特許第6738259号(P6738259)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ フマキラー株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6738259
(24)【登録日】2020年7月21日
(45)【発行日】2020年8月12日
(54)【発明の名称】ダンゴムシ駆除剤
(51)【国際特許分類】
   A01N 25/02 20060101AFI20200730BHJP
   A01N 53/04 20060101ALI20200730BHJP
   A01P 7/04 20060101ALI20200730BHJP
【FI】
   A01N25/02
   A01N53/04 510
   A01N53/04 410
   A01P7/04
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-218021(P2016-218021)
(22)【出願日】2016年11月8日
(65)【公開番号】特開2018-76247(P2018-76247A)
(43)【公開日】2018年5月17日
【審査請求日】2019年8月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000112853
【氏名又は名称】フマキラー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西井 博行
【審査官】 武貞 亜弓
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−168525(JP,A)
【文献】 特開2016−155774(JP,A)
【文献】 特開2005−281141(JP,A)
【文献】 特開2008−063242(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A01P
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダンゴムシ駆除剤において、
ダンゴムシに接触させることにより殺虫効果を発揮する殺虫成分と、
上記殺虫成分を溶解する主溶剤と、
上記殺虫成分を溶解する補助溶剤とを含有し、
上記補助溶剤は酪酸ブチルであり、該補助溶剤の含有量は1重量%以上とされていることを特徴とするダンゴムシ駆除剤。
【請求項2】
請求項1に記載のダンゴムシ駆除剤において、
上記主溶剤は、エタノール及びノルマルパラフィンの少なくとも一方であることを特徴とするダンゴムシ駆除剤。
【請求項3】
請求項2に記載のダンゴムシ駆除剤において、
上記主溶剤は、エタノールであることを特徴とするダンゴムシ駆除剤。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載のダンゴムシ駆除剤において、
上記殺虫成分は、フタルスリン及びレスメトリンの少なくとも一方であることを特徴とするダンゴムシ駆除剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、匍匐害虫であるダンゴムシの駆除剤に関し、特に主溶剤と補助溶剤とを含有させる技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来より、殺虫成分と、殺虫成分を溶解させる溶剤とを含有した害虫駆除剤が各種検討されている。例えば、特許文献1には、炭素数6〜10の脂肪酸と炭素数2〜8のアルコールとのエステル、または炭素数6〜10の脂肪酸と炭素数2〜4のアルコールとのエステルをピレスロイド系殺虫剤と共に配合したエアゾール組成物が開示されている。特許文献1では、脂肪酸エステル化物の一例として、酪酸イソブチルが挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−63242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、害虫駆除剤に主溶剤と補助溶剤とを含有させることで殺虫成分の溶解性を高めることができるが、そのことによって必ずしも殺虫効力を高めることができるとは限らない。一般には、害虫駆除剤の効力として、害虫駆除剤を害虫に付着させてから害虫の正常な動きが停止するまでの時間、いわゆるノックダウン時間が重要視されており、ノックダウン時間の更なる短縮が望まれている。
【0005】
また、匍匐害虫であるダンゴムシは園芸植物等に食害を及ぼすことがあるので、ダンゴムシに対して高い効果を持った駆除剤が望まれている。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、主溶剤と補助溶剤とを含有させる場合に、ダンゴムシのノックダウン時間を短縮させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明では、ダンゴムシを対象害虫とし、補助溶剤として酪酸ブチルを1.0重量%以上含有させるようにした。
【0008】
第1の発明は、ダンゴムシ駆除剤において、ダンゴムシに接触させることにより殺虫効果を発揮する殺虫成分と、上記殺虫成分を溶解する主溶剤と、上記殺虫成分を溶解する補助溶剤とを含有し、上記補助溶剤は酪酸ブチルであり、該補助溶剤の含有量は1重量%以上とされていることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、殺虫成分が主溶剤と補助溶剤とによって十分に溶解する。そして、補助溶剤としての酪酸ブチルを1重量%以上含有しているので、ダンゴムシのノックダウン時間が短縮する。
【0010】
第2の発明は、第1の発明において、上記主溶剤は、エタノール及びノルマルパラフィンの少なくとも一方であることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、エタノール及びノルマルパラフィンのいずれが主溶剤であっても酪酸ブチルとの組み合わせによってダンゴムシのノックダウン時間が短縮する。
【0012】
第3の発明は、第2の発明において、上記主溶剤は、エタノールであることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、ダンゴムシのノックダウン時間がより一層短縮する。
【0014】
第4の発明は、第1から3のいずれか1つの発明において、上記殺虫成分は、フタルスリン及びレスメトリンの少なくとも一方であることを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、フタルスリンやレスメトリンが主溶剤と補助溶剤とで十分に溶解し、ダンゴムシに対して高い効力を発揮する。
【発明の効果】
【0016】
第1の発明によれば、補助溶剤を酪酸ブチルとし、補助溶剤の含有量を1重量%以上としたので、ダンゴムシのノックダウン時間を短縮させることができる。
【0017】
第2の発明によれば、エタノール及びノルマルパラフィンの少なくとも一方が主溶剤であることで、酪酸ブチルとの組み合わせによってダンゴムシのノックダウン時間を短縮させることができる。
【0018】
第3の発明によれば、ダンゴムシのノックダウン時間をより一層短縮させることができる。
【0019】
第4の発明によれば、フタルスリンやレスメトリンを主溶剤と補助溶剤とで十分に溶解させてダンゴムシに対して高い効力を発揮させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0021】
本発明の実施形態に係るダンゴムシ駆除剤は、ダンゴムシに接触させることにより殺虫効果を発揮する殺虫成分と、殺虫成分を溶解する主溶剤と、殺虫成分を溶解する補助溶剤とを少なくとも含有している。殺虫成分としては、例えばピレスロイド系の殺虫成分を使用することができ、トラロメトリン、ビフェントリン、ペルメトリン、フェノトリン、シペルメトリン、シフェノトリン、フタルスリン、レスメトリン、エトフェンプロックス、アクリナトリン、シラフルオフェンなどを挙げることができる。これらのうち、任意の1種を使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。殺虫成分としてふさわしいのは、フタルスリンとレスメトリンである。フタルスリンは、d−T80フタルスリンを挙げることができ、また、レスメトリンは、d−T80レスメトリンを挙げることができる。
【0022】
主溶剤は、例えばエタノール、ノルマルパラフィン(中央化成(株)製の溶剤 ネオチオゾールF)を挙げることができる。ダンゴムシに対する効力の観点からはエタノールの方が好ましい。エタノール及びノルマルパラフィンを混合して主溶剤として使用してもよい。
【0023】
補助溶剤は、酪酸ブチルである。酪酸ブチルの含有量は1重量%以上とされている。酪酸ブチルの含有量が1重量%未満であると、ダンゴムシのノックダウン時間を短縮する効果が得られないからである。酪酸ブチルの含有量は10重量%以上が好ましい。
【0024】
ダンゴムシ駆除剤は、ダンゴムシ駆除剤を噴射させるための噴射剤と共にエアゾール容器に収容してエアゾール製品とすることができる。エアゾール容器は従来から周知のものであるため、詳細な説明は省略するが、収容物を噴射するための噴射口を有するバルブが設けられており、このバルブを押動操作することによって収容物が所定流量で噴射されるようになっている。噴霧粒径や噴霧の有効到達距離等は、噴射剤の種類やバルブの構造、噴射口の径等で設定することができる。噴射剤は、例えば液化石油ガス(LPG)やジメチルエーテル(DME)等を用いることができる。
【0025】
次に、ダンゴムシ駆除剤の効力試験について説明する。供試剤としては、主溶剤をエタノールとしたエタノール処方の実施例1、2及び比較例1、2と、主溶剤をノルマルパラフィンとしたノルマルパラフィン処方の実施例3、4及び比較例3、4とを用意した。供試虫は、オカダンゴムシである。試験方法は、供試剤を供試虫の背面に50μl滴下し、供試剤が供試虫の背面に接触した時点から供試虫がノックダウン(仰天ないし行動停止)するまでの時間を計測した。3回の平均時間をノックダウン時間とした。
【0026】
比較例1は、溶剤としてエタノール(99%エタノール)のみ、殺虫成分としてd−T80フタルスリン(ネオピナミンフォルテ)を含有しており、補助溶剤を含有していない。エタノールの含有量は99.9重量%である。
【0027】
実施例1、2は、主溶剤としてエタノール(99%エタノール)、補助溶剤として酪酸ブチル、殺虫成分としてd−T80フタルスリンを含有している点で共通しているが、実施例1は酪酸ブチルの含有量が1.0重量%で、エタノールの含有量が98.9重量%であり、また、実施例2は酪酸ブチルの含有量が10重量%で、エタノールの含有量が89.9重量%である。
【0028】
比較例2は、主溶剤としてエタノール、補助溶剤として酪酸ブチル、殺虫成分としてd−T80フタルスリンを含有しているが、酪酸ブチルの含有量が0.1重量%である。エタノールの含有量は99.8重量%である。実施例1、2及び比較例1、2のd−T80フタルスリンの含有量は、0.1重量%である。
【0029】
比較例1のノックダウン時間は3分01秒、比較例2のノックダウン時間は3分04秒であった。つまり、酪酸ブチルの含有量が0.1重量%の場合は、酪酸ブチルが含有されていない場合と同程度のノックダウン時間であった。
【0030】
一方、実施例1のノックダウン時間は2分07秒、実施例2のノックダウン時間は1分06秒であった。従って、酪酸ブチルの含有量を1.0重量%以上とすることで、ノックダウン時間を1分程度短縮させることができる。酪酸ブチルの含有量を10重量%以上とすることで、ノックダウン時間を更に1分程度短縮させることができる。
【0031】
尚、酪酸ブチルだけを供試虫に接触させた場合には、ノックダウン時間が7分05秒であった。また、エタノールだけを供試虫に接触させた場合には、60分経過してもノックダウン状態にならなかった。
【0032】
ノルマルパラフィン処方の比較例3は、溶剤としてノルマルパラフィン(ネオチオゾール)のみ、殺虫成分としてd−T80フタルスリン(ネオピナミンフォルテ)を含有しており、補助溶剤を含有していない。ノルマルパラフィンの含有量は99.9重量%である。
【0033】
ノルマルパラフィン処方の実施例3、4は、主溶剤としてノルマルパラフィン(ネオチオゾール)、補助溶剤として酪酸ブチル、殺虫成分としてd−T80フタルスリンを含有している点で共通しているが、実施例3は酪酸ブチルの含有量が1.0重量%で、ノルマルパラフィンの含有量が98.9重量%であり、また、実施例4は酪酸ブチルの含有量が10重量%で、ノルマルパラフィンの含有量が89.9重量%である。
【0034】
ノルマルパラフィン処方の比較例4は、主溶剤としてノルマルパラフィン、補助溶剤として酪酸ブチル、殺虫成分としてd−T80フタルスリンを含有しているが、酪酸ブチルの含有量が0.1重量%である。ノルマルパラフィンの含有量は99.8重量%である。実施例3、4及び比較例3、4のd−T80フタルスリンの含有量は、0.1重量%である。
【0035】
比較例3のノックダウン時間は13分42秒、比較例4のノックダウン時間は12分02秒であった。一方、実施例3のノックダウン時間は9分10秒、実施例4のノックダウン時間は6分29秒であった。従って、酪酸ブチルの含有量を1.0重量%以上とすることで、ノックダウン時間を3分程度短縮させることができる。酪酸ブチルの含有量を10重量%以上とすることで、ノックダウン時間を更に2分以上短縮させることができる。
【0036】
尚、ノルマルパラフィンだけを供試虫に接触させた場合には、60分経過してもノックダウン状態にならなかった。
【0037】
次に、供試虫をイエバエのメスとした場合の効力試験結果について説明する。供試剤は、殺虫成分としてd−T80フタルスリンとd−T80レスメトリン、主溶剤としてノルマルパラフィン、補助溶剤として酪酸ブチルを含有した供試剤例1〜4と、殺虫成分としてd−T80フタルスリンとd−T80レスメトリン、溶剤としてノルマルパラフィンのみを含有した供試剤例5を用意した。供試剤例1の酪酸ブチルの含有量は1重量%であり、供試剤例2の酪酸ブチルの含有量は10重量%であり、供試剤例3の酪酸ブチルの含有量は30重量%であり、供試剤例4の酪酸ブチルの含有量は50重量%である。供試剤例1〜5では、d−T80フタルスリンの含有量は2.092重量%であり、d−T80レスメトリンの含有量は0.281重量%である。
【0038】
供試剤1〜5は、それぞれ噴射剤としてのLPG2.8と共にエアゾール容器に収容した。エアゾール容器中、供試剤1〜5は33.75mlであり、噴射剤は416.25mlである。供試虫は1回の試験で10匹用意し、供試剤1〜5をそれぞれ供試虫に向けて0.5秒間噴射し、噴射完了した時点から供試虫がノックダウン(落下ないし行動停止)するまでの時間を計測した。3回の平均時間をノックダウン時間とした。
【0039】
エアゾール容器から供試虫までの距離が80cmの場合、供試剤例1、2では共にノックダウン時間が25秒であり、供試剤例3ではノックダウン時間が27秒であり、供試剤例4ではノックダウン時間が35秒であった。つまり、酪酸ブチルの含有量が多いほどノックダウン時間が長くなるという、ダンゴムシに対する効力とは反対の傾向が見られた。尚、酪酸ブチルを含まない供試剤例5はノックダウン時間が34秒であった。
【0040】
エアゾール容器から供試虫までの距離が150cmの場合、供試剤例1ではノックダウン時間が43秒であり、供試剤例2ではノックダウン時間が37秒であり、供試剤例3ではノックダウン時間が24秒であり、供試剤例4ではノックダウン時間が37秒であった。酪酸ブチルを含まない供試剤例5はノックダウン時間が38秒であった。つまり、酪酸ブチルの含有量とノックダウン時間との関連性が殆どない結果になった。
【0041】
次に、供試虫をチャバネゴキブリのメスとした場合の効力試験結果について説明する。供試剤は、殺虫成分としてd−T80フタルスリンとd−T80レスメトリン、主溶剤としてノルマルパラフィン、補助溶剤として酪酸ブチルを含有した供試剤例6〜9と、殺虫成分としてd−T80フタルスリンとd−T80レスメトリン、溶剤としてノルマルパラフィンのみを含有した供試剤例10を用意した。供試剤例6の酪酸ブチルの含有量は1重量%であり、供試剤例7の酪酸ブチルの含有量は10重量%であり、供試剤例8の酪酸ブチルの含有量は30重量%であり、供試剤例9の酪酸ブチルの含有量は50重量%である。供試剤例6〜10では、d−T80フタルスリンの含有量は0.523重量%であり、d−T80レスメトリンの含有量は0.070重量%である。
【0042】
供試剤6〜10は、それぞれ噴射剤としてのLPG2.8と共にエアゾール容器に収容した。エアゾール容器中、供試剤6〜10は33.75mlであり、噴射剤は416.25mlである。供試虫は1回の試験で10匹用意し、供試剤6〜10をそれぞれ供試虫に向けて0.5秒間噴射し、噴射完了した時点から供試虫がノックダウン(仰天ないし行動停止)するまでの時間を計測した。3回の平均時間をノックダウン時間とした。
【0043】
エアゾール容器から供試虫までの距離は40cmとした。供試剤例6、7では共にノックダウン時間が25秒であり、供試剤例8ではノックダウン時間が26秒であり、供試剤例9ではノックダウン時間が34秒であった。つまり、酪酸ブチルの含有量が多いほどノックダウン時間が長くなるという、ダンゴムシに対する効力とは反対の傾向が見られた。尚、酪酸ブチルを含まない供試剤例10はノックダウン時間が23秒であった。
【0044】
以上説明したように、エタノールやノルマルパラフィン等の主溶剤と、酪酸ブチルからなる補助溶剤とを含有したダンゴムシ駆除剤とし、酪酸ブチルの含有量を1重量%以上としたので、ダンゴムシのノックダウン時間を短縮させることができる。
【0045】
また、エタノール及びノルマルパラフィンの少なくとも一方が主溶剤であることで、酪酸ブチルとの組み合わせによってダンゴムシのノックダウン時間を短縮させることができる。
【0046】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0047】
以上説明したように、本発明は、ダンゴムシを駆除する場合に使用することができる。