(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6738127
(24)【登録日】2020年7月21日
(45)【発行日】2020年8月12日
(54)【発明の名称】嚥下・流動食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 33/00 20160101AFI20200730BHJP
【FI】
A23L33/00
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-104043(P2015-104043)
(22)【出願日】2015年5月21日
(65)【公開番号】特開2016-214171(P2016-214171A)
(43)【公開日】2016年12月22日
【審査請求日】2018年4月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000137580
【氏名又は名称】株式会社マルハチ
(74)【代理人】
【識別番号】100083437
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 實
(74)【代理人】
【識別番号】100131026
【弁理士】
【氏名又は名称】藤木 博
(72)【発明者】
【氏名】阿 部 敏 明
【審査官】
高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−263849(JP,A)
【文献】
特開2002−101815(JP,A)
【文献】
特開平08−271640(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3033314(JP,U)
【文献】
特開2008−220203(JP,A)
【文献】
特開平02−163037(JP,A)
【文献】
実開昭59−036986(JP,U)
【文献】
特開平01−206965(JP,A)
【文献】
山口 米子,うまさのサイエンス▲3▼ 酢其の一,食彩浪漫,日本放送出版協会,2003年,第13巻,pp.82-83
【文献】
農産物漬物品質表示基準,2011年 9月30日,pp.1-7
【文献】
嚥下食もっと身近に,富山新聞:朝刊,2014年 5月28日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
日経テレコン
AGRICOLA(STN)
BIOSIS(STN)
BIOTECHNO(STN)
CABA(STN)
CAplus(STN)
FSTA(STN)
SCISEARCH(STN)
TOXCENTER(STN)
WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アントシアニン色素を含む根菜を荒漬けし、洗浄・選別した上、水の総量比13.5、砂糖混合ぶどう糖果糖液糖の総量比13.0、食塩の総量比0.6、クエン酸の総量比0.2、アルコールの総量比0.3、醸造酢の総量比1.0の配合割合にて調合した酢を含有する本漬け用調味液を使用した本漬けの後に洗浄し、水の総量比35.8、食塩の総量比1.3、クエン酸の総量比0.2、砂糖混合ぶどう糖果糖液糖の総量比9.0、醸造酢の総量比0.6、アルコールの総量比0.2の配合割合にて調合した酢を含有する漬替用調味液を加えて漬替し、pH2.0〜pH4.0の酢漬けとした後、ペースト状に加工し、固形化補助食品を添加割合が4重量%〜1重量%となるようにして添加し、密閉容器に充填・包装し、金属検査してから10℃以下に冷蔵するか、または0℃以下に冷凍するかの何れか一方として該密閉容器の内壁形状に沿う所定形状に成型するようにしたことを特徴とする嚥下・流動食品の製造方法。
【請求項2】
アントシアニン色素を含む野菜が、赤かぶ類、赤大根類、ラディッシュ類の少なくとも1種類としてなるものとした、請求項1記載の嚥下・流動食品の製造方法。
【請求項3】
酢漬けpH値が、2.8〜pH3.4となるようにした、請求項1または2何れか一記載の嚥下・流動食品の製造方法。
【請求項4】
固形化補助食品の添加割合を2重量%となるようにした、請求項1ないし3何れか一記載の嚥下・流動食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、摂食・嚥下機能が低下した場合などに、経口的摂食を補助することにより、低栄養状態を改善可能とし、しかも味覚を楽しむことができる嚥下食品技術に関連するものであり、特に、殆ど咀嚼せずとも嚥下可能なものとした嚥下・流動食品を製造、提供する分野は勿論のこと、その輸送、保管、組み立ておよび設置に必要となる設備、器具類を提供、販売する分野から、それら資材や機械装置、部品類に必要となる素材、例えば、木材、石材、各種繊維類、プラスチック、各種金属材料等を提供する分野、それらに組み込まれる電子部品やそれらを集積した制御関連機器の分野、各種計測器の分野、当該設備、器具を動かす動力機械の分野、そのエネルギーとなる電力やエネルギー源である電気、オイルの分野といった一般的に産業機械と総称されている分野、更には、それら設備、器具類を試験、研究したり、それらの展示、販売、輸出入に係わる分野、将又、それらの使用の結果やそれを造るための設備、器具類の運転に伴って発生するゴミ屑の回収、運搬等に係わる分野、それらゴミ屑を効率的に再利用するリサイクル分野などの外、現時点で想定できない新たな分野までと、関連しない技術分野はない程である。
【背景技術】
【0002】
(着目点)
生得性・後天性の様々な疾病、手術後、薬品による影響、加齢など多様な要因によって通常食品の咀嚼・嚥下が困難となる摂食・嚥下障害は、誰にでも起こり得る障害の1つであり、こうした状況となった場合には、各人の嚥下機能に即した食事を工夫する必要があり、病院や介護施設などは、患者に対して毎日三食、飽きのこない多種多様な嚥下食を絶え間なく工夫・提供する必要があり、多彩な食品を素早く加工し、鮮度の良い状態で提供しなければならず、これら要望に応えるために調理に掛ける労力が次第に増大しているというのが実情となっている。
【0003】
(従来の技術)
こうした状況を反映し、その打開策となるような提案もこれまでに散見されない訳ではない。
例えば、下記の特許文献1(1)に提案されているものに代表されるように、通常の方法で製造された油揚げをペースト状に加工する第1工程と、ペースト状の油揚げにゲル化剤を加えて攪拌しながら加熱し、とろみをつける第2工程と、とろみのついたペースト状の油揚げをふくろ詰めにした状態で板状に成形し、真空パックする第3工程と、板状に成形されたとろみのついたペースト状の油揚げをさらに加熱することで殺菌とゲル化処理を行う第4工程と、殺菌とゲル化処理後、所定の温度まで冷却する第5工程とを経て製造される油揚げ食品や、同特許文献1(2)に見られるような、蛋白質、糖質、乳化剤、油脂および水を含む経口用液状栄養組成物であって、蛋白質の配合量が2〜11質量%、糖質の配合量が10〜35質量%、乳化剤と油脂の配合量の合計が1〜13質量%であり、蛋白質が、コラーゲンペプチドおよび分解度が23〜35である乳ペプチド、糖質が、数平均分子量が400〜900の澱粉分解物、乳化剤が、平均重合度が5以上のポリグリセリンとオレイン酸またはミリスチン酸のいずれかとのエステルであるポリグリセリン脂肪酸エステル、油脂が、MCTを含有し、pHが3.0〜5.0とした液状栄養組成物、同特許文献1(3)のように、野菜類、藻類、穀類、でん粉類、豆類、種実類、果実類、きのこ類、またはこれらの2種以上の混合物などの食材とゲル化物とが一体となってゼリー成形体をなすゼリー状食品であって、前記ゼリー成形体を任意の位置で切断した際に、食材がゲル化物と分離されずに一体となって切断されるように、食材が予め軟化処理されているものとしたゼリー状食品などが散見される。
【0004】
しかし、前者特許文献1(1)に示されているような油揚げ食品は、油揚げを対象とした加工技術であり、そのままの加工技術を他の、例えば青果物などのような生鮮食品類に採用しても、鮮度および彩りの良い嚥下食品に加工することは出来ず、そして、特許文献1(2)の酸性液状栄養組成物などは、抗菌性を与えると共に、刺激的な酸味を嫌う高齢者にも、爽やかな飲み口とするためにpH3.0〜pH5.0最も望ましくはpH4.0〜pH4.4とする技術であるが、水素イオン指数の調整により、液状栄養組成物の鮮度維持や、酸味を調整する技術に留まり、その他の原材料として、ミレラル、ビタミン、酸味料、高甘味度甘味料、果汁、香料、色素を使用してもよいとし、発色や着色には、色素を添加するものとしてあり、また、特許文献1(3)に代表するゼリー状食品は、野菜類、藻類、穀類、でん粉類、豆類、種実類、果実類、きのこ類、またはこれらの2種以上の混合物などの食材とゲル化物とを一体化した成型体をなすものとしてあり、食材の発色に関しては、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、ペクチナーゼ、α−アミラーゼ、グルカナーゼ、β−グルコシダーゼ、マンナーゼ、キシラナーゼ、アラバナーゼ、アルギン酸リアーゼ、キトサナーゼ、キチナーゼ、プロテアーゼ、ペプチターゼ等、またこれらの2種以上を混合したものを使用した酵素処理により、野菜類の鮮やかな色彩が保たれたとしており、酵素処理によって食品の色彩の維持を可能とはしているものの、強い発色やより鮮やかな色彩の定着が得られるものとは言い難かった。
【特許文献1】(1)特開2014−217274号公報 (2)特開2012−136471号公報 (3)特開2011−193803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
(問題意識)
上述したとおり、従前までに提案のある各種流動食品類は、何れも、食品を咀嚼不要な状態に軟らかく加工した上、ゲル化物や、粘性やとろみのある食品と混合し、液状化したり、ゼリー状に成形したりするなどして摂食・嚥下障害をもつ人々に食べ易く、また、そうした人々の介護者にとって食べさせ易い食品を提供するものとして、調味や咀嚼性などを改善したものとしているが、嚥下食品をより色鮮やかなものとして提供しようとする場合には、食品用色素を新たに添加したり、酵素を添加したりしなければならず、本願出願人は、これまで永年に渡って生鮮野菜を素材とした様々な漬け物を生産し、広く市場に提供し続けてきており、その中でも介護施設や病院などに提供する漬け物につき、摂食・嚥下障害をもつ人々にも、色鮮やかで美味しい漬け物を心置きなく楽しんで貰いたいとの願いから、患者や高齢者の健康状態に応じた商品開発を進め続けてきている中で、そうした開発過程で得られた様々な知見、およびユーザーからの情報などに啓発され、従前までの嚥下食品技術にあっては、鮮やかな漬け物の色彩と新たな味覚とを実現可能とするための更なる改善の必要性を痛感するに至ったものである。
【0006】
(発明の目的)
そこで、この発明は、摂食・嚥下障害者は固よりのこと、健康的な高齢者、および子供から大人までの健常者にも美味しく食することができる上、生鮮野菜が元来有している天然色素成分をそのまま活かし、強く鮮やかな発色を実現化し、誰でも見て楽しく、食べて美味しい新たな嚥下・流動食品技術の開発はできないものかとの判断から、逸速くその開発、研究に着手し、長期に渡る試行錯誤と幾多の試作、実験とを繰り返してきた結果、今回、遂に新規な構造の嚥下・流動食品の新規な
製造方法を実現化することに成功したものであり、以下では、図面に示すこの発明を代表する実施例と共に、その構成を詳述することとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の構成)
図面に示すこの発明を代表する実施例からも明確に理解されるように、この発明の嚥下・流動食品の製造方法は、基本的に次のような構成から成り立っている。
即ち、アントシアニン色素を含む根菜を荒漬けし、洗浄・選別した上、水の総量比13.5、砂糖混合ぶどう糖果糖液糖の総量比13.0、食塩の総量比0.6、クエン酸の総量比0.2、アルコールの総量比0.3、醸造酢の総量比1.0の配合割合にて調合した酢を含有する本漬け用調味液を使用した本漬けの後に洗浄し、水の総量比35.8、食塩の総量比1.3、クエン酸の総量比0.2、砂糖混合ぶどう糖果糖液糖の総量比9.0、醸造酢の総量比0.6、アルコールの総量比0.2の配合割合にて調合した酢を含有する漬替用調味液を加えて漬替し、pH2.0〜pH4.0の酢漬けとした後、ペースト状に加工し、固形化補助食品を添加割合が4重量%〜1重量%となるようにして添加し、密閉容器に充填・包装し、金属検査してから10℃以下に冷蔵するか、または0℃以下に冷凍するかの何れか一方として該密閉容器の内壁形状に沿う所定形状に成型するようにした構成を要旨とする嚥下・流動食品の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
以上のとおり、この発明の嚥下・流動食品の
製造方法によれば、従前までのものとは違い、上記したとおりの固有の特徴ある構成から、アントシアニン色素を含む野菜を、pH2.0〜pH4.0、望ましくはpH2.8〜pH3.4の酢漬けとしたから、酢の刺激的な味覚を穏やかなものとし、誰でも爽やかな味覚を楽しむことができ、しかも着色料を使用せずとも、もともと野菜に含まれているアントシアニン色素による発色を促進し、野菜の全体に色素を浸透・定着させたものとなり、格段に色鮮やかな食品とすることができる上、ペースト化によって摂食・嚥下障害者はもとより、健康的な高齢者、および子供から大人までの健常者にも美味しく食することができるものになるという秀れた特徴が得られるものである。
【0009】
加えて、固形化補助食品を添加し、密閉容器に充填・包装し、該密閉容器の内壁形状に沿う所定形状に成型してなるものは、包装と同時に所望の形状に成型することができ、その成型形状は、冷凍または冷蔵保管の際や、輸送中も緩衝材などを要さずとも該密閉容器によって保護されるものとなり、開封後は、そのまま盛り付けたり、調理を加えたりすることができ、調理作業の負担を大幅に軽減することができるものになる。
【0010】
また、アントシアニン色素の発色促進および浸透・定着した野菜をペースト化し、固形化補助食品を添加したものは、ペースト化したままの野菜よりも流動性が低く、適度な粘度と凝集性を有し、好みのサイズに分離したり、一口サイズにまとめたりすることが容易になり、さらに、pH2.8〜pH3.4の酢漬けとした場合には、穏やかな酸味と相俟って、爽やかな味覚が得られると共に、咽せたり、咳込んだりするのをより確実に防止し、一段と安全に嚥下することができ、食欲を増進すると共に、介護者にとっても格段に食べさせ易いものになるという効果を発揮するものとなる。
【0011】
アントシアニン色素を含む野菜を、赤かぶ類、赤大根類、ラディッシュ類の少なくとも1種類としたものは、赤色のアントシアニン色素が、pH2.0〜pH4.0、望ましくはpH2.8〜pH3.4の酢漬けとすることにより、その発色を格段に鮮明なものとし、それら根菜の根茎・根部分の中心部を含む全体が、ピンク〜赤色の格段に鮮やかな色合いに染まり、浸透・定着するから、ペースト状に加工したことによって全体が色ムラの無い均一色となり、より品質に秀でた生鮮加工食品として提供することができるものとなる。
【0012】
さらに、この発明の嚥下・流動食品の製造方法によれば、アントシアニン色素を含む根菜を荒漬けし、洗浄・選別した上、適量の酢を含有する本漬け用調味液を使用した本漬けの後に洗浄し、適量の酢を含有する漬替用調味液を加えて漬替し、pH2.0〜pH4.0、望ましくはpH2.8〜pH3.4の酢漬けとするようにしてあることから、野菜に含まれるアントシアニン色素をより強く発色させることができ、しかも、野菜の一部に多く含まれているアントシアニン色素を野菜の全体に浸透および均質に定着させることができ、ペースト状に加工するだけで、攪拌などを要さずに均質な色の鮮度に秀れた嚥下・流動食品を提供することができる。
【0013】
水の総量比13.5、砂糖混合ぶどう糖果糖液糖の総量比13.0、食塩の総量比0.6、クエン酸の総量比0.2、アルコールの総量比0.3、醸造酢の総量比1.0とした本漬け用調味液を使用し、また、水の総量比35.8、食塩の総量比1.3、クエン酸の総量比0.2、砂糖混合ぶどう糖果糖液糖の総量比9.0、醸造酢の総量比0.6、アルコールの総量比0.2とした漬替用調味液を使用した場合には、酢酸の刺激性の臭いや酸味を嫌う高齢者や幼児などにも好まれる、程良い甘酢漬けとして仕上げることができて、誰にでもより一層食べ易い嚥下・流動食品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
上記したとおりの構成からなるこの発明の実施に際し、その最良もしくは望ましい形態について説明を加えることにする。
アントシアニン色素を含む野菜は、アントシアニン色素を含む根菜とすることができ、例えば、赤かぶ類(長崎県の長崎赤かぶ、滋賀県の万木(ゆるぎ)かぶ、飛騨・美濃の飛騨紅かぶ、北海道の大野紅かぶ、山形県温海のあつみかぶ、山形県尾花沢の南沢かぶ、その他)、赤大根類(三浦大根、紅芯大根、その他)ラディッシュ類(二十日大根)などとすることができる外、アントシアニン色素を含む野菜は、例えば、イチゴ、ムラサキキャベツ(赤キャベツ)、ナス、黒米、黒大豆(黒豆)、黒ゴマ、有色サツマイモ(ムラサキイモ)、ダイショ(ベニイモ)、アナスタシアブラック、ツバキ、小豆、赤たまねぎ、紅蓼、赤シソ、イワキベリー、ウスベニアオイ(ブルーマロウ)などとすることができ、さらに、クワ、クランベリー、ボイセンベリー、スグリ(カシス)、ハスカップ、ブルーベリー、ブラックベリー、プルーン、ビルベリー、アサイー、ブドウ、ラズベリーなどの果物類に置き換えることが可能である。
【0015】
荒漬け工程は、アントシアニン色素を含む野菜を本漬け工程に向け、塩水に漬けて水分を出す機能を担うもので、収穫した野菜を洗浄した上、1日程度荒漬けし、洗浄・選別した後、本漬け工程に進むようにするのが望ましく、本漬け工程は、荒漬け、洗浄後の野菜に、調味および本格的な酢漬けを施す機能を担い、荒漬け・洗浄済みの野菜を、水分、糖分、塩分、クエン酸、アルコール分、酢の成分などを、本漬け専用とするよう適量ずつ調合した本漬け用調味液に、30日前後漬け込む工程とするのが良い、本漬け工程を経た野菜は、洗浄後に漬替を行うこととなり、該漬替工程は、酢漬けおよび調味の仕上げとなる機能を担っており、本漬け・洗浄済みの野菜を、水分、塩分、クエン酸、糖分、酢の成分、アルコール分の漬替専用とするよう適量ずつを調合した漬替用調味液に、1〜7日間程度、望ましくは5日間程度漬け込む工程とするのが良く、漬替工程を経た漬替済み野菜は、次工程にてペースト状に加工するものとし、該ペースト化工程は、漬け物とした野菜を嚥下・流動食品としての性状をなすよう加工する機能を担い、漬替済み野菜をフードプロセッサーなどに投入して万遍なくペースト化するよう加工するのが良い。
【0016】
ペースト化した漬替済み野菜は、そのまま密閉包装し、金属検査して10℃以下に冷蔵および0℃以下に冷凍するかの何れか一方とするようにして保管・出荷するものとすることができる外、後述する実施例にも示してあるように、ペースト化した漬替済み野菜に固形化補助食品の適量を添加し、密閉容器に充填し、密閉包装した後、金属探知機などを用いて金属検査した上、10℃以下に冷蔵して該密閉容器の内壁形状に沿う所定形状に成型してなるものとすることができる。
【0017】
本漬け用調味液は、荒漬け済みのアントシアニン色素を含む野菜に吸収され、アントシアニン色素の発色を良くするよう本漬け可能とする機能を担っており、適量の酢およびその他の調味成分を含有するものとすべきであり、例えば、後述する実施例に示す事例のように、水の総量比13.5、砂糖混合ぶどう糖果糖液糖の総量比13.0、食塩の総量比0.6、クエン酸の総量比0.2、アルコールの総量比0.3、醸造酢の総量比1.0としてなるものとするのが良い。
【0018】
漬替用調味液は、本漬け済みのアントシアニン色素を含む野菜に吸収され、アントシアニン色素の発色促進および浸透・定着を促すよう漬替する機能を担うもので、適量の酢およびその他の調味成分を含有するものとすべきであり、例えば、後述する実施例にも取り挙げているように、水の総量比35.8、食塩の総量比1.3、クエン酸の総量比0.2、砂糖混合ぶどう糖果糖液糖の総量比9.0、醸造酢の総量比0.6、アルコールの総量比0.2としてなるものにすると良い。
【0019】
固形化補助食品は、ペースト化した漬替済み野菜を、硬化させず、嚥下し易いよう柔軟性および流動性を有する塊状に纏める機能を担い、ペースト化した漬替済み野菜の分離を防止し、適度な粘度と凝集性とを与えるものとしなければならず、増粘剤、糊料、増粘安定剤、増粘結着剤、ゲル化剤、天然由来の多糖類、澱粉などとすることが可能であり、より具体的なものとして示すと、片栗粉のあんや、増粘剤、ゼラチン、粘りやとろみのある食材(山芋、マヨネーズなど)、ペクチン、グアーガム(グァーガム)、キサンタンガム、タマリンドガム、カラギーナン、プロピレングリコール、カルボキシメチルセルロースなど、またはそれらの混合物などとすることが可能であり、ペースト化・漬替済み野菜に対し、重量比にして4%〜1%望ましくは2%を添加してなるものとすることができる。
【0020】
密閉容器は、ペースト化した漬替済み野菜を、衛生的に取扱い可能とするよう密閉包装可能とする機能を担い、柔軟性を有する合成樹脂製の包装用袋とすることができる外、固形化補助食品を適量添加したペースト化・漬替済み野菜を、密閉包装および所望の形状に成型可能とするよう、収容内部形状を所望の成型形状とするよう成型してなるものとすることができ、器型、箱型、瓶型、缶型、その他様々な形状のものとすることが可能であり、予め成型形状を呈した硬質容器とすることができる外、熱可塑性樹脂製または可塑性の容器とし、固形化補助食品を適量添加したペースト化・漬替済み野菜を、充填した後に、加熱・加圧成型または常温下にて加圧成型するなどして所望の形状に成形可能なものとすることができ、さらにまた、基板状の本体ベースに複数の収容室を点在状に一体し、充填後密閉シートで施蓋したものとし、各収容室を例えば格子状のミシン目孔線などによって仕切り、個別に分離および個別に開封可能なものとすることなどが可能である。
以下では、図面に示すこの発明を代表する実施例と共に、その構造について詳述することとする。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図面は、この発明の嚥下・流動食品の
製造方法に関する技術的思想を具現化した代表的な一実施例を示すものである。
【
図1】嚥下・流動食品の製造方法を示すフローチャートである。
【実施例1】
【0022】
図1に示す事例は、アントシアニン色素を含む野菜を、pH2.0〜pH4.0、望ましくはpH2.8〜pH3.4の酢漬け(1,〜8)とし、着色料を使用せず、アントシアニン色素の発色促進および浸透・定着したものとした後、ペースト状に加工(9)し、密閉容器に充填・包装(11)し、10℃以下に冷蔵(13)および0℃以下に冷凍するかの何れか一方とするようにしてなるものとした、この発明の嚥下・流動食品の製造方法における代表的な一実施例を示すものである。
以下では、この発明の嚥下・流動食品の製造方法の一例に従い、順次、嚥下・流動食品について示して行くこととする。
【0023】
図1から明確に把握できるとおり、この発明の嚥下・流動食品は、アントシアニン色素を含む野菜であり根菜としての新鮮な温海かぶを準備し、葉を切除して水洗浄(1)した後、15%濃度の塩水に体積比70%の割合として24時間荒漬け(2)し、水洗浄して品質毎に選別(3)した上、選別した良質の荒漬けかぶを、下記成分表1に示す配合割合にて調合した本漬け用調味液に、荒漬け・洗浄温海かぶ900kgに対し、360Lの体積割合とするよう浸漬(4)し、約30日間に渡って本漬け(5)を行う。
【表1】
【0024】
本漬け(5)を終えた後に洗浄(6)し、本漬け・洗浄済みの温海かぶを、下記成分表2に示す配合割合にて調合した漬替用調味液に、本漬け・洗浄済み温海かぶ100kgに対し、88.9Lの体積割合とするよう浸漬(7)して2〜5日間に渡って漬替(8)したものとする。
【表2】
【0025】
前記本漬け(5)および漬替(8)を経て、前記漬替済み温海かぶをpH2.8〜pH3.4の酢漬けとした後、同漬替済み温海かぶをフードプロセッサーに投入し、粉砕処理することによってペースト状に加工(9)した上、カタメンリン(登録商標:株式会社三和化学研究所製)などのような固形化補助食品を2重量%添加・混合(10)し、例えば矩形厚板状の収容部を有する密閉容器に充填・施蓋して密閉状包装(11)し、金属探知機(感度Fe2.0、Sus4.0)を用いるなどして金属検査(12)を行った後、10℃以下の冷蔵庫に納め、該密閉容器収容部形状に沿って成型(13)するようにして出荷まで保管するようにしたものである。
【0026】
(実施例1の作用・効果)
以上のとおりの構成からなるこの発明の嚥下・流動食品の製造方法は、新鮮な温海かぶを24時間荒漬け(2)し、次に、砂糖混合ぶどう糖果糖液糖および醸造酢を含む本漬け用調味液に浸け(4)て約30日間に渡り、本漬け(5)した上、さらに、本漬け用調味液とは調合割合の異なる漬替用調味液に浸け(7)て2〜5日間に渡って漬替(8)するようにしたから、温海かぶの外皮付近はもとより、もともと白色の中心部におよぶ全体に、アントシアニン色素が浸透し、鮮やかなピンク〜赤色に発色促進および浸透・定着させ、しかも鮮度に秀れ、適度な酸味と甘味とをもつ甘酢漬けとすることができる。
【0027】
さらに、酢漬け(8)とした後、ペースト状に加工9し、固形化補助食品4重量%〜1重量%望ましくは2重量%を添加(10)し、密閉容器に充填・包装(11)し、金属検査(12)してから10℃以下とするよう冷蔵保管(13)する過程中に、該密閉容器収容部形状に沿って成型(13)するものとしたから、成型用の型枠が不要な上、成型時間を要さず、保管中や輸送中に所望の形状に成型することができるものとなり、生産コストを削減し、しかも鮮度に秀でた嚥下・流動食品を提供することができるものとなる。
【0028】
(結 び)
叙述の如く、この発明の嚥下・流動食品の
製造方法は、その新規な構成によって所期の目的を遍く達成可能とするものであり、しかも製造も容易で、従前からの嚥下食品技術には無かった野菜の甘酢漬けを誰でも食べ易い爽やかな甘酸っぱさに調味すると共に、野菜にもともと含んでいるアントシアニン色素由来の天然色を一段と鮮明に発色および浸透・定着させた上、ペースト化する技術によって、漬け物のような硬い食品を食べることが困難な摂食・嚥下障害にも、漬け物を提供可能とすることができ、食事の彩りを楽しみ、食べて味わう喜びを堪能できるものとなし、介護者の食事補助の負担も大幅に軽減できるものとなることから、医療業界および介護業界は固よりのこと、硬い食品が苦手な高齢者や、刺激的な酸味を好まない児童などにとって安心な食品の提供を希望している一般家庭においても高い評価を受け、広範に渡って利用、普及していくものになると予想される。
【符号の説明】
【0029】
1 根菜(野菜)の洗浄工程
2 荒漬け工程
3 水洗浄・選別工程
4 本漬け用調味液に浸漬する工程
5 本漬け工程
6 洗浄工程
7 漬替用調味液に浸漬する工程
8 漬替工程
9 ペースト化工程
10 固形化補助食品混合工程
11 密閉包装工程
12 金属検査工程
13 冷蔵(または冷凍)保管・成型工程