【実施例】
【0080】
以下に本実施の形態の配送計画制御装置50を用いた配送計画策定の実施例を示す。なお、説明に使用する符号は、本実施の形態で使用した符号に準ずる。
【0081】
「受注、配車計画の策定」
【0082】
顧客からの注文に基づいて、ローリー車16の配車を決定する。
【0083】
顧客からの発注には、納品日時、ローリー車16の車種、必要台数が含まれている。
【0084】
注文は1ヶ月単位で受け付け、1ヶ月の配送計画を前月末までに策定するが、月の途中でも急な予定変更に対応して、日々配送計画を見直す場合もある。
【0085】
配送計画の策定においては、指定日時に顧客へLNGを確実に届けることが最も重要である。そのために、ローリー車16や乗務員30の制約を守りつつ、乗務員30の労働時間も気にしながら、計画を立てている。
【0086】
顧客が保有するLNGタンクや顧客の構内道路等の制約で、配送を行うローリー車16の車種は限定される。また、顧客毎に、ローリー車16を運転する乗務員30についても制約がある場合がある。
【0087】
「LNG基地11における積込み」
【0088】
ローリー車16へのLNGの積込みは、LNG基地11内にある専用のLNG出荷設備で行われる。LNG出荷設備では、アンローディングアームと呼ばれる可撓性のある金属性の配管で、LNG基地11内のLNG輸送配管からローリー車16へ所定量を充填する。
【0089】
充填設備の数には限りがあり、1回の充填に1時間程度の時間を要するため、充填スケジュールもローリー車16によるLNG販売のロジスティクス最適化には重要な要素となる。
【0090】
「配送、荷下ろし、LNG基地11への帰還」
【0091】
積込みを終えたローリー車16は、顧客とあらかじめ約束した時刻に合わせて、配送を行う。顧客先(配送先の設備10)では、ローリー車16に備え付けられたホースを用いて、顧客のタンクにLNGを移送する。
【0092】
LNGを顧客のタンクに移送したローリー車16は、所定のLNG基地11に戻る。各々のローリー車16は、所属のLNG基地11が決まっており、原則は所属するLNG基地11に戻るが、他のローリー車16の点検や顧客からの注文状況によっては、他のLNG基地11に移動することもある。また、需要量の多い顧客には、1日に複数回の配送を行うことがあり、ローリー車16が顧客先とLNG基地11を何度か往復することもある。
【0093】
全ての配送を終えたローリー車16は、翌日以降のスケジュールに応じて、積込みを行ってからLNG基地11内や所定の場所で待機する。
【0094】
「モデル」
【0095】
次に、上記の「受注、配車計画の策定」、「LNG基地における積込み」、及び「配送、荷下ろし、LNG基地11への帰還」のそれぞれの要件を満たす配送計画を求めるための計算のモデルについて説明する。
【0096】
「モデルで考慮している業務要件」
【0097】
モデルで考慮している業務要件のうち主なものを以下に挙げる。
【0098】
(A) 注文の車種に合致する車種で配送する。
(B) 乗り入れ可能なローリー車16と配送先の設備10の組み合わせで配送する。
(C) ローリー車16は、各日の開始時と終了時に指定されたLNG基地11で待機する。
補足として、ローリー車16がどのLNG基地11で待機するかは、最適化の対象ではなく、所与の条件として扱っている。
(D) 各種時間の制限を考慮する。
より具体的には、各日のローリー車16の使用可能時間帯、各日の各LNG基地11のLNG積込み設備の使用可能時間帯、LNG基地11でのLNG積込みにかかる時間、LNG基地11−配送先の設備10間の移動時間、及び納品時刻と荷下ろしにかかる時間である。
(E) 複数回配送の制限を考慮する。
補足として、あるローリー車16が同日に複数回配送する場合には、すべて同一の配送先の設備10への配送とし、かつ最大4回までとする。
(F) 各発注の配送は、その発注で指定された必要台数のローリー車16で行う。
補足として、業務上は必要台数で配送することは必須であるが、入力データの不備などにより必要台数での配送計画を立案できないことがある。そのような場合であっても計画を出力するために、要件(F)は制約条件ではなく、目的関数としている。
(G) 乗務員30の稼働時間をなるべく減らす。
(H) 各日のLNG基地11でのLNG積込みに使用するレーン数の制限を考慮する。
補足として、各LNG基地11では、同時に積込みを行えるローリー車16数が制限される。
(I) 積込みの待ち時間の制限を考慮する。
補足として、配送に出発する前または配送後に積込みを行う際の待ち時間は1時間以下とする。
(J) 乗務員30の勤務時間を平準化する。
(K) 各日に乗務員30が勤務可能なLNG基地11の制限
(L) 各日に乗務員30が担当可能な配送先の設備10の制限
(M) 各日に乗務員30が乗車可能なローリー車16の制限
【0099】
「処理手順」
【0100】
以上の要件(A)〜(M)を満たす計画を立てるにあたり、本件ではすべての要件(A)〜(M)を同時に考慮するのではなく、以下の5つの段階に分けて計算を行うこととした。
【0101】
(1) 配送パターン列挙
(2) 配送パターン選択
(3) 補給パターン列挙
(4) 補給パターン割り当て
(5) 乗務員割り当て
【0102】
(1)〜(5)の内、本発明に直接関わる段階(1)の配送パターン列挙と、段階(2)の配送パターン選択について説明する。
【0103】
「配送パターン列挙(段階1)」
【0104】
実務規模での「ローリー車16と注文の一対多の組み合わせ」を数理モデルのみで記述することは困難である。このため、配送パターンという考え方を導入する。
【0105】
数理モデル外で「注文と配送パターンの一対多の組み合わせ」を列挙することで、数理モデル内では「ローリー車16と配送パターンの一対一の組み合わせ」の選択に注力できることが配送パターン導入の意義である。
【0106】
配送パターンとは、以下の(A)〜(E)の業務要件を集約し、少なくとも1つのオーダーを含んだ、日付・ローリー車16ごとの実行可能な配送方法を列挙したものである。
【0107】
(A) 発注で指定された車種での配送
(B) 配送先の設備10に乗り入れ可能なローリー車16での配送
(C) 各日のローリー車16の開始時と終了時の指定LNG基地11
(D) 配送に関する各種時間の制限
(E) 同一ローリー車16による複数回配送は同じ配送先の設備10に限る
【0108】
実行可能な配送方法を考えるため、まずはローリー車16の一日の動きを考えてみる。
【0109】
複数回配送の業務要件(E)により、同日同一のローリー車16が複数回配送する際に異なる配送先の設備10に配送することはないため、乗り入れる配送先の設備10は1箇所、LNG基地11は開始時と終了時に指定された1基又は2基となるので、ローリー車16の一日の動きは、
図4に示す状態遷移図で表すことができる。
【0110】
「配送パターンの具体例」
【0111】
ローリー車16の一日の動きを具体的に見るため、
図5で示すようなLNG基地11と配送先の設備10間での配送パターンについて考える。
【0112】
ローリー車16への積込み時間は60分、荷下し時間は90分とし、いずれの配送先の設備10からのオーダーも表1のように与えられるとする。時間的な制約を考慮しなければ、配送方法は全部で7通り(=
3C
3+
3C
2+
3C
1)を列挙できるので、ここから時間的な制約を満たせないものを除外した残りを配送パターンとして出力する。
【0113】
【表1】
【0114】
同日同一のローリー車16が複数回配送するためには、以下の関係である必要がある。
【0115】
(配送するオーダーの荷降時間帯の間隔)≧(開始基地への帰庫時間)+(開始基地での補給時間)+(配送先の設備10までの輸送時間)
【0116】
この不等式の右辺は、この例では、
図5に示す配送先A(設備10)が140分、
図5に示す配送先B(設備10)が260分となる。
【0117】
これらの値を用いて時間的な制約を考慮すると、
図6(A)のように表せる。ここで、破線(*1、*2)は、配送先Bのみが時間的な制約を満たせない箇所である。
【0118】
図6(B)の経路1、経路2の破線(*1)の間隔は210分、
図6(A)の経路1、経路5の破線(*2)の間隔は150分なので、配送先Bでは時間的な制約を満たせておらず破線になっている。
【0119】
一方、配送先Aでは、時間的な制約を満たすので、配送先Aでの配送パターンを列挙すると、ここは実線となる。
【0120】
また、その他の2以上のオーダーにおいて、経路3のオーダー1とオーダー3との間隔はいずれの配送先の設備10でも時間的な制約を満たすので実線となる。
【0121】
従って、配送先Aでは全ての経路(経路1〜経路7)を選択できるのに対し、配送先Bでは経路3、経路4、経路6、及び経路7の4通りから配送パターンを選択することになる(
図6(B)参照)。
【0122】
「配送パターンの導入によるモデルの簡素化」
【0123】
配送パターンは、「出庫から帰庫までのローリー車16の一日の予定案」を表しているが、配送パターン自体は業務要件として明言されるものではなく、モデル化のための人工物である。
【0124】
配送パターン導入前後でのモデルの違いを
図7に示す。
【0125】
業務要件を素朴に満たそうとすると、
図7(B)に示すように、「ローリー車16」と「注文」からなる2部グラフを考え、業務要件を満たすように枝を選択するのが自然であるが、枝の選択にかかわる制約条件が複雑になってしまう。
【0126】
本発明の配送計画のように、配送パターンを導入することによって、
図7(A)に示される如く、「ローリー車16」と「注文」が「配送パターン」を介して繋がっているグラフで、どの配送パターンを選択するかという問題として考えることができる。
【0127】
配送パターンを選択する際には、各ローリー車16に対して、選択されるパターンは高々1つ、注文に対して、選択される配送パターンはちょうど1つ、という制約を満たすだけで、業務要件(A)〜(E)を満たすことができる。
【0128】
例えば、配送先Aの場合、配送パターン1を高々1つ選択すれば、配送先(注文)をちょうど1つずつ選択することができ、1台のローリー車16を配送パターン1に基づき運行すればよい。なお、「パターン2及び7」、「パターン3及び6」、「パターン4及び5」、「パターン4、6及び7」も選択可能である。
【0129】
また、配送先Bの場合、配送パターン4、6、及び7をそれぞれ高々1つ選択すれば、配送先(注文)をちょうど1つずつで選択することができ、3台のローリー車16をそれぞれ配送パターン4、6、及び7に基づき運行すればよい。
【0130】
さらに、配送先Bの場合、別の選択例として、配送パターン3、及び6をそれぞれ高々1つ選択すれば、配送先(注文)をちょうど1つずつで選択することができ、2台のローリー車16をそれぞれ配送パターン3、及び6に基づき運行すればよい。
【0131】
配送先Bの場合は、その他の業務要件(台数、積込み時間、乗務員等の各制約)を考慮して、何れかに絞られる場合がある。
【0132】
「配送パターン選択
(段階2)」
【0133】
配送パターン選択では、配送パターンを使って最大1か月分のローリー車16のスケジュールを求める。
【0134】
「配送パターン選択で考慮する要件」
【0135】
業務要件(A)〜(E)は、配送パターンに集約されたので、配送パターン選択で考慮する要件は以下の2つの業務要件となる。
【0136】
(F) 発注で指定された必要台数分のローリー車16で配送する。
(G) ローリー車16・乗務員30の稼働時間の合計を減らす。
【0137】
「配送パターン選択モデルの定式化」
【0138】
まずは上記要件以外の暗黙の条件の定式化を考える。
【0139】
暗黙の条件とは、「ローリー車16は分身しない」、「すでにLNGを積載しているローリー車16にLNGを積み込むことはできない」、及び、「配送する際にはローリー車16にLNGが積載されている必要がある」等、通常は明言されない、所謂当たり前の条件である。
【0140】
定式化の方法には様々なものが考えられるが、本件では各ローリー車16のスケジュールをグラフ上の一筆書きと考えて定式化を行った。
【0141】
図8は、ある1台のローリー車16(
図8では、符号cとする)が初日から2日間で取り得るスケジュールをグラフで表したもので、ローリー車16のスケジュールはこのグラフの枝の向きに沿った一筆書きと等価である。
【0142】
図8の左端の枝は、計画対象期間の開始時点でローリー車16がLNGを積んでいる(積置)か否かを表す。開始時点において、ローリー車16がLNGを積んでいる(積置)か否かは、予め与えられた情報なので、
図8のグラフの最初の分岐ではどちらに進むかが決まっている。
【0143】
以下に、
図8における、各枝の意味を以下に示す。
【0144】
夜間積置は、夜間にLNGを積載してLNG基地11で待機することを意味する。
【0145】
夜間空置は、夜間にLNGを積載せずにLNG基地11で待機することを意味する。
【0146】
昼間積置は、日中にLNGを積載してLNG基地11で待機することを意味する。
【0147】
昼間空置は、日中にLNGを積載せずにLNG基地11で待機することを意味する。
【0148】
昼間積込みは、日中にLNG基地11に待機したままLNGの積込みを行うことを意味する。
【0149】
出発は、前日以前からLNGを積載していたローリー車16が、LNGの積込みを行わずに配送に出発することを意味する。
【0150】
積込み&出発は、LNG基地11でLNGの積込みを行って配送に出発することを意味する。
【0151】
配送パターンは、配送パターンを実行することを意味する。
【0152】
到着は、配送を終えてLNG基地11に到着することを意味する。
【0153】
到着
&積込みは、配送を終えてLNG基地11に到着したのち、LNGの積込みを行うことを意味する。
【0154】
上記各枝を通るか否かを「0」又は「1」の変数xに対応づけると、この一筆書きは以下の制約条件で表すことができる。
【0155】
以下での添え字は、cがローリー車16、dが日付(何日目か)、pが配送パターンを表し、γ_cは計画開始時点で、ローリー車16(車両c)がLNGを積載していれば「1」、そうでなければ「0」をとる定数、P_(d,c)はd日目にローリー車16(車両c)がとり得る配送パターンの集合である。
【0156】
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【数5】
【数6】
【数7】
【数8】
【0157】
一筆書きで枝を通ることを、
図8上を流れるフローと考えると、各制約条件はグラフの頂点での流量の保存則となっている。(1)式から(8)式の制約条件の左辺が頂点に入ってくる流量、右辺が頂点から出ていく流量である。
図9に、
図8のフロー(矢印)と各式との相関関係を示す。
図9では、各枠に示す式番号が太線矢印に対応する。
【0158】
さらに、業務要件(F)及び業務要件(G)を加味すると、配送パターン選択は以下の最適化問題として表される。
【0159】
【数9】
【0160】
目的関数のa、b、c
pはそれぞれ、注文の必要台数が満たされなかった場合のペナルティ、LNG基地11でのLNG積込みにかかる時間、及び、配送パターンpの所要時間を表す定数である。
【0161】
また、式(9)のr
oは注文「o」の必要台数を表す定数、P
oは注文「o」に対応する配送パターンの集合、及び、yoは注文「o」の必要台数に対するローリー車16の不足数を表す変数である。
【0162】
この最適化問題を解くことにより、最適なローリー車16のスケジュールが得られる。
【0163】
実際のツールでは、前述した「配送パターン選択」において、ローリー車16のスケジュールを決めた後に、「補給パターン列挙」、「補給パターン割り当て」、及び、「乗務員割り当て」の各処理を実行して、積込み及び乗務員30を考慮した計画を立てている。
【0164】
「モデルについての考察」
【0165】
本発明では、あり得る配送パターン・補給パターンを全列挙して、それらの中から最適な組み合わせを選択するというアプローチでモデルを構築した。
【0166】
このアプローチのメリットは、最適化問題の定式化が簡素になることの他に、要件の追加・変更に対応しやすいこともある。
【0167】
要件の追加・変更の内容によっては、最適化問題の定式化の変更が困難であったり、変更したことによって、現実的な時間では解が得られなくなるというリスクがあるが、配送パターン・補給パターンの列挙は一般的なプログラミング言語(例えば、Python「パイソン」)を用いて実装できるため、そのようなリスクが比較的小さいと考えられる。
【0168】
本発明の配送計画制御装置における、ローリー車16の自動配車システムは、グラフィックユーザーインターフェイスを備えている。
【0169】
まず、LNG基地11、ローリー車16、乗務員30、配送先の設備10とそのそれぞれの可能な組み合わせ等をマスターデータとして用意し、システムにインポートする。
【0170】
図10及び
図11は、乗務員30及びローリー車16のマスターデータを示すモニタ画面58Mの正面図である。また、
図12は、配送先の設備10とローリー車16の組み合わせのマスターデータを示すモニタ画面58Mの正面図である。
【0171】
ローリー車16及び乗務員30には、それぞれ所属LNG基地11と所属会社があり、ある会社に所属する乗務員30は同じ所属会社のローリー車16にのみ乗車することができる。
【0172】
次に、
図13は、配車を行いたい期間の顧客から受注したオーダーデータを示すモニタ画面58Mの正面図であり、自動配車システムにインポートして、配車を実行する。
【0173】
配車が完了すると、
図14に示す結果がモニタ画面58Mに出力される。
図14からは、ローリー車16毎に期間内の毎日の予定を確認することができる。この他にも、乗務員30やオーダー毎の予定の一覧を確認できる結果を出すこともできる。
【0174】
ここで、自動配車システムを用いて、2500件のオーダーを、200台のローリー車16で配送する場合の配車を行ったところ、計算時間は約10分であった。計算等に用いた最適化ソフトウェアは、Numerical Optimizerである。
【0175】
以上説明したように、本実施例では、ローリー車16によるLNG販売事業のロジスティクス最適化に向けて、ローリー車16の自動配車システムを構築することができる。
【0176】
例えば、これまで、4人で数日間かけて行っていた1ヶ月分の配車業務を、10分から20分で行うことができ、大幅な効率化を実現した。顧客からの緊急の受注変更依頼への対応も含めれば、効果はさらに大きくなる。
【0177】
本実施例のローリー車16の自動配車システムは、ローリー車16の年間走行距離や乗務員30の労働時間の最適化も目的関数に入っている。ローリー車16の稼働を最適化し、必要となるローリー車16を減らしていくことで、配送効率の向上による輸送コスト低減を目指すことができる。
【0178】
また、昨今、運送業界では乗務員30不足による配送トラブルが顕在化してきていることから、乗務員30の最適配置や労働時間の最適化といった労務管理強化にも本システムを活用していくことができる。
【0179】
さらに、日々の顧客LNG使用量の予測と組み合わせることにより、顧客からの受注に基づく配送計画だけでなく、配送日の提案を可能とすることで、ロジスティクスの一層の最適化を図ることができる。