特許第6737588号(P6737588)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6737588
(24)【登録日】2020年7月20日
(45)【発行日】2020年8月12日
(54)【発明の名称】飲料のアルコール感付与増強剤
(51)【国際特許分類】
   C12G 3/04 20190101AFI20200730BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20200730BHJP
【FI】
   C12G3/04
   A23L2/00 B
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-237002(P2015-237002)
(22)【出願日】2015年12月3日
(65)【公開番号】特開2017-99356(P2017-99356A)
(43)【公開日】2017年6月8日
【審査請求日】2018年11月19日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000175283
【氏名又は名称】三栄源エフ・エフ・アイ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】芳仲 幸治
【審査官】 鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−027309(JP,A)
【文献】 特開2015−023871(JP,A)
【文献】 特開2015−163066(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/062015(WO,A1)
【文献】 特開2015−204771(JP,A)
【文献】 特開2014−060953(JP,A)
【文献】 特開2013−066497(JP,A)
【文献】 特開2015−208246(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/061753(WO,A2)
【文献】 特開2014−132896(JP,A)
【文献】 島津司,新規指定アドバンテームの特性と利用,食品と開発,2014年,Vol. 49, No. 12,pp. 4-7
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12G 1/00−3/12
A23L 2/00−2/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アドバンテームを含有することを特徴とする、アルコール度数が6V/V%以下である飲料のアルコール感付与または増強剤であって、アルコール度数が6V/V%以下である飲料中のアドバンテームの含有量が、0.03〜0.1ppmである、アルコール感付与または増強剤。
【請求項2】
アルコール度数が6V/V%以下である飲料にアドバンテームを添加することを特徴とする、前記飲料にアルコール感を付与または前記飲料のアルコール感を増強する方法であって、アルコール度数が6V/V%以下である飲料中のアドバンテームの含有量が、0.03〜0.1ppmである、アルコール感を増強する方法。
【請求項3】
アルコール度数が1〜6V/V%である飲料にアドバンテームを0.03〜0.1ppm添加することを特徴とする、前記飲料の製造方法。
【請求項4】
アルコール度数が1〜6V/V%である飲料中のアドバンテーム含量が0.03〜0.1ppmであることを特徴とする、前記飲料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコール度数が6V/V%以下である飲料にアドバンテームを配合することにより、飲料にアルコール感を付与、または飲料のアルコール感を増強し、嗜好性を高めることができるアルコール感付与増強剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康に対する意識の高まりや、ライフスタイルの多様化などの背景から、飲料中のアルコール濃度を低減した低アルコール飲料や、実質的にアルコールを含まないノンアルコール飲料の需要が拡大している。特に健康志向の観点から、糖質などを低減した低アルコール飲料や、新たな顧客層の取り込みのため、果汁を含んだ低アルコール飲料など、多種多様な低アルコール飲料が、また、これら低アルコール飲料の風味を模したノンアルコール飲料が市場に提供されている。これらの低アルコール飲料またはノンアルコール飲料は、嗜好品としてアルコールを楽しむという観点からは、アルコール感が不足し、飲み応えに乏しいという課題がある。
【0003】
ノンアルコール飲料を含む低アルコール飲料における上記課題を改善する方法としては、例えば、0.01重量%以上10重量%以下のアルコールと、有機酸を含む果汁および/または炭水化物とを含む飲食品中に、ポリ−γ−グルタミン酸またはその塩を0.001重量%以上0.3重量%以下となるように添加するアルコール感増強剤(特許文献1)、アルコキシ化フラボンの使用によりアルコールの感覚印象を増強する方法(特許文献2)、非アルコール飲料中の酸味付与物質濃度が100〜5000ppmであり、飲料中の苦味付与物質濃度が0.1〜3.5ppmである、アルコール感が付与された飲料(特許文献3)、飲料中のカプサイシン類濃度が0.002〜0.056ppmであり、かつ、飲料中の炭素数3〜5の脂肪族1価アルコール濃度が12.5〜400ppmである、アルコール感が付与された非アルコール飲料(特許文献4)、飲料中の炭素数4または5の脂肪族アルコール濃度が1〜100mg/lである炭素数4または5の脂肪族アルコールと収斂味付与物質とを含んでなるアルコール感が付与された非アルコール飲料(特許文献5)、辛味付与成分と苦味付与成分とを含んでなる、アルコール感が付与された非アルコール飲料(特許文献6)、ダバナ抽出物および/またはトルーバルサム抽出物を含んでなるアルコール感付与剤(特許文献7)などが提案されている。
【0004】
しなしながら、上記の方法におけるアルコール感の付与または増強は、特定物質の添加により、アルコールの有する苦味やバーニング感といった刺激感覚の付与、増強によってもたらそうとするものであるため、異味感を伴う不自然さが否めず、嗜好性が不十分なものであった。そのため、より風味の優れたアルコール感の付与増強方法の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−268400号公報
【特許文献2】特開2009−148268号公報
【特許文献3】特開2011−254731号公報
【特許文献4】特開2012−16308号公報
【特許文献5】特開2012−60975号公報
【特許文献6】特開2013−128451号公報
【特許文献7】特開2014−45712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ノンアルコール飲料や低アルコール飲料に対して、風味の優れたアルコール感を付与または増強することができるアルコール感付与増強剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上述の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、ノンアルコール飲料や低アルコール飲料にアドバンテームを添加することにより、アルコール感を付与増強できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の態様を包含する。
(項1)アドバンテームを含有することを特徴とする、アルコール度数が6V/V%以下である飲料のアルコール感付与または増強剤。
(項2)アルコール度数が6V/V%以下である飲料中のアドバンテームの含有量が、0.001〜0.2ppmである、項1記載のアルコール感付与または増強剤。
(項3)アルコール度数が6V/V%以下である飲料にアドバンテームを添加することを特徴とする、前記飲料にアルコール感を付与または前記飲料のアルコール感を増強する方法。
(項4)アルコール度数が6V/V%以下である飲料にアドバンテームを0.001〜0.2ppm添加することを特徴とする、項3記載のアルコール感を付与または増強する方法。
(項5)アルコール度数が6V/V%以下である飲料にアドバンテームを0.001〜0.2ppm添加することを特徴とする、前記飲料の製造方法。
(項6)アルコール度数が6V/V%以下である飲料中のアドバンテーム含量が0.001〜0.2ppmであることを特徴とする、前記飲料。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、アルコール度数が6V/V%以下である飲料にアドバンテームを添加することにより、アルコール感が付与または増強されるため、より高濃度のアルコール飲料と同等のアルコール感を有する飲料を提供することができる。特に、飲料中へのアドバンテームの少ない添加量により前記の効果を奏するので、アルコール飲料に不必要な甘味を付与することなく、また、異味感を伴わない、風味の優れたアルコール感を付与または増強することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明におけるアルコール感とは、飲料の嚥下時に感じる、エタノールの味とそこから発する清涼感及び/又は重厚感を意味する。本発明におけるアルコール感の付与とは、エタノールを含有しない飲料に前記の「アルコール感」が付与されたように感じる状態を意味し、また、アルコール感の増強とは、前記の「アルコール感」が増すことにより、飲料のアルコール濃度が増加したように感じる状態を意味する。
【0011】
本発明に用いるアドバンテーム(化学名:N−[N−[3−(3−ヒドロキシ−4−メトシキフェニル)プロピル]−L−α−アスパルチル]−L−フェニルアラニン 1−メチルエステル 1水和物)は、ショ糖の約30000倍の甘味を有する高甘味度甘味料であり、味の素株式会社より発売されている。また、アドバンテームを0.1%含有する甘味料製剤として、スイートアップ(登録商標)V−30が三栄源エフ・エフ・アイ株式会社より市販されている。
【0012】
本発明の対象となる飲料におけるアルコール濃度は、6度(6V/V%)以下である。飲料のアルコール濃度が6度を超える場合は、飲料が既に保有するアルコール感のため、アドバンテームの添加によるアルコール感増強効果を有意に識別することが困難となる。飲料の好ましいアルコール濃度は、5V/V%以下、より好ましくは4V/V%以下、さらにより好ましくは3V/V%以下である。
【0013】
本発明における飲料の種類としては、アルコール度数が6V/V%以下の飲料であれば特に限定されず、例えば、ビール、果実酒、日本酒等の醸造酒、焼酎、ウイスキー、ブランデー、スピリッツ等の蒸留酒、蒸留酒に糖類等の副原料を混合するリキュール等の混成酒、さらにこれら酒類に果汁やフレーバー、炭酸ガス等を加えたカクテル、フィズ、チューハイ等のアルコール飲料;これらアルコール飲料に模して作られたアルコール度数が1%未満(アルコール度数0%を含む)のノンアルコール飲料;さらに、炭酸飲料、果実飲料、茶飲料、乳飲料等の清涼飲料等を挙げることができる。
【0014】
本発明において、アルコール度数が6V/V%以下である飲料中に添加するアドバンテームの好ましい添加量は、飲料に対して、0.001〜0.2ppmであり、好ましくは、0.005〜0.15ppmであり、さらに好ましくは、0.01〜0.1ppmである。
飲料中のアドバンテームの添加量が0.001ppmより少ないと、アルコール感付与増強効果が十分ではなく、また、0.2ppmより多いと、アドバンテームによる甘味を強く感じるようになり、風味バランスの悪化やアドバンテーム特有の甘味の後引きを感じるので、好ましくない。
【0015】
アドバンテームの飲料への添加方法は、その飲料の製造方法によって適宜選択できるが、アドバンテームを水に予め溶解した後、水溶液として飲料に添加することが好ましい。
【0016】
本発明において、本発明の効果を妨げない範囲で、アドバンテーム以外の他の甘味料をアドバンテームと併用することができる。他の甘味料としては、例えば、ショ糖、ぶどう糖、果糖等の糖類、ソルビトール、マルチトール等の糖アルコール類、スクラロース、アスパルテーム、ネオテーム、ソーマチン、グリチルリチン、ステビア抽出物、ラカンカ抽出物、サッカリンナトリウム、アセスルファムカリウム等の高甘味度甘味料等が挙げられ、これらの中から選ばれる1種または2種以上を、アドバンテームと併用してもよい。
【0017】
本発明のアルコール感付与増強剤、または、アルコール度数が6V/V%以下である飲料には、本発明の効果を妨げない範囲で、通常の飲料に用いられる各種添加剤等を配合してもよい。各種添加剤としては、例えば、果汁、香料、ビタミン、色素、酸化防止剤、乳化剤、保存料、pH調整剤、エキス類等が挙げられる。
【実施例】
【0018】
以下、本発明の内容を以下の実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0019】
[実施例1]
(アルコール飲料:グレープチューハイ)
表1に記載の原料を混合し、調製したアルコール飲料を、容器に充填した後、70℃で20分の殺菌処理を行い、アルコール度数1%及び3%のグレープチューハイを調製した。アルコール度数1%の飲料にアドバンテーム含有製剤を添加し、飲料のアルコール感や風味を官能評価により確認した。
【0020】
【表1】
【0021】
アドバンテームをアルコール度数1%のグレープチューハイに添加した飲料(実施例1)についてパネリストにより官能評価したところ、アルコール度数1%の飲料(比較例1)に比べて、アルコールのトップノートや重量感が増強されており、アルコール感が向上していることが確認された。そのアルコール感は、アルコール度数3%の飲料(比較例2)のそれと同等レベルであった。
【0022】
[実施例2]
(アルコール飲料:酸乳チューハイ)
表2に記載の原料を混合して、調製したアルコール飲料を、容器に充填した後、70℃で20分の殺菌処理を行い、アルコール度数3%及び5%の酸乳チューハイを調製した。アルコール度数3%の飲料にアドバンテーム含有製剤を添加し、飲料のアルコール感や風味を官能評価により確認した。
【0023】
【表2】
【0024】
アドバンテームをアルコール度数3%の酸乳チューハイに添加した飲料(実施例2)についてパネリストにより官能評価したところ、アルコール度数3%の飲料(比較例3)に比べて、アルコールのトップノートや重量感が増強されており、アルコール感が向上していることが確認された。そのアルコール感は、アルコール度数5%の飲料(比較例4)のそれと同等のレベルであった。
【0025】
[実施例3]
(ノンアルコール飲料:ビールテイスト飲料)
表3に記載のビールテイスト飲料(市販品)にアドバンテーム含有製剤を添加し、飲料のアルコール感や風味を官能評価により確認した。
【0026】
【表3】
【0027】
アドバンテームをビールテイスト飲料に添加した飲料(実施例3)についてパネリストにより官能評価したところ、アルコールのトップノートや重量感が付与増強され、アルコール感の向上した、よりビールに近い風味を有する飲料であることが確認された。また、飲料の酸味が低減され、コクが付与されているように感じられた。