(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の各実施形態について図面を参照して説明する。なお、各図において同一要素については同一の符号を記し、重複する説明は省略する。
【0011】
「第1実施形態」
以下、本発明に係る作業車両の電力回生システムの第1実施形態について説明する。本発明の第1実施形態に係る電力回生システムは、作業車両の代表例であるダンプトラックに適用した例である。
【0012】
(ダンプトラック100の外観)
図1は作業車両の代表例であるダンプトラックの側面図である。ダンプトラック100は、フレーム36上に土砂等を積載するためのボディ(ベッセルとも言う)4が搭載され、両者がホイストシリンダ33により連結されている。ホイストシリンダ33の伸縮動作により、ボディ4が上下方向に回動する。またフレーム36には、図示しない機構部品を介して前輪7、後輪8、作動油タンク6、燃料タンク5が取り付けられている。後輪8の回転軸部には、後輪8を駆動するための走行モータ10と、後輪8と走行モータ10とを機械的に接続する減速機9が収められている。なお、前輪7、後輪8、走行モータ10、減速機9は左右一対設けられており、以下の説明において、左右を区別するために符号の後に適宜「L」、「R」を付している。
【0013】
フレーム36にはさらに、オペレータが歩行可能なデッキ28が取り付けられている。デッキ28上面にはダンプトラック100の操作を行うためにオペレータが搭乗するキャブ2、各種電力機器が収納されたコントロールキャビネット1、余剰エネルギを熱として放散するための複数のグリッドボックス3が搭載されている。また
図1で前輪7により隠れた部分には、エンジン11および走行モータ用電力源としての主発電機(第1発電機)12、補機類用電力源としての補助発電機(第2発電機)13、油圧機器用油圧源としての不図示のメインポンプなどが搭載されている。
【0014】
(ダンプトラック100の操作方法)
次に、ダンプトラック100の操作方法について説明する。キャブ2内には不図示のアクセルペダル、ブレーキペダル、ホイストレバー、ハンドルが設置されている。オペレータはキャブ2内のアクセルペダル、ブレーキペダルの踏み込み量によりダンプトラック100の加速力、制動力を制御することができる。さらにオペレータはハンドルを左右に回転させることによって油圧駆動による操舵操作を行い、ホイストレバーを前後に倒すことにより油圧駆動によるボディ昇降操作を行うことができる。なお、操舵操作、ボディ昇降操作のシステムについては従来同様のため、本実施形態においては詳述しない。
【0015】
(ダンプトラック100の電力回生システムの構成)
図2は本実施形態に係るダンプトラックの電力回生システムの構成図である。
図2に示すように、ダンプトラック100の電力回生システムは、エンジン11と、主発電機12および補助発電機13と、第1電気回路C1と、第2電気回路C2と、DC/DCコンバータ(降圧装置)60と、コントローラ49と、により大略構成される。主発電機12、補助発電機13はエンジン11に機械的に接続されており、エンジン11により駆動される。
【0016】
第1電気回路C1は、主発電機12にて発電された電力を、ダンプトラック100の後輪(駆動輪)8L、8Rに接続された走行モータ10L、10Rに供給する。第2電気回路C2は、補助発電機13にて発電された電力を、ダンプトラック100のグリッドボックスファン(補機)19に接続されたグリッドボックスファンモータ(補機モータ)54に供給する。
【0017】
DC/DCコンバータ60は、高圧側が第1電気回路C1と接続され、低圧側が第2電気回路C2と接続される。そして、DC/DCコンバータ60は、第1電気回路C1から第2電気回路C2に電力を供給する。
【0018】
第1電気回路C1において、主発電機12の三相交流出力は主発電機用ダイオードブリッジ21、高圧直流ライン56を介して高圧直流ライン用インバータ15L、15Rに入力されており、高圧直流ライン用インバータ15L、15Rの出力はそれぞれ走行モータ10L、10Rに接続されている。走行モータ10L、10Rの出力軸は減速機9L、9Rを介して後輪8L、8Rと機械的に接続している。また、高圧直流ライン56は前述の高圧直流ライン用インバータ15L、15Rの直流入力部に加え、グリッドボックス抵抗53およびチョッパ16にも接続している。高圧直流ライン56には電圧を検出するための電圧計(電圧検出器)55も接続されている。
【0019】
一方、補助発電機13の三相交流出力は補助発電機用ダイオードブリッジ17、補機直流ライン57を介して、補機直流ライン用インバータ18に入力されており、補機直流ライン用インバータ18の出力は複数のグリッドボックスファンモータ54に接続されている。また、グリッドボックスファンモータ54の出力軸はグリッドボックスファン19と機械的に接続されている。
【0020】
コントローラ49は、メインコントローラ50とパワーコントローラ51とを備える。コントローラ49は、図示しないが、CPU(Central Processing Unit)と、CPUによる処理を実行するための各種プログラムを格納するROM(Read Only Memory)やHDD(Hard Disc Drive)などの記憶装置52と、CPUがプログラムを実行する際の作業領域となるRAM(Random Access Memory)と、を含むハードウェアを用いて構成されている。
【0021】
メインコントローラ50は、ダンプトラック100の状態やオペレータの操作入力をもとにエンジン11やパワーコントローラ51を統合的に制御している。パワーコントローラ51はメインコントローラ50の制御に従い、高圧直流ライン用インバータ15L、15R、チョッパ16、補機直流ライン用インバータ18のそれぞれの半導体スイッチ(不図示)に適宜オン−オフ信号を入力し、走行モータ10L、10R、グリッドボックス抵抗(抵抗器)53、グリッドボックスファンモータ54を適切なタイミング、および適切な出力で駆動させることにより、第1電気回路C1および第2電気回路C2内の電力の流れを制御している。
【0022】
なお、詳しくは後述するが、パワーコントローラ51は、ダンプトラック100が回生電力を得る走行状態で走行しているか否か、すなわち、走行モータ10L、10Rが回生動作を行っているか否かを判定して、DC/DCコンバータ60の駆動を制御している。
【0023】
次に主発電機12で発生した電力の詳細な流れを説明する。エンジン11により主発電機12が駆動されると、発生した三相交流電圧は、主発電機用ダイオードブリッジ21によって直流電圧に変換され、高圧直流ライン56を介して高圧直流ライン用インバータ15R、15Lに入力される。この状態でオペレータがアクセルペダルを踏み込む、または、自動運転機能によりパワーコントローラ51にアクセル信号が出力されると、パワーコントローラ51は高圧直流ライン用インバータ15L、15Rに加速のための制御信号を入力し、走行モータ10L、10Rに電力を供給する。この電力により、走行モータ10L、10Rは減速機9L、9Rを介して後輪8L、8Rを駆動して、車体を前進あるいは後進させる。
【0024】
一方、降坂時や停車時において制動動作を行うためにオペレータがブレーキペダルを踏みこむ、または、自動運転機能によりパワーコントローラ51にブレーキ信号が出力されると(
図3参照)、パワーコントローラ51は高圧直流ライン用インバータ15L、15Rに減速のための制御信号を入力し、走行モータ10L、10Rは車体の運動エネルギを電気エネルギに変換する。すなわち走行モータ10L、10Rは発電機としての動作を行う。このとき、走行モータ10L、10Rには回転方向と逆方向にトルクが発生する。発生した電気エネルギにより高圧直流ライン56の電圧が上昇すると、パワーコントローラ51はチョッパ16を動作させ、グリッドボックス抵抗53に電力を供給する。
【0025】
これにより、走行モータ10L、10Rが回生動作により発生させた余剰の電力は、グリッドボックス抵抗53に直流電圧を印可することで、電気エネルギを熱に変換する形で消費される。グリッドボックス抵抗53の熱は通常は周囲の大気により自然空冷されている。しかし、発熱量が大きい場合はグリッドボックス抵抗53の温度が上昇し、高温による損傷を引き起こす可能性がある。このため、パワーコントローラ51は、グリッドボックスファンモータ54を駆動させ、強制空冷によりグリッドボックス抵抗53の冷却を行っている。
【0026】
次にグリッドボックスファンモータ54の駆動方法を説明する。エンジン11により補助発電機13が駆動されると、発生した三相交流電圧は補助発電機用ダイオードブリッジ17によって直流電圧に変換され、補機直流ライン57を介して補機直流ライン用インバータ18に入力される。グリッドボックス抵抗53の冷却が必要な場合は、パワーコントローラ51から補機直流ライン用インバータ18にグリッドボックスファンモータ駆動のための制御信号が入力され、グリッドボックスファンモータ54に電力が供給される。この電力によりグリッドボックスファンモータ54は機械的に接続されたグリッドボックスファン19を回転させる。
【0027】
このとき、詳細は後述するが、パワーコントローラ51は走行モータ10L、10Rの発電量から、高圧直流ライン用インバータ15L、15Rへの所定時間後の入力電圧を推定する計算を行っている。推定される電圧V
*が閾値Vth以上になった時点で、パワーコントローラ51は、DC/DCコンバータ60に対してグリッドボックスファン19を動作させるための制御信号を出力する。DC/DCコンバータ60はパワーコントローラ51からの制御信号の入力に基づいて、高圧直流ライン56の電圧を補機直流ライン57の電圧へ変換し、補機直流ライン用インバータ18に印加する。
【0028】
これにより、走行モータ10L、10Rにより発電された電力がチョッパ16を介してグリッドボックス抵抗53に流れる前に、グリッドボックスファン19に送られ、グリッドボックスファン19で消費されることにより、走行モータ10L、10Rにより発電された電力を有効に利用できるだけでなく、高圧直流ライン56の電圧上昇を抑えることによりチョッパ16の動作を遅らせることができ、グリッドボックス抵抗53の発熱を抑え、グリッドボックス抵抗53の寿命を延ばすことができる。
【0029】
次に
図3を用いてパワーコントローラ51内部の機能について説明する。
図3は、パワーコントローラ51の内部構成を示すブロック図である。
図3に示すように、パワーコントローラ51は、抵抗器駆動判定部101と、走行状態判定部102と、電圧推定部103と、DC/DC駆動判定部(降圧装置駆動判定部)104と、DC/DC制御部(降圧装置制御部)105と、を備えている。
【0030】
抵抗器駆動判定部101は、電圧計55が出力する高圧直流ライン56(第1電気回路C1)の実電圧Vが閾値Vthを超えているか判定し、実電圧Vが閾値Vthを超えている場合にチョッパ16に対して駆動指令を出力する。走行状態判定部102は、ダンプトラック100の走行状態に関する情報に基づいて、走行モータ10L、10Rが回生動作を行っているか否かを判定する。具体的には、走行モータ10L、10Rの出力トルクを検出するトルクセンサ25、および走行モータ10L、10Rの回転数を検出する回転数センサ26の出力値(トルク:TL、TR/回転数:ωL、ωR)の正負符号が一致しているか判定し(詳細は後述)、不一致の場合に走行モータ10L、10Rが発電している、すなわち、回生動作が行われているとして電圧推定部103へ動作指令を送る。ここで、トルクT、回転数ωの添え字Lは左側の走行モータ10Lのトルク、回転数のことを指し、添え字Rは右側の走行モータ10Rのトルク、回転数のことを指している。なお、トルクセンサ25および回転数センサ26は、図示しないが走行モータ10L、10Rに設けられている。
【0031】
電圧推定部103は、走行状態判定部102から走行モータ10L、10Rが回生動作を行っているとの判定結果が入力された場合に、トルクセンサ25の出力(TL、TR)と、回転数センサ26の出力(ωL、ωR)と、電圧計55から出力された実電圧Vとから、高圧直流ライン56の電圧の変化の傾向を予測し、現時点(基準時点)から所定時間ts後の高圧直流ライン56の電圧V
*を推定して、推定した電圧V
*をDC/DC駆動判定部104に出力する。
【0032】
DC/DC駆動判定部104は、電圧推定部103が推定した所定時間ts後の高圧直流ライン56の電圧V
*と閾値Vthを比較し、電圧V
*が閾値Vth以上の場合にDC/DC制御部105へDC/DCコンバータ駆動指令を出力する。
【0033】
DC/DC制御部105は、走行状態判定部102から走行モータ10L、10Rが回生動作を行っているとの判定結果が入力され、かつ、DC/DC駆動判定部104からDC/DCコンバータ駆動指令を受け取ると、DC/DCコンバータ60の出力電圧を所望電圧にするようにDC/DCコンバータ60を制御する。その結果、高圧直流ライン56(第1電気回路C1)からDC/DCコンバータ60を介して補機直流ライン57(第2電気回路C2)に電力が供給される。
【0034】
次に、
図4を用いてパワーコントローラ51が実行するDC/DCコンバータ60の制御処理について説明する。
図4は、DC/DCコンバータの制御処理の手順を示すフローチャートである。
【0035】
パワーコントローラ51は、車体の起動(例えば、エンジン11のキースイッチオン)と共に処理動作を開始する。ステップS1において、走行状態判定部102はトルクセンサ25および回転数センサ26から車体の走行状態、すなわち、走行モータ10L、10RのトルクTL、TRおよび回転数ωL、ωRを取得する。また、電圧推定部103および抵抗器駆動判定部101は、電圧計55から高圧直流ライン56の実電圧Vを取得する。
【0036】
ステップS2において、走行状態判定部102は、走行モータ10L、10RのトルクTL、TRの正負符号と回転数ωL、ωRの正負符号が一致しているか判定することにより、走行モータ10L、10Rにより発電が行われているか否かを判定する。車体が前進加速中で走行モータ10L、10Rが力行動作中であれば、トルクと回転数の符号はいずれも正であり、一致する。一方、車体が前進減速中で走行モータ10L、10Rが回生動作中であれば、トルクの符号は負、回転数の符号は正であり、一致しない。同様に、後進加速中であればトルクと回転数の符号はいずれも負で一致し、後進減速中であればトルクは正、回転数は負で不一致となる。
【0037】
そして、符号が一致していない場合(S2/Yes)は、走行状態判定部102は走行モータ10L、10Rにより発電が行われていると判定して、ステップS3へ進む。一方、符号が一致している場合(S2/No)は、走行状態判定部102は、走行モータ10L、10Rにより発電が行われていないと判定して、一連の動作を終了する。
【0038】
ステップS3において、電圧推定部103は、車体の走行状態(走行モータ10L、10RのトルクTL、TRと回転数ωL、ωL)と電圧計55の実電圧Vとから、高圧直流ライン56の電圧の変化の傾向を予測する。予測した傾向から、現時点から所定時間ts秒後の高圧直流ライン56の電圧V
*を後述する計算式により推定する。ステップS4において、DC/DC駆動判定部104は、推定した電圧V
*と閾値Vthとを比較し、電圧V
*が閾値Vthより小さい場合(S4/No)には一連の動作を終了し、電圧V
*が閾値Vth以上の場合はステップS5へ進む。ステップS5において、DC/DC制御部105は、DC/DCコンバータ60へ制御指令を出力して、一連の動作を終了する。なお、パワーコントローラ51は、このステップS1〜S5までの動作を車体の起動が開始してから停止するまで、所定の周期(例えば10ms毎)で繰り返し行う。すなわち、パワーコントローラ51は、トルクセンサ25、回転数センサ26、電圧計55の検出データを逐次取得して、所定時間ts後の電圧V
*を推定し、DC/DCコンバータ60の制御を行っている。
【0039】
次に、
図5を用いて本実施形態における車体動作と従来例の車体動作の違いについて説明する。
図5は車体動作の変化を時系列で示すタイムチャートである。なお、ここでは説明を簡略化するため、車体を停止する際の制動動作を例にして説明を行う。
図5のグラフ5−1に示すように、ダンプトラック100がある走行速度で走っている際に、時間t1で制動を開始すると、徐々に走行速度が低下し、時間t2でダンプトラック100が停止する。
【0040】
この時、グラフ5−2の破線Lcが示すように、従来例では高圧直流ライン56の実電圧Vは時間t1から上昇を始め、最大電圧Vmaxまで上昇する。この間、時間t3のts秒後の時間以降は、破線Lcにおける実電圧Vは閾値Vthより大きく(実電圧V>閾値Vth)なり、時間t3のts秒後のタイミングで、グラフ5−3の破線が示すようにチョッパ16が動作し、グリッドボックス抵抗53にて走行モータ10L、10Rが発電した電力が消費されている。
【0041】
一方、本実施形態では、パワーコントローラ51は現時点から所定時間ts秒後の高圧直流ライン56の電圧V
*を逐次算出し、一点鎖線に示すように現時点からts秒後の電圧V
*の予測を行っている(詳細は後述)。この所定時間tsとは、制動開始(t1)から、制動出力(グラフ5−1参照)の変化が線形となっている領域の近似曲線と時間軸との交点までの時間よりも短く設定される任意の時間である。
【0042】
そして、予測した電圧V
*>閾値Vthとなったとき(時間t3)にDC/DCコンバータ60がオン動作し(グラフ5−4)、高圧直流ライン56からDC/DCコンバータ60を介して補機直流ライン57に電力が供給される。そして、グリッドボックスファンモータ54は、走行モータ10L、10Rが発電した電力(回生電力)により駆動される。その結果、補助発電機13の出力はほぼ0になる。これにより、実線Liの様に高圧直流ライン56の電圧の上昇が、従来例の電圧上昇(破線Lc)よりも緩やかになり、グラフ5−3に示すように、チョッパ16の動作が従来例に比べて時間tcだけ遅くなる。
【0043】
よって、本実施形態では、グリッドボックス抵抗53での電力消費時間が短縮され、補機であるグリッドボックスファンモータ54の動作時間が長くなる。また、DC/DCコンバータ60は一度動作した後は走行モータ10L、10Rによる制動動作が終了するまで動作し続ける。これにより、DC/DCコンバータ60は時間t3から時間t2までグリッドボックスファンモータ54に電力を供給するので、補助発電機13ひいてはエンジン11の負荷を、グラフ5−5の斜線領域の面積、すなわち、(グリッドボックスファン必要動力)×(t2−t3)だけ低減でき、燃費改善することができる。
【0044】
(電圧V
*の推定方法)
次に
図6を用いて電圧V
*の推定方法について説明する。
図6は電圧V
*の推定方法を説明するための図である。まず、電圧推定部103では、車体の走行状態、例えば走行モータ10L、10Rの出力トルクTL、TRおよび回転数ωL、ωRと、電圧計55にて出力された実電圧Vとを逐次取得する。そして、取得された出力トルクTL、TR、回転数ωL、ωR,実電圧Vから、高圧直流ライン56の電圧の変化の傾向を予測する。ある所定速度で走行しているときに時間t1でブレーキが踏まれ、ブレーキ信号が大きくなると、速度を落とすために走行モータ10L、10Rの出力トルクは負の方向へ大きくなっていき、その分、高圧直流ライン56の電圧も上昇する。
【0045】
その時、電圧推定部103は走行モータ10L、10Rの出力トルクを保存しておき、今の出力トルクT2とある時間Δt前の出力トルクT1とから、式(1)を用いて、所定時間ts秒後のトルクTsを推定する。
Ts=(T2−T1)/Δt×ts+T2 ・・・(1)
【0046】
また、同様に電圧推定部103は走行モータ10L、10Rの回転数も保存しておき、今の回転数ω2とある時間Δt前の回転数ω1とから、式(2)を用いて、所定時間ts秒後の回転数ωsを推定する。
ωs=(ω2−ω1)/Δt×ts+ω2 ・・・(2)
【0047】
この所定時間ts秒後のトルクTsと回転数ωsとから、電圧推定部103は、式(3)を用いて、所定時間ts秒後の走行モータ10L、10Rのモータ出力Pmsを算出する。
Pms=Ts×ωs ・・・(3)
【0048】
また、同様に現在のトルクT2と回転数ω2とから、電圧推定部103は、式(4)を用いて、現在の走行モータ10L、10Rのモータ出力Pmを算出する。
Pm=T2×ω2 ・・・(4)
【0049】
電圧推定部103は、これらのモータ出力Pmと発電効率ηeとから、式(5)、(6)を用いて、それぞれの走行モータ10L、10Rの発電量Pes、Peを算出する。
Pe=Pm×ηe ・・・(5)
Pes=Pms×ηe ・・・(6)
【0050】
ここで、発電効率ηeは走行モータ10L、10Rの仕様と使用状況、例えば入力電圧、周波数、入力電流、により決まる値であり、予めテーブルの形で記憶しておき、使用状況ごとにテーブルを参照して各発電量を求める。電圧推定部103は、走行モータ発電量Pe、Pesを算出する式(5)、(6)を左右の走行モータ10L、10Rに適用し、それぞれの発電量PesL、PesR、PeL、PeRを算出する。
【0051】
電圧推定部103は、これらの走行モータ10L、10Rの発電量PesL、PesR、PeL、PeRと、高圧直流ライン56の静電容量Cと、電圧計55からの実電圧Vとから、式(7)を用いて、時間ts後の高圧直流ライン56の電圧V
*を推定する。
V
*={(PesL+PesR+PeL+PeR)/2×ts/C+V
2}
0.5・・・(7)
【0052】
以上より、車体の状態から高圧直流ライン56の電圧の変化の傾向を導出し、所定時間ts後の電圧V
*を推定することができ、これによりチョッパ16が駆動する前にDC/DCコンバータ60を動かすことができる。よって、走行モータ10L、10Rで発電した電力をグリッドボックス抵抗53で消費する前にグリッドボックスファン(補機)19に供給することができ、高圧直流ライン56の電圧上昇を低減することでグリッドボックス抵抗53の動作を遅らせ、より長くグリッドボックスファン19に電力を供給することができる。これにより、グリッドボックスファン19を駆動するための電力を発電していた補助発電機13の出力低減、補助発電機13を駆動するエンジン11の出力低減を行うことができ、燃費を低減することができる。
【0053】
(第1実施形態の変形例)
次に、DC/DCコンバータの制御処理の変形例について説明する。
図7はDC/DCコンバータの制御処理の手順の変形例を示すフローチャートである。
図7に示すように、変形例に係るDC/DCコンバータの制御処理では、ステップS5の後にステップS5−1、ステップS5−2の処理を
図4に示す処理に対して追加している。
【0054】
具体的には、ステップS5−1において、電圧推定部103は、現在の車体の走行状態(トルクと回転数)を取得する。次いで、ステップS5−2において、ステップS2と同様に走行状態判定部102にて走行モータ10L、10Rにより発電が行われているか判定し、走行モータ10L、10Rにより発電が行われている場合(S5−2/Yes)、ステップS5に戻り、DC/DCコンバータ60へ制御指令の出力を継続する。一方、走行モータ10L、10Rにより発電が行われていない場合(S5−2/No)、一連の動作を終了する。
【0055】
これらの処理を追加することで、走行モータ10L、10Rの回生動作が続いている間はDC/DCコンバータ60への制御指令の出力および回生動作が続いているかどうかの判定のみを繰り返し行うことになり、電圧V
*の推定(S3)、電圧V
*と閾値Vthとの比較の処理(S4)を省略することができ、制御速度の向上が図れる。
【0056】
「第2実施形態」
次に、本発明の第2実施形態について説明する。第2実施形態では、電圧V
*の推定方法が第1実施形態と相違する。以下、この相違点について説明する。
図8は第2実施形態における電圧V
*の推定方法の手順を示すフローチャートである。第2実施形態では、電圧推定部103は、所定時間ts秒後の発電量Pesを用いずに電圧V
*を算出することにより、計算負荷を軽減している点が第1実施形態における電圧V
*の推定方法と異なる。
【0057】
図8に示すように、処理が開始されると、ステップS61−1において、電圧推定部103は、逐次取得した車体情報、例えば走行モータ10L、10RのトルクTL、TRと回転数ωL、ωRとから、以下の式(8)を用いて走行モータ10L、10Rの出力PmL、PmRを計算する。
PmL=TL×ωL(PmR=TR×ωR) ・・・(8)
【0058】
ステップS62−1において、走行モータ10L、10Rの出力PmL、PmRと発電効率ηeとから、電圧推定部103は、以下の式(9)を用いて走行モータ10L、10Rの発電量PeL、PeRを計算する。
PeL=PmL×ηe(PeR=PmR×ηe) ・・・(9)
【0059】
ステップS63において、電圧推定部103は、走行モータ10L、10Rの発電量PeL、PeRと、外乱Plと、高圧直流ライン56の静電容量Cと、電圧計55から出力された実電圧Vとから、式(10)を用いて、所定時間ts秒後に高圧直流ライン用インバータ15L、15Rに入力される電圧V
*を推定する。なお、外乱Plは高圧直流ライン56に接続される走行モータ10L、10Rおよびグリッドボックス抵抗53以外の負荷の駆動に必要な電力を指す。
V
*={(PeL+PeR−Pl)×ts/C+V
2}
0.5 ・・・(10)
【0060】
このように、第2実施形態によれば、第1実施形態と同様の作用効果を奏するうえ、第1実施形態と比べて電圧V
*を推定する際のパワーコントローラ51の計算負荷を軽減できる利点がある。
【0061】
「第3実施形態」
次に、本発明の第3実施形態について説明する。第3実施形態では、電圧V
*の推定方法が第1実施形態および第2実施形態と相違する。以下、この相違点について説明する。
図9は第3実施形態における電圧V
*の推定方法の手順を示すフローチャートである。第3実施形態では、電圧推定部103は、トルクTL、TRを用いた走行モータ10L、10Rの出力PmL、PmRの計算のステップを省いて、走行モータの回転数ωL、ωRとブレーキ信号とルックアップテーブルLUTとから、走行モータ10L、10Rの発電量PeL、PeRを求めており、第2実施形態よりもさらに計算負荷が軽減されている。
【0062】
具体的には、
図9に示すように、電圧推定部103は、ステップS61−2において、逐次取得した車体情報、例えば走行モータ10L、10Rの回転数ωL、ωRの絶対値とブレーキ信号とから、あらかじめ保存されていたルックアップテーブルLUTを参照して、走行モータ10L、10Rの発電量PeL、PeRを求める。なお、ルックアップテーブルLUTは、パワーコントローラ51内の記憶装置52に予め記憶されている(
図2参照)。
【0063】
図10は、第3実施形態おいて電圧V
*を推定する際に用いられるルックアップテーブルを示す図である。
図10に示すように、ルックアップテーブルLUTは、走行モータ10L、10Rの回転数と、ブレーキ信号と、走行モータ10L、10Rの発電量との関係が規定されている。
図10において、横軸に走行モータ10L、10Rの回転数の絶対値、縦軸に走行モータ10L、10Rの発電量を示し、線種でブレーキ信号ごとの違いを表している。ルックアップテーブルLUTは走行モータ10L、10Rの出力特性と、制御特性から作成されるものであり、走行モータ10L、10Rと制御仕様が決まると作成することができる。
【0064】
次いで、電圧推定部103は、第2実施形態と同様にステップS62において、式(11)を用いて、所定時間ts秒後に高圧直流ライン用インバータ15L、15Rに入力される電圧V
*を算出する。
V
*={(PeL+PeR−Pl)×ts/C+V
2}
0.5 ・・・(11)
【0065】
このように、第3実施形態においては、第2実施形態と同様の作用効果を奏することに加えて、走行モータ10L、10Rの回転数とブレーキ信号とに基づいて、ルックアップテーブルLUTから発電量を求めることにより、必要なセンサおよび処理が少なくなり、制御応答性がよくなる。
【0066】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【0067】
例えば、上記実施形態では、走行モータ10L、10Rにより回生動作の有無を判定するために、走行モータ10L、10Rの回転数とトルクを使用しているが、これに限るものではなく、走行モータ10L、10Rの回転数とブレーキ信号とにより回生動作の有無を判定しても良い。また、各実施形態においてはDC/DCコンバータ60から電力を供給する先をグリッドボックスファンモータ54としたが、これに限るものではなく、その他の補機に電力を供給するために使用しても良いし、複数の補機に電力を供給しても良い。