(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ロータ側に開口する開口部が形成されたスロットが周方向に複数形成され、前記ロータの円周面に対向して配置されたステータコアと、前記スロットに挿入されたコイルと、を備えた回転電機の製造方法であって、
樹脂材料と軟磁性体粉末とを混合して、前記軟磁性体粉末の混合割合が50体積%以上85体積%以下の範囲で前記軟磁性体粉末の体積率を調整することにより、前記樹脂材料と前記軟磁性体粉末との比透磁率が5〜35の範囲の、流動性を有する混合物を作成し、
前記流動性を有する前記混合物を前記開口部に充填し、
前記開口部に充填された前記混合物を硬化させて混合体を形成する、
回転電機の製造方法。
ロータ側に開口する開口部が形成されたスロットが周方向に複数形成され、前記ロータの円周面に対向して配置されたステータコアと、前記スロットに挿入されたコイルと、を備えた回転電機の製造方法であって、
樹脂材料と軟磁性体粉末とを混合して、前記軟磁性体粉末の混合割合が50体積%以上85体積%以下の範囲で前記軟磁性体粉末の体積率を調整することにより、前記樹脂材料と前記軟磁性体粉末との比透磁率が5〜35の範囲の、流動性を有する混合物を作成し、
前記流動性を有する前記混合物を前記開口部に充填し、
前記開口部に充填された前記混合物の表面に押圧型を接触させ、
前記押圧型を接触させた状態で前記混合物を硬化させ、
前記混合物が硬化した後に前記押圧型を取り外して、混合体を形成する、
回転電機の製造方法。
ロータ側に開口する開口部が形成されたスロットが周方向に複数形成され、前記ロータの円周面に対向して配置されたステータコアと、前記スロットに挿入されたコイルと、を備えた回転電機の製造方法であって、
樹脂材料と軟磁性体粉末とを混合して、前記軟磁性体粉末の混合割合が50体積%以上85体積%以下の範囲で前記軟磁性体粉末の体積率を調整することにより、前記樹脂材料と前記軟磁性体粉末との比透磁率が5〜35の範囲の、流動性を有する混合物を作成し、
前記流動性を有する前記混合物を所定の形状に硬化させて混合体を形成し、
硬化された前記混合体を前記開口部に装填する、
回転電機の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0014】
以下、
図1〜
図13を用いて、実施例1について説明する。
図1及び
図2に示すように、回転電機100は、回転軸(以下、シャフトともいう。)11に固定されたロータ12と、ロータ12の外側に設置されたステータ13とを有している。
【0015】
ロータ12は、所定の形状に打ち抜いた電磁鋼板を積層した積層コアであるロータコア121と、ロータコア121のスロット内に挿入された二次導体122と、を有している。ロータコア121は、回転軸11に固定されており、回転軸11の回転に伴い、ロータ12も回転可能に設けられている。
【0016】
ステータ13は、所定の形状に打抜いた電磁鋼板等の軟磁性薄板を積層した積層コアであるステータコア131と、ステータコア131のスロット132内に挿入されたコイル133とを有している。ステータコア131は、ロータ12の円周面に対向して配置されている。なお、ステータコア131を構成する積層コアは、箔体を積層した積層コアであってもよい。
【0017】
スロット132は、ステータコア131の外周側に設けられた円環状のバックコアからロータ12の径方向に放射状に延びるティース(歯)134間に形成されており、ステータコア131の周方向に複数形成されている。スロット132には、ロータ12側に開口するスロット開口部135が形成されている。スロット開口部135は、ティース134のロータ12側端部がステータコア131の周方向に突出した突起部136を有する、半閉型に形成されている(セミオープン・スロット型)。
【0018】
スロット132内には、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)シートにより形成されるスロットライナー14、15が設置されている。スロットライナー14は、スロット132の内壁に、ロータ12側を開口させて設置されている。スロットライナー15は、スロットライナー14の内壁に、スロットライナー14の開口部を覆うように設置されている。コイル133は、スロットライナー14、15で囲まれた空間内に収納されている。
【0019】
コイル133は、例えば銅やアルミ等にエナメル等の絶縁材が被覆された金属線からなり、
図2に示す例では、コイル133は同心巻により配置されている。スロット132内に設置されるコイル133、スロットライナー14、15は、スロット132内に組み込まれた後、コイル結線、コイルエンド加工を経て、例えば不飽和ポリエステル系ワニス等の固着ワニスにより、ステータコア131に固着される。図示は省略するが、固着ワニスは各部材間に介在させて用いてもよく、各部材の表面を薄く被覆するように塗布して用いてもよい。
【0020】
図3に、
図2に示すステータコア131のスロット開口部135に、軟磁性体粉/樹脂混合体17(以下、「混合体」ともいう)が形成された状態を示す。
図3に示すように、混合体17は、ステータコア131のスロット開口部135及びスロットライナー15よりもロータ12側に存在するスロット132の空隙部137に形成されている。混合体17は、軟磁性体粉と樹脂材料との混合物の硬化体であり、その形成方法は後述する。
【0021】
図4は、混合体17の内部組織を模式的に示す図である。
図4に示すように、混合体17は、例えばバインダーであるシリコーン樹脂19中に、概球状のアトマイズ鉄粉末18が分散されて形成されている。アトマイズ鉄粉末18間にはシリコーン樹脂19が存在しており、アトマイズ鉄粉末18同士の間に樹脂等の絶縁物が存在している状態(アトマイズ鉄粉末18同士が互いに金属的に接合しない状態ともいう)で、混合体17を形成している。
【0022】
混合体17の比透磁率は、5〜35とする。比透磁率が5〜35の範囲にある混合体17を、スロット開口部135に形成することで、高調波磁束の発生による損失が低減され、モータ効率について、高い効率改善効果を得ることができる。
【0023】
混合体17の比透磁率と、回転電機100のモータ効率との関係を検証した。評価結果を
図5及び
図6に示す。
図5に示す検証には、軟磁性体粉として、Fe−3wt%Si合金粉(以下、Fe−Si合金粉を「合金鉄粉」と示す。)を使用した。具体的には、合金鉄粉と、樹脂材料である室温硬化型のシリコーン樹脂とを、それぞれ、樹脂成分硬化後の軟磁性体粉/樹脂混合体における合金鉄粉の体積率が
図6の値となるように秤量し、合金鉄粉と樹脂材料との混合物を、混練機を用いて混練して作成した。合金鉄粉(Fe−3wt%Si合金粉)としては、ガスアトマイズ粉を使用し、粒径が150μmを超える粗大粉を取り除いて使用した。
【0024】
図5は、
図1に示す回転電機100(3相誘導電動機)と同様の基本構造を有する回転電機を200V/50Hzで稼働したときのモータ効率を、比透磁率毎にプロットしたグラフである。
図5に示すグラフは、横軸が比透磁率であり、縦軸がモータ効率であり、横軸は対数表示で示している。
図6には、
図5のグラフにプロットした各軟磁性体粉/樹脂混合体における合金鉄粉の体積率を、回転電機100のモータ効率と併せて示している。
【0025】
具体的には、スロット開口部135に、混合体17として、
図6に示す各比透磁率を示す混合体17を形成したステータ13をそれぞれ用意し、これらのステータ13をロータ12に装着して、回転電機100稼働時のモータ効率(出力/入力電力)を測定した。この測定結果に基づき、混合体17の比透磁率とモータ効率との関係を評価した。なお、モータ効率の測定は、いずれのステータ13も、同一のロータ12に差し替えて行った。ロータ12は、アルミニウムのダイキャスト成形により、スロットにロータバーが形成され、1スロット分のスロットスキューが施されたものを使用した。なお、
図5では、スロット開口部135に混合体17を形成していないステータ13を装着したときの回転電機100のモータ効率を、100として示している。
【0026】
図5に示すグラフの検証には、回転電機100として、出力2.2kW、4極の三相かご型誘導モータ(以下、単に誘導モータと略す)を用いた。ステータコア131、ロータコア121は、いずれも厚さ0.5mmの電磁鋼板を用い、積厚は、いずれも104mmとした。ステータコア131の寸法は、外径175mm/内径110mmとし、ロータコア121の寸法は、外径109.4mm/内径(シャフト穴径)32mmとした。ステータコア131のスロット数は36とし、ロータコア121のスロット数は28とした。ステータコア131のティース134の幅は5.5mmとし、スロット132全体の深さは17.8mmとした。ティース134の突起部136で囲まれた領域の寸法は、幅3.2mm、深さ0.8mmとした。
【0027】
コイル133は、絶縁層込み外径が0.72mmであるエナメル線を152本用いて構成した。スロットライナー14、15としては、いずれも、厚さ0.21mmのPET(ポリエチレンテレフタレート)シートを使用した。
【0028】
図5に示すように、スロット開口部135に混合体17を形成した回転電機100は、混合体17をスロット開口部135に充填していない回転電機100と比較して、いずれも高いモータ効率を得られた。混合体17を充填していない回転電機のデータは
図5における比透磁率が1のデータである。混合体17の比透磁率が5以上のときには、比透磁率が5未満のときと比較して、モータ効率について高い改善効果を得られている。換言すれば、混合体17の比透磁率が5未満の場合には、モータ効率の向上度合が小さく、混合体17を形成するコストに見合うだけの、効率改善効果を得られない。
【0029】
一方、混合体17の比透磁率が35を超えると、混合体17を介して、隣接するステータコア131のティース134間を流れる磁束(以下、「漏れ磁束」と示す。)が増大し、一次銅損が増大するため、モータ効率が低下する。混合体17の比透磁率を35以下とすることで、漏れ磁束の増大が抑制され、モータ効率改善について、高い効果を得ることができる。なお、比透磁率40を超えると、混合体17中の軟磁性体粉の割合が過多となり軟磁性体粉の大部分が金属的に接合してしまうため、本実施例では混合体17の比透磁率は約38まで上昇させたデータを用いる。
【0030】
なお、軟磁性体粉を含有していない、シリコーン樹脂単独の成形体をスロット開口部135に形成した状態は、磁気的には、スロット開口部135を空隙のままとした状態と等価である。このため、
図5に示すグラフでは、軟磁性体粉の配合量が0である場合すなわち比透磁率が1の場合として示している。
【0031】
なお、
図5の検証で使用した、上記各体積率の混合体17は、軟磁性体粉と樹脂材料との混合時における、樹脂材料中での軟磁性体粉分布の均一化や、混合作業の容易性を考慮して、樹脂材料として、その初期粘度を、軟磁性体粉の体積率に応じて異ならせて使用した。具体的には、軟磁性体粉の体積率が40体積%及び48体積%の軟磁性体粉/樹脂混合体を作成する場合には、初期粘度70Pa・sのシリコーン樹脂を使用し、軟磁性体粉の体積率が54〜66体積%の軟磁性体粉/樹脂混合体を作成する場合には、初期粘度20Pa・sのシリコーン樹脂を使用し、軟磁性体粉の体積率が72体積%以上の軟磁性体粉/樹脂混合体を作成する場合には、初期粘度1Pa・sのシリコーン樹脂を使用した。
【0032】
実施例1では、例えば、ステータコア131のスロット開口部135及びスロットライナー15よりもロータ12側に存在するスロット132の空隙部137に、樹脂材料が硬化する前の、流動性を有する軟磁性体粉/樹脂混合物を充填する。次いで、軟磁性体粉末/樹脂混合物に含まれる樹脂材料を硬化させることで、スロット開口部135及びスロット132の空隙部137に、比透磁率が5〜35である混合体17を形成する。
【0033】
具体的には、例えばシリコーン樹脂に軟磁性体粉を混合した軟磁性体粉/樹脂混合物を、シリコーン樹脂が硬化する前に、スロット開口部135及びスロット132の空隙部137に充填する。次いで、軟磁性体粉/樹脂混合物のロータ12側へのはみ出し防止のため、軟磁性体粉/樹脂混合物の表面に、ステータコア131の内周面と等しい曲率を有するテフロン(登録商標)製の押圧型を接触させる。このとき、余剰な軟磁性体粉/樹脂混合物は、スロット132の端部から排出される。
【0034】
この状態で、軟磁性体粉/樹脂混合物を室温にて所定時間放置し、シリコーン樹脂を硬化させて混合体17を形成した後、混合体17の表面から、テフロン製の押圧型を取り外す。以上の手順により、スロット132の空隙に、混合体17が形成された、ステータ13を得ることができる。
【0035】
混合体17の透磁率は、軟磁性体粉が混合体中に占める体積率により調整することができる。以下に、混合体17の磁気特性が、軟磁性体粉の種類に依存せず、軟磁性体粉の体積率に依存する点について、
図7〜
図9を用いて説明する。
【0036】
図7は、Fe−Si合金における、単位重量当たりのSi含有量と、透磁率(直流最大比透磁率)との関係を示すグラフである。
図7に示すように、例えばFe−6.5wt%Si合金の透磁率(直流最大比透磁率)は、Fe−3wt%Si合金の透磁率(直流最大比透磁率)の約3倍程度である。従って、Fe−Si合金自体の透磁率は、合金組成に依存する。
【0037】
次に、上記したFe−3wt%Si合金及びFe−6.5wt%Si合金を、それぞれ樹脂材料と混合した軟磁性体粉/樹脂混合体の密度に対する比透磁率の関係を検証した。検証結果を
図8に示す。なお、
図8は、軟磁性体粉/樹脂混合体における、軟磁性体粉の体積率を変化させることで、軟磁性体粉/樹脂混合体の密度を変化させたものである。
【0038】
図8に示すように、Fe−3wt%Si合金、Fe−6.5wt%Si合金のいずれを用いた場合にも、混合体の密度増大に伴って、比透磁率が増大しているが、各密度における両混合体の比透磁率の差は小さい。従って、
図7に示される、両合金間における磁化特性の差は、混合体17においては殆ど反映されていない。
【0039】
従って、混合体17としての磁化特性は、軟磁性体粉の種類には依存せず、混合体における軟磁性体粉の体積率に依存する。このため、樹脂材料と混合する磁性体としては、軟磁性を示すものであればよく、Fe−Si合金以外の他の軟磁性体を適用することが可能である。また、複数種の軟磁性体粉の混合物を、樹脂材料と混合して用いてもよい。
【0040】
次に、軟磁性体粉/樹脂混合体の磁化特性について検証した。
図9に、
図5の検証で使用した混合体17のうち、軟磁性体粉を72体積%含む混合体17についての磁化曲線を示す。なお、
図9の磁化曲線は、上記した混合体17を、外径30mm、内径20mm、厚さ5mmに成形したリングコアについての、1kHzでの磁化曲線を示したものである。
【0041】
図9に示すように、軟磁性体粉の体積率が72体積%である混合体17のB−H曲線は、ほぼ直線状となっており、混合体17の磁化特性における、軟磁性体固有の磁化特性の影響が小さいことが確認できる。
【0042】
つまり、混合体17の軟磁性体間には、非磁性体である樹脂材料が介在しているため(
図4参照)、混合体17においては、軟磁性体粉固有の磁化特性の影響が、樹脂材料により低減されている。このため、混合体17としての磁化特性は、樹脂材料により分離された軟磁性体粉間の距離、即ち、混合体17に占める軟磁性体粉の体積率に依存する。従って、以上の点からも、混合体17としての磁化特性は、軟磁性体粉の種類には依存せず、混合体17における、軟磁性体粉の体積率に依存することが把握される。
【0043】
混合体17の設置により、高い効率改善効果を得る観点からは、混合体17における軟磁性体粉の体積率を、50体積%以上85体積%以下とすることが好ましい。
【0044】
混合体17における軟磁性体粉の体積率を、50体積%以上とすることで、モータ効率について高い向上度合を得ることができ、混合体17を設置する設置コストに見合うだけの、高い効率改善効果を得ることができる。また、混合体17における軟磁性体粉の体積率を、85体積%以下とすることで、軟磁性体粉が互いに金属的に接合することなく、樹脂材料中に分散した状態とすることができる。これにより、混合体17を介して、隣接するティース134を流れる漏れ磁束の増大や、これに伴う一次銅損の増大を抑制することができる。
【0045】
つまり、
図10に示すように、軟磁性体粉間の接合を目的とする圧縮力を作用させずに形成した、同一径の球形粒子21の細密充填状態では、充填率は概ね74体積%である。球形粒子が粒度分布を有する場合には、
図10に示す球形粒子21の空隙に、球形粒子21より小粒径の球形粒子が充填されるため、軟磁性体粉間の接合を目的とする圧縮力を作用させない場合、球形粒子の充填率の最大値は、概ね85体積%である。従って、混合体17における軟磁性体粉の体積率を、85体積%以下とすることで、軟磁性体粉が互いに金属的に接合することなく、樹脂材料中に分散した状態とすることができる。効率改善効果をより高く得る観点からは、混合体17における軟磁性体粉の体積率は、55体積%以上80体積%以下とすることが好ましいとも言える。
【0046】
実施例1では、上記したように、軟磁性体粉と樹脂材料との混合物を、スロット開口部135に充填した後に固形化するため、混合物に圧縮力を作用させなくても、混合体17を形成することができる。このため、軟磁性体粉同士が金属的に接合することなく、樹脂材料中に軟磁性体粉が分散した状態の混合体17を、容易に得ることができる。この場合、混合体17は、原理的には、電気絶縁性を示す。
【0047】
回転電機を長期間運転した場合、混合体17の機械的強度が不足していると、ロータ12からの吸引力や、ロータ12の回転に伴う流体摩擦力等の作用により、混合体17の欠落や、これに伴う製品事故が発生することがある。このため、回転電機に装着された混合体17における、欠落等の機械的損傷に対する耐性を、以下に曲げ試験により評価した。
【0048】
曲げ試験は、
図11に示すように、3点曲げ試験により行った。具体的には、支持体31の支点32上に試験体33を置き、その中央に、圧子34の先端を加重点として曲げ荷重を印加して、時間変化に伴う曲げ変位及び曲げ荷重の大きさを測定した。
【0049】
支持体31としては、支点32間距離が20mm、支点32高さが6mmのものを使用した。また、支持体31及び圧子34としては、支点32及び圧子34の先端が、それぞれ半径4mmの円弧形状を有するものを使用した。試験体33としては、テフロン製の分割モールドに所定量の混合体17を投入し、硬化させて、幅6mm、厚さ10mm、長さ30mmの直方体に成形した。曲げ試験の過程において、試験体33が、支持体31の支点32間の面に接触しないように、圧子34の最大変位を6mmとして曲げ試験を行った。変位の基準点(ゼロ点)は、曲げ荷重の印加開始点である。
【0050】
図12は、曲げ試験における試験体33のクラック発生時点での、圧子34先端の変位と、比透磁率との関係を示すグラフである。
図12に示すように、比透磁率が6未満の混合体17では、支点32の高さに相当する距離(6mm)だけ圧子34を変位させても、クラックが発生しなかった。また、比透磁率が6以上の混合体17では、比透磁率の増大に伴って、クラック発生時における圧子34の変位値が低下しており、比透磁率の増大に伴い、混合体17の延性が低下していることが確認できた。
【0051】
また、比透磁率が7.3〜31の領域での圧子34の曲げクラック発生変位の推移と比較すると、比透磁率が31から38に変化するときの、圧子34の曲げクラック発生変位の低下度が大きく、その違いは顕著であった。このため、比透磁率が38の混合体17は、比透磁率が31の状態から大幅に脆化し、曲げ変形の開始直後の段階でクラックが発生していることが確認できた。なお、
図12のプロット上部に示す上矢印は、クラック発生時の変位量が6mm以上であることを示している。
【0052】
図13は、
図12において行った曲げ試験における、試験体33のクラック発生時における曲げ荷重と、比透磁率との関係を示すグラフである。
図12において説明したように、比透磁率が6未満である混合体17では、曲げクラックが発生していない。このため、
図13において、比透磁率が6未満のときの各プロットの曲げ荷重は、圧子34が6mm変位した時点での値を示している。
【0053】
図13に示すように、比透磁率の増大に伴い、クラック発生時における曲げ荷重は増大したが、比透磁率が38の混合体17では、曲げ荷重が急激に低下し、機械的強度が大幅に低下することが確認できた。
【0054】
比透磁率が38の混合体17の機械的強度が低下した理由は、樹脂材料に対する軟磁性体粉の混合量が過大であるため、軟磁性体粉間に樹脂材料が充填されていない領域が形成され、曲げクラックの起点となるボイドが多数発生したためと推察される。
【0055】
以上の曲げ試験の結果から、比透磁率が38以上である混合体17では、機械的強度が低く、かつ脆いため、回転電機を長期間運転した場合には、混合体17の欠落が発生し易く、実用に供することが困難であることが確認された。以上の結果から、混合体17において、効率の観点および機械的強度の観点から、混合体17の比透磁率は、5以上35以下とするのが好ましい。
【0056】
軟磁性体粉としては、例えば、ガスアトマイズ粉を好適に用いることができる。ガスアトマイズ粉は、概略球状粉であり、樹脂材料との混練や混合の容易性や、混合物の均一性に優れている。ただし、軟磁性体粉は、必ずしも概略球状である必要はなく、例えば還元粉や破砕粉等であってもよい。この場合には、軟磁性体粉の形状に応じて、混練条件や攪拌条件を調整することで、適用することが可能である。
【0057】
なお、
図5に示すグラフの測定に用いた混合体17では、シリコーン樹脂の合金鉄粉に対する接着性が高いため、合金鉄粉には表面処理を施していない。ただし、軟磁性体粉と樹脂材料との接着性の改善を目的として、樹脂材料や軟磁性体粉の種類に応じて、シランカップリング剤等の表面処理剤により、軟磁性体粉を適宜表面処理するようにしてもよい。軟磁性体粉に表面処理を施して、樹脂材料との接着性を改善することで、混合体の機械的特性を向上させることができる。
【実施例2】
【0058】
以下に、実施例2に係る回転電機の製造方法について、
図14を用いて説明する。実施例2は、軟磁性体粉と樹脂材料との混合物を予め固形化して、剛性を有する混合体17とした後、スロット開口部135に装着する形態である。なお、実施例2で適用する回転電機は、後述するように、スロットライナーの形状及び設置形態が異なる点を除いて、その構成は、実施例1で適用する回転電機100と同じである。
【0059】
まず、軟磁性体粉と樹脂材料とを混合し、これらの混合物を、スロット開口部135に嵌合可能な形状に成形した後、混合物に含まれる樹脂材料を固形化して、混合体17を形成する。次いで、コイル133をスロット132内に挿入し、スロット132の底部側に押し込みつつ、スロットライナー20のロータ12側端部をスロット132の中心側に湾曲させる(
図14(a)参照)。
【0060】
次に、スロット開口部135とコイル133との間に形成された空隙部138に、混合体17を挿入する。混合体17は、スロットライナー20端部のスプリングバックにより、スロット開口部135側に押し上げられ、ステータコア131のティース134の突起部136に軽く押し付けられて固定される(
図14(b)参照。)。
【0061】
次いで、スロット132内に挿入されたコイル133について、コイルエンド圧縮処理を行う。このとき、スロット132の底部に押し付けられたコイル133がスロット開口部135側に移動し、混合体17が、スロット開口部135に嵌合される(
図14(c)参照。)。
【0062】
最後に、不飽和ポリエステル系のワニスを用いて、コイル133及びスロットライナー20をステータコア131に固着させると同時に、混合体17を、ステータコア131に固着させる。これにより、ステータコア131のスロット開口部135において、磁気特性に影響する隙間を極力小さくした状態で、混合体17を装着することができる。
【0063】
以下に、実施例2に係る回転電機の製造方法について具体的に説明する。以下の説明では、混合体17として、軟磁性体粉であるFe−3wt%Si合金ガスアトマイズ粉末と、樹脂材料であるエポキシ樹脂とを混合して硬化させた、混合体17を使用した。
【0064】
実施例2では、まず、混合体17を、ステータコア131のティース134の突起部136のテーパ部で囲まれた領域を含む、スロット開口部135を充填できる形状に形成した。これにより、混合体17の、スロット開口部135への位置決めが可能となる。具体的には、長さ104mmの溝が形成されたステンレス製モールド(分割型)に、軟磁性体粉/樹脂混合物を充填した後、ステータコア131の内周面と等しい曲率を有するステンレス製治具により溝の開放面を閉じ、軟磁性体粉/樹脂混合物中の樹脂を硬化させて、混合体17を形成した。
【0065】
ステンレス製モールドには、充填物との接触面及びモールド(分割型)の分割面に、シリコーン樹脂系の離型剤を予め塗布した後、脱泡処理後の混合物を流し入れた。これにより、エポキシ樹脂硬化後の混合体17を、ステンレス製モールドから容易に取り出せるようにした。
【0066】
混合体17は、その断面が、装着されるスロット132領域の断面積より若干小さくなるように形成した。具体的には、検証に使用した回転電機における、ステータ13のスロット開口部135の幅は3.2mmであったため、ステンレス製モールド(分割型)のスロット開口部135に該当する部分の溝幅を3.1mmとして、得られる混合体17とスロット開口部135との間に、片側0.05mmの挿入ギャップを形成した。これにより、スロット開口部135への嵌合時における混合体17の損壊を防止した。
【0067】
混合体17は、Fe−3wt%Si合金ガスアトマイズ粉末とエポキシ樹脂とを、軟磁性体粉の体積率が72体積%となるように混合して形成した。エポキシ樹脂としては、室温での粘度が0.6Pa・sの二液性樹脂を使用し、撹拌機を用いて軟磁性体粉と混合した。撹拌機による混合後、ロータリーポンプによる減圧チャンバー内で、混合物の脱泡処理を行った。脱泡処理後の混合物を、上述したステンレス製モールドに流し込み、100℃で2時間、次いで175℃で4時間の条件で加熱して、混合物中のエポキシ樹脂を硬化させた。
【0068】
なお、例えば大型回転電機の打ち込み磁性クサビでは、ステータ13のスロット132に対して、回転軸11の軸方向に磁性クサビを挿入して装着するため、磁性クサビとスロット132との間には、ある程度の大きさのギャップが必要である。これに対し、実施例2の回転電機の製造方法では、混合体17を、ステータ13の径方向に移動させることで、スロット開口部135に装着する。従って、上記した大型回転電機における磁性クサビの装着時と比較して、混合体17を、短い移動距離でスロット132に装着することが可能となる。このため、大型回転電機への磁性クサビの装着時と比較して、挿入ギャップを大幅に低減することができ、混合体17の磁気的効果の損失を低減することができる。
【0069】
実施例2によれば、混合体17を有するステータ13を、簡易にかつ効率的に製造することができる。なお、実施例2の製造方法により得られたステータ13を用いた回転電機については、モータ効率の測定を行っていないが、実施例2の製造方法により得られたステータ13を用いた回転電機についても、実施例1の製法により得られたステータ13を用いた回転電機において、混合体17における軟磁性体粉の体積率を72体積%としたときと、ほぼ同等のモータ効率改善効果が得られると推察される。
【0070】
実施例2の回転電機の製造方法では、予め固形化した混合体17を、スロット開口部135に装着する。このため、実施例1で設置した、スロット開口部135側のスロットライナー15(
図2参照)を設置せずに、混合体17を設置することができる(
図14参照)。
【0071】
なお、
図2に示す例では、スロットライナー15が、コイル133とステータコア131との間の絶縁性を確保する機能を有している。
図14(c)に示すように、ロータ12側のスロットライナー15を設置しない場合には、混合体17が、コイル133とステータコア131との間の絶縁性を確保する機能を兼ねる。
【0072】
図9で説明したように、混合体17の一種である混合体17は、1kHzの交番磁界を加えても、渦電流によるヒステリシス増大が認められず、ほぼ絶縁体であることが認められる。このため、混合体17により、コイル133とステータコア131との間の電気絶縁性を確保することが可能である。
【0073】
但し、混合体17における軟磁性体粉末の含有率が高く、混合体としての電気絶縁性が低い場合には、混合体17の、スロット132底部側の面に絶縁樹脂シートを貼り付けたり、混合体17とコイル133との間に絶縁樹脂シートを挿入したりしてもよい。
【0074】
樹脂材料としては、軟磁性体粉間に浸透して、混合体17において軟磁性体粉を保持することができ、かつ電気絶縁性を有するものであれば、上記したシリコーン樹脂やエポキシ樹脂以外のものを用いることも可能である。ただし、モータ稼働時の損失による発熱や、これに伴うステータコア131やコイル133の温度上昇に対する耐熱性を考慮して、樹脂材料を選択することがよい。
【0075】
実施例2において、樹脂材料として使用したエポキシ樹脂は、熱硬化樹脂であり、熱硬化処理過程において大幅な粘度低下を生じることが知られている。樹脂材料の低粘度化が顕著であると、低粘度化した樹脂材料が、熱硬化処理時にステンレス製モールド(分割型)の接合界面に流入することがある。この場合、モールド内の軟磁性体粉/樹脂混合物の混合比が変動し、所望の磁気特性を有する軟磁性体粉/樹脂混合物を得られないことがある。このため、熱硬化性の樹脂や低粘度樹脂を用いた場合や、軟磁性体粉の混合割合の低い軟磁性体粉/樹脂混合物を成形する場合には、軟磁性体粉/樹脂混合物からの樹脂成分の流失を抑制するため、必要に応じて、アルミナ、シリカ等の微細なセラミックス粉を樹脂材料に適宜混合し、セラミックス粉により粉体粒子間の空間を最小化した状態で、樹脂材料を充填して硬化させるようにしてもよい。
【実施例3】
【0076】
図15には、ステータスコアのスロット開口部近傍の拡大図を示す。
ステータスコア131のスロット132の格納部139内には、絶縁物であるスロットライナー14と、巻線133と、絶縁物であるスロットライナー(またはサシキ)15とが、外周側より挿入されて収納されている。外周側のスロットライナー14は巻線133とティース134との間を絶縁する。また、内周側のスロットライナー15は絶縁の役割に加え、巻線133がスロット開口部135の端部よりロータコア側へ突出するのを防ぐ役割を持つ。巻線133は例えばエナメル被服銅線のような導体がティース134に巻回されたコイルである。
【0077】
ステータスコア内径に沿ってスロット開口部135を有するステータスコア131のスロット132の形状は、大型回転電機ではおもに全開口型(オープン)スロット、中型・小型回転電機では半開口型(セミクローズ)スロットが用いられている。また、ステータスコアのスロットとスロットとの間にはティース134が存在する。これらの開口型のスロット形状ではティース134の電磁鋼板の透磁率とステータスコアスロット開口部135の透磁率との違いから磁束密度の疎密(スロットリップル)が生じてしまう。このスロットリップルによりスロット開口部135において高調波磁束が発生し、ロータコア121のステータスコア側表面に近い箇所で鉄損や銅損を生じる。この高調波磁束を抑制するためにはステータスコアとロータコア間の等価ギャップ長の短縮が必要となる。等価ギャップ長を短縮することでカータ係数が小さくなる。その結果として、高調波磁束の低減に寄与する。
【0078】
そこで本実施例では、その特徴として、
図15のように、スロット132のうちスロット開口部135から格納部139の上部1321まで磁性楔171を充填する構造を成している。磁性楔171の内周面はステータスコア131の内周面と一致する箇所まで充填されている。図示しないが、磁性楔171は、磁性楔171の軸方向端部もステータスコアの端部と一致する箇所まで充填されている。また、磁性楔171はスロット開口部135の側壁に加え、スロット開口部135の側壁とは角度が変わる格納部139の側壁(図示の例では両側のスロットライナー14)にも接触している。このようにスロット開口部135よりも周方向幅の広い格納部139まで磁性楔171が存在することで、磁性楔171が磁気吸引力により内径側に引っ張られる際に格納部139内に形成される部分がひっかかるため、磁性楔171がロータコアからステータスコア内径側にかかる磁気吸引力による欠落を防止する構造となっている。
【0079】
磁性楔171は、実施例1における混合体17と同様な磁性部材であり、磁性楔171は鉄等の磁性粉末と樹脂とを混練させたものを充填し熱によって硬化させることで成型する。磁性粉末は主に磁気特性向上の役割を担い、樹脂材は磁性粉末同士を接着させるバインダーとして機能する。樹脂材を混入することにより、磁性楔の強度を確保している。
【0080】
磁性楔171の径方向端面がステータスコア131の内周面と一致する箇所に存在することで磁気特性をより高めることが出来る。これは上述したように、等価ギャップ長の短縮による効果である。さらにスロット開口部135の側壁全体に接触するように磁性楔171を充填することで、磁性楔171と電磁鋼板の間に空隙を生じることが防止できるため磁気特性が高まる。また、スロット開口部135の径方向厚みと磁性楔171の径方向厚みを一致させることでより効果の高い磁性楔を実現できる。
【0081】
なお、本実施例では熱硬化性の材料を用いて磁性楔171を形成しているが、逆に冷却すると硬化する性質を有する材料を用いても構わない。不可逆変化を起こす材料であれば回転電機の駆動時に液状に戻ることもないため、磁性楔として使用することが可能である。また、本実施例は半開口型スロットであっても全開口型スロットであっても適用することができる。
【0082】
本実施例の磁性楔171を用いることで、幅広く知られているようにステータスコアのティースと開口部での透磁率の違いから生じる磁束密度の疎密を解消することで、現状の体格を維持しながら、更に高効率な回転電気を提供できる。また、スロット開口部135に特別な溝や特殊な開口部形状などを形成せずに実現できるので、製作が容易となる。
【0083】
また、励磁電流を低減する効果もあるため、高効率化要素であるコイル占有率の増加や導体断面積の増加によって発生する始動電流の悪化や力率の低下といった特性悪化も抑制できる。さらに、磁束密度の疎密を解消することで磁気騒音を防止することができ、またトルクリップルを防止することができる。
【実施例4】
【0084】
図16を参照して、実施例4を説明する。
図16は、ステータコアの斜視図であり、併せてスロット132の格納部139の断面も示している。
実施例4は、ステータコア131のスロット開口部135における軸方向(
図16のZ方向)の構造の特徴を説明するものである。スロット開口部135の軸方向Zに、所定間隔で、複数の磁性部材161が配置され、それら磁性部材161の間に、磁性粉末と樹脂とを混練した磁性材172を充填して構成される。磁性材172は上述の磁性楔と同様の磁性部材である。ここで、磁性部材161はスロット開口部135の形状に合わせて予め硬化させた固体物であり、混練した磁性材172を充填するための案内部材或いは支持部材となる。磁性部材161は作業工程の観点から治具と呼んでもよいであろう。なお、
図16は、スロット開口部135に複数の磁性部材161が装填しているが、磁性材172が未だ充填していない状態を示している。なお、後述する実施例5や実施例6との関係で言えば、実施例4は、磁性楔が軸方向Zに複数層の磁性部材から構成される例である。
【0085】
実施例1で説明した、磁性体と樹脂とを混練した磁性体材料を開口部135に充填して磁性楔171を成形する方法では、磁性体材料を加熱硬化する際に樹脂が熱により通常の室温での粘度よりも低くなることで、軸方向端部Aまたはスロット開口部135の端部Bより漏出する虞がある。特に高強度を有するエポキシ樹脂に関してはガラス転移温度を超えると状態変化を生じ、硬度が下がるなどの危険性を生じる。
【0086】
また、スロット132内径側に存在するスロットライナー15は軸方向Zに曲がりを生じて、スロット開口部135へ突出することがある。絶縁物であるスロットライナー15のスロット開口部135への突出により、スロットライナー15が格納部139までの磁性材の進入を防ぎ、格納部139の側壁での抑えが効かない構造の磁性楔が形成される虞がある。抑えが効かない構造の磁性楔はスロット開口部135の側壁のみで接合された構造で、側壁との接着強度が必要になるためロータコアからの磁気吸引力に耐えられるだけの強度が確保できないことがある。その結果、磁性楔のスロットからの欠落を生じ、製品の信頼性を確保できないといった課題が挙げられる。
【0087】
そこで本実施例では、軸方向Zのスロット開口部135に、軸方向端部Aを含む複数個所に所定間隔で固体物の磁性部材161を配置し、その後に磁性楔を形成する磁性材172を充填する。これにより、硬化前の磁性材172が軸方向端部Aからの漏出を防止する。さらに、格納部139内の巻線133の張力によってスロット開口部135まで押しだされるスロットライナー15を、磁性部材161によって格納部139側へ押さえることができるため、実施例1と比較して、磁性材172によって形成される磁性楔(便宜上172´で示す)をスロット132のスロットライナー15まで充填することが容易となる。
【0088】
また磁性部材161の材料として、磁性楔172´と同一材料あるいは同程度の透磁率を有する材量を用いることで、磁性楔172´を硬化させた後も、磁性材172の充填の作業過程で使用した治具としての磁性部材161は除去することなく、スロット開口部135内に残しておくことができる。
【実施例5】
【0089】
図17乃至
図19を参照して、実施例5を説明する。
実施例5は、磁性粉末と樹脂を混練し成形・硬化して製作した、複数の層構造から成る磁性楔173を、スロット開口部135及び格納部139に軸方向端部から挿入することで、実施例1と同様なステータスコアを構成する。
【0090】
図14に示す方法と同様にして、成形済みの磁性楔173をスロット開口部135及び格納部139に挿入してステータコアを製作する。成形済みの磁性楔を用いてステータコアを製作することにより、液状の磁性材料33を充填する方式では手間がかかるような、軸方向の寸法が長いステータスコアに実施する場合、作業効率を向上させることができる。かつ、複数の層構造の磁性楔を用いることで、磁気特性が必要な部分には高磁気特性を付与し、機械的強度が必要な箇所には高機械強度を付与することができる。
【0091】
以下、詳細に説明する。
図17及び
図18を参照するに、予め磁性粉末と樹脂を混練しあらかじめ成形・硬化して製作した磁性楔173は、径方向Yに、第1層1731と第2層1732の2層構造を成している。内径側に位置する第1層1731は樹脂密度よりも軟磁性体粉密度が高い層であり、外径側にある第2層1732は軟磁性体粉密度よりも樹脂密度が高い層である。磁性粉末の密度を高くすることによって透磁率が高くなるが、他方では磁性粉末同士の結合強度が弱くなるため機械的強度が低下する。機械的強度低下を防止するために磁性粉末密度を低くすることにより、磁性粉末同士を接着させる力が強まり樹脂の曲げ強さ等の機械的強度を向上させることが出来る。そこで、本実施例においては、径方向に複数構造を成す、第1層と第2層で磁性粉末の密度を異ならせることによって、磁気特性が必要な部分においては高磁気特性を有し、機械的強度が必要な箇所では高機械強度を有する磁性楔を提供することができる。
【0092】
本実施例では、第1層1731と第2層1732の接着面(境界面)の接着強度を強くために突起180を設けている。突起180の形状は種々あり、例えば、
図8(a)のような四角い突起、
図8(b)のような円錐状の突起、
図8(c)のような球状の突起、の形状とすることができる。ここで、
図8(a)(b)に示す境界面は、いずれも第2層1732から第1層1731に向かって突起180が延伸して形成しているが、
図8(c)では反対に第1層1731から第2層1732へ向かって突出した突起である。いずれも同様の効果を得ることができる。突起180を形成する箇所および個数は問わないが、1箇所のみに突起を形成するよりも、軸方向に複数箇所あるいは周方向に複数個所設ける方が第1層と第2層の接着強度をより高める観点から望ましい。
【0093】
図9は、第1層1731と第2層1732の接合構造の他の例を示す。
図9の例は、径方向に積層された第1層1731の下部を第2層1732が覆うように形成され、両者の接着面では周方向Xから突出する突起181によって両者の層を噛み合わせるように構成している。
図9(a)及び(b)は、第1層1731から第2層1732へ突起181が形成され、(c)は反対に、第2層1732から第1層1731へ突起181が形成されている。このように構成することで、径方向内側にかかる磁気吸引力に耐えられる構造となる。
なお、磁性楔1731、1732の材料は樹脂と磁性粉末の混錬物であるため、例えば圧縮成型やトランスファー成型などプラスチックの成型に用いられている手法を用いた成型が可能である。
【0094】
次に、実施例5における変形例や他の例について説明する。
複数の層構造から成る磁性楔173の成型は予め成形・硬化しなくても、充填方式による製造プロセスでも実現できる。例えば、最初に第2層1732を形成する磁性粉末と樹脂の混練物をスロット開口部135内に充填して硬化させ、その後、第2層1732の上に、第1層を形成する高磁気特性の磁性粉末と樹脂の混練物を充填して硬化させることによって、製造プロセス中において複数層の磁性楔173を形成することが可能となる。また、他の例として、既に成型された絶縁層(第2層対応)を予めスロット開口部内に挿入した後、高磁気特性の混練物(第1層対応)を充填して硬化させることにより、同様の磁性楔173を形成することができる。
【0095】
なお、
図17乃至
図19に示す例は、磁性楔173を2層構造で実現する例であるが、層構造は2層に限らず、3層以上の層構造としてもよい。3相以上の層構造とすることで、高絶縁特性が必要なステータスコアの場合、最も外径側の層を樹脂のみとすることでスロットライナー15の作用効果を兼ねることができる。これにより部品点数を削減しつつ巻線133と磁性楔173間の絶縁性を高めることが出来る。なお、2層構造の磁性楔でも第2層1732を絶縁性のある樹脂で形成することで、上述した3層構造の最外層(スロットライナー機能)と同等の作用効果を期待できる。
【0096】
3相以上の層構造の磁性楔を実現する手段としては、予め硬化して製作した磁性楔をスロット開口部135内に装填する例の他に、上記のように、スロット開口部135内に磁性楔を形成するプロセスにおいて、第n層から第1層までの各層を形成する磁性粉末と樹脂の混練物を順次充填して硬化させることを繰り返すことで、多数n層(nは3以上)構造の磁性楔を形成することができる。また、第n層から第m層(mは(n−1)から2)までを、一括して硬化し製作した磁性楔をスロット開口部135内に装填し、残りの第(m−1)層から第1層までを磁性粉末と樹脂の混練物を順次充填して硬化させることで形成することも可能である。
更に他の変形例として、上述した磁性楔173は複数層構造が径方向Yに積層されたものであるが、層構造の方向は、径方向に限らず、軸方向或いは周方向のいずれの方向においても可能である。
【実施例6】
【0097】
図20を参照して、実施例6を説明する。
実施例6は、ステータコア131の周方向Xに複数の層構造を有する磁性楔173の例である。図示のように、磁性楔173は、スロット開口部135の両側壁に接触する第1層1731と、第1層1731の両側下部に形成された第2層17322とを有する構造である。第1層と第2層は、周方向Xに層構想を形成している。第1層1731の下部はスロットライナー15に接し、第2層1732は格納部139の両側に装填されたスロットライナー14と第1層1731とにそれぞれ接触している。
【0098】
ここで、第1層及び第2層は、磁性粉末と樹脂の混練物により構成されるが、第1層の磁性粉末の密度は、第2層1732の磁性粉末の密度よりも大である。また、第1層と第2層との境界には、実施例5と同様の突起181を形成することで、両者の接着強度を高めることも可能である。
なお、他の例として、第2層1732は、実施例5の変形例で説明したように、磁性粉末密度を下げた磁性材料と趣旨の混練物でもよい。更に他の例によれば、第2層1732は、磁性材料を含まない、樹脂やワニスなどの絶縁材料でも構わない。
【実施例7】
【0099】
図21を参照して、実施例7を説明する。
実施例7は、複数層を有する磁性楔の例であり、実施例6の他の例と考えてよい。
図示のように、磁性楔173は、第1層1731と第2層1732から構成されて、第1層1731は、スロット開口部135の側壁に沿って径方向Y(
図21の下方)に延伸している形状であり、その底部はスロットライナー15に接触している。更に、第1層1731は径方向Y(下方)に延伸するにしたがって第1層の周方向Xにおける幅が広くなり、その両端は、格納部139の両側に配置されたスロットライナー14に接触している。第1層及び第2層を形成する磁性粉末と樹脂の混練物は実施例6と同様である。
このような構造とすることで、ロータコア121からの磁気吸引力によって第1層1731が欠落する事態を低減することができる。なお、第1層1731の下部の形状は曲線的に幅が広くなっているが、その形状は曲線に限らず直線的に幅を広げても構わない。また、第2層1732の形状も曲線に限らず、直線としてもよい。
【0100】
このように、周方向Xに、軟磁性体粉を多く含有した第1層1731を、絶縁性の高い樹脂が占める割合が大きい第2層1732が挟んで構成することにより、第2層1732を電流が通りにくくなり、ステータスコア131に発生する渦電流を抑制することができる。さらにロータコア側に磁束が流れやすくなるため、低損失化を図ることが出来る。
【0101】
なお、これまで説明した実施例では電動機(モータ)を例に挙げて説明しているが、本発明の回転電機は、電動機(モータ)としても発電機(ジェネレータ)としても適用することができるものである。