特許第6738480号(P6738480)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6738480
(24)【登録日】2020年7月21日
(45)【発行日】2020年8月12日
(54)【発明の名称】映像表示装置
(51)【国際特許分類】
   G06T 5/00 20060101AFI20200730BHJP
   H04N 1/407 20060101ALI20200730BHJP
   H04N 1/60 20060101ALI20200730BHJP
   H04N 9/64 20060101ALI20200730BHJP
【FI】
   G06T5/00 735
   H04N1/407
   H04N1/60 110
   H04N9/64 F
【請求項の数】11
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2019-505607(P2019-505607)
(86)(22)【出願日】2017年3月15日
(86)【国際出願番号】JP2017010539
(87)【国際公開番号】WO2018167898
(87)【国際公開日】20180920
【審査請求日】2019年8月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】317015179
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】田中 和彦
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 満雄
(72)【発明者】
【氏名】福田 伸宏
(72)【発明者】
【氏名】樋口 晴彦
【審査官】 佐藤 実
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−11286(JP,A)
【文献】 特開2000−278528(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/097780(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T 5/00
H04N 1/407
H04N 1/60
H04N 9/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
映像入力部と、
前記映像入力部で入力された映像に映像補正を行う映像補正部と、
前記映像補正部で補正された映像を表示する映像表示部を備え、
前記映像補正部は、前記映像入力部で入力された映像に対して、局所的な輝度補正を行い、前記局所的な輝度補正の局所毎の補正強度を取得して、該補正強度にもとづいて局所的な彩度補正を行うことを特徴とする映像表示装置。
【請求項2】
請求項1に記載の映像表示装置であって、
前記映像補正部における前記局所的な輝度補正はレティネックス補正を用いた補正であり、当該補正前後の映像を比較することにより当該輝度補正のゲインを前記補正強度として取得し、前記ゲインに応じて前記局所的な彩度補正の強度を変更することを特徴とする映像表示装置。
【請求項3】
請求項1に記載の映像表示装置であって、
前記局所的な彩度補正をユーザーが設定可能なメニューを設定することを特徴とする映像表示装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載の映像表示装置であって、
前記局所的な輝度補正の局所毎の補正強度から1を減じた値に対して、第一の調整パラメータである倍率値を乗じた上で、第二の調整パラメータである上限値によるクリップ処理を行い、その結果に1を加算した値を彩度補正倍率として局所的な彩度補正を行うことを特徴とする映像表示装置。
【請求項5】
請求項1または2に記載の映像表示装置であって、
前記局所的な輝度補正の局所毎の補正強度に対して、第一の調整パラメータである倍率値を用いた乗算処理と第二の調整パラメータである上限値によるクリップ処理を行うことで算出された彩度補正倍率を用いて局所的な彩度補正を行うことを特徴とする映像表示装置。
【請求項6】
請求項4または5に記載の映像表示装置であって、
前記第一の調整パラメータである倍率値と前記第二の調整パラメータである上限値をメニューによってユーザーが調整可能であることを特徴とする映像表示装置。
【請求項7】
請求項4または5に記載の映像表示装置であって、
前記第一の調整パラメータである倍率値と前記第二の調整パラメータである上限値を、前記映像入力部に入力された映像の種類や視聴環境に応じて調整する手段を搭載したことを特徴とする映像表示装置。
【請求項8】
請求項1に記載の映像表示装置であって、
前記局所的な輝度補正は、前記映像入力部から入力された映像について第1のレティネックス処理を行ない、前記映像入力部から入力された映像について、前記第1のレティネックス処理と方式の異なる第2のレティネックス処理を行ない、前記映像入力部から入力された映像の特徴に応じて前記第1のレティネックス処理によって処理した映像と前記第2のレティネックス処理によって処理した映像とを合成する映像合成処理によって実現する映像補正処理であることを特徴とする映像表示装置。
【請求項9】
請求項8に記載の映像表示装置であって、
前記第1のレティネックス処理におけるスケールと、前記第2のレティネックス処理におけるスケールが異なることを特徴とする映像表示装置。
【請求項10】
請求項9に記載の映像表示装置であって、
前記第1のレティネックス処理におけるスケールは前記第2のレティネックス処理におけるスケールよりも小さく、
前記映像合成処理は、前記映像入力部から入力された映像の輝度が比較的高い場合に、前記第1のレティネックス処理を施した映像の合成比率を前記第2のレティネックス処理を施した映像よりも大きくし、前記映像入力部から入力された映像の輝度が比較的低い場合に、前記第1のレティネックス処理を施した映像の合成比率を前記第2のレティネックス処理を施した映像よりも小さくすることを特徴とする映像表示装置。
【請求項11】
請求項8から10のいずれか一項に記載の映像表示装置であって、
前記第1のレティネックス処理は、入力映像を複数の反射光成分に分離し、分離された前記複数の反射光成分のそれぞれを重み値によって調整し、加重平均し、映像中の反射光の割合を制御する処理であり、
前記第2のレティネックス処理は、前記第1のレティネックス処理よりもスケールの大きなレティネックス処理であることを特徴とする映像表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、映像処理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
本技術分野の背景技術として、特許文献1がある。この公報には、Multi Scale Retinex(MSR)処理において、処理対象となる原画像の画素値レベルに応じて、スケールの異なる複数の周辺関数から生成されるぼやけ具合の異なる複数のぼやけ画像からいずれかを画素毎に選択することで、合成ぼやけ画像を作成する。合成ぼやけ画像に対してローパスフィルタを施すことによって、不自然な境界の不連続の発生を防止し、Retinex処理を行なう、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−004506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
映像信号中に撮影されている被写体の特性を示すパラメータとして、例えば輝度、色、周波数成分など、様々なパラメータを有しているが、映像のシーンが異なるとそれらの値も異なる。視認性の良好な映像表示を行うためには、映像の特徴に応じて映像のコントラスト補正などの特性を変更して映像補正を行う必要がある。
【0005】
しかし、特許文献1のような、MSRに於いて、複数のスケールを調整してダイナミックレンジ圧縮の高性能化を行う技術では、複数のスケールに対する映像の寄与は考慮されているが、被写体の特徴は考慮されていない。それ故、映像中の被写体の特徴に係わらず、一様な補正となる。また、反射の性質の違いに対する映像の寄与は考慮されていない。
【0006】
本発明は、上記背景技術及び課題に鑑み、映像の精細感や陰影部分の視認性をより好適に向上した映像表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、その一例を挙げるならば、映像入力部と、映像入力部で入力された映像に映像補正を行う映像補正部と、映像補正部で補正された映像を表示する映像表示部を備え、映像補正部は、映像入力部で入力された映像に対して、局所的な輝度補正を行い、局所的な輝度補正の局所毎の補正強度を取得して、該補正強度にもとづいて局所的な彩度補正を行う構成とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、より好適に視認性を向上した映像を得ることができる映像表示装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施例1に係る映像表示装置の構成例の図である。
図2】映像補正部の構成例の図である。
図3】映像合成部の構成例の図である。
図4A】第1のレティネックス処理部の特性の一例である。
図4B】第2のレティネックス処理部の特性の一例である。
図4C】映像合成制御信号の特性の一例である。
図5A】映像の輝度ヒストグラムの一例である。
図5B】映像の入出力特性の一例である。
図5C】映像の輝度ヒストグラムの一例である。
図5D】映像の入出力特性の一例である。
図5E】映像の輝度ヒストグラムの一例である。
図5F】映像の入出力特性の一例である。
図6】本発明の実施例2に係る特徴分析部の動作特性の図である。
図7】本発明の実施例3に係るレティネックス処理部の構成の一例である。
図8】反射光検出部の構成の一例である。
図9A】反射光制御部の構成の一例である。
図9B】反射光制御部の構成の一例である。
図10】Phong反射モデルによる反射光の性質を説明する図である。
図11A】ガウシアン分布を説明する図である。
図11B】余弦による輝度分布を説明する図である。
図11C】余弦のべき乗による輝度分布を説明する図である。
図12A】映像の輝度値によるスペキュラ補正ゲインを説明する図である。
図12B】映像の輝度値によるディフューズ補正ゲインを説明する図である。
図13】本発明の実施例4に係る映像補正部の構成の一例である。
図14】彩度倍率算出部の構成の一例である。
図15】本発明の実施例5に係る映像表示装置の構成例の図である。
図16】設定メニュー画面の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について図面に基づいて説明するが、本発明は必ずしもこれらの実施形態に限定されるものではない。なお、実施形態を説明する各図面において、同一の部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【実施例1】
【0011】
本実施例では、光の反射の性質毎に映像を分解して映像補正を行う映像表示装置をプロジェクタの構成にて説明する。なお、以下ではフロントプロジェクタの例で説明するが、その形態は、リヤプロジェクションテレビでもよい。また、パネルの拡大投影を行なわず、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイなどの直視平面ディスプレイを用いた表示装置でも構わない。この点については、以降のいずれの実施例でも同様である。
【0012】
図1は、本実施例の映像表示装置の構成図の例である。
【0013】
本映像表示装置は、映像入力信号10を入力とし、例えば圧縮映像信号のデコーダ、IP変換、スケーラ等により内部映像信号12に変換する入力信号処理部11と、内部映像信号12を入力とする映像補正部100と、補正映像信号13を入力とし、補正映像信号を表示画面の水平・垂直同期信号に基づいて表示制御信号15を生成するタイミング制御部14と、映像を表示する光学系装置200で構成される。
【0014】
光学系装置200は、スクリーンへ映像を投影するための光線を照射する光源203と、表示制御信号15を入力とし、光源203からの光線の階調を画素毎に調整し、投射映像を作成するパネル202と、投射映像をスクリーンに拡大投影するためのレンズ201で構成される。
【0015】
なお、映像表示装置が、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイなどの直視平面ディスプレイである場合は、光学系装置200のレンズ201は不要である。ユーザーはパネル202を直視することとなる。
【0016】
映像補正部100の構成の一例を図2に示す。第1のレティネックス処理部20および第2のレティネックス処理部22は、内部映像信号12に対してレティネックス理論に基づく映像処理を行い、第1の補正映像信号21および第2の補正映像信号23を出力する。
【0017】
ここで、レティネックス(Retinex)理論とは、色恒常性や明るさ恒常性といった人間の目の視覚特性を示した理論である。この理論によれば、映像から照明光成分を分離し、反射光成分を抽出することができる。
【0018】
それ故、Retinex理論に基づいた映像補正処理では、暗い室内や明るい逆光下の映像も、該映像中の人物等の被写体を見づらくする原因である照明光成分の影響を取り除き、反射光成分を抽出することで、視認性の高い映像が得られる。このため、人間が見て感じる、自然なダイナミックレンジをデジタル階調でも好適に圧縮できる。
【0019】
Retinex理論には、照明光成分または反射光成分の推定手法により、多くのモデルが存在する。例えば、下記参考文献1では、McCann99、PSEUDO、Poisson、QPのモデルについて比較されている。
【0020】
また、局所的な照明光成分がガウシアン分布に従うと推定し、反射光成分を抽出するRetinexをCenter/Surround(以下、C/Sと記載する) Retinexと呼ぶ。このRetinexに代表されるモデルには、Single Scale Retinexモデル(以下、SSR)やMultiscale Retinexモデル(以下、MSRと呼ぶ)等がある。
【0021】
SSRは、一つのスケールに対する反射光の輝度成分を映像中から抽出するモデル(例えば、下記参考文献2参照)で、SSRを拡張し、複数のスケールに対する反射光の輝度成分を映像中から抽出するモデル(例えば、下記参考文献3参照)がMSRである。
〔参考文献1〕野里 良裕,他 「適応的階調補正のハードウェア実現における Retinex理論の比較評価」, 信学技報, SIS2005-16, (2005).
〔参考文献2〕D.J.Jobson and G.A.Woodell, Properties of a Center/Surround Retinex: Part 2.Surround Design,NASA Technical Memorandum,110188,1995.
〔参考文献3〕Zia−ur Rahman, Daniel J. Jobson, and Glenn A. Woodell, ”Multiscale Retinex For Color Image Enhancement”, ICIP ’96。
【0022】
本実施例では、一例として、第1のレティネックス処理部20は、照明光推定性能に優れるMcCann99モデルを用い、第2のレティネックス処理部22は、コントラスト補正性能に優れるMSRモデルを用いることとする。特徴分析部24は、内部映像信号12の特徴を分析し、映像合成部26へ第1の映像合成制御信号29および第2の映像合成制御信号25を出力する。映像合成部26では、第1の映像合成制御信号29および第2の映像合成制御信号25に基づき、補正映像信号21および補正映像信号23を合成して補正映像信号13を出力する。
【0023】
図3は、映像合成部26の構成の一例を示している。補正映像信号21は、利得制御部27でα倍され、補正映像信号23は、利得制御部28で(1−α)倍され、加算部30で加算処理された後、利得制御部31でβ倍されて補正映像信号13が得られる。
【0024】
次に、図1から図3に示した構成の動作の一例を図4A〜C、図5A〜Fを用いて説明する。
【0025】
まず、本実施例における第1の映像合成制御信号29による制御について説明する。
【0026】
図4Aおよび図4Bは、横軸が輝度レベル、縦軸がゲインを示しており、それぞれ第1のレティネックス処理部20、第2のレティネックス処理部22の輝度レベルに対するゲイン特性の一例を示している。本実施例における、第1のレティネックス処理部20にMcCann99モデルを用い、第2のレティネックス処理部22にMSRモデルを用いた場合の一例を示している。図4Aの例では、McCann99モデルによる第1のレティネックス処理部20は、輝度レベルLV1とLV2の間にゲインのピークg1を有している。図4Bの例では、MSRモデルを用いた第2のレティネックス処理部22はLV2とLV3の間にゲインのピークg2を有している。
【0027】
図4Cは、第1のレティネックス処理部20および第2のレティネックス処理部22の特性が、上述の図4Aおよび図4Bの場合の、図2に示した特徴分析部24から出力する第1の映像合成制御信号29による合成制御値αの一例を示す図である。構成制御値は、図4Cのように、第1のレティネックス処理部20のゲインが、第2のレティネックス処理部22のゲインよりも高い輝度レベルでは合成制御値αを小さくし、逆に第1のレティネックス処理部20のゲインが、第2のレティネックス処理部22のゲインよりも低い輝度レベルでは合成制御値αを大きくするように制御する。これにより、加算部30から出力される、第1のレティネックス処理部20と第2のレティネックス処理部22の合成出力映像の入出力特性をリニアな特性とする。
【0028】
以上の処理により、照明光推定性能に優れるMcCann99モデルによるレティネックス処理とコントラスト補正性能に優れるMSRモデルによるレティネックス処理の両者の利点を得る合成映像を得ることができる。
【0029】
次に、本実施例における第2の映像合成制御信号25による制御について説明する。
【0030】
図5Aおよび図5Bは、特徴分析部24から出力する第2の映像合成制御信号25の制御の一例を示している。
【0031】
まず図5Aは、横軸が映像の輝度レベル、縦軸が1画面中の画素の個数を表しており、各輝度レベルの分布をヒストグラムとしてグラフ化したものである。図5Aの例において、ヒストグラムh1は、輝度レベルLV1からLV3までの範囲の分布が、LV1以下およびLV3以上の輝度レベルの分布よりも多いことを示している。なお、輝度レベルLV1からLV3までの範囲の分布がフラットな場合は、一点鎖線で示すヒストグラムh0になる。
【0032】
図5Bは、横軸が入力映像の輝度レベル、縦軸が出力映像の輝度レベルを表しており、上述した図5Aの輝度分布がヒストグラムh1の場合に、特徴分析部24から出力される第2の映像合成制御信号25の一例を示している。これは、利得制御値βにより制御される入出力レベル特性である。図5Aの輝度分布がヒストグラムh0の場合には図5Bの点線で示した特性となり、図5Aの輝度分布がヒストグラムh1の場合には図5Bの実線で示した特性となる。ここで、βは、点線で示すリニアな特性を基準(β=1)とするものである。当該βを入力レベルに応じて可変することにより、図5Bの実線で示すような特性が得られる。図5Bの例では、βはLV2では1であるが、LV1では1より小さく、LV3では1より大きい値である。このように、図5Aのヒストグラムh1の場合には、利得制御値βにより、輝度分布が多いLV1からLV3の範囲の入出力特性曲線の傾きが、それ以外の領域の傾きに対して急峻になるよう制御される。このような特性で補正映像信号13を得ることにより映像中の分布が多い領域に対して、より多くの出力輝度レベルを割り当てることになるので、視認性の良好な映像を得ることができる。
【0033】
図5Cから図5Fは、輝度分布が図5Aとは異なる場合の制御の一例を説明する図である。
【0034】
まず、図5CはLV2以下の輝度レベルの輝度分布がLV2以上の輝度レベルよりも多い場合のヒストグラムの一例を示している。この場合の利得制御値βの一例を図5Dに示している。図5Dのように、輝度分布が多いLV2以下の特性曲線の傾きがLV2以上の輝度レベルと比較して急峻になるように制御することで、映像の分布が多い輝度帯域に対して、より多くの出力輝度レベルを割り当てる。これにより、視認性の良好な映像を得ることができる。
【0035】
次に、図5EはLV2以上の輝度レベルの輝度分布がLV2以下の輝度レベルよりも多い場合のヒストグラムの一例を示している。この場合の利得制御値βの一例を図5Fに示している。図5Fのように、輝度分布が多いLV2以上の特性曲線の傾きがLV2以下の輝度レベルと比較して急峻になるように制御することで、映像の分布が多い輝度帯域に対して、より多くの出力輝度レベルを割り当てることになるので、視認性の良好な映像を得ることができる。
【0036】
以上説明した映像合成部26の一連の制御によって、照明光推定性能に優れるMcCann99モデルによるレティネックス処理とコントラスト補正性能に優れるMSRモデルによるレティネックス処理の両者の利点を得ながら、かつ視認性の良い補正映像が得られる。
【0037】
なお、以上の説明において、レティネックスモデルの組み合わせは上述の例に限ったものではなく、異なる方式のレティネックスデモルの組み合わせでもよい。また、2方式のモデルの組み合わせに限ったものでなく、3つ以上のモデルの組み合わせでも良い。その場合は、図2に示す複数のレティネックス処理部は、並列に並べて各レティネックス処理部の補正映像を合成処理部26で合成して補正映像信号13を得るように構成すればよい。
【実施例2】
【0038】
実施例2は、図1の映像表示装置における映像補正部100の動作が、実施例1と異なる例である。以下に実施例1との相違について説明する。特に説明の無い部分は実施例1と同様であるため、説明を省略する。
【0039】
実施例2の映像補正部100について、図2を用いて説明する。第1のレティネックス処理部20および第2のレティネックス処理部22は、内部映像信号12に対して、それぞれ異なる方式のレティネックス理論に基づく映像処理を行い、補正映像信号21および補正映像信号23を出力する。本実施例では、第1のレティネックス処理部20よりも第2のレティネックス処理部22の方がスケールの大きなレティネックス処理を行うものとする。ここで、レティネックス処理のスケールとは、レティネックス処理において参照する画素範囲の大きさである。
【0040】
特徴分析部24は、内部映像信号12の特徴を分析し、第1の映像合成制御信号29および第2の映像合成制御信号25を映像合成部26へ出力する。映像合成部26では、映像合成制御信号29および映像合成制御信号25に基づき、補正映像信号21および補正映像信号23を合成して補正映像信号13を出力する。
【0041】
ここで、実施例2の第2の映像合成制御信号25および利得制御値βは、実施例1と同様であるため、説明を省略する。
【0042】
実施例2の第1の映像合成制御信号29による利得制御値αは、実施例1と異なるものである。以下にこれを説明する。
【0043】
図6に、実施例2における、特徴分析部24における第1の映像合成制御信号の出力特性の一例を示す。図6は、横軸が映像の輝度レベル、縦軸が第1の映像合成制御信号29の値を示している。図6のように、例えば、輝度レベルが低い場合はαを小さく、高い場合はαを大きくする。このようにαを制御することで合成比率を輝度レベルに応じて可変できる。映像合成部26によって得る補正映像信号13において、輝度レベルが小さい場合は、第2のレティネックス処理部22の割合を大きくできる。また、輝度レベルが大きい場合は、第1のレティネックス処理部20の割合を大きくできる。つまり、レティネックス処理のスケールが小さい第1のレティネクス処理部20からは比較的高い周波数成分の反射光成分を多く含むため、輝度が高い映像領域にて合成割合を大きくとることで、映像の精細感を高めることができる。また、レティネックス処理のスケールが大きな第2のレティネクス処理部22からは比較的低い周波数成分の反射光成分を多く含むため、輝度が低い映像領域にて合成割合を大きくとることで、映像の陰影部分の視認性を高めることができる。なお、図6に示した特性は一例であり、各輝度レベルにおける最大値、最小値や特性の傾きなどは、レティネックス処理の特性に応じて決定すればよい。
【0044】
以上説明した実施例において、映像合成制御信号29は、映像の輝度レベルに応じて生成する一例を示したが、周波数成分に応じた制御であってもよい。周波数成分に応じて制御をする場合は、例えば、映像信号の領域毎の周波数成分が高い場合には、補正映像信号13において、スケールサイズの小さいレティネックス処理部から得られる映像信号の割合を大きくし、映像信号の領域毎の周波数成分が低い場合には、補正映像信号13において、スケールサイズの大きなレティネックス処理部から得られる映像信号の割合を大きくする。さらに、映像の輝度レベルと周波数成分の両者を用いた合成制御を行ってもよく、その場合は、例えば、輝度レベルに応じた上述の制御値と、周波数成分に応じた制御値の加算または積算して正規化した値にて制御を行えばよい。
【0045】
以上説明した本発明の実施例2によれば、異なる複数のレティネックス処理の補正映像をレティネックス処理のスケールに応じて合成することにより、映像の精細感と陰影部分の視認性を両立することが可能となる。
【実施例3】
【0046】
次に図1に示した映像表示装置における映像補正部100に異なるレティネックスモデルを用いた場合の実施例について説明する。映像補正部100の構成は、一例として図2の構成を用いることとするが、これに限ったものではない。図7は、第1のレティネックス処理部20の構成例であり、内部映像信号12を入力信号とし、Retinex理論に基づく映像処理を行うことで、2つの反射光成分101と102とを検出する反射光検出部150と、検出された2つの反射光成分を入力とし、反射光を調整した後、再合成を行うことで補正映像信号13を出力する反射光制御部180で構成される。
【0047】
次に、反射光検出部150および反射光制御部180について説明する。
【0048】
光の反射は、被写体の性質により、例えば、滑らかな表面で鏡のような鏡面反射をする光(以下、スペキュラと呼ぶ)、ざらざらした表面の細かな凹凸により拡散反射する光(以下、ディフューズと呼ぶ)、そして周囲の環境に対し反射等を繰り返すことで散乱した光である環境光(以下、アンビエントと呼ぶ)等に分類される。
【0049】
例えば、3次元コンピュータグラフィックス分野に於いて、これら3つの光の性質を用いて物体表面の陰影を表現する反射モデルに、Phong反射モデルがある。Phong反射モデルによれば、材質は光の反射具合により表現できる。
【0050】
例えば、プラスチック球体にスポットライトを当てた場合、輝度の高い小さな円形のハイライトができる。また、ゴム状の球体ではプラスチックよりハイライトの半径が広がるが、輝度は低くなる。このハイライトの部分がスペキュラである。また、ディフューズやアンビエントも材質に応じて輝度が異なる。
【0051】
図10は、Phong反射モデルの例を説明する図である。図は、光源と光源から延びる光線、光線が到達した球体と球体を載せた床、この様子を観測する観測者で構成される。観測は、視点の位置で行われ、実際に目で観測しても、カメラ等の観測機器を使用してもよい。
【0052】
図10に於いてスペキュラは、光線が球体表面で視線方向に反射した光501である。これは、光源が球体表面に映りこんだものであり、図中の円形のハイライト504がスペキュラの範囲である。例えば、プラスチックの球体の場合、輝度の高い小さな円形のハイライトができる。また、ゴム状の球体ではプラスチックよりハイライトの半径が広がるが、輝度は低くなる。Phong反射モデルでは、スペキュラは視線と反射光の余弦のべき乗に従うと仮定している。
【0053】
図10に於いてディフューズは、光線が球体表面に当たった光502が拡散反射する光である。ディフューズの輝度は、光線と球体表面の向き、すなわち光線と法線との余弦で決まるため、球体表面で光が直接当たる部分がディフューズの範囲である。
【0054】
図10に於いてアンビエントは、影となる部分に回りこんだ光503である。これは、周囲で幾度も反射し、散乱した光が環境全体に平均化されて留まったものあるため、直接光が届かない影の部分にも一定の輝度がある。影となる拡散反射する光で、光線と球体表面の向き、光線ベクトルすなわち法線との余弦で明るさが決まる。
【0055】
以上より、Phong反射モデルは、次の式で表される。
【0056】
【数1】
【0057】
そこで、本実施例による反射光検出部に於ける反射光は、アンビエント、ディフューズ、スペキュラで構成されるとし、映像中のアンビエントは、広いスケールのガウシアンに従い、ディフューズは余弦による輝度分布に従い、スペキュラは余弦のべき乗による輝度分布に従うとする。アンビエントのフィルタをFa(x,y)、ディフューズのフィルタをFd(x,y)、スペキュラのフィルタをFs(x,y)とすると、各フィルタは次式となる。
【0058】
【数2】
【0059】
【数3】
【0060】
【数4】
【0061】
また、図11A図11B図11Cは、それぞれ縦軸を輝度のレベル、横軸を1次元位置座標で表現したアンビエント、ディフューズ、スペキュラの分布を説明する図である。このように、アンビエントのガウシアン分布に比べ、ディフューズ、スペキュラの分布は急峻にレベルが下がることが分かる。
【0062】
ここで、アンビエントのフィルタによる映像Iaは、全体を平均化するため、ほぼアンビエント成分のみとなる。ディフューズのフィルタによる映像Idは、スペキュラの成分はフィルタにより平均化され、ほぼアンビエント成分とディフューズ成分のみとなる。スペキュラのフィルタによる映像Isは、殆ど平均化されないため、アンビエント成分とディフューズ成分とスペキュラ成分すべてが残る。これを数式5に示す。
【0063】
【数5】
【0064】
これを、MSRと同様に対数空間による反射成分を求めると数式6となる。
【0065】
【数6】
【0066】
また、鏡や金属等のスペキュラは、全反射と考えられるため、余弦のべき乗は無限大となる。この時、スペキュラによる反射成分は、数式7を用いてもよい。
【0067】
【数7】
【0068】
また、アンビエントは環境全体の平均的な光であるため、ガウシアンフィルタの代わりに平均値フィルタまたは平均輝度を用いてもよい。例えば平均輝度を用いると数式8となる。
【0069】
【数8】
【0070】
また、スペキュラが目立つのは高輝度のハイライトであることが多く、ディフューズは中低輝度の場合が多い。そこで、例えば、数式6のスペキュラRspecularに対しては、図12Aに示すような高輝度領域のゲインを加え、ディフューズRdiffuseに対しては、図12Bに示すような中低輝度度領域のゲインを加えてもよい。ここで、図12Aの入出力曲線をg(I)とすると、入力輝度Iが低輝度の時はゲインが0となり、中輝度から徐々にゲインが高くなり、高輝度になるとゲインは1となる。図12Bの入出力曲線は1−g(I)で、低輝度の時にゲインが1で、中輝度から徐々にゲインが低くなり、高輝度でゲインが0となる。
【0071】
また、MSRの例と同様、数式6は、加重平均後にゲインと指数関数を加えると準同型フィルタとなる。この準同型フィルタに対し、対数関数および指数関数を、例えばべき乗を用いた関数およびその逆関数で近似してもよい。この場合、関数fとすると数式9となる。
【0072】
【数9】
【0073】
以上により、Phong反射モデルを用いて、反射の性質を考慮した補正が行える。
【0074】
図8および図9を用いて、数式9を説明する。
【0075】
図8は、実施例3による反射光検出部の処理を説明する図である。反射光検出部150は、スペキュラフィルタ部151、ディフューズフィルタ部153と、アンビエントフィルタ部155と、関数変換部157、159、161と、スペキュラ検出部163と、ディフューズ検出部164とで構成される。尚、関数変換部は、対数関数でもよく、べき乗関数で近似してもよい。
【0076】
図9Aは、実施例1による反射光制御部の処理を説明する図である。反射光制御部180は、重みW1とW2による加重平均で構成してもよく、重みW1とW2による加重平均と、ゲインGと、逆関数変換部182にて構成してもよい。ただし、逆関数変換部は、関数変換部で用いた関数の逆関数である。また、図9Bに示すように、図9Aの構成に図12Aの高輝度域に高いゲインを持つスペキュラ補正ゲイン183と図12Bの中低輝度域に高いゲインを持つディフューズ補正ゲイン184を加えてもよい。
【0077】
以上の構成によれば、反射光成分を抽出する際に、光の反射の性質毎、すなわちスペキュラ、ディフューズ、アンビエント毎に映像を分解し、それぞれの性質に応じて補正量を変えることで、第1のレティネックス処理部20から映像中のオブジェクトの材質を考慮した、質感の高い第1の補正映像信号21を得ることができる。
【0078】
次に、第2のレティネックス処理部22は、MSRモデルを用いた映像補正を行うものとする。このとき、上述した第1のレティネックス処理部20よりもスケールサイズを大きくとった処理を行う。
【0079】
以上のような構成とすることで、第1の補正映像信号21はオブジェクトの性質を考慮した映像信号となり、第2の補正映像信号23は映像の比較的大きな面積でのコントラスト補正を行った映像信号となる。これらの補正映像信号に対して、実施例2で説明した映像合成部26の動作と同様に合成を行う。これにより、映像の輝度レベルが低い領域では、第2の補正映像信号の割合が大きくできるので、コントラスト改善効果を大きくでき、映像の輝度レベルが高い領域ではオブジェクトの性質を考慮した映像補正信号の割合を大きくできるので、補正映像信号13として映像の輝度レベルの全帯域に渡って視認性の良好な映像を得ることができる。
【0080】
以上説明した本発明の実施例3によれば、上述した実施例2の効果に加えて、より質感の高い出力映像を得ることが可能となる。
【実施例4】
【0081】
実施例1から3では、入力映像に対して特性の異なる2種類のレティネックス処理を行い、入力された映像の特徴に応じて2つのレティネックス処理結果映像を合成して出力映像を生成することにより、映像の精細感や陰影部分の視認性を改善する方法について記載した。すなわち、カラー映像に対してレティネックス処理を適用して、映像の精細感や陰影部分の視認性改善を図る方法として、カラー映像を輝度成分と2種類の色差成分に分解し、輝度成分に対してレティネックス処理を適用した後、2種類の色差成分を再合成してカラー映像を復元する方法について説明した。
【0082】
しかし、この方法によってカラー映像に対してレティネックス処理を行った場合、映像の精細感や陰影部分の視認性が改善すると同時にレティネックス処理によって輝度成分を強調した部分では、色差成分の値を変えずに輝度成分のみを強調するため色が薄くなる傾向があり、映像の演色性を低下させてしまう可能性が考えられる。
【0083】
そこで、本実施例では、これを解決するために、レティネックス処理で薄くなった色を、彩度強調で強調することで、演色性を低下させずに、より好適にレティネックスの効果である映像の精細感や陰影部分の視認性向上を図る点について説明する。
【0084】
本実施例は、実施例1の図1における映像表示装置の映像補正部100を図13に示す映像補正部に置き替えた構成とする。すなわち、図13は、本実施例における映像補正部の構成の一例である。
【0085】
図13において、入力される内部映像信号12は、RGBの3成分から構成されるカラー映像であり、RGB→YCbCr変換部40により、輝度信号512と二種類の色差信号520に変換される。ここでは、色差信号520はCbとCrの二種類の成分を持つ場合を想定しているが、本発明はこれに限定されるものではない。次に輝度信号512は輝度補正部500に入力される。輝度補正部500は、実施例1における図2の映像補正部100と同様の機能を有するので、その詳細な説明は省略する。輝度補正部500の補正結果として出力された輝度信号513と二種類の色差信号520はYCbCr→RGB変換部41によってRGB画像521に変換される。ここで、RGB→YCbCr変換部40とYCbCr→RGB変換部41は3×3の行列演算で実現することが可能である。RGB→YCbCr変換部40とYCbCr→RGB変換部41の計算式の一例を数式10及び数式11に示す。演算の係数は映像フォーマットによって変化することがあるが、本発明はこの係数の値に依存するものではない。
【0086】
【数10】
【0087】
【数11】
【0088】
ここまでの構成により、RGB画像521は入力される内部映像信号12に対して、色差成分は変更せず、輝度成分のみ輝度補正部500によって補正した映像となる。ここで、輝度補正部500による補正処理が輝度を強調する方向の処理の場合、色差成分を変更せずに輝度値のみが強調されるため、映像の色が薄くなり、演色性が低下してしまう可能性がある。
【0089】
これを改善するために本実施例では、以下に述べる彩度強調回路を用いて演色性の改善を行う。ここで、RGB画像521に対して一律に彩度強調を行うと、輝度補正部500の補正の強弱によらず、彩度が強調されるため得られる画像は不自然なものとなる。
【0090】
そこで、本実施例では輝度補正倍率算出部44によって、輝度補正部500の補正の強弱を算出する。補正の強弱の算出方法としてはいろいろな方法が考えられるが、本実施例では、数式12に示すように、輝度補正部500の前後の輝度信号を用いて、輝度信号513の値を輝度信号512で割った値を輝度補正倍率525として使用する。
【0091】
【数12】
【0092】
ここで、輝度信号512が0の場合は、割り算を行えないため、輝度補正倍率525は1と定義する。
【0093】
なお、輝度補正部500の前後の輝度信号を比較する以外にも、輝度補正部500内で輝度補正倍率を演算し、それを直接、輝度補正倍率算出部44が取得するようにしても良い。
【0094】
また、輝度補正倍率525をそのまま彩度補正倍率として使用すると、映像の暗部等で輝度補正倍率525が大きめの値となっている領域等で、彩度が強調されすぎることがあるため、本実施例では輝度補正倍率525をそのまま使用せずに、彩度倍率算出部45によって彩度補正倍率526を算出する。また、彩度補正倍率526の特性を使用者が変更できるようにするために、設定レジスタ47の中に、彩度補正比527と彩度補正倍率上限値528という2種類の調整パラメータを用意している。
【0095】
次に彩度倍率算出部45の動作の一例について、図14と数式13を用いて説明する。なお、この動作はあくまでも一例であり、本発明はこの動作に限定されるものではない。
【0096】
図14は、彩度倍率算出部45の入力である輝度補正倍率525と出力である彩度補正倍率526の関係を示したグラフである。グラフにおいて実線で示した特性が、彩度倍率算出部45の入出力特性であり、破線はこれを見やすくするための補助線である。この入出力特性は数式13を用いて生成されたものである。
【0097】
【数13】
【0098】
以下、これについて説明する。
【0099】
輝度補正倍率525は0以上の実数であるため、輝度補正倍率525から1を減算して中間値Aを算出する。この中間値Aと0を比較して大きい方の値を中間値Bとする。次に中間値Bに彩度補正比527を乗算し中間値Cを算出し、得られた中間値Cと彩度補正倍率上限値528を比較して小さい方の値を中間値Dとする。この中間値Dに1を加算することで、彩度補正倍率526を算出する。この一連の処理により、図14のグラフの特性が生成される。ここで、彩度補正比527はグラフの斜めの部分の傾きに相当する値であり、輝度補正倍率525をどの程度彩度補正に反映させるかの比率を示すパラメータとなる。彩度補正倍率上限値528はこれに1を加えた値が、彩度補正倍率526の上限値となり、これにより輝度補正倍率525が大きな値となっている領域で彩度を強調しすぎないように制限することが可能となる。また、今回の特性では、彩度補正倍率526は常に1以上の値になり、彩度を弱める処理は行わないようになっている。なお、本発明はこれに限定されるものでは無く、彩度を弱める処理を行うようにすることも可能である。
【0100】
このようにして算出した彩度補正倍率526による彩度補正の方法について次に説明する。図13において、まず、輝度補正後のRGB画像521をRGB→HSV変換部42によって、色相H、彩度S、明度Vに変換する。この変換式の一例を数式14に示す。
【0101】
【数14】
【0102】
この式はRGB→HSV変換式として一般的なものである。以下にその概略を説明する。最初に、輝度補正後のRGB画像521の各成分R0、G0、B0に関して、最大のものをMAX0、最小のものをMIN0とする。次に、R0、G0、B0の大小関係によって場合分けを行い、数式14に従い色相H0の値を得る。式の定義から明らかなように、H0は0から360の範囲の値を取ることになる。なお、R0、G0、B0が全て等しい場合は、MAX0−MIN0が0となるため、H0を定義することはできない。これはその画素が無彩色である場合に相当する。このため、この場合は例外処理として、後段で彩度補正を行わないこととする。彩度S0、明度V0についても数式14によって算出する。彩度S0はMAX0が0の時に割り算を行えないが、MAX0が0というのはR0、G0、B0が全て0の場合にのみ成立するため、前述のR0、G0、B0が全て等しい場合の例外処理を適用する。
【0103】
このようにして算出した彩度S0(図13中の523で図示)、色相H0と明度V0(共に図13中の522で図示)に対して、彩度補正処理を行う。本実施例の彩度補正処理では、色相H0と明度V0は補正せずに、色相1と明度V1としてそのままHSV→RGB変換部43へ入力される。彩度S0については、乗算回路46によって彩度補正倍率526を乗算し、その結果である彩度S1(図13中の524で図示)がHSV→RGB変換部43へ入力される。なお、乗算回路46の出力が0.0〜1.0の範囲内に収まらない場合には、0.0〜1.0の範囲内に収まるようにクリッピング処理を行い、その結果が彩度S1となる。この様にして算出された彩度補正後の色相H1、彩度S1、明度V1は、HSV→RGB変換部43により、RGBに変換され、映像補正後の補正映像信号13としてタイミング制御部14へ送られる。HSV→RGB変換部43の処理の一例を数式15に示す。
【0104】
【数15】
【0105】
この式もHSV→RGB変換式として一般的なものであることから、概略のみ説明する。まず、明度V1はそのまま最大成分MAX1として使用される。次に式15に基づき、最大成分MAX1と彩度S1から最小成分MIN1を算出する。その後、色相H1の値に応じて、式15に従ってR1、G1、B1を得る。先に述べた様に、R0=G0=B0の場合は、色相H1、彩度S1、明度V1には有効な値が設定されていないため、例外処理として、R0、G0、B0の値をそのままR1、G1、B1の値とする。
【0106】
なお、本実施例では説明をわかりやすくするため、RGBをHSVに完全に変換してから彩度補正を行い、その後にHSVからRGBを求める手順で説明したが、必ずしもこのように実装する必要は無い。本処理では最終的な色相との値を必要としないため、最終的な色相との値の算出等の一部の演算処理を省略して実装することも可能である。
【0107】
以上のように、本実施例は、映像入力部と、映像入力部で入力された映像に映像補正を行う映像補正部と、映像補正部で補正された映像を表示する映像表示部を備え、映像補正部は、映像入力部で入力された映像に対して、局所的な輝度補正を行い、局所的な輝度補正の局所毎の補正強度を取得して、該補正強度にもとづいて局所的な彩度補正を行う構成とする。
【0108】
また、映像補正部における局所的な輝度補正はレティネックス補正を用いた補正であり、補正前後の映像を比較することにより輝度補正のゲインを補正強度として取得し、ゲインに応じて局所的な彩度補正の強度を変更するように構成する。
【0109】
これにより、演色性を低下させずに、より好適にレティネックスの効果である映像の精細感や陰影部分の視認性の向上を図ることができる。
【実施例5】
【0110】
本実施例では、本発明の映像表示装置において、使用者が補正特性を設定する場合の制御方法の一例を説明する。
【0111】
図15は、本実施例における映像表示装置の構成の一例を示したものであり、図1と異なる点はユーザー設定部400を設けた点である。ユーザー設定部400は、リモコンや装置本体の操作ボタンの操作を介してユーザーからの操作信号401を入力し、操作信号に応じて、操作命令信号を映像補正部100に出力して、映像表示装置における映像処理での補正の有無や補正量などを設定できるように構成している。これにより、表示部に表示される映像をユーザーの所望の状態に切り替える設定を行なうことができる。
【0112】
図16に、本実施例における、ユーザー設定部400で設定可能な設定項目の例を示す。図16は、映像表示装置が表示する設定メニュー画面1800であり、設定メニュー画面の一例を示している。設定メニュー画面1800は、映像表示装置のメニュー画面信号生成部(図示省略)で生成され、補正映像信号13に替えて出力される。または、設定メニュー画面1800は補正映像信号13に重畳して出力される。
【0113】
まず、設定メニュー画面1800の例の「Retinex方式選択」1810の項目について説明する。「Retinex方式選択」1810の項目により、各実施例で説明した第1のレティネックス処理部20および第2のレティネックス処理部22の両者のレティネックス処理の使用の要否を選択できる。選択は、リモコンや装置本体の操作ボタンの操作を介して、カーソル1811を移動させることにより行なうように構成する。選択項目とその場合の処理について説明する。例えば、「Retinex1 only 」の選択項目が選択された場合は、第1のレティネックス処理部20の処理のみを映像補正部の処理に適用し、第2のレティネックス処理部22の処理は映像補正部の処理に適用しない。具体的には、合成制御値αを1にしてもよく、第2のレティネックス処理部22の動作自体をOFFしてもよい。次に、「Retinex2 only 」の選択項目が選択された場合は、逆に、第2のレティネックス処理部22の処理のみを映像補正部の処理に適用し、第1のレティネックス処理部20の処理は映像補正部の処理に適用しない。具体的には、合成制御値αを0にしてもよく、第1のレティネックス処理部20の動作自体をOFFしてもよい。「Combining Retinex1 and 2」の選択項目が選択された場合は、上述の実施例で説明したように、第1のレティネックス処理部20の処理と第2のレティネックス処理部22の処理とを合成して出力する。「Retinex OFF」の選択項目が選択された場合は、第1のレティネックス処理部20の処理と第2のレティネックス処理部22の処理との両者とも映像補正部の処理に適用しない。両者の動作をOFFにしてもよく、映像補正部に入力される映像について、映像補正部をバイパスして出力してもよい。
【0114】
上述の「Retinex方式選択」1810の項目では、必ずしも、上述の4つの選択項目をユーザーに提示する必要はなく、例えば、「Combining Retinex1 and 2」の選択項目および「Retinex OFF」の選択項目の2つを提示するだけでもよい。また、「Combining Retinex1 and 2」の選択項目、「Retinex1 only 」の選択項目、「Retinex OFF」の選択項目の3つを提示してもよい。すなわち、例示した選択肢のうち少なくとも2項目を提示すればよい。
【0115】
次に、設定メニュー画面1800の例の「Retinex強度設定」1820の項目について説明する。「Retinex強度設定」1820の項目では、それぞれのレティネックス処理の強度を設定できる。具体的には、リモコンや装置本体の操作ボタンの操作を介して、スライドバー1821や1822を移動して、それぞれのレティネックス処理の強度を設定する。その場合の処理は、例えば、図4A図4Bに示しているそれぞれのレティネックス処理のゲインに、強度に応じたオフセットを付加することで実現できる。例えば、強度が強い場合には、図4Aおよび図4Bのゲインに対してプラス方向のオフセット、強度が弱い場合にはマイナス方向のオフセットを付加する。このオフセットを付加する処理については、第1のレティネックス処理部20および第2のレティネックス処理部22の内部もしくは、補正映像信号21および補正映像信号23に対して、オフセットを付加する処理を挿入することで実現できる。
【0116】
なお、「Retinex強度設定」1820の項目は、「Retinex方式選択」1810の項目の選択状態に応じて、アクティブ、非アクティブの状態を切り替えるように構成してもよい。すなわち、「Retinex方式選択」1810の項目でOFFになっている処理についてのスライドバーは、非アクティブ状態としてもよい。
【0117】
次に、設定メニュー画面1800の例の「Retinex彩度設定」1830の項目について説明する。図13を用いて説明したように、彩度倍率算出部45では設定レジスタ47に格納されている二種類のパラメータである彩度補正比527と彩度補正倍率上限値528の値によって輝度補正倍率525の値をどのように彩度補正倍率526に反映させるかを決定している。ここで、彩度補正比527をスライドバー1831に、彩度補正倍率上限値528をスライドバー1832に対応させることで、使用者がこれらの値を自分の好みに合わせて調整することが可能となる。また、この実施例では、彩度補正機能をOFFする場合には、スライドバー1831を一番左にして、彩度補正比527の値を0にすることを想定しているが、明示的にON/OFFを選択するメニュー項目を追加しても良い。
【0118】
以上のように、本実施例は、局所的な彩度補正をユーザーが設定可能なメニューを設定する。これにより、本発明の各実施例における映像補正処理をユーザーの好みや映像表示装置の使用目的または使用環境にあわせてユーザーが調整することが可能となり、より使い勝手のよい映像表示装置が提供できる。
【0119】
また、これらのパラメータについては、ユーザメニュー以外にも、入力される映像の種類や光センサー等によって取得した視聴環境の状態に応じて変更することも可能である。例えば、映像の種類を映画、スポーツ、ニュース番組、プレゼン資料のような形で分類し、手動または自動で入力された映像がどの分類に属するかを判別し、あらかじめ用意した映像分類とレジスタ設定値の対応テーブルを参照することで、入力映像の種類に応じてレジスタ値を自動的に変更することが可能である。映像の分類には映像に付帯しているEPG情報などのメタデータの利用や機械学習による映像種判定などの方法が考えられる。また、カメラや光センサーを用いることで、映像視聴場所の明るさや照明の色温度を取得することができるので、同様のテーブルを用いることで視聴環境に応じてレジスタ設定値を自動的に変更することが可能となる。
【0120】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0121】
10:映像入力信号、12:内部映像信号、13:補正映像信号、15:表示制御信号、20:第1のレティネックス処理部、21:第1の補正映像信号、22:第2のレティネックス処理部、23:第2の補正映像信号、24:特徴分析部、25:映像合成制御信号、26:映像合成部、27、28、31:利得制御部、29:映像合成制御信号、30:加算器、32:照度レベル信号、33:適応制御による補正映像信号、40:RGB→YCbCr変換部、41:YCbCr→RGB変換部、42:RGB→HSV変換部、43:HSV→RGB変換部、44:輝度補正倍率算出部、45:彩度倍率算出部、46:乗算回路(クリッピング機能付き)、47:設定レジスタ、100:映像補正部、101:スケール1による反射光成分、102:スケール2による反射光成分、120:MSRによる反射光検出部、122:スケール1フィルタによるコンボリューション積の結果、124:スケール2フィルタによるコンボリューション積の結果、126:スケール1によるSSRの結果値、128:スケール2によるSSRの結果値、130:MSRによる反射光制御部、131:各SSRの結果に対する加重平均結果値(ゲイン含む)、152:スペキュラフィルタによるコンボリューション積の結果、154:ディフューズフィルタによるコンボリューション積の結果、156:アンビエントフィルタによるコンボリューション積の結果、158:スペキュラフィルタに対する関数変換の結果、160:ディフューズフィルタに対する関数変換の結果、162:アンビエントフィルタに対する関数変換の結果、181:スペキュラおよびディフューズに対する加重平均結果値(ゲイン含む)、302:エッジ信号、500:輝度補正部、525:輝度補正倍率、526:彩度補正倍率、527:彩度補正比、528:彩度補正倍率上限値、1800:設定メニュー画面
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11A
図11B
図11C
図12A
図12B
図13
図14
図15
図16