(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記推定工程では、前記母集団の前記歩行サンプルデータ及び前記体格データを少なくとも用いた重回帰分析により取得された重回帰式であって、一歩行周期中の複数タイミングにおける複数の加速度値及び一以上の体格値を説明変数とし、体格値で正規化されたモーメント値を目的変数とする重回帰式を用いて、前記内反モーメント最大値を推定する、
請求項7に記載の歩行分析方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下に挙げる各実施形態はそれぞれ例示であり、本発明は以下の各実施形態の構成に限定されない。
【0015】
[第一実施形態]
〔歩行分析方法〕
まずは、第一実施形態における歩行分析方法(以下、第一方法と略称する場合もある)について説明する。
図1は、第一実施形態における歩行分析方法を示すフローチャートである。
図1に示されるように、第一方法は、歩行中の被験者の腰部における加速度データを取得する工程(S11)と、母集団から予め測定された歩行サンプルデータの統計情報及び工程(S11)で取得された加速度データを用いて、歩行中に当該被験者の膝関節に生ずるモーメントを推定する工程(S12)と、を含む。
【0016】
ここで、「腰部」とは、腰及びその周辺を意味する。腰は、脊柱の下部から骨盤周辺までの背中側の部位を意味する。ここでの「腰部」は、このような所謂「腰」に加えて、その腰から腹部までの所謂「腰周り」を含み、更には、「腰回り」の周辺も含む。「腰回り」の周辺は、腰と一体的に動く部位を含む範囲であることが好ましい。
工程(S11)で取得される加速度データは、加速度の時系列データであり、加速度は一以上の方向成分で示される。言い換えれば、当該加速度データは、任意の時間内で計測された一以上の方向の加速度値の集合である。なお、当該加速度データは、或る一時点における或る一方向の加速度値であってもよい。
【0017】
工程(S11)における加速度データの取得方法は限定されない。
例えば、被験者の腰部に装着された加速度センサにより計測された加速度値群が加速度データとして取得される。この場合、スマートフォンやパーソナルコンピュータ(以降、PCと表記する)などのようなコンピュータが、加速度センサと通信することにより、当該加速度データを取得することができる。工程(S11)の実行主体は、当該加速度センサを内蔵する装置であってもよい。
また、モーションキャプチャ技術を用いて当該加速度データが算出されてもよい。具体的には、コンピュータ又はセンサが、モーションキャプチャ技術により被験者の腰部の位置の軌跡データを測定し、その測定された位置の軌跡データを微分演算することにより、加速度データを算出することができる。腰部の位置情報は、被験者の腰部に取り付けられたマーカを検出することで得られてもよいし、Kinect(登録商標)センサなどのようにマーカを用いず被験者画像から検出することもできる。
【0018】
第一方法は、工程(S12)において、工程(S11)で取得された加速度データを用いて、被験者の歩行中の膝関節モーメントを推定する。
図2は、膝関節モーメントを概念的に示す図である。
図2に示されるように、膝関節モーメントは、膝において前額面に直交する軸(人体の前後方向に延びる軸)Axの周りに生じる回転力であり、反時計回りの内反モーメント及び時計回りの外反モーメントのいずれか一方又は両方である。O脚の膝関節では内反モーメントが優位となり、X脚の膝関節では外反モーメントが優位となる傾向があること、内反又は外反モーメントにより膝関節の内側又は外側がすり減ることで、変形性膝関節症が発症することなど知られている。
【0019】
工程(S12)で推定されるモーメントは、体重などの体格データで正規化されたものであってもよいし、正規化されないもの(Nm(ニュートンメートル))であってもよい。
また、工程(S12)で推定されるモーメントは、右膝関節及び左膝関節のいずれか一方でもよいし、その両方でもよい。
膝関節モーメントは、一歩行周期中においても逐次変化する。
ここで、「一歩行周期」とは、いずれか一方の足が着床してから、再度、着床するまでの歩行期間を意味する。但し、一歩行周期の開始時点は、足が着床した時でなくてもよく、任意である。
図3は、一般的な一歩行周期を概念的に示す図である。一歩行周期は、片脚に着目した場合、立脚期と遊脚期とから形成される。立脚期はその片脚が着床している期間であり、遊脚期はその片脚が離床している期間である。立脚期は、更に、踵接地期(着床時)、立脚中期及び踏みきり期から形成される。
例えば、右膝関節のモーメントは、右脚における立脚期と遊脚期とでは異なり、立脚期の中でも踵接地期と立脚中期と踏みきり期とでは異なる。このため、工程(S12)で推定される膝関節モーメントは、歩行中の予め決められた又は任意の時点におけるモーメントであってもよいし、予め決められた期間の最大又は最小モーメントであってもよいし、当該期間の平均モーメントであってもよい。目的に応じた膝関節モーメントが推定されればよい。
【0020】
工程(S12)では、工程(S11)で取得された加速度データに加えて、母集団から予め測定された歩行サンプルデータの統計情報を用いて、当該膝関節モーメントが推定される。
ここで、「歩行サンプルデータ」は、母集団を形成する歩行中の各人から測定可能なデータであって、歩行中の当該各人の膝関節モーメントを導出可能なデータである。「歩行サンプルデータ」には、歩行中の当該各人の腰部の加速度又はその加速度を導出可能なデータが含まれていることが好ましく、体格データ等、母集団に関するそれら以外のデータが含まれていてもよい。
膝関節モーメントの求め方には、公知の任意な手法が利用されればよい。例えば、膝関節モーメント値は、床反力のみから近似算出できること、関節位置、関節加速度(角速度)、身体パラメータなどを更に用いても算出できることが知られている(非特許文献1参照)。よって、例えば、歩行サンプルデータは、母集団の歩行中の各人の腰部及び膝部の位置データ又は加速度データ、並びに床反力データである。
【0021】
工程(S12)で用いられる「歩行サンプルデータの統計情報」は、腰部の加速度と膝関節モーメントとの因果関係に基づいて歩行サンプルデータを統計処理することにより得られる情報である。腰部の加速度と膝関節モーメントとの因果関係は、本発明者らにより新たに見出されたものであり、例えば、このような因果関係に基づく回帰分析により得られる回帰式が当該統計情報の一例として挙げられる。この例では、当該統計情報は、歩行中の腰部の加速度値を説明変数とし、歩行中の膝関節モーメント値を目的変数とする単回帰式又は重回帰式に該当する。「歩行サンプルデータの統計情報」がそのような回帰式である場合、第一方法は、工程(S12)において、その回帰式に工程(S11)で取得された加速度データを代入することで、被験者の膝関節モーメントを推定する。
【0022】
また、歩行中の加速度データの中でも、一歩行周期中の局所的な複数タイミングにおける加速度データが、歩行中の膝関節モーメントとより強い因果関係を示すことが本発明者らに見出された。よって、工程(S12)では、工程(S11)で取得された加速度データから得られる、一歩行周期中の予め定められた複数タイミングの各々における加速度データを用いて、当該膝関節モーメントを推定することが好ましい。
【0023】
一歩行周期中の膝関節モーメントは、その膝関節のある脚の立脚期のほうが、その脚の遊脚期よりも大きくなる。また、腰部においても右腰部と左腰部とでは歩行中における動きが異なり、右腰部は右脚と連動性が高く、左腰部は左脚と連動性が高い。即ち、右腰部の加速度は、左膝関節よりも右膝関節のモーメントと強く連関し、左腰部の加速度は、右膝関節よりも左膝関節のモーメントと強く連関する。
そこで、工程(S12)では、工程(S11)で右腰部の加速度データが取得される場合には、右の立脚期内から予め定められた複数タイミングの各々における加速度データを用いて、歩行中に当該被験者の右膝関節に生じるモーメントを推定し、左腰部の加速度データが取得される場合には、左の立脚期内から予め定められた複数タイミングの各々における加速度データを用いて、歩行中に当該被験者の左膝関節に生じるモーメントを推定することが好ましい。これにより、一歩行周期中の膝関節のモーメントの大きさを高精度に推定することができる。
【0024】
更に、本発明者らにより、上述の複数タイミングが加速度の二以上の方向成分毎に個別に定められる場合に、加速度データと膝関節モーメントとがより強い因果関係を示すことが見出された。これにより、工程(S12)では、二以上の方向成分の各々について個別に予め定められている各タイミングにおける、当該方向の加速度値を用いて、膝関節モーメントを推定することがより好ましい。これにより、膝関節モーメントの推定精度を一層向上させることができる。
【0025】
上述の「一歩行周期中の局所的な複数タイミング」の各々は、或る一時点であってもよいし、任意の時間幅を持つ期間であってもよい。当該「複数タイミング」の各々は、相互に異なる時間幅を有していてもよい。
当該複数タイミングの各々が、個別に予め定められた時間幅を有する場合、工程(S12)では、当該複数タイミングの各々の時間幅内における同一方向の加速度値の平均値を用いて、膝関節モーメントを推定すればよい。
【0026】
また、工程(S11)で取得された加速度データの中の一歩行周期は、その取得された加速度データに含まれる鉛直の方向成分に基づいて特定することができる。例えば、当該加速度データが示す鉛直方向の加速度の極大値を検出し、時系列に並ぶ極大値間が一歩行周期として特定される。鉛直方向の加速度の極大値は、対象の脚の着床時、即ち踵接地時に生じるため、或る脚の着床時からその脚の次の着床時までの間を、時系列に並ぶ極大値間で特定することができる。
よって、第一方法は、工程(S11)で取得された加速度データが示す鉛直の方向成分に基づいて、その加速度データの中の一歩行周期を特定する工程を更に含んでもよい。この場合、工程(S12)では、その工程で特定された一歩行周期中の加速度データから、当該複数タイミングの各々における加速度データを特定して用いることができる。
なお、一歩行周期の特定は他の方法で実現することもできる。例えば、モーションキャプチャ技術を用いて、右足(又は右脚)及び左足(又は左脚)の所定箇所の位置の軌跡を検出し、右足と左足との位置関係から一歩行周期を特定することもできる。また、右足と右膝との位置関係から一歩行周期を特定することもできる。更に、被験者に、一歩行周期の開始時点と終了時点とにおいて、ボタン操作、発声などの所定動作を実施させ、その所定動作を検出することで、一歩行周期を特定することもできる。
【0027】
このように第一実施形態では、腰部の加速度と膝関節モーメントとの因果関係に基づいて歩行サンプルデータを統計処理することにより得られる統計情報と、歩行中の被験者の腰部における加速度データとを用いて、その被験者の歩行中の膝関節モーメントが推定される。歩行中の腰部の加速度データは、加速度センサやKinect(登録商標)センサのようなセンサにより取得可能であるため、第一実施形態によれば、床反力計などを用いる手法に比べて、より簡易に歩行中の膝関節モーメントを推定することができる。
また、膝自体の加速度データに比べて、腰部の加速度データは、ノイズが少ないため、第一実施形態によれば推定精度の低下を防ぐことができるということもできる。膝は、歩行中に腰部よりも様々な方向に激しく動くため、膝の加速度には、膝関節モーメントに相関のない様々な成分が含まれ得るからである。
更に、加速度センサの装着のし易さにより、腰部の加速度データを得るほうが、膝の加速度データを得るよりも、被験者への負担を軽減することになり、第一方法において高いユーザビリティを実現することができる。
【0028】
〔歩行分析装置〕
次に、第一実施形態における歩行分析装置(以降、第一装置と表記する場合がある)について説明する。第一装置は、上述の第一方法を実行することができる。
【0029】
図4は、第一実施形態における歩行分析装置10のハードウェア構成例を概念的に示す図である。
第一装置10は、いわゆるコンピュータであり、例えば、バスで相互に接続される、CPU(Central Processing Unit)11、メモリ12、入出力インタフェース(I/F)13、通信ユニット14等を有する。第一装置10を形成する各ハードウェア要素の数はそれぞれ制限されず、これらハードウェア要素は情報処理回路と総称することもできる。また、第一装置10は、
図4に図示されないハードウェア要素を含んでもよく、第一装置10のハードウェア構成は制限されない。
【0030】
CPU11は、一般的なCPU以外に、特定用途向け集積回路(ASIC)、DSP(Digital Signal Processor)、GPU(Graphics Processing Unit)等で構成してもよい。
メモリ12は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、補助記憶装置(ハードディスク等)である。
入出力I/F13は、出力装置15、入力装置16等のユーザインタフェース装置と接続可能である。出力装置15は、LCD(Liquid Crystal Display)やCRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイのような、CPU11等により処理された描画データに対応する画面を表示する装置、印刷装置などの少なくとも一つである。入力装置16は、キーボード、マウス等のようなユーザ操作の入力を受け付ける装置である。出力装置15及び入力装置16は一体化され、タッチパネルとして実現されてもよい。
通信ユニット14は、他のコンピュータとの通信網を介した通信や、他の機器との信号のやりとり等を行う。通信ユニット14には、可搬型記録媒体等も接続され得る。また、通信ユニット14には、加速度センサ17又はカメラ(図示せず)が接続されてもよい。
また、第一装置10は、加速度センサ17を内蔵する機器であってもよい。
【0031】
図5は、第一実施形態における歩行分析装置10の処理構成例を概念的に示す図である。
第一装置10は、取得部21、情報格納部23、算出部25等を有する。これら処理モジュールは、ソフトウェア要素であり、例えば、メモリ12に格納されるプログラムがCPU11により実行されることにより実現される。このプログラムは、例えば、CD(Compact Disc)、メモリカード等のような可搬型記録媒体やネットワーク上の他のコンピュータから入出力I/F13又は通信ユニット14を介してインストールされ、メモリ12に格納されてもよい。
【0032】
取得部21は、歩行中の被検者の腰部における加速度データを取得する。即ち、取得部21は、上述の工程(S11)を実行する。「腰部」及び「加速度データ」については上述したとおりである。
被験者の腰部に加速度センサ17が装着される場合、取得部21は、加速度センサ17により計測された加速度データを取得する。このとき、取得部21は、通信ユニット14に無線又は有線で接続された加速度センサ17と通信を行うことにより、加速度センサ17から加速度データを取得することができる。また、取得部21は、クラウドサービス又は可搬型記録媒体を介して、当該加速度データを取得してもよい。
第一装置10が加速度センサ17を内蔵する場合、取得部21は、加速度センサ17により計測された加速度データを内部バスを通じて取得することができる。
また、取得部21は、モーションキャプチャ技術を用いて当該加速度データを算出することもできる。例えば、取得部21は、通信ユニット14を経由して歩行中の被験者の映像データを受信し、その映像データから被験者の腰部を検出する。取得部21は、その検出情報に基づいて被験者の腰部における位置の軌跡データを取得し、その位置の軌跡データを微分演算することにより当該加速度データを算出することもできる。
【0033】
情報格納部23は、母集団から予め測定された歩行サンプルデータの統計情報を格納する。「歩行サンプルデータ」及び「歩行サンプルデータの統計情報」については、上述のとおりである。「歩行サンプルデータの統計情報」は、第一装置10により生成されてもよいし、他のコンピュータにより生成されてもよい。
【0034】
算出部25は、情報格納部23により格納されている歩行サンプルデータの統計情報と取得部21により取得された加速度データを用いて、歩行中に被験者の膝関節に生じるモーメント値を算出する。即ち、算出部25は、上述の工程(S12)を実行する。
【0035】
算出部25による当該モーメント値の算出方法は、工程(S12)について述べた膝関節モーメントの推定方法と同様である。
例えば、算出部25は、取得部21により取得された加速度データから得られる、一歩行周期中の予め定められた複数タイミングの各々における加速度データを用いて、当該モーメント値を算出する。
また、取得部21により取得される加速度データが直交する二以上の方向成分を含む場合、算出部25は、当該二以上の方向成分の各々について個別に予め定められている各タイミングにおける、当該方向の加速度値を用いて、モーメント値を算出することが好ましい。
更に言えば、取得部21により右腰部の加速度データが取得される場合、算出部25は、右の立脚期内から予め定められた複数タイミングの各々における加速度データを用いて、歩行中に被験者の右膝関節に生じるモーメント値を算出することが好ましい。取得部21により左腰部の加速度データが取得される場合には、算出部25は、左の立脚期内から予め定められた複数タイミングの各々における加速度データを用いて、歩行中に被験者の左膝関節に生じるモーメント値を算出することが好ましい。これらの根拠については上述したとおりである。
当該複数タイミングの各々が個別に予め定められた時間幅を有する場合、算出部25は、当該複数タイミングの各々の時間幅内における同一方向の加速度値の平均値を算出し、算出された平均値を用いてモーメント値を算出すればよい。
また、算出部25は、取得部21により取得された加速度データが示す鉛直の方向成分に基づいて、当該加速度データの中の一歩行周期を特定し、特定された一歩行周期中の加速度データから、当該複数タイミングの各々における加速度データを特定することができる。鉛直の方向成分を用いた一歩行周期の特定手法についても上述したとおりである。
【0036】
第一装置10は、算出部25により算出されたモーメント値を出力装置15に出力させることができる。これにより、モーメント値は、表示、音声、印刷などの様々な態様で出力され得る。
第一装置10によれば、上述の第一方法が実行されるため、上述の第一方法と同様の効果を得ることができる。
【0037】
[第二実施形態]
第二実施形態では、被験者の体格データを更に用いて体格データで正規化された膝関節モーメントを高精度に推定する。以下の説明では、第一実施形態と同様の内容については適宜省略し、第一実施形態と異なる内容を中心に説明する。
【0038】
〔歩行分析方法〕
まずは、第二実施形態における歩行分析方法(以降、第二方法と略称する場合がある)について説明する。
図6は、第二実施形態における歩行分析方法を示すフローチャートである。
図6に示されるように、第二方法は、被験者の体格データを取得する工程(S21)、歩行中の被験者の腰部における加速度データを取得する工程(S22)、及び歩行中に被験者の膝関節に生ずるモーメントを推定する工程(S23)を含む。
【0039】
工程(S21)における「体格データ」とは、被験者の体格を示し得る一種の値又は複数種の値群であり、例えば、身長、体重、腰の高さ、膝の高さ、脚の長さなどの少なくとも一種の値である。即ち、体格データは、体格値又は体格値群である。
工程(S21)における体格データの取得手法は制限されない。
例えば、コンピュータが工程(S21)を実行する場合、コンピュータは、体格データの入力画面を表示し、その画面に対するユーザの入力操作に応じて、体格データを取得することができる。また、コンピュータは、被験者情報を格納する外部のデータベースから被験者の体格データを入手することもできる。コンピュータは、接続される体重計から体重値を体格データとして取得してもよいし、画角が予め定められたカメラから得られる画像データに基づいて、被験者の画像情報を抽出し、この抽出された画像情報及び画角情報などに基づいて、被験者の身長、腰の高さ、膝の高さ、脚の長さなどの少なくとも一つを体格データとして算出することもできる。
【0040】
工程(S22)は、第一方法における工程(S11)と同様である。
工程(S23)は、第一方法における工程(S12)に対応し、以下の点で、工程(S12)と異なる。
膝関節モーメントの推定に用いられる歩行サンプルデータの統計情報には、その母集団の体格データが反映されている。言い換えれば、母集団の各人に関する歩行サンプルデータ及び体格データを統計処理することにより得られる統計情報が用いられる。工程(S23)では、工程(S21)で取得された体格データ及び工程(S22)で取得された加速度データ、並びに当該統計情報を用いて、体格データで正規化された膝関節モーメントを推定する。
【0041】
第二方法では、上記統計情報は、腰部の加速度及び体格情報の組み合わせとその体格情報で正規化された膝関節モーメントとの因果関係に基づいて生成される。この因果関係についても本発明者らにより新たに見出されたものである。例えば、当該統計情報は、母集団の歩行サンプルデータ及び体格データを少なくとも用いた重回帰分析により取得された重回帰式であって、一歩行周期中の複数タイミングにおける複数の加速度値及び一以上の体格値を説明変数とし、その一以上の体格値で正規化されたモーメント値を目的変数とする重回帰式である。この場合、工程(S23)では、この重回帰式に、工程(S21)で取得された体格データ及び工程(S22)で取得された加速度データを適用することにより、体格データで正規化されたモーメント値を算出することができる。
【0042】
このように、第二実施形態では、被験者の体格データが更に取得され、歩行中の腰部における加速度データ及びその体格データを用いて、体格データで正規化された膝関節モーメントが推定される。また、推定される膝関節モーメントは、体格データで正規化されているため、膝関節にかかる負荷を示す標準指標を得ることができる。
本第二実施形態では、被験者の腰部の加速度データ及び体格データを用いて、体格データで正規化された膝関節モーメントが推定された。しかしながら、膝関節モーメントは、体重や膝の長さなどの体格情報から影響を受けるため、加速度データ及び体格データを用いて、正規化されない膝関節モーメントを推定することも可能である。
【0043】
〔歩行分析装置〕
以下、第二実施形態における歩行分析装置(以降、第二装置と略称する場合がある)について説明する。第二装置は、上述の第二方法を実行可能である。
第二装置のハードウェア構成及び処理構成は、第一装置と同様である(
図4及び
図5参照)。
【0044】
第二装置の取得部21は、被験者の体格データを更に取得する。「体格データ」の定義及び取得部21によるその体格データの取得手法については、上述の工程(S21)と同様である。即ち、第二装置の取得部21は、上述の工程(S21)及び工程(S22)を実行する。
第二装置の情報格納部23に格納される統計情報は、上述したとおり、母集団の体格データを含む。言い換えれば、情報格納部23は、母集団の各人に関する歩行サンプルデータ及び体格データを統計処理することにより得られる統計情報を格納する。
【0045】
第二装置の算出部25は、取得部21で取得された被験者の体格データを更に用いて、体格データで正規化された当該モーメント値を算出する。算出部25による当該モーメント値の算出手法は、上述の工程(S23)における正規化されたモーメントの推定手法と同様である。即ち、算出部25は、上述の工程(S23)を実行する。
例えば、情報格納部23に格納される統計情報が、母集団の歩行サンプルデータ及び体格データを少なくとも用いた重回帰分析により取得された重回帰式であって、一歩行周期中の複数タイミングにおける複数の加速度値及び一以上の体格値を説明変数とし、当該一以上の体格値で正規化されたモーメント値を目的変数とする重回帰式を含む場合、算出部25は、取得部21により取得された加速度データ及び体格データをその重回帰式に適用することにより、体格データで正規化されたモーメント値を算出する。
【0046】
第二装置によれば、上述の第二方法が実行されるため、上述の第二方法と同様の効果を得ることができる。
以下に実施例を挙げ、上述の各実施形態を更に詳細に説明する。以下の実施例では、本発明者らにより行われた実験内容及び結果の一部を説明することで、上述の各実施形態の効果が実証される。なお、上述の各実施形態の内容は、以下の内容に限定されない。
【実施例】
【0047】
歩行時に痛みがない自力で歩行可能な20歳から75歳の男女150名(男性75名、女性75名)が被験者の母集団とされ、この母集団が次のような第一群と第二群とに分類された。後述するように、第一群は、回帰式を取得するための群であり、第二群は、取得された回帰式を評価するための群である。
第一群:75名(男性37名、女性38名)
第二群:75名(男性38名、女性37名)
更に、第一群及び第二群の身体特性(年齢、身長、体重、BMI)についてt検定を行い、両群の身体特性に有意な差が見られないことが確認された。
そして、上記母集団について次のような測定が行われた。なお、以下の測定をするにあたり、各被験者には前日の過度な運動と飲酒を控えるよう指示された。
【0048】
まず、被験者の右腰部(右腰部上前腸骨棘)及び右膝関節に反射マーカを取り付け、被験者の歩行中における反射マーカの位置をモーションキャプチャシステム(VICON社製のVICON MXシステム、VICON NEXUS)で計測した。更に、その歩行中に、被験者に床反力計(AMTI社製のBP400600−1000P)の上を通過させて、床反力を計測した。反射マーカの位置は200ヘルツ(Hz)、床反力は1000Hzで計測された。
図7は、測定の様子を示す図である。
図7に示されるように、被験者は、複数の所定部位に反射マーカを装着し、決められた場所を直線的に歩行する。被験者は、その歩行途中に設置されている床反力計FRの上を通過する。
図7に示される反射マーカの取り付け位置はあくまで例示であり、全ての反射マーカが利用されなくてもよい。
【0049】
上述のように測定された各被験者の位置座標データ(時系列データ)及び床反力データは、次のように処理された。位置座標データのデータ間(測定間隔200Hzの狭間)は、適宜補間された。
前処理としてまず、両群の各被験者の位置座標データに対して、4次のButterworthローパスフィルタを適用することで、位置ブレ等のノイズが除去された。このときのカットオフ周波数は10Hzに設定された。以降の処理では、このようにノイズが除去された位置座標データが利用され、以下の説明では、それを単に位置座標データと略称する。
続いて、両群の各被験者の腰部の位置座標データから当該各被験者の腰部の加速度データがそれぞれ算出された。加速度データは、腰部の前後方向、左右方向、及び鉛直方向の方向成分について算出された。加速度の各方向成分は、位置座標を2回微分することで算出された。
そして、右足の着床に伴う鉛直方向の加速度の極値により、当該算出された加速度データの中から一歩行周期が切り出され、切り出された一歩行周期の加速度データを101等分(約10m秒間隔)に分割することで、被験者毎に合計303の加速度成分が抽出された。
また、床反力計による計測値に基づいて、両群の各被験者の体重値が抽出された。
【0050】
次に、各被験者の位置座標データ及び床反力データを用いて、両群の各被験者について一歩行周期中の右膝関節内反モーメントの最大値がそれぞれ算出され、算出された最大値が各被験者の体重で正規化された。以降、この正規化された値が各被験者の右膝関節内反モーメント最大値として利用され、以下の説明でも、正規化された値が右膝関節内反モーメント最大値と表記される。
なお、上述の加速度データ及び右膝関節内反モーメントの算出手法は、国立研究開発法人産業技術総合研究所(AIST)の歩行データベースにおける全身の歩行計測パターンに基づいている(非特許文献2参照)。
【0051】
そして、第一群について算出された右膝関節内反モーメント最大値、一歩行周期の加速度データ(303成分)、及び体重値を重回帰分析することにより、重回帰式が求められた。具体的には、右膝関節内反モーメント最大値を目的変数とし、各被験者の体重値(kg)及び加速度データの中の特定成分を説明変数とする次のような重回帰式が得られた。
膝関節内反モーメント最大値(Nm/kg)
=0.643+(体重値)×(−0.007)+(X[17−19])×(0.008)+(X[24−29])×(0.018)+(Y[3−5])×(−0.004)+(Y[18−20])×(0.006)+(Y[29−31])×(0.003)+(Z[25−27])×(−0.004)
上記式において、X[]は、一歩行周期内の[]で示されるタイミングにおける左右方向の加速度の平均値を示し、Y[]は、一歩行周期内の[]で示されるタイミングにおける前後方向の加速度の平均値を示し、Z[]は、一歩行周期内の[]で示されるタイミングにおける鉛直方向の加速度の平均値を示す。ここでのタイミングは、一歩行周期全体を100%とした時間率の範囲で示されている。例えば、X[24−29]は、一歩行周期内の時間率24%から29%までの間の左右方向の加速度の平均値を示す。
【0052】
重回帰分析はステップワイズ法により実施され、右膝関節内反モーメント最大値を高精度に説明する最適な説明変数が選択された。
特に、加速度データに関して、使うべき方向成分及び一歩行周期内のタイミング(時間率の範囲)については、右膝関節内反モーメント最大値との相関の度合が考慮された。
図8は、説明変数として選択された加速度成分を概念的に示す図である。
図8に示されるように、加速度の3つの各方向成分について個別に1以上のタイミング(時間率の範囲)が選択された。具体的には、加速度の左右方向成分については、2つのタイミング(時間率17%から19%の範囲及び時間率24%から29%の範囲)の各々の平均加速度値が選択され、加速度の前後方向成分については、3つのタイミング(時間率3%から5%の範囲、時間率18%から20%の範囲、及び時間率29%から31%の範囲)の各々の平均加速度値が選択され、加速度の鉛直方向成分については、1つのタイミング(時間率25%から27%の範囲)の平均加速度値が選択された。
また、
図8に示されるように、本実施例では、右脚の立脚期の加速度が利用され、右脚の遊脚期の加速度は利用されなかった。これは、右膝関節の内反モーメントが推定対象とされているからと考えられる。
【0053】
図9は、第一群の測定データに基づく重回帰式の精度を示すグラフである。
図9のグラフは、縦軸に、推定値、即ちその重回帰式に第一群の各被験者の右腰部の加速度データ及び体重値を代入することで推定される(算出される)右膝関節内反モーメント最大値を示し、横軸に、実測値、即ち第一群の各被験者の計測データ(床反力データを含む)から算出された右膝関節内反モーメント最大値を示す。推定値と実測値との相関度合を示す決定係数R
2が0.74であるため、上記重回帰式による膝関節内反モーメント最大値の推定精度が高いことが実証されている。
【0054】
更に、第二群の測定データを用いて、上記重回帰式の精度が検証された。
図10は、第二群の測定データに基づく重回帰式の精度を示すグラフである。
図10のグラフについても、
図9と同様に、縦軸に推定値を示し、横軸に実測値を示す。
そして、第二群に関する推定値と実測値との決定係数R
2が0.41であるため、回帰式取得群(第一群)以外の測定データについても、上記重回帰式により膝関節内反モーメント最大値を高精度に推定できることが実証された。
【0055】
本実施例で挙げた内容は例示である。従って、推定される膝関節モーメントは、位置歩行周期中の最大値でなくてもよいし、体重による正規化をされていなくてもよい。また、膝関節モーメントの推定に用いられる加速度の方向成分及びそのタイミング(時間率の範囲)についても、本実施例の内容に限定されない。上述の各実施形態で述べるように、方向成分毎に同一タイミングの加速度値が用いられてもよいし、直交する三つの方向成分全てを利用せず、一又は二の方向成分が利用されてもよい。
【0056】
なお、上述の説明で用いた複数のフローチャートでは、複数の工程(処理)が順番に記載されているが、各実施形態で実行される工程の実行順序は、その記載の順番に制限されない。例えば、
図6に示される工程(S21)と工程(S22)とは、逆順で実行されてもよいし、並行して実行されてもよい。各実施形態では、図示される工程の順番を内容的に支障のない範囲で変更することができる。また、上述の各実施形態は、内容が相反しない範囲で組み合わせることができる。
【0057】
上述の内容は、次のようにも特定され得る。但し、上述の内容が以下の記載に制限されるものではない。
<1> 歩行中の被験者の腰部における加速度データを取得する取得工程と、
母集団から予め測定された歩行サンプルデータの統計情報及び前記取得工程で取得された加速度データを用いて、歩行中に前記被験者の膝関節に生ずるモーメントを推定する推定工程と、
を含む歩行分析方法。
【0058】
<2> 前記推定工程では、前記取得工程で取得された加速度データから得られる、一歩行周期中の予め定められた複数タイミングの各々における加速度データを用いて、前記モーメントを推定する、
<1>に記載の歩行分析方法。
<3> 前記取得工程で取得された加速度データは、直交する二以上の方向成分を含み、
前記推定工程では、前記二以上の方向成分の各々について個別に予め定められている各タイミングにおける、該方向の加速度値を用いて、前記モーメントを推定する、
<2>に記載の歩行分析方法。
<4> 前記取得工程では、歩行中の前記被験者の右腰部又は左腰部における加速度データを取得し、
前記推定工程では、右腰部の加速度データが取得される場合には、右の立脚期内から予め定められた前記複数タイミングの各々における加速度データを用いて、歩行中に前記被験者の右膝関節に生じるモーメントを推定し、左腰部の加速度データが取得される場合には、左の立脚期内から予め定められた前記複数タイミングの各々における加速度データを用いて、歩行中に前記被験者の左膝関節に生じるモーメントを推定する、
<2>又は<3>に記載の歩行分析方法。
<5> 前記複数タイミングの各々は、個別に予め定められた時間幅を有し、
前記推定工程では、前記複数タイミングの各々の時間幅内における同一方向の加速度値の平均値を用いて、前記モーメントを推定する、
<2>から<4>のいずれか一つに記載の歩行分析方法。
<6> 前記取得工程で取得された加速度データが示す鉛直の方向成分に基づいて、該加速度データの中の一歩行周期を特定する工程、
を更に含み、
前記推定工程では、前記特定された一歩行周期中の加速度データから、前記複数タイミングの各々における加速度データを特定する、
<2>から<5>のいずれか一つに記載の歩行分析方法。
<7> 前記被験者の体格データを取得する工程、
を更に含み、
前記統計情報には、前記母集団の体格データが反映されており、
前記推定工程では、前記取得された前記被験者の前記体格データを更に用いて、体格データで正規化された前記モーメントを推定する、
<1>から<6>のいずれか一つに記載の歩行分析方法。
<8> 前記推定工程では、前記母集団の前記歩行サンプルデータ及び前記体格データを少なくとも用いた重回帰分析により取得された重回帰式であって、一歩行周期中の複数タイミングにおける複数の加速度値及び一以上の体格値を説明変数とし、体格値で正規化されたモーメント値を目的変数とする重回帰式を用いて、前記モーメントを推定する、
<7>に記載の歩行分析方法。
<9> 歩行中の被験者の腰部における加速度データを取得する取得手段と、
母集団から予め測定された歩行サンプルデータの統計情報を格納する格納手段と、
前記統計情報及び前記取得された加速度データを用いて、歩行中に前記被験者の膝関節に生ずるモーメント値を算出する算出手段と、
を備える歩行分析装置。
<10> 前記算出手段は、前記取得手段により取得された加速度データから得られる、一歩行周期中の予め定められた複数タイミングの各々における加速度データを用いて、前記モーメント値を算出する、
<9>に記載の歩行分析装置。
<11> 前記取得手段により取得される加速度データは、直交する二以上の方向成分を含み、
前記算出手段は、前記二以上の方向成分の各々について個別に予め定められている各タイミングにおける、該方向の加速度値を用いて、前記モーメント値を算出する、
<10>に記載の歩行分析装置。
<12> 前記取得手段は、歩行中の前記被験者の右腰部又は左腰部における加速度データを取得し、
前記算出手段は、右腰部の加速度データが取得される場合には、右の立脚期内から予め定められた前記複数タイミングの各々における加速度データを用いて、歩行中に前記被験者の右膝関節に生じるモーメント値を算出し、左腰部の加速度データが取得される場合には、左の立脚期内から予め定められた前記複数タイミングの各々における加速度データを用いて、歩行中に前記被験者の左膝関節に生じるモーメント値を算出する、
<10>又は<11>に記載の歩行分析装置。
<13> 前記複数タイミングの各々は、個別に予め定められた時間幅を有し、
前記算出手段は、前記複数タイミングの各々の時間幅内における同一方向の加速度値の平均値を算出し、算出された平均値を用いて前記モーメント値を算出する、
<10>から<12>のいずれか一つに記載の歩行分析装置。
<14> 前記算出手段は、前記取得手段により取得された加速度データが示す鉛直の方向成分に基づいて、該加速度データの中の一歩行周期を特定し、特定された一歩行周期中の加速度データから、前記複数タイミングの各々における加速度データを特定する、
<10>から<13>のいずれか一つに記載の歩行分析装置。
<15> 前記取得手段は、前記被験者の体格データを更に取得し、
前記統計情報は、前記母集団の体格データを含み、
前記算出手段は、前記被験者の前記体格データを更に用いて、体格データで正規化された前記モーメント値を算出する、
<9>から<14>のいずれか一つに記載の歩行分析装置。
<16> 前記統計情報は、前記母集団の前記歩行サンプルデータ及び前記体格データを少なくとも用いた重回帰分析により取得された重回帰式であって、一歩行周期中の複数タイミングにおける複数の加速度値及び一以上の体格値を説明変数とし、該一以上の体格値で正規化されたモーメント値を目的変数とする重回帰式を含み、
前記算出手段は、前記取得手段により取得された加速度データ及び体格データを前記重回帰式に適用することにより、体格データで正規化された前記モーメント値を算出する、
<15>に記載の歩行分析装置。