(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記調整部は、前記比率が前記所定値以下の場合は、前記車体付加モーメントを付加するために前記アシストトルクと前記駆動トルクの双方を用いることを特徴とする、請求項4に記載の車両の制御装置。
前記出力が第1の所定値以下であり、且つ前記損失が第2の所定値以下の場合、前記調整部による調整に基づいて、左右駆動力トルク演算部は、前記車体付加モーメントの一部を発生させるため前記インバータの効率に基づいて前記駆動トルクを演算し、前記操舵トルク演算部は、前記車体付加モーメントの残りを発生させるための前記アシストトルクを演算することを特徴とする、請求項7に記載の車両の制御装置。
前記出力が前記第1の所定値を超えており、且つ前記損失が第2の所定値以下の場合、前記調整部による調整に基づいて、左右駆動力トルク演算部は、前記車体付加モーメントの一部を発生させるため前記インバータの最大出力に基づいて前記駆動トルクを演算し、前記操舵トルク演算部は、前記車体付加モーメントの残りを発生させるための前記アシストトルクを演算することを特徴とする、請求項8に記載の車両の制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0023】
まず、
図1を参照して、本発明の一実施形態に係る車両1000の構成について説明する。
図1は、本実施形態に係る車両1000を示す模式図である。
図1に示すように、車両1000は、前輪100,102、後輪104,106、前輪100,102及び後輪104,106のそれぞれを駆動する駆動力発生装置(モータ)108,110,112,114、モータ108,110,112,114の駆動力を前輪100,102及び後輪104,106のそれぞれに伝達するギヤボックス116,118,120,122、モータ108,110,112,114のそれぞれを制御するインバータ123,124,125,126、後輪104,106のそれぞれの車輪速(車両速度V)を検出する車輪速センサ127,128、前輪100,102を操舵するステアリングホイール130、前後加速度センサ132、横加速度センサ134、バッテリー136、舵角センサ138、パワーステアリング機構140、ヨーレートセンサ142、インヒビターポジションセンサ(IHN)144、アクセル開度センサ146、制御装置(コントローラ)200を有して構成されている。
【0024】
本実施形態に係る車両1000は、前輪100,102及び後輪104,106のそれぞれを駆動するためにモータ108,110,112,114が設けられている。このため、前輪100,102及び後輪104,106のそれぞれで駆動トルクを制御することができる。従って、前輪100,102の操舵によるヨーレート発生とは独立して、前輪100,102及び後輪104,106のそれぞれを駆動することで、トルクベクタリング制御によりヨーレートを発生させることができ、これによってステアリング操舵のアシストを行うことができる。つまり、本実施形態に係る車両1000では、旋回モーメント(以下、ヨーモーメントともいう)を車体旋回角速度(以下ヨーレート)で制御し、ステアリング操舵のアシストを行う旋回アシスト制御を実施する。
【0025】
各モータ108,110,112,114は、制御装置200の指令に基づき各モータ108,110,112,114に対応するインバータ123,124,125,126が制御されることで、その駆動が制御される。各モータ108,110,112,114の駆動力は、各ギヤボックス116,118,120,122を介して前輪100,102及び後輪104,106のそれぞれに伝達される。応答性に優れるモータ108,110,112,114、インバータ123,124,125,126を適用した左右独立駆動が可能な車両1000において、旋回モーメント(ヨーモーメント)を車体旋回角速度(ヨーレート)で制御することができ、ステアリング操舵のアシストを行う旋回アシスト制御を実施する。
【0026】
パワーステアリング機構140は、ドライバーによるステアリングホイール130の操作に応じて、トルク制御又は角度制御により前輪100,102の舵角を制御する。舵角センサ138は、運転者がステアリングホイール130を操作して入力したステアリング操舵角θhを検出する。ヨーレートセンサ142は、車両1000の実ヨーレートγを検出する。車輪速センサ127,128は、車両1000の車両速度Vを検出する。
【0027】
図2は、本実施形態に係る車両1000が備えるパワーステアリング機構140(転舵システム)を示す模式図である。本実施形態に係る車両1000は、転舵システムとして、
図2に示すような、ステアバイワイヤシステムまたはアクティブステアリングシステムを備える。いずれの方式においても、電動パワーステアリングモータ(EPSモータ)1060の駆動力により前輪100,102の転舵が行われ、高電圧バッテリの電圧をDC/DCコンバータにより降圧した電力によって電動パワーステアリングモータ1060が駆動される。電動パワーステアリングモータ1060のトルクを制御することで、ドライバーの所定のステアリング操作量に対する車両1000の旋回量を可変することができ、ステアリング操舵角θhの変化量とタイヤ舵角δの変化量が一様でないアクティブステアリングシステムを構成することができる。
【0028】
以上のように、本実施形態に係る車両1000は、前後左右輪を独立制駆動制御する電動車両であるが、本実施形態はこの形態に限られることなく、後輪104,106のみが独立して駆動力を発生する車両であっても良い。また、本実施形態は、駆動力制御によるトルクベクタリングに限定されるものではなく、後輪の舵角を制御する4WSのシステム等においても実現可能である。
【0029】
本実施形態に係る車両1000は、旋回アシスト制御を行うことで、車両1000の運転状態に応じて比較的高周波の応答でモータ制御を行うことができ、所望の旋回を実現できる。一般的に、電動車両のモータを制御するインバータとして、IGBTがパワーデバイスとして適用されてきた実情がある。しかし、IGBTを用いたインバータの場合、旋回性能を向上させるための高速制御化(高周波制御)には制限があるのに加え、高速制御時にスイッチング損失が発生して電費および燃費悪化につながる。特に、IGBTインバータの場合、高周波制御を行った場合(SW周波数を上げた場合)に、スイッチング損失が増大する。一方、高速制御化を実施するにあたり、パワーデバイスとしてMOSFETなどの応答性の良いものを適用することが考えられるが、出力がIGBTよりも低いため、旋回アシスト制御のモータ駆動要求出力に対応した大電力や大電流には対応できず、所望の旋回性能を得ることができない。
【0030】
インバータは、パワーデバイスの高速スイッチングにより電力変換を行っている。パワーデバイスのスイッチング損失は、高周波で制御することにより増大する。通常の電動車両では、効率よりも最大出力を重視したパワーデバイスを適用したシステム構成となっているが、パワー特性を重視することで、ドライバの要求制駆動力を満足することはできるが、効率や電費が悪化する。また、一般的に適用されてきたIGBTの最大周波数は、本実施形態に係る車両1000の制御周波数と比較すると低いことから、IGBTを使用すると損失が悪化する傾向にある。これは、ターンオン・オフ時にインダクタンス成分が原因で発生するサージ損失が主な要因である。
【0031】
図3は、IGBTとMOSFETの特性を示す特性図であって、制御応答性(周波数)とパワー特性(出力)との関係を示している。
図3に示すように、IGBTは、出力特性に優れるが高周波応答に劣る。一方、MOSFETは、高周波特性に優れるが出力特性に比較的劣る傾向がある。
【0032】
図4は、IGBTとMOSFETのスイッチング特性を示す特性図である。スイッチング損失は、ターンオン損失とターンオフ損失があるが、
図4に示すように、ターンオフ時の電流の収束性に関し、MOSFETのスイッチング損失時間はIGBTのスイッチング損失時間よりも短く、MOSFETがIGBTよりも性能的に勝っている。
図4において、Curr_IGBTはIGBTの電流値であり、Curr_MOSFETはMOSFETの電流値である。この電流収束性の積算が損失に影響する。MOSFETの場合、スイッチング損失時間(無駄時間)が短いので、高周波の制御に対応でき、損失が低減できる。
【0033】
以上のような観点から、本実施形態では、高応答応答とスイッチング損失の観点で優れるMOSFETをインバータ123,124,125,126に適用し、出力特性を車両1000の制御システムで補償する制御を実現する。これにより、電費および燃費向上と旋回性能向上の両立を実現することができる。
【0034】
特に、本実施形態では、電費、燃費向上と高応答な旋回性能を両立することを主眼とし、電費及び燃費を考慮した旋回アシストを行う。具体的には、ヨーレート変化率に基づいて、インバータのパワー素子の特性から効率と旋回性能を両立させる。高応答による旋回性能の向上とパワーデバイスを最適選定することで、走行時の電費および燃費を向上することができる。この際に、IGBTよりも効率で勝るMOSFETをインバータ123,124,125,126に適用し、出力性能が劣る部分を制御条件により切り分けることで、効率と旋回性能を両立させる。
【0035】
そして、高応答制御を可能とし、スイッチング損失低減による電費および燃費向上効果が得られるMOSFETを適用したインバータを備え、操舵に応じて旋回性能を向上させるために左右独立制駆動力制御を実施する。ドライバーの操舵量からヨーレート変化率を演算し、要求旋回モーメントに対するモータへの制動駆動制御指示を制御応答時間として、インバータのスイッチング損失が許容値以下である制御応答時間であればモータの制駆動制御のみでの旋回を行う。また、損失が増大する制御応答時間であれば、損失の許容範囲内でモータの制駆動制御を行うとともに、ステアリング操舵アシストトルクを付加する制御とし、旋回性能と電費および燃費向上を図る。以下、詳細に説明する。
【0036】
図5は、本実施形態に係る制御装置200とその周辺の構成を詳細に示す模式図である。制御装置200は、車載センサ202、目標ヨーレート演算部204、車両ヨーレート演算部(車両モデル)206、ヨーレートF/B演算部208、減算部210,212、重み付けゲイン演算部220、ヨーレート変化率演算部222、インバータ要求電力演算部224、インバータ損失演算部225、インバータ特性マップ記憶部226、旋回手段判定演算部228、車体付加モーメント演算部230、駆動力演算部231、操舵トルク指示部232、モータ要求トルク指示部234、を有して構成されている。
【0037】
図5において、車載センサ202は、上述した車輪速センサ127,128、前後加速度センサ132、横加速度センサ134、舵角センサ138、ヨーレートセンサ142、アクセル開度センサ146を含む。舵角センサ138はステアリングホイール130の操舵角θhを検出する。また、ヨーレートセンサ142は車両1000の実ヨーレートγを検出し、車輪速センサ127,128は車両速度(車速)Vを検出する。横加速度センサ134は、車両1000の横加速度Ayを検出する。
【0038】
目標ヨーレート演算部204は、ステアリング操舵角θhおよび車両速度Vに基づいて目標ヨーレートγ_tgtを算出する。具体的には、目標ヨーレート演算部204は、一般的な平面2輪モデルを表す以下の式(1)から目標ヨーレートγ_tgtを算出する。目標ヨーレートγ_tgtは、式(1)の右辺に、式(2)および式(3)から算出される値を代入することによって算出される。算出された目標ヨーレートγ_tgtは、減算部210へ入力される。
【0040】
なお、式(1)〜式(3)における変数、定数、演算子は以下の通りである。
γ_tgt:目標ヨーレート
θh:ステアリング操舵角
V:車両速度
T:車両の時定数
S:ラプラス演算子
N:ステアリングギヤ比
l:車両ホイールベース
l
f:車両重心点から前輪中心までの距離
l
r:車両重心点から後輪中心までの距離
m:車両重量
K
ftgt:目標コーナリングパワー(前方輪)
K
rtgt:目標コーナリングパワー(後方輪)
【0041】
以上のように、目標ヨーレートγ_tgtは、車両速度V、及びタイヤ舵角δ(=θh/N)を変数として、式(1)から算出される。式(2)における定数A
tgtは車両の特性を表す定数であり、式(3)から求められる。
【0042】
車両ヨーレート演算部206は、車両ヨーレートを算出するための以下の式から、ヨーレートモデル値γ_clcを算出する。具体的には、以下の式(4)、式(5)へ車両速度V、ステアリング操舵角θhを代入し、式(4)、式(5)を連立して解くことで、ヨーレートモデル値γ_clc(式(4)、式(5)におけるγを算出する。式(4)、式(5)において、K
fはコーナリングパワー(フロント)、K
rはコーナリングパワー(リア)を示している。なお、式(3)では、式(4)、式(5)のコーナリングパワーK
f,K
rとは異なる目標コーナリングパワーK
ftgt,K
rtgtを用いることで、目標ヨーレートγ_tgtがヨーレートモデル値γ_clcよりも大きくなるようにして、旋回性能を高めている。ヨーレートモデル値γ_clcは、ヨーレートF/B演算部208へ出力される。また、ヨーレートモデル値γ_clcは、減算部212へ入力される。
【0044】
一方、ヨーレートセンサ142が検出した車両1000の実ヨーレートγ(以下では、実ヨーレートγ_sensと称する)は、減算部212へ入力される。減算部212は、実ヨーレートγ_sensからヨーレートモデル値γ_clcを減算し、実ヨーレートγ_sensとヨーレートモデル値γ_clcとの差分γ_diffを求める。差分γ_diffは重み付けゲイン演算部220へ入力される。
【0045】
重み付けゲイン演算部220は、実ヨーレートγ_sensとヨーレートモデル値γ_clcとの差分γ_diffに基づいて、重み付けゲインaを算出する。
【0046】
ヨーレートF/B演算部208には、ヨーレートモデル値γ_clc、実ヨーレートγ_sens、及び重み付けゲインaが入力される。ヨーレートF/B演算部208は、以下の式(6)に基づき、ヨーレートモデル値γ_clcと実ヨーレートγ_sensを重み付けゲインaによって重み付けし、フィードバックヨーレートγ_F/Bを算出する。算出されたフィードバックヨーレートγ_F/Bは、減算部210へ出力される。
γ_F/B=a×γ_clc+(1−a)×γ_sens ・・・・(6)
【0047】
図6は、重み付けゲイン演算部220が重み付けゲインaを算出する際のゲインマップを示す模式図である。
図6に示すように、重み付けゲインaの値は、車両モデルの信頼度に応じて0から1の間で可変する。車両モデルの信頼度を図る指標として、ヨーレートモデル値γ_clcと実ヨーレートγ_sensとの差分(偏差)γ_diffを用いる。
図6に示すように、差分γ_diffの絶対値が小さい程、重み付けゲインaの値が大きくなるようにゲインマップが設定されている。重み付けゲイン演算部220は、差分γ_diffに
図6のマップ処理を施し、車両モデルの信頼度に応じた重み付けゲインaを演算する。
【0048】
図6において、重み付けゲインaは0〜1の値である(0≦a<1)。−0.05[rad/s]≦γ_diff≦0.05[rad/s]の場合、重み付けゲインaは1とされる(a=1)。
【0049】
また、0.1≦γ_diffの場合、またはγ_diff<−0.1の場合、重み付けゲインaは0とされる(a=0)。
【0050】
また、0.05[rad/s]<γ_diff<0.1[rad/s]の場合、重み付けゲインaは以下の式より算出される。
a=−20×γ_diff+2
【0051】
また、−0.1[rad/s]≦γ_diff<−0.05[rad/s]の場合、重み付けゲインaは以下の式より算出される。
a=+20×γ_diff+2
【0052】
図6に示すゲインマップの領域A1は、差分γ_diffが0に近づく領域であり、実ヨーレートγ_sensのS/N比が小さい領域や、タイヤ特性が線形の領域(ドライの路面)であり、車両ヨーレート演算部206から算出されるヨーレートモデル値γ_clcの信頼性が高い。このため、重み付けゲインa=1として、式(6)よりヨーレートモデル値γ_clcの配分を100%としてフィードバックヨーレートγ_F/Bが演算される。これにより、ヨーレートγ_sensに含まれるヨーレートセンサ142のノイズの影響を抑止することができ、フィードバックヨーレートγ_F/Bからセンサノイズを排除することができる。従って、車両1000の振動を抑制して乗り心地を向上することができる。
【0053】
ここで、実ヨーレートγと車両モデルから求まるヨーレートモデル値γ_clcとの間に乖離が生じる要因として、タイヤの動的特性が挙げられる。上述した平面2輪モデルは、タイヤのスリップ角と横加速度との関係(タイヤのコーナーリング特性)が線形である領域を想定しており、この線形領域では、実ヨーレートγとヨーレートモデル値γ_clcは略一致する。スリップ角と横加速度との関係を示す特性において、スリップ角に対して横加速度が線形となる線形領域(ステアリング操舵速度が比較的遅い領域)では、ヨーレートセンサ142のセンサノイズによる影響が発生する。従って、この領域ではヨーレートモデル値γ_clcを使用する。
【0054】
一方、タイヤのコーナーリング特性が非線形になる領域では、実車のヨーレートと横加速度が舵角やスリップ角に対して非線形になり、平面2輪モデルと実車でセンシングされるヨーレートとが乖離する。このような過渡的な非線形領域ではヨーレートセンサ142のセンサ特性上、ノイズが発生しないため、実ヨーレートγが使用可能である。非線形領域は、例えばステアリングの切り換えしのタイミングに相当する。実ヨーレートγがヨーレートモデル値γ_clcを超える場合は、非線形領域に相当し、センサノイズの影響を受けないため実ヨーレートγを使用することで、真値に基づいた制御が可能である。なお、タイヤの非線形性を考慮したモデルを使用すると、ヨーレートに基づく制御が煩雑になるが、本実施形態によれば、ヨーレートモデル値γ_clcの信頼度を差分γ_diffに基づいて容易に判定することができ、非線形領域では実ヨーレートγの配分を多くして使用することが可能である。また、タイヤの動的特性の影響を受け難い領域はヨーレートモデル値γ_clcで対応可能である。
【0055】
また、
図6に示すゲインマップの領域A2は、差分γ_diffが大きくなる領域であり、ウェット路面走行時、雪道走行時、または高Gがかかる旋回時などに相当し、タイヤが滑っている限界領域である。この領域では、車両ヨーレート演算部206から算出されるヨーレートモデル値γ_clcの信頼性が低くなり、差分γ_diffがより大きくなる。このため、重み付けゲインa=0として、式(6)より実ヨーレートγ_sensの配分を100%としてフィードバックヨーレートγ_F/Bが演算される。これにより、実ヨーレートγ_sensに基づいてフィードバックの精度を確保し、実車の挙動を反映したヨーレートのフィードバック制御が行われる。従って、実ヨーレートγ_sensに基づいて車両1000の旋回を最適に制御することができる。また、タイヤが滑っている領域であるため、ヨーレートセンサ142の信号にノイズの影響が生じていたとしても、車両1000の振動としてドライバーが感じることはなく、乗り心地の低下も抑止できる。
図6に示す低μの領域A2の設定については、設計要件から重み付けゲインκ=0となる領域を決めても良いし、低μ路面を実際に車両1000が走行した時の操縦安定性能、乗り心地等から実験的に決めても良い。
【0056】
また、
図6に示すゲインマップの領域A3は、線形領域から限界領域へ遷移する領域(非線形領域)であり、実車である車両1000のタイヤ特性も必要に応じて考慮して、ヨーレートモデル値γ_clcと実ヨーレートγ_sensの配分(重み付けゲインa)を線形に変化させる。領域A1(高μ域)から領域A2(低μ域)への遷移、ないし領域A2(低μ域)から領域A1(高μ域)へ遷移する領域においては、重み付けゲインaの急変に伴うトルク変動、ヨーレートの変動を抑えるため、線形補間で重み付けゲインaを演算する。
【0057】
また、
図6に示すゲインマップの領域A4は、実ヨーレートγ_sensの方がヨーレートモデル値γ_clcよりも小さい場合に相当する。例えば、車両ヨーレート演算部206に誤ったパラメータが入力されてヨーレートモデル値γ_clcが誤計算された場合等においては、領域A4のマップにより実ヨーレートγ_sensを用いて制御を行うことができる。なお、重み付けゲインaの範囲は0〜1の間に限定されるものではなく、車両制御として成立する範囲であれば任意の値を取れる様に構成を変更することも、本発明の技術で成し得る範疇に入る。
【0058】
減算部210は、目標ヨーレート演算部204から入力された制御目標ヨーレートγ_tgtからフィードバックヨーレートγ_F/Bを減算し、制御目標ヨーレートγ_tgtとフィードバックヨーレートγ_F/Bとの差分Δγを求める。すなわち、差分Δγは、以下の式(7)から算出される。
Δγ=γ_Tgt−γ_F/B ・・・・(7)
差分Δγは、ヨーレート補正量として車体付加モーメント演算部230へ入力される。
【0059】
車体付加モーメント演算部230は、入力された差分Δγに基づいて、差分Δγが0となるように、すなわち、制御目標ヨーレートγ_tgtがフィードバックヨーレートγ_F/Bと一致するように、車体付加モーメントMgを演算する。具体的には、車体付加モーメントMgは以下の式(8)から算出される。これにより、車両1000の中心位置において、旋回に必要な車体付加モーメントMgが求まる。車体付加モーメントMgに基づいて、車両1000に旋回モーメントが付加される。
【0061】
ヨーレート変化率演算部222は、フィードバックヨーレートγ_F/Bを目標ヨーレートγ_tgtで除算することにより、ヨーレート変化率γ_ratioを演算する。すなわち、ヨーレート変化率γ_ratioは以下の式(9)から算出される。
γ_ratio=γ_F/B/γ_tgt ・・・(9)
【0062】
ヨーレート変化率γ_ratioは、ヨーレートが発生しない車両直進時は0となる。また、フィードバックヨーレートγ_F/Bの値が目標ヨーレートγ_tgtの値に近似するほど、ヨーレート変化率γ_ratioの値は1に近づき、フィードバックヨーレートγ_F/Bの値が目標ヨーレートγ_tgtの値から乖離するほど、ヨーレート変化率γ_ratioの値は0に推移する。このように、ヨーレート変化率γ_ratioは、フィードバックヨーレートγ_F/Bと目標ヨーレートγ_tgtとの乖離度合を表すパラメータとなるが、フィードバックヨーレートγ_F/Bと目標ヨーレートγ_tgtとの差分ではなく、両者の比率からフィードバックヨーレートγ_F/Bと目標ヨーレートγ_tgtとの乖離度合を求めることにより、単位が無次元化される。これにより、ヨーレート変化率γ_ratioに基づいて、インバータ制御量の絶対値を把握することができる。
【0063】
インバータ要求電力演算部224は、ヨーレート変化率γ_ratioに基づいて、インバータ出力値PInvOを演算する。
図7は、インバータ要求電力演算部224がヨーレート変化率γ_ratioからインバータ出力値(インバータ要求電力)PInvOを演算する際に使用するマップを示す模式図である。
【0064】
図7のマップに示すように、フィードバックヨーレートγ_F/Bと目標ヨーレートγ_tgtが乖離するほど、すなわち、ヨーレート変化率γ_ratioが0に近くなるほど、モータ108,110,112,114の制御量が大きくなるため、インバータ出力値PInvOは大きくなる。
【0065】
また、インバータ損失演算部225は、ヨーレート変化率γ_ratioに基づいて、インバータ損失値LossInvOを演算する。
図8は、インバータ要求電力演算部224がヨーレート変化率γ_ratioからインバータ損失値LossInvOを演算する際に使用するマップを示す模式図である。なお、
図7及び
図8のマップは、インバータ特性マップ記憶部226に格納されている。
【0066】
ヨーレート変化率γ_ratioは、分母を目標値(目標ヨーレートγ_tgt)、分子を実値(フィードバックヨーレートγ_F/B)とする比率から算出される。実値と目標値の乖離が多い場合はヨーレート変化率γ_ratioが0に近づくため、実値を目標値に近づけるための制御量が大きくなる。インバータ損失値LossInvOは制御量の増加に伴って増加するため、
図8に示すように、ヨーレート変化率γ_ratioが0に近づき、実値を目標値に近づけるための制御量が増えるとインバータ損失値LossInvOは大きくなる。
【0067】
旋回手段判定演算部228は、ヨーレート変化率γ_ratio、インバータ出力値PInvO、インバータ損失値LossInvOに基づいて、旋回手段を判定する。駆動演算部231は、判定の結果に基づいて、ステアリング操舵アシストトルク(EPSモータトルク)と、左右輪駆動トルクとしての旋回駆動力MgmotTqを演算する。ステアリング操舵アシストトルク(EPSモータトルク)δmotTqは、操舵トルク指示部232に出力されて、ステアリング操舵アシストトルクδmotTqに基づいて電動パワーステアリングモータ1060の駆動が行われる。また、旋回駆動力MgmotTqは、モータ要求トルク指示部234に出力されて、旋回駆動力MgmotTqに基づいてモータ108,110,112,114の駆動が行われる。このように、旋回手段判定演算部228は、車体付加モーメントMgを付加するためにステアリング操舵アシストトルクδmotTqと旋回駆動力MgmotTqを調整する調整部として機能する。また、駆動演算部231は、ステアリング操舵アシストトルクを演算する操舵トルク演算部、及び左右独立駆動可能なモータ108,110,112,114の駆動トルクを演算する左右駆動力トルク演算部として機能する。
【0068】
次に、本実施形態に係る制御装置200が行う全体的な処理について説明する。
図9は、本実施形態の全体的な処理を示すフローチャートである。先ず、ステップS100では、イグニッションキー(イグニッションSW)がオンであるか否かを判定する。イグニッションキーがオンされた場合はステップS102へ進み、イグニッションキーがオンされていない場合はステップS100で待機する。
【0069】
ステップS102では、インヒビターポジションセンサ(IHN)144がP(パーキング)又はN(ニュートラル)の位置を示しているか否かを判定し、P(パーキング)又はN(ニュートラル)の位置である場合はステップS104へ進む。また、ステップS102でP(パーキング)又はN(ニュートラル)の位置でない場合はステップS106へ進み、イグニッションキーがオンされているか否かを判定し、イグニッションキーがオンされている場合はステップS102へ戻る。ステップS106でイグニッションキーがオフの場合はステップS108へ進み、車両の起動処理を終了してステップS100へ戻る。
【0070】
ステップS104では車両1000の起動処理を行い、次のステップS110では、インヒビターポジションセンサ(IHN)144がD(ドライブ)又はR(後進)の位置を示しているか否かを判定する。そして、インヒビターポジションセンサ(IHN)144がD(ドライブ)又はR(後進)の位置を示している場合は、ステップS112へ進み、走行制御の処理を開始する。一方、ステップS110でインヒビターポジションセンサ(IHN)144がD(ドライブ)又はR(後進)の位置を示していない場合は、ステップS113へ進み、イグニッションキーがオンされているか否かを判定し、イグニッションキーがオンされている場合はステップS110へ戻る。ステップS113でイグニッションキーがオフの場合はステップS108へ進み、車両の起動処理を終了する。
【0071】
図10は、
図9のステップS112の処理を詳細に示すフローチャートである。先ず、ステップS113では、入力値としてアクセルペダルの操作量、ブレーキペダルの操作量を取得する。次のステップS114では、アクセルペダルの操作量が0.1以上であるか否かを判定し、操作量が0.1以上の場合はステップS116へ進む。ステップS116では、アクセルペダルの操作量に基づいて要求駆動力reqFを算出する。なお、要求駆動力reqFの算出は、例えばアクセル開度と要求駆動力reqFとの関係を規定したマップに基づいて行うことができる。一方、アクセルペダルの操作量が0.1未満の場合はステップS118へ進み、各モータ108,110,112,114の回生制動制御を行う。
【0072】
ステップS116,S118の後はステップS120へ進む。ステップS120では、旋回手段の切り換え制御を行う。旋回手段の切り換え制御については、後述する。次のステップS122では、スリップ判定制御を行う。次のステップS124では、モータトルク指示値を算出し、各モータ108,110,112,114へ出力を指示する。次のステップS126では、前後加速度センサ132、横加速度センサ134により車両1000の加速度を検出する。
【0073】
ステップS126の後はステップS127へ進み、スリップ判定演算を行う。次のステップS128では、Slip_Flg=0であるか否かを判定し、Slip_Flg=0の場合はステップS130へ進み、Slip_Flg1=0、Slip_Flg2=0とする。
【0074】
一方、ステップS128でSlip_Flg=0でない場合はステップS132へ進み、Slip_Flg1=1であるか否かを判定し、Slip_Flg1=1の場合はステップS134へ進み、Slip_Flg2=1とする。ステップS132でSlip_Flg1=1でない場合はステップS136へ進み、Slip_Flg1=1とする。ステップS130,S134,S136の後はステップS120へ戻る。
【0075】
ステップS128以降の処理によれば、Slip_Flg=1であると、先ずSlip_Flg1=1となり、次の制御サイクルで再びSlip_Flg=1となると、Slip_Flg2=1となる。従って、2回続けてSlip_Flgが1となった場合にSlip_Flg2が1となるため、Slip_Flg2が1に設定されている状況では、ノイズの影響が排除され、スリップが発生している確度が高いと判定できる。また、Slip_Flg=1の場合は、前回の制御サイクルでSlip_Flg=1と判定されているため、少なくともスリップが発生し始めていると判断できる。
【0076】
図11は、
図10のステップS127のスリップ判定演算の処理を詳細に示すフローチャートである。先ず、ステップS300では、入力値として|ΔNew|と|Δγ|を取得する。ここで、ΔNewは左右差回転理論値(絶対値)|ΔNew_clc|と左右差回転実値(絶対値)|ΔNew_real|との差分の絶対値であり、|ΔNew|=|ΔNew_clc−ΔNew_real|である。また、|Δγ|=|γtgt−γF/B|である。
【0077】
次のステップS302では、|ΔNew|≧150rpmであるか否かを判定し、|ΔNew|≧150rpmの場合はステップS304へ進み、|Δγ|≧0.75rad/sであるか否かを判定する。ステップS304で|Δγ|≧0.75rad/sの場合はステップS306へ進み、スリップ判定フラグSlip_Flg=1とする。一方、ステップS302で|ΔNew|<150rpmの場合、又は、ステップS304で|Δγ|<0.75rad/sの場合は、ステップS308へ進み、スリップ判定フラグSlip_Flg=0とする。
【0078】
図10のステップS130〜S136では、
図11の処理により算出されたSlip_Flgの状態に応じて、Slip_Flg1、Slip_Flg2の状態が設定される。Slip_Flgが0であれば、Slip_Flg1、Slip_Flg2はいずれも0に設定されるが、Slip_Flgが1であれば、次の制御周期でSlip_Flg1が1に設定され、更に次の制御周期でSlip_Flg2が1に設定される。
【0079】
図12は、
図10のステップS120の旋回手段の切り換え制御の全体的な処理を示すフローチャートである。
図12の処理では、入力として車両速度V、ステアリング操舵角θhが与えられる。先ず、ステップS200では、目標ヨーレートγ_tgtを算出する。ここでは、ステアリング操舵角θh、車両速度Vを入力として、目標ヨーレート演算部202が車両モデル(平面2輪モデル)より目標ヨーレートγ_tgtを算出する。
【0080】
次のステップS202では、ヨーレートF/B演算部208が、フィードバックヨーレートγ_F/Bを算出する。次のステップS204では、減算部210が、目標ヨーレートγ_tgtとフィードバックヨーレートγ_F/Bとの差分Δγを算出する。次のステップS206では、ヨーレート変化率演算部222が、ヨーレート変化率γ_ratioを算出する。
【0081】
次のステップS208では、インバータ要求電力演算部224が、インバータ出力値PInvOを演算する。また、ステップS208では、インバータ損失演算部225が、インバータ損失値LossInvOを演算する。次のステップS210では、旋回手段判定演算部228が、ヨーレート変化率γ_ratio、インバータ出力値PInvO、インバータ損失値LossInvOに基づいて、旋回手段を判定する。次のステップS212では、ステップS210の判定結果に基づいて、ステアリング操舵アシストトルクδmotTq、旋回駆動力MgmotTqを演算する。以上のようにして、
図12の処理を行うことにより、ステアリング操舵アシストトルクδmotTq、及びモータ108,110,112,114の旋回駆動力MgmotTqが出力される。
【0082】
図13は、
図12の処理を詳細に示すフローチャートであって、特に
図12のステップS210とステップS212の処理を詳細に示している。また、
図13では、スリップ判定の結果を判定条件に加えている。
図13の処理では、入力として車両速度V、ステアリング操舵角θh、スリップ判定状態が与えられる。先ず、ステップS220では、Slip_Flg1=0であるか否かを判定し、Slip_Flg1=0の場合はステップS222へ進む。ステップS222では、目標ヨーレートγ_tgtを算出する。次のステップS224では、フィードバックヨーレートγ_F/Bを算出する。次のステップS226では、目標ヨーレートγ_tgtとフィードバックヨーレートγ_F/Bとの差分Δγを求める。次のステップS228では、ヨーレート変化率γ_ratioを算出する。次のステップS230では、インバータ出力値PInvOとインバータ損失値LossInvOを演算する。
【0083】
次のステップS232では、ヨーレート変化率γ_ratioが所定のしきい値Xよりも大きいか否かを判定し、γ_ratio>Xの場合はステップS234へ進む。ステップS234に進んだ場合は、ヨーレート変化率γ_ratioが所定のしきい値Xよりも大きいため、フィードバックヨーレートγ_F/Bと目標ヨーレートγ_tgtとの乖離が小さいと判断でき、モータ108,110,112,114の旋回駆動力MgmotTqのみで旋回を行うことができる。このため、ステップS234では、旋回駆動力MgmotTqとして旋回モータトルクclcmotTqを演算する。次のステップS236では、旋回駆動力MgmotTq=clcmotTqを出力し、EPSモータトルクδmotTq=0とする。
【0084】
具体的に、ステップS236では、車体付加モーメントMgに基づいて、左右旋回差トルクΔTvを以下の式から算出し、左右旋回差トルクΔTvから旋回モータトルクclcmotTqを算出する。以下の式において、TrdRはリアのトレッドであり、TireRはタイヤ半径であり、Gratioギヤボックス116,118,120,122のギヤ比である。
【0086】
以上のように、γ_ratio>Xの場合は、フィードバックヨーレートγ_F/Bと目標ヨーレートγ_tgtとの乖離が小さいため、モータ108,110,112,114の旋回駆動力MgmotTqは比較的小さくなり、MOSFETのインバータ123,124,125,126でも十分な出力が可能である。従って、この場合は、モータ108,110,112,114による旋回駆動力MgmotTq(=clcmotTq)のみで旋回を行い、EPSモータトルクδmotTqによる旋回アシストは行わない。
【0087】
また、ステップS232でγ_ratio≦Xの場合はステップS238へ進む。ステップS238以降へ進んだ場合は、γ_ratioが所定のしきい値X以下であるため、フィードバックヨーレートγ_F/Bと目標ヨーレートγ_tgtとの乖離が大きく、
モータ108,110,112,114の旋回駆動力MgmotTqのみではMOSFETのインバータ123,124,125,126から十分な出力を得ることはできない。このため、ステップS238以降では、EPSモータトルクδmotTqによる旋回アシストを用いて旋回を行う。
【0088】
ステップS238では、PInvO<Y、且つLossInvO<Zであるか否かを判定し、PInvO<Y、且つLossInvO<Zの場合は、ステップS240へ進む。ステップS240へ進んだ場合は、インバータ出力値PInvOが所定のしきい値Yよりも小さく、且つインバータ損失値LossInvOが所定のしきい値Zよりも小さいため、インバータ123,124,125,126が出力可能な最大値(=Y)に対してインバータ123,124,125,126に要求される出力に余裕がある。このため、モータ108,110,112,114の駆動力制御をインバータ123,124,125,126が出力可能な最大出力で行う必要はない。従って、この場合は、インバータ108,110,112,114の効率を重視してモータ108,110,112,114の駆動力制御を行い、車体付加モーメントMgのうちモータ108,110,112,114の旋回駆動力MgmotTqで発生させた残りをステアリング操舵アシストトルクδmotTqで発生させる。このため、ステップS240では、旋回駆動力MgmotTqとして旋回モータトルクclcmotTqを演算し、ステアリング操舵アシストトルクδmotTqとしてEPSモータトルクclcδTqを演算する。次のステップS242では、旋回駆動力MgmotTq=clcmotTqを出力し、ステアリング操舵アシストトルクδmotTq=clcδTqを出力する。
【0089】
具体的に、ステップS240では、以下の各式から旋回モータトルク(clcMotTq)、EPSモータトルク(clcδTq)を演算する。
【0091】
なお、上記各式、及び以下で示す各式において、変数、定数は以下の通りである。
【0093】
上記の演算において、モータトルク最大値(MaxMotTq)が、インバータの効率が最も良くなるトルク(=LossInvOmax|BattV)に設定される。従って、インバータの効率を重視してモータ108,110,112,114の駆動を行うことができる。また、上記の演算により、車体付加モーメントMgのうち、旋回モータトルクclcmotTqによって発生するモーメント以外は、ステアリング操舵アシストトルクδmotTq(=clcδTq)によって発生される。
【0094】
また、ステップS238でPInvO<Y、且つLossInvO<Zでない場合は、ステップS244へ進む。ステップS244では、PInvO>Y、且つLossInvO<Zであるか否かを判定し、PInvO>Y、且つLossInvO<Zの場合はステップS246へ進む。ステップS246へ進んだ場合、インバータ123,124,125,126が出力可能な最大値(=Y)に対してインバータ123,124,125,126に要求される出力(=PInvO)が超えているため、モータ108,110,112,114の駆動力制御をインバータ123,124,125,126が出力可能な最大出力で行う。そして、車体付加モーメントMgのうちモータ108,110,112,114の旋回駆動力MgmotTqで発生させた残りをステアリング操舵アシストトルクδmotTqで発生させる。このため、ステップS246では、旋回駆動力MgmotTqとして旋回モータトルクclcmotTqを演算し、ステアリング操舵アシストトルクδmotTqとしてEPSモータトルクclcδTqを演算する。次のステップS248では、旋回駆動力MgmotTq=clcmotTqを出力し、ステアリング操舵アシストトルクδmotTq=clcδTqを出力する。
【0095】
具体的に、ステップS248では、以下の各式から旋回モータトルク(clcMotTq)、EPSモータトルク(clcδTq)を演算する。
【0097】
上記の演算において、モータトルク最大値(MaxMotTq)が、インバータ123,124,125,126が出力可能な最大出力(=PinvOmax|BattV)に設定される。従って、インバータの最大出力でモータ108,110,112,114の駆動を行うことができる。この場合、インバータ123,124,125,126の出力が最大出力に抑えられるため、高周波応答を実現することが可能である。また、上記の演算により、車体付加モーメントMgのうち、旋回モータトルクclcmotTqによって発生するモーメント以外は、ステアリング操舵アシストトルクδmotTq(=clcδTq)によって発生される。
【0098】
また、ステップS244でPInvO>Y、且つLossInvO<Zでない場合は、ステップS250へ進む。ステップS250へ進んだ場合は、インバータ出力値PInvOは所定のしきい値Y以下であるが、インバータ損失値LossInvOが所定のしきい値Zよりも大きいため、インバータ123,124,125,126によるモータ108,110,112,114の駆動力制御を行わずに、ステアリング操舵アシストトルクδmotTqのみで旋回を行う。このため、ステップS250では、ステアリング操舵アシストトルクδmotTqとしてEPSモータトルクclcδTqを演算する。次のステップS252では、ステアリング操舵アシストトルクδmotTq=clcδTqを出力する。
【0099】
具体的に、ステップS250では、以下の各式から旋回モータトルク(clcδTq)を演算する。
【0101】
また、
図13の処理では、
図10のステップS120以降で設定したスリップ判定フラグを併用している。ステップS220でSlip_Flg1=1の場合はステップS254へ進む。ステップS254では、Slip_Flg2=1であるか否かを判定し、Slip_Flg2=1の場合はステップS250へ進む。また、ステップS254でSlip_Flg2=0の場合はステップS238へ進む。
【0102】
上述したように、Slip_Flg2が1に設定されている状況では、ノイズの影響が排除され、スリップが発生している確度が高いと判断できる。また、Slip_Flg=1の場合は、前回の制御サイクルでSlip_Flg=1と判定されているため、少なくともスリップが発生し始めていると判断できる。このため、ステップS220でSlip_Flg1=1の場合はスリップが発生し始めている可能性があるため、ステップS254へ進み、Slip_Flg2=1であるか否かを判定する。そして、ステップS254でSlip_Flg2=1の場合は、スリップが発生している確度が高いと判断できるため、ステップS250へ進み、ステアリング操舵アシストトルクδmotTqとしてEPSモータトルクclcδTqを演算する。これにより、モータ108,110,112,114の旋回駆動力MgmotTqによる旋回は行われないため、路面が滑り易い状況下で車両挙動を安定させることができる。また、モータ108,110,112,114の旋回駆動力MgmotTqによる旋回は行われないため、路面が滑り易い状況下でインバータ123,124,125,126の出力が増大してしまうことを確実に抑止することができ、効率低下を抑えることが可能である。
【0103】
また、ステップS254でSlip_Flg2=0の場合はステップS238へ進む。この場合、Slip_Flg2=1の場合よりもスリップの度合いが低いと判断できるが、モータ108,110,112,114の旋回駆動力MgmotTqのみで旋回を行うと、滑り易い路面状態に起因して、車両挙動が不安定になったり、インバータ123,124,125,126の出力が増大してしまうことが想定される。従って、ステップS238以降の処理により、ステアリング操舵アシストトルクδmotTqを併用して旋回を行う。
【0104】
以上のようにして旋回駆動力が演算されると、
図10のステップS124において、モータトルクの出力指示が行われる。旋回時の各モータ108,110,112,114のモータトルク指示値は以下の各式で表すことができる。モータ要求トルク指示部234は、以下の各式に基づいて、各モータ108,110,112,114のモータトルク指示値TqmotFl,TqmotFr,TqmotRl,TqmotRrを算出する。
TqmotFl(左前輪のモータトルク指示値)=reqTq/4
TqmotFr(右前輪のモータトルク指示値)=reqTq/4
TqmotRl(左後輪のモータトルク指示値)
=reqTq/4−(±Tvmot)
TqmotRr(右後輪のモータトルク指示値)
=reqTq/4+(±Tvmot)
ここで、付加トルクTvmotが、旋回駆動力MgmotTqに相当する。付加トルクTvmotの符号は、旋回方向に応じて設定される。なお、ここでは、左後輪と右後輪に付加トルクTvmotを付加することで左右駆動力制御を行うこととしたが、左前輪と右前輪に付加トルクTvmotを付加しても良いし、4輪に付加トルクTvmotを付加しても良い。
【0105】
また、操舵トルク指示部246は、ステアリング操舵アシストトルクδmotTqを電動パワーステアリングモータ1060のトルクとして出力する。
【0106】
図14及び
図15は、本実施形態による制御の効果を示す特性図である。
図14及び
図15では、ステアリング操舵角θhの増加に伴ってモータ出力(左後輪RL、右後輪RR)、目標ヨーレート、実ヨーレートが変化する様子を示している。ここで、
図14はインバータ123,124,125,126の要求出力が許容値以下である通常制御を示しており、
図15はインバータ123,124,125,126の要求出力が許容値を超えた過渡的な制御を示している。
図14に示す制御では、インバータ123,124,125,126の許容電力に達していないため、モータ108,110,112,114の旋回駆動力MgmotTqによる左右駆動力配分で旋回が行われる。
【0107】
一方、
図15に示す制御では、インバータ123,124,125,126の要求出力が許容電力(モータの最大出力)に達しているため、モータ出力が所定値に達した時点でモータ出力の増加を抑え(モータ出力を頭打ちにする)て、ステアリング操舵アシストトルクδmotTqを増大させて旋回を達成する。この結果、
図15に示すように、ステアリング操舵角θhの変化率も大きくなる。
【0108】
また、
図16及び
図17は、本実施形態による制御の効果を示す特性図であって、車両1000を80km/hで走行させ、制御周期を1msecとして旋回アシスト制御を実施した場合の結果を示している。
図16及び
図17は、ステアリング操舵角θh、ヨーレートγ、ステアリング操舵アシストトルクδmotTq、左後輪モータ出力(P_Rl)、右後輪モータ出力(P_Rr)、インバータのスイッチング損失(SW_loss(Si)[J])の10秒間の変化をそれぞれ示している。ここで、
図16はIGBTインバータを用いた場合を示しており、
図17はMOSFETインバータを用いた場合を示している。
図16及び
図17に示すように、旋回開始時からステアリング操舵アシストトルクδmotTqが増加し、左右後輪の旋回アシストとともにステアリング操舵アシストを行っている。
【0109】
高速制御時のスイッチング損失と旋回ヨーモーメントを比較すると、10秒間走行した際の比較でもIGBTインバータのスイッチング損失に対してMOSFETインバータのスイッチング損失が30%程度である結果が得られ、MOSFETインバータを用いることによる電費の抑制が実現できた。
図16及び
図17では、10秒間の結果を示しているが、長時間の走行になればより多くの損失発生を抑制できることになる。
【0110】
また、
図16及び
図17では、80km/hの高速走行時に操舵を行った場合を示しており、ヨーレートを発生させるためのモータ電力が比較的小さいため、旋回駆動力がインバータの上限値以下となっており、モータ駆動力に制限がかかっていない。モータの旋回駆動力がインバータの上限値を超えている状態であれば、ステアリング操舵角θhの変化率とステアリング操舵アシストトルクδmotTqがより大きくなり、ステアリング操舵アシストにより目標旋回性能が達成されることになる。
【0111】
図17では、MOSFETインバータでは出力不足が生じた場合は、ステアリング操舵アシストトルクδmotTqによる操舵制御を組合せることで、
図16と同様のヨーレートを発生させることができ、旋回性能と電費性能を両立することが可能である。
【0112】
以上説明したように本実施形態によれば、ヨーレート変化率γ_ratioに基づいてインバータ出力値PInvOとインバータ損失値LossInvOを求め、ヨーレート変化率γ_ratio、インバータ出力値PInvO、インバータ損失値LossInvOに基づいてステアリング操舵アシストトルク(EPSモータトルク)と、左右輪駆動トルクとしての旋回駆動力MgmotTqを調整するようにした。これにより、ヨーレート変化率γ_ratioが大きく、目標ヨーレートγ_tgtとフィードバックヨーレートγ_F/Bの乖離が少ない場合は、旋回駆動力MgmotTqが小さいため、左右輪駆動トルクとしての旋回駆動力MgmotTqのみで旋回を行うことができる。また、ヨーレート変化率γ_ratioが小さく、目標ヨーレートγ_tgtとフィードバックヨーレートγ_F/Bの乖離が大きい場合は、インバータ出力値PInvO、インバータ損失値LossInvOに基づいて、ステアリング操舵アシストトルク(EPSモータトルク)によるアシストを併用することで、モータ出力を抑えた状態で所望の旋回を実現することができる。従って、MOSFETのように比較的出力は小さいが応答性に優れたパワーデバイスをインバータに適用することができ、高速応答性、電費の向上、所望の旋回性能を実現することが可能となる。
【0113】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。