【実施例1】
【0022】
図1は本発明を適用した一実施形態のスクロール圧縮機1の断面図である。実施例のスクロール圧縮機1は、例えば車両用空気調和装置の冷媒回路に使用され、車両用空気調和装置の作動流体としての冷媒を吸入し、圧縮して吐出するものであり、電動モータ2と、この電動モータ2を運転するためのインバータ3と、電動モータ2によって駆動される圧縮機構4とを備えた所謂インバータ一体型のスクロール圧縮機である。
【0023】
実施例のスクロール圧縮機1は、電動モータ2及びインバータ3をその内側に収容するメインハウジング6と、圧縮機構4をその内側に収容する圧縮機構ハウジング7と、インバータカバー8と、圧縮機構カバー9を備えている。そして、これらメインハウジング6と、圧縮機構ハウジング7とインバータカバー8と圧縮機構カバー9は何れも金属製(実施例ではアルミニウム製)であり、それらが一体的に接合されてスクロール圧縮機1のハウジング11が構成されている。
【0024】
メインハウジング6は、筒状の周壁部6Aと仕切壁部6Bとから構成されている。この仕切壁部6Bは、メインハウジング6内を、電動モータ2を収容するモータ収容部12とインバータ3を収容するインバータ収容部13とに仕切る隔壁である。このインバータ収容部13は一端面が開口しており、この開口はインバータ3が収容された後、インバータカバー8によって閉塞される。モータ収容部12も他端面が開口しており、この開口は電動モータ2が収容された後、圧縮機構ハウジング7によって閉塞される。仕切壁部6Bには電動モータ2の回転軸14の一端部を支持するための支持部16が突設されている。
【0025】
圧縮機構ハウジング7は、メインハウジング6とは反対側が開口しており、この開口は圧縮機構4が収容された後、圧縮機構カバー9によって閉塞される。圧縮機構ハウジング7は、筒状の周壁部7Aと、その一端側のフレーム部7Bとから構成され、これら周壁部7Aとフレーム部7Bで区画される空間内に圧縮機構4が収容される。フレーム部7Bはメインハウジング6内と圧縮機構ハウジング7内を仕切る隔壁を成す。また、フレーム部7Bには電動モータ2の回転軸14の他端部を挿通する貫通孔17が開設されており、この貫通孔17の圧縮機構4側には、回転軸14の他端部を支持するベアリング18が嵌合されている。また、19は貫通孔17部分にて回転軸14の外周面と圧縮機構ハウジング7内とをシールするシール材である。
【0026】
電動モータ2は、コイル21が巻装されたステータ22と、ロータ23から構成されている。そして、例えば車両のバッテリ(図示せず)からの直流電流がインバータ3により三相交流電流に変換され、電動モータ2のコイル21に給電されることで、ロータ23が回転駆動されるよう構成されている。
【0027】
また、メインハウジング6には、図示しない吸入ポートが形成されており、吸入ポートから吸入された冷媒は、メインハウジング6内を通過した後、圧縮機構ハウジング7内の圧縮機構4の外側の後述する吸入部37に吸入される。これにより、電動モータ2は吸入冷媒により冷却される。また、圧縮機構4にて圧縮された冷媒は、後述する吐出空間27から圧縮機構カバー9に形成された図示しない吐出ポートより吐出される構成とされている。
【0028】
圧縮機構4は、固定スクロール21と可動スクロール22から構成されている。固定スクロール21は、円盤状の鏡板23と、この鏡板23の表面(一方の面)に立設されたインボリュート状、又は、これに近似した曲線から成る渦巻き状のラップ24を一体に備えており、このラップ24が立設された鏡板23の表面をフレーム部7B側として圧縮機構ハウジング7に固定されている。固定スクロール21の鏡板23の中央には吐出孔26が形成されており、この吐出孔26は圧縮機構カバー9内の吐出空間27に連通している。28は吐出孔26の鏡板23の背面(他方の面)側の開口に設けられた吐出バルブである。
【0029】
可動スクロール22は、固定スクロール21に対して公転旋回運動するスクロールであり、円盤状の鏡板31と、この鏡板31の表面(一方の面)に立設されたインボリュート状、又は、これに近似した曲線から成る渦巻き状のラップ32と、鏡板31の背面(他方の面)の中央に突出形成されたボス33を一体に備えている。この可動スクロール22は、ラップ32の突出方向を固定スクロール21側としてラップ32が固定スクロール21のラップ24に対向し、相互に向かい合って噛み合うように配置され、各ラップ24、32間に圧縮室34を形成する。
【0030】
即ち、可動スクロール22のラップ32は、固定スクロール21のラップ24と対向し、ラップ32の先端が鏡板23の表面に接し、ラップ24の先端が鏡板31の表面に接するように噛み合い、且つ、可動スクロール22のボス33には、回転軸14の他端において軸心から偏心して設けられた偏心部36が嵌合されている。そして、電動モータ2のロータ23と共に回転軸14が回転されると、可動スクロール22は自転すること無く、固定スクロール21に対して公転旋回運動するように構成されている。
【0031】
可動スクロール22は固定スクロール21に対して偏心して公転旋回するため、各ラップ24、32の偏心方向と接触位置は回転しながら移動し、外側の前述した吸入部37から冷媒を吸入した圧縮室34は、内側に向かって移動しながら次第に縮小していく。これにより冷媒は圧縮されていき、最終的に中央の吐出孔26から吐出バルブ28を経て吐出空間27に吐出される。
【0032】
図1において38は円環状のスラストプレートである。このスラストプレート38は、可動スクロール22の鏡板31の背面側に形成された背圧室39と、圧縮機構ハウジング7内の圧縮機構4の外側の吸入圧領域としての吸入部37とを区画するためのものであり、ボス33の外側に位置してフレーム部7Bと可動スクロール22の間に介設されている。41は可動スクロール22の鏡板31の背面に取り付けられてスラストプレート38に当接するシール材であり、このシール材41とスラストプレート38により背圧室39と吸入部37とが区画される。
【0033】
尚、このスラストプレート38には本発明の連通部を構成する連通孔48が穿設されている。また、42はフレーム部7Bのスラストプレート38側の面に取り付けられてスラストプレート38の外周部に当接し、フレーム部7Bとスラストプレート38間をシールするシール材である。
【0034】
43は圧縮機構カバー9から圧縮機構ハウジング7に渡って形成された背圧通路であり、この背圧通路43内にはオリフィス44が取り付けられている。この背圧通路43は圧縮機構カバー9内の吐出空間27内と背圧室39とを連通しており、これにより、背圧室39にはオリフィス44で減圧調整された吐出圧が供給されるように構成されている。この背圧室39内の圧力(背圧)により、可動スクロール22を固定スクロール21に押し付ける背圧荷重が生じる。この背圧荷重により、圧縮機構4の圧縮室34からの圧縮反力に抗して可動スクロール22が固定スクロール21に押し付けられ、ラップ24、32と鏡板31、23との接触が維持され、圧縮室34で冷媒を圧縮可能となる。
【0035】
尚、
図1の実施例では回転軸14内にオイル通路46が形成され、このオイル通路46内には圧力調整弁47が設けられている。オイル通路46は背圧室39とメインハウジング6内(吸入圧領域)とを連通しているが、圧力調整弁47は背圧室39内の圧力(背圧)が最大値となった場合に開放し、それ以上背圧が上昇しないように機能する。
【0036】
次に、
図3は固定スクロール21を除く圧縮機構4部分の断面を拡大して示している。尚、
図3の場合、圧力調整弁47をフレーム部7Bに取り付けた例で示している。実施例の場合、前述した如くスラストプレート38には連通部としての連通孔48が穿設されている。この連通孔48は、背圧室39と吸入圧領域としての吸入部37とを連通するための通路であるが、可動スクロール22の公転旋回運動により開閉される。
【0037】
即ち、
図3及び
図4の如く可動スクロール22の中心X2が、当該可動スクロール22の旋回中心X1より連通孔48側に移動したときは、可動スクロール22のシール材41が連通孔48の外側に位置することになり、連通孔48は背圧室39内に位置する。即ち、この状態では連通孔48は可動スクロール22の鏡板31により閉じられ、吸入部37と背圧室39は連通されない。
【0038】
一方、
図5及び
図6の如く可動スクロール22の中心X2が旋回中心X1に対して連通孔48とは反対側に移動したときは、連通孔48は可動スクロール22のシール材41より外側に位置することになり、この状態で連通孔48は背圧室39と吸入部37とに開口し、背圧室39と吸入部37とを連通する。これにより、背圧室39内の圧力(背圧)は吸入部37に逃げるので、背圧荷重は低下することになる。
【0039】
次に、この連通孔48を形成する位置について説明する。
図7は固定スクロール21のラップ24と可動スクロール22のラップ32の隙間と可動スクロール22の旋回角度の関係、
図8は圧縮機構4内の圧縮室34の圧力と旋回角度の関係、
図9は可動スクロール22に加わる圧縮反力と旋回角度の関係をそれぞれ示している。
【0040】
両ラップ24、32の中心側の端部は、
図2に示すように接触している状態から、設計吐出終了工程の旋回角度A1にて離れ始める。しかしながら、ラップ24、32間は、設計吐出終了工程の旋回角度A1を過ぎても、それより遅れた所定の旋回角度A2までの範囲R1では、冷媒と共に封入される摺動部潤滑用のオイルによって、ラップ24、32間は実質的にシールされている(
図7)。そのため、圧縮機構4の圧縮室34の圧力は、理論的には
図8に破線L1で示すように吸入圧から吐出圧に向けて変化すると考えられるが、オイルによるシールにより、圧力は
図8に実線L2で示す如く設計吐出終了工程の旋回角度A1よりこの範囲R1だけ遅れた旋回角度A2まで吐出圧が維持されることになる。
【0041】
従って、固定スクロール21から可動スクロール22を引き離す方向に当該可動スクロール22に加わる圧縮反力は、理論的には
図9に破線L3で示すように設計吐出終了工程の旋回角度A1で最小となる変化を示すものの、実際には実線L4で示す如く旋回角度A1から所定角度遅れた旋回角度A2にて最小となる変化を示すことになる。
【0042】
そのため、例えば、連通孔48が開放される可動スクロール22の旋回角度を、設計吐出終了工程の旋回角度A1に設定した場合、背圧室39からの背圧荷重は、
図10に破線L5で示す如く旋回角度A1で最小となるように低下してしまうため、実線L4で示す実際の圧縮反力の低下よりも早く低下し、逆転してしまう。圧縮反力に対して背圧荷重が小さくなると、可動スクロール22が固定スクロール21から離れてしまい、圧縮不良を来すことになる。
【0043】
そこで、本発明では可動スクロール22が、設計吐出終了工程の旋回角度A1より前記範囲R1分の所定の旋回角度だけ遅れた前述の旋回角度A2(
図9、
図10にL4で示す実際の圧縮反力が最小となる旋回角度)となったときに
図5及び
図6に示す如く開放される位置に連通孔48を形成した。これにより、
図10に実線L6で示す如く実際に圧縮反力が最小となる旋回角度と、背圧荷重が最小となる旋回角度とが的確に一致することになる。
【0044】
このように、本発明では背圧室39と吸入部37(吸入圧領域)とを連通するための連通孔48を形成し、この連通孔48が、圧縮機構4の設計吐出終了工程の旋回角度A1より所定の角度だけ遅れた旋回角度A2において背圧室39と吸入部37とを連通するようにしたので、可動スクロール22の公転旋回運動の一回転中で大きく変動する圧縮反力が低下する適切な角度にて背圧室39からの背圧荷重を低下させることができるようになる。これにより、圧縮機構4において圧縮不良を引き起こすこと無く、両スクロール21、22間の摩擦力を低減して、消費動力の増大を解消することができるようになる。
【0045】
特に、連通孔48が、圧縮機構4の設計吐出終了工程の旋回角度A1より、各ラップ21、22間がオイルシールされている範囲R1だけ遅れた旋回角度A2において背圧室39と吸入部37とを連通するようにしているので、設計吐出終了工程の後も、オイルで各ラップ21、22間がシールされることによる圧縮反力の低下の遅れに合わせて的確に背圧荷重を低下させることができるようになる。
【0046】
また、実施例では可動スクロール22の鏡板31の背面に接触して背圧室39と吸入部37とを区画するスラストプレート38に連通孔48を形成しているので、圧縮機構ハウジング7に直接形成する場合に比して、生産性が極めて良好となる。また、実施例では背圧室39と吸入部37とに開口した連通孔48にて背圧室39と吸入部37を連通する連通部を構成しているので、加工性も良好と成る。