特許第6737350号(P6737350)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6737350
(24)【登録日】2020年7月20日
(45)【発行日】2020年8月5日
(54)【発明の名称】水素充填用システム及び水素充填方法
(51)【国際特許分類】
   F17C 5/06 20060101AFI20200728BHJP
   H01M 8/04 20160101ALI20200728BHJP
   H01M 8/04664 20160101ALI20200728BHJP
   H01M 8/0438 20160101ALI20200728BHJP
   H01M 8/0432 20160101ALI20200728BHJP
   H01M 8/04746 20160101ALI20200728BHJP
   B60L 50/70 20190101ALN20200728BHJP
【FI】
   F17C5/06
   H01M8/04 J
   H01M8/04664
   H01M8/0438
   H01M8/0432
   H01M8/04746
   !B60L50/70
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-4878(P2019-4878)
(22)【出願日】2019年1月16日
(65)【公開番号】特開2020-112242(P2020-112242A)
(43)【公開日】2020年7月27日
【審査請求日】2019年10月25日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000151346
【氏名又は名称】株式会社タツノ
(74)【代理人】
【識別番号】110000431
【氏名又は名称】特許業務法人高橋特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】名取 直明
(72)【発明者】
【氏名】吉田 雄一
【審査官】 佐藤 正宗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−008686(JP,A)
【文献】 特開2013−198294(JP,A)
【文献】 特開2017−125515(JP,A)
【文献】 特開2010−236673(JP,A)
【文献】 特開2017−206038(JP,A)
【文献】 特開2018−071669(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C 5/06
H01M 8/04
H01M 8/0432
H01M 8/0438
H01M 8/04664
H01M 8/04746
B60L 50/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素充填を制御する制御装置(CU)を有しており、当該制御装置(CU)は、
車載タンク(ST)内の圧力及び温度のデータが充填装置(1)側に伝達される車両通信が成立しているか否かを判断する機能と、
成立している場合には通信充填を選択し、成立していない場合には非通信充填を選択する機能と、
車両通信が成立したか否かの判断は通信充填を継続する限り行われ、所定間隔に亘って車載タンク(ST)内の圧力センサ(P)及び温度センサ(T)から有効なデータを受信し続けている場合には車両通信が成立したと判断し、所定間隔において車載タンク(ST)内の圧力センサ(P)及び温度センサ(T)から一時的に無効なデータが送られてきても直ちに車両通信が成立していないとは判断せず、車載タンク(ST)内の圧力センサ(P)及び温度センサ(T)から所定間隔に亘って連続して無効なデータが送られ続けた場合或いは車載タンク(ST)内の圧力センサ(P)及び温度センサ(T)からの信号が途絶えた場合に車両通信が成立していないと判断する機能と、
通信充填の際に車載タンク(ST)内の圧力或いは温度のデータに異常があるか否かを判断する機能と、
圧力或いは温度のデータに異常がある場合には通信充填を停止して、非通信充填に切り替える機能を有していることを特徴とする水素充填用システム。
【請求項2】
前記制御装置(CU)は、圧力或いは温度のデータを先行する圧力或いは温度のデータと比較して、予め定められた数値(δ1、δ2)以内の増加量であれば正常であると判断し、増加量が前記予め定められた数値(δ1、δ2)よりも大きい場合と、増加量がゼロの場合と、増加量が負の値の場合には異常であると判断する機能を有している請求項1の水素充填用システム。
【請求項3】
車載タンク(ST)内の圧力及び温度のデータが充填装置(1)側に伝達される車両通信が成立しているか否かを判断する工程と、
成立している場合には通信充填を選択し、成立していない場合には非通信充填を選択する工程を有し、
車両通信が成立したか否かを判断する工程は通信充填を継続する限り行われ、所定間隔に亘って車載タンク(ST)内の圧力センサ(P)及び温度センサ(T)から有効なデータを受信し続けている場合には車両通信が成立したと判断し、所定間隔において車載タンク(ST)内の圧力センサ(P)及び温度センサ(T)から一時的に無効なデータが送られてきても直ちに車両通信が成立していないとは判断せず、車載タンク(ST)内の圧力センサ(P)及び温度センサ(T)から所定間隔に亘って連続して無効なデータが送られ続けた場合或いは車載タンク(ST)内の圧力センサ(P)及び温度センサ(T)からの信号が途絶えた場合に車両通信が成立していないと判断し、
通信充填の際に車載タンク(ST)内の圧力或いは温度のデータに異常があるか否かを判断する工程と、
圧力或いは温度のデータに異常がある場合には通信充填を停止して、非通信充填に切り替える工程を有していることを特徴とする水素充填方法。
【請求項4】
前記異常があるか否かの工程では、圧力或いは温度のデータを先行する圧力或いは温度のデータと比較して、予め定められた数値(δ1、δ2)以内の増加量であれば正常であると判断し、増加量が前記予め定められた数値(δ1、δ2)よりも大きい場合と、増加量がゼロの場合と、増加量が負の値の場合には異常であると判断する請求項の水素充填方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素自動車(FCV)等に水素を充填する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池を搭載した車両(燃料電池自動車:FCV)の開発・普及に伴い、水素供給施設である水素ステーション(例えば、特許文献1参照)の設置個所を増加することが重要視されている。
水素ステーションには水素充填装置(ディスペンサ)が設けられており、水素ステーションに到着した車両の車載タンク内に、圧力及び温度等が所定の範囲内に保たれた状態で水素を充填する。その際に、所謂「通信充填」、車載タンク内の圧力、温度等の情報を赤外線通信により水素充填装置側に通信しつつ水素充填を行う充填方式が、行なわれる場合がある。
通信充填を行うと、車載タンク内の圧力、温度等を確認しつつ水素を充填することが出来るので、充填率を高くしても安全に水素を充填することが出来る。
【0003】
ここで、各種の原因により、通信充填を行っている場合(水素が車載タンク内に充填されている状態)に、車載タンク内の圧力、温度等を正確に水素充填装置側に伝達できなくなる場合が存在する。係る場合に通信充填を継続すると、車載タンク内の圧力、温度等が正確に把握できない状態にも拘らず(通信充填における)高い充填率で水素充填がされてしまう、という不都合が生じる。
しかし、従来は、この様な不都合に対処する技術は提案されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−166635号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、通信充填を行っている場合に、車載タンク内の圧力、温度を正確に水素充填装置側に伝達できなくなった場合に、通信充填における高い充填率で水素充填がされてしまう不都合に対処することが出来る水素充填用システム及び水素充填方法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の水素充填用システム(100)は、水素充填を制御する制御装置(CU1、CU2、CU3:包括的に符号CUで示す場合がある)を有しており、当該制御装置(CU)は、
車載タンク(ST)内の圧力及び温度のデータが充填装置(1:ディスペンサ)側に伝達される車両通信が成立しているか否かを判断する機能と、
成立している場合には通信充填を選択し、成立していない場合には非通信充填を選択する機能と、
車両通信が成立したか否かの判断は通信充填を継続する限り行われ、所定間隔(例えば500msec)に亘って車載タンク(ST)内の圧力センサ(P)及び温度センサ(T)から有効なデータを受信し続けている場合には車両通信が成立したと判断し、所定間隔(例えば500msec)において車載タンク(ST)内の圧力センサ(P)及び温度センサ(T)から一時的に無効なデータが送られてきても直ちに車両通信が成立していないとは判断せず、車載タンク(ST)内の圧力センサ(P)及び温度センサ(T)から所定間隔(例えば500msec)に亘って連続して無効なデータが送られ続けた場合或いは車載タンク(ST)内の圧力センサ(P)及び温度センサ(T)からの信号が途絶えた場合に車両通信が成立していないと判断する機能と、
通信充填の際に車載タンク(ST)内の圧力或いは温度のデータに異常があるか否かを判断する機能と、
圧力或いは温度のデータに異常がある場合には通信充填を停止して、非通信充填に切り替える機能を有していることを特徴としている。
【0007】
本発明において、前記制御装置(CU)は、圧力或いは温度のデータを先行する(以前の制御サイクルにおける)圧力或いは温度のデータと比較して、予め定められた数値(正の値δ1、δ2)以内の増加量であれば正常であると判断し、増加量が前記予め定められた数値(正の値δ1、δ2)よりも大きい場合(急激に上昇した場合)と、増加量がゼロの場合(圧力或いは温度が変動しない場合)と、増加量が負の値の場合(圧力或いは温度が減少した場合)には異常であると判断する機能を有していることが好ましい。
【0009】
本発明の水素充填方法は、
車載タンク(ST)内の圧力及び温度のデータが充填装置(1:ディスペンサ)側に伝達される車両通信が成立しているか否かを判断する工程と、
成立している場合には通信充填を選択し、成立していない場合には非通信充填を選択する工程を有し、
車両通信が成立したか否かを判断する工程は通信充填を継続する限り行われ、所定間隔(例えば500msec)に亘って車載タンク(ST)内の圧力センサ(P)及び温度センサ(T)から有効なデータを受信し続けている場合には車両通信が成立したと判断し、所定間隔(例えば500msec)において車載タンク(ST)内の圧力センサ(P)及び温度センサ(T)から一時的に無効なデータが送られてきても直ちに車両通信が成立していないとは判断せず、車載タンク(ST)内の圧力センサ(P)及び温度センサ(T)から所定間隔(例えば500msec)に亘って連続して無効なデータが送られ続けた場合或いは車載タンク(ST)内の圧力センサ(P)及び温度センサ(T)からの信号が途絶えた場合に車両通信が成立していないと判断し、
通信充填の際に車載タンク(ST)内の圧力或いは温度のデータに異常があるか否かを判断する工程と、
圧力或いは温度のデータに異常がある場合には通信充填を停止して、非通信充填に切り替える工程を有していることを特徴としている。
【0010】
本発明の方法において、前記異常があるか否かの工程では、圧力或いは温度のデータを先行する(以前の制御サイクルにおける)圧力或いは温度のデータと比較して、予め定められた数値(正の値δ1、δ2)以内の増加量であれば正常であると判断し、増加量が前記予め定められた数値(正の値δ1、δ2)よりも大きい場合(急激に上昇した場合)と、増加量がゼロの場合(圧力或いは温度が変動しない場合)と、増加量が負の値の場合(圧力或いは温度が減少した場合)には異常であると判断するのが好ましい。
【0012】
ここで、通信充填に際しては、車載タンク(ST)内の圧力及び温度の情報は、赤外線通信により水素充填装置(1)側に伝達される。しかし、赤外線通信に限定される訳ではなく、例えば、電子料金収受システム(ETC)で使用される帯域の電波を用いて、車載タンク(ST)内の圧力、温度を水素充填装置(1)側に伝達することも可能である。
また、燃料電池自動車(FCV)は乗用車に限定されるものではない。「燃料電池自動車」或いは「FCV」なる文言は、本明細書においては、乗用車のみならず、トラック、バス、フォークリフト、二輪車等も包含する文言として使用されている。換言すれば、本明細書における燃料電池自動車(FCV)は、燃料電池を搭載し人間を載せて移動することが出来る機械全般を意味する文言である。
【発明の効果】
【0013】
上述の構成を具備する本発明によれば、通信充填の際に、車載タンク(ST)内の圧力或いは温度の測定値に異常が存在した場合には、通信充填から非通信充填に切り替えている。車載タンク(ST)内の圧力或いは温度の測定値に異常が存在する場合には、車載タンク内の圧力、温度を正確に水素充填装置側に伝達できなくなった状態であると判断することが出来る。
そして、非通信充填の場合には充填率が通信充填の場合よりも低く設定されているので、非通信充填に切り替えることにより低い充填率で水素充填が行われることとなり、水素充填が安全側で行われ、車載タンク(ST)の限界まで水素が充填される(いわゆる「満タン」の状態になる)ことがない。
換言すると、本発明によれば、通信充填を行っている場合に車載タンク(ST)内の圧力、温度が正確に水素充填装置(1)側に伝達されない恐れが生じた場合に、車載タンク(ST)側に余裕がある(安全サイドの)非通信充填に切り替わり、その様な場合でも安全に水素充填がされる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1実施形態に係る水素充填システムの説明図である。
図2】第1実施形態に係るシステムの制御装置の機能ブロック図である。
図3図2における異常判定ブロックの機能ブロック図である。
図4】第1実施形態において、充填前に充填方式を決定する制御を示すフローチャートである。
図5】第1実施形態において、充填中に充填方式を決定する制御を示すフローチャートである。
図6】本発明の第2実施形態を示す説明図である。
図7】本発明の第3実施形態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
最初に、図1図5を参照して、本発明の第1実施形態を説明する。
図1において、全体を符号100で示す水素充填用システム100は、水素充填装置1と水素充填を制御する制御装置CU1を有しており、制御装置CU1は水素充填装置1内に設けられている。
水素充填装置1には充填ホース2が接続され、充填ホース2先端には充填ノズル3が設けられている。充填ノズル3は、水素を充填するべき車両S(例えば、燃料電池自動車FCV)の燃料タンクST(車載タンク)側のレセプタクルSRと接続及び取り外し可能に構成されている。
また、水素充填装置1は、車両Sの燃料タンクSTの情報(圧力の情報、温度の情報等)を伝達する信号伝達系統4を有している。信号伝達系統4は、水素充填装置1と充填ノズル3に設けられた光通信用受信器3Aを接続している。
上述した様に、燃料電池自動車(FCV)は乗用車に限定されるものではない。「燃料電池自動車」或いは「FCV」なる文言は、本明細書においては、乗用車のみならず、トラック、バス、フォークリフト、二輪車等も対象として使用される。
【0016】
水素充填時には、水素充填装置1から、充填ホース2、充填ノズル3、車両側レセプタクルSRを介して、車両Sの車載タンクSTに水素が充填される。
通信充填の場合には、水素充填の際に、車載タンクST内の情報(温度、圧力等)が圧力センサP、温度センサT等で検出され、車両側レセプタクルSRに内蔵された車両側の図示しない光通信用送信器から充填ノズル3に内蔵された光通信用受信器3A、信号伝達系統4を介して、水素充填装置1に設置された制御装置CU1に伝達される。
制御装置CU1は、信号伝達系統4を介して伝達された車載タンクST内の情報(温度、圧力等)に基づいて、水素充填装置1から車載タンクST内への通信充填を制御している。ただし、上述した車載タンクSTから水素充填装置1への情報伝達は、赤外線通信に限定される訳ではなく、例えば、電子料金収受システム(ETC)使用される帯域の電波による無線通信により伝達することも可能である。
ここで、水素充填装置1(水素充填用システム100)においては、通信充填を行うことが出来るが、非通信充填も行うことが出来る。
【0017】
制御装置CU1は、車載タンクST内の情報(温度、圧力等)に加えて、車両S側から送信される通信の適正さを検出する検査コードを取得して、車両Sへの車両通信が成立しているか否かを判断する機能を有している。それに加えて、通信充填を行っている場合に、通信充填を継続するか、或いは、通信充填を停止して非通信充填に切り替えるかを判断する機能をも有している。
車載タンクST内の情報(温度、圧力等)が水素充填装置1に伝達されない非通信充填の場合には、通信充填の場合に比較して、車載タンクST内の水素に充填率を低く設定している。非通信充填の場合には、水素を充填している車両S側の車載タンクST内の状態(圧力、温度等)が分からない状態で水素充填するため、通信充填に比較して危険性があり、危険が無い方向で(いわゆる「安全サイド」で)水素充填が行われるからである。それに関連して、非通信充填の場合には、いわゆる「満タン」(車載タンクST内に許容限界の高圧まで水素を充填した状態)にはしない。
第1実施形態の制御装置CU1については、図2図5を参照して説明する。
【0018】
制御装置CU1の機能ブロックを示す図2において、制御装置CU1は、通信充填成立判定ブロック1A、異常判定ブロック1B、及び充填方式決定ブロック1Cを有している。
通信充填成立判定ブロック1Aは、水素充填を開始する以前に、車両Sの車載タンクST(図1参照)内の圧力センサP、温度センサT等から制御サイクル毎の圧力データ、温度データ等を、信号ラインSL1を介して取得すると共に、信号ラインSL2を介して車両の検査コード発信部Kから検査コードを取得する。
通信充填成立判定ブロック1Aは、取得した検査コード、圧力データ、温度データ等に基づき、車両S側(車載タンクST内)の圧力及び温度等のデータを水素充填装置1(ディスペンサ)側に伝達する通信(車両通信)が成立しているか否かを判断する機能を有している。ここで、車両通信が成立していることは、通信充填の前提である。
【0019】
通信充填成立判定ブロック1Aによる判断結果(車両通信が成立、或いは不成立)は、信号ラインSL3を介して充填方式決定ブロック1Cに送信されると共に、信号ラインSL4を介して異常判定ブロック1Bに送信される。
なお、車両S側(の検査コード発信部K)から所定間隔で発信される検査コードを用いて、車両側から発信する圧力、温度等のデータが有効であるか否かをチェックすることにより、車両通信の製立(或いは、通信自体の健全性)を判断することは、従来から行われている。
【0020】
車両通信が成立したか否かの判断においては、所定間隔(例えば500msec)に亘って車両S側(車載タンクST内の圧力センサP、温度センサT)から有効なデータを受信し続けている場合に「車両通信が成立した」と判断している。
言い換えれば、所定間隔(例えば500msec)において、車両S側(車載タンクST内の圧力センサP、温度センサT)から一時的に無効なデータが送られてきても、直ちに「車両通信が成立していない」とは判断しない。
一方、車両S側から所定間隔(例えば500msec)に亘って連続して無効なデータが送られ続けた場合、或いは、車両S側からの信号が途絶えた場合には、「車両通信が成立していない」と判断する。
【0021】
異常判定ブロック1Bは、通信充填中に、信号ラインSL5を介して車載タンクST内の圧力センサP、温度センサT等から圧力データ、温度データ等を取得すると共に、通信充填成立判定ブロック1Aから、信号ラインSL4を介して判断結果(車両通信が成立或いは不成立)を取得する機能を有している。さらに、取得された圧力データ、温度データ等に異常があるか否かを判断する機能を有している。異常判定ブロック1Bにおける異常判定の基準、作業手順については、図3図5を参照して詳述する。
異常判定ブロック1Bの判断結果(取得した圧力データ、温度データ等に異常があるか否か)は、信号ラインSL6を介して、充填方式決定ブロック1Cに送信される。
【0022】
充填方式決定ブロック1Cは、信号ラインSL3を介して通信充填成立判定ブロック1Aの判断結果(車両通信が成立或いは不成立の判断)を取得し、通信充填とするか或いは非通信充填とするかを決定する機能を有している。充填方式決定ブロック1Cは、充填開始前に車両通信が成立していれば通信充填を選択し、車両通信が成立していなければ非通信充填を選択する。
また、充填方式決定ブロック1Cは、信号ラインSL6を介して異常判定ブロック1Bの判断結果(通信充填中に、圧力データ、温度データ等に異常があるか否かの判断)を取得する機能を有している。そして、充填方式として通信充填を継続するか、或いは通信充填を停止し非通信充填に切り替えるかを決定する機能を有している。通信充填の際に圧力データ、温度データ等に異常がなければ充填方式決定ブロック1Cは通信充填を継続する旨の判断をし、圧力データ、温度データ等に異常があれば通信充填を停止し非通信充填に切り替える旨の判断をする。
【0023】
充填方式決定ブロック1Cの決定結果は、信号ラインSL7を介して水素充填装置1の充填方式切換手段5に送信される。
充填方式切換手段5は、充填方式決定ブロック1Cの決定結果に基づいて充填方式を選択する。そして、通信充填或いは非通信充填を継続し、または、通信充填を停止して非通信充填に切り替える。ここで、通信充填と非通信充填とを切り換える操作は、ソフトウェア上の処理により行うことが出来る。
【0024】
図2における異常判定ブロック1Bにおける各種機能ブロックを詳細に示す図3において、異常判定ブロック1Bは、分岐ブロック1D、遅延ブロック1E、比較ブロック1F及び判定ブロック1Gを有している。
分岐ブロック1Dは、車載タンクST内の圧力センサP、温度センサT等から、通信充填中における制御サイクル毎の圧力データ、温度データ等を、信号ラインSL5を介して取得し、取得した当該制御サイクル毎の圧力データ、温度データ等を、信号ラインSL9を介して比較ブロック1Fに送信する機能を有している。さらに、当該制御サイクル毎の圧力データ、温度データ等を、信号ラインSL10を介して遅延ブロック1Eに送信する機能を有している。
【0025】
遅延ブロック1Eは、分岐ブロック1Dから取得した制御サイクル毎の圧力データ、温度データ等を、1制御サイクル分だけ遅延させ、信号ラインSL11を介して遅延させた圧力データ、温度データを比較ブロック1Fに送信する機能を有している。
ここで、遅延ブロック1Eから比較ブロック1Fに送信される圧力データ、温度データ等の内、分岐ブロック1Dから比較ブロック1F及び遅延ブロック1Eに送信される圧力データ、温度データを符号P(n)、T(n)で示す。そして、遅延ブロック1Eにより圧力データP(n)、温度データT(n)に対して1制御サイクル分だけ遅延した圧力データ、温度データをそれぞれP(n−1)、T(n−1)で示す。
例えば、分岐ブロック1Dから比較ブロック1F及び遅延ブロック1Eに送信されるデータがP(n)、T(n)であり、遅延ブロック1Eから比較ブロック1Fに送信されるデータであって、データP(n)、T(n)よりも1制御サイクル前のデータがP(n−1)、T(n−1)である。
【0026】
比較ブロック1Fは、分岐ブロック1Dから取得した圧力データP(n)、温度データT(n)と、遅延ブロック1Eから取得した圧力データP(n−1)、温度データT(n−1)をそれぞれ比較し、その差分ΔP、ΔTを演算する機能を有している。ここで、ΔP、ΔTはそれぞれ次式で示される。
ΔP=P(n)−P(n−1)、ΔT=T(n)−T(n−1)
比較ブロック1Fによる比較結果(差分ΔP、ΔT)は、信号ラインSL12を介して判定ブロック1Gに送信される。
【0027】
判定ブロック1Gは、比較ブロック1Fから取得した比較結果(差分ΔP、ΔT)に基づき、通信充填時の車載タンクST内の圧力或いは温度のデータに異常があるか否かを判断する機能を有している。
当該判断に際して、判定ブロック1Gは圧力及び温度のデータが穏やかに増加する状態を正常と判断する。具体的には、圧力及び温度のデータP(n)、T(n)が、先行する(1制御サイクル以前における)圧力及び温度のデータP(n−1)、T(n−1)と比較して、予め定められた所定値δ1、δ2(δ1、δ2は正)以内の増加量であれば正常であると判断する。
判定ブロック1Gが正常と判断する状態を次式で示す。
0<ΔP=P(n)−P(n−1)≦δ1 且つ
0<ΔT=T(n)−T(n−1)≦δ2
【0028】
一方、圧力或いは温度のデータP(n)、T(n)が、1制御サイクル以前における圧力或いは温度のデータP(n−1)、T(n−1)と比較して、増加量ΔP、ΔTが所定値δ1、δ2よりも大きい場合(急激に上昇した場合)と、増加量がゼロの場合(圧力或いは温度が変動しない場合)と、増加量が負の値の場合(圧力或いは温度が減少した場合)には異常であると判断する。
判定ブロック1Gが異常と判断する状態は、次式
ΔP=P(n)−P(n−1)>δ1、或いは ΔP=P(n)−P(n−1)≦0
ΔT=T(n)−T(n−1)>δ2、或いは ΔT=T(n)−T(n−1)≦0
で示される。
【0029】
判定ブロック1Gの判断結果(圧力或いは温度のデータ等に異常があるか否か)は、信号ラインSL6を介して充填方式決定ブロック1C(図2参照)に送信される。
判定ブロック1Gにおける「圧力、温度等に異常があるか否か」の判断は、車両通信成立の判断における所定間隔(例えば500msec)とは異なる所定間隔で判断される。例えば、車両通信成立の判断における所定間隔における所定間隔(例えば500msec)より長い間隔に亘って圧力、温度等が異常であれば、「異常」と判断する。ここで制御サイクルが100msecであれば、例えば5回連続して圧力、温度等が異常であった場合に「異常」と判断する。ただし、5回(或いは500msec)と言うのは単なる例示であり、当該回数が5回以外であっても(当該所定間隔が500msec以外であっても)良い。
【0030】
次に、第1実施形態において、水素充填の初期における制御について、主として図4を参照して説明する。
図4において、ステップS1では、水素充填装置1の充填ノズル3(図1)を車両S(燃料電池自動車FCV)の車載タンクST側のレセプタクルSR(図1)に接続する。そしてステップS2で、水素充填装置1から車載タンクSTへの充填を開始する旨の制御信号を発信する。これにより、水素が車載タンク内に充填されている状態になる。
係る制御信号を受けて、通信充填成立判定ブロック1Aでは、車両S側(車載タンクST)と水素充填装置1側の車両通信が成立しているか否かを判断する(ステップS3)。
ステップS3において、車両通信が成立している場合は(ステップS3が「Yes」)ステップS4に進み、車両通信が成立していない場合は(ステップS3が「No」)ステップS6に進む。
【0031】
ステップS4(車両通信が成立)では、充填方式決定ブロック1Cは通信充填を行う旨の決定をする。そして車載タンクSTの容量のデータを車両S側から取得すると共に、車載タンクST内の圧力データ、温度データ等を取得して、ステップS5の通信充填を行う。
一方、ステップS6(車両通信が不成立)では、充填方式決定ブロック1Cは非通信充填を行う旨の決定をする。そして、水素充填開始時から非通信充填を実行する。
【0032】
次に主として図5を参照して、第1実施形態において通信充填中に異常を検出した場合に非充填通信に切り替える制御について説明する。
図5のステップS11で、車両S側(車載タンクST)と水素充填装置1側の車両通信が成立しているか否かを判断する。
ステップS11の判断も、図2を参照して上述した通り、通信充填成立判定ブロック1Aにより実行され、所定間隔(例えば500msec)以内に車両S側(車載タンクST内の圧力センサP、温度センサT等)から有効なデータを受信し続けている場合に車両通信が成立していると判断する。
ステップS11において、車両通信が成立している場合は(ステップS11が「Yes」)ステップS12に進み、車両通信が成立していない場合は(ステップS11が「No」)ステップS13に進む。
【0033】
ステップS12(車両通信が成立)では、充填方式決定ブロック1Cは通信充填を選択し、車載タンクST内の圧力データ、温度データ等を引き続き取得して、通信充填を継続する。そしてステップS14に進む。
一方、ステップS13(車両通信が不成立)では、充填方式決定ブロック1Cは非通信充填を選択し、通信充填を停止して非通信充填に切り替えられる。そして非通信充填により水素充填を続行する。
【0034】
ステップS14(通信充填を継続)では、車載タンクST内の圧力センサPから取得した圧力データが、圧力のしきい値(例えば87.5MPa)より低圧か否かを判断し、且つ、温度センサTから取得した温度データが、温度のしきい値(例えば85℃)より低温か否かを判断する。
タンクST内が安全な状態であるための圧力のしきい値(例えば87.5MPa)と温度のしきい値(例えば85℃)は、我国の水素充填の基準に基づいて定められる。なお、当該圧力、温度がそれぞれの安全しきい値より小さいか否かの判断は従来公知の技術を適用することが出来るため、図2図3の機能ブロック図では省略している。
ステップS14の判断の結果、車載タンクST内の圧力が圧力のしきい値より低圧であり、且つ、車載タンクST内の温度が温度のしきい値よりも低温である場合は(ステップS14が「Yes」)ステップS16に進む。一方、車載タンクST内の圧力が圧力のしきい値以上であるか、或いは、温度が温度のしきい値以上の場合は(ステップS14が「No」)ステップS15に進む。
ステップS15(車載タンクST内の圧力が圧力のしきい値以上であるか、或いは、温度が温度のしきい値以上の場合)は、安全性な水素充填が行われていないと判断して、水素充填を停止する。
【0035】
ステップS16(車載タンクST内の圧力が圧力のしきい値より低圧であり、且つ、車載タンクST内の温度が温度のしきい値よりも低温である場合)では、通信充填時の車載タンクST内の圧力或いは温度のデータに異常があるか否かを判断する。
当該判断は、図2図3を参照して詳述した通り、制御装置CU1の異常判定ブロック1Bにより実行され、圧力及び温度のデータが穏やかに増加する状態を正常(異常がない)と判断している。
上述した通り、P(n)、T(n)を当該制御サイクルにおける圧力データ、温度データとして、P(n−1)、T(n−1)を1制御サイクル以前における圧力データ、温度データとして、δ1、δ2は正の所定値とすれば、圧力及び温度のデータに異常がない場合は、次式の通りとなる。
0<ΔP=P(n)−P(n−1)≦δ1 且つ
0<ΔT=T(n)−T(n−1)≦δ2
上記数式に該当しない場合は、異常判定ブロック1Bにより「異常」と判断される。
ステップS16の判断の結果、車載タンクST内の圧力或いは温度等のデータに異常がない場合(ステップS16が「Yes」)はステップS17に進み、車載タンクST内の圧力或いは温度等のデータに異常がある場合(ステップS16が「No」)はステップS13に進む。
【0036】
ステップS17(車載タンクST内の圧力或いは温度等のデータに異常がない場合)では通信充填を継続する。そして、ステップS11に戻る。
一方、ステップS13(車載タンクST内の圧力或いは温度等のデータに異常がある場合)では通信充填を停止して非通信充填に切り替え、非通信充填によって水素充填を行う。
【0037】
図1図5に示す第1実施形態の水素充填用システム100によれば、通信充填の際に、車載タンクST内の圧力或いは温度等のデータが急激に増加した場合、或いは増加量がゼロ或いは負の値の場合には異常があると判断し、通信充填から非通信充填に切り替えている。そして、非通信充填の場合には充填率が通信充填の場合よりも低く設定されているので、水素充填が安全な態様で行われることになる。そして、車載タンクSTの限界まで水素が充填される(いわゆる「満タン」の状態になる)ことはない。
そのため、通信充填を行っている場合に、車載タンクST内の圧力、温度等を正確に水素充填装置1側に伝達できない事態が生じたとしても、車載タンクST側に余裕がある(安全である)非通信充填による水素充填に切り替わるので、安全に水素が充填される。
また、通信充填を始める以前に、車載タンクST内の圧力及び温度等のデータが水素充填装置1側に伝達する車両通信が成立していない場合は、通信充填を回避して、非通信充填を選択することが出来る。
【0038】
次に図6を参照して、本発明の第2実施形態について説明する。
図6に示す水素充填用システム100−1においては、制御装置CU2を、個々の水素充填装置1ではなく、後方設備10に設けている。ここで、「後方設備」は、本明細書では、いわゆる「POS」をも含む文言である。そして後方設備は、例えば給油所の事務所内に設置される。
図6において、複数の水素充填装置1(ディスペンサ)を有する給油所の事務所内に後方設備10が配置され、後方設備10内に制御装置CU2が設けられている。
後方設備10の制御装置CU2は、複数(図6の例では3台)の水素充填装置1、1−1、1−2と双方向通信可能な信号伝達系統11、11−1、11−2(例えば光通信経路)を介して接続されており、各水素充填装置1、1−1、1−2はそれぞれ充填される車両S、S−1、S−2(の車載タンクST、ST−1、ST−2)と充填ホース、充填ノズルを介して接続可能である。
【0039】
後方設備10の制御装置CU2は、第1実施形態の制御装置CU1と同様の機能を有しており、車両S、S−1、S−2(の車載タンクST、ST−1、ST−2)の圧力、温度、その他の情報は、水素充填装置1側の信号伝達系統4、4−1、4−2、水素充填装置1、1−1、1−2、後方設備10側の信号伝達系統11、11−1、11−2を介して、後方設備10の制御装置CU2に送信される。それと共に、制御装置CU2からの制御信号が各水素充填装置1、1−1、1−2に送信される。以って各水素充填装置1、1−1、1−2から車両S、S−1、S−2に対して通信充填を行うことが出来る。
図6の第2実施形態におけるその他の構成、作用効果は、図1図5の第1実施形態と同様である。
【0040】
図7で示す第3実施形態の水素充填用システム100−2においては、複数(例えば3施設)の水素充填施設(給油所)の後方設備10、10−1、10−2が、それぞれ、インターネットその他の情報通信網12、12−1、12−2を介して、クラウドコンピュータCU3と、双方向で通信可能に接続されている。そして、クラウドコンピュータCU3が第1及び第2実施形態における制御装置CU1、CU2と同様な機能を具備している。
クラウドコンピュータCU3と接続された各水素充填施設の後方設備10、10−1、10−2は、それぞれ複数或いは単独の水素充填装置と信号伝達系統11、11−1、11−2を介して双方向で通信可能に接続されている。そして、各水素充填装置1、1−1、1−2は図示しない充填される車両(の車載タンク)と接続可能である。図7では、各水素充填施設の後方設備10、10−1、10−2は、それぞれ1台の水素充填装置1、1−1、1−2を有している。
【0041】
クラウドコンピュータCU3は、各水素充填施設の水素充填装置1、1−1、1−2に接続された図示しない車両(の車載タンク)の圧力、温度、その他の情報は、水素充填装置1、1−1、1−2、後方設備10、10−1、10−2を介してクラウドコンピュータCU3に送信されると共に、クラウドコンピュータCU3からの制御信号が後方設備10、10−1、10−2を介して各水素充填装置1、1−1、1−2に送信される。以って各水素充填装置1、1−1、1−2から車両に対して通信充填を行うことが出来る。
なお、図7では図示されていないが、クラウドコンピュータCU3は後方設備10、10−1、10−2のみならず、水素充填装置1、1−1、1−2と双方向に接続することも可能である。
図7の第3実施形態におけるその他の構成、作用効果は、図1図5の第1実施形態、図6の第2実施形態と同様である。
【0042】
図示の実施形態はあくまでも例示であり、本発明の技術的範囲を限定する趣旨の記述ではないことを付記する。
【符号の説明】
【0043】
1・・・水素充填装置
100、100−1、100−2・・・水素充填用システム
CU1、CU2、CU3・・・制御装置(クラウドコンピュータ)
S・・・車両(FCV:燃料電池自動車)
ST・・・車載タンク
δ1、δ2・・・予め定められた数値(正の値)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7