(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、このような不織布濾過材を襞折りしてエアクリーナエレメントにする際には、襞折りした不織布濾過材の周囲を取り囲むように樹脂製の枠体を一体に成形したり、襞折りした不織布濾過材の周囲をプレス加工して枠体に相当する部分を成形する必要がある。この時、襞折りの間隔や姿勢などの形状が適切に維持されるよう、櫛歯状の金型を準備して、櫛歯状の金型で襞折りされた不織布濾過材を挟み込むようにして保持し、枠体の成形が行われる。
【0007】
しかしながら、櫛歯状の金型に襞折りされた不織布濾過材を挟み込む作業はなかなか難しい作業である。金型の襞を飛ばしてしまったり、金型の一つの襞に不織布の襞を2つ押し込んでしまったりすれば、正規の襞折り形状とならず、エアクリーナエレメントの成形品として不良品となってしまう。また、金型を型締めする際に、他方の金型の襞が、不織布の襞の間にうまく入り込んでいかずに不織布が破れてしまい不良品となることがある。
このような不織布濾過材のセット作業を簡単にするためには、金型と不織布濾過材のクリアランスを大きくすることが好ましいが、クリアランスが大きくなると、隙間から樹脂が不織布表面に漏れ出すなどして、エアクリーナエレメントの成形品として不良品となってしまうため、クリアランスを大きくすることには限界がある。
【0008】
また、襞折りされた不織布濾過材を用いたエアクリーナエレメントが一見うまく成形できたように見えても、ダスト試験をしてみると期待する濾過性能が得られない、あるいは、ろ過性能にばらつきが生じ、濾過性能について十分な信頼性が得られないことがある。発明者らがその原因を調べたところ、そのような場合には、不織布濾過材の一部からダスト漏れが生じていることが多いことが判明した。
【0009】
また、エアクリーナエレメントの下流側には、空気流量センサー(エアーフローメーター)が配置されることが多いが、流量センサーの出力が安定しない、すなわち、流量センサーの出力ノイズが生ずることがある。この出力ノイズ(不安定な出力変動)が生ずる原因は明らかではないが、その低減が望まれている。
【0010】
本発明の目的は、エアクリーナエレメントの下流側に配置される流量センサーの出力ノイズを小さくする点にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者は、襞折りされた不織布濾過材のろ過性能の信頼性低下の原因について鋭意検討した。その結果、襞折りされた不織布濾過材を金型に挟み込んで型閉じする際に、金型に引っ張られて不織布濾過材の一部が引き伸ばされて薄くなっていることを発見した。そして、その部分のろ過性能が低下し、それが一因となって、不織布濾過材のろ過性能の信頼性低下が生じていることを突きとめた。そして、発明者は、不織布濾過材の密層側の面の摩擦係数を低下させると、上記課題が解決されることを知見し、本発明を完成させた。
【0012】
本発明は、自動車の内燃機関に供給する空気をろ過するためのエアクリーナの下流に設けられる流量センサーのノイズを小さくする方法であって、前記エアクリーナは、不織布濾過材
が襞折りされたフィルタ材を備え、前記不織布濾過材は、空間率が異なる不織布層が積層された積層構造を有する不織布濾過材であって、露出する不織布層のうち少なくとも空間率が小さい側の不織布層の露出面の静摩擦係数が0.3以下とされる、流量センサーのノイズを小さくする方法である(第1発明)。第1発明においては、露出する不織布層のうち少なくとも空間率が小さい側の不織布層がフッ素系処理剤もしくはシリコーン系処理剤で処理されていることが好ましい(第2発明)。
【発明の効果】
【0014】
本発明(第1発明、第2発明)によれば、不織布濾過材下流側に配置される流量センサーの出力ノイズが小さくなる
。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下図面を参照しながら、自動車の内燃機関(エンジン)に供給する空気をろ過するためのエアクリーナのフィルタ材として利用可能な不織布濾過材を例として、発明の実施形態について説明する。発明は以下に示す個別の実施形態に限定されるものではなく、その形態を変更して実施することもできる。
【0017】
図1は、発明に係る第1実施形態の不織布濾過材1の断面構造を示す模式図である。本実施形態の不織布濾過材はシート状の不織布であって、自動車エンジンのエアクリーナ用に供される場合には、通常、襞折りされた状態で枠に固定されたエアクリーナエレメント2として使用される。
図2にエアクリーナエレメントの構造を模式的に断面図で示す。エアクリーナエレメント2は襞折りされた不織布濾過材1の周囲を枠体21で囲って一体化し、枠体21の周囲にシール部材22、22を設けて構成される。枠体21は、典型的には襞折りした濾過材を金型内に配置したインサート射出成型により形成される。エアクリーナエレメントの具体的構成としては、公知の構成が採用でき、特に限定されない。エアクリーナエレメント2は、枠体21やシール材22を有しない構成であってもよい。
【0018】
不織布濾過材1は、空間率が異なる複数の不織布層を積層した多層構造の不織布濾過材である。各不織布層の具体的構成は特に限定されない。本実施形態の不織布濾過材1は、粗層部11、密層部12を有しており、各層が互いに一体化されている。空気の流れ方向と空間率の高低の関係は特に限定されない。本不織布濾過材においては、
図1に不織布濾過材が使用される際の気流の流れを矢印で示すように、上流側に粗層部11が、下流側に密層部12が設けられている。
【0019】
粗層部11は、密層部12よりも、不織布層のかさ密度が低い。換言すると、粗層部11は、密層部12よりも、不織布層の空間率が高い。本実施形態の不織布濾過材1は、上流側に粗層部11を有し、下流側に密層部12を有し、密度勾配を持っている。密度勾配は連続的なものであってもよい。
【0020】
ここで不織布層の空間率とは、不織布層の単位体積当たりに占める空間体積(不織布層全体が占める体積から繊維が占める体積を除いた体積)を百分率で示した値である。不織布層が粗であるとは、空間率が大きいことを意味し、不織布層が密であるとは、空間率が小さいことを意味する。粗層部11の好ましい空間率は90〜99.5%程度である。また、密層部12の好ましい空間率は80〜95%程度である。
【0021】
不織布濾過材の粗層部11と密層部12の不織布層の目付は特に限定されないが、粗層部11の目付が、40〜200g/平方メートル程度、密層部12の目付が、70〜300g/平方メートル程度であることが好ましい。
【0022】
不織布濾過材1は、粗層部11、密層部12以外の層を有していてもよい。例えば、粗層部11よりも上流側に、プレフィルタ層を有していてもよい。あるいは、粗層部11と密層部12の間に中間層を設けてもよい。あるいは、密層部12の下流側にスパンボンド不織布層を設けてもよい。なお、これら他の層を設けることは必須ではない。また、3層以上の不織布層が存在する場合には、それぞれの層の空間率は徐々に、例えば、上流から下流に向かうにしたがって徐々に空間率が小さくなるように構成されることが好ましいが、これは必須ではなく、空間率の大小は、各層に要求される特性に応じて適宜定めればよい。
【0023】
不織布濾過材1では、露出する不織布層のうち少なくとも空間率が小さい側の不織布層がドライ層とされることが好ましい。ここで、ドライ層とは、不織布層に実質的にオイルが含浸・塗布されていない層のことである。本実施形態においては、下流側の層である密層部12がドライ層とされており、さらに粗層部11もドライ層とされている。これら層がドライ層であると、使用時に、これら不織布層の内部に多量のダストを保持する体積濾過が実現されるとともに、微粒子ダストの捕捉性能が向上する。また、特に不織布濾過材全体がドライ層で構成されていると、不織布の取り扱い性が良くなり、エアクリーナエレメントへの加工工程が行いやすくなる。なお、ドライ層からなる不織布濾過材をエアクリーナエレメントに加工した後に、オイルを含浸させていわゆるビスカス濾過材として使用に供することもできる。
【0024】
粗層部11や密層部12を構成する繊維の材質や平均繊維径や捲縮の度合い、不織布化の方式などは、公知の技術が利用できる。芯鞘繊維や複合繊維を用いてもよい。本実施形態の不織布濾過材のように、粗層部と密層部を設ける場合には、両者を比較して、粗層部を太い繊維で構成し、密層部12を細い繊維で構成することが好ましい。粗層部11を構成する繊維の好ましい平均繊維径は15〜40μm程度である。また、密層部11を構成する繊維の好ましい平均繊維径は5〜20μm程度である。
【0025】
不織布濾過材1においては、露出する不織布層のうち少なくとも空間率が小さい側の不織布層の露出面の静摩擦係数が、後述する測定方法で測定して、0.3以下とされている。すなわち、本実施形態においては、密層部12の側の静摩擦係数が0.3以下とされている。不織布濾過材の両面の静摩擦係数が0.3以下とされていることが特に好ましい。
【0026】
不織布濾過材の摩擦係数の測定方法について説明する。摩擦係数の測定はJISP8147の水平法に準拠して以下のように行う。試験方法を
図4に模式的に示す。
まず、水平に配置された試験用平面4を準備し、ここに、試験対象の不織布濾過材1を摩擦係数を測定すべき面が上になるように、両面テープなどによって固定する。不織布濾過材1の上に、摩擦試験用のおもり3を置いて、糸や滑車等を利用して、おもり3に水平方向の力を加え、摩擦力を測定する。
【0027】
摩擦試験用のおもり3は、不織布表面と接触する面が平滑(Ra=0.40程度)に加工された、金属製の直方体状ブロックである。おもり3の接触面の面積は40平方センチメートルとされ、質量は2キログラムであり、おもり3の接触面に、4.9キロパスカルの均一な加圧力がかかるようにされている。
このように、不織布表面に対しおもり3が押し付けられた状態のもとで、水平方向におもりを引っ張って、おもりが動き出す際の引っ張り力を測定し、計測された動き始めの摩擦力を押圧力で除して、静摩擦係数を求める。
【0028】
なお、JISP8147においては、おもり3と試験用平面4の間に1対の不織布を挟み、不織布同士をこすりあわせるように試験を行うよう規定されているが、本発明は金型表面と不織布との間の摩擦に関するものであるため、本発明における不織布の摩擦係数は、
図4に示すように、金属製のおもりの表面と不織布表面の間の摩擦を測定したものを、摩擦係数として扱う。他の点については、JISP8147にそのまま準拠して試験を行えばよい。
【0029】
不織布層表面の摩擦係数を下げる手段はとくに限定されないが、フッ素系処理剤もしくはシリコーン系処理剤を用いて、摩擦係数を低下させることが好ましい。摩擦係数を下げるために、空間率が低い側の不織布層の表面にカレンダー処理をしたり、微粒子粉末を付着させてもよい。
【0030】
本実施形態の不織布濾過材1においては、密層部12がフッ素系処理剤もしくはシリコーン系処理剤により処理されていて、これら処理剤が、不織布繊維の表面に付着して、摩擦を低下させる。フッ素系処理剤もしくはシリコーン系処理剤を用いると、不織布層表面の静摩擦係数を効果的に下げることができ、静摩擦係数が0.3以下に入りやすくなる。不織布層に対するフッ素系処理剤もしくはシリコーン系処理剤による処理は、不織布層全体に対し処理が行われていることが好ましいが、これに限定されず、例えば、密層部12のうち露出面に近い表層部だけがこれら処理剤で処理されていてもよい。
また、露出する不織布層のうち空間率が小さい側の不織布層(密層部12)以外の不織布層(例えば粗層部11)も、フッ素系処理剤もしくはシリコーン系処理剤により処理してもよい。
【0031】
第1実施形態の不織布濾過材1の製造方法について説明する。不織布濾過材1は、粗層部11、密層部12になるべきそれぞれの繊維集合体(ウェブあるいは不織布)を積層させる積層工程と、その積層体にニードルパンチ処理などを行う一体化工程、及び不織布表面を低摩擦化する処理を施す低摩擦化処理工程を含む、不織布製造方法により製造することができる。不織布濾過材1の製造過程の例を
図3にフローチャートで示す。
【0032】
積層工程においては、まず、粗層部を構成する原料繊維を開繊・混紡し、計量・給綿工程を経て粗層部となるべき粗層ウェブを得る。同様に、密層部を構成する原料繊維を開繊・混紡し、計量・給綿工程を経て密層部となるべき密層ウェブを得る。次いで、密層部となるべき密層ウェブの上に、粗層部となるべき粗層ウェブを積層する。以上が積層工程である。
【0033】
次いで、一体化工程を行う。一体化工程では、得られた積層体をニードルパンチして、粗層部や密層部が所定の空間率となるように制御しながら、積層体の各層を互いに一体化する。ニードルパンチの深さや密度などは、適宜調整される。ニードルパンチによる一体化工程を経ることで、各層の構成繊維が互いに交絡して各層がしっかりと一体化され、粗層ウェブや密層ウェブが所定の空間率や厚みの粗層部11や密層部12になっていく。必要に応じ、一体化工程の一部としてバインダ処理を行ってもよい。
【0034】
一体化工程に引き続き、低摩擦化処理工程を行う。低摩擦化処理工程では、少なくとも、露出する不織布層のうち少なくとも空間率が小さい側の不織布層を、例えば、フッ素系処理剤もしくはシリコーン系処理剤により処理して、静摩擦係数が0.3以下となるように処理する。低摩擦化処理工程としては、フッ素系処理剤もしくはシリコーン系処理剤で処理する方法や、カレンダー加工により不織布表面を滑らかにして低摩擦化する方法などが例示される。好ましくは、フッ素系処理剤もしくはシリコーン系処理剤により低摩擦化処理がなされる。
【0035】
フッ素系処理剤もしくはシリコーン系処理剤により低摩擦化処理を行う場合には、例えば溶剤で溶融・希釈したフッ素系処理剤もしくはシリコーン系処理剤の処理液を、不織布濾過材の露出面に塗布し、溶剤を揮発させて、露出する不織布構成繊維の表面をフッ素系処理剤もしくはシリコーン系処理剤が覆うように処理すればよい。
【0036】
あるいは、少なくとも露出する不織布層のうち空間率が小さい側の不織布層を、フッ素系処理剤もしくはシリコーン系処理剤を含むバインダ液に浸漬処理して、低摩擦化処理を行ってもよい。
低摩擦化処理剤を含むバインダ液でバインダ処理工程を行えば、バインダにより繊維の交点部分が固定され、不織布層の構造の維持や一体化に寄与しつつ、同時に低摩擦化処理ができて、不織布濾過材の製造が効率的である。使用するバインダには特に限定されない。また、低摩擦化処理を兼ねるバインダ処理は、不織布全体に対して行ってもよい。
【0037】
また、不織布濾過材1の製造方法は、
図3に示したような、一体化工程の後で低摩擦化処理を行う製造方法に限定されない。例えば、低摩擦化処理は、積層工程と並行して行ってもよく、例えば、密層部となるべき不織布や密層部ウェブに対し、あらかじめフッ素系処理剤で低摩擦化処理を行った上で、これら密層部となるべき不織布や密層部ウェブを積層・一体化して、不織布濾過材1を得ることもできる。
【0038】
上記不織布濾過材1の作用および効果について説明する。
不織布濾過材1は、露出する不織布層のうち少なくとも空間率が小さい側の不織布層の露出面の静摩擦係数が、0.3以下とされている。そのため、金型を型閉じする際に、不織布が金型に引っ張られて一部が薄くなってしまうことが抑制される。したがって、得られるエアクリーナエレメントの濾過性能の信頼性を高めることができる。
【0039】
発明者の検討によれば、空間率が小さい側の不織布層の露出面は、空間率が大きい側の不織布層の露出面に比べ、摩擦係数が大きくなりがちであり、空間率が小さい側の不織布層の露出面の摩擦係数を下げることが重要である。また、空間率が小さい側の不織布層の露出面の摩擦係数を下げておけば、型開きした金型に襞折りした不織布濾過材をセットする際には空間率が大きな不織布の側が金型と接触するように手作業でセットし、金型を型閉じする際には、閉じる金型の櫛歯表面が、空間率が小さい側の不織布層の露出面と接触しこすり合わされながら型閉じされるようにできる。そのため、不織布が金型に引っ張られて薄くなってしまうことが効果的に抑制される。
【0040】
また、金型を型閉じする際に不織布が金型に引っ張られることが抑制されれば、不織布濾過材を襞折りして成形して得られたエアクリーナエレメントにおいて、局所的に不織布が薄くなってしまった部分や、逆に不織布が集まって押し固められた部分が生じにくくなる。エアクリーナエレメントにおいて、局所的に不織布が薄い部分や厚い部分が偏在して生じてしまうと、エアクリーナエレメントを通過する気流の分布に不均一さが生ずる。この不均一さが、エアクリーナエレメントの下流側の空間における気流に乱れを与え、流量センサーの出力ノイズ(出力変動)を大きくすると考えられる。従って、上記不織布濾過材1によれば、成形されるエアクリーナエレメントにおいて、局所的に不織布が薄い部分や厚い部分が生じにくくなり、その結果、流量センサーの出力ノイズが小さくなる。
【0041】
また、露出する不織布層のうち少なくとも空間率が小さい側の不織布層がフッ素系処理剤もしくはシリコーン系処理剤で処理されていると、処理剤により静摩擦係数を効果的に下げることができ、不織布濾過材の濾過性能の信頼性を高め、流量センサーの出力ノイズを小さくできる。また、フッ素系処理剤もしくはシリコーン系処理剤により低摩擦化処理された層では、不織布層を構成している繊維表面の摩擦が小さくなっているので、その層でダストが目詰まりすることが抑制される。そのため、不織布濾過材の寿命を伸ばすことができる。
【0042】
また、所定の積層構造に不織布層を積層一体化した後に、フッ素系処理剤もしくはシリコーン系処理剤を含む処理液を、不織布濾過材の下流側に露出する面に塗布して、不織布濾過材1を製造するようにすれば、下流側に露出する面だけを処理液で処理でき、処理剤を節約して、効率的に低摩擦化処理された不織布濾過材を得ることができる。
【0043】
発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の改変をして実施することができる。以下に発明の他の実施形態について説明するが、以下の説明においては、上記実施形態と異なる部分を中心に説明し、同様である部分についてはその詳細な説明を省略する。また、以下に示す実施形態は、その一部を互いに組み合わせて、あるいは、その一部を置き換えて実施できる。
【0044】
積層される不織布層の具体的構成は特に限定されない。上記第1実施形態では、粗層部11と密層部12の2層構造の不織布濾過材を例示したが、これに限定されず、層の構成は、3層構造や4層、5層構造であってもよい。また、空間率が連続的に変化するような不織布濾過材で合ってもよい。また、露出する不織布層のうち空間率が小さい側の不織布層は、スパンボンド不織布層やメルトブロー不織布層など、粗層部11や密層部12とは繊維の配置構造が異なる不織布層であってもよく、あるいは織布層であってもよい。
【0045】
空間率が小さい側の不織布層をスパンボンド不織布層やメルトブロー不織布層により構成すると、これら不織布が比較的平面状に構成繊維が配向された不織布であることとあいまって、静摩擦係数を効果的に下げることができ、上記効果を得ることに対し、より貢献する。
【0046】
また、上記不織布濾過材1を製造するにあたって、所定の積層構造に不織布層を積層した後に、フッ素系処理剤もしくはシリコーン系処理剤を含むバインダにより、少なくとも密層部12を浸漬処理するようにすると、不織布の交絡構造を維持するためのバインダ処理と低摩擦化処理を同時に行うことができて、不織布濾過材1の製造を効率的に行うことができる。
【0047】
また、フッ素系処理剤もしくはシリコーン系処理剤を含むバインダ液によるバインダ浸漬処理を、不織布濾過材1の全体に対し行うようにすると、不織布層の両面ともが低摩擦化処理された不織布濾過材を効率的に製造できて、エアクリーナエレメントの製造を効率的に行う観点から特に好ましい。
【0048】
また、上記実施形態の説明においては、自動車のエンジン用のエアクリーナエレメントに用いられる不織布濾過材を例として説明したが、不織布濾過材の用途は、これに限定されず、例えば、燃料電池に供給する空気のエアクリーナや、組電池などを冷却する冷却風用のエアクリーナや、空調用の空気を濾過するためのエアクリーナなど、不織布濾過材が襞折り状態でエアクリーナエレメントにされて空気の濾過に用いられる用途であれば、広く応用できる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
また、以下に示す実施例や比較例において、いずれの例における濾過材も、相違する旨の記載のない繊維の材質や厚みや目付け量、積層された層の間の密度勾配等の構成は、実質的に同じであり、試験に供する際に成形したフィルタエレメントの形状や襞折りの仕様も同一としている。実施例及び比較例の層の構成や性能評価結果を表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
(実施例1)
実施例1は、上記第1実施形態として説明した不織布濾過材1である。粗層部11はPET繊維製であり、目付は50g/平方メートル、空間率は99.3%、粗層部11を構成する繊維の平均繊維径は21μmである。密層部12はPET繊維製であり、目付は200g/平方メートル、空間率は93.5%、密層部12を構成する繊維の平均繊維径は14μmである。実施例1の不織布濾過材1では、密層部12全体をフッ素系処理剤で処理して低摩擦化処理がされている。低摩擦化処理は、不織布を一体化した後に、密層部全体に処理剤が行き渡るように、密層部12側の面にフッ素系処理剤を含む処理液を塗布することにより行った。実施例1の不織布濾過材の密層部側露出面の静摩擦係数は0.24であった。
【0052】
(実施例2)
実施例1に対し、低摩擦化処理をシリコーン系処理剤によるものに変更し、他は実施例1と同様の構成とした。実施例2の密層部側露出面の静摩擦係数は0.25であった。
【0053】
(実施例3)
まず、空間率や繊維径などの繊維構成が実施例1の密層部に近く、目付が60g/平方メートルである不織布に対し、フッ素系処理剤により低摩擦化処理を行った不織布を製造した。その低摩擦化不織布を基布として、その上に、密層部ウェブ(目付140g/平方メートル)と粗層部ウェブを積層し、ニードルパンチして一体化し、全体としてはほぼ実施例1と同様の繊維構成を有する3層構造の不織布濾過材を得た(実施例3)。実施例3の基布側(下流側)の露出面の静摩擦係数は0.26であった。
【0054】
(比較例1)
実施例1に対し、密層部に対するフッ素系処理剤による低摩擦化処理を行わなくした例である。繊維構成等は実施例1と同様の構成としている。なお、この比較例1では、密層部側の面の静摩擦係数は0.4であった。
【0055】
(比較例2)
比較例1に対し、密層部にフッ素加工した繊維を20重量%混紡した例である。密層部側の面の静摩擦係数は0.34であった。
【0056】
(比較例3)
実施例3に対し、基布に対する低摩擦化処理を行わなくした例である。繊維構成等は実施例3と同様の構成としている。なお、この比較例3では、基布側(下流側)の面の静摩擦係数は0.36であった。
【0057】
得られた実施例、比較例の不織布濾過材を用いて、同じ金型を使用して、襞折りされた不織布濾過材の周囲に枠体21をインサート成形し、エアクリーナエレメントの試験体を得て、以下の試験を行った。
【0058】
(ダスト試験)
ダストの捕捉性能についての性能評価を行った。
各実施例、比較例により得られたエアクリーナエレメントをダスト試験に供した。JISD1612(自動車用エアクリーナ試験方法)に準じて、JIS−8種ダストについてダスト捕捉量試験、ダスト捕捉性能試験を行った。その試験条件を下記に示す。なお、試験はエアクリーナエレメントのサンプルを7個準備し、それぞれに対して試験を行い、測定結果の平均値やメジアン(センター値)と、上限−下限のばらつきを評価した。
【0059】
濾過材有効濾過面積:0.18平方m
試験ダスト:一般ダスト(JIS−8種)
ダスト供給量:4.2g/分
試験流量:4.2立方m/分
通気抵抗:濾過材の上流と下流の間の差圧
増加通気抵抗が2.94kPaに達したときをフルライフとし、それまでに捕捉したダストの量(ダスト捕捉量)を寿命(ライフ)とする。
ダスト捕捉性能については、エアクリーナエレメントに捕捉されたダストの量(A)と、エアクリーナエレメントを透過して下流に設けられたアブソリュートフィルタに捕捉されたダストの量(B)とを測定して、ダストの総量(A+B)のうち、どの割合でエアクリーナエレメントに捕捉されたか(A/(A+B))を百分率で求めたものをダスト捕捉効率(清浄効率)とした。
【0060】
(出力ノイズ試験)
各実施例、比較例のエアクリーナエレメントを、エアクリーナケースに組み込んで、出力ノイズ試験に供した。出力ノイズ試験では、エアクリーナに試験流量(4.2立方m/分)の空気を流して、エアクリーナの下流側のダクトに設けられた流量センサー(エアフローメーター)の出力を測定した。流量が一定であれば流量センサーの出力は一定値であるべきであるが、ノイズ(不安定な出力変動)を含んでいる。時系列で得られる流量センサーの出力から1000点のデータサンプリングを行い、出力の平均値(m)と標準偏差(σ)を求めた。得られた標準偏差の2倍(2σ)を出力の平均値(m)で除したもの(2σ/m)を流量センサの出力ノイズとして百分率で求めた。出力ノイズ試験はそれぞれの例に対し7個のサンプルで行い、各サンプルの出力ノイズのメジアン(センター値)と、上限−下限のばらつきを評価した。
【0061】
試験結果を表1に示している。
密層側の摩擦係数が0.3を下回るようにされている実施例1ないし実施例3によれば、比較例1ないし比較例3に対し、ダスト試験での清浄効率が若干向上している。特に、複数の試験サンプルの間で生ずるばらつきが小さくなっている。実施例1ないし実施例3では、清浄効率のばらつきが、0.2に収まっているのに対し、比較例1ないし比較例3では、ばらつきがそれぞれ、0.8、0.5、0.5と大きくなっている。また、比較例では、清浄効率のばらつきの下限のものについては、99%を切るものが出てくるなど、実施例の下限に比べ見劣りする結果となった。
実施例1ないし実施例3の不織布濾過材のものが、清浄効率の信頼性が高いといえる。
【0062】
また、いずれの実施例においても、対応する比較例に対し、ダストに対する濾過材の寿命(ライフ)を改善できている。実施例1及び実施例2は比較例1に対し、12g、10g(20%弱)もライフを改善できている。また、実施例3も比較例3に対し、5g(10弱)改善できている。
【0063】
また、密層側の摩擦係数が0.3を下回るようにされている実施例1ないし実施例3によれば、比較例1ないし比較例3に対し、流量センサーの出力ノイズが小さくなっている。出力ノイズのセンター値で比べても、各実施例が1.9%、2%、2%であるのに対し、比較例では3%、2.3%、2.6%であり、実施例の出力ノイズが小さい。また、出力ノイズのばらつきで見ても、実施例おけるノイズのばらつき(MIN−MAXの差)が、0.3〜0.4であるのに対し、比較例では、1.3、0.6、0.9とばらつきが大きい。そして、出力ノイズのばらつきの上限が、実施例では2.1ないし2.2に抑えられているのに対し、比較例では、3.6、2.6、3.1と、かなり出力ノイズが大きいサンプルがある。
実施例1ないし実施例3の不織布濾過材のものが、流量センサーの出力ノイズを低減できている。