(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6737498
(24)【登録日】2020年7月20日
(45)【発行日】2020年8月12日
(54)【発明の名称】グラビア塗工装置
(51)【国際特許分類】
B05C 1/08 20060101AFI20200730BHJP
【FI】
B05C1/08
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-116897(P2016-116897)
(22)【出願日】2016年6月13日
(65)【公開番号】特開2017-221865(P2017-221865A)
(43)【公開日】2017年12月21日
【審査請求日】2019年4月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000237260
【氏名又は名称】富士機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松永 真一
(72)【発明者】
【氏名】三浦 秀宣
【審査官】
清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−044135(JP,A)
【文献】
特開2002−186888(JP,A)
【文献】
特開2009−028719(JP,A)
【文献】
実開昭54−096211(JP,U)
【文献】
特開2000−033304(JP,A)
【文献】
米国特許第04548840(US,A)
【文献】
特開2002−116897(JP,A)
【文献】
フレキソタイムス編集委員会,アニロックスロールへの期待 アニロックスロールはどのように変わって行くのか,不明,2016年 5月 2日,p.1−10,URL,http://jpflexo.com/topic/topic1004.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C 1/00−3/20
B05D 1/00−7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続搬送されるウェブに対して反対方向に回転しながら、外周面に付着した塗工液を上記ウェブに転写する版胴と、
上記版胴の外周面に付着した余分な塗工液を、上記版胴の回転動作により掻き取って除去するドクターブレードと、
を備えたグラビア塗工装置であって、
上記版胴の外周面には、
回転方向に対して傾斜した方向に延び、且つ、等間隔に配置されている多数の第1斜線溝部と、
上記第1斜線溝部と交差した状態で、回転方向に対して傾斜した方向に延び、且つ、等間隔に配置されている多数の第2斜線溝部と、
多数の上記第1斜線溝部と、多数の上記第2斜線溝部との間に形成された先端が尖鋭な多数の突起部と、
が備えられ、
上記ドクターブレードの厚みt1が、
上記第1斜線溝部または上記第2斜線溝部を介して隣り合う2つの突起部の先端の間の間隔における上記版胴の回転方向成分の間隔をD1とし、上記ドクターブレードの先端が接触している上記版胴の外周面とその先端との間の角度をθとしたとき、t1≧D1×sinθとなるよう設定されていて、
上記ドクターブレードが塗工液を掻き取る際、上記突起部の先端に上記ドクターブレードが点当たりすることを特徴とするグラビア塗工装置。
【請求項2】
請求項1に記載のグラビア塗工装置において、
上記ドクターブレードの先端が、上記版胴の回転方向の逆方向から鋭角な姿勢で上記版胴の外周面に接触していることを特徴とするグラビア塗工装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のグラビア塗工装置において、
上記第1斜線溝部および上記第2斜線溝部の交差部位を介して上記版胴の回転方向に隣り合う2つの上記突起部のうち、回転方向の上流側に位置する突起部に対して、回転方向の下流側に位置する突起部が、上記版胴の回転方向に対して上記版胴の一方の端側に、所定の角度で、位置がずれるように配置されており、
前記所定の角度が、1度以下の範囲に設定されていることを特徴とするグラビア塗工装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載のグラビア塗工装置において、
上記版胴の外周面の全領域の面積に対する、上記第1斜線溝部及び上記第2斜線溝部の各々による開口部分の全合計面積の比率が、少なくとも90%以上になっていることを特徴とするグラビア塗工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続搬送されるウェブに塗工液を塗工するグラビア塗工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、グラビア塗工装置を用いてウェブ表面に塗工層を形成する場合、外周面に斜線溝部が形成された版胴を使用することが一般的に知られている。上記斜線溝部は、上記版胴の回転軸心の一端側に行くにつれて回転方向に傾斜して螺旋状に延びる形状をなしており、外周面に塗工液が供給された状態で版胴をウェブの搬送方向の反対向きに回転させ、且つ、ドクターブレードで版胴外周面に付着する余分な塗工液を掻き取りながら上記ウェブに接触させ、上記斜線溝部に満たされた塗工液によって上記ウェブと上記版胴外周面との間に跨がるビードと呼ばれる液溜まり部を形成しながら当該液溜まり部の塗工液を上記ウェブに転写するよう構成されている。
【0003】
ところで、近年では、ウェブ表面に塗工層を形成する際、塗工層の厚みをできるだけ薄く、しかも、均一にすることを求められる場合がある。
【0004】
しかし、上述の如き斜線溝部が外周面に形成された版胴で塗工を行うと、版胴の回転動作による斜線溝部の移動によって液溜まり部に溜まる塗工液が回転軸心の一端側に向けて次第に移動する。したがって、液溜まり部に溜まる塗工液の液面が回転軸心の他端側よりも一端側の方が高くなってしまうので、ウェブ表面に形成される塗工層の厚みが不均一になり、塗工層の厚みを薄く、しかも、均一に形成し難いという問題があった。
【0005】
この問題に対応するために、版胴外周面に形成する斜線溝部を版胴の回転軸心の一端側に行くにつれて回転方向に傾斜して延びる斜線溝部だけでなく、版胴の回転軸心の他端側に行くにつれて回転方向に傾斜して延びる斜線溝部も形成して液溜まり部に溜まる塗工液の液面が回転軸心に沿って均一になるようにすることが考えられる。
【0006】
例えば、特許文献1に開示されているグラビア塗工装置の版胴の外周面には、
図8に概略拡大図として示すように、版胴の回転軸心の一端側に行くにつれて回転方向に傾斜して延びる多数の第1斜線溝部12aと、版胴の回転軸心の他端側に行くにつれて回転方向に傾斜して延びる多数の第2斜線溝部12bとが形成され、各第1斜線溝部12aと各第2斜線溝部12bとは、それぞれ回転軸心に沿って等間隔に並設されている。そして、隣り合う2つの第1斜線溝部12aと隣り合う2つの第2斜線溝部12bとの間に囲まれた部分には、幅広な平坦面12dを先端に有する多数の突起部12cが形成され、ウェブ表面に塗工層を形成する際、ドクターブレードは、各突起部12cの平坦面に付着する塗工液を掻き取るようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2015−44135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1における各第1斜線溝部12aと各第2斜線溝部12bとは、回転軸心に沿う方向に対称な形状をなしていて、版胴外周面における各突起部12cの配置は、回転方向に沿って規則正しく真っ直ぐに並ぶ多数の突起部12cからなる環状突起群12Aが回転軸心に沿って等間隔に規則正しく多数並ぶものとなっている。したがって、上
記液溜まり部の各環状突起群12Aに対応する部分は、上記液溜まり部の各環状突起群に対応しない部分12Bに比べて各突起部12cの平坦面12dの分だけ溜まる塗工液の量が減ってしまい、液溜まり部に溜まる塗工液の液面が回転軸心に沿って波状になるので、ウェブ表面に形成された塗工層の表面にウェブの搬送方向に延びる筋状の模様が形成されてしまい、その模様がはっきりと見えるものになると塗工不良と判定されてしまうおそれがある。
【0009】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、厚みが薄く、しかも、均一な塗工層を形成できるグラビア塗工装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明は、版胴外周面に形成される各突起部の形状に工夫を凝らしたことを特徴とする。
【0011】
具体的には、連続搬送されるウェブに対して反対方向に回転しながら
、外周面に付着
した塗工液を上記ウェブに転写する版胴と、
上記版胴の外周面
に付着
した余分な塗工液を
、上記版胴の回転動作により掻き取って除去するドクターブレードと
、を備えたグラビア塗工装置を対象とし、次のような解決手段を講じた。
【0012】
すなわち、
上記版胴の外周面には、
回転方向に
対して傾斜
した方向に延び、且つ、
等間隔に配置されている多数の第1斜線溝部と、
上記第1斜線溝部と交差した状態で、回転方向に
対して傾斜
した方向に延び、且つ、
等間隔に配置されている多数の第2斜線溝部と、
多数の上記第1斜線溝部と
、多数の上記第2斜線溝部との間
に形成された
先端が尖鋭な多数の突起部と
、が備えられている。
【0013】
そして、上記ドクターブレードの厚みt1
が、上記第1斜線溝部または上記第2斜線溝部を介して隣り合う2つの突起部の先端の間の間隔における上記版胴の回転方向成分の間隔をD1とし、上記ドクターブレードの先端が接触している上記版胴の外周面とその先端との間の角度をθとしたとき、t1≧D1×sinθとなるよう設定
されていて、上記ドクターブレードが塗工液を掻き取る際、上記突起部の先端に上記ドクターブレードが点当たりすることを特徴とする。
【0014】
上記ドクターブレードの先端が、上記版胴の回転方向の逆方向から鋭角な姿勢で上記版胴の外周面に接触している
、としてもよい。
【0015】
上記第1斜線溝部および上記第2斜線溝部の交差部位を介して上記版胴の回転方向に隣り合う2つの
上記突起部のうち
、回転方向の上流側に位置する突起部に対して、回転方向の下流側に位置する突起部が、上記版胴の回転方向に対して上記版胴の一方の端側に、所定の角度で、位置がずれるように配置されており、前記所定の角度が、1度以下の範囲に設定されている、としてもよい。
【0016】
上記版胴の外周面の全領域の面積に対する
、上
記第1斜線溝部及び上
記第2斜線溝部の
各々による開口部分の全合計面積の比率が
、少なくとも90%以上
になっている
のがこのましい。
【発明の効果】
【0017】
ドクターブレードによって掻き取られる各突起部に付着する塗工液の量が少なくなるので、回転軸心に沿う方向において液溜まり部に溜まる塗工液の量の偏る部分と偏らない部分との差が僅かになる。したがって、液溜まり部に溜まる塗工液の液面が回転軸心に沿って略均一になり、ウェブ表面に形成する塗工層を厚みが薄くて均一なものにすることができる。
【0018】
ドクターブレードが版胴外周面に付着する余分な塗工液を掻き取る際、ドクターブレードの先端部分が第1及び第2斜線溝部に嵌まらなくなる。したがって、ドクターブレードの先端部分が第1及び第2斜線溝部に繰り返し嵌まることによりドクターブレードに振動が発生してしまい、当該振動によって塗工時における異音の発生が大きくなってしまうといったことを防ぐことができるとともに、振動によるドクターブレード先端の摩耗の進度が速くなるのを防いでメンテナンス回数を減らすことができる。
【0019】
ドクターブレードの先端が、版胴の回転方向の逆方向から鋭角な姿勢で版胴の外周面に接触すれば、版胴外周面に付着する余分な塗工液を掻き取るために必要なドクターブレードの版胴外周面に対する接触圧を下げることができるので、ドクターブレード先端の摩耗の進度を遅くしてメンテナンス回数を減らすことができる。
【0020】
第1斜線溝部および第2斜線溝部の交差部位を介して版胴の回転方向に隣り合う2つの突起部が、所定の角度で、版胴の回転方向に対して一方の端側に位置がずれるように配置すれば、各突起部が特許文献1のように回転方向に沿って規則正しく真っ直ぐに並ばなくなるので、版胴外周面の回転軸心に沿う方向における各突起部の偏る部分と偏らない部分とがなくなる。したがって、ドクターブレードが版胴外周面に付着する余分な塗工液を掻き取る際、ドクターブレードの先端部分に接触する各突起部が回転軸心に沿う方向において周期的に分散するようになり、ドクターブレード先端に発生する摩耗が偏ってしまうのを防ぐことができる。
【0021】
第1斜線溝部及び第2斜線溝部の各々による開口比率が少なくとも90%以上になっていれば、版胴外周面におけるドクターブレードに接触する部分が極僅かになるので、例えば、せん断凝集する特性を有する塗工液を用いた塗工であっても、ドクターブレード先端と各突起部との間において凝集する塗工液の量を減らすことができ、凝集した塗工液がドクターブレード先端に付着することにより発生する塗工層の欠陥を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施形態に係るグラビア塗工装置を側面から見た概略図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るグラビア塗工装置の平面図である。
【
図7】本発明の実施形態に係るグラビア塗工装置を用いて各パラメータを変更しながら塗工して形成された塗工層の外観の判定結果を示す図である。
【
図8】特許文献1の版胴外周面の一部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎない。
【0024】
図1及び
図2は、本発明の実施形態に係るグラビア塗工装置1を示す。該グラビア塗工装置1は、所謂キスリバース方式と呼ばれる塗工を行うものであり、複数のガイドロール11(
図1には2つのみ示す)にガイドされて上方向(
図1の搬送方向Z1)に連続搬送されるウェブW1の表面に塗工液10を転写して上記ウェブW1の表面に塗工層を形成するものである。
【0025】
上記グラビア塗工装置1は、回転軸心C1周りに回転可能な版胴2を備え、該版胴2は、上記ウェブW1に対して反対方向に回転しながら当該ウェブW1の表面に接触している。
【0026】
上記版胴2の外周面には、
図3に示すように、回転軸心C1の一端側に行くにつれて回転方向X1に傾斜して延びる多数の第1斜線溝部2aと、回転軸心C1の他端側に行くにつれて回転方向X1に傾斜して延びる多数の第2斜線溝部2bとを備えている。
【0027】
上記各第1斜線溝部2a及び上記各第2斜線溝部2bは、それぞれ上記回転軸心C1に沿って等間隔に並設され、塗工を行う際に塗工液10が満たされるようになっている。
【0028】
隣り合う2つの第1斜線溝部2aと隣り合う2つの第2斜線溝部2bとの間に囲まれた部分には、突起部2cが形成されている。
【0029】
該突起部2cは、
図4乃至
図6に示すように、先端が尖鋭な円錐状をなし、上記版胴2の外周面の全域に亘って多数設けられている。
【0030】
上記版胴2の回転方向X1に隣り合う2つの突起部2cのうちの回転方向上流側の突起部2cに対する回転方向下流側の突起部2cは、上記版胴2の回転方向X1に対して回転軸心C1の一端側に角度が1°だけずれるよう設定されている。
【0031】
尚、
図3の各突起部2c間の回転方向X1に対する傾きは、便宜上、誇張して記載している。
【0032】
そして、上記版胴2の外周面の全領域の面積に対する上記各第1斜線溝部2a及び上記各第2斜線溝部2bの開口部分の全合計面積の比率(以下、この比率を開口率と呼ぶ)が90%となるよう設定されている。
【0033】
上記版胴2の径方向一側方には、
図1及び
図2に示すように、当該版胴2の回転軸心C1に沿って延びる塗工チャンバー3が設けられている。
【0034】
該塗工チャンバー3は、上記版胴2側に開口する断面略U字状のチャンバー本体3aを備え、該チャンバー本体3aの内方は、上記塗工液10を溜める液溜部3bとなっている。
【0035】
上記チャンバー本体3aの液溜部3bを形成する内面中央には、上記版胴2側に膨出する断面台形状をなす膨出部3cが形成されている。
【0036】
上記チャンバー本体3aの長手方向中央下部には、上記液溜部3bに塗工液10を流入させる断面略S字状の流入孔3dが形成され、上記チャンバー本体3aの長手方向両端側の各上部には、上記液溜部3bから塗工液10を流出させる断面略S字状の流出孔3eが一対形成されている。
【0037】
上記チャンバー本体3a上部の版胴2側には、上記版胴2の回転軸心C1に沿って延びる可撓性を有する板状の樹脂製ドクターブレード4が下方に真っ直ぐ延びる姿勢で固定ブロック5により固定され、その先端は、上記版胴2の回転方向X1に対して反対方向に向くように、且つ、上記版胴2の回転軸心C1の延長方向に見て上記版胴2の外周面に対して鋭角な姿勢となるように当該版胴2の外周面に接触している。
【0038】
上記ドクターブレード4の厚みt1は、
図5に示すように、上記各突起部2cのうちの隣り合う2つの突起部2cにおける上記版胴2の回転方向X1の間隔をD1、上記版胴2の回転軸心C1の延長方向に対する上記ドクターブレード4の角度をθとすると、t1≧D1×sinθとなるよう設定されている。
【0039】
一方、上記チャンバー本体3a下部の版胴2側で、且つ、上記ドクターブレード4に対向する位置には、
図1に示すように、上記版胴2の回転軸心C1に沿って延びる可撓性を有する樹脂製シールプレート6が上方に真っ直ぐ延びる姿勢で固定ブロック7により固定され、その先端は、上記版胴2の外周面に接触して上記液溜部3bの版胴2における回転方向上流側をシールしている。
【0040】
また、上記塗工チャンバー3の長手方向両端側には、
図2に示すように、樹脂製サイドシール8が一対取り付けられ、上記ドクターブレード4、上記シールプレート6及び上記両サイドシール8で上記液溜部3bを密閉するようになっている。
【0041】
上記ドクターブレード4の先端は、塗工液循環装置(図示せず)により上記流入孔3d及び流出孔3eを介して上記液溜部3bに溜まる塗工液10を循環させながら上記版胴2を回転させると、上記版胴2の外周面に付着する余分な塗工液10を掻き取って計量するようになっている。
【0042】
上記版胴2の外周面に付着する余分な塗工液10がドクターブレード4によって掻き取られる際、上記各突起部2cの先端は、上記ドクターブレード4と点当たりするようになっていて、上記各突起部2cの先端に付着する塗工液10が上記ドクターブレード4によって掻き取られて除去されるようになっている。
【0043】
そして、上記グラビア塗工装置1は、連続搬送されるウェブW1に対して版胴2が回転しながら接触することにより、上記各第1斜線溝部2a及び上記各第2斜線溝部2bに満たされた塗工液10によって上記ウェブW1と上記版胴2の外周面との間に跨がる液溜まり部9を形成しながら当該液溜まり部9の塗工液10を上記ウェブW1に転写するようになっている。
【0044】
次に、本発明の実施形態に係るグラビア塗工装置1を用いて各パラメータを変更しながらウェブW1に形成した塗工層の外観の判定結果について説明する。
【0045】
図7は、第1斜線溝部2a及び第2斜線溝部2bの数(以下、線数と呼ぶ)及び開口率を変更しながらウェブW1に形成された塗工層の表面に筋状の模様が現れるか否かを評価した結果を示す。塗工層の表面に筋状の模様が現れない条件のものを◎、塗工層の表面に筋状の模様が現れるが製品としたときに問題とならないものを○、塗工層の表面に筋状の模様が現れて製品としたときに問題となるものを×とした。
【0046】
この結果から、本発明の版胴2において、開口率が90%であると線数に関わらず製品として問題とならない塗工層を形成することができることがわかった。
【0047】
以上より、本発明の実施形態によると、ドクターブレード4によって掻き取られる各突起部2cに付着する塗工液の量が少なくなるので、回転軸心C1に沿う方向において液溜まり部9に溜まる塗工液10の量の偏る部分と偏らない部分との差が僅かになる。したがって、液溜まり部9に溜まる塗工液10の液面が回転軸心C1に沿って略均一になり、ウェブW1の表面に形成する塗工層を厚みが薄くて均一なものにすることができる。
【0048】
また、ドクターブレード4の厚みt1は、各突起部2cのうちの隣り合う2つの突起部2cにおける版胴2の回転方向X1の間隔をD1、版胴2の回転軸心C1の延長方向に見て上記版胴2の外周面に対する上記ドクターブレード4の角度をθとすると、t1≧D1×sinθとなるよう設定されているので、ドクターブレード4が版胴2の外周面に付着する余分な塗工液10を掻き取る際、ドクターブレード4の先端部分が第1斜線溝部2a及び第2斜線溝部2bに嵌まらなくなる。したがって、ドクターブレード4の先端部分が第1斜線溝部2a及び第2斜線溝部2bに繰り返し嵌まることによりドクターブレード4に振動が発生してしまい、当該振動によって塗工時における異音の発生が大きくなってしまうといったことを防ぐことができるとともに、振動によるドクターブレード4先端の摩耗の進度が速くなるのを防いでメンテナンス回数を減らすことができる。
【0049】
また、ドクターブレード4の先端が上記版胴2の回転方向X1に対して逆方向に向くように、且つ、上記版胴2の回転軸心C1の延長方向に見て版胴2の外周面に対して鋭角な姿勢となるよう版胴2の外周面に接触しているので、版胴2の外周面に付着する余分な塗工液10を掻き取るために必要なドクターブレード4の版胴2の外周面に対する接触圧を下げることができ、ドクターブレード4先端の摩耗の進度を遅くしてメンテナンス回数を減らすことができる。
【0050】
また、版胴2の回転方向X1に隣り合う2つの突起部2cのうちの版胴2の回転方向X1の下流側の突起部2cが上流側の突起部2cに対して版胴2の回転方向X1に対して回転軸心C1の一端側にずれた位置となっているので、各突起部2cが特許文献1のように回転方向X1に沿って規則正しく真っ直ぐに並ばなくなり、版胴2の外周面の回転軸心C1に沿う方向における各突起部2cの偏る部分と偏らない部分とがなくなる。したがって、ドクターブレード4が版胴2の外周面に付着する余分な塗工液10を掻き取る際、ドクターブレード4の先端部分に接触する各突起部2cが回転軸心C1に沿う方向において周期的に分散するようになり、ドクターブレード4先端に発生する摩耗が偏ってしまうのを防ぐことができる。
【0051】
また、版胴2の外周面における開口率が90%に設定されているので、版胴2の外周面におけるドクターブレード4に接触する部分が極僅かになり、例えば、せん断凝集する特性を有する塗工液10を用いた塗工であっても、ドクターブレード4の先端と各突起部2cとの間において凝集する塗工液10の量を減らすことができ、凝集した塗工液10がドクターブレード4の先端に付着することにより発生する塗工層の欠陥を抑制することができる。
【0052】
尚、本発明の実施形態では、版胴2の外周面における開口率を90%に設定しているが、本発明の実施形態の版胴2において開口率を90%以上に設定しておけば同様の効果を得ることができる。
【0053】
また、本発明の実施形態では、版胴2の回転方向X1に隣り合う2つの突起部2cのうちの回転方向上流側の突起部2cに対する回転方向下流側の突起部2cの位置が版胴2の回転方向X1に対して回転軸心C1の一端側に角度が1°だけずれるよう設定されているが、そのずれる角度θは、0°<θ≦1°であればよい。
【0054】
また、本発明の実施形態では、ドクターブレード4の先端が版胴2の回転方向X1に対して反対方向に向くように、且つ、版胴2の回転軸心C1の延長方向に見て版胴2の外周面に対して鋭角な姿勢となるよう版胴2の外周面に接触しているが、ドクターブレード4の先端が版胴2の回転方向X1に沿うように、且つ、版胴2の回転軸心C1の延長方向に見て版胴2の外周面に対して鋭角な姿勢となるよう版胴2の外周面に接触するような構成であってもよい。
【0055】
また、本発明の実施形態におけるドクターブレード4の先端は、静止した状態の版胴2の外周面に対して接触した状態において、各突起部2cのうちの多数の突起部2cに接触するようにその厚みt1を設定することにより、塗工時におけるドクターブレード4の振動を起因とした異音の発生やドクターブレード4先端の摩耗の偏りを確実に防ぐことができる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、連続搬送されるウェブに塗工液を塗工するグラビア塗工装置に適している。
【符号の説明】
【0057】
1 グラビア塗工装置
2 版胴
2a 第1斜線溝部
2b 第2斜線溝部
2c 突起部
4 ドクターブレード
t1 ドクターブレードの厚み
C1 回転軸心
W1 ウェブ