【文献】
Burhan Gulbahar and Ozgur B. Akan,A Communication Theoretical Modeling and Analysis of Underwater Magneto-Inductive Wireless Channels,IEEE Transactions on Wireless Communications,2012年 9月,Vol.11, No.9,p.3326-3334
【文献】
二神大,石崎俊雄,粟井郁雄,海水中無線給電の実用化による海底の産業的価値創出,電子情報通信学会2015年通信ソサイエティ大会講演論文集1,日本,一般社団法人電子情報通信学会,2015年 9月 8日,pages.S62-S63
【文献】
枷場亮祐,岡本克也,出口太志,江口和弘,小柳芳雄,海中ワイヤレス電力伝送の電磁界シミュレーション検討,電子情報通信学会2016年総合大会講演論文集 通信1,日本,一般社団法人電子情報通信学会,2016年 3月15日,page.681
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、適宜図面を参照しながら、実施形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になることを避け、当業者の理解を容易にするためである。尚、添付図面及び以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために提供されるものであり、これらにより特許請求の範囲に記載の主題を限定することは意図されていない。
【0011】
(第1の実施形態)
[構成等]
図1は、第1の実施形態における電力伝送システム10が置かれる環境の一例を示す模式図である。電力伝送システム10は、送電装置100、受電装置200、及びコイルCLを備える(
図2参照)。送電装置100は、受電装置200に対して、複数のコイルCLを介して、磁気共鳴方式に従ってワイヤレス(無接点)で電力伝送する。配置されるコイルCLの数は、n個であり、任意である。
【0012】
コイルCLは、例えば、環状に形成され、樹脂のカバーで被覆されて絶縁されている。コイルCLは、例えば、ヘリカルコイルやスパイラルコイルである。また、コイルCLは、例えばキャプタイヤケーブルで形成される。コイルCLは、送電コイルCLA及び受電コイルCLBを含む。送電コイルCLAは、一次コイル(Primary Coil)であり、受電コイルCLBは、二次コイル(Secondary Coil)である。
【0013】
また、コイルCLは、送電コイルCLAと受電コイルCLBとの間に配置された1つ以上の中継コイルCLC(Booster Coil)を含んでもよい。中継コイルCLC同志は、略平行に配置され、中継コイルCLCにより形成される開口面の半分以上が重なる。複数の中継コイルCLC間の間隔は、例えば中継コイルCLCの半径以上確保される。中継コイルCLCは、送電コイルCLAによる電力伝送を補助する。
【0014】
送電コイルCLAは、送電装置100に設けられる。受電コイルCLBは、受電装置200に設けられる。中継コイルCLCは、送電装置100に設けられても、受電装置200に設けられても、送電装置100及び受電装置200とは別に設けられてもよい。中継コイルCLCは、一部が送電装置100に設けられ、他の一部が受電装置200に設けられてもよい。
【0015】
送電装置100は、船舶50に設置される。受電装置200は、移動可能な水中航走体60(例えば潜水艇70や水底掘削機80)や固定的に設置される受電装置(例えば地震計、監視カメラ、地熱発電機)に設置される。各コイルCLは、水中(例えば海中)に配置される。
【0016】
潜水艇70は、例えば、遠隔操作無人探査機(ROV:Remotely Operated Vehicle)、無人潜水艇(UUV:Unmanned Underwater Vehicle)、又は自立型無人潜水機(AUV:Autonomous Underwater Vehicle)を含んでもよい。
【0017】
船舶50の一部は、水面90(例えば海面)より上部つまり水上に存在し、船舶50の他の一部は、水面90よりも下部つまり水中に存在する。船舶50は、水上で移動可能であり、例えばデータ取得場所の水上へ自由に移動可能である。船舶50の送電装置100と送電コイルCLAとの間は、電線20により接続される。電線20は、水上のコネクタ(不図示)を介して、例えば送電装置100内のドライバ151(
図2参照)と接続される。
【0018】
水中航走体60は、水中又は水底95(例えば海底)に存在し、水中又は水底95を航走する。例えば、水上の船舶50からの指示により、データ取得ポイントへ自由に移動可能である。船舶50からの指示は、各コイルCLを介した通信により伝送されてもよいし、その他の通信方法により伝送されてもよい。
【0019】
各コイルCLは、連結体30と接続され、例えば等間隔に配置される。隣り合うコイルCL間の距離(コイル間隔)は、例えば5mである。コイル間隔は、例えばコイルCLの直径の半分程度の長さである。伝送周波数は、水中又は海中での磁界強度の減衰量を考慮すると、例えば40kHz以下であり、10kHz未満とされることが好ましい。また、10kHz以上の送信周波数で電力伝送する場合には、電波法の規定に基づいて所定のシミュレーションを行う必要があり、10kHz未満の場合にはこの作業を省略できる。尚、伝送周波数が低周波であるほど、電力伝送距離が長くなり、コイルCLが大きくなり、コイル間隔が長くなる。
【0020】
伝送周波数は、コイルCLのインダクタンス、コイルCLの直径、コイルのCLの巻き数等のコイル特性に基づき定まる。コイルCLの直径は、例えば数m〜数10mである。また、コイルCLの太さが太い程、つまりコイルCLの線径が大きい程、コイルCLでの電気抵抗が減り、電力損失が小さくなる。また、コイルCLを介して伝送される電力は、例えば50W以上であり、kWオーダーでもよい。
【0021】
図1では、連結体30の数が3つであるが、これに限られない。連結体30における受電コイルCLB側の端部には、錘40が接続される。連結体30における送電コイルCLA側の端部には、ブイ(Buoy)45が接続される。
【0022】
錘40により、連結体30の移動を規制でき、連結体30に固定された各コイルCLの移動を規制できる。よって、水中において水流が発生しても、錘40により各コイルCLの移動が規制されるので、コイルCLを用いた電力伝送の効率が低下することを抑制できる。
【0023】
また、連結体30において、受電コイルCLB側の端部に錘40が接続され、送電コイルCLA側の端部にブイ45が接続されることで、錘40が水底側、ブイ45が水面側となり、連結体30が水面90と略垂直となる姿勢を維持できる。よって、各コイルCLにより定義される面は、水面90と略平行となり、磁界共鳴方式によって水深方向(水面と略直交する方向)に電力伝送できる。
【0024】
尚、錘40は、連結体30の運搬時には連結体30から取り外され、連結体30の運搬が終了し、所定の位置に設置される際に、連結体30に錘40が取り付けられてもよい。これにより、連結体30の運搬が容易になる。
【0025】
図2は、電力伝送システム10の構成例を示すブロック図である。電力伝送システム10は、送電装置100及び受電装置200を備える。
【0026】
送電装置100は、電源110、ADC(AC/DC Converter)120、CPU(Central Processing Unit)130、情報通信部140、及び送電回路150、を備える。
【0027】
ADC120は、電源110から供給される交流電力を直流電力に変換する。変換された直流電力は、送電回路150へ送られる。
【0028】
CPU130は、送電装置100の各部(例えば電源110、ADC120、情報通信部140、送電回路150)の動作を統括する。
【0029】
情報通信部140は、受電装置200との間で通信される通信データを変調又は復調するための変復調回路141を含む。情報通信部140は、例えば、送電装置100から受電装置200への制御情報を、コイルCLを介して送信する。情報通信部140は、例えば、受電装置200から送電装置100へのデータを、コイルCLを介して受信する。このデータは、例えば、受電装置200により水中探査や水底探査された探査結果のデータが含まれる。情報通信部140により、水中航走体60がデータ収集等の作業しながら、水中航走体60との間で迅速にデータ通信できる。
【0030】
送電回路150は、ドライバ151及び共振回路152を含む。ドライバ151は、ADC120からの直流電力を所定の周波数の交流電圧(パルス波形)に変換する。共振回路152は、コンデンサCAと送電コイルCLAとを含んで構成され、ドライバ151からのパルス波形の交流電圧から正弦波波形の交流電圧を生成する。送電コイルCLAは、ドライバ151から印加される交流電圧に応じて、所定の共振周波数で共振する。尚、送電コイルCLAは、送電装置100の出力インピーダンスにインピーダンス整合される。
【0031】
尚、ドライバ151が変換することで得られる交流電圧に係る所定の周波数は、送電装置100と受電装置200との間での電力伝送の伝送周波数に相当し、共振周波数に相当する。本実施形態では、この伝送周波数が、各コイルCLのQ値に基づき設定される。設定される伝送周波数の詳細について後述する。
【0032】
受電装置200は、受電回路210、CPU220、充電制御回路230、2次電池240、及び情報通信部250を備える。
【0033】
受電回路210は、整流回路211、レギュレータ212、及び共振回路213を含む。共振回路213は、コンデンサCBと受電コイルCLBとを含んで構成され、送電コイルCLAから送電された交流電力を受電する。尚、受電コイルCLBは、受電装置200の入力インピーダンスにインピーダンス整合される。整流回路211は、受電コイルCLBに誘起された交流電力を直流電力に変換する。レギュレータ212は、整流回路211から送られる直流電圧を、2次電池240の充電に適合する所定の電圧に変換する。
【0034】
CPU220は、受電装置200の各部(例えば受電回路210、充電制御回路230、2次電池240、情報通信部250)の動作を統括する。
【0035】
充電制御回路230は、2次電池240の種別に応じて2次電池240への充電を制御する。例えば、2次電池240がリチウムイオン電池の場合、充電制御回路230は、定電圧で、レギュレータ212からの直流電力により2次電池240への充電を開始する。
【0036】
2次電池240は、送電装置100から伝送された電力を蓄積する。2次電池240は、例えばリチウムイオン電池である。
【0037】
情報通信部250は、送電装置100との間で通信される通信データを変調又は復調するための変復調回路251を含む。情報通信部250は、例えば、送電装置100から受電装置200への制御情報を、コイルCLを介して受信する。情報通信部250は、例えば、受電装置200から送電装置100へのデータを、コイルCLを介して送信する。このデータは、例えば、受電装置200により水中探査や水底探査された探査結果のデータが含まれる。情報通信部250により、水中航走体60がデータ収集等の作業しながら、船舶50との間で迅速にデータ通信できる。
【0038】
尚、中継コイルCLCは、送電コイルCLA及び受電コイルCLBと同様に、コンデンサCCとともに共振回路を構成する。つまり、本実施形態では、共振回路が水中において多段に配置されることで、磁気共鳴方式により電力が伝送される。
【0039】
次に、送電装置100から受電装置200への電力伝送について説明する。
【0040】
共振回路152では、送電装置100の送電コイルCLAに電流が流れると送電コイルCLAの周囲に磁場が発生する。発生した磁場の振動は、同一の周波数で共振する中継コイルCLCを含む共振回路又は受電コイルCLBを含む共振回路213に伝達される。
【0041】
中継コイルCLCを含む共振回路では、磁場の振動により中継コイルCLCに電流が励起され、電流が流れ、中継コイルCLCの周囲に更に磁場が発生する。発生した磁場の振動は、同一の周波数で共振する他の中継コイルCLCを含む共振回路又は受電コイルCLBを含む共振回路213に伝達される。
【0042】
共振回路213では、中継コイルCLC又は送電コイルCLAの磁場の振動により、受電コイルCLBに交流電流が誘起される。誘起された交流電流が整流され、所定の電圧に変換され、2次電池240に充電される。
【0043】
[コイルの共振条件]
まず、第1のシミュレーションについて説明する。
【0044】
図3は、第1のシミュレーションに用いられるシミュレーションモデル300の一例を示す模式図である。シミュレーションモデル300は、電力伝送用コイルCLα及び受電コイルCLBを含む。電力伝送用コイルCLαは、電力伝送に用いられるコイルであり、例えば、送電コイルCLA及び中継コイルCLCを含む。第1のシミュレーションでは、シミュレーションモデル300が海中に配置されてシミュレーションされる。
図3では、例えば、y方向が水面90と直交する方向であり、電力が伝送される方向である。また、例えば、xz面が水面90と平行になる。
【0045】
シミュレーションモデル300では、電力伝送用コイルCLα(送電コイルCLA,中継コイルCLC)のコイル特性として、電力伝送用コイルCLαの直径を1000mm(=1.0m)とし、電力伝送用コイルCLα(送電コイルCLA,中継コイルCLC)の巻き数を10回とし、電力伝送用コイルCLα(送電コイルCLA,中継コイルCLC)の線径を9.1mmとしている。つまり、送電コイルCLAと中継コイルCLCとのコイル特性は同じである。よって、送電コイルCLAと中継コイルCLCとは、例えばQ値の周波数特性が同じになる。
【0046】
また、受電コイルCLBのコイル特性として、受電コイルCLBの直径を150mm(=15cm)とし、受電コイルCLBの巻き数を23回とし、受電コイルCLBの線径を2.0mmとしている。
【0047】
尚、受電コイルCLBは、各種機器(例えば後述する水中航走体60)に搭載されることが多い。そのため、受電コイルCLBの直径は、電力伝送用の送電コイルCLAや中継コイルCLCの直径と比較すると、小さいことが多い。受電コイルCLBの直径が小さくなると、コイルのインダクタンス(L)が小さくなる。受電コイルCLBは、電力伝送用コイルCLαと比較すると、インダクタンスの低下を抑制するために、コイルの巻き数を多くされることが多い。
【0048】
図4は、シミュレーションモデル300を用いた場合の各コイルのQ値の周波数特性の一例を示すグラフである。
図4の横軸は周波数を示し、縦軸はQ値を示す。
図4では、電力伝送用コイルCLαのQ値の周波数特性L11と、受電コイルCLBのQ値の周波数特性L12と、後述する仮想Q値の周波数特性L13と、が示されている。
【0049】
Q値は、共振回路の共振のピークの鋭さを表す。よって、Q値が高い程、コイルCLによる伝送効率が向上する。Q値は、角周波数ω、抵抗成分R,インダクタンス成分L、キャパシタンス成分Cを用いると、以下の(式1)で示される。
【数1】
【0050】
また、角周波数ωは、インダクタンス成分L、キャパシタンス成分Cを用いると、以下の(式2)で示される。
【数2】
【0051】
図4において周波数特性L13で示された仮想Q値は、電力伝送用コイルCLαのQ値及び受電コイルCLBのQ値に基づいて導出される。例えば、電力伝送用コイルCLαのQ値をQ1とし、受電コイルCLBのQ値をQ2とし、仮想コイルXの仮想Q値をQ3とすると、Q3は、以下の(式3)で表される。仮想Q値としてのQ3は、例えば、周波数毎にQ1及びQ2に基づいて算出され、周波数特性L13が導出される。(式3)では、Q3は、Q1及びQ2の相乗平均値となっている。
【数3】
【0052】
図4を参照すると、電力伝送用コイルCLαのQ値(=Q1)の周波数特性L11では、比較的低い周波数fq11(例えば周波数3.0kHz)の位置に、Q値の最大値が存在することが理解できる。また、受電コイルCLBのQ値(=Q2)の周波数特性L12では、比較的高い周波数fq12(例えば周波数59.3kHz)の位置に、Q値の最大値が存在することが理解できる。また、仮想Q値(=Q3)の周波数特性L13では、周波数特性L11とL12との交点(クロスポイント)となる周波数fcp1(例えば周波数11kHz)、つまりQ1とQ2とが同値となる周波数fcp1近傍の周波数fq13(例えば周波数12.3kHz)の位置に、Q値の最大値が存在することが理解できる。尚、具体的なQ値の大きさは、コイルCLのコイル特性(コイルCLに関する各パラメータ)に依存する。
【0053】
シミュレーションモデル300では、電力伝送用コイルCLαと受電コイルCLBとを比較すると、電力伝送用コイルCLαは受電コイルCLBよりもコイルの直径が大きい。そのため、電力伝送用コイルCLαは受電コイルCLBよりもインダクタンス(L)が大きくなる。そのため、(式2)より、電力伝送用コイルCLαは受電コイルCLBよりも角周波数ωが小さくなる、よって、電力伝送用コイルCLαのQ値が最大となる周波数fq11は、受電コイルCLBのQ値が最大となる周波数fq12よりも低くなる。
【0054】
図4のQ値の周波数特性L11〜L13を参照すると、電力伝送用コイルCLαから受電コイルCLBへ電力伝送する場合、つまり、送電コイルCLAから中継コイルCLCを介して受電コイルCLBへ電力伝送する場合、伝送周波数として以下の3つのいずれかが想定される。具体的には、電力伝送用コイルCLαのQ値が高くなる周波数fq11付近の周波数を用いるか、受電コイルCLBのQ値が高くなる周波数fq12付近の周波数を用いるか、仮想Q値が高くなる周波数fq13付近の周波数を用いるか、の3つが考えられる。
【0055】
図5は、シミュレーションモデル300を用いた場合の各コイルの伝送効率の周波数特性の一例を示すグラフである。
図5の横軸は周波数を示し、縦軸は電流又は電圧の伝送効率を示す。この伝送特性は、送電コイルCLAの送信電力に対する受電コイルCLBの受電電力の比率を示し、S21パラメータに相当する。
【0056】
図5では、Q1の最大値に対応する周波数fq11の位置に、伝送効率のピーク値P11(例えば値0.46)が出現している。また、Q2の最大値に対応する周波数fq12の位置に、伝送効率のピーク値P12(例えば値0.38)が出現している。また、Q3の最大値に対応する周波数fq13の位置に、伝送効率のピーク値P13(例えば値0.57)が出現する。尚、Q値が大きい程、伝送効率が高くなり、Q値が一定以上に小さい場合、電力エネルギーの伝達が不十分となり、電力伝送が困難となる。
【0057】
尚、
図5の縦軸の伝送効率が2乗されることで、電力の伝送効率ηが導出される。
図5では、周波数fq11での電力の伝送効率ηは、21.3%である。周波数fq12での電力の伝送効率ηは、14.8%である。周波数fq13での電力の伝送効率ηは、32.8%である。
【0058】
このように電力の伝送効率ηは、上記のように2乗で表されるため、各コイルのQ値の相乗平均を導出することで、伝送効率ηが高くなる(例えば最大となる)周波数を導出できる。
【0059】
尚、シミュレーションにおける各種処理や各種演算は、例えば、図示しないシミュレーション装置(例えばPC(Personal Computer))のCPU、送電装置100のCPU130、又は受電装置200のCPU220により行われる。
【0060】
図5を参照すると、ピーク値P11〜P13のうち、ピーク値P13が最大である。従って、伝送効率の最大値としてのピーク値P13が得られる周波数、つまりQ3の周波数特性L13の最大値から導出された周波数fq13が選択されることにより、電力伝送システム10は、電力伝送用コイルCLα及び受電コイルCLBを用いた磁界共鳴方式による電力伝送の伝送効率を最大化できることが理解できる。
【0061】
また、
図4を参照すると、Q1の周波数特性L11とQ2の周波数特性L11とが交差するクロスポイントの周波数fcp1の位置は、Q3の最大値に対応する周波数fq13の位置と若干異なることがある。周波数fcp1でのQ3の大きさは、Q3の最大値(つまり周波数fq13でのQ3)に近い値となる。よって、伝送周波数として、周波数fcp1と周波数fq13との間のいずれかの周波数が設定された場合でも、ピーク値P13に近似した伝送効率が得られ、伝送効率を向上できる。
【0062】
次に、第2のシミュレーションについて説明する。
第2のシミュレーションでは、主に第1のシミュレーションと異なる箇所について説明し、第1のシミュレーションと同様の事項については、説明を省略又は簡略化する。
【0063】
図6は、第2のシミュレーションに用いられるシミュレーションモデル600の一例を示す模式図である。シミュレーションモデル600は、シミュレーションモデル300と比較すると、受電コイルCLBの特性が異なる。具体的には、受電コイルCLBの直径を300mm(=30cm)とし、受電コイルCLBの巻き数を10回とし、受電コイルCLBの線径を3.7mmとしている。つまり、シミュレーションモデル600では、シミュレーションモデル300と比較して受電コイルCLBを大型化している。受電コイルCLBの特性以外は、シミュレーションモデル600は、シミュレーションモデル300と同様である。第2のシミュレーションでは、シミュレーションモデル600が海中に配置されてシミュレーションされる。
【0064】
図7は、シミュレーションモデル600を用いた場合の各コイルのQ値の周波数特性の一例を示すグラフである。
図7の横軸は周波数を示し、縦軸はQ値を示す。
図7では、電力伝送用コイルCLαのQ値の周波数特性L21と、受電コイルCLBのQ値の周波数特性L22と、仮想Q値の周波数特性L23と、が示されている。尚、仮想Q値としてのQ3の導出方法は、第1のシミュレーションと同様であり、Q3はQ1とQ2との相乗平均値に基づく。
【0065】
図7を参照すると、電力伝送用コイルCLαのQ値(=Q1)の周波数特性L21は、第1のシミュレーションと同様である。つまり、Q1が最大となる周波数fq21(例えば周波数3kHz)は、第1のシミュレーションでの周波数fq11と同じである。電力伝送用コイルCLαのコイル特性(例えばコイルの直径、コイルの巻き数、コイルの線径)が、両シミュレーションにおいて同じためである。
【0066】
一方、受電コイルCLBのQ値(=Q2)の周波数特性L22では、第1のシミュレーションでのQ2の周波数特性L12と比較すると、Q2が最大値となる周波数fq22(例えば周波数25kHz)が低くなっており、Q2の最大値も小さくなっている。
【0067】
また、仮想Q値(=Q3)の周波数特性L23は、Q2の周波数特性L22に依存するので、第1のシミュレーションの場合と異なる。Q2の周波数特性L11,L22が第1,第2のシミュレーション間で変化しているためである。具体的には、Q2の最大値が最大となる周波数fq22が低周波数側に移動していることに伴い、Q3の周波数特性L23では、Q3の最大値となる周波数fq23(例えば周波数8.5kHz)が低くなる。また、Q3の最大値が大きくなっている。また、周波数特性L22とL23との交点(クロスポイント)の周波数fcp2(例えば周波数8kHz)の位置も、第1のシミュレーションと比較すると、低周波数側に移動している。
【0068】
図8は、シミュレーションモデル600を用いた場合の各コイルの伝送効率の周波数特性の一例を示すグラフである。
図5の横軸は周波数を示し、縦軸は電流又は電圧の伝送効率を示す。この伝送特性は、第1のシミュレーションと同様に、送電コイルCLAの送信電力に対する受電コイルCLBの受電電力の比率を示し、S21パラメータに相当する。
【0069】
図8では、Q1の最大値に対応する周波数fq21の位置に、伝送効率のピーク値P21(例えば値0.76)が出現している。また、Q2の最大値に対応する周波数fq22の位置に、伝送効率のピーク値P22(例えば値0.70)が出現している。また、Q3の最大値に対応する周波数fq23の位置に、伝送効率のピーク値P23(例えば値0.78)が出現する。
【0070】
尚、
図8では、周波数fq21での電力の伝送効率ηは、58.3%である。周波数fq22での電力の伝送効率ηは、48.5%である。周波数fq23での電力の伝送効率ηは、61.6%である。
【0071】
図8を参照すると、ピーク値P21〜P23のうち、ピーク値P23が最大である。従って、伝送効率の最大値としてのピーク値P23が得られる周波数、つまりQ3の周波数特性L23の最大値から導出された周波数fq23が選択されることにより、電力伝送用コイルCLα及び受電コイルCLBを用いた磁界共鳴方式による電力伝送の伝送効率を最大化できることが理解できる。
【0072】
また、
図8を参照すると、Q1の周波数特性L21とQ2の周波数特性L22とが交差するクロスポイントの周波数fcp2の位置は、Q3の最大値に対応する周波数fq23の位置と若干異なることがある。周波数fcp2でのQ3の大きさは、Q3の最大値(つまり周波数fq23でのQ3)に近い値となる。よって、伝送周波数として、周波数fcp2と周波数fq23との間のいずれかの周波数が設定された場合でも、ピーク値P23に近似した伝送効率が得られ、伝送効率を向上できる。
【0073】
次に、導電率毎のQ値の周波数特性について説明する。
【0074】
図9は、コイルCLが配置される媒質毎のコイルCLのQ値の周波数特性の一例を示すグラフである。媒質毎に導電率は異なるので、
図9は、導電率毎のコイルCLのQ値の周波数特性を示すグラフとも言える。
図9では、媒質として、デバイモデルの水「Water (Debye Model)」、蒸留水「Water (distilled)」、通常の水(例えば水道水)「Water」、海水「Water_sea」、及びその他の媒質が含まれる。このデバイモデルの水、蒸留水、通常の水、及び海水に係る周波数特性は、シミュレータ(媒質毎のコイルCLのQ値の周波数特性をシミュレーションするための装置)に付属のデフォルトの材料特性を用いて得られたものである。また、
図9では、導電率計で実測された水道水に係る周波数特性が、「Tap Water」として示されている。尚、
図9の結果を得るためのコイルCLの特性として、コイルCLの直径を4.0mとし、コイルの線径を23.6mmとし、コイルの巻き数を5回とした。
【0075】
図9を参照すると、媒質毎にコイルCLのQ値の周波数特性が異なることが理解できる。よって、先述の第1のシミュレーション及び第2のシミュレーションにおいて、例えば海中でなく水中でシミュレーションした場合には、得られるQ値の値が変化し、Q値が大きくなることが理解できる。
【0076】
このように、第1のシミュレーション及び第2のシミュレーションに示したように、電力伝送用コイルCLαと受電コイルCLBとのQ値が変化すると、Q3が最大となる周波数fq13,fq23やQ1とQ2とが同値となるクロスポイントの周波数fcp1,fcp2の位置も変化することが理解できる。また、このように周波数の位置が変化しても、Q3が最大となる周波数fq13,fq23とクロスポイントの周波数fcp1,fcp2との間の周波数では、いずれも高い伝送効率を得られることが理解できる。また、媒質毎にQ値が変化することが理解できる。
【0077】
[効果等]
このように、送電装置100は、水中において、受電コイルCLBを有する受電装置200に電力を伝送する。送電装置100、磁界を介して受電コイルCLBに電力を伝送する送電コイルCLAと、所定の周波数(例えば11kHz〜12.3kHz、8kHz〜8.5kHz)の交流電力を送電コイルCLAへ送電するドライバ151と、送電コイルCLAに接続されると共に、送電コイルCLAと共に共振する共振回路152を形成するコンデンサCAと、を備える。所定の周波数は、送電コイルCLAのQ値(例えばQ1)及び受電コイルCLBのQ値(例えばQ2)の相乗平均値(例えばQ3)が最大となる周波数fq13,fq23と、送電コイルCLAのQ値及び受電コイルのQ値が同値となる周波数fcp1,fcp2と、の間のいずれかの周波数である。
【0078】
ドライバ151は、送電部の一例である。コンデンサCAは、第1のコンデンサの一例である。Q1は、送電コイルCLAのQ値の一例である。Q2は、受電コイルCLBのQ値の一例である。Q3は、Q1とQ2の相乗平均値、つまり(式2)で導出される仮想Q値の一例である。周波数fq13,fq23は、第1の周波数の一例である。周波数fcp1,fcp2は、第2の周波数の一例である。
【0079】
これにより、送電装置100は、送電コイルCLAのQ値及び受電コイルCLBのQ値の双方の相乗平均を加味して電力伝送のための周波数(伝送周波数)を決定することで、電力伝送の伝送効率を向上できる。
【0080】
送電コイルCLAのQ値が最大値付近となる周波数を伝送周波数とすると、送電コイルCLAのコイルの伝送効率を高くできるが、受電コイルCLBによる伝送効率が低くなる。一方、受電コイルCLBのQ値が最大値付近となる周波数を伝送周波数とすると、受電コイルCLBのコイルの伝送効率を高くできるが、送電コイルCLAによる伝送効率が低くなる。つまり、送電側と受電側とで好適な伝送周波数が異なる。
【0081】
これに対して、送電装置100は、送電コイルCLAのQ値と受電コイルCLBのQ値との平均値(相乗平均値)が最大となる付近の周波数を伝送周波数とすることで、複数のコイルCLの異なるQ値を加味して、電力伝送システム10全体での伝送効率を向上できる。
【0082】
また、所定の周波数は、周波数fq13,fq23であってもよい。これにより、送電装置100は、全周波数帯域においてQ3の値が最大となるので、送電コイルCLAと受電コイルCLBを用いた電力伝送の伝送効率を最大化できる。
【0083】
また、送電装置100は、送電コイルCLAからの磁界を用いて受電コイルCLBに電力を伝送する少なくとも1つの中継コイルCLCと、中継コイルCLCに接続されると共に、中継コイルCLCと共に上記の周波数で共振する共振回路を形成する少なくとも1つのコンデンサCCと、送電コイルCLAと中継コイルCLCとを連結する連結体30と、を備えてもよい。中継コイルCLCのQ値の周波数特性は、送電コイルCLAのQ値の周波数特性と同じであってもよい。コンデンサCCは、第2のコンデンサの一例である。
【0084】
これにより、送電装置100は、送電コイルCLAのQ値と中継コイルCLCのQ値とが同じになることで、送電コイルCLAの電力伝送に係る特性が同じになり、送電コイルCLAと中継コイルCLCとの間での伝送損失を低減できる。また、送電装置100は、中継コイルCLCのQ値と受電コイルCLBのQ値との平均値(相乗平均値)が最大となる付近の周波数が伝送周波数とされるので、中継コイルCLCと受電コイルCLBとの間の伝送損失も低減できる。
【0085】
また、送電コイルCLAは、水面90と略直交する方向に電力を伝送してもよい。
【0086】
これにより、送電装置100は、水深方向に電力伝送距離を延長でき、水深の深い場所(例えば深海)に位置する受電装置200に対して給電でき、受電装置200の作業効率を向上できる。
【0087】
また、送電コイルCLAは、電力を伝送するとともに、データを通信してもよい。
【0088】
これにより、受電装置200は、データ収集等の活動効率の低下を抑制しながら、送電装置100からの電力を充電でき、送電装置100との間でデータ通信できる。
【0089】
また、送電装置100及び電力伝送システム10によれば、受電装置200(例えば水中航走体60)は、水中の流れがある環境においても、送電コイルCLAに接触する必要なく、磁気共鳴方式による電力伝送の効率低下を抑制して、安定的に電力の供給を受けることができる。従って、水中航走体60は、データ収集等の活動を行いながら連続給電を受けることが可能になり、給電を受ける際の水中航走体60の稼働率が向上する。よって、送電装置100は、水中でのデータ収集活動の効率を向上できる。
【0090】
また、送電装置100は、送電装置100の送電コイルCLA及び受電装置200の受電コイルCLBを用いることで、磁気共鳴方式によりワイヤレスで電力伝送できる。また、送電装置100は、水中航走体60が所定の給電場所に移動することなく電力を受けられるので、給電時においても水中航走体60は自由に移動でき、ポジションフリーの電力伝送が可能となる。よって、送電装置100は、水中航走体60による水中や水底95での活動が阻害されることを抑制できる。よって、水中航走体60は、充電中でも作業範囲を拡大でき、作業中に連続充電できる。また、水中航走体60は、任意のタイミングで充電できるので、作業時間を短縮できる。
【0091】
また、送電装置100は、中継コイルCLCを用いることで、連続した電磁誘導により電力伝送距離を延長できる。例えば、
図1に示したように、中継コイルCLCを多段に水面90付近から水底方向へ配置することで、送電装置100は、水深の深い位置(例えば水深1000m以上)まで電力伝送可能となる。この場合、送電装置100は、海底資源の採掘や調査を行う水中航走体60に対して、ワイヤレスで電力伝送でき、給電時の水中航走体60の稼働率の低下を抑制できる。
【0092】
また、無給電により動作するための大型のバッテリを水中航走体60が備えなくても、水中航走体60が活動できる。この場合には、水中航走体60を小型化、軽量化できる。
【0093】
(他の実施形態)
以上のように、本開示における技術の例示として、第1の実施形態を説明した。しかし、本開示における技術は、これに限定されず、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施形態にも適用できる。
【0094】
上記実施形態では、電力伝送システム10は、電力伝送用コイルCLαの1つとして、反射コイルCLRを有してもよい。この場合、反射コイルCLRは、送電コイルCLAと水面90の間に配置される。反射コイルCLRは、送電コイルCLAから水面90の方向へ放出される磁界を水底95の方向へ反射する。
図10は、反射コイルCLRが設けられた電力伝送システム10が置かれる環境の一例を示す模式図である。
【0095】
反射コイルCLRが設けられることで、送電コイルCLAから放出された磁界が水面90から放出されることを抑制できる。よって、電力伝送システム10は、送電コイルCLAから放出された磁界と水上や水中での超長波(VLF)帯や極超長波(ULF)の通信との干渉を抑制することが可能になる。よって、電力伝送システム10は、反射コイルCLRを設けることで、送電コイルから受電コイルへ伝送される電力の伝送効率を向上できる。
【0096】
尚、反射コイルCLRは、送電コイルCLAとの共振を避ける必要があるため、受電コイルCLBや中継コイルCLCの様にコンデンサが接続されておらず、共振回路を形成しない。すなわち、反射コイルCLRはコンデンサの無い閉ループになる。
【0097】
また、
図10に示す反射コイルCLRの内側に、反射コイルCLRよりもコイル直径の小さな第2の反射コイルを反射コイルCLRと同心円状に配置してもよい。これにより、送電コイルCLAから発生する磁界を水底方向へ反射可能な面積が増えるので、水面90から磁界が放出されることをより確実に抑えることができる。また、反射コイルCLRが3つ以上設けられてもよい。
【0098】
第1の実施形態では、水中航走体60が2次電池240を備えることにより、水中充電が可能となることを例示した。尚、水中航走体60は2次電池240を備えなくてもよい。この場合でも、水中航走体60は各コイルCLを介して電力供給を受けることができ、つまり水中給電可能である。
【0099】
第1の実施形態では、電力伝送システム10として、海中又は海底においてデータ収集等を行う海底カメラシステムを例示したが、これ以外の用途に適用されてもよい。例えば、受電装置200を様々なセンサを備える水中ロボットや無人探査機に設け、水中や水底95に配置してもよい。これにより、水中ロボットや無人探査機により、水産資源や養殖の管理、橋梁やダムなどのインフラシステムの維持管理、港湾などの海底監視が可能となる。
【0100】
第1の実施形態では、水面90から水底95に向かって、送電コイルCLA、中継コイルCLC、及び受電コイルCLBが並んで配置されることを例示したが、コイルCLの配置方向はこれに限られない。例えば、水面90や水底95に沿う方向に、送電コイルCLA、中継コイルCLC、及び受電コイルCLBが並んで配置されてもよい。これにより、送電装置100は、水中で水平方向に電力伝送できる。
【0101】
第1の実施形態では、水面90から水底95に向かって、送電コイルCLA、中継コイルCLC、及び受電コイルCLBが並んで配置されることを例示したが、この逆でもよい。つまり、水底95から水面90に向かって、送電コイルCLA、中継コイルCLC、及び受電コイルCLBが並んで配置されてもよい。例えば、地熱発電機を送電装置100の電源110として用い、電線20を介して地熱発電機が送電コイルCLAに接続されてもよい。
【0102】
また、送電装置100は、船舶50に設置されなくてもよい。例えば、水上(一部水中であってもよい)に設置される各種発電機(例えば、太陽光発電機、風力発電機、波力発電機)や水中又は水底95の各種発電機(地熱発電機)やその他の電源に、送電装置100の一部が搭載されてもよい。例えば、各種発電機は、送電装置100の電源110として用いられてもよい。
【0103】
第1の実施形態では、CPU130,220を例示したが、CPU130,220以外のプロセッサが用いられてもよい。プロセッサは、物理的にどのように構成してもよい。また、プログラム可能なプロセッサを用いれば、プログラムの変更により処理内容を変更できるので、プロセッサの設計の自由度を高めることができる。プロセッサは、1つの半導体チップで構成してもよいし、物理的に複数の半導体チップで構成してもよい。複数の半導体チップで構成する場合、第1の実施形態の各制御をそれぞれ別の半導体チップで実現してもよい。この場合、それらの複数の半導体チップで1つのプロセッサを構成すると考えることができる。また、プロセッサは、半導体チップと別の機能を有する部材(コンデンサ等)で構成してもよい。また、プロセッサが有する機能とそれ以外の機能とを実現するように、1つの半導体チップを構成してもよい。