(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ゴルフクラブの市場においては、より良好な反発性能が常に求められており、鍛造製法によるアイアンゴルフクラブにおいても、更なる反発性能の向上が求められている。
【0006】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、従来のアイアンゴルフクラブに比べて、反発性能をより高めることのできるアイアンゴルフクラブヘッド、及びアイアンゴルフクラブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係るアイアンゴルフクラブヘッドは、ボールの打球部をなす本体部とシャフトが挿入されるネック部とを、一の材料より鍛造により一体成型したアイアンゴルフクラブヘッドにおいて、前記本体部の背面側には、該背面側の周縁を囲むキャビティ壁部が設けられ、前記キャビティ壁部のソール側の壁面には、当該アイアンゴルフクラブヘッドのトゥヒール方向に延在する溝部が設けられ、当該アイアンゴルフクラブヘッドのヘッド長とソール幅とを乗じて得られる領域の面積をS1とし、フェースが垂直になるように当該アイアンゴルフクラブヘッドを接地させた状態において、前記溝部の加工口枠を水平面に投影して得られる領域の面積をS2とし、前記溝部の加工質量をwtとした場合に、S1、S2、及びwtが、10.0<wt×S2/S1の関係を満たすことを特徴とする。
【0008】
これにより、多くの肉抜き加工を施すことができるようになる。この結果、ソール部の薄肉領域を、ヘッドのバック側まで十分に延伸させることができるので、フェース部の撓み量を大きくすることができ、反発係数を高めることが可能となる。
【0009】
また、前記溝部は、フェースの裏面直後に設けられる第1の溝部と、前記第1の溝部よりもバック側に設けられる第2の溝部と、より構成されることを特徴としている。また、前記第2の溝部は、前記第1の溝部のバック側の壁面に重なるように切削されており、前記キャビティ壁部のソール側の壁面に表れる前記第1の溝部、及び前記第2の溝部の加工口枠が2層のピラミッド形状をなすようにしてもよい。これにより、多くの肉抜き加工を施すことができるようになる。
【0010】
また、本発明によるアイアンゴルフクラブヘッドの溝部の加工方法は、ボールの打球部の背面側に、該背面側の周縁を囲むキャビティ壁部が設けられたアイアンゴルフクラブヘッドの溝部の加工方法であって、前記キャビティ壁部のソール側の壁面に、刃物を使用して第1の溝部を切削する第1の工程と、前記刃物を使用して、前記第1の溝部のバック側の一部と重なるように第2の溝部を切削する第2の工程とを備えることを特徴とする。これにより、作業工程を増やすことなく、多くの肉抜き加工を施すことができるようになる。
【0011】
また、本発明によるアイアンゴルフクラブヘッドの溝部の加工方法は、ボールの打球部の背面側に、該背面側の周縁を囲むキャビティ壁部が設けられたアイアンゴルフクラブヘッドにおける、前記キャビティ壁部に対する溝部の加工方法であって、前記キャビティ壁部のソール側の壁面に、刃物を使用して溝部を切削する第1の工程と、前記刃物を使用して、前記溝部のフェース側の壁部を削るようにして、前記溝部よりもフェース側に位置する溝部を切削する第2の工程と、を備えることを特徴とする。これにより、刃物を安定させた状態で多段状の溝部を加工することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るアイアンゴルフクラブヘッド、アイアンゴルフクラブ、及びアイアンゴルフクラブヘッドの溝部の加工方法によれば、従来に比べて多くの肉抜き加工を施すことができるので、ソール部の薄肉領域を、ヘッドのバック側まで十分に延伸させることができる。これにより、フェース部の撓み量を大きくすることができ、反発係数を大きくすることが可能となる。
【0013】
また、本発明によれば、溝部に相当する余剰質量をより多く得ることができるので、得られた余剰質量をトゥ・ヒール方向に適宜に配置することにより、トゥ・ヒール方向の慣性モーメントを大きくすることができるようになる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(実施の形態1)
図1は、本実施の形態1に係るアイアンゴルフクラブヘッド100(以下、適宜「ヘッド100」という。)の正面図を表し、
図2は、ヘッド100を背面から見た斜視図を表す。また、
図3はヘッド100の平面図を表し、
図4は、
図3におけるA−A断面図を表している。なお、
図1、及び
図3は、ヘッド100を、設定されているロフト角およびライ角となるように水平面に設置した状態(以下、「基準状態」という。)を示している。
【0016】
図1において、ヘッド100は、シャフトが接続されるネック部11と、ボールの打球部をなす本体部12とより構成される。ネック部11と本体部12は、鍛造成型により一の材料より一体的に形成されている。本体部12は、打球面をなすフェース部13と、ヘッド100の底部を構成するソール部14と、ヘッド100の上端縁部を構成するトップエッジ部15と、ネック部11の下端とソール部14とを接続するヒール部16と、ソール部14とトップエッジ部15とをヒール部16と対向する位置で接続するトゥ部17とを有している。
【0017】
ヘッド100の背面側には、
図2に示すように、フェース部13の背面側の周縁を囲むキャビティ壁部18が形成されており、このキャビティ壁部18によりキャビティ19が規定される。キャビティ壁部18の内側壁面のうち、ソール14側のキャビティ壁面を規定するソール側壁面18aには、溝部21が施されている。
【0018】
溝部21は、ソール側壁面18aにおいて、トゥ・ヒール方向(TH方向)に切削された溝である。
図3、及び
図4に示すように、溝部21は、フェース部13の裏面直後に切削される第1の溝部21aと、第1の溝部21aよりもバック側に形成される第2の溝部21bとより構成される。
【0019】
第1の溝部21a、及び第2の溝部21bは、同一の刃物を利用して切削される。第1の溝部21a、及び第2の溝部21bの加工に使用する刃物としては、例えばTスロットカッターを用いることができる。
図5は、鍛造後のヘッドに第1の溝部21aを切削した状態を示す断面図である。第1の溝部21aは、例えば
図5に示すように、鍛造後のヘッドのソール側壁面18aの、フェース部13の背面よりもバック側に若干オフセットした位置から、フェース面に対して10度程度の角度で切削される。
【0020】
第2の溝部21bは、第1の溝部21aを加工した後に、刃物の加工パスをバック側にずらし、
図4に示すように、第1の溝部21aのバック側の壁面の一部を削るようにして切削される。
【0021】
溝部21は、第1の溝部21aの加工パスと、第2の溝部21bの加工パスとが重なるように切削されており、かかる2段の切削加工により、ソール側壁面18aにおいては、
図3に示すように、第1の溝部21aを1段目とし第2の溝部21bを2段目とする2層の階段ピラミッド型の加工口枠FRが形成されている。以下、溝部21の構造を更に詳しく説明する。
【0022】
下記1)〜5)は、溝部21を説明するためのパラメータである。
1)AREA_1:ヘッド100のヘッド長hl×ソール幅swで定められる領域
2)S1:AREA_1の面積
3)AREA_2:溝部21の加工口枠FRを水平面へ投影して得られる領域
4)S2:AREA_2の面積
5)wt:溝部21の加工質量
定義1)において、ヘッド長hlは、
図6に示すように、フェース部13を垂直にしたヘッド100において、シャフトセンターラインSLとソール部14の交点P1を通る垂線と、トゥ側の先端点P2を通る垂線との間の水平距離である。ソール幅swは、
図7に示すように、フェース部13を垂直にしたヘッド100において、ソール部14を水平面へ投影して得られる投影面のフェース・バック方向(FB方向)の最長距離である。
【0023】
定義3)は、フェース部13を垂直にした状態における溝部21の加工口枠FRの投影領域である。また、定義5)において、wtは、ヘッド100の原材料である鉄鋼の
密度7.85
g/cm3を、溝部21の体積Vに乗じて求めた値である。溝部21の体積Vは、溝部21の加工口枠FRのバック側の辺とフェース側の辺の両端を結びつける真っ直ぐな線が作り出されるように溝部21を閉塞した状態の体積を測定している。
【0024】
以上の定義のもと、本発明における溝部21は、以下の条件(1)を満たしている。
10.0<wt×S2/S1 ・・・(1)
溝部21の加工領域が条件(1)を満たすことにより、ソール部14の薄肉領域を、ヘッドのバック側まで十分に延伸させることができる。これにより、フェース部13の撓み量を大きくすることができ、反発係数を大きくすることが可能となる。また、溝部21に相当する余剰質量を適宜に配置することで、TH方向の慣性モーメントを大きくすることができ、これにより、打点がブレた際にも打球方向を安定させることができる。
【0025】
wt×S2/S1の値は、上記の理由により大きいほうが好ましいが、ソール部14の耐久性を考慮した場合、wt×S2/S1の上限は15.0とするのが好適である。
【0026】
第1の溝部21a、及び第2の溝部21bは、条件(1)を満たす限りにおいて、それぞれの溝部の長さ、幅、及び深さを任意の値とすることができる。ここで、第1の溝部21aの長さla、第2の溝部21bの長さlbは、
図2における第1の溝部21a、及び第2の溝部21bのTH方向における直線長さである。第1の溝部21aの幅wa、及び第2の溝部21bの幅wbは、第1の溝部21a、及び第2の溝部21bのFB方向の長さである。
【0027】
また、第1の溝部21a、及び第2の溝部21bの深さは、第1の溝部21aの加工領域におけるソール部14の最薄部厚みta、及び第2の溝部21bの加工領域におけるソール部14の最薄部厚みtbにより表す。ソール部14の最薄部厚みta、及びtbは、
図4に示すように、ヘッド100を基準状態に置いた状態における垂直断面において、溝部21の内周面上の任意の点と、ソール部14の表面上の任意の点との距離が最も短くなる長さとしている。
【0028】
第1の溝部21aの長さlaは、例えば、フェース部13の有効たわみ長さを適切に変化させ得る40mm〜60mm程度とすることができる。「有効たわみ長さ」とは、フェース部13でボールを打撃した際に、フェース部13において主として撓み変形すると考えられる部分のトップ・ソール方向の長さをいい、より具体的には、キャビティ19の底面におけるトップエッジ15側端から第1の溝部21aの底面までの長さをいう。
【0029】
第1の溝部21aの幅waは、Tスロットカッターの刃厚に応じて、5.0mm〜10.0mm程度とすることができる。第1の溝部21aの深さは、第1の溝部21aが施されたソール部14における最薄部の厚みtaが、フェース部13の厚みと同等か、あるいはそれ以下の厚さになる程度にするのが好適である。
【0030】
第1の溝部21aの深さの例示として、フェース部13の厚み2.6mmに対して、ソール部14の最薄部厚みtaを2.0mm、フェース部13の厚み2.5mmに対して、ソール部14の最薄部厚みtaを1.5mm、また、フェース部13の厚み2.2mmに対して、ソール部14の最薄部厚みtaを1.4mmまでを下限とすることができる。なお、フェース部13の厚みは、キャビティ19の底面(フェース部13のバック側)における厚みで定義され、溝部21におけるフェースの厚みは考慮しない。また、キャビティ19の底面の厚みが部分的に変化する場合は、一番薄い箇所の厚みで定義する。
【0031】
第2の溝部21bの長さlbは、第1の溝部21aの長さよりも短い長さとすることができる。例えば、第1の溝部21aの長さla56mmに対して、48mmとすることができる。第2の溝部21bの幅wbは、第2の溝部21bのバック側に表れる辺がソール側壁面18a内に収まる範囲とすればよい。第2の溝部21bの深さは、第2の溝部21bの加工領域におけるソール部14の最薄部厚みtbが、第1の溝部21aの加工領域におけるソール部14の最薄部厚みtaと同等かそれ以上であればよい。
【0032】
本実施の形態1によるヘッド100は以上のように構成され、ヘッド100のネック部11にシャフトを挿入・固定することで、本発明に係るゴルフクラブを得ることができる。
【0033】
以上のように、本発明によるゴルフクラブヘッド100によれば、溝部21を、フェース部13の裏面直後に切削した第1の溝部21aと、第1の溝部21のバック側に重なるように切削した第2の溝部21bとにより構成することとしたので、多くの肉抜き加工を施すことができる。これにより、溝部21の加工面積比率と、加工質量とにより特定されるwt×S2/S1の値を10.0より大きくすることができる。この結果、ソール部14の薄肉領域を、ヘッド100のバック側まで十分に延伸させることができるので、フェース部13の撓み量を大きくすることができ、反発係数を大きくすることが可能となる。また、溝部21に相当する余剰質量を適宜に配置することで、TH方向の慣性モーメントを大きくすることができる。
【0034】
また、本発明によるアイアンゴルフクラブヘッドの溝部の加工方法によれば、第1の溝部21aと第2の溝部21bとを、同一のTスロットカッターを用いて加工パスをずらすことにより切削することとしたので、作業工程を増やすことなく多くの肉抜き加工を施すことができるようになる。
【0035】
なお、上記実施の形態1においては、溝部21の加工を、第1の溝部21aを切削した後に第2の溝部21bを切削したが、第2の溝部21bを先に切削した後に、第2の溝部21bのフェース部13側の壁部を削るようにして第1の溝部21aを切削してもよい。このように、長さの短い第2の溝部21を先に切削することにより、第1の溝部21aを、刃物を安定させた状態で加工することができる。
【0036】
また、溝部21は2層の階段ピラミッド型に限られず、同一の刃物を使用する限りにおいて、3層や4層の複数層にしてもよい。
【0037】
(実施例)
AREA_1の面積S1が異なる5種類の鍛造ヘッドに溝部21を加工し、本発明の実施例1〜5に係るヘッド100を作成した。実施例1〜5のいずれも、刃厚t=8.0mm、刃径Φ38mm、首径Φ10mmのTスロットカッターを用いて、溝部21a、及び溝部21bを加工した。第1の溝部21aと第2の溝部21bのサイズは、実施例1〜4でそれぞれ異ならせている。
【0038】
一方、比較例1〜4として、一本の溝部がキャビティ壁部のソール側壁面に切削されたヘッド4種類を用意した。比較例1〜3は、Tスロットカッターを用いてフェースの背面直後に直線状の溝部が加工されている。比較例4は、CNC加工によりフェースの背面直後から、キャビティのバック側端部まで溝部の加工が施されている。
【0039】
表1に、実施例1〜5における第1の溝部21aの長さla、幅wa、及び深さ(最薄厚みta)と、第2の溝部21bの長さlb、幅wb、及び深さ(最薄厚みtb)と、比較例1〜4の溝部の長さla、幅wa、及び深さ(最薄厚みta)と、実施例1〜5、及び比較例1〜4のフェース厚みftとをそれぞれ示す。なお、比較例1〜4の溝部の長さ/幅/深さは、実施例1〜5の第1の溝部21aに対応するものとして、la、wa、及びtaとして示している。
【0041】
以上のように構成される実施例1〜5、及び比較例1〜4のそれぞれについて、AREA_1の面積S1、AREA_2の面積S2、溝部の加工体積V、及び溝部の加工部の質量wtを求め、wt×S2/S1の値を算出した。また、実施例1〜5、及び比較例1〜4のそれぞれについて反発係数(COR)、及びTH方向の慣性モーメント(T−H MOI)を測定した。CORの測定は、USGAルールに準じて算出した。
【0044】
表2より、溝部21を二段に加工した実施例1〜5では、wt×S2/S1の値がいずれも10.0を超えており、比較例に比べて非常に多くの肉量を抜くことができていることが分かる。また、ソール部14の薄肉領域は、第1の溝部21a、及び第2の溝部21bに対応させてFB方向に長くすることができており、この結果、反発係数を比較例に比べて高い値とすることができる。
【0045】
さらに、実施例1〜5では、TH方向の慣性モーメントも比較例に比べて大きく、ミスショット時にも打球方向を安定させることができる。