特許第6737995号(P6737995)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6737995精神疾患発症危険状態の診断用バイオマーカー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6737995
(24)【登録日】2020年7月21日
(45)【発行日】2020年8月12日
(54)【発明の名称】精神疾患発症危険状態の診断用バイオマーカー
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/72 20060101AFI20200730BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20200730BHJP
   G01N 33/74 20060101ALI20200730BHJP
   G01N 33/70 20060101ALI20200730BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20200730BHJP
   C07K 14/76 20060101ALI20200730BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20200730BHJP
   C07K 16/42 20060101ALI20200730BHJP
   C07K 16/44 20060101ALI20200730BHJP
   C07K 17/00 20060101ALI20200730BHJP
【FI】
   G01N33/72 Z
   G01N33/68
   G01N33/74
   G01N33/70
   C07K16/00ZNA
   C07K14/76
   C07K14/47
   C07K16/42
   C07K16/44
   C07K17/00
【請求項の数】31
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2018-223521(P2018-223521)
(22)【出願日】2018年11月29日
(65)【公開番号】特開2020-85762(P2020-85762A)
(43)【公開日】2020年6月4日
【審査請求日】2020年4月20日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)集会名 第114回日本精神神経学会学術総会 開催日 2018年6月21日〜23日(発表日:6月22日) (2)刊行物名 精神神経学雑誌 第120巻4号付録 155ページ 公益社団法人 日本精神神経学会 発行日 2018年4月30日 (3)ウェブサイト(アドレス:https://www.jspn.or.jp/modules/meeting/index.php?content_id=163) ウェブサイトの掲載日 2018年6月15日 (4)集会名 WFSBP 2018 KOBE 開催日 2018年9月7日〜9日(発表日:9月8日) (5)刊行物名 WFSBP 2018 KOBE Program & abstract book 159ページ WFSBP Asia pacific regional congress of biological psychiatry 発行日 2018年7月13日 (6)ウェブサイト(アドレス:http://www.c−linkage.co.jp/wfsbp2018kobe/program.html) ウェブサイトの掲載日 2018年7月13日 (7)ウェブサイト(アドレス:http://www.med.shimane−u.ac.jp/psychiatry/professor/kenkyu6.html) ウェブサイトの掲載日 2018年10月11日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515262155
【氏名又は名称】株式会社RESVO
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100180563
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 晃
(72)【発明者】
【氏名】大西 新
【審査官】 大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−224759(JP,A)
【文献】 LABAD, J. et al.,Journal of Psychiatric Research,2015年,Vol.60,pp.163-169
【文献】 MIYAOKA, T. et al.,European Neuropsychopharmacology,2005年,vol.15,pp.249-252
【文献】 MIYAOKA, T. et al.,Psychiatry and Clinical Neurosciences,2015年,vol.69,pp.693-698
【文献】 WALKER, E. F. et al.,Journal of Abnormal Psychology,2010年,vol.119, no.2,pp.401-408.
【文献】 GUTIERREZ, A. et al.,BMC Veterinary Research,2017年,vol.13 :375,pp.1-11
【文献】 EMANUELE, E. et al.,Current Pharmaceutical Design,2012年,vol.18,pp.505-509
【文献】 CHAN, MK et al.,Translational Psychiatry,2015年,vol.5, e601,pp.1-10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 − 33/98
C07K 14/00 − 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオピリンを含む、精神疾患発症危険状態(ARMS)診断用バイオマーカー。
【請求項2】
バイオピリンと;コルチゾール、免疫グロブリン遊離κ鎖(κFLC)若しくはその断片、及び免疫グロブリン遊離λ鎖(λFLC)若しくはその断片からなる群から選択される1つ以上と;を含む、請求項1記載のARMS診断用バイオマーカー。
【請求項3】
バイオピリンと、コルチゾールとを含む、請求項1又は2記載のARMS診断用バイオマーカー。
【請求項4】
バイオピリンと、κFLC若しくはその断片とを含む、請求項1又は2記載のARMS診断用バイオマーカー。
【請求項5】
バイオピリンと、λFLC若しくはその断片とを含む、請求項1又は2記載のARMS診断用バイオマーカー。
【請求項6】
バイオピリンと、κFLC若しくはその断片と、λFLC若しくはその断片とを含む、請求項1又は2記載のARMS診断用バイオマーカー。
【請求項7】
バイオピリンと、コルチゾールと、κFLC若しくはその断片と、λFLC若しくはその断片とを含む、請求項1又は2記載のARMS診断用バイオマーカー。
【請求項8】
さらに、クレアチニン及びアルブミンからなる群から選択される1つ以上を含む、請求項1〜7のいずれか一項記載のARMS診断用バイオマーカー。
【請求項9】
バイオピリンに結合することができる物質を含む、精神疾患発症危険状態(ARMS)診断用キット。
【請求項10】
バイオピリンに結合することができる物質と;コルチゾールに結合することができる物質、免疫グロブリン遊離κ鎖(κFLC)若しくはその断片に結合することができる物質、及び免疫グロブリン遊離λ鎖(λFLC)若しくはその断片に結合することができる物質からなる群から選択される1つ以上の物質と;を含む、請求項9記載のキット。
【請求項11】
バイオピリンに結合することができる物質と、コルチゾールに結合することができる物質とを含む、請求項9又は10記載のキット。
【請求項12】
バイオピリンに結合することができる物質と、κFLC若しくはその断片に結合することができる物質とを含む、請求項9又は10記載のキット。
【請求項13】
バイオピリンに結合することができる物質と、λFLC若しくはその断片に結合することができる物質とを含む、請求項9又は10記載のキット。
【請求項14】
バイオピリンに結合することができる物質と、κFLC若しくはその断片に結合することができる物質と、λFLC若しくはその断片に結合することができる物質とを含む、請求項9又は10記載のキット。
【請求項15】
バイオピリンに結合することができる物質と、コルチゾールに結合することができる物質と、κFLC若しくはその断片に結合することができる物質と、λFLC若しくはその断片に結合することができる物質とを含む、請求項9又は10記載のキット。
【請求項16】
さらに、クレアチニンに結合することができる物質及びアルブミンに結合することができる物質からなる群から選択される1つ以上の物質を含む、請求項9〜15のいずれか一項記載のキット。
【請求項17】
前記物質が、抗体又は有機化合物である、請求項9〜16のいずれか一項記載のキット。
【請求項18】
前記物質が、固体支持体上に固定されている、請求項9〜17のいずれか一項記載のキット。
【請求項19】
対象の精神疾患発症危険状態(ARMS)を診断するためのデータの取得方法であって、該対象から得られた生体試料中のバイオピリンの量を測定する工程を含む、前記方法。
【請求項20】
前記生体試料中のバイオピリンの量と;コルチゾールの量、κFLC若しくはその断片の量、及びλFLC若しくはその断片の量からなる群から選択される1つ以上の量とを測定する工程を含む、請求項19記載の方法。
【請求項21】
前記生体試料中のバイオピリンの量と、コルチゾールの量とを測定する工程を含む、請求項19又は20記載の方法。
【請求項22】
前記生体試料中のバイオピリンの量と、κFLC若しくはその断片の量とを測定する工程を含む、請求項19又は20記載の方法。
【請求項23】
前記生体試料中のバイオピリンの量と、λFLC若しくはその断片の量とを測定する工程を含む、請求項19又は20記載の方法。
【請求項24】
前記生体試料中のバイオピリンの量と、κFLC若しくはその断片の量と、λFLC若しくはその断片の量とを測定する工程を含む、請求項19又は20記載の方法。
【請求項25】
前記試料中のバイオピリンの量と、コルチゾールの量と、κFLC若しくはその断片の量と、λFLC若しくはその断片の量とを測定する工程を含む、請求項19又は20記載の方法。
【請求項26】
さらに、前記生体試料中のアルブミンの量を測定する工程を含む、請求項19〜25のいずれか一項記載の方法。
【請求項27】
さらに、前記生体試料中のクレアチニンの量を測定する工程を含む、請求項19〜26のいずれか一項記載の方法。
【請求項28】
前記量を、対照のものと比較する工程を含む、請求項19〜27のいずれか一項記載の方法。
【請求項29】
さらに、前記量の、前記生体試料中のクレアチニンの量に対する比の値を算出する工程を含む、請求項19〜26のいずれか一項記載の方法。
【請求項30】
前記比の値を、対照のものと比較する工程を含む、請求項29記載の方法。
【請求項31】
前記生体試料が尿である、請求項19〜30のいずれか一項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精神疾患発症危険状態(At Risk Mental State:ARMS)の診断用バイオマーカーに関する。また、本発明は、ARMS診断用バイオマーカーに結合することができる物質を含むARMS診断用キット、及び生体試料中のARMS診断用バイオマーカーの量を測定する工程を含むARMSの診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ARMSは、精神疾患発症に移行するリスクの高い状態を意味する。ARMS患者のうちの約20〜30%が、数年以内に様々な精神疾患を発症する。精神疾患は、早期発見及び早期治療が重要であると考えられているため、ARMSをいち早く正確に発見する必要がある。しかしながら、ARMSは一見軽症で、注意深く診察しないと一般的なうつ状態などと鑑別することが非常に難しいという問題があった。
【0003】
今までに、精神疾患を診断するためのバイオマーカーを探索する試みが数多くなされてきた(例えば、特許文献1〜3)。一方で、ARMSの診断に関しては、ほとんど行われていない。そこで、我々は、ARMSの早期発見を目指し、ARMSの新たな診断方法の開発に着手した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017−215335号公報
【特許文献2】特開2017−114855号公報
【特許文献3】再表2015/019979号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】茅野 分 著、「診療科診療所におけるARMS診療」、予防精神医学 Vol.1 (1) 2016, p.37-47
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ARMS診断用バイオマーカー、ARMS診断用バイオマーカーに結合することができる物質を含むARMS診断用キット、及び生体試料中のARMS診断用バイオマーカーの量を測定する工程を含むARMSの診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に鑑み、研究を行った。本発明者らは、ARMS患者と健常者とにおける生体試料中の免疫物質及びストレス関連物質を比較検討した。その結果、本発明者らは、ARMS患者において、バイオピリン及びコルチゾールが健常者と比較して有意に増加し、免疫グロブリン遊離κ鎖(κFLC)及び免疫グロブリン遊離λ鎖(λFLC)が、健常者と比較して有意に低下していることを発見した。すなわち、バイオピリン、コルチゾール、κFLC若しくはその断片、及びλFLC若しくはその断片からなる群から選択される1つ以上の生体物質を、ARMS診断用バイオマーカーとして使用することができる。
【0008】
したがって、本発明は、バイオピリン、コルチゾール、免疫グロブリン遊離κ鎖(κFLC)若しくはその断片、及び免疫グロブリン遊離λ鎖(λFLC)若しくはその断片からなる群から選択される1つ以上を含む、精神疾患発症危険状態(ARMS)診断用バイオマーカーを提供する。該ARMS診断用バイオマーカーは、さらに、クレアチニン及びアルブミンからなる群から選択される1つ以上をさらに含むことができる。
【0009】
また、本発明は、バイオピリンに結合することができる物質、コルチゾールに結合することができる物質、免疫グロブリン遊離κ鎖(κFLC)若しくはその断片に結合することができる物質、及び免疫グロブリン遊離λ鎖(λFLC)若しくはその断片に結合することができる物質からなる群から選択される1つ以上の物質を含む、精神疾患発症危険状態(ARMS)診断用キットを提供する。該ARMS診断用キットは、さらに、クレアチニンに結合することができる物質及びアルブミンに結合することができる物質からなる群から選択される1つ以上の物質を含むことができる。一実施態様において、前記物質は、抗体又は有機化合物である。一実施態様において、前記物質は、固体支持体上に固定されている。
【0010】
さらに、本発明は、対象の精神疾患発症危険状態(ARMS)の診断方法又は対象のARMSを診断するためのデータの取得方法であって、該対象から得られた生体試料中のバイオピリンの量、コルチゾールの量、免疫グロブリン遊離κ鎖(κFLC)若しくはその断片の量、及び免疫グロブリン遊離λ鎖(λFLC)若しくはその断片の量からなる群から選択される1つ以上の量を測定する工程を含む、前記方法を提供する。本発明の方法は、さらに、前記生体試料中のアルブミンの量を測定する工程を含むことができる。本発明の方法は、さらに、前記生体試料中のクレアチニンの量を測定する工程を含むことができる。一実施態様において、本発明の方法は、さらに、前記量を、対照のものと比較する工程を含む。一実施態様において、本発明の方法は、さらに、前記量の、前記生体試料中のクレアチニンの量に対する比の値を算出する工程を含む。この実施態様において、本発明の方法は、さらに、前記比の値を、対照のものと比較する工程を含むことができる。一実施態様において、生体試料は尿である。
本件出願は、以下の態様の発明を提供する。
(態様1)
バイオピリン、コルチゾール、免疫グロブリン遊離κ鎖(κFLC)若しくはその断片、及び免疫グロブリン遊離λ鎖(λFLC)若しくはその断片からなる群から選択される1つ以上を含む、精神疾患発症危険状態(ARMS)診断用バイオマーカー。
(態様2)
バイオピリンを含む、態様1記載のARMS診断用バイオマーカー。
(態様3)
バイオピリンと;コルチゾール、κFLC若しくはその断片、及びλFLC若しくはその断片からなる群から選択される1つ以上と;を含む、態様1又は2記載のARMS診断用バイオマーカー。
(態様4)
バイオピリンと、コルチゾールとを含む、態様1〜3のいずれか一項記載のARMS診断用バイオマーカー。
(態様5)
バイオピリンと、κFLC若しくはその断片とを含む、態様1〜3のいずれか一項記載のARMS診断用バイオマーカー。
(態様6)
バイオピリンと、λFLC若しくはその断片とを含む、態様1〜3のいずれか一項記載のARMS診断用バイオマーカー。
(態様7)
バイオピリンと、κFLC若しくはその断片と、λFLC若しくはその断片とを含む、態様1〜3のいずれか一項記載のARMS診断用バイオマーカー。
(態様8)
バイオピリンと、コルチゾールと、κFLC若しくはその断片と、λFLC若しくはその断片とを含む、態様1〜3のいずれか一項記載のARMS診断用バイオマーカー。
(態様9)
さらに、クレアチニン及びアルブミンからなる群から選択される1つ以上を含む、態様1〜8のいずれか一項記載のARMS診断用バイオマーカー。
(態様10)
バイオピリンに結合することができる物質、コルチゾールに結合することができる物質、免疫グロブリン遊離κ鎖(κFLC)若しくはその断片に結合することができる物質、及び免疫グロブリン遊離λ鎖(λFLC)若しくはその断片に結合することができる物質からなる群から選択される1つ以上の物質を含む、精神疾患発症危険状態(ARMS)診断用キット。
(態様11)
バイオピリンに結合することができる物質を含む、態様10記載のARMS診断用キット。
(態様12)
バイオピリンに結合することができる物質と;コルチゾールに結合することができる物質、κFLC若しくはその断片に結合することができる物質、及びλFLC若しくはその断片に結合することができる物質からなる群から選択される1つ以上の物質と;を含む、態様10又は11記載のキット。
(態様13)
バイオピリンに結合することができる物質と、コルチゾールに結合することができる物質とを含む、態様10〜12のいずれか一項記載のキット。
(態様14)
バイオピリンに結合することができる物質と、κFLC若しくはその断片に結合することができる物質とを含む、態様10〜12のいずれか一項記載のキット。
(態様15)
バイオピリンに結合することができる物質と、λFLC若しくはその断片に結合することができる物質とを含む、態様10〜12のいずれか一項記載のキット。
(態様16)
バイオピリンに結合することができる物質と、κFLC若しくはその断片に結合することができる物質と、λFLC若しくはその断片に結合することができる物質とを含む、態様10〜12のいずれか一項記載のキット。
(態様17)
バイオピリンに結合することができる物質と、コルチゾールに結合することができる物質と、κFLC若しくはその断片に結合することができる物質と、λFLC若しくはその断片に結合することができる物質とを含む、態様10〜12のいずれか一項記載のキット。
(態様18)
さらに、クレアチニンに結合することができる物質及びアルブミンに結合することができる物質からなる群から選択される1つ以上の物質を含む、態様10〜17のいずれか一項記載のキット。
(態様19)
前記物質が、抗体又は有機化合物である、態様10〜18のいずれか一項記載のキット。
(態様20)
前記物質が、固体支持体上に固定されている、態様10〜19のいずれか一項記載のキット。
(態様21)
対象の精神疾患発症危険状態(ARMS)を診断するためのデータの取得方法であって、該対象から得られた生体試料中のバイオピリンの量、コルチゾールの量、免疫グロブリン遊離κ鎖(κFLC)若しくはその断片の量、及び免疫グロブリン遊離λ鎖(λFLC)若しくはその断片の量からなる群から選択される1つ以上の量を測定する工程を含む、前記方法。
(態様22)
前記生体試料中のバイオピリンの量を測定する工程を含む、態様21記載の方法。
(態様23)
前記生体試料中のバイオピリンの量と;コルチゾールの量、κFLC若しくはその断片の量、及びλFLC若しくはその断片の量からなる群から選択される1つ以上の量とを測定する工程を含む、態様21又は22記載の方法。
(態様24)
前記生体試料中のバイオピリンの量と、コルチゾールの量とを測定する工程を含む、態様21〜23のいずれか一項記載の方法。
(態様25)
前記生体試料中のバイオピリンの量と、κFLC若しくはその断片の量とを測定する工程を含む、態様21〜23のいずれか一項記載の方法。
(態様26)
前記生体試料中のバイオピリンの量と、λFLC若しくはその断片の量とを測定する工程を含む、態様21〜23のいずれか一項記載の方法。
(態様27)
前記生体試料中のバイオピリンの量と、κFLC若しくはその断片の量と、λFLC若しくはその断片の量とを測定する工程を含む、態様21〜23のいずれか一項記載の方法。
(態様28)
前記試料中のバイオピリンの量と、コルチゾールの量と、κFLC若しくはその断片の量と、λFLC若しくはその断片の量とを測定する工程を含む、態様21〜23のいずれか一項記載の方法。
(態様29)
さらに、前記生体試料中のアルブミンの量を測定する工程を含む、態様21〜28のいずれか一項記載の方法。
(態様30)
さらに、前記生体試料中のクレアチニンの量を測定する工程を含む、態様21〜29のいずれか一項記載の方法。
(態様31)
前記量を、対照のものと比較する工程を含む、態様21〜30のいずれか一項記載の方法。
(態様32)
さらに、前記量の、前記生体試料中のクレアチニンの量に対する比の値を算出する工程を含む、態様21〜29のいずれか一項記載の方法。
(態様33)
前記比の値を、対照のものと比較する工程を含む、態様32記載の方法。
(態様34)
前記生体試料が尿である、態様21〜33のいずれか一項記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のARMS診断用バイオマーカーを利用して、対象のARMSを、迅速、容易、かつ正確に診断することができる。また、本発明のARMS診断用バイオマーカーは、対象の尿中から測定することができる。したがって、本発明の方法は、非侵襲的である、
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例2において有意差のあった4つの因子についてのROC(Receiver Operating Characteristic)曲線を示す。
図2】実施例2において有意差のあった4つの因子について、ロジスティック回帰分析後のROC曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(1.定義)
本明細書において、用語「精神疾患」は、本発明の技術分野において用いられている最も広い意味を有する。用語「精神疾患」の例を挙げると、制限されないが、統合失調症、自閉症、アルツハイマー病、認知異常、うつ病、双極性障害(躁うつ病)、脳神経発達障害、妊娠中の感染症による神経障害に起因する認知機能障害、免疫障害に起因する精神障害、てんかん、脳器質性精神障害、中毒性精神障害、知的障害(精神遅滞)、精神病質、神経症、梅毒性精神障害、老年期精神障害、脳血管性精神障害、頭部外傷による精神障害、非定形内因性精神病、内分泌性精神障害及び外因反応型、及び退行期精神障害などがある。
【0014】
本明細書において、用語「精神疾患発症危険状態」は、本発明の技術分野において用いられている最も広い意味を有する。例えば、用語「精神疾患発症危険状態」は、精神疾患の発症に移行するリスクの高い状態を意味する。精神疾患発症危険状態は、精神疾患の前駆状態であり、精神疾患、例えば、統合失調症又は自閉症とは異なる。一般に、精神疾患発症危険状態の患者のうちの約20〜30%が、数年以内に様々な精神疾患を発症する。精神疾患発症危険状態の対象は、ある特定の精神疾患を発症するというものではない。精神疾患発症危険状態の対象は、どの精神疾患を発症するかは実際に発症するまで分からない。本明細書中において、用語「精神疾患発症危険状態」を、「ARMS」(At Risk Mental State)ともいう。
【0015】
本明細書において、用語「診断」は、本発明の技術分野において用いられている最も広い意味を有する。用語「精神疾患発症危険状態の診断」、「精神疾患発症危険状態を診断する」、「ARMS診断」及び「ARMSを診断する」とは、例えば、対象がARMSであるか否か、対象がARMSの可能性があるか否か、対象がARMSを治癒若しくは寛解しているか否か、又はARMSの予後予測を判定することを意味する。
【0016】
本明細書において、用語「精神疾患発症危険状態の診断用バイオマーカー」は、ARMS診断の指標となり得るもの、例えば、ARMS診断の指標となり得る生体物質を意味する。本明細書中において、用語「精神疾患発症危険状態の診断用バイオマーカー」は、「ARMS診断用バイオマーカー」とも呼ばれる。対象から得られた生体試料中ARMS診断用バイオマーカーの量を測定し、該量を対照のものと比較することで、該対象のARMSを診断することができる。用語「精神疾患発症危険状態の診断用バイオマーカー」は、1つであっても複数(例えば、2つ、3つ、4つ、5つ又は6つ)であってもよい。例えば、健常者と比較して、ARMS患者においてある2つ以上の生体物質が増加又は減少している場合、その2つ以上の生体物質を組み合わせたものは、ARMS診断用バイオマーカーになり得る。また例えば、健常者と比較して、ARMS以外のある疾患又は状態においてある2つ以上の生体物質が増加又は減少するが、ARMSにおいては、健常者と比較して、そのうちの1つ以上の生体物質が増加又は減少し他のものが変化しない場合も、その2つ以上の生体物質を組み合わせたものは、ARMS診断用バイオマーカーになり得る。ARMS診断用バイオマーカーが複数である場合、ARMS診断の信頼性が向上し得る。
【0017】
本明細書中において、用語「生体物質」は、本発明の技術分野において用いられている最も広い意味を有する。例えば、用語「生体物質」は、対象の体内に存在する又は対象から得られた試料中に存在する化学物質である。用語「生体物質」は、生体試料中に存在する小分子、大分子、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、又は抗体若しくはその断片などの化学物質を含む。バイオピリン、コルチゾール、免疫グロブリン遊離κ鎖(κFLC)若しくはその断片、免疫グロブリン遊離λ鎖(λFLC)若しくはその断片、クレアチニン、及びアルブミンは、生体物質であり得る。
【0018】
用語「バイオピリン」は、本発明の技術分野において公知の物質であり、生体内において、ビリルビンが活性酸素と反応した際に生じる最終酸化産物である。用語「バイオピリン」は、尿中の酸化ストレスマーカーとしても知られている。本明細書中において、用語「バイオピリン」は、生体内において修飾されているもの、例えば、リン酸化、糖鎖付加、アミド化、ユビキチン化、及び/又はアセチル化されているものを含む。
【0019】
用語「コルチゾール」は、本発明の技術分野において公知の物質であり、副腎皮質ホルモンである糖質コルチコイドの一種である。用語「コルチゾール」は、心理ストレスマーカーとしても知られている。本明細書中において、用語「コルチゾール」は、生体内において修飾されているもの、例えば、リン酸化、糖鎖付加、アミド化、ユビキチン化、及び/又はアセチル化されているものを含む。
【0020】
用語「免疫グロブリン遊離κ鎖」及び用語「免疫グロブリン遊離λ鎖」は、本発明の技術分野において一般的に用いられており、それぞれ、遊離(Free)状態の免疫グロブリンκ鎖、及び免疫グロブリンλ鎖を意味する。用語「遊離(Free)」は、IgG又はB細胞などに発現しておらず、単独で存在していることを意味する。本明細書中において、免疫グロブリン遊離κ鎖を、「κFLC」(kappa free light chain)ともいい、免疫グロブリン遊離λ鎖を、「λFLC」(lambda free light chain)ともいう。本明細書中において、用語「免疫グロブリン遊離κ鎖」及び用語「免疫グロブリン遊離λ鎖」は、生体内において修飾されているもの、例えば、リン酸化、糖鎖付加、アミド化、ユビキチン化、及び/又はアセチル化されているものを含む。
【0021】
用語「クレアチニン」は、本発明の技術分野において公知の物質である。用語「クレアチニン」は、腎機能検査に用いられる物質としても知られている。本明細書中において、用語「クレアチニン」は、生体内において修飾されているもの、例えば、リン酸化、糖鎖付加、アミド化、ユビキチン化、及び/又はアセチル化されているものを含む。
用語「アルブミン」も、本発明の技術分野において公知の物質である。本明細書中において、用語「アルブミン」は、生体内において修飾されているもの、例えば、リン酸化、糖鎖付加、アミド化、ユビキチン化、及び/又はアセチル化されているものを含む。
【0022】
バイオマーカーの文脈において、用語「断片」は、全長タンパク質の一部のアミノ酸配列からなるポリペプチドを意味する。例えば、用語「断片」は、そのアミノ酸残基数が、全長タンパク質から少なくとも1アミノ酸残基短いポリペプチド、例えば、約1〜約100、約1〜約50、約1〜約20、約1〜約10、約1〜約5アミノ酸残基短いポリペプチドをいう。例えば、κFLCの断片は、その定常領域(免疫グロブリンκ鎖C領域)又は抗体で検出する際に抗原になり得る部位(抗原部位)である。例えば、λFLCの断片は、その定常領域(免疫グロブリンλ鎖C領域)又は抗体で検出する際に抗原になり得る部位(抗原部位)である。用語「断片」は、1種又は複数種からなる混合物であってもよい。
【0023】
本願明細書中において、用語「対象」とは、本発明の技術分野において用いられている最も広い意味を有する。用語「対象」は、ヒト又は非ヒト動物を包含する。非ヒト動物は、例えば、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、サル、イヌ、ネコ、又はミニブタなどの非ヒト哺乳動物を含む。対象がヒトである場合、該対象は、「被験者」又は「患者」とも呼ばれる場合がある。対象がヒトである場合、該対象は、男性であっても女性であってもよい。対象がヒトである場合、該対象の年齢は、特に制限されないが、例えば、新生児、乳児、幼児、児童(少年)、青年、壮年、中年、又は老年である。
【0024】
本明細書中において、用語「生体試料」とは、本発明の技術分野において用いられている最も広い意味を有する。例えば、用語「生体試料」は、血液又は尿などの体液、或いは細胞である。用語「血液」は、血清、血漿、及び全血を含む。本発明のARMS診断用バイオマーカーは、生体試料中に存在し得る。
【0025】
本明細書中において、用語「測定」は、本発明の技術分野において用いられている最も広い意味を有する。本明細書中において、用語「測定」は、定量を含む。用語「定量」は、半定量を含む。量の単位は、制限されないが、例えば、mg、μg、ng、mmol、μmol又はnmolである。本発明のARMS診断用バイオマーカーの文脈において、用語「量」は、濃度を含む。濃度の単位は、制限されないが、例えば、mg/ml、μg/ml、ng/ml、mmol/ml、μmol/ml、又はnmol/mlである。本発明のARMS診断用バイオマーカーの文脈において、用語「量」は、ある特定の物質、例えば、内部標準物質に対する比であってもよい。その場合において、量の単位は、制限されないが、mg/g、μg/g、ng/g、mmol/g、μmol/g、又はnmol/g(内部標準物質の量に対する比)である。
ある実施態様において、用語「量」は、本発明のARMS診断用バイオマーカーに結合した標識体などの放射線強度、蛍光強度、又は吸光度などである。またある実施態様において、用語「量」は、本発明のARMS診断用バイオマーカーに結合した一次抗体に結合する二次抗体の量である。用語「量」は、絶対量又は相対量であってもよい。ある実施態様において、本発明のARMS診断用バイオマーカーの量の値は、ある特定の物質の量の値で補正される。該特定の物質は、例えば、クレアチニンなどの生体試料中の物質である。該補正された値は、任意の数値で、例えば、ある基準値又は特定の物質の量の値などで、加算された値、減算された値、乗算された値、又は除算された値(比の値)である。
【0026】
本明細書中において、用語「対照」とは、本発明の技術分野において用いられている最も広い意味を有する。例えば、用語「対照」は、本発明のARMS診断用バイオマーカーを利用して、本発明のキットを用いて、又は本発明の方法に従って、診断される対象と比較される対象を意味する。対照も、本発明の方法に従って、本発明のARMS診断用バイオマーカーの量を測定され得る。用語「対照」は、例えば、正常な対象、健常者、ARMSと診断されていない対象、以前にARMSと診断されたが現在ARMSが治癒若しくは寛解されている対象、ARMS又は精神疾患を治療するための候補薬剤の投与前若しくは後の対象、又は過去の自分自身などである。対照は、対象と同一人であってもよいし、他人であってもよい。
【0027】
本明細書中において、用語「約」は、当業者が許容できる範囲の変動があり得ることを意味し、例えば、±0.1〜20%、±0.1〜10%、±0.1〜5%、±0.1〜1.0%、又は±0.1〜0.5%の変動があることをいう。
【0028】
(2.本発明のARMS診断用バイオマーカー)
本発明のARMS診断用バイオマーカーは、バイオピリン、コルチゾール、免疫グロブリン遊離κ鎖(κFLC)若しくはその断片、及び免疫グロブリン遊離λ鎖(λFLC)若しくはその断片からなる群から選択される1つ以上(例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ又は6つ)を含む。具体的な実施態様において、本発明のARMS診断用バイオマーカーは、バイオピリン、コルチゾール、免疫グロブリン遊離κ鎖(κFLC)若しくはその断片、及び免疫グロブリン遊離λ鎖(λFLC)若しくはその断片からなる群から選択される1つ以上(例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ又は6つ)からなる。バイオピリン、コルチゾール、κFLC若しくはその断片、及び/又はλFLC若しくはその断片は、生体内で修飾、例えば、リン酸化、糖鎖付加、アミド化、ユビキチン化、及び/又はアセチル化などにより修飾されていてもよい。
【0029】
好ましい実施態様において、本発明のARMS診断用バイオマーカーは、バイオピリンを含む。他の実施態様において、本発明のARMS診断用バイオマーカーは、コルチゾールを含む。また他の実施態様において、本発明のARMS診断用バイオマーカーは、κFLC若しくはその断片を含む。さらに他の実施態様において、本発明のARMS診断用バイオマーカーは、λFLC若しくはその断片を含む。
【0030】
一実施態様において、本発明のARMS診断用バイオマーカーは、バイオピリン、コルチゾール、κFLC若しくはその断片、及びλFLC若しくはその断片からなる群から選択される2つ以上(例えば、2つ、3つ、4つ、5つ又は6つ)の組合せを含む。具体的な実施態様において、本発明のARMS診断用バイオマーカーは、バイオピリン、コルチゾール、κFLC若しくはその断片、及びλFLC若しくはその断片からなる群から選択される2つ以上(例えば、2つ、3つ、4つ、5つ又は6つ)の組合せからなる。バイオピリン、コルチゾール、κFLC若しくはその断片、及びλFLC若しくはその断片からなる群から選択される2つ以上の組合せを利用することにより、ARMS診断の信頼性を向上させることができる。
【0031】
好ましい実施態様において、本発明のARMS診断用バイオマーカーは、バイオピリンと;コルチゾール、κFLC若しくはその断片、及びλFLC若しくはその断片からなる群から選択される1つ以上(例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ又は6つ)と;を含む。他の実施態様において、本発明のARMS診断用バイオマーカーは、コルチゾールと;バイオピリン、κFLC若しくはその断片、及びλFLC若しくはその断片からなる群から選択される1つ以上(例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ又は6つ)と;を含む。また他の実施態様において、本発明のARMS診断用バイオマーカーは、κFLC若しくはその断片と;バイオピリン、コルチゾール、及びλFLC若しくはその断片からなる群から選択される1つ以上(例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ又は6つ)と;を含む。さらに他の実施態様において、本発明のARMS診断用バイオマーカーは、λFLC若しくはその断片と;バイオピリン、コルチゾール、及びκFLC若しくはその断片からなる群から選択される1つ以上(例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ又は6つ)と;を含む。
【0032】
一実施態様において、本発明のARMS診断用バイオマーカーは、バイオピリンと、コルチゾールとを含む。好ましい実施態様において、本発明のARMS診断用バイオマーカーは、バイオピリンと、κFLC若しくはその断片とを含む。他の好ましい実施態様において、本発明のARMS診断用バイオマーカーは、バイオピリンと、λFLC若しくはその断片とを含む。他の実施態様において、本発明のARMS診断用バイオマーカーは、コルチゾールと、κFLC若しくはその断片とを含む。さらに他の実施態様において、本発明のARMS診断用バイオマーカーは、コルチゾールと、λFLC若しくはその断片とを含む。さらにまた他の実施態様において、本発明のARMS診断用バイオマーカーは、κFLC若しくはその断片と、λFLC若しくはその断片とを含む。
【0033】
一実施態様において、本発明のARMS診断用バイオマーカーは、バイオピリンと、コルチゾールと、κFLC若しくはその断片とを含む。他の実施態様において、本発明のARMS診断用バイオマーカーは、バイオピリンと、コルチゾールと、λFLC若しくはその断片とを含む。好ましい実施態様において、本発明のARMS診断用バイオマーカーは、バイオピリンと、κFLC若しくはその断片と、λFLC若しくはその断片とを含む。さらに他の実施態様において、本発明のARMS診断用バイオマーカーは、コルチゾールと、κFLC若しくはその断片と、λFLC若しくはその断片とを含む。さらにまた他の実施態様において、本発明のARMS診断用バイオマーカーは、バイオピリンと、コルチゾールと、κFLC若しくはその断片と、λFLC若しくはその断片とを含む。
【0034】
バイオピリンの構造は公知である。生体試料中のバイオピリンは、公知の方法により検出、測定又は比較することができる。例えば、生体試料中のバイオピリンは、バイオピリンELISAキット(Metallogenics Co., Ltd社)を用いて検出、測定又は比較することができる。また例えば、生体試料中のバイオピリンは、本発明のARMS診断用キットを用いて検出、測定又は比較することができる。ARMS患者において、バイオピリンの量は増加する。
【0035】
コルチゾールの構造は公知である。生体試料中のコルチゾールは、公知の方法により検出、測定又は比較することができる。例えば、生体試料中のコルチゾールは、DetectX CORTISOL Enzyme Immunoassay Kit(ARBOR ASSAYS社)を用いて検出、測定又は比較することができる。また例えば、生体試料中のコルチゾールは、本発明のARMS診断用キットを用いて検出、測定又は比較することができる。ARMS患者において、コルチゾールの量は増加する。
【0036】
κFLCのアミノ酸配列は公知である。生体試料中のκFLC若しくはその断片は、公知の方法により検出、測定又は比較することができる。例えば、生体試料中のκFLC若しくはその断片は、FREELITEκチェーン(MBL社、コード番号:BS-LK016BD)を用いて検出、測定又は比較することができる。また例えば、生体試料中のκFLC若しくはその断片は、本発明のARMS診断用キットを用いて検出、測定又は比較することができる。ARMS患者において、κFLC若しくはその断片の量は減少する。
【0037】
κFLCは、定常領域(免疫グロブリンκ鎖C領域)及び/又は抗原部位を含み得る。κFLCの断片は、κFLCの定常領域(免疫グロブリンκ鎖C領域)又は抗原部位であることができる。κFLCは、ヒト由来であっても、ラット、マウス、又はラビットなどの非ヒト由来であってもよい。一実施態様において、κFLCは、下記の配列番号:1のアミノ酸配列(免疫グロブリンκ鎖C領域)(ヒト由来)を含む。
【化1】
【0038】
好ましくは、κFLCは、下記の配列番号:2又は3のアミノ酸配列(抗原部位)(ヒト由来)を含む。
【化2】
【0039】
他の実施態様において、κFLCは、下記の配列番号:4のアミノ酸配列(免疫グロブリンκ鎖C領域)(ラット由来)を含む。
【化3】
【0040】
好ましくは、κFLCは、下記の配列番号:5のアミノ酸配列(抗原部位)(ラット由来)を含む。
【化4】
【0041】
λFLCのアミノ酸配列は公知である。生体試料中のλFLC若しくはその断片は、公知の方法により検出、測定又は比較することができる。例えば、生体試料中のλFLC若しくはその断片は、FREELITE λチェーン(MBL社、コード番号:BS-LK018BD)を用いて検出、測定又は比較することができる。また例えば、生体試料中のλFLCは、本発明のARMS診断用キットを用いて検出、測定又は比較することができる。ARMS患者において、λFLC若しくはその断片の量は減少する。
【0042】
λFLCは、定常領域(免疫グロブリンλ鎖C領域)及び/又は抗原部位を含み得る。λFLCの断片は、λFLCの定常領域(免疫グロブリンκ鎖C領域)又は抗原部位であることができる。λFLCは、ヒト由来であっても、ラット、マウス、又はラビットなどの非ヒト由来であってもよい。一実施態様において、λFLCは、下記の配列番号:6のアミノ酸配列(免疫グロブリンλ鎖C領域)(ヒト由来)を含む。
【化5】
【0043】
ラットなどの非ヒト由来のアミノ酸配列を含むκFLC及びλFLCは、ARMSモデル動物において、ARMSを診断するために用いることができる。これは、特に、ARMSモデル動物の作成又は品質管理等に有用である。
【0044】
κFLC又はλFLCの独自性、例えば、κFLC又はλFLCを特徴づけるアミノ酸配列(例えば、モチーフ、ドメイン又はボックス配列など)などが保持されることを条件として、κFLC又はλFLCのアミノ酸配列において欠失、付加、変異、及び/又は置換されているものも、本発明の範囲内に含まれる。そのような欠失、付加、変異、及び/又は置換の数は、κFLC又はλFLCの独自性が保持されていれば、特に限定されない(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、又はそれ以上)。一般的に、同じ性質を有するアミノ酸相互間での変異又は置換は、κFLC又はλFLCの機能に全くあるいはほとんど影響を与えないので、そのような変異又は置換を含むκFLC又はλFLCは、元のκFLC又はλFLC(例えば、上記配列番号で特定されるκFLC又はλFLC)と同等であるとみなすことができる。そのようなアミノ酸の性質としては、例えば以下のようなカテゴリーを挙げることができる:酸性アミノ酸(アスパラギン酸及びグルタミン酸)、塩基性アミノ酸(リジン、ヒスチジン及びアルギニン)、疎水性(脂肪族)アミノ酸(グリシン、アラニン、バリン、ロイシン及びイソロイシン)、含硫アミノ酸(メチオニン及びシステイン)、芳香族アミノ酸(フェニルアラニン、トリプトファン及びチロシン)、酸性アミノ酸アミド(アスパラギン及びグルタミン)、又は中性アミノ酸(グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、プロリン、セリン、スレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン及びグルタミン)。例えば、配列番号:1のアミノ酸配列のうち、第105番目のGlu及び第106番目のCysが決失したアミノ酸配列も、本発明の範囲内に含まれる。
【0045】
また、κFLC又はλFLCの独自性、例えば、κFLC又はλFLCを特徴づけるアミノ酸配列(例えば、モチーフ、ドメイン又はボックス配列など)などが保持されることを条件として、κFLC又はλFLCのアミノ酸配列に対して特定の配列同一性(例えば、少なくとも約70%同一性、少なくとも約80%同一性、少なくとも約85%同一性、少なくとも約90%同一性、少なくとも約95%同一性、少なくとも約99%同一性)を有するアミノ酸配列も本発明の範囲内に含まれる。
【0046】
本発明のARMS診断用バイオマーカーは、さらに、クレアチニン及びアルブミンからなる群から選択される1つ以上を含むことができる。一実施態様において、本発明のARMS診断用バイオマーカーは、さらに、クレアチニンを含む。他の実施態様において、本発明のARMS診断用バイオマーカーは、さらに、アルブミンを含む。さらに他の実施態様において、本発明のARMS診断用バイオマーカーは、さらに、クレアチニン及びアルブミンを含む。
【0047】
対象から得られる尿は、日内変動で濃縮又は希釈されることがある。この日内変動により、バイオピリン、コルチゾール、κFLC若しくはその断片、及び/又はλFLC若しくはその断片の濃度が変化する場合がある。この変化による影響を補正するために、クレアチニンを、内部標準物質として用いることができる。対象から得られた生体試料中のバイオピリン、コルチゾール、κFLC若しくはその断片、及び/又はλFLC若しくはその断片の量を、該生体試料中のクレアチニンの量で補正することができる。好ましくは、対象から得られた生体試料中のバイオピリン、コルチゾール、κFLC若しくはその断片、及び/又はλFLC若しくはその断片の濃度を、該生体試料中のクレアチニンの濃度で補正する。
【0048】
また、対象から得られた生体試料中のバイオピリン、コルチゾール、κFLC若しくはその断片、及び/又はλFLC若しくはその断片の量を、クレアチニンの量で補正することにより、対象の腎臓機能を反映させた値を得ることができる。その補正された値を、対照のものと比較することにより、より高い精度で、ARMSを診断することができる。補正することは、除算すること、すなわち、クレアチニンの量に対する比の値を算出することを含み得る。
【0049】
また、クレアチニン及び/又はアルブミンは、腎臓機能に異常があるか否かを判断するために使用することができる。腎臓機能に異常がある場合、ARMSでなくとも、バイオピリンの量、コルチゾールの量、κFLC若しくはその断片の量、及び/又はλFLC若しくはその断片の量が変化する場合がある。例えば、腎臓機能に異常がある対象は、バイオピリンの量の増加、コルチゾールの量の増加、κFLC若しくはその断片の量の減少、及び/又はλFLC若しくはその断片の量の減少を示すとともに、クレアチニン及び/又はアルブミンの量の変化(増加又は減少)も示し得る。一方で、腎臓機能が正常であるARMS患者は、バイオピリンの量の増加、コルチゾールの量の増加、κFLC若しくはその断片の量の減少、及び/又はλFLC若しくはその断片の量の減少を示すが、クレアチニン及び/又はアルブミンの量は変化し得ない。したがって、バイオピリン、コルチゾール、κFLC若しくはその断片、及びλFLC若しくはその断片からなる群から選択される1つ以上と、クレアチニン及び/又はアルブミンとの組合せは、ARMS診断用バイオマーカーとして使用することができる。また、クレアチニン及び/又はアルブミンの量は、バイオピリンの量、コルチゾールの量、κFLC若しくはその断片の量、及び/又はλFLC若しくはその断片の量の変化が、腎臓機能の異常に起因したものか否かを判定するのに用いることができる。例えば、アルブミンの量/クレアチニンの量の比が、約20、約25、約30、約35、又は約40 mg/gよりも大きい場合、特に、約30 mg/gよりも大きい場合、バイオピリンの量、コルチゾールの量、κFLC若しくはその断片の量、及び/又はλFLC若しくはその断片の量の変化が、腎臓機能の異常に起因したものであると判断することができる。逆に、アルブミンの量/クレアチニンの量の比が、約5、約10、約15、約20、約25、約30、約35、又は約40 mg/g以下の場合、特に、約30 mg/g以下の場合、バイオピリンの量、コルチゾールの量、κFLC若しくはその断片の量、及び/又はλFLC若しくはその断片の量の変化が、腎臓機能の異常に起因したものでない、すなわち、腎臓機能が正常であると判断することができる。
【0050】
クレアチニンの構造は公知である。生体試料中のクレアチニンは、公知の方法により検出、測定又は比較することができる。例えば、生体試料中のクレアチニンは、DetectX Creatinine detection Kit(ARBOR ASSAYS社)を用いて検出、測定又は比較することができる。生体試料中のクレアチニンは、本発明のARMS診断用キットを用いて検出、測定又は比較することができる。
アルブミンの構造も公知である。生体試料中のアルブミンは、公知の方法により検出、測定又は比較することができる。例えば、生体試料中のアルブミンは、Albumin (Human) ELISA Kit(Cayman Chemical社)を用いて検出、測定又は比較することができる。生体試料中のアルブミンは、本発明のARMS診断用キットを用いて検出、測定又は比較することができる。
【0051】
本発明のARMS診断用バイオマーカーを利用して、ARMSを診断することができる。具体的には、対象から得られた生体試料中の本発明のARMS診断用バイオマーカーの量を測定することにより、対象のARMSを診断することができる。ARMSの診断は、本発明のARMSの診断方法に従って行うことができる。また、本発明のARMS診断用バイオマーカーを利用して、ARMSを診断するためのデータを取得することができる。具体的には、対象から得られた生体試料中の本発明のARMS診断用バイオマーカーの量を測定することにより、対象のARMSを診断するためのデータを取得することができる。該データの取得方法は、本発明のARMSを診断するためのデータの取得方法に従って行うことができる。さらに、本発明のARMS診断用バイオマーカーを利用して、本発明のARMS診断用バイオマーカーに特異的に結合することができる物質(例えば、抗体)を作製することができる。そのような物質を用いて、本発明のARMS診断用バイオマーカーを検出又は測定することができる。
【0052】
本発明のARMS診断用バイオマーカーによるARMSの診断を介して、ARMS患者のスクリーニング、ARMSの効率的な治療法の確立、精神疾患発症の効率的な予防法の確立、ARMSに有用な候補薬剤のスクリーニング、及びARMSのモデル動物の開発などを行うことができる。
【0053】
(3.本発明のARMS診断用キット)
本発明のARMS診断用キットは、本発明のARMS診断用バイオマーカーに結合することができる物質を含む。該物質は、本発明のARMS診断用バイオマーカーに結合し、それによって、本発明のARMS診断用バイオマーカーを検出し、又は本発明のARMS診断用バイオマーカーの量を測定することができる。本発明のARMS診断用バイオマーカーに結合することができる物質は、1つ又は複数の物質(例えば、2つ、3つ、4つ、5つ又は6つ)であってもよい。本発明のARMS診断用バイオマーカーに結合することができる物質は、バイオピリンに結合することができる物質、コルチゾールに結合することができる物質、免疫グロブリン遊離κ鎖(κFLC)若しくはその断片に結合することができる物質、免疫グロブリン遊離λ鎖(λFLC)若しくはその断片に結合することができる物質、クレアチニンに結合することができる物質、及び/又はアルブミンに結合することができる物質である。一実施態様において、該物質は、本発明のARMS診断用バイオマーカーに特異的に結合することができる。本発明のARMS診断用バイオマーカーに結合することができる物質を用いて、生体試料中の、本発明のARMS診断用バイオマーカーを検出し、本発明のARMS診断用バイオマーカーの量を測定することができる。
【0054】
一実施態様において、本発明のARMS診断用キットは、バイオピリンに結合することができる物質、コルチゾールに結合することができる物質、免疫グロブリン遊離κ鎖(κFLC)若しくはその断片に結合することができる物質、及び免疫グロブリン遊離λ鎖(λFLC)若しくはその断片に結合することができる物質からなる群から選択される1つ以上(例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、又は6つ)の物質を含むことができる。
【0055】
好ましい実施態様において、本発明のARMS診断用キットは、バイオピリンに結合することができる物質を含む。他の実施態様において、本発明のARMS診断用キットは、コルチゾールに結合することができる物質を含む。また他の実施態様において、本発明のARMS診断用キットは、κFLC若しくはその断片に結合することができる物質を含む。さらに他の実施態様において、本発明のARMS診断用キットは、λFLC若しくはその断片に結合することができる物質を含む。
【0056】
好ましい実施態様において、本発明のARMS診断用キットは、バイオピリンに結合することができる物質と;コルチゾールに結合することができる物質、κFLC若しくはその断片に結合することができる物質、及びλFLC若しくはその断片に結合することができる物質からなる群から選択される1つ以上(例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ又は6つ)の物質と;を含む。他の実施態様において、本発明のARMS診断用キットは、コルチゾールに結合することができる物質と;バイオピリンに結合することができる物質、κFLC若しくはその断片に結合することができる物質、及びλFLC若しくはその断片に結合することができる物質からなる群から選択される1つ以上(例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ又は6つ)の物質と;を含む。また他の実施態様において、本発明のARMS診断用キットは、κFLC若しくはその断片に結合することができる物質と;バイオピリンに結合することができる物質、コルチゾールに結合することができる物質、及びλFLC若しくはその断片に結合することができる物質からなる群から選択される1つ以上(例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ又は6つ)の物質と;を含む。さらに他の実施態様において、本発明のARMS診断用キットは、λFLC若しくはその断片に結合することができる物質と;バイオピリンに結合することができる物質、コルチゾールに結合することができる物質、及びκFLC若しくはその断片に結合することができる物質からなる群から選択される1つ以上(例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ又は6つ)の物質と;を含む。
【0057】
一実施態様において、本発明のARMS診断用キットは、バイオピリンに結合することができる物質と、コルチゾールに結合することができる物質とを含む。好ましい実施態様において、本発明のARMS診断用キットは、バイオピリンに結合することができる物質と、κFLC若しくはその断片に結合することができる物質とを含む。他の好ましい実施態様において、本発明のARMS診断用キットは、バイオピリンに結合することができる物質と、λFLC若しくはその断片に結合することができる物質とを含む。他の実施態様において、本発明のARMS診断用キットは、コルチゾールに結合することができる物質と、κFLC若しくはその断片に結合することができる物質とを含む。また他の実施態様において、本発明のARMS診断用キットは、コルチゾールに結合することができる物質と、λFLC若しくはその断片に結合することができる物質とを含む。さらにまた他の実施態様において、本発明のARMS診断用キットは、κFLC若しくはその断片に結合することができる物質と、λFLC若しくはその断片に結合することができる物質とを含む。
【0058】
一実施態様において、本発明のARMS診断用キットは、バイオピリンに結合することができる物質と、コルチゾールに結合することができる物質と、κFLC若しくはその断片に結合することができる物質とを含む。他の実施態様において、本発明のARMS診断用キットは、バイオピリンに結合することができる物質と、コルチゾールに結合することができる物質と、λFLC若しくはその断片に結合することができる物質とを含む。好ましい実施態様において、本発明のARMS診断用キットは、バイオピリンに結合することができる物質と、κFLC若しくはその断片に結合することができる物質と、λFLC若しくはその断片に結合することができる物質とを含む。また他の実施態様において、本発明のARMS診断用キットは、コルチゾールに結合することができる物質と、κFLC若しくはその断片に結合することができる物質と、λFLC若しくはその断片に結合することができる物質とを含む。さらに他の実施態様において、本発明のARMS診断用キットは、バイオピリンに結合することができる物質と、コルチゾールに結合することができる物質と、κFLC若しくはその断片に結合することができる物質と、λFLC若しくはその断片に結合することができる物質とを含む。
【0059】
本発明のARMS診断用キットは、さらに、クレアチニンに結合することができる物質及びアルブミンに結合することができる物質からなる群から選択される1つ以上の物質を含むことができる。一実施態様において、本発明のARMS診断用キットは、さらに、クレアチニンに結合することができる物質を含む。他の実施態様において、本発明のARMS診断用キットは、さらに、アルブミンに結合することができる物質を含む。さらに他の実施態様において、本発明のARMS診断用キットは、さらに、クレアチニンに結合することができる物質及びアルブミンに結合することができる物質を含む。
【0060】
本発明のARMS診断用バイオマーカーに結合することができる物質は、本発明のARMS診断用バイオマーカーに親和性を有する任意の物質を含む。一実施態様において、本発明のARMS診断用バイオマーカーに結合することができる物質は、抗体又は有機化合物である。有機化合物は、低分子又は高分子であり得る。有機化合物の例を挙げると、色素、蛍光色素、染料、顔料、発色試薬、呈色試薬、免疫染色試薬、酵素、又は標識化された化合物などがある。呈色試薬は、本発明のARMS診断用バイオマーカーに対して呈色反応を示す化合物を含む。標識化された化合物の例を挙げると、制限されないが、無機物質、色素、蛍光色素、染料、顔料、発色試薬、呈色試薬、免疫染色試薬、酵素、又は放射性同位体などにより標識された化合物がある。一実施態様において、バイオピリンに結合することができる物質、コルチゾールに結合することができる物質、κFLC若しくはその断片に結合することができる物質、λFLC若しくはその断片に結合することができる物質、クレアチニンに結合することができる物質、及び/又はアルブミンに結合することができる物質が、抗体又は有機化合物である。抗体は、ポリクローナル抗体、又はモノクローナル抗体を含むことができる。
【0061】
一実施態様において、本発明のARMS診断用バイオマーカーに結合することができる物質は、標識体により標識されていている。一実施態様において、バイオピリンに結合することができる物質、コルチゾールに結合することができる物質、κFLC若しくはその断片に結合することができる物質、λFLC若しくはその断片に結合することができる物質、クレアチニンに結合することができる物質、及び/又はアルブミンに結合することができる物質は、標識体により標識されている。標識体の例を挙げると、制限されないが、無機物質、色素、蛍光色素、染料、顔料、発色試薬、呈色試薬、免疫染色試薬、酵素、又は放射性同位体などがある。該標識体を検出することにより、本発明のARMS診断用バイオマーカーを検出し、又は本発明のARMS診断用バイオマーカーの量を測定することができる。
【0062】
本発明のARMS診断用バイオマーカーに結合することができる物質が抗体である場合、該抗体を、一次抗体として本発明のARMS診断用バイオマーカーに結合させ、二次抗体により本発明のARMS診断用バイオマーカーを検出し、又は本発明のARMS診断用バイオマーカーの量を測定することができる。
【0063】
一実施態様において、本発明のARMS診断用バイオマーカーに結合することができる物質は、固体支持体上に固定されている。一実施態様において、バイオピリンに結合することができる物質、コルチゾールに結合することができる物質、κFLC若しくはその断片に結合することができる物質、λFLC若しくはその断片に結合することができる物質、クレアチニンに結合することができる物質、及び/又はアルブミンに結合することができる物質が、固体支持体上に固定されている。該固体支持体は、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレン樹脂、又はポリプロピレン樹脂などのプラスチック、或いはガラスなど任意の適切な材質から作成されてもよい。また、該固体支持体は、ディッシュ、ウェル、ストリップ又はチップなどの任意の形状の基板であってよい。該基板の表面は、任意に被覆修飾されたものでよい。
【0064】
バイオピリンに結合することができる物質の例を挙げると、抗バイオピリン抗体、例えば、バイオピリンELISAキット(Metallogenics Co., Ltd社)に含まれる抗体などがある。また、当業者は、抗バイオピリン抗体を容易に作製することができる。抗バイオピリン抗体は、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、又はヒツジ由来であり得る。
コルチゾールに結合することができる物質の例を挙げると、抗コルチゾール抗体、例えば、DetectX CORTISOL Enzyme Immunoassay Kit(ARBOR ASSAYS社)に含まれる抗体などがある。また、当業者は、抗コルチゾール抗体を容易に作製することができる。抗コルチゾール抗体は、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、又はヒツジ由来であり得る。
【0065】
κFLC若しくはその断片に結合することができる物質の例を挙げると、抗κFLC抗体、例えば、FREELITEκチェーン(MBL社、コード番号:BS-LK016BD)に含まれる抗体などがある。また、当業者は、抗κFLC抗体を容易に作製することができる。抗κFLC抗体は、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、又はヒツジ由来であり得る。抗κFLC抗体は、免疫グロブリンκ鎖C領域、又はその抗原部位のポリペプチドを、ラット又はラビットなどの哺乳動物に投与して作成してもよい。抗κFLC抗体は、例えば、配列番号:1〜5のいずれか1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド、あるいは、配列番号:1〜5のいずれか1つのアミノ酸配列からなるポリペプチドを、ラット又はラビットなどの哺乳動物に投与して作成してもよい。
【0066】
λFLCに結合することができる物質の例を挙げると、抗λFLC抗体、例えば、FREELITE λチェーン(MBL社、コード番号:BS-LK018BD)に含まれる抗体などがある。また、当業者は、抗λFLC抗体を容易に作製することができる。抗抗λFLC抗体は、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、又はヒツジ由来であり得る。抗λFLC抗体は、免疫グロブリンλ鎖C領域、又はその抗原部位のポリペプチドを、ラット又はラビットなどの哺乳動物に投与して作成してもよい。抗κFLC抗体は、例えば、配列番号:6のアミノ酸配列を含むポリペプチド、あるいは、配列番号:6のアミノ酸配列からなるポリペプチドを、ラット又はラビットなどの哺乳動物に投与して作成してもよい。
【0067】
クレアチニンに結合することができる物質の例を挙げると、クレアチニンに対して呈色反応を示す化合物、例えば、DetectX Creatinine detection Kit(ARBOR ASSAYS社)に含まれる化合物などがある。
アルブミンに結合することができる物質の例を挙げると、抗アルブミン抗体、例えば、Albumin (Human) ELISA Kit(Cayman Chemical社)に含まれる抗体などがある。また、当業者は、抗アルブミン抗体を容易に作製することができる。抗アルブミン抗体は、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、又はヒツジ由来であり得る。
【0068】
本発明のARMS診断用キットは、さらに、本発明のARMS診断用バイオマーカーの検出、本発明のARMS診断用バイオマーカーの量の測定、及び/又は本発明のARMS診断用バイオマーカーの量の比較を行うためのアッセイに使用される試薬を含むことができる。該アッセイの例を挙げると、制限されないが、免疫学的アッセイ(ドットブロットアッセイなど)、ウェスタンブロット法、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、サンドイッチELISA、免疫電気泳動法、一元放射免疫拡散法(SRID)、放射免疫測定法(RIA)、酵素免疫測定法(EIA)、ラテックス免疫測定法(LIA)、蛍光免疫測定法(FIA)、呈色反応、及び比色法などがある。本発明のARMS診断用キットは、さらに、前記アッセイに使用される一次抗体又は二次抗体を含むことができる。一次抗体及び/又は二次抗体は、無機物質、色素、蛍光色素、染料、顔料、発色試薬、呈色試薬、免疫染色試薬、酵素、又は放射性同位体などの任意の標識体で標識され得る。
【0069】
本発明のARMS診断用キットは、さらに、本発明のARMS診断用バイオマーカーの量を測定するための指示書、及び/又は健常者における本発明のARMS診断用バイオマーカーの量についてのデータを記載した資料などを含むことができる。本発明のARMS診断用キットは、さらに、対象から生体試料を得るための機器(例えば、検尿コップなどの容器又は注射器)を含むことができる。
【0070】
本発明のARMS診断用キットを用いて、本発明のARMS診断用バイオマーカーの検出、本発明のARMS診断用バイオマーカーの量の測定、及び/又は本発明のARMS診断用バイオマーカーの量の比較を行うことができる。本発明のARMS診断用キットを用いて、ARMSの診断をすることができる。ARMSの診断は、本発明のARMSの診断方法に従って行うことができる。また、本発明のARMS診断用キットを用いて、ARMSを診断するためのデータを取得することができる。データの取得方法は、本発明のARMSを診断するためのデータの取得方法に従って行うことができる。
【0071】
(4.本発明のARMSの診断方法、及び本発明のARMSを診断するためのデータ取得方法)
本発明のARMS診断用バイオマーカー、又は本発明のARMS診断用キットを用いて、対象のARMSを診断又は検査することができる。また、本発明のARMS診断用バイオマーカー、又は本発明のARMS診断用キットを用いて、対象のARMSを診断又は検査するためのデータを取得することができる。本発明のARMSの診断方法及び本発明のARMSを診断するためのデータ取得方法(以下、合わせて「本発明の方法」ともいう)は、生体試料中の本発明のARMS診断用バイオマーカーの量を指標として用い得る。本発明の方法により、ARMS又は精神疾患の治療、予防、診断、鑑別、又は予後推定に必要なデータを取得することができる。また、本発明の方法は、ARMS又は精神疾患の発症、発症の可能性、又は発症後の予後予測を判定するのに有用な情報を提供することができる。さらに、本発明の方法により得られた結果から、対象の治療方法又は治療計画を決定することができる。さらに、本発明の方法により得られた結果から、ARMS又は精神疾患の治療薬をスクリーニング又は決定することができる。そのような治療薬を用いて、ARMS又は精神疾患の対象を治療、予防、又は管理することができる。さらに、本発明の方法により、健康診断などでのARMS又は精神疾患の1次スクリーニングを行うことができる。また、精神科における初診患者において、ARMS又は精神疾患のスクリーニングを行うこともできる。
【0072】
一実施態様において、本発明の方法は、対象から得られた生体試料中における本発明のARMS診断用バイオマーカーの量を測定する工程を含む。特定の実施態様において、本発明の方法は、対象から得られた生体試料中のバイオピリンの量、コルチゾールの量、免疫グロブリン遊離κ鎖(κFLC)若しくはその断片の量、及び免疫グロブリン遊離λ鎖(λFLC)若しくはその断片の量からなる群から選択される1つ以上(例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、又は6つ)の量を測定する工程を含む。
【0073】
好ましい実施態様において、本発明の方法は、対象から得られた生体試料中におけるバイオピリンの量を測定する工程を含む。他の実施態様において、本発明の方法は、対象から得られた生体試料中におけるコルチゾールの量を測定する工程を含む。また他の実施態様において、本発明の方法は、対象から得られた生体試料中におけるκFLC若しくはその断片の量を測定する工程を含む。さらに他の実施態様において、本発明の方法は、対象から得られた生体試料中におけるλFLC若しくはその断片の量を測定する工程を含む。
【0074】
好ましい実施態様において、本発明の方法は、対象から得られた生体試料中における、バイオピリの量と;コルチゾールの量、κFLC若しくはその断片の量、及びλFLC若しくはその断片の量からなる群から選択される1つ以上(例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ又は6つ)の量と;を測定する工程を含む。他の実施態様において、本発明の方法は、対象から得られた生体試料中における、コルチゾールの量と;バイオピリンの量、κFLC若しくはその断片の量、及びλFLC若しくはその断片の量からなる群から選択される1つ以上(例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ又は6つ)の量と;を測定する工程を含む。また他の実施態様において、本発明の方法は、対象から得られた生体試料中における、κFLC若しくはその断片の量と;バイオピリンの量、コルチゾールの量、及びλFLC若しくはその断片の量からなる群から選択される1つ以上(例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ又は6つ)の量と;を測定する工程を含む。さらに他の実施態様において、本発明の方法は、対象から得られた生体試料中における、λFLC若しくはその断片の量と;バイオピリンの量、コルチゾールの量、及びκFLC若しくはその断片の量からなる群から選択される1つ以上(例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ又は6つ)の量と;を測定する工程を含む。
【0075】
一実施態様において、本発明の方法は、対象から得られた生体試料中における、バイオピリンの量と、コルチゾールの量とを測定する工程を含む。好ましい実施態様において、本発明の方法は、対象から得られた生体試料中における、バイオピリンの量と、κFLC若しくはその断片の量とを測定する工程を含む。他の好ましい実施態様において、本発明の方法は、対象から得られた生体試料中における、バイオピリンの量と、λFLC若しくはその断片の量とを測定する工程を含む。他の実施態様において、本発明の方法は、対象から得られた生体試料中における、コルチゾールの量と、κFLC若しくはその断片の量とを測定する工程を含む。また他の実施態様において、本発明の方法は、対象から得られた生体試料中における、コルチゾールの量と、λFLC若しくはその断片の量とを測定する工程を含む。さらにまた他の実施態様において、本発明の方法は、対象から得られた生体試料中における、κFLC若しくはその断片の量と、λFLC若しくはその断片の量とを測定する工程を含む。
【0076】
一実施態様において、本発明の方法は、対象から得られた生体試料中における、バイオピリンの量と、コルチゾールの量と、κFLC若しくはその断片の量とを測定する工程を含む。他の実施態様において、本発明の方法は、対象から得られた生体試料中における、バイオピリンの量と、コルチゾールの量と、λFLC若しくはその断片の量とを測定する工程を含む。好ましい実施態様において、本発明の方法は、対象から得られた生体試料中における、バイオピリンの量と、κFLC若しくはその断片の量と、λFLC若しくはその断片の量とを測定する工程を含む。また他の実施態様において、本発明の方法は、対象から得られた生体試料中における、コルチゾールの量と、κFLC若しくはその断片の量と、λFLC若しくはその断片の量とを測定する工程を含む。さらに他の実施態様において、本発明の方法は、対象から得られた生体試料中における、バイオピリンの量と、コルチゾールの量と、κFLC若しくはその断片の量と、λFLC若しくはその断片の量とを測定する工程を含む。
【0077】
本発明の方法は、さらに、対象から得られた生体試料中のクレアチニンの量及びアルブミンの量からなる群から選択される1つ以上の量を測定する工程を含むことができる。一実施態様において、本発明の方法は、さらに、対象から得られた生体試料中のクレアチニンの量を測定する工程を含む。他の実施態様において、本発明の方法は、さらに、対象から得られた生体試料中のアルブミンの量を測定する工程を含む。さらに他の実施態様において、本発明の方法は、さらに、対象から得られた生体試料中のクレアチニンの量とアルブミンの量とを測定する工程を含む。
【0078】
測定工程は、本発明のARMS診断用キットを用いて行うことができる。測定工程は、本発明のARMS診断用バイオマーカーに結合することができる物質を用いて行うことができる。一実施態様において、測定工程は、対象から得られた生体試料を、本発明のARMS診断用バイオマーカーに結合することができる物質と接触させる工程を含む。測定工程は、当業者に公知の一般的方法で行うことができる。当業者に公知の一般的方法の例を挙げると、制限されないが、免疫学的アッセイ(ドットブロットアッセイなど)、ウェスタンブロット法、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、サンドイッチELISA、免疫電気泳動法、一元放射免疫拡散法(SRID)、放射免疫測定法(RIA)、酵素免疫測定法(EIA)、ラテックス免疫測定法(LIA)、及び蛍光免疫測定法(FIA)などがある。あるいは、前記測定工程は、市販の抗体又は測定キットを用いて行うことができる。市販の抗体又は測定キットの例を挙げると、バイオピリンELISAキット(Metallogenics Co., Ltd社)、DetectX CORTISOL Enzyme Immunoassay Kit(ARBOR ASSAYS社)、FREELITEκチェーン(MBL社、コード番号:BS-LK016BD)、FREELITE λチェーン(MBL社、コード番号:BS-LK018BD)、DetectX Creatinine detection Kit(ARBOR ASSAYS社)などがある。
【0079】
本発明の方法は、さらに、測定工程の前に、対象から生体試料を得る工程を含むことができる。該工程は、当業者に公知の方法で行うことができ、特に制限されない。例えば、生体試料が尿であれば、該工程は、検尿コップなどの容器を用いて行うことができる。得られた尿は、さらに濃縮又は分離操作に供されてもよい。また例えば、生体試料が血液であれば、該工程は、注射器などを用いて行うことができる。生体試料が血液である場合、本発明の方法は、該血液から血清又は血漿を得る工程をさらに含むことができる。
【0080】
本発明の方法は、さらに、前記測定されたバイオピリンの量、コルチゾールの量、κFLC若しくはその断片の量、及び/又はλFLC若しくはその断片の量を対照のものと比較する工程を含むことができる。本発明の方法は、さらに、前記測定されたアルブミンの量及び/又はクレアチニンの量を対照のものと比較する工程を含むことができる。
【0081】
本発明の方法は、対象から得られた生体試料中のバイオピリンの量、コルチゾールの量、κFLC若しくはその断片の量、及び/又はλFLC若しくはその断片の量を、該対象から得られた生体試料中のクレアチニンの量で補正する工程を含むことができる。クレアチニンの量で補正することにより、対象の腎臓機能を反映させた値を得ることができる。その補正された値を、対照のものと比較することにより、より高い精度で、ARMSを診断することができる。一実施態様において、バイオピリンの量を、クレアチニンの量で補正する。他の実施態様において、コルチゾールの量を、クレアチニンの量で補正する。また他の実施態様において、κFLC若しくはその断片の量を、クレアチニンの量で補正する。さらに他の実施態様において、λFLC若しくはその断片の量を、クレアチニンの量で補正する。本発明の方法は、さらに、対象から得られた生体試料中のアルブミンの量を、該対象から得られた生体試料中のクレアチニンの量で補正する工程を含むことができる。クレアチニンの量に対するアルブミンの量の比(アルブミン/クレアチニン比)は、対象の腎臓機能が正常であるか否かを判断する際に使用することができる。一実施態様において、該補正することは、除算すること、すなわち、クレアチニンの量に対する比の値を算出することである。該補正工程により、対象の腎臓機能を反映させた値を得ることができる。本発明の方法は、さらに、該補正された値を、対照のものと比較する工程を含むことができる。
【0082】
本発明の方法において、生体試料は、好ましくは、血液又は尿であり、より好ましくは、尿である。本発明の方法において、対象及び対照は、好ましくはヒトである。該ヒトの年齢は、好ましくは、児童(少年)又は青年あり、より好ましくは、約5歳〜約25歳、約10歳〜約20歳、約12歳〜約18歳、又は約14歳〜約16歳である。
【0083】
具体的な実施態様において、本発明の方法は、(a)対象から得られた生体試料中のバイオピリンの量、コルチゾールの量、免疫グロブリン遊離κ鎖(κFLC)若しくはその断片の量、及び免疫グロブリン遊離λ鎖(λFLC)若しくはその断片の量からなる群から選択される1つ以上(例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、又は6つ)の量を測定する工程;及び(b)工程(a)において測定された量を対照のものと比較する工程を含む。
【0084】
他の具体的な実施態様において、本発明の方法は、(a)対象から得られた生体試料中のバイオピリンの量、コルチゾールの量、免疫グロブリン遊離κ鎖(κFLC)若しくはその断片の量、及び免疫グロブリン遊離λ鎖(λFLC)若しくはその断片の量からなる群から選択される1つ以上(例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、又は6つ)の量を測定する工程;及び(b)該生体試料中のクレアチニンの量及びアルブミンの量からなる群から選択される1つ以上の量を測定する工程を含む。この実施態様において、本発明の方法は、さらに、(c)工程(a)及び(b)において測定された量を対照のものと比較する工程を含むことができる。
【0085】
また他の具体的な実施態様において、本発明の方法は、(a)対象から得られた生体試料中のバイオピリンの量、コルチゾールの量、免疫グロブリン遊離κ鎖(κFLC)若しくはその断片の量、及び免疫グロブリン遊離λ鎖(λFLC)若しくはその断片の量からなる群から選択される1つ以上(例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、又は6つ)の量を測定する工程;(b)該生体試料中のクレアチニンの量を測定する工程;及び(c)工程(a)において測定された量を、工程(b)で測定された量で補正する工程を含む。この実施態様において、本発明の方法は、さらに、(d)該補正された量を対照のものと比較する工程を含むことができる。前記補正する工程(c)は、工程(a)において測定された量を工程(b)で測定された量で除算する工程、すなわち、工程(a)において測定された量の、工程(b)で測定されたクレアチニンの量に対する比の値を算出する工程を含むことができる。
【0086】
さらに他の具体的な実施態様において、本発明の方法は、(a)対象から得られた生体試料中のバイオピリンの量、コルチゾールの量、免疫グロブリン遊離κ鎖(κFLC)若しくはその断片の量、及び免疫グロブリン遊離λ鎖(λFLC)若しくはその断片の量からなる群から選択される1つ以上(例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、又は6つ)の量を測定する工程;(b)該生体試料中のアルブミンの量を測定する工程;(c)該生体試料中のクレアチニンの量を測定する工程;及び(d)工程(a)及び(b)において測定された量を、工程(c)で測定された量で補正する工程を含む。この実施態様において、本発明の方法は、さらに、(e)工程(d)で補正された量を対照のものと比較する工程を含むことができる。前記補正する工程(d)は、工程(a)及び工程(b)において測定された量を工程(c)で測定された量で除算する工程、すなわち、工程(a)及び工程(b)において測定された量の、工程(c)で測定されたクレアチニンの量に対する比の値を算出する工程を含むことができる。
【0087】
本発明の方法は、さらに、対象がARMSであるか否か又はその可能性があるか否かを判定する工程を含むことができる。一実施態様において、対象から得られた生体試料中におけるバイオピリンの量が、対照のものと比較して増加している場合又は対照群の中央値よりも大きい場合、該対象がARMSである又はその可能性があると判定することができる。他の実施態様において、対象から得られた生体試料中におけるバイオピリンの量が、対照のものと比較して増加している場合又は対照群の中央値よりも大きい場合、該対象がARMSである又はその可能性があると判定することができる。また他の実施態様において、対象から得られた生体試料中におけるκFLC若しくはその断片の量が、対照のものと比較して減少している場合又は対照群の中央値よりも小さい場合、該対象がARMSである又はその可能性があると判定することができる。さらに他の実施態様において、対象から得られた生体試料中におけるλFLC若しくはその断片の量が、対照のものと比較して減少している場合又は対照群の中央値よりも小さい場合、該対象がARMSである又はその可能性があると判定することができる。
【0088】
一実施態様において、対象から得られた生体試料中におけるバイオピリンの量及びコルチゾールの量が、対照のものと比較して増加し又は対照群の中央値よりも大きい場合、該対象がARMSである又はその可能性があると判定することができる。好ましい実施態様において、対象から得られた生体試料中におけるバイオピリンの量が対照のものと比較して増加し又は対照群の中央値よりも大きく、かつ該対象から得られた生体試料中におけるκFLC若しくはその断片の量が対照のものと比較して減少し又は対照群の中央値よりも小さい場合、該対象がARMSである又はその可能性があると判定することができる。また好ましい実施態様において、対象から得られた生体試料中におけるバイオピリンの量が対照のものと比較して増加し又は対照群の中央値よりも大きく、かつ該対象から得られた生体試料中におけるλFLC若しくはその断片の量が対照のものと比較して減少し又は対照群の中央値よりも小さい場合、該対象がARMSである又はその可能性があると判定することができる。他の実施態様において、対象から得られた生体試料中におけるコルチゾールの量が対照のものと比較して増加し又は対照群の中央値よりも大きく、かつ該対象から得られた生体試料中におけるκFLC若しくはその断片の量が対照のものと比較して減少し又は対照群の中央値よりも小さい場合、該対象がARMSである又はその可能性があると判定することができる。また他の実施態様において、対象から得られた生体試料中におけるコルチゾールの量が対照のものと比較して増加し又は対照群の中央値よりも大きく、かつ該対象から得られた生体試料中におけるλFLC若しくはその断片の量が対照のものと比較して減少し又は対照群の中央値よりも小さい場合、該対象がARMSである又はその可能性があると判定することができる。さらに他の実施態様において、対象から得られた生体試料中におけるκFLC若しくはその断片の量及びλFLC若しくはその断片の量が対照のものと比較して減少し又は対照群の中央値よりも小さい場合、該対象がARMSである又はその可能性があると判定することができる。
【0089】
一実施態様において、対象から得られた生体試料中におけるバイオピリンの量及びコルチゾールの量が対照のものと比較して増加し又は対照群の中央値よりも大きく、かつ該対象から得られた生体試料中におけるκFLC若しくはその断片の量が対照のものと比較して減少し又は対照群の中央値よりも小さい場合、該対象がARMSである又はその可能性があると判定することができる。他の実施態様において、対象から得られた生体試料中におけるバイオピリンの量及びコルチゾールの量が対照のものと比較して増加し又は対照群の中央値よりも大きく、かつ該対象から得られた生体試料中におけるλFLC若しくはその断片の量が対照のものと比較して減少し又は対照群の中央値よりも小さい場合、該対象がARMSである又はその可能性があると判定することができる。好ましい実施態様において、対象から得られた生体試料中におけるバイオピリンの量が対照のものと比較して増加し又は対照群の中央値よりも大きく、かつ該対象から得られた生体試料中におけるκFLC若しくはその断片の量及びλFLC若しくはその断片の量が対照のものと比較して減少し又は対照群の中央値よりも小さい場合、該対象がARMSである又はその可能性があると判定することができる。また他の実施態様において、対象から得られた生体試料中におけるコルチゾールの量が対照のものと比較して増加し又は対照群の中央値よりも大きく、かつ該対象から得られた生体試料中におけるκFLC若しくはその断片の量及びλFLC若しくはその断片の量が対照のものと比較して減少し又は対照群の中央値よりも小さい場合、該対象がARMSである又はその可能性があると判定することができる。さらに他の実施態様において、対象から得られた生体試料中におけるバイオピリンの量及びコルチゾールの量が対照のものと比較して増加し又は対照群の中央値よりも大きく、かつ該対象から得られた生体試料中におけるκFLC若しくはその断片の量及びλFLC若しくはその断片の量が対照のものと比較して減少し又は対照群の中央値よりも小さい場合、該対象がARMSである又はその可能性があると判定することができる。
【0090】
腎臓機能に異常がある対象は、バイオピリンの量の増加、コルチゾールの量の増加、κFLC若しくはその断片の量の減少、及び/又はλFLC若しくはその断片の量の減少を示すとともに、クレアチニンの量及び/又はアルブミンの量の変化(増加又は減少)も示し得る。一方で、腎臓機能が正常であるARMS患者は、バイオピリンの量の増加、コルチゾールの量の増加、κFLC若しくはその断片の量の減少、及び/又はλFLC若しくはその断片の量の減少を示すが、クレアチニンの量及び/又はアルブミンの量は変化し得ない。したがって、前記判定基準に加えて、さらに、該対象から得られた生体試料中におけるクレアチニンの量及び/又はアルブミンの量が、対照のものと比較して変化がない又は対照群の中央値と比較して変化がない場合、該対象がARMSであると判定してもよい。或いは、前記判定基準に加えて、さらに、アルブミン/クレアチニン比(クレアチニンの量に対するアルブミンの量の比)が、対照のものと比較して変化がない又は対照群の中央値と比較して変化がない場合、或いは、約5、約10、約15、約20、約25、約30、約35、又は約40 mg/g以下の場合、該対象がARMSであると判定してもよい。
【0091】
対象から得られた生体試料中のクレアチニンの量及び/又はアルブミンの量を測定することにより、対象の腎臓機能が正常であるか否かを判定してもよい。例えば、対象から得られた生体試料中におけるクレアチニンの量及び/又はアルブミンの量が、対照のものと比較して変化がない又は対照群の中央値と比較して変化がない場合、対象の腎臓機能が正常であると判定することができる。或いは、アルブミン/クレアチニン比が、対照のものと比較して変化がない又は対照群の中央値と比較して変化がない場合、或いは、約5、約10、約15、約20、約25、約30、約35、又は約40 mg/g以下の場合、対象の腎臓機能が正常であると判定することができる。また、対象から得られた生体試料中のクレアチニンの量及び/又はアルブミンの量を測定することにより、バイオピリンの量、コルチゾールの量、κFLC若しくはその断片の量、及び/又はλFLC若しくはその断片の量の変化が、対象の腎臓機能の異常に起因したものか否かを判定するのに用いることができる。例えば、該対象から得られた生体試料中におけるクレアチニンの量及び/又はアルブミンの量が、対照のものと比較して変化がない又は対照群の中央値と比較して変化がない場合、バイオピリンの量、コルチゾールの量、κFLC若しくはその断片の量、及び/又はλFLC若しくはその断片の量の変化が対象の腎臓機能の異常に起因したものではないと判定することができる。或いは、アルブミン/クレアチニン比が、対照のものと比較して変化がない又は対照群の中央値と比較して変化がない場合、或いは、約5、約10、約15、約20、約25、約30、約35、又は約40 mg/g以下の場合、バイオピリンの量、コルチゾールの量、κFLC若しくはその断片の量、及び/又はλFLC若しくはその断片の量の変化が対象の腎臓機能の異常に起因したものではないと判定することができる。
【0092】
別の特定の実施態様において、該対象から得られた生体試料中のバイオピリンの量、コルチゾールの量、κFLC若しくはその断片の量、λFLC若しくはその断片の量、及び/又はアルブミンの量は、該対象から得られた生体試料中のクレアチニンの量で除算された値、すなわち、クレアチニンの量に対する比の値である。
【0093】
前記増加とは、例えば、約1.3倍、約1.4倍、約1.5倍、約2倍、約3倍、約4倍、約5倍、約10倍、約15倍、約20倍、約30倍、約50倍、約100倍又はそれ以上、増加していることであり得る。前記対照群の中央値よりも大きいとは、対照群の中央値よりも、例えば、約1.3倍、約1.4倍、約1.5倍、約2倍、約3倍、約4倍、約5倍、約10倍、約15倍、約20倍、約30倍、約50倍、約100倍又はそれ以上大きいことであり得る。前記減少とは、例えば、約1.3倍、約1.4倍、約1.5倍、約2倍、約3倍、約4倍、約5倍、約10倍、約15倍、約20倍、約30倍、約50倍、約100倍又はそれ以上、減少していることであり得る。前記対照群の中央値よりも小さいとは、対照群の中央値よりも、例えば、約1.3倍、約1.4倍、約1.5倍、約2倍、約3倍、約4倍、約5倍、約10倍、約15倍、約20倍、約30倍、約50倍、約100倍又はそれ以上小さいことであり得る。対象群の中央値は、既知の中央値を用いても、実際に測定した対照群から算出された値でもよい。
【0094】
本明細書中において、「変化がない」又は「変化しない」は、完全同一を意味するものではない。当業者に許容可能な変化、例えば、約40%、約35%、約30%、約25%、約20%、約15%、約10%、約5%、又は約1%以下程度の変化があってもよい。
【実施例】
【0095】
(5.実施例)
以下に本発明の実施例を記載する。下記実施例は、本発明の特許請求の範囲に関する理解を深めるために記載しているものであり、本発明の特許請求の範囲を限定することを意図するものではない。
【0096】
(実施例1)
島根大学臨床研究倫理委員会の許可のもと、専門の精神科医によって診断された精神疾患発症危険状態(ARMS)患者及び健常者の随時尿を採取した。被験者背景は、下記表1に示す通りである。
【表1】
【0097】
採取した尿中のアルブミン、クレアチニン、バイオピリン、コルチゾール、κFLC、及びλFLCの量を、それぞれ、下記に示す市販の測定キットを用いて測定した。測定は、各測定キットの指示書に従って行った。
【表2】
【0098】
バイオピリンについてのデータを以下に示す。
【表3】
【0099】
健常者及びARMS患者の腎臓機能を反映させるため、各量をクレアチニンの量で補正(除算)し、その値を比較した。結果を下記表4に示す。表4から明らかなように、バイオピリン、コルチゾール、κFLC、及びλFLCの量に有意差が観察された。
【表4】
【0100】
これらの有意差のあった4つの因子についてROC曲線解析を行った。解析には統計ソフトウェアEZR(EASY R)を使用した。結果を図1及び下記表5に示す。4因子ともAUC(Area Under the Curve)が0.7以上でありARMSの診断方法として良好な結果を示した。これは、バイオピリン、コルチゾール、κFLC及びλFLCが、各々単独であっても、ARMS診断用バイオマーカーとして使用できることを示している。
【表5】
【0101】
さらに、これらの有意差のあった4つの因子について、ロジスティク回帰分析によって統合し解析を行った。解析には統計ソフトウェアEZR(EASY R)を使用した。結果を図2及び下記表6に示す。バイオピリン&コルチゾールについて、AUCが0.7以上であり、バイオピリン&コルチゾール&κFLC&λFLC、バイオピリン&κFLC、バイオピリン&λFLC、バイオピリン&κFLC&λFLCについては、AUCが0.9以上であった。全てにおいて診断確率が高かった。その中でも、バイオピリンとκFLCとλFLCとの組合せが最も診断確率が高いことが明らかになった(AUC=0.915)。
【表6】
【配列表フリーテキスト】
【0102】
配列番号:1は、κFLCの定常領域(ヒト由来)のアミノ酸配列を示す。
配列番号:2は、κFLCの抗原部位(ヒト由来)のアミノ酸配列を示す。
配列番号:3は、κFLCの抗原部位(ヒト由来)のアミノ酸配列を示す。
配列番号:4は、κFLCの定常領域(ラット由来)のアミノ酸配列を示す。
配列番号:5は、κFLCの抗原部位(ラット由来)のアミノ酸配列を示す。
配列番号:6は、λFLCの定常領域(ヒト由来)のアミノ酸配列を示す。
図1
図2
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]