特許第6737512号(P6737512)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6737512
(24)【登録日】2020年7月20日
(45)【発行日】2020年8月12日
(54)【発明の名称】スペースデブリのインターセプト
(51)【国際特許分類】
   B64G 1/24 20060101AFI20200730BHJP
【FI】
   B64G1/24 Z
【請求項の数】17
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2017-516830(P2017-516830)
(86)(22)【出願日】2015年10月30日
(65)【公表番号】特表2017-532243(P2017-532243A)
(43)【公表日】2017年11月2日
(86)【国際出願番号】EP2015075335
(87)【国際公開番号】WO2016066837
(87)【国際公開日】20160506
【審査請求日】2018年8月28日
(31)【優先権主張番号】14275222.9
(32)【優先日】2014年10月30日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】512276430
【氏名又は名称】エアバス ディフェンス アンド スペイス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】リード、ジェイム
(72)【発明者】
【氏名】バラクロー、シモン
(72)【発明者】
【氏名】ラトクリフ、アンドリュー
【審査官】 伊藤 秀行
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/065795(WO,A1)
【文献】 特表2013−522606(JP,A)
【文献】 米国特許第07207525(US,B2)
【文献】 欧州特許出願公開第02671804(EP,A1)
【文献】 特許第2937550(JP,B2)
【文献】 特開2007−118916(JP,A)
【文献】 特開2001−097297(JP,A)
【文献】 特開2001−335000(JP,A)
【文献】 特許第2802130(JP,B2)
【文献】 米国特許第05681011(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64G 1/24
B64G 1/56
B64G 1/62
B64G 1/64
B64G 1/66
B64G 1/68
B64G 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
宇宙空間で軌道周回するターゲット物体をインターセプトするためのビークルであって、
前記ビークルを軌道上へと駆動するための発射部と、
前記ビークルが軌道上にあるときにターゲット物体をインターセプトするためのインターセプト部と
を備え、
前記インターセプト部は、前記ビークルがインターセプトポイントにあるときに前記ターゲット物体と係合するための手段を有し、
前記発射部は、前記ビークルを地球から、前記インターセプトポイントにて前記ターゲット物体の軌道と交差する第1楕円軌道上へと駆動するよう構成され、
前記ビークルは、前記ターゲット物体と係合すると第2楕円軌道を取るよう構成され、前記第2楕円軌道は発射前に決定され、
前記第2楕円軌道は、前記ビークルが、前記ターゲット物体と係合したときに前記インターセプトポイントから地球の大気圏に向かって移動するよう構成されるような軌道である、ビークル。
【請求項2】
前記インターセプト部は、前記ターゲット物体を追跡するための手段を有し、前記ターゲット物体を追跡するための前記手段は、光センサ、赤外線センサおよびレーダのうちの1つまたは複数を含む、請求項1に記載のビークル。
【請求項3】
前記第1楕円軌道および/または前記第2楕円軌道上での前記ビークルの移動を制御するための手段をさらに備える、請求項2に記載のビークル。
【請求項4】
前記ビークルの移動を制御するための前記手段は、前記ターゲット物体を追跡するための前記手段からのフィードバックを受信し、前記ビークルに修正モーションを加えるよう構成される、請求項3に記載のビークル。
【請求項5】
前記ビークルの移動を制御するための前記手段は、前記インターセプト部内の制御手段により制御される1つまたは複数のスラスタを有する、請求項3または請求項4に記載のビークル。
【請求項6】
前記第1楕円軌道および前記第2楕円軌道は、前記第1楕円軌道から前記第2楕円軌道への遷移に必要な、前記ビークルの移動を制御するための前記手段の動作が、最小限となるような軌道である、請求項3から5のいずれか一項に記載のビークル。
【請求項7】
宇宙空間で軌道周回するターゲット物体をインターセプトするためのビークルであって、
前記ビークルを軌道上へと駆動するための発射部と、
前記ビークルが軌道上にあるときにターゲット物体をインターセプトするためのインターセプト部と
を備え、
前記インターセプト部は、前記ターゲット物体と係合するための手段を有し、
前記発射部は、前記ビークルを第1楕円軌道上へと駆動するよう構成され、
前記ビークルは、前記ターゲット物体と係合すると第2楕円軌道を取るよう構成され、
前記第1楕円軌道は、インターセプトポイントにて前記ターゲット物体の軌道と交差するように構成され、
前記第2楕円軌道は、前記ビークルが、前記ターゲット物体と係合したときに前記インターセプトポイントから地球の大気圏に向かって移動するよう構成されるような軌道であり、
前記インターセプト部は、前記ターゲット物体を追跡するための手段を有し、前記ターゲット物体を追跡するための前記手段は、光センサ、赤外線センサおよびレーダのうちの1つまたは複数を含み、
前記ビークルは、前記第1楕円軌道および/または前記第2楕円軌道上での前記ビークルの移動を制御するための手段をさらに備え、
前記第1楕円軌道および前記第2楕円軌道は、前記第1楕円軌道から前記第2楕円軌道への遷移に必要な、前記ビークルの移動を制御するための前記手段の動作が、最小限となるような軌道である、ビークル。
【請求項8】
前記第1楕円軌道および前記第2楕円軌道の軌跡は、予め決定され、前記ビークル内のメモリに記憶される、請求項1からのいずれか一項に記載のビークル。
【請求項9】
前記インターセプト部は、前記ターゲット物体に関する情報に基づいて前記第2楕円軌道を計算するためのコントローラを有する、請求項1からのいずれか一項に記載のビークル。
【請求項10】
前記第1楕円軌道および前記第2楕円軌道を定める軌跡情報を受信するべく地上局と通信するための通信手段を備える、請求項1からのいずれか一項に記載のビークル。
【請求項11】
前記ターゲット物体と係合するための前記手段は、銛、把持デバイスもしくはフック、ネット、または1つもしくは複数のエアバッグのうちの少なくとも1つを有する、請求項1から10のいずれか一項に記載のビークル。
【請求項12】
前記ターゲット物体と係合するための前記手段は、前記インターセプト部を前記ターゲット物体と結合させて複合体を形成するよう、または前記第2楕円軌道上で前記ターゲット物体を牽引するよう構成される、請求項11に記載のビークル。
【請求項13】
前記ターゲット物体と係合したときまたはその後に前記ビークルを前記第1楕円軌道からそれより低い第2楕円軌道へと減速させるための減速手段をさらに備える、請求項1から12のいずれか一項に記載のビークル。
【請求項14】
宇宙空間で軌道周回するターゲット物体をインターセプトするためのビークルを制御する方法であって、
前記ビークルを、地球から、インターセプトポイントにて前記ターゲット物体の軌道と交差する第1楕円軌道上へと駆動されるように制御する段階と、
前記ビークルを、前記インターセプトポイントにて前記ターゲット物体と係合するように、および前記ターゲット物体と係合すると第2楕円軌道を取るように制御する段階と
を備え、
前記第2楕円軌道は、前記ビークルが、前記ターゲット物体と係合したときに前記インターセプトポイントから地球の大気圏に向かって移動するよう構成されるような軌道であり、発射前に決定される、方法。
【請求項15】
前記インターセプトポイントでの前記ターゲット物体に対する前記ビークルの接近速度を決定するべく前記ターゲット物体を追跡する段階を備え、前記接近速度は、前記ビークルの前記ターゲット物体との係合を可能とし、前記ビークルの移動の修正制御が最小限となる前記第1楕円軌道から前記第2楕円軌道への遷移を可能とするような速度である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
宇宙空間で軌道周回するターゲット物体をインターセプトするためのビークルを制御する方法であって、
前記ビークルを、インターセプトポイントにて前記ターゲット物体の軌道と交差する第1楕円軌道上へと駆動されるように制御する段階と、
前記ビークルを、前記インターセプトポイントにて前記ターゲット物体と係合するように、および前記ターゲット物体と係合すると第2楕円軌道を取るように制御する段階と
を備え、
前記第2楕円軌道は、前記ビークルが、前記ターゲット物体と係合したときに前記インターセプトポイントから地球の大気圏に向かって移動するよう構成されるような軌道であり、
前記インターセプトポイントでの前記ターゲット物体に対する前記ビークルの接近速度を決定するべく前記ターゲット物体を追跡する段階を備え、前記接近速度は、前記ビークルの前記ターゲット物体との係合を可能とし、前記ビークルの移動の修正制御が最小限となる前記第1楕円軌道から前記第2楕円軌道への遷移を可能とするような速度である、方法。
【請求項17】
前記ターゲット物体と係合したときに前記ビークルを追跡する段階と、前記ビークルが予め決定された位置で地球の大気圏に進入するように前記第2楕円軌道を制御する段階とを備える、請求項14から16のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、宇宙空間で軌道周回するターゲット物体のインターセプトに関する。本発明は特に、スペースデブリの捕獲、およびそれをインターセプトビークルを用いて地球の大気圏へと移送することに関するが、これに限定されるものではない。
【背景技術】
【0002】
地球周囲の軌道上にあるスペースデブリの量が、重大な懸案事項となっている。非常に小さなデブリ物体であっても、軌道上での相対速度は幾キロメートル毎秒にも達し得るため、宇宙空間の他の物体に対して著しい損傷を生じさせるおそれがある。地球を軌道周回しているスペースデブリの一部は、非活動衛星から使用済みのロケットブースターの段に及ぶ大きな物体を含む。言及したもののような物体は、衝突時に宇宙機に対して深刻な損傷を生じさせることがあり、宇宙ビークルまたは他のデブリ物体と衝突した場合、さらに小さなデブリ破片の多大な発生源となり得る。既に軌道上にあるスペースデブリの量は、通信衛星に用いられる地球低軌道(LEO)の範囲内のもののような特定の軌道帯の継続使用を脅かすと考えられている。
【0003】
スペースデブリの問題には、数多くの研究が行われてきた。これらの提案の主な特徴は、スペースデブリのターゲット片とランデブーする「追尾機」または「作業機」、ドッキングまたは捕獲マヌーバとそれに続く安定マヌーバ、および軌道離脱マヌーバである。
【0004】
ゆえに、そのような「能動的デブリ除去」(ADR)構成は、追尾または作業ビークル(これは通常、少なくとも捕獲デバイス、推進系、および航法系を備える)を用いて軌道から物体を回収し、次に追尾または作業ビークルが、回収された物体を、それらが例えば地球の大気圏で燃焼することにより軌道離脱するように操作する。コストを節約するべく、追尾または作業ビークルは将来の任務のために軌道上に留まることとなるが、それゆえに軌道離脱プロセスが複雑になる。
【0005】
これらの構成は、追尾機または作業機のコンポーネントのホストとなる衛星を利用する。従って、追尾機または作業機のコンポーネントが展開され得る前に、衛星の発射が必要となる。そのような任務には、数億ユーロ程度のコストがかかることが判明している。衛星の発射および反復的なドッキングまたは軌道離脱マヌーバに必要とされる電力および燃料消費は、運用コストと共に任務コストの大きな要素である。加えて、効果的なドッキングルーチンおよび軌道離脱マヌーバに関連する技術的な複雑さから、代替的な解決策が模索されている。
【0006】
文献で提案されている1つの代替的な解決策は、化学スラスタを用いてターゲットに制動力をかけることで、デブリが高速での衝突による損傷を生じさせ続ける潜在可能性を低減させるというものである。しかしながらこれらの技法は、ターゲットを融解し得る、二液推進系または一液推進系からの高加熱に起因して、極めて問題の多いものであろう。また、低温ガスは非常に質量効率が低くなる。加えて、隔離距離は数メートルのみとなり、このことからターゲットと作業ビークルとの間での衝突のリスクが高くなる。ゆえに、そのような技法は、小さなデブリ片にのみ有用であり得る。化学スラスタの代替として電動スラスタがあるが、これらも高価である傾向がある。
【0007】
判明している別の解決策は、スペースデブリを捕獲するのではなく、地上発射ミサイルを用いて破壊するものである。この技法はより簡単である一方、一般には、特に600kmを超える高度で大きな物体を破壊することの結果として、より小さなスペースデブリを増大させることになる。よって、このアプローチは実際には、状況によってスペースデブリの問題を悪化させ得る。
【0008】
本発明は、現在用いられているものよりもはるかにコスト効率の高い、非破壊での捕獲および軌道離脱の技法を提供することを目的とする。本発明は、ホスト衛星の使用を省き、専用の発射システムを、ターゲット物体を破壊するのではなくインターセプトするように構成されたデブリインターセプト機として用いる。この構成は、大幅なコスト低減、および、異なる発射/インターセプトビークルを用いた多重式の能動的デブリ除去任務の可能性につながる。
【発明の概要】
【0009】
本発明の一態様によると、宇宙空間で軌道周回するターゲット物体をインターセプトするためのビークルであって、ビークルを軌道上へと駆動するための発射部と、ビークルが軌道上にあるときにターゲット物体をインターセプトするためのインターセプト部とを備え、インターセプト部は、ターゲット物体と係合するための手段を有し、発射部は、ビークルを第1楕円軌道上へと駆動するよう構成され、ビークルは、ターゲット物体と係合すると第2楕円軌道を取るよう構成され、第1楕円軌道は、インターセプトポイントにてターゲット物体の軌道と交差するように構成され、第2楕円軌道は、ビークルが、ターゲット物体と係合したときにインターセプトポイントから地球の大気圏に向かって移動するよう構成されるような軌道である、ビークルが提供される。
【0010】
インターセプト部は、ターゲット物体を追跡するための手段を有してよく、追跡手段は、光センサ、赤外線センサおよびレーダのうちの1つまたは複数を含んでよい。
【0011】
ビークルは、第1楕円軌道および/または第2楕円軌道上でのビークルの移動を制御するための手段をさらに備えてよい。
【0012】
ビークルの移動を制御するための手段は、追跡手段からのフィードバックを受信するよう、およびビークルに修正モーションを加えるよう構成されてよい。
【0013】
ビークルの移動を制御するための手段は、インターセプト部内の制御手段により制御される1つまたは複数のスラスタを有してよい。
【0014】
第1楕円軌道および第2楕円軌道は、第1楕円軌道から第2楕円軌道への遷移に必要な、ビークルの移動を制御するための手段の動作が、最小限となるような軌道であってよい。
【0015】
第1楕円軌道および第2楕円軌道の軌跡は、予め決定され、ビークル内のメモリに記憶されてよい。
【0016】
インターセプト部は、ターゲット物体に関する情報に基づいて第2楕円軌道を計算するためのコントローラを有してよい。
【0017】
ビークルは、第1楕円軌道および第2楕円軌道を定める軌跡情報を受信するべく地上局と通信するための通信手段を備えてよい。
【0018】
係合手段は、銛、ネット、または1つもしくは複数のエアバッグのうちの少なくとも1つを有してよい。代替的な選択肢としては、インターセプト機とデブリとの間の相対運動を利用して係合および捕獲を実現する、把持フックのような一群のスパイクを有するデバイスがあり得る。
【0019】
係合手段は、インターセプト部をターゲットと結合させて複合体を形成するよう、または第2楕円軌道上でターゲットを牽引するよう構成されてよい。
【0020】
ビークルは、ターゲット物体と係合したときまたはその後にビークルを第1楕円軌道からそれより低い第2楕円軌道へと減速させるための減速手段をさらに備えてよい。
【0021】
本発明の別の態様によると、宇宙空間で軌道周回するターゲット物体をインターセプトするためのビークルを制御する方法であって、ビークルを、インターセプトポイントにてターゲット物体の軌道と交差する第1楕円軌道上へと駆動されるように制御する段階と、ビークルを、インターセプトポイントにてターゲット物体と係合するように、およびターゲット物体と係合すると第2楕円軌道を取るように制御する段階とを備え、第2楕円軌道は、ビークルが、ターゲット物体と係合したときにインターセプトポイントから地球の大気圏に向かって移動するよう構成されるような軌道である、方法が提供される。
【0022】
方法は、インターセプトポイントでのターゲット物体に対するビークルの接近速度を決定するべくターゲット物体を追跡する段階を備えてよく、接近速度は、ビークルのターゲット物体との係合を可能とし、ビークルの移動の修正制御が最小限となる第1楕円軌道から第2楕円軌道への遷移を可能とするような速度であってよい。
【0023】
方法は、ターゲット物体と係合したときにビークルを追跡する段階と、ビークルが予め決定された位置で地球の大気圏に進入するように第2楕円軌道を制御する段階とを備えてよい。
【0024】
必要なインターセプトを実現するべく、インターセプトは、宇宙空間での衛星のマヌーバに基づくのではなく、発射軌跡、インターセプトポイントおよび軌道離脱軌跡の適切な選択に基づくので、インターセプト機に必要な推進剤が上述の従来技法と比較して大幅に低減される。
【0025】
加えて、インターセプト機は、ターゲット物体の初期状態よりも低い楕円軌道へと移動する複合構造体を形成するように、ターゲット物体と係合するよう構成され得る。そのようなより低い軌道は、ターゲット物体がインターセプト機と共に燃焼する地球の大気圏へと通じ得る。よって、インターセプト機は、単回使用の任務のために構成され得、このことは、必要となる推進剤が少なくなり、コストが低減することを意味する。以上から、本発明は、より小さなデブリ物体を新たに生成しない態様でスペースデブリを軌道から除去することを可能とし、破壊ベースの技法にまさる改善を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
ここで、本発明の実施形態を、添付の図面を参照しながら例としてのみ説明する。
図1】本発明の一実施形態に係るインターセプトビークルの例を示す。
図2a】本発明の一実施形態に係るビークルの第1楕円軌道を示す。
図2b】本発明の一実施形態に係るビークルの第1楕円軌道を示す。
図3a】本発明の一実施形態のインターセプトビークルで用いられる銛を示す。
図3b】本発明の一実施形態のインターセプトビークルで用いられる受動型把持デバイスを示す。
図3c】本発明の一実施形態のインターセプトビークルで用いられるエアバッグの構成を示す。
図4】インターセプトビークルとターゲット物体との間の必要な相対接近速度に対する軌道高度の影響を示すグラフである。
図5】本発明の一実施形態に係る、ターゲット物体の捕獲後の制動マヌーバに必要な燃料を示す。
図6】本発明の一実施形態に係る、インターセプトおよび軌道周回ルーチンを示す。
図7】本発明の一実施形態に従って実行される制御方法を示すフローチャートを示す。
図8a】2つの楕円軌道間での遷移の例を表す。
図8b】2つの楕円軌道間での遷移の例を表す。 説明の便宜のために、図面の一部の要素が縮尺通りに示されていないことを理解されたい。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1は、本発明の一実施形態に係るインターセプトビークル10を示す。インターセプトビークル10は、以下では簡単のために「ビークル」と呼称するが、「追尾ビークル」、「追尾機」、または「作業ビークル」と呼称することもある。
【0028】
ビークル10は、2つのメインコンポーネント、すなわち発射部の上段11と、図3a、3bおよび3cに関してより詳細に説明するインターセプト部13または「軌道離脱キット」とを有する。発射部は、宇宙空間にビークル10を発射するのに必要な燃料を含み、他の宇宙機の発射に用いられるものと類似の原理で動作する。従って、発射部はインターセプト部13から切り離し可能であってよく、インターセプト部13は、発射部が廃棄されると、特定の軌道上にあり続ける。発射部は、それ自体が複数の段からなるものであってよく、その各々が発射軌跡に沿った所定のポイントで順にビークル10から切り離される。各段のリリース機構は、それぞれの段での燃料の消費に応じて、自動的にプログラミングされ得る。当業者であれば、ビークル10を所定の軌道上へと発射できるであろう複数の具体的な構成が可能であろうことが理解されよう。別の実施形態では、発射部とインターセプト部13とが一体的に結合され、発射の間に切り離しが行われない。図1に示す例において、上段11は、発射部のより下側の段が取り外されてからもビークル10のインターセプト部13と連結したままであるものとして示されており、宇宙空間でビークル10をマヌーバ操作するためのスラスタ12を含む。上段自体は、発射フェーズで必要となることがあり、スラスタ12は、下記の説明において「第1楕円軌道」と呼称するものへとビークル10が進行することを可能とする制御機構を一般化したものと解釈することができる。
【0029】
インターセプト部13は、スペースデブリのターゲット物体と係合するよう、および係合前にビークル10が取る軌道からそれより低い軌道へとターゲット物体を移動させるよう構成される。ターゲット物体と係合したとき、ビークル10は、ターゲット物体を、所定の位置における地球の大気圏内で燃焼し得るように軌道上へと導く。
【0030】
係合を可能とするべく、インターセプト部は、下記でより詳細に説明する係合手段14を含む。係合手段14は、ターゲット物体と接触し、インターセプト部13とターゲット物体とが地球の大気圏で燃焼する複合物体として結合するようにターゲット物体を捕獲することを担う。
【0031】
ビークル10は、地上局と通信するための手段15を備える。そのような手段は、進行度および診断情報を地上局へフィードバックするのに、および制御信号を地上局から受信するのに用いられる。一実施形態において、衛星リンクを介して地上局へ供給される情報は、ビークル10の位置および/または速度および/または加速度を報告するデータと、ビークルのセンサが実行するターゲット物体の追跡に関する情報とを含む。そのような追跡センサは、光学式のもの、赤外線式のもの、レーダ、またはこれら3つの組み合わせであってよい。地上局から受信される情報は、所定の軌道が取られることを確実にするのに必要な、インターセプト部のモーションアクチュエータの制御に関する。加えて、下記でより詳細に説明する、銛の発射またはエアバッグの作動のような係合手段14の制御は、地上局の制御信号を介して提供される。
【0032】
別の実施形態では、地上局から受信されるのに必要な制御信号のレベルが低減され、機上での制御がビークル10の制御ユニットにより実行され得る。制御ユニットは、モーション駆動手段、追跡センサのインターフェースとなり、係合手段14を制御する。しかし、ビークルは回収されたターゲット物体と共に地球の大気圏で燃焼するよう意図されているので、ビークルは比較的簡単に設計されるよう意図されており、よってそれだけ多くの処理を地上局へ移動することで、ビークルで制御信号を処理するのに必要となる制御ユニットが可能な限り簡単に設計され得ることが確実になる。
【0033】
ビークル10は、ビークル10がターゲット物体のインターセプトの前に宇宙空間を進行する第1楕円軌道と、ビークル10がターゲット物体のインターセプトの後に宇宙空間を進行する第2楕円軌道とに関する、予めプログラミングされた行程を記憶するためのメモリを含む。行程の記憶により、ビークル10が、第1楕円軌道および第2楕円軌道が維持されるように自動修正を適用または修正信号を地上局から受信できることが確実になる。第1楕円軌道および第2楕円軌道については、下記でより詳細に説明する。
【0034】
発射部は、ビークル10を地球から第1楕円軌道上へと移すよう制御される。そのような制御は、ターゲットのインターセプトが実行される所定のインターセプトポイントにビークル10が所定の時点で到達するように、発射速度および発射タイミングの適切な選択を用いて実現される。このプロセスについては、図2aおよび2bに関してより詳細に説明する。
【0035】
図2aおよび2bは、本発明の実施形態に係る、ターゲット物体のインターセプトを可能とするよう構成されたビークルの第1楕円軌道の2つの例を示す。両方の例において、ターゲット物体21は、地球低軌道(LEO)にあり、地球20のような物体の周りの半径rの略円軌道22を有すると仮定する。
【0036】
図2aにおいて、第1楕円軌道24は、インターセプトポイント25で円軌道22と接するよう決定され、インターセプトポイント25は楕円24の長軸上にある。ビークルが、ターゲット物体21をインターセプトしなかった場合に安定に留まることとなる軌道を表すものとして、楕円の全体が図2aに示されている。点線23は、地球から第1楕円軌道24上への、ビークルの典型的な発射軌跡を示す。発射軌跡23は簡略化した形で示されており、実際には、その「到着軌道」(すなわち第1楕円軌道)への到達前に地球20を複数回完全に軌道周回することを必要とすることがある。
【0037】
到着軌道は、r+rの横径を有する楕円である、ビークルの第1楕円軌道24である。ここでrは、ターゲット物体の円軌道の半径である。この楕円は、地球20が、楕円の周からの距離rにある楕円の焦点にあり、ターゲット物体21の円軌道22と楕円が交わるポイント25から最も遠い焦点にあるよう示されている。第1楕円軌道24上でのビークルの軌跡は、時間の関数として表される極座標(r(t),θ(t))に関して定めることができる。ここでθは、反時計回りに測定した、楕円の両方の焦点から外側に向かう方向の、楕円の長軸を基準とする角度として測定され、「r」は地球20からの動径である。
【0038】
ターゲット物体21が図2aに示すように地球20を反時計回り方向に軌道周回し、ビークルがその第1楕円軌跡24に沿って反時計回りに進行すると、これら2つの軌道はインターセプトポイント25で重なり、ここでビークルがターゲット物体をインターセプトする。ターゲット物体21は、それぞれの軌道の高度に基づいて、ビークルよりも高速で進行しているので、ターゲット物体21は、インターセプトの直前にビークルへ効果的に接近している。
【0039】
図2bの実施形態では、第1楕円軌道27は、円軌道と接するのではなく円軌道22とインターセプトポイント28で交わるよう決定される。従って、本実施形態における第1楕円軌道28は、図2aに示すものよりも大きい横径を有し、r+r+rの直径を有する。ここでrおよびr図2aに関して定められた通りであり、rは楕円の直径を距離rから先に延伸した分の長さを表す。ビークルは、軌跡26に沿って発射されてから、変動する地球からの距離rおよび楕円の長軸の周りの角度θで、第1楕円軌道27を反時計回り方向に進行する。よって、第1楕円軌道上でのビークルの軌跡は、極座標(r(t),θ(t))として定めることができる。
【0040】
=rかつθ=θであるとき、楕円軌道が円軌道と交わり、ターゲット物体のインターセプトが実行される。
【0041】
上述の実施形態においては、ビークルが第1楕円軌道に沿ってθ=0の位置からθ=θでかつそれより離れない位置まで進行したときに、ターゲット物体のインターセプトを行うのが最適である。換言すると、ビークルは、地球の第1楕円軌道を完全に1周回するうちにターゲット物体のインターセプトを完了する。本シナリオは、インターセプトを完了するのに必要となる移動時間が最も短く、ビークルの軌跡を維持するのに必要となる追跡ルーチンおよび安定マヌーバ(下記でより詳細に説明)が最も少ないことから、最適である。図2aに示す構成では、θ=180°である。
【0042】
しかし、最適位置でインターセプトが行われることを確実にするように第1楕円軌道の経路を最適化するには、考慮されなくてはならない追加的な要因がある。
【0043】
これらの要因のうちの1つは、ターゲット物体に対するビークルの接近速度である。相対速度は、ターゲット物体の相対的なサイズおよびインターセプトルーチンの特徴に応じるものであってよく、ビークル/ターゲット物体の複合物の第2楕円軌道への遷移が可能な限り円滑に行われることを確実にするように最適化され得る。第1楕円軌道と第2楕円軌道との間でのビークルの遷移についてさらに説明する前に、インターセプトルーチンについて下記でより詳細に説明する。
【0044】
図1に示すように、ビークル10は、スペースデブリの特定のターゲット物体をインターセプトするよう特別設計されたインターセプト部13を含み、インターセプト部13の複数の異なる設計が本発明の実施形態に従って可能である。
【0045】
一実施形態において、ビークル30のインターセプト部は、図3aに示すように銛32を備える。この図は、銛32が格納および展開されている構成の両方を示す。銛32は、ターゲット物体31に射出され、ターゲット物体31を貫通し、それを第2楕円軌道上へと導くよう意図されている。銛に装着された複数の銛先33を用いて貫通が実現され、銛はインターセプト部にテザー34で繋がれている。銛32の発射は、機械ばねを用いたシステムによるもの、または加圧ガスを利用するものであってよく、具体的な構成は、必要となる発射速度および範囲に応じる。銛32の発射速度は、ターゲット物体のタイプ、およびターゲット物体31と銛32との係合を固定するのに必要となる貫通の度合いに応じて制御される。発射速度は、予めプログラミングされたビークル30の軌跡に従って予めプログラミングされてよい、または、下記でより詳細に説明する、ビークル30に搭載の追跡センサを用いてオンザフライ(on−the−fly)で決定されてよい。
【0046】
ターゲット物体31を銛32と係合すると、テザー34は、ビークル30が軌道離脱ルーチンの間にターゲット物体31を牽引するように完全に伸長されたままであってよい、または、ターゲット物体31が効果的に回収されてビークル30の至近へと導かれるように、リール機構を用いて収縮させられてよい。いずれの構成においても、ビークルと、テザーで繋がれたターゲット物体とが結合したものは、以下「複合体」または「一体化体」と呼称する。これは下記でより詳細に説明する第2楕円軌道と関連付けられる。「複合体」という用語は、他のインターセプト機構が用いられる場合にも適用される。
【0047】
銛の発射方向に貫通を行う「直線形」の銛の代替として、図3bに示すような把持デバイス36を用いて3次元的な貫通が実現される。把持デバイス36は、デブリ31の経路上に配置される。把持デバイス36は、概して銛32と同様の態様で動作するが、インターセプト時に物体31を複数の方向に貫通することができるように、銛の発射の前、間、または後のいずれかで作動され得るいくつかの小さな銛または銛先を含む。代替的に、把持デバイス36はフック構成を備え得る。この把持デバイス36は、ターゲット物体31が不規則形状のものである場合、または、単回の銛の動作で全てが回収され得る、分散したより小さな物体の塊を含む場合に好適である。
【0048】
別の実施形態においては、図3cに示すように、エアバッグまたはネット38がターゲット物体の捕獲に用いられる。エアバッグがインターセプト部から発射され、ターゲット物体は、エアバッグにより緩衝され、場合によっては覆われて、捕獲および/または回収が可能となる。他の場合では、エアバッグ38によりターゲット物体を緩衝および安定させてから、上記の銛32の使用のような補助的な捕獲技法により、回収プロセスの完了が可能となり得る。他の場合では、エアバッグ38はビークル37から発射されず、単にビークルに取り付けられたまま膨張する。ターゲット物体がインターセプトポイントでエアバッグ38およびビークル37と単一体として効果的に結合することで、ビークル37のターゲット物体との係合が実現される。
【0049】
エアバッグ38の使用が適しているのは、これを使用しないと、銛によるターゲット物体の貫通によってターゲット物体により大きな損傷が生じて、さらなるスペースデブリが生成され得る場合である。係合がビークルの軌道とターゲット物体の軌道との一致に依拠する場合、軌道が接して一致する図2aに示す構成は、宇宙空間の物体とビークルとの、係合前の進行方向の相対的な差異が最小限となるので、特に効果的である。テザー構成は、ビークルとターゲット物体との間の、係合前の方向的な差異がより大きい図2bの構成に、より効果的であり得る。
【0050】
上述のインターセプト技法は、物理的なインターセプト手段が、インターセプトを実現するのに能動的な方向制御をわずかしか必要としないという意味で、比較的受動的である。例えば、把持デバイスまたはフックを用いることで可能となる多方向的な係合、および方向によらないエアバッグまたはネットの技法によれば、インターセプトのまさにその時におけるターゲット物体の具体的な向きを考慮することを必要とせずに、高速で回転および進行しているターゲット物体の効果的な捕獲を実行することができる。図3aに示す銛32について、これは把持デバイス36およびエアバッグ38より狭く画定される捕獲ゾーンを有することがあり、そのより特定的な発射軌跡に起因して、インターセプトビークル30にターゲット追跡手段39を装備することにより正確度が向上し得、それによりビークル30の軌道および銛の発射ポイントの一方または両方を航行中に動的に制御することが可能となる。把持デバイス36またはエアバッグ38の使用性をさらに向上させるのにもこの技法が用いられてよいので、そのようなターゲット追跡手段39は図3bおよび図3cにも示されている。ターゲット追跡手段は、地上局との通信における使用に関して説明される通信手段15の一部を用いてよい。
【0051】
一実施形態において、より長い範囲での追跡には、追跡手段は、ターゲット物体の運動の3次元プロット、および宇宙空間でのその投影軌跡の画像化を可能とするように構成された赤外線センサまたはレーダを用いることができる。より短い範囲での追跡には、立体カメラのような1つまたは複数の光センサで十分であることがある。追跡は、継続的に実行され得る、または、電力を節約するべく、適切な補間アルゴリズムと組み合わされた周期的な測定に基づくものであり得る。
【0052】
一実施形態において、追跡手段の出力はインターセプト部に搭載のコントローラへ供給され、このコントローラは、ビークルの運動を定めるデータと共に、受信されたデータの処理を実行して、所期のインターセプトポイントまでの距離および時間を計算する。所期のインターセプトポイントが最初にプログラミングされたインターセプトポイントと異なる場合、修正動作がコントローラにより構成されてよい。
【0053】
修正動作は、ビークルの姿勢または軌道の制御であり得、これはビークルに配置された1つまたは複数のロケットスラスタを駆動させることにより実現される。2つのロケットスラスタをビークルの反対側に配置して反対方向に噴射するなど、ビークルの機体を通過する1つまたは複数の軸の周りに回転運動を生じさせることにより、姿勢を変化させることができる。軌跡は、ビークルの速度を調整することにより制御され得る。速度を増大させると、軌道がより高くなり、これによりターゲット物体のインターセプトがより早まり得るが、これに対して、速度を低減させることは、所期のインターセプトポイントが元々プログラミングされていたよりも遅れる場合に適用され得る。
【0054】
別の実施形態において、追跡手段の出力が地上局へ通信され、地上局で必要な処理および修正制御が決定されてビークルのローカルの駆動コントローラへ返され、次いで駆動コントローラが、決定された駆動信号をロケットスラスタへリレーする。ビークルは単回使用が意図されているので、地上局との通信を介して制御を実行することにより、ビークルが軌道離脱するときの処理回路の消耗が低減される。加えて、ビークルの複雑さ、重量およびコストも、地上局で処理を実行することで低減される。
【0055】
修正動作はまた、発射時間、発射速度、および発射方向に関する、銛の発射の制御であり得、これらは全て、ターゲット物体が所期のインターセプトポイントで係合されることを確実にするよう計算され得る。改めて、修正動作は、機上での処理を用いてローカルで決定され得る、または地上局を介して制御されてもよい。
【0056】
上述の修正動作の様々な組み合わせが、必要な場合に適用されてよく、修正動作は、銛を用いないインターセプト技法が用いられる場合にも適用されてよいことを理解されたい。
【0057】
ビークルの姿勢の移動は、「修正動作」としてではなくビークルの所定の制御ルーチンの一部として実行されてよい。例えば、所定のインターセプトプログラムは、ビークルを、ビークルの移動フェーズに最適化された特定の姿勢(例えば、ビークルの機体のスラスタおよびセンサの位置に基づく、修正制御および追跡を容易にする姿勢、または発射フェーズの間の、航空力学的な目的に最適化された姿勢)で第1楕円軌道を通って移動させ、それに続いて、例えば銛の発射を容易にするよう最適化された、インターセプトポイントに近い異なる姿勢へ移動させることを伴うことがある。一例として、ビークルの進行方向に対して前方を向くようにインターセプト部内で配置される銛については、銛の発射ポイントでビークルおよび銛をターゲット物体に向け、次に銛を進行方向への角度に発射するのがより効率的であり得る。図2bの例において、例えば、ターゲット物体21とビークルとの進行方向は垂直に近く、よってこの姿勢での銛の発射はより低効率であり得るので、ビークルはインターセプトポイント28の前にターゲット物体21に向いていなくてもよいことを理解されたい。代わりに、ビークルは、銛の射出軸がビークルの進行方向に対して傾斜する、またはちょうど垂直に配置されるように回転させられてよい。
【0058】
図2aおよび2bは、ビークルの第1楕円軌道の全体を示すように示されているが、上記のインターセプト部についての説明に基づいて、ターゲット物体のインターセプトが実現されるには、ビークルの機体とインターセプトポイントとが必ずしも厳密に一致する必要はないことを理解されたい。例えば、銛のシステムが用いられる場合、インターセプトポイントは銛とターゲット物体との一致点を表し得、ここでビークルは、機体とターゲット物体との衝突を回避するよう、示されている軌道のわずかに外側に配置される。よって、ビークルの位置とインターセプトポイントとの間の差異はテザーの長さに応じることとなり、銛の発射速度は、特定の範囲およびターゲット物体のサイズを考慮するように選択され得る。従って、図2aおよび2bに示す軌道は、ビークルとインターセプト手段とが結合したものの典型的な軌道として解釈されるべきであり、当業者であれば、所与の実施形態について、係合を実現するのに許容可能な軌跡からの変動の度合いを理解できよう。
【0059】
上述の実施形態において、ビークルとターゲット物体との相対接近速度は通常、100〜200m/s程度となるよう設定される。インターセプトポイントは通常、800km程度の高度にある。発射、捕獲および軌道離脱には通常、合計でおよそ1時間かかる。
【0060】
100〜200m/s程度の相対速度はまた、多くの場合でターゲット物体へ銛を貫通させるのに必要となる速度である。従って、150m/sの相対接近速度では、例えば、ターゲット物体に対する銛の初速度を所与とすると、ビークルに対する銛の発射速度は、(銛をインターセプトビークルから切り離すのに十分な)10m/s程度のみであってよい(よってターゲットに対する合計速度は160m/sとなる)。そのように低い発射速度により、発射機構が簡略化され、複数の異なる形態での実装が可能となる。本発明の実施形態のビークルが、「単発」の使用が意図されていることに起因して可能な限り簡単なものであるべきという要件に鑑みると、それゆえに機械的な発射機構は、より複雑な油圧または加圧システムよりも実装するのが安価、軽量かつ容易であるので、好ましいものであり得る。
【0061】
ビークルに楕円軌道を用いることは、インターセプトビークルとデブリターゲットとの複合物が、元のデブリターゲットよりも低い軌道速度を結果として有すること、および、複合物が追加的な推進剤の消費を必要とすることなく楕円軌道に進入するであろうことを意味する。結果として得られる楕円は、インターセプトポイントと同様の遠地点を有するが、それよりも大幅に低い近地点を有することとなる。よって、デブリ軌道の全体的な変化は、必要となる推進剤の質量を最小限にする効率的な手法で実現される。
【0062】
図4は、インターセプトビークルとターゲットとの間の相対速度を、インターセプトビークルの近地点高度の関数として示す(ターゲットと等しくなる遠地点を800kmと仮定)。インターセプト機の近地点が低くなるにつれ、相対速度は増大するが、その結果複合物の近地点も低下する。
【0063】
ビークルがターゲット物体と係合すると、複合体は、軌道離脱が行われて複合体が地球の大気圏で燃焼するよう、第2楕円軌道に進入する。複合体が1トン程度以下の質量を有する場合、複合体は地球の大気圏で完全に燃焼することとなる。それより大きい質量では、複合体の一部が地球に戻ることとなる可能性がある。従って、地球に戻るあらゆるデブリが海洋の遠隔エリアのような安全なエリアに戻るように、軌道離脱軌跡はより大きな物体に関して選択されるべきである。
【0064】
本発明の一実施形態において、複合体は、ビークルとターゲット物体との間の係合後に、単に運動量保存の原理に則り、第1楕円軌道よりも低い軌道へ移動する。換言すると、複合体の質量がターゲット物体との係合の前のビークルに対して増大することで、その線速度が低減し、その結果、角運動量が保存されるようにその軌道が変化する。
【0065】
軌道離脱軌跡が純粋に運動量保存により定められる場合、結果として、第2楕円軌道の共役径が第1楕円軌道より大きくなる。運動量保存の原理に基づいて、楕円の具体的な特徴は、ターゲット物体とビークルとの相対質量に応じる。インターセプトビークルがターゲット物体より実質的に重い場合、楕円は、ターゲット物体の円軌道よりも第1楕円軌道に近くなる。インターセプトビークルがターゲット物体より実質的に軽い場合、楕円は、第1楕円軌道よりも円軌道に近くなる。よって、楕円の離心率は、円軌道と第1楕円軌道の離心率との重み付けされた組み合わせから効果的に導出され、それらの重みは、ターゲット物体およびビークルの質量にそれぞれ応じる。
【0066】
ターゲット物体の質量は、物体のサイズおよび密度ならびにその軌跡についての情報、および/または地球上の類似のターゲット物体に関する情報に基づいて、任務の初期構成フェーズで求められ得る。例えば、物体が廃棄済みの燃料タンクである場合、そのような物体は、燃料タンクに関する製造業者のデータと比較され得、それに従ってそのサイズおよび質量が求められ得る。ターゲット物体が、より大きな物体の破片のような未知のものである場合、純粋に、その線速度および軌道半径のような、その軌道に関するデータから質量を求める必要があることとなる。
【0067】
このようにして第2楕円軌道が定められることで、従来のシステムに必要であった複雑で費用のかかるマヌーバではなく、ビークルの軌跡によってインターセプトおよび軌道離脱ルーチンが可能となるので、ターゲット物体の軌道離脱を最小限の推進剤で実現することができる。
【0068】
本発明の別の実施形態において、第2楕円軌道は、所期のインターセプトポイント、および、例えば太平洋の遠隔エリアの上といった地球の大気圏内の到着位置に対して、任務の前に定められる。複合体は、ビークルのインターセプト部のモーション制御アクチュエータにより、第2楕円軌道を実現するように制御される。これらのアクチュエータは、第1楕円軌道の間にビークルの制御および安定を補助する、ビークルにあるロケットスラスタと同様のものであり得る。本実施形態は、運動量保存の原理のみに依拠することで第2楕円軌道を実現するものではないので、モーション制御は、運動量から導出される軌道に対する「修正動作」と考えることができる。
【0069】
第1楕円軌道および第2楕円軌道が事前に定められる場合、これらの軌道は、第2楕円軌道に到達するのに必要な修正動作が可能な限り小さくなるように最適化される。一実施形態において、インターセプトポイントがインターセプトのための第1楕円軌道上と軌道離脱のための第2楕円軌道上との両方にあり、第1楕円軌道と第2楕円軌道との間での遷移に必要となる修正動作が可能な限り最小となるように、必要な最適化がインターセプトポイントの位置にまず適用され得る。
【0070】
ターゲット物体がビークルよりも実質的に軽量である例において、第2楕円軌道は第1楕円軌道に類似のものであり得、よって、第1楕円軌道と第2楕円軌道との間で大幅な修正動作を行うことなく、第2楕円軌道を通る軌道離脱が地球の大気圏の所望のエリアで行われるように第1楕円軌道が定められ得ることが理解できよう。
【0071】
ターゲット物体がビークルより実質的に重い場合にも同様の原理が適用されることとなるが、用いられ得る修正動作の最小量はより大きくなる。
【0072】
第1楕円軌道上では、修正モーションが、地上局で実行される計算に基づいて複合体に適用され得る。発射フェーズでは、修正モーションは一般に、リアルタイムでのターゲットの観測およびビークルの進行度、発射時に予め決定された初期軌跡および初速度に基づいて位置の変化を実現するものであるのに対して、第2フェーズにおける修正モーションは通常、第2楕円軌道への進入がなされ、その後も第2楕円軌道が維持され得るように、位置の変化と速度の変化との両方を実現するのに用いられる。複合体を地球の大気圏まで下げるように導くべく、速度の変化は通常、低速化または減速であり、これは進行方向と反対の方向にスラスタを噴射することにより実現される。そのような制動マヌーバには燃料消費が必要となるが、必要となる消費は比較的小さく、ターゲット物体の質量により生じる制動効果により低減される。
【0073】
図5は、2トンのターゲット、および500〜4,000kgの間の質量の追尾ビークルに対する、捕獲後の制動マヌーバに必要な燃料を示す。燃料消費は、130kg超から比較的大きくない40kgまで線形的に減少する。燃料消費の減少は、軌道離脱マヌーバに対する追尾ビークルの第1楕円軌道の影響が増大することを反映している。追尾機の質量がターゲットに対して小さい場合、ターゲットの初期軌道が複合軌道の支配的成分となり、よって複合軌道を軌道離脱マヌーバ用に変化させるのに追尾機が必要とする燃料はより多くなる。追尾機の相対質量が大きい場合、追尾機の運動量が複合軌道の支配的成分となり、よって、軌道離脱を行うのに必要なマヌーバ操作が最小限となるように追尾ビークルの第1楕円軌道を適切に選択することで、燃料を節約することができる。
【0074】
制動スラスタを用いる実施形態において、スラスタは、第2楕円軌道が可能な限り早く取られるように、ターゲットのインターセプトに続いて可能な限り早く作動させられる。
【0075】
図6は、全体的なシーケンスを示す。図6(a)は、地上にあるレーダおよび通信機器61からの軌道パラメータおよびターゲット60の姿勢の捕捉を示すが、宇宙配備衛星が用いられてもよい。図6(b)は、最初に軌道64上を進行しているターゲット60をインターセプトするための、地球63から弾道軌跡への追尾機62の発射を示す。弾道軌跡は、上述の第1楕円軌道を表す。図6(c)は、ターゲット60を追跡し、インターセプトを可能とするのに必要となる任意のマヌーバを実行する追尾機62を示す。図6(d)は、追尾機62のインターセプト部とターゲット60との間に形成される可撓性または剛性のリンク65の架設を示す。図6(e)は、新たな軌道67が運動量保存の原理のみにより定められる例における、一体化したインターセプト機とターゲットとの複合物66がインターセプト後に取ることとなる新たな楕円軌道を示す。この軌道は、複合物の増大した質量に起因して、ターゲットの初期軌道64よりも地球に近くなる。しかし、そのような軌道は、地球の大気圏への軌道離脱を可能とするものではなく、よって軌道脱離が必要な場合は、図6(f)に示すような、軌道を地球の大気圏へと導くためのマヌーバが実行される。軌道離脱軌跡68は、上述の第2楕円軌道を表す。
【0076】
示されている例において、ターゲット物体のインターセプトおよび軌道離脱は、地球の軌道を1周回するうちに実現される。従って、ビークルは、ターゲットと係合し、それを時間的に連続した2つの部分からなる、単回制御された軌跡で地球の大気圏へと導くミサイルと考えることができる。よってビークルは、スペースデブリと共に燃焼する前の単回の軌道離脱ルーチンに好適な、「単発」のビークルである。一連のインターセプトビークルを製造することで、複数の異なる物体を回収することができ、ビークルの軌道離脱により、それら自体がスペースデブリの問題を助長しないことが確実になる。
【0077】
図7は、本発明で用いられる制御方法の段階を示すフローチャートを示す。当該制御方法は、地上局から実施される。
【0078】
段階S1は、回収されるターゲット物体の識別である。これは、レーダ、望遠観測などで得られた宇宙画像から物体を選択することにより実現される。物体は、例えば、スペースデブリを表すものとして既知である所定のサイズまたは形状に一致するサイズまたは形状のものであってよい。例えば廃棄済みの燃料タンクのサイズおよび形状は、宇宙画像に対して実行されるパターン認識アルゴリズムを用いてそのような物体が識別され得るように、予め決定されることがある。代替的に、物体は、画像から手動で識別されてよい。
【0079】
任務が特定のタイプの物体をインターセプトするためのものである場合、選択されるターゲット物体に応じて、ターゲット物体についての情報は事前に既知であり得る。他のターゲット物体は事前に未知であり得、観測によってのみ識別され得る。そのような場合、ターゲット物体についての情報は、画像自体を処理すること、例えば物体のサイズ、その速度、その軌道、角運動量、密度などを観測することで決定されなくてはならない。
【0080】
ターゲット物体を識別すると、ターゲット物体を追跡する段階S2がそれに続く。これは、インターセプトビークルの第1楕円軌道および第2楕円軌道を決定する段階S3を実行するのに必要となる。追跡は、レーダまたは光学的観測のような任意の従来技法を用いて実行される。追跡の結果は、宇宙空間でのターゲット物体の軌跡のプロットである。
【0081】
段階S3では、インターセプトビークルの第1楕円軌道および第2楕円軌道が計算される。この計算は、ターゲット物体のインターセプトが行われる位置、および軌道離脱が行われる位置の識別に基づく。これは、予め決定されてよく、地球へ戻るいかなるスペースデブリも有害にならない太平洋上の位置などであってよい。加えて、この計算は、インターセプトビークルの発射位置および可能な発射軌跡に基づく。
【0082】
インターセプトの特徴は、インターセプト部および係合手段の設計、ならびに、図2aまたは図2bのいずれに示すタイプのインターセプトを用いてインターセプトが行われるかに基づいて、最初に決定される。このことから、インターセプトビークルがインターセプトポイントに対してどれだけ近くまで進行する必要があるか、および、ターゲット物体の牽引、またはターゲット物体のビークルとの結合など、どのような軌道離脱ルーチンが必要となるかが決定され得る。
【0083】
第1楕円軌道と第2楕円軌道との間での遷移は、段階S1で事前に求められる、インターセプトビークルの質量およびターゲット物体の質量を考慮することにより計算される。ターゲット物体の軌道も考慮すると、相対質量から楕円の離心率の変化が求まり、これは上述したような第1軌道から第2軌道への遷移時に起こることが見込まれ得る。
【0084】
第1楕円軌道および第2楕円軌道は、第1軌道から第2軌道への遷移が可能な限り最小量の修正モーションで行われることを可能とする態様で最適化される。この計算を行うべく、インターセプトビークルの軌跡は、第1ゾーンと第2ゾーンとの間で可能な限り滑らかであるべきである。換言すると、第1軌跡と第2軌跡との間の境界での、時間に対する軌跡の変化率が最小化されるべきである。
【0085】
図8aは、点線で表される遷移ポイントでの軌跡の変化率が高いことを表す、第1楕円軌道80および第2楕円軌道81の例を示す。一方、図8bは、それよりはるかに連続的な軌跡を表す、第1楕円軌道82および第2楕円軌道83の例を示す。軌道は、図8aよりも図8bのものに近い構成が得られるように計算される。
【0086】
そのような構成は、軌道の発射軌跡とインターセプトポイントとの間の関係を定める連立方程式、インターセプトポイントおよび軌道離脱の位置、ならびに、インターセプトビークルおよびターゲット物体の相対質量、すなわち第1楕円軌道および第2楕円軌道の相対的な離心率に基づいて得られる。これらの連立方程式は、極座標で表される軌跡を表すパラメータ、つまり、(楕円の焦点のような)特定の原点および動径方向に対する時間の関数として表される動径r(t)および角度θ(t)に関して記述される。
【0087】
連立方程式の最適解から第1楕円軌道と第2楕円軌道との組が得られ、これらは、ビークルが宇宙空間にあるときにこれらの軌道の維持が可能となるよう、インターセプトビークルのメモリに行程としてプログラミングされる。
【0088】
段階S4は、宇宙ビークルの発射の制御を行うものである。これは、発射軌跡の制御および発射タイミングの制御という2つの側面を有する。意図される第1楕円軌道が既知であり、ターゲット物体の運動が既知であるとすれば、各々の制御は、特定の時点で特定のターゲットと係合するように軌跡およびタイミングが定められるという意味で、ミサイルの発射に類似するものである。従って、ビークルの発射は、発射軌跡から第1楕円軌道へのインターセプトビークルの遷移、第1楕円軌道を通ってのインターセプトポイントへのビークルの移動、およびターゲット物体のインターセプトが所定の態様で行われるよう、比較的従来の態様で制御され得る。
【0089】
宇宙ビークルが発射されると、地上局から実行される残りの活動は、ターゲット物体とインターセプトビークルとの両方の追跡の継続処理に関する。そのような活動は様々な形態をとり、本説明では、図7のフローチャートにおける「任務制御」段階S5として一般化される。
【0090】
追跡は、上述のようにインターセプトビークルが特定の軌道から逸れた場合に修正動作が制御され得るようにするものである。ビークルはそれ自体で、ターゲット物体の追跡を実行することができ、追跡情報を処理のために地上局へリレーすることができる。処理の一部として、銛のような係合手段の作動の制御は、インターセプトが適正な場所で行われることを確実にするよう制御され得る。
【0091】
加えて、発射段の切り離しの制御は、ビークルが第1楕円軌道に入ってからはインターセプトセクションのみが残るように、地上局から実行され得る。最後に、軌道離脱が安全に行われることを確実にするように、インターセプトセクションとインターセプトされたターゲット物体とからなる複合物体の追跡が実行され得る。
【0092】
説明されるまたは示される要素の一部または全部の交換に基づいた、特許請求の範囲により定められる本発明の範囲内に収まる上述の実施形態への変更が、上記でなされてよいことを理解されたい。さらに、本発明の特定の要素が、既知の構成要素を用いて部分的にまたは完全に実装され得る場合、そのような既知の構成要素のうち、本発明の理解に必要な部分のみが説明されており、そのような既知の構成要素の他の部分についての詳細な説明は、本発明を不明瞭にしないよう省略されている。本発明において、本明細書に別段の明示的な記載のない限り、単数の構成要素を示す実施形態は、同様の構成要素を複数含む他の実施形態を除外するべきでなく、その逆も同様である。さらに本発明は、本明細書において例示として言及された既知の構成要素の、現在および将来における既知の均等物を包含する。
【0093】
前述の説明は、本明細書で説明されている様々な実施形態を当業者が実施することを可能するよう提供されている。これらの実施形態に対する様々な変更が、当業者には容易に明らかとなり、本明細書において定められる一般的な原理は、他の実施形態にも適用され得る。よって、特許請求の範囲は、本明細書に示され、説明されている実施形態に限定されるのではなく、特許請求の範囲の文言に沿う限りの範囲が与えられるよう意図されている。ここで、単数の要素への言及は、具体的な記載のない限り「1つかつ1つのみ」ではなく「1つまたは複数」を意味するよう意図されている。本開示全体にわたって説明されている様々な実施形態の要素の、当業者に既知であるまたは後に既知となるあらゆる構造的および機能的な均等物が、特許請求の範囲に包含されることが意図されている。
図1
図2a
図2b
図3a
図3b
図3c
図4
図5
図6
図7
図8a
図8b