特許第6738340号(P6738340)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6738340
(24)【登録日】2020年7月21日
(45)【発行日】2020年8月12日
(54)【発明の名称】新規なEGFR結合タンパク質
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/12 20060101AFI20200730BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20200730BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20200730BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20200730BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20200730BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20200730BHJP
   C07K 14/71 20060101ALI20200730BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20200730BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20200730BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20200730BHJP
   A61K 45/08 20060101ALI20200730BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20200730BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20200730BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20200730BHJP
【FI】
   C12N15/12ZNA
   C12N1/15
   C12N1/19
   C12N5/10
   C12N1/21
   C12P21/02 C
   C07K14/71
   A61K38/16
   A61K45/00
   A61K48/00
   A61K45/08
   A61K35/12
   A61P35/00
   A61P43/00 111
【請求項の数】16
【全頁数】40
(21)【出願番号】特願2017-541016(P2017-541016)
(86)(22)【出願日】2016年2月4日
(65)【公表番号】特表2018-505675(P2018-505675A)
(43)【公表日】2018年3月1日
(86)【国際出願番号】EP2016052408
(87)【国際公開番号】WO2016124702
(87)【国際公開日】20160811
【審査請求日】2019年1月15日
(31)【優先権主張番号】15154159.6
(32)【優先日】2015年2月6日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】513311653
【氏名又は名称】ナフィゴ プロテインズ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Navigo Proteins GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ボッセ−ドーネッケ,エーファ
(72)【発明者】
【氏名】ゼッテレ,フロリアン
(72)【発明者】
【氏名】フィードラー,エリク
(72)【発明者】
【氏名】ハウプツ,ウルリッヒ
【審査官】 松本 淳
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−513376(JP,A)
【文献】 特表2008−500953(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/059011(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C07K 1/00−19/00
C12N 1/00− 7/08
C12P 1/00−41/00
A61K
A61P
CAplus/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビキチン変異タンパク質を含む上皮細胞成長因子受容体(EGFR結合タンパク質であって前記ユビキチン変異タンパク質が、
(a)PDI、VDV、及びADIから選択される、ユビキチン(配列番号:1)又はジユビキチン(配列番号:4)の64位、65位、及び66位に対応する位置の3アミノ酸残基モチーフ;
(b)R、Q、H、G、S、T、V、及びIから選択される、62位に対応するアミノ酸;
(c)N、H、A、S、R、E、T、及びQから選択される、63位に対応するアミノ酸;
(d)配列番号:1に対して、又は配列番号:4に対して80%乃至93%の配列相同性;および
(e)EGFRに対して700nM未満の結合親和性(K
を有することを特徴とするEGFR結合タンパク質。
【請求項2】
請求項1に記載のEGFR結合タンパク質において、更なるアミノ酸修飾が、さらに置換、及び選択的に2−10のアミノ酸の挿入を含むことを特徴とするEGFR結合タンパク質。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のEGFR結合タンパク質において、前記EGFR結合タンパク質が、抗−EGFRモノクローナル抗体セツキシマブと異なるEGFRエピトープに結合することを特徴とするEGFR結合タンパク質。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のEGFR結合タンパク質において、前記EGFR結合タンパク質が、同じ若しくは異なる標的特異性の、及び/又はEGFRの同じ若しくは異なるエピトープへ結合する、少なくとも二つのユビキチン変異タンパク質を含むことを特徴とするEGFR結合タンパク質。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のEGFR結合タンパク質において、前記EGFR結合タンパク質が、ペプチドリンカー結合された二つの同一のあるいは二つの異なるユビキチン変異タンパク質の融合タンパク質を含むことを特徴とするEGFR結合タンパク質。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のEGFR結合タンパク質において、前記ユビキチン変異タンパク質が、RNPDI、QNPDI、RHPDI、QHPDI、QAPDI、QQPDI、GEPDI、GHPDI、IHADI、HHPDI、RRVDV、SAPDI、SHPDI、THPDI、TSPDI、VNPDI、及びQSPDIから選択される、62位、63位、64位、65位、及び66位に対応する位置のアミノ酸配列モチーフを有することを特徴とするEGFR結合タンパク質。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載のEGFR結合タンパク質において、前記ユビキチン変異タンパク質が、配列番号:8−73からなる群の少なくとも一の員から選択されるアミノ酸配列を含むことを特徴とするEGFR結合タンパク質。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載のEGFR結合タンパク質がさらに(i)ポリエチレングリコール、ヒト血清アルブミン、抗ヒト血清アルブミン、アルブミン−結合ペプチド、ランダムコイルを形成するポリマー配列、免疫グロブリン若しくは免疫グロブリン断片、又はポリサッカライド、から選択される血清半減期を調節する薬物動態部分;及び(ii)選択的に、モノクローナル抗体若しくはこのモノクローナル抗体の結合特異性を有する断片、サイトカイン、ケモカイン、細胞毒性化合物、酵素、又はこれらの誘導体、又は放射性核種から選択される治療活性成分;及び(iii)選択的に、蛍光化合物、光感光剤、放射性核種から選択される診断用成分;からなる群(i)、(ii)及び(iii)の少なくとも一員から選択される少なくとも一の追加の分子を含むことを特徴とするEGFR結合タンパク質。
【請求項9】
請求項8に記載のEGFR結合タンパク質において、モノクローナル抗体セツキシマブに融合した請求項1のユビキチン変異タンパク質を含むことを特徴とするEGFR結合タンパク質。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載のEGFR結合タンパク質をコードする核酸分子。
【請求項11】
請求項10に記載の核酸分子を含むベクター。
【請求項12】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載のEGFR結合タンパク質、請求項10に記載の核酸分子、又は請求項11に記載のベクターを含む宿主細胞又は非ヒト宿主。
【請求項13】
医学において使用するための医薬組成物であって前記医薬組成物が、
(a)請求項1乃至9のいずれか1項に記載のEGFR結合タンパク質、又は請求項10に記載の核酸分子、又は請求項11に記載のベクター、又は請求項12に記載の宿主細胞;及び
(b)医薬的に受容可能なキャリア
を含むことを特徴とする医薬組成物
【請求項14】
癌の治療に使用するための、請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載のEGFR結合タンパク質、又は請求項10に記載の核酸分子、又は請求項11に記載のベクター、又は請求項12に記載の宿主細胞、を含む組成物。
【請求項16】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載のEGFR結合タンパク質の製造方法において、前記EGFR結合タンパク質を取得するために適切な条件下で請求項12に記載の宿主細胞を培養するステップ、及び選択的に、前記EGFR結合タンパク質を単離するステップを具えることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユビキチン変異タンパク質(Affilin(登録商標))、好ましくは、特徴的な三つのアミノ酸残基モチーフを有するAffilin分子をベースに新した新規な結合分子に関する。本発明は、さらに、抗EGFRモノクローナル抗体セツキシマブ(Cetuximab)と異なるエピトープに結合するEGFR結合分子に関する。本発明は、血中半減期を調整する薬物動態に関する部分あるいは治療的又は診断的活性成分に、融合あるいは結合EGFR結合タンパク質に関する。本発明は更に、医薬の分野におけるこれらのEGFR結合タンパク質の使用、特に、がんの診断または治療における使用に関する。
【背景技術】
【0002】
非免疫グロブリンベースの結合剤は、病気の診断、予防、及び治療の医薬分野で有益に使用できる。病気の診断、予防、及び治療における抗体から生じる不利益を解決する策は、より小さい分子サイズと組み合わせた特異的ターゲットに対して、同等のあるいはむしろより良好な親和性と特異性を持つポリペプチドを提供して組織透過性を改良できるようにし、このようなより良好な生体内分布特性を有することである。
【0003】
非免疫グロブリン由来の小タンパク質のうち、修飾ユビキチンベースの分子は、抗体に比較して、分子が代替の治療及び診断可能性を期待させるため、特に興味深い。ユビキチンは、すべて既知の真核細胞中に存在する、よく保存された、小さい、単ドメインタンパク質であり、全脊椎動物中に100%維持されている。さらに、ユビキチンは血清中に天然に生じ、免疫原性を低下させる。このことは、様々な種における毒物学と有効性の研究に必要な臨床前の開発を容易にする。ターゲット抗原に特異的なユビキチン変異タンパク質は従来技術で述べられている。このようなユビキチン変異タンパク質は、Affilin(登録商標)(Scil Proteins社の登録商標)分子として知られている。ユビキチン変異タンパク質とこれらの変異タンパク質を製造する方法は、例えば、EP1626985B1、EP237958B1、EP2094845B1、及びWO2012/172055などのいくつかの特許に記載されている。Affilinタンパク質は、所望のターゲットに対する結合親和性を新たに生成するように操作され、これらのターゲットを様々なアプリケーションに理想的なものにする。
【0004】
Affilinプラットフォームの重要な特徴は、多機能部分を遺伝子組み換え又は化学修飾によって組み合わせることができる柔軟性とモジュール方式であり、結果としてのAffilin分子の生物学的、生理学的、及び機能的特性を調整することが可能である。Affilin分子(ユビキチン変異タンパク質)は、高安定性、親和性及び特異性といった特徴を含む最適な機能性と開発可能性を求めて設計されている。これらの独自の特徴が、Affilin分子を、抗体が制限されているアプリケーションに対して魅力的な選択を作り、したがって、生物学的製剤の利用を拡大している。
【0005】
EGFRは、細胞増殖及び分化を仲介するレセプタチロシンキナーゼである。ヒト上皮細胞成長因子レセプタ(EGFR)の発現増加は、多くの腫瘍、特に悪性腫瘍に見られる。EGFRは、とりわけ肺がん、頭部及び頸部のがん、及び大腸がんに関連することが知られている。EGFRには3つの特徴ドメインがある。細胞外リガンド結合ドメイン、膜透過ドメイン、及び細胞内チロシンキナーゼドメインである。リガンドが細胞外リガンド結合ドメインに結合すると、EGFRは二量化して細胞内チロシンキナーゼを活性化し、細胞の増殖、分化、遊走、又は自然死を誘発する。EGFRを調整することは、がん治療の発達に重要なアプローチである一方で、EGFRに結合する治療用抗EGFR抗体と、これによるレセプタの機能を調整することは、例えば大腸がんなどのがんの治療に有効である。EGFRに結合するモノクローナル抗体の一例は、セツキシマブ(Cetuximab)である。
【0006】
しかしながら、抗体は、複雑な分子構造、大型で難しい製造方法といった主な不利益がある。さらに、現在入手可能なEGFR−結合分子を使った治療疾患の治療はすべての患者に有効ではなく、激しい副作用を伴うことがある。もう一つの大きな不利益は、セツキシマブ治療に対してある種の腫瘍が抵抗力を持つようになっていることである。
【0007】
がんは、世界中で死亡原因の上位の代表的なものである。いうまでもなく、特に効果的な腫瘍をターゲットにした治療と診断用の改良した新規薬剤で有効にがんを治療する医学的必要性が強い。疾患の診断、予防、及び治療といった医療分野で有益に使用することができる非免疫グロブリンベースの結合剤などのより小さくより複雑でない分子で抗体を置換するという必要性がある。疾患の診断、予防、治療における抗体から発する不利益の解決法は、例えば、EGFRなどの特定のターゲットに対する相当の親和性と特異性を持つポリぺプチドを、単純な分子操作性並びに改良した組織浸透性と、これによってより良い生体内分布特性を有する構造と組み合わせて提供することである。
【0008】
セツキシマブ治療に対するある種の腫瘍の抵抗力の発達という不利益に対する更なる解決策は、セツキシマブと異なるあるいはオーバーラップしないエピトープに結合するEGFR結合分子を提供することである。診断及び治療のアプリケーションに適した新規なEGFR結合分子は、機能的かつ開発可能であり、高安定性、親和性及び特異性などの特徴を具えていなくてはならない。小さい1価の結合剤も生物物理学的研究を改良できる。このような小さい結合剤は、治療的アプローチに加えて、EGFRの局所化と取引を研究する診断アプローチにおけるインビボでの撮像に有益となりうる。したがって、本発明の目的は、がんなどの様々な疾病の治療と診断における新しい改良された戦略のための新規な分子を提供することである。特に、新規で安定しており、EGFRに対する親和性と特異性が高い非免疫グロブリンタンパク質を提供することが本発明の一つの目的である。本発明は、抗体に比べてサイズが小さく、分子構造が簡単である(抗体が4鎖であるのに対して、1鎖)という利点があり、全機能について遺伝翻訳後修飾が不要である、小さな結合タンパク質(Affilin)を提供する。これらの要因は、簡単な遺伝子操作並びに容易な製造及び精製方法を含めて、分子の操作容易性に寄与する。
【0009】
本発明のEGFR結合分子の主な利点は、セツキシマブなどの確立された抗体と異なる(オーバーラップしない)EGFRレセプタのエピトープに結合することである。異なる結合部位の好ましい効果は、これらの新規EGFR結合分子が、ある種の腫瘍細胞のセツキシマブに対する抵抗力に打ち勝つことである。さらに、本発明のEGFR結合分子の、セツキシマブ以外の異なるエピトープへの結合が、様々な生物学的反応を誘発することである。
【0010】
本発明は、特定のEGFR結合タンパク質についての例を提供することによって上述のニーズに合致する。上述した目的及び利点は、本出願の独立請求項の主題によって達成される。本発明の好ましい実施例は、従属請求項並びに以下の説明、例、及び図面に含まれている。上述の要旨は、かならずしも本発明によって解決されるすべての問題を述べたものではない。
【発明の概要】
【0011】
本発明の第1の態様では、EGFR結合タンパク質が、上皮細胞成長因子受容体(EGFR)に対して700nMより少ない結合親和性(K)を伴うユビキチン変異タンパク質(Affilin)を含む、又はユビキチン変異タンパク質(Affilin)からなり、このユビキチン変異タンパク質がアミノ酸配列モチーフを含み、ユビキチン64位のアミノ酸がP、V、及びAから選択され、ユビキチン65位のアミノ酸がD及びEから選択され、ユビキチン66位のアミノ酸がI、V、A、M、F、Y、W、及びLから選択され、ユビキチン変異タンパク質がユビキチン(配列番号:1)または、ジユビキチン(配列番号:4)に80%乃至93%の相同性がある。したがって、本発明の第1の態様は、アミノ酸配列を含むユビキチン変異タンパク質を含むEGFR結合タンパク質に関するものであり、ここで、配列番号:3のX62、X63、X64、X65、及びX66に対応するアミノ酸62−66から選択された3つのアミノ酸が、アミノ酸配列QKESTに比較して置換されており、ユビキチン変異タンパク質は配列番号:3に少なくとも90%の配列相同性を有する。
【0012】
第2の態様では、本発明は、EGFR結合ユビキチンに関するものであり、64位、65位、66位のアミノ酸配列が、アミノ酸P、D、及びI、又はアミノ酸V、D、及びI、又はアミノ酸A、D、及びI、又は、アミノ酸V、D、及びV、又はアミノ酸P、D、及びVから選択される(「PDIモチーフ」:アミノ酸配列PDI、VDI、VDV、PDV、又はADIを含む)。本発明の一の態様では、EGFR結合タンパク質が、ユビキチン変異タンパク質を含み、62位のアミノ酸がR、Q、H、K、G、S、T、N、V、I及びWから選択され、63位のアミノ酸がN、H、A、S、R、E、T、Q及びKから選択される。
【0013】
第3の態様では、本発明は、抗EGFRモノクローナル抗体セツキシマブと異なるあるいはこれとオーバーラップしないEGFRエピトープに結合するEGFR結合タンパク質に関する。
【0014】
本発明の更なる態様は、同じ(例えば、ホモ−ダイマー)か、あるいは異なる(例えば、ヘテロ−ダイマー)ターゲット特異性の少なくとも二つのユビキチン変異タンパク質を含む、又はこれからなり、及び/又は同じ(オーバーラップした)又は異なる(オーバーラップしていない)EGFRのエピトープに結合する、EGFR結合タンパク質に関する。
【0015】
本発明の更なる態様は、配列番号s:8−73及び90−106及び111−112からなる群の少なくとも一の員から選択されたアミノ酸配列、または配列番号s:8−73及び90−106及び111−112の一またはそれ以上のアミノ酸配列と少なくとも80%の配列相同性を示すアミノ酸配列を含むユビキシン変異タンパク質、あるいはこれからなるEGFR結合タンパク質に関する。
【0016】
本発明の更なる態様は、少なくとも一の追加分子、好ましくは、(i)例えば、ポリエチレングリコール、ヒト血清アルブミン(HSA)、抗ヒト血清アルブミン結合タンパク質、アルブミン−結合ペプチド、ランダムコイル形成ポリマー配列、免疫グロブリン又は免疫グロブリン断片、又はポリサッカライドから選択された血清血中半減期を調節する薬物動態部分、及び(ii)選択的に、例えば、モノクローナル抗体又はこのモノクローナル抗体の結合特異性を有するその断片、サイトカイン、ケモカイン、細胞毒性成分、酵素、又はこれらの派生物、又は放射性核種から選択された治療効果のある成分、及び(iii)選択的に、例えば、蛍光成分、光増感剤、又は放射性核種から選択された診断成分、からなる(i)、(ii)、(iii)群の少なくとも一の員から選択された、少なくとも一の追加の分子を含む、EGFR結合ユビキチン変異タンパク質に関する。
【0017】
本発明はまた、更なる態様において、本発明のユビキチン変異タンパク質を含む又はこれからなるEGFR結合タンパク質をエンコードする核酸、並びにこの核酸を含むベクター、及び、このベクターを含む宿主細胞を提供する。
【0018】
別の態様は、診断又は薬物治療用、好ましくはがんの診断又は薬物治療用のEGFRに結合する本発明のユビキチン変異タンパク質を含む、又はこれからなるEGFR結合タンパク質、又は本発明のユビキチン変異タンパク質を含む、又はこれからなるEGFR結合タンパク質をエンコードする核酸分子、又は本発明のユビキチン変異タンパク質を含む、又はこれからなるEGFR結合タンパク質を含むベクター、又は、本発明のユビキチン変異タンパク質を含む、又はこれからなるEGFR結合タンパク質を含む宿主細胞、又は、本発明のユビキチン変異タンパク質を含む又はこれからなるEGFR結合タンパク質を含む非ヒト宿主、に関する。
【0019】
別の態様は、好ましくはがんの診断又は治療用の本発明のEGFR結合タンパク質、本発明の核酸分子、本発明のベクター、又は本発明の宿主細胞に関する。
【0020】
本発明の別の態様は、上述した本発明のいずれかの態様のユビキチン変異タンパク質(Affilin)を含む又はこれからなるEGFR結合タンパク質の製造方法に関し、この方法は、適宜の条件下で宿主細胞を培養するステップと、選択的に、製造したEGFR結合ユビキチン変異タンパク質を分離するステップと、を具える。
【0021】
本発明の概要は、必ずしも本発明のすべての特徴を述べているわけではない。その他の実施例は、以下に述べる詳細な説明を検討することで明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、抗EGFRAffilin分子と、EGFR結合Affilin分子の生化学特性を示す。Affilin分子のEGFRに対する結合親和性(K)と結合データをSPR(Biacore)から取得し、第5コラムに示す。温度安定性は第6コラムに示す(DSF)。非修飾ユビキチンの62位、63位、64位、65位及び66位における置換は、最終コラムに示されている。すべてのアッセイを実施例においてさらに説明する。一のユビキチン部分を有するAffilin:ユビキチンのN−末端ループ領域に挿入された6つのアミノ酸が、表の第3コラムのかっこの中に示されている。ユビキチンの62−66位における置換が、表の第3コラムのかっこの後に示されており、さらに、表の最後のコラムに示されている。EGFR−結合に関連する更なる置換はいくつかの変異体についてリストに挙げられている(第4コラム)。すべての変異体は、ユビキチンの64位、65位、66位における3つのアミノ酸(PDIモチーフ)の特徴アミノ酸残基モチーフを有する。配列番号s:8−52は、EGFRに結合するAffilin分子であり、野生型ユビキチンの64位、65位、66位にPDIモチーフを有する。2つのユビキチン部分を含むAffilin:配列番号s:53−73を有するAffilin分子は、アミノ酸残基6及び8と、各部分の残基62、63、64、65、66が置換された2つの異なるAffilin部分を含むAffilin分子に対応する(表の第3コラムに示す)。PDIモチーフは、ユビキチン変異タンパク質の第1部分に位置している。PDIモチーフを持たない二つのタンパク質(Affilin139989とAffilin138840)は、細胞外EGFRに結合しない。
図2図2は、EGFR−Affilin分子の機能特性を示す。この図は、FACS分析によって決定された体外EGFR発現CHO−K1細胞への結合を示す。これらの細胞は、EGFR結合能力を試験するモデルシステムとして使用されている。Affilin分子は、CHO−K1−EGFR細胞上で結合を示し、コントロール細胞では活性ではない。PDIモチーフ(又はセツキシマブ)を有するEGFR結合Affilin分子は、黒で示されており、PBSコントロールはグレーで示されている。細胞のEGFR結合は、すべての結合分子について確認された(図2B Affilin139756(配列番号:50)、図2C Affilin139791(配列番号:49)、図2D Affilin139819(配列番号:39)、及び図2H Affilin142265(配列番号:75))。PDIモチーフのないAffilinについては結合がないか、弱い結合が観察された(Affilin139989、配列番号:76、図2E)。セツキシマブは、EGFR発現の陽性コントロールとして作用する(図2A)。図2Fは、139819(配列番号:39)についての陰性コントロール細胞への非結合を示す、図2Gはセツキシマブへの非結合を示す。
図3図3は、Affilin濃度が低いAffilin139819(配列番号:39)のFACS分析を示す。500nM(図3a)、50nM(図3B)、5nM(図3C)、及び0.5nM(図3D)のAffilin139819を、CHO−K1−EGFR細胞への結合について分析した。最も低い濃度についても、細胞のEGFRへのAffilin139819の結合を検出することができた。
図4図4は、PDIモチーフを有する、又は有していないEGFR結合分子のエピトープ特異性を示す。結合分析(SPR)は、PDIモチーフを有するAffilin分子(Affilin139791及びAffilin139819)の両方の結合エピトープが同じであるか、少なくともオーバーラップしているか、PDIモチーフのないAffilin139989の結合エピトープは異なっていることを示す。図4Aは、Affilin139819(PDIモチーフ)対Affilin139989のSPR分析を示す。図4Bは、Affilin139791(PDIモチーフ)対Affilin139989のSPR分析を示す。図4Cは、Affilin139989(PDIなし)対Affilin139819(PDIモチーフ)とAffilin139791(PDIモチーフ)のSPR分析を示す。
図5図5は、セツキシマブを伴うAffilin139819とAffilin142265のSPR競合分析を示す。Affilin139819(配列番号:39;100nM)はグラフの中央に黒線で示されており、10μMは中間のグレーの線で上側に示されており、1μMのAffilin142265(配列番号:75)がグラフの下側に明るいグレーの線で示されている。この分析の詳細は、実施例7で説明されている。この図は、Affilin139819がセツキシマブと競合しないこと、及び、Affilin139819が別のあるいはオーバーラップしていないエピトープを用いているのに対して、Affilin142265(PDIモチーフがない)は、セツキシマブと競合することを示している。驚くことに、PDIモチーフを伴うAffilin結合分子は、セツキシマブより異なるあるいはオーバーラップしていないEGFRエピトープに結合するが、PDIモチーフのないAffilin結合分子は、同じかあるいはオーバーラップしたEGFRエピトープに結合するとの結果が示されている。
図6図6は、PDIモチーフを持つ抗−Affilinタンパク質が腫瘍組織に結合することを確認している。図には、乳腺がん/乳がんの転移部位である、上皮細胞から取り出したEGFR発現ヒト異種移植腫瘍(MDA−MB−231;ATTC HTB−26)についての免疫組織学的分析が示されている。PDIモチーフを有するAffilinタンパク質138819(配列番号:71)と、Affilin138838(配列番号:69)、Affilin138845(配列番号:73)、及びPDIモチーフを有していないAffilin138840(配列番号:77)について、異なる濃度(100nMと500nM)で試験を行った。陽性対照:セツキシマブ(図には示さず)、陰性対照:非修飾ユビキチン(配列番号:7、クローン64156)。非修飾ユビキチンには、非特異的染色は検出されなかった。この結果は、明らかに、本発明のEGFR結合タンパク質の特異的ターゲッティング機能が高いことを示している。PDIモチーフを有するすべてのAffilin結合タンパク質が、ヒト腫瘍組織から取り出した異種移植片のEGFRへの強い結合を示す一方、PDIモチーフを持たないAffilin結合分子はEGFRに対して弱い結合を示すのみであった。
図7図7は、EGFR−Affilinタンパク質が、腫瘍細胞に発現した細胞外EGFRに結合することを確認している。図に示すのは、EGFR発現A431腫瘍細胞の免疫蛍光画像である。EGFRを発現するA431腫瘍細胞の染色が、Affilin139791(配列番号:49)と、Affilin139819(配列番号:39)と、Affilin142232(配列番号:29)、及びAffilin142265(配列番号:75)の結合を確認している。Affilin139989(PDIモチーフがない:配列番号:76)については、A431腫瘍細胞の細胞外EGFRへの結合は検知されなかった。非修飾ユビキチンは、この図では、139090(配列番号:4)と記載されている。
図8図8は、セツキシマブを有するEGFR結合タンパク質の融合タンパク質を示す。EGFR−モノクローナル抗体のセツキシマブ(配列番号:5及び6)のセンサーグラムと、非修飾ユビキチンを伴うセツキシマブの対照融合、及び、セツキシマブとEGFR−Affilin139819の融合タンパク質が示されている。これらの曲線は、1:2の希釈液中の15nM(最も高い)乃至0.0586nM(最も低い)の異なる濃度を示す。ΔRUは、両フロー細胞(hEGFR−Fc1578RU;hlgG−Fc331RU)についてのシグナルの差の計算結果である。この分析は、モノクローナル抗体への抗−EGFR−Affilinの融合タンパク質が、高親和性のEGFRに結合することを確認している。図8Aは、抗−EGFR−Affilin−セツキシマブ融合タンパク質の、EGFRの細胞外ドメインへの結合のSPR分析を示す図である。セツキシマブと、CL−ユビキチン、及びCL−139819のセンサーグラムが示されている。セツキシマブの軽鎖のC−末端に融合した抗−EGFR−Affilinは、セツキシマブよりEGFRへより高いシグナル強度を示す。図8Bは、抗−EGFR−Affilin−セツキシマブ融合タンパク質の結合のSPR分析を示す。セツキシマブと、NL−ユビキチン(配列番号:89)と、NL−139819(配列番号:86)のセンサーグラムが示されている。
図9図9は、二つの同一のAffilin139819タンパク質のホモ二量体の発現と精製を示す図である。ホモ二量体の最終製品収量は、1リットル当たり5.9mg発現であった。図9Aは、Superdex 75 16/60でのゲル濾過を介したStrep Tactin生成後の仕上げステップを示すであり、主軸は、バッファ体積(ml)に対する吸収シグナル(mAU)をプロットしており、副軸は、導電率(mS/cm)対バッファ体積(ml)をプロットしている。図9Bは、ゲル濾過のSDS−PAGE分析を示す図である。レーン1はタンパク質マーカ、レーン2はペレット、レーン3は上澄み、レーン4はStrep Tactinを通る流れ、レーン5は断片A3、レーン6は断片A9、レーン7は断片B12,レーン8は断片B11、レーン9は断片B10、レーン10は断片B9、レーン11は断片B8,レーン12は断片B7、レーン13は断片B6である。生成物の純度は、SDS−PAGEに準じて95%より高い。
図10図10は、二つの同一のAffilin139819タンパク質のホモ二量体のSEHPLCを介した純度と均質性の分析を示す。この分析の間、一つだけピークが検出できた。観察されたテーリングは、おそらく両ユビキチン部分をつなぐペプチドリンカーの結果である。主軸は、バッファ体積(ml)に対する吸収シグナル(mAU)をプロットしており、副軸は、導電率(mS/cm)対バッファ体積(ml)をプロットしている。
図11図11は、結合しているタンパク質−ターゲット複合体の乖離定数を決定する、二つのAffilin139819分子のホモ二量体の表面プラズモン共鳴分光(Biacore)を示す図である。実線は、実験データを表しており、破線は近似曲線データを表している。Affilinタンパク質は、急速会合並びに急速乖離を示しており、むしろ高いkoff率を導いている。EGFR−Fcに対する最も高い親和性は、0.6nMのKDを有している。ホモ二量体(139819−139819)の細胞外EGFRに対する親和性は、モノマAffilin139819より、約30フォールド分高い。
図12図12は、ホモ−二量体EGFRAffilinの結合の機能特性を示す。図12A及び12Bは、例えば、2つのAffilin分子139819タンパク質(図では140547と記されている;乖離定数1.7nM、図12A)と、Affilin139819(乖離定数8.7nM、図12B)のホモ二量体である、EGFR発現CHO−K1細胞への結合を示す。図12C及び12Dは、例えば、2つのAffilin分子139819(乖離定数1.7nM、図12C)と、Affilin139819(乖離定数10.9nM、図12D)のホモ二量体である、EGFR発現A549細胞への結合を示す。二つのAffilin分子139819のホモ二量体の細胞外EGFRへの親和性は、モノマーAffilin139819より10フォールド高い。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明を詳細に説明する前に、この発明は本明細書に述べる特定の方法、プロトコル、及び試薬に限定されるものではないことを理解されたい。これらは変化しうるものであるからである。また、本明細書で使用した用語は、特定の実施例を説明する目的のためだけであり、本発明の範囲を限定する意図ではないことを理解されたい。本発明の範囲は、特許請求の範囲によってのみ限定される。得に規定がない限り、本明細書で使用したすべての技術的及び科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって共通に理解されるものと同じ意味を有する。
【0024】
好ましくは、本明細書で使用されている用語は、”A multilingual glossary of biotechnological terms: (IUPAC Recommendations)”, Leuenberger, H.G.W., Nagel, B. and Keolbl, H. eds. (1995), Helvetica Chimica Acta, CH-4010 Basel, Switzerland)の記載によって定義される。
【0025】
以下に述べる本明細書と請求の範囲を通して、コンテキストが必要としない限り、用語「含む(comprise)」とその変形は、記述した整数またはステップ、又は整数またはステップの群を含むことを意味し、記述した整数またはステップ、又は整数またはステップの群を排除することは意図していないと解するべきである。いくつかの文書(例えば、特許、特許出願、科学的公開文献、製造者のスペック、指示書、GenBank Accession Number sequence submissions、など)は、本出願の明細書を通じて記載されている。ここに記載したいずれも、本発明が先行発明によるこれらの開示に先行する権利がない旨を告白するものとして理解するべきではない。本発明に記載した文献のいくつかは、「引用により組み込まれたものである。これらの組み込んだ文献の定義あるいは教示と、本出願に記載した定義又は教示に不一致がある場合は、本明細書の記載が優先する。本明細書で引用した配列のすべては、添付の配列表に開示されてり、この配列表は全内容及び開示とともに、本明細書の一部である。
【0026】
本出願で使用した重要な用語の一般的定義
「タンパク質」と「ポリペプチド」の用語は、ペプチド結合によって結合された2またはそれ以上のアミノ酸鎖を意味し、製品の特定の長さを意味するものではない。したがって、「ペプチド」、「タンパク質」、「アミノ酸鎖」、あるいは2またはそれ以上のアミノ酸鎖を意味するのに使用したその他の用語は、「ポリペプチド」の定義に含まれ、用語「ポリペプチド」は、これらの用語に代えてあるいは置き換えて使用することができる。用語「ポリペプチド」は、また、ポリペプチドの翻訳後修飾製品を意味することもある。これは、限定することなく、グリコシル化、アセチル化、リン酸化、アミド化、タンパク質分解的切断、非自然発生アミノ酸、及びこの分野でよく知られている同様の修飾を含む。したがって、2またはそれ以上のタンパク質部分を含む結合タンパク質も、用語「タンパク質」又は「ポリペプチド」の定義に含まれる。
【0027】
用語「ユビキチン」又は「非修飾ユビキチン」は、配列番号:1(野生型ユビキチン)によるユビキチン、あるいは、配列番号:1と少なくとも95%のアミノ酸相同性を有し(例えば、ターゲットへの結合に影響しないW45F位、G75A位、G76A位にある点変位を伴うタンパク質、配列番号:2参照)、以下の定義によるタンパク質を意味する。特に、例えば、ヒト、霊長類、ブタ、齧歯動物などの哺乳類からのユビキチン分子が好ましい。一方、ユビキチンの源はあまり関係ない。なぜなら、この技術分野では、全ての真核性ユビキチンが非常によく保存されており、これまでに研究されている哺乳類のユビキチンは、そのアミノ酸配列に関してむしろ同一であるからである。さらに、その他の霊長類源からのユビキチンを使用することができる。例えば、イーストのユビキチンは、野生型ヒトユビキチン(配列番号:1)と3つのアミノ酸が異なるだけである。
【0028】
用語「ジユビキチン」は、二つのユビキチン部分が頭部から尾部にかけて互いに直接融合されている線状タンパク質を意味する。用語「ジユビキチン」は、配列番号:1の二つの直接結合したユビキチンを、あるいは、配列番号:4(例えば、W45F、G75A、G76A、G151A、G152A位における点変位をもつ)と少なくとも95%のアミノ酸相同性を有するタンパク質を意味する。
【0029】
用語「Affilin(登録商標)」(Scil Proteins GmbH社の登録商標)は、ユビキチン変異タンパク質に基づく非免疫グロブリン由来の結合タンパク質を意味する。用語「修飾ユビキチン」及び「ユビキチン変異タンパク質」及び「Affilin」は、すべて同意語として使用され、交換可能である。本明細書で使用されている用語「修飾ユビキチン」又は「ユビキチン変異タンパク質」又は「Affilin」は、修飾ユビキチンあるいはユビキチン変異タンパク質が、少なくとも10フォールド低い又は非修飾ユビキチンにないターゲットエピトープ又は抗原に特定の結合親和性を持つのであれば、ユビキチンの派生物(例えば、配列番号:1又は配列番号:3から取り出した)または、アミノ酸交換、挿入、削除、またはこれらの組み合わせによる上述の非修飾ユビキチンとは異なるジユビキチン(例えば、配列番号:4)を意味する。このユビキチン変異タンパク質(Affilin:修飾ユビキチン)の機能特性は、新たに作り出された機能である。
【0030】
Affilinは、自然界に存在するあるいは自然界から隔離された天然のユビキチンではない。本発明の範囲は、好ましくは、配列番号:1に示す非修飾ユビキチンを除外する。本発明に係るAffilin分子は、一の修飾ユビキチン部分を含むあるいは一の修飾ユビキチンからなる、又は、頭尾融合してたがいに結合した二つの異なって修飾されたユビキチン部分を含む又はこれからなる。「頭尾融合」とは、例えば引用により組み込まれているEP2379581B1号に記載されているように、(頭部)N-C-N-C(尾部)の方向に結合することによる二つのタンパク質の互いへの融合(タンデム分子)と解するべきである。頭部は、第1部分として指定されており、尾部は、第2部分として指定されている。この頭尾融合において、ユビキチン部分はリンカーなしで直接結合されている。代替的に、ユビキチン部分の融合は、例えば、本明細書に述べられているポリペプチドリンカー、などのリンカーを介して行うことができる。
【0031】
本明細書で使用しているように、「置換」は、別のアミノ酸によるアミノ酸の交換として定義される。既知の遺伝子コードと、遺伝子組み換え、及び合成DNA技術を考慮すると、当業者は、そのアミノ酸変異体を暗号化するDNAsを容易に構築できる。用語「欠失」は、元の配列から一またはそれ以上のアミノ酸が取り出されており、もともと欠失したアミノ酸のN−末端及びC−末端にあったアミノ酸が直接結合された、連続アミノ酸配列を意味する。
【0032】
用語「挿入」は、ユビキチンの元のアミノ酸配列へのアミノ酸の追加を含み、ここでユビキチンは大きく構造的に変化することなく安定したままである。当然、ループ領域は標準的な二次構造要素を連結する。ヒト非修飾ユビキチンの構造は、ベータシートとアルファヘリックスなどの二次的構造要素を結合するアミノ酸領域8−11、17−22、35−40,45−47、及び50−63において、6つのループを明らかにしている。EP2721152号に記載されているように、挿入と置換の組み合わせを含むユビキチン変異タンパク質が好ましい。好ましいユビキチン変異タンパク質は、好ましくは、アミノ酸8−11の最もN−ターミナルループに、あるいはアミノ酸50−63の最もC−ターミナルに2−10アミノ酸の挿入がある。しかしながら、その他の挿入位置であってもよい。特に、挿入されるアミノ酸は、2、3、4、5、6、7、8、9、10、好ましくは2−8アミノ酸であり、最も好ましくは4−8アミノ酸である。
【0033】
用語「EGFR結合タンパク質」は、少なくとも一のユビキチン変異タンパク質(Affilin)からなる又はこれを含み、選択的に、その他の分子又は修飾を含むタンパク質を意味する。
【0034】
本明細書において、用語「ターゲット抗原」、「ターゲット」、「リガンド」、「抗原」、及び「結合パートナ」は、すべて同意語として使用されており、交換可能である。好ましくは、ターゲットは、以下に規定したターゲットの一つである。用語「抗原」は、本明細書で使用されているように、広い意味で解釈するべきであり、結合タンパク質で結合されるあらゆるターゲット部分を含む。用語「抗原」は、結合タンパク質に存在する抗原結合ドメインが結合するエピトープを含む限り、構造的に特に制限されない。
【0035】
本発明による用語「結合可能なタンパク質」又は「結合タンパク質」、又は「結合EGFR」又は「結合親和性」は、規定したターゲット抗原への結合能力を有するタンパク質を意味する。
【0036】
「抗原結合部位」とは、抗原との相互作用を提供する抗原結合分子の部位、すなわち、一またはそれ以上のアミノ酸残基を意味する。例えば、抗体の抗原結合部位は、相補的決定領域からのアミノ酸残基を含む。天然の免疫グロブリン分子は、一般的に二つの抗原結合部位を有し、Fab分子は、通常単一の抗原結合部位を有する。
【0037】
本発明によって使用されている用語「抗体」は、二つの重鎖と、二つの軽鎖(免疫グロブリン又はIgG抗体)を含む。さらに、結合特異性を保っているこの断片又は派生物も、用語「抗体」に含まれる。用語「抗体」は、キメラ(ヒト定常領域、非ヒト可変領域)抗体、単鎖抗体、及びヒト化(非ヒトCDRsを除くヒト抗体)抗体などの実施例を含む。二つの重鎖と二つの軽鎖からなる全長IgG抗体が、本発明では最も好ましい。重鎖と軽鎖は、非共有結合性相互作用と、ジスルフィド結合を介して結合される。「Fab分子」は、免疫グロブリンの重鎖のVH及びCHドメインと、軽鎖のVL及びCLドメインとからなるタンパク質を意味する。
【0038】
用語「エピトープ」は、EGFR結合タンパク質によって結合できるあらゆる分子決定基を含む。エピトープは、EGFR結合タンパク質に直接接触する特定のアミノ酸を含む。立体配座エピトープでは、アミノ酸残基が一時配列において分離するが、ポリペプチドが天然の三次元構造にフォールドすると、分子の表面で互いに近くに位置する。リニアエピトープは、タンパク質鎖の単一リニアセグメントの近傍に位置する2またはそれ以上のアミノ酸残基によって特徴づけられる。このエピトープは、グリコシル化、リン酸化、硫酸化、アセチル化脂肪酸又はその他といった、ターゲットタンパク質の翻訳後修飾からの決定基を含む。
【0039】
用語「融合」したとは、成分(例えば、Affilin分子とモノクローナル抗体又はFab断片)がペプチド結合によって、直接にあるいはペプチドリンカーを介して関連することを意味する。
【0040】
用語「融合タンパク質」は、少なくとも第2のタンパク質に遺伝子的に結びついて少なくとも第1のタンパク質を含むタンパク質を意味する。融合タンパク質は、もともと別々のタンパク質にコード化した2またはそれ以上の遺伝子の結びつきを介して作られる。したがって、融合タンパク質は、単一リニアポリペプチドと表現される、異なるあるいは同一の結合タンパク質のマルチマーを含む。これは、一、二、三又はそれ以上の第1及び/又は第2の結合タンパク質を含むものでもよい。本明細書で使用されている融合タンパク質は、少なくとも、たとえば、モノクローナル抗体またはその断片といった第2のタンパク質と融合する、少なくとも第1の結合タンパク質(例えば、Affilin)を含む。このような融合タンパク質はさらに、限定するものではないが、例えば、多量体化部分、ポリペプチドタグ、ポリペプチドリンカーなど、ターゲットの結合に関係がない追加のドメインを含むものでもよい。
【0041】
本明細書で使用されている用語「コンジュゲート」は、第2タンパク質又は非タンパク性部分などの他の物質に化学的に付着した少なくとも第1タンパク質を含む又は本質的にこの第1タンパク質からなるタンパク質を意味する。コンジュゲートは、有機合成によって、あるいは、酵素による翻訳後修飾の自然プロセスを含む酵素の使用によって行うことができる。タンパク質コンジュゲートの例は、糖タンパク質(炭水化物成分とコンジュゲートしたタンパク質)である。分子は、例えば、いずれかの形のリンカーを介して一のあるいはいくつかの部位に付着されうる。化学結合は、置換(例えば、N−スクシンイミジル化学構造)、付加又は付加環化(例えば、マレイミド化学構造又はクリック化学)あるいは酸化化学(例えば、ジスルフィド形成)を含む、この分野の当業者によく知られている化学構造によって行うことができる。本発明のタンパク質に化学的に付着した非タンパク質性ポリマ分子の例は、ヒドロキシエチルスターチ、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、樹木状ポリマ、ポリオキシアルキレン、その他である。
【0042】
融合タンパク質又はタンパク質コンジュゲートは、さらに、一またはそれ以上の反応基、又はリガンド又は放射線核種やトキシンなど治療又は診断関連分子などの、ペプチド性又は非ペプチド性部分を含んでいてもよい。また、例えば、糖、オリゴ又はポリサッカライド、脂肪酸などの、小さい有機又は非アミノ酸ベースの化合物を含んでいてもよい。対象のタンパク質を、このような非タンパク質性成分に付着させる方法は、この分野ではよく知られており、したがって、ここではその詳細は説明しない。
【0043】
用語「二重特異性結合分子」、「三重特異性結合分子」、「多重特異性結合分子」とは、抗原結合分子が特異的に、2つ、3つ、あるいはそれ以上の異なるエピトープにそれぞれ特異的に結合できることを意味する。典型的には、二重特異性抗原結合分子は、二つの抗原結合部位を含んでおり、その各々が異なるエピトープに特異的である。所定の実施例では、二重特異性結合分子は、同時に二つのエピトープ、特に、二つの別々の細胞に発現した二つのエピトープに結合することができる。用語「二重特異性結合分子」又は「二重特異性結合タンパク質」は本発明の結合タンパク質が二つの異なるエピトープに特異的に結合できることを意味する。さらに、本発明の二重特異性結合分子は、二つの異なるエピトープに同時に結合することができる。これは、二重特異性構造が、少なくとも一つのエピトープAと少なくとも一つのエピトープBにおいて同時に結合することができ、ここでAとBは、同じエピトープではない。これら二つのエピトープは、同じあるいは異なるターゲット抗原上に配置されており、これは、本発明の融合分子が二つの異なるエピトープであるいは二つのターゲット抗原において一のターゲットを、それぞれ自身のエピトープに結合できることを意味する。同様に、「三重特異性結合分子」及び「多重特異性結合分子」は、同時に、3つまたは複数のエピトープに結合でき、ここで、エピトープは同じ又は異なる抗原に配置されている。
【0044】
用語「多価結合分子」は、本発明の融合タンパク質が少なくとも2つ、3つ又はそれ以上の、例えば、タンパク質「α」、「β」、「γ」、「δ」その他といった結合タンパク質を含むことを意味する。この結合タンパク質は、ターゲット抗原(単一特異的)上の、同じ又はオーバーラップしたエピトープに特異的に結合する。この抗原は、例えば、(α)、(α)、(α)、又は(β)、(β)、(β)、その他と記載されるタンパク質の組成物である。この場合、融合分子は単一特異性であるが、エピトープA又はエピトープBに対して、それぞれ二価、三価、四価、又は多価である。
【0045】
代替的に、結合タンパク質は、同じ又は異なるターゲット分子の異なるエピトープに結合することができ、したがって、例えば、エピトープAB、BC、AD、ABC、又はABCDにそれぞれ結合しているαβ、βγ、αδ、αβγ、αβγδといった、二重特異性、三重特異性、多重特異性に分類される。
【0046】
用語「多重結合分子」は、結合タンパク質α、β及び/又はγ、その他の2またはそれ以上の部分(すなわち、二価又は多価の部分)、例えば、αα、βββ、ααβ、ααββ、αγγ、ββγ、αβγδδ、その他を含む多価及び/又は多重特異性融合タンパク質を意味する。例えば、ααβγは、三重特異性であり、エピトープAに対して二価である。例えば、抗EGFR−Affilinの融合タンパク質と本明細書に記載したモノクローナル抗体は、これらが少なくとも二つの結合タンパク質(Affilinと抗体)を含んでいるので、「二価」である。
【0047】
これらの結合タンパク質は、例えば、(α)、(α)、(α)、又は(β)、(β)、(β)、その他と記載される結合タンパク質の組成物である、ターゲット抗原(単一特異性)上の同じあるいはオーバーラップしたエピトープに特異定期に結合する。この場合、融合分子は、単一結合性であるが、エピトープA又はエピトープBに対して二価、三価、四価、又は多価である。
【0048】
代替的に、結合タンパク質は、同じ又は異なるターゲット分子上の異なる、オーバーラップしていないエピトープに結合し、したがって、例えばエピトープAB、BC、AD、ABC、又はABCDにそれぞれ結合しているαβ、βγ、αδ、αβγ、αβγδといった、二重結合性、三重結合性、多重結合性に分類される。例えば、Fab−断片を含む本発明の結合タンパク質は、二重結合性である。
【0049】
用語「多重結合分子」は、多価及び/又は多重特異性の結合タンパク質の結合を意味し、結合タンパク質α、β、及び/又はγその他の2またはそれ以上の部分、例えば、αα、βββ、ααβ、ααββ、αγγ、ββγ、αβγδδ、その他を含む。例えば、ααβγは三重特異性であり、エピトープAに対して二価である。
【0050】
用語「アミノ酸配列相同性」は、二つまたはそれ以上のタンパク質のアミノ酸配列の相同性(あるいは差異)の定量的比較を意味する。基準ポリぺプチド配列に対する「パーセント(%)アミノ酸配列相同性」は、必要に応じて配列と導入ギャップを整列させて最大パーセント配列相同性を達成した後の、基準ポリペプチドにおけるアミノ酸残基と同一であるある配列のアミノ酸残基のパーセンテージとして定義される。
【0051】
配列相同性の決定は、クエリタンパク質の配列が、例えば、配列番号:1、配列番号:2、配列番号:3、又は、配列番号:4に示すような非修飾ユビキチンへ基準タンパク質の配列に整列する。整列の方法は、この分野ではよく知られている。例えば、アミノ酸配列配列番号:1、配列番号:2、配列番号:3、又は、配列番号:4に対する任意のポリペプチドのアミノ酸配列相同性の範囲を決定するためには、好ましくはSIM局所相同性プログラム(local similarity program)が用いられる(Xiaoquin Huang and Webb Miller (1991), Advances in Applied Mathematics, vol. 12: 337-357)。これは、無料で入手可能である(http://www.expasy.org/tools/sim-prot.html参照)。多重アラインメント分析ClustalWが、好ましく使用される(Thompson et al. (1994) Nucleic Acids Res., 22(22): 4673-4680)。
【0052】
所定位置における基準アミノ酸配列と異なるクエリ配列の各アミノ酸は、一の差異として数えられる。クエリ配列における挿入または削除も、一つの差異として数えられる。例えば、二つのユビキチン部分間へのリンカー挿入は、基準配列と比較して一つの差異として数えられる。次いで、差異の合計により、基準配列の長さに関連して、非相同性のパーセンテージを得る。相同性の定量的パーセンテージは、100から非相同性のパーセンテージを引いて計算する。非修飾ユビキチンに対して整列したユビキチン変異タンパク質の相同性を決定する特別な場合は、45位、75位、及び/又は76位の差は特にカウントしない。これは、これらの位における差は、ユビキチン変異タンパク質のEGFRに対する新規結合能力に関係しないからである。ユビキチン部分は、アミノ酸残基45、75及び/又は76において、その結合能力に影響を及ぼすことなく修飾されるが、これらの修飾は、変異タンパク質の生化学特性における修飾の実行に関連する。一般的に、修飾の出発物質として使用するユビキチンは、配列番号:1、配列番号:2、配列番号:3、又は、配列番号:4に対して、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、あるいは少なくとも99%のアミノ酸配列相同性を有する。したがって、例えば、基準配列に対して95%「相同」であるポリペプチドは、基準配列に比較して100のアミノ酸に付き、例えば、5つの点変位又は4つの点変位と、一の挿入、その他を有している。
【0053】
本発明のEGFRタンパク質は、ユビキチン変異タンパク質からなるあるいはこれを含む。本発明のユビキチン変異タンパク質は、配列番号:1の少なくとも80%のアミノ酸相同性を有する。本発明のユビキチン変異タンパク質は、ユビキチン(配列番号:1)に対して80%乃至93%、あるいはジユビキチン(配列番号:4)に対して80%乃至93%、最も好ましくは、配列番号:1又は配列番号:4に対して87−92%の相同性を示す。さらに好ましいアミノ酸相同性は、配列番号:1又は配列番号:2に対して、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%である。配列番号:3では、配列番号:1のアミノ酸QKESTに対応するアミノ酸残基62−66が、1、2、3、4又は5の任意に選択されたアミノ酸によって置換できる、プレースホルダX62乃至X66によって置換される。好ましい実施例では、これらのアミノ酸は、以下に特定されたものから選択される。ここで、「PDIモチーフ」は、特に好ましいアミノ酸の一つの組み合わせである。本発明のユビキチン変異タンパク質は、配列番号:3に対して少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、相同であり、アミノ酸X62乃至X66は、アミノ酸相同性の決定から排除される。本発明のユビキチン変異タンパク質は、配列番号:3に対して90%乃至98%の相同性を示す。換言すると、例えば、配列番号:3に対して97%の相同性を考慮すると、X62乃至X66に加えてさらに二つのアミノ酸が修飾されている。配列番号:3に対して96%の相同性を考慮すると、X62乃至X66に加えてさらに三つのアミノ酸が修飾されている。配列番号:3に対して例えば94%の相同性を考慮すると、X62乃至X66に加えてさらに四つのアミノ酸が修飾されている。配列番号:3に対して例えば93%の相同性を考慮すると、X62乃至X66に加えてさらに五つのアミノ酸が修飾されている。
【0054】
用語「PDIモチーフ」は、アミノ酸残基モチーフを含む。これは、本明細書では、特定アミノ酸残基の特定の配列を意味する。好ましくは、アミノ酸残基モチーフは、E64P、E64V、E64A、S65D,S65E、T66I、T66A、T66V、T66M、T66F、T66Y、T66W、又はT66Lから選択された3つの置換基を含む。好ましくは、アミノ酸モチーフは、非修飾ユビキチンに対応するE64P位、S65D位、及びT66I位に、又はE64V位、S65D位、及びT66I位に、又はE64A位、S65D位、及びT66I位に、又は、E64V位、S65D位、T66V位に;又はE64P位、S65D位、及びT66V位に;最も好ましくは、E64P位、S65D位、及びT66I位に3つの置換基を含む。したがって、用語「PDIモチーフ」は、3つのアミノ酸残基PDI、VDI、ADI、PDV、又はVDVを含む又はこれらからなる。
【0055】
用語「乖離定数」又は「K」は、特定の結合親和性を規定する。高親和性は、低いK値に対応する。したがって、「例えば、少なくとも10−7MのK」という表現は、10−7M又はそれ以下の値(より強く結合する)を意味する。1×10−7Mは100nMに対応する。10−5の値及び10−12Mを下回る値は、定量化可能な結合親和性と考えられる。アプリケーションによっては、10−7乃至10−12Mの値が、例えば、クロマトグラフィーのアプリケーションに、あるいは、例えば、診断又は治療アプリケーションに好ましい。本発明によれば、結合タンパク質のターゲット結合に対する親和性は、7×10−7M(700nM)の範囲になくてはならない。
【0056】
結合親和性を決定する方法は、公知であり、例えば、この分野で知られている以下の方法から選択できる。Surface Plasmon Resonance (SPR) based technology, Bio-layer interferometry(BLI), enzyme-linked immunosorbent assay (ELISA), flow cytometry, fluorescence spectroscopy techiniques, isothermal titration calorimetry (ITC), analytical ultracentrifugation, radioimmunoassay (RIA or IRMA),enhanced chemiluminescence (ECL). これらの方法のいくつかは、以下の実施例に記載されている。
【0057】
ユビキチン変異タンパク質(Affilin)に基づくEGFR結合タンパク質
本発明に係るEGFR結合タンパク質は、上皮細胞成長因子受容体(EGFR)に対して700nMより小さい結合親和性(K)を有するユビキチン変異タンパク質を含んでおり、このユビキチン変異タンパク質は、ユビキチン(配列番号:1)に対して80%乃至93%の相同性を、あるいは配列番号:4のユビキチンダイマーに対して80%乃至93%相同性を示し、64位のアミノ酸がP、V、及びAから選択され、65位のアミノ酸は、D及びEから選択され、66位のアミノ酸は、I、V、A、M、F、Y、W、及びLから選択される。好ましくは、64位、65位、及び66位のアミノ酸配列は、アミノ酸P、D、及びIから、あるいはアミノ酸V、D、及びIから、あるいは、アミノ酸A、D、及びIから、あるいはアミノ酸V、D、及びVから、あるいはアミノ酸P、D及びVから、選択される。本発明によるEGFR結合タンパク質は、上皮細胞成長因子(EGFR)に対して700nMより小さい結合親和性(KD)を有するユビキチン変異タンパク質を含み、このユビキチン変異タンパク質は、野生型アミノ酸配列QKESTに比べて、アミノ酸配列を含み、配列番号:3のX62、X63、X64、X65、及びX66に対応するアミノ酸62−66から選択された3つのアミノ酸が、置換されており、ユビキチン変異タンパク質は、配列番号:3に対して少なくとも90%の配列相同性を有する。
【0058】
本発明に係るユビキチン変異タンパク質の修飾度は、最小で7%であり、最大で、非修飾ユビキチンと比較して、約20%のアミノ酸の合計である(上述した通り、相同性の決定は、45位、75位、76位のアミノ酸を排除する)。換言すると、これは、ターゲット抗原に対する新しい結合特性を生成するために修飾したユビキチン部分の5−15アミノ酸残基に対応する(二つのユビキチン部分がリンクしていれば、合計で10−30のアミノ酸が修飾されて、新しい結合特性を作る。)最も好ましくは、ユビキチンの全アミノ酸の15%以下が置換されて、ターゲット抗原に対する新規に作られた測定可能な結合特性を持つ新しいタンパク質を生成することである。換言すると、これは、6−11のアミノ酸残基の修飾に対応し、ターゲット抗原に対して新たに作った測定可能な結合特性を有する、新規タンパク質を生成する。これを考慮すると、特に、置換と挿入が新規な結合特性を生成している場合は、配列番号:1の非修飾ユビキチン又は配列番号:4のジユビキチンに対して、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%の配列相同性がある。
【0059】
特定のターゲット抗原に特異的に結合するユビキチン変異タンパク質を生成するユビキチンの誘導体化については、この分野で述べられてきた。例えば、配列番号:1又は配列番号:2又は配列番号:3又は配列番号:4に示すような配列が変わっている、様々なユビキチン変異タンパク質のライブラリを作成することができる。好ましくは、この変更は、(i)非修飾ユビキチンの領域2−11、又は(ii)非修飾ユビキチンの領域62−68、又は(iii)両方の領域で同時に、対応するアミノ酸で行われる。しかしながら、これらの領域に含まれない更なる位置も、変更することができる。好ましくは、この変更は、この分野で述べられる置換、挿入、又は削除である。ユビキチンから取り出した新規な結合タンパク質生成のためのアミノ酸残基の置換は、所望のアミノ酸を用いて行うことができる。このことは、本明細書に引用として組み込まれているEP1626985B1、EP2379581B1、及びEP2721152号に詳細に記載されている。
【0060】
選択したアミノ酸の修飾ステップは、選択したアミノ酸のランダムな突然変異生成によって遺伝子レベルにおいて、好ましくは本発明によって実行される。好ましくは、ユビキチンの修飾は、それぞれのタンパク質の属するDNAの世代交代用の遺伝子操組み換え方法によって行われる。選択したアミノ酸の好ましい一つの修飾法は、この分野ではよく知られている。例えば、8つの配位における20の天然アミノ酸のランダム分布を仮定すると、20の8乗(20=2.56×1010)の様々な理論上のユビキチン変異タンパク質を生成する。これは各々、異なるアミノ酸組成と潜在的に異なる結合特性を有する。この多大な遺伝子は、様々なAffilin分子ライブラリを構成する。
【0061】
続いて、このライブラリはファージミドベクター(例えば、pCD87SA(Paschke, M. and W Hohne(2005),”Gene 350(1): 79-88))にクローン化することができる。このライブラリはファージ上に表示することができそれぞれのターゲット抗原に対するパニングの繰り返しラウンドを行うことができる。豊富なパージプールからのユビキチン変異タンパク質は、ここのタンパク質発現についての発現ベクターにクローン化することができる。好ましくは、ユビキチン変異タンパク質の発現は、次いで、原核生物又は真核生物内で行われ、自動高スループットスクリーニングプラットフォームのELISAなど既存の技術によって、特定の結合タンパク質についてのスクリーニングが可能となる。所望の結合特性で同定したクローンは、次いで、配列を決定して、ターゲット結合Affilin分子のアミノ配列を明らかにする。一のユビキチン変異タンパク質部分を有するAffilinの場合、アミノ酸の変化を同定するためには、Affilinのアミノ酸配位は、ユビキチンに与えられた配列(例えば、配列番号:1、又は、配列番号:2、又は、配列番号:3)と整列していなければならない。二つのユビキチン部分からなるAffilin分子の場合、アミノ酸の変化を同定するためには、Affilinのアミノ酸配位は、ユビキチンに与えられた配列(例えば、配列番号:4)と整列していなければならない。
【0062】
同定した結合タンパク質は、さらに、例えば、同定した配列と反復するファージディスプレイ、リボソームディスプレイ、パニング、及びスクリーニングステップに基づいて追加のライブラリを生成することによって、の更なる成熟ステップに置かれる。
【0063】
ユビキチン(ユビキチン変異タンパク質又はAffilin分子)から取り出した新規な結合タンパク質の生成のためのアミノ酸の置換は、所望のアミノ酸を用いて行うことができる。このことは、例えば、ここに引用によって組み込まれているEP1626985B1及びEP2379581B1に詳細に記載されている。同定した結合タンパク質は、例えば、同定した配列の変更と反復するファージディスプレイ、リボソームディスプレイ、パニング、及びスクリーニングステップに基づいて追加のライブラリを生成することによって、の更なる成熟ステップに置かれる。
【0064】
本発明のEGFR結合タンパク質の融合またはコンジュゲートに含まれるリンカー
上述した通り、本発明の結合分子は、一またはそれ以上の修飾ユビキチンサブユニットを含んでいてもよく、及び/又は、その他の融合タンパク質部分に遺伝子学的に融合してもよい。このような本発明の融合タンパク質のコンテキストでは、用語「リンカー」は、単一アミノ酸または、少なくとも二つのその他のタンパク質分子に共有結合したポリペプチドを意味する。
【0065】
リンカーは、遺伝子学的には、第1及び第2の結合タンパク質又はタンパク質部分に融合して、単一のリニアポリペプチド鎖を作る。リンカーの長さと組成は、少なくとも1の、また最大で20のアミノ酸の間で変化する。好ましくは、リンカー長は一アミノ酸と20アミノ酸の間である。より好ましくは、ペプチドリンカーは、1乃至15アミノ酸長、例えば、1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15アミノ酸長を有する。
【0066】
このペプチドリンカーのアミノ酸配列は、ヒトに対して免疫原性ではなく、プロテアーゼに対して安定しており、二次構造を形成しない。一例は、グリシン、セリン、又はアラニンなどの小アミノ酸を含むリンカーである。このリンカーはグリシンを豊富に含むものでもよい(例えば、リンカー中の残基の50以上がグリシン残基であってもよい)。好ましくは、グリシンとセリン残基のみからなる可変長のグリシン−セリン−リンカーである。一般的に、この構造(SGGG)又はSGGGの並べ替え(例えば、(GGGS)のリンカーを用いることができ、ここで、nは1乃至6のいずれかの数字であり、好ましくは1又は2又は3である。タンパク質の遺伝子融合についてのその他のリンカーはこの分野で知られており、使用されている。本発明の一実施例では、第1結合タンパク質(例えば、ユビキチン変異タンパク質)と第2結合タンパク質(例えば、モノクローナル抗体又はその断片)が、(GS)リンカーを介して結合される。リンカーの例は、配列番号:78−85に示す。さらに、例えば、ポリエチレングリコールなどの非ペプチドリンカーや代替のポリマーを使用することができる。
【0067】
本発明の結合タンパク質の化学的コンジュゲートの場合、用語「リンカー」は、EGFR結合タンパク質をその他のタンパク性のあるいは非タンパク性の部分に共有結合であるいは非共有結合で、例えば、いずれも、互いにハイブリッドである二つの異なる部分に付着した二つの相補的核酸分子などの、水素結合、イオン性又はファン・デル・ワールス相互作用を介して結合する化学的部分を意味する。このようなリンカーは、アミノ酸側鎖を介してタンパク質に化学的に付着させる反応基、N−末端α−アミノ、又はタンパク質のC−末端カルボキシ基を含むものでもよい。このようなリンカー及び反応基は、当業者にはよく知られているので、詳しくは説明しない。
【0068】
ターゲット抗原:EGFR
上皮細胞成長因子受容体(EGFR:別名HER1又はErbB1)は、上皮細胞成長因子ファミリ(EGF−ファミリ)の員に対する細胞表面受容体である。(NCBI参照番号:NP_005219)。EGFRは、肺がん、頭部及び頸部がん、大腸がんでの役割で知られている。用語「上皮細胞成長因子受容体」又は「EGFR」は、NP_005219に対して少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、96%、又は97%又はそれ以上、あるいは100%の配列相同性を示すすべてのポリペプチドを含み、EGFRの機能を有する。用語「EGFR」は、N−末端メチオニン、融合ポリペプチド、及び、種間相同性の追加を含む、対立遺伝子多型、スプライス変異体、誘導変異体、置換変異体、欠損変異体、及び/又は、挿入変異体に関連するポリペプチドを含む。イソフォームについては、例えば、本明細書に引用により組み込まれているAlbitar et al. Molecular Cancer 2010, 9: 166を参照されたい。特に、用語「EGFR」は、EGFRのクラスIII変異体(EGFRvIII)(エキゾン2−7の欠損、アミノ酸5−274の欠損、Wikstrand et al., J NeuroViro 1998, 4: 148-158参照)を含む。本明細書で理解されている用語「EGFR」は、また、EGFRクラスI、クラスII、クラスIV、クラスV、クラスVI、及びクラスVII突然変異体及びその異形を含む。(Wikstrand et al., supra参照)。EGFRポリペプチドは、タグ残基、シグナルペプチド配列残基、ターゲット残基、アミノ末端メチオニン残基、リシン残基などの末端残基を含んでいてもよい。EGFRへの参照は、異形、イソフォーム、及びヒトEGFRの種同族体を含む。用語EGFRはまた、天然の突然変異型を含む(例えば、Humphrey et al. PNAS(USA)87:4207-4211参照)。「EGFR」は、天然配列EGFRであってもよく、そのアミノ酸配列異形であってもよい。成熟EGFRの細胞外部分は、621のアミノ酸と4つの受容体ドメインからなる。ドメインIは、残基1−165に及び、ドメインIIは残基166−312に、ドメインIIIは残基313−481に、及びドメインIVは残基482−621に及ぶ(例えば、Cochran et al. (2004)J.Immunol. Methods, 287, 147-158参照)。
【0069】
多くのがんへの関連は、EGFRを有益な治療ターゲットとして立証し、受容体生物学の理解の改善と治療の改善の発達のサーチを支援している。現在のEGFRアンタゴニストの適度の有効性についての潜在的原因には、リガンドとの有効な競合がないこと、特に、自己分泌シグナル伝達;不十分な受容体ダウンレギュレーション;構造的に活性なEGFRvIIIの抑制欠乏;及び変異的エスケープが含まれる。このように、ダウンレギュレーション及び/又は様々な行動モードの抑制が可能な新規バインダは、有益であり、EGFRに対する多価及び/又は多重特異的バインダは、この点についてより効果のある可能性を保持している。
【0070】
本発明のEGFR結合タンパク質についての記載
64位、65位、及び66位に特異的3−アミノ酸配列モチーフを有するEGFR結合タンパク質の多くの例が本発明で提供されている(例えば、配列番号:8−73及び113−114を参照)。本発明のEGFR結合Affilin分子は、測定可能な結合親和性のあるEGFRに自然には結合しない非修飾ユビキチンに比べて、700nMより小さい測定可能な結合親和性のあるEGFRの単離した細胞外ドメインに結合する。好ましいEGFR結合分子には、ユビキチン(配列番号:1)に対して80%乃至93%、配列番号:4のユビキチン−ダイマーに80%乃至93%の相同性を持つユビキチン変異タンパク質があり、ここで、64位のアミノ酸は、P、V、及びAから選択され、65位のアミノ酸は、D及びEから選択され、66位のアミノ酸は、I、V、A、M、F、Y、W及びLから選択される。領域62−68内の部分のC−末端部分で少なくとも5個のアミノ酸が置換されているユビキチン変異タンパク質では、これらのアミノ酸のうち3つのアミノ酸が特異的「PDI」モチーフを示す。好ましくは、64位、65位、及び66位におけるアミノ酸配列は、PDI、VDI、ADI、PDV、又はVDVから選択される(例えば、図1参照)。EGFR結合タンパク質の特定の例は、アミノ酸残基V、D及びIを有するAffilin139820(結合カートリッジ(PWYGYD)TTVDI及び更なる一つの交換123T;配列番号:113)、アミノ酸残基A、D及びIを有するAffilin139754;アミノ酸残基V、D及びVを有するAffilin139791;及び、アミノ酸残基P、D及びVを有するAffilin144747(結合カートリッジ(DDKGYD)QNPDV及び更なる一つの交換K6N;配列番号:114)である。EGFR結合タンパク質は、更なる置換と選択的に2−10のアミノ酸の挿入がある、更なるアミノ酸修飾をしたユビキチン変異タンパク質を含む。本発明の一実施例では、EGFRに対する測定可能な結合親和性を作るために、配列番号:1の8位乃至11位に対応するループ領域における2−10のアミノ酸の挿入と組み合わせて、ユビキチンが、配列番号:1の62位、63位、64位、65位、66位に対応する5つのアミノ酸において少なくとも置換されている。いくつかの実施例では、ユビキチン変異タンパク質は、64位、65及び66位の置換と更なる修飾に加えて、好ましくはN−末端部分の第1ループ内の天然ループ領域内にアミノ酸の挿入を含む。ユビキチンに基づく好ましいEGFR結合タンパク質は、配列番号:1又は配列番号:2のアミノ酸領域62−66が、配列番号:1に対応するユビキチン変異タンパク質の天然ループ領域、好ましくは領域8−11、より好ましくは9位及び10位の間における2−10のアミノ酸、好ましくは4−8のアミノ酸、より好ましくは6のアミノ酸の挿入と組み合わせて、置換されている。2−10のアミノ酸長の挿入は、好ましくは配列番号:1の9位−10位である。配列番号:8−52に例示されている。これらの配列は、ユビキチン(配列番号:1)に80%乃至93%の相同性を示し、好ましくは89%乃至92%の相同性を示す。特に、配列番号:9−24、26−28,30−32、35−50、及び52は、配列番号:1に92%の相同性を示し、配列番号:25、29、34、51及び53は、配列番号:1に91%の相同性を示し、配列番号:33は、配列番号:1に89%の相同性を示す。(この挿入は、一の差異としてカウントされ、45位、75位、76位の相同は上述の定義にしたがって考慮されていない。)
【0071】
本発明の別の実施例では、二つのユビキチン部分が領域2−11及び62−66から選択され、これらの領域に対応する5つのアミノ酸、特に配列番号:1の62位、63位、64位、65位、66位、及び6位と8位において少なくとも置換されており、二つのユビキチン部分が直接、あるいはペプシドリンカーを介してつながっている。配列番号:53−73に例示されている。これらの配列は、配列番号:4のユビキチン−ダイマーに対して80%乃至93%相同性を示し、好ましくは、配列番号:4に対して87%乃至91%、それぞれの結合タンパク質のユビキチン部分は配列番号:1に対して80%乃至93%の相同性を示す。
【0072】
アミノ酸残基モチーフ「PDI」
本発明は、上皮細胞成長因子受容体(EGFR)の細胞外ドメインに対して700nMより小さい結合親和性(K)を有するユビキチン変異タンパク質を含むEGFR結合タンパク質を提供するものであり、このユビキチン変異タンパク質は、アミノ酸配列QKESTに比較してユビキチンのアミノ酸62乃至66(配列番号:3のX62、X63、X64、X65、及びX66に対応)から選択された3つのアミノ酸が置換されているアミノ酸配列を含み、このユビキチン変異タンパク質はユビキチン(配列番号:1)に対してあるいはジユビキチン(配列番号:4)に対して80%乃至93%、あるいは配列番号:3に対し少なくとも90%の配列相同性を有する。ここで、ユビキチンの62位及び63位(X62及びX63)は、アミノ酸で置換されていてもよく、ユビキチンの64位(X64)はP、V、及びAから選択されたアミノ酸で置換されており、ユビキチンの65位(X65)は、D及びEから選択されたアミノ酸で置換されており、ユビキチンの66位(X66)はI、V、A、M、F、Y、W、及びLから選択されたアミノ酸で置換されている。好ましくは、ユビキチンの64位、65位、66位(X64、X65、及びX66)は、P、D、及びI、又はV、D、及びI、又はA、D、及びI、又はV、D、及びV、又はP、D及びVから選択されたアミノ酸で置換されている。
【0073】
このように、本発明のEGFR結合ユビキチン変異タンパク質(Affilin)は、特有のモチーフを有し、配列番号:1の62位−66位から、すなわち、配列番号:3のX62、X63、X64、X65、及びX66位から選択されたアミノ酸配列を含み、これらは野生型配列QKESTに比べて、置換されている。
【0074】
特に、本発明は、配列番号:3のアミノ酸の位置X64、X65、及びX66(配列番号:1、修飾ユビキチンの64位、65位、66位に対応)に特有のアミノ酸残基モチーフがあるEGFRに結合するポリペプチドを提供しており、このアミノ酸モチーフはプロリン、アスパラギン酸及びイソロイシン(PDI)、あるいは、バリン、アスパラギン酸及びバリン(VDV)、あるいは、バリン、アスパラギン酸、及びイソロイシン(VDI)、あるいはプロリン、アスパラギン酸、及びバリン(PVD)、あるいはバリン、アスパラギン酸、及びイソロイシン(ADI)のいずれかである(すべて、本明細書では「PDIモチーフ」という。)
【0075】
この特有のPDIモチーフは、本発明のEGFR結合タンパク質に見られる。二つのユビキチン部分を含む結合タンパク質では、好ましくは、このモチーフが第1部分に見られる。
【0076】
本発明のいくつかの実施例は、ユビキチンの62位(X62及びX63)でR、Q、H、K、G、S、T、N、V、I、及びWから選択されたアミノ酸により;ユビキチンの63位(X63)で、N、H、A、S、R、E、T、Q及びKから選択されたアミノ酸により;ユビキチンの64位(X64)で、P、V及びAから選択された小さな非極性アミノ酸により、ユビキチンの65位(X65)で、D及びEから選択された酸性アミノ酸により、及びユビキチンの66位(X66)で、I、V、A、M、F、Y、W、及びLから選択されたアミノ酸による置換を提供している。本発明の好ましい実施例は、ユビキチンの62位(X62)でR、Q、G、S、及びT、から選択されたアミノ酸により;ユビキチンの63位(X63)で、N、H、及びAから選択されたアミノ酸により;ユビキチンの64位(X64)で、P、V及びAから選択されたアミノ酸により、ユビキチンの65位(X65)で、Dから選択された酸性アミノ酸により、及びユビキチンの66位(X66)で、I、及びVから選択されたアミノ酸による置換を提供している。
【0077】
本発明の一実施例では、EGFR結合タンパク質が、E64P、E64V、E64A、S65D、S65E、S65E、T66I、T66A、T66V、T66M、T66F、T66Y、T66W、又はT66Lから選択された3つのアミノ酸置換基からなるアミノ酸残基モチーフを含む。
【0078】
本発明のいくつかの実施例は、ユビキチンの62位−66位(X62、X63、X64、X65、及びX66)に5つのアミノ酸モチーフを提供しており、これは配列番号:90−106、及び配列番号:111−112、及び図1に示す、アミノ酸残基RNPDI、QNPDI、RHPDI、QHPDI、QAPDI、QQPDI、GEPDI、GHPDI、IHADI、HHPDI、RRVDV、SAPDI、SHPDI、THPDI、TSPDI、VNPDI、QSPDIからなり、特に、RX63PDI、QX63DIが好ましく、RNPDI、RHPDI、QNPDI、及びQHPDIが特に好ましい。
【0079】
本発明の一実施例では、EGFR結合タンパク質が、上皮細胞成長因子受容体(EGFR)の細胞外ドメインに対して700nMより小さい結合親和性(K)を有するユビキチン変異タンパク質を含んでおり、ユビキチン変異タンパク質は、配列番号:1に対応する64位、65位及び66位にアミノ酸残基モチーフを含み、このユビキチン変異タンパク質は、配列番号:1に対して少なくとも80%乃至94%の相同性を有する。本発明の一実施例では、EGFR結合タンパク質が、上皮細胞成長因子受容体(EGFR)の細胞外ドメインに対して700nMより小さい結合親和性(K)を有するユビキチン変異タンパク質を含んでおり、ユビキチン変異タンパク質は、配列番号:1に対応する62位、及び63位に対応するアミノ酸が、いずれのアミノ酸配列であってもよく、配列番号:1に対応する64位に対応するアミノ酸が、プロリン、バリン、及びアラニン(P、V、及びA)から選択され、もっとも好ましくはプロリン(P)であり;配列番号:1に対応する65位に対応するアミノ酸が、酸性アミノ酸から選択され、好ましくはアスパラギン酸とグルタミン酸(D及びE)であり、最も好ましくはアスパラギン酸(D)であり;配列番号:1に対応する66位に対応するアミノ酸が、イソロイシン、バリン、アラニン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、及びロイチン(I、V、A、M、F、Y、W及びL)から選択され、最も好ましくはイソロイシン(I)である。特に、本発明は、EGFRに結合するユビキチン変異タンパク質を提供しており、アミノ酸残基モチーフが、プロリン、アスパラギン酸、及びイソロイシン(PDI)、又は、プロリン、アスパラギン酸、及びバリン(PDV)、又は、アラニン、アスパラギン酸、及びイソロイシン(ADI)、又は、バリン、アスパラギン酸、及びバリン(VDV)、又は、バリン、アスパラギン酸、及びイソロイシン(VDI)のいずれかである。本発明の別の好ましい実施例ではEGFR結合タンパク質が、ユビキチン変異タンパク質を含み、アミノ酸残基モチーフを含むアミノ酸置換基が、E64P、S65D、及びT66I;又は、E64P、S65D、及びT66V;又は、E64A、S65D、及びT66I;又はE64V、S65D、及びT66V;又はE64V、S65D、及びT66I;からなり、最も好ましくは、E64P、S65D、及びT66Iである。
【0080】
EGFR結合ユビキチン変異タンパク質のアミノ酸残基モチーフの好ましい置換は:64位がP、A、Vから選択されたアミノ酸に置換されており、65位がD又はEから選択されたアミノ酸に置換されており、66位がI、M、F、Y、W,A、V、Lから選択されたアミノ酸で置換されている。
【0081】
図1は、ユビキチン由来のEGFR結合タンパク質の修飾を示す。「カートリッジ」の欄は、アミノ酸置換を示す。図1において、特に、配列番号:8−52では、修飾のカートリッジは、配列番号:1の第1N−末端ループ領域の6アミノ酸挿入を意味し(I9−10の間のアミノ酸の挿入)、例えば「(YNPMRY)」と記されている。カートリッジ中の以下の5つのアミノ酸は、配列番号:3に対応するアミノ酸位置X62、X63、X64、X65、及びX66における置換を、あるいは、配列番号:1又は配列番号:4のアミノ酸の62−66位における置換を意味する。例えば、Affilin139819(配列番号:39)については、カートリッジは(YNPMRY)RNPDIであり、これは天然で発生するN−末端ループ領域が6つのアミノ酸(YNPMRY)の挿入により延長され、さらに、ユビキチン(配列番号:1)の62位、63位、64位、65位、66位において5つのアミノ酸RNPDI置換があることを意味する。Affilin139819は、64位、65位、及び66位に特有のPDIモチーフを有する。Affilin139819は、EGFRの細胞外ドメインに役20nM(2×10−8M)の親和性で結合する。Affilin139791(配列番号:49)については、カートリッジが(PWRGYD)RRVDVであり、これは、N−末端ループ領域において6つのアミノ酸の挿入があることを意味し、ユビキチンの62位、63位、64位、65位、66位において5つのアミノ酸の置換があることを意味する。
【0082】
Affilinにおいて更なる修飾が可能である。図1の「追加交換」の欄を参照されたい。6つのアミノ酸のN−末端挿入及び62位、63位、64位、65位、66位における修飾に加えて、あるいは、Affilinの第1部分の6位、8位、62位、63位、64位、65位、66位のアミノ酸の置換に加えて、1、2、3、4又はそれ以上の更なる置換をユビキチン変異タンパク質に見ることができる。
【0083】
例えば、Affilin142232(配列番号:29)は、38位で一の更なる置換がなされており、Affilin139817(配列番号:25)は、38位で一の更なる置換がなされており、Affilin139829(配列番号:34)は、12位に一の更なる置換がなされており、Affilin139826(配列番号:51)は、74位で一の更なる置換がなされており、Affilin139808(配列番号:33)は、5位と12位で二つの更なる置換がなされており、Affilin139923(配列番号:70)は、4位、5位、13位、及び17位で第1部分に4つの更なる置換がなされており、70位で第2部分に一の更なる置換がなされている。このように、好ましくは、更なる修飾は、少なくともユビキチンの4位、5位、12位、13位、17位、38位、70位、及び74位に見られる。図1に例が挙げられている。
【0084】
本発明の別の実施例では、修飾のカートリッジは、ユビキチン(配列番号:1)(配列番号:3に対応するX62、X63、X64、X65、及びX66)のアミノ酸6位、8位、及び62位、63位、64位、65位、66位において第1ユビキチン部分に修飾があり、ユビキチン(配列番号:1)(配列番号:3に対応するX62、X63、X64、X65、及びX66)のアミノ酸の6位、8位、及び62位、63位、64位、65位、66位において第2ユビキチン部分に修飾があり、これらの部分が、直接に、又は好ましくは3−15アミノ酸のペプチドリンカーによってリンクされているユビキチン変異タンパク質に関する。代替的に、開始配列として、配列番号:4を修飾に使うことができる。配列番号:4は、二つの非修飾ユビキチン部分を有する分子であり、配列番号:4ではリンカーなしで示されている。しかしながら、いくつかの実施例では、二つのユビキチン部分の間で好ましくは3−15のアミノ酸のペプチドリンカーが、第1部分のアミノ酸76と第2部分のアミノ酸1の間に挿入されて、二つのユビキチン部分をつないでいてもよい。図1では、特に、配列番号:53−73及び配列番号:76と77においては、このカートリッジは、分子の第1及び第2ユビキチン部分のアミノ酸6、8、62−66における修飾を意味している。例えば、クローン139864(配列番号:58)については、カートリッジがHPRNPDI−HMGAGTMと読み、これは、第1ユビキチン部分において6H、8P、62R、63N、64P、65D、66Iのように、また、第2ユビキチン部分においては、6H、8M、62G、63A、64G、65T、及び66Mのように、置換が生じている(図1参照)。EGFR特異的結合モチーフPDIは、リニア分子のN−末端ユビキチン部分に位置している。
【0085】
このように、本発明のEGFR結合ユビキチン変異タンパク質は、配列番号:8−73及び113−114、又は、配列番号:8−73及び113−114のアミノ酸配列の一またはそれ以上に少なくとも80%の配列相同性を示すアミノ酸配列から選択されたアミノ酸配列を含み、これは図1に示されている。特に、EGFR結合ユビキチン変異タンパク質は、配列番号:89−106及び111−112を有するタンパク質と、配列番号:89−106及び111−112の62位、63位、64位、65位、66位におけるアミノ酸に80%の配列相同性を有するユビキチン変異タンパク質を含む。
【0086】
本発明の一実施例では、ユビキチン部分が、62位、63位、64位、65位、66位におけるアミノ酸から選択されこれに対応する5つのアミノ酸において少なくとも置換されており、64位、65位、66位における置換はPDIモチーフを含む。これらの置換に加えて、ユビキチン分子は、選択的に2−10のアミノ酸、好ましくは4−8のアミノ酸、より好ましくは6のアミノ酸の挿入を、配列番号:1の8−11位に対応する領域に有する。図1に示すように、配列番号:8−52に例が挙げられている。
【0087】
このように、いくつかの実施例では、ユビキチン部分がアミノ酸の64位、65位、66位におけるPDIモチーフに加えて、N−末端部分の第1ループにアミノ酸挿入を含み、更なる修飾が可能である。いくつかの実施例では、EGFR結合Affilinが、互いに直接つながっているあるいは結合しており、互いに一のエピトープに連結している結合エンティティを表している配列番号:1又は配列番号:2又は配列番号:3から取り出した二つの異なる修飾ユビキチン部分を含んでいる。ジユビキチンが配列番号:4に示されている。
【0088】
本発明の実施例では、二つのユビキチン部分が、配列番号:1の領域2−11及び6位、8位、62位、63位、64位、65位、66位から選択され、これに対応する5つのアミノ酸で少なくとも置換されており、N−ターミナル部分が、64位、65位、及び66位にPDIモチーフを含む。二つのユビキチン部分は直接、あるいは、リンカー、好ましくはペプチドリンカーを介してつながっている。この実施例の両ユビキチン部分は、同じ又はオーバーラップしたEGFRのエピトープに結合する。配列番号:53−73に例が示されている。
【0089】
生化学的特性化
EGFR結合ユビキチン変異タンパク質のさらなる特性化は、可溶性タンパク質の形で行うことができる。適切な方法は、この分野の当業者に公知であり、文献に記載されている。単離した異型の親和性と特異性はこの分野で当業者に公知であり、上述したように、また例示したように、生化学的標準的方法によって検出できる。安定性の分析のために、例えば、化学的又は物理的変性と組み合わせた分光あるいは蛍光ベースの方法が当業者に知られている。EGFR結合タンパク質の特性化の例示的方法が上記に説明されており、本発明の実施例の部分において概要が述べられている。
【0090】
例えば、生化学的ターゲット結合分析の概要を、図1に示す。結合親和性は、この分野の当業者に知られている様々な方法、例えばSPR分析(Biacore)によって確認した。さらに、温度安定性は、実施例にさらに詳細に述べており、図1に示すように、差走査型蛍光定量法(DSF)によって測定した。図1に示す結果に加えて、すべてのEGFR結合分子について、サイズ排除クロマトグラフィーによって可溶性(凝集なし)確認した。更なる機能的特性化を、EGFR過発現細胞について、細胞EGFR結合分析(フローサイトメトリー)を用いて行った。様々な濃度のAffilin分子を試験した(例えば、500、50、及び5nM)。図2及び3に示すように、EGFR細胞ターゲット結合が確認された。Affilin分子を比較する競合的結合実験は、様々なAffilinEGFR結合タンパク質によってPDIモチーフと結合したエピトープが、同一であるか、あるいは少なくともオーバーラップしていることを示す。(図4参照)。図5は、驚くことに、PDIモチーフを有するEGFR結合Affilin分子は、セツキシマブと競合せず、したがって、非オーバーラップエピトープに及ぶことを示している。このように、PDIモチーフを有するAffilin結合分子は、EGFR上のセツキシマブとは異なるエピトープに結合する。さらに、PDIモチーフを有するAffilin結合分子は、驚くことに、ヒトのがん細胞からの異種移植組織上のEGFRへの結合を示した。さらに、PDIモチーフを有する様々なAffilin分子の細胞結合が、ヒト由来の腫瘍細胞で確認された(図7参照)。特に、また、驚くことに、PDIモチーフを有するAffilin分子は、EGFRへの強い結合を示す。
【0091】
ホモ−ダイマーとヘテロ−ダイマー
更なる実施例においては、本発明のEGFR結合タンパク質は、ターゲット特異性が同じあるいは異なる、及び/又は、EGFRの同じ又は異なるエピトープに結合する、少なくとも二つのユビキチン変異タンパク質(Affilinタンパク質)を含む。図9−12に例が挙げられている。
【0092】
本発明の一実施例では、同じターゲット特異性を持つ二つの同一のユビキチン変異タンパク質を含み(ホモ−ダイマー)、EGFRの同じエピトープに結合するEGFR結合タンパク質が、優れた結合特性を示す。二量体EGFRAffilin分子の構造は、当業者には明らかなように、遺伝子合成又はラボスケールのクローン化によって得られる。例えば、二つの同一の抗EGFR−Affilin分子、すなわち、Affilin139819(配列番号:39)を、好ましくはペプチドリンカーを用いて、ホモ二量化した。ホモ−ダイマーのEGFRに対する結合親和性は、約0.6nM(Biacore 図11)であり、細胞に対しては約1.5nM(FACS/CHO−K1−EGFR細胞及びA549細胞、図12)であり、この親和性はAffilin139819の結合親和性より有意に高い親和性である(図9)。さらに、Affilin139819と、ホモ−二量体EGFRAffilin(139819−139819)のターゲット結合を比較した。いずれのAffilinもEGFR結合に対してEGFと競合しない。したがって、Affilin分子を含むPDIモチーフは、天然のターゲットEGFとは異なるあるいはこれとオーバーラップしない、EGF受容体上のエピトープを使用する。
【0093】
本発明の別の実施例では、EGFR結合タンパク質が、ターゲット特異性が同じである二つの異なるユビキチン変異タンパク質を含んでいる。二つの異なる抗EGFRAffilinタンパク質が直接又はリンカーを介して、好ましくはペプチドリンカーを介して結合することが好ましい。Affilin139791及びAffilin139819を含むヘテロ−二量体Affilinの生化学的特性化は、表2にまとめられている(実施例参照)。
【0094】
EGFR−Affilinとモノクローナル抗体を含む二重特異性及び/又は二価の結合タンパク質
本発明の結合タンパク質は、また、モノクローナル抗体又はその断片、又は第2のAffilin分子を含む又はこれからなる第2結合タンパク質を含む。一実施例では、第2の結合タンパク質はEGFRに対して特異性を持つ抗体である。
【0095】
EGFRの機能は、受容体の細胞外部分へのリガンドの結合をブロックする特異的モノクローナルEGFR抗体によって抑制することができる。例えば、モノクローナルEGFR抗体セツキシマブ(重鎖:配列番号:5、軽鎖:配列番号:6;商品名Erbitu(登録商標))は、先行技術からEGFRの機能を阻害することが知られている。セツキシマブは、遠隔転移を有する大腸がん、頭部及び頸部のがんの治療に使用される。抗体は頻繁に、化学療法及び/又は放射性核種によるアプローチと組み合わせて、治療効果を高める。別のEGFR特異的ヒトモノクローナル抗体は、例えば、パニツムマブ(商品名Vectibix(登録商標))である。パニツムマブは、高い親和性でEGFRに結合し、特に、遠隔転移を有する大腸がんの治療に使用される。
【0096】
驚くことに、抗EGFRモノクローナル抗体と、PDIモチーフを有する抗EGFR−特異的Affilinからなる新規なフォーマットを有する二重特異性結合分子は、EGFRに対して高い特異性をもって結合できることが分かった。これは、図及び実施例において、実施されている。さらに、このような構成は、従来の発現システムに容易に発現させることができる。
【0097】
本発明の一実施例は、セツキシマブとの抗EGFR−Affilin分子の融合タンパク質は、抗EGFRAffilinがセツキシマブの軽鎖のC−末端(図8A参照)、例えば、配列番号:87(CL139819)に融合すると、セツキシマブ単体より、EGFRにより強い結合を示すことを示している。抗EGFRモノクローナル抗体と、抗EGFR−特異的Affilinからなる新しいフォーマットの二重特異性結合分子は、EGFRに高い特異性をもって結合できることが分かった。
【0098】
実施例と図8にさらに詳細を説明したように、Biacoreによって結合親和性の試験を行った。図8は、セツキシマブの軽鎖に融合した抗EGFR−Affilinを有する融合タンパク質の特性化を示す。図8Aは、セツキシマブに比較して、抗EGFR−Affilin(CL−Affilin−139819)を有する融合タンパク質の優位に高い結合レベルを示している。セツキシマブのC−末端に融合した非修飾ユビキチン(CL−ユビキチン)を有するコントロール融合タンパク質EGFR結合は、セツキシマブと同等である。重鎖へのC−末端融合を有する融合タンパク質によって、同等の結果が得られた。したがって、セツキシマブへの抗EGFRAffilinの融合は、セツキシマブに比較して、EGFRへの融合タンパク質の結合レベルを強化している。
【0099】
図8Bは、NL−ユビキチンに比べてより高い結合レベルのNL−Affilin−139819を示す。重鎖へのN−末端融合を有する融合タンパク質と同等の結果が得られた。
【0100】
本発明の融合タンパク質は、さらに、例えば、NH139791−NL139864;CH139864−NL139864;NH139864−CH139864;CH139864−CL139864といった、EGFR結合Affilinタンパク質とセツキシマブの複合融合タンパク質を含んでいてもよい。セツキシマブと融合した抗EGFR−Affilinタンパク質を有する複合融合タンパク質は、セツキシマブに比べてEGFRへの融合タンパク質、特にモノクローナル抗体の軽鎖のC−末端及び重鎖のN−末端へのAffilin融合の結合レベルを強化する。
【0101】
更なる官能基を含む本発明の結合タンパク質とコンジュゲート
本発明の一実施例は、ユビキチン変異タンパク質とさらに少なくとも一の追加のタンパク質又は分子を含む本発明のEGFR結合タンパク質に及ぶ。追加のタンパク質は第1結合タンパク質としての抗原に対して同じ又は異なる特異性を有するユビキチン変異タンパク質(Affilin)である。更なる実施例では、本発明の結合タンパク質は、第3の結合タンパク質を含み、この第3の結合タンパク質は、第1のタンパク質と同じ又はこれと異なるエピトープに対して700nMより小さい特異的結合親和性を有するユビキチン変異タンパク質であり、このユビキチン変異タンパク質は例えば、配列番号:1によって規定されるアミノ酸配列に対して少なくとも80%の配列相同性を有し、第3の結合タンパク質が、第2の結合タンパク質(モノクローナル抗体)の第1の結合タンパク質と異なる末端に、あるいは、第1の結合タンパク質のN−末端又はC−末端にリンクしている。
【0102】
本発明の一実施例は、さらに、好ましくは(i)、(ii)及び(iii)群の少なくとも一の員から選択した部分に融合したあるいはこれにコンジュゲートしたAffilin−抗体融合タンパク質又はコンジュゲートを含む融合タンパク質又はコンジュゲートに及ぶ。群(i)は、ポリエチレングリコール、ヒト血清アルブミン、非ヒト血清アルブミン、アルブミン−結合ペプチド、ランダムコイルを形成するポリマー配列、免疫グロブリン又は免疫グロブリン断片、あるいはポリサッカライドから選択された血中半減期調節薬物動態部分であり、群(ii)は、モノクローナル抗体又はその断片から選択的に選択され、そのモノクローナル抗体の結合特異性を有する治療効果のある成分、サイトカイン、ケモカイン、細胞毒性化合物、酵素、又はこれらの誘導体、又は放射線核種、であり、群(iii)は、蛍光化合物、光増感剤、又は放射性核種から選択的に選択された診断用成分、である。
【0103】
コンジュゲート分子は、例えば、ペプチドリンカー配列又はキャリア分子を介して少なくとも一の部位あるいは複数の部位に付着し得る。例えば、本発明の融合タンパク質は、更なる複数回トキソフォア接合に適したキャリアに結合できる。このキャリアは、ポリエチレングリコール(PEG)又はヒドロキシエチルスターチ(HES)又はその他の適切なキャリアから選択される。
【0104】
本発明に係るタンパク質を生成するタンパク性又は非タンパク性の部分との更なる結合は、この分野でよく知られた化学的方法を適用して行うことができる。特に、システイン又はリジン残基の誘導体に特異的な結合化学物質を適用することができる。非天然アミノ酸を導入する場合、例えば、クリックケミストリーや、アルデヒド特異的化学物質、その他といった更なるルートの化学合成が可能である。
【0105】
このようにして得たコンジュゲートは、以下の例の一又はそれ以上から選択できる:リシン残基を介したタンパク質の結合、マレイミド化学を介してシステイン残基を介したタンパク質の結合。特に、システイン残基は、特異的に導入でき、更なる部分のペプチド性又はタンパク新生結合−遺伝子融合(好ましくはC−又はN−末端)「Tag」融合−タンパク質のC−末端又はN−末端のいずれかの位置するタンパク質又はペプチド、に適した位置に配置できる。融合「Tag」は、例えば、ポリヒスチジン、HA−tag、FLAG−tag、Strep−tag、その他である。対象となるタンパク質をその他の機能性成分に共有結合で、または非共有結合で付着させるこれらの及びその他の方法は、この分野ではよく知られているので、ここでは更なる詳細は説明しない。
【0106】
更なる実施例は、本発明に係る結合タンパク質に関するものであり、さらに、血中半減期又は生体内分布を変える薬物動態部分を含み、これは、好ましくは、ポリエチレングリコール(PEG)、ヒト血清アルブミン、非ヒト血清アルブミン、アルブミン−結合ペプチド、ランダムコイルを形成するポリマ配列、または、例えばFc断片などの免疫グロブリン又は免疫グロブリン断片である。
【0107】
したがって、本発明はEGFR結合タンパク質を含む融合タンパク質に及び、EGFR結合タンパク質は、他のタンパク質と遺伝子学的に融合され、選択的に、さらに非タンパク質性部分に融合され、あるいは、EGFR結合タンパク質がその他のタンパク質に化学的に結合され、選択的にさらに非タンパク性部分に結合されているコンジュゲートに及ぶ。
【0108】
Affilin分子(突然変異生成)の同定方法
実施例として、突然変異生成の開始点は、例えば、配列番号:1−4によるユビキチンのcDNA又はゲノムDNAである。さらに、このユビキチンタンパク質の遺伝子コードは、合成により作成できる。配列番号:1−4のユビキチンのDNAをこの分野で当業者に知られた方法によって作成し、変性させ、及び増幅することができる。部位特定突然変異生成法、ランダム突然変異生成法、PCRを用いた突然変異生成、あるいは同様の方法といった、公知の様々な方法自体を突然変異生成に使用できる。これらの方法はすべて当業者に知られている。本発明の好ましい実施例では、突然変異生成のためのアミノ酸の位置を決定する。それぞれの場合において、様々な突然変異体のライブラリが設定され、公知の方法を用いて検査される。一般的に、修飾すべきアミノ酸の予選択は、修飾すべきユビキチンタンパク質について入手可能な構造的情報に基づいて行うことができる。ランダム化する様ざまなアミノ酸セットの選択が、様々なライブラリにつながる。
【0109】
Affilin分子の選択
上述したように取得された遺伝子プールライブラリは、ディスプレイ法などの選択方法用のタンパク質の発現を可能にする適宜の機能遺伝要素と組み合わせることができる。本発明によれば、発現したタンパク質はターゲット分子と接触して、結合親和性があれば、パートナーとの互いに対する結合が可能である。このプロセスにより、ターゲット分子に対する結合活性を有するユビキチン変異タンパク質の同定が可能である。選択方法の更なる詳細については、例えば、WO2011/073214、WO2011/073208、WO2011/073209を参照されたい。WO2011/073214、WO2011/073208、WO2011/073209の内容は、本明細書に引用により組み込まれている。
【0110】
本発明による接触は、好ましくは、ファージディスプレイ、リボソームディスプレイ、mRNAディスプレイ、細胞表面ディスプレイ、イースト表面ディスプレイ、又はバクテリア表面ディスプレイ法といった、適切な提示及び選択方法、好ましくはファージディスプレイ法によって好適に実行される。開示を完全なものにするために、さらに以下の文献を引用する:Hoess, Curr. Opin. Struct. Biol. 3(1993), 572-579; Wells and Lowmann, Curr. Opin. Struct. Biol. 2 (1992), 597-604; Kay et al., Phage Display of Peptides and Proteins-A Laboratory Manual (1996), Academic Press. これらの方法は当業者には公知であり、その変形を含めて本発明によって使用することができる。
【0111】
修飾タンパク質が所定の結合パートナ―に対して定量化可能な結合親和性を有するかどうかの決定は、本発明によれば、以下の方法の一またはそれ以上によって実行できる:ELISA、表面プラズモン共鳴分光法、蛍光分光法、フローサイトメトリー、等温滴定熱量測定、分析用超遠心、その他。
【0112】
製造方法
本発明のEGFR結合分子は、単純な有機合成戦略、固相支援合成技術、又は商業的に入手可能な自動合成器といった、数多くの従来公知の技術で作成できる。一方で、この分子は、従来の遺伝子組み換え技術単独で、あるいは、従来の合成技術と組み合わせて作成することもできる。本発明に係るコンジュゲートは、上述したように、例えば、リシン又はシステインベースの化学的性質などの、化学的方法で取得できる。
【0113】
本発明のもう一つの態様によれば、本発明の結合タンパク質をコード化する単離ポリヌクレオチドが提供されている。本発明は、本発明のポリヌクレオチドによってコード化されたポリペプチドにも及ぶ。本発明は更に、本発明の単離ポリヌクレオチドを含む発現ベクターと、本発明の単離ポリヌクレオチド又は発現ベクターを含む宿主細胞を提供する。
【0114】
例えば、本発明のEGFR結合タンパク質用にコード化する一又はそれ以上のポリヌクレオチドは、適当な宿主に発現し、生成した結合タンパク質は単離することができる。このポリヌクレオチドを含むベクターは、本発明の範囲にある。更なる実施例では、本発明は、本発明の核酸分子を含むベクターに関する。ベクターとは、タンパク質コード化情報を宿主細胞に伝えるのに使用できる分子又はエンティティ(例えば、核酸、プラズミド、バクテリオファージ又はウィルス)を意味する。
【0115】
本発明は、さらに、本発明の核酸分子又は本発明のベクターを含む単離細胞に関する。適切な宿主細胞は、原核生物又は真核生物を含む。様々な哺乳類あるいは昆虫類の細胞培養システムも、遺伝子組み換えタンパク質の発現に使用することができる。
【0116】
本発明の実施例は、また、本発明のベクターを担持する宿主細胞又は非ヒト宿主に関する。宿主細胞は、核酸配列で変形されたあるいは変形することが可能であり、これによって対象となる遺伝子を発現する細胞である。この用語は、親細胞の子孫を含み、いずれにせよ、対象となる遺伝子が存在する限り、この子孫は形態学的にあるいは遺伝子学的組成がもとの親細胞と同じである。本発明によれば、この宿主は、本発明のタンパク質を移入された、及び/又は本発明のタンパク質を発現したトランスジェニック非ヒト動物であってもよい。好ましい実施例では、このトランスジェニック動物は、非ヒト哺乳類である。
【0117】
別の態様では、本発明のEGFR結合タンパク質を製造する方法が提供されており、この方法は、a)結合タンパク質の発現に適した条件下で本発明の宿主細胞を培養するステップと;b)製造した結合タンパク質を単離するステップと;を具える。本発明は、また、本発明の方法によって製造した結合タンパク質に及ぶ。原核生物又は真核生物宿主を培養するのに適した条件は、この分野の当業者によく知られている。
【0118】
本発明の一実施例は、上述したように、本発明に係るEGFR結合タンパク質の作成方法に関し、この方法は以下のステップを具える:上述の融合タンパク質をコード化する核酸を作成するステップと;この核酸を発現ベクターに導入するステップと;この発現ベクターを宿主細胞に導入するステップと;この宿主細胞を培養するステップと;この宿主細胞を、融合タンパク質が発現する培養条件にさらして、上述した融合タンパク質を作成するステップと;選択的に、ステップ(e)で製造したタンパク質を単離するステップと;選択的に、このタンパク質を上述した更なる官能基とコンジュゲートするステップ。タンパク質製造のための細胞の培養とタンパク質の発現は、この分野の当業者に公知の技術を適用して、小容量のシェーカーフラスクから大きな発酵槽までどのような規模でも行うことができる。
【0119】
本発明によって修飾したユビキチンタンパク質の発現に続いて、公知の方法によってそれを精製し、濃縮することができる。選択される方法は、例えば、使用したベクターの発現、宿主有機体、意図する使用分野、タンパク質のサイズ、及びその他の要因といった、この分野の当業者に公知のいくつかの要因に依存している。
【0120】
一般的に、生成したタンパク質の培養混合物からの単離は、遠心分離、沈殿、軟凝集、クロマトグラフィーの別の実施例、濾過、透析、濃縮及びこれらの組み合わせ、その他といった、この分野でよく知られた従来の方法及び技術を提供して行うことができる。
【0121】
単純な精製のために、本発明によって修飾したタンパク質を、分離物質に対して高い親和性を持つその他のペプチド配列に融合させてもよい。好ましくは、このような融合は、ユビキチン変異タンパク質の機能に有害な効果がないか、特定のプロテーゼ開裂部位の導入によって精製後に分離することができるように選択される。このような方法は、この分野の当業者にはよく知られている。
【0122】
製造したポリペプチドの単離方法は、この分野でよく知られており、限定するものではないが、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー(サイズ排除クロマトグラフィー)、親和性クロマトグラフィー、高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)逆相HPLC、ディスクゲル電気泳動、免疫沈降、などのステップを含む。例えば、Sambrook J, Russell DW, (2001),Molecular Cloning: A laboratory manual. 3rd ed, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York参照。
【0123】
結合タンパク質の特性化
本発明の結合タンパク質の更なる特性化は、単離した可溶性タンパク質の形で実行できる。適切な方法は、この分野の当業者に公知であるか、文献に記載されている。このような方法は、タンパク質の物理的、生物物理学的、機能的特性の決定を行う。単離した変異体の親和性と特異性は、この分野の当業者に公知であり、上記に述べるとともに実施例に述べた、SPR分析、又はELISAといった生化学の標準的方法によって検出できる。安定性の分析には、例えば、化学的又は物理的方法と共に、例えば差走査型蛍光定量法(DSF)を含む、分光又は蛍光ベースの方法がこの分野の当業者に知られている。機能特性化は、適宜の細胞ベースのアッセイ又はインビボでの実験において実行することができる。結合タンパク質の特性化の例示的方法は、上述するとともに、本発明の実施例に概略が示されている。
【0124】
本発明のEGFR結合タンパク質の使用
本発明の更なる態様では、EGFR結合ユビキチン変異タンパク質又は融合タンパク質又はコンジュゲートを、医薬、特に、がんの医薬的治療又は診断法に使用する。
【0125】
メンブレンタンパク質EGFRは、腫瘍細胞で上方調整されて腫瘍細胞が制御不能に成長し、転移を形成することが知られている。がん患者の新しい治療法には、例えばモノクローナル抗体セツキシマブやパニツムマブなどのターゲットにした治療学によるEGFRの抑制が含まれる。
【0126】
本発明のEGFR結合ユビキチン変異タンパク質を含む医薬組成物は、がんの治療に使用することができ、ここで、EGFRは、限定するものではないが、大腸がん、乳がん、肺がん、頭部及び頸部のがん、卵巣がん、子宮頸がん、前立腺がん、すい臓がん、を含む疾病の発達に関連する。
【0127】
この組成物は、治療的及び診断的に有効な量の本発明のEGFR結合ユビキチン変異タンパク質を含むように構成されている。投与するタンパク質の量は、治療する有機体、疾患のタイプ、患者の年齢と体重、及び公知の更なる要因によって異なる。
【0128】
本発明は、本発明のEGFR結合ユビキチン変異タンパク質又はコンジュゲート、あるいは核酸分子の組み合わせ、本発明のベクター、及び/又は、その宿主細胞又は非ヒト宿主、及び医薬的に需要可能なキャリアを含む医薬組成物に及ぶ。本発明は更に、本発明のEGFR結合ユビキチン変異タンパク質又はコンジュゲート、あるいは核酸分子の組み合わせ、本発明のベクター、及び/又は、その宿主細胞又は非ヒト宿主、及び医薬的に需要可能なキャリアを含む診断用薬に及ぶ。この組成物は、治療的又は診断的に需要可能なキャリアを含み、選択的に更なる公知の予備薬剤と賦形剤を含む。これらは、限定するものではないが、例えば、安定化剤、界面活性剤、塩、バッファ、着色剤を含む。
【0129】
EGFR結合ユビキチン変異タンパク質を含む医薬組成物は、液体製剤、凍結乾燥、クリーム、局所適用用ローション、アエロゾル、粉状、粒状、タブレット、座薬、又はカプセル、エマルジョン形状、又はリポソーム製剤の形であってもよい。この組成物は、好ましくは、滅菌性、非発熱性、等浸透圧であり、薬学的に伝統的で受容可能な公知の添加物を含んでいてもよい。さらに、U.S. Pharmacopoeia or Remington’s Pharmaceutical Sciences, Mac Publishing Company (1990)の規則を参照されたい。
【0130】
ヒト及び獣医学の分野では、少なくとも一の本発明に係るEGFR結合ユビキチン変異タンパク質を含む薬物療法及び予防薬学的に有効な医薬を、公知の方法で作成することができる。生薬製剤に依存して、これらの成分を、経口的に、注射、点滴、全身的に、直腸に、腹腔内に、筋肉注射で、皮下に、経皮的に、あるいはその他の従来使用されている適用方法によって、投与することができる。医薬品のタイプは、治療する疾病、投与ルート、疾病の重篤度、治療する患者、及び医薬の分野の当業者に知られているその他の要因によって異なる。
【0131】
本発明に係る医薬組成物は、組成物という形で存在し、様々な有効成分と希釈剤、及び/又はキャリアが互いに混合されているか、あるいは、複合製剤の形であってもよく、ここでは有効成分が部分的にあるいは全体的に区別される。適当なキャリア又は賦形剤は、液状物質であってもよく、有効成分のビークルあるいは媒体として作用する。このような組み合わせ又は複合製剤の一例は、キットオブパーツ(kit-of-parts)である。
【0132】
本発明の更なる態様は、本発明に係るEGFRユビキチン変異タンパク質を結合する、特に、特定のターゲット/抗原又はそのイソフォームを診断に受容できるキャリアに結合するEGFRを含む診断用組成物を開示している。
【0133】
強化されたEGFRの発現は、腫瘍の悪性度に関連するため、患者の中のEGFR発現状態についての情報を増やすためには、非侵襲的撮像用の診断を開発することが望ましい。さらに、EGFRの撮像は、治療に対する患者の反応の評価に有益となりうる。例えば、適切な放射性同位体又は蛍光色素分子でラベル化した本発明のタンパク質の使用は、腫瘍と転移の位置を決めるための非侵襲的撮像に使用することができる。(参考までに、Milenic et al. 2008 Cancer Biotherapy & Radiopharmaceutials 23: 619-631; Hoeben et al. 2011, Int. Journal Cancer 129: 870-878を参照されたい)。その薬物動態特性によれば、無傷の抗体は所定の撮像に適していない。サイズが小さく、高い親和性のため、放射性同位体でラベル化したあるは蛍光色素分子でラベル化した本発明の融合タンパク質は、撮像用の診断により適している。
【0134】
本発明のタンパク質は、治療に有効に適用することができることが期待される。特に、分子が発現して、優れた腫瘍ターゲット効果と生体内分布を示すため、副作用が低減される。本発明の医薬組成物は、従来のいずれかの方法で製造することができる。
【0135】
実施例
本発明の更なる理解のために以下に実施例を提供する。本発明は、特に、EGFRに結合するユビキチンの特定の修飾を例示する。しかしながら、本発明はこの例に限定されるものではなく、以下の実施例は単に、上述の記載に基づいて本発明の実行可能性を示すものである。本発明を完全に開示するために、この出願に引用により全体が組み込まれている本出願に記載した文献を参照する。
【0136】
実施例1:EGFR−結合ユビキチン変異タンパク質(Affilin)の発現と精製
ターゲット:遺伝子組み換えヒトEGFR−FcキメラをR&D Systems 社から購入した(カタログNo.344−ER−050)。ヒトEGFR(NP_005219)の細胞外ドメイン(Met 1 - Ser 645)をコード化するDNA配列を、C−末端におけるヒトIgG1のFc領域と融合させた。
【0137】
発現/精製:当業者に知られている標準的方法を用いてAffilin分子を発現ベクターにサブクローン化して、精製し、以下の通り分析した。
【0138】
発現/精製の分析:更なる分析には、SDS-PAGE、SE-HPLC、及びRP-HPLCが含まれている。タンパク質濃度は、280nmでの吸収測定によって測定した。生成後、Dionex HPLCシステム及びSuperdex(登録商標)200HiLoad 16/600カラム(GE Healthcare)を用いて、サイズ除外クロマトグラフィー(SE HPLC又はSEC)を行った。このカラムは、容積120mlであり、2CVと均衡していた。サンプルを流速1ml/分の精製バッファBにあてた。シグナル強度が10mAUに達すると、分別捕集を開始した。SDS-PAGE分析に続いて、陽性断片をプールして、そのタンパク質濃度を測定した。Dionex HPLCシステムとVydac 214MS54 C4(4.6×250mm、5μm、300Å)カラム(GE Healthcare)を用いて、RPクロマトグラフィー(RP HPLC)を行った。Affilinタンパク質はすべて発現し、親和性クロマトグラフィーとゲルの濾過によって、しっかり精製した。
【0139】
実施例2:EGFR−結合Affilinタンパク質の可溶性分析
8Mの尿素を加えることによってペレットからタンパク質を回収した。浮遊物と再懸濁したペレットをNuPage Novex 4−12%Bis-Tris SDS gelによって分析し、Coomassieで染色した。すべてのAffilinタンパク質は可溶性であった。例えば、Affilin139819は高い可溶性を示した(100%の可溶性発現)。
【0140】
実施例3:抗EGFRAffilinタンパク質は、高温で安定である(示差走査型蛍光定量法、DSFによる分析)
本発明の結合タンパク質の熱安定性を、示差走査型蛍光定量法によって測定した。各プローブは、濃度0.1μg/μLで、MicroAmp(登録商標)Optical 384−ウエルプレートへ移し、SYPRO Orange 染料を適当に希釈して加えた。25乃至95℃の温度勾配を、分あたり1℃の加熱速度でプログラムした(ViiA-7 Applied Biosystems)。520nmの励起波長と623nmの放射波長でコンスタントに測定した(ViiA-7 Applied Biosystems)。熱変性の遷移中点(Tm、融点)が、図1に選択された変異体について示されている。本発明の抗−EGFRAffilinタンパク質は、約60℃乃至80℃の温度範囲においてタンパク質の変性(熱安定性)について計算された熱遷移点を有する。抗−EGFR Affilinとモノクローナル抗体を含む融合タンパク質は、同様の融点(65−69℃)を示す。同様の融点は、関連するタンパク質の構造に相関する。すべての抗−EGFR Affilinタンパク質は、同様の溶融温度である。すべての結合タンパク質の安定性は、コントロールタンパク質の安定性に比較可能である。
【0141】
実施例4:Affilinタンパク質のEGFR結合の分析(表面プラズモン共鳴、SPR)
CM5センサーチップ(GE Healthcare)を、SPR駆動バッファと平衡させた。表面に露出したカルボン酸基を、EDCとNHSの混合物を通過させて活性化して、反応エステル基を精製した。700−1500RU EGFR−Fc(オンリガンド)をフローセルに固定して、IgG−Fc(オフリガンド)を、ターゲット(hlgG−Fc:ターゲット)に対して1:3の比率で別のフローセルに固定した。リガンドを固定した後、エタノールアミンを注入して、非共有結合リガンドを除去した。リガンドが結合すると、被検査タンパク質が表面上にたまって、屈折率が高くなる。この屈折率の変化をリアルタイムで測定し、応答あるいは共鳴ユニット(RU)対時間としてプロットした。この検査対象を、流速30μl/分で一連の希釈液中でチップに適用した。30秒間会合が行われ、60秒間分離が行われた。各手順の後、30μlの再生バッファでチップ表面を再生し、稼働バッファと平衡させた。希釈系列のセツキシマブが陽性コントロールとして作用し、希釈系列の非修飾ユビキチンは陰性コントロールを意味する。コントロールサンプルを流速30μl/分でマトリックスに当て、60秒間会合させて、120秒間分離した。遺伝子組み換えと再平衡を上述した通り行った。結合の観察を、Biacore(登録商標)3000(GE Healthcare)を使用して行った。製造業者によって提供されたBlAevaluation 3.0 softwareを介して、Langmuir 1:1 model (RI=0)を使用して、データ評価を行った。EGFRに対する結合の結果を図1に示す。評価したかい離定数(K)をオフターゲットに対して標準化して、表示した。試験を行ったすべての抗−EGFR Affilinタンパク質が、高い親和性でEGFRに結合した。PDIモチーフ(配列番号:77)のないクローン138840は、EGFRへの結合親和性を示さない。
【0142】
実施例5:細胞表面に発現したEGFRへの結合(FACS分析)
フローサイトメトリーを使用して、抗−EGFR Affilinタンパク質と表面露出EGFRとの相互作用を分析した。EGFR過剰発現CHO−K1細胞と空(empty)ベクターコントロールCHO−K1細胞を用いた。抗−EGFRモノクローナル抗体セツキシマブを陽性コントロールとして用いた。結果を図2にまとめた。
細胞を培地フラスコの底から取り出して、あらかじめ冷却したFACSブロックバッファで希釈し、細胞懸濁液の希釈物を作成して細胞を染色した。細胞の数を測定すると、細胞が1×10細胞/mlに調整された。次いで、希釈した細胞懸濁液を96ウエルプレート(Greiner)に移して、各細胞ラインにつき3つ作成した。
【0143】
濃度が異なるAffilinタンパク質(例えば、500、50、5又は0.5nM)又はコントロール(配列番号:2又は4)をこの細胞に加えてインキュベートした。浮遊物を取り除いて、FACSブロックバッファ中で1:300に希釈した100μl/ウエルのウサギ抗連鎖球菌抗体を加えた。主抗体を除去したのち、1:1000に希釈したヤギ抗ヒトIgG Alexa Fluor 488抗体を適用した。Merck-Millipore社からのGuava easy-Cyte HTデバイス上で、励起波長499nm、放射波長520nmでフローサイトメトリー検出を行った。この結果を図3に示す。
【0144】
説明したFACS分析において、外にヒトEGFRを発現した細胞上の結合タンパク質を確認した。EGFRを発現していない細胞株には非特異的結合は見られなかった。さらに、本発明のEGFR結合タンパク質は、例えば、Affilin139754、Affilin139791、Affilin139780といった、外にヒトEGFRを発現した細胞への結合を示した。
【0145】
実施例6:EGFR結合Affilinタンパク質が抗−EGFR抗体セツキシマブ以外のエピトープに結合することの競合分析
抗EGFR抗体が結合するエピトープについて説明した。例えば、Freeman et al. 2008, Journal of Clinical Oncol., 26:14536参照。セツキシマブで認識された立体配座エピトープは、EGFRのドメインIIIの大きな表面に及ぶ(例えば、Li et al, 2005, Cancer Cell 7:301-311及びChao et al., 2004, J Mol Biol. 342:539-550参照)。セツキシマブと異なるEGFRエピトープに結合するAffilin分子は、所定の医療例に有益である。単離した抗EGFRAffilin変異体が、認識された抗EGFR抗体セツキシマブと競合するかどうかを調べるために、以下のアッセイを行った。EGFR(例えば、His−tagを有するEGFRの細胞外ドメイン:Acrobiosystems)を、NHS/EDCの性質を使用して、CM5Biacoreチップ上に固定して、1000の反応単位(RU)とした。第1実施例では、全てのAffilin分子を(139819と142205)を、規定した濃度(2.5μM)、流速30μl/分で、PBST0.005%Tween20に注入した(図5、実線)。第2の実験では、同じフローチャネルに、まず、セツキシマブ(200nM)を、チップ表面が飽和するまであらかじめ装填した。セツキシマブを装填したのち、実施例1と同じように、変異体を適用した(2.5μM、図5、破線)。より明確にするために、両方のセンサーグラムのトレースを、最後の注入したAffilinで整列させた。
【0146】
Affilin139819のEGFR結合は、セツキシマブの存在によって影響されなかったことが示された。したがって、競合は観察されず、これは、セツキシマブと本発明の抗−EGFR Affilinタンパク質が、EGFRの異なるエピトープに結合することを意味している。PDIモチーフがあるAffilinタンパク質は、EGFRのセツキシマブ以外の表面に露出したアミノ酸に結合することになる。PDIモチーフのあるEGFR特異的Affilinタンパク質は、セツキシマブエピトープと部分的に又は全体がオーバーラップすることなく、エピトープに結合する。
【0147】
PDIモチーフのない抗−EGFR Affilinタンパク質は、セツキシマブエピトープに近接するエピトープか、あるいは、セツキシマブエピトープと部分的に又は完全にオーバーラップするエピトープに結合する。
【0148】
実施例7:EGFR結合Affilinタンパク質は異種移植腫瘍組織に結合する
本発明の様々な濃度の結合タンパク質を、MDA−MB231腫瘍組織片上のEGFR結合と比較した。厚さ6μmの組織片は、よく冷やした絶対アセトンに固定した。5%のウマ血清でブロックしたのち、組織片を500nM又は100nMのAffilin138819(配列番号:71)、Affilin138838(配列番号:69)、Affilin138840(配列番号:77、PDIモチーフなし)、及びAffilin138845(配列番号:73)、でインキュベートした。また、コントロールとして非修飾ユビキチン(配列番号:7)でインキュベートした。結合タンパク質を、ウサギ抗−Strep Tag−抗体と、抗−ウサギ−IgG-Alexa488を用いて検出した。図6に示すように、EGFRへのAffilinタンパク質結合はすべてヒト腫瘍組織に発現し、特に、PDIモチーフのあるAffilinタンパク質は、EGFRへの強い結合を示す。
【0149】
実施例8:EGFR結合Affilinタンパク質は腫瘍細胞に発現した細胞外EGFRに結合する(免疫細胞化学)
A431細胞は、類表皮がん由来であり、高いEGFR発現レベルで知られている。A431細胞は、Lab-Tek(登録商標)Chamber Slides (Sigma-Aldrich)で播種され、37℃、5%COで2日間インキュベートした。3%のパラホルムアルデヒドを用いて、RTで10分間、細胞を固定し、PBSで洗浄し、次いで、ブロック溶液(BS,3%BSA+0.1%Triton-X100)を用いて、4℃で30分間ブロックした。次いで、細胞を500nMの結合タンパク質(Affilineタンパク質139791、139819、139989、142232、142265)、あるいはコントロールとしての10nMのセツキシマブで、4℃で1時間インキュベートした。非修飾ユビキチン(図7では139090、配列番号:4)が、陰性コントロールとして作用した。PBS細胞で洗浄したのち、細胞をウサギ抗−Strep−抗体(1:500)で4℃で1時間インキュベートした。次いで、ロバ抗−ウサギAlexa488(1:1000)又は、ヤギ抗−ヒトAlexa594(1:1000)の二次抗体でインキュベートし、続いて、細胞核をDAPIで視覚化した。チャンバースライドを解体して、ガラススライドをMowiolとカバーガラスで覆った。細胞をZeiss Axio Scope.A1顕微鏡で撮像し、標準的なソフトウェアパッケージを使って画像を処理した。
【0150】
EGFRを発現したA431腫瘍細胞の染色により、Affilin139791(配列番号:49)、Affilin139819(配列番号:39)、Affilin142232(配列番号:29)及びAffilin142265(配列番号:75、PDIモチーフなし)の細胞外EGFRへの結合を確認した。試験を行ったすべてのAffilin分子のうち、Affilin142232がA431腫瘍細胞に最も強い染色を示した。Affilin142265は、Affilin142232、Affilin139791、及びAffilin139819に比較的優位に弱いシグナルを示した(図7)。Affilin139989については、A431腫瘍細胞の細胞外EGFRへの結合は検出されず、FACS分析で得られた結果が確認された(図2)。さらに、Affilinタンパク質を、A431腫瘍細胞(例えば、Affilin139820)の陽性染色について試験した。
【0151】
実施例9:Affilinとセツキシマブの融合タンパク質の結合分析
EGFR−Affilin139819(配列番号:39)(又は、非修飾ジユビキチン、配列番号:4)を、抗EGFR抗体セツキシマブの軽鎖又は重鎖のC−末端又はN−末端にリンクさせた。配列番号:86−89及び107−110の最初の20までのアミノ酸をシグナル配列とする。セツキシマブをエンコードするcDNAあるいは融合タンパク質を、FreeStyle(登録商標)293-F細胞に一時的に導入して、血清−フリー/動物性分フリー媒体中で発現させた。発現を、Western Blot分析法によって確認した。融合タンパク質をProtein A 親和性クロマトグラフィー(GE-Healthcare cat no 17-0402-01)によって、AKTAxpress(登録商標)(GE Healthcare)を用いて上澄みから生成した。ゲルフィルタレーションで融合タンパク質の更なる精製を行った。更なる分析には、SDS-PAGE、SE-HPLC、及びRP-HPLCが含まれる。結合の調査は、上述し、図8に示すBiacore(登録商標)3000 (GE-Healthcare)を使用して行った。さらに、CHO−K1細胞に発現したヒトEGFRへの融合タンパク質結合のFACS分析を表1に示す。
【0152】
表1:本発明のEGFR−ユビキチン−変異タンパク質−セツキシマブ融合タンパク質のEGFRに関する親和性データ(FACS)
【0153】
実施例10:ホモ−二量体Affilinタンパク質の結合分析
EGFR−Affilin139819のホモ−二量体(配列番号:39)を実施例1に記載したように発現させ;Western Blot分析法によってこの発現を確認した。ホモ−二量体を、Protein A親和性クロマトグラフィー(GE-Helthcare cat no 17-0402-01)によって、AKTAxpress(GE Healthcare)を用いて精製した。融合タンパク質の更なる精製を、ゲルフィルタレーションによって行った(Superdex 75 16/600)。更なる分析には、上述したように、SDS-PAGE、SE-HPLC、及びRP-HPLCが含まれる。結合の調査は、上述し、図11に示すようにBiacore3000 (GE Healthcare)を使用して行った。さらに、CHO−K1細胞又はA549細胞に発現したヒトEGFRへのホモ−二量体結合のFACS分析を図12A−Dに示す。ホモ−二量体の親和性はAffilin139819より10フォールド高い。
【0154】
Affilin142265をホモ−二量化しても同様の結果が得られた。EGFRへの親和性は、Biacoreで測定すると、Affilin142265については445nMであった。しかしながら、ホモ−二量化すると(Affilin142265×Affilin142265)、親和性が約10ホールド改善された(48nM)。熱安定性は、Affilin142265のホモ−二量化によっては影響を受けなかった。
【0155】
実施例11:ヘテロ−二量体Affilin融合タンパク質の結合分析
EGFR−Affilin139791(配列番号:49)とEGFR−Affilin139819(配列番号:39)のヘテロ−二量体融合タンパク質を実施例1に記載したようにして発現させた。発現をWestern Blot分析法で確認した。ホモ−二量体を、上述したようにProtein A親和性クロマトグラフィーとゲルフィルタレーションで精製した。更なる分析には、SDS-PAGE、SE-HPLC、及びRP-HPLCが含まれる。結合の調査は、上述し、表2に示すように、Biacore(登録商標)3000 (GE Healthcare)を使用して行った。
【0156】
表2:ヘテロ−二量体EGFR−結合Affilin構造の生化学的特性
図1-1】
図1-2】
図2-1】
図2-2】
図2-3】
図3
図4-1】
図4-2】
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12-1】
図12-2】
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]