(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記青色発光部および前記緑色発光部の間で互いに隣り合う前記第2層および前記第4層のIn組成比率の増加割合は、複数の前記第2層のIn組成比率の増加割合と同じ値である、請求項1に記載の半導体発光素子。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下では、本発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る発光ダイオードの構造を説明するための模式的な断面図である。
本発明の半導体発光素子の一例としての発光ダイオード1は、サファイア基板2上に、III族窒化物半導体積層構造をなすIII族窒化物半導体層3を成長させて構成された素子本体を有している。
【0017】
III族窒化物半導体層3は、サファイア基板2側から順に、本発明のn型層の一例としてのn型低温GaNバッファ層31およびn型GaNコンタクト層32、中間バッファ層33、発光層34、ならびに、本発明のp型層の一例としてのp型AlGaN電子阻止層35およびp型GaNコンタクト層36を積層した積層構造を有している。
III族窒化物半導体層3には、断面がほぼ矩形となるようにp型GaNコンタクト層36からn型GaNコンタクト層32が露出する深さまで選択的に除去(たとえば、エッチング)することによって凹部4が形成されている。そして、n型GaNコンタクト層32は、III族窒化物半導体層3の片側から、サファイア基板2の表面に沿う横方向に引き出された引き出し部5を有している。
【0018】
p型GaNコンタクト層36層の表面には、p型電極(アノード電極)6が接合されており、n型GaNコンタクト層32の引き出し部5には、n型電極(カソード電極)7が接合されている。こうして、発光ダイオード構造が形成されている。
サファイア基板2は、支持基板(配線基板)8に接合されている。支持基板8の表面には、配線9,10が形成されている。そして、p型電極6と配線9とがボンディングワイヤ11で接続されており、n型電極7と配線10とがボンディングワイヤ12で接続されている。
【0019】
さらに、図示は省略するが、発光ダイオード1の構造と、ボンディングワイヤ11,12とが、エポキシ樹脂等の透明樹脂によって封止されることにより、発光ダイオード1のパッケージ(ダイオードパッケージ)が構成されている。
サファイア基板2は、極性面(この実施形態ではc面)を主面とするサファイア単結晶からなる基板である。具体的には、サファイア基板2の主面は、極性面の面方位から0.3°以上のオフ角、より好ましくは、m軸方向に0.3°以上のオフ角を有する面である。
【0020】
したがって、サファイア基板2上に結晶成長させられたIII族窒化物半導体層3の成長主面(表面3a)は、サファイア基板2の主面と同じ面、すなわち、極性面(この実施形態ではc面)となっている。
また、サファイア基板2の厚さは、600μm以上、具体的には、650μm〜1000μmとすることが好ましい。なお、発光ダイオード1においては、サファイア基板2に代えて、たとえば、GaN基板、ZnO基板、AlN基板、SiC基板等の六方晶系の基板を使用することができる。
【0021】
n型低温GaNバッファ層31は、たとえば、400℃〜700℃のウエハ温度で結晶成長されたアンドープ(ドーパントがドープされていない)GaN層からなる。層厚は、数十nmとすることが好ましい。
n型GaNコンタクト層32は、たとえば、シリコンをn型ドーパントとして添加したn型GaN層からなる。層厚は3μm以上、具体的には、3μm〜7μmとすることが好ましい。シリコンのドーピング濃度は、たとえば、1×10
18cm
−3程度とされる。
【0022】
中間バッファ層33は、たとえば、シリコンをドープしたInGaN層(たとえば4nm厚程度)とGaN層(たとえば2nm厚程度)とを交互に所定周期(たとえば5周期程度)積層した超格子構造を有している。さらにこの実施形態では、InGaN層がIn
zGa
1−zN(z=0.01〜0.05)で示される層であり、GaN層は、Inを全く含んでいない層である。なお、GaN層は、中間バッファ層33のInGaN層のIn組成比率(z)よりも小さい範囲で、若干のIn含んでいてもよい。
【0023】
発光層34は、たとえば、シリコンをドープしたInGaN層14(量子井戸層)とGaN層13(バリア層)とを交互に所定周期積層した多重量子井戸(MQW:Multiple Quantum Well)構造を有している。
さらに発光層34は、InGaN層14およびGaN層13からなる多重量子井戸構造と、p型AlGaN電子阻止層35との間に、GaNファイナルバリア層15(たとえば10nm厚程度)を有している。GaNファイナルバリア層15は、たとえば、アンドープ(ドーパントがドープされていない)GaN層からなる。
【0024】
p型AlGaN電子阻止層35は、たとえば、p型ドーパントとしてのマグネシウムを添加したAlGaN層からなる。層厚は3nm以上、具体的には、5nm〜30nmとすることが好ましい。マグネシウムのドーピング濃度は、たとえば、3×10
19cm
−3程度とされる。
p型GaNコンタクト層36は、たとえば、p型ドーパントとしてのマグネシウムを高濃度に添加したGaN層からなる。層厚は0.1μm以上、具体的には、0.2μm〜0.5μmとすることが好ましい。マグネシウムのドーピング濃度は、たとえば、10
20cm
−3程度とされる。p型GaNコンタクト層36の表面はIII族窒化物半導体層3の表面3aをなし、この表面3aは鏡面となっている。この表面3aは、発光層34で発生した光が取り出される光取り出し側表面である。
【0025】
p型電極6およびn型電極7は、たとえば、Ti層とAl層とから構成される膜である。なお、p型電極6とp型GaNコンタクト層36との間には、III族窒化物半導体層3の表面3aのほぼ全域に、アノードコンタクトのための透明電極が形成されていてもよい。このような透明電極は、たとえば、Ni層とAu層とから構成される透明な薄い金属層、ZnO層等で構成することができる。
【0026】
図2は、発光層34の具体的な構成およびIII族窒化物半導体層3の深さとIn組成との関係を示す図である。
発光層34は、ピーク発光波長が500nm以上の光を発生するものであり、好ましくは、ピーク発光波長が500nm〜550nmの範囲の光を発生する。ここでピーク発光波長とは、発光層34から放出される光のうち、最も強度の高い光(メインピーク)の波長のことを指し、放出された光のスペクトル分布のピーク値に対応する波長である。
【0027】
したがって、当該スペクトル分布において、最大ピークの他にノイズレベルのピークが現れていても、ノイズレベルのピーク発光波長は、この実施形態における「ピーク発光波長」に含まれるものではない。
発光層34は、本発明の主発光層の一例としての緑色発光層16と、本発明の応力緩和層の一例としての青色発光層17とを含む。これら二つの発光層16,17のうち、発光層34から放出する光を主として発生させるのは緑色発光層16であり、500nm以上(具体的には500nm〜550nm)のピーク発光波長を有する光を発生させる。
【0028】
一方、青色発光層17は、ピーク発光波長が410nm〜490nmの光を発生させるが、その強度は弱く、発光層34から放出される光全体に対してノイズレベルである。したがって、青色発光層17で発生した光によって、発光ダイオード1の発光特性が影響を受けることはほとんどない。
緑色発光層16および青色発光層17は、この実施形態では、緑色発光層16がIII族窒化物半導体層3の表面3a(光取り出し側表面)に近い側に配置され、青色発光層17が緑色発光層16に対して表面3aとは反対側(サファイア基板2に近い側)に配置されており、これらが互いに接するように積層されている。
【0029】
緑色発光層16および青色発光層17はそれぞれ、前述のように、InGaN層14(g,b)とGaN層13(g,b)とを交互に所定周期積層した多重量子井戸構造を有している。たとえば、緑色発光層16と青色発光層17において、InGaN層14(g,b)とGaN層13(g,b)は、同周期ずつ積層されていてよい。
この実施形態では、緑色発光層16において、InGaN層14(g)およびGaN層13(g)が4周期(4ペア)積層されている。また、青色発光層17においても、InGaN層14(b)およびGaN層13(b)が4周期(4ペア)積層されている。
【0030】
また、緑色発光層16では、InGaN層14(g)がIn
xGa
1−xN(x=0.18〜0.23)で示される層であり、GaN層13(g)が、Inを全く含んでいない層である。この実施形態では、複数のInGaN層14(g)は、III族窒化物半導体層3の積層方向において、一定のIn組成比率(x)を有している。
たとえば、
図2の右側に示すように、4つのInGaN層14(g)のIn組成比率(x)は、すべて0.2(20%)となっている。なお、複数のInGaN層14(g)は、III族窒化物半導体層3の積層方向においてIn組成比率(x)が変化する順序で積層されていてもよい。たとえば、青色発光層17から遠いほどIn組成比率(x)が大きくなる順序、または小さくなる順序で積層されていてもよい。
【0031】
一方、青色発光層17では、InGaN層14(b)がIn
yGa
1−yN(y=0.06〜0.16)で示される層であり、GaN層13(b)が、Inを全く含んでいない層である。この実施形態では、複数のInGaN層14(b)は、III族窒化物半導体層3の積層方向において、緑色発光層16に近いほどIn組成比率(y)が大きくなる順序で積層されている。
【0032】
たとえば、
図2の右側に示すように、4つのInGaN層14(b)のIn組成比率(y)は、緑色発光層16に向かって順に、0.8(8%)、0.11(11%)、0.14(14%)、0.17(17%)と一定の割合(この実施形態では、0.3刻み)で大きくなっている。さらに、この実施形態では、互いに隣り合う緑色発光層16のInGaN層14(g)と青色発光層17のInGaN層14(b)とのIn組成比率の差(x−y)は、複数のInGaN層14(b)のIn組成比率(y)の一定の増加割合と同じ値になっている。
【0033】
すなわち、この実施形態では、In組成比率(x−y)が0.2−0.17=0.3となっており、この値は、前述の一定の増加割合0.3と同じ値である。これにより、発光層34中での格子サイズの変化を、青色発光層17と緑色発光層16との境界でも緩やかにすることができる。
発光層34の厚さに関して、緑色発光層16および青色発光層17を含めた発光層34の全体の厚さ(総厚さ)は、たとえば、60nm〜150nmである。各層16,17の厚さに関して、緑色発光層16は、InGaN層(量子井戸層)14(g)が3nm±10%(つまり、2.7nm〜3.3nm)厚程度であり、GaN層(バリア層)13(g)が14nm厚程度である。
【0034】
青色発光層17は、InGaN層(量子井戸層)14(b)が3±10%nm厚程度であり、GaN層(バリア層)13(b)が14nm厚程度である。なお、緑色発光層16および青色発光層17共に、複数のInGaN層14(g,b)およびGaN層13(g,b)は、互いに一定の厚さであってもよいし、III族窒化物半導体層3の積層方向において変化していてもよい。この実施形態では、複数のInGaN層14(g,b)およびGaN層13(g,b)の厚さは一定である。
【0035】
図3は、III族窒化物半導体層3を構成する各層を成長させるための処理装置の構成を説明するための模式図である。
図4は、発光層34の成長時間と基板温度との関係を示すタイムチャートである。
図3に示すように、処理装置の処理室20内に、ヒータ21を内蔵したサセプタ22が配置されている。サセプタ22は、回転軸23に結合されており、この回転軸23は、処理室20外に配置された回転駆動機構24によって回転されるようになっている。
【0036】
これにより、サセプタ22に処理対象のウエハ25を保持させることにより、処理室20内でウエハ25を所定温度に昇温することができ、かつ、回転させることができる。ウエハ25は、前述のサファイア基板2を構成するサファイア単結晶ウエハである。
処理室20には、排気配管26が接続されている。排気配管26はロータリポンプ等の排気設備に接続されている。これにより、処理室20内の圧力は、1/10気圧〜常圧力(好ましくは1/5気圧程度)とされ、処理室20内の雰囲気は常時排気されている。
【0037】
一方、処理室20には、サセプタ22に保持されたウエハ25の表面に向けて原料ガスを供給するための原料ガス供給路40が導入されている。この原料ガス供給路40には、窒素原料ガスとしてのアンモニアを供給する窒素原料配管41と、ガリウム原料ガスとしてのトリメチルガリウム(TMG)を供給するガリウム原料配管42と、アルミニウム原料ガスとしてのトリメチルアルミニウム(TMAl)を供給するアルミニウム原料配管43と、インジウム原料ガスとしてのトリメチルインジウム(TMIn)を供給するインジウム原料配管44と、マグネシウム原料ガスとしてのエチルシクロペンタジエニルマグネシウム(EtCp
2Mg)を供給するマグネシウム原料配管45と、シリコンの原料ガスとしてのシラン(SiH
4)を供給するシリコン原料配管46とが接続されている。
【0038】
これらの原料配管41〜46には、それぞれバルブ51〜56が介装されている。各原料ガスは、いずれも水素もしくは窒素またはこれらの両方からなるキャリヤガスとともに供給されるようになっている。
そして、サファイア基板2上にIII族窒化物半導体層3を結晶成長させるには、たとえば、c面を主面とするサファイア単結晶ウエハをウエハ25としてサセプタ22に保持させる。この状態で、バルブ52〜56は閉じておき、窒素原料バルブ51を開いて、処理室20内に、キャリヤガスおよびアンモニアガス(窒素原料ガス)が供給される。
【0039】
さらに、ヒータ21への通電が行われ、ウエハ温度(基板温度)が1000℃〜1100℃(たとえば、1050℃程度)まで昇温される。これにより、ウエハ25の表面の荒れを生じさせることなく、III族窒化物半導体が成長できるようになる。
次に、ウエハ温度が400℃〜700℃となるように設定した後、窒素原料バルブ51およびガリウム原料バルブ52が開かれる。これにより、原料ガス供給路40から、キャリヤガスとともに、アンモニアおよびトリメチルガリウムが供給される。その結果、ウエハ25の表面に、アンドープのGaN層からなる低温GaNバッファ層31が成長する。
【0040】
次に、ウエハ温度が1000℃〜1100℃に達するまで待機した後、窒素原料バルブ51、ガリウム原料バルブ52およびシリコン原料バルブ56が開かれる。これにより、原料ガス供給路40から、キャリヤガスとともに、アンモニア、トリメチルガリウムおよびシランが供給される。その結果、ウエハ25の表面に、シリコンがドープされたGaN層からなるn型GaNコンタクト層32が成長する。
【0041】
次の工程は、中間バッファ層33の形成工程である。具体的には、アルミニウム原料バルブ53およびシリコン原料バルブ56が閉じられ、超格子構造の成長が行われる。超格子構造の成長は、窒素原料バルブ51、ガリウム原料バルブ52およびインジウム原料バルブ54を開いてアンモニア、トリメチルガリウムおよびトリメチルインジウムをウエハ25へと供給することによりInGaN層を成長させる工程と、インジウム原料バルブ54を閉じ、窒素原料バルブ51およびガリウム原料バルブ52を開いてアンモニアおよびトリメチルガリウムをウエハ25へと供給することにより、アンドープのGaN層を成長させる工程とを交互に実行することによって行うことができる。
【0042】
たとえば、GaN層を始めに形成し、その上にInGaN層を形成する。これを5回に渡って繰り返し行う。中間バッファ層33の形成時には、ウエハ25の温度は、たとえば、740℃〜850℃(たとえば780℃程度)とされることが好ましい。
次の工程は、発光層34の形成工程である。発光層34の工程は、
図4に示すように、相対的に高い温度で、In
yGa
1−yN(y=0.06〜0.16)14(b)を有する青色発光層17(応力緩和層)を形成する第1工程と、第1工程よりも相対的に低い温度で、In
xGa
1−xN(x=0.18〜0.23)層14(g)を有する緑色発光層16(主発光層)を形成する第2工程とを含む。さらに、第2工程に引き続いて、GaNファイナルバリア層15の形成工程が行われる。
【0043】
具体的には、青色発光層17の形成工程は、窒素原料バルブ51、ガリウム原料バルブ52およびインジウム原料バルブ54を開いてアンモニア、トリメチルガリウムおよびトリメチルインジウムをウエハ25へと供給することによりInGaN層(量子井戸層)14(b)を成長させる工程と、インジウム原料バルブ54を閉じ、窒素原料バルブ51およびガリウム原料バルブ52を開いてアンモニアおよびトリメチルガリウムをウエハ25へと供給することにより、無添加のGaN層(バリア層)13(b)を成長させる工程とを交互に実行することによって行うことができる。
【0044】
たとえば、GaN層13(b)を始めに形成し、その上にInGaN層14(b)を形成する。これを4回に渡って同じ時間ずつ繰り返し行う。青色発光層17の形成時には、ウエハ25の温度は、たとえば、770℃〜830℃とされることが好ましい。より好ましくは、
図4の「新構造」の実線で示すように、成長時間の経過に従ってウエハ温度が小さくなるように制御されることが好ましい。
【0045】
たとえば、この実施形態では、820℃程度のウエハ温度から、780℃程度のウエハ温度まで段階的に小さくする。このウエハ25の段階的な降温によって、青色発光層17において複数のInGaN層14(b)を、緑色発光層16に近いほどIn組成比率(y)が大きくなる順序で積層することができる。
次に、緑色発光層16の形成工程は、青色発光層17の形成工程と同様に、InGaN層(量子井戸層)14(g)を成長させる工程と、無添加のGaN層(バリア層)13(g)を成長させる工程とを交互に実行することによって行うことができる。たとえば、青色発光層17の形成工程で最後に形成されたInGaN層14(b)の上に、GaN層13(g)を始めに形成し、その上にInGaN層14(g)を形成する。
【0046】
これを4回に渡って同じ時間ずつ繰り返し行った後、最後に、InGaN層14(g)上にGaNファイナルバリア層15が形成される。緑色発光層16およびGaNファイナルバリア層15の形成時には、ウエハ25の温度は、たとえば、700℃〜770℃とされることが好ましい。
より好ましくは、
図4の「新構造」の実線で示すように、成長時間が経過してもウエハ温度が一定に制御されることが好ましい。たとえば、この実施形態では、760℃程度のウエハ温度に制御する。このウエハ25の一定温度制御によって、緑色発光層16において複数のInGaN層14(g)を、III族窒化物半導体層3の積層方向において、一定のIn組成比率(x)で積層することができる。
【0047】
なお、青色発光層17の形成工程および緑色発光層16の形成工程の原料ガスの流量は、互いに同じであってよい。つまり、原料ガスの流量を一定に制御した状態で、ウエハ温度を上下に制御することによって、青色発光層17と緑色発光層16との境界を簡単に設定することができる。さらに、青色発光層17においては、複数のInGaN層14(b)のIn組成比率(y)を簡単に変化させることもできる。
【0048】
次に、p型AlGaN電子阻止層35が形成される。すなわち、窒素原料バルブ51、ガリウム原料バルブ52、アルミニウム原料バルブ53およびマグネシウム原料バルブ55が開かれ、他のバルブ54,56が閉じられる。
これにより、ウエハ25に向けて、アンモニア、トリメチルガリウム、トリメチルアルミニウムおよびエチルシクロペンタジエニルマグネシウムが供給され、マグネシウムがドープされたAlGaN層からなるp型AlGaN電子阻止層35が形成されることになる。このp型AlGaN電子阻止層35の形成時には、ウエハ25の温度は、900℃〜1100℃(たとえば970℃)とされることが好ましい。
【0049】
次に、p型GaNコンタクト層36が形成される。すなわち、窒素原料バルブ51、ガリウム原料バルブ52およびマグネシウム原料バルブ55が開かれ、他のバルブ53,54,56が閉じられる。
これにより、ウエハ25に向けて、アンモニア、トリメチルガリウムおよびエチルシクロペンタジエニルマグネシウムが供給され、マグネシウムがドープされたGaN層からなるp型GaNコンタクト層36が形成されることになる。p型GaNコンタクト層36の形成時には、ウエハ25の温度は、9000℃〜1100℃(たとえば950℃)とされることが好ましい。
【0050】
こうして、ウエハ25上にIII族窒化物半導体層3が成長させられると、このウエハ25は、エッチング装置に移され、たとえばプラズマエッチングによって、
図1に示すように、n型GaNコンタクト層32を露出させるための凹部4が形成される。
凹部4は、中間バッファ層33、発光層34、p型AlGaN電子阻止層35およびp型GaNコンタクト層36を島状に取り囲むように形成されてもよく、これにより、中間バッファ層33、発光層34、p型AlGaN電子阻止層35およびp型GaNコンタクト層36をメサ形に整形するものであってもよい。
【0051】
次に、抵抗加熱または電子線ビームによる金属蒸着装置によって、p型電極6およびn型電極7が形成される。これにより、
図1に示す発光ダイオード1構造を得ることができる。
このようなウエハプロセスの後に、ウエハ25の劈開によって個別素子が切り出され、この個別素子は、ダイボンディングおよびワイヤボンディングによってリード電極に接続された後、エポキシ樹脂等の透明樹脂中に封止される。こうして、発光ダイオード1のパッケージが作製される。
【0052】
以上のように、発光ダイオード1によれば、発光層34の主発光層としての緑色発光層16のIn組成比率(x)と比較的近似するIn組成比率(y)を有する青色発光層17が、緑色発光層16と共に発光層34の一部を構成している。
これにより、サファイア基板2上に発光層34を結晶成長させる際、まず青色発光層17を成長させ、その後に緑色発光層16を成長させることによって、緑色発光層16の成長開始時の格子サイズの変化を緩やかにすることができる。そのため、緑色発光層16への格子欠陥の導入を低減することができる。
【0053】
その結果、この発光ダイオード1は、緑色発光層16において、ピーク発光波長が500nm以上の光を効率よく発生させることができる。この発光効率の向上により、たとえば、長波長領域(たとえば、525nm以上の波長領域)における輝度の低下を抑制することができる。
また、この実施形態では、青色発光層17において、複数のInGaN層14(b)が、III族窒化物半導体層3の積層方向において、緑色発光層16に近いほどIn組成比率(y)が大きくなる順序で積層されている。
【0054】
そのため、InGaN層14(b)のIn組成比率(y)を、緑色発光層16のInGaN層14(g)のIn組成比率(x)に徐々に近づけることができる。これにより、青色発光層17と緑色発光層16との境界における格子サイズの差を小さくできるので、緑色発光層16への格子欠陥の導入を一層低減することができる。
また、この実施形態では、青色発光層17と緑色発光層16が互いに接するように積層されていて、これらの層16,17の境界に、これらの層16,17とは異なるIII族窒化物半導体からなる層が介在されていない。
【0055】
つまり、青色発光層17と緑色発光層16が一つの積層構造に集約されているので、発光層34の当該積層構造が形成された部分での格子サイズのばらつきを低減することができる。具体的には、当該積層構造におけるIn組成比率を、青色発光層17のIn組成比率(y)の下限である0.06から、緑色発光層16のIn組成比率(x)の上限である0.23までの範囲内に分布させることができる。
【0056】
また、この実施形態では、発光層34の下地層として、In
zGa
1−zN(z=0.01〜0.05)で示されるInGaN層を有する中間バッファ層33が形成されている。そのため、サファイア基板2上に発光層34を結晶成長させる際、発光層34の成長に先立って中間バッファ層33を成長させることによって、発光層34(青色発光層17)の成長開始時の格子サイズの変化を緩やかにすることができる。そのため、青色発光層17への格子欠陥の導入を低減することができる。
【0057】
また、この実施形態では、発光層34に、主発光層としての緑色発光層16とは異なる青色発光層17が補助的に含まれているが、発光層34の総厚さが60nm〜150nmに抑えられている。つまり、発光層34の総厚さを一般的な範囲内に収めながら、発光ダイオード1の発光効率を向上させることができる。
さらに、この実施形態によれば、サファイア基板2上に、前述のように発光効率の向上した発光層34を有するIII族窒化物半導体層3を形成することができる。特別な基板を用いる必要がなく、安価なサファイア基板で済むので、製造コストを低減することもできる。
【0058】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はさらに他の形態で実施することもできる。
たとえば、前述の実施形態では、極性面であるc面を成長主面とするIII族窒化物半導体積層構造を有する発光ダイオードを例にとったが、非極性面であるm面やa面を成長主面とするIII族窒化物半導体積層構造でダイオード構造を形成してもよい。さらには、極性面や非極性面に限らず、半極性面を成長主面とするIII族窒化物半導体積層構造でダイオード構造を形成した場合にも、発光効率を向上させることができる。
【0059】
また、前述の実施形態では、青色発光層17の複数のInGaN層14(b)のIn組成比率(y)が、緑色発光層16に向かって順に一定の割合で大きくなっている発光ダイオードを例にとったが、当該In組成比率(y)は、ランダムな割合(たとえば、0.1→0.2→0.4等)で大きくなっていてもよい。
また、前述の実施形態では、発光ダイオードに本発明が適用された例について説明したが、窒化物半導体レーザ素子のような他の形態の発光素子に対しても本発明を適用することができる。
【0060】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【実施例】
【0061】
次に、以下の実施例を行うことによって、本発明に係る発光ダイオードのいくつかの特性を確認した。
(1)裏面輝度
本発明による長波長領域における輝度の低下抑制を実証するため、具体的な実験を行った。まず、サファイア単結晶ウエハ25のc面上に、前述の実施形態に倣ってIII族窒化物半導体層3を形成したサンプル1(新構造)を作製した。
【0062】
なお、青色発光層17において、InGaN層14(b)およびGaN層13(b)は4ペアとし、In組成比率(y)は0.8、0.11、0.14、0.17の順に増加させた。また、緑色発光層16において、InGaN層14(g)およびGaN層13(g)は4ペアとし、In組成比率(x)は0.20で一定とした。
一方、発光層34をサンプル1の緑色発光層16のみ(InGaN/GaN=8ペア)で構成したこと以外は、サンプル1と同様の方法により、サファイア単結晶ウエハ25のc面上にIII族窒化物半導体層3を形成したサンプル2(比較構造)を作製した。そして、これらサンプル1,2の裏面輝度を、裏面プローバを用いて測定した。結果を
図5に示す。
【0063】
図5によれば、発光層34が緑色発光層16のみからなる構成のサンプル2(比較構造)では、515nmでの裏面輝度が比較的良好であるが、その波長から535nmまでの裏面輝度の低下率が高く、約2.0から0.8まで輝度が低下した。
これに対し、発光層34の一部に青色発光層17を採用した構成のサンプル1(新構造)では、緑色の光の波長域(500nm〜550nm)のうち短波長領域(515nm〜525nm)での裏面輝度はサンプル2に劣るものの、裏面輝度の低下率がサンプル2に比べて低くなっている。
【0064】
その結果、長波長領域(525nm〜540nm)においては、サンプル2に比べて優れた裏面輝度を発現できた。特に、540nmにおいて、サンプル2の535nmでの輝度と同等の輝度を発現することができた。
(2)PLスペクトル
次に、本発明の発光層によって500nm以上のピーク発光波長を得ることができるかを確認するため、(1)で作製したサンプル1(新構造)について、室温でPL(Photo Luminescence)強度を測定した。PL強度は、サンプル1のPL測定を行ってスペクトル分布を算出し、そのスペクトルの発光波長400nm〜600nmまでを積分した積分値を求めた。得られたPL積分強度のスペクトルを、
図6に示す。
【0065】
図6によれば、最も強度の高い光が525nm付近(≧500nm)に表れており、これにより、本発明の発光層において、500nm以上の緑色の光を発生できることがわかった。
なお、
図6のPLスペクトルには、415nm付近、440nm付近および475nm付近にそれぞれ、メインピークに比べて低いピークが表れているが、これらのピークは青色発光層17から発生する光に起因するものであると考えられる。これらのピークは、ノイズレベルのピークであるため、発光ダイオードの発光特性に影響を与えるものではない。
(3)ELスペクトル
さらに、(2)で示した青色発光層17に起因すると考えられるピークが、発光ダイオード1の発光特性に影響を与えないものであることを確認するため、以下の実験を行った。具体的には、(1)で作製したサンプル1(新構造)にp型電極6およびn型電極7を形成し、さらに透明樹脂で封止したダイオードパッケージを作製した。
【0066】
得られたダイオードパッケージについて、EL(Electro Luminescence)強度を測定した。EL強度は、注入電流が1mA、20mAおよび120mAごとに室温でダイオードパッケージのEL測定を行ってスペクトル分布を算出し、そのスペクトルの発光波長400nm〜600nmまでを積分した積分値を求めた。得られたEL積分強度のスペクトルをそれぞれ、
図7〜
図9に示す。
【0067】
図7〜
図9によれば、注入電流の大きさによらず、青色の光の波長域(410nm〜490nm)において、スペクトルにピークがほとんど表れなかった。つまり、青色発光層17で発生する光が、発光ダイオード1の発光にほとんど寄与しないことがわかった。
換言すると、
図6〜
図9の結果から、緑色発光層16のInGaN層14(g)で生成される緑色光が外部に取り出される光の発光波長に寄与する一方で、青色発光層17のInGaN層14(b)で生成される青色光が外部に取り出される光の発光波長に寄与しないことがわかった。
【0068】
この明細書および図面から抽出される特徴の例を以下に示す。
[項1]III族窒化物半導体からなり、少なくともn型層と、p型層と、前記n型層および前記p型層で挟まれた発光層とを有する積層構造のIII族窒化物半導体層を備え、前記発光層は、ピーク発光波長が500nm以上の光を発生するものであり、In
xGa
1−xN(x=0.18〜0.23)層を有する主発光層と、In
yGa
1−yN(y=0.06〜0.16)層を有する応力緩和層とを含む、半導体発光素子。
【0069】
この構成によれば、主発光層のIn組成比率(x)と比較的近似するIn組成比率(y)を有する応力緩和層が、主発光層と共に発光層の一部を構成している。これにより、n型層またはp型層の側から発光層を結晶成長させる際、まず応力緩和層を成長させ、その後に主発光層を成長させることによって、主発光層の成長開始時の格子サイズの変化を緩やかにすることができる。そのため、主発光層への格子欠陥の導入を低減することができる。その結果、この半導体発光素子は、主発光層において、ピーク発光波長が500nm以上の光を効率よく発生させることができる。この発光効率の向上により、たとえば、長波長領域(たとえば、525nm以上の波長領域)における輝度の低下を抑制することができる。
【0070】
[項2]前記応力緩和層は、前記In
yGa
1−yN層を複数含み、前記複数のIn
yGa
1−yN層は、前記主発光層に近いほどIn組成比率(y)が大きくなる順序で積層されている、項1に記載の半導体発光素子。
この構成によれば、応力緩和層のIn組成比率(y)を、主発光層のIn組成比率(x)に徐々に近づけることができる。これにより、主発光層と応力緩和層との格子サイズの差を小さくできるので、主発光層への格子欠陥の導入を一層低減することができる。
【0071】
なお、前記複数のIn
yGa
1−yN層のIn組成比率(y)は、一定の割合(たとえば、0.1刻み、0.2刻み等)で大きくなっていてもよいし、ランダムな割合(たとえば、0.1→0.2→0.4等)で大きくなっていてもよい。
[項3]前記主発光層および前記応力緩和層は、互いに接するように積層されている、項1または2に記載の半導体発光素子。
【0072】
この構成によれば、主発光層および応力緩和層が一つの積層構造に集約されているので、発光層の当該積層構造が形成された部分での格子サイズのばらつきを低減することができる。
[項4]前記発光層は、InGaNからなる量子井戸層と、GaNからなるバリア層とを交互に所定周期で積層した多重量子井戸構造を有している、項1〜3のいずれか一項に記載の半導体発光素子。
【0073】
[項5]前記量子井戸層は、3nm±10%の厚さを有している、項4に記載の半導体発光素子。この構成により、半導体発光素子の発光効率を一層向上させることができる。
[項6]前記半導体発光素子は、前記応力緩和層に対して前記主発光層とは反対側に配置され、InGaN層とGaN層とを交互に所定周期で積層した超格子構造を有する中間バッファ層をさらに含む、項1〜5のいずれか一項に記載の半導体発光素子。
【0074】
[項7]前記InGaN層は、In
zGa
1−zN(z=0.01〜0.05)で示される層を含む、項6に記載の半導体発光素子。
この構成によれば、n型層またはp型層の側から発光層を結晶成長させる際、発光層の成長に先立って中間バッファ層を成長させることによって、発光層(応力緩和層)の成長開始時の格子サイズの変化を緩やかにすることができる。そのため、応力緩和層への格子欠陥の導入を低減することができる。
【0075】
[項8]前記発光層は、ピーク発光波長が500nm〜550nmの範囲の光を発生するものである、項1〜7のいずれか一項に記載の半導体発光素子。この構成によれば、緑色の光を効率よく発生する発光層を有する半導体発光素子を提供することができる。
[項9]前記発光層は、60nm〜150nmの総厚さを有している、項1〜8のいずれか一項に記載の半導体発光素子。この構成によれば、発光層の総厚さを一般的な範囲内に収めながら、半導体発光素子の発光効率を向上させることができる。
【0076】
[項10]前記半導体発光素子は、サファイア基板をさらに含み、前記発光層は、前記応力緩和層および前記主発光層がこの順に、前記サファイア基板の主面上に結晶成長された層である、項1〜9のいずれか一項に記載の半導体発光素子。
この構成によれば、サファイア基板上に、発光効率の向上した発光層を有するIII族窒化物半導体層を形成することができる。また、特別な基板を用いる必要がなく、安価なサファイア基板で済むので、製造コストを低減することもできる。