(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6737462
(24)【登録日】2020年7月20日
(45)【発行日】2020年8月12日
(54)【発明の名称】覆工コンクリート類の充填検知方法及びコンクリート類の充填検知センサ
(51)【国際特許分類】
E21D 11/10 20060101AFI20200730BHJP
E04G 21/02 20060101ALI20200730BHJP
G01F 23/14 20060101ALI20200730BHJP
G01F 23/22 20060101ALI20200730BHJP
H01L 41/113 20060101ALI20200730BHJP
H01L 41/193 20060101ALI20200730BHJP
H01L 41/18 20060101ALI20200730BHJP
【FI】
E21D11/10 Z
E04G21/02 103Z
G01F23/14
G01F23/22 H
H01L41/113
H01L41/193
H01L41/18
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-108525(P2016-108525)
(22)【出願日】2016年5月31日
(65)【公開番号】特開2017-214747(P2017-214747A)
(43)【公開日】2017年12月7日
【審査請求日】2019年5月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】509294922
【氏名又は名称】ムネカタインダストリアルマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104927
【弁理士】
【氏名又は名称】和泉 久志
(72)【発明者】
【氏名】山田 勉
(72)【発明者】
【氏名】中林 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】二宮 伸二
(72)【発明者】
【氏名】海野 雄士
(72)【発明者】
【氏名】桑田 拓弥
(72)【発明者】
【氏名】金澤 彰裕
【審査官】
富士 春奈
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−184934(JP,A)
【文献】
特開平06−050917(JP,A)
【文献】
特開2015−132526(JP,A)
【文献】
特開2007−003443(JP,A)
【文献】
特開2014−074297(JP,A)
【文献】
特開2014−111898(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2017/0254202(US,A1)
【文献】
特開2000−230393(JP,A)
【文献】
特開平06−229968(JP,A)
【文献】
特開平06−229959(JP,A)
【文献】
特開平01−012231(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D11/00−19/06、23/00−23/26
G01F23/14
G01F23/22
H01L27/20、41/00−41/47
E04G21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
山岳トンネルの構築に当たって、トンネル方向に1スパン毎、地山側壁面との間に距離を空けて周方向に沿って型枠を設置し、地山側壁面と型枠との間の空間内に覆工コンクリート又はモルタルを打設する際、前記覆工コンクリート又はモルタルの充填状況を検知する方法であって、
前記地山側壁面の天端に、トンネル長手方向に沿って、可撓性を有するとともに、センサ部分がトンネル長手方向に沿って複数に分割して列設されているシート状のコンクリート充填検知センサを前記地山側壁面に沿わせて設置し、
前記シート状のコンクリート充填検知センサとして、可撓性を有する圧電フィルム型センサを用いるか、可撓性の樹脂シートを基材とした静電容量式センサを用いるか、可撓性の樹脂シートを基材とした抵抗変化式センサを用いており、覆工コンクリート又はモルタルの打込み後に行われる締固めの際、バイブレータからの振動を検知することによりトンネル長手方向の各箇所での締固め状況を把握可能としたことを特徴とする覆工コンクリート類の充填検知方法。
【請求項2】
前記シート状のコンクリート充填検知センサは、前記1スパンの全長に亘って配設されている請求項1記載の覆工コンクリート類の充填検知方法。
【請求項3】
前記シート状のコンクリート充填検知センサは、トンネルの縦断勾配の高い側から低い側に向かって1スパン長の少なくとも1/3以上の長さ範囲に亘って配設されている請求項1記載の覆工コンクリート類の充填検知方法。
【請求項4】
山岳トンネルの構築に当たって、トンネル方向に1スパン毎、地山側壁面との間に距離を空けて周方向に沿って型枠を設置し、地山側壁面と型枠との間の空間内に覆工コンクリート又はモルタルを打設する際、前記覆工コンクリート又はモルタルの充填状況を検知するセンサであって、
平面視で長手辺と短手辺とを有する形状を成し、可撓性を有するシート状に形成されるとともに、センサ部分が前記長手辺方向に沿って複数に分割して列設され、
前記シート状のコンクリート充填検知センサとして、可撓性を有する圧電フィルム型センサを用いるか、可撓性の樹脂シートを基材とした静電容量式センサを用いるか、可撓性の樹脂シートを基材とした抵抗変化式センサを用いており、覆工コンクリート又はモルタルの打込み後に行われる締固めの際、バイブレータからの振動を検知することによりトンネル長手方向の各箇所での締固め状況を把握可能としたことを特徴とするコンクリート充填検知センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、山岳トンネルの構築に当たって、覆工コンクリート又はモルタルの充填状況を確実に検知できるようにした覆工コンクリート類の充填検知方法及びコンクリート充填検知センサに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、NATM工法に代表される山岳トンネル工事では、発破などによる掘進後、掘削されたトンネル内壁面に吹付けによって吹付けコンクリートを施工し、ロックボルトを打ち込んだ後、セントル(覆工コンクリート用移動型枠)をトンネル方向に順次移動させながら、トンネル方向に1スパン毎、前記吹付けコンクリートの内周面に沿って防水シートを張設した状態(この面が地山側壁面となる。)で、この地山側壁面との間に距離を空けて周方向に沿って前記セントルの型枠を設置し、地山側壁面と型枠との間の空間内に覆工用コンクリートを打設している。
【0003】
前記覆工コンクリートの打設に当たっては、地山側壁面と型枠との間の空間内に覆工用コンクリートが密実に充填できたかどうかの管理のためにトンネルの天端部位にコンクリートの充填状況を確認するためのセンサを配置するようにしている。
【0004】
前記コンクリート充填検知センサとしては、従来より種々のものが開発されている。例えば、下記特許文献1には、間隔を保持して対向した第1電極と第2電極とからなる対電極を、コンクリートの打ち上がり方向に複数個配置した集合電極と、前記各対電極の前記第1電極と前記第2電極の間に電圧を印加して該第1電極と該第2電極の間のインピーダンスを測定し、該インピーダンスの測定結果に応じて該第1電極と該第2電極の間にコンクリートが存在するか否かを判別するコンクリート有無判別手段と、該コンクリート有無判別手段により前記第1電極と前記第2電極の間にコンクリートが存在すると判別された前記対電極の個数と、前記対電極の配置間隔とを用いて、コンクリートの打ち上がり高さを算出する高さ算出手段とを備えたコンクリートレベルセンサが開示されている。
【0005】
また、下記特許文献2には、交流電圧が印加される少なくとも二つの棒状電極と、当該棒状電極を略平行に支持する支持部とを備えたセメント組成物センサが開示されている。
【0006】
更に、下記特許文献3には、 電気エネルギを機械エネルギに変換するセンサ素子(圧電素子)を有する検出手段と、所定の範囲で周波数が時間的に変化する正弦波の電気信号を繰り返し発生させて加振用信号を生成する加振用信号生成手段と、前記検出手段に前記加振用信号が印加されたときの該検出手段の周波数特性を反映した受信信号を出力する周波数特性反映信号出力手段と、前記周波数特性反映信号出力手段からの受信信号と前記加振用信号生成手段からの加振用信号とを乗算する乗算手段とを具備し、前記検出手段は、並列接続された固有振動数の異なる複数のセンサ素子を有する充填物検知装置が開示されている。
【0007】
前記特許文献1,2に係るセンサは、電極間の抵抗を測定することによりコンクリートの充填を検出するものであり、前記特許文献3に係るセンサは、圧電素子が充填物と接触することにより出力周波数の特性が変化することによってコンクリートの充填を検出するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−146673号公報
【特許文献2】特開平9−228639号公報
【特許文献3】特開2003−194615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1〜3記載のセンサは、いずれも小片状のセンサであり、設置点におけるコンクリート充填具合を検出するものである。
【0010】
山岳トンネルの場合は、掘削方法が発破工法であっても、自由断面掘削機,トンネルボーリングマシンなどの用いた機械掘削であっても、掘削した壁面にはかなりの凹凸(不陸)が生じている状態となっている。
【0011】
しかしながら、前記特許文献1〜3に係る小片状のセンサは、トンネル天端位置であってトンネル長手方向に間隔を空けて2〜3箇所配置されるだけであり、ポイントでの計測となることから、トンネル天端部全体への充填を確認することが難しかった。仮に前記小片状のセンサが地山側壁面の凹凸の内、内空側への凸部分に設置された場合は、センサがコンクリートと接触したため充填検知の信号を出力したとしても、窪んだ凹部への充填が確認されないままであり、窪んだ部分にコンクリートが充填されない場合には、この充填されない部分が空洞になって覆工コンクリートの強度が低下するという危険性があった。
【0012】
また、前記特許文献1,2に係るセンサのように、電極間の抵抗を計測して電極間にコンクリートが存在するか否かを判別するセンサでは、偶然に電極間にコンクリートが付着した場合には全体に充填されていなくても、コンクリートが存在していると認識されることがあるとともに、コンクリートから分離したブリーディング水との接触を誤ってコンクリート充填完了と判断してしまうおそれもあった。
【0013】
そこで本発明の主たる課題は、覆工コンクリートの充填状況を確実に把握できるようにした覆工コンクリート類の充填検知方法及びこれに好適に使用されるコンクリート充填検知センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、山岳トンネルの構築に当たって、トンネル方向に1スパン毎、地山側壁面との間に距離を空けて周方向に沿って型枠を設置し、地山側壁面と型枠との間の空間内に覆工コンクリート又はモルタルを打設する際、前記覆工コンクリート又はモルタルの充填状況を検知する方法であって、
前記地山側壁面の天端に、トンネル長手方向に沿って、可撓性を有するとともに、センサ部分がトンネル長手方向に沿って複数に分割して列設されているシート状のコンクリート充填検知センサを前記地山側壁面に沿わせて設置
し、
前記シート状のコンクリート充填検知センサとして、可撓性を有する圧電フィルム型センサを用いるか、可撓性の樹脂シートを基材とした静電容量式センサを用いるか、可撓性の樹脂シートを基材とした抵抗変化式センサを用いており、覆工コンクリート又はモルタルの打込み後に行われる締固めの際、バイブレータからの振動を検知することによりトンネル長手方向の各箇所での締固め状況を把握可能としたことを特徴とする覆工コンクリート類の充填検知方法が提供される。
【0015】
上記請求項1記載の発明では、地山側壁面(打設時における地山側の周方向壁面をいう。)の天端に、トンネル長手方向に沿って、可撓性を有するとともに、センサ部分がトンネル長手方向に沿って複数に分割して列設されているシート状のコンクリート充填検知センサを前記地山側壁面に沿わせて設置するようにしている。なお、前記地山側壁面において、防水シートの張設の有無は問わない。
【0016】
従って、覆工コンクリート類(覆工コンクリート、モルタル等)を打設した際、前記シート状のコンクリート充填検知センサによってスパン長手方向に沿った方向において前記センサを配設した区間の打設状況が線又は面的に確実に把握できるようになる。また、地山側壁面に凹凸(不陸)が存在している場合でも、シート状のコンクリート充填検知センサは地山側壁面の凹凸に沿わせて設置されることになるため、地山側壁面に凹凸があってもその配設区間に亘ってコンクリート充填状況が把握でき、窪んだ凹部への充填も確実に把握できるようになる。
【0017】
なお、センサ部分がトンネル長手方向に沿って複数に分割して列設されていることにより、各センサ部分毎に充填の有無が把握できるのに対して、仮にセンサ部分を連続的に形成した場合はある1箇所がコンクリートと接触するだけで検知してしまい、残りの箇所での充填状況が分からなくなるため、センサ部分はトンネル長手方向に沿って複数に分割して列設されていることが必要である。
【0018】
また、本発明の検知対象として覆工コンクリートの他にモルタルを含めたのは、近年、実用化されている「背面平滑型トンネルライニング工法」では、覆工コンクリートを打設する前の段階で、地山側壁面と防水シートを張設した型枠との間の空間内にモルタルを打設して、地山側壁面を平滑にした上で、覆工コンクリートを打設する手順で施工が行われるが、地山側壁面の平滑化のための前記モルタル打設に際しても本発明の充填検知方法を好適に適用し得ると考えられるためである。
【0019】
前記シート状のコンクリート充填検知センサの一実施形態例として、可撓性を有する圧電フィルム型センサを用いている。このシート状センサによれば、コンクリート充填による圧力や振動を受けると、圧電フィルムが電圧を出力するため、これを検出することによりコンクリートの充填の有無を把握することができる。この圧電フィルムは、近年の技術革新により、柔軟性や加工性等に優れ、かつ大面積化・薄膜化が可能となっている。また、本センサは、加えられた圧力や振動を経時的に計測することができるため、偶然にコンクリートが付着した場合やコンクリートから分離したブリーディング水との接触等による誤判定を無くすことが可能となる。
【0020】
前記シート状のコンクリート充填検知センサの一実施形態例として、可撓性の樹脂シートを基材とし、その上面に薄膜電極層、誘電体層、薄膜電極層が順に積層されたシート状のセンサを用いている。このシート状センサによれば、常時電圧を掛けた状態にしておき、コンクリート充填による圧力や振動を受けると、前記誘電体層に蓄えられる静電容量に変化が起こるため、これを検出することによりコンクリートの充填の有無を把握することができる。また、本センサも、加えられた圧力や振動を経時的に計測することができるため、偶然にコンクリートが付着した場合やコンクリートから分離したブリーディング水との接触等による誤判定を無くすことが可能となる。
【0021】
前記シート状のコンクリート充填検知センサの一実施形態例として、可撓性の樹脂シートを基材とし、その上面に薄膜電極層、半導体層、薄膜電極層が順に積層されたシート状のセンサを用いている。このシート状センサによれば、常時電圧を掛けた状態にしておき、コンクリート充填による圧力や振動を受けると、通電量に変化が起こるため、これを検出することによりコンクリートの充填の有無を把握することができる。また、本センサも、加えられた圧力や振動を経時的に計測することができるため、偶然にコンクリートが付着した場合やコンクリートから分離したブリーディング水との接触等による誤判定を無くすことが可能となる。
【0022】
前記請求項
1記載の発明では、本発明に係るシート状のコンクリート充填検知センサを使い、覆工コンクリート又はモルタルの打込み後に行われる締固めの際、バイブレータからの振動を検知することによりトンネル長手方向の各箇所での締固め状況も併せて把握するようにするものである。
【0023】
請求項2に係る本発明として、前記シート状のコンクリート充填検知センサは、前記1スパンの全長に亘って配設されている請求項1記載の覆工コンクリート類の充填検知方法が提供される。
【0024】
上記請求項2記載の発明は、前記シート状のコンクリート充填検知センサの配設態様の第1形態を示したものである。具体的には、前記シート状のコンクリート充填検知センサは、前記1スパンの全長に亘って配設するようにする。この場合は、トンネル方向の打設区間全長(1スパンの全長)に亘りコンクリートの打設状況が線又は面的に把握できるようになる。
【0025】
請求項3に係る本発明として、前記シート状のコンクリート充填検知センサは、トンネルの縦断勾配の高い側から低い側に向かって1スパン長の少なくとも1/3以上の長さ範囲に亘って配設されている請求項1記載の覆工コンクリート類の充填検知方法が提供される。
【0026】
上記請求項3記載の発明は、前記シート状のコンクリート充填検知センサの配設態様の第2形態を示したものである。この第2形態は、コスト削減のために、シート状のコンクリート充填検知センサを1スパンの全長に亘って配設しなくても確実にコンクリートの充填を把握できるようにしたものである。具体的には、トンネルの縦断勾配の高い側から低い側に向かって1スパン長の少なくとも1/3以上、好ましくは1/2以上の長さ範囲に亘って配設するようにする。通常、道路トンネルには排水のために2%以下の範囲で縦断勾配が設けられており、縦断勾配の高い側から低い側に向かって所定区間長に亘ってシート状のコンクリート充填検知センサを配設するようにすれば、コンクリートの充填の有無を確実に把握できるようになる。
【0027】
請求項
4に係る本発明として、
山岳トンネルの構築に当たって、トンネル方向に1スパン毎、地山側壁面との間に距離を空けて周方向に沿って型枠を設置し、地山側壁面と型枠との間の空間内に覆工コンクリート又はモルタルを打設する際、前記覆工コンクリート又はモルタルの充填状況を検知するセンサであって、
平面視で長手辺と短手辺とを有する形状を成し、可撓性を有するシート状に形成されるとともに、センサ部分が前記長手辺方向に沿って複数に分割して列設され
、
前記シート状のコンクリート充填検知センサとして、可撓性を有する圧電フィルム型センサを用いるか、可撓性の樹脂シートを基材とした静電容量式センサを用いるか、可撓性の樹脂シートを基材とした抵抗変化式センサを用いており、覆工コンクリート又はモルタルの打込み後に行われる締固めの際、バイブレータからの振動を検知することによりトンネル長手方向の各箇所での締固め状況を把握可能としたことを特徴とするコンクリート充填検知センサが提供される。
【0028】
上記請求項
4記載の発明は、コンクリート充填検知センサの構成自体について規定したものである。このコンクリート充填検知センサは、前記請求項1〜
3いずれかに記載の覆工コンクリート類の充填検知方法に好適に適用されるが、トンネルの覆工コンクリート以外にも、中空部を有するコンクリート構造体、例えばホロースラブ、中空箱桁、橋梁下部工、カルバートボックスなどの施工又は製作にあたり、前記中空部の下面部分に本コンクリート充填検知センサを配設することにより該部分のコンクリート充填状況を把握することが可能である。
【発明の効果】
【0029】
以上詳説のとおり本発明によれば、覆工コンクリート類の充填状況を確実に把握できるようになる。従って、コンクリートの充填検知精度の向上により覆工コンクリート類の品質向上に資することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】山岳トンネルにおける覆工コンクリートの打設要領を示す一部破断斜視図である。
【
図3】シート状のコンクリート充填検知センサ10の配設状態を示す天端部の拡大縦断方向断面図である。
【
図4】シート状のコンクリート充填検知センサ10を示す全体斜視図である。
【
図5】その横断面図(
図4のV−V線矢視図)である。
【
図8】シート状のコンクリート充填検知センサ10の製造方法を示す断面図である。
【
図9】他例に係るシート状のコンクリート充填検知センサ10の配設状態を示す天端部の拡大縦断方向断面図である。
【
図10】変形例に係るシート状のコンクリート充填検知センサ10を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0032】
本発明に係る覆工コンクリートの充填検知方法は、
図1〜
図3に示されるように、山岳トンネルTの構築に当たって、トンネル方向に1スパン毎、発破などによる掘進後、掘削されたトンネル内壁面に吹付けによって吹付けコンクリート1を施工し、ロックボルトを打ち込んだ後、その表面に防水シート2を貼設し、地山側壁面T1との間に距離を空けて周方向に沿ってセントル3(覆工コンクリート用移動型枠)の型枠5を設置し、地山側壁面T1とセントル3の型枠5との間の空間内に覆工コンクリート4を打設する際、この覆工コンクリート4の充填状況を検知するものである。なお、図示例の吹付けコンクリートは、鋼アーチ部材を支保工として併用した構造となっている。
前記セントル3は、トンネル施工用重機の後方に設置され、
図1及び
図2に示されるように、トンネルTの地山側壁面T1との間に所定幅の空間を形成するように配設される型枠5と、この型枠5を支持する支持フレーム6と、この支持フレーム6が走行可能でトンネルTの下面に敷設される走行レール7とから主に構成される。
前記型枠5は、トンネルTの地山側壁面T1に沿って設けられ、その外面は平滑に形成されるとともに、コンクリートとの剥離性に優れる材質で構成されている。また、前記型枠5は、トンネルTの周方向に対して複数個のパーツに分割して設けられ、各パーツが連結して構成されている。さらに、
図3に示されるように、前記型枠部材5上部の坑口側近傍には、コンクリートを打設するためのコンクリート打設口8が設けられている。
前記型枠5は、
図1及び
図2に示されるように、前記支持フレーム6に、油圧シリンダ6Aなどの連結部材を介して、トンネルTの断面に対して左右方向及び上下方向に移動自在に取り付けられている。
前記支持フレーム6は、略門型の鉄骨材などからなる門型フレーム6Bと、前記型枠5が取り付けられる前記油圧シリンダ6Aなどの連結部材とから構成されている。
前記走行レール7は、前記門型フレーム6Bを走行可能に支持し、トンネルTの下面に長手方向に沿って2条敷設されている。
【0033】
本発明に係る覆工コンクリートの充填検知方法では、前記地山側壁面T1の天端に、トンネルTの長手方向に沿って、可撓性を有するとともに、センサ部分15、15…がトンネル長手方向に沿って複数に分割して列設されているシート状のコンクリート充填検知センサ10が前記地山側壁面T1に沿わせて設置されている。
【0034】
前記シート状のコンクリート充填検知センサ10を設置することにより、覆工コンクリート4を打設した際、前記シート状のセンサ10によってスパン長手方向に沿った方向であってセンサ10を配設した区間の打設状況が線又は面的に確実に把握できるようになる。また、シート状のコンクリート充填検知センサ10は、地山側壁面T1の凹凸に合わせて設置されることになるため、地山側壁面T1に凹凸があってもその配設区間に亘ってコンクリート充填状況が把握でき、窪んだ凹部への充填も確実に把握できるようになる。
【0035】
前記コンクリート充填検知センサ10は、
図4に示されるように、平面視で長手辺と短手辺とを有する略長方形状を成し、可撓性を有するシート状に形成されるとともに、センサ部分15、15…が前記長手辺方向に沿って複数に分割して列設されている。
図4に示される実施形態例では、センサ部分15、15…は、長手辺方向に沿って複数に分割して列設されるとともに、短手辺方向に沿って複数に、図示例では3列に分割して列設されている。これにより、地山側壁面T1のトンネル長手方向に対する凹凸存在領域に加えて、所定幅(短手辺長さ)の範囲でトンネル周方向に対する凹凸存在領域においても、コンクリート充填状況がより確実に把握できるようになる。
【0036】
前記シート状のコンクリート充填検知センサ10は、
図1〜
図3に示されるように、前記防水シート2を貼設した後の地山側壁面T1の天端に対し、コンクリート充填検知センサ10の長手辺方向がトンネルTの長手方向にほぼ一致する向きに配置されるとともに、前記防水シート2にほぼ隙間なく密着するように、接着剤や両面テープなどの接合手段によって接合され、トンネルTの地山側壁面T1の凹凸に追従するように配置されている。
【0037】
図3に示される実施形態例では、前記シート状のコンクリート充填検知センサ10は、セントル3によって覆工コンクリート4を打設する1スパンの全長に亘って配設されている。すなわち、
図3に示されるように、シート状のコンクリート充填検知センサ10の長手寸法がセントル3の1スパンの長さLとほぼ同等の長さで形成されている。一般的なセントルの場合、1スパンの長さLは10.5mであるから、シート状のコンクリート充填検知センサ10は、長手寸法を10.5m以上とするのが好ましい。1スパンの全長に亘って前記センサ10を配設することによって、トンネル方向の打設区間の全長(1スパンの全長)に亘ってコンクリートの打設状況が線又は面的に把握できるようになる。
【0038】
図5に示されるように、前記シート状センサ10の厚みtは、1mm以下、特に0.3〜1mm程度とするのが好ましい。また、前記シート状センサ10の幅Bは、5〜30cmとするのがよい。
【0039】
前記シート状のコンクリート充填検知センサ10としては、
図4及び
図5に示されるように、可撓性を有する圧電フィルム型センサを用いることができる。この圧電フィルム型センサは、可撓性の樹脂シートからなる基材11に、上部電極12と下部電極13との間に圧電性膜14を備えた多数のセンサ部分15が配置されるとともに、その表面を樹脂材などからなる被覆材16でコーティングしたものであり、前記圧電性膜14の圧電効果によって圧力や振動などの力学的エネルギーを電気エネルギーに変換して、圧電性膜14に発生した電荷を上部電極12と下部電極13によって検知するものである。各センサ部分15には、前記上部電極12及び下部電極13に接続するリード線17が設けられている。本センサは、加えられた圧力や振動を経時的に計測することができるため、偶然にコンクリートが付着した場合やコンクリートから分離したブリーディング水との接触等による誤判定を無くすことが可能となる。
【0040】
前記基材11を構成する素材としては、高温でコーティングしたときの高耐熱性を有するとともに、トンネルTの地山側壁面T1の凹凸に追従可能な柔軟性及び高弾性率を有する熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂を用いるのが好ましい。
【0041】
前記圧電性膜14を構成する圧電性物質としては、有機系のポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化ビニリデン(VDF)と3フッ化エチレン(TrFE)の共重合体(P(VDF−TrFE))が好ましく、且つこのフッ素系圧電性物質に対して、ポリアミド(PA)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET,PETE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリ乳酸(PLA)、ポリプロピレン(PP)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリウレタン(PU)、ポリスチレン(PS)、ポリエステル、ABS樹脂(ABS)、アクリル樹脂(PMMA)、ポリアセタール樹脂(POM)など相溶する物質同士をブレンドしたものを用いても構わない。
【0042】
また、圧電性物質として、前記有機系の圧電性物質に無機系のチタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム又はチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の粒子を複合して用いても構わない。
【0043】
前記圧電性膜14を加工するには公知の方法を利用することができる。例えば、スプレーコーティング、ペースト塗布、シルク印刷、パット印刷法、スパッタ法、蒸着法等を用いることができる。特に、特開2013-701号公報に開示されるスプレーコーティング技術を用いることにより、電圧の検知感度が向上でき、複雑形状にも対応可能で、且つ大面積化が可能となるなどの効果を有するので好ましい。本公報に開示されるスプレーコーティング技術の概略を説明すると、
図8に示されるように、被コーティング物(下部電極13)上に圧電性膜を形成するための電界コーティング及び電界分極において、a.被コーティング物をプラス極(アース状態)に保ち、前記被コーティング物のコーティング面に対向させたコーティング噴霧機30先端の電極針にマイナス1kV〜90kVの高電圧を印加して被コーティング物とコーティング噴霧機30との間に電界31を形成する、b.次に、前記コーティング噴霧機30先端の不活性気体噴出ノズルから不活性気体を被コーティング物に向けて噴射し、同時にコーティング噴霧機30先端であって、中心に前記電極針を位置させた誘電性溶液噴出ノズルより誘電性物質を溶媒に溶解した溶液(誘電性溶液)を被コーティング物に向けて噴射し、この誘電性溶液の液滴にマイナスの電荷を与え、前記コーティング噴霧機30を移動しながら被コーティング物上に前駆分極膜を形成する、c.次に、電界コーティングを一旦停止し、被コーティング物に向けていたコーティング噴霧機30を被コーティング物より外側に移動し、前記コーティング噴霧機30の誘電性溶液噴出ノズルから不活性気体を吐出することにより、誘電性溶液噴出ノズル内に残留する誘電性溶液を全て排出する、d.次に、前記コーティング噴霧機30を元の位置に戻し、被コーティング物とコーティング噴霧機30の間に再度電界31を形成し、前駆分極膜をさらに分極させて(電界分極)被コーティング物上に圧電性膜を形成する、という手順で行われるものである。
【0044】
また、前記スプレーコーティング技術によれば、対象を選ばず圧電性膜14を形成することができるため、覆工コンクリートを打設する際に、地山側壁面T1に張設される防水シート2に対して直接的に、コンクリート充填検知センサ10を設けることも可能となる。
【0045】
前記電極12、13は、導電性の高い銀、銅、カーボン粉末材料をはじめとする導電性高分子溶液または金属ペーストを用いて形成したものである。
【0046】
各センサ部分15から延びる前記リード線17は、詳細には
図6に示されるように、1箇所に纏められ、1本の平ケーブルとして外部に延びている。従来のように小片状のセンサを複数設置した場合には、各センサまで延びるケーブルが多数配置されることとなり、設置が煩雑になるばかりでなく、センサからの信号と位置との整合が困難となるなどの欠点があった。これに対して、本コンクリート充填検知センサ10では、センサ10から1本の平ケーブルが延びており、この平ケーブルの先端に設けられたコネクターに解析装置からのケーブルを接続することによって、各センサ部分15で得られた信号を簡単に解析装置(コンピューター等)に電送することが可能となり、設置作業が簡単にできるとともに、センサからの信号とコンクリート充填検知位置との整合が簡単にとれるようになる。
【0047】
各センサ部分15及びリード線17は、前記被覆材16のコーティングによって、前記基材11に固定されている。
【0048】
各センサ部分15では、
図7に示されるように、覆工コンクリート4が充填されることによる外部からの圧力やコンクリート締固め時の振動に伴い、圧電性膜14に歪みが生じ、圧電性膜14の圧電効果によって上部電極12と下部電極13の各々に固定されたリード線17を介して電荷が得られるようになっている。本シート状センサ10は、覆工コンクリートに埋め殺しされるものであるため、覆工コンクリートの打込み後に行われる締固めの際、バイブレータからの振動を検知することによりトンネル長手方向の各箇所での締固め状況も併せて把握することが可能となる。
【0049】
前記シート状のコンクリート充填検知センサ10の配設態様の他の形態例として、
図9に示されるように、トンネルの縦断勾配の高い側から低い側に向かって1スパン長(L)の少なくとも1/3以上、好ましくは1/2以上の長さ範囲(L
1)に亘って配設することとしてもよい。道路トンネルには排水のために2%以下の範囲で縦断勾配が設けられており、縦断勾配の高い側から低い側に向かって所定区間長に亘ってシート状センサ10を配設するようにすれば、コンクリートの充填の有無を確実に把握できるようになる。
【0050】
前記シート状のコンクリート充填検知センサ10は、センサ部分15がトンネル長手方向(センサ10の長手辺方向)に沿って複数に分割して列設されていることは必須な条件であるが、
図10に示されるように、トンネル周方向(センサ10の短手辺方向)に分割されない、1列に配置されたものでもよい。
図10ではセンサ部分15がほぼ正方形状に形成されているが、センサ10の短手辺方向に長い長方形状に形成してもよい。
【0051】
前記シート状のコンクリート充填検知センサ10の他の形態として、可撓性の樹脂シートを基材とし、その上面に薄膜電極層、誘電体層、薄膜電極層が順に積層された静電容量式センサを用いることができる。このセンサの場合は、前記圧電型センサよりもコストを削減することが可能である。この静電容量式センサの測定原理は、常時電圧を掛けた状態にしておき、コンクリート充填による圧力や振動を受けると、前記誘電体層に蓄えられる静電容量に変化が起こるため、これを検出することによりコンクリートの充填の有無を把握することができるというものである。また、本センサでも、加えられた圧力や振動を経時的に計測することができるため、偶然にコンクリートが付着した場合やコンクリートから分離したブリーディング水との接触等による誤判定を無くすことが可能である。
【0052】
また、前記シート状のコンクリート充填検知センサ10の更に他の形態として、可撓性の樹脂シートを基材とし、その上面に薄膜電極層、半導体層、薄膜電極層が順に積層された抵抗変化式センサを用いることも可能である。このセンサの場合も、前記圧電型センサよりもコストを削減することが可能である。この抵抗変化式センサの測定原理は、常時電圧を掛けた状態にしておき、コンクリート充填による圧力や振動を受けると、前記半導体層の通電量に変化が起こるため、これを検出することによりコンクリートの充填の有無を把握することができるというものである。また、本センサでも、加えられた圧力や振動を経時的に計測することができるため、偶然にコンクリートが付着した場合やコンクリートから分離したブリーディング水との接触等による誤判定を無くすことが可能である。
【符号の説明】
【0053】
1…吹付けコンクリート、2…防水シート、3…セントル、4…覆工コンクリート、5…型枠部材、6…支持フレーム、7…走行レール、10…シート状のコンクリート充填検知センサ、11…基材、12…上部電極、13…下部電極、14…圧電性膜、15…センサ部分、16…被膜材、17…リード線、T…トンネル、T1…地山側壁面