特許第6738552号(P6738552)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6738552
(24)【登録日】2020年7月22日
(45)【発行日】2020年8月12日
(54)【発明の名称】苗移植機
(51)【国際特許分類】
   A01C 11/02 20060101AFI20200730BHJP
   A01B 63/10 20060101ALI20200730BHJP
   F16H 59/66 20060101ALI20200730BHJP
   F16H 61/02 20060101ALI20200730BHJP
   F16H 61/66 20060101ALI20200730BHJP
   F16H 61/439 20100101ALI20200730BHJP
【FI】
   A01C11/02 320A
   A01B63/10 E
   A01C11/02 313C
   F16H59/66
   F16H61/02
   F16H61/66
   F16H61/439
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-231347(P2015-231347)
(22)【出願日】2015年11月27日
(65)【公開番号】特開2017-93388(P2017-93388A)
(43)【公開日】2017年6月1日
【審査請求日】2018年4月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000125
【氏名又は名称】井関農機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078031
【弁理士】
【氏名又は名称】大石 皓一
(74)【代理人】
【識別番号】100077779
【弁理士】
【氏名又は名称】牧 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100078260
【弁理士】
【氏名又は名称】牧 レイ子
(74)【代理人】
【識別番号】100200942
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 高史
(72)【発明者】
【氏名】堀田 直岐
(72)【発明者】
【氏名】福井 享
(72)【発明者】
【氏名】村上 徹司
(72)【発明者】
【氏名】山口 信
【審査官】 小島 洋志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−232807(JP,A)
【文献】 特開2001−078517(JP,A)
【文献】 特開2012−044897(JP,A)
【文献】 特開平08−331940(JP,A)
【文献】 特開2008−273249(JP,A)
【文献】 特開平03−198705(JP,A)
【文献】 特開2006−314291(JP,A)
【文献】 特開2009−138895(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01B1/00−79/02
A01C1/00−23/04
F16H1/00−63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行車体(2)の後部に昇降可能に備えた植付装置(4)と、この植付装置(4)を昇降させる昇降シリンダ(46)とを備える苗移植機において、
前記走行車体(2)の傾斜を検知する傾斜検知部材(61)を設け、この傾斜検知部材(61)が走行車体(2)の所定角度以上の傾斜を検知し、且つ所定の検知時間の継続を条件に、前記昇降シリンダ(46)を作動させて所定の安定高さ位置まで前記植付装置(4)を下降制御する構成とし、
さらに、前記昇降シリンダ(46)により回動して前記植付装置(4)を昇降させる昇降リンク機構(3)と、前記昇降リンク機構(3)の回動角度を検知するリンクセンサ(3s)と、前記植付装置(4)の下部に回動自在に支持して圃場面に接地する整地用のフロート(55)と、前記フロート(55)の回動角度を検知するフロートセンサ(55s)とを設け、
前記フロート(55)の上昇回動時に前記リンクセンサ(3s)によって前記昇降リンク機構(3)の上昇前の回動角度を記録するとともに、
前記フロートセンサ(55s)の検知角度が所定値以上のとき、前記昇降シリンダ(46)の作動速度を減速して前記植付装置(4)を上昇制御し、その後、前記フロートセンサ(55s)の検知角度が所定値未満になると、前記昇降シリンダ(46)の作動速度を加速して前記植付装置(4)を下降制御し、
前記植付装置(4)の上昇前に前記リンクセンサ(3s)によって記録された前記昇降リンク機構(3)の前記上昇前の回動角度に対応する位置まで前記昇降リンク機構(3)を下方回動させる構成としたことを特徴とし、さらに、
前記走行車体(2)の走行速度を増減制御可能な変速伝動装置(23)を設け、前記傾斜検知部材(61)による前記検知により、安定走行が可能とされる所定の走行速度に減速制御することを特徴とし、さらに、
前記走行車体(2)の車体フレーム(15)の左右後部に設けた後輪伝動ケース(18)を介して伝動可能に後輪(11)を軸支し、前記車体フレーム(15)の左右方向中央部で、且つ左右の後輪車軸(11a,11a)の軸線に接近させて前記傾斜検知部材(61)を配置することを特徴とし、
前記傾斜検知部材(61)による前記検知によって作動する報知装置を設け、運転席の前方で警告ランプが点灯するように発報することを特徴とする苗移植機。
【請求項2】
前記走行車体(2)に、原動部(20)から受ける走行動力を走行停止の中立から前後進走行の車速範囲で無段変速伝動する変速伝動装置(23)と、この変速伝動装置(23)をレバー位置によって変速指示する変速操作レバー(24)と、この変速操作レバー(24)のレバー位置に応じて前記変速伝動装置(23)を変速制御する変速制御装置とを備え、この変速制御装置は、前記変速操作レバー(24)が走行車速位置から中立停止位置に操作されたときに、前記変速伝動装置(23)を機体が動作しない程度の微速逆走を前後交互に複数回繰り返し行うよう制御した後に中立停止に変速制御することを特徴とする請求項1に記載の苗移植機。
【請求項3】
前記変速制御装置は、前記原動部(20)の始動時に、前記変速伝動装置(23)を機体が動作しない程度の微速走行制御を前後交互に繰り返した後に中立に変速制御することを特徴とする請求項2に記載の苗移植機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行機体の後部に昇降自在に植付装置を備えて、圃場における植付作業走行および圃場間の移動走行を可能とする苗移植機に関する。
【背景技術】
【0002】
先行特許文献1に示す苗移植機は、昇降自在な植付装置を備え、フロートの回動角度の変化により圃場面の深さが変化すると、自動的に昇降制御が行われる機構を備えている。また、フロートの回動角度により、変速装置の作動を規制して所要の植付深さの苗移植走行を可能とする機構を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−84673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の苗移植機は、圃場の出入口等、植付装置を上昇させて走行する場所で、走行車体が左右方向に傾斜した場合に、重心を低く調節したり、走行速度を低下させる等によるバランスを取る制御は行われないので、走行姿勢が不安定になり、圃場の出入りに余分な時間を費やす問題がある。
また、走行車体の左右方向の傾斜が過大な場合は、圃場の出入りをやり直す必要があり、さらに余計な時間を費やす問題がある。
【0005】
本発明の目的は、機体の左右傾斜によっても安定した移動走行を可能とすることにより、植付け作業を効率よく進めることができる苗移植機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項に係る発明は、走行車体(2)の後部に昇降可能に備えた植付装置(4)と、この植付装置(4)を昇降させる昇降シリンダ(46)とを備える苗移植機において、
前記走行車体(2)の傾斜を検知する傾斜検知部材(61)を設け、この傾斜検知部材(61)が走行車体(2)の所定角度以上の傾斜を検知し、且つ所定の検知時間の継続を条件に、前記昇降シリンダ(46)を作動させて所定の安定高さ位置まで前記植付装置(4)を下降制御する構成とし、
さらに、前記昇降シリンダ(46)により回動して前記植付装置(4)を昇降させる昇降リンク機構(3)と、前記昇降リンク機構(3)の回動角度を検知するリンクセンサ(3s)と、前記植付装置(4)の下部に回動自在に支持して圃場面に接地する整地用のフロート(55)と、前記フロート(55)の回動角度を検知するフロートセンサ(55s)とを設け、
前記フロート(55)の上昇回動時に前記リンクセンサ(3s)によって前記昇降リンク機構(3)の上昇前の回動角度を記録するとともに、
前記フロートセンサ(55s)の検知角度が所定値以上のとき、前記昇降シリンダ(46)の作動速度を減速して前記植付装置(4)を上昇制御し、その後、前記フロートセンサ(55s)の検知角度が所定値未満になると、前記昇降シリンダ(46)の作動速度を加速して前記植付装置(4)を下降制御し、
前記植付装置(4)の上昇前に前記リンクセンサ(3s)によって記録された前記昇降リンク機構(3)の前記上昇前の回動角度に対応する位置まで前記昇降リンク機構(3)を下方回動させる構成としたことを特徴とし、さらに、
前記走行車体(2)の走行速度を増減制御可能な変速伝動装置(23)を設け、前記傾斜検知部材(61)による前記検知により、安定走行が可能とされる所定の走行速度に減速制御することを特徴とし、さらに、
前記走行車体(2)の車体フレーム(15)の左右後部に設けた後輪伝動ケース(18)を介して伝動可能に後輪(11)を軸支し、前記車体フレーム(15)の左右方向中央部で、且つ左右の後輪車軸(11a,11a)の軸線に接近させて前記傾斜検知部材(61)を配置することを特徴とし、
前記傾斜検知部材(61)による前記検知によって作動する報知装置を設け、運転席の前方で警告ランプが点灯するように発報することを特徴とする。
【0010】
請求項に係る発明は、請求項に係る発明において、前記走行車体(2)に、原動部(20)から受ける走行動力を走行停止の中立から前後進走行の車速範囲で無段変速伝動する変速伝動装置(23)と、この変速伝動装置(23)をレバー位置によって変速指示する変速操作レバー(24)と、この変速操作レバー(24)のレバー位置に応じて前記変速伝動装置(23)を変速制御する変速制御装置とを備え、この変速制御装置は、前記変速操作レバー(24)が走行車速位置から中立停止位置に操作されたときに、前記変速伝動装置(23)を機体が動作しない程度の微速逆走を前後交互に複数回繰り返し行うよう制御した後に中立停止に変速制御することを特徴とする。
【0011】
請求項に係る発明は、請求項に係る発明において、前記変速制御装置は、前記原動部(20)の始動時に、前記変速伝動装置(23)を機体が動作しない程度の微速走行制御を前後交互に繰り返した後に中立に変速制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明により、走行車体(2)の傾斜状態が所定時間に及ぶと植付装置(4)が安定走行が可能とされる所定高さまで自動的に下降することにより、植付装置(4)を上昇して移動走行する際の不安定状態が解消されるので、傾斜状態でも走行車体(2)の姿勢が乱れにくく、走行性が向上することから、効率よく植付け作業走行に入ることができる。加えて、フロート(55)の上昇回動時の昇降リンク機構(3)の回動角度を記録しておき、フロート(55)の上昇回動角度が所定値未満になると昇降リンク機構(3)の回動角度に対応する角度まで昇降リンク機構(3)を下方回動させることにより、圃場の凹凸を乗り越えた際に植付装置(4)を上昇前の作業高さに自動的に戻すことができるので、苗の植付精度が向上する。さらに、昇降リンク機構(3)の上方回動時の速度を遅く、また、下方回動時の速度を速くすることにより、凹凸の前後で植付装置(4)が昇降する際、植付装置(4)の過度の上昇を抑え、下降時に上昇前の作業高さに速やかに戻すことができるので、苗の植付精度が向上する。
【0013】
加えて、走行車体(2)の傾斜状態が所定時間以上続くと自動的に所定の走行速度に減速されることから、傾斜状態でも走行車体(2)の姿勢が乱れにくく、走行性が向上する。
【0014】
加えて、傾斜検知部材(61)を車体フレーム(15)の左右方向中央部で且つ後輪車軸(11a,11a)の軸線に接近させて配置したことにより、左右の後輪によって支持された機体の傾斜角度を正確に検知できるので、植付装置(4)の下降や走行速度の減速が必要なときに確実に対応することができ、走行性が向上する。
【0015】
加えて、傾斜検知部材(61)の所定の検知によって報知装置が作動することにより、作業者は、走行車体(2)の傾斜対応の安定化制御の認識に基づいて傾斜対応の走行操作をすることができるので、走行や苗の植付精度の向上が図られる。
【0016】
請求項に係る発明により、請求項に係る発明の効果に加え、変速操作レバー(24)を中立操作すると、変速制御装置が変速伝動装置(23)を微速度の逆進走行に制御してから中立停止に制御することにより、作動機構のバックラッシュ等の影響を受けることなく変速伝動装置(23)を確実に中立に制御することができるので、走行車体(2)が意図せず低速で前進または後進してしまうことが防止される。
【0017】
請求項に係る発明により、請求項に係る発明の効果に加え、原動部(20)の始動時に変速伝動装置(23)を前進または後進に微速走行制御を経てから中立に変速制御することにより、作動機構のバックラッシュ等の影響を受けることなく変速伝動装置(23)を確実に中立に保持することができるので、走行車体(2)が意図せず低速で前進または後進してしまうことが防止される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】苗移植機1は、その側面図
図2】車体フレームの平面図
図3】制御処理例1のフローチャート
図4】制御処理例2のフローチャート
図5】停車制御(a)および始動制御(b)のフローチャート
図6】リードカムの要部縦断面図
図7】フロートストッパの詳細構成図(a)およびその配置側面図(b)
図8】植付支持部の斜視図(a)とそのS―S線断面図(b)
図9】本発明の適用対象となる7条植の乗用型田植機の側面図
図10】本発明の適用対象となる7条植の乗用型田植機の平面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
上記技術思想に基づいて具体的に構成した発明の実施形態について、以下に図面に沿って詳細に説明する。なお、説明においては、機体の前進方向を基準に、前後、左右という。
【0020】
苗移植機1は、その側面図を図1に示すように、走行車体2の後部に昇降リンク機構3を介して昇降可能な植付装置4と、この植付装置4を昇降させる昇降シリンダ46とを備える。
【0021】
走行車体2には、左右の前輪10,10と左右の後輪11,11とによって走行可能に車体フレーム15を支持し、この車体フレーム15に内燃機関による原動部20と、原動部20から受けた動力を無段変速する無段変速伝動装置23を介して左右の前輪10,10と左右の後輪11,11を駆動可能に構成する。
【0022】
車体フレーム15には、その平面図を図2に示すように、走行車体2の傾斜を検知する傾斜検知部材61を設ける。詳細には、車体フレーム15の左右方向中央部で、且つ左右の後輪車軸11a,11aの軸線に接近させて傾斜検知部材61を配置する。
【0023】
走行車体2が過大に傾斜して不安定にならないように、傾斜検知部材61が走行車体2の所定角度以上の傾斜を検知し、且つ、検知継続が所定時間に及ぶことを条件に、昇降シリンダ46を作動させて別途設定による所定の安定高さ位置まで植付装置4を下降制御するように昇降制御部を構成する。
【0024】
左右の後輪11,11は、サスペンション機構がなく、また伝動ケース11b,11bも回動しないので、左右の後輪車軸11a,11aの軸線に接近させて傾斜検知部材61を配置することにより、左右の後輪11,11によって支持された機体の傾斜角度を正確に検知できるので、植付装置4の下降や走行速度の減速が必要なときに確実に対応することができ、走行性を向上することができる。
【0025】
具体的には、制御処理例1のフローチャートを図3に示すように、植付装置4を上昇した状態で移動走行中において、傾斜検知部材61による傾斜検出値について、左右方向に15°以上の傾斜を判定する第1の処理ステップ(以下において、「S1」の如く略記する。)に該当し、1秒以上の継続判定(S2)に該当したことを条件に警報音を鳴らしてオペレータに注意を促すとともに、昇降シリンダ46を伸長させて植付装置4を下降制御(S3)し、昇降リンク機構3の回動角度を検知するリンクセンサの検知角度により、植付装置4が安定可能な高さ(図示例では、300mm)になると下降を停止制御(S4)する。
【0026】
このようにして、過大な左右傾斜が継続する場合に限り、安定走行可能な高さまで植付装置4を下降する安定化制御により、移動走行時の植付装置4の上昇による不安定状態が解消されるので、傾斜状態でも走行車体2の姿勢が乱れにくく、走行性が向上することから、効率よく植付け作業走行に入ることができる。また、オペレータは、警報によって安定化制御と協調するように対処することができるので、圃場における植付け作業を円滑に進めることが可能となる。
【0027】
また、制御処理例2のフローチャートを図4に示すように、別の安定化制御として、植付装置4の下降制御の代わりに、変速伝動装置23の出力を低下させ、走行車速を安定走行可能な速度(図示例では、0.3m/s)まで減速制御(S3a,S4a)することによって、オペレータが警報に気づかなかった場合でも、機体の転倒を予防することができる。
【0028】
すなわち、変速伝動装置23には、開度を変更することで出力を増減させるトラニオン軸と、トラニオン軸をトラニオンアームを介して回動させるトラニオンモータと、トラニオンアームの回動角度を検知するトラニオンセンサと、トラニオンモータを作動させて変速制御する変速制御装置を備える。
【0029】
傾斜検知部材61が左右方向の15度以上の傾斜を検知すると、変速制御装置はトラニオンモータをトラニオン軸の開度を小さくする側に作動させ、変速伝動装置23の出力を低下させる。これにより、走行車体2の走行速度が減速され、植付装置4が上昇して重心が上方に寄っているときでも走行姿勢が安定する。
【0030】
警報を発する報知装置は、ブザー等の音声、または、ランプ等の発光により発報可能に構成する。特に、運転席の前方で警告ランプ(赤)が点灯するようにセンタマスコットを制御し、または、モニタパネルの全警告ランプを点灯することにより、ブザーによる警報音が苗移植機1の作動音に紛れて聞き取れない場合でも、オペレータに警報を知らせることができる。
【0031】
(作業走行制御)
次に、植付作業走行の制御について説明すると、アキュムレータ、比例ソレノイド、リンクセンサを備える苗移植機1において、センタフロート55が土塊等による大きな突状部に遭遇したときに、リンクセンサによって高さ位置を記憶するとともに、植付上昇スピードを遅くし、次いで、突状部の終端に達したときに植付下降スピードを速くして、記憶した高さ位置まで植付装置4を下げるように制御する。
【0032】
すなわち、昇降シリンダ46により回動して植付装置4を昇降させる昇降リンク機構3と、上記昇降シリンダ46を伸縮させる比例バルブと、昇降リンク機構3の回動角度を検知するリンクセンサ3sと、植付装置4の下部に回動自在に支持して圃場面に接地する整地用のフロート55と、このフロート55の回動角度を検知するフロートセンサ55sとを設け、フロート55が上方回動した時のフロートセンサ55sの検知角度が所定値以上であれば、昇降シリンダ46の作動速度を遅くして植付装置4の上昇速度を遅くすると共に、リンクセンサ3sによる昇降リンク機構3の回動角度を記録し、フロートセンサ55sの検知角度が所定値未満になると、昇降シリンダ46の作動速度を速くして植付装置4の上昇速度を速くし、リンクセンサ3sが記録する上昇前の昇降リンク機構3の回動角度に対応する位置まで高速で回動させるように制御部を構成する。
【0033】
上記制御部により、フロート55の上昇回動時の昇降リンク機構3の回動角度を記録しておき、フロート55の上昇回動角度が所定値未満になると昇降リンク機構3の回動角度に対応する角度まで昇降リンク機構3を下方回動させることにより、圃場の凹凸を乗り越えた際に植付装置4を上昇前の作業高さに自動的に戻すことができるので、苗の植付精度が向上する。
【0034】
また、昇降リンク機構3の上方回動時の速度を遅く、また、下方回動時の速度を速くすることにより、凹凸の前後で植付装置4が昇降する際、植付装置4の過度の上昇を抑え、下降時に上昇前の作業高さに速やかに戻すことができるので、苗の植付精度が向上する。
【0035】
(停車制御)
次に、停車時の制御について説明すると、停車制御のフローチャートを図5(a)に示すように、原動部20から受ける走行動力を走行停止の中立から前後進走行の車速範囲で無段変速伝動する静油圧式無段変速機による変速伝動装置23と、この変速伝動装置23をレバー位置によって変速指示する変速操作レバー24と、この変速操作レバー24のレバー位置に応じて変速伝動装置23を変速制御する変速制御装置とを備え、この変速制御装置は、変速操作レバー24が走行車速位置から中立停止位置に操作されたときに、変速伝動装置23を一時的に微速逆走に制御した後に中立停止に変速制御するように構成する。
【0036】
このように停車制御することにより、変速操作レバー24を中立操作すると、変速制御装置が変速伝動装置23を微速度の逆進走行に一時的に制御してから中立停止に制御することにより、トラニオン軸の電動駆動によって静油圧式無段変速機を変速伝動制御する場合等に、制御軸であるトラニオン軸の電動駆動機構のバックラッシュ等の影響を小さく抑えて変速伝動装置23を確実に中立に制御することができるので、走行車体2が意図せず低速で前進または後進してしまうことが防止される。
【0037】
また、上記制御に続いて、更に前後進に微速逆走制御してから中立停止に制御することにより、バックラッシュ等の影響を限りなく小さく抑えて変速伝動装置23をより確実に中立に制御することができ、微速の範囲は、機体が動作しない程度とすることにより、オペレータに違和感を与えることなく、中立の確保が可能となる。
【0038】
(始動制御)
次に、始動時の制御について説明すると、始動制御のフローチャートを図5(b)に示すように、変速制御装置は、原動部20の始動時において、変速伝動装置23を前進または後進に一時的に微速走行制御した後に中立に変速制御するように構成する。
【0039】
このように始動制御することにより、請求項5に係る発明の効果に加え、原動部20の始動時に変速伝動装置23を前進または後進に微速走行制御を経てから中立に変速制御することにより、トラニオン軸の電動駆動によって静油圧式無段変速機を変速伝動制御する場合等に、制御軸であるトラニオン軸の電動駆動機構のバックラッシュ等の影響を小さく抑えて変速伝動装置23を確実に中立に保持することができるので、走行車体2が意図せず低速で前進または後進してしまうことが防止される。
【0040】
また、上記制御に続いて、更に前後進に微速逆走制御してから中立停止に制御することにより、バックラッシュ等の影響を限りなく小さく抑えて変速伝動装置23をより確実に中立に制御することができ、微速の範囲は、機体が動作しない程度とすることにより、オペレータに違和感を与えることなく、中立の確保が可能となる。
【0041】
(植付装置)
次に、植付装置4について説明すると、リードカムの要部縦断面図を図6に示すように、リードカムLを中空に形成し、左右の苗タンク反転部の溝内に穴H,Hを開けることにより、内圧差でグリス(油)を行き渡らせることができるので、負荷の大きい反転部の潤滑性向上によって高耐久化が可能となる。
【0042】
(フロートストッパ)
次に、フロートストッパについて説明すると、接触部の詳細構成図を図7(a)に示すように、ケーブルインナを用いたフロートストッパについて、支持パイプPに接触する部分に、PEまたはPOMのチューブTを通し、配置側面図を図7(b)に示すように、フレーム(ロータ高さ)のパイプと接触するところにチューブTを通すことにより、摩擦部がなくなってケーブルCの高耐久化と、チューブの塗装保護と、衝撃の緩和とが合わせて可能となる。
【0043】
(植付支持部)
次に、植付支持部について説明すると、植付支持部の斜視図(a)とそのS―S線断面図(b)を図8に示すように、支持フレームの両側の補強リブR,Rの断面形状を三角形としてリブRの上側を傾斜面とすることにより、補強リブR,Rの上に堆積する泥や肥料を抑えることができる。
【0044】
(関連機器)
次に、本発明の適用対象となる苗移植機について、上記発明と関連する機器を中心に説明する。
【0045】
図9は、本発明の適用対象となる7条植の乗用型田植機1の側面図であり、図10は、その平面図である。
この田植機1は、走行車体2の後側に昇降リンク機構3を介して植付装置4が昇降可能に装着され、走行車体2の後部上側に施肥装置100の本体部分が設けられている。
【0046】
走行車体2は、駆動輪である左右一対の前輪10及び左右一対の後輪11を備えた四輪駆動車両であって、機体の前部にミッションケース12が配置され、そのミッションケース12の左右側方に前輪ファイナルケース13が設けられ、該左右前輪ファイナルケース13の操向方向を変更可能な各々の前輪支持部から外向きに突出する左右前輪車軸に前輪10がそれぞれ取り付けられている。
【0047】
また、ミッションケース12の背面部に車体フレーム15の前端部が固着されており、その車体フレーム15の後端左右中央部に前後水平に設けた後輪ローリング軸を支点にして後輪ギアケース18がローリング自在に支持され、その後輪ギアケース18から外向きに突出する左右後輪車軸に後輪11がそれぞれ取り付けられている。
【0048】
エンジン20は、車体フレーム15の上に搭載されており、該エンジン20の回転動力が、ベルト伝動装置21及びHST(静油圧式無段階変速機)23を介してミッションケース12に伝達される。該HST23の出力は、後述のボンネット32に設ける変速レバー24の操作量によって増減されると共に、該変速レバー24の操作によって前後進及び走行停止が切り替えられる構成とする。該変速レバー24の操作量は、レバーポテンショメータ24aが検出する操作角度から判断される。
なお、該レバーポテンショメータ24aが後進操作を検出すると、前記植付装置4を上昇させると共に、苗の植付と施肥を停止させる。
【0049】
ミッションケース12に伝達された回転動力は、ミッションケース12内のトランスミッションにより変速された後、走行動力と外部取出動力に分離して取り出される。そして、走行動力は、一部が前輪ファイナルケース13に伝達されて左右一対の前輪10,10を駆動すると共に、残りが後輪ギアケース18に伝達されて左右一対の後輪11,11を駆動する。
【0050】
また、外部取出動力は、ミッションケース12の機体右側に構成する植付クラッチケース25aに伝達され、該植付クラッチケース25aに内装する植付クラッチ25が入状態であれば、植付伝動軸26を経由して植付装置4へ伝達される。
【0051】
エンジン20の上部はエンジンカバー30で覆われており、その上に運転席31が設置されている。運転席31の前方には各種操作機構を内蔵するボンネット32があり、その上方に前輪10を操向操作する操縦ハンドル34が設けられている。該操縦ハンドル34の操作量は、ハンドルポテンショメータ34aで検出されており、操作量が旋回走行開始と見做す設定値に到達すると、植付装置4を上昇させ、苗の植付及び施肥を停止させると共に、操作量が旋回走行終了と見做し得る設定値に到達すると、植付装置4を下降させ、苗の植付及び施肥を開始させる制御を行う。また、ボンネット32で覆われた内部には、制御用のコントローラー210が収納されている。
【0052】
エンジンカバー30及びボンネット32の下端左右両側は水平状のフロアステップ35になっている。フロアステップ35は一部格子状になっており(図10参照)、フロアステップ35を歩く作業者の靴についた泥が圃場に落下する構成となっている。
【0053】
昇降リンク機構3は平行リンク構成であって、1本の上リンク40と左右一対の下リンク41を備えている。上リンク40及び下リンク41は、それらの基部側が車体フレーム15の後端部に立設した背面視で門形のリンクベースフレーム42に回動自在に取り付けられ、それらの先端側に縦リンク43が連結されている。そして、縦リンク43の下端部に、植付装置4に回転自在に支承された連結軸44が挿入連結され、連結軸44を中心として植付装置4がローリング自在に連結されている。
【0054】
車体フレーム15に固着した支持部材と上リンク40に一体形成したスイングアーム(図示せず)の先端部との間に昇降油圧シリンダ46が設けられており、昇降油圧シリンダ46を油圧で伸縮させることにより、上リンク40が上下に回動し、植付装置4がほぼ一定姿勢を保持したまま昇降する。
【0055】
該昇降油圧シリンダ46の伸縮、即ち昇降リンク機構3の上下回動による植付装置4の昇降操作は、前記変速レバー24に設ける昇降ボタン24bによって行うものとする。
なお、昇降リンク機構3が所定高さまで回動すると、施肥クラッチ及び後述の施肥クラッチ460が連動して切状態となり、苗や肥料が空中で放出され、余分に消費されることを防止する構成とする。
【0056】
本願では7条植の構成である前記植付装置4の構成について説明する。まず、機体左右方向の植付伝動フレーム50に、駆動力を後方に伝動する植付伝動ケース50a…を左右方向に間隔を空けて配置する。該植付伝動ケース50a…は、本願では4つ設ける。また、前記植付伝動フレーム50の上部には、苗を積載して左右往復移動する苗載せ台51を設ける。該苗載せ台51は、本願では左右方向に苗を7条分積載すべくフェンスで区切っており、各条ごとに苗を所定のタイミング、具体的には苗載せ台51が左右端部に到達したときに作動して苗を下方に移動させる苗送りベルト51b…を備えている。
【0057】
そして、機体左右両端の植付伝動ケース50aと、機体左側端部の植付伝動ケース50aに隣接する植付伝動ケース50aの左右両側に、苗載せ台51から苗取り爪52aで苗を取って圃場に植え付ける苗植付部52を各々設けると共に、機体右側端部の植付伝動ケース50aに隣接する植付伝動ケース50aの左右どちらか一側、本願では左側一側には、苗植付部52を一つだけ設ける。該苗植付部52は、内装する偏心ギア機構(図示省略)によって楕円軌跡を描いて回転するものであり、回転軸(図示省略)を中心点として対象となる位置に苗取り爪52aを各々装着する。
【0058】
なお、前記苗載せ台51の下部には、前記苗取り爪52aが通過する苗取り口51aを形成し、苗植付部52の回転により設定量の苗を掻き取りながら移動できる構成としている。
【0059】
また、前記植付装置4の下部で且つ左右方向の中央位置付近にセンターフロート55を設け、該センターフロート55の左右両側にサイドフロート56を各々配置する。機体右側のサイドフロート56は、前記苗植付部52を左右一側にのみ設ける植付伝動ケース50aの下方に設け、機体左側のサイドフロート56は、機体左側端部の植付伝動ケース50aと機体左側端部の植付伝動ケース50aに隣接する植付伝動ケース50aの左右間隔部に設ける。さらに、該左右のサイドフロート56,56の左右両外側で、且つ左右両側の植付伝動ケース50aの下方には、各々アウターフロート57を設ける。
【0060】
該センターフロート55と左右のサイドフロート56とアウターフロート57を圃場面に接地させた状態で機体を進行させると、該各フロート55,56,57は圃場面の凹凸を整地しながら滑走する。この整地跡に、苗植付部52が苗が植え付ける。
【0061】
前記各フロート55,56,57は、圃場表土面の凹凸に対応して前端側が上下動する如く回動自在に取り付けられており、植付作業時にはセンターフロート55の前部の上下動がフロートセンサ(図示省略)により検出され、その検出結果に対応して昇降油圧シリンダ46を制御する油圧バルブ(図示省略)を切り替えて植付装置4を昇降させることにより、苗の植付深さを常に一定に維持する。
【符号の説明】
【0062】
1 苗移植機
2 走行車体
4 植付装置
11 後輪
11a 後輪車軸
15 車体フレーム
18 後輪伝動ケース
20 原動部
23 変速伝動装置
24 変速操作レバー
46 昇降シリンダ
61 傾斜検知部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10