィブロインの紡糸に通常使用されている方法で紡糸することができる。例えば、本発明に係る改変フィブロインを溶媒に溶解させた紡糸液(ドープ液)を、紡糸することにより、本発明に係る改変フィブロインで形成された繊維を得ることができる。
【0140】
紡糸液は、改変フィブロインに溶媒を加え、紡糸できる粘度に調整して作製する。溶媒は、改変フィブロインを溶解することができるものであればよい。溶媒として、例えば、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)、ヘキサフルオロアセトン(HFA)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、蟻酸、尿素、グアニジン、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、臭化リチウム、塩化カルシウム、チオシアン酸リチウム等を含む水溶液等を挙げることができる。
【0141】
紡糸液には、必要に応じて無機塩を添加してもよい。無機塩としては、例えば、以下に示すルイス酸とルイス塩基とからなる無機塩が挙げられる。ルイス塩基としては、例えば、オキソ酸イオン(硝酸イオン、過塩素酸イオン等)、金属オキソ酸イオン(過マンガン酸イオン等)、ハロゲン化物イオン、チオシアン酸イオン、シアン酸イオン等が挙げられる。ルイス酸としては、例えば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン等の金属イオン、アンモニウムイオン等の多原子イオン、錯イオン等が挙げられる。ルイス酸とルイス塩基とからなる無機塩の具体例としては、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、硝酸リチウム、過塩素酸リチウム、及びチオシアン酸リチウム等のリチウム塩、塩化カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム、硝酸カルシウム、過塩素酸カルシウム、及びチオシアン酸カルシウム等のカルシウム塩、塩化鉄、臭化鉄、ヨウ化鉄、硝酸鉄、過塩素酸鉄、及びチオシアン酸鉄等の鉄塩、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、ヨウ化アルミニウム、硝酸アルミニウム、過塩素酸アルミニウム、及びチオシアン酸アルミニウム等のアルミニウム塩、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、硝酸カリウム、過塩素酸カリウム、及びチオシアン酸カリウム等のカリウム塩、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、硝酸ナトリウム、過塩素酸ナトリウム、及びチオシアン酸ナトリウム等のナトリウム塩、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛、硝酸亜鉛、過塩素酸亜鉛、及びチオシアン酸亜鉛等の亜鉛塩、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、硝酸マグネシウム、過塩素酸マグネシウム、及びチオシアン酸マグネシウム等のマグネシウム塩、塩化バリウム、臭化バリウム、ヨウ化バリウム、硝酸バリウム、過塩素酸バリウム、及びチオシアン酸バリウム等のバリウム塩、並びに塩化ストロンチウム、臭化ストロンチウム、ヨウ化ストロンチウム、硝酸ストロンチウム、過塩素酸ストロンチウム、及びチオシアン酸ストロンチウム等のストロンチウム塩が挙げられる。
【0142】
紡糸液の粘度は、紡糸方法に応じて適宜設定すればよく、例えば、35℃において100〜15,000cP(センチポイズ)とすることができる。紡糸液の粘度は、例えば京都電子工業社製の商品名“EMS粘度計”を使用して測定することができる。
【0143】
紡糸方法としては、本発明に係る改変フィブロインを紡糸できる方法であれば特に制限されず、例えば、乾式紡糸、溶融紡糸、湿式紡糸等を挙げることができる。好ましい紡糸方法としては、湿式紡糸を挙げることができる。
【0144】
湿式紡糸では、改変フィブロインを溶解させた溶媒を紡糸口金(ノズル)から凝固液(凝固液槽)の中に押出して、凝固液中で改変フィブロインを固めることにより糸の形状の未延伸糸を得ることができる。凝固液としては、脱溶媒できる溶液であればよく、例えば、メタノール、エタノール及び2−プロパノール等の炭素数1〜5の低級アルコール、並びにアセトン等を挙げることができる。凝固液には、適宜水を加えてもよい。凝固液の温度は、0〜30℃であることが好ましい。紡糸口金として、直径0.1〜0.6mmのノズルを有するシリンジポンプを使用する場合、押し出し速度は1ホール当たり、0.2〜6.0ml/時間が好ましく、1.4〜4.0ml/時間であることがより好ましい。凝固液槽の長さは、脱溶媒が効率的に行える長さがあればよく、例えば、200〜500mmである。未延伸糸の引き取り速度は、例えば、1〜20m/分であってよく、1〜3m/分であることが好ましい。滞留時間は、例えば、0.01〜3分であってよく、0.05〜0.15分であることが好ましい。また、凝固液中で延伸(前延伸)をしてもよい。低級アルコールの蒸発を抑えるため凝固液を低温に維持し、未延伸糸の状態で引き取ってもよい。凝固液槽は多段設けてもよく、また延伸は必要に応じて、各段、又は特定の段で行ってもよい。
【0145】
上記の方法で得られた未延伸糸(又は前延伸糸)は、延伸工程を経て延伸糸(フィブロイン繊維)とすることができる。延伸方法としては、湿熱延伸、乾熱延伸等をあげることができる。
【0146】
湿熱延伸は、温水中、温水に有機溶剤等を加えた溶液中、スチーム加熱中で行うことができる。温度としては、例えば、50〜90℃であってよく、75〜85℃が好ましい。湿熱延伸では、未延伸糸(又は前延伸糸)を、例えば、1〜10倍延伸することができ、2〜8倍延伸することが好ましい。
【0147】
乾熱延伸は、電気管状炉、乾熱板等を使用して行うことができる。温度としては、例えば、140℃〜270℃であってよく、160℃〜230℃が好ましい。乾熱延伸では、未延伸糸(又は前延伸糸)を、例えば、0.5〜8倍延伸することができ、1〜4倍延伸することが好ましい。
【0148】
湿熱延伸及び乾熱延伸はそれぞれ単独で行ってもよく、またこれらを多段で、又は組み合わせて行ってもよい。すなわち、一段目延伸を湿熱延伸で行い、二段目延伸を乾熱延伸で行う、又は一段目延伸を湿熱延伸行い、二段目延伸を湿熱延伸行い、更に三段目延伸を乾熱延伸で行う等、湿熱延伸及び乾熱延伸を適宜組み合わせて行うことができる。
【0149】
延伸工程における最終的な延伸倍率は、未延伸糸(又は前延伸糸)に対して、例えば、5〜20倍であり、6〜11倍であることが好ましい。
【0150】
本発明に係る改変フィブロインは、延伸してフィブロイン繊維とした後、フィブロイン繊維内のポリペプチド分子間で化学的に架橋させてもよい。架橋させることができる官能基は、例えば、アミノ基、カルボキシル基、チオール基及びヒドロキシ基等が挙げられる。例えば、ポリペプチドに含まれるリジン側鎖のアミノ基は、グルタミン酸又はアスパラギン酸側鎖のカルボキシル基と脱水縮合によりアミド結合で架橋できる。真空加熱下で脱水縮合反応を行なうことにより架橋してもよいし、カルボジイミド等の脱水縮合剤により架橋させてもよい。
【0151】
ポリペプチド分子間の架橋は、カルボジイミド、グルタルアルデヒド等の架橋剤を用いて行ってもよく、トランスグルタミナーゼ等の酵素を用いて行ってもよい。カルボジイミドは、一般式R
1N=C=NR
2(但し、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、炭素数1〜6のアルキル基、シクロアルキル基を含む有機基を示す。)で示される化合物である。カルボジイミドの具体例として、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、1−シクロヘキシル−3−(2−モルホリノエチル)カルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)等が挙げられる。これらの中でも、EDC及びDICはポリペプチド分子間のアミド結合形成能が高く、架橋反応し易いことから好ましい。
【0152】
架橋処理は、フィブロイン繊維に架橋剤を付与して真空加熱乾燥で架橋するのが好ましい。架橋剤は純品をフィブロイン繊維に付与してもよいし、炭素数1〜5の低級アルコール及び緩衝液等で0.005〜10質量%の濃度に希釈したものをフィブロイン繊維に付与してもよい。架橋処理は、温度20〜45℃で3〜42時間行うのが好ましい。架橋処理により、フィブロイン繊維に更に高い応力(強度)を付与することができる。
【0153】
[製品]
本発明に係る改変フィブロインから形成されたフィブロイン繊維は、繊維又は糸として、織物、編物、組み物、不織布等に応用できる。また、ロープ、手術用縫合糸、電気部品用の可撓性止め具、さらには移植用生理活性材料(例えば、人工靭帯及び大動脈バンド)等の高強度用途にも応用できる。
【0154】
また、本発明に係る改変フィブロインは、フィラメント、フィルム、発泡体、球体、ナノフィブリル、ヒドロゲル、樹脂及びその等価物にも応用でき、これらは、特開2009−505668号公報、特開2009−505668号公報、特許第5678283号公報、特許第4638735号公報等に記載の方法に準じて製造することができる。
【実施例】
【0155】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0156】
〔(1)改変フィブロインをコードする核酸の合成、及び発現ベクターの構築〕
天然由来のフィブロインであるNephila clavipes(GenBankアクセッション番号:P46804.1、GI:1174415)の塩基配列及びアミノ酸配列に基づき、配列番号1〜4及び6〜11で示されるアミノ酸配列を有するフィブロイン及び改変フィブロインを設計した。配列番号1で示されるアミノ酸配列は、上記天然由来のフィブロインの(A)
nモチーフ中のアラニン残基が連続するアミノ酸配列をアラニン残基が連続する数を5つになるよう欠失したものであり、配列番号6で示されるアミノ酸配列(PRT313)は、配列番号1で示されるアミノ酸配列(Met−PRT313)のN末端に配列番号5で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)を付加したものである(比較例1、比較例2)。配列番号2で示されるアミノ酸配列(Met−PRT399)は、配列番号1で示されるアミノ酸配列から、N末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)
nモチーフ((A)
5)を欠失させ、更にC末端配列の手前に[(A)
nモチーフ−REP]を1つ挿入したものであり、配列番号7で示されるアミノ酸配列(PRT399)はこの配列番号2で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号5で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)を付加したものである(実施例1、実施例4)。配列番号3で示されるアミノ酸配列(Met−PRT380)は、配列番号1で示されるアミノ酸配列のREP中の全てのGGXをGQXに置換したものであり、配列番号8で示されるアミノ酸配列(PRT380)はこの配列番号3で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号5で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)を付加したものである(参考例1、参考例2)。配列番号4で示されるアミノ酸配列(Met−PRT410)は、配列番号2で示されるアミノ酸配列のREP中の全てのGGXをGQXに置換したものであり、配列番号9で示されるアミノ酸配列(PRT410)はこの配列番号4で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号5で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)を付加したものである(実施例2、実施例5)。配列番号10で示されるアミノ酸配列(Met−PRT468)は、配列番号4で示されるアミノ酸配列の各(A)
nモチーフのC末端側に2つのアラニン残基を挿入し、更に一部のグルタミン(Q)残基をセリン(S)残基に置換し、配列番号4の分子量とほぼ同じとなるようにN末端側の一部のアミノ酸を欠失させたものであり、配列番号11で示されるアミノ酸配列(PRT468)は、配列番号10で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号5で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)を付加したものである(実施例3)。
【0157】
設計した配列番号1〜4及び10で示されるアミノ酸配列それぞれのN末端にHisタグ配列及びヒンジ配列(配列番号5)を付加した配列番号6〜9及び11で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする核酸をそれぞれ合成した。当該核酸には、5’末端にNdeIサイト、終止コドン下流にEcoRIサイトを付加した。これら4種類の核酸をクローニングベクター(pUC118)にクローニングした。その後、同核酸をNdeI及びEcoRIで制限酵素処理して切り出した後、タンパク質発現ベクターpET−22b(+)に組換えて発現ベクターを得た。
【0158】
〔(2)タンパク質の発現〕
配列番号6〜9及び11で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする核酸を含むpET22b(+)発現ベクターで、大腸菌BLR(DE3)を形質転換した。当該形質転換大腸菌を、アンピシリンを含む2mLのLB培地で15時間培養した。当該培養液を、アンピシリンを含む100mLのシード培養用培地(表6)にOD
600が0.005となるように添加した。培養液温度を30℃に保ち、OD
600が5になるまでフラスコ培養を行い(約15時間)、シード培養液を得た。
【表6】
【0159】
当該シード培養液を500mlの生産培地(表7)を添加したジャーファーメンターにOD
600が0.05となるように添加した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。また培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持するようにした。
【表7】
【0160】
生産培地中のグルコースが完全に消費された直後に、フィード液(グルコース455g/1L、Yeast Extract 120g/1L)を1ml/分の速度で添加した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。また培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持するようにし、20時間培養を行った。その後、1Mのイソプロピル−β−チオガラクトピラノシド(IPTG)を培養液に対して終濃度1mMになるよう添加し、目的のタンパク質を発現誘導させた。IPTG添加後20時間経過した時点で、培養液を遠心分離し、菌体を回収した。IPTG添加前とIPTG添加後の培養液から調製した菌体を用いてSDS−PAGEを行い、IPTG添加に依存した目的とするタンパク質サイズのバンドの出現により、目的とするタンパク質の発現を確認した。
【0161】
〔(3)タンパク質の精製〕
IPTGを添加してから2時間後に回収した菌体を20mM Tris−HCl buffer(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の菌体を約1mMのPMSFを含む20mMTris−HCl緩衝液(pH7.4)に懸濁させ、高圧ホモジナイザー(GEA Niro Soavi社)で細胞を破砕した。破砕した細胞を遠心分離し、沈殿物を得た。得られた沈殿物を、高純度になるまで20mMTris−HCl緩衝液(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の沈殿物を100mg/mLの濃度になるように8M グアニジン緩衝液(8Mグアニジン塩酸塩、10mMリン酸二水素ナトリウム、20mMNaCl、1mMTris−HCl、pH7.0)で懸濁し、60℃で30分間、スターラーで撹拌し、溶解させた。溶解後、透析チューブ(三光純薬株式会社製のセルロースチューブ36/32)を用いて水で透析を行った。透析後に得られた白色の凝集タンパク質を遠心分離により回収し、凍結乾燥機で水分を除き、凍結乾燥粉末を回収した。
【0162】
得られた凍結乾燥粉末における目的タンパク質の精製度は、粉末のポリアクリルアミドゲル電気泳動の結果をTotallab(nonlinear dynamics ltd.)を用いて画像解析することにより確認した。その結果、いずれのタンパク質も精製度は約85%であった。
【0163】
〔(4)紡糸液(ドープ液)の調製〕
予め添加物として塩化リチウムを4質量%溶解したDMSOを主溶媒として用い、上記で調製したPRT313(配列番号6:比較例1)、PRT399(配列番号7:実施例1)、PRT380(配列番号8:参考例1)、PRT410(配列番号9:実施例2)及びPRT468(配列番号11:実施例3)タンパク質の凍結乾燥粉末を濃度が24質量%になるように主溶媒に加えた。90度のローテーターで1時間及び80度で15時間溶解した後、焼結金属フィルターでろ過し、ゴミを取り除いた。次いで、1時間静置して泡を取り除き、紡糸液(ドープ液)とした。タンパク質の種類及び温度により紡糸液の粘度は多少異なるが、PRT410の場合、35℃で5,000cP(センチポイズ)であった。
【0164】
〔(5)紡糸〕
紡糸液をリザーブタンクに充填し、0.1又は0.2mm径のマルチホールノズルからギアポンプを用い100質量%メタノール凝固浴槽中へ吐出させた。吐出量は3〜6ml/分に調整した。凝固後、100質量%メタノール洗浄浴槽で洗浄及び延伸を行った。洗浄及び延伸後、乾熱板を用いて乾燥させ、得られた原糸(繊維)を巻き取った。
【0165】
〔物性測定〕
以下のようにして、得られた原糸の物性を測定した。
(a)光学顕微鏡を用いて繊維の直径を求めた。
(b)温度20℃、相対湿度65%の条件で引張り試験機(INSTRON3342)を用いて繊維の応力、初期弾性率、伸度(破断点変位、変位)を測定し、下記式によりタフネスを算出した。引張試験では10m秒間隔で測定した。各サンプルは厚紙で作製した型枠に貼り付け、つかみ具間距離は20mm、引張り速度は10mm/分とした。ロードセル容量10N、つかみ冶具はクリップ式とした。測定値はサンプル数n=5の平均値とした。
【0166】
タフネスは次の算出式で求めた。
タフネス=[E/(r
2×π×L)×1000](単位:MJ/m
3)
ここで、
E:破壊エネルギー(単位:J)
r:繊維の半径(単位:mm)
π:円周率
L:引張り試験測定時のつかみ具間距離:20mm
【0167】
各タンパク質の凍結粉末の生産量、各原糸の応力、タフネス及び伸度を測定した結果を、PRT313(配列番号6:比較例1)の値を100としたときの相対値で表8に示した。
【表8】
【0168】
(A)
nモチーフの含有量を低減させた改変フィブロインは、生産性が著しく向上した(実施例1)。また、(A)
nモチーフの含有量の低減に加え、REP中のグリシン残基の含有量を低減させた改変フィブロインは、より一層顕著に生産性が向上し、かつタフネス及び伸度の向上が認められた(実施例2及び3)。
【0169】
次に、紡糸条件を以下に示すとおり変更し、上記で調製した精製タンパク質、PRT313(配列番号6:比較例2)、PRT399(配列番号7:実施例4)、PRT380(配列番号8:参考例2)及びPRT410(配列番号9:実施例5)について紡糸を行い、上記と同様の方法で物性を測定し、比較を行った。
【0170】
紡糸液は上記(4)紡糸液(ドープ液)の調製と同様の方法で調製した。調製した紡糸液をリザーブタンクに充填し、0.2mm径のノズルからギアポンプを用い100質量%メタノール凝固浴槽中へ吐出させた。吐出量は0.050〜0.052ml/分に調整した。凝固後、100質量%メタノール洗浄浴槽で洗浄、50度の湯浴中で3倍延伸を行った。洗浄及び延伸後、60度のホットローラーを用いて乾燥させ、得られた原糸(繊維)を巻き取った。
【0171】
各原糸の応力、タフネス及び伸度を測定した結果を、PRT313(配列番号6:比較例2)の値を100としたときの相対値で表9に示した。
【表9】
【0172】
(A)
nモチーフの含有量を低減させた改変フィブロインは、応力を維持したまま、生産性が向上すると共に、タフネス及び伸度の向上も認められた(実施例4)。(A)
nモチーフの含有量の低減に加え、REP中のグリシン残基の含有量を低減させた改変フィブロインにおいても同様であった(実施例5)。