特許第6738666号(P6738666)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6738666大気環境における耐食性に優れるアルミニウム合金製熱交換器及びアルミニウム合金製熱交換器の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6738666
(24)【登録日】2020年7月22日
(45)【発行日】2020年8月12日
(54)【発明の名称】大気環境における耐食性に優れるアルミニウム合金製熱交換器及びアルミニウム合金製熱交換器の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/00 20060101AFI20200730BHJP
   C22F 1/04 20060101ALI20200730BHJP
   F28F 21/08 20060101ALI20200730BHJP
   F28F 19/06 20060101ALI20200730BHJP
   F28F 1/32 20060101ALI20200730BHJP
   B23K 1/00 20060101ALI20200730BHJP
   B23K 1/19 20060101ALI20200730BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20200730BHJP
   B23K 101/14 20060101ALN20200730BHJP
   B23K 103/10 20060101ALN20200730BHJP
【FI】
   C22C21/00 J
   C22C21/00 E
   C22C21/00 L
   C22F1/04 B
   C22F1/04 Z
   F28F21/08 B
   F28F21/08 D
   F28F21/08 A
   F28F19/06 A
   F28F1/32 B
   B23K1/00 S
   B23K1/00 330L
   B23K1/19 D
   !C22F1/00 623
   !C22F1/00 627
   !C22F1/00 626
   !C22F1/00 612
   !C22F1/00 640A
   !C22F1/00 630M
   !C22F1/00 651A
   !C22F1/00 682
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 685Z
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 686Z
   !C22F1/00 694A
   B23K101:14
   B23K103:10
【請求項の数】6
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-123913(P2016-123913)
(22)【出願日】2016年6月22日
(65)【公開番号】特開2017-226879(P2017-226879A)
(43)【公開日】2017年12月28日
【審査請求日】2019年6月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】110000268
【氏名又は名称】特許業務法人田中・岡崎アンドアソシエイツ
(72)【発明者】
【氏名】村田 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】大谷 良行
(72)【発明者】
【氏名】藤村 涼子
【審査官】 松本 陶子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−074226(JP,A)
【文献】 特開2014−062296(JP,A)
【文献】 特開2005−060790(JP,A)
【文献】 特開2015−061995(JP,A)
【文献】 特開2014−054656(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00
B23K 1/00
B23K 1/19
C22F 1/04
F28F 1/32
F28F 19/06
F28F 21/08
B23K 101/14
B23K 103/10
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mn:0.5mass%以上2.0mass%以下、Zn:1.0mass%以上4.0mass%以下(以下、mass%を単に%と記載する)を含有し、残部Al及び不可避不純物からなるアルミニウム合金製の心材と、前記心材の少なくとも一方の面にクラッドされたアルミニウム合金製のろう材を備えるブレージングシートからなるフィンと、Zn防食層を有さないアルミニウム合金製チューブと、をろう付接合によって一体化したアルミニウム合金製熱交換器において、
前記ブレージングシートの前記アルミニウム合金製のろう材は、Si含有量が6.8%以上11.0%以下のSiを含有するアルミニウム合金よりなり、
前記アルミニウム合金製チューブは、Cu:0.1%以上0.8%以下、Mn:0.05%以上0.5%以下を含有し、残部Al及び不可避不純物からなるアルミニウム合金よりなり、
前記フィンは、残留ろう材層を備えており、
前記残留ろう材層中に、円相当径で0.1μm以上2.5μm以下のSi系析出物が10000個/mm以上500000個/mm以下存在し、
前記フィンに対しフィレットの電位が50mV以内の範囲で貴であることを特徴とするアルミニウム合金製熱交換器。
【請求項2】
Mn:0.5%以上2.0%以下、Zn:1.0%以上4.0%以下を含有し、残部Al及び不可避不純物からなるアルミニウム合金製の心材と、前記心材の少なくとも一方の面にクラッドされたアルミニウム合金製のろう材を備えるブレージングシートからなるフィンと、Zn防食層を有さないアルミニウム合金製チューブと、をろう付接合によって一体化したアルミニウム合金製熱交換器において、
前記ブレージングシートの前記アルミニウム合金製のろう材は、Si含有量が6.8%以上11.0%以下のSiを含有するアルミニウム合金よりなり、
前記アルミニウム合金製チューブは、Cu:0.1%以上0.8%以下、Mn:0.05%以上0.5%以下を含有し、残部Al及び不可避不純物からなるアルミニウム合金よりなり、
前記フィンは、残留ろう材層を備えており、
前記残留ろう材層中に、円相当径で0.1μm以上2.5μm以下のSi系析出物が10000個/mm以上350000個/mm以下存在し、
前記フィンに対しフィレットの電位が−50mV以内の範囲で卑であることを特徴とするアルミニウム合金製熱交換器。
【請求項3】
ブレージングシートの心材は、更に、Si:0.1%以上1.0%以下、Fe:0.05%以上1.0%以下、Cu:0.05%以上1.0%以下、Mg:0.05%以上1.0%以下、Ti:0.05%以上0.3%以下、Zr:0.05%以上0.3%以下、Cr:0.05%以上0.3%以下、V:0.05%以上0.3%以下、の1種以上の元素を含有する請求項1又は請求項2に記載のアルミニウム合金製熱交換器。
【請求項4】
請求項1に記載の熱交換器の製造方法であって、
ブレージングシートからなるフィンとチューブとを組み付けし、590℃以上630℃以下の温度で1min以上15min以下保持するろう付加熱を行い、
その後、500℃〜200℃の範囲における冷却速度を50℃/min以上として室温まで冷却した後、
250℃以上400℃未満の温度で3min以上30h以下保持することを特徴とするアルミニウム合金製熱交換器の製造方法。
【請求項5】
請求項2に記載の熱交換器の製造方法であって、
ブレージングシートからなるフィンと押出扁平チューブとを組み付けし、590℃以上630℃以下の温度で1min以上15min以下保持するろう付加熱を行い、
その後、500℃〜200℃の範囲における冷却速度を50℃/min以上として室温まで冷却した後、
400℃以上450℃以下の温度で5h以上15h以下保持することを特徴とするアルミニウム合金製熱交換器の製造方法。
【請求項6】
請求項5記載の方法で製造した熱交換器を、更に、250℃以上400℃未満の温度で3min以上30h以下保持することを特徴とするアルミニウム合金製熱交換器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気環境における腐食に対する耐久性に優れ、室外機等に有用なアルミニウム合金製の熱交換器及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
空調機器の室外機用の熱交換器としては、従来から、銅合金性のチューブにアルミニウム合金製のフィンを組み合わせ、接合した熱交換器が現用されている。しかし、近年、銅価格が高騰する傾向にあることから、コスト低減のためアルミニウム合金製のチューブとアルミニウム合金製のフィンとを組み合わせたアルミニウム合金製熱交換器の需要が高まっている。
【0003】
アルミニウム合金は、軽量で熱伝導性に優れていること、適切な処理により高耐食性が実現できること、並びに、ブレージングシートを利用したろう付によって効率的な接合が可能である、といった多くの利点を有する。そのため、アルミニウム合金は、自動車用等の熱交換器用材料として重用されてきた。そして、これらの利点は、空調機器の室外機用の熱交換器材料としても有用である。ここで、このような室外機用熱交換器の形態として、アルミニウム合金製のチューブと、心材の少なくとも一方の面にろう材をクラッドしたブレージングシートを成形加工したアルミニウム合金製の外部フィンとを組合せ、ろう付接合した熱交換器が現用されている。尚、アルミニウム合金製のチューブとして、押出加工により製造され、扁平形状を有する押出扁平チューブが使用されることが多い。
【0004】
アルミニウム合金製熱交換器において、アルミニウム合金製チューブは、冷媒等の流体を流通させる目的のものである。そのため、チューブに孔食によるリークを発生させないよう、孔食を抑制する防食手法が施されている。この防食手法として、フィンにZnを含有させることで、フィンをチューブに対し犠牲陽極材として作用させてチューブの腐食を抑制する手法がある。また、チューブ外面にZnを付与して、このZnをチューブに対し犠牲陽極材として作用させることでもチューブの防食を図る方法もある。但し、チューブ外面にZnを付与する方法では、チューブを押出成形した後にZnを付与する工程が必要となるため製造コストが高くなる傾向がある。そのため、前者のフィンを犠牲防食材として作用させる手法が特に有用であるとされている。
【0005】
もっとも、上記のようなチューブの防食手法にも問題が無いわけではない。即ち、上記の防食手法は、フィンが犠牲陽極材として機能することを前提しているが、この機能が失われる可能性があるという問題がある。この問題の要因としては、チューブとフィンとをろう付した際に、チューブとフィンとの間に形成されたフィレットにZnが濃縮してフィレットの電位が卑化することが挙げられている。フィレットの電位の卑化が生じると、腐食初期にフィレットの優先腐食が発生し、チューブとフィンとの接続が断たれる。その結果、フィンの犠牲陽極材としての機能が失われるというものである。そして、フィンが犠牲陽極材としての機能が失われると、チューブの腐食が進行し、貫通が生じるまでの時間が短くなることとなる。
【0006】
そこで、この問題を鑑みた熱交換器の耐食性を向上させる手法も種々検討されている。その方法として、ろう付加熱完了後の熱交換器に再度加熱処理を施して、チューブとフィンとの電位構成を制御する方法が試みられている。例えば、特許文献1は、表面にZnを含有する犠牲陽極材がクラッドされたアルミニウム合金製のチューブ材に、Znを含む心材の表面にSiを含むAl系ろう材がクラッドされたフィン材をろう付で接合し、ろう付後に230℃で50時間の熱処理を行うことで、耐食性に優れる熱交換器を製造するとの技術を開示している。また、特許文献2は、表面にZnとSiを含有し、ろう付性を有する犠牲陽極材がクラッドされたアルミニウム合金製のチューブ材に、Al−Zn系フィン材をろう付で接合し、ろう付後に230℃で50時間の熱処理を行うことで、耐食性に優れる熱交換器を製造するとの技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014−178101号公報
【特許文献2】特開2014−177694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これら特許文献の技術では、ろう付後の熱処理により、チューブとフィンとの電位構成を変化させない制御を行うことで、熱交換器の耐食性を向上させている。また、この熱処理後を行った後には、熱交換器が加熱されても電位構成に影響はないので高温下での使用に際しても耐食性を有するとされている。しかしながら、本発明者等によれば、これらの先行技術では、熱交換器の大気環境における耐食性を向上させるには不十分であった。
【0009】
本発明は、以上のような背景のもとになされたものであり、大気環境における耐食性に優れた室外機用途等のアルミニウム合金製熱交換器を提供することを課題とするものある。この課題において、特に、フィレットの優先腐食を抑制することで熱交換器の耐久寿命の改善を図ることとした。また、本発明では、かかる耐食性に優れたアルミニウム合金製の室外機用熱交換器を効率的に製造する方法も提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記課題を解決すべく、Znを含むアルミニウム合金製心材にAl−Si合金ろう材をクラッドしたブレージングシートからなるフィンと、アルミニウム合金製のチューブとをろう付け接合してなる熱交換器について、フィンとチューブとの接合部に形成されるフィレットの電位制御をより厳密に行うこととした。即ち、フィンの電位とフィレットの電位とを近づけることで、フィレットの優先腐食を抑制し、フィンが犠牲陽極材として作用する時間を長くすることで、大気環境における熱交換器の耐食性を向上させることとした。ここで、本発明者等は、フィン及びフィレットの電位制御の手法として、まず、フィン表面に残留する残留ろう材の材料組織を制御してフィンの耐食性及び電位を制御することに想到した。また、この残留ろう材の材料組織の制御に加えて、フィレット中のZnを拡散させることでフィレットの電位を制御することにも想到した。
【0011】
そこで、本発明者等は、残留ろう材の組織制御とフィレット中のZnの拡散を好適に行うため、フィンとチューブとのろう付け条件、及び、ろう付け後の熱処理条件について更なる検討を行った。その結果、フィンろう付け後の冷却速度を制御し、更に、ろう付け完了後の熱処理として、従来技術である230℃より高温で熱処理することを見出した。そして、これらの手法を適宜に組み合わせ、フィンとフィレットとの電位構成が最適化された熱交換器を得ることができることを見出した。本発明は、この知見に基づきなすに至ったものである。
【0012】
上記課題を解決する本発明の第1の熱交換器は、Mn:0.5mass%以上2.0mass%以下、Zn:1.0mass%以上4.0mass%以下(以下、mass%を単に%と記載する)を含有し、残部Al及び不可避不純物からなるアルミニウム合金製の心材と、前記心材の少なくとも一方の面にクラッドされたアルミニウム合金製のろう材を備えるブレージングシートからなるフィンと、Zn防食層を有さないアルミニウム合金製チューブと、をろう付接合によって一体化したアルミニウム合金製熱交換器において、前記フィンは、残留ろう材層を備えており、前記残留ろう材層中に、円相当径で0.1μm以上2.5μm以下のSi系析出物が10000個/mm以上500000個/mm以下存在し、前記フィンに対しフィレットの電位が50mV以内の範囲で貴であることを特徴とするアルミニウム合金製熱交換器である。
【0013】
また、本発明の第2の熱交換器は、Mn:0.5%以上2.0%以下、Zn:1.0%以上4.0%以下を含有し、残部Al及び不可避不純物からなるアルミニウム合金製の心材と、前記心材の少なくとも一方の面にクラッドされたアルミニウム合金製のろう材を備えるブレージングシートからなるフィンと、Zn防食層を有さないアルミニウム合金製チューブと、をろう付接合によって一体化したアルミニウム合金製熱交換器において、前記フィンは、残留ろう材層を備えており、前記残留ろう材層中に、円相当径で0.1μm以上2.5μm以下のSi系析出物が10000個/mm以上350000個/mm以下存在し、前記フィンに対しフィレットの電位が−50mV以内の範囲で卑であることを特徴とするアルミニウム合金製熱交換器である。
【0014】
そして、これらの熱交換器においては、ブレージングシートの心材は、更に、Si:0.1%以上1.0%以下、Fe:0.05%以上1.0%以下、Cu:0.05%以上1.0%以下、Mg:0.05%以上1.0%以下、Ti:0.05%以上0.3%以下、Zr:0.05%以上0.3%以下、Cr:0.05%以上0.3%以下、V:0.05%以上0.3%以下の1種以上の元素を含有しておいても良い。
【0015】
また、アルミニウム合金製チューブは、Cu:0.1%以上0.8%以下、Mn:0.05%以上0.5%以下を含有し、残部Al及び不可避不純物からなるアルミニウム合金よりなるものが好ましい。
【0016】
本発明の第1の熱交換器の製造方法は、ブレージングシートからなるフィンとチューブとを組み付けし、590℃以上630℃以下の温度で1min以上15min以下保持するろう付加熱を行い、その後、500℃〜200℃の範囲における冷却速度を50℃/min以上として室温まで冷却した後、250℃以上400℃未満の温度で3min以上30h以下保持することを特徴とする。
【0017】
本発明の第2の熱交換器の製造方法は、ブレージングシートからなるフィンと押出扁平チューブとを組み付けし、590℃以上630℃以下の温度で1min以上15min以下保持するろう付加熱を行い、その後、500℃〜200℃の範囲における冷却速度を50℃/min以上として室温まで冷却した後、400℃以上450℃以下の温度で5h以上15h以下保持することを特徴とする。
【0018】
尚、上記で400℃以上450℃以下の温度で5h以上15h以下保持して製造した熱交換器について、更に、250℃以上400℃未満の温度で3min以上30h以下保持しても良い。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るアルミニウム合金製熱交換器は、フィンの電位とフィレットの電位とを近づけることで、フィレットの優先腐食を抑制し、フィンとチューブとの接続が保たれることにより、チューブに対しフィンが犠牲陽極材として作用する時間が長くなることで大気環境における耐食性を向上させている。本発明に係る熱交換器は、大気環境における耐食性に優れ、かつ、ろう付後に再度加熱することで製造可能であるので製造性に優れ、大気環境における耐食性が必要とされる自動車用熱交換器にも有効に採用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明に係る第1、第2のアルミニウム合金製熱交換器について、その実施形態に基づき詳細に説明する。上記の通り、本発明に係る第1、第2のアルミニウム合金製熱交換器は、いずれも、アルミニウム合金製心材にアルミニウム合金ろう材をクラッドしたブレージングシートからなるフィンと、アルミニウム合金製のチューブとをろう付け接合して構成される。そして、ブレージングシートのろう材はフィレットを形成すると共に、その一部がフィン表面に残留し残留ろう材層となる。以下の説明では、フィンを構成するブレージングシートの構成、及び、チューブの構成を説明した後、残留ろう材層の材料組織上の特徴、並びに、フィレットの電位とフィンの電位との関係について説明する。尚、本願明細書において、合金の成分組成の説明に関して単に「%」と表記している場合は、「mass%」を意味する。
【0021】
(1)フィン(ブレージングシート)の構成
(1.1)ブレージングシートの心材の成分
上記の通り、フィンを構成するブレージングシートの心材は、Mn、Znを含有し、残部Al及び不可避不純物からなる。また、その他の選択的添加元素として、Si、Fe、Cu、Mg、Ti、Zr、Cr、Vの1種以上を含むことができる。以下、各成分の含有量及び作用について説明する。
【0022】
Mn:0.5%以上2.0%以下
Mnは、Al−Mn系金属間化合物として晶出または析出し、ろう付後の強度の向上に寄与する。さらに、Al−Mn−Si化合物を形成してマトリックス中へのSi固溶度を低くし、マトリックスの融点を向上させる。Mnの含有量が0.5%未満ではその効果が小さく、2.0%を超えると、粗大なAl−Mn系化合物相を形成するため、耐食性と加工性が低下する。よって、Mnの含有量は0.5%以上2.0%以下とする。
【0023】
Zn:1.0%以上4.0%以下
Znは、Alの孔食電位を低くする。ろう付時に心材からろう材へZnが拡散することで、フィン全体にZnが拡散しチューブに対して犠牲防食作用を発揮する。Znが1.0%未満ではこの効果が不十分であり、Znが4.0%を超えると、フィレットのZn濃度が高くなり、ろう付後に熱処理を行っても、フィンとフィレットとの電位差が大きくなり、フィレットの優先腐食を抑制することができない。更にフィンの自己腐食速度が速くなり、フィンが消耗することで犠牲防食作用が早期に消失する。よってZnの含有量は、1.0%以上4.0%以下とする。
【0024】
Si:0.1%以上1.0%以下
Siは選択的添加元素である。心材中のSiはMnと共存させることにより、Al−Mn−Si系化合物相となってマトリックス中に分散あるいは固溶して強度を向上させる。Siの含有量が0.1%未満ではその効果が小さい。1.0%を超えると、心材内部のAl−Si系やAl−Mn−Si系化合物の析出量が増大し、フィンの腐食速度が増大する恐れがある。よって、Siの含有量は0.1%以上1.0%以下が好ましい。
【0025】
Fe:0.05%以上1.0%以下
Feも選択的添加元素である。Feは金属間化合物として晶出または析出し、心材強度を向上させる。また、Al−Mn−Fe系、Al−Fe−Si系、Al−Mn−Si−Fe系化合物相を形成して、マトリックス中のMn、Si固溶度を低下させ、マトリックスの融点を上げる。Feの含有量が0.05%未満ではその効果が小さい。1.0%を超えると腐食速度が大きくなる、また、巨大晶出物の出現により、鋳造製や圧延性を低下させる。よって、Feの含有量は0.05%以上1.0%以下が好ましい。
【0026】
Cu:0.05%以上1.0%以下
Cuも選択的添加元素である。Cuは、マトリックス中に固溶して強度を向上させるとともに、心材の電位を貴化し、残留ろう材との電位差を大きくすることで残留ろう材の犠牲防食効果を向上させる。Cuの含有量が0.05%未満ではその効果が小さい。1.0%を超えると、マトリックスの融点が低下するため、ろう付時に材料が溶融しやすくなる。よって、Cuの含有量は0.05%以上1.0%以下が好ましい。
【0027】
Mg:0.05%以上1.0%以下
Mgも選択的添加元素である。MgはMgSiとして微細析出することで強度を向上させる。Mgの含有量が0.05%未満ではその効果が小さい。1.0%を超えると、ろう付性を阻害したり、粒界腐食が発生し耐食性が低下したりするおそれがある。よって、Mgの含有量は0.05%以上1.0%以下が好ましい。
【0028】
Ti:0.05%以上0.3%以下
Tiも選択的添加元素である。Tiは微細な金属間化合物を形成し合金の強度と心材の自己耐食性を向上させる。Tiの含有量が0.05%未満ではその効果が十分に得られない。0.3%を超えると、鋳塊に粗大な化合物が生じて熱間圧延時に割れが生じてしまう。よって、Tiの含有量は0.05%以上0.3%以下が好ましい。
【0029】
Zr、Cr、V:0.05%以上0.3%以下
Zr、Cr、Vも選択的添加元素である。これらの元素は、いずれも微細な金属間化合物を形成し強度を向上させる。Zr、Cr、Vの含有量が0.05%未満ではその効果が十分に得られない。0.3%を超えると、成形性が低下し、加工時に割れが生じてしまう。よって、Zr、Cr、Vの含有量は、それぞれ0.05%以上0.3%以下が好ましい。
【0030】
(1.2)ブレージングシートのろう材の成分
フィンに使用するアルミニウム合金製ブレージングシートは、チューブとのろう付を目的として、少なくとも一方の面にろう材を備える。このろう材としては、特に限定されるものではなく、例えば、JIS4343、JIS4045等に規定したアルミニウム合金が挙げられる。ブレージングシートのろう材は、ろう付け接合の際、フィン材とチューブ材との間にフィレットを形成する。そして、ろう材の一部は、ろう付け後に心材表面に残留して残留ろう材層となる。
【0031】
(2)チューブの構成
次に、本発明に係るアルミニウム合金製熱交換器のチューブを構成するアルミニウム合金の組成成分及びその作用について説明する。チューブは、Cu、Mnを含有し、残部Al及び不可避不純物からなるアルミニウム合金よりなる。本発明に係るアルミニウム合金製熱交換器のチューブ材は、押出扁平チューブの形態で適用されたものが好ましい。
【0032】
Cu:0.1%以上0.8%以下
Cuは、マトリックス中に固溶して強度を向上させるとともに、電位を貴化し、犠牲陽極材との電位差を大きくすることで犠牲陽極材による犠牲防食効果を向上させる。Cuの含有量が0.1%未満ではその効果が小さい。0.8%を超えると、マトリックスの融点が低下するため、ろう付時に材料が溶融しやすくなる。よって、Cuの含有量は0.1%以上0.8%以下が好ましい。
【0033】
Mn:0.05%以上0.5%以下
Mnは、Al−Mn系金属間化合物として晶出または析出して、ろう付加熱後の強度を向上させるとともに、固溶Mnにより電位を貴化させる。この効果を得るためにはMnの含有量を0.05%以上にする必要がある。ただし、Mnの含有量が0.5%を超えると押出性が低下するとともに、巨大な金属間化合物が晶出し、製造性を阻害する恐れがある。よって、Mnの含有量は0.05%以上0.5%以下が好ましい。
【0034】
(3)残留ろう材層及びフィンとフィレットとの電位構成
既に説明したように、本発明に係る第1、第2のアルミニウム合金製熱交換器は、いずれも、フィンの表面上に残留ろう材層を有する。本発明では、この残留ろう材層の材料組織の制御を行うことを特徴としている。具体的には、残留ろう材層中に存在する、円相当径で0.1μm以上2.5μm以下のSi系析出物の個数を規定している。これは、Si系析出物を適切に分散させることで、残留ろう材層の耐食性向上効果が得られるからである。この効果は、カソードサイトとなるSi系析出物を微細に分散させることで腐食反応が分散されるためである。また、Siが析出することで残留ろう材中のSi固溶度が低下し、これにより孔食電位が卑化し、残留ろう材の電位がフィレットの電位よりも卑化し、フィレットの優先腐食が抑制されるという効果もある。以上のような、残留ろう材の耐食性向上、及び、フィレットの優先腐食抑制によりフィン剥がれを防止し、フィンの犠牲防食が作用する時間が長くなることで熱交換器の耐食性が向上する。
【0035】
そして、本発明に係る第1、第2のアルミニウム合金製熱交換器は、いずれも、フィンの電位とフィレットの電位とが近接している。熱交換器の防食における最優先事項はチューブの防食であり、チューブの防食はフィンを犠牲陽極材とすることで達成される。従って、熱交換器の耐食性の良否は、フィンの犠牲陽極材としての機能を如何に長時間維持させるかによって判断されるといっても過言ではない。本発明では、フィンとフィレットとの電位構成について、それらの差を一定範囲内に抑制する。これにより、フィンの過剰な腐食とフィレットの優先腐食を抑制し、フィンの犠牲陽極材としての機能が適切に発揮されるようにしている。そして、フィンは、上記の残留ろう材層の材料組織制御によって適度な耐食性を有することから、フィンの本来の機能と共に犠牲陽極材としての機能も長時間維持することができる。
【0036】
ここで、本発明に係る第1、第2のアルミニウム合金製熱交換器について、それぞれにおける、残留ろう材層の材料組織及びフィンとフィレットとの電位構成について説明する。
【0037】
(3.1)第1の熱交換器の材料組織と電位構成
本願第1のアルミニウム合金製熱交換器における残留ろう材層の材料組織は、残留ろう材層中の、円相当径で0.1μm以上2.5μm以下のSi系析出物の数は、10000個/mm以上500000個/mm以下とする。Si系析出物が10000個/mm未満では、Siの析出が不十分であり耐食性向上効果及び電位卑化が十分に得られない。一方、残留ろう材に析出されるSi系析出物の数には限界があり、500000個/mmを超えて析出させることは困難である。
【0038】
そして、本願第1のアルミニウム合金製熱交換器においては、フィンに対し、フィレットの電位が50mV以内の範囲で貴になっている。フィンに対しフィレットの電位が50mVを超えて貴であると、フィレット周辺のフィンのフィレットに対する犠牲防食効果が大きくなり、フィンの腐食によりフィン剥がれが生じる。フィン剥がれによるフィンの喪失により、チューブに対し犠牲防食効果が作用しなくなる。よって、フィンに対しフィレットの電位が50mV以内の範囲で貴とする。尚、この第1のアルミニウム合金製熱交換器においては、フィンに対しフィレットの電位が「貴」である。よって、フィンに対しするフィレットの電位差は0mVよりプラス側となっていることが好ましい。
【0039】
(3.2)第2の熱交換器の材料組織と電位構成
本願第2のアルミニウム合金製熱交換器における残留ろう材層の材料組織は、残留ろう材層中の、円相当径で0.1μm以上2.5μm以下のSi系析出物の数は、10000個/mm以上350000個/mm以下とする。Si系析出物を10000個/mm以上とするのは、第1の熱交換器と同じ理由である。また、第2の熱交換器は、その製造のため、ろう付け完了後に400℃以上450℃以下の温度で熱処理を行う。この温度範囲の熱処理では、Si系析出物を350000個/mmを超えて析出させることは困難である。
【0040】
そして、本願第2のアルミニウム合金製熱交換器においては、フィンに対し、フィレットの電位が−50mV以内の範囲で卑になっている。フィンに対しフィレットの電位が−50mVを超えて卑になると、フィレットの優先腐食が生じる。フィレットの腐食はフィン剥がれの要因となる。フィン剥がれによるフィンの喪失により、チューブに対し犠牲防食効果が作用しなくなりチューブの腐食が進行する。よって、フィンに対しフィレットの電位が−50mV以内の範囲で卑とする。尚、第2のアルミニウム合金製熱交換器においては、フィンに対しフィレットの電位が「卑」である。よって、フィンに対しするフィレットの電位差は0mVよりマイナス側となっていることが好ましい。但し、第2のアルミニウム合金製熱交換器の場合、熱処理温度が高く、フィレットのZnがフィンへと拡散しフィンとフィレットのZn濃度が同程度となる場合がある。この場合フィンとフィレットは同時に腐食するが、フィンの残留ろう材層が腐食し心材が露出すると、Zn濃度の高いフィンの心材が犠牲陽極として作用するため、電位差が0mVとなっていても良い。
【0041】
(4)アルミニウム合金製熱交換器の製造方法
次に、本願に係るアルミニウム合金製熱交換器の製造方法について説明する。本願の第1及び第2の熱交換器の製造方法は、基本的には共通する。即ち、ブレージングシートからなるフィンとチューブとを組み付けし、それらをろう付加熱を行い、一旦室温まで冷却する工程においては共通する。これらの工程では、ろう付け加熱の条件及び冷却条件も共通する。一方、本願の第1及び第2の熱交換器の製造方法では、ろう付け完了後において所定の熱処理を行い、それぞれの条件において差異がある。そこで、以下の説明においては、まず、共通するフィンとなるブレージングシートとチューブとを用意する段階と、それらのろう付け工程について説明する。そして、第1及び第2の熱交換器を製造するための、ろう付け完了後の熱処理について、それぞれ説明する。
【0042】
本発明のフィンに用いるアルミニウム合金製ブレージングシートの製造方法については、通常の方法を採用することができ、特に限定されるものではないが、例えば次のようにすることが好ましい。
【0043】
心材、ろう材の鋳塊の両面を面削して、クラッド層を重ね合わせる。これに400℃以上500℃以下で1h以上10h以下の予備加熱を行い、熱間圧延により板厚を5mm程度まで減少させる。さらに、冷間圧延を行って、厚さ0.08mm程度のブレージングシートとする。機械的特性を調整するために300℃以上450℃以下で1h以上10h以下の最終焼鈍を加えても良い。そして、得られたブレージングシートは、適宜の寸法に切断した後、熱交換器のフィンとして好適な形状とするためコルゲート加工等で適宜に加工される。
【0044】
また、本発明のアルミニウム合金製チューブは、アルミニウム合金の鋳塊を製造し、押出扁平チューブの形態に加工するのが好ましい。アルミニウム合金製押出扁平チューブの製造方法については、通常の方法を採用することができ、特に限定されるものではないが、例えば次のようにすることが好ましい。
【0045】
鋳塊に必要に応じて均質化処理と面削を行い、押出成形前にビレットを450℃以上570℃以下に加熱する。ビレットを押出成形した後、所定の肉厚になるように抽伸加工を行う。機械的特性を調整するために、製造工程の任意の段階で適時熱処理を加えても良い。
【0046】
そして、アルミニウム合金製熱交換器は、以上のようにして用意された、アルミニウム合金製ブレージングシートからなるフィンと、アルミニウム合金製押出扁平チューブとを組み付けし、ろう付け接合して製造される。フィンとチューブと組み付けする際には、タンク等の他の熱交換器用部品を共に組みつけるのが好ましい。
【0047】
フィンとチューブとのろう付け接合では、590℃以上630℃以下で1min以上15min以下保持するろう付加熱を行い、その後冷却する。保持温度が590℃未満では、温度が低いためにろう付が不十分となる。保持温度が630℃を超える、と著しいろう侵食の起こる可能性がある。保持時間が1min未満では、保持時間が短いためにろう付が不十分となる。保持時間が15minを超えると著しいろう侵食の起こる可能性がある。
【0048】
ろう付後、ろう付加熱温度から室温まで冷却するが、500℃〜200℃までの間の温度域において、50℃/min以上の冷却速度で冷却することを要する。50℃/min以上で急冷することで、残留ろう材中のSiが過飽和の状態で固溶され、ろう付完了後の熱処理によって残留ろう材中にSi粒子がより微細で密な状態で析出されるからである。上記の通り、このSi粒子によって耐食寿命を長くすることが期待できる。冷却速度が50℃/min未満では、冷却時に残留ろう材のSiが析出し、残留ろう材中のSiの固溶量が低下してしまい、冷却後の熱処理でのSi系析出物が減少し、耐食性の向上効果が得られなくなる。このろう付け加熱後の500℃〜200℃まで温度域における冷却速度は50℃/min以上で、さらに100℃/min以上が好ましい。尚、500℃〜200℃の間の温度域における冷却速度を規定するのは、この温度域でSiの析出が起こるためである。このろう付けされた熱交換器は室温まで冷却されてろう付けを完了し、その後、第1又は第2の熱交換器とするための熱処理がなされる。
【0049】
(4.1)第1の熱交換器製造のためのろう付け後熱処理
第1の熱交換器を製造するためには、ろう付完了後、更に250℃以上400℃未満で3min以上30h以下の熱処理を行う。この熱処理で、ろう材中にSi系析出物が密に析出される。熱処理の温度が250℃より低ければ、工業的に可能な時間内で適切なSi系析出物の分散状態を得ることが困難となる。400℃より高い温度の析出処理では、粗大なSi系析出物が形成されやすくなって、腐食の分散が粗くなり防食効果が低くなる。また、熱処理の時間は3minより短ければ十分に析出を促進させることができない。熱処理の時間は長ければ耐食性向上効果が得られるが、30hより長くするとコスト上昇を伴うので、30h程度までが好ましい。ろう付後に行う熱処理は、大気中、不活性ガス雰囲気中、あるいは真空中のいずれで実施しても良い。
【0050】
(4.2)第2の熱交換器製造のためのろう付け後熱処理
第2の熱交換器を製造するためには、フィレットに濃縮したZnをフィレットに接している部材へ拡散させる熱処理を行う。この熱処理は、ろう付完了後、更に400℃以上450℃以下で5h以上15h以下の熱処理である。この熱処理では、Znの拡散と共に、残留ろう材中にSi系析出物が更に密に析出される。熱処理の温度が400℃より低ければ、工業的に可能な時間内でフィレットのZnを拡散させることが困難となる。また、この熱処理では、Znの拡散と同時にSi系析出物の析出が起こるが、450℃より高い温度の析出処理では、粗大なSi系析出物が形成されやすくなって、腐食の分散が粗くなり防食効果が低くなる。また、熱処理の時間は5hより短ければ十分にZn拡散を促進させることができない。15h以上の熱処理ではZn拡散状態に変化を生じないので、15h程度までで良い。このろう付後に行う熱処理は、大気中、不活性ガス雰囲気中、あるいは真空中のいずれで実施しても良い。
【0051】
尚、400℃以上450℃以下で5h以上15h以下の熱処理した後、更に、250℃以上400℃未満の温度で3min以上30h以下保持しても良い。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0053】
[ブレージングシート(フィン)の製造]
半連続鋳造により、表1に示す組成で心材合金、及び、ろう材合金を鋳造し、それぞれを圧延して心材となる板、及び、ろう材となる板を作製した。このとき、クラッドしたときに片面のクラッド率が12%となるように板厚を調節した。次に、製造した心材板とろう材板とをクラッドし、合せ加熱、熱間圧延冷間圧延を行い、中間焼鈍を行った後に、更に冷間圧延を行い板厚0.08mmのブレージングシートを作製した。作製したブレージングシートを幅14mmにスリットし、コルゲート加工を行ってフィンとした。
【0054】
[チューブの製造]
表2に示す組成で、アルミニウム合金を溶解鋳造して、ビレットを作製した。ビレットを均質化熱処理、及び、面削して、その後、押出加工した。この加工により高さ2mm、幅14mm、肉厚0.35mmのアルミニウム合金製押出扁平チューブを作製した。
【0055】
[熱交換器の製造]
そして、作製したフィンとチューブとを組み付け、KF−AlF系のフラックス粉末を塗布乾燥後、窒素雰囲気下においてろう付を行った。そして、ろう付け完了後、大気雰囲気下において熱処理を行った。ここでは、ろう付けの際の加熱温度、ろう付け後の500℃〜200℃の範囲における冷却速度、及び、ろう付け完了後の熱処理条件を種々設定して熱交換器を製造した。また、ろう付け完了後の熱処理条件の条件設定によって第1、第2の熱交換器を製造している。各実施例・比較例の熱交換器の製造条件を、表3及び表4に示した。表3のNo.C1〜C66(実施例1〜49、比較例1〜16、参考例1)が第1の熱交換器に対応する。また、表4のNo.C67〜C132(実施例50〜99、比較例18〜32、参考例2)が第2の熱交換器に対応する。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
【表3】
【0059】
【表4】
【0060】
[熱交換器の構成検討及び耐食性評価]
上記の製造方法で作製した熱交換器について、(i)残留ろう材層中のSi系析出物分布、(ii)フィン及びフィレットの電位測定、(iii)耐食性評価を行った。それぞれの検討・評価方法は下記のようにした。
【0061】
(i)残留ろう材層中のSi系析出物分布
作製した熱交換器から、試料を切り出し、樹脂埋め、鏡面研磨を行い、残留ろう材を光学顕微鏡で1000倍の倍率にて3視野撮影した。撮影した写真より、円相当系0.1μm以上2.5μm以下のSi系析出物の個数を画像処理ソフトウェア(Image−J)を使用して測定し、測定面積で除することでSi系析出物分布(個/mm)を得た。
【0062】
(ii)フィン及びフィレットの電位測定
作製した熱交換器から、フィン及びフィレットを含むように試料を切り出した。フィレットを含む試料は樹脂埋め、鏡面研磨後にフィレット以外をマスキングした。5%NaClに15mL/L酢酸を加えた溶液を25℃で保持し、照合電極にAg/AgCl電極を使用し、フィン及びフィレット以外をマスキングした試料を浸漬し30min後の電位の値を記録した。測定した値より、フィンとフィレットとの電位差を算出した。
【0063】
(iii)耐食性評価
作製した熱交換器から、チューブ長さが10cmになるように試料を切り出した。SWAAT試験を1000h実施した後に、試料を樹脂埋め、鏡面研磨を行い、光学顕微鏡にてフィレットの腐食状況を3視野観察した。評価は3視野全てでフィレットの残存が認められたものを「◎」、3視野のうち1視野でフィレットが消失したがフィンとチューブとの接続が認められたものを「○」、3視野のうち2視野以上でフィレットが消失したがフィンとチューブとの接続が認められたものを「△」、フィレットが消失しフィン剥がれが発生したものを「×」とした。更に、上記のフィレットの腐食状況の観察で「◎」、「○」、「△」であったものでも、チューブ部分に腐食が見られた試料については、耐食性の評価を「×」とした。
【0064】
(iv)総合評価
上記の耐食性評価と共に、フィン及びチューブの加工性、ろう付け性を考慮した評価を行った。即ち、フィン又はチューブへの加工ができない、或いは、ろう付不良が発生した、といった熱交換器の製造自体ができない状態を考慮した総合的評価を行った。また、熱交換器を一応は製造できても容易に変形する場合も考慮した。そして、耐食性が良好であり熱交換器として機能しうるものについて「◎」又は「○」の評価とした(「◎」か「○」かは耐食性の評価結果により区別した)。そして、加工できない等で熱交換器が製造できないもの、或いは、製造できても、強度上、熱交換器としての使用に耐えないものについては耐食性が良好であっても「×」と評価した。
【0065】
各実施例・比較例・参考例の熱交換器について、測定された残留ろう材層中のSi系析出物分布及びフィンとフィレットとの電位差、及び、耐食性評価結果と総合評価を表5、表6に示すと共に、各表に基づき各実施例・比較例・参考例に関する考察を下記に述べる。
【0066】
【表5】
【0067】
(A)実施例1〜49、比較例1〜16、参考例1について(第1の熱交換器)
(A−1)フィンの心材の組成の影響
実施例1〜5は、フィンの心材にMnとZnを適量のみ添加した実施例であり、フィンに対するフィレットの電位の関係及び耐食性を満足した。
実施例6〜9は、実施例1の心材にSiを添加した実施例である。フィンに対するフィレットの電位の関係を満足し、耐食性も問題とならない結果であった。
実施例10〜13は、実施例1の心材にFeを添加した実施例である。フィンに対するフィレットの電位の関係を満足し、耐食性も問題とならない結果であった。
実施例14〜17は、実施例1の心材にCuを添加した実施例である。フィンに対するフィレットの電位の関係を満足し、耐食性も問題とならない結果であった。
実施例18〜21は、実施例1の心材にMgを添加した実施例である。フィンに対するフィレットの電位の関係を満足し、耐食性も問題とならない結果であった。
実施例22〜25は、実施例1の心材にTiを添加した実施例である。フィンに対するフィレットの電位の関係を満足し、耐食性も問題とならない結果であった。
実施例26〜29は、実施例1の心材にZrを添加した実施例である。フィンに対するフィレットの電位の関係を満足し、耐食性も問題とならない結果であった。
実施例30〜33は、実施例1の心材にCrを添加した実施例である。フィンに対するフィレットの電位の関係を満足し、耐食性も問題とならない結果であった。
実施例34〜37は、実施例1の心材にVを添加した実施例である。フィンに対するフィレットの電位の関係を満足し、耐食性も問題とならない結果であった。
【0068】
以上の実施例1〜37に対し、比較例1〜比較例4は、フィンの心材に添加するMn量、Zn量が好適範囲外にある。
比較例1は、フィンの心材に添加するMn量が少なく、フィンに対するフィレットの電位の関係を満足し、耐食性も問題とならない結果であったが、フィンの強度が低いためにろう付加熱後にフィンの変形が認められ、熱交換器としての使用に耐えない。
比較例2は、フィンの心材に添加するMn量が多すぎたため、フィンを整形することができず、評価できなかった。
比較例3は、フィンの心材に添加するZn量が少なかったために、チューブに対する犠牲防食効果が弱く、チューブ表面に腐食が認められた。
比較例4は、フィンの心材に添加するZn量が多かったために、フィレットにZnが濃縮し、フィレットの優先腐食に伴うフィン剥がれが発生し犠牲防食効果が発現せず、チューブ表面に腐食が認められた。
【0069】
(A−2)チューブの組成の影響
実施例38〜41は、実施例1のフィンを使用し、チューブにCuとMnを適量のみ添加した場合の実施例であり、フィンに対するフィレットの電位の関係及び耐食性を満足した。
【0070】
実施例38〜41に対し、比較例5〜比較例8は、チューブに添加するCu量、Mn量が好適範囲外にある。
比較例5は、チューブに添加するCu量が少なかったために、フィンとの電位差が小さく、チューブに腐食が認められた。
比較例6は、チューブに添加するCu量が多かったために、フィレットにCuが濃縮し電位が貴化し、フィレット周辺のろう材層の腐食が進行しフィン剥がれが発生した。
比較例7は、チューブに添加するMn量が少なかったために、ろう付後のチューブの強度が低く、容易に変形したため、熱交換器としての使用に耐えない。
比較例8は、チューブに添加するMn量が多かったために、押出性が悪くチューブを作製できなかった。
【0071】
(A−3)ろう付け温度・時間の影響
実施例42、43は、実施例1のフィンとチューブを使用し、ろう付温度が下限及び上限である場合の実施例であり、フィンに対するフィレットの電位の関係及び耐食性を満足した。
実施例44、45は、実施例1のフィンとチューブを使用し、ろう付時間が下限及び上限である場合の実施例であり、フィンに対するフィレットの電位の関係及び耐食性を満足した。
【0072】
上記実施例に対し、比較例9−12は、ろう付温度及びろう付時間が下限未満及び上限を超えていたため、ろう付不良が発生し、評価できなかった。
【0073】
(A−4)ろう付け後の冷却速度の影響
実施例46は、実施例1のフィンとチューブを使用し、ろう付後の冷却速度が下限である場合の実施例であり、フィンに対するフィレットの電位の関係を満足し、耐食性も問題とならない結果であった。
【0074】
一方、比較例13は、ろう付後の冷却速度が遅かったため、生成されるSi系析出物の個数が少なく、フィンの電位が卑化しなかったため、フィレットの優先腐食に伴うフィン剥がれが発生した。
【0075】
(A−5)ろう付け完了後の熱処理条件の影響
実施例47は、実施例1のフィンとチューブを使用し、ろう付完了後の熱処理温度が下限である場合の実施例であり、フィンに対するフィレットの電位の関係を満足し、耐食性も問題とならない結果であった。
実施例48、49は、実施例1のフィンとチューブを使用し、ろう付完了後の熱処理時間が下限及び上限である場合の実施例であり、フィンに対するフィレットの電位の関係を満足し、耐食性も問題とならない結果であった。
【0076】
ろう付け完了後の熱処理条件を適切にした、上記実施例47、48、49に対して、比較例14〜16、参考例1は、熱処理温度又は熱処理時間が好適範囲外となったものである。
比較例14は、ろう付完了後の熱処理温度が低かったため、Si系析出物が析出せず、フィレットの優先腐食に伴うフィン剥がれが発生した。
比較例15は、ろう付完了後の熱処理温度を450℃とした熱交換器である。この比較例15におけるろう付後の熱処理温度は、第1の熱交換器を製造するための熱処理温度の温度範囲を超える温度である。また、比較例15の熱処理時間は1時間であり、これは第2の熱交換器製造のための熱処理時間の範囲(5時間以上15時間以下)を下回る時間である。このような高温・短時間の熱処理により、この比較例15では好適な粒径のSi系析出物の個数がさほど多くなく、フィレットのZnの拡散も不十分なものとなる。その結果、フィンとフィレットとの電位差が好適とならず、耐食性に劣っていた。
比較例16は、ろう付完了後の熱処理時間が短かったため、Si系析出物の個数が少なく、フィンの電位がフィレットの電位よりも卑にならなかった。そのため、フィレットの優先腐食が生じていた。
参考例1は、フィンに対するフィレットの電位の関係及び耐食性を満足していた。但し、ろう付完了後の熱処理の時間が50時間と長く、製造コストが高く工業的に生産できない。
【0077】
【表6】
【0078】
(B)実施例50〜99、比較例18〜32、参考例2について(第2の熱交換器)
(B−1)フィンの心材の組成の影響
実施例50〜54は、フィンの心材にMnとZnを適量のみ添加した実施例であり、フィンに対するフィレットの電位の関係及び耐食性を満足した。
実施例55〜58は、実施例50の心材にSiを添加した実施例である。フィンに対するフィレットの電位の関係を満足し、耐食性も問題とならない結果であった。
実施例69〜62は、実施例50の心材にFeを添加した実施例である。フィンに対するフィレットの電位の関係を満足し、耐食性も問題とならない結果であった。
実施例63〜66は、実施例501の心材にCuを添加した実施例である。フィンに対するフィレットの電位の関係を満足し、耐食性も問題とならない結果であった。
実施例67〜70は、実施例50の心材にMgを添加した実施例である。フィンに対するフィレットの電位の関係を満足し、耐食性も問題とならない結果であった。
実施例71〜74は、実施例50の心材にTiを添加した実施例である。フィンに対するフィレットの電位の関係を満足し、耐食性も問題とならない結果であった。
実施例75〜78は、実施例50の心材にZrを添加した実施例である。フィンに対するフィレットの電位の関係を満足し、耐食性も問題とならない結果であった。
実施例79〜82は、実施例50の心材にCrを添加した実施例である。フィンに対するフィレットの電位の関係を満足し、耐食性も問題とならない結果であった。
実施例83〜86は、実施例50の心材にVを添加した実施例である。フィンに対するフィレットの電位の関係を満足し、耐食性も問題とならない結果であった。
【0079】
以上の実施例50〜86に対し、比較例18〜比較例21は、フィンの心材に添加するMn量、Zn量が好適範囲外にある。
比較例18は、フィンの心材に添加するMn量が少なく、フィンに対するフィレットの電位の関係を満足し、耐食性も問題とならない結果であったが、フィンの強度が低いためにろう付加熱後にフィンの変形が認められ、熱交換器としての使用に耐えない。
比較例19は、フィンの心材に添加するMn量が多すぎたため、フィンを整形することができず、評価できなかった。
比較例20は、フィンの心材に添加するZn量が少なかったために、フィレットのZn濃度が低く、フィレット周囲のろう材層の方が卑な電位であったため、フィレット周辺が腐食しフィン剥がれが発生した。
比較例21は、フィンの心材に添加するZn量が多かったために、フィレットのZn濃縮が顕著であったため、熱処理によって拡散しきらず、フィレットの優先腐食に伴うフィン剥がれが発生した。
【0080】
(B−2)チューブの組成の影響
実施例87〜90は、実施例50のフィンを使用し、チューブにCuとMnを適量のみ添加した場合の実施例であり、フィンに対するフィレットの電位の関係及び耐食性を満足した。
【0081】
実施例87〜90に対し、比較例22〜比較例25は、チューブに添加するCu量、Mn量が好適範囲外にある。
比較例22は、チューブに添加するCu量が少なかったために、フィレットにCuが含有されず、フィレットの電位が卑であったために優先腐食が発生しフィン剥がれが発生した。
比較例23は、チューブに添加するCu量が多かったために、フィレットにCuが濃縮し電位が貴化し、フィレット周辺のろう材層の腐食が進行しフィン剥がれが発生した。
比較例24は、チューブに添加するMn量が少なかったために、ろう付後のチューブの強度が低く、容易に変形したため、熱交換器としての使用に耐えない。
比較例25は、チューブに添加するMn量が多かったために、押出性が悪くチューブを作製できなかった。
【0082】
(B−3)ろう付け温度・時間の影響
実施例91、92は、実施例50のフィンとチューブを使用し、ろう付温度が下限及び上限である場合の実施例であり、フィンに対するフィレットの電位の関係及び耐食性を満足した。
実施例93、94は、実施例50のフィンとチューブを使用し、ろう付時間が下限及び上限である場合の実施例であり、フィンに対するフィレットの電位の関係及び耐食性を満足した。
【0083】
上記実施例に対して、比較例26〜29は、ろう付温度及びろう付時間が下限未満及び上限を超えていたため、ろう付不良が発生し、評価できなかった。
【0084】
(B−4)ろう付け後の冷却速度の影響
実施例95は、実施例50のフィンとチューブを使用し、ろう付後の冷却速度が下限である場合の実施例であり、フィンに対するフィレットの電位の関係を満足し、耐食性も問題とならない結果であった。
【0085】
一方、比較例30は、ろう付後の冷却速度が遅かったため、生成されるSi系析出物の個数が少なく、フィンの電位が卑化しなかったため、フィレットの電位に近づかなかった。
【0086】
(B−5)ろう付け完了後の熱処理条件の影響
実施例96、97は、実施例50のフィンとチューブを使用し、ろう付完了後の熱処理温度が下限及び上限である場合の実施例であり、フィンに対するフィレットの電位の関係を満足し、耐食性も問題とならない結果であった。
実施例98、99は、実施例50のフィンとチューブを使用し、ろう付完了後の熱処理時間が下限及び上限である場合の実施例であり、フィンに対するフィレットの電位の関係を満足し、耐食性も問題とならない結果であった。
【0087】
ろう付け完了後の熱処理条件を適切にした、上記実施例96〜99に対して、比較例31、32、参考例2は、熱処理温度又は熱処理時間が好適範囲外となったものである。
比較例31は、ろう付完了後の熱処理温度が高かったため、Si系析出物の個数が少なく、フィンの電位がフィレットの電位に近づかなかった。そのため、フィレットの優先腐食が生じていた。
比較例32は、ろう付完了後の熱処理時間が短かったため、Si系析出物の個数が少なく、フィンの電位がフィレットの電位に近づかなかった。そのため、フィレットの優先腐食が生じていた。
参考例2は、フィンに対するフィレットの電位の関係及び耐食性を満足していた。但し、ろう付完了後の熱処理の時間が50時間と長く、製造コストが高く工業的に生産できない。
【産業上の利用可能性】
【0088】
以上の通り、本発明に係るアルミニウム合金製熱交換器は、フィレットの優先腐食を抑制することで、フィンの犠牲陽極材としての機能を長期維持させている。本発明に係るアルミニウム合金製熱交換器は、大気環境における耐食性が良好であるを向上させている。本発明に係る熱交換器は、大気環境における耐食性に優れ、大気環境における耐食性が必要とされる空調機器の室外機用の熱交換器や自動車用熱交換器に有用である。