(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
エチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステル系樹脂で構成され、下記要件(1)〜(7)を満たすことを特徴とするシーラント用ポリエステル系フィルム。
(1)全モノマー成分中、非晶質成分となり得る1種以上のモノマー成分の合計が12モル%以上30モル%以下
(2)フィルムの幅方向を溶断シールしたときの、シール強度の平均値が10N/15mm以上18N/15mm以下であり、かつ、シール強度の標準偏差が0.3以上2.5以下
(3)室温から160℃まで昇温したときのフィルム幅方向における最大収縮応力が2MPa以下
(4)80℃温湯中に10秒間浸漬したときの熱収縮率が長手方向、幅方向いずれも−10%以上10%以下
(5)長手方向、幅方向いずれかの引張破壊強度が80MPa以上300MPa以下
(6)折りたたみ保持角度が20度以上70度以下
(7)ヘイズが0%以上10%以下
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のポリエステル系フィルムは、エチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステル系樹脂で構成され、下記要件(1)〜(7)を満たす;
(1)全モノマー成分中、非晶質成分となり得る1種以上のモノマー成分の合計が12モル%以上30モル%以下
(2)フィルムの幅方向を溶断シールしたときの、シール強度の平均値が10N/15mm以上18N/15mmであり、かつ、シール強度の標準偏差が0.3以上2.5以下
(3)室温から160℃まで昇温したときのフィルム幅方向における最大収縮応力が2MPa以下
(4)80℃温湯中に10秒間浸漬したときの熱収縮率が長手方向、幅方向いずれも−10%以上10%以下
(5)長手方向、幅方向いずれかの引張破壊強度が80MPa以上300MPa以下
(6)折りたたみ保持角度が20度以上70度以下
(7)ヘイズが0%以上10%以下。
【0012】
前記の要件を満たす本発明のポリエステル系フィルムは種々の有機化合物を吸着し難く、溶断シール性に優れているため、包装袋に好適である。また本発明のポリエステル系フィルムはフィルムを加熱したときの収縮が少ないため、高温環境下に放置してもその形状を保つことができる。さらに、本発明のポリエステル系フィルムは引張強度が高いため、加工性が良好である。
【0013】
特に、前記の溶断シール性と低収縮性及び、溶断シール性と引張強度はそれぞれ二律背反の特性であり、これらの特性を全て同時に満足できるポリエステル系フィルムは従来には存在していなかった。以下、本発明のポリエステル系フィルムについて説明する。
【0014】
1.ポリエステル系フィルムの構成材料
1.1.ポリエステル原料の種類
本発明に用いるポリエステル系樹脂は、エチレンテレフタレートユニットを主たる構成成分とするものである。
【0015】
また、本発明に用いるポリエステル系樹脂は、エチレンテレフタレートユニット以外の成分として、非晶質成分となりうる1種以上のモノマー成分(以下、単に非晶成分と称する場合がある)を含む。非晶成分が存在することによってフィルムの溶断シール強度が向上するためである。
非晶成分となりうるカルボン酸成分のモノマーとしては、例えばイソフタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸が挙げられる。
【0016】
また、非晶成分となりうるジオール成分のモノマーとしては、例えばネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2,2−イソプロピル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジ−n−ブチル−1,3−プロパンジオール、ヘキサンジオールを挙げることができる。
【0017】
上述の非晶成分のなかでも、イソフタル酸、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールが好ましく、これらの内の1種以上を用いることでフィルムの非晶性を高めて溶断シール強度を10N/15mm以上にしやすくなる。非晶成分としては、ネオペンチルグリコール及び/又は1,4−シクロヘキサンジメタノールを使用することがより好ましく、ネオペンチルグリコールを使用することが特に好ましい。
【0018】
ポリエステル原料は、エチレンテレフタレートや非晶成分以外の成分(他の成分)を含んでいてもよい。ポリエステルを構成する他のジカルボン酸成分としては、オルトフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、および脂環式ジカルボン酸等を挙げることができる。ただし、3価以上の多価カルボン酸(例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸およびこれらの無水物等)は、ポリエステル原料としては使用しないことが好ましい。
【0019】
また、ポリエステル系樹脂を構成する他のジオール成分としては、ジエチレングリコールや1,4−ブタンジオール等の長鎖ジオール、ヘキサンジオール等の脂肪族ジオール、ビスフェノールA等の芳香族系ジオール等を挙げることができる。ただし、炭素数8個以上のジオール(例えば、オクタンジオール等)、または3価以上の多価アルコール(例えば、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、グリセリン、ジグリセリンなど)は、ポリエステル原料としては使用しないことが好ましい。
【0020】
さらに、ポリエステル系樹脂を構成する成分として、ε−カプロラクトンやテトラメチレングリコールなどを含むポリエステルエラストマーを使用してもよい。ポリエステルエラストマーは、フィルムの融点を下げる効果があるため好適に使用することができる。
【0021】
1.2.各成分の含有量
本発明に用いるポリエステル系樹脂は、非晶成分量が12モル%以上である。好ましくは13モル%以上であり、より好ましくは14モル%以上である。また、非晶成分量の上限は30モル%である。好ましくは29モル%以下であり、より好ましくは28モル%以下である。ここでの非晶成分量とは、非晶成分となりうるカルボン酸、もしくはジオールモノマー成分量の総和を指す。エステル成分1ユニット(カルボン酸モノマーとジオールモノマーがエステル結合によってつながれた1単位)につき、酸成分またはジオール成分のいずれか片方が非晶成分となりうるモノマーであれば、そのエステルユニットは非晶質であるとみなせるためである。
【0022】
非晶成分量が12モル%より少ない場合、溶融樹脂をダイから押し出した後にたとえ急冷固化したとしても、後の延伸および最終熱処理工程で結晶化してしまうため、溶断時にフィルムが融解しにくくなり、溶断シール強度を10N/15mm以上とすることが困難となってしまう。
【0023】
また、非晶成分量の合計が30モル%超である場合、フィルムの溶断シールは容易に行えるものの、後述の最終熱処理温度を高くしたとしてもフィルムの収縮率が10%を超えてしまう。さらに、非晶成分量の合計が30モル%超であると、フィルムの厚み精度が極端に悪化するため、製品として巻き取ったロールに偏肉や弛みといった問題が発生し、加工性が低下してしまう。非晶成分量が上記範囲であれば良好な溶断シール強度と熱収縮性を確保することができる。
【0024】
また、本発明に用いるポリエステル系樹脂中に含まれるエチレンテレフタレートユニットは、ポリエステル系樹脂の構成ユニット100モル%中、50モル%以上85モル%以下であることが好ましい。より好ましくは55モル%以上80モル%以下である。エチレンテレフタレートユニットが50モル%より少ないと、フィルムの機械強度や耐熱性などが不十分になる虞がある。一方、エチレンテレフタレートユニットが85モル%より多いと、相対的に非晶成分量が少なくなってしまうため、適切な溶断シールを行うことが困難となる。
【0025】
1.3.その他の成分
本発明のポリエステル系フィルムを構成する樹脂の中には、必要に応じて各種の添加剤、例えば、ワックス類、酸化防止剤、帯電防止剤、結晶核剤、減粘剤、熱安定剤、着色用顔料、着色防止剤、紫外線吸収剤などを添加することができる。また、フィルムのすべり性を良好にする滑剤として微粒子を添加してもよい。微粒子としては、任意のものを使用することができる。例えば、無機系微粒子としては、シリカ、アルミナ、二酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン、硫酸バリウムなどを挙げることができ、有機系微粒子としては、アクリル系樹脂粒子、メラミン樹脂粒子、シリコーン樹脂粒子、架橋ポリスチレン粒子などを挙げることができる。微粒子の平均粒径は0.05μm〜3.0μm(コールターカウンタにより測定した場合)の範囲内で、必要に応じて適宜選択することができる。
【0026】
ポリエステル系フィルムを構成する樹脂に上記微粒子を配合する方法は特に限定されず、例えば、ポリエステル系樹脂を製造する任意の段階で添加する方法が挙げられる。微粒子の添加段階としては、例えば、エステル化の段階、もしくはエステル交換反応終了後、重縮合反応開始前の段階で微粒子をエチレングリコールなどに分散させたスラリーとして添加し、重縮合反応を進めるのが好ましい。また、ベント付き混練押出し機を用いて、エチレングリコールや水、そのほかの溶媒に分散させた微粒子のスラリーとポリエステル系樹脂原料とをブレンドする方法や、乾燥させた微粒子とポリエステル系樹脂原料とを混練押出し機を用いてブレンドする方法なども挙げられる。
【0027】
2.ポリエステル系フィルムの特性
次に、本発明のポリエステル系フィルムをシーラントとして使用するために必要な特性を説明する。
【0028】
2.1.溶断シール強度
まず、本発明のポリエステル系フィルムを積層し、溶断シールしたとき、シール強度の平均値は10N/15mm以上18N/15mmである。溶断シール強度が10N/15mm未満であると、包装袋として内容物を入れたときに溶断シール部分が容易に剥離され、袋が破袋しやすくなるため用いることができない。溶断シール強度は11N/15mm以上が好ましく、12N/15mm以上がより好ましい。溶断シール強度は大きいほど好ましいが、現状得られる上限は18N/15mm程度である。溶断シールの方法は、後述の実施例で記載する。
【0029】
2.2.溶断シール強度のバラツキ
本発明のポリエステル系フィルム同士を積層して溶断シールしたときの溶断シール強度の標準偏差は0.3以上2.5以下である。溶断シール強度の標準偏差の求め方は、後述の実施例で記載する。溶断シール強度の標準偏差が2.5より高いと、溶断シール強度のバラツキが大きくなってしまう。溶断シール強度のバラツキが大きいと、たとえ袋全体で溶断シール強度の平均値が10N/15mmを超えていたとしても、部分的に見ると溶断シール強度が10N/15mmを下回る箇所が多数存在することとなり、袋がその部分から破れやすくなってしまうため包装袋として使用し難いものとなる。溶断シール強度の標準偏差は小さければ小さいほど溶断シール強度のバラツキがなくなるので好ましいが、現在の技術水準では0.3が下限である。溶断シール強度の標準偏差は好ましくは2以下であり、より好ましくは1.5以下であり、さらに好ましくは1以下である。また、溶断シール強度の標準偏差の下限は0.4程度、又は0.5程度であっても包装袋としては問題なく使用できる。
【0030】
2.3.幅方向の最大収縮応力
本発明のポリエステル系フィルムは、室温から160℃まで昇温したときのフィルム幅方向における最大収縮応力が2MPa以下である。溶断シールの際には、フィルムと溶断刃との接触部分に、溶断刃の熱によるフィルムの収縮力と、フィルムと溶断刃との接触による抗力(フィルムと溶断刃との摩擦力)とが働く。特に、溶断シール方向に平行な方向へのフィルムの収縮力が大きい場合には溶断シール部分に波打ち現象が生じ易くなる傾向がある。溶断シールを使用するフィルムの加工工程では、生産性や加工工程の最適化の観点から、フィルムの幅方向に沿って刃を入れることが多く、フィルム長手方向に比べて幅方向の収縮応力は溶断シール部の波打ち現象に大きく影響する。したがってフィルムの幅方向における最大収縮応力が2MPa以下であれば、フィルムと溶断刃との摩擦力が優位になる(フィルムの収縮が溶断刃によって留められる)ため、溶断シール部分の熱収縮(波打ち)は発生し難い。一方、フィルムの幅方向における最大収縮応力が2MPa超であると、溶断刃との摩擦力に抗ってフィルムが収縮するため、溶断部分に波打ちが生じてしまう。フィルムの幅方向における最大収縮応力の上限は1.5MPaであれば好ましく、上限は1MPaであればより好ましい。
【0031】
2.4.収縮率
本発明のポリエステル系フィルムは、80℃の温湯中で10秒間浸漬したときの温湯熱収縮率が長手方向、幅方向のいずれも−10%以上、10%以下である。
温湯熱収縮率が長手方向、幅方向共に10%を超えると、高温環境でのフィルムの収縮が大きくなり、元の形状を保ち難くなる。特に幅方向の温湯熱収縮率が大きい場合には、溶断シール強度のバラツキが大きくなってしまう。フィルムを溶断すると、溶断刃からの熱によってフィルムが溶融され、直ちに冷却固化されて樹脂の塊(いわゆるシール玉)が形成される。フィルムが幅方向への熱収縮性を有している場合、溶断刃からの熱によってフィルムが収縮するため、溶断後に形成されるシール玉の大きさにバラツキが生じ、結果として溶断シール強度にバラツキが生じてしまう。
【0032】
温湯熱収縮率は、長手方向、幅方向のいずれも、好ましくは9%以下であり、より好ましくは8%以下であり、さらに好ましくは7%以下である。一方、温湯熱収縮率が0%を下回る場合、フィルムが伸びることを意味しており、フィルムの伸びが大きい場合には、収縮率が高い場合と同様にフィルムが元の形状を維持し難くなる傾向がある。したがって長手方向、幅方向の温湯収縮率は、好ましくは−9%以上であり、より好ましくは−8%以上であり、さらに好ましくは−7%以上である。長手方向、幅方向の温湯熱収縮率は同一である必要はなく、上記温湯熱収縮率の範囲内に含まれていれば長手方向と幅方向の温湯熱収縮率は異なっていてもよい。
【0033】
2.5.引張破壊強さ(引張破壊強度)
本発明のポリエステル系フィルムは、長手方向もしくは幅方向の引張破壊強さが80MPa以上300MPa以下である。引張破壊強さが80MPaを下回ると、内容物を入れた状態で袋を落下させたときに溶断シール以外の部分であっても袋が破れてしまう虞がある。それだけでなく、引張破壊強さが80MPaを下回ると、フィルムロールからフィルムを繰り出して溶断シール加工する際にフィルムにかかる張力によって破断してしまう虞がある。引張破壊強さは、90MPa以上が好ましく、100MPa以上がより好ましい。引張破壊強さが高いほど袋としたときの強度が向上し、製袋加工時の破断がなくなるため好ましいが、本発明の分子設計のフィルムでは300MPaを超えることは難しいため、300MPaを上限としている。引張破壊強さは長手方向、幅方向のいずれかが上記範囲内であればよいが、引張破壊強さは、長手方向、幅方向共に上記範囲内であることが好ましい。引張破壊強さの測定方法は実施例で説明する。
【0034】
2.6.折りたたみ保持角度
本発明のポリエステル系フィルムは、後述する方法で測定される折りたたみ保持角度が20度以上70度以下である。折りたたみ保持角度が70度超であると、袋の底で折り目がつきにくくなり袋が膨らんでしまうため、袋を重ねたときに端ぞろえが悪くなってしまう。好ましい折りたたみ保持角度の上限は65度であり、上限が60度であればより好ましい。また、折りたたみ保持角度は小さければ小さいほど好ましいが、本発明のカバーできる範囲は20度が下限であり、折りたたみ保持角度が25度以上であっても、実用上は好ましいものと言える。
【0035】
2.7.ヘイズ
本発明のポリエステル系フィルムは、ヘイズが0%以上10%以下である。ヘイズが10%を超えるとフィルムの透明性が悪くなるため、袋とした場合に中身の視認性が劣ることになる。ヘイズの上限は9%以下であるとより好ましく、8%以下であると特に好ましい。ヘイズは低くければ低いほど透明性は高くなり好ましいが、現状の技術水準では1%が下限であり、2%以上であっても実用上十分といえる。
【0036】
2.8.長手方向の厚みムラ
本発明のポリエステル系フィルムは、長手方向で測定長を10mとした場合の厚みムラが18%以下であることが好ましい。長手方向の厚みムラが18%を超えると、フィルムを印刷するときに印刷不良が発生しやすくなるので好ましくない。なお、長手方向の厚みムラは、16%以下であるとより好ましく、14%以下であると特に好ましい。また、長手方向の厚みムラは小さいほど好ましいが、この下限は製膜装置の性能から1%程度が限界であると考えている。
【0037】
2.9.幅方向の厚みムラ
また、幅方向においては、測定長を1mとした場合の厚みムラが18%以下であることが好ましい。幅方向の厚みムラが18%を超えると、フィルムを印刷するときに印刷不良が発生しやすくなる虞がある。なお、幅方向の厚みムラは、好ましくは16%以下であり、より好ましくは14%以下である。なお、幅方向の厚みムラは0%に近いほど好ましいが、下限は製膜装置の性能と生産のしやすさから1%が妥当と考えている。
【0038】
2.10.厚み
本発明のポリエステル系フィルムの厚みは特に限定されないが、3μm以上200μm以下が好ましい。フィルムの厚みが3μmより薄いと強度の不足や印刷等の加工が困難になる虞がある。またフィルム厚みが200μmより厚くても構わないが、溶断シールの際により多くの熱量を必要とするため溶断シール性に劣ることになる。それだけでなく、厚みが200μmより厚いと、フィルムの使用重量が増えて製造コストが高くなるので好ましくない。フィルムの厚みは5μm以上160μm以下であるとより好ましく、7μm以上120μm以下であるとさらに好ましい。
【0039】
3.ポリエステル系フィルムの製膜条件
3.1.溶融押し出し
本発明のポリエステル系フィルムは、上記「1.ポリエステル系フィルムの構成材料」に記載したポリエステル原料を押出機により溶融押し出しして未延伸のフィルムを形成し、それを以下に示す所定の方法により得ることができる。フィルムは無延伸であってもよく、延伸する場合は一軸延伸、二軸延伸のどの延伸方式を採用しても構わないが、フィルム強度や生産性の観点からは二軸延伸により得られたフィルムが好ましい。なお、ポリエステル系樹脂は、前述のように、非晶質成分となり得るモノマーを適量含有するように、ジカルボン酸成分とジオール成分の種類と量を選定して重縮合させることで得られる。また、予め重縮合して得たチップ状のポリエステル系樹脂を単独で、または2種以上を混合してフィルムの原料として使用することもできる。
【0040】
原料樹脂を溶融押し出しするとき、ポリエステル原料をホッパードライヤー、パドルドライヤー等の乾燥機、または真空乾燥機を用いて乾燥するのが好ましい。そのようにポリエステル原料を乾燥させた後、押出機を利用して200〜300℃の温度で溶融してフィルムとして押し出す。押し出しはTダイ法、チューブラー法等、既存の任意の方法を採用することができる。
【0041】
その後、押し出しで溶融されたフィルムを急冷することにより、未延伸のフィルムを得ることができる。なお、溶融樹脂を急冷する方法としては、溶融樹脂を口金から回転ドラム上にキャストして急冷固化することにより実質的に未配向の樹脂シートを得る方法を好適に採用することができる。フィルムは、縦(長手)方向、横(幅)方向のいずれか、少なくとも一方向に延伸されているのが好ましい(一軸延伸フィルム、二軸延伸フィルム)。以下では、最初に横延伸、次に縦延伸を実施する横延伸−縦延伸による逐次二軸延伸法について説明するが、順番を逆にする縦延伸−横延伸であっても、主配向方向が変わるだけなので構わない。また同時二軸延伸法でも構わない。
【0042】
3.2.横延伸
溶融押出後に急冷して得られた未延伸のフィルムをテンター(第1テンター)内でフィルムの幅方向の両端際をクリップによって把持した状態で横方向への延伸を行う。横延伸の条件は、65℃〜100℃で3倍〜5倍程度の倍率とすることが好ましい。延伸温度が65℃よりも低いと横延伸によるフィルムの配向結晶化が促進されるため、横延伸だけでなく後工程の縦延伸でも破断しやすくなる虞がある。一方、横延伸温度が100℃よりも高いと、幅方向の厚みムラが18%を超える虞がある。横延伸に先立って、予備加熱を行うのが好ましく、予備加熱はフィルム表面温度が60℃〜100℃になるまで行うとよい。
【0043】
また、横延伸倍率が3倍よりも低いと、幅方向の厚みムラが18%を超えやすくなるだけでなく、後述する最終熱処理工程において破断が発生する虞がある。横延伸倍率が3倍よりも低いと、フィルムの端部(クリップ際)まで延伸伝播されにくくなり、フィルム耳部に延伸されない部分(いわゆる延伸残)が多くなる虞がある。延伸残が発生したフィルム耳部はフィルム中央部に比べて分子が配向しておらず弾性率が著しく低いので、最終熱処理工程で発生する幅方向への熱収縮応力が延伸残近傍に集中する。このことにより、延伸残付近の厚み(樹脂体積)がフィルム幅方向の中央側へ移動した結果、フィルム幅方向端部の厚みが急激に減少し、強度が弱くなって破断してしまう。
【0044】
横延伸の後は、積極的な加熱操作を実行しない中間ゾーンにフィルムを通過させることが好ましい。第1テンターの横延伸ゾーンと中間熱処理ゾーンで温度差がある場合、中間熱処理ゾーンの熱(熱風そのものや輻射熱)が横延伸工程に流れ込み、横延伸ゾーンの温度が不安定になりフィルム品質が安定しなくなることがある。したがって、横延伸後で中間熱処理前のフィルムは、所定時間をかけて中間ゾーンを通過させた後に、中間熱処理ゾーンへと供給するのが好ましい。この中間ゾーンにおいては、フィルムを通過させていない状態で短冊状の紙片を垂らしたときに、その紙片がほぼ完全に鉛直方向に垂れ下がるように、横延伸ゾーンや中間熱処理ゾーンからの熱風を遮断すると、安定した品質のフィルムが得られる。中間ゾーンの通過時間は、1秒〜5秒程度で充分である。1秒より短いと、中間ゾーンの長さが不充分となって、熱風の遮断効果が不足する。また、中間ゾーンの通過時間は長い方が好ましいが、あまりに長いと設備が大きくなってしまうので、5秒程度で充分である。
【0045】
中間ゾーンの通過後は、縦延伸前の中間熱処理を行う。この中間熱処理により、幅方向の収縮率を低減させることができる。中間熱処理の温度は横延伸の温度と同じ〜+30℃の範囲であることが好ましい。中間熱処理ゾーンの温度が横延伸温度より低いと、横方向の収縮率を低減させる効果が発現し難くなる。一方、横延伸温度+30℃より高いと、幅方向の収縮率はより低くなるものの、フィルムが結晶化しすぎてしまい、続く縦方向への延伸を行いにくくなる場合がある。中間熱処理ゾーンの通過時間は2秒〜20秒が好ましい。2秒より短いと中間熱処理ゾーンの長さが不充分で、幅方向の熱収縮率の調整が難しくなる場合がある。中間熱処理ゾーンの通過時間は長い方が好ましいが20秒程度で充分である。これにより横一軸延伸フィルムが得られる。
【0046】
中間熱処理の際には、第1テンターのクリップ間距離を任意の倍率で縮めることでリラックス処理を実施することもできる。リラックス処理により、横方向に配向した分子が結晶化することなく緩和し、幅方向の収縮率を低減させることができる。横延伸後のリラックス率は0%(リラックス率0%はリラックスを行わないことを指す)〜20%の範囲で任意に設定することができる。リラックス率が20%より高いと、端部(フィルムの耳部)の配向が緩和されすぎて弾性率が低下し、前述の通り最終熱処理工程で破断してしまう虞がある。
【0047】
3.3.縦延伸
続いて縦延伸を行う。縦延伸工程では、まず、横一軸延伸フィルムを複数のロール群を連続的に配置した縦延伸機へと導入する。縦延伸に当たっては、予熱ロールでフィルム温度が65℃〜110℃になるまで予備加熱することが好ましい。フィルム温度が65℃より低いと、縦方向に延伸し難くなる傾向がある(すなわち、破断が生じやすくなる)。一方110℃より高いとロールにフィルムが粘着しやすくなり、連続生産においてロール汚れの発生が早期に生じる虞がある。
【0048】
フィルム温度が前記範囲になったら、縦延伸を行う。縦延伸はロールの速度差によって行う。延伸倍率は1.5倍〜5倍とするのが好ましい。またこのとき、延伸に使用するロールが低速・高速の2つである一段延伸だけでなく、低速・中速・高速の3つである二段延伸、低速・中低速・中高速・高速の4つである3段延伸と延伸段数を増加させることもできる。
【0049】
縦延伸後にはフィルムを長手方向へ弛緩させること(長手方向へのリラックス)により、縦延伸で生じたフィルム長手方向の収縮率を低減することができる。長手方向へのリラックス率は0%以上70%以下(リラックス率0%はリラックスを行わないことを指す)とするのが好ましい。長手方向へのリラックス率の上限は使用する原料や縦延伸条件よって決まり、これを超えてリラックスを実施することはできない。本発明のポリエステル系フィルムにおいては、長手方向へのリラックス率は70%が上限である。長手方向へのリラックスは、縦延伸後のフィルムを65℃〜100℃に加熱し、ロールの速度差を調整することで実施できる。加熱手段はロール、近赤外線、遠赤外線、熱風ヒータ等のいずれも用いる事ができる。また、長手方向へのリラックスは縦延伸直後でなくとも、後述するように最終熱処理で長手方向のクリップ間隔を狭めることでも実施できる。温度、リラックス率等の条件は後述する。
【0050】
長手方向へのリラックス(リラックスを行わない場合は縦延伸)の後は、一旦フィルムを冷却することが好ましく、表面温度が20℃〜40℃の冷却ロールで冷却することが好ましい。
【0051】
次に、縦延伸および冷却後のフィルムを第2テンターへと導入して、最終熱処理、さらに同時にリラックス処理を行う。最終熱処理では縦と横の収縮率を調整することができるため、フィルムの延伸後に最終熱処理工程を実施するのは好ましい実施態様である。第二テンター内でのリラックスは、縦方向、横方向ともに任意の倍率で実施することができる。縦方向、横方向ともにリラックス率は0%〜50%であることが好ましい。リラックス率は0%が下限である。リラックス率が高すぎると、フィルムの生産速度や製品幅が低下するというデメリットもあるので、リラックス率の上限は50%程度が好適である。
【0052】
熱処理(リラックス処理)温度は、120℃〜160℃が好ましい。熱処理温度が120℃より低いとフィルムの収縮率を10%以下とすることが困難となる。一方、熱処理温度は高ければ高いほどフィルムの収縮率を低減できて好ましいが、160℃より高いと前述のように、フィルム幅方向端部の厚みが減少することで破断が発生する虞がある。さらに、最終熱処理温度が160℃より高い場合には、フィルムがテンター内に接触すると粘着してしまう虞がある。
最終熱処理後は、フィルム両端部を裁断除去しながら巻き取れば、ポリエステル系フィルムロールが得られる。
【0053】
上述のようにして得られたポリエステル系フィルムは、フィルムロールに巻回する前、または、一旦フィルムロールに巻回した後に、フィルム表面に種々の特性を付与する表面処理工程に供してもよい。斯かる表面処理としては例えば、フィルム表面の接着性を良好にするためのコロナ処理、火炎処理、帯電防止性能を付与するためのコーティング処理などが挙げられる。これらの処理により接着性や帯電防止性を向上させることができる。
【0054】
4.ポリエステル系フィルムを用いた積層体及び包装袋
本発明のポリエステル系フィルムは単独で使用することもできるが、他の材料を積層して積層体としてもよい。積層体は、本発明のポリエステル系フィルムを少なくとも1層有していればよく、これにより積層体は上述した溶断シール強度等の特性を備えたものとなる。
【0055】
積層体を構成する他の層としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートを構成成分に含む無延伸フィルム、他の非晶性ポリエステルを構成成分に含む無延伸、一軸延伸または二軸延伸フィルム、ナイロンを構成成分に含む無延伸、一軸延伸または二軸延伸フィルム、ポリプロピレンを構成成分に含む無延伸、一軸延伸または二軸延伸フィルム等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0056】
積層体においてポリエステル系フィルムが存在する位置は特に限定されないが、積層体の最表層に本発明のポリエステル系フィルムが存在することが好ましい。これにより優れた溶断シール性能を発揮することができる。
積層体の製造方法は特に限定されず、塗布形成法、共押出法、ラミネート法、ヒートシール法等、従来公知の積層体の製造方法を使用することができる。
【0057】
上記特性を有するポリエステル系フィルム及び積層体は、包装袋として好適に使用することができる。包装袋の全てが本発明に係るポリエステル系フィルム又は積層体で構成されていてもよいが、包装袋の少なくとも一部に上述のポリエステル系フィルム又は積層体が存在していればよい。例えば、包装袋の溶断シール部に上述のポリエステル系フィルムを設けることで、包装袋は優れた溶断シール性を有するものとなり、溶断シール部における波打ちの発生を防止することができる。また包装袋が上記ポリエステル系フィルム又は積層体からなるものである場合は、包装袋は優れた溶断シール性能を有することに加えて、保香性に優れ、さらに高温環境下でも形状に変化が生じ難いものとなる。
【0058】
包装袋の一部にポリエステル系フィルム又は積層体を有するものとする方法は特に限定されず、塗布形成法、ラミネート法、ヒートシール法といった積層体の製造方法と同様の方法を採用することができる。
【0059】
包装袋は溶断シールによって製袋されるのが一般的であるが、これに限定されず、ヒートバー(ヒートジョー)を用いたヒートシール、ホットメルトを用いた接着、溶剤によるセンターシール等の従来公知の製造方法も使用できる。本発明のポリエステル系フィルムは優れた溶断シール性能を有しているので溶断シールによって製袋しても美麗な外観を有する包装袋が得られる。
【0060】
本発明の包装袋は、食品、医薬品、工業製品等の様々な物品の包装材料として好適に使用することができる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
フィルムの評価方法は以下の通りである。なお、フィルムの面積が小さいなどの理由で長手方向と幅方向とを直ちに特定できない場合は、後述する屈折率測定により、屈折率の小さい方を長手方向、大きい方を幅方向と仮定すればよい。
【0062】
<フィルムの評価方法>
[溶断シール強度の平均値、バラツキ]
折り目がフィルムの流れ方向に沿うようにフィルムを半折して溶断シール機(共栄印刷機械材料(株)製、PP500型 サイドウェルダー)にセットし、溶断刃角度90度、刃先設定温度410℃、ショット数140袋/分の条件にてフィルムを溶断シールし、サイドシール袋を作製した。袋のサイズは、溶断シール線に沿った方向(フィルムロールの幅方向)に310mm×溶断シール線に直交した方向(フィルムロールの流れ方向)に220mmである(以下、特に断らないときは、溶断シール線に沿った方向を「幅方向」、それと直交した方向を「流れ方向」と呼ぶ)。
作製した袋の中から無作為に1枚を抜き取り、溶断シールした部分(片側310mm×2=両側620mm)より、幅方向15mm×流れ方向100mmのサイズのサンプルを計40個(片側20個ずつ)サンプリングした。JIS Z1707に準拠し、サンプルを180度に開いてその両端を万能引張試験機「DSS−100」(島津製作所製)にセットし(チャック間距離:50mm)、サンプルの長手方向(流れ方向)へ速度200mm/minで引張試験を行い、溶断シール部が破断したときの剥離強度を測定した。剥離強度の最大値を溶断シール強度として15mmあたりの強度(N/15mm)で記録し、サンプル40個の平均値を溶断シール強度の平均値とした。
また、以下の式1を用いて算出した標準偏差を溶断シール強度のバラツキとした。
標準偏差
=[{(X
1−X
0)
2+(X
2−X
0)
2+・・・+(X
n−X
0)
2}/n]
1/2 式1
X
n:n個目のサンプルの溶断シール強度
X
0:溶断シール強度の平均値
n:サンプル数(40個)
【0063】
[幅方向の最大収縮応力]
フィルムロールから幅方向25mm×流れ方向2mmのサイズのサンプルを切り出し、熱機械分析装置(TMA、セイコーインスツルメンツ社製)を用いて最大収縮応力を測定した。チャック間距離は15mmとし、専用のチャックを用いてサンプルをプローブに取り付けた。サンプルをセットした後、炉内温度を室温〜160℃まで10℃/minで昇温したときの収縮応力を記録し、ピーク応力を幅方向の最大収縮応力とした。
【0064】
[温湯熱収縮率]
フィルムを10cm×10cmの正方形に裁断し、80℃±0.5℃の温水中に無荷重状態で10秒間浸漬して収縮させた後、25℃±0.5℃の水中に10秒間浸漬し、水中から取り出した。その後、フィルムの幅方向および流れ方向の寸法を測定し、下式2にしたがって各方向の収縮率を求めた。なお、測定は2回行い、その平均値を求めた。
収縮率(%)={(収縮前の長さ−収縮後の長さ)/収縮前の長さ}×100 式2
【0065】
[屈折率]
JIS K0062に準拠して、アッベ屈折計NAR−1T(株式会社アタゴ製)を用いて、長手方向と幅方向の屈折率をそれぞれ求めた。光源はナトリウムD線とし、屈折率1.74のテストピースを使用し、中間液としてはヨウ化メチレンを使用した。
【0066】
[折りたたみ保持角度]
28℃50%RH環境の恒温室でフィルム片を24時間放置した。その後直ちに、各々のフィルムを20℃65%RH環境で10cm×10cmの正方形に裁断し、4つ折にした(5cm×5cmの正方形)。フィルムを折りたたむ際は、最初の2つ折りで出来た長方形の短辺が流れ方向になるようにした。その後、大きさが10cm×15cmで厚みが2mmであるガラス2枚に4つ折りのフィルムを挟み、5kgのおもりをガラスの上に置いて20秒間プレスした。4つ折りのフィルムからおもりを外し、10秒間放置した後、最後にできた折目を基点としてフィルムが開いた角度を測定した。なお、フィルムが完全に折り畳まれた状態は0度、フィルムが完全に開いた角度は180度である。
【0067】
[引張破壊強度]
JIS K7113に準拠し、測定方向(フィルム長手方向、幅方向)が140mm、測定方向と直交する方向が20mmの短冊状のフィルムサンプルを作製した。万能引張試験機「DSS−100」(島津製作所製)を用いて、試験片の両端をチャックで片側20mmずつ把持(チャック間距離100mm)して、雰囲気温度23℃、引張速度200mm/minの条件にて引張試験を行い、引張破壊時の強度(応力)を引張破壊強さ(MPa)とした。測定は2回行い、その平均値を求めた。
【0068】
[ヘイズ]
JIS K7136に準拠し、ヘイズメータ(日本電色工業株式会社製、300A)を用いて測定した。なお、測定は2回行い、その平均値を求めた。
【0069】
[長手方向の厚みムラ]
フィルムを長手方向11m×幅方向40mmの長尺なロール状にサンプリングし、ミクロン測定器株式会社製の連続接触式厚み計を用いて測定速度5m/minでフィルムの長手方向に沿って連続的に厚みを測定した(測定長さは10m)。測定時の最大厚みをTmax.、最小厚みをTmin.、平均厚みをTave.とし、下式3からフィルムの長手方向の厚みムラを算出した。
厚みムラ(%)={(Tmax.−Tmin.)/Tave.}×100 式3
【0070】
[幅方向の厚みムラ]
フィルムロールから、フィルム長手方向の寸法40mm×幅方向の寸法1.2mの幅広な帯状の試料をサンプリングし、ミクロン測定器株式会社製の連続接触式厚み計を用いて、測定速度5m/minでフィルム試料の幅方向に沿って連続的に厚みを測定した(測定長さは1m)。測定時の最大厚みをTmax.、最小厚みをTmin.、平均厚みをTave.とし、上式3からフィルムの幅方向の厚みムラを算出した。
【0071】
[保香性]
10cm×10cmの正方形に裁断した2枚のフィルムを重ね合わせ、3辺を160℃でヒートシールして1辺のみが開いている三方シール袋を作製した。この袋の中にリモネン(ナカライテスク株式会社製)、メントール(ナカライテスク株式会社製)をそれぞれ20g入れた後、開いている1辺もヒートシールして袋を密封した。なお、メントールはエタノールに溶解させて濃度を1g/mLに調製したものを用いた。この袋を容量1000mLのガラス容器に入れて蓋をした。1週間後に人(年齢20代4人、30代4人、40代4人、50代4人の計16人。なお男女の比率は各年代で半々となるようにした)がガラス容器の蓋を中の空気の匂いを嗅げるように開け、ガラス容器中の空気の匂いを嗅ぎ、以下のようにして判定した。
判定○ 匂いを感じた人の人数0〜1人
判定△ 匂いを感じた人の人数2〜3人
判定× 匂いを感じた人の人数4〜16人
【0072】
[吸着性]
フィルムを10cm×10cmの正方形に裁断し、フィルムの重さを測定した。次に、リモネン(ナカライテスク株式会社製)、メントール(ナカライテスク株式会社製)をそれぞれ濃度30%となるようにエタノールを加えて調製した溶液500mLを入れた容器中にフィルムを浸漬し、1週間後に取り出した。
取り出したフィルムをセルロース製の長繊維不織布(旭化成せんい株式会社「ベンコット(登録商標)」)で押さえて溶液を拭きとり、温度23℃、湿度60%RHの部屋で1日乾燥させた。乾燥後、フィルムの重さを測定し、下式4より求められたフィルム重さの差を吸着量とした。
吸着量(mg)=浸漬後のフィルム重さ−浸漬前のフィルム重さ 式4
この吸着量は以下のように判定した。
判定○ 0mg以上、5mg以下
判定△ 5mgより高く、10mg以下
判定× 10mgより高い
【0073】
[溶断シール部の波打ち]
折り目がフィルムロールの流れ方向になるようにフィルムを半折して溶断シール機(共栄印刷機械材料(株)製、PP500型 サイドウェルダー)にセットし、溶断刃角度90度、刃先設定温度410℃、ショット数140袋/分の条件にてフィルムを溶断シールして、幅方向310mm×流れ方向220mmのサイドシール袋を作製した。
作製した袋の中から無作為に1枚を抜き取り、溶断部の波打ちを評価した。溶断後のシール部の長さを測って下式5にあてはめ、溶断によってフィルムが幅方向に収縮した割合を求めた。なお、下式5において、溶断前のフィルムの長さ(幅方向)は310mmである。
収縮率(%)={(溶断前の長さ−溶断後の長さ)/溶断前の長さ}×100 式5
この収縮率を、溶断シール部の波打ちとして、以下のように評価した。
判定○ 溶断によって収縮した割合が1%より少ない
判定△ 溶断によって収縮した割合が1%以上2%以下
判定× 溶断によって収縮した割合が2%より多い
【0074】
[高温環境下に放置した後の外観]
10cm×10cmの正方形に裁断したフィルムと、同じく10cm×10cmの正方形に裁断した他の二軸延伸ポリエステル系フィルム(東洋紡株式会社製、E5100、12μm)とを、ドライラミネーション用接着剤(三井化学社製、タケラック(登録商標)、A−950)を用いて積層した。接着剤はフィルム全面に塗布した。この積層体を、温度を80℃、湿度を65%RHに設定した恒温恒湿器(ヤマト科学社製、IG400)中に入れ、24時間放置した。24時間後、積層体を取り出し、上式2より求められた収縮率を算出した。測定は2回行い、その平均値を求めた。なお、フィルムの方向によって収縮率が異なる場合は、より収縮した方向の収縮率を採用した。
この収縮率を、高温環境下に放置した後の外観として、以下のように評価した。
判定○ 元の形状から収縮した割合が2%より少ない
判定△ 元の形状から収縮した割合が2%以上5%以下
判定× 元の形状から収縮した割合が5%より多い
【0075】
[落袋評価]
折り目がフィルムの流れ方向になるようにフィルムを半折して溶断シール機(共栄印刷機械材料(株)製、PP500型 サイドウェルダー)にセットし、溶断刃角度90度、刃先設定温度410℃、ショット数140袋/分の条件にて溶断シールして、幅方向310mm×流れ方向220mmのサイドシール袋を作製した。
【0076】
作製した袋の中から無作為に5枚を抜き取り、落袋評価を行った。水を吸わせて重量を300gに調整したキムタオル(登録商標、日本製紙クレシア製、サイズ380mm×330mm)5枚を丸めて袋に入れ、袋の口を5回回してひねり、落袋評価用サンプルを作製した。このサンプルの底面(反開口部側)を床に向けて高さ80cmの位置から5回落下させ、以下に示すように、袋が破れるまでの回数を落袋スコアとして求めた。なお、落袋スコアは5回試行後の和として算出した(最高4点×5回=20点満点)。
1回目で破袋 0点
2回目で破袋 1点
3回目で破袋 2点
4回目で破袋 3点
5回目で破袋 4点
落袋スコア10点以上を合格(○)とし、9点以下を不合格(×)とした。
【0077】
<ポリエステル原料の調製>
[合成例1]
撹拌機、温度計および部分環流式冷却器を備えたステンレススチール製オートクレーブに、ジカルボン酸成分としてジメチルテレフタレート(DMT)100モル%と、多価アルコール成分としてエチレングリコール(EG)100モル%とを、エチレングリコールがモル比でジメチルテレフタレートの2.2倍になるように仕込み、エステル交換触媒として酢酸亜鉛を0.05モル%(酸成分に対して)用いて、生成するメタノールを系外へ留去しながらエステル交換反応を行った。その後、重縮合触媒として三酸化アンチモン0.225モル%(酸成分に対して)を添加し、280℃で26.7Paの減圧条件下、重縮合反応を行い、固有粘度0.75dl/gのポリエステル(A)を得た。このポリエステル(A)は、ポリエチレンテレフタレートである。
【0078】
[合成例2]
合成例1と同様の手順でモノマーを変更したポリエステル(B)〜(E)を得た。各ポリエステルの組成を表1に示す。表1において、TPAはテレフタル酸、BDは1,4−ブタンジオール、NPGはネオペンチルグリコール、CHDMは1,4−シクロヘキサンジメタノール、DEGはジエチレングリコールである。なお、ポリエステル(E)の製造の際には、滑剤としてSiO
2(富士シリシア社製サイリシア266)をポリエステルに対して7,000ppmの割合で添加した。各ポリエステルは、適宜チップ状にした。各ポリエステルの固有粘度は、それぞれ、B:0.73dl/g、C:0.73dl/g、D:0.80dl/g、E:0.75dl/gであった。
【0079】
【表1】
【0080】
[実施例1]
ポリエステルAとポリエステルBとポリエステルDとポリエステルEを質量比25:60:10:5で混合し、二軸スクリュー押出機に投入して270℃で溶融混合させてTダイから押し出した後、表面温度30℃に設定したチルロール上で冷却することによって未延伸フィルムを得た。
【0081】
その未延伸フィルムを、横延伸ゾーン、中間ゾーン、中間熱処理ゾーンを連続的に設けたテンター(第1テンター)に導いた。なお、中間ゾーンにおいては、フィルムを通過させていない状態で短冊状の紙片を垂らしたときに、その紙片がほぼ完全に鉛直方向に垂れ下がるように、横延伸ゾーンからの熱風および中間熱処理ゾーンからの熱風が遮断されている。
第1テンターに導いた未延伸フィルムを横延伸ゾーンで82℃、3.8倍の条件で横延伸し、中間ゾーンを通過させた後に(通過時間=約1.2秒)、中間熱処理ゾーンへ導き、97℃の温度で8秒間に亘って熱処理しながら、第1テンターのクリップ幅を縮めて6%のリラックスを実施することによって横一軸延伸フィルムを得た。
【0082】
横延伸したフィルムを、低速・高速ロールを含むロール群を連続的に配置した縦延伸機へ導き、予熱ロール上でフィルム温度が90℃になるまで予備加熱した後、低速、高速ロール上で延伸倍率が2.8倍となるよう延伸した。しかる後、縦延伸したフィルムを、表面温度25℃に設定された冷却ロールによって強制的に冷却した。
【0083】
そして、冷却後のフィルムをテンター(第2テンター)へ導き、第2テンター内で140℃の雰囲気下で10秒間に亘って熱処理しながら、横方向(フィルム幅方向)に17%リラックスさせた後に冷却し、幅方向の両縁部を裁断除去することによって、厚みが約13μmのポリエステル系フィルムを得た。
得られたフィルムの製造条件と特性を表2、3に示す。
【0084】
[実施例2〜9]
原料の配合比率、樹脂の押出条件、横延伸、中間熱処理、縦延伸、最終熱処理条件を種々変更したポリエステル系フィルムを製膜し、評価した。なお、実施例2〜9での中間ゾーンの通過時間は約1.2秒とした。各実施例のフィルム製造条件と特性を表2、3に示す。
【0085】
[比較例1]
実施例1と同じ配合比率のポリエステル原料を混合し、二軸スクリュー押出機に投入して270℃で溶融混合させてTダイから押し出した後、表面温度を30℃に設定したチルロール上で冷却することによって未延伸フィルムを得た。
得られた未延伸フィルムの幅方向両縁部を裁断除去することによって、厚みが約20μmのポリエステル系フィルムを得た。
得られたフィルムの製造条件と特性を表2、3に示す。
【0086】
[比較例2]
ポリエステルCを100%とした原料を二軸スクリュー押出機に投入して270℃で溶融させてTダイから押し出した後、表面温度を30℃に設定したチルロール上で冷却することによって未延伸フィルムを得た。
【0087】
この未延伸フィルムを、横延伸ゾーン、中間ゾーン、中間熱処理ゾーンを連続的に設けたテンター(第1テンター)に導いた。なお、中間ゾーンにおいては、フィルムを通過させていない状態で短冊状の紙片を垂らしたときに、その紙片がほぼ完全に鉛直方向に垂れ下がるように、横延伸ゾーンからの熱風および中間熱処理ゾーンからの熱風が遮断されている。
そして、テンターに導いた未延伸フィルムを横延伸ゾーンで82℃、3.8倍の条件で横延伸し、中間ゾーンを通過させた後に(通過時間=約1.2秒)、中間熱処理ゾーンへ導き、83℃の温度で8秒間に亘って熱処理して横一軸延伸フィルムを得た。なお、中間熱処理では幅方向へのリラックスは実施しなかった。
【0088】
得られた横一軸延伸フィルムの両縁部を裁断除去することによって、厚みが約13μmのポリエステル系フィルムを得た。
得られたフィルムの製造条件と特性を表2、3に示す。
【0089】
[比較例3]
ポリエステルAとポリエステルEを質量比95:5で混合し、二軸スクリュー押出機に投入して270℃で溶融混合させてTダイから押し出した後、表面温度を30℃に設定したチルロール上で冷却することによって未延伸フィルムを得た。
【0090】
この未延伸フィルムを、横延伸ゾーン、中間ゾーン、中間熱処理ゾーンを連続的に設けたテンター(第1テンター)に導いた。なお、中間ゾーンにおいては、フィルムを通過させていない状態で短冊状の紙片を垂らしたときに、その紙片がほぼ完全に鉛直方向に垂れ下がるように、横延伸ゾーンからの熱風および中間熱処理ゾーンからの熱風が遮断されている。
そして、第1テンターに導いた未延伸フィルムを横延伸ゾーンで90℃、3.8倍の条件で横延伸し、中間ゾーンを通過させた後に(通過時間=約1.2秒)、中間熱処理ゾーンへ導き、97℃の温度で8秒間に亘って熱処理して横一軸延伸フィルムを得た。なお、中間熱処理では幅方向へのリラックスは実施しなかった。
【0091】
さらに、その横延伸したフィルムを、低速・高速ロールを含むロール群を連続的に配置した縦延伸機へ導き、予熱ロール上でフィルム温度が100℃になるまで予備加熱した後、低速、高速ロール上で延伸倍率が2.8倍となるよう延伸した。しかる後、縦延伸したフィルムを、表面温度25℃に設定された冷却ロールによって強制的に冷却した。
【0092】
そして、冷却後のフィルムをテンター(第2テンター)へ導き、第2テンター内で230℃の雰囲気下で10秒間に亘って熱処理(フィルム幅方向へのリラックス率は0%)した後に冷却し、両縁部を裁断除去することによって、厚みが約13μmのポリエステル系フィルムを得た。
得られたフィルムの製造条件と特性を表2、3に示す。
【0093】
[比較例4]
市販の厚み20μmの二軸延伸ポリプロピレン系フィルムを用いて上記した方法にしたがって評価した。評価結果を表3に示す。
【0094】
【表2】
【0095】
【表3】
【0096】
表3に示すように、実施例1〜9のフィルムはいずれも保香性、機械的特性、溶断シール性能等に優れていた。
これに対して、比較例1のフィルムは引張破壊強度が低く、落袋スコアは6点であった。この結果から比較例1のフィルムから形成された袋は落袋時に破袋が起こり易く、包装袋としては好ましくないものであることが分かる。
比較例2のフィルムは幅方向の温湯収縮率が高く、溶断シール部分の波打ちが大きかった。このことにより、溶断シール強度のバラツキが大きくなり、包装袋としての適性に欠けていた。また、溶断シール部の波打ちにより、袋がしっかりと封緘されなかったことに起因して、保香性が実施例1〜9よりも劣る結果となった。さらに、高温環境下に放置した後の形状が元の形状から大きく変化しており、包装袋としては好ましくないものであった。
比較例3のフィルムは溶断シールによる製袋加工が不可能であったため、溶断シール強度を測定することができなかった。比較例3のフィルムは、袋としての使用は不可能であった。
比較例4のフィルムは折りたたみ保持角度が180度と高く、折り畳んだ後もフィルムが開いてしまった。そのため、袋としたときに底部の折り目がきれいにつかず、実施例1〜9のフィルムを用いた袋に比べて外観に劣っていた。また、比較例4のフィルムを用いた袋は、保香性に劣っていた。