特許第6737570号(P6737570)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6737570
(24)【登録日】2020年7月20日
(45)【発行日】2020年8月12日
(54)【発明の名称】バルブ制御装置
(51)【国際特許分類】
   G05D 7/06 20060101AFI20200730BHJP
   F01P 7/16 20060101ALI20200730BHJP
【FI】
   G05D7/06 Z
   F01P7/16 503
【請求項の数】2
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-118439(P2015-118439)
(22)【出願日】2015年6月11日
(65)【公開番号】特開2017-4309(P2017-4309A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2018年5月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000177612
【氏名又は名称】株式会社ミクニ
(74)【代理人】
【識別番号】100101856
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 日出夫
(72)【発明者】
【氏名】横山 宗一
【審査官】 大古 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平6−19556(JP,A)
【文献】 実開昭56−53208(JP,U)
【文献】 特開2001−280301(JP,A)
【文献】 特開2012−194650(JP,A)
【文献】 特開昭63−244120(JP,A)
【文献】 特開平5−282006(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 7/06
F01P 7/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルブの目標位置を示す目標開度と該バルブの現在の位置を示す実開度とを取得する開度取得部と、
前記目標開度と前記実開度との開度偏差を算出する偏差算出部と、
前記開度偏差の符号を判定する符号判定部と、
前記目標開度が変更され、前記各開度の取得、前記開度偏差の算出、及び前記符号の判定が繰り返される度に、前記符号がゼロまたは逆の符号となるまで、算出される開度偏差を前記バルブを駆動するための制御偏差として前記バルブを駆動する駆動部へ出力する偏差出力部と、
前記開度偏差の絶対値が所定の範囲内であるか否かを判定する偏差判定部と、
前記偏差出力部が前記制御偏差を出力し、前記各開度の取得、前記開度偏差の算出、前記符号の判定、及び前記絶対値の判定が行われた後、前記符号の判定結果に基づいて、現在のバルブの状態が、バルブを駆動または停止するための所定の条件を満たしているか否かを判定する状態判定部と
を備えるバルブ制御装置であって、
前記偏差判定部は、前記開度偏差の絶対値が第一のしきい値以下であるかを判定するとともに、前記開度偏差の絶対値が前記第一のしきい値より絶対値が大きい第二のしきい値以下であるかを判定し、
前記状態判定部は、前記開度偏差に対する前記第一のしきい値及び第二のしきい値による判定結果と、前記開度偏差の符号に対する判定結果とに基づいて、現在のバルブの状態が、バルブを駆動または停止するための所定の条件を満たしているか否かを判定し、
前記状態判定部は、前記開度偏差の絶対値が所定の範囲内であっても、取得した目標開度に変更があり、且つ、前記符号の判定結果に示される符号が当初の符号の判定結果または前回の符号の判定結果と逆の符号となった場合、現在のバルブの状態がバルブを駆動するための所定の条件を満たしていると判定し、
前記偏差出力部は、前記状態判定部により現在のバルブの状態がバルブを駆動するための所定の条件を満たしていると判定された場合、前記制御偏差を出力してバルブを駆動することを特徴とするバルブ制御装置。
【請求項2】
前記状態判定部は、前記符号の判定結果に示される符号が当初の符号の判定結果または前回の符号の判定結果と逆の符号となったか否か、または、0となったか否かを判定し、該符号の判定結果に示される符号が当初の符号の判定結果または前回の符号の判定結果と逆の符号となった、または、0となったと判定され、且つ、前記絶対値が所定の範囲内であり、取得した目標開度に変更がない場合、現在のバルブの状態がバルブを停止するための所定の条件を満たしていると判定し、
前記偏差出力部は、前記状態判定部により現在のバルブの状態がバルブを停止するための所定の条件を満たしていると判定された場合、前記制御偏差を0として出力してバルブを停止することを特徴とする請求項1記載のバルブ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体、液体等の流体を調整するためのバルブ、特に自動車等の内燃機関のウォータージャケットの冷却水温を調整するためのロータリーバルブを制御するCCV(Coolant Control Valve)駆動制御を行うバルブ制御装置及びバルブ制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の内燃機関を冷却する手段として、内燃機関の燃焼室周囲にウォータージャケットを設け、ラジエータからこのウォータージャケットへ冷却水を供給し循環させることにより、燃焼室と冷却水との熱交換を行う手法が広く実施されている。また、内燃機関の負荷の程度に応じて、この冷却水の温度を調節することが自動車の燃費向上の観点から好ましく、この調節を行う手法としては、ウォータージャケットとラジエータとの間にロータリーバルブ(以後、バルブと称する)を設け、DCモータにより当該バルブを適切に回動させてラジエータからの冷却水の流量を調節するCCV駆動制御が知られている。
【0003】
一般的にCCV駆動制御においては、バルブは前記DCモータ、ウォーム、及びその他のギアを介して駆動されるよう構成されている。このDCモータが常に動作し、冷却水を適切に温度制御することが望ましいが、そのような場合はDCモータの発熱が生じてしまう問題がある。当該発熱を抑制するため、目標温度に対してある程度の許容を持たせることにより、DCモータの動作停止時間を延ばす手法、具体的には動作停止時間を延ばす、即ち停止の頻度を上げるために目標温度に不感帯を設けることが知られている。
【0004】
ところで、一般的なCCV駆動制御においては、バルブの目標位置を示す目標開度に不感帯を設けることで目標温度に不感帯を設けている。即ち、CCV駆動制御においては、バルブを駆動するための制御偏差をヒステリシスのある不感帯に応じて演算し算出しており、例えば、目標開度と、現在のバルブの位置を示す実開度との偏差の絶対値がしきい値A以下となれば、実質的に実開度が不感帯内に位置していると判断し、制御偏差を0としている。また、以降の偏差の絶対値が前記しきい値Aより高いしきい値B以上とならない限り、制御偏差を0として制御している。このような制御により、DCモータの動作停止時間を適切に延ばしている。
【0005】
当該制御に関連する技術として、冷却水の流出側および流入側それぞれの冷却水路における温度差を基にしたPID(またはPI)制御量で目標ラジエータ流量(目標Rd流量)を算出し、この目標Rd流量に安定するように補正を加え、フィードバック制御を行う等、冷却水が要求された温度になるようにバルブを、より一層現実に即した所要の状態でリニアにコントロールさせることによって、応答遅れといった問題を解消する技術が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3932227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、バルブのシールにはEPDM(エチレン・プロピレン・ジエンゴム)等の弾性力を有するシール材料が使用されることが一般的であり、不感帯でのDCモータ停止時にシール部材の弾性力に起因するねじれ戻りにより、バルブが停止位置から戻り方向(例えば、バルブが開方向に進んでいた場合は閉方向)に戻されてしまう場合がある。CCV駆動制御は、微小開度の制御が重要であるが、このような停止位置からの戻りによりバルブ位置がしきい値Bよりなる不感帯から逸脱する場合、DCモータを再駆動する必要が生じるため、余分な電力を浪費するばかりか、DCモータの劣化の原因となるという問題があった。一方で、当該不感帯を過度に広げればDCモータを再駆動する頻度は減少するものの、冷却水温度の制御性が悪くなるという問題がある。
【0008】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、流体温度の制御性を損なうことなく、バルブの戻りに起因する不感帯からの逸脱を低減できるバルブ制御装置及びバルブ制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するため、本発明の一態様は、バルブの目標位置を示す目標開度と該バルブの現在の位置を示す実開度とを取得する開度取得部と、前記目標開度と前記実開度との開度偏差を算出する偏差算出部と、前記開度偏差の符号を判定する符号判定部と、前記目標開度が変更され、前記各開度の取得、前記開度偏差の算出、及び前記符号の判定が繰り返される度に、前記符号がゼロまたは逆の符号となるまで、算出される開度偏差を前記バルブを駆動するための制御偏差として前記バルブを駆動する駆動部へ出力する偏差出力部と、を備える。
【0010】
また、本発明の一態様は、バルブの目標位置を示す目標開度と該バルブの現在の位置を示す実開度とを取得し、前記目標開度と前記実開度との開度偏差を算出し、前記偏差の符号を判定し、前記目標開度が変更され、前記各開度の取得、前記開度偏差の算出、及び前記符号の判定が繰り返される度に、前記符号がゼロまたは逆の符号となるまで、算出される開度偏差を前記バルブを駆動するための制御偏差として前記バルブを駆動する駆動部へ出力する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、流体温度の制御性を損なうことなくバルブの戻りに起因する不感帯からの逸脱を低減できる。なお、本発明のその他の効果については、以下の発明を実施するための形態の項でも説明する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施の形態に係るエンジン冷却システムを示す模式図である。
図2】ECUのハードウェア構成を示すブロック図である。
図3】ECUの機能構成を示す機能ブロック図である。
図4】本実施の形態に係るバルブ制御処理を示すフローチャートである。
図5】状態検知処理を示すフローチャートである。
図6】過渡状態処理を示すフローチャートである。
図7】バルブ開放処理を示すフローチャートである。
図8】バルブ閉鎖処理を示すフローチャートである。
図9】ゼロ状態処理を示すフローチャートである。
図10】定常状態処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、本実施の形態においては、自動車等の内燃機関(以後、エンジンと称する)を冷却水により冷却するエンジン冷却システムに用いられるバルブを制御する制御装置に本発明を適用した場合を例に取り説明を行う。なお、これに限定されるものではなく、液体または気体の流量を、バルブを用いて電子制御するシステムであれば本発明を適用できる。
【0014】
まず、本実施の形態に係るエンジン冷却システムについて説明する。図1は、本実施の形態に係るエンジン冷却システムを示す模式図である。図1に示すように、本実施の形態に係るエンジン冷却システム1は、自動車等の車両の内燃機関であるエンジン11周りに設けられ、後述するバルブ制御処理を組み込んだCCV駆動制御を実行するものである。このエンジン冷却システム1は、具体的には、ウォータージャケット12、ウォーターポンプ13、冷却水バルブ装置21、水温センサ22a,22b、ECU(Engine Control Unit)31、ラジエータ41、ヒータ42、スロットル43、メイン流路パイプ91a,91b、サブ流路パイプ92、バイパス流路パイプ93を主として備えている。
【0015】
ウォータージャケット12は、エンジン11の周囲に設けられ、その内部の冷却水によりエンジン11を冷却するものである。このウォータージャケット12には、ウォーターポンプ13が設けられており、このウォーターポンプ13によりその内部に冷却水が流入すると共に流出する。ウォータージャケット12から流出した冷却水は、バイパス流路パイプ93を介してウォーターポンプ13に再び流入するとともに、メイン流路パイプ91a及び/またはサブ流路パイプ92に流入する。メイン流路パイプ91aは、冷却水を冷却するためのラジエータ41に冷却水を流入させるものであり、サブ流路パイプ92は、車室内を暖めるためのヒータ42と、エンジン11への呼気の流入量を制御するためのスロットル43とに冷却水を流入させるものである。これら各パイプを介してラジエータ41、ヒータ42及びスロットル43に流入した冷却水は、それぞれメイン流路パイプ91bを通ってウォーターポンプ13に再び流入するようにされている。
【0016】
冷却水バルブ装置21は、その流路内に冷却の流量を調整するための回転自在なロータリー式のバルブ211と、当該バルブ211を回転駆動するためのアクチュエータであるDCモータ212と、バルブ211の周方向の位置を検出するポジションセンサ213とを有している。冷却水バルブ装置21は、バルブ211の開度によってメイン流路パイプ91a及びサブ流路パイプ92への冷却水の流入を調節するものであり、この調節により、冷却水の温度制御、延いてはエンジン11の温度制御を実現している。また、ポジションセンサ213によってバルブ211の周方向の位置を検出することにより、メイン流路パイプ91a,91b及びサブ流路パイプ92に対するバルブ211の開度を検出している。また、冷却水バルブ装置21、ラジエータ41にそれぞれ設けられた水温センサ22a,22bは、各箇所の冷却水の温度を検出するものである。
【0017】
ECU31は、エンジン11に係る各種動作を制御するマイクロコントローラであり、本実施の形態においては、ポジションセンサ213、水温センサ22a,22bから適宜データを取得し、取得したデータに基づいてDCモータ212の動作を制御するバルブコントローラとして、以後の説明を行う。
【0018】
以上に説明したエンジン冷却システム1の各構成により、冷却水はメイン流路パイプ91aを経由して循環することでラジエータ41により冷却されて、ウォータージャケット12内に流入し、バイパス流路パイプ93を経由する場合は冷却されずに再度ウォータージャケット12内に流入する。したがって、エンジン冷却システム1は、バルブ211の開度を調節することにより、このような冷却水の循環経路を切り替え、また、メイン流路パイプ91aへの冷却水の流入量を制御することにより冷却水を所望の温度に冷却することができ、冷却水の温度制御、延いてはエンジン11の温度制御を行うことができる。
【0019】
次に、ECUのハードウェア構成について説明する。図2は、ECUのハードウェア構成を示すブロック図である。
【0020】
図2に示すように、ECU31は、CPU(Central Processing Unit)311、メモリ312、入出力インターフェイス313を備える。ECU31は、CPU311、メモリ312、入出力インターフェイス313を協働してバルブ211の制御に係る処理を行う。具体的には、入出力インターフェイス313を介して、ポジションセンサ213及び水温センサ22a,22b等の各種センサにより検出された情報を取得する。取得する情報としては、エンジン11の回転数、マニホールド圧力、ラジエータ41の冷却水温、上位装置から要求される目標としてのウォータージャケット12の目標水温および実水温等が挙げられる。
【0021】
ECU31は、これらの取得結果に基づいて、要求される目標水温とするための要求冷却水量を算出し、この要求冷却水量となるようなバルブ211の目標となる位置(開度)を示す目標開度を算出する。なお、この目標開度の算出は、一般的な手法によりなされるため、本実施の形態においてはその詳細は省略する。この目標開度となるようバルブ211を制御するため、後述するバルブ制御処理により、DCモータ212の操作量を算出し、入出力インターフェイス313を介してDCモータ212の操作量に応じた信号を駆動回路23に出力する。この駆動回路23は、DCモータ212をPWM(Pulse Width Modulation)制御するPWM回路であり、入力された信号の大きさに応じてパルス幅のデューティ比を変更してDCモータ212を駆動するものである。
【0022】
なお、本実施の形態において、バルブ211の可動域を190°、DCモータ212の駆動に係る分解能を240、バルブ211の開度を0.344度単位で制御することとする。また、制御偏差を正方向に増加させた場合にバルブ211は開方向に制御されるものとする。ここで説明するバルブ制御処理においてなされるバルブ211の回動制御は、所定のサンプリング周期でなされるものであり、本実施の形態においては当該サンプリング周期を64msec周期とする。
【0023】
前述したバルブ制御処理の概要を簡単に説明すると、本実施の形態に係るバルブ制御処理は、バルブ211を目標開度まで回動させる回動制御において、現サンプル時にて算出されるバルブ211を駆動させるための制御偏差(操作量)の基となる、目標開度と実開度との開度偏差の符号を判定し、当該符号が0(ゼロ)、即ち現サンプルの実開度が目標開度となるか、または、当該符号が逆転、即ち現サンプルの実開度が目標開度を超えるまで、バルブ211を回動させる処理である。このようなバルブ制御処理は、ECU31が有する各機能により実現される。
【0024】
次に、ECU31の機能構成について説明する。図3は、ECUの機能構成を示す機能ブロック図である。図3に示されるように、ECU31は、取得部101、算出部102、判定部103、出力部104を機能として備える。なお、これらの機能は、上述したCPU311及びメモリ312等のハードウェア資源が協働することにより実現される。
【0025】
取得部101は、バルブ制御処理に係る各種情報を取得するものであり、例えば、上位の工程で算出または設定された現サンプルの目標開度や、ポジションセンサ23により検知された現サンプルのバルブ211の実開度を取得する。算出部102は、取得部101により取得された実開度および目標開度に基づいて、開度偏差の算出を行うものである。
【0026】
判定部103は、バルブ制御処理に係る各種の判定を行うものである。各種の判定としては、開度偏差の絶対値が後述する不感帯Aを形成するしきい値A以下か、または、後述する不感帯Bを形成するしきい値B以上か否かの判定、開度偏差の符号の判定、及び、現在のバルブ211の状態が、バルブ211を駆動または停止するための後述する所定の制御条件を満たすか否かの判定等が挙げられる。本実施の形態においては、しきい値A及びBは、図示しないROM(Read Only Memory)等の不揮発性記憶媒体に記憶されているものとする。出力部104は、判定部103の判定処理に応じてバルブ211を駆動するための制御偏差を0として、または開度偏差を制御偏差として駆動回路23へ出力するものである。
【0027】
次に、ECU31によるバルブ制御処理の詳細を説明する。図4は、本実施の形態に係るバルブ制御処理を示すフローチャートである。なお、本実施の形態におけるバルブ制御処理は、目標開度が設定されたことをトリガーとして実行され、サンプル毎に制御偏差を出力することとする。また、バルブ制御処理は、図示しないイグニッションキースイッチがオフ(所謂Key Off)後に学習時間を経てバルブ211が全閉となるまで、継続して実行されることとする。
【0028】
先ず、図4に示されるように、現サンプルのバルブ211の状態を検知する状態検知処理が実行された後(S1)、判定部103は、状態検知処理にて出力された開度偏差の符号が0(ゼロ)以外であるか否か、換言すると符号がプラスまたはマイナスでないか否かを判定する(S2)。符号が0以外である場合(S2,YES)、バルブ211の状態に応じて制御偏差を0または開度偏差の値として出力する過渡状態処理が実行され(S3)、符号が0以外でない、即ち符号が0である場合(S2,NO)、制御偏差を0として出力してバルブ211を定常状態とする定常状態処理が実行される(S4)。これら過渡状態処理および定常状態処理はバルブ211の状態に応じて適宜切り替わるものであり、いずれもKey Offとされるまで実行され続ける。以下、上述した状態検知処理、過渡状態処理、定常状態処理の詳細を説明する。
【0029】
先ず、状態検知処理についてその詳細を説明する。図5は、状態検知処理を示すフローチャートである。図5に示されるように、状態検知処理では、先ず取得部101が現サンプルにおける目標開度と実開度とを取得する(S101)。取得後、判定部103は、取得した目標開度が変更されたか否かを判定する(S102)。この判定は、例えば現サンプルと現サンプルの直前のサンプルとの値が異なるか否かにより判定してもよく、目標開度の取得時に既に目標開度に変更があったことが通知される(予めECU31が取得している)ようにして判定するようにしてもよい。
【0030】
目標開度に変更があった場合(S102,YES)、判定部103は判定結果としてrefC=1を出力し(S103)、算出部102は取得された目標開度と実開度との偏差を算出し、算出結果を開度偏差として出力すると共に、当該開度偏差の符号を出力する(S104)。例えば、目標開度が実開度より低い値、即ちバルブ211を閉方向に回動させる開度を示す場合、符号は−(マイナス)となり、目標開度が実開度より高い値、即ちバルブ211を開方向に回動させる開度を示す場合、符号は+(プラス)となる。本実施の形態においては、符号がプラスである場合はeSig=1を、符号がマイナスである場合はeSig=−1を、符号がゼロである場合はeSig=0を、それぞれ出力する。ここでの出力結果および以降の出力結果の値は、適宜読み出し可能に、メモリ312等の記憶領域に格納されることが好ましい。なお、エンジン11の始動時等、目標開度が必ず変更される場合は、ステップS102の判定処理を省いてrefC=1を出力し、ステップS102の判定処理を省くようにしてもよい。一方、目標開度に変更がなかった場合(S102,NO)、判定部103は判定結果としてrefC=0を出力し(S105)、ステップS104の算出処理に移行する。
【0031】
開度偏差の出力後、判定部103は、開度偏差の絶対値がしきい値A以下であるか否かを判定する(S106)。本実施の形態に係るしきい値Aは、目標開度±Aからなる不感帯Aを形成するための値である。この不感帯Aは、目標開度に向けてバルブ211を制御している状態において、実開度が当該不感帯Aの範囲内であれば、即ち開度偏差の絶対値がしきい値A以下であれば所望の温度制御が可能であると判断される目安となる範囲である。開度偏差がしきい値A以下である場合(S106,YES)、判定部103は実開度が不感帯A内にあると判断し、inRange=1を出力し(S107)、本フローは終了となる。一方、開度偏差がしきい値A以下でない場合(S106,NO)、判定部103はinRange=0を出力する(S108)。
【0032】
inRange=0を出力後、判定部103は、開度偏差の絶対値がしきい値B以上であるか否かを判定する(S109)。本実施の形態に係るしきい値Bは、しきい値Aより高い値であり、目標開度±Bからなる不感帯Bを形成するための値である。この不感帯Bは、目標開度に向けてバルブ211を制御している状態において、実開度が当該不感帯Bの範囲内であれば、即ち開度偏差の絶対値がしきい値Aより高くしきい値B以下であれば所望の温度制御が不可能でありバルブ211を目標開度まで駆動させる必要があると判断される目安となる範囲である。一方で不感帯Bは、一度実開度が不感帯A内と判断されてバルブ211の駆動が停止された状態において、バルブ211の不本意な回動により実開度が不感帯Bから逸脱した場合、バルブ211を再度目標開度に向けて再駆動させる目安となる。換言すると、一度実開度が不感帯A内と判断されてバルブ211の回動が停止された状態において、バルブ211の不本意な回動により実開度が不感帯Aから逸脱しても不感帯B内であれば、バルブ211の再駆動は行われない。
【0033】
開度偏差がしきい値B以上である場合(S109,YES)、判定部103は実開度が不感帯B内にないと判断し、outRange=1を出力し(S110)、本フローは終了となる。一方、開度偏差がしきい値B以上でない場合(S109,NO)、判定部103は実開度が不感帯B内にあるが不感帯A内にないと判断し、outRange=0を出力し(S111)、本フローは終了となる。
【0034】
以上の状態検知処理により、ECU31は、目標開度の変更の有無、開度偏差の値、開度偏差の符号、バルブの211の位置(実開度が不感帯A,B内にあるか等)を認識することができる。
【0035】
次に、これらの情報を基に実行される上述した過渡状態処理についてその詳細を説明する。図6は、制御偏差出力処理を示すフローチャートである。図6に示されるように、過渡状態処理では、先ず判定部103が現サンプルの状態検知処理において出力された符号を示すeSigが1、−1、0の何れであるかを判定する(S201)。ここでeSig=1である場合には(S201,1)、バルブ開放処理が実行され(S202)、eSig=−1である場合には(S201,−1)、バルブ閉鎖処理が実行され(S203)、eSig=0である場合には(S201,0)、後述するゼロ状態処理が実行される(S204)。以下に、これらバルブ開放処理、バルブ閉鎖処理、ゼロ状態処理についての詳細を順次説明する。
【0036】
先ず、バルブ開放処理について図7を参照しつつ説明を行う。図7は、バルブ開放処理を示すフローチャートである。これに示されるようにバルブ開放処理は、符号eSig=1であることから、実開度が目標開度より低く、バルブ211が目標開度に達していない状態であると考えられるため、先ず出力部104が現サンプル時の状態検知処理において算出された開度偏差を制御偏差とし(S301)、これを駆動回路23へ出力する(S302)。制御偏差を受け付けた駆動回路23は、当該制御偏差に基づいてDCモータ212を駆動させてバルブ211を開方向へ回動させる。制御偏差出力後、現サンプルを終えるまで、即ち現サンプルの開始時から64msec経過するまで待機する(S303)。ここで、本実施の形態においては、サンプル移行時点、即ち状態検知処理が実行される時点をサンプルの開始時とする。なお、これに限定するものでなく、例えば状態検知処理の結果を取得した時点等をサンプル開始時点としてもよい。待機処理後、次サンプルへ移行すると共に、上述したステップS1と同様の状態検知処理が再度実行され(S304)、その後に判定部103は、現サンプルの状態検知処理の処理結果が所定の第1制御条件を満たしているか否かを判定する(S305)。
【0037】
本実施の形態における第1制御条件は、refC=0であり且つeSig=0であること、または、refC=0であり且つ、inRange=1であり且つ、eSig=−1であることである。換言すると、第1制御条件は、符号の判定結果に示される符号が、当初サンプル時の符号の判定結果または直前のサンプル時の符号の判定結果と逆の符号となった、または、0であり、且つ、開度偏差の絶対値がしきい値A以下であり、目標開度に変更がないことである。即ち、第1制御条件を満たすということは、実開度が目標開度に達したかまたはそれを不感帯A範囲内で超えた状態となったことを示している。
【0038】
したがって、第1制御条件を満たしていると判定された場合(S305,YES)、図4に示されるステップS4の定常状態処理へ移行する。一方、第1制御条件を満たしていないと判定された場合(S305,NO)、判定部103は、現サンプルの状態検知処理の処理結果が所定の第2制御条件を満たしているか否かを判定する(S306)。
【0039】
本実施の形態における第2制御条件は、eSig=−1である、または、refC=1であることである。即ち、第1制御条件を満たさず、第2制御条件を満たす場合は、目標開度が変更されて再度処理をやり直す場合か、バルブ211が回動し過ぎて不感帯Aを超えてしまった場合が想定される。一方、何れの制御条件も満たさないものは、未だにバルブ211が目標開度に到達していない場合が想定される。したがって、第2制御条件を満たしていると判定された場合には(S306,YES)、図4に示されるステップS3の過渡状態処理へ移行し、第2制御条件を満たしていないと判定された場合には(S306,NO)、ステップS301の開度偏差を制御偏差とする処理が再度実行される。
【0040】
以上のように、第1制御条件、第2制御条件に基づいた開度の判定を行うことにより、実開度が不感帯A範囲内にあったとしても目標開度に未達であればバルブ211を開方向へ回動し続けることができる。これにより、バルブ211の戻りが生じたとしても、不感帯Aにおける片側、即ち不感帯Aにおける目標開度未満の閉方向側範囲内でバルブ211が留まる可能性を高めることができ、不感帯A及びB内からの逸脱を低減することが可能となる。
【0041】
次に、バルブ閉鎖処理について図8を参照しつつ説明を行う。図8は、バルブ閉鎖処理を示すフローチャートである。バルブ閉鎖処理は、その移行時が符号eSig=−1であることから、バルブ開放処理と同様にバルブ211が目標開度に達していない状態であると考えられるため、バルブ211を回動させる処理であるが、その回動方向はバルブ開放処理とは逆に閉方向となる。したがって、バルブ閉鎖処理は、このバルブ211の回動方向が閉方向であることと、図8に示されるステップS405およびステップS406の判定処理以外、バルブ開放処理と同様であるため、ここでの判定処理以外の処理についてはその説明を省略する。
【0042】
図8に示されるように、ステップS304の状態検知処理がなされた後、判定部103は、現サンプルの状態検知処理の処理結果が所定の第3制御条件を満たしているか否かを判定する(S405)。本実施の形態における第3制御条件は、refC=0であり且つeSig=0であること、または、refC=0であり、inRange=1であり且つ、eSig=1であることである。換言すると、第3制御条件は第1制御条件と同様に、符号の判定結果に示される符号が当初サンプル時の符号の判定結果または直前のサンプル時の符号の判定結果と逆の符号となった、または、0であり、且つ、開度偏差の絶対値がしきい値A以下であり、目標開度に変更がないことである。したがって、第3制御条件を満たすということは、第1制御条件を満たす場合と同様、実開度が目標開度に達したか、またはそれを不感帯A範囲内で超えた状態となったことを示している。
【0043】
したがって、第3制御条件を満たしていると判定された場合(S405,YES)、図4に示されるステップS4の定常状態処理へ移行する。一方、第3制御条件を満たしていないと判定された場合(S405,NO)、判定部103は、現サンプルの状態検知処理の処理結果が所定の第4制御条件を満たしているか否かを判定する(S406)。
【0044】
本実施の形態における第4制御条件は、eSig=1である、または、refC=1であることである。即ち、第3制御条件を満たさず、第4制御条件を満たす場合は、第1制御条件を満たさず第2制御条件を満たす場合と同様、目標開度が変更されて再度処理をやり直す場合か、バルブ211が回動し過ぎて不感帯Aを超えてしまった場合が想定される。一方、何れの制御条件も満たさないものは、未だにバルブ211が目標開度に到達していない場合が考えられる。したがって、第4制御条件を満たしていると判定された場合には(S406,YES)、図4に示されるステップS3の過渡状態処理へ移行し、第4制御条件を満たしていないと判定された場合には(S406,NO)、ステップS301の開度偏差を制御偏差とする処理が再度実行される。
【0045】
以上のように、第3制御条件、第4制御条件に基づいた開度の判定を行うことにより、実開度が不感帯A範囲内にあったとしても目標開度に未達であればバルブ211を閉方向へ駆動し続けることができる。これにより、バルブ211の戻りが生じたとしても、不感帯Aにおける片側、即ち不感帯Aにおける目標開度を超える開方向側範囲内でバルブ211が留まる可能性を高めることができ、バルブ開放処理と同様、不感帯A及びB内からの逸脱を低減することが可能となる。
【0046】
次に、ゼロ状態処理について図9を参照しつつ説明を行う。図9は、ゼロ状態処理を示すフローチャートである。これに示されるようにゼロ状態処理は、符号eSig=0であることから、バルブ211が目標開度となった状態であると想定されるため、先ず出力部104が制御偏差=0とし(S501)、これを駆動回路23へ出力する(S502)。0の値の制御偏差を受け付けた駆動回路23は、DCモータ212の駆動を停止させてバルブ211を停止させる。制御偏差出力後以降のステップS303,S304の各処理は上述したバルブ開放処理やバルブ閉鎖処理と同様であるため、ここでの説明は省略する。状態検知処理が再度実行された後、判定部103は、現サンプルの状態検知処理の処理結果が所定の第5制御条件を満たしているか否かを判定する(S505)。
【0047】
本実施の形態における第5制御条件は、refC=0であり且つ、inRange=1またはeSig=0であることである。即ち、目標開度に変更がなく、実開度が不感帯A内であるか、または実開度が目標開度であることである。したがって、第5制御条件を満たしていると判定された場合(S505,YES)、バルブ211を回動させる必要がないため、図4に示されるステップS4の定常状態処理へ移行する。一方、第5制御条件を満たしていないと判定された場合(S505,NO)、必ずeSig=0以外(即ちeSig=1または−1)、または、refC=1であるため、不本意なバルブ211の回動により符号が0でなくなった、または目標開度に変更があったと想定される。したがって、この場合は図4に示されるステップS3の過渡状態処理へ移行する。
【0048】
次に、上述した定常状態処理についてその詳細を説明する。図10は、定常状態処理を示すフローチャートである。定常状態処理では、定常状態として所定の制御条件を満たすまで制御偏差=0を出力し続ける処理である。したがって、図10に示されるステップS605の判定処理以外、上記のゼロ状態処理と同様であるため、ここでの当該判定処理以外の処理についてはその説明を省略する。図10に示されるように、状態検知処理が再度実行された後、判定部103は、現サンプルの状態検知処理の処理結果が所定の第6制御条件を満たしているか否かを判定する(S605)。
【0049】
本実施の形態における第6制御条件は、refC=1またはoutRange=1であることである。したがって、第6制御条件を満たしていると判定された場合(S605,YES)、目標開度が変更された、または、不本意なバルブ211の回動により実開度が現目標開度の不感帯Bを逸脱している場合が想定されるため、図4に示されるステップS3の過渡状態処理へ移行する。一方、第6制御条件を満たしていない判定された場合(S605,NO)、ステップS501の制御偏差を0とする処理が再度実行される。なお、ステップS605の判定処理後に、開度偏差を制御偏差とし、これを駆動回路23へ出力した後にステップS3の過渡状態処理へ移行するようにしてもよい。また、refC=1であっても目標開度が不感帯A内である場合も考えられるため、第6制御条件を、refC=1である場合はinRange=0であることとしてもよい。
【0050】
以上に説明した本実施の形態によれば、バルブ211を目標開度または当該目標開度を超えるまで回動駆動させる、即ち、実開度の不感帯Aへの突入を不感帯Aの片側のみで判定することにより、開度偏差の絶対値がしきい値A以下となった段階、即ちバルブ211の実開度が不感帯A内に達した段階で制御偏差を0とする制御方法と比較して、バルブ211の戻りに起因する不感帯A及びBからの逸脱を低減することが可能となる。したがって、DCモータ212を再駆動する頻度を低減できるため、DCモータ212の動作停止時間を引き延ばすことができ、延いては電力の消費、DCモータ212の劣化等を抑制することが可能となる。これにより、スペックダウンした安価なモータ制御用電子部品を用いることもでき、コストの低減を実現することができる。
【0051】
また、目標開度を越えて不感帯A内に留まる場合は、バルブ211の戻りにより実開度が目標開度に接近する。したがって、上記の制御方法と比較してその制御偏差を小さくすることができるため、不感帯A及びB自体を狭く設定することができ、冷却水の制御性を、より向上させることが可能となる。
【0052】
なお、本実施の形態で説明したフローチャートは一例であって、バルブ211を目標開度または不感帯Aの範囲内で当該目標開度を越えるまで回動駆動させる制御を実施できるものであれば、適宜処理ステップを変更および入れ替えてもよく、制御条件を変更してもよいことは言うまでもない。例えば、inRange、outRangeの判定を除き、制御偏差の符号が逆転した段階で制御偏差を0とするよう制御してもよい。この場合、制御偏差を0として次サンプルに移行した後にinRange、outRangeの判定(または不感帯AおよびBを用いた判定)を組み込んで不本意にバルブ211が回動したか否か等を判定してもよい。また、各種判定時にrefC=1であっても、inRange=1であれば目標開度が不感帯A内にある可能性があるため、inRange=1であればrefCを0とみなすよう処理してもよい。
【0053】
本発明は、その要旨または主要な特徴から逸脱することなく、他の様々な形で実施することができる。そのため、前述の実施の形態は、あらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には、何ら拘束されない。更に、特許請求の範囲の均等範囲に属する全ての変形、様々な改良、代替および改質は、全て本発明の範囲内のものである。
【0054】
特許請求の範囲に記載のバルブ制御装置は、例えば前述の実施の形態におけるECU31に対応する。また、開度取得部は、例えば取得部101に対応し、偏差算出部は、例えば算出部102に対応する。符号判定部、偏差判定部および状態判定部は、例えば判定部103に対応し、偏差出力部は、例えば出力部104に対応する。駆動部は、例えば駆動回路23に対応する。
【符号の説明】
【0055】
1 エンジン冷却システム、23 駆動回路、31 ECU、101 取得部、102 算出部、103 判定部、104 出力部、211 バルブ。
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