(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
作業室と、前記作業室の前面に設けた前面扉を有し、循環用ファンにより、エアフィルタおよびパンチング板を介して前記作業室に清浄な空気が供給されるアイソレータであって、
前記エアフィルタと前記パンチング板との間の領域に、少なくとも2つの滅菌ガス投入口を有する滅菌ガス噴霧パイプを配置し、
前記滅菌ガス噴霧パイプは、大パイプと、当該大パイプの中に配置した小パイプからなり、大パイプと小パイプの滅菌ガスの排出口の位置を異ならせたものであることを特徴とするアイソレータ。
【背景技術】
【0002】
病源体等の研究や、再生医療等で細胞や微生物を取り扱う場合、アイソレータを使用する。アイソレータでは、作業者が作業室の外部から作業用のグローブを介して作業を行うことができる。例えば、再生医療等で、取り扱う患者組織が感染症に感染している場合があり、その感染症の病原体等が次に取り扱う患者組織に感染しないように、取り扱う患者組織を変更する前に作業室内を清掃、消毒して無菌の状態にする必要がある。また、研究ではアイソレータの作業室で病源体等を取り扱う。病源体等とは、ウイルス、細菌、真菌などを示すが、それぞれ固有の性質が有り、病源体等が、他の病原体等に影響を及ぼす場合が有る。同一のアイソレータ内で取り扱う病原体等の種類を変更する場合、作業室内や作業に用いるグローブを清掃、消毒して滅菌する必要がある。滅菌は、作業室やグローブに滅菌ガスを供給することにより、行われる。
【0003】
アイソレータの滅菌の技術として、特許文献1には、一方の端部が滅菌物質供給管を介して作業室に連結され、他方の端部が滅菌物質循環路を介して作業室と気体排出部との間の気体流路に連結された滅菌物質供給部を備え、滅菌時に、過酸化水素等の滅菌物質を作業室に供給するアイソレータが、記載されている。また、特許文献2には、除染時に、除染ガス発生装置で発生させた過酸化水素ガスをファンによりHEPAフィルタ等のエアフィルタを通して作業室に供給するアイソレータが、記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施例の説明に先立って、本発明が適用されるアイソレータ装置を説明する。
図1はアイソレータ装置の一例を示す正面図、
図2は左側中央断面図(
図1のA−A矢指図)である。
【0012】
アイソレータ本室10について、ケース(筐体)内には、病原体等の試料を取り扱い作業を行う作業室12が設けられている。ケースの上部には給気用気密ダンパ(図示せず)が設けられ、アイソレータの外部から空気を取り入れる。作業室12の上部には、循環用ファン16が設けられ、その下流側に循環HEPAフィルタ18およびパンチング板20が設けられて、清浄な整流された空気が作業室12に供給される。作業室12の下部にはスリットが設けられ、スリットから排出された空気は、作業室の側面および背面に設けられたダクトを通って循環用ファン16の上流側に戻り、空気が循環する。空気の一部は、排気用ファン26により排気HEPAフィルタ27へ送られ、ケースの上面に設けられた排気用気密ダンパ22から、外部へ排出される。作業室12の前面側には、ガラスや樹脂製の前面扉23が取り付けられ、前面扉23には、開口が開けられ、作業用グローブを取り付けるための複数(図では、4つ)のグローブポート24が設けられている。そして、グローブポート24には、作業室内に、作業者が試料を取り扱うグローブ25が取り付けられる(
図2)。
図1では、循環用ファン16、循環HEPAフィルタ18、排気用ファン26、排気HEPAフィルタ27、排気用気密ダンパ22等が左右対称に2つずつ設けられている。
【0013】
作業室12の側面には、連結部48を介して、パスボックス40が取り付けられている。パスボックス40には、上部に循環ファン42およびHEPAフィルタ44が設けられて、パスボックスの動作時に空気が循環するように構成されている。作業室12のパスボックス側には、パスボックス側開閉扉が設けられ、パスボックス40を通って試料等の搬入・搬出が行われるようになっている。
【0014】
アイソレータ装置は、滅菌時に使用する滅菌ガス発生装置50を備えており、コンディション(行き)経路54から過酸化水素ガスなどの滅菌ガスをアイソレータ本室10に供給する。滅菌ガスは、コンディション(戻り)経路52を通って滅菌ガス発生装置50に戻る。アイソレータ本室10には、図示していないが、滅菌工程終了後に滅菌ガスを除去するためのエアレーション経路が設けられている。なお、エアレーション経路には、滅菌ガスを吸着する触媒ユニットが設けられている。
【0015】
図1および
図2において、白抜きの矢印は、作業室内で試料を処理する通常作業時の気流方向(空気の流れ)を示す。給気用気密ダンパ(図示せず)によりアイソレータの外部から空気を取り入れる。循環用ファン16により加圧チャンバに空気を送り、下流側の循環HEPAフィルタ18およびパンチング板20により、清浄な整列した空気を作業室12内へ送る。作業室内の空気は、作業室の下部に設けたスリットから排出され、作業室の側面および背面に設けられたダクトを通って循環用ファン16の上流側へ戻って、循環する。空気の一部は、排気用ファン26により、排気HEPAフィルタ27を通って排気用気密ダンパ22から外部へ排出される。このように、清浄な整列した空気を作業室12へ供給することにより、作業中の試料の汚染などを防止することができる。
【0016】
取り扱う患者組織を変更する場合、取り扱う病原体等の種類を変更する場合などには、作業室内や作業に用いるグローブを滅菌する必要がある。滅菌時には給気用気密ダンパおよび排気用気密ダンパ22を閉じて、アイソレータの外部との空気の流れを遮断する。滅菌ガス発生装置50で発生した、例えば過酸化水素ガスを、コンディション(行き)経路54からアイソレータ本室の流路に供給する。滅菌ガスは循環用ファン16により加圧チャンバ内へ送られ、循環HEPAフィルタ18およびパンチング板20を通って、作業室12内へ送られる。そして、滅菌ガスは、コンディション(戻り)経路52を通って滅菌ガス発生装置50へ戻る。このように、滅菌ガスを作業室を含むアイソレータへ循環させることにより、作業室を含むアイソレータや作業用のグローブの滅菌を行うことができる。
【0017】
滅菌は、以下のように行われる。
(1)除湿工程
乾燥空気により湿度を下げる。湿度を下げることにより、引き続くコンディション工程およびデコンタミネーション工程中、滅菌ガス(例えば、過酸化水素ガス)の必要濃度を飽和レベル以下に保つ。リターン空気は乾燥カートリッジを通って乾燥加熱される。
(2)コンディション工程
滅菌剤が気流内に注入されている間、滅菌ガスが機器から離れる直前まで乾燥空気が循環し続ける。コンディション工程は、目標滅菌濃度に速く達するための工程である。
(3)デコンタミネーション工程
特定時間、滅菌剤でアイソレータ内全体の滅菌ガス濃度を維持し、作業室や作業用のグローブの滅菌を行う。
(4)エアレーション工程
滅菌剤の注入を停止し、滅菌ガスを吸着する触媒ユニットを備えるエアレーション経路を接続する。そして、一定時間、乾燥空気を循環させ、アイソレータと接続ホース内の滅菌ガス濃度を低くする。
【0018】
アイソレータにおいて、滅菌時には、短時間で滅菌ガスを作業室全体に行き渡らせ、滅菌時間を短縮する必要がある。
【0019】
以下、この課題を解決するための本発明の実施例を、図面を用いて説明する。なお、実施例を説明するための各図において、同一の構成要素にはなるべく同一の名称、符号を付して、その繰り返しの説明を省略する。
【実施例1】
【0020】
図3に、本発明の実施例1のアイソレータの、左側中央断面図を示す。また、
図4に、
図3の点線で囲んだ部分の拡大図、すなわち、滅菌ガスの取り込み位置付近の拡大図を示す。
【0021】
図3において、滅菌ガス発生装置50からの滅菌ガスは、コンディション(行き)経路54を通って、循環HEPAフィルタ18とパンチング板20の間の領域30へ供給される。
図4の拡大図に示すように、循環HEPAフィルタ18とパンチング板20の間の領域30には滅菌ガス噴霧パイプ32が配置されている。なお、図では滅菌ガス噴霧パイプ32がアイソレータの前後の方向に配置されているが、アイソレータの左右の方向に配置しても良い。滅菌ガス噴霧パイプ32には、位置を分散させて、例えば
図4では前後に離して、少なくとも2つの滅菌ガスの噴出口を設ける。
【0022】
図5Aに、滅菌ガス噴霧パイプ32の一例を示す。滅菌ガス噴霧パイプ32には、位置を離して複数の孔33が空けられており、滅菌ガス噴霧パイプ32の一端から供給された滅菌ガスはこれらの孔から噴霧される。
図5Bに、滅菌ガス噴霧パイプ32の他の一例を示す。滅菌ガス噴霧パイプ32は、大パイプ36の中に小パイプ37を配置して構成されており、滅菌ガス噴霧パイプ32の一端から供給された滅菌ガスは、大パイプ36および小パイプ37の他端から噴霧される。大パイプ36および小パイプ37の長さが異なっており、領域30の離れた場所に滅菌ガスを噴霧することができる。
【0023】
循環HEPAフィルタ18を通って循環HEPAフィルタの2次側に出た気流は、循環HEPAフィルタ18とパンチング板20の間の領域30において、パンチング板20により乱され、乱流となる。ここで、パンチング板とは、作業室へ整流した空気を吹き出すための複数の穴が空けられた板である。循環HEPAフィルタ18とパンチング板20の間の領域30に、少なくとも2つの滅菌ガス投入口を設けることにより、投入した滅菌ガスが乱流により撹拌される。そして、パンチング板20を通して作業室12に供給することにより、滅菌ガスを短時間で作業室全体に行き渡らせることができる。
【0024】
なお、図では、滅菌ガス噴霧パイプ32を1つ示しているが、複数本分散して設けても良い。滅菌ガスの投入口を増やすことにより、より均一に作業室に滅菌ガスを行き渡らせることができる。
【0025】
また、本実施例では、フィルタとしてHEPAフィルタ(High Efficiency Particulate Air Filter)で説明したが、塵埃、病原体等をろ過した清浄空気を供給できるエアフィルタであれば良い。
【実施例2】
【0026】
図6Aに、本発明の実施例2のアイソレータの、左側中央断面図を示す。また、
図6Bに、
図6AのB−B’矢指図、すなわち、滅菌ガス投入口付近の平面断面図を示す。
【0027】
本実施例は、循環HEPAフィルタ18とパンチング板20の間の領域30であって、領域30の背壁側に滅菌ガス投入口38を設けたものである。本実施例においても、循環HEPAフィルタ18とパンチング板20の間の領域30の乱流により、投入した滅菌ガスが撹拌され、パンチング板20を通して作業室12に供給することにより、滅菌ガスを作業室全体に行き渡らせることができる。
【0028】
図6Bでは、滅菌ガス投入口38の位置を、2つのパンチング板20の背面側のそれぞれ中央としたが、滅菌ガス投入口38の位置を、領域30の背壁側の両隅部としても良い。また、領域30の四隅に、滅菌ガス投入口38を配置することにより、更に滅菌ガスの拡散性が高くなる。
【0029】
さらに、滅菌ガス投入口38付近の風速を高め、風速勾配を付けることにより、乱流を大きくし、更に滅菌ガスを撹拌することができる。
【実施例3】
【0030】
図7に、本発明の実施例3のアイソレータの、左側中央断面図を示す。本実施例は滅菌ガスの投入経路を切り替えて、変更可能としたものである。
【0031】
滅菌ガス発生装置50に接続したコンディション(行き)経路54に三方弁39を設ける。そして、三方弁39の出口の1つは、循環HEPAフィルタ18の2次側(吹き出し側)、すなわち循環HEPAフィルタ18とパンチング板20の間の領域30に接続し、他の1つは、循環HEPAフィルタ18の1次側、すなわち循環用ファン16の吸い込み口側に接続する。この構成により、滅菌ガス発生装置50で発生した滅菌ガスを、循環HEPAフィルタ18とパンチング板20の間の領域30と、循環用ファン16の吸い込み口側に切り替えて供給することができる。
【0032】
滅菌ガスの噴霧時の動作は、次の通りである。制御装置(図示せず)により、始めに、三方弁39を、循環HEPAフィルタ18の1次側、すなわち循環用ファン16の吸い込み口側となるように切り替えて、滅菌ガスを供給する。このとき、制御装置は、循環用ファン16の回転数を抑えるように制御する。循環用ファン16の流量を抑え、循環HEPAフィルタ18の捕集効率を確保して、滅菌対象物が多く付着している可能性の高い循環HEPAフィルタのろ材を滅菌する。一定時間経過後に、制御装置は、三方弁39を循環HEPAフィルタ18の2次側、すなわち循環HEPAフィルタ18とパンチング板20の間の領域30に切り替える。そして、制御装置は、循環用ファン16の回転数を増やすように制御する。循環用ファン16の流量を上げ、領域30で滅菌ガスを拡散させ、作業室全体を効率良く滅菌することで、滅菌時間を短縮することができる。
【0033】
なお、本実施例では滅菌ガス投入経路の切り替えに三方弁を用いたが、循環HEPAフィルタの1次側と2次側とに滅菌ガスの投入経路を切り替えることができる手段であれば良い。
【実施例4】
【0034】
図8Aに本発明の実施例4のアイソレータの正面図を、また、
図8Bに上部平面図を示す。本実施例は、滅菌時間、特にエアレーション工程の時間を短縮できるようにしたものである。
【0035】
排気用気密ダンパ22が閉じた場合の、排気用ファン26による気流の流路にH
2O
2触媒ユニット28を配置し、H
2O
2触媒ユニット28を通過した気流が循環用ファン16の吸い込み口に引き込まれるように構成する。
【0036】
滅菌時には、排気用気密ダンパ22が全閉する。滅菌の際のエアレーション工程時に、図の矢印で示すように、排気用ファン26からの気流は、排気用気密ダンパ22の両側のH
2O
2触媒ユニット28に流れ、H
2O
2触媒ユニット28を通った気流は循環用ファン16の吸い込み口に引き込まれる。H
2O
2触媒ユニット28として、1パスで1ppm以下までH
2O
2ガス(滅菌ガス)の濃度を下げる触媒を用いることにより、濃度が1ppm以下となった過酸化水素ガスをほとんど含まない空気は循環用ファン16に引かれ、残存ガスを吸着した循環HEPAフィルタ18のろ材を通る。そのため、効率良くH
2O
2滅菌ガスの濃度を下げ、エアレ−ション工程の滅菌時間を短縮することができる。また、循環HEPAフィルタ18のろ材のH
2O
2滅菌ガスの残存も抑制することができる。
【0037】
図9は、実施例4の変形例を示すものである。この変形例では、H
2O
2触媒ユニット28の数を増やし、並列に配置する。エアレーション時に排気用ファン26の回転数を上げて、風量を増加することにより、エアレーション時間を更に短縮することができる。