(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係るサイドエアバッグ装置について説明する。なお、本明細書中の方向に関する記載は、特に断りのない限り、車両を基準としたものであり、例えば、前後は、車両前後方向を示し、上下は、車両上下方向を示し、側方は、車両幅方向における外側方向を示している。また、各図中に適宜示される矢印FRは、車両前方向を示し、矢印UPは、車両上方向を示し、矢印OUTは、車両幅方向における外側方向を示している。
【0012】
まず、
図1〜3を用いて、実施形態に係るサイドエアバッグ装置において、サイドエアバッグが膨張展開する際の経時的な変化について説明する。
図1(a)及び(b)は、サイドエアバッグが膨張展開する前の初期状態を説明する図であり、
図2(a)及び(b)は、サイドエアバッグが膨張展開し、かつ車両側壁が車内に侵入する前の状態を説明する図であり、
図3(a)及び(b)は、サイドエアバッグが膨張展開し、かつ車両側壁が車内に侵入した後の状態を説明する図である。ここで、
図1(a)、2(a)及び3(a)は、いずれも側方から見たときの概略図であり、
図1(b)、2(b)及び3(b)は、いずれも上方から見たときの概略図である。
【0013】
サイドエアバッグ装置30は、車両用座席(以下、単に「座席」ともいう)20のシートバック(背もたれ部)22のドア側の側部に取り付けられている。座席20としては、車両の運転席シート、助手席シート等が想定される。
【0014】
実際の車両使用時には座席20に乗員が着座することになるが、本実施形態では、国際統一側面衝突ダミー(World−SID)10が着座している。国際統一側面衝突ダミー10の着座姿勢は、現在、日本、欧州で採用されている側面衝突試験法(ECE R95)、又は、米国で採用されている側面衝突試験法(FMVSS214)で定められたものである。
図1(a)には、国際統一側面衝突ダミー10の着座姿勢を模式的に示している。
図1(a)に示した国際統一側面衝突ダミー10の上腕部11、肩部12、胸部13、腹部14、腰部16、背部18の位置に合わせて、サイドエアバッグ34の展開時の位置及び大きさが設定される。以下、国際統一側面衝突ダミー10を「乗員10」と称する。
【0015】
サイドエアバッグ34展開前の初期状態において、サイドエアバッグ装置30は、折り畳まれた袋状のサイドエアバッグ34と、袋の内部に配置されたインフレータ(ガス発生装置)32とを備える。インフレータ32は、シリンダー状(円柱状)に形成されており、シートバック22の高さ方向に沿って配置されている。インフレータ32の外周部の上部及び下部からは一対のボルトが突出している。ボルトは、サイドエアバッグ34を貫通し、シートバック22のサイドフレームに取り付けられている。
【0016】
インフレータ32は、車両の側面衝突時に作動する。まず、車両に搭載された衝突検知センサが車両の側面衝突を検知すると、衝突検知センサから送られた信号をECUが演算し、衝突のレベルが判定される。判定された衝突のレベルが、サイドエアバッグ34を膨らませる場合に該当すると、インフレータ32が着火され、燃焼による化学反応でガスが発生する。発生したガスは、インフレータ32のガス噴出孔からサイドエアバッグ34の内部に放出される。なお、インフレータ32の種類は特に限定されず、ガス発生剤を燃焼させて発生させるガスを利用するパイロ式インフレータ、圧縮ガスを利用するストアード式インフレータ、ガス発生剤を燃焼させて発生させるガスと圧縮ガスとの混合ガスを利用するハイブリッド式インフレータ等を用いることができる。
【0017】
サイドエアバッグ34は、
図1(a)及び(b)に示した初期状態では、折り畳まれた状態で、シートバック22側部に、シートバック22の表皮24に覆われて収納されている。インフレータ32から発生したガスが袋の内部に充填されるとサイドエアバッグ34は折り畳みが解かれながら膨張し、シートバック22の表皮24を破って露出する。そして、サイドエアバッグ34は、座席20のシートバック22側部から座席20に着座した乗員10の胸部13にかけて、乗員10の側方(車両側壁側)で膨張展開し、
図2(a)及び(b)に示したように、膨張展開後のサイドエアバッグ34は、乗員10の胸部13及び背部18の側面と重なるように配置される。
【0018】
サイドエアバッグ34の膨張展開は、障害物80との側面衝突によって車両側壁40が乗員10側へ変形すると同時に開始するよう設定される。車両側壁40としては、座席20に着座した乗員10の側方に位置する車体部分であれば特に限定されず、サイドドア、ピラー等を総称している。サイドエアバッグ34の膨張展開後、車両側壁40と乗員10の胸部13側面との間隔は、車両側壁40の変形量の増大に伴い狭くなる。最終的には、側面衝突により変形した車両側壁40が、膨張展開したサイドエアバッグ34を側方から押し潰し、衝突のエネルギーがサイドエアバッグ34により吸収される。側方から押し潰されたサイドエアバッグ34は、一対の傾斜端35A、35B同士の接近、即ちサイドエアバッグ34の厚みを成す基布部35の間隔が小さくなるのに応じて
図3(a)及び(b)に示したように変形し、上腕部11を押上げ、移動させる。これによって、上腕部11の介在なくサイドエアバッグ34によって胸部13を保護することが可能になる。
【0019】
図3(a)及び(b)に示した膨張展開状態のサイドエアバッグ34は、上腕部11の押上げを可能とするため、
図7に示した立体形状を有するものである。具体的には、サイドエアバッグ34の膨張展開時には、基布部35が乗員10の側方に展開し、乗員10の少なくとも胸部13の側面を覆う。また、基布部35の上部には、胸部13の上方から下方に亘って斜め(車両後方側から車両前方側に向かって前下がり)に延在する一対の傾斜端35A、35Bが設けられている。一対の傾斜端35A、35Bの間には、サイドエアバッグ34の上部を幅広に形成するために押上げ布部36が連結されている。押上げ布部36は、その幅方向がサイドエアバッグ34の厚み方向になるように配置されている。また、押上げ布部36は、一対の傾斜端35A、35Bに沿って、サイドエアバッグ34の側面上方から前面下方に亘って傾斜して配置されている。
【0020】
押上げ布部36は、サイドエアバッグ34の膨張展開時、乗員10の上腕部11に対応した位置に配置される。乗員10の上腕部11は、初期状態において胸部13側面と車両側壁40との間にあるが、サイドエアバッグ34が胸部13側面と車両側壁40との間に膨張展開することで、押上げ布部36が、乗員10の上腕部11の下面11Aと当接することになる。なお、「上腕部11の下面11A」とは、人体の後面側にある後上腕部の面を意味する。車両側壁40の変形量が少ないときには、押上げ布部36よりも面積の大きい基布部35がガスの膨張力を多く受けるので、サイドエアバッグ34は一対の傾斜端35A、35B間の幅が最大限に大きくなるように膨らむ。サイドエアバッグ34の膨張展開は、車両側壁40によって押し潰される前に完了するよう設定される。車両側壁40で押し潰される前の展開膨張したサイドエアバッグ34では、押上げ布部36は、
図4に示したように平面状である。乗員10の上腕部11は、平面状の押上げ布部36によって下から支持され、移動させられる。
【0021】
その後、車両側壁40の変形量が大きくなり、基布部35が側方から車両側壁40によって押し潰される。これにより、
図5に示したように、一対の傾斜端35A、35B間の幅は狭くなり、押上げ布部36は内圧によって乗員10の上腕部11に向かって突出するように変形し、
図6に示したような立体形状となる。その結果、移動させられた乗員10の上腕部11は、突出した押上げ布部36によって更に上方へ押上げられることとなる。また、車両側方から見たときの一対の傾斜端35A、35Bの位置は押上げられる前の上腕部11の位置に移動する。すなわち、上腕部11が押上げられることで空いた空間には、基布部35及び押上げ布部36が配置されることとなる。
【0022】
サイドエアバッグ34の製法は特に限定されないが、例えば、
図7(a)に示したように1枚の基布を2つ折りにしたものを基布部35とし、
図7(b)に示した1枚の押上げ布を押上げ布部36としたうえで、一対の傾斜端35A、35Bに沿って、基布部35と押上げ布部36を連結することで製造できる。具体的には、
図7(b)に示した押上げ布部36を、車両前後方向の両端に設けた切れ込み同士を結ぶ線に沿って折り畳み、切れ込みの周縁部を連結する 。それにより、押上げ布部36の長手方向の両側縁36A、36Bと両端部36C、36Dとで開口縁部が形成された舟形の立体形状が形成される。その後、押上げ布部36の長手方向の側縁の一方36Aを、基布部35の一対の傾斜端の一方35Aに対して連結し、押上げ布部36の長手方向の側縁の他方36Bを、基布部35の一対の傾斜端の他方35Bに対して連結する。更に、
図7(a)に示したように、基布部35の一対の傾斜端35A、35Bと連結された押上げ布部36は、基布部35の一対の傾斜端35A、35B間に配置される。そして、一対の傾斜端35A、35B以外の基布部35の向かい合う端部を互いに連結することによって、袋状のサイドエアバッグ34を作製できる。上記連結の方法としては、例えば、縫製、接着、溶着等が挙げられ、なかでも縫製が好適である。連結後の袋状に形成されたサイドエアバッグ34の立体形状を
図7(c)に示した。
図7(c)では、
図7(a)の一対の傾斜端35A、35Bを離間させて押上げ布部36を平面状にした状態が示されている。
【0023】
基布部35及び押上げ布部36は、例えば、ナイロン66、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の糸で形成することができる。また、耐熱性の向上や、気密性の向上等のために、基布部35及び押上げ布部36は、シリコン等で表面が被覆されたものであってもよい。
【0024】
なお、
図7(a)及び(b)では、1枚の基布を2つ折りにして基布部35とし、1枚の押上げ布を押上げ布部36とした場合を示しているが、基布部35は、対向する2枚の基布を連結して作製したものであってもよい。
【0025】
また、サイドエアバッグ34には、ガスを排出するためのベントホールを設けることが好ましい。膨張展開したサイドエアバッグ34が押し潰されると内圧が上昇するため、サイドエアバッグ34の反力が高くなる。すなわち、サイドエアバッグ34が硬くなるが、ベントホールからガスを適度に排出することで、サイドエアバッグ34の吸収特性を制御することができる。
【0026】
本実施形態では、座席20に着座した乗員10の上腕部11が、側面衝突時に車両側方から見て乗員10の胸部13と重なる位置にあっても、乗員10の胴体部の着座姿勢は維持したまま、サイドエアバッグ34が車両側壁40に押し潰されながら展開状態を維持し、変形することで、押上げ布部36が上腕部11のみを上方向に移動させる。これにより、乗員10の胸部13とサイドエアバッグ34との間に上腕部11が介在しないようにすることができる。そして、乗員10の上腕部11が移動した後の空いた空間にはサイドエアバッグ34が収まり、上腕部11が胸部13を押圧しないので胸部13を良好に保護できる。
【0027】
また、乗員10の上腕部11は、サイドエアバッグ34の膨張展開とともに押上げ布部36が一対の傾斜端35A、35B間にサイドエアバッグ34上面を形成し、上腕部11に当接した後、サイドエアバッグ34が潰れて押上げ布部36が突出することで押上げられる。このように、乗員10の上腕部11は確実にサイドエアバッグ34に当接するとともに、押上げ布部36はサイドエアバッグ34の展開膨張により勢いよく突出することがなく、サイドエアバッグ34が潰れるのに応じて相対的にゆっくりと乗員10の上腕部11を押し上げるので、サイドエアバッグ34が乗員10の上腕部11と車両側壁40との隙間に展開膨張する虞を低減でき、また上腕部11の上方向への移動に際し、上腕部11を必要以上に勢いよく跳ね上げることも抑制できる。
【0028】
また、車両側壁40の変形に応じて上腕部11を押上げ、胸部13側面に基布部35を配置することができるため、上腕部11を押上げるタイミングとサイドエアバッグ34が胸部13を保護するタイミングとを合わせることができ、安定して乗員10の胸部13を保護することができる。
【0029】
また、基布部35の向かい合う端部が互いに連結されていることで、膨張展開したサイドエアバッグ34の連結部周辺における厚みは薄くなる。そのため、押上げ布部36以外の部分は乗員10側面と車両側壁40との間に入り込みやすく、押上げ布部36が設けられていても、サイドエアバッグ34の車両前方への展開力が損なわれることはない。
【0030】
また、本実施形態では、押上げ布部36は、車両前後方向における2つの端部36C、36Dがサイドエアバッグ34の内方へ突出する立体形状に形成されている。サイドエアバッグ34内に充填されたガスにより、サイドエアバッグ34の内方へ突出する立体形状に形成された部分は、サイドエアバッグ34の外方へ突出しようとするが、サイドエアバッグ34における基布部35の厚み方向の受圧面積が大きいため、押上げ布部36は、その幅方向に引っ張られて上方に突出しない。そして、サイドエアバッグ34が潰れるのに応じて厚みが減少するため、押上げ布部36はその幅方向に引っ張られることなく内圧によって上方に突出することができる。また、押上げ布部36の延在方向における端部36C、36Dが立体形状に形成されていることで、押上げ布部36の延在方向の中央だけでなく端部36C、36Dまで突出することが可能となるため、押上げ布部36の延在方向全体で乗員10の上腕部11の下面全体と当接し押上げることができる。これにより、サイドエアバッグ34の内圧に関係なく上腕部11を押上げることができる。なお、押上げ布部36は、車両前後方向における一方の端部36C又は36Dがサイドエアバッグ34の内方へ突出する立体形状に形成されたものであってもよい。
【0031】
また、押上げ布部36は、車両前後方向における少なくとも一方の端部36C、36Dがサイドエアバッグ34の外方へ突出する立体形状に形成されたものであってもよい。この場合であっても、押上げ布部36の延在方向における端部36C、36Dが立体形状に形成されていることで、押上げ布部36の延在方向の中央だけでなく端部36C、36Dまで突出することが可能となり、押上げ布部36の延在方向全体で乗員10の上腕部11の下面全体と当接し押上げることができる。
【0032】
また、本実施形態では、押上げ布部36は、車両前後方向に沿って基布部35間に折り返された状態で基布部35の一対の傾斜端35A、35B間に配置されており、車両前後方向の端部36C、36Dが基布部35とともに止着されている。車両前後方向の端部36C、36Dが止着されていることで、押上げ布部36は、サイドエアバッグ34が押し潰されるまでは平面状となる。そのため、押上げ布部36が乗員10の上腕部11と当接したときに上腕部11を勢いよく移動させることがなく、安定して上腕部11を押上げることができる。また、サイドエアバッグ34が折り畳まれた状態のときに嵩張らない。
【0033】
また、本実施形態では、サイドエアバッグ34の膨張展開状態において、基布部35の一対の傾斜端35A、35Bは、シートバック22の延在方向Yに対し、35°〜70°傾斜して設けられていることが好ましく、例えば約50°傾斜して設けられる。一対の傾斜端35A、35Bの延在方向Xに対するシートバック22の延在方向Yの傾斜角αは、膨張展開したサイドエアバッグ34の押上げ布部36の面の傾斜が、座席20に着座した乗員10の上腕部11の下面に沿うように、着座した乗員10の胴体の向き(トルソライン)に対する上腕部11の角度に基づき設定されることが好ましい。上記傾斜角αが35°〜70°の範囲内であれば、乗員10の胴体部の着座姿勢を維持した状態で押上げ布部36が乗員10の上腕部11の下面11Aと当接し上腕部11のみを持ち上げることができるため、乗員10の胸部13に負荷を与えず保護できる。なお、シートバック22の延在方向Yは、トルソラインや筒状のインフレータ32の中心軸に対して、ほぼ平行であり、例えば車両の垂直方向に対して約20°に設定される。
【0034】
なお、車両側方から見たときに、一対の傾斜端35A、35Bの輪郭は、
図3(a)に示したように直線状であってもよいが、
図7(a)に示したように、傾斜端35A、35Bの車両前後方向の中間部35Cが外方に湾曲していることが好ましい。外方に湾曲していることにより、サイドエアバッグ34の形状が、上腕部11が押上げられた後の空いた空間に適合しやすくなる。
【0035】
また、本実施形態では、押上げ布部36は、互いに対向し、基布部35の一対の傾斜端35A、35Bとそれぞれ連結された2つの側縁36A、36Bを有し、2つの側縁36A、36B間における押上げ布部36の最大幅は、65mmよりも大きいことが好ましい。押上げ布部36の幅Wが大きいほど、押上げ布部36の近辺における膨張展開時のサイドエアバッグ34の厚みは大きくなる。つまり、乗員10の上腕部11と車両側壁40との隔たりをも埋めるように膨張展開することができる。そのため、2つの側縁36A、36B間における押上げ布部36の最大幅が乗員10の上腕部11の太さよりも大きいことで、上腕部11が押上げ布部36から逸れることを防止できる。したがって、乗員10の上腕部11を安定して押上げることができる。
【0036】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に記載された内容に限定されるものではない。実施形態に記載された各構成は、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜削除されてもよいし、追加されてもよいし、変更されてもよいし、組み合わされてもよい。