(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6738557
(24)【登録日】2020年7月22日
(45)【発行日】2020年8月12日
(54)【発明の名称】板ガラスの製造方法及びその製造装置
(51)【国際特許分類】
C03B 33/033 20060101AFI20200730BHJP
B28D 5/00 20060101ALI20200730BHJP
B28D 7/04 20060101ALI20200730BHJP
【FI】
C03B33/033
B28D5/00 Z
B28D7/04
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-121513(P2016-121513)
(22)【出願日】2016年6月20日
(65)【公開番号】特開2017-226549(P2017-226549A)
(43)【公開日】2017年12月28日
【審査請求日】2019年2月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168550
【弁理士】
【氏名又は名称】友廣 真一
(72)【発明者】
【氏名】塩路 拓也
【審査官】
今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2016−104683(JP,A)
【文献】
特開2006−124194(JP,A)
【文献】
国際公開第2014/017577(WO,A1)
【文献】
特開2012−131706(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 33/033
B28D 5/00
B28D 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚みが0.7mm以下の板ガラスにおける第1領域と第2領域との境界部の表面側にスクライブ線を形成し、前記スクライブ線に沿って前記板ガラスを割断する割断工程を含む板ガラスの製造方法であって、
前記割断工程では、前記スクライブ線が上下方向を向くように吊り下げ支持された前記板ガラスの前記第1領域の裏面を裏面支持部材で支持した状態で、転動体を前記第2領域の表面に沿って転動させながら、前記転動体で前記第2領域を裏面側に押し込むことによって、前記スクライブ線に沿って前記板ガラスを割断するとともに、
前記転動体が、前記スクライブ線に沿う方向で複数に分割されており、前記スクライブ線に沿う方向において、各々の前記転動体の前記板ガラスとの接触部の合計長さが、隣接する各々の前記転動体の間の前記板ガラスとの非接触部の合計長さよりも長いことを特徴とする板ガラスの製造方法。
【請求項2】
前記転動体は、前記スクライブ線の長手方向で対向する前記板ガラスの両端部を除く位置で、前記第2領域の表面と接触することを特徴とする請求項1に記載の板ガラスの製造方法。
【請求項3】
前記スクライブ線は、前記スクライブ線の長手方向で対向する前記板ガラスの両端部を除く位置に形成されていることを特徴と請求項1又は2に記載の板ガラスの製造方法。
【請求項4】
前記スクライブ線は、前記スクライブ線の長手方向で対向する前記板ガラスの両端部を除く位置に形成されており、前記転動体は、前記スクライブ線の両端部を除く前記スクライブ線の形成範囲内のみで前記第2領域の表面と接触することを特徴とする請求項2に記載の板ガラスの製造方法。
【請求項5】
前記転動体が、前記スクライブ線の長手方向に沿った回転軸を有する円筒状のローラーであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の板ガラスの製造方法。
【請求項6】
前記板ガラスの厚みが、0.3mm以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の板ガラスの製造方法。
【請求項7】
厚み0.7mm以下の板ガラスにおける第1領域と第2領域との境界部の表面側に形成されたスクライブ線に沿って、前記板ガラスを割断する割断装置を備えた板ガラスの製造装置であって、
前記割断装置は、前記スクライブ線が上下方向を向くように前記板ガラスを吊り下げ支持する上部支持部材と、前記第1領域の裏面側を支持する裏面支持部材と、前記スクライブ線に沿って前記板ガラスを割断するために、前記第2領域の表面に沿って転動しながら前記第2領域を裏面側に押し込む転動体とを備え、
前記転動体が、前記スクライブ線に沿う方向で複数に分割されており、前記スクライブ線に沿う方向において、各々の前記転動体の前記板ガラスとの接触部の合計長さが、隣接する各々の前記転動体の間の前記板ガラスとの非接触部の合計長さよりも長いことを特徴とする板ガラスの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板ガラスをスクライブ線に沿って割断する工程を含む板ガラスの製造技術の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイなどのフラットパネルディスプレイ(FPD)用のガラス基板や、有機EL照明用のカバーガラスに代表されるように、各種分野に利用される板ガラスの製造工程では、大面積の板ガラスから小面積の板ガラスを切り出したり、板ガラスの辺に沿う縁部をトリミングしたりする工程が含まれる場合が多い。このような工程では、板ガラスにスクライブ線を形成した後に、そのスクライブ線に沿って板ガラスを割断するのが通例とされている。
【0003】
板ガラスの割断方法の具体例としては、例えば特許文献1に開示の方法が挙げられる。同文献に開示の方法では、板ガラスの表面にスクライブ線を形成した後、板状の折り割りバーをスクライブ線の近傍で板ガラスの表面に接触させるとともに、その状態で折り割りバーで板ガラスを裏面側に押し込む。この折り割りバーの押し込み動作により、スクライブ線の近傍に曲げ応力を作用させ、板ガラスをスクライブ線に沿って割断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2014/017577号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示のように、板状の折り割りバーを押し込んで曲げ応力を作用させようとすると、板ガラスが割断に至る前に撓む場合がある。この場合、板ガラスの撓みに伴って、板ガラスの表面が湾曲面に変化したり折り割りバーに対する板ガラスの角度が変化したりしやすい。そのため、折り割りバーと板ガラスの接触状態が不安定になりやすい。そして、このような不安定な接触状態のまま、折り割りバーを無理に押し込むと、折り割りバーと板ガラスとの間に滑りが生じて板ガラスに曲げ応力が十分に作用せず、板ガラスをスクライブ線に沿って正確に割断できない場合がある。このような問題は、割断対象の板ガラスの厚みが薄くなって撓みが大きくなるに従って顕著になる。
【0006】
本発明は、板ガラスに撓みが生じる場合であっても、曲げ応力によって板ガラスをスクライブ線に沿って確実に割断することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために創案された本発明は、板ガラスの第1領域と第2領域との境界部の表面側にスクライブ線を形成し、スクライブ線に沿って板ガラスを割断する割断工程を含む板ガラスの製造方法において、割断工程で、第1領域の裏面側を裏面支持部材で支持した状態で、転動体を第2領域の表面に沿って転動させながら、転動体で第2領域を裏面側に押し込むことによって、スクライブ線に沿って板ガラスを割断することを特徴とする。このような構成によれば、転動体は板ガラスの第2領域の表面に沿って転動しながら板ガラスを押し込むので、板ガラスに撓みが生じても、転動体が板ガラスの角度や形状変化に追従する。そのため、転動体と板ガラスの接触状態が安定し、転動体と板ガラスの間に不当な滑りが生じにくい。したがって、板ガラスに撓みが生じるような場合でも、転動体と裏面支持部材の間に位置するスクライブ線の近傍に曲げ応力が十分に作用し、板ガラスをスクライブ線に沿って確実に割断することができる。
【0008】
上記の構成において、割断工程で、板ガラスは、スクライブ線が上下方向を向くように、吊り下げ支持されていてもよい。このようにすれば、割断工程の上流側の工程で、板ガラスを吊り下げ支持された縦姿勢で取り扱う場合には、大きな姿勢変換を伴うことなく、そのままの姿勢で割断工程に板ガラスをスムーズに搬送することができる。また、板ガラスを割断後に吊り下げ支持した状態のまま、下流側の工程にスムーズに搬送することができる。さらに、吊り下げ支持された板ガラスは縦姿勢であるため、板ガラスの占める床面積が小さく、省スペース化にも繋がる。
【0009】
上記の構成において、転動体は、スクライブ線の長手方向で対向するガラス板の両端部を除く位置で、第2領域の表面と接触することが好ましい。このようにすれば、破損しやすい板ガラスの端縁に転動体が直接接触しないため、スクライブ線とは無関係な位置で板ガラスの端縁を起点として板ガラスが破損するのを防止することができる。
【0010】
上記の構成において、スクライブ線は、スクライブ線の長手方向で対向するガラス板の両端部を除く位置に形成されていることが好ましい。このようにすれば、破損しやすい板ガラスの端縁にスクライブ線が及んでいないため、割断前などの不適当なタイミングで、板ガラスの端縁を起点として板ガラスが破損するのを防止することができる。
【0011】
上記の構成において、スクライブ線は、スクライブ線の長手方向で対向するガラス板の両端部を除く位置に形成されており、かつ、転動体は、スクライブ線の両端部を除くスクライブ線の形成範囲内のみで第2領域の表面と接触することが好ましい。本願発明者は、このような構成によって、板ガラスがスクライブ線に沿ってより確実に割断されることを確認している。
【0012】
上記の構成において、転動体は、スクライブ線の長手方向に沿った回転軸を有する円筒状のローラーであってもよい。このようにすれば、一つの転動体で、スクライブ線の長手方向に沿った板ガラスの長尺な連続領域を押し込むことができる。そのため、スクライブ線に曲げ応力を効率よく作用させることが可能となる。
【0013】
この場合、ローラーが、スクライブ線の長手方向で複数に分割されていることが好ましい。このようにすれば、割断対象の板ガラスの大きさが変更された場合などに、ローラーの位置や数を調整しやすくなる。
【0014】
上記の構成において、板ガラスの厚みが、0.3mm以下であることが好ましい。すなわち、このような板ガラスであれば割断時の撓みが大きくなるので、本発明の効果が十分に発揮される。
【0015】
上記課題を解決するために創案された本発明は、第1領域と第2領域との境界部の表面側にスクライブ線が形成された板ガラスを、スクライブ線に沿って割断する割断装置を備えた板ガラスの製造装置において、割断装置は、第1領域の裏面側を支持する裏面支持部材と、スクライブ線に沿って板ガラスを割断するために、第2領域の表面に沿って転動しながら第2領域を裏面側に押し込む転動体とを備えていることを特徴とする。このような構成によれば、既に述べた対応する構成と同様の効果を享受することができる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように本発明によれば、板ガラスに撓みが生じる場合であっても、曲げ応力によって、板ガラスをスクライブ線に沿って確実に割断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係る板ガラスの製造装置に含まれる割断装置を示す斜視図である。
【
図2】
図1に示す割断装置の要部を拡大した正面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る板ガラスの製造方法に含まれる割断工程を示す図であって、(a)は割断工程の序盤の状態、(b)は割断工程の中盤の状態、(c)は割断工程の終盤の状態をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る一実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0019】
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る板ガラスの製造装置に含まれる割断装置1は、第1領域Gaと第2領域Gbとの境界部の表面Gx側にスクライブ線Sが形成された板ガラスGを曲げ応力によってスクライブ線Sに沿って割断するものである。この実施形態では、板ガラスGには2本のスクライブ線Sが形成されており、各スクライブ線Sが上下方向を向くように板ガラスGが縦姿勢(好ましくは鉛直姿勢)で配置されている。また、この実施形態では、幅方向中央部が板ガラスGの必要な部分である第1領域Gaとされ、幅方向両端部のそれぞれが板ガラスGの不要な部分である第2領域Gbとされる。例えば、板ガラスGがオーバーフローダウンドロー法によって成形される場合、第1領域Gaは相対的に薄肉となる製品部分となり、第2領域Gbは相対的に厚肉となる部分を含む非製品部分となる。もちろん、第1領域Gaと第2領域Gbの両方が必要な部分とされてもよい。
【0020】
割断装置1は、板ガラスGを吊り下げ支持する第1支持装置2と、板ガラスGの第1領域Gaの裏面Gy側を支持する裏面支持部材3と、板ガラスGの第2領域Gbの表面Gxに沿って転動しながら板ガラスGの第2領域Gbの表面Gxを裏面Gy側に押し込む転動体4とを備えている。板ガラスGの表面Gx及び裏面Gyは、板ガラス2の厚み方向で互いに対向する主表面である。すなわち、表面Gxと裏面Gyは、2つの主表面を区別するための用語であり、上下方向を向いた面(上面、下面)を意味するものではない。
【0021】
第1支持装置2は、レール部材21と、レール部材21に沿ってスライド移動する移動体22と、移動体22に取り付けられた1又は複数の上部支持部材23とを備えている。
【0022】
この実施形態では、複数(図示例は2つ)の上部支持部材23が1つの移動体22に取り付けられ、移動体22の移動に伴って複数の上部支持部材23が一体的にレール部材21に沿って移動するようになっている。レール部材21は板ガラスGの幅方向に沿って設けられているため、板ガラスGは表裏面に沿う幅方向に搬送される。なお、レール部材21を板ガラスGの表裏面に垂直な方向に設け、板ガラスGを表裏面に垂直な方向に搬送するようにしてもよい。
【0023】
この実施形態では、上部支持部材23は、板ガラスGの第1領域Gaにおいて表裏両側から板ガラスGの上部を挟持して保持するように構成されている。ここで、板ガラスGの上端縁Guは破損しやすいため、上部支持部材23は、板ガラスGの上端縁Guを避けた位置で板ガラスGと接触するように構成されていることが好ましい。なお、複数の上部支持部材23は、互いに接近および離反可能なように、それぞれ独立した移動体22に取り付けられていてもよい。このようにすれば、板ガラスGに幅方向に張力を付与することができたり、板ガラスGの大きさが変更された場合などでも板ガラスGの支持位置の調整が簡単になったりする等の利点がある。また、上部支持部材23は、板ガラスGの第1領域Gaにおいて板ガラスGの上部の片面のみを負圧吸着して保持するように構成されていてもよい。また、上部支持部材23は、移動体22に取り付けられている必要はなく、後述する折り割り動作の際に上端部Guを把持する形態でもよい。
【0024】
裏面支持部材3は、板ガラスGの第1領域Gaの裏面Gyにおける幅方向両端部において、スクライブ線Sから板ガラスGの幅方向に間隔を置いてスクライブ線Sと平行に配置されている。裏面支持部材3とスクライブ線Sとの幅方向の離間距離D1は、例えば、10〜30mm(好ましくは、10〜20mm)である(
図2を参照)。この実施形態では、裏面支持部材3は、板ガラスGの第1領域Gaの裏面Gyを支持する支持面が平面で形成された板状体(定盤)である。なお、裏面支持部材3は、支持面が曲面で形成された丸棒状体などであってもよい。
【0025】
転動体4は、板ガラスGの各第2領域Gbにおいて、スクライブ線Sから板ガラスGの幅方向に間隔を置いて配置されている。転動体4が板ガラスGと最初に接触する位置における転動体4とスクライブ線Sとの幅方向の離間距離D2は、例えば、70〜130mmである(
図2を参照)。この実施形態では、転動体4は、スクライブ線Sと平行な回転軸4aを有する円筒状のローラーからなる。転動体4の直径は、10〜30mmであることが好ましい。転動体4は、上下方向に複数(好ましくは3つ以上)に分割されている。分割された各転動体4は、それぞれの回転軸4aを中心として回転可能となっている。各転動体4の回転軸4aのそれぞれは、互いに連続する同一の軸であってもよいが、この実施形態では、同一直線上に位置する独立した軸である。各転動体4は、フリーローラーであって、板ガラスGの第2領域Gbの表面Gxとの接触によって生じる摩擦力によって、板ガラスGの第2領域Gbの表面Gxに沿って従動回転するようになっている。なお、転動体4は駆動回転させてもよい。また、転動体4は、上下方向に分割されておらず、1本のローラーで構成されていてもよい。さらに、転動体4は、板ガラスGの第2領域Gbの表面Gxに沿って転動可能であればローラーに限られるものではなく、例えば球状体(ボール)などであってもよい。
【0026】
転動体4の表面は、板ガラスGの第2領域Gbの表面Gxに傷が付きにくく、かつ、板ガラスGの第2領域Gbの表面Gxとの間に滑りが生じにくい材質で形成されていることが好ましい。転動体4の表面は、例えば、ゴム、シリコン、樹脂などの弾性体によって形成される。具体的には、転動体3の表面は、例えば、硬度40°〜70°の天然ゴムであることが好ましい。
【0027】
図2に示すように、スクライブ線Sは、上下方向(スクライブ線Sの長手方向)で対向する板ガラスGの上端部(上端縁Guを含む)および下端部(下端縁Gdを含む)を除く位置で、板ガラスGの第2領域Gbの表面Gxに形成されている。すなわち、スクライブ線Sの上端Suおよび下端Sdは、板ガラスGの上端縁Guおよび下端縁Gdから離れている。スクライブ線Sの上端Suと板ガラスGの上端縁Guとの上下方向の離間距離、及びスクライブ線Sの下端Sdと板ガラスGの下端縁Gdとの上下方向の離間距離D3は、例えば、10〜30mmである。
【0028】
また、転動体4は、板ガラスGの上端部および下端部を除く位置で、板ガラスGの第2領域Gbの表面Gxと接触する。すなわち、転動体4と第2領域Gbの表面Gxとの接触部は、板ガラスGの上端縁Guおよび下端縁Gdから離れている。この実施形態では、一番高い位置にある転動体4の接触部と板ガラスGの上端縁Guとの上下方向の離間距離、及び一番低い位置にある転動体4の接触部と板ガラスGの下端縁Gdとの上下方向の離間距離D4は、例えば、10〜50mmである。
【0029】
なお、D1、D2、D3及びD4の大きさは、上記に例示した数値範囲に限定されるものではなく、板ガラスGの大きさや厚みに応じて適宜調整することができる。
【0030】
さらに、この実施形態では、転動体4は、スクライブ線Sの上端部(上端Suを含む)および下端部(下端Sdを含む)を除くスクライブ線Sの形成範囲内のみで板ガラスGの第2領域Gbの表面Gxと接触する。換言すれば、板ガラスGの上下方向寸法L1>スクライブ線の上下方向寸法L2>転動体4と第2領域Gbの表面Gxとの接触部の上下方向寸法L3という大小関係が成立し、かつ、横方向から見た場合に、これら寸法関係を有する3つの領域のうち、上下方向寸法の大きい領域の両端部に、それよりも上下方向寸法の小さい領域の両端部が重なっていない。ここで、この実施形態では、転動体4は上下方向で複数に分割されているので、上下方向寸法L3は、各転動体4と第2領域Gbの表面Gxとの接触部の上下方向寸法L31,L32,L33の合計(L3=L31+L32+L33)である。なお、上下方向寸法L31,L32,L33は同じであってもよいし、異なっていてもよい。後者の場合、例えば、L32>L31=L33なる関係や、L32<L31=L33なる関係を満たすようにしてもよい。
【0031】
この実施形態では、裏面支持部材3は、板ガラスGの第1領域Gaの裏面Gyにおける上下方向の全域を支持するように、板ガラスGの上端部及び下端部から上下に食み出している。すなわち、裏面支持部材3の上下方向寸法L4は板ガラスGの上下方向寸法L1よりも長い。なお、裏面支持部材3で板ガラスGの第1領域Gaの裏面Gyの上下方向全域を支持する場合、L4はL1と等しくてもよい。また、L4をL1よりも小さくし、裏面支持部材3が、板ガラスGの上端部及び下端部を除く位置で、板ガラスGの第1領域Gaの裏面Gyと接触するようにしてもよい。
【0032】
図3に示すように、この実施形態では、割断後に、板ガラスGの第2領域Gbが板ガラスGの第1領域Gaの近傍で落下するのを防止するために、第2領域Gbの裏面Gy側が第2支持装置5によって支持されている。第2支持装置5は、ロボットアーム51と、ロボットアーム51の先端に取り付けられたバキュームカップ(吸盤)52とを備えている。ロボットアーム51は、転動体4による板ガラスGの第2領域Gbの押し込み動作を阻害しないように、バキュームカップ52の位置を板ガラスGの裏面Gy側に後退するように調整する。また、ロボットアーム51は、必要に応じて、バキュームカップ52の角度も調整する。バキュームカップ52は、板ガラスGの撓み変形に応じて変形可能なゴムなどの弾性体からなり、板ガラスGの第2領域Gbの裏面Gyを負圧吸着して保持する。なお、転動を伴う転動体4の押し込み動作を阻害しなければ、第2支持装置5は、例えば、板ガラスGを表裏両側から挟持して支持するように構成されていてもよい。第2支持装置5は省略してもよい。
【0033】
次に、以上のように構成された板ガラスの製造装置を用いた板ガラスの製造方法を説明する。
【0034】
まず、
図1に示す位置の上流側の工程において、板ガラスGの上部を第1支持装置2の上部支持部材23によって支持した状態で、ホイールカッターによる押圧やレーザーの照射等により、板ガラスGの表面Gxにスクライブ線Sが形成される。スクライブ線Sは、板ガラスGの上端部および下端部を除外して、板ガラスGの上下方向に沿って直線状に形成される。ここで、板ガラスGの厚みは、例えば、0.7mm以下であり、好ましくは0.2mm〜0.5mmであり、より好ましくは0.2mm〜0.3mmである。
【0035】
次に、スクライブ線Sが形成された板ガラスGの上部を第1支持装置2の上部支持部材23で支持した状態のまま、レール部材21に沿って移動体22を移動させて板ガラスGを搬送した後、
図1に示す位置で停止させる。板ガラスGが停止すると、
図3に示すように、裏面支持部材3が板ガラスGの第1領域Gaの裏面Gy側に接近して接触するとともに、転動体4が第2領域Gbの表面Gx側に接近して接触する。さらに、この実施形態では、第2領域Gbの裏面Gy側が第2支持装置5のロボットアーム51の先端に取り付けられたバキュームカップ52によって吸着される。
【0036】
この状態で、
図4(a)〜(c)に示すように、転動体4で板ガラスGの第2領域Gbの表面Gxを裏面Gy側に押し込む。
【0037】
詳細には、まず、
図4(a)に示すように、転動体4は、板ガラスGの第2領域Gbの表面Gxに当接する。このとき、転動体4と板ガラスGの第2領域Gbの表面Gxは点P1で接触する。説明の便宜上、
図4(a)における板ガラスGの状態を初期状態とよぶ。
【0038】
次に、
図4(b)に示すように、転動体4は、初期状態の板ガラスGの第2領域Gbの表面Gxに垂直なX方向(板厚方向)に直進移動する。これにより、裏面支持部材3を起点として板ガラスGの第2領域Gbは撓む。この過程で、X方向に移動する転動体4は、板ガラスGとの間に生じる摩擦によって第2領域Gbの表面Gxに沿って転動しながら、板ガラスGに対する相対位置を幅方向外側(スクライブ線Sから離反するY方向)に移動させる。これに伴い、板ガラスGと転動体4の接触位置は、例えば、点P1と点P2の間を点P1から点P2に向かって連続的に変化する。そのため、板ガラスG(第2領域Gb)に撓みが生じても、転動体4は、転動しながら板ガラスGに対する接触位置を順次変化させ、板ガラスGの撓み変形に追従する。したがって、転動体4と板ガラスGの接触状態が安定し、転動体4と板ガラスGの間に不当な滑りは生じにくい。よって、板ガラスGに撓みが生じても、裏面支持部材3の近傍に形成されたスクライブ線Sに曲げ応力が十分作用する。
【0039】
そして、
図4(c)に示すように、
図4(b)の状態から転動体4を更にX方向に移動させると、転動体4の転動を伴いながら、板ガラスGに対する転動体4の相対的な接触位置は、幅方向外方側(Y方向)に更に移動し、例えば、点P2と点P3の間を点P2から点P3に向かって連続的に変化する。このような転動体4の動作により、スクライブ線Sに作用する曲げ応力は更に大きくなり、板ガラスGをスクライブ線Sに沿って確実に割断することができる。
【0040】
なお、転動体4は、この実施形態ではX方向に一定速度で直進移動するが、X方向に速度を変えながら直進移動してもよい。
【0041】
また、転動体4は、初期状態の板ガラスGの表面Gxに垂直なX方向に直進移動させる代わりに、X方向と角度をなす斜め方向に直進移動させてもよい。この場合、転動体4を、板ガラスGの裏面Gy側に向かうに従って幅方向外方側に移行するように斜めに移動させてもよいし、板ガラスGの裏面Gy側に向かうに従って幅方向内方側に移行するように斜めに移動させてもよい。前者の場合、転動体4は、板ガラスGとの間に生じる摩擦によって第2領域Gbの表面Gxに沿って幅方向外方側に転動する。また、後者の場合、転動体4は、板ガラスGとの間に生じる摩擦によって第2領域Gbの表面Gxに沿って幅方向内方側に転動する。
【0042】
この実施形態では、上記のように転動体4を押し込む際に、
図2に示すように、スクライブ線Sや転動体4が板ガラスGの上端縁Gu及び下端縁Gdから離れているため、板ガラスGの上端縁Gu及び下端縁Gdを起点とする不当な割れを防止できる。
【0043】
また、この実施形態では、上記のように転動体4を押し込む際に、
図2に示すように、スクライブ線Sが板ガラスGの上端縁Gu及び下端縁Gdから離れた位置に形成された状態で、スクライブ線Sの上端部及び下端部を除くスクライブ線Sの形成範囲内(上端Suよりも下方かつ下端Sdよりも上方の領域内)のみで、転動体4が板ガラスGの第2領域Gbの表面Gxを裏面Gy側に押し込む。このような態様で転動体4を押し込むことで、スクライブ線Sに作用する曲げ応力がより適正なものとなり、スクライブ線Sに沿った正確な割断をより確実に実現させることができる。なお、このような態様で割断した場合、スクライブ線Sのうち、中央側領域が初めに割断された後、その割断された領域が上下方向に進展し、スクライブ線Sに沿って板ガラスGの上下方向全域が割断されると考えられる。
【0044】
ここで、
図4(c)に示すように、板ガラスGが割断された後、板ガラスGの第2領域Gbは落下することなく、ロボットアーム51のバキュームカップ52によって吸着支持された状態を維持する。板ガラスGの第1領域Gaから分離された第2領域Gbは、例えば、板ガラスGの第1領域Gaに影響が生じない位置で、バキュームカップ52の吸着が解除されて落下回収される。
【0045】
そして、板ガラスGが上述のように割断されると、上部支持部材23によって支持された板ガラスGの第1領域Gaは、後続の製造関連処理(トリミング、面取り等の端面加工、洗浄、成膜など)を施すために、レール部材21に沿った移動体22の移動によって
図1に示す位置から下流側の工程へと搬送される。
【0046】
以上、本発明の実施形態に係る板ガラスの製造装置及びその製造方法について説明したが、本発明の実施の形態はこれに限定されるわけではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更を施すことが可能である。
【0047】
上記の実施形態において、板ガラスの製造装置(又は製造方法)は、割断装置1の上流側に、溶融ガラスから板ガラスを成形する成形装置(又は成形工程)を更に備えていてもよい。成形装置は、オーバーフローダウンドロー法やフロート法などによって板ガラスGを成形する。ただし、上記の実施形態のように、板ガラスGを吊り下げ支持して縦姿勢の状態で、搬送及び割断する場合には、板ガラスGはオーバーフローダウンドロー法によって成形するのが好ましい。オーバーフローダウンドロー法の場合、板ガラスGが縦姿勢で成形されるので、板ガラスGの搬送及び割断に際して、板ガラスGの大きな姿勢変換が必要ないためである。この場合、製造装置(又は製造方法)は、割断装置1の上流側に、長尺なガラスリボンを所定長さ毎に幅方向に切断(曲げ応力割断、レーザー割断など)する切断装置(又は切断工程)を更に備えていてもよい。
【0048】
上記の実施形態において、板ガラスGの姿勢は、横姿勢(好ましくは水平姿勢)であってもよい。この場合、板ガラスGの下面を裏面支持部材3で支持した状態で、板ガラスGの上面を転動体4によって下面側(下方)に押し込むことが好ましい。このようにすれば、板ガラスGを割断した後、その位置で板ガラスGの第2領域Gbを落下させても、板ガラスGの第1領域Gaに接触する事態が生じにくい。なお、第2領域Gbを支持する第2支持装置5は省略してもよい。また、板ガラスGの上面を裏面支持部材3で支持した状態で、板ガラスGの下面を転動体4によって上面側(上方)に押し込むようにしてもよい。なお、板ガラスGの姿勢は、鉛直面や水平面に対して傾斜した傾斜姿勢でもよい。
【符号の説明】
【0049】
1 割断装置
2 第1支持装置
21 レール部材
22 移動体
23 上部支持部材
3 裏面支持部材
4 転動体
4a 回転軸
5 第2支持装置
51 ロボットアーム
52 バキュームカップ
G 板ガラス
Ga 板ガラスの第1領域
Gb 板ガラスの第2領域
S スクライブ線