(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記(メタ)アクリル系ポリマーは、アルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含み、前記アルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位の含有率が、全構成単位の質量に対して65質量%〜97質量%である請求項1又は請求項2に記載の保護フィルム用粘着剤組成物。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の保護フィルム用粘着剤組剤成物及び保護フィルムについて詳細に説明する。なお、本発明において、数値範囲における「〜」は、「〜」の前後の数値を含むことを意味する。
本明細書において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0020】
本明細書において、(メタ)アクリル系ポリマー又は(メタ)アクリル系オリゴマーとは、これを構成する単量体のうち少なくとも主成分である単量体が(メタ)アクリロイル基を有する単量体であるポリマー又はオリゴマーを意味する。主成分である単量体とは、ポリマー又はオリゴマーを構成する単量体の中で最も含有率(質量%)が大きい単量体を意味する。(メタ)アクリル系ポリマーは、例えば、主成分である(メタ)アクリレート単量体に由来する構成単位の含有率が全構成単位の50質量%以上であるポリマーであってもよい。
本明細書において、「(メタ)アクリル」は、「アクリル」及び「メタクリル」の両者を包含することを意味し、「(メタ)アクリレート」は「アクリレート」及び「メタクリレート」の両者を包含することを意味し、「(メタ)アクリロイル」は「アクリロイル」及び「メタクリロイル」の両者を包含することを意味する。
【0021】
≪保護フィルム用粘着剤組成物≫
本発明の保護フィルム用粘着剤組成物(以下、「粘着剤組成物」ともいう。)は、酸価が9mgKOH/g〜65mgKOH/gであり、かつ、ポリアルキレンオキシド鎖を有する単量体に由来する構成単位の含有率が、全構成単位の質量に対して1質量%を超えて20質量%未満である(メタ)アクリル系ポリマーと、架橋剤と、帯電防止剤と、を含む。
【0022】
粘着剤組成物が上記構成を有していることで、被着体の材質に関わらず、高速剥離性及び帯電防止性に優れる保護フィルムが得られる。この理由は明らかではないが、以下のように推測することができる。
【0023】
一般に、保護フィルムの高速剥離時の剥離性は、被着体の材質に大きく依存する傾向にある。特に、酸性基を有する単量体に由来する構成単位を含む粘着剤組成物では、酸性基の極性効果により被着体への濡れ性が変化するため、被着体の材質によって、発揮される粘着力が異なる場合がある。それゆえ、高速剥離時に剥離しにくい傾向がある。また、酸価が1mgKOH/g以上であるポリマーを含む粘着剤組成物では、帯電防止性能が低下しやすい傾向がある。
【0024】
本発明の粘着剤組成物は、ポリアルキレンオキシド鎖を有する単量体に由来する構成単位の含有率が、全構成単位の質量に対して1質量%を超えて20質量%未満である(メタ)アクリル系ポリマーを含むので、酸性基の極性効果によって高くなりやすい粘着剤層の表面自由エネルギーを抑制すると推測される。ポリアルキレンオキシド鎖を有する単量体に由来する構成単位は、被着体と粘着剤組成物との界面に多く存在しやすい。それゆえ、本発明の粘着剤組成物中に酸価が9mgKOH/g〜65mgKOH/gである(メタ)アクリル系ポリマーが含まれていても、酸性基の極性効果による被着体への濡れ性の変化を抑制することが可能となり、被着体の材質又は状態に関わらず一定の粘着力を発揮することが可能となる。また、本発明の粘着剤組成物は、(メタ)アクリル系ポリマーの酸価が上記の範囲にあり、かつ、架橋剤を含むので、適度な剥離性を有し、又、高速剥離時の粘着力が適度に小さくなる程度の硬さとすることが可能となるので、高速剥離性に優れる傾向にある。
【0025】
さらに、本発明の粘着剤組成物は、帯電防止剤を含むので、(メタ)アクリル系ポリマーの酸価が上記の範囲にあっても、帯電防止性の低下を抑えることが可能になる。特に、ポリアルキレンオキシド鎖を有する単量体に由来する構成単位を特定の含有率で含む(メタ)アクリル系ポリマーと、帯電防止剤と、を併用することで、帯電防止性の低下がより抑えられ、基材の材質に関わらず帯電防止性が優れる傾向がある。
このように、本発明の粘着剤組成物から形成された保護フィルムは、被着体の材質に関わらず、高速剥離性及び帯電防止性に優れると推測される。
以下、本発明の粘着剤組成物の各成分の詳細について説明する。
【0026】
<(メタ)アクリル系ポリマー>
本発明の粘着剤組成物は、酸価が9mgKOH/g〜65mgKOH/gであり、かつ、ポリアルキレンオキシド鎖を有する単量体に由来する構成単位の含有率が、全構成単位の質量に対して1質量%を超えて20質量%未満である(メタ)アクリル系ポリマー(以下、「特定(メタ)アクリル系ポリマー」ともいう。)の少なくとも1種を含む。本発明の粘着剤組成物は、必要に応じて、特定(メタ)アクリル系ポリマーとは異なる(メタ)アクリル系ポリマーを更に含んでいてもよい。
【0027】
特定(メタ)アクリル系ポリマーは、ポリアルキレンオキシド鎖を有する単量体に由来する構成単位を含む。ポリアルキレンオキシド鎖としては、ポリエチレンオキシド鎖、ポリプロピレンオキシド鎖等が挙げられる。被着体の材質に関わらず十分な帯電防止性が得られる観点から、ポリアルキレンオキシド鎖としては、ポリエチレンオキシド鎖が好ましい。
【0028】
ポリアルキレンオキシド鎖を有する単量体としては、例えば、2−(エトキシエトキシ)エチルアクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート及びメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートが挙げられる。
これらの中でも、被着体の材質に関わらず、帯電防止性及び高速剥離性が発揮できる観点から、ポリアルキレンオキシド鎖を有する単量体としては、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート又はメトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレートが好ましく、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0029】
ポリアルキレンオキシド鎖におけるアルキレンオキシド単位の平均付加モル数としては、2モル〜25モルが好ましく、被着体の材質に関わらず十分な帯電防止効果が得られる観点から、4モル〜15モルがより好ましい。
なお、ポリアルキレンオキシド鎖におけるアルキレンオキシド単位の平均付加モル数とは、含有される単量体におけるアルキレンオキシド単位の付加モル数の平均値を意味する。
【0030】
特定(メタ)アクリル系ポリマーに含まれるポリアルキレンオキシド鎖を有する単量体に由来する構成単位の含有率は、全構成単位の質量に対して1質量%を超えて20質量%未満である。
ポリアルキレンオキシド鎖を有する単量体に由来する構成単位の含有率が、1質量%以下であると、被着体の材質によっては、帯電防止性が十分に発揮されない可能性がある。ポリアルキレンオキシド鎖を有する単量体に由来する構成単位の含有率が、20質量%以上であると、被着体の材質によっては、高速剥離性が十分に発揮されない場合がある。上記観点から、ポリアルキレンオキシド鎖を有する単量体に由来する構成単位の含有率としては、2質量%〜18質量%が好ましく、3質量%〜15質量%がより好ましく、3質量%〜10質量%が更に好ましい。
【0031】
特定(メタ)アクリル系ポリマーは、酸性基を有する単量体に由来する構成単位を含む。
酸性基を有する単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸や、カルボキシルエチル(メタ)アクリレート、カルボキシルペンチル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルヘキサヒドロフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフタル酸、ω−カルボキシ−ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルコハク酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフマル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸及び2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフタル酸に代表されるカルボキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル等のカルボキシ基を有する単量体や、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェートに代表されるリン酸基を有する単量体が挙げられる。
【0032】
酸性基を有する単量体に由来する構成単位としては、カルボキシ基を有する単量体に由来する構成単位が好ましい。カルボキシ基を有する単量体に由来する構成単位は、1種単独で又は2種以上を含んでいてもよい。
【0033】
カルボキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位としては、下記一般式(1)で表される構成単位が好ましい。一般式(1)で表される構成単位を有すると、カルボキシ基がLを介して(メタ)アクリル酸と結合していることにより、高速剥離時の粘着力をより低く抑えることが可能となる。より詳しくは、立体障害の観点から、(メタ)アクリル酸等の短鎖のカルボキシル基を有する単量体と比べ、一般式(1)で表されるカルボキシル基を有する単量体は、後述する架橋剤との反応性が大幅に向上するためである。
【0035】
上記一般式(1)で表される構成単位において、Lはアルキレン基、アリーレン基、カルボニル基及び酸素原子よりなる群より選ばれる少なくとも1種から構成される2価の連結基を示し、R
1は水素原子又はメチル基を示す。但し、Lが酸素原子を含む場合には、酸素原子は、アルキレン基、アリーレン基及びカルボニル基からなる群より選ばれる少なくとも1種と結合した基が形成され、−COO−及び−CO−と結合する。
【0036】
Lにおけるアルキレン基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれであってもよい。Lにおけるアルキレン基が直鎖状又は分岐鎖状の場合、アルキレン基の炭素数は、1〜12が好ましく、2〜10がより好ましく、2〜6が更に好ましい。
炭素数が1〜12のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ドデシレン基等が挙げられる。
【0037】
また、Lにおけるアルキレン基が環状の場合、Lとしては脂環基(シクロ環基)が挙げられる。環状のアルキレン基は、炭素数3〜5のシクロ環基であってもよく、具体例としてシクロへキシレン等が好適である。
【0038】
Lにおけるアリーレン基は、炭素数が6〜10が好ましく、フェニレン基がより好ましい。アリーレン基における結合位置は特に制限されない。例えばアリーレン基がフェニレン基の場合、結合位置は1位と4位、1位と2位、及び1位と3位のいずれであってもよく、1位と2位が好ましい。
【0039】
Lにおけるアルキレン基及びアリーレン基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、炭素数1〜12のアルキル基、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、ニトロ基、フェニル基等が挙げられる。
【0040】
一般式(1)におけるLで表される2価の連結基は、帯電防止性及び高速剥離性の観点から、下記一般式(2a)又は一般式(2b)で表される2価の連結基が好ましい。
【0042】
一般式(2a)及び(2b)中、R
21〜R
24はそれぞれ独立に、炭素数1〜12のアルキレン基又は炭素数6〜10のアリーレン基を示す。nは0〜10の数を示し、mは1〜10の数を示す。
R
21〜R
24におけるアルキレン基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれであってもよく、直鎖状又は分岐鎖状が好ましく、直鎖状がより好ましい。
R
21〜R
24におけるアリーレン基における結合位置は特に制限されない。例えば、アリーレン基がフェニレン基である場合又は環状のアルキレン基が例えばシクロヘキシレン基の場合、結合位置は1位と4位、1位と2位、及び1位と3位のいずれであってもよく、1位と2位が好ましい。
【0043】
R
21及びR
22におけるアルキレン基は、各々独立に、炭素数が2〜10であることが好ましく、炭素数が2〜6であることがより好ましい。R
21及びR
22におけるアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、シクロへキシレン基等が挙げられる。R
21及びR
22におけるアルキレン基は、同一であっても異なっていてもよい。
R
21及びR
22におけるアリーレン基は、各々独立に、フェニレン基又はナフチレン基が好ましく、フェニレン基がより好ましい。
【0044】
一般式(2a)におけるR
21及びR
22は、帯電防止性及び高速剥離性の観点から、各々独立に、炭素数1〜12のアルキレン基が好ましく、炭素数2〜6のアルキレン基がより好ましく、炭素数2〜6であって直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基が更に好ましい。
【0045】
一般式(2a)において、nは0〜10の数を表す。特定(メタ)アクリル系ポリマーが、一般式(1)で表される構成単位を1種のみ含む場合には、nは整数であり、2種以上含む場合には、nは平均値である有理数となる。nは0〜4が好ましく、0〜2がより好ましい。
【0046】
一般式(2b)において、R
23におけるアルキレン基は、炭素数1〜12のアルキレン基が好ましく、炭素数2〜6のアルキレン基がより好ましく、炭素数2〜4のアルキレン基が更に好ましい。R
23におけるアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ドデシレン基等が挙げられる。
【0047】
一般式(2b)において、R
24におけるアルキレン基は、炭素数2〜6の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基、炭素数4〜8の環状アルキレン基(2価のシクロ環基)、又は炭素数6〜10のアリーレン基が好ましく、炭素数2〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基、炭素数5〜6の環状アルキレン基、又はフェニレン基がより好ましく、炭素数2〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基、シクロヘキシレン基、又はフェニレン基が更に好ましい。
【0048】
一般式(2b)において、mは1〜10の数を表す。特定(メタ)アクリル系ポリマーが、一般式(1)で表される構成単位を1種類のみ含む場合には、mは整数であり、2種以上含む場合には、mは平均値である有理数となる。mは1〜4が好ましく、1〜2がより好ましい。
【0049】
一般式(1)で表される構成単位は、例えば、下記一般式(1a)で表される単量体を、特定(メタ)アクリル系ポリマーを構成する他の単量体とともに共重合することで、特定(メタ)アクリル系ポリマーに導入することが可能となる。
【0051】
一般式(1a)中、R
1及びLは一般式(1)におけるR
1及びLとそれぞれ同義である。
【0052】
一般式(1a)で表される単量体は、常法により製造したものであっても、市販の単量体から適宜選択したものであってもよい。一般式(1a)で表される単量体のうちLが一般式(2a)で表される単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸ダイマー(好ましくは、一般式(2a)におけるnの平均値が約0.4のもの)及びω−カルボキシ−ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート(好ましくは、一般式(2a)におけるnの平均値が約1.0のもの)が挙げられる。
これらの単量体としては、例えば、「アロニックスM−5600」及び「アロニックスM−5300」(以上、東亞合成株式会社製、商品名)として市販されているものを用いることができる。
【0053】
また、一般式(1a)で表される単量体のうちLが一般式(2b)で表される単量体としては、例えば、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルコハク酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフマル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸及び2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフタル酸が挙げられる。これらの単量体としては、例えば、「ライトエステルHO−MS」、「ライトアクリレートHOA−MS(N)」、「ライトアクリレートHOA−HH(N)」及び「ライトアクリレートHOA−MPL(N)」(以上、共栄社化学株式会社製、商品名)として市販されているものを用いることができる。
【0054】
一般式(1)で表される構成単位の含有率は、特定(メタ)アクリル系ポリマーの全構成単位の質量に対して、4質量%〜30質量%が好ましく、5質量%〜20質量%がより好ましく、8質量%〜15質量%が更に好ましい。
一般式(1)で表される構成単位の含有率が4質量%以上であると、高速剥離時における粘着力がより低く抑えられる傾向にある。一般式(1)で表される構成単位の含有率が30質量%以下であると、被着体の材質による粘着力低下の抑制及び帯電防止性に優れる傾向にある。
【0055】
特定(メタ)アクリル系ポリマーは、ポリアルキレンオキシド鎖を有する単量体に由来する構成単位及び酸性基を有する構成単位の他に、アルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位の少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0056】
アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、n−ドデシル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート及びイソボルニル(メタ)アクリレートが挙げられる。アルキル(メタ)アクリレートのアルキル基は、直鎖、分枝又は環状のいずれであってもよい。
アルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位は、1種単独で又は2種以上含んでいてもよい。
【0057】
保護フィルムに適した粘着力を調整しやすい観点から、アルキル(メタ)アクリレートとしては、単独重合体としたときのガラス転移温度が−30℃以下であるアルキル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0058】
単独重合体のガラス転移温度は、その単独重合体を、示差走査熱量測定装置(DSC)(セイコーインスツルメンツ社製、EXSTAR6000)を用い、窒素気流中、測定試料10mg、昇温速度10℃/分の条件で測定を行い、得られたDSCカーブの変曲点を、単独重合体のガラス転移温度としたものである。
【0059】
単独重合体としたときのガラス転移温度が−30℃以下であるアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、n−ブチルアクリレート(−57℃)、2−エチルヘキシルアクリレート(−76℃)、n−ドデシルメタクリレート(−65℃)、n−オクチルアクリレート(−65℃)、イソオクチルアクリレート(−58℃)、イソノニルアクリレート(−58℃)、イソミリスチルアクリレート(−56℃)及び2−アクリロイルオキシエチル−コハク酸(−40℃)が挙げられる。
【0060】
これらの中でも、保護フィルムに適した粘着力を調整しやすい観点から、単独重合体としたときのガラス転移温度が−30℃以下であるアルキル(メタ)アクリレートとしては、n−ブチルアクリレート及び2−エチルヘキシルアクリレートから選ばれる少なくとも一方が好ましい。
【0061】
特定(メタ)アクリル系ポリマーが、アルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位(好ましくは、単独重合体としたときのガラス転移温度が−30℃以下であるアルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位)を含む場合、アルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位(好ましくは単独重合体としたときのガラス転移温度が−30℃以下であるアルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位)の総含有率は、全構成単位の質量に対して、65質量%〜99質量%が好ましく、75質量%〜97質量%がより好ましく、80質量%〜95質量%が更に好ましい。アルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位の総含有率が65質量%以上であると、なじみ性(濡れ性)により優れる傾向がある。また、アルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位の総含有率が99質量%以下であると、高速剥離時の粘着力が高くなりすぎず、高速剥離性により優れる傾向がある。
【0062】
特定(メタ)アクリル系ポリマーは、ポリアルキレンオキシド鎖を有する単量体に由来する構成単位、酸性基を有する構成単位及びアルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位以外の、その他の構成単位を更に含んでもよい。その他の構成単位を形成し得る単量体としては、ポリアルキレンオキシド鎖を有する単量体、酸性基を有する構成単位及びアルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位で表される単量体と共重合することが可能であれば特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができる。
【0063】
その他の構成単位を形成し得る単量体としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートに代表される水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートに代表される芳香族環を有する(メタ)アクリル系単量体、アミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートに代表される窒素原子を有する(メタ)アクリル系単量体、スチレン、α−メチルスチレンに代表される芳香族モノビニル単量体、アクリロニトリル、メタクリロニトリルに代表されるシアン化ビニル単量体や、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルに代表されるカルボン酸ビニル単量体が挙げられる。
【0064】
特定(メタ)アクリル系ポリマーの酸価は、9mgKOH/g〜65mgKOH/gである。特定(メタ)アクリル系ポリマーの酸価が65mgKOH/gを超えると、粘着剤組成物を架橋して粘着剤層を形成した場合に、形成された粘着剤層が硬くなりすぎて、粘着剤層の粘着力が低くなり、被着体の保護が必要とされる期間中に、被着体の表面から保護フィルムが脱落する可能性がある。また、帯電防止性が低下しやすい傾向にある。特定(メタ)アクリル系ポリマーの酸価が9mgKOH/g未満であると、粘着剤層が柔らか過ぎて、粘着力が高くなりやすく、高速剥離時に剥離し難くなる傾向がある。高速剥離性をより向上させる観点から、特定(メタ)アクリル系ポリマーの酸価としては、9mgKOH/g〜50mgKOH/gが好ましく、9mgKOH/g〜35mgKOH/gがより好ましく、16mgKOH/g〜25mgKOH/gが更に好ましい。
【0065】
特定(メタ)アクリル系ポリマー又は後述する(メタ)アクリル系オリゴマーの酸価は、それぞれ以下の計算式によって求められる。
【0066】
酸価(mgKOH/g)={(A/100)÷B}×56.1×1000×C
A=特定(メタ)アクリル系ポリマー又は(メタ)アクリル系オリゴマーに使用される全単量体中の、酸性基を有する単量体の含有率(質量%)
B=特定(メタ)アクリル系ポリマー又は(メタ)アクリル系オリゴマーに使用される酸性基を有する単量体の分子量
C=酸性基を有する単量体1分子中に含まれる酸性基の数
なお、56.1はKOHの分子量である。
また、酸性基を有する単量体が複数種ある場合は、それぞれの単量体について上記式より求めた値を合算して酸価を求めることができる。
【0067】
特定(メタ)アクリル系ポリマーの重量平均分子量(Mw)は特に制限されない。特定(メタ)アクリル系ポリマーの重量平均分子量(Mw)としては、10万〜100万が好ましく、10万〜60万がより好ましく、10万〜40万が更に好ましい。特定(メタ)アクリル系ポリマーの重量平均分子量(Mw)が10万以上であると、高速剥離時に、特定(メタ)アクリル系ポリマーが被着体に残ることをより効果的に抑制でき、被着体への汚染をより低くする傾向がある。また、特定(メタ)アクリル系ポリマーの重量平均分子量(Mw)が100万以下であると、なじみ性(濡れ性)がより優れる傾向にある。
【0068】
なお、特定(メタ)アクリル系ポリマー又は後述する(メタ)アクリル系オリゴマーの重量平均分子量(Mw)は、下記の(1)〜(3)に従って測定される値である。
【0069】
(1)特定(メタ)アクリル系ポリマー又は(メタ)アクリル系オリゴマーの溶液を剥離紙に塗布し、100℃で2分間乾燥し、フィルム状の特定(メタ)アクリル系ポリマー又は(メタ)アクリル系オリゴマーを得る。
(2)上記(1)で得られたフィルム状の特定(メタ)アクリル系ポリマー又は(メタ)アクリル系オリゴマーとテトラヒドロフランとを用いて、固形分濃度が0.2質量%である試料溶液を得る。
(3)下記条件にて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、標準ポリスチレン換算値として、特定(メタ)アクリル系ポリマー又は(メタ)アクリル系オリゴマーの重量平均分子量(Mw)を測定する。
【0070】
(条件)
GPC :HLC−8220 GPC〔東ソー株式会社製〕
カラム :TSK−GEL GMHXL 4本使用
移動相溶媒:テトラヒドロフラン
流速 :0.6mL/分
カラム温度:40℃
【0071】
粘着剤組成物における特定(メタ)アクリル系ポリマーの含有率は、目的に応じて適宜選択することができる。特定(メタ)アクリル系ポリマーの含有率は、粘着剤組成物の固形分総質量中に、80質量%〜99質量%が好ましく、85質量%〜99質量%がより好ましく、90質量%〜98質量%が更に好ましい。なお、固形分総質量とは、粘着剤組成物から、溶剤などの揮発性成分を除いた残渣の総質量を意味する。
【0072】
特定(メタ)アクリル系ポリマーの製造方法は、特に制限されない。例えば、溶液重合、乳化重合、懸濁重合及び塊状重合に代表される公知の重合方法で、単量体を重合して製造できる。これらの重合方法の中でも、処理方法が比較的簡単であり、かつ、短時間で行える点で溶液重合が好ましい。
【0073】
溶液重合は、一般に、重合槽内に所定の有機溶媒、単量体、重合開始剤、触媒及び必要に応じて連鎖移動剤を仕込み、窒素気流中又は有機溶媒の還流下で、撹拌しながら数時間加熱反応させることで行う。前記重合開始剤としては、特に制限されるものではなく、例えばアゾ系化合物を用いることができる。
なお、(メタ)アクリル系ポリマーの重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、反応温度、反応時間、有機溶媒量、触媒の種類や量を調整することにより、所望の分子量に調整できる。
【0074】
[(メタ)アクリル系オリゴマー]
本発明の粘着剤組成物は、重量平均分子量が3,000〜20,000である(メタ)アクリル系オリゴマーを含むことが好ましい。
粘着剤組成物が(メタ)アクリル系オリゴマーを更に含むことで、帯電防止剤の含有量を抑えることが可能となる。また、粘着剤組成物が後述のポリエーテル変性シリコーンを含む場合、(メタ)アクリル系オリゴマーを更に含むことによって、ポリエーテル変性シリコーンの含有量を抑えることが可能となる傾向がある。これにより、保護フィルムを被着体から剥離した際に粘着剤層の一部が被着体に残りにくくなるため、被着体への汚染の発生を抑制する傾向がある。さらに、特定(メタ)アクリル系ポリマーの相溶性が低下することで発生する白濁を抑制する傾向がある。
【0075】
(メタ)アクリル系オリゴマーは、被着体への汚染の発生を抑制する観点から、カルボキシ基を有する単量体に由来する構成単位を含むことが好ましい。カルボキシ基を有する単量体の種類は、特に制限されない。
カルボキシ基を有する単量体に由来する構成単位としては、既述の特定(メタ)アクリル系ポリマーにおけるカルボキシ基を有する単量体に由来する構成単位が挙げられる。カルボキシ基を有する単量体に由来する構成単位としては、(メタ)アクリル酸に由来する構成単位が好ましい。
【0076】
(メタ)アクリル系オリゴマーにおけるカルボキシ基を有する単量体に由来する構成単位の含有率は、被着体への汚染をより低くする観点から、全構成単位の質量に対して0.1質量%〜10質量%が好ましく、0.5質量%〜7.0質量%がより好ましく、1.0質量%〜5.0質量%が更に好ましい。
【0077】
(メタ)アクリル系オリゴマーは、アルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含むことが好ましい。(メタ)アクリル系オリゴマーがアルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含むことで、粘着力の調整が容易となる。
アルキル(メタ)アクリレートとしては、既述の特定(メタ)アクリル系ポリマーにおけるアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。
(メタ)アクリル系オリゴマーに含まれるアルキル(メタ)アクリレートとしては、粘着剤層を高温高湿環境下に曝した場合であっても、高い耐久性が発揮される点から、炭素数4〜12のアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、分岐鎖を有する炭素数4〜12のアルキル(メタ)アクリレートがより好ましく、2−エチルヘキシルメタクリレートが更に好ましい。
【0078】
(メタ)アクリル系オリゴマーに含まれるアルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位の含有率としては、耐久性の観点から、全構成単位の質量に対して65質量%〜99質量%が好ましく、75質量%〜95質量%がより好ましく、80質量%〜90質量%が更に好ましい。
【0079】
(メタ)アクリル系オリゴマーは、ポリアルキレンオキシド鎖を有する単量体に由来する構成単位を含むことが好ましい。ポリアルキレンオキシド鎖を有する単量体としては、既述の特定(メタ)アクリル系ポリマーにおけるポリアルキレンオキシド鎖を有する単量体が挙げられる。
【0080】
(メタ)アクリル系オリゴマーがポリアルキレンオキシド鎖を有する単量体に由来する構成単位を含む場合、ポリアルキレンオキシド鎖におけるアルキレンオキシド単位の平均付加モル数としては、2モル〜25モルが好ましく、被着体の材質に関わらず、十分な帯電防止効果が得られる観点から、9モル〜23モルがより好ましい。なお、平均付加モル数は、既述の特定(メタ)アクリル系ポリマーにおけるポリアルキレンオキシド鎖の平均付加モル数と同義である。
【0081】
(メタ)アクリル系オリゴマーにおけるポリアルキレンオキシド鎖を有する単量体に由来する構成単位の含有率は、全構成単位の質量に対して5質量%〜30質量%が好ましく、5質量%〜20質量%がより好ましく、5質量%〜15質量%が特に好ましい。
ポリアルキレンオキシド鎖を有する単量体に由来する構成単位の含有率が5質量%以上であると、帯電防止性により優れる傾向がある。また、ポリアルキレンオキシド鎖を有する単量体に由来する構成単位の含有率が30質量%以下であると、重合反応後に重合せずに残存する単量体の含有量が抑制されて、被着体への汚染をより低くすることが可能となる。
【0082】
(メタ)アクリル系オリゴマーは、本発明の効果が発揮される範囲内において、カルボキシ基を有する単量体に由来する構成単位、アルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位及びポリアルキレンオキシド鎖を有する単量体に由来する構成単位以外の、その他の構成単位を含んでもよい。
この場合、(メタ)アクリル系オリゴマーの全構成単位に占める、カルボキシ基を有する単量体に由来する構成単位と、アルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位と、ポリアルキレンオキシド鎖を有する単量体に由来する構成単位と、の合計の含有率は、全構成単位の質量に対して80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上が更に好ましい。
【0083】
その他の構成単位を形成し得る単量体としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートに代表される水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートに代表される芳香族環を有する(メタ)アクリル系単量体、アミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートに代表される窒素原子を有する(メタ)アクリル系単量体、スチレン、α−メチルスチレンに代表される芳香族モノビニル単量体、アクリロニトリル、メタクリロニトリルに代表されるシアン化ビニル単量体や、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルに代表されるカルボン酸ビニル単量体が挙げられる。
【0084】
本発明の粘着剤組成物が(メタ)アクリル系オリゴマーを含む場合、(メタ)アクリル系オリゴマーは、1種単独であってもよく、単量体の組成、重量平均分子量等が異なる2種以上であってもよい。
【0085】
(メタ)アクリル系オリゴマーの含有量は、特定(メタ)アクリル系ポリマー100質量部に対して0.05質量部〜5.00質量部が好ましい。(メタ)アクリル系オリゴマーの含有量が0.05質量部以上であると、高速剥離時の粘着力が高くなりすぎず、高速剥離性に優れる傾向がある。(メタ)アクリル系オリゴマーの含有量が5.00質量部以下であると、被着体の保護が必要とされる期間中に、被着体の表面から保護フィルムが脱落するのを防止し、かつ、高速剥離性がより優れる傾向にある。上記観点から、(メタ)アクリル系オリゴマーの含有量としては、0.10質量部〜3.00質量部がより好ましく、0.10質量部〜2.50質量部が更に好ましい。
【0086】
(メタ)アクリル系オリゴマーの酸価は、10mgKOH/g〜200mgKOH/gが好ましく、15mgKOH/g〜100mgKOH/gがより好ましく、15mgKOH/g〜50mgKOH/gが更に好ましい。
(メタ)アクリル系オリゴマーの酸価が10mgKOH/g以上であると、特定(メタ)アクリル系ポリマーと、後述する架橋剤と、を十分に架橋することが可能となり、又、高速剥離性をより向上させる傾向がある。(メタ)アクリル系オリゴマーの酸価が200mgKOH/g以下であると、帯電防止性をより良好に保つ傾向がある。
なお、(メタ)アクリル系オリゴマーの酸価の算出方法は、既述の通りである。
【0087】
(メタ)アクリル系オリゴマーの重量平均分子量は、3,000〜20,000であることが好ましい。(メタ)アクリル系オリゴマーの重量平均分子量が3,000以上であると、(メタ)アクリル系オリゴマーが被着体に残ることを防ぐことが可能となる傾向がある。また、(メタ)アクリル系オリゴマーの重量平均分子量が20,000以下であると、粘着剤層のヘイズを低くすることが可能となる傾向がある。上記観点から、(メタ)アクリル系オリゴマーの重量平均分子量としては、4,000〜15,000が好ましく、5,000〜10,000がより好ましい。
【0088】
(メタ)アクリル系オリゴマーの重量平均分子量(Mw)は、既述の特定(メタ)アクリル系ポリマーの重量平均分子量(Mw)の測定方法と同様にして測定される。
【0089】
<架橋剤>
本発明の粘着剤組成物は、架橋剤の少なくとも1種を含む。架橋剤を含むことで、特定(メタ)アクリル系ポリマー中のカルボキシ基に代表される酸性基と反応して架橋構造を形成することが可能となる。架橋剤としては、本発明における粘着剤組成物に含まれる特定(メタ)アクリル系ポリマー中の酸性基と反応して架橋構造を形成できるものであれば特に制限されず、例えば、エポキシ化合物、イソシアネート化合物、アジリジン化合物、金属キレート化合物が挙げられる。イソシアネート化合物、エポキシ化合物等を用いる場合に比べ、架橋反応が速く、かつ、養生完了時間を短縮することが可能となる観点から、架橋剤としては、金属キレート化合物が好ましい。
【0090】
金属キレート化合物としては、多価金属原子が有機化合物と配位結合しているものが挙げられる。多価金属原子としては、例えば、Al、Zr、Co、Cu、Fe、Ni、V、Zn、In、Ca、Mg、Mn、Y、Ce、Sr、Ba、Mo、La、Sn、及びTiが挙げられる。これらの中でも、低コスト及び入手し易さの観点から、Al、Zr、及びTiが好ましく、Alがより好ましい。
多価金属原子が配位結合する有機化合物中の原子としては、酸素原子等が挙げられる。有機化合物としては、アルキルエステル、アルコール化合物、カルボン酸化合物、エーテル化合物、ケトン化合物等が挙げられる。
金属キレート化合物としては、特に安定で取り扱いが容易なアルミニウムトリスアセチルアセトネート等を好適に用いることができる。また、金属キレート化合物は、1種単独又は2種以上を併用してもよい。
【0091】
架橋剤の当量としては、特定(メタ)アクリル系ポリマーの酸性基1当量に対して、0.3当量〜2.0当量が好ましく、0.4当量〜1.5当量がより好ましく、0.6当量〜1.2当量が更に好ましい。
架橋剤の含有量が0.3当量以上であると、高速剥離時の粘着力を低く抑える傾向にあり、架橋剤の含有量が2.0当量以下であると、被着体から保護フィルムが不意に剥離しない程度の粘着力を粘着剤層に付与することが可能となる傾向がある。
【0092】
架橋剤の当量は、以下の式より計算した値である。
当量=(A×B/C)/(D
1×E
1/F
1+D
2×E
2/F
2+・・・・+D
n×E
n×F
n)
A=架橋剤の金属の価数
B=架橋剤の質量部数(固形分としての量)
C=架橋剤の分子量
D
1、D
2、・・・D
n=特定(メタ)アクリル系ポリマーに使用される全単量体中の酸性基を有する各単量体の含有率(質量%)
E
1、E
2、・・・E
n=酸性基を有する各単量体の1分子中に含まれる酸性基の数
F
1、F
2、・・・F
n=特定(メタ)アクリル系ポリマーに使用される、酸性基を有する各単量体の分子量
なお、nは、使用された単量体の種類の数を表し、例えば、使用された(メタ)アクリル系単量体が1種である場合は、D
1のみが計算に用いられ、D
2・・・D
nは計算に用いられない。
【0093】
<帯電防止剤>
本発明の粘着剤組成物は、帯電防止剤の少なくとも1種を含有する。
帯電防止剤としては、アルカリ金属塩、有機塩等のイオン性化合物が挙げられる。帯電防止剤としては、イオン解離性が高く、少量を用いた場合でも優れた帯電防止性を発現しやすい点で、アルカリ金属塩及び有機塩が好ましい。
【0094】
アルカリ金属塩は、リチウムイオン(Li
+)、ナトリウムイオン(Na
+)、カリウムイオン(K
+)、ルビジウム(Rb
+)等をカチオンとする金属塩であれば特に制限はない。
アルカリ金属塩の組合せとしては、例えば、Li
+、Na
+及びK
+からなる群より選ばれる少なくとも1種のカチオンと、Cl
−、Br
−、I
−、BF
4−、PF
6−、SCN
−、ClO
4−、CF
3SO
3−、(FSO
2)
2N
−、(CF
3SO
2)
2N
−、(C
2F
5SO
2)
2N
−及び(CF
3SO
2)
3C
−からなる群より選ばれる少なくとも1種のアニオンと、から構成される金属塩が好適に用いられる。
【0095】
中でも、アルカリ金属塩としては、帯電防止性の観点から、LiBr、LiI、LiBF
4、LiPF
6、LiSCN、LiClO
4、LiCF
3SO
3、Li(FSO
2)
2N、Li(CF
3SO
2)
2N、Li(C
2F
5SO
2)
2N及びLi(CF
3SO
2)
3Cからなる群より選ばれる少なくとも1種のリチウム塩が好ましく、LiClO
4、LiCF
3SO
3、Li(CF
3SO
2)
2N、Li(C
2F
5SO
2)
2N及びLi(CF
3SO
2)
3Cからなる群より選ばれる少なくとも1種のリチウム塩がより好ましい。これらのアルカリ金属塩は1種単独又は2種以上を併用してもよい。
【0096】
有機塩は、有機カチオンとその対イオンとを含むことが好ましい。
有機塩の融点としては、30℃以上が好ましい。有機塩の融点が30℃以上であると、被着体への移行が少なく、汚染を抑制できる傾向にあり、好ましい。
有機カチオンとしては、例えば、イミダゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、アルキルピロリジニウムカチオン、有機基を置換基として有するアンモニウムカチオン、有機基を置換基として有するスルホニウムカチオン及び有機基を置換基として有するホスホニウムカチオンが挙げられる。これらの中でも、有機カチオンとしては、帯電防止性の観点から、ピリジニウムカチオン及びイミダゾリウムカチオンからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0097】
有機カチオンの対イオンとなるアニオンは、特に限定されず、無機アニオン又は有機アニオンのいずれであってもよい。中でも、有機カチオンの対イオンとなるアニオン部としては、特に、帯電防止性により優れるため、フッ素原子を含むフッ素含有アニオンが好ましく、ヘキサフルオロホスフェートアニオン(PF
6−)がより好ましい。
【0098】
有機塩としては、ピリジニウム塩、イミダゾリウム塩、アルキルアンモニウム塩、アルキルピロリジニウム塩、アルキルホスホニウム塩等が好適に挙げられる。中でも、有機塩としては、ピリジニウム塩及びイミダゾリウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、ピリジニウムカチオン又はイミダゾリウムカチオンと、フッ素含有アニオンとの塩がより好ましい。
【0099】
帯電防止剤の含有量は、特定(メタ)アクリル系ポリマー100質量部に対して、0.05質量部〜1.50質量部が好ましく、0.10質量部〜1.00量部がより好ましい。帯電防止剤の含有量が特定(メタ)アクリル系ポリマー100質量部に対して、0.05質量部以上であると、帯電防止性がより優れる傾向にある。帯電防止剤の含有量が1.50質量部以下であると、帯電防止剤の含有量に対する帯電防止効果の効率がより高くなりやすい傾向にある。
【0100】
[ポリエーテル変性シリコーン]
本発明の粘着剤組成物は、ポリエーテル変性シリコーンの少なくとも1種を含有することが好ましい。また、ポリエーテル変性シリコーンが反応性基を有することで、粘着フィルムは被着体からより容易に剥離することができ、且つ被着体に対する汚染が少ない粘着フィルムが得られる傾向にある。
【0101】
ポリエーテル変性シリコーンは、一般式(1)で表される構成単位を有する特定(メタ)アクリル系ポリマー、帯電防止剤及び、架橋剤とともに用いた場合に、帯電防止性がより効果的に発現することが可能である。
【0102】
ポリエーテル変性シリコーンが、ポリエーテル基と、ポリエーテル基の末端にヒドロキシ基と、を有する場合、より優れた帯電防止性を示し、被着体に対する汚染を効果的に抑制する傾向にある。特に、ポリエーテル変性シリコーンの分子内に末端がヒドロキシ基であるポリアルキレンオキシド鎖を有することで、帯電防止性が効果的に発揮される傾向にある。ポリエーテル変性シリコーンが、粘着剤組成物に由来する粘着剤層の表面近傍に偏在することにより、アルカリ金属塩と相互作用するポリアルキレンオキシド鎖が粘着剤層の表面近傍に局在する傾向にある。その結果、粘着剤層の表面における表面抵抗値を低下させるためと推測される。ポリエーテル変性シリコーンを併用することで、粘着剤組成物における帯電防止剤の量を抑えることが可能となる傾向がある。
【0103】
ポリエーテル変性シリコーンは、帯電防止性と被着体に対する汚染とをより低くする観点から、ジアルキルシロキサンに由来する構成単位と、アルキル(ヒドロキシポリアルキレンオキシアルキル)シロキサンに由来する構成単位と、を含むポリシロキサン化合物が好ましい。
ジアルキルシロキサンにおけるアルキル基は、炭素数が1〜4が好ましく、1がより好ましい。
またアルキル(ヒドロキシポリアルキレンオキシアルキル)シロキサンにおけるポリアルキレンオキシド鎖は、炭素数が2〜4が好ましく、2〜3がより好ましい。アルキル(ヒドロキシポリアルキレンオキシアルキル)シロキサンにおけるポリアルキレンオキシド鎖の炭素数の含有数は、1〜100が好ましく、10〜100がより好ましい。アルキル(ヒドロキシポリアルキレンオキシアルキル)シロキサンにおけるアルキル基は、炭素数が1〜4が好ましい。
【0104】
ポリエーテル変性シリコーンが、ジアルキルシロキサンに由来する構成単位とアルキル(ヒドロキシポリアルキレンオキシアルキル)シロキサンに由来する構成単位とを含む場合、ジアルキルシロキサンに由来する構成単位の含有数は100以下が好ましく、1〜80がより好ましい。またアルキル(ヒドロキシポリアルキレンオキシアルキル)シロキサンに由来する構成単位の含有数は2〜100が好ましく、2〜80がより好ましい。
【0105】
ポリエーテル変性シリコーンは、粘着性、帯電防止性及び被着体に対する汚染をより低くする観点から、下記一般式(3)で表されるポリシロキサン化合物が好ましい。
【0107】
一般式(3)中、pはジメチルシロキサン構成単位の繰り返し数であって、0〜100の数を表す。qはポリエチレンオキシド鎖を有するメチルプロピレンシロキサン構成単位の繰り返し数であって、2〜100の数を表す。また、aは、エチレンオキシド構成単位の繰り返し数であって、1〜100の数を表わす。ここで、一般式(3)で表される化合物が複数の化合物の集合体である場合、p、q及びaは化合物の集合体としての平均値であり、有理数である。
【0108】
エチレンオキシド構成単位の繰り返し数aは、1〜100の数であり、10〜100の数が好ましい。aが1以上であると、充分な導電性が得られ、帯電防止性がより向上する傾向にある。また、aが100以下であると、粘着剤組成物を構成する他の成分との相溶性が向上し、粘着剤層の透明性がより向上する傾向にある。
【0109】
また、ジメチルシロキサン構成単位の繰り返し数pは、0〜100の数であり、1〜80の数が好ましい。さらに、メチルプロピレンシロキサン構成単位の繰り返し数qは、2〜100の数であり、2〜80の数が好ましい。qが2以上であると、充分な導電性が得られ、帯電防止性がより向上する傾向にある。また、qが100以下であると、粘着剤組成物を構成する他の成分との相溶性が向上し、粘着剤層の透明性が向上する傾向にある。
【0110】
ポリエーテル変性シリコーンの重量平均分子量は特に制限はなく、例えば、5,000〜20,000であってもよく、6,000〜15,000が好ましい。
【0111】
また、ポリエーテル変性シリコーンのHLB値については特に制限されない。HLB値としては、樹脂との相溶性、表面偏在性、及び粘着性の観点から、5〜16が好ましく、7〜15がより好ましい。
HLB値は、ポリエーテル変性シリコーンの親水性と疎水性のバランスを示す尺度を表す。本明細書において、HLB値は、下記式で算出されるグリフィン法の定義に従うが、ポリエーテル変性シリコーンが市販品の場合、そのカタログデータを優先して採用する。
HLB= {(親水性基部分の式量の総和)/(ポリエーテル変性シリコーンの分子量)}×20
【0112】
ポリエーテル変性シリコーンは、分子内に、ジメチルシロキサン構成単位と、ポリエチレンオキシド鎖を有するメチルプロピレンシロキサン構成単位と、を有していてもよい。これらの構成単位は、それぞれブロック共重合体を構成していても、ランダム共重合体を構成していてもよい。
【0113】
一般式(3)で表されるポリエーテル変性シリコーンの具体例としては、例えば、「SF−8428」、「FZ−2162」及び「SH−3773M」〔以上、東レ・ダウコーニング株式会社製〕が挙げられる。
【0114】
ポリエーテル変性シリコーンは、上記市販品から選択されたものであってもよい。また、ポリエーテル変性シリコーンは、水素化ケイ素を有するジメチルポリシロキサン主鎖に対し、不飽和結合及びポリエチレンオキシド鎖を有する有機化合物をヒドロシリル化反応によりグラフトさせることによって得ることもできる。
【0115】
ポリエーテル変性シリコーンの含有量は、特定(メタ)アクリル系ポリマー100質量部に対して、0.05質量部〜1.00質量部が好ましく、0.05質量部〜0.70質量部がより好ましく、0.05質量部〜0.30質量部が更に好ましい。
ポリエーテル変性シリコーンの含有量が0.05質量部以上であると、帯電防止性により優れる傾向にある。またポリエーテル変性シリコーンの含有量が1.00質量部以下であると、被着体への汚染(クモリ)の発生が抑制され、又、特定(メタ)アクリル系ポリマーとの相溶性が低下して白濁が発生することを抑制することが可能となる傾向がある。
【0116】
粘着剤組成物は、一般式(3)で表されるポリシロキサン化合物と、一般式(3)とは異なる構造を有し、ポリエチレンオキシ基を含むジメチルポリシロキサン化合物とを含んでいてもよい。
一般式(3)とは異なる構造を有し、ポリエチレンオキシド鎖を含むジメチルポリシロキサン化合物としては、例えば、ポリエチレンオキシド鎖の末端がアルコキシ基、アシルオキシ基である化合物、及びポリエチレンオキシド鎖が側鎖ではなく、主鎖又は末端に含まれる化合物が挙げられる。
【0117】
一般式(3)とは異なる構造を有し、ポリエチレンオキシド鎖を含むジメチルポリシロキサン化合物の具体例としては、例えば、「BY−16−201」、「FZ−77」、「FZ−2104」、「FZ−2110」、「FZ−2203」、「FZ−2207」、「FZ−2208」、「L−7001」、「L−7002」、「SF−8427」、「SH−3749」及び「SH−8400」(以上、東レ・ダウコーニング株式会社製)が挙げられる。
【0118】
粘着剤組成物が、一般式(3)とは異なる構造を有し、ポリエチレンオキシド鎖を含むジメチルポリシロキサン化合物を含む場合、その含有率としては、ポリシロキサン化合物の総質量に対して、0.05質量%以下が好ましく、0.03質量%以下がより好ましい。
【0119】
[その他の成分]
粘着剤組成物は、特定(メタ)アクリル系ポリマー、架橋剤、帯電防止剤、並びに任意成分である(メタ)アクリル系オリゴマー及びポリエーテル変性シリコーンの他に、必要に応じて、耐候性安定剤、タッキファイヤー、可塑剤、軟化剤、剥離助剤、染料、顔料、無機充填剤、界面活性剤等を適宜含有することができる。
【0120】
≪保護フィルム≫
本発明の保護フィルムは、本発明の粘着剤組成物の架橋物である粘着剤層と、基材と、を有する。本発明の保護フィルムは、本発明の粘着剤組成物に由来する粘着剤層を有することにより、被着体の材質に関わらず、高速剥離性及び帯電防止性に優れる傾向がある。
【0121】
本発明の保護フィルムに用いられる基材は、基材上に粘着剤層が形成可能であれば特に制限されない。
基材は、透視による光学部材の検査及び管理の観点から、ポリエステル系樹脂、アセテート系樹脂、ポリエーテルサルホン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂等の樹脂を用いたフィルムが挙げられる。中でも、基材としては、表面保護性能の観点から、ポリエステル系樹脂を用いたフィルムが好ましく、実用性を考慮すると、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂を用いたフィルムがより好ましい。
【0122】
基材の厚さは、一般には500μm以下とすることができ、好ましくは5μm〜300μmであり、より好ましくは10μm〜200μmである。
【0123】
基材の片面又は両面には、帯電防止層を設けてもよい。また基材の、粘着剤層が設けられる側の表面には、粘着剤層との密着性を向上させるためにコロナ放電処理等が施されていてもよい。
【0124】
基材上には、本発明の粘着剤組成物に由来する粘着剤層が設けられている。
粘着剤層の形成方法としては、例えば、粘着剤組成物を、そのままで又は必要に応じて適宜の溶媒で希釈し、これを基材に塗布した後、乾燥して溶媒を除去する方法を採用することができる。
また、先ず、シリコーン樹脂等により離型処理が施された紙又はポリエステルフィルム等の適宜のフィルムからなる剥離シートの上に粘着剤組成物を塗布し、加熱乾燥して粘着剤層を形成し、次に、剥離シートの粘着剤層側を基材に圧接して、粘着剤層を基材に転写させる方法を採用することもできる。
【0125】
本発明における粘着剤層は、架橋剤によって、特定(メタ)アクリル系ポリマーが架橋されてなる粘着剤層である。これにより、粘着剤層の高速剥離時の粘着力を低く抑えることが可能となる。
特定(メタ)アクリル系ポリマーを架橋剤で架橋する条件は特に制限されない。例えば、23℃、50%RHの環境下で、数十分間〜数日間養生することで、粘着剤組成物の架橋反応が終了する。
【0126】
基材上に形成される粘着剤層の厚さは、保護フィルムに求められる粘着力、光学部材の表面粗さ等に応じて適宜設定することができる。粘着剤層の厚さとしては、一般に、1μm〜100μmであり、好ましくは5μm〜50μm、更に好ましくは10μm〜30μm程度を例示することができる。
【0127】
粘着剤層の粘着力が高くなると、大面積における高速剥離時に被着体から剥離しにくくなる傾向にあるので、剥離速度30m/分(高速剥離)における粘着力(剥離力)としては、2.00N/25mm未満が好ましく、1.00N/25mm以下がより好ましい。
被着体の保護が必要とされる期間中に、被着体の表面から保護フィルムが脱落するのを防止する観点から、剥離速度30m/分(高速剥離)における粘着力(剥離力)としては、0.15N/25mmを超えることが好ましく、0.20N/25mm以上がより好ましい。
【0128】
本発明の保護フィルムの用途は特に制限されず、例えば、本発明の保護フィルムを光学部材の表面に積層させて、光学部材の表面が汚染されたり損傷したりしないように保護してもよい。また、本発明の保護フィルムは、鉄、ステンレス鋼(SUS)等の金属板に貼合させて、金属板の表面が汚染されたり損傷したりしないように保護するものであってもよい。
【0129】
保護フィルムが光学部材に用いられる場合、光学部材は保護フィルムが光学部材に積層された状態のまま、打抜加工、検査、輸送、液晶表示板の組立等の各工程に供され、必要に応じて、オートクレーブ処理、高温エージング処理等の加熱加圧処理が施され、表面保護が不要となった段階で光学部材から剥離除去される。
【0130】
光学部材としては、画像表示装置、入力装置等の機器(光学機器)を構成する部材又はこれらの機器に用いられる部材が挙げられる。光学部材の具体例としては、偏光板、波長板、位相差板、光学補償フィルム、輝度向上フィルム、導光板、反射フィルム、反射防止フィルム、透明導電フィルム(ITOフィルム)等が挙げられる。
【実施例】
【0131】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0132】
(製造例A−1)
−(メタ)アクリル系ポリマー(A−1)の製造−
温度計、攪拌機、窒素導入管及び還流冷却器を備えた反応容器内に、酢酸エチル70.0質量部を入れ、また別の容器に、単量体としてn−ブチルアクリレート(BA)60.0質量部、2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA)24.9質量部、アロニックスM−5300(一般式(1a)で表される単量体、東亞合成株式会社製)10.0質量部、メトキシポリエチレングリコールアクリレート(アルキレンオキシド単位の平均付加モル数9)(MePEGA)5.1質量部を入れ、混合して単量体混合物とした。この単量体混合物のうち、20.0質量%を反応容器中に加え、次いで反応容器内の空気を窒素ガスで置換した後、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(以下、「AIBN」ともいう。)0.01質量部を添加して、攪拌下に窒素雰囲気中で、前記反応容器内の混合物温度を85℃に昇温させて、初期反応を開始させた。初期反応がほぼ終了した後、残りの単量体混合物80.0質量%、並びに酢酸エチル15.0質量部、及びAIBN0.10質量部の混合物をそれぞれ逐次添加しながら約2時間反応させ、引き続いて、さらに2時間反応させた。その後、酢酸エチル25.0質量部にAIBN0.10質量部を溶解させた溶液を、上記混合物に1時間かけて滴下し、さらに1.5時間反応させた。反応終了後、(メタ)アクリル系ポリマー(A−1)の溶液を得た。
(メタ)アクリル系ポリマー(A−1)の溶液の固形分は48.0質量%であった。得られた(メタ)アクリル系ポリマー(A−1)の酸価及び重量平均分子量(Mw)を表1に示す。
なお、「固形分」とは(メタ)アクリル系ポリマーの溶液から溶媒を除去した残渣である。酸価及び重量平均分子量(Mw)は既述の方法で求めたものである。
【0133】
酸価は、次のとおり計算した。
酸価(mgKOH/g)={(A/100)÷B}×56.1×1000×C
A=(メタ)アクリル系ポリマー又は(メタ)アクリル系オリゴマーに使用される全単量体中の、酸性基を有する単量体の含有率(質量%):10.0
B=(メタ)アクリル系ポリマー(A−1)の構成単位である酸性基を有する単量体であるアロニックスM−5300の分子量:300.4
C=酸性基を有する単量体1分子中に含まれる酸性基の数:1
酸価={(10.0/100)÷300.4}×56.1×1000×1=18.7
【0134】
(製造例A−2〜A−21)
−(メタ)アクリル系ポリマー(A−2)〜(A−21)の製造−
製造例A−1において、表1に示す単量体組成に変更し、重合開始剤量等を適宜調整したこと以外は、製造例A−1と同様にして、(メタ)アクリル系ポリマー(A−2)〜(A−21)の溶液を製造した。得られた(メタ)アクリル系ポリマーの酸価及び重量平均分子量(Mw)を表1に示す。
なお、酸価及び重量平均分子量(Mw)は既述の方法で求めたものである。
【0135】
(製造例B)
−(メタ)アクリル系オリゴマー(B)の製造−
攪拌羽根、温度計、窒素ガス導入管、冷却器、滴下ロートを備えた反応容器内に、メチルエチルケトン100.0質量部、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(アルキレンオキシド単位の平均付加モル数23)(MePEGMA)10.0質量部を入れ、窒素雰囲気下で攪拌しながら還流温度まで加熱した。滴下ロートに、予め混合しておいた、2−エチルヘキシルメタクリレート(2EHMA)85.0質量部、アクリル酸(AA)5.0質量部、メチルエチルケトン100.0質量部、アゾビスイソブチロニトリル5.0質量部の混合溶液を入れ、120分かけて還流温度の反応容器に逐次添加した。その後240分間、還流温度を維持したまま反応させ、反応を終了した。
得られた(メタ)アクリル系オリゴマー(B)の溶液の固形分は33.0質量%であった。(メタ)アクリル系オリゴマー(B)の酸価及び重量平均分子量(Mw)を表1に示す。
なお、酸価及び重量平均分子量(Mw)は既述の方法で求めたものである。
【0136】
【表1】
【0137】
表1における略号は、以下の通りである。なお、表1中の「−」は、該当の成分を含まないことを示す。
・BA:n−ブチルアクリレート
・2EHA:2−エチルヘキシルアクリレート
・2HEA:2−ヒドロキシエチルアクリレート
・2EHMA:2−エチルヘキシルメタクリレート
・2MTA:2−メトキシエチルアクリレート
・M−5300:ω−カルボキシ−ポリカプロラクトン(n≒2)モノアクリレート(一般式(1a)で表される単量体)(商品名:アロニックスM−5300、東亞合成株式会社製)
・AA:アクリル酸
・HOA−MS:2−アクリロイルオキシエチル−コハク酸(一般式(1a)で表される単量体)(商品名:ライトアクリレートHOA−MS(N)、共栄社化学株式会社製)
・MePEGA:メトキシポリエチレングリコールアクリレート(アルキレンオキシド単位の平均付加モル数は、それぞれ4又は9)
・MePEGMA:メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(アルキレンオキシド単位の平均付加モル数は23)
・MePPGA:メトキシポリプロピレングリコールアクリレート(アルキレンオキシド単位の平均付加モル数は2)
【0138】
<実施例1>
撹拌羽根、温度計、冷却器、滴下ロートを備えた四つ口フラスコに製造例A−1で調製した(メタ)アクリル系ポリマー(A−1)の溶液(固形分48.0質量%)を208.3質量部(固形分として100質量部)、製造例Bで調製した(メタ)アクリル系オリゴマー(B)の溶液(固形分33.0質量%)1.2質量部(固形分として0.40質量部)、帯電防止剤としてLi(CF
3SO
2)
2N(森田化学工業株式会社製のLiTFSI)0.150質量部を仕込み、フラスコ内の液温を25℃付近に保って4時間混合撹拌を行った。これにポリエーテル変性シリコーンとして、SH−3773M(東レ・ダウコーニング株式会社製、固形分100.0質量%)0.100質量部、架橋剤として、アルミニウムトリスアセチルアセトネート(商品名:アルミキレートA、川研ファインケミカル株式会社製)をアセチルアセトンとトルエンとで希釈したアルミキレート希釈物(固形分9.72質量%)25.7質量部(固形分として2.5質量部、0.69当量)を添加し、十分に攪拌して、粘着剤組成物溶液を得た。
この粘着剤組成物溶液を用いて、以下の試験用保護フィルムの作製方法に従い、試験用保護フィルムを作製し、各種物性試験を行った。得られた結果を表2に示す。
なお、上記アルミキレート希釈物に含まれるアルミニウムトリスアセチルアセトネート(アルミニウムキレート)の当量は、(メタ)アクリル系ポリマーに含まれる酸性基に対するものである。
アルミニウムキレートの当量の計算は、既述の方法で計算したものであり、具体的には次のとおり計算した。
当量=(A×B/C)/(D
1×E
1/F
1+D
2×E
2/F
2+・・・・+D
n×E
n×F
n)
A=アルミニウムキレートの金属の価数:3.0
B=アルミニウムキレートの質量部数(固形分としての量):2.5質量部
C=アルミニウムキレートの分子量:324.3
D
1=(メタ)アクリル系ポリマーに使用される全単量体中の酸性基を有する各単量体の含有率(質量%):10.0質量%
E
1=各酸性基を有する単量体の1分子中に含まれる酸性基の数:1
F
1=アロニックスM−5300の分子量:300.4
n=使用された(メタ)アクリル系単量体の種類:1
当量=(A×B/C)/(D
1×E
1/F
1)=(3×2.5/324. 3)/(10.0×1/300.4)=0.69
【0139】
[評価]
(1)試験用保護フィルムの作製
基材として、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(商品名:帝人テトロンフィルムタイプG2、厚み38μm、帝人デュポンフィルム株式会社製)上に、乾燥後の塗工量が20g/m
2となるように、粘着剤組成物溶液を塗布し、100℃で60秒間熱風循環式乾燥機にて乾燥した。その後、粘着剤組成物溶液を塗布したPETフィルムと、シリコーン系離型剤で表面処理された離型フィルム(商品名:フィルムバイナ100E−0010NO23、厚み100μm、藤森工業株式会社製)と、を粘着剤組成物溶液の塗布面が離型フィルムの表面処理面に接するように重ね合せて積層体とした。この積層体を加圧ニップロール対に通して圧着して貼り合わせた後、23℃、50%RHの条件下で1時間養生し、試験用保護フィルムを作製した。
【0140】
<試験サンプル1〜4の作製>
<試験サンプル1>
上記(1)で作製した試験用保護フィルムの離型フィルムを剥離し、被着体として、トリアセチルセルロース(TAC)フィルム(商品名:ロンザTAC100、パナック株式会社製)を重ね合せて、加圧ニップロールに通し圧着して貼り合せて、25mm×150mmの大きさにカットし、試験サンプル1(対TAC)とした。
【0141】
<試験サンプル2>
上記(1)で作製した試験用保護フィルムの離型フィルムを剥離し、被着体としてPETフィルム(商品名:コスモシャインA―4300、東洋紡株式会社製)と重ね合せて、加圧ニップロールに通し圧着して貼り合せて、25mm×150mmの大きさにカットし、試験サンプル2(対PET)とした。
【0142】
<試験サンプル3>
上記(1)で作製した試験用保護フィルムの離型フィルムを剥離し、被着体として表面がハードコート処理されたPET(以下、「HCPET」ともいう。)フィルム(商品名:KBフィルム G01S、株式会社きもと製)をハードコート処理された面と粘着剤層とが接するように重ね合せて、加圧ニップロールに通し圧着して貼り合せて、25mm×150mmの大きさにカットし、試験サンプル3(対HCPET)とした。
【0143】
<試験サンプル4>
上記(1)で作製した試験用保護フィルムの離型フィルムを剥離し、被着体として冷間圧延後、光輝焼鈍(無酸化焼鈍)を行ったステンレス鋼板(BASUS)(商品名:SUS304(BA)、株式会社パルテック製)を重ね合せて、加圧ニップロールに通し圧着して貼り合せて、25mm×150mmの大きさにカットし、試験サンプル4(対BASUS)とした。
【0144】
(2)高速剥離性
上記で準備した試験サンプル1〜4をそれぞれ、23℃、50%RHの条件下で24時間放置した。その後、
図1に示すような装置を用いて、剥離速度30m/分の高速条件で180゜剥離における粘着力を測定した。具体的には、
図1に示すように、ガラス板と被着体の表面とを接するように、試験サンプルをガラス板の上に置き、試験サンプルの一端を把持して、ガラス板の表面に沿って180°方向に引っ張ることで基材(PETフィルム)を粘着剤層から剥離して行った。
以下の評価基準に従って、高速剥離性を評価し、その結果を表2に示す。
【0145】
[評価基準]
AA:全ての被着体に対する粘着力が、0.20N/25mm〜1.00N/25mmであり、剥離性が非常に優れ、粘着力に優れている。
A:全ての被着体に対する粘着力が、0.15N/25mmを超えて2.00N/25mm未満であり、少なくとも1つの被着体に対する粘着力が、0.15N/25mmを超えて0.20N/25mm未満、又は1.00N/25mmを超えて2.00N/25mm未満であり、剥離性が優れ、粘着力がやや優れている。
B:少なくとも1つの被着体に対する粘着力が、2.00N/25mm以上であり、剥離性がやや劣り、許容できない範囲である。
C:少なくとも2つの被着体に対する粘着力が、2.00N/25mm以上であり、剥離性が劣り、許容できない範囲である。
D:少なくとも1つの被着体に対する粘着力が、0.15N/25mm以下であり、被着体の表面から意図せぬ脱落が起こり得るほど非常に劣り、保護フィルムとして許容できない範囲である。
【0146】
(3)帯電防止性
上記で準備した試験サンプル1〜4をそれぞれ、23℃、50%RHの条件下で24時間放置した後、上記(2)と同様の方法で
図1に示すように180゜方向に剥離速度30m/分(高速)にて剥離した。
剥離した際に発生する被着体の表面の電位を、所定の位置(被着体の表面から10mm離れた位置)に固定配置してある電位測定器(商品名:KSD−0303、春日電機株式会社製)にて測定した。この測定値の絶対値を剥離帯電圧として、以下の評価基準に従って帯電防止性を評価し、その結果を表2に示す。
【0147】
[評価基準]
AA:全ての被着体の剥離帯電圧の絶対値が0.5kv以下であり、帯電防止性が非常に優れている。
A:全ての被着体の剥離帯電圧の絶対値が0.5kvを超えて1.0kv以下であり、帯電防止性が優れている。
B:少なくとも1つの被着体の剥離帯電圧の絶対値が1.0kvを超えて1.5kv以下であり、帯電防止性がやや劣り、許容できない範囲である。
C:少なくとも1つの被着体の剥離帯電圧の絶対値が1.5kvを超え、帯電防止性が劣り、許容できない範囲である。
【0148】
<実施例2〜実施例23及び比較例1〜8>
実施例1において、組成を表2に示した組成に変更した以外は、実施例1と同様にして表2に示す粘着剤組成物を調製した。得られた粘着剤組成物を用いて、試験用保護フィルムを作製し、この試験用保護フィルムを用いて試験サンプル1〜4を作製した。このサンプル1〜4を用いて各評価を行い、得られた結果を表2に示す。
【0149】
【表2】
【0150】
表2における略号は以下の通りである。なお、表2中の「−」は、該当の成分を含まないことを示す。
・LiTFSI:リチウムビス(トリフルオロメタンスルホンイミド)、Li(CF
3SO
2)
2N(森田化学工業株式会社製)
・LiTFS:トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、LiCF
3SO
3(森田化学工業株式会社製)
・イオン性固体A:N−ヘキシルピリジニウム・PF
6−(有機カチオンとしてヘキシルピリジニウムイオンを有する有機塩、融点45℃)
・SH−3773M:側鎖にポリオキシアルキレン鎖を導入したジメチルシロキサン化合物(東レ・ダウコーニング株式会社製、ポリオキシアルキレン鎖の末端は水酸基、HLB値=8)
・アルミキレート:アルミニウムトリスアセチルアセトネート(商品名:アルミキレートA、川研ファインケミカル株式会社製)をトルエン及びアセチルアセトンを用いて固形分9.7質量%に希釈したもの
【0151】
酸価が9mgKOH/g〜65mgKOH/gの範囲内にあり、かつ、ポリアルキレンオキシド鎖を有する単量体に由来する構成単位の含有率が、全構成単位の質量に対して1質量%を超えて20質量%未満の範囲にある(メタ)アクリル系ポリマーと、架橋剤と、帯電防止剤と、を含む実施例1〜23の粘着剤組成物の架橋物を有する保護フィルムは、何れの被着体に用いた場合であっても、高速剥離性及び帯電防止性に優れていた。
特に実施例6、8、11及び17の粘着剤組成物の架橋物を有する保護フィルムは高速剥離性及び帯電防止性により優れていた。
これに対して、ポリアルキレンオキシド鎖を有する単量体に由来する構成単位を含まない(メタ)アクリル系ポリマーを含む比較例1、2、7及び8、並びに、ポリアルキレンオキシド鎖を有する単量体に由来する構成単位の含有率が、全構成単位の質量に対して1.0質量%である(メタ)アクリル系ポリマーを含む比較例3はいずれも、PETに対する剥離帯電圧の値が高く、帯電防止性に劣っていた。ポリアルキレンオキシド鎖を有する単量体に由来する構成単位の含有率が、全構成単位の質量に対して20質量%である(メタ)アクリル系ポリマーを含む比較例4は、PETに対する高速剥離性に劣っていた。
また、酸価が9mgKOH/g〜65mgKOH/gの範囲外にある(メタ)アクリル系ポリマーを含む比較例5及び6は、それぞれ高速剥離性に劣っていた。酸価が65mgKOH/g以上である比較例6は、高速剥離性に加えて、帯電防止性も劣っていた。
【0152】
以上より、本発明の粘着剤組成物の架橋物を有する保護フィルムは、被着体の材質に関わらず、被着体の保護が必要とされる期間中に、被着体の表面から保護フィルムが脱落しない程度の粘着力を有しつつ、高速剥離時の粘着力が低く抑えられており、かつ、帯電防止性に優れている。このことから、本発明の粘着剤組成物の架橋物を有する保護フィルムは、被着体の材質に関わらず、高速剥離性及び帯電防止性に優れる。