特許第6738212号(P6738212)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6738212アルミニウム合金鍛造品及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6738212
(24)【登録日】2020年7月21日
(45)【発行日】2020年8月12日
(54)【発明の名称】アルミニウム合金鍛造品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/02 20060101AFI20200730BHJP
   B22F 3/20 20060101ALI20200730BHJP
   B22F 3/02 20060101ALI20200730BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20200730BHJP
   C22F 1/043 20060101ALI20200730BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20200730BHJP
【FI】
   C22C21/02
   B22F3/20 C
   B22F3/02 A
   B22F1/00 N
   C22F1/043
   !C22F1/00 602
   !C22F1/00 621
   !C22F1/00 628
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 630D
   !C22F1/00 681
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 687
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 694B
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-117232(P2016-117232)
(22)【出願日】2016年6月13日
(65)【公開番号】特開2017-222893(P2017-222893A)
(43)【公開日】2017年12月21日
【審査請求日】2019年3月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109911
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義仁
(74)【代理人】
【識別番号】100071168
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 久義
(74)【代理人】
【識別番号】100099885
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 健市
(72)【発明者】
【氏名】丸山 匠
【審査官】 鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−039341(JP,A)
【文献】 特開昭63−230842(JP,A)
【文献】 特開昭61−295301(JP,A)
【文献】 特開昭59−013041(JP,A)
【文献】 特開昭62−010237(JP,A)
【文献】 特開昭62−247044(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第105522156(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00 − 21/18
C22F 1/04 − 1/057
B22F 1/00 − 3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si:10.0質量%〜19.0質量%、Mn:3.0質量%〜10.0質量%、Cu:0.5質量%〜10.0質量%、Mg:0.2質量%〜3.0質量%を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金アトマイズ粉末鍛造品であって、
前記鍛造品の断面組織構造は、CuAl2のθ相を備え、該θ相の平均円相当直径が0.66μm〜1.66μmの範囲であることを特徴とするアルミニウム合金鍛造品。
【請求項2】
前記鍛造品は、Al−Mn−Si系金属間化合物を含有し、前記鍛造品の断面組織構造において前記Al−Mn−Si系金属間化合物の平均円相当直径が0.04μm〜0.24μmの範囲である請求項1に記載のアルミニウム合金鍛造品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温での強度に優れたアルミニウム合金鍛造品及びその製造方法に関するものであり、特に内燃機関のエンジンピストン等のような、熱負荷が大きく、耐摩耗性、耐焼付性が要求される摺動部材として好適なアルミニウム合金鍛造品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関のエンジンピストンは、高温において摺動する部材であることから、耐摩耗性に優れると共に高温強度が十分に大きいことが求められ、さらに耐焼付性にも優れることが求められている。
【0003】
また、自動車部品としては、近年の自動車業界での燃費向上の要請を受けて、軽量化、高機能化を図ることが必要になってきている。そこで、自動車用エンジンピストン等の摺動部材として、従来の鉄鋼材、鋳鉄材に代わり、軽量であるアルミニウム合金材が注目されている。
【0004】
各種アルミニウム合金のうち共晶又は過共晶Al−Si合金は、Siを約10質量%以上含有している。この共晶又は過共晶Al−Si合金は、熱膨張係数が小さく、優れた耐摩耗性を有しているので、自動車用エンジンピストン等の摺動部材の材料として用いられている。
【0005】
しかし、Siを多量に含有するAl−Si合金は、鋳造法によって製造されているため、鋳造欠陥を完全に無くすことは困難であり、また初晶Siが粗大に晶出したり、偏析することがあるため、強度、靱性が低下するという問題があった。また、この種のAl−Si合金は、合金元素の種類や添加量に制限があるため、このAl−Si合金でさらに性能を向上させるには限界があった。
【0006】
このような状況の中、高温雰囲気でも使用できるアルミニウム合金粉末材が注目されている。前記アルミニウム合金粉末としては、重量比でSi:15.0〜25.0%と、Fe:5.9%〜15.0%またはMn:7.1〜15.0%のうち1種または2種の重金属を含み、残部が不可避不純物を含むAlからなり、Si結晶粒の大きさが15μm以下であるアルミニウム合金粉末が公知である(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭63−266005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、近年、内燃機関の燃焼効率及び出力を向上させるため、内燃機関の燃焼温度が上昇している。これに伴い、例えば、自動車用エンジンピストン等の摺動部材においても従来よりさらに高い温度域において十分に大きい強度を有していることが求められているが、上記特許文献1に記載の技術ではこのような要求に応え得るものではなかった。
【0009】
本発明は、かかる技術的背景に鑑みてなされたものであって、鍛造変形し易い、割れない等の優れた鍛造性を有すると共に、高温強度が大きいアルミニウム合金鍛造品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
【0011】
[1]Si:10.0質量%〜19.0質量%、Mn:3.0質量%〜10.0質量%、Cu:0.5質量%〜10.0質量%、Mg:0.2質量%〜3.0質量%を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金アトマイズ粉末鍛造品であって、
前記鍛造品の断面組織構造は、CuAl2のθ相を備え、該θ相の平均円相当直径が0.66μm〜1.66μmの範囲であることを特徴とするアルミニウム合金鍛造品。
【0012】
[2]前記鍛造品は、Al−Mn−Si系金属間化合物を含有し、前記鍛造品の断面組織構造において前記Al−Mn−Si系金属間化合物の平均円相当直径が0.04μm〜0.24μmの範囲である前項1に記載のアルミニウム合金鍛造品。
【0013】
[3]前記アルミニウム合金鍛造品は、さらに、Ti、Zr、V、W、Cr、Co、Mo、Ta、Hf及びNbからなる群より選ばれる1種または2種以上の元素をそれぞれ0.01質量%〜5.0質量%含む前項1または2に記載のアルミニウム合金鍛造品。
【0014】
[4]Si:10.0質量%〜19.0質量%、Mn:3.0質量%〜10.0質量%、Cu:0.5質量%〜10.0質量%、Mg:0.2質量%〜3.0質量%を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金の溶湯をアトマイズ法によって急冷凝固させて粉末化してアルミニウム合金粉末を得る粉末化工程と、
前記アルミニウム合金粉末を圧縮成形して圧粉体を得る成形工程と、
前記圧粉体を熱間押出しして押出材を得る押出工程と、
前記押出材を熱間鍛造することによって、断面組織構造がCuAl2のθ相を備え、該θ相の平均円相当直径が0.66μm〜1.66μmである鍛造品を得る鍛造工程と、を含むことを特徴とするアルミニウム合金鍛造品の製造方法。
【0015】
[5]前記鍛造品は、Al−Mn−Si系金属間化合物を含有し、前記鍛造品の断面組織構造において前記Al−Mn−Si系金属間化合物の平均円相当直径が0.04μm〜0.24μmの範囲である前項4に記載のアルミニウム合金鍛造品の製造方法。
【0016】
[6]前記アルミニウム合金の溶湯は、さらに、Ti、Zr、V、W、Cr、Co、Mo、Ta、Hf及びNbからなる群より選ばれる1種または2種以上の元素をそれぞれ0.01質量%〜5.0質量%含むものである請求項4または5に記載のアルミニウム合金鍛造品の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
[1]の発明によれば、鍛造変形し易い、割れない等の優れた鍛造性を有すると共に、高温強度が大きいアルミニウム合金鍛造品が提供される。従って、この鍛造品は、例えば、自動車用エンジンピストン等の摺動部材として好適である。
【0018】
[2]の発明によれば、高温強度がより大きいアルミニウム合金鍛造品が提供される。
【0019】
[3]の発明によれば、高温強度がさらに増大したアルミニウム合金鍛造品が提供される。
【0020】
[4]の発明によれば、鍛造変形し易い、割れない等の優れた鍛造性を有すると共に、高温強度が大きいアルミニウム合金鍛造品を製造することができる。従って、得られた鍛造品は、例えば、自動車用エンジンピストン等の摺動部材として好適である。
【0021】
[5]の発明によれば、高温強度がより大きいアルミニウム合金鍛造品を製造することができる。
【0022】
[6]の発明によれば、高温強度がさらに増大したアルミニウム合金鍛造品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】鍛造前の押出材の一例を示す斜視図である。
図2】本発明に係る鍛造品の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明に係るアルミニウム合金鍛造品は、Si:10.0質量%〜19.0質量%、Mn:3.0質量%〜10.0質量%、Cu:0.5質量%〜10.0質量%、Mg:0.2質量%〜3.0質量%を含有し、残部がAl(アルミニウム)及び不可避不純物からなるアルミニウム合金アトマイズ粉末鍛造品であって、前記鍛造品の断面組織構造は、CuAl2のθ相を備え、該θ相の平均円相当直径が0.66μm〜1.66μmの範囲である構成である。
【0025】
上記構成の鍛造品は、アルミニウム合金アトマイズ粉末鍛造品であり、アトマイズ粉末を用いていることで上記鍛造品は微細、均一な組織が得られ、前記鋳造法で得られた合金と比較すると、耐摩耗性および低熱膨張率等の特性を向上させることができる。更に、上記構成の鍛造品は、その断面組織構造が、CuAl2のθ相を備え、該θ相の平均円相当直径が0.66μm〜1.66μmの範囲であるので、鍛造変形し易い、割れない等の優れた鍛造性を有すると共に、大きい高温強度が得られる。
【0026】
前記θ相の平均円相当直径が0.66μmより小さいと、大きな高温強度が得られない。また、前記θ相の平均円相当直径が1.66μmより大きいと、分散硬化能が低下し、例えば摺動部材の稼働温度域における強度(高温強度)が十分に得られない。中でも、前記θ相の平均円相当直径は0.86μm〜1.46μmであるのが好ましい。
【0027】
前記アルミニウム合金鍛造品は、Al−Mn−Si系金属間化合物を有し、前記鍛造品の断面組織構造において前記Al−Mn−Si系金属間化合物の平均円相当直径が0.04μm〜0.24μmの範囲である構成が好ましい。平均円相当直径が0.04μmより小さいと、大きな高温強度が得られない。また、平均円相当直径が0.24μmより大きいと、分散硬化能が低下し、例えば摺動部材の稼働温度域における強度(高温強度)が十分に得られない。
【0028】
なお、前記θ相の円相当直径とは、SEM写真(画像)におけるθ相(CuAl2)の面積と同じ面積を有する円の直径として換算した値であり、前記Al−Mn−Si系金属間化合物の円相当直径とは、SEM写真(画像)におけるAl−Mn−Si系金属間化合物の面積と同じ面積を有する円の直径として換算した値である。
【0029】
次に、本発明に係る、アルミニウム合金鍛造品の製造方法について説明する。Si:10.0質量%〜19.0質量%、Mn:3.0質量%〜10.0質量%、Cu:0.5質量%〜10.0質量%、Mg:0.2質量%〜3.0質量%を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金の溶湯をアトマイズ法によって急冷凝固させて粉末化してアルミニウム合金粉末を得る(粉末化工程)。
【0030】
上記特定組成のアルミニウム合金溶湯を通常の溶解法によって調製する。得られたアルミニウム合金溶湯をアトマイズ法によって粉末化する。アトマイズ法は、噴霧ノズルからの窒素ガス等のガス流によりアルミニウム合金溶湯の微小液滴をミスト化して噴霧し、微小液滴を急冷凝固させて微細なアルミニウム合金粉末を得る方法である。冷却速度は、103〜105℃/秒であるのが好ましい。30μm〜70μmのアルミニウム合金粉末が得られるようにするのがよい。得られたアルミニウム合金粉末は、篩を用いて分級するのが好ましく、中でも150μm以下のアルミニウム合金粉末を得るのがより好ましい。
【0031】
次に、前記粉末化工程で得られたアルミニウム合金粉末を圧縮成形して圧粉体を得る(圧縮成形工程)。一例を挙げると、250℃〜300℃に加熱したアルミニウム合金粉末を、230℃〜270℃に加熱された金型内に充填し、所定形状に圧縮成形して圧粉体を得る。前記圧縮成形の圧力は、特に限定されないが、通常は、0.5トン/cm2〜3.0トン/cm2に設定するのが好ましい。また、相対密度が60%〜90%の圧粉体にするのが好ましい。前記圧粉体の形状は、特に限定されないが、次の押出工程を考慮して、円柱形状または円盤状とするのが好ましい。
【0032】
次いで、前記圧縮成形工程で得られた圧粉体を熱間押出しして押出材を得る(押出工程)。前記圧粉体には、必要に応じて面削等の機械加工を施してから、脱ガス処理を施し、加熱して押出工程に供する。押出前の圧粉体の加熱温度は、300℃〜450℃にするのが好ましい。押出に際しては、例えば、圧粉体を押出コンテナ内に挿入して押出ラムにより加圧力を加え、押出ダイスから例えば丸棒形状に押出す。この時、前記押出コンテナを予め300℃〜400℃に加熱しておくのが望ましい。このように熱間で押し出すことによって圧粉体の塑性変形が進行し、アルミニウム合金粉末(粒子)同士が結合して一体化した押出体が得られる。前記押出の際に、押出圧力は10MPa〜25MPaに設定するのが好ましい。
【0033】
次に、前記押出工程で得られた押出材を熱間鍛造することによって、断面組織構造がCuAl2のθ相を備え、該θ相の平均円相当直径が0.66μm〜1.66μmである鍛造品を得ることができる(鍛造工程)。一例を挙げると、丸棒状の押出材を必要に応じて所定長さに切断した後、熱間鍛造する。この熱間鍛造は、鍛造上がり材(鍛造品)が製品形状(例えばエンジンピストン形状)に近い形状になるように、密閉型鍛造または半密閉型鍛造とすることが好ましいが、製品(鍛造品)形状によっては自由鍛造でもよい。熱間鍛造の温度は、300℃〜450℃に設定するのが好ましい。
【0034】
鍛造上がり材は、これに切削加工や表面研磨等を施して、自動車用エンジンピストン等の摺動部材等の製品(鍛造品)としてもよいが、次のような熱処理を行うようにしてもよい。
【0035】
前記鍛造上がり材に溶体化処理を行う。この溶体化処理は、Cu、Mg等を過飽和に固溶させる処理であり、溶体化処理の加熱温度は480℃〜500℃が好ましい。
【0036】
前記溶体化処理の後に、水焼き入れ等によって急冷して、常温での固溶限を超えてCu、Mg等が過飽和に固溶された材料(過飽和固溶体)を得る焼入れ処理を行う。焼入れ温度は0℃〜50℃が好ましい。
【0037】
前記焼入れ処理の後に、時効処理を行う。この時効処理により、Cu、Mg等を含む金属間化合物を微細に析出させて、鍛造品の強度、耐摩耗性を向上させることができる。前記時効処理は、180℃〜280℃の温度で1時間〜4時間行うのが好ましい。
【0038】
上記時効処理後の鍛造品に、切削加工等の機械加工や表面研磨等を施すことによって、自動車用エンジンピストン等の摺動部材等の製品(鍛造品)を得ることができる。
【0039】
本発明の鍛造品及び鍛造品の製造方法におけるアルミニウム合金の組成について以下説明する。前記アルミニウム合金は、Si:10.0質量%〜19.0質量%、Mn:3.0質量%〜10.0質量%、Cu:0.5質量%〜10.0質量%、Mg:0.2質量%〜3.0質量%を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金である。
【0040】
前記アルミニウム合金におけるSi含有率は、10.0質量%〜19.0質量%の範囲とする。Si含有率が10.0質量%未満になると、Si晶出物の量が少なくなって耐摩耗性および強度の低下をもたらし、Si含有率が19.0質量%を超えると、粗大な初晶Siが晶出して強度の低下をもたらすとともに、材料の脆化をもたらして、鍛造性が低下する。中でも、前記アルミニウム合金におけるSi含有率は12質量%〜16質量%であるのが好ましく、高温強度と優れた鍛造性を確実に両立させることができる。
【0041】
前記アルミニウム合金におけるMn含有率は、3.0質量%〜10.0質量%の範囲とする。Mn含有率が3.0質量%未満になると、Al−Mn−Si系金属間化合物による分散強化が十分に得られない。また、Mn含有率が10.0質量%を超えると、硬さや耐摩耗性がかえって低くなり、成形体において材質が脆くなる傾向がある。中でも、前記アルミニウム合金におけるMn含有率は、6.0質量%〜8.0質量%であるのが好ましい。
【0042】
前記アルミニウム合金におけるCu含有率は、0.5質量%〜10.0質量%の範囲とする。Cuは、常温強度及び高温強度を向上させるのに不可欠の元素である。Cu含有率が0.5質量%未満になると、固溶量が低下し強度向上の効果が少なくなるし、晶出するCuAl2相による分散強化による強度向上の効果も少ない。Cu含有率が10.0質量%を超えると、押出加工性が低下するし、θ相(CuAl2)が粒界に粗大に析出または晶出して破断伸びが低下する可能性がある。
【0043】
前記アルミニウム合金におけるMg含有率は、0.2質量%〜3.0質量%の範囲とする。Mgは、Cuと同様に、常温強度及び高温強度を向上させるのに不可欠の元素である。Mg含有率が0.2質量%未満になると、強度向上の効果が少ない。また、Mg含有率が3.0質量%を超えると、押出加工性が低下する。
【0044】
本発明の鍛造品及び鍛造品の製造方法において、前記アルミニウム合金は、さらに、Ti、Zr、V、W、Cr、Co、Mo、Ta、Hf及びNbからなる群より選ばれる1種または2種以上の元素をそれぞれ0.01質量%〜5.0質量%含む構成としてもよい。この場合には、高温強度がさらに増大したアルミニウム合金鍛造品が得られる。
【実施例】
【0045】
次に、本発明の具体的実施例について説明するが、本発明はこれら実施例のものに特に限定されるものではない。
【0046】
<実施例1>
Si:15.8質量%、Mn:6.83質量%、Cu:3.14質量%、Mg:1.11質量%を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金を加熱して1000℃のアルミニウム合金溶湯を得た後、該アルミニウム合金溶湯をガスにてアトマイズして急冷凝固させて粉末化し、100メッシュの篩により分級して、100メッシュの篩を通過したアルミニウム合金粉末を得た。
【0047】
次に、得られたアルミニウム合金粉末を280℃の温度に予熱し、この予熱したアルミニウム合金粉末を、同じ280℃に加熱保持した金型内に充填し、1.5トン/cm2の圧力で圧縮成形して、直径210mm、長さ250mmの円柱形状の圧粉体(成形体)を得た。次に、得られた圧粉体を旋盤にて直径203mmまで面削して、圧粉体のビレットを得た。
【0048】
次に、得られたビレットを350℃に加熱し、この加熱ビレットを、350℃に加熱保持された内径210mmの押出コンテナ中に挿入し、内径75mmのダイスで間接押出法により押出比7.8で押出して押出材10を得た。得られた押出材を長さ30mmに切断した後、450℃に加熱して熱間自由鍛造を施し、直径107.5mm、長さ15mmのアルミニウム合金鍛造品20を得た。なお、図1に鍛造前の押出材10を示し、図2に鍛造後の鍛造品20を示す。
【0049】
<比較例1>
アルミニウム合金溶湯を形成するためのアルミニウム合金として、Si:15.6質量%、Mn:6.72質量%、Cu:3.09質量%、Mg:1.06質量%を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金を用い、アルミニウム合金溶湯の温度を900℃とし、篩として170メッシュの篩を用いた以外は、実施例1と同様にして、アルミニウム合金鍛造品を得た。
【0050】
<比較例2>
アルミニウム合金溶湯を形成するためのアルミニウム合金として、Si:15.6質量%、Mn:6.78質量%、Cu:3.12質量%、Mg:1.11質量%を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金を用い、アルミニウム合金溶湯の温度を1100℃とした以外は、実施例1と同様にして、アルミニウム合金鍛造品を得た。
【0051】
<比較例3>
アルミニウム合金溶湯を形成するためのアルミニウム合金として、Si:15.6質量%、Mn:6.78質量%、Cu:3.12質量%、Mg:1.11質量%を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金を用い、アルミニウム合金溶湯の温度を1100℃とし、篩として50メッシュの篩を用いた以外は、実施例1と同様にして、アルミニウム合金鍛造品を得た。
【0052】
<比較例4>
アルミニウム合金溶湯を形成するためのアルミニウム合金として、Si:15.6質量%、Mn:6.72質量%、Cu:3.09質量%、Mg:1.06質量%を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金を用い、アルミニウム合金溶湯の温度を900℃とした以外は、実施例1と同様にして、アルミニウム合金鍛造品を得た。
【0053】
【表1】
【0054】
上記のようにして得られた各アルミニウム合金鍛造品について下記評価法に基づいて評価を行った。その結果を表1に示す。
【0055】
<高温引張強度評価法>
得られた鍛造品を490℃に加熱して3時間保持した後、20℃の水に焼き入れした。その後、時効処理として220℃で1時間加熱してT7処理品を得た。前記T7処理品を、標点間距離20mm、平行部直径4mmの引張試験片に加工して、該引張試験片の高温引張試験を行うことによって高温引張強度(300℃での引張強度)を測定した。前記高温引張試験は、高温引張試験片を300℃に100時間保持した後に300℃で試験を行った。下記判定基準に基づいて評価した。実施例1では、300℃での引張強度が160MPaであり、◎(大きな高温引張強度が得られる)の評価であった。
(判定基準)
「◎」…300℃での引張強度が160MPa以上
「○」…300℃での引張強度が155MPa以上160MPa未満
「△」…300℃での引張強度が150MPa以上155MPa未満
「×」…300℃での引張強度が150MPa未満である。
【0056】
<鍛造品の組織形態評価法>
得られた鍛造品を490℃に加熱して3時間保持した後、20℃の水に焼き入れした。その後、時効処理として220℃で1時間加熱してT7処理品を得た。前記T7処理品から10mm×10mm×10mmの大きさの組織観察用試料を切り出した。得られた組織観察用試料を樹脂埋めした後、物理研磨により鏡面仕上げを施し、FE−SEM(電界放出形走査電子顕微鏡;JEOL JSM−7000F)を用いて据え込み方向に垂直な断面について組織観察を行った(反射電子像を観察した)。得られた反射電子像(×10k)の画像解析を行った。画像解析の対象は、θ相(CuAl2相)およびAl−Mn−Si系金属間化合物であり、いずれの対象物についても、電子顕微鏡画像における任意の3視野(3箇所)の円相当直径をそれぞれ求めてその平均値を算出して「平均円相当直径」を求めた。即ち、θ相(CuAl2相)の平均円相当直径およびAl−Mn−Si系金属間化合物の平均円相当直径を求めた(表1参照)。
【0057】
表1から明らかなように、本発明に係る実施例1のアルミニウム合金鍛造品は、高温引張強度(300℃での引張強度)が大きいものであった。
【0058】
これに対し、本発明の規定範囲を逸脱する比較例1〜4のアルミニウム合金鍛造品では、高温引張強度(300℃での引張強度)は不十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明に係るアルミニウム合金鍛造品と、本発明の製造方法で製造されたアルミニウム合金鍛造品は、優れた鍛造性を備え、高温での強度に優れているので、自動車用エンジンピストン等の摺動部材として好適であるが、特にこのような用途に限定されない。
【符号の説明】
【0060】
10…押出材
20…アルミニウム合金鍛造品
図1
図2