特許第6738255号(P6738255)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6738255地中連続壁構築方法およびソイルモルタルの配合設計方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6738255
(24)【登録日】2020年7月21日
(45)【発行日】2020年8月12日
(54)【発明の名称】地中連続壁構築方法およびソイルモルタルの配合設計方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/18 20060101AFI20200730BHJP
   E02F 5/02 20060101ALI20200730BHJP
【FI】
   E02D5/18 102
   E02F5/02 N
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-188047(P2016-188047)
(22)【出願日】2016年9月27日
(65)【公開番号】特開2018-53472(P2018-53472A)
(43)【公開日】2018年4月5日
【審査請求日】2019年6月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】生井 康丈
(72)【発明者】
【氏名】古池 章紀
(72)【発明者】
【氏名】和家 由宜
【審査官】 彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−066086(JP,A)
【文献】 特開2009−287206(JP,A)
【文献】 特開2014−101712(JP,A)
【文献】 特開2011−184857(JP,A)
【文献】 特開2015−124478(JP,A)
【文献】 特開2006−045877(JP,A)
【文献】 特開2014−166934(JP,A)
【文献】 特開2015−175160(JP,A)
【文献】 特開2008−037891(JP,A)
【文献】 特開2015−172319(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/18
E02F 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘削用カッタと前記掘削用カッタの駆動部とを有する掘削機本体により地山を掘削して掘削溝を形成する掘削工程と、
前記掘削溝内において、前記掘削機本体を利用して注入液と掘削土とを混合撹拌する造成工程と、
前記掘削溝内に芯材を建て込む建込工程と、を備える地中連続壁構築方法であって、
前記注入液には、固化材と、分散効果および遅延効果を備える2剤混合型の混和材と、遅延剤とが含まれていることを特徴とする、地中連続壁構築方法。
【請求項2】
前記混和材が、ポリカルボン酸塩を主成分とした液体であるA剤と無機化合物を主成分とした粉体であるB剤との混合体からなり、
前記遅延剤が、オキシカルボン酸塩を主成分とする液体であることを特徴とする、請求項1に記載の地中連続壁構築方法。
【請求項3】
前記建込工程における前記注入液と前記掘削土との混合体のフロー値が200mmから320mmの範囲内で、かつ、前記掘削溝に隣接して他の掘削溝を掘削する際の前記混合体のフロー値が130mm以下となるように、前記混合体の配合を設定する配合設計工程を備えていることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の地中連続壁構築方法。
【請求項4】
前記配合設計工程では、前記駆動部による発熱を考慮した室内配合試験により前記混合体の配合を設定することを特徴とする、請求項3に記載の地中連続壁構築方法。
【請求項5】
前記室内配合試験において、前記混合体の試料を湯せんにより加熱する作業を行うことを特徴とする、請求項4に記載の地中連続壁構築方法。
【請求項6】
土砂、固化材、2剤混合型の混和材および遅延剤を混合撹拌して試料を製造する試料製造作業と、
前記試料のフロー値を測定する測定作業と、を備えるソイルモルタルの配合設計方法であって、
前記試料の撹拌混合完了後の経過時間が第一経過時間である場合における前記フロー値が200mmから320mmの範囲内で、かつ、前記経過時間が第二経過時間以上である場合における前記フロー値が130mm以下となるように、土砂、固化材、混和材および遅延剤の配合を設定することを特徴とする、ソイルモルタルの配合設計方法。
【請求項7】
前記試料製造作業では、前記試料を湯せんにより加熱しつつ混合撹拌することを特徴とする、請求項6に記載のソイルモルタルの配合設計方法。
【請求項8】
湯せんにより加熱した試料のフロー値が所定の値になるまでに要する時間に対する、加熱していない試料のフロー値が前記所定の値になるまでに要する時間の比率を算出する作業をさらに備えており、
試料を加熱しない状態で前記測定作業を行い、
前記測定作業における前記フロー値に対応する時間に前記比率を乗じた時間を前記経過時間として、土砂、固化材、混和材および遅延剤の配合を設定することを特徴とする、請求項6に記載のソイルモルタルの配合設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中連続壁構築方法およびソイルモルタルの配合設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地中連続壁として、土と固化材とを現地において攪拌して地中に壁体を造成するソイルミキシングウォール(SMW)工法が知られている(例えば、特許文献1参照)。SMW工法では、並列配置された複数のオーガーにより地盤を掘削するとともに固化材を含有する注入材を掘削土に混合撹拌することでソイルセメントを造成した後、芯材を建て込むことで柱列状の壁体を形成する。SMW工法で使用するオーガーは、上端(空中)に設けられた駆動部の動力によって地盤の切削および撹拌混合を行う。ところが、特許文献1の地中連続壁構築方法は、施工深度がオーガーの長さによって限定されるため、大深度の地中連続壁の施工には採用することができなかった。
【0003】
そのため、特許文献2には、施工深度が大きい場合であっても、地中連続壁の施工を可能とした地中連続壁構築方法が開示されている。特許文献2の地中連続壁構築方法では、掘削用カッタとこの掘削用カッタの駆動部とを有する掘削機本体を地中に沈降させつつ地山を掘削して掘削溝を形成するとともに、固化材を含有する注入材を掘削土に掘削溝内において掘削機本体により混合撹拌することでソイルセメントを造成した後、芯材を建て込むことで壁体を形成する。
【0004】
なお、地中連続壁のソイルセメントの造成には、壁体の均質性を確保するとともに、芯材建て込み時の施工性を確保することを目的として、分散性および遅延性を有した注入材を使用するのが一般的である。このような性質を備えた注入材として、2液混合型の混和材がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−162504号公報
【特許文献2】特開平08−270007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2の地中連続壁構築方法では、掘削溝内に挿入された駆動部の発熱によりソイルモルタルの水和反応が促進してしまう。水和反応の促進によりソイルモルタルが硬化すると、芯材を建て込むことができない場合がある。また、施工深度が大きい場合は、掘削溝の掘削及び注入材の混合撹拌に時間がかかってしまう。注入材を投入してから芯材の建込までに時間がかかると、ソイルモルタルが硬化してしまい、芯材を建て込むことができなくなるおそれがある。また、芯材同士を連結する場合には、芯材の建て込みに手間がかかるため、ソイルモルタルの硬化が進行するおそれがある。
このような観点から、本発明は、施工深度や構造等の施工条件に限定されることなく確実に施工を行うことを可能とした地中連続壁構築方法およびソイルモルタルの配合設計方法を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明の地中連続壁構築方法は、掘削用カッタと前記掘削用カッタの駆動部とを有する掘削機本体により地山を掘削して掘削溝を形成する掘削工程と、前記掘削溝内において、前記掘削機本体を利用して注入液と掘削土とを混合撹拌する造成工程と、前記掘削溝内に芯材を建て込む建込工程とを備えており、前記注入液には、固化材と、分散効果および遅延効果を備える2剤混合型の混和材と、遅延剤とが含まれていることを特徴としている。
【0008】
かかる地中連続壁構築方法によれば、2剤混合型の混和材に加えて遅延剤が混入されているため、ソイルモルタルの硬化を遅延させることができる。そのため、掘削機の駆動部の発熱による固化材の水和反応への影響が懸念される場合や、施工深度が大きく施工に時間がかかる場合であっても、芯材を建て込むことができる。
なお、注入液には、ポリカルボン酸塩を主成分とした液体であるA剤と無機化合物を主成分とした粉体であるB剤との混合体からなる混和材と、オキシカルボン酸塩を主成分とする液体からなる遅延剤とを使用するのが望ましい。
【0009】
前記地中連続壁構築方法は、前記建込工程における前記注入液と前記掘削土との混合体のフロー値が200mmから320mmの範囲内で、かつ、前記掘削溝に隣接して他の掘削溝を掘削する際の前記混合体のフロー値が130mm以下となるように、前記混合体の配合を設定する配合設計工程を備えているのが望ましい。すなわち、配合設計工程では、芯材を建て込む際に芯材を挿入することが可能な流動性を確保し、隣接する他のエレメントを施工する際の自立性を確保することが可能な強度を確保できるように配合設計する。
ここで、前記配合設計工程では、前記駆動部による発熱を考慮した室内配合試験により前記混合体の配合を設定するのが望ましい。なお、発熱を考慮した室内配合試験としては、例えば、前記混合体の試料を湯せんにより加熱する作業を行う。
【0010】
また、本発明のソイルモルタルの配合設計方法は、土砂、固化材、2剤混合型の混和材および遅延剤を混合撹拌して試料を製造する試料製造作業と、前記試料のフロー値を測定する測定作業とを備えており、前記試料の撹拌混合完了後の経過時間が第一経過時間である場合における前記フロー値が200mmから320mmの範囲内で、かつ、前記経過時間が第二経過時間以上である場合における前記フロー値が130mm以下となるように、土砂、固化材、混和材および遅延剤の配合を設定することを特徴としている。
【0011】
かかるソイルモルタルの配合設計方法においては、ソイルモルタルの造成後、一定の期間はソイルモルタルの流動性を確保し、ある期間を経過した後はソイルモルタルの自立性を確保することができるように配合する。このソイルモルタルの配合設計方法を利用すれば、地中連続壁を構築する際に、芯材の建込時の流動性と、隣接するエレメントを施工する際の自立性を確保することが可能なソイルモルタルを製造することができる。
【0012】
前記試料製造作業において前記試料を湯せんにより加熱しつつ混合撹拌すれば、施工条件によってソイルモルタルが加熱されることが予想される場合の配合設計が可能となる。
なお、湯せんにより加熱した試料のフロー値が所定の値になるまでに要する時間に対する、加熱していない試料のフロー値が前記所定の値になるまでに要する時間の比率を算出する作業をさらに備えており、試料を加熱しない状態で前記測定作業を行い、前記測定作業における前記フロー値に対応する時間に前記比率を乗じた時間を前記経過時間として、土砂、固化材、混和材および遅延剤の配合を設定すれば、長時間にわたって試料を湯せんする手間を低減することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の地中連続壁構築方法およびソイルモルタルの配合設計方法によれば、施工深度や構造等の施工条件に限定されることなく確実に施工を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態の地中連続壁の一部を示す斜視図である。
図2】(a)および(b)は、芯材を示す平面図である。
図3】(a)は掘削工程を示す断面図、(b)は造成工程を示す断面図である。
図4】(a)は掘削工程を示す平面図、(b)は建込工程を示す平面図である。
図5】建込工程を示す断面図である。
図6】試料毎のフロー平均値と経過時間との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本実施形態では、図1に示すように地中連続壁1を構築する場合について説明する。
本実施形態の地中連続壁1は、複数のエレメント2,2,…を連続して施工することにより形成する。各エレメント2は、ソイルモルタルの硬化体3と、硬化体3の内部に建て込まれた芯材4とにより形成されていて、隣り合うエレメント2同士は、芯材4同士が連結されている。本実施形態では、芯材4としてNS−BOX(新日本製鐵株式会社製)を使用する。この芯材4は、図2(a)および(b)に示すように、一対のフランジ41,41と両フランジ41,41を連結するウェブ42とにより断面視H字状に形成されており、フランジ41の端部には継手43(44)が形成されている。なお、芯材4を構成する材料は限定されるものではない。例えば、芯材4として箱型の鋼材を使用してもよい。隣り合う芯材4,4の一方には雌継手43が形成されていて、他方には雄継手44が形成されている。芯材4同士は、雌継手43と雄継手44とを係合することにより連結されている。本実施形態では、フランジ41の両端に雌継手43が形成された芯材4と、フランジ41の両端に雄継手44が形成された芯材4とを交互に建て込むことにより、芯材4同士を連結している。なお、芯材4は、フランジ41の一端に雌継手43、他端に雄継手44が形成されたものを使用してもよい。
【0016】
地中連続壁の施工方法(地中連続壁構築方法)は、掘削工程と、造成工程と、建込工程と、配合設計工程とを備えている。掘削工程、造成工程および建込工程を繰り返し実施することにより、横方向(壁延長方向)に連続した複数のエレメント2,2,…を施工し、所定の延長(形状)の地中連続壁1を構築する。
【0017】
掘削工程は、図3(a)に示すように、地山Gを掘削して掘削溝6を形成する工程である。本実施形態では、吊下げ方式の掘削機5を利用して地山Gを掘削する。掘削機5は、掘削用カッタ51と掘削用カッタ51の駆動部52とを有する掘削機本体50を吊持している。掘削機本体50が地山を掘削しつつ下降することで掘削溝6を形成する。なお、図4(a)に示すように、先行して形成されたエレメント(既設エレメント2a)に隣接して新たなエレメントを形成する場合には、既設エレメント2aの端部を掘削しながら地山Gを掘削して掘削溝6を形成する。なお、既設エレメント2aの端部に面する芯材4の継手43,44には、防護部材45を取り付けておく。なお、防護部材45の構成は限定されるものではないが、雌継手43の場合は雌継手43の凹部に挿入可能な形状を有しており(図4(b)参照)、雄継手44の場合は雄継手44の周囲を覆う形状を有している。
【0018】
図3(a)に示すように掘削機本体50には、上下に二つずつ掘削用カッタ51,51,…が並設されており、上下の掘削用カッタ51同士の間には駆動用のモータ(駆動部52)が配設されている。掘削機本体50は、下降時には下側の掘削用カッタ51,51によって地山Gを掘削し、上昇時には上側の掘削用カッタ51,51により掘削土砂を切り開くことで、掘削溝6内を上下動する。なお、本実施形態では、いわゆるCSM工法を採用しているが、地中連続壁の施工するための工法は限定されるものではない。掘削機本体50の構成(掘削用カッタ51の配置や数等)は限定されるものではなく、例えば、下側のみに掘削用カッタ51,51が配設されていてもよい。ここで、「CSM工法」とは、水平多軸回転カッタ(掘削用カッタ51)を用いて地山を掘削するとともに、掘削土と固化材とを原位置にて混合撹拌することで、壁厚一定の壁体を形成する工法である。
【0019】
本実施形態では、掘削機本体50による地山Gの掘削とともに、掘削機本体50に取り付けられたノズル(図示せず)からベントナイト及び分散剤を排出し、掘削土とベントナイトと分散剤とを混合する。なお、分散剤は限定されるものではないが、本実施形態では、注入液に混入する混和材と同じものを分散剤として使用する。また、ベントナイト及び分散剤は、必ずしも掘削工程において掘削土に混合する必要はない。
【0020】
造成工程は、図3(b)に示すように、前記掘削溝6内において、注入液と掘削土とを混合撹拌する工程である。
注入液と掘削土の混合撹拌は、掘削機本体50を利用して行う。すなわち、掘削機本体50に取り付けられたノズルから注入液を排出しつつ、掘削用カッタ51を回転させることで、注入液と掘削土とを混合撹拌する。
注入液には、セメント(固化材)と、ベントナイトと、混和材と、遅延剤と、水とが含まれている。なお、注入液の配合は、配合設計工程において設定された配合とする。
【0021】
混和材には、分散効果および遅延効果を備える2剤混合型の混和材を使用する。本実施形態の混和材は、ポリカルボン酸塩を主成分とした液体であるA剤と無機化合物を主成分とした粉体であるB剤との混合体である。このような混和材としては、例えば、アロンソイル(登録商標)を使用することができる。
遅延剤には、オキシカルボン酸塩を主成分とする液体を使用する。このような遅延剤としては、パワーキャリブ(株式会社テルナイト製)を使用することができる。
【0022】
建込工程は、図5に示すように、掘削溝6内に芯材4を建て込む工程である。
芯材4の建込は、クレーン7を利用して行う。芯材4は、複数の芯材構成部材を軸方向に連結しながら掘削溝6内に建て込む。なお、芯材4の建て込み方法は限定されるものではない。芯材4は、図4(b)に示すように、隣接する他の芯材4に対し、継手43,44同士を係合させながら建て込む。
【0023】
配合設計工程は、混合体の配合を設定する工程である。配合設計工程は、少なくとも造成工程の前に実施すればよい。配合設計工程を実施するタイミングは限定されるものではなく、例えば、試験施工を実施した際に配合設計を行ってもよい。
配合設計工程では、建込工程における注入液と掘削土との混合体(ソイルモルタル)のフロー値が200mmから320mmの範囲内で、かつ、隣接して次の施工サイクルのエレメント用の掘削溝6を掘削する際の混合体のフロー値が130mm以下となるように混合体の配合を設定する。
【0024】
以下、ソイルモルタルの配合設計方法について説明する。
ソイルモルタルの配合設計は、室内試験を実施することにより行う。配合設計方法は、試料製造作業と、測定作業とを備えている。
試料製造作業では、土砂、固化材、2剤混合型の混和材および遅延剤を混合撹拌して試料を製造する。土砂は、現場において掘削溝6の掘削により発生した掘削土砂を使用する。
測定作業では、製造された試料のフロー値の経時変化を測定する。
【0025】
本実施形態では、撹拌混合時にソイルモルタル内に挿入される駆動部52の発熱による影響を考慮して、予備試験を実施する。
予備試験は、湯せんにより加熱した試料(ソイルモルタル)のフロー値が所定の値になるまでに要する時間(第一時間)を測定するとともに、常温(加熱していない)の試料(ソイルモルタル)のフロー値が所定の値になるまでに要する時間(第二時間)を測定する。次に、第一時間と第二時間との比率(以下、「加熱常温時間比」という)を算出する。加熱常温時間比を利用すれば、常温で測定した試料のフロー値の経時変化を利用して、駆動部52の発熱の影響を考慮したフロー値の経時変化を推定することができる。すなわち、常温での測定作業において測定したフロー値に対応する時間に、加熱常温時間比(=第一時間/第二時間)を乗じた時間を、当該フロー値の経過時間とする。本実施形態では、加熱常温時間比=1/2とする。
【0026】
フロー値の経時変化に基づいて、造成工程(試料の撹拌混合)完了後の経過時間が第一経過時間の場合におけるフロー値が200mmから320mmの範囲内で、かつ、経過時間が第二経過時間以上である場合におけるフロー値が130mm以下となるように、土砂、固化材、混和材および遅延剤の配合を設定する。
本実施形態では、第一経過時間を、芯材4の建て込みの完了時間とし、造成工程完了後10時間(試料の撹拌混合完了後20時間)とする。また、第二経過時間は、隣接するエレメント2の掘削工程を開始する時間として、造成工程完了後24時間(試料の撹拌混合完了後48時間)とする。なお、第一経過時間および第二経過時間は、各エレメント2の形状や、地山状況等の現場状況に応じて適宜決定すればよい。
【0027】
本実施形態のソイルモルタルの配合設計方法では、表1に示すように、混和材および遅延剤の混入率を変化させた複数種類の試料を作成し、各試料についてフロー値の経時変化を測定する。測定結果を図6に示す。
【0028】
【表1】
【0029】
図6に示すように、配合A2では、20時間後の間におけるフロー値が200mmから320mmの範囲内であった。また27時間後のフロー値が130mm以下であることから、48時間後のフロー値が130mm以下であることが確認できた。したがって、本実施形態において配合A2の注入材を使用すれば、芯材4を建て込む際に、芯材4が高止まりすることがないソイルモルタルを生成することができる。また、配合A2の注入材を使用すれば、隣接する他のエレメント2の掘削を開始する時点では、ソイルモルタルが自立可能な強度を発現する。
一方、配合A1では、26時間経過後のフロー値が320mmを超えており、造成時に材料分離が生じているおそれがある。また、配合A4〜A6では、硬化の進行が早いので、芯材4を建て込むことができなくなるおそれがある。さらに、配合A3は、芯材4の建て込みが可能で、かつ、隣接するエレメント2を施工する際にも十分な強度を有していると言えるが、20時間経過後のフロー値が200mmをわずかに超える程度であり、場合によっては硬化の進行が早く、芯材4を建て込むことができなくなるおそれがある。
【0030】
本実施形態の地中連続壁構築方法によれば、2剤混合型の混和材に加えて遅延剤が混入されているため、ソイルモルタルの硬化を遅延させることできる。そのため、掘削機5の駆動部52の発熱による固化材の水和反応への影響が懸念される場合のほか、施工深度が大きく施工時に時間がかかる場合や、芯材4の建て込みに手間がかかる場合であっても、芯材4を建て込むことができる。
また、配合設計工程では、芯材4を建て込む際に、芯材4を挿入することが可能な流動性を確保し、隣接する他のエレメント2の掘削溝6を掘削する際の自立性を確保することが可能な強度を確保できるように配合設計しているため、地中連続壁1を構築する際に、芯材4の建込時の流動性と、隣接するエレメント2を施工する際の自立性を確保することが可能なソイルモルタルを製造することができる。
【0031】
ソイルモルタルの配合設計方法の試料製造作業において、試料を湯せんにより加熱しつつ混合撹拌しているため、駆動部52の発熱によってソイルモルタルが加熱されることを考慮した配合設計が可能となる。
また、加熱常温時間比を利用して土砂、固化材、混和材および遅延剤の配合を設定しているため、長時間にわたって試料を湯せんする手間を低減することができる。
【0032】
以上、本発明の実施形態について説明したが本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
前記実施形態では、室内配合試験において、混合体の試料を湯せんにより加熱することで、駆動部による発熱を考慮した室内配合試験により設定したが、駆動部の発熱を考慮する方法(試料の加熱方法)は限定されるものではない。
また、前記実施形態では、加熱常温時間比を利用することで、常温で実施した試験結果の経過時間の調整を行ったが、加熱した状態で試験を行ってもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 地中連続壁
2 エレメント
3 硬化体
4 芯材
5 掘削機
50 掘削機本体
51 掘削用カッタ
52 駆動部
6 掘削溝
図1
図2
図3
図4
図5
図6