(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記リア左チャンネルおよび前記リア右チャンネルに対する遅延設定値を、前記フロント左チャンネルおよび前記フロント右チャンネルに対する遅延設定値より大きくすることにより、リアスピーカからの音をフロントスピーカからの音に対して遅延させることを特徴とする請求項5に記載のデジタル信号処理装置。
【背景技術】
【0002】
車載オーディオ(カーオーディオ)、ホームオーディオ、ポータブルオーディオなどに使用されるオーディオ機器には、オーディオ信号の周波数特性を変化させる機能が搭載される。たとえばカーオーディオ製品(あるいはAVアンプ機器)では、フラット、ロック、ポップス、ボーカル、ピアノ、ジャズ、クラシックなど、オーディオのジャンルや楽器に対応する複数のイコライザ設定から、ユーザが好みにより選択できるものが存在する(プリセットイコライザ)。あるいは、コンサートホールやジャズクラブ、教会などの空間を再現する機能を有するものもある(音響調整機能)。あるいは視聴位置において最適な周波数特性および位相特性が得られるように、室内の音場にあわせて、スピーカから再生するオーディオ信号の周波数特性や位相特性を補正する機能が搭載される場合がある(固定イコライザあるいはルーム補正とも称される)。これらを本明細書において、周波数補正と総称する。
【0003】
このような周波数補正をアナログ回路で実装すると、回路規模が膨大になる。そこで、デジタルのオーディオ信号に対して、デジタル信号処理を施すデジタル信号処理装置(DSP:Digital Signal Processor)が用いられる。
図1は、DSPを備えるオーディオシステムのブロック図である。オーディオシステム100は、音源102、アナログアンプ104、A/Dコンバータ106、マイコン108、DSP110、D/Aコンバータ112、ボリューム回路114、パワーアンプ116、電気音響変換素子118を備える。
【0004】
音源102は、CDプレイヤ、DVDプレイヤ、シリコンオーディオプレイヤ、スマートホンなどであり、アナログオーディオ信号を出力する。アナログアンプ104は、音源102からのアナログオーディオ信号を増幅し、後段のA/Dコンバータ106の入力レンジにマッチさせる。あるいは音源102が生成するデジタルオーディオ信号は、DSP110に直接入力される。
【0005】
DSP110は、A/Dコンバータ106もしくは音源102からのデジタルオーディオ信号を受け、所定のデジタル信号処理を施す。DSP110による信号処理としては、上述の周波数補正に関連する処理の他、ステレオ−モノラル変換、デジタルボリューム制御などが例示される。
【0006】
D/Aコンバータ112は、DSP110による処理を受けたデジタルオーディオ信号をアナログオーディオ信号に変換する。ボリューム回路114はD/Aコンバータ112の出力信号をボリューム値に応じた利得で増幅する。パワーアンプ116は、ボリューム回路114の出力を増幅し、電気音響変換素子118であるスピーカやヘッドホンを駆動する。
【0007】
マイコン108は、オーディオシステム100を統合的に制御する。マイコン108は、ボリュームボタンやタッチパネルなどのユーザインタフェースを介して入力されるユーザの指令を受け、指令にもとづいてDSP110を制御する。マイコン108とDSP110は、バスあるいは制御ライン介して接続される。たとえばマイコン108は、ユーザによるボリューム変更の指示を検出すると、DSP110のデジタルボリューム回路のゲインの指令値をDSP110に送信する。
【0008】
図2(a)、(b)は、DSP110の周波数補正に関連するブロック図である。
図2(a)に示すようにDSP110は、マルチバンドイコライザ120と、マイコン108とのインタフェース回路130を備える。マルチバンドイコライザ120は、バンド数Mに対応する複数M個のフィルタ122_1〜122_Mを含む。マイコン108は、ユーザによるイコライザの変更の指示を検出すると、フィルタ122_1〜122_Mの設定データを送信する。
【0009】
図2(b)は、フィルタ122の回路図である。このフィルタ122は、2次のIIR(Infinite Impulse Response)フィルタであり、5個の係数b
0〜b
2,a
0,a
1の組み合わせによって、Q値、周波数fおよびゲインが設定可能となっている。
【0010】
インタフェース回路130は、たとえばI
2C(Inter IC)シリアルインタフェースであり、8ビットを1ワードとしてデータ伝送が可能である。各係数が24ビット(あるいは32ビット)である場合、5個の係数を伝送するためには、1バンドあたり24×5/8=15回のデータ伝送が必要となり、M=13バンド分については、13×15=195回のデータ伝送が必要となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
マイコン108とインタフェース回路130の間では、常時、さまざまなデータの送受信が行われている。一例として、オーディオシステム100は、再生中のオーディオ信号の周波数スペクトルを視覚的に表示する機能(スペクトラムアナライザ機能)を有し、オーディオ信号の再生中、マイコン108は、DSP110のインタフェース回路130を経由して、バンドごとの信号強度を読み出す。イコライザの設定変更のためのデータ伝送が割り込むと、そのたびにスペクトラムアナライザのためのデータ伝送が停止されるため、正しい周波数スペクトルが表示されなくなる。特にI
2Cインタフェースでは、マスターからスレーブにデータを送信した後に、アクナリッジACKを待つ必要があり、オーバーヘッドが生じやすい。
【0013】
本発明は係る課題に鑑みてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、オーディオ再生中の、マイコンとDSP間のデータ伝送のデータ量/回数を削減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のある態様は、オーディオ用のデジタル信号処理装置に関する。デジタル信号処理装置は、外部のマイコンとの通信を行うインタフェース回路と、複数のバンドに対応する複数のデジタルフィルタを含み、各デジタルフィルタの周波数特性が係数群に応じて変更可能である、マルチバンドイコライザと、メモリと、複数のデジタルフィルタそれぞれの係数群を設定する係数設定回路と、を備える。マルチバンドイコライザの周波数特性は、複数のプリセットから選択可能である。(i)デジタル信号処理装置の起動時に、インタフェース回路は、マイコンから複数のプリセットに対応する複数の設定データを受信してメモリに格納する。(ii)オーディオ再生時において、インタフェース回路は、複数のプリセットのひとつを指定する選択データを受信する。また係数設定回路は、メモリに格納される複数の設定データのうち選択データに対応するひとつに応じて、複数のデジタルフィルタそれぞれの係数群を設定する。
【0015】
複数のプリセットに対応するすべての設定データは、システムの起動時に一括してマイコンからDSPへと送信され、オーディオ再生中には、選択データのみが送信される。これにより、オーディオ再生中のデータ伝送のデータ量、回数を減らすことができる。
【0016】
設定データは、複数のデジタルフィルタそれぞれの係数群を含んでもよい。
【0017】
複数のバンドそれぞれの周波数は固定されており、設定データは、複数のバンドそれぞれのゲインを含んでもよい。係数設定回路は、複数のバンドそれぞれについて、ゲインと、対応するデジタルフィルタの係数群の対応関係を保持してもよい。
【0018】
デジタル信号処理装置は、マルチバンドイコライザの前段もしくは後段に設けられ、オーディオ信号に、可変遅延を与える遅延回路をさらに備えてもよい。設定データは、複数のプリセットに対応する複数の遅延設定値を含んでもよい。オーディオ再生時において、係数設定回路は、メモリに格納される複数の設定データのうち選択データに対応するひとつに含まれる遅延設定値に応じて、遅延回路の遅延量を設定してもよい。
これにより、残響を利用したプリセットをサポートすることができる。
【0019】
デジタル信号処理装置は、ひとつの半導体基板上に一体集積化されてもよい。
「一体集積化」とは、回路の構成要素のすべてが半導体基板上に形成される場合や、回路の主要構成要素が一体集積化される場合が含まれ、回路定数の調節用に一部の抵抗やキャパシタなどが半導体基板の外部に設けられていてもよい。
【0020】
本発明の別の態様は、車載オーディオ装置に関する。車載オーディオ装置は、上述のいずれかのデジタル信号処理装置を備える。
【0021】
本発明の別の態様は、電子機器に関する。電子機器は、上述のいずれかのデジタル信号処理装置を備える。
【0022】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係るオーディオ回路によれば、オーディオ再生中におけるマイコンとのデータ伝送のデータ量を削減できる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0026】
本明細書において、「部材Aが、部材Bと接続された状態」とは、部材Aと部材Bが物理的に直接的に接続される場合のほか、部材Aと部材Bが、電気的な接続状態に影響を及ぼさない他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
同様に、「部材Cが、部材Aと部材Bの間に設けられた状態」とは、部材Aと部材C、あるいは部材Bと部材Cが直接的に接続される場合のほか、電気的な接続状態に影響を及ぼさない他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0027】
(第1の実施の形態)
図3は、第2の実施の形態に係るDSP200のブロック図である。このDSP200は、デジタルオーディオ信号に対して、さまざまな信号処理を施す。たとえばDSP200は、
図1のオーディオシステム100におけるDSP110として用いることができる。
【0028】
DSP200は、マイコン108からの制御にもとづいて、オーディオ信号の周波数特性を変更可能となっている。DSP200は、インタフェース回路202、メモリ204、係数設定回路206、マルチバンドイコライザ220を備える。インタフェース回路202は、外部のマイコン108との通信を行う。たとえばインタフェース回路202は、I
2Cインタフェースであってもよい。
【0029】
マルチバンドイコライザ220は、複数M個(Mは2以上の整数)のバンドBAND1〜BANDMに対応する複数のデジタルフィルタ222_1〜222_Mを含み、各デジタルフィルタ222の周波数特性が、係数群に応じて変更可能である。デジタルフィルタ222は、IIR(Infinite Impulse Response)フィルタであってもよいし、FIR(Finite Impulse Response)フィルタであってもよい。加算器224は、複数M個のデジタルフィルタ222_1〜222_Mの出力を加算する。なお、マルチバンドイコライザ220の構成は
図3のそれには限定されず、たとえば複数のデジタルフィルタ222は直列に接続されてもよい。あるいはマルチバンドイコライザ220を、複数のデジタルフィルタ222の直列接続と並列接続の組み合わせで構成してもよい。
【0030】
係数設定回路206は、複数のデジタルフィルタ222_1〜222_Mそれぞれの係数群を設定する。たとえばデジタルフィルタ222が、
図2(b)の2次IIRフィルタである場合、係数群は、5個の係数b
0〜b
2,a
1,a
2を含む。
【0031】
マルチバンドイコライザ220の周波数特性は、複数N個(Nは2以上の整数)の周波数特性(以下、プリセットという)から選択可能である。たとえば、複数のプリセットは、フラット、ロック、ポップス、ボーカル、ピアノ、ジャズ、クラシックなど、オーディオのジャンルや楽器ごとに用意される。あるいは、複数のプリセットは、コンサートホールやジャズクラブ、教会などの残響を再現する音響調整機能のために用意されてもよい。またこれらのプリセットは、ルーム補正のためのイコライジングの成分を含んでもよい。
【0032】
DSP200の起動時に、インタフェース回路202は、複数のプリセットに対応する複数の設定データS
1〜S
Nをマイコン108から受信し、それらをメモリ204に格納する。
【0033】
そしてオーディオ再生時において、インタフェース回路202は、複数のプリセットのひとつを指定する選択データSELを受信する。係数設定回路206は、メモリ204に格納される複数の設定データS
1〜S
Nのうち選択データSELに対応するひとつに応じて、複数のデジタルフィルタ222_1〜222_Mそれぞれの係数群を設定する。
【0034】
図4は、設定データの一例を示す図である。たとえば設定データS
1は、複数のバンドBAND1〜BANDM(つまり複数のデジタルフィルタ222)に対応する、複数の係数群を含んでいる。その他の設定データS
2〜S
Nも同様である。
【0035】
オーディオ再生中に、i番目(1≦i≦N)のプリセットを指示する選択信号SELがメモリ204に書き込まれたとする。このとき、係数設定回路206は、i番目の設定データS
iを参照し、それに含まれる各バンドの係数群を、対応するバンドのデジタルフィルタ222に設定する。
【0036】
以上がDSP200の構成である。続いてその動作を説明する。
図5は、DSP200を備えるオーディオシステム100のシーケンス図である。起動直後に、セットアップシーケンスS100が実行される。セットアップシーケンスS100では、複数N個のプリセットに対応するN個の設定データS
1〜S
Nが、マイコン108からDSP200に送信される(S102)。この送信は、割り込み処理ではなく、予定された処理である。DSP200のインタフェース回路202は、受信したN個の設定データS
1〜S
Nをメモリ204に格納する。
【0037】
マイコン108は、セットアップシーケンスの完了後、再生シーケンスに移行する前に、複数のデジタルフィルタ222の係数群が初期化される。たとえば、DSP200は、プリセットの初期値(デフォルト値)を保持しており、その初期値に応じてマルチバンドイコライザ220を初期化してもよい。あるいはセットアップシーケンス中にDSP200が、プリセットの初期値を、選択データSELとしてDSP200に送信してもよい。
【0038】
セットアップシーケンスS100が完了すると、再生シーケンスS110に移行する。再生シーケンス中、DSP200は、オーディオ信号に対して、
図5のシーケンス図に示されない様々な信号処理を施している。またマイコン108は、再生シーケンス中に、DSP200との間でシーケンス図に示されない様々なデータの送受信を行っている。たとえばこの送受信には、スペクトラムアナライザ機能のためのデータ伝送が含まれる。
【0039】
マイコン108は、再生シーケンスS110の間に、ユーザによるプリセットの変更の入力を検出すると(S112)、変更後のプリセットを指定する選択データSELをDSP200に送信する(S114)。
【0040】
DSP200の係数設定回路206は、選択データSELが指定するプリセットに対応する設定データS
iを選択し(S116)、選択した設定データS
iに対応する係数群を、デジタルフィルタ222にセットする(S118)。その後、再びイコライザの変更が指示されると、S112〜S118の処理が行われる。
【0041】
以上がDSP200を備えるオーディオシステム100の動作である。このDSP200によれば、セットアップシーケンスの間に、すべてのプリセットに対応する設定データS
1〜S
Nを送信しておき、オーディオ再生中には、プリセットを指定する選択データSELのみを送信することとした。たとえばN=8個のプリセットが選択可能である場合、選択データSELは3ビットでよく、したがってオーディオ再生中にプリセットイコライザの変更があった場合に、1回のデータ伝送のみで、プリセットを切りかえることができる。
【0042】
これと引き替えに、セットアップシーケンスS100において、すべてのプリセットに対応する設定データS
1〜S
Nが送信される。
図4に示すように、各設定データSが、バンドごとの係数群を含むとする。係数群が5個の係数を含み、各係数が24ビットであり、M=13バンドのシステムにおいては、セットアップシーケンスS100において
5×24ビット×M×N=5×24×13×8=12480ビット
のデータを送信することとなる。1ワード8ビットのシリアルインタフェースでは、1560回のデータ伝送が発生する。ただし、セットアップシーケンスS100のデータ伝送は、割り込み処理ではなく、予定されたものである。したがって、その他のデータ伝送の邪魔になることはなく、DSP200やマイコン108の処理のボトルネックとなることもない。また、割り込み処理を考慮しなくて済むため、ソフトウェアの設計の負担が大幅に軽減される。
【0043】
(第2の実施の形態)
第1の実施の形態では、マルチバンドイコライザ220において複数のバンドBAND1〜BANDMの周波数が可変であった。このようなイコライザをパラメトリックイコライザとも称する。第2の実施の形態では、各バンドの周波数が固定されている。このようなイコライザは、グラフィックイコライザとも称される。たとえば複数のバンドの周波数は、オクターブ刻みで規定される。そしてマルチバンドイコライザ220は、各バンドのゲインのみが可変となっている。
図6(a)は、設定データの別の一例を示す図である。
図6(a)の設定データS
1は、複数のバンドBAND1〜BANDMそれぞれのゲインg
1〜g
Mを含む。その他の設定データS
2〜S
Nも同様である。
【0044】
係数設定回路206は、複数のバンドBAND1〜BANDMそれぞれについて、ゲインgと、対応するデジタルフィルタ222の係数群の対応関係を保持する。
図6(b)は、第1バンドBAND1の、ゲインgと係数群の対応関係を示すテーブルである。たとえばゲインgの値は、−7dB〜+7dBの間で、1dB刻みで15段階から選択可能である。ゲインの値ごとに、係数群b
0〜b
2,a
0,a
1が保持されている。なお係数の具体的な値は省略されている。その他のバンドBAND2〜BANDMについても同様である。
図6(b)の対応関係は、テーブルとして保持されてもよいし、演算式で保持してもよい。
【0045】
各バンドのゲインが15段階で設定可能である場合、ゲインの設定は4ビットとなる。第2の実施の形態によれば、セットアップシーケンスS100において伝送される設定データS
1〜S
Nは、
4ビット×M×N=4×13×8=416ビット
となり、1ワード8ビットのシリアルインタフェースを用いた場合、52回のデータ伝送で足り、第1の実施の形態に比べて大幅に削減される。
【0046】
第2の実施の形態は、バンド数Mが10以上と大きい用途に適していると言え、反対に第1の実施の形態は、バンド数Mが10以下、より好ましくは5以下の用途に適していると言える。
【0047】
(第3の実施の形態)
図7は、第3の実施の形態に係るDSP200aのブロック図である。DSP200aは、たとえば2チャンネル(Lチャンネル、Rチャンネル)で構成され、チャンネルごとにマルチバンドイコライザ220L,220Rを備える。ここでは車載オーディオ用のDSPを例に説明する。車載オーディオシステムは、フロント左右、リア左右、合計4個のスピーカを備える。マルチバンドイコライザ220Lの出力は、左側の前後のスピーカに振り分けられ、マルチバンドイコライザ220Rの出力は、右側の前後のスピーカに振り分けられる。
【0048】
DSP200aはさらに、遅延回路230FL,230RL,230FR,230RRを備える。これらの遅延回路230は可変遅延回路であり、遅延量が遅延設定値に応じて独立に調節可能となっている。
【0049】
なお
図7では明確化のため、Lチャンネル、Rチャンネルそれぞれにおいて、フロントとリアでひとつのマルチバンドイコライザ220を共有しているが本発明はそれには限定されない。すなわち、フロントとリアそれぞれに個別にマルチバンドイコライザ220を設けてもよく、したがってマルチバンドイコライザ220は、スピーカごとに設けられてもよい。これにより、より臨場感のあふれる音場の設定が可能となる。あるいは、マルチバンドイコライザは、全チャンネルで共通の1個のみを設けてもよい。あるいは、フロントLチャンネル、フロントRチャンネルで共有される1個のマルチバンドイコライザ220と、リアLチャンネル、リアRチャンネルで共有される1個のマルチバンドイコライザ220と、を設けてもよい。
【0050】
図8(a)、(b)は、設定データの一例を示す図である。設定データS
1は、マルチバンドイコライザ220のためのデータに加えて、複数の遅延回路230FL,230RL,230FR,230RRのための遅延設定値D
FL,D
RL,D
FR,D
RRを含む。
図8(a)の設定データS
1は、マルチバンドイコライザ220ためのデータを、
図4のフォーマットで含む。
図8(b)の設定データS
1は、マルチバンドイコライザ220ためのデータを、
図6(a)のフォーマットで含む。なお
図7において、同じプリセットに対して、マルチバンドイコライザ220Lとマルチバンドイコライザ220Rに異なる周波数特性を設定する場合、設定データS
1に、Lチャンネルのマルチバンドイコライザ220Lのためのデータと、Rチャンネルのマルチバンドイコライザ220Rのためのデータを含めればよい。
【0051】
続いてDSP200aの動作を説明する。インタフェース回路202は、セットアップシーケンスにおいて、複数のプリセットに対応する複数の設定データS
1〜S
Nを受信し、メモリ204に保持する。インタフェース回路202がプリセットを指定する選択データSELを受信すると、係数設定回路206は、選択データSELに応じたひとつの設定データS
iを選択し、それにもとづいてマルチバンドイコライザ220L,220Rの周波数特性ならびに遅延回路230FL,230RL,230FR,230RRの遅延量を設定する。
【0052】
以上が第3の実施の形態に係るDSP200aの構成および動作である。このDSP200aによれば、遅延を利用したプリセットを、瞬時に切りかえることができる。たとえば音響調整機能に関するプリセットは、リアスピーカからの音を、フロントスピーカからの音に対して遅延させることによる残響効果を利用することがある。第3の実施の形態によれば、プリセットごとに遅延量を切りかえることができるため、音響調整用などに関するプリセットをサポートすることができる。
【0053】
あるいは、カーオーディオでは、視聴位置(たとえば運転席)と、4個のスピーカの距離がそれぞれ異なっており、同じ位相でスピーカが鳴ると、視聴位置において位相がずれて音像がぼやけることとなる。これを補正するためのルーム補正(音場補正、固定イライザともいう)においては、スピーカごとに異なる遅延量を設定する必要がある。第3の実施の形態によれば、ルーム補正を考慮したプリセットを選択することができる。
【0054】
(用途)
最後に、DSP200の用途を説明する。
図9は、DSP200を用いた車載オーディオ装置500の構成を示すブロック図である。車載オーディオ装置500は、4チャンネル(フロント右FR、リア右RR、フロント左FL、リア左RL)で構成され、4チャンネルに対応する複数のスピーカ502FR,502RR,502FL,502RLを備える。車載オーディオ装置500は、さらにセンターチャンネル、サブウーファチャンネルを備える5.1チャンネルであってもよい。
【0055】
音源504は、CDプレイヤ、DVDプレイヤ、ブルーレイプレイヤ、HDD/シリコンオーディオプレイヤ、ラジオチューナなどであり、アナログあるいはデジタルのオーディオ信号を再生する。DSP200は、音源504からのオーディオ信号を受け、さまざまなデジタル信号処理を施す。DSP200の処理を受けたオーディオ信号は、アナログオーディオ信号に変換され、アンプ506に入力される。アンプ506は、各チャンネルのアナログオーディオ信号を増幅し、対応するスピーカ502を駆動する。マイコン108は、DSP200をはじめとするブロックを統合的に制御する。音源504、マイコン108、DSP200、アンプ506は、バッテリ508からの給電を受けて動作する。音源504、マイコン108、DSP200、アンプ506は、ヘッドユニット510に内蔵されてもよい。なおアンプ506は、DSP200と同一のチップに集積化されてもよい。
【0056】
ユーザ(運転者)がイグニッションをオン(あるいはアクセサリオン)すると、マイコン108をはじめとする回路に電源が供給される。電源が供給されると、セットアップシーケンスに移行し、マイコン108からDSP200に対して、設定データS
1〜S
Nが送信される。
【0057】
DSP200は、車載オーディオ装置の他、オーディオコンポーネント装置、テレビ、デスクトップPC、ノートPC、タブレットPC、携帯電話端末、デジタルカメラ、ポータブルオーディオプレイヤなどの電子機器に搭載することもできる。
【0058】
図10(a)〜(c)は、電子機器の外観図である。
図10(a)は電子機器の一例であるディスプレイ装置600である。ディスプレイ装置600は、筐体602、スピーカ612を備える。DSP200は筐体に内蔵される。
【0059】
図10(b)は電子機器の一例であるオーディオコンポーネント装置700である。オーディオコンポーネント装置700は、筐体702、スピーカ712を備える。DSP200は筐体702に内蔵される。
【0060】
図10(c)は電子機器の一例である小型情報端末800である。小型情報端末800は、携帯電話、タブレット端末、オーディオプレイヤなどである。小型情報端末800は、筐体802、スピーカ812、ディスプレイ804を備える。DSP200は筐体802に内蔵される。
【0061】
実施の形態にもとづき、具体的な語句を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。