特許第6738504号(P6738504)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6738504-溶接用分割型コンタクトチップ 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6738504
(24)【登録日】2020年7月21日
(45)【発行日】2020年8月12日
(54)【発明の名称】溶接用分割型コンタクトチップ
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/26 20060101AFI20200730BHJP
【FI】
   B23K9/26 D
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2020-16675(P2020-16675)
(22)【出願日】2020年2月4日
【審査請求日】2020年2月4日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000127891
【氏名又は名称】株式会社エスエムケイ
(74)【代理人】
【識別番号】100103126
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 修
(72)【発明者】
【氏名】日高 勝人
【審査官】 柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2019/020211(WO,A1)
【文献】 再公表特許第97/012715(JP,A1)
【文献】 特開2001−121263(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チップ本体とチップ先端部に分割され、両者が雄ネジと雌ネジの螺合構造によって結合・分離自在にされる溶接用コンタクトチップであって、前記雄ネジと雌ネジは、テーパネジであるとともに、雄ネジの先端の所定範囲にはネジ部が形成されず且つ最先端部の径は小径の逃げ部として形成されることを特徴とする溶接用分割型コンタクトチップ。
【請求項2】
前記雄ネジと雌ネジのテーパネジのテーパの度合いは、1/3〜1/50であることを特徴とする請求項1記載の溶接用分割型コンタクトチップ。
【請求項3】
前記雄ネジ先端面と雌ネジ底面との間隔は、0〜2.0mmであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の溶接用分割型コンタクトチップ。
【請求項4】
前記チップ先端部の材質は、クロム銅、ジルコニウムクロム銅、シリコン入りジルコニウムクロム銅、ベリリウム銅などの銅を含む銅合金、アルミナ系銅合金、レアアース系銅合金、また、銀タングステン、銅タングステンのいずれかであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の溶接用分割型コンタクトチップ。
【請求項5】
前記チップ先端部の頭部の形状が多角形または数面の面取りを行っている場合、前記頭部のネジ部側の端面にフランジ部が形成されることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の溶接用分割型コンタクトチップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アーク溶接に用いられる分割型のコンタクトチップの改良技術に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、アーク溶接に用いられるコンタクトチップとして、溶接時に高温に晒されて損耗が激しくしかもワイヤ挿通孔の形状が真円から変形しやすいチップ先端部と、比較的耐久性に富むチップ本体に分割し、これらをネジの螺合構造によって結合・分離自在にすることにより、使用中、チップ先端部が損耗したり変形したような場合に、継続して使用可能なチップ本体を残してチップ先端部だけを交換して溶接作業を継続できるような技術を提案している。(例えば、特許文献1参照。)
そして、この技術では、図3(a)に示すように、チップ本体2の結合端側の中心部に雌ネジ2n孔を形成するとともに、チップ先端部3に、頭部3tに連なる雄ネジ3nを形成し、雄ネジ3nと雌ネジ2nを螺合自在にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3075745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記のような分割型のコンタクトチップにおいて、図3(a)に示すチップ先端部3とチップ本体2を螺合させる際、図3(b)に示すようにチップ先端部3のワイヤ挿通孔3wと、チップ本体2のワイヤ挿通孔2wの中心軸がずれ、段差αが生じることがあった。また、図3(c)に示すように、チップ本体2の雌ネジ2n孔の底面のコーナ部にC面部cが発生して底面一杯まで雌ネジ2nが形成されないため、雄ネジ3nの先端面と雌ネジ2n孔の底面との間の隙間βが生じ、ワイヤ挿通孔2w、3wを通して送給されるワイヤ表面のメッキ等が剥がれ落ちて隙間βにカス等が溜まる等の問題もあった。更に、場合によっては、図3(d)に示すように、チップ先端部3の頭部3t底面とチップ本体2の結合端面との間に隙間γを生じることもあった。
【0005】
そして、図3(b)に示すようにワイヤ挿通孔2w、3wの段差αが生じると、ワイヤ挿通孔2w、3wに溶接用ワイヤを挿通させワイヤを送り込むような際、ワイヤが段差部に引っかかって挿通させるのが困難になったり、送り込み時等に溶接ワイヤ表面のメッキ等が段差部によって削り落とされてカス等が発生しやすくなる等の問題があり、図3(c)に示すように、雄ネジ3nの先端面と雌ネジ2n孔の底面との間の隙間βが大きくなると、これにカスが溜まってワイヤの送給がスムーズに行われなくなったり、通電時にスパーク等が発生したりする等の不具合を招きやすくなり、また、図3(d)に示すようにチップ先端部3の頭部3t底面とチップ本体の結合端面との間に隙間γを生じると、チップ本体2とチップ先端部3との間の伝熱性が低下してチップ先端部3の冷却不足になって耐久性が悪くなったり、チップ本体2とチップ先端部3との間の通電性が低下して溶接品質を低下させたりするような不具合を増幅させるという問題があった。
【0006】
そこで本発明は、チップ先端部とチップ本体とを螺合させる場合、両者の芯ずれを防止することにより段差αの発生を防止し、また、チップ先端部3とチップ本体2の密着性を向上させることにより、伝熱性に基づく冷却性の向上や、通電性等の機能向上等を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明は、チップ本体とチップ先端部に分割され、両者が雄ネジと雌ネジの螺合構造によって結合・分離自在にされる溶接用コンタクトチップにおいて、前記雄ネジと雌ネジをテーパネジにするとともに、雄ネジの先端の所定範囲にはネジ部を形成せず且つ最先端部の径を小径の逃げ部として形成した。
【0008】
このように、雄ネジと雌ネジをテーパネジにすることにより、両者の芯ずれを極めて効果的に防止することができ、しかも、雄ネジと雌ネジのネジ部同士の密着性が高まるため、通電性や伝熱性や冷却性等が向上し、耐久性向上にも資することができる。
ここで、テーパネジとは、雄ネジの場合、先端側に向けて径が狭まる先細りの形状となり、雌ネジの場合、溝の奥に向けて径が狭まる形状のネジである。
【0009】
この際、前記雄ネジの先端の所定範囲にはネジ部を形成せず且つ最先端部の径が小径の逃げ部を形成するようにしている。
ここで、本来、チップ先端部とチップ本体を螺合させる際、雄ネジの先端面と雌ネジ底面との間隔は、可能な限り狭くすることが、隙間に溶接ワイヤのカス等が溜まることによる不具合を是正する点から望ましく、しかも可能ならばゼロにすることが両者の接触面積増大の観点から好ましいが、雌ネジの加工において、底面のコーナ部にC面が生じるため、雌ネジの底面まで雌ネジを加工することはできない。このため、雄ネジの先端部まで雄ネジを形成すると、雌ネジの底面と雄ネジの先端面との間に必然的に隙間が生じることになる。このため、雄ネジの先端の所定範囲にはネジ部を形成せず且つ最先端部の径が小径の逃げ部を形成することで、雌ネジの底面と雄ネジの先端面との間の隙間を少なくすることができる。
【0010】
また、前記雄ネジと雌ネジのテーパネジのテーパの度合いは、1/3〜1/50にすることが好ましい。
ここで、テーパの度合いが1/3を超えるような急な角度であれば、ネジの締め付けが困難となり、1/50以下の角度の場合は、平行ネジに近くなって芯ずれ防止の効果や、雄ネジと雌ネジのネジ部同士の密着性向上に効果に限界が生じる。このため、テーパの度合いを、1/3〜1/50にするが、そのうちでも、特に1/5〜1/30程度の範囲の傾斜度合いが、芯ずれ防止やチップ先端部の耐久性向上等の観点から好ましい。
【0011】
この際、前記雄ネジ先端面と雌ネジ底面との間隔を、0〜2mmにすることが好ましい。
ここで、雄ネジ先端面と雌ネジ底面との間隔を0にする場合、大きな接触圧がかからないようにすることが好ましい。すなわち、同部に大きな接触圧が加わると、チップ先端部の頭部底面とチップ本体の結合端面との間の隙間γが大きくなる可能性があり、その結果、チップ本体とチップ先端部との全体の接触面積が少なくなる。このため、本発明では、図3(d)に示す隙間γを完全に無くして同部を密着させるようにするが、仮に隙間が生じる場合でも所定値(2mm)以下にすることにより、雄ネジ先端と雌ネジ底面との隙間に溶接ワイヤのカス等がその間に入り込んで各種不具合を招くのを防止することができる。
【0012】
また、本発明では、前記チップ先端部の材質を、クロム銅、ジルコニウムクロム銅、シリコン入りジルコニウムクロム銅、ベリリウム銅などの銅を含む銅合金、アルミナ系銅合金、レアアース系銅合金、また、銀タングステン、銅タングステンのいずれかにした。
このような材質にすることで、チップ先端部の耐久性向上を図ることができる。
【0013】
また本発明では、前記チップ先端部の頭部の形状が多角形または数面の面取りを行っている場合、前記頭部のネジ部側の端面にフランジ部を形成するようにした。
このように、チップ先端部の頭部の形状が多角形または数面の面取りを行っている場合、頭部のネジ部側の端面にフランジ部を形成することにより、チップ本体に接触するチップ先端部の接触面積が増え、通電性や伝熱性や冷却性等の性能が向上する。
【発明の効果】
【0014】
チップ本体とチップ先端部に分割し、これらを螺合構造によって結合・分離自在にしたアーク溶接用のコンタクトチップにおいて、雄ネジと雌ネジの螺合構造としてテーパネジを採用することにより、両者の芯ずれを極めて効果的に防止することができ、しかも、雄ネジと雌ネジのネジ部同士の密着性が高まるため、伝熱性に基づく冷却性や通電性等の機能が向上し、特にチップ先端部の耐久性向上を図ることができる。また、雄ネジの先端の所定範囲にネジ部でない小径の逃げ部を設けることにより、雄ネジ先端面と雌ネジ底面との間隔を狭めることができ、また雄ネジ先端面と雌ネジ底面との間隔を所定範囲以下にすることにより、溶接ワイヤのカス等がその隙間に入り込んで各種不具合を招くのを防止することができる。
また、チップ先端部の材質を特定なものにすることでチップ先端部の耐久性向上を図ることができ、チップ先端部の頭部の形状が多角形または数面の面取りを行っている場合、頭部のネジ部側の端面にフランジ部を形成することにより、伝熱性に基づく冷却性や通電性の向上等を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る溶接用分割型コンタクトチップであり、(a)は分割時、(b)は結合一体化した時の説明図である。
図2】チップ先端部の説明図であり、(a)は側面図、(b)は正面図、(c)は断面図である。
図3】従来の構造を示し、(a)は分割時の状態、(b)はワイヤ挿通孔に段差が生じる不具合、(c)は雄ネジ先端と雌ネジ底面との間に隙間が生じる不具合、(d)はチップ先端部の頭部底面とチップ本体の端面との間に隙間が生じる不具合を説明するための説明図である。
図4】芯ずれの試験における芯ずれ誤差を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態について添付した図面に基づき説明する。
本発明に係る溶接用分割型コンタクトチップ1は、雄ネジと雌ネジの螺合構造によってチップ本体2とチップ先端部3とが結合・分離自在にされる溶接用コンタクトチップの改良技術であり、組み付け時のチップ本体2とチップ先端部3の芯ずれを防止すると同時に、両者の密着度を高めることで、伝熱性に基づく冷却性や通電性等の機能を効率的に向上させることができるようにしている。
【0017】
本溶接用分割型コンタクトチップ1は、図1(a)に示すように、チップ本体2とチップ先端部3に二分割され、チップ本体2側にはテーパ状の雌ネジ2n孔が形成されるとともに、チップ先端部3側には、テーパ状の雄ネジ3nが形成されており、これらテーパ状の雄ネジ3nと雌ネジ2nは螺合自在にされている。
そして、溶接作業中、特に高熱に晒されて損耗度の激しいチップ先端部3が損耗しても、チップ本体2の耐久性は十分であるため、チップ先端部3だけを交換して溶接作業を継続できるようにし、コスト削減等を図っている。
【0018】
また、これらチップ本体2とチップ先端部3には、それぞれワイヤ挿通孔2w、3wが設けられており、図1(b)に示すように、雄ネジ3nと雌ネジ2nを螺合させて結合すると、ワイヤ挿通孔2w、3wが一直線に繋がって、挿通される溶接用ワイヤがワイヤ挿通孔2w、3wを通して送給されるようになっている。このため、このワイヤ挿通孔2w、3wの連通は、途中に段差が生じたりすることなく、中心軸が綺麗に一致して組み付けられることが望ましい。
【0019】
そこで本発明では、チップ先端部3とチップ本体2を結合するにあたり、テーパネジを採用している。これは、ネジ結合方式の代わりにテーパ結合方式を採用してテーパ部を挿し込むだけで結合するようにした場合、チップ先端部とチップ本体のそれぞれのワイヤ挿通孔の芯ずれは発生しないという知見に基づいて見出された技術であり、テーパ結合方式だけでは結合力が弱いためテーパ結合方式に加えてネジ結合方式を合わせて採用したものである。
【0020】
なお、テーパネジのテーパの傾斜の度合いとしては1/3〜1/50の傾斜のものが適用可能である。この範囲にしている理由は、1/3を超える急な傾斜ではネジの締め付けが困難になり、1/50より小さい傾斜では、平行ネジに較べて芯だし効果やネジ部の密着性向上等の効果があまり期待できないからである。
【0021】
また、テーパネジにすることにより、締め付けた際の雄ネジ3nと雌ネジ2nのネジ部同士間の密着度が高まり、伝熱性に基づく冷却性や通電性の向上等に資することができる。
【0022】
また、雄ネジ3nの先端の所定範囲には、ネジ部が形成されず且つ最先端部の径が小径の逃げ部pが形成されており、これにより雄ネジ3nの先端面と雌ネジ2n孔の底面との間の隙間が狭まるようにされている。これは、前記したように、雌ネジ2nを加工する際、ネジ穴の底面のコーナ部にC面が生じて雌ネジ2n孔の底面まで確実に雌ネジを加工することができず、仮に雄ネジ3nの先端部まで雄ネジ3nを形成すると、雌ネジ2n孔の底面と雄ネジ3nの先端面との間に必然的に隙間を生じることになるからである。
【0023】
そこで本発明では、雄ネジ3nの先端の所定範囲に、ネジ部を形成せず且つ最先端部の径が小径となる逃げ部pを形成することで、両者を螺合させた際、チップ先端部3の雄ネジ3nの先端面がほぼチップ本体2の雌ネジ2n孔の底面に接触すると同時に、同部の隙間がゼロ付近になるようにし、仮にチップ本体2の雌ネジ2n孔の底面と、チップ先端部3の雄ネジ3n先端面との間に隙間βが生じる場合でも、この隙間βが0〜2.0mm以内に収まるようにしている。
【0024】
すなわち、雄ネジ3の先端面と雌ネジ2n孔の底面との間に接触圧が加わるということは、逆にチップ先端部3の頭部3t底面とチップ本体2の結合端面との間に隙間γが生じる可能性があるということであり、結果的にチップ本体2とチップ先端部3との総合的な接触面積が少なくなって、通電性や伝熱性に基づく冷却性等が劣る結果になるからであり、本発明の理想の形態としては、両者を接触させた(β=0の場合)うえ、同部の接触圧をゼロ付近にし、同時に、チップ先端部3の頭部3t底面とチップ本体2の結合端面との間を密着させる形態である。
【0025】
また、上記のように、雄ネジ3の先端面と雌ネジ2n孔の底面との隙間βを所定値以下にする構成により、隙間βに、溶接ワイヤ表面から剥がれ落ちたカス等が溜まるのを防止し、溶接ワイヤの送給をスムーズに行わせると同時に、通電時にスパーク等が発生するような不具合を防止することができる。
【0026】
なお、雄ネジ3n先端の逃げ部pの構成として、図2(a)に示すように、段付きで小径となる逃げ部としてもよいが先端に向けて先細りのテーパ状に小径となる逃げ部としてもよく、最先端部の径が雌ネジ孔底面のコーナ部のC面に干渉しない程度の径であればよい。
【0027】
ところで、本実施例では、図2(b)に示すように、チップ先端部3の頭部3tの形状が六角形であり、チップ本体2に対してチップ先端部3を取り付けたり、取り外したりする際に、六角レンチ等を使用して容易に作業できるようにしているが、頭部3tの基端部(雄ネジ寄りの端部)側に、断面円形のフランジ部fを形成している。
【0028】
このように同部にフランジ部fを形成することにより、頭部3tの形状が六角形状であってもチップ先端部3とチップ本体2との接触面積が大きくなり、伝熱性に基づく冷却性や通電性の向上等によって耐久性向上を図ることができる。
なお、このようなフランジ部fとしては、頭部3tが六角形状であるときだけでなく、二面取りやその他の多面取りのような面取りを行った頭部3t等に対して適用することができ、有効である。
【0029】
因みに、本実施例では、図2(c)に示すように、チップ先端部3の頭部3tの底面のうち、雄ネジ3nが形成されているネジ部の付け根付近の周縁部に切り込み凹部uを設けており、雄ネジ3nが頭部3tの底面のラインまで一杯にできるようにしている。これは、かかる切り込み凹部uを形成することで、雄ネジ3nを頭部3tの底面のライン延長まで形成することが可能となり、その結果、チップ先端部3とチップ本体2を螺合させる際に、チップ先端部3の頭部3t底面とチップ本体2の接合端面とを確実に密着させることができるからである。
【0030】
また、チップ先端部の材質としては、クロム銅、ジルコニウムクロム銅、シリコン入りジルコニウムクロム銅、ベリリウム銅などの銅を含む銅合金、アルミナ系銅合金、レアアース系銅合金、また、銀タングステン、銅タングステンのいずれかにすることにより、耐久性の向上を図ることができるようにしている。
【0031】
以上のような構成による溶接用分割型コンタクトチップ1のチップ本体2とチップ先端部3とを結合した状態における芯ずれ防止と、耐久性向上の効果について試験した結果について説明する。
まず、芯ずれ防止の結果から説明すると、従来の構造(図3の構造)の平行ネジを比較例とすると、従来の構造の平行ネジの場合、芯ずれの最大値(図4に示すx)が0.1mm以上のものが、100件中95件(95%)発生していたが、本発明のテーパネジの場合は、100件中0件(0%)であった。
また、テーパの傾斜の度合いが1/3〜1/50の範囲のものは、いずれも従来より効果的であることが確認されており、そのうちでも特に1/5〜1/30の範囲のものが優れた効果を発揮することが確認されている。
このことから、テーパネジによる芯ずれ防止は極めて有効であることが確認された。
【0032】
次に、図1に示す本発明の構造のコンタクトチップと、従来の構造(図3の構造)のコンタクトチップについて、チップ先端部の材質をクロム銅にして耐久性について試験した結果、従来の構造の場合、チップ先端部の交換頻度が50cmのワーク200本の溶接作業において、溶接作業10に1回であったが、本発明の場合の交換頻度は、50cmのワーク200本の溶接作業において、溶接作業22回に1回となり、耐久性の向上が認められた。また、溶接品質も従来の場合は2000件中22件(1.1%)の不具合の発生であったが、本発明の場合は、4400件中3件(0.07%)の不具合の発生であった。この耐久性の向上は、テーパネジであることによるネジ部同士の密着度の向上の他、チップ先端部3とチップ本体2との総合的な接触面積の増大に伴う冷却性や通電性の向上等の相乗的な効果によるものと考えられる。
【0033】
以上のような試験結果からも本発明の有効性が確認された。
【0034】
なお、本発明は以上のような実施形態に限定されるものではない。本発明の特許請求の範囲に記載した事項と実質的に同一であり、同一の作用効果を奏するものは本発明の技術的範囲に属する。例えば、チップ先端部の頭部の形状等は任意である。
【産業上の利用可能性】
【0035】
チップ先端部とチップ本体とが螺合式に結合自在にされるアーク溶接用の分割型コンタクトチップにおいて、結合時の飛躍的な芯ずれ防止や、耐久性向上等が図られるため、溶接分野における今後の広い普及が期待される。
【符号の説明】
【0036】
1…溶接用分割型コンタクトチップ、2…チップ本体、2n…雌ネジ、2w…ワイヤ挿通孔、3…チップ先端部、3t…頭部、3n…雄ネジ、3w…ワイヤ挿通孔、f…フランジ部、p…逃げ部。
【要約】
【課題】 チップ本体とチップ先端部に分割されたアーク溶接用コンタクトチップにおいて、チップ先端部とチップ本体とを螺合させる場合、両者の芯ずれを防止すると同時に、両者の密着性を向上させる。
【解決手段】 チップ先端部3の雄ネジ3nと、チップ本体2の雌ネジ2nをテーパネジとし、また、チップ先端部3の雄ネジ3nの先端部の所定範囲にネジ部が形成されず且つ最先端部の径が小径の逃げ部pを形成する。また、雄ネジ3nと雌ネジ2nを螺合させた結合時に、雄ネジ3n先端面と雌ネジ2n底面とが軽く接触するようにし、隙間が生じる場合でも間隔が2.0mm以下になるようにする。
【選択図】 図1
図1
図2
図3
図4