特許第6738739号(P6738739)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6738739
(24)【登録日】2020年7月22日
(45)【発行日】2020年8月12日
(54)【発明の名称】膀胱内滴下注入用生物製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/742 20150101AFI20200730BHJP
   A61P 13/10 20060101ALI20200730BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20200730BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20200730BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20200730BHJP
【FI】
   A61K35/742
   A61P13/10
   A61P25/00
   A61K47/34
   A61K47/36
【請求項の数】10
【全頁数】51
(21)【出願番号】特願2016-565197(P2016-565197)
(86)(22)【出願日】2015年4月30日
(65)【公表番号】特表2017-514828(P2017-514828A)
(43)【公表日】2017年6月8日
(86)【国際出願番号】US2015028647
(87)【国際公開番号】WO2015168471
(87)【国際公開日】20151105
【審査請求日】2018年4月24日
(31)【優先権主張番号】61/986,346
(32)【優先日】2014年4月30日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】62/031,302
(32)【優先日】2014年7月31日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591018268
【氏名又は名称】アラーガン、インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】ALLERGAN,INCORPORATED
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100156982
【弁理士】
【氏名又は名称】秋澤 慈
(72)【発明者】
【氏名】フォッセン エリック エイ
(72)【発明者】
【氏名】ヒューズ パトリック エム
(72)【発明者】
【氏名】ラップ デイヴィッド シー
(72)【発明者】
【氏名】ハント テレンス
(72)【発明者】
【氏名】シミズ ゲイリー
(72)【発明者】
【氏名】フランシス ジョーゼフ
(72)【発明者】
【氏名】ブロイド ロン エス
(72)【発明者】
【氏名】フェルナンデス−サラス エスター
【審査官】 渡部 正博
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2012/0201857(US,A1)
【文献】 国際公開第2013/153550(WO,A1)
【文献】 特表2012−512162(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0105884(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00−35/768
A61K 9/00−9/72
A61K 47/00−47/69
A61P 1/00−43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療上有効な量のクロストリジウム誘導体及び少なくとも1つの透過剤を含み、
前記少なくとも1つの透過剤は、前記クロストリジウム誘導体に対する膀胱壁の透過性の可逆的増加に有効な量で存在する医薬組成物であって、
前記クロストリジウム誘導体はボツリヌストキシンであり、
前記少なくとも1つの透過剤は界面活性剤及び粘膜付着性物質を含み、
前記界面活性剤は約0.1%(w/v)の量で存在し
前記膜付着性物質がキトサンを含み、且つ
前記界面活性剤がノノキシノール−9を含む、前記医薬組成物。
【請求項2】
前記粘膜付着性物質が約0.01%から約5%(w/v)の範囲の量で存在する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記粘膜付着性物質が約1%(w/v)の量で存在する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記クロストリジウム誘導体はボツリヌストキシンタイプAである、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記界面活性剤が0.1%(w/v)の量で存在する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
神経因性膀胱機能障害を有する患者を治療する為の医薬組成物であって、
前記医薬組成物が、治療上有効な量のクロストリジウム誘導体及び治療上有効な速度でボツリヌス毒素に対する膀胱壁の透過性を増加させるのに有効な量で存在する少なくとも1つの透過剤を含み、
前記クロストリジウム誘導体はボツリヌストキシンであり、
前記少なくとも1つの透過剤は界面活性剤及び粘膜付着性物質を含み、
前記界面活性剤が約0.1%(w/v)の量で存在し
前記膜付着性物質がキトサンを含み、且つ
前記界面活性剤がノノキシノール−9を含む、前記医薬組成物。
【請求項7】
治療上有効な量のクロストリジウム誘導体及び少なくとも1つの透過剤を含む医薬組成物であって、
前記少なくとも1つの透過剤は、前記クロストリジウム誘導体に対する膀胱壁の透過性を可逆的に増加するために0.005−10%(w/v)の量で存在し、
前記クロストリジウム誘導体はボツリヌストキシンであり、
前記少なくとも1つの透過剤は界面活性剤及び粘膜付着性物質を含み、
前記膜付着性物質がキトサンであり、及び
前記界面活性剤がノノキシノール−9である、前記医薬組成物。
【請求項8】
前記界面活性剤が約0.1%(w/v)の量で存在し
前記膜付着性物質が約1%(w/v)の量で存在する、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
必要とする患者における神経因性膀胱機能障害を治療する為の請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項10】
患者の膀胱壁に膀胱内滴下注入する為の、請求項7〜9のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照により本明細書に全て組み込まれる、2014年4月30日に出願された米国仮特許出願第61/986,346号及び2014年7月31日に出願された米国仮特許出願第62/031,302号の利益を主張する。
【0002】
本開示は、クロストリジウム誘導体を含む医薬製剤及びその使用方法に関する。特に、本開示は、膀胱滴下注入用クロストリジウム誘導体を含む医薬製剤に関する。
【背景技術】
【0003】
ニューロトキシン療法、特にボツリヌストキシンは、過活動膀胱(OAB)及び排尿筋過活動のような泌尿器障害を含む種々の病態の治療に使用されてきた。
【0004】
神経の状態と関連する過活動膀胱(OAB)、排尿筋過活動のような疾患を治療するためのボツリヌストキシン療法は、典型的には、膀胱壁にわたって膀胱を囲む弱い筋肉組織に注入により投与される。このアプローチは、図1に示されるように、膀胱壁を通して約30回から40回の投与を必要とする。注入による医薬の投与は、局所的な痛みを生じさせ、患者を潜在的に血液由来の疾病にさらすかもしれない。代替的な投与の中で、膀胱内の滴下注入は、膀胱壁を横切ることにより、膀胱内に直接薬物を届けることができる。
【0005】
膀胱壁はほとんどの物質に対して不透過である。図2に示されるように、層状の尿路上皮は、3つの細胞層:アンブレラ細胞、中間細胞、及び基底細胞からなる。基底細胞は、細胞分裂により、部分的に分化する中間細胞を置換する胚芽細胞である。高度に分化しかつ極性化したアンブレラ細胞は、膀胱の内腔に配置され、血液と尿との間の物質の移動に対する主要な物理的なバリアである。アンブレラ細胞の頂端膜は、ウロプラキンと呼ばれるタンパク質からなるプラークで覆われており、それが頂端膜に厚い外観をもたらす。また、アンブレラ細胞は、上皮を通る尿及びより大きな分子の傍細胞の移動を抑制するタイトジャンクションを含む。
【0006】
よって、非経口的投与の代わりに膀胱壁への送達を促進し得るクロストリジウム誘導体を含む医薬製剤の必要性が残る。
【0007】
クロストリジウム毒素療法は、多くの適応症に成功的に使用される。概して、クロストリジウム毒素療法の投与は良好な耐容性を示している。ボツリヌストキシンは、ヒトの体内で多くの異なるタイプのニューロンに影響し得るが、いくつかの病態の治療については、より特異的な分子が有効であることが発見された。よって、神経細胞の特定のタイプを標的とする、標的とされたエキソサイトーシスモジュレータ(TEM)のような修飾クロストリジウム誘導体を含む医薬製剤の必要性が残る。
【発明の概要】
【0008】
いくつかの態様では、本開示は、クロストリジウム誘導体及び患者の膀胱壁に浸透してクロストリジウム誘導体の生物活性を保持し所望の治療効果を生じさせ得る、少なくとも1つの透過剤を含む、膀胱内(膀胱)投与用医薬製剤を提供する。
【0009】
一態様では、本開示は、治療上有効な量のクロストリジウム誘導体及び少なくとも1つの透過剤を含み、前記少なくとも1つの透過剤は、クロストリジウム誘導体に対する膀胱壁の透過性の実質的及び可逆的増加に有効な量で存在する、医薬組成物を提供する。
【0010】
別の態様では、本開示は、膀胱内の膀胱投与に適する医薬製剤の製造方法を提供し、前記方法は、少なくとも1つの透過剤を含む溶液を提供することと、クロストリジウム誘導体を含む組成物に前記溶液を添加することを含む。いくつかの実施形態では、前記方法は、前記クロストリジウム誘導体に対して前記溶液を約50mlから約100mlを添加することを含む。いくつかの実施形態では、前記クロストリジウム誘導体は、ボツリヌストキシンである。一実施形態では、前記方法は、ボツリヌストキシンタイプAに、約1%(w/v)キトサン、類似体または誘導体、及び約0.1%(w/v)トリトン(商標)X−100、類似体または誘導体を含む約50mlから約100mlの水溶液を添加することを含む。一実施形態では、前記方法は、約100ユニットまたは200ユニットの凍結乾燥されたボツリヌストキシンタイプAを含むバイアルに、1%(w/v)キトサン及び0.1%(w/v)トリトン(商標)X−100を含む50mlの水溶液を添加すること、及び緩やかに撹拌して凍結乾燥されたボツリヌストキシンタイプAを再水和することを含む。
【0011】
別の態様では、本医薬製剤は、カテーテル、送達デバイス表面(シリンジ、パッチ、マイクロニードル、設計されたインジェクタ(Bioject等))、チューブ、容器へのクロストリジウム誘導体の吸着を防止または最小限にすることにより、クロストリジウム誘導体のバイオアベイラビリティーを最大限にする。
【0012】
別の態様によると、本開示は、患者における医療疾患を治療する方法を提供し、前記方法は、本開示により提供される医薬組成物を投与するステップを含み、これにより、医療疾患を治療する。一実施形態では、本方法は、医療疾患の1つ以上の症候を緩和する。一実施形態では、医療疾患は、特発性神経因性膀胱機能障害または膀胱痛を含む。いくつかの態様では、方法は、治療上有効な量のクロストリジウム誘導体及び治療上有効な速度でクロストリジウム誘導体に対する膀胱壁の透過性の実質的な増加に有効な量で存在する少なくとも1つの透過剤を含む、医薬組成物を患者の膀胱に膀胱内に滴下注入することを含む、神経因性または特発性膀胱機能障害、膀胱痛を有する患者を治療するために提供される。
【0013】
また、本医薬製剤の他の態様及びバリエーション並びに上記に要約した方法が企図され、以下の開示に対して考慮する際に、より十分に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】膀胱壁にボツリヌストキシンを嚢胞内注入する従来技術を示す。
図2】尿管上皮の概要図であって、A)尿管上皮は3つの細胞層:基底細胞、中間細胞、表面のアンブレラ細胞からなる。B)アンブレラ細胞は、それらの頂端膜のプラーク、並びにタイトジャンクション及び平滑基底膜上のデスモソームで結合された原線維を含む小胞の細胞質ネットワークを示す。C)内腔についてみた尿管上皮の頂端膜は、プラーク及びヒンジ領域を示す。
図3】ヒト尿路上皮性培養モデルの概略図、層状の尿管上皮を有するトランスウェル(登録商標)浸透性サポートシステムの図を示す。
図4】例示的なサロゲートに対するヒト尿路上皮性細胞の透過性における種々の透過剤の異なる効果を示す例示的なグラフを示す。
図5A】例示的なTEMサロゲートの細胞透過性及び軽鎖活性での2つの例示的な透過剤の濃度及び時間による影響を示す。
図5B】例示的なTEMサロゲートの細胞透過性及び軽鎖活性での2つの例示的な透過剤の濃度及び時間による影響を示す。
図6A】ボツリヌストキシンタイプAの細胞透過性及び軽鎖活性での2つの例示的な透過剤の濃度及び時間による影響を示す。
図6B】ボツリヌストキシンタイプAの細胞透過性及び軽鎖活性での2つの例示的な透過剤の濃度及び時間による影響を示す。
図7】pH6.0または8.0でのボツリヌストキシンタイプAの細胞透過性及び軽鎖活性での例示的な透過剤の影響を示す。
図8A】インビボで得られたデータを示し、本開示による例示的な製剤の影響をラットで定量した。図8Aは、0から5の順序を示すスコア法であって、「0」が正常な膀胱であり、「5」が重篤な病理を指すものを用い、ラットの膀胱の完全性を評価するための基礎を確立する画像図である。
図8B】インビボで得られたデータを示し、本開示による例示的な製剤の影響をラットで定量した。図8Bは、例示的なサロゲートの膀胱壁への浸透の評価の基礎を確立するための基礎を示す画像図である。評価は、0から5の順序を示すスコア法であって、「0」はSNAP25−197染色が検出されず、「4.5」は両方のバイオマーカーがほとんど完全に重複することを示すものを用い、ラットの膀胱における副交感神経線維のVAChT染色に対応するSNAP25−197染色の範囲によるものである。「5」は観察されなかった。
図9A】インビボで得られたデータを示し、本開示による例示的な製剤の影響をラットで定量した。図9Aは、(1)種々の濃度の例示的な透過剤でのサロゲートの透過の程度、及び(2)膀胱組織完全性により測定される、正常な膀胱への滴下注入に続く本開示の態様による例示的なサロゲートを含む例示的な製剤の効果を示す。浸透の程度は、SNAP25−197染色(青色のバー、すなわち、2つの連続するバーのうち最初のバー)の程度と関連があり、膀胱組織のダメージは、H&E染色(赤色のバー、すなわち、2つの連続するバーのうち2つ目のバー)に基づいた。隣り合うバーがないバーは、SNAP25−197染色の程度を示す。
図9B】インビボで得られたデータを示し、本開示による例示的な製剤の影響をラットで定量した。図9Bは、(1)種々の濃度の例示的な透過剤でのサロゲートの浸透の程度、及び(2)膀胱組織完全性により測定される、間質性膀胱炎(IC)モデル由来の膀胱への滴下注入に続く例示的な製剤の効果を示す。浸透の程度は、SNAP25−197染色(青色のバー、すなわち、2つの連続するバーのうち最初のバー)の程度と関連があり、膀胱組織のダメージは、H&E染色(赤色のバー、すなわち、2つの連続するバーのうち2つ目のバー)に基づいた。
図10】インビボで得られたデータを示し、本開示による例示的な製剤の影響をラットで定量した。(1)種々の濃度の例示的な透過剤でのボツリヌストキシン複合体の透過の程度、及び(2)膀胱組織完全性により測定される、pH6.0または8.0で正常な膀胱に滴下注入後のボツリヌストキシン複合体(20U)を含む例示的な製剤の効果を示す。浸透の程度は、SNAP25−197染色(青色のバー、すなわち、2つの連続するバーのうち最初のバー)の程度と関連があり、膀胱組織のダメージは、H&E染色(赤色のバー、すなわち、2つの連続するバーのうち2つ目のバー)に基づいた。
図11】サロゲートの粘膜付着での例示的な透過剤の効果を示す。
図12】試験製剤の膀胱への浸透の程度を評価する基礎を確立する画像図である。浸透の程度は、SNAP25−197染色の程度と関連があった。
図13】「4」及び「0」のIHCスコアを有する2つの膀胱由来の例示的な免疫組織化学の結果を示す画像図である。
図14A】滴下注入後の膀胱組織の異なる状態を示す実例となる顕微鏡写真である。
図14B】滴下注入後の膀胱組織の異なる状態を示す実例となる顕微鏡写真である。
図14C】滴下注入後の膀胱組織の異なる状態を示す実例となる顕微鏡写真である。
図14D】滴下注入後の膀胱組織の異なる状態を示す実例となる顕微鏡写真である。
図15】本開示の態様によるいくつかの例示的な製剤の免疫組織化学(IHC)スコアを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
ボツリヌス毒素(BoNT)は、例えば、BoNT/A、BoNT/B等、ニューロトランスミッターを含む神経分泌物質の放出をブロックすることにより神経系に作用する。BoNTの作用は、細胞表面でのレセプター分子へのその結合により開始される。得られたトキシン−レセプター複合体は、その後、エンドサイト―シスを受ける。いったん細胞内にはいると、BoNTは、ニューロトランスミッタードッキングに関与する開口分泌の特異的なタンパク質を切断し、SNAREタンパク質(可溶性N−エチルマレイミド感受性因子付着タンパク質レセプター)として知られる細胞から放出する。得られた一時的な神経ブロックは、神経筋接合部で運動神経伝達をブロックするために医学的に利用され、種々の治療用途につながってきた。
【0016】
本開示の態様は、部分的に、クロストリジウム誘導体及び少なくとも1つの透過剤を含む、膀胱内の膀胱送達に適する医薬製剤を提供する。
【0017】
一態様では、本開示は、部分的に、治療上有効な量のクロストリジウム誘導体及び少なくとも1つの透過剤を含み、少なくとも1つの透過剤はクロストリジウム誘導体に対する膀胱壁の透過性の実質的及び可逆的な増加に有効な量で存在する、医薬組成物を提供する。いくつかの実施形態では、クロストリジウム誘導体はボツリヌストキシンである。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの透過剤は、界面活性剤及び粘膜付着性物質を含む。
【0018】
定義
本明細書で使用される、下記の語句及び用語は、以下の定義を有する。
【0019】
本明細書で使用される「約」または「ほぼ」は、値がどのように測定または計測されるのか(つまり、測定システムの制限)に部分的に依存する、当業者により計測される具体的な値についての許容可能な誤差範囲を意味する。例えば、「約」は、当該技術分野における1回の実施あたりの1以内のまたは1より大きい標準偏差を意味し得る。具体的な値が本明細書及びクレームに記載されている部分は、別途の記載がない限り、「約」という用語は、具体的な値についての許容可能な誤差の範囲内を意味する。
【0020】
「有効医薬成分」(API)は、対象または患者に投与時または投与後に効果をもたらす成分を意味する。APIは、例えば、天然または組み換えクロストリジウムのニューロトキシン、例えば、ボツリヌストキシン、組み換え修飾されたトキシン、そのフラグメント、TEM、及びこれらの組み合わせを含み得る。
【0021】
「投与」または「投与すること」は、対象に医薬組成物を付与する(つまり、投与する)ステップ、または、代替的には、対象が医薬組成物を受けていることを意味する。本明細書に開示される医薬組成物は、種々の方法により、局所的に投与され得る。例えば、筋肉内、皮内、皮下の投与、髄腔内投与、腹腔内投与、局所(経皮性)、滴下注入、及びインプラント(例えば、高分子インプラントまたはミニ浸透圧ポンプのような、徐放デバイス)は、全て適切な投与経路であり得る。
【0022】
「緩和」は、痛み、頭痛、過活動な筋肉、障害または疾患のあらゆる症候または原因の発生における低減を意味する。よって、緩和は、少しの低減、有意な低減、ほぼ完全な低減、及び完全な低減を含む。
【0023】
「動物性タンパク質フリー」は、血液由来、プールされた血液及び他の動物由来の生成物または化合物を含まないことを意味する。「動物」は、哺乳類(例えば、ヒト)、鳥類、爬虫類、魚類、昆虫、クモ、または他の動物種を意味する。「動物」は、バクテリアのような微生物を含まない。よって、動物性タンパク質フリーの医薬組成物は、ボツリヌス毒素、組み換え修飾されたトキシン、またはTEMを含み得る。例えば、「動物性タンパク質フリー」の医薬組成物は、血清由来のアルブミン、ゼラチン、及び他の動物由来のタンパク質、例えば、免疫グロブリンを実質的に含まない、または本質的に含まない、または完全に含まない医薬組成物を意味する。動物性タンパク質フリーの医薬組成物の例は、ボツリヌストキシン、TEM、または組み換え修飾されたトキシン(有効成分として)、及び安定剤または賦形剤として適切なポリサッカライドを含むまたはこれらからなる医薬組成物である。
【0024】
「生物活性」は、生体での薬物の有益なまたは不利益な効果を記載する。薬物が複合体の化学混合物である場合、この活性は、物質の活性成分によりもたらされるが、他の組成により修飾され得る。生物活性は、インビボLD50またはED50アッセイにより、または、例えば、米国特許出願公開第20100203559号、第20100233802号、第20100233741号及び米国特許第8,198,034号(それぞれの全体が参照により本明細書に組み込まれる)に記載されるような、細胞ベースの有効性のアッセイのようなインビトロアッセイにより、有効性または毒性を評価され得る。
【0025】
「ボツリヌストキシン」は、クロストリジウム・ボツリヌムにより産生されるニューロトキシン、並びに非クロストリジウム種により組み換えて作成されるボツリヌストキシン(またはその軽鎖もしくは重鎖)を意味する。本明細書で使用される「ボツリヌストキシン」という用語は、ボツリヌストキシン血清型A、B、C、D、E、F、及びG、並びにそれらのサブタイプ、並びにそのサブタイプのあらゆる他のタイプ、または上述のいずれかのあらゆる再設計されたタンパク質、類似体、誘導体、相同体、パーツ、サブパーツ、変異体、または変形体を包含する。また、本明細書で使用される「ボツリヌストキシン」は、「修飾されたボツリヌストキシン」を包含する。さらに、本明細書で使用される「ボツリヌストキシン」は、ボツリヌストキシン複合体(例えば、300、500、及び900kDa複合体)、並びに、複合体タンパク質とは関連しないボツリヌストキシン(150kDa)の神経毒成分をも包含する。
【0026】
「クロストリジウム誘導体」は、クロストリジウム毒素のいずれかの部分を含む分子を指す。本明細書で使用される、「クロストリジウム誘導体」という用語は、天然もしくは組み換えニューロトキシン、組み換え修飾されたトキシン、そのフラグメント、標的とされた小胞性エキソサイトーシスモジュレータ(TEM)、またはこれらの組み合わせを包含する。
【0027】
「クロストリジウム毒素」は、細胞全体のメカニズムを実行し得るクロストリジウム毒素株により産生されるあらゆるトキシンを指し、この実行によりクロストリジウム毒素が細胞を中毒させ、低または高親和性クロストリジウム毒素レセプターに対するクロストリジウム毒素の結合、トキシン/レセプター複合体の内部移行、細胞質へのクロストリジウム毒素軽鎖の転移、及びクロストリジウム毒素基質の酵素的修飾を包含する。クロストリジウム毒素の非限定的な例は、ボツリヌストキシン、例えば、BoNT/A、BoNT/B、BoNT/C1、BoNT/D、BoNT/E、BoNT/F、BoNT/G、テタヌストキシン(TeNT)、バラチ(Baratii)トキシン(BaNT)、及びブチリクムトキシン(BuNT)を含む。ニューロトキシンではない、BoNT/C2サイトトキシン及びBoNT/C3サイトトキシンは、「クロストリジウム毒素」という用語から除かれる。本明細書に開示されるクロストリジウム毒素は、限定ではなく、天然由来のクロストリジウム毒素変異体、例えば、クロストリジウム毒素アイソフォーム及びクロストリジウム毒素サブタイプ、非天然由来のクロストリジウム毒素変異体、例えば、保守的なクロストリジウム毒素変異体、非保守的クロストリジウム毒素変異体、クロストリジウム毒素キメラ変異体、及びその活性クロストリジウム毒素フラグメント、またはあらゆるこれらの組み合わせを含む。また、本明細書に開示されるクロストリジウム毒素は、クロストリジウム毒素複合体を含む。本明細書で使用される、「クロストリジウム毒素複合体」という用語は、クロストリジウム毒素及び非トキシン関連タンパク質(NAP)、を含む複合体、例えば、ボツリヌストキシン複合体、テタヌストキシン複合体、バラチ(Baratii)トキシン複合体、及びブチリクムトキシン複合体を指す。非限定的なクロストリジウム毒素複合体の例は、クロストリジウム・ボツリヌムにより産生されたもの、例えば、900−kDa BoNT/A複合体、500−kDa BoNT/A複合体、300−kDa BoNT/A複合体、500−kDa BoNT/B複合体、500−kDa BoNT/C1複合体、500−kDa BoNT/D複合体、300−kDa BoNT/D複合体、300−kDa BoNT/E複合体、及び300−kDa BoNT/F複合体を含む。
【0028】
生物学的有効成分に適用される「有効量」は、対象における所望の変化を誘導するために一般的に十分である成分の量を意味する。例えば、所望の効果が自己免疫疾患の症候の低減である場合、成分の有効量は、有意な毒性を生じさせることなく、自己免疫疾患の症候の実質的な低減を少なくとも生じさせる量である。
【0029】
医薬組成物の非有効成分構成物(例えば、ボツリヌストキシンと混合するために使用される安定剤)に適用される「有効量」は、個々に投与される際の有効成分の放出及び/または活性にポジティブに影響を及ぼすのに十分である非有効成分構成物の量を指す。この「有効量」は、本明細書の教示及び一般的な技術常識に基づいて決定され得る。
【0030】
「完全にフリー(つまり「〜からなる」の用語法)は、使用される機器やプロセスの検出範囲内で、物質は検出できず、その存在が確認できないことを意味する。
【0031】
「本質的にフリー」(つまり、「本質的に〜からなる」)は、検出可能な物質のトレース量のみを意味する。
【0032】
「軽鎖」は、クロストリジウムのニューロトキシンの軽鎖を意味する。約50kDaの分子量を有し、ボツリヌス毒素のL鎖、L、または、タンパク質分解性のドメイン(アミノ酸配列)を指し得る。
【0033】
「重鎖」は、ボツリヌス毒素の重鎖を意味する。約100kDaの分子量を有し、H鎖またはHとして言及し得る。
【0034】
cは、H鎖のカルボキシル末端セグメントとほぼ同等である、ボツリヌス毒素のH鎖由来のフラグメント(約50kDa)、または、そのままのH鎖におけるそのフラグメントに対応する一部を意味する。高親和性の、運動ニューロンに対する前シナプス結合に関与する、天然または野生型のボツリヌス毒素の一部を含むことが考えられる。
【0035】
Nは、H鎖のアミノ末端セグメントに対してほぼ同等であるボツリヌス毒素のH鎖由来のフラグメント(約50kDa)、または、そのフラグメントに対応する一部を意味する。細胞内エンドソームの膜を通過するL鎖の転移に伴う天然または野生型のボツリヌス毒素の一部を含むことが考えられる。
【0036】
LHNまたはL−HNは、L鎖またはHNドメインに結合するその機能的なフラグメントを含む、クロストリジウムのニューロトキシン由来のフラグメントを意味する。Hcドメインを除去または変更するために、タンパク質分解によるそのままのクロストリジウムのニューロトキシンから得ることができる。
【0037】
「インプラント」は、制御された放出(例えば、拍動性または連続的)組成物及び薬物送達系を意味する。インプラントは、例えば、ヒトの体内に、注入され、挿入され、またはインプラントされ得る。
【0038】
「膀胱内の投与」は、尿道カテーテルを介した膀胱内への所与の物質の直接の注入を指す。
【0039】
「局所的投与」は、例えば、筋肉内または皮内もしくは真皮下注入または局所投与のような、医薬の生物学的効果が所望される部位で、その部位の近傍または動物の体内への医薬の直接の投与を意味する。局所投与は、静脈内または経口投与のような、全身的な経路の投与を除く。局所投与は、薬剤が患者の皮膚に適用される局所投与のタイプである。
【0040】
「修飾されたボツリヌストキシン」は、天然のボツリヌストキシンと比較して、その少なくとも1つのアミノ酸が削除され、変更され、または置換されたボツリヌストキシンを意味する。さらに、修飾されたボツリヌストキシンは、組み換えて産生されたニューロトキシン、または組み換えて作成されたニューロトキシの誘導体もしくはフラグメントであり得る。変更されたボツリヌストキシンは、ボツリヌストキシンレセプターの結合性能またはニューロンからのニューロトランスミッターの放出を阻害する性能のような、天然のボツリヌストキシンの少なくとも1つの生物活性を保持する。修飾されたボツリヌストキシンの一例は、1つのボツリヌストキシン血清型由来の軽鎖(例えば、血清型A)、及び異なるボツリヌストキシン血清型(例えば、血清型B)の重鎖を有するボツリヌストキシンである。修飾されたボツリヌストキシンの別の例は、物質Pのような、ニューロトランスミッターに結合されたボツリヌストキシンである。
【0041】
「変異」は、天然由来のタンパク質または核酸配列の構造的な修飾を意味する。例えば、核酸の変異の場合には、変異は、DNA配列での1つ以上のヌクレオチドにおける欠失、追加、または置換であり得る。タンパク質配列の変異の場合では、変異は、タンパク質配列における1つ以上のアミノ酸の欠失、追加、置換であり得る。例えば、タンパク質配列を含む特定のアミノ酸は、例えば、アミノ酸であるアラニン、アスパラギン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、フェニルアラニン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、リジン、ロイシン、メチオニン、プロリン、グルタミン、アルギニン、セリン、トレオニン、バリン、トリプトファン、チロシン、または他の天然もしくは非天然由来のアミノ酸もしくは化学的に変更されたアミノ酸を含む群から選択される別のアミノ酸に置換し得る。タンパク質配列に対する変異は、DNA配列に対する変異の結果であり得、DNA配列が転写される際、ならびに得られるmRNAが翻訳されて変異されたタンパク質配列を産生する。また、タンパク質配列に対する変異は、所望のタンパク質配列に対し、所望の変異を含むペプチド配列を融合することにより作成され得る。
【0042】
「患者」は、医療または獣医医療を受ける、ヒトまたは非ヒト対象を意味する。したがって、本明細書に開示される、組成物及び方法は、例えば、哺乳類等のようなあらゆる動物を治療する際に使用され得る。
【0043】
「末梢性投与すること」または「末梢性投与」は、真皮下、皮内、経皮性、または皮下投与を意味するが、筋肉内投与を除く。「末梢性」は、真皮下の位置を意味し、内臓の部位を除く。
【0044】
「透過剤」は、API(有効医薬成分)のような選択された化合物に対し、皮膚、膀胱壁等を含むがこれらに限定されない表面の透過性を促進する性能を有する、あらゆる天然由来または合成の化合物、物質、または分子を指す。
【0045】
「浸透有効量」は、治療上有効な速度での治療剤に対する表面の透過性を実質的に増加させるために有効な量を指す。膀胱内の膀胱送達のために、浸透有効量は、膀胱壁のもともとの選択的な不透過性を取り戻す時間後に、膀胱壁に不可逆的にダメージを与えることなく、所望の時間間隔の間、クロストリジウム誘導体への膀胱壁の透過性を実質的に増加させるのに十分な量を指す。
【0046】
「医薬組成物」は、例えば、ボツリヌストキシンような有効医薬成分、及び、例えば、安定剤または賦形剤のような少なくとも1つの追加成分を含む組成物を意味する。医薬組成物は、よって、ヒト患者のような対象への診断上または治療上の投与に適する製剤である。医薬組成物は、例えば、凍結乾燥されたもしくは真空乾燥された状態、凍結乾燥されたもしくは真空乾燥された医薬組成物の再構成後に形成された溶液、または再構成を必要としない溶液もしくは固体であり得る。
【0047】
医薬組成物の組成成分は、単一の組成物(つまり、全ての組成成分が、あらゆる必要とされる再構成の液を除いて、医薬組成物の最初の調合時に存在する)に、または、例えば、医薬組成物の最初の調合で存在しない成分を含み得る、再構成ビヒクルで再構成された真空乾燥された組成物のような、2つ構成要素系として、含まれ得る。2構成要素系は、2構成要素系の最初の構成要素と共に長期の棚保存に十分に適合しない成分の統合を可能とすることを含むいくつかの利益を提供し得る。例えば、再構成ビヒクルは、例えば冷蔵で1週間の使用期間の微生物増殖に対する十分な保護を提供するが、毒性を低下させ得る2年の凍結保存中に存在しない防腐剤を含み得る。長期間、ボツリヌストキシンまたは他の成分と適合しない他の成分は、この態様で組み込まれ得、つまり、おおよその使用の時間で、2つ目のビヒクル(例えば、再構成ビヒクル)に添加される。医薬組成物は、ベンジルアルコール、安息香酸、フェノール、パラベン、及びソルビン酸のような防腐剤も含み得る。医薬組成物は、例えば、表面活性剤のような賦形剤、分散剤、不活発な希釈剤、造粒・崩壊剤、結合剤、潤滑剤、防腐剤、ゼラチンのように生理学的に分解可能な組成物、水溶性ビヒクル及び溶媒、油性ビヒクル及び溶媒、懸濁剤、分散・湿潤剤、乳化剤、粘滑剤、緩衝剤、塩、増粘剤、フィラー、抗酸化剤、安定化剤、並びに、医薬的に許容可能なポリマーまたは疎水性の材料、並びに当該技術分野で知られ、例えば、参照により本明細書に組み込まれるGenaro, ed., 1985, Remington’s Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Co.,Easton,Pa.に記載される他の成分を含み得る。
【0048】
「組み換え修飾されたトキシン」は、ボツリヌストキシンといくつかのまたはほとんどのドメインを共有するが、天然のボツリヌス毒素と同じ細胞を標的としてもよく、または標的としなくてもよい、組み換えトキシンを意味する。
【0049】
「安定化すること」、「安定化する」、または「安定化」は、再構成前のAPIと比較した場合に、再構成された有効医薬成分(「API」)の生物活性の少なくとも約20%の保持を意味する。例えば、(1)バルクまたはストック溶液からの段階希釈の調製時、または(2)6ヶ月から4年の間、−2℃以下で保存されてきた、凍結乾燥されたまたは真空乾燥された、医薬組成物を含むボツリヌストキシンの再構成時、または、(3)6ヶ月から4年の間、約2℃から約8℃の間で保存されてきた、医薬組成物を含む水溶液のボツリヌストキシンについて、再構成されたまたは水溶液の医薬組成物で存在するボツリヌストキシンが、生物学的活性を有するボツリヌストキシンが医薬組成物に組み込まれる前に有していた有効性または毒性の約20%超から約100%までを(APIに対して安定している、安定する、安定性を提供する組成物の存在下で)有する。
【0050】
「安定薬剤」、「安定化剤」、または「安定剤」は、医薬組成物の有効性が、安定化されていない組成物に対して増加するように、APIを安定するように作用する物質を意味する。
【0051】
「安定剤」は、賦形剤を含み得、タンパク質及び非タンパク質分子を含み得る。
【0052】
「実質的にフリー」は、医薬組成物の1重量%より少ないレベルで存在することを意味する。
【0053】
本明細書で使用される「TEM」は、「標的とされたエキソサイトーシスモジュレータ」または「再標的とされたエンドペプチターゼ」と同義語である。その種々の特性のため、「TEM」は、「定義」のセクションの最後に、さらなる詳細が開示されるであろう。
【0054】
「治療製剤」は、治療に使用され得、これにより、例えば、末梢性筋肉の活動過多(つまり、痙縮)により特徴づけられる疾患または疾病のような疾患または疾病を緩和する製剤を意味する。
【0055】
「治療に有効な量」は、所望の治療効果を達成するのに十分な量を指す。
【0056】
「局所投与」は、ニューロトキシンの全身的な投与を除く。つまり、従来の治療の経皮的方法のようではなく、ボツリヌストキシンの局所投与が、患者の循環系内を通過するニューロトキシンの大部分のような、有意な量をもたらさない。
【0057】
「治療すること」は、例えば、一時的または恒久的な皺、痙縮、うつ病、(例えば、頭痛のような)痛み、膀胱の過活動等のような障害または疾患の症状の少なくとも1つの症候を緩和する(または除く)ことを意味する。
【0058】
「変異体」は、標的細胞により認識され、標的細胞により内部移行され、かつ標的細胞におけるSNARE(SNAP(可溶性NSF付着タンパク質)レセプター)タンパク質を触媒として切断する、野生型ボツリヌストキシンに対して、少なくとも1つのアミノ酸の置換、変更、追加、または欠失により修飾された、野生型ボツリヌストキシンの血清型A、B、C、D、E、FまたはGのようなクロストリジウムのニューロトキシンを意味する。
【0059】
変異体ニューロトキシン構成要素の例は、1つ以上のアミノ酸の置換、変更、欠失及び/または添加を有するボツリヌストキシンの変異体の軽鎖を含む。この変異体軽鎖は、エキソサイトーシス、例えば、ニューロトランスミッター小胞の放出を防止するための、同じまたはよりよい性能を有することとしてもよい。さらに、変異体の生物学的効果は、親化学物質と比較して低減されていることとしてもよい。例えば、アミノ酸配列が除去されたボツリヌストキシンタイプAの変異体軽鎖は、親の(または天然の)ボツリヌストキシンタイプA軽鎖よりもより短い生物学的持続性を有することとしてもよい。
【0060】
「ビヒクル」または「再構成ビヒクル」は、固体のボツリヌス製剤を液体のボツリヌス医薬組成物に再構成するために使用され得る液体の組成物を意味する。
【0061】
「野生型の神経結合部分」は、ニューロトキシンに対して天然であり、ニューロン上のレセプターに特異的結合親和性を呈するニューロトキシンの部分を意味する。よって、野生型または天然の神経結合部分は、ニューロトキシンに対して天然ではない結合部分を除く。
【0062】
TEM
【0063】
概して、TEMは、クロストリジウム毒素軽鎖由来の酵素的なドメイン、クロストリジウム毒素重鎖由来の転移ドメイン、及び標的ドメインを含む。TEMの標的ドメインは、天然由来のクロストリジウム毒素により使用される天然のクロストリジウム毒素レセプター以外のレセプターに対して分子を標的化する変更された標的細胞性能を提供する。この再標的性能は、非クロストリジウム毒素レセプターについての結合活性を有する標的ドメインで、クロストリジウム毒素の天然由来の結合ドメインを置換するにより達成される。非クロストリジウム毒素レセプターに結合するものの、TEMは、細胞質へのTEM/レセプター複合体の内部移行、小胞膜及びジ鎖分子でのポアの形成、細胞質への酵素的なドメインの転移、及び標的細胞のSNARE複合体の構成要素にタンパク質分解性の効果をもたらすことを含む、中毒処理の全ての他のステップを通る。
【0064】
本明細書で使用される、「クロストリジウム毒素の酵素的なドメイン」という用語は、中毒プロセスの酵素的な標的の修飾ステップを実行するクロストリジウム毒素の軽鎖に配置されるクロストリジウム毒素のポリペプチドを指す。クロストリジウム毒素の酵素的なドメインは、ニューロトランスミッター放出装置のコア構成要素を特異的に標的とする亜鉛依存性エンドペプチダーゼ活性を含む、メタロプロテアーゼ領域を含む。よって、クロストリジウム毒素の酵素的なドメインは、例えば、SNAP−25基質、VAMP基質、及びシンタキシン基質のようなSNAREタンパク質のような、クロストリジウム毒素物質を特異的に標的とし、タンパク質分解性の切断をする。
【0065】
クロストリジウム毒素の酵素的なドメインは、限定されることなく、天然由来のクロストリジウム毒素の酵素的なドメイン変異体、例えば、クロストリジウム毒素の酵素的なドメインアイソフォーム及びクロストリジウム毒素の酵素的なドメインサブタイプ、非天然由来のクロストリジウム毒素の酵素的なドメイン変異体、例えば、保守的なクロストリジウム毒素の酵素的なドメイン変異体、非保守的なクロストリジウム毒素の酵素的なドメイン変異体、クロストリジウム毒素の酵素的なドメインキメラ、活性化されたそのクロストリジウム毒素の酵素的なドメインのフラグメント、またはこれらのあらゆる組み合わせを含む。クロストリジウム毒素の酵素的なドメインの非限定的な例は、例えば、BoNT/A酵素的ドメイン、BoNT/B酵素的ドメイン、BoNT/C1酵素的ドメイン、BoNT/D酵素的ドメイン、BoNT/E酵素的ドメイン、BoNT/F酵素的ドメイン、BoNT/G酵素的ドメイン、TeNT酵素的ドメイン、BaNT酵素的ドメイン、及びBuNT酵素的ドメインを含む。
【0066】
本明細書で使用される、「クロストリジウム毒素転移ドメイン」という用語は、中毒プロセスの転移ステップを実行するクロストリジウム毒素の重鎖の半分のアミノ末端内に配置される、クロストリジウム毒素ポリペプチドを指す。転移ステップは、細胞内の小胞内でpHの減少により生じる転移ドメインのアロステリックな構造的変化を伴うようである。この立体構造の変化は、細胞質への小胞内からの軽鎖の移動を許容するベシクル膜におけるポアの形成をもたらす。よって、クロストリジウム毒素転移ドメインが、細胞の細胞質への細胞内小胞の膜を通過するクロストリジウム毒素軽鎖の移動を促進する。
【0067】
クロストリジウム毒素転移ドメインは、限定することなく、天然由来のクロストリジウム毒素転移ドメイン変異体、例えば、クロストリジウム毒素転移ドメインアイソフォーム及びクロストリジウム毒素転移ドメインサブタイプ、非天然由来のクロストリジウム毒素転移ドメイン変異体、例えば、保守的なクロストリジウム毒素転移ドメイン変異体、非保守的なクロストリジウム毒素転移ドメイン変異体、そのクロストリジウム毒素転移ドメインキメラ、その活性化クロストリジウム毒素転移ドメインフラグメント、またはこれらのあらゆる組み合わせを含む。クロストリジウム毒素転移ドメインの非限定的な例は、例えば、BoNT/A転移ドメイン、BoNT/B転移ドメイン、BoNT/C1転移ドメイン、BoNT/D転移ドメイン、BoNT/E転移ドメイン、BoNT/F転移ドメイン、BoNT/G転移ドメイン、TeNT転移ドメイン、BaNT転移ドメイン、及びBuNT転移ドメインを含む。
【0068】
本明細書で使用される、「標的ドメイン」という用語は、「結合ドメイン」または「標的部分」と同義語であり、結合ドメインが、クロストリジウム毒素の重鎖の半分のカルボキシル末端内でみられるクロストリジウム毒素結合ドメインと同じではない、という条件で、中毒プロセスのレセプター結合及び/または複合体内部移行ステップを実行するペプチドまたはポリペプチドを指す。標的ドメインは、その同種のレセプターについての標的ドメインの結合活性及び/または特異性を付与するレセプター結合領域を含む。本明細書で使用される、「同種のレセプター」という用語は、生理学的状態下または実質的におおよその生理学的状態のインビトロ状態下で、標的ドメインが優先的に相互に作用するレセプターを指す。本明細書で使用される、「優先的に相互に作用する」という用語は、「優先的な結合」の同義語であり、参照と比べて統計的に有意なより高い程度での相互作用を指す。本明細書に開示される標的ドメインに関連して、標的ドメインは、非同種レセプターに比べて統計的に有意なより高い程度で、その同種のレセプターに結合する。言い換えると、非同種レセプターに比べてその同種レセプターへの標的ドメインの差別的結合がある。よって、標的ドメインは、結合を標的細胞の形質膜表面に位置されるTEM−特異的レセプターに向ける。
【0069】
本明細書に開示される標的ドメインは、感覚ニューロンに配置されるレセプターと優先的に相互に作用するものであることとしてもよい。別の実施形態では、本明細書に開示される標的ドメインは、交感神経または副交感神経に配置されるレセプターと優先的に相互に作用するものであることとしてもよい。
【0070】
別の実施形態では、本明細書に開示される標的ドメインは、オピオイドペプチド標的ドメイン、ガラニンペプチド標的ドメイン、PARペプチド標的ドメイン、ソマトスタチンペプチド標的ドメイン、ニューロテンシンペプチド標的ドメイン、SLURPペプチド標的ドメイン、アンジオテンシンペプチド標的ドメイン、タヒキニンペプチド標的ドメイン、ニューロペプチドY関連ペプチド標的ドメイン、キニンペプチド標的ドメイン、メラノコルチンペプチド標的ドメイン、またはグラニンペプチド標的ドメイン、グルカゴン様ホルモンペプチド標的ドメイン、セクレチンペプチド標的ドメイン、下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド(PACAP)ペプチド標的ドメイン、成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)ペプチド標的ドメイン、血管活性化腸ペプチド(VIP)ペプチド標的ドメイン、消化管抑制ペプチド(GIP)ペプチド標的ドメイン、カルシトニンペプチド標的ドメイン、内臓の腸ペプチド標的ドメイン、ニューロトロフィンペプチド標的ドメイン、ヘッドアクティベーター(HA)ペプチド、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)のファミリーのリガンド(GFL)ペプチド標的ドメイン、RF−アミド関連ペプチド(RFRP)ペプチド標的ドメイン、神経ホルモンペプチド標的ドメイン、または神経調整サイトカインペプチド標的ドメイン、インターロイキン(IL)標的ドメイン、血管内皮増殖因子(VEGF)標的ドメイン、インスリン様増殖因子(IGF)標的ドメイン、上皮増殖因子(EGF)標的ドメイン、形質転換増殖因子β(TGFβ)標的ドメイン、骨形成タンパク質(BMP)標的ドメイン、増殖分化因子(GDF)標的ドメイン、アクチビン標的ドメイン、または線維芽細胞増殖因子(FGF)標的ドメイン、または血小板由来増殖因子(PDGF)標的ドメインである。
【0071】
オピオイドペプチド標的ドメインは、エンケファリンペプチド、ウシ副腎骨髄−22(BAM22)ペプチド、エンドモルフィンペプチド、エンドルフィンペプチド、ダイノルフィンペプチド、ノシセプチンペプチド、またはへモルフィン(hemorphin)ペプチドを含むこととしてもよい。
【0072】
よって、TEMは、TEMが中毒プロセスを行うことが可能であるという条件で、あらゆる及び全ての位置で標的ドメインを含み得る。非限定的な例は、TEMのアミノ末端に標的ドメインを配置すること、TEMのクロストリジウム毒素の酵素的なドメインとクロストリジウム毒素転移ドメインの間に標的ドメインを配置すること、TEMのカルボキシル末端に標的ドメインを配置すること、を含む。他の非限定的な例は、TEMのクロストリジウム毒素の酵素的なドメインとクロストリジウム毒素転移ドメインとの間に標的ドメインを配置することを含む。天然由来のクロストリジウム毒素の酵素的なドメインは、天然の開始メチオニンを含む。よって、酵素的ドメインがアミノ末端位置ではないドメイン構成では、開始メチオニンを含むアミノ酸配列は、アミノ末端ドメインの前に配置されるべきである。同様に、標的ドメインがアミノ末端位置であると、開始メチオニン及びプロテアーゼ切断部位を含むアミノ酸配列は、標的ドメインが遊離アミノ酸を必要とする状況で、作動可能に結合されていることとしてもよい。Shengwen Li et al.,Degradable Clostridial Toxins、米国特許出願第11/572,512号(2007年7月23日)(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)参照。また、開始メチオニンを含む別のポリペプチドのアミノ末端に作動可能に結合されているポリペプチドを添加する場合に、もとのメチオニン残基が欠失し得ることは、当該技術分野で知られる。
【0073】
本明細書に開示されるTEMは、任意に、TEMの単鎖ポリペプチド形態をそのさらなる活性化ジ鎖形態に変換する外因性のプロテアーゼの使用を可能とする、外因性のプロテアーゼ切断部位を含んでもよい。本明細書で使用される、「外因性のプロテアーゼ切断部位」は、「非天然由来のプロテアーゼ切断部位」または「非天然プロテアーゼ切断部位」と同義語であり、天然由来のクロストリジウム毒素からジ鎖ループ領域で天然ではみられないプロテアーゼ切断部位を意味する。
【0074】
TEMは、標的ドメインのサイズのため、それらの全体の分子量は変化するが、外因性の切断部位での活性化プロセスとその依存性は、組み換え産生クロストリジウム毒素についてのものと本質的に同じである。Steward,et al.,Activatable Clostridial Toxins,US 2009/0081730;Steward, et al.,Modified Clostridial Toxins with Enhanced Translocation Capabilities and Altered Targeting Activity For Non−Clostridial Toxin Target Cells,米国特許出願第11/776,075号;Steward,et al.,Modified Clostridial Toxins with Enhanced Translocation Capabilities and Altered Targeting Activity for Clostridial Toxin Target Cells, US 2008/0241881; Steward,et al.,Degradable Clostridial Toxins,US 2011/0287517(そのそれぞれが参照により本明細書に組み込まれる、)参照。概して、外因性のプロテアーゼを用いて、そのジ鎖形態へと単鎖ポリペプチドを変換する活性化プロセスは、標的ドメインがアミノ提示、中央提示、カルボキシル提示の配置で体系づけられるTEMを処理するために使用され得る。これは、ほとんどの標的ドメインにとって、アミノ末端の部分は、レセプター結合に加わらないためである。そのように、プロテアーゼ切断部位の広い範囲が、TEMの有効なジ鎖形態を産出するために使用され得る。しかしながら、レセプター結合のための遊離アミノ末端を必要とする標的ドメインは、切断しやすい結合がカルボキシル末端で配置されるプロテアーゼ切断部位を必要とする。TEMの設計におけるプロテアーゼ切断部位の使用は、例えば、Steward,et al.,Activatable Clostridial toxins,US 2009/0069238;Ghanshani,et al.,Modified Clostridial Toxins Comprising an Integrated Protease Cleavage Site−Binding Domain,US 2011/0189162;及びGhanshani, et al.,Methods of Intracellular Conversion of Single−Chain Proteins into their Di−chain Form,国際特許出願第PCT/US2011/22272号(そのそれぞれの全体が参照により組み込まれる)に記載される。
【0075】
医薬組成物
【0076】
本開示の態様は、クロストリジウム誘導体及び少なくとも1つの透過剤を含む膀胱内の膀胱送達に適する医薬組成物を部分的に提供する。
【0077】
クロストリジウム誘導体
【0078】
本明細書に定義される、クロストリジウム(clostridical)誘導体は、天然または組み換えニューロトキシン、組み換え修飾されたトキシン、そのフラグメント、標的の小胞エキソサイトーシスモジュレータ(TEM)、またはこれらの組み合わせを包含する。いくつかの実施形態では、クロストリジウム誘導体は、天然または変更されたボツリヌストキシンである。一実施形態では、クロストリジウム誘導体は、ボツリヌストキシンタイプAである。いくつかの実施形態では、クロストリジウム誘導体は、ボツリヌスタイプB、C1、D、E、またはFである。代替的な実施形態では、クロストリジウム誘導体はTEMを含む。
【0079】
いくつかの実施形態では、本医薬組成物は治療上有効な量のクロストリジウム誘導体を含む。治療に有効な量は、1つのセッティングで、個人に投与されるクロストリジウム誘導体の合計量を指す。このように、クロストリジウム誘導体及び/またはTEMの有効量は、部位あたりの投与量を指さない。例えば、個々に投与されるボツリヌストキシンのようなクロストリジウム毒素の有効量は、部位あたりのトキシン投与の量が2U、つまり、5つの異なる部位で2Uであることとしてもよいので、10Uであることとしてもよい。いくつかの実施形態では、治療上有効な量のボツリヌストキシンは、10Uから1000Uまで、より好ましくは、約50Uから約500Uまでの範囲である。
【0080】
クロストリジウム毒素及びTEMを含む組み合わせ療法に関連し、クロストリジウム毒素の有効量は、TEMと組み合わせで、所望の治療効果を達成するクロストリジウム毒素の量であるが、それ自身は効果がない投与量である。例えば、典型的には、約75〜125UのBOTOX(登録商標)(Allergan,Inc.、Irvin、,CA)、BoNT/Aが、頸部ジストニアを治療するために、ジストニア痙攣のある筋肉あたりの筋肉内注入により投与される。組み合わせ療法では、BoNT/Aの最適以下有効量は、このような毒素が組み合わせ療法でTEMとともに使用される場合に、頸部ジストニアを治療するために投与されるであろう。
【0081】
透過剤
【0082】
透過剤の例は、限定されないが、アニオン性の界面活性剤、カチオン性の界面活性剤、非イオン性界面活性剤、グリコール、キレート剤、カチオン性ポリマー、粘膜付着性物質、ポリペプチド、またはこれらの混合物を含む。
【0083】
いくつかの実施形態では、透過剤は、複合体を形成するために、ボツリヌストキシンのようなクロストリジウム誘導体に選択的に結合する。代替的な実施形態では、透過剤は、ボツリヌストキシンに結合しない。代替的な実施形態では、透過剤は、ファンデルウォール(Van der Wall)相互作用により、クロストリジウム誘導体と相互に作用する。
【0084】
ある実施形態では、透過剤は、アニオン性の界面活性剤であり得る。本製剤に適するアニオン性の界面活性剤の例は、限定されないが、SDS、ラウリル硫酸ナトリウム、それらの類似体、誘導体、またはあらゆるこれらの組み合わせを含む。
【0085】
ある実施形態では、透過剤は、カチオン性の界面活性剤であり得る。本製剤に適するカチオン性の界面活性剤の例は、限定されないが、硫酸プロタミン、臭化ベンザルコニウム、第四級アンモニウム塩、例えば、ポリ(ジメチルイミノ)−2−ブテン−1,4−ジイル塩化物、ONYX Corporation製のポリクォータニウム1(登録商標)として一般的に利用可能なα−[4−トリス(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム−2−ブテニル−ω−トリス(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム]−ジクロリド(化学登録番号75345−27−6)、ベンザルコニウムハロゲン化合物、及びビグアナイド、例えば、アレキシジンの塩、アレキシジン遊離塩基、クロルヘキシジンの塩、ヘキサメチレン、ビグアナイド、並びにこれらのポリマー、類似体、並びに誘導体を含む。アレキシジン及びクロルヘキシジンの塩は、有機または無機であり得、典型的には、硝酸塩、アセテート、リン酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物等、またはこれらのあらゆる組み合わせである。
【0086】
ある実施形態では、透過剤は、限定されないが、ポリ(エチレンイミン)(PEI)、オレイルアミン、ジオレイルホスファチジルエタノールアミン(dioleyl−phosphatidylethanolamine)(DOPE)ジオレオイル−トリメチルアンモニウム−プロパン(DOTAP)、それらの類似体、誘導体、またはこれらの組み合わせを含む、他のカチオン性剤であり得る。
【0087】
ある実施形態では、透過剤は、ポリエチレングリコール(PEG)またはポリエチレンオキシド(PEO)を含み得る。PEGは、例えば、約200グラムパーモル(g/m)から約20,000グラムパーモル(g/m)までの範囲の分子量を有するPEGを含み得る。一実施形態では、透過剤は、ポリエチレングリコール3350を含む。
【0088】
ある実施形態では、透過剤は、ポロクサマーを含み得る。ポロクサマーは、例えば、P80、P124、P188、P237、P338、及びP407それらの類似体、誘導体、またはこれらの組み合わせを含み得る。ある実施形態では、透過剤は、ポビドン(PVP)を含み得る。PVPは、例えば、PVPポリマー、及び類似体または誘導体を含み得る。
【0089】
ある実施形態では、透過剤は、約1000から約100000ダルトンまでの分子量の範囲のLまたはDポリペプチドを含み得る。一実施形態では、透過剤は、ポリ−L−リジンである。別の実施形態では、透過剤は、細胞透過ペプチドを含む。
【0090】
ある実施形態では、透過剤は、ベンジルアルコール等、ポリヘキサメチレンビグアナイド(高及び/または低分子量)等、限定されないが、天然または組み換えヒト血清アルブミン、ポリミキシンB等、またはこれらの混合物を含む、タンパク質を含み得る。
【0091】
ある実施形態では、透過剤は非イオン性界面活性剤を含む。本製剤に適する非イオン性界面活性剤の例は、限定されないが、アルキルアリール(alryl)ポリエーテル及び類似体、これらの誘導体(例えば、TX−100、類似体、または誘導体)、ポロクサマー、ポリオキシエチレンエーテル(例えば、Brijファミリー)、Tween、Big CHAPS、Deoxy Big CHAPS、チロキサポール、ソルビタンモノオレート(SPAN)20,40,60、Cremophor EL、アルファ−トコフェロ−ルTPGS、ステアリン酸ポリオキシル40、類似体及び誘導体、またはこれらの組み合わせを含む。
【0092】
いくつかの実施形態では、透過剤は、アルキルアリール(alryl)ポリエーテル、類似体、または誘導体を含む。一実施形態では、透過剤は、オクチルフェノールエトキシレート、類似体または誘導体を含む。また、オクチルフェノールエトキシレートは、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、4−オクチルフェノールポリエトキシレート、Mono30、TX−100、t−オクチルフェノキシポリエトキシエタノール、オクトキシノール−9、またはより共通に知られる商品名トリトン(商標)X−100として知られる。代替的な実施形態では、透過剤は、ノノキシノール9、類似体、または誘導体を含む。
【0093】
ある実施形態では、透過剤は、カチオン性ポリマーを含む。いくつかの実施形態では、カチオン性ポリマーは、粘膜付着性物質である。いくつかの実施形態では、カチオン性ポリマーは、キトサン、コンドロイチン、キトサン類似体、コンドロイチン類似体、キトサン誘導体、またはコンドロイチン誘導体を含む。
【0094】
いくつかの実施形態では、本医薬組成物は、クロストリジウム誘導体及び少なくとも1つの透過剤を含む。一実施形態では、クロストリジウム誘導体はボツリヌストキシンである。一実施形態では、クロストリジウム誘導体は、ボツリヌストキシンを含む。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの透過剤は、キトサン、キトサン類似体またはキトサン誘導体及びTX−100、TX−100類似体またはTX−100誘導体を含む。いくつかの実施形態では、本医薬組成物は、ボツリヌストキシン、キトサン、キトサン類似体またはキトサン誘導体及びノノキシノール−9、ノノキシノール−9類似体またはノノキシノール−9誘導体(derviative)を含む。代替的な実施形態では、クロストリジウム誘導体は、TEMである。代替的な実施形態では、製剤は、ボツリヌストキシン及びTEMを含む。
【0095】
ある実施形態では、透過剤は、限定されないが、EDTA、EGTA(エチレングリコールテトラ酢酸)、シクロヘキサンジアミンテトラアセテート(CDTA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミントリアセテート(HEDTA)、ジエチレントリアミンペンタアセテート(DTPA)、1,2−ジアミノシクロヘキサンテトラアセテート、及びヘキサメタリン酸塩を含むキレート剤を含み得る。これらの薬剤は、好ましくは、塩、典型的にはナトリウム塩、例えば、EDTAナトリウム、三ナトリウムHEDTA、ヘキサメタリン酸ナトリウム、またはあらゆるこれらの組み合わせ等として採用される。
【0096】
よって、一態様では、本医薬組成物は、クロストリジウム誘導体及び少なくとも1つの透過剤を含み、医薬製剤は、膀胱内の膀胱送達に適する。いくつかの実施形態では、クロストリジウム誘導体はボツリヌストキシンを含み、透過剤は粘膜付着性物質及び界面活性剤を含む。いくつかの実施形態では、粘膜付着性物質は、キトサン、キトサン類似体、キトサン誘導体、コンドロイチン、コンドロイチン類似体、及びコンドロイチン誘導体を含む。いくつかの実施形態では、界面活性剤は、非イオン性界面活性剤を含む。一実施形態では、本医薬組成物は、ボツリヌストキシンタイプA、キトサン、キトサン類似体、またはキトサン誘導体、及びTX−100、TX−100類似体またはTX−100誘導体を含む。いくつかの実施形態では、界面活性剤は、ノノキシノール−9、ノノキシノール−9類似体またはノノキシノール−9誘導体(derviative)を含む。代替的な実施形態では、クロストリジウム誘導体はTEMである。
【0097】
いくつかの実施形態では、透過剤は、浸透有効量で存在する。一実施形態では、浸透有効量は、膀胱完全性に限定的なダメージを有する、膀胱壁表面の透過性を実質的に増加させるのに有効な量を指す。一実施形態では、浸透有効量は、治療上有効な速度で膀胱壁を通って治療上有効な量のボツリヌス毒素の浸透を可能にするために効果のある量を指す。一実施形態では、浸透有効量は、膀胱壁に不可逆的にダメージを与えることなく、治療上有効な速度で、治療上有効な量のトキシンに対し、所望の時間の間、膀胱壁表面の透過性を実質的に増加させるために効果のある量を指す。いくつかの実施形態では、増加した透過性は、所望の時間間隔後に可逆的になり、その後、膀胱壁が、そのもとの不透過性または選択的透過性を完全にまたは部分的に回復するであろう。いくつかの実施形態では、膀胱壁は、膀胱内滴下注入後、約1時間から約24時間の範囲の時間間隔後に、そのもとの不透過性または選択的透過性を回復する。いくつかの実施形態では、時間間隔は、約3時間から18時間の範囲である。いくつかの実施形態では、時間間隔は、約4時間から12時間の範囲である。膀胱壁がそのもとの不透過性または選択的透過性を回復する回復率は、選択された透過剤の特性、量、浸透表面の特性、暴露時間、及び浸透表面を取り巻く環境により影響されるであろう。一実施形態では、本医薬組成物の投与の膀胱完全性は、特異的な免疫細胞の存在のような、免疫反応の範囲により評価され得る。
【0098】
浸透有効量は、限定されないが、クロストリジウム誘導体の特性、浸透表面の特性(例えば、膀胱壁)、透過剤のタイプ、及び浸透表面を取り巻く環境を含むいくつかの因子により変化する。
【0099】
いくつかの実施形態では、透過剤の浸透有効量は、約0.005%から約10%(w/v)まで、より好ましくは約0.025%から約5%(w/v)まで、最も好ましくは約0.05%から約0.5%(w/v)まで、の範囲である。いくつかの実施形態では、本医薬製剤は、約0.005%から約10%(w/v)まで、より好ましくは約0.025%から約5%(w/v)まで、最も好ましくは約0.1%から約0.5%(w/v)までの浸透有効量のトリトン(商標)X−100、トリトン(商標)X−100類似体または誘導体を含む。具体的な一実施形態では、トリトン(商標)X−100の浸透有効量は、約0.1%(w/v)である。
【0100】
いくつかの実施形態では、透過剤は、粘膜付着性物質との組み合わせで使用される。いくつかの実施形態では、粘膜付着性物質は、カチオン性ポリマーである。いくつかの実施形態では、粘膜付着性物質は、キトサン、キトサン類似体、キトサン誘導体、コンドロイチン、コンドロイチン類似体、またはコンドロイチン誘導体を含む。いくつかの実施形態では、粘膜付着性物質の浸透有効量は、約0.005%から約10%(w/v)まで、より好ましくは約0.02%から約5%(w/v)まで、最も好ましくは約0.05%から約2%(w/v)まで、の範囲である。一実施形態では、キトサン、キトサン類似体、またはキトサン誘導体の浸透有効量は、約1%(w/v)である。いくつかの実施形態では、製剤は、(1)ボツリヌストキシン、(2)トリトン(商標)X−100、トリトン(商標)X−100類似体、トリトン(商標)X−100誘導体またはこれらの混合物、及び(3)キトサン、キトサン類似体、キトサン誘導体、またはこれらの混合物を含む。いくつかの実施形態では、製剤は、(1)ボツリヌストキシンタイプA、(2)トリトン(商標)X−100、トリトン(商標)X−100類似体、トリトン(商標)X−100誘導体、またはこれらの混合物、及び(3)キトサン、キトサン類似体、キトサン誘導体、またはこれらの混合物を含む。いくつかの実施形態では、製剤は、約20ユニットから約300ユニットのボツリヌストキシンタイプA、約0.5%から約2%(w/v)キトサン、キトサン類似体、誘導体またはこれらの混合物、及び約0.05%から約1%(w/v)トリトン(商標)X−100、類似体、誘導体、またはこれらの混合物を含む。一実施形態では、製剤は、約100または200ユニットのボツリヌストキシンタイプA、約1%キトサン及び約0.1%(w/v)トリトン(商標)X−100を含む。
【0101】
いくつかの実施形態では、透過剤はノノキシノール9である。いくつかの実施形態では、ノノキシノール9の浸透有効量は、約0.005%から約10%(w/v)まで、より好ましくは約0.025%から約5%(w/v)まで、最も好ましくは約0.05%から約0.5%(w/v)まで、の範囲である。具体的な一実施形態では、本医薬製剤は、約0.1%(w/v)のノノキシノール9の浸透有効量を含む。具体的な一実施形態では、本医薬製剤は、約0.5%(w/v)のノノキシノール9の浸透有効量を含む。いくつかの実施形態では、ノノキシノール9は、粘膜付着性物質と組み合わせて使用される。いくつかの実施形態では、粘膜付着性物質は、キトサン、キトサン類似体、キトサン誘導体、コンドロイチン、コンドロイチン類似体、またはコンドロイチン誘導体を含む。いくつかの実施形態では、粘膜付着性物質の浸透有効量は、約0.005%から10%(w/v)まで、より好ましくは約0.02%から約5%(w/v)まで、最も好ましくは約0.1%から約2%(w/v)まで、の範囲である。いくつかの実施形態では、キトサンまたはキトサン誘導体の浸透有効量は、約0.005%から10%(w/v)まで、より好ましくは約0.02%から約5%(w/v)まで、最も好ましくは約0.1%から約2%(w/v)まで、の範囲である。一実施形態では、キトサンまたはキトサン誘導体の浸透有効量は、約1%(w/v)である。
【0102】
いくつかの実施形態では、透過剤は、組み換えまたは天然ヒト血清アルブミンを含み得る。
【0103】
いくつかの実施形態では、本組成物は、あらゆる動物由来のタンパク質を含まない。一実施形態では、本組成物は、ボツリヌストキシン、TEM、または組み換え修飾されたトキシン(有効成分として)及び適切なポリサッカライド、または安定剤もしくは賦形剤としての非タンパク質賦形剤を含む。
【0104】
よって、本開示の態様は、クロストリジウム誘導体及び1以上の透過剤を含む医薬組成物を提供し、該医薬組成物は、膀胱内の膀胱送達に適しており、1以上の透過剤が本明細書に開示される、浸透有効量で存在する。本組成物の実施形態は、クロストリジウム誘導体の薬理学的効果を生じさせまたは促進させる、治療薬及び/または賦形剤を含む。
【0105】
また、賦形剤は、製剤の安定性を増加させ、透過剤(permeablizing agent)の作用を増加させ(例えば、EDTAまたは他のキレート剤)、またはすぐに生じる(例:カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPMC)、アルギン酸塩)または、温度(例:ポロクサマー407)、pH(Carbopol P−934、P940)及び/またはイオン(例: Gelriteゲランガム、アルギン酸塩)環境の変化で、増加した粘弾特性により製剤の保持を増加させるために添加され得る。
【0106】
また、賦形剤は、製剤の送達、安定性、バイオアベイラビリティー、及び/または治療有効性を増加させるために、尿や皮膚の張性及び/またはpHを調節するために添加され得る。
【0107】
別の態様では、本開示は、膀胱内の膀胱投与に適する医薬製剤の製造の方法を提供し、当該方法は、本明細書に開示される、少なくとも1つの透過剤を含む溶液を提供し、本明細書に開示される、クロストリジウム誘導体を含む組成物に対して前記溶液を添加しすることを含む。いくつかの実施形態では、方法は、クロストリジウム誘導体を含む組成物に対し、約50mlから約100mlまでの溶液を添加することを含む。いくつかの実施形態では、クロストリジウム誘導体はボツリヌストキシンである。一実施形態では、方法は、ボツリヌストキシンタイプAに対して、約1%(w/v)キトサン類似体または誘導体及び約0.1%(w/v)トリトン(商標)X−100、類似体または誘導体を含む約50mlから約100mlまでの水溶液を添加することを含む。一実施形態では、方法は、約1%(w/v)キトサン及び約0.1%(w/v)トリトン(商標)X−100を含む50ml水溶液を、約100ユニットまたは200ユニットの凍結乾燥されたボツリヌストキシンタイプAを含む、バイアルに添加し、凍結乾燥されたボツリヌストキシンタイプAを再水和するために緩やかに混和することを含む。
【0108】
いくつかの実施形態では、賦形剤は、クロストリジウム誘導体の担体として作用させるために添加されることもできる。一実施形態では、ポリ−L−リジンは、担体として添加される。
【0109】
本明細書に開示される組成物は、概して、医薬的に許容可能な組成物として投与される。本明細書で使用される、「医薬的に許容可能」という用語は、個人に対して投与される際に、不利益な、アレルギー性の、または他の不都合なもしくは望ましくない反応が生じないあらゆる分子実体または組成物を意味する。本明細書で使用される、「医薬的に許容可能な組成物」という用語は「医薬的組成物」と同義語であり、例えば、本明細書に開示される、あらゆるクロストリジウム毒素及び/またはTEMのような、有効成分の治療に有効な濃度を意味する。本明細書に開示される医薬組成物は、医学及び獣医学の用途について有用である。医薬組成物は、個々に、または他の補足の活性化成分、試薬、薬剤、またはホルモンとの組み合わせで投与されることとしてもよい。医薬組成物は、限定することなく、従来の混合、溶解、粒状化、ドラジェ作成、すりつぶし、乳化、カプセル化、封入、凍結乾燥することを含む、あらゆる種々のプロセスを用いて製造されることとしてもよい。医薬組成物は、限定することなく、無菌の溶液、懸濁液、エマルジョン、凍結乾燥物、タブレット、錠剤、ペレット、カプセル、粉、シロップ、万能薬または他のあらゆる投与に適する投薬形態を含む、あらゆる種々の形態をとり得る。
【0110】
本医薬組成物は、医薬的に許容可能な組成物への有効成分のプロセスを促進する、医薬的に許容可能な担体を任意に含むこととしてもよい。本明細書で使用される、「薬理学的に許容可能な担体」は「薬理学的担体」と同義語であり、投与される際に長期または永久的に有害な影響を実質的に有さないあらゆる担体を意味し、「薬理学的許容可能なビヒクル、安定剤、希釈剤、添加剤、補助剤、または賦形剤」のような用語を包含する。このような担体は、概して、活性化合物と混合され、活性化合物を希釈または封入することを許容し、固体、半固体、または液体の薬剤とし得る。有効成分は、所望の担体または希釈剤での懸濁液として、溶解され得、送達され得ることが理解される。あらゆる種々の医薬的に許容可能な担体は、限定されないが、水溶媒体、例えば、水、食塩水、グリシン、ヒアルロン酸等、固体の担体、例えば、マンニトール、ラクトース、澱粉、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、滑石、セルロース、ブドウ糖、蔗糖、炭酸マグネシウム等、溶媒、分散媒体、コーティング、抗菌及び抗真菌薬、等張性及び吸収遅延剤、またはあらゆる他の不活性成分を含んで使用され得る。薬理学的に許容可能な担体の選択は、投与のモードに依存することができる。あらゆる薬理学的に許容可能な担体が有効成分と合わないような範囲を除いて、医薬的に許容可能組成物におけるその使用が企図される。そのような医薬の担体の具体的な使用の非限定的な例は、PHARMACEUTICAL DOSAGE FORMS AND DRUG DELIVERY SYSTEMS(Howard C. Ansel et al.,eds.,Lippincott Williams & Wilkins Publishers,7thed.1999);REMINGTON:THE SCIENCE AND PRACTICE OF PHARMACY(Alfonso R.Gennaro ed.,Lippincott,Williams & Wilkins,20th ed. 2000);GOODMAN & GILMAN’S THE PHARMACOLOGICAL BASIS OF THERAPEUTICS(Joel G. Hardman et al.,eds.,McGraw−Hill Professional, 10th ed.2001);及びHANDBOOK OF PHARMACEUTICAL EXCIPIENTS(Raymond C.Rowe et al.,APhA Publications,4th edition 2003)でみることができる。これらのプロトコールは、ルーティーンの手順であり、あらゆる変更が、本明細書の教示から、十分に当業者の範囲内である。
【0111】
本明細書に開示される医薬組成物は、限定されることなく、緩衝剤、防腐剤、張性調整剤、塩、酸化防止剤、浸透圧調整剤、相互作用物質、薬理学的物質、充填剤、乳化剤、湿潤剤、甘味剤、香料等を含む、他の医薬的に許容可能な構成要素(または医薬の構成要素)を、限定されることなく、任意に含み得る。pHを調整するための種々の緩衝剤及び手段は、本明細書に開示される、医薬組成物を調製するために使用され得、得られた調製物が医薬的に許容可能であるということが条件である。そのような緩衝剤は、限定されることなく、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液、中性緩衝生理食塩水、ホウ酸塩酸緩衝液を含む。酸及び塩基が、必要とされる組成物のpHを調製するために使用され得ることが理解される。医薬的に許容可能な酸化防止剤は、限定されることなく、二亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、アセチルシステイン、ブチルヒドロキシアニソール、及びブチルヒドロキシトルエンを含む。有用な防腐剤は、限定されることなく、塩化ベンザルコニウム、クロロブタノール、チメロサール、酢酸フェニル水銀、硝酸フェニル水銀、安定化オキシクロロ組成物とキレート剤、例えば、DTPAまたはDTPA−ビスアミド、カルシウムDTPA、及びCaNaDTPA−ビスアミドを含む。医薬組成物において有用である張性調整剤は、限定されることなく、塩類、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、マンニトールまたはグリセリン、及び他の医薬的に許容可能な張性調整剤を含む。医薬組成物は、塩として提供されることとしてもよく、限定されることなく、塩酸、硫酸、酢酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸等を含む、多くの酸で形成されることができる。塩は、対応する遊離塩基形態よりも、水溶性または他のプロトン性溶媒でより溶けやすい傾向がある。薬理学の分野で知られるこれらの及び他の物質が、医薬組成物に含まれ得ることが理解される。クロストリジウム毒素及びTEMを含む例示的な医薬組成物は、Hunt,et al.,Animal Protein−Free Pharmaceutical Compositions,米国特許出願第12/331,816号;及びDasari,et al.,Clostridial Toxin Pharmaceutical Compositions,WO/2010/090677(それぞれの全体が参照により本明細書に組み込まれる)に記載される。
【0112】
適切な医薬的に許容可能な担体の選択は、例えば、本組成物が液体の溶液、使用時に再構成される凍結乾燥された粉末、懸濁液、ナノ粒子、リポソーム、またはマイクロエマルジョンへと処方されるかどうかのような、所望の具体的な製剤の正確な性質によるであろう。
【0113】
適切な医薬的に許容可能な担体の選択は、また、投与経路に依存するであろう。好ましくは、担体は、選択された投与経路に適するように処方される。本医薬製剤の投与モードは、限定されることなく、注入、ニードルフリー注入(例えば、Bioject、JetTouch)、起電性、経皮性送達、または小胞内滴下注入を含む。具体的な一実施形態では、製剤は、膀胱の滴下注入に医薬的に許容可能な担体を含む。一実施形態では、医薬の担体は、ポリリジンを含む。
【0114】
治療の方法
【0115】
本開示の態様は、部分的に、クロストリジウム誘導体及び少なくとも1つの透過剤を含む医薬組成物を用いて病態を治療する方法を提供し、本医薬組成物の投与は、治療を受ける病態に関連する症候を防止または低減する。いくつかの実施形態では、投与は注入による。代替的な実施形態では、投与は経皮、皮下、または局所的である。さらに代替的な実施形態では、投与は膀胱内の送達による。
【0116】
いくつかの実施形態では、本開示は、改善された患者の機能を生み出すのに十分な量で、それを必要とする対象に、本開示の医薬製剤を投与するステップを含む、疾病、疾患、障害等を治療する方法を提供する。ある実施形態では、疾病は神経筋の性質のものであり、例えば、その筋肉及び神経制御に影響するこれらの疾病、例えば、過活動膀胱等である。ある実施形態は、例えば、頭痛、または背痛、または筋肉痛等の治療のような、痛みの治療に関する。ある実施形態では、本発明の方法は、例えば、うつ病、不安等を含む心理的な疾患の治療を包含する。
【0117】
泌尿器疾患の治療
【0118】
いくつかの実施形態では、医療疾患は、限定されることなく、過活動膀胱(OAB)、膀胱炎、膀胱癌、神経因性排尿筋過活動(NDO)を含む、泌尿器膀胱疾病及び障害を含む。一実施形態では、本開示は、例えば、神経障害(NOAB)、または特発性OAB(IOAB)に起因するもののような、過活動膀胱(OAB)に罹患している患者を治療する方法も提供する。
【0119】
神経因性膀胱機能障害は、排尿に関連する正常な神経経路による干渉をもたらす機能障害である。神経因性膀胱機能障害の1つのタイプは、過活動(痙攣または過度の反射性)膀胱である。過活動神経因性膀胱は、制御できない膀胱からの尿の頻繁な放出により特徴づけられる。膀胱の容量の低下及び完全に尿を空にできないかもしれない。痙性膀胱は、程よい量の尿が蓄積されるまで、空の部分を収縮することを阻害する、膀胱の排尿筋の不能性により生じるかもしれない。しばしば、膀胱を空にする強い衝動が、わずかな量の尿が膀胱にあるときに経験される。患者は、緊急で、頻繁な、夜尿症と失禁の症状を報告するかもしれない。別のタイプの神経因性膀胱機能障害は、泌尿器の括約筋の弛緩の困難性により特徴づけられる。括約筋は痙攣性となるかもしれない。これは、膀胱を空にすることを困難にし、尿の保持及び泌路の感染を起こし得る。別のタイプの神経因性膀胱機能障害では、排尿筋及び泌尿器の括約筋はともに、尿の保持をもたらすと同時に緊縮する。利尿筋と泌尿器の括約筋の両方の同時の収縮と関連する機能障害は、利尿筋−外部括約筋協調障害(DESD)と呼ばれる。米国特許第7,449,192号、第8,062,807号、及び第7,968,104号(そのそれぞれの全体が参照により本明細書に組み込まれる)は、患者の膀胱壁に治療上有効な量のボツリヌストキシンを注入することによる、神経因性膀胱機能障害を有する患者を治療するための方法を開示する。
【0120】
間質性膀胱炎(IC)は、膀胱痛、慢性骨盤の痛み、刺激無効症候、及び乏しい尿により特徴づけられる、膀胱の不治性で慢性的な衰弱する疾病である。ICでは、膀胱壁は、典型的には、平滑筋収縮、低減された泌尿器容量、血尿、頻尿、及び痛みを伴う排尿を生じさせる、粘膜潰瘍を有する炎症性浸潤及び瘢痕化を示す。
【0121】
一実施形態では、本開示の医薬製剤は、膀胱またはその近傍、例えば、利尿筋に投与し得、製剤の投与は、過活動膀胱に伴う切迫尿失禁を低減する。ある実施形態では、投与量は、1回の治療あたり約10ユニットから約200Uまでの範囲であり得る。いくつかの実施形態では、本医薬製剤は、膀胱内の膀胱送達により投与され得る。
【0122】
よって、本開示の態様は、クロストリジウム誘導体及び少なくとも1つの透過剤を含む、本明細書に開示される医薬組成物を提供し、透過剤は、膀胱壁に不可逆的にダメージを与えることなく、治療上有効な速度で、クロストリジウム誘導体への膀胱壁の透過性を実質的に促進させるために有効な量で存在し、カテーテルを介して膀胱に医薬組成物を膀胱に滴下注入し、これにより膀胱障害を治療することを含む、それを必要とする患者における膀胱障害を治療のための方法をさらに提供する。一実施形態では、方法は、さらに、滴下注入のステップの前に医薬組成物により膀胱壁を前処置することを含む。
【0123】
いくつかの実施形態では、透過剤を含む溶液を提供すること、治療製剤を形成するためにクロストリジウム誘導体を溶液に添加すること、患者の膀胱にカテーテルを通して治療製剤を滴下注入することを含む、患者における膀胱障害の治療のための方法をさらに提供する。いくつかの実施形態では、クロストリジウム誘導体はボツリヌストキシンである。代替的な実施形態では、クロストリジウム誘導体はTEMである。一実施形態では、クロストリジウム誘導体はボツリヌストキシンタイプAである。いくつかの実施形態では、透過剤は界面活性剤である。一実施形態では、透過剤は非イオン性界面活性剤である。一実施形態では、透過剤はさらにカチオン性ポリマーを含む。いくつかの実施形態では、カチオン性ポリマーは、生体付着性または粘膜付着性物質である。いくつかの実施形態では、粘膜付着性物質は、キトサン、キトサン類似体、または誘導体を含む。いくつかの実施形態では、方法は、非イオン性界面活性剤及びボツリヌストキシンに対するカチオン性ポリマーを含む溶液を混合することを含む。
【0124】
別の態様では、本開示は、患者における間質性膀胱炎(IC)の症候を緩和するための方法を提供し、該方法は、クロストリジウム誘導体及び少なくとも1つの透過剤を含む医薬組成物を提供し、透過剤は、膀胱壁に不可逆的にダメージを与えることなく、治療上有効な速度で、クロストリジウム誘導体への膀胱壁の透過性を実質的に促進させるために有効な量で存在し、カテーテルを介して膀胱に医薬組成物を膀胱に滴下注入し、これによりICの症候を緩和することを含む。
【0125】
別の態様では、本製剤は、カテーテル、送達デバイス表面(シリンジ、パッチ、マイクロニードル、設計されたインジェクタ(Bioject等))、チューブ、容器へのクロストリジウム誘導体の吸着を防止または最小化することにより、クロストリジウム誘導体のバイオアベイラビリティーを最大化する。
【0126】
別の態様では、本製剤は、粘膜付着性物質の相互作用を通して、皮膚または内部膀胱壁表面へのクロストリジウム誘導体の保持を促進することにより、クロストリジウム誘導体のバイオアベイラビリティーを最大化する。
【0127】
他の医療疾患
【0128】
痛みの治療
【0129】
別の実施形態では、本開示は、痛みを低減するために十分な量で、それを必要とする対象に、本発明の医療製剤を投与するステップを含む、痛みを治療する方法を提供する。別の実施形態では、患者は、筋筋膜痛、片頭痛、緊張型頭痛、神経障害性疼痛、顔面痛、背中下部の痛み、副鼻洞頭痛、顎関節疾病と関連した痛み、痙縮または頸部ジストニアと関連した痛み、術後の傷痛み、または神経痛を有する。治療のセッションは、複合的な治療を含み得る。
【0130】
一実施形態では、患者は顔面痛を有する。顔面痛を有する対象は、例えば、1回あたり約4から40Uの本発明の医薬製剤の治療を受ける。また、1回の治療あたり40Uより多い投与量が、治療の反応を達成するために、顔面痛を有する患者に投与されることとしてもよい。治療のセッションは、複合的な治療を含み得る。
【0131】
一実施形態では、患者は筋筋膜痛を有する。筋筋膜痛を有する対象は、例えば、1回あたり約5から100Uの本発明の医薬製剤の治療を受ける。また、1回の治療あたり100Uより多い投与量が、治療の反応を達成するために、筋筋膜痛を有する患者に投与されることとしてもよい。治療のセッションは、複合的な治療を含み得る。
【0132】
一実施形態では、対象は、背中下部の痛みを有している。背中下部の痛みを有している対象は、例えば、1回あたり約15から150Uの本発明の医薬製剤の治療を受ける。また、1回の治療あたり150Uより多い投与量が、治療の反応を達成するために、背中下部の痛みを有する患者に投与されることとしてもよい。治療のセッションは、複合的な治療を含み得る。
【0133】
一実施形態では、対象は片頭痛を有しており、ひと月あたり4時間以上または15日以上の片頭痛を有する患者を含む。片頭痛を有する対象は、例えば、1回あたり約0.5から200Uの本発明の医薬製剤の治療を受ける。治療のセッションは、複合的な治療を含み得る。
【0134】
例えば、約0.5U、約1.0U、約1.5U、約2.0U、約2.5U、約3.0U、約3.5U、約4.0U、約4.5U、約5.0U、約5.5U、約6.0U、約6.5U、約7.0U、約7.5U、約8.0U、約8.5U、約9.0U、約9.5U、約10.0U、約12U、約15U、約17U、約20U、約22U、約25U、約27U、約30U、約32U、約35U、約37U、約40U、約42U、約45U、約47U、または約50Uが、治療箇所あたり、片頭痛を有する患者に投与される。患者は、2箇所から35箇所の範囲で、複数の箇所で治療され得る。一実施形態では、片頭痛を有する患者は、皺筋(各5Uの2注入)、鼻根筋(5Uの1注入)、前頭筋(各5Uの4注入)、側頭筋(各5Uの8注入)、後頭(各5Uの6注入)、首の傍脊柱(各5Uの4注入)、及び僧帽筋(各5Uの6注入)筋肉にわたって、0.1mL注入あたり5Uで31回である。正中線で注入され得る鼻根筋を除き、全ての筋肉は、ある実施形態では、頭及び首の右側に対する半分及び左側に対する注入部位の半分で、両側的に注入され得る。1回の治療あたり200Uよりも高い投与量は、また、治療的反応を達成するために、片頭痛を有する患者に投与されることとしてもよい。治療のセッションは、複合的な治療を含み得る。代替的な実施形態では、医薬組成物が経皮的に(trandersmally)または局所的に投与される。
【0135】
一実施形態では、患者は副鼻洞頭痛を有している。副鼻洞頭痛に罹患している対象は、例えば、1回の治療あたり約4から40Uの本発明の医薬製剤の治療を受ける。さらなる実施例では、対象は、例えば、1回の治療あたり約4から40Uの治療を受ける。また、1回の治療あたり40Uより多い投与量が、治療の反応を達成するために、副鼻洞頭痛の痛みを有する患者に投与されることとしてもよい。治療のセッションは、複合的な治療を含み得る。
【0136】
一実施形態では、緊張型頭痛を有する。緊張型頭痛に罹患している対象は、例えば、1回の治療あたり約5から50Uの本発明の医薬製剤の治療を受ける。一実施形態では、緊張型頭痛に罹患している患者は、皺筋(各5Uの2注入)、鼻根筋(5Uの1注入)、前頭筋(各5Uの4注入)、側頭筋(各5Uの8注入)、後頭(各5Uの6注入)、首の傍脊柱(各5Uの4注入)、及び僧帽筋(各5Uの6注入)筋肉にわたって、0.1mL注入あたり5Uで31回注入される。正中線で注入され得る鼻根筋を除き、全ての筋肉は、ある実施形態では、頭及び首の右側に対する半分及び左側に対する注入部位の半分で、両側的に注入され得る。1回の治療あたり200Uよりも高い投与量は、また、治療的反応を達成するために、緊張型頭痛を有する患者に投与されることとしてもよい。治療のセッションは、複合的な治療を含み得る。代替的な実施形態では、医薬組成物が局所的または経皮的に投与される。
【0137】
一実施形態では、患者は、急性もしくは再発の慢性副鼻腔炎に関する緊張型頭痛または顔面痛を有する。例えば、本発明の医薬製剤は、腺房を覆う皮下構造にまたは鼻腔粘膜に投与され得、製剤の投与は、急性の再発性または慢性副鼻腔炎に関連する頭痛及び/または顔面痛を低減する。さらなる実施形態では、本発明のあらゆる医薬製剤は、篩骨、上顎骨、乳様突起、前頭骨、そして、蝶形骨からなる群から選択される腺房の1つ以上のような、腺房を覆う皮下構造にまたは鼻腔粘膜に投与され得る。別の実施形態では、腺房を覆う皮下構造は、額、頬骨、側頭、耳後部、及び、唇からなる群から選択される1以上の部分の中に横たわる。実施形態では、各5Uの複数回の注入が、急性または再発慢性副鼻腔炎と関連する緊張型頭痛または顔面痛を治療するために投与される。
【0138】
別の実施形態では、急性または再発慢性副鼻腔炎に関連する緊張型頭痛または顔面痛を有する患者は、患者の罹患部位に、本発明のあらゆる医薬製剤を投与することにより治療される。さらなる実施形態では、本明細書に開示される医薬製剤は、洞を神経支配する三叉神経の突起に投与する。
【0139】
急性または再発慢性副鼻腔炎に関連する緊張型頭痛または顔面痛を有する患者は、しばしば、鼻炎、副鼻洞分泌過多及び/または化膿性の鼻汁を含む症候を呈する。一実施形態では、本発明の医薬製剤により治療される患者は、副鼻洞分泌過多及び/または化膿性の鼻汁を含む症候を呈する。
【0140】
また、本開示の実施形態は、急性または再発慢性副鼻腔炎に関連する緊張型頭痛または顔面痛を有する患者を治療する方法を提供し、対象は神経痛を有する。ある実施形態では、神経痛は、三叉神経の神経痛である。別の実施形態では、神経痛は、感覚神経で圧縮力に関する、内因性神経障害、脱髄性疾病、または遺伝子疾患に関する、代謝疾患に関する、中枢神経系の血管疾病に関する、またはトラウマに関するものである。本開示の別の実施形態では、痛みは、抜歯または再構成に関する。
【実施例】
【0141】
以下の実施例は、本発明の実施形態及び態様を示し、本開示の範囲を限定することを意図しない。
【0142】
以下の実施例は、ボツリヌストキシンタイプA、BOTOX(登録商標)に加え、TEMが、有効医薬成分として使用された。いくつかの実施例では、使用されたTEMは、オピオイドペプチド標的ドメイン、または、より具体的にはノシセプチンペプチドを含んだ。インビトロ3D尿路上皮モデルで、透過性促進ビヒクルのスクリーニングを促進するために、蛍光標識されたゼラチン(100kDa)がサロゲートとして使用された(以下、「サロゲート」と述べる)。送達されるAPIと近い分子量を有する蛍光サロゲートの使用は、蛍光の使用による膀胱組織での例示的な透過剤の効果の評価を可能にした。
【0143】
実施例1
選択されたトキシン、TEM、またはサロゲート蛍光タンパク質に対する、ヒト尿路上皮細胞の浸透での例示的な薬剤の効果を評価するためのヒト尿路上皮培養モデルの使用。
【0144】
例示的な透過剤の効果は、図3に示される、ヒト尿路上皮培養モデルで評価された。
【0145】
図3にヒト尿路上皮培養モデルを示す。簡潔に言うと、正常ヒト膀胱の上皮細胞(CELLNTECH カタログ番号HBEP.05)が、ポリエステル(PET)またはポリカーボネート膜インサートのいずれかに、ウェルあたりほぼ150,000生細胞の濃度で蒔かれた。インサートは、24ウェル組織培養プレートのウェル内に配置された。CELLNTECH CnT−58培地(増殖培地)は、その後、ウェルに添加され、細胞は、コンフルエントになるまで、37℃(5%CO2)で2〜3日間インキュベートされた。インキュベーションの終わりで、増殖培地は取り除かれ、CELLNTECH CnT−21培地(分化培地)で置換された。細胞は、その後、5〜7日間分化させ、その後、2〜3細胞のヒト尿路上皮層が確立された。BOTOX(登録商標)、TEM、または生物学上のサロゲート(例、100kDaのOregon Green488標識ゼラチン蛍光ゼラチン)は、その後、試験ビヒクルで製剤され、膜表面に適用できた。蛍光サロゲートの分子量は、TEM及びボツリヌスタイプAトキシンに近い分子量を示すように選択された。典型的には、試験液の0.1mLの量が、細胞が成長する膜インサートの表面に適用された。その後、試料が、インキュベーター内に戻された。種々の時間間隔で、生理食塩水(例:イーグル平衡塩生理食塩水溶液)または培養培地(例:イーグル基礎培地)中に、フロースルーが採取された。典型的な試料採取間隔は、1〜3時間の範囲であった。他の間隔(例:24時間)は、ときどき採取された。試料は、細胞ベースの有効性(BoNT/AまたはTEMに特異的な細胞ベースの活性アッセイ)、SNAPtide(登録商標)520の軽鎖切断(HPLC軽鎖アッセイ)または試料の蛍光を測定することにより、採取後にアッセイされた。
【0146】
LC−HPLCアッセイは、これまでに記載されている(Terrence Hunt,David Rupp,Gary Shimizu,Karen Tam,Julia Weidler and Jack Xie.Characterization of SNARE Cleavage Products Generated by Formulated Botulinum Neurotoxin Type−A Drug Products.Toxins 2010,2,2198−2212.BoNT/Aについての細胞ベースのアッセイは、これまでに記載されている(Ester Fernandez−Salas,Joanne Wang,Yanira Molina,Jeremy B. Nelson,Birgitte P.S.Jacky,K. Roger Aoki.“Botulinum Neurotoxin Serotype A Specific Cell−Based Potency Assay to Replace the Mouse Bioassay”.PLoS One (2012)art.no.e49516、及び米国特許第8,198,034号&第8,361,789号)。TEMについての細胞ベースのアッセイは、以前に、米国特許出願US20100233741に記載されている。本明細書に開示される先行技術のそれぞれは、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0147】
簡潔に言うと、軽鎖アッセイは、以下ように行われた。各試料について、225μLの量が、225μLの2X消化バッファを含む別個の反応チューブ(マイクロコンチューブ)に移された(2X消化バッファ組成物については表Aを参照)。試料が37℃で30分間加熱された(還元ステップ)。還元ステップが完了した後に、200μMの25μLの量のSNAPtide(登録商標)520が、各チューブに添加された(10.5μMのSNAPtide(登録商標)520と同等)。反応試料が、その後、30℃で20時間インキュベートされた(消化ステップ)。消化ステップの完了後に、25μLの5%トリフルオロ酢酸(TFA)が各チューブに添加され、反応が止められた。各チューブの内容物は、その後、分析のためにHPLCバイアルに移された。
【0148】
表A 2X消化バッファ組成物
aジチオスレイトール
bList biological Laboratories,Inc.、Calbiochemを通して供給(カタログ番号567333)
【0149】
反応液は、Waters2695 XE Separations Module及びWaters2475 Multiλ Fluorescence Detectorを使用して、逆相高速液体クロマトグラフィー法(RP−HPLC)を介して分析された(RP−HPLCパラメータについては表Bを参照)。試料は、0.1%TFA入りの水(A)及び0.1%TFA入りのアセトニトリル(B)からなる移動相により、勾配プログラム(表Cを参照)を用いて溶出された。データが採取され、Waters Empower(商標)Pro Software (Waters Corporation)により解析された。注入された試料について得られた、蛍光で標識された(List biological Laboratories,Inc.によりSNAPtide(登録商標)529として示された)切断産生物のピークエリアが比較された。
【0150】
表B RP−HPLCパラメータ
【0151】
表C HPLC勾配プログラム
【0152】
簡潔に言うと、BoNT/A SiMa H1細胞(Allergan、ヒト神経芽細胞腫細胞株)についての細胞ベースの有効性のアッセイが利用された。TEM細胞ベースのアッセイに関し、SiMa P33 hORL−1安定化細胞株#6(Allergan、ヒトORL−1(hORL−1)プラスミド(GeneCopoeia、EX−A1076−M−02、Germantown,MD)によりトランスフェクトされたヒト神経芽細胞腫細胞株(SiMa P33、Allergan))。SiMa H1クローン細胞株またはSiMa P33 hORL−1安定化細胞株#6が、通気性のある蓋を有する、BD Biosciencesブランドの175cm2 Collagen IVフラスコ(62405−652、BD Biosciences、San Jose、CA)で培養された。増殖培地は、RPMI 1640、0.1mM非必須アミノ酸、10mM HEPES、1mMピルビン酸ナトリウム、100U/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシン、及び10%ウシ胎児血清(FBS)からなるものであった。全ての培地の構成要素は、Life Technologiesから得られた。分化培地は、Neurobasal(登録商標)培地、B27サプリメント(1X)、GlutaMax(1X)、100U/mLペニシリン、及び100μg/mLストレプトマイシンからなるものであった。
【0153】
BoNT/A分析については、SiMa H1細胞が、3日間、96ウェルプレートに、1ウェルあたり100,000細胞で、分化培地中に蒔かれた。各ウェルは、透過性アッセイからの下部チャンバから除かれた0.1mLの培地で24時間処理された。また、3列の細胞が、希釈液として異なる培地を使用し、参照として、24時間、1mLあたり0から300ユニットの投与量でSWFIに再懸濁されたBOTOX(登録商標)により処理された。TEMアッセイに関し、SiMa P33 hORL−1 #6細胞は、一晩、96ウェルプレートで、1ウェルあたり50,000細胞で、分化培地中に蒔かれた。各ウェルは、透過性アッセイからの下部チャンバから除かれた0.1mLの培地で24時間処理された。また、3列の細胞が、参照として、18時間、0から100nMの投与量で、AGN−214868(PRT−2623)により処理された。
【0154】
処理後に、細胞は、さらに3日間、分化培地で培養された。培地が取り除かれ、細胞は、0.15M塩化ナトリウム、20mMトリスpH7.5、0.15M塩化ナトリウム、1nM EDTA、1mM EGTA、及び1%トリトンX−100入りの水からなる30μLの溶解バッファで1時間溶解された。溶解物は、破片を除去するために、20分間、4000rpmで遠心分離された。
【0155】
45μg/mLの捕捉精製モノクローナル抗体2E2A6(AGN)入りの、750μg/mLのBSAを含むPBS1マイクロリットルを、Meso Scale DiscoveryによるMSD High Bindプレート(MSD、Gaithersburg、MD、カタログ番号L11XB−3)上にカスタムでスポットした。NTPにより開発されたモノクローナル抗体2E2A6は、特異的にSNAP25197を認識する。プレートは、2%Amershamブロッキング試薬(GE−Healthcare、Piscataway、NJ、カタログ番号RPN418V)、10%ヤギ血清(Rockland Inc、カタログ番号B304))入りの、PBS(GIBCO−Invitrogen、カタログ番号14040)でのPBS−T(0.05%TWEEN20(BioRad、Hercules、CA、カタログ番号161−0781)からなる150μLブロッキングバッファで、室温で1時間ブロックされ、ブロッキングバッファは、その後、廃棄された。
【0156】
25マイクロリットルの細胞溶解物が、スポットされたMSDプレートの各ウェルに添加され、プレートは、一晩4℃でインキュベートされた。プレートは、その後、PBS−Tで3回洗浄された。25マイクロリットルのSULFO−TAG NHS−Ester標識検出pAb抗−SNAP25抗体(非切断及び切断産生物を認識するAbからN末端のSNAP25、Sigma、St.Louis、MO、カタログ番号S9684)入りの、2%Amershamブロッキング試薬入り5μg/mLでPBS−Tがウェルの底の角に添加された。プレートは密封され、室温で1時間振とうされた。プレートは、PBS−Tで3回洗浄され、150μLの1xリードバッファ(MSD、カタログ番号R92TC−1)が各ウェルに添加された。プレートは、SI6000イメージリーダー(Meso Scale Discovery)で読み取られた。
【0157】
インビボヒト尿管上皮のように、インビトロ3D尿管上皮が不透過であり、よって、透過性促進ビヒクルのスクリーニングに適しているることを論証するために、生理食塩水中のサロゲート蛍光ゼラチンが、上部のコンパートメントで1〜3時間インキュベートされた。非常に低いレベルの蛍光ゼラチンが下部コンパートメントで取りだされ、インビトロの尿管上皮がこれらの高分子量タンパク質に対して不透過であることを論証した。逆に、EDTA及びアキュターゼ(Accutase)のような、インビボで透過性を促進することが知られるビヒクルは、インビトロ尿管上皮で同じ効果を生じるはずである。アキュターゼ(Accutase)は、トリプシンによる治療に感受性がある細胞を収集するために典型的に使用されるプロテアーゼ混合物である。アキュターゼ(Accutase)は、HBEP細胞のタイトジャンクションを消化するが、細胞のバイアビリティには影響を及ぼさない。インビトロで尿管上皮がアキュターゼ(Accutase)またはEDTAにより処置される場合に、蛍光ゼラチンの浸透を測定するための実験が完了した。アキュターゼ(Accutase)による前処理の5分後に、インビトロ尿管上皮細胞層が、非処理の対照よりも13,000%RFUを可能にし、一方、EDTA処理尿管上皮は300%上昇した。これらのデータは、インビトロの尿管上皮が不透過細胞層であり、細胞層の透過性が逆になり得ることを示す。
【0158】
実施例2
トリトンX−100及びノノキシノール9が、ヒト尿路上皮性の培養モデルにおけるボツリヌストキシンタイプA、TEM、及び蛍光ゼラチンサロゲートに対するラット膀胱の浸透性を増加させた。本実施例では、EDTAの存在または不存在下でのトリトンX−100、ノノキシノール9、及びポリ−L−リジン臭化水素酸塩の効果が評価された。
【0159】
試験の目的は、細胞が様々な透過処理増強剤を含む溶液で30分間前処理される場合に、TEM(100kDa)に対するヒト尿路上皮性の細胞の透過性が増加し得るかどうかを測定することであった。以下の溶液:生理食塩水、50mM EDTAを含む生理食塩水、1%トリトンX−100入り生理食塩水、50mM EDTAを含む1%トリトン−X100入り生理食塩水、1%ノノキシノール9入り生理食塩水、50mM EDTAを含む1%ノノキシノール9入り生理食塩水、1%ポリ−L−リジン臭化水素酸塩入り生理食塩水、及び50mM EDTAを含む1%ポリ−L−リジン臭化水素酸塩入り生理食塩水が評価された。0.1mLの量の各試験溶液が、細胞が培養された、膜インサートの表面に適用された。溶液は、37℃(5%CO2)での30分のインキュベーション後に取り除かれた。0.1mg/mLのTEMを含む、0.1mLの量の生理食塩水が、その後、各膜インサートの上に配置された。試料は、その後、37℃(5%CO2)で、さらに2時間インキュベートされた。2時間で、試料のフロースルーが、TEM細胞ベースの有効性アッセイにより、及びHPLC軽鎖アッセイ(SNAPtide(登録商標)520の軽鎖の切断)により、上述のように測定された。
【0160】
図4に示されるように、結果は、蛍光標識されたTEMサロゲートに対するヒト尿路上皮性の細胞の透過性は、細胞がトリトン−X100、ノノキシノール9またはポリ−L−リジン臭化水素酸塩により前処理された場合に、増加し得ることを示す。この促進は、EDTAありまたはなしで生じた。
【0161】
いくつかの他の透過性促進ビヒクルは、サロゲート蛍光ゼラチン及びTEM分子を用いて試験された。その結果を以下の表Dに要約する。
【0162】
表D
【0163】
実施例3
ヒト尿路上皮性の細胞による、時間及び薬剤濃度依存性の蛍光ゼラチンサロゲートの輸送(図5A及び図5B
【0164】
簡潔に言うと、本実施例では、ヒト尿路上皮性の細胞が、0.1mg/mLの濃度で、Oregon Green488蛍光標識ゼラチンを含む様々なビヒクルに曝された。試験ビヒクルは、以下の、生理食塩水、0.00745%トリトン−X100入り生理食塩水、0.0149%トリトンX−100入り生理食塩水、0.0745%トリトン−X100入り生理食塩水、0.149%トリトンX−100入り生理食塩水、0.745%トリトン−X100入り生理食塩水、0.00262%ノノキシノール9入り生理食塩水、0.00524%ノノキシノール9入り生理食塩水、0.0262%ノノキシノール9入り生理食塩水、0.0524%ノノキシノール9入り生理食塩水、0.262%ノノキシノール9入り生理食塩水、及び0.524%ノノキシノール9入り生理食塩水からなるものであった。また、各試料は、トリトン−X100またはノノキシノール9の臨界ミセル濃度(CMC)の倍数として表される。CMCは、界面活性剤の濃度であって、それを超えるとミセルが自然に形成される、濃度として定義され得る。各試験溶液の100マイクロリットルの量が、細胞が増殖した膜インサートの表面に適用された。細胞は、37℃(5%CO2)でインキュベートされた。1、2、及び3時間で、試料のフロースルーがサンプリングされ、相対的な蛍光について測定された。
【0165】
図5A及び図5Bに示されるように、結果は、輸送が濃度と時間の両方に依存することを論証する。界面活性剤濃度が増加したとき及びインキュベーション時間の増加とともに、輸送の増加がみられた。輸送の増加は、各界面活性剤ビヒクルでそのCMCを上回ると観察された。
【0166】
実施例4
ボツリヌストキシン複合体に対するヒト尿路上皮性の細胞の透過性での例示的な透過剤の効果(図6A及び図6B
【0167】
調査の目的は、様々な濃度のトリトンX−100(図6A)またはノノキシノール9(図6B)を含むビヒクルに適用される場合に、BOTOX(登録商標)(ボツリヌスタイプAトキシン複合体)への、ヒト尿路上皮性の細胞の透過性が増加し得るのかどうかを論証することであった。以下の試験ビヒクル、滅菌注射用水、0.01%トリトン−X100入り滅菌注射用水、0.025%トリトンX−100入り滅菌注射用水、0.05%トリトンX−100入り滅菌注射用水、0.01%ノノキシノール9入り滅菌注射用水、0.025%ノノキシノール9入り滅菌注射用水、及び0.05%ノノキシノール9入り滅菌注射用水が評価された。各BOTOX(登録商標)バイアルは0.9塩化ナトリウムを含むため、再構成(0.1mL再構成量)後に0.9%塩化ナトリウム溶液を維持するために、滅菌注射用水を用いてビヒクルを調製した。100ユニットのBOTOX(登録商標)のバイアルが、0.1mL量の各ビヒクルで再構成された。得られた溶液は、1ミリリットルあたり、1000BOTOX(登録商標)ユニットを含む。各再構成された液の0.1mLの量が、細胞が増殖した膜インサートの表面に適用された。1時間及び3時間で、フロースルーが、HPLC軽鎖アッセイ(SNAPtide(登録商標)520の軽鎖切断)及びBoNT/A細胞ベースのアッセイにより測定された。
【0168】
図6A及び図6Bに示される結果は、BOTOX(登録商標)(ボツリヌスタイプAトキシン複合体)に対するヒト尿路上皮性の細胞の透過性が、トリトン−X100(図6A)、及びノノキシノール9(図6B)を含むビヒクルに適用される場合に増加され得るということを論証する。試験結果は、透過性が濃度と時間の両方に依存することを論証する。透過性の増加は、トリトンX−100及びノノキシノール9濃度が増加したとき及び時間の増加とともに(1時間対3時間)みられた。増加した透過性は、ピークエリアのカウント(Snaptide(登録商標)520切断)でみられる増加に反映される。
【0169】
また、1時間での試料のフロースルーは、BoNT/A細胞ベースアッセイで分析された。0.05%ノノキシノール9の存在下でBOTOX(登録商標)が投与された場合、インビトロで尿管上皮を浸透するBoNT/Aの量では生理食塩水に対して3倍増加し、0.05%トリトンX−100が使用された場合、生理食塩水に対して3.6倍増加した。
【0170】
6のpH値では、900kDaボツリヌスタイプAトキシン複合体がそのまま保持され、一方、8のpH値では、複合体が分離して遊離150kDaボツリヌスタイプAトキシン(1)をもたらすことが報告されている。以下の試験溶液、pH6.0の5mMリン酸カリウム生理食塩水、pH8.0の5mMリン酸カリウム生理食塩水、0.5%トリトン−X−100入りpH6.0の5mMリン酸カリウム生理食塩水、及び0.5%トリトンX−100入りpH8.0の5mMリン酸カリウム生理食塩水が評価された。試料のフロースルーは、BoNT/A細胞ベースのアッセイでアッセイされた。pH6または8でのBOTOX(登録商標)間で差異はなく、両方の場合に、0.5%トリトンX−100の使用が、インビトロ尿管上皮を通る活性BoNT/Aの透過性を増加させた(図7)。
【0171】
実施例5
インビボでの評価:例示的な透過剤の効果が、インビボでラット膀胱にて評価された。本実施例では、トリトンX−100及びノノキシノール9の効果が評価された(図8A、8B、9A、及び9B)。
【0172】
方法:
【0173】
BOTOX(登録商標)及びTEMサロゲート投与:ビヒクル対照の滴下注入のために、BOTOX(登録商標)(オナボツリヌストキシンA;Allergan)及びサロゲートの希釈標準溶液が、それぞれ、0.9%生理食塩水または0.5%HSAのいずれかで調製された。界面活性剤の滴下注入のために、BOTOX(登録商標)(オナボツリヌストキシンA;Allergan)及びTEMサロゲートの希釈標準溶液が、0.9%生理食塩水で調製された。膀胱壁は、麻酔下で、1時間、BOTOX(登録商標)(20U)またはサロゲート(250μg)により滴下注入された。インビボでの全てのプロトコール及び手順が、社内AACUCにより承認された。
【0174】
組織の調製:成体のスプラーグドーリーラット(220〜250g、n=2〜20)由来の膀胱組織が、滴下注入2日後に採取され、ザンボーニ固定剤中により、4℃で一晩固定された。その後、組織は、凍結保護され(30%スクロース)、長手方向に半切除され、包理剤で凍結され、使用されるまで、−80℃で保持された。
【0175】
免疫蛍光法:動物ごとに1つの組織ブロックが、長手方向の面でクリオスタット切片(14μm厚)にされ、スライドに載せられた。各ブロックから3つのスライドが準備され、各スライドの3つの切片はほぼ140μm離された。2つのスライドが、免疫蛍光法のために処理された。組織切片は、ブロッキングバッファ(1XPBS+0.1%トリトンX−100+10%正常ロバ血清)中で、非特異的シグナルについての第1のブロックがなされ、その後、4℃で、一晩、所望の濃度の一次抗体入りブロッキングバッファ中の組み合わせでインキュベートした。使用された一次抗体は、以下の、マウス抗カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP;Sigma、C7113、1:5,000)、抗切断SNAP25(SNAP25197;Allergan、1:1,000)、ウサギ抗シナプス小胞糖タンパク質2C(SV2C;Santa Cruz Biotechnologies、sc−28957、1:800)及びウサギ抗小胞アセチルコリン輸送体(VAChT;Sigma、V5387、1:3,000)であった。洗浄後に、切片は、4℃で2時間、二次抗体(Jackson ImmunoResearch)でインキュベートされ、その後、再度洗浄された。スライドに載せられた切片は、1.5μg/ml DAPIによりFluorマウントGを用いてカバーガラスをかけた。3つ目のスライドが、解剖学的評価のために、Hematoxylin&Eosin(H&E)で染色された。
【0176】
データ分析及び定量化:画像は、Leica DMLB 明視野顕微鏡、Nikon E800蛍光広視野顕微鏡またはZeiss LSM−710共焦点顕微鏡のいずれかでImage−Pro(登録商標)(MediaCybernectics)、Metamorph(登録商標)(Molecular Devices)またはZEN(Carl Zeiss)ソフトウェアを使用して分析され、かつ取り込まれた。Imaris(登録商標)(Bitplane)ソフトウェアが、神経線維の空間的相関関係を確立するために、高解像度、3D定性分析法のために使用された。神経線維のタイプは、それらの形態及び神経化学に基づいて特定された。半定量的分析については、各スライドに対し、3切片全てが顕微鏡で注意深く観察され、スコア(0から5)が、(図8Aに示されるように)SNAP25197染色の範囲、または(図8Bに示されるように)膀胱解剖学的形態(H&E)の完全性のいずかれかで、各動物に付与された。各処理/製剤について平均スコアが算出され、結果は棒グラフとして示される(図9A、9B)。
【0177】
図8Aは、0〜5順序を示す評価法を用いる、のラット膀胱完全性の半定量的評価を示し、「0」は正常な膀胱であり、「5」は重篤な病理を示す。
【0178】
図8Bは、0〜5の順序を示す評価法を用いる、ラット膀胱における副交感神経線維のVAChT染色に対応するSNAP25−197染色の程度の半定量的評価を示し、「0」はSNAP25−197染色が検出されず、「4.5」は両方のバイオマーカーのほぼ完全な重複を示す。「5」のスコアは全く観察されなかった。
【0179】
図9Aは、増加した濃度の界面活性剤とともに、サロゲート(250μg)の膀胱への滴下注入後の、SNAP25−197染色(青のバー)及びH&E染色(赤のバー)に基づく膀胱組織損傷の程度を示す。値は、動物の所与の数について平均±SDである。*P<0.05は、一元配置分散分析(ANOVA)、その後のHolm−Sidak事後分析により、ビヒクル対照とは有意に異なる。
【0180】
図9Bは、間質性膀胱炎モデル由来のラット膀胱に、増加した濃度の界面活性剤とともに、サロゲート(250μg)またはBOTOX(登録商標)(20U)滴下注入後の、SNAP25−197染色(青のバー)及びH&E染色(赤のバー)に基づく膀胱組織損傷の程度を示す。値は、動物の所与の数について平均±SDである。*P<0.05は、一元配置分散分析(ANOVA)、その後のHolm−Sidak事後分析により、ビヒクル対照とは有意に異なる。
【0181】
実施例6
そのままの900kDaボツリヌスタイプA複合体及び遊離150ボツリヌスタイプAに対する膀胱壁の透過性へのトリトンX−100の効果。(図10
【0182】
900kDaボツリヌスタイプAトキシン複合体が、pH6で、そのままで維持され、一方、複合体は、pH8で分離され、遊離150kDaボツリヌスタイプAトキシン(1)をもたらすことが報告されている。以下の試験溶液、pH6.0の5mMリン酸カリウム生理食塩水、pH8.0の5mMリン酸カリウム生理食塩水、0.1%トリトン−X100入りpH6.0の5mMリン酸カリウム生理食塩水、及び0.1%トリトン−X100入りpH8.0の5mMリン酸カリウム生理食塩水が評価された。各溶液の2.5mLの量が、100ユニットのBOTOX(登録商標)のバイアルを再構成するために使用された。これが、1ミリリットルあたり40ユニットの溶液をもたらした。各再構成された溶液の0.5mLの量が、ラット膀胱に滴下注入され、20ユニットの滴下注入をもたらした。
【0183】
図10は、pH6.0またはpH8.0の生理食塩水または界面活性剤のいずれかでBOTOX(登録商標)(20U)膀胱滴下注入後に、SNAP25−197染色(青のバー)及びH&E染色(赤のバー)に基づく膀胱組織損傷の程度を示す。値は、動物の所与の数について平均±SDである。*P<0.05は、t検定分析により、所与のpHで、ビヒクル対照とは有意に異なる。
【0184】
実施例7
ヒト膀胱細胞の粘膜付着性の保持での例示的な透過剤の効果。本実施例では、例示的な透過剤はキトサンである。(図11
【0185】
ヒト膀胱細胞粘膜付着性の保持を実証するキトサン
【0186】
ヒト膀胱細胞(CELLNTECH カタログ番号HBEP.05が、PET膜インサート(24ウェル)上に1ウェルあたり150,000細胞で、3日間はCELLNTECH CnT−58培地(増殖培地)中に、その後7日間はCELLNTECH CnT−21(分化培地)中に蒔かれた。細胞層は、0%、0.025%、0.05%、0.1%、0.2%、0.4%キトサンの生理食塩水で、またはアキュターゼ(Accutase)(マイルドトリプシン)で10分間、前もって調整された。
【0187】
細胞層は、0.5mg/mLのOregon Green標識ゼラチン100μLで処理された。
【0188】
フロースルー培地は、Hanks平衡塩生理食塩水溶液であった。
【0189】
フロースルー培地が採取され、RFUが30分、1時間、2時間、及び3時間で測定された。
【0190】
膜上に残った量を可視化し、カウントし、結果を図11に示す。結果は、キトサンがインビトロ尿管上皮内のゼラチンの保持を増加させたことを示す。
【0191】
実施例8
トリトンX−100に誘導された、膀胱壁の透過性の増加は、可逆的であった
【0192】
ヒト膀胱の尿路上皮性の細胞(CELLnTEC カタログ番号HBEP.05)が、ポリカーボネート膜インサート上に、1ウェルあたりほぼ150,000生細胞の濃度で蒔かれた。インサートが、24ウェル細胞培養プレートのウェル内に配置された。CELLnTEC CnT−58培地(増殖培地)が、その後、ウェルに添加され、細胞がコンフルエントになるまで、細胞は37℃で(5%CO2)2日間インキュベートされた。インキュベートの終わりに、増殖培地が取り除かれ、CELLnTEC CnT−21培地(分化培地)に置換された。細胞は、その後、7日間分化させ、その後、2〜3の細胞ヒト尿路上皮層が形成された。細胞は、以下のビヒクル:0.9%生理食塩水、0.1%トリトンX−100入り0.9%生理食塩水及び0.5%トリトンX−100入り生理食塩水で、1時間処理された。各ビヒクルは、3重で試験された。細胞が増殖した膜インサートの表面に対し、各ビヒクルを0.1mLの量で適用することにより細胞は処理された。曝した後、ビヒクル溶液はインサートから除去され、分化培地が各インサートに添加された。細胞はその後インキュベートされ、0、24、または48時間のいずれかの間、回復させた。0.9%生理食塩水(陰性対照)は、0時間のみで試験されたことに留意されたい。ゼラチン透過性アッセイが、その後行われた。ゼラチン透過性アッセイは、各インサートから培地を取り除くことにより行われ、その後、生理食塩水中に処方された0.1mLの量の0.1mg/mLのOregon Green488標識ゼラチンを、各インサートに添加した。インサートは、0.8mL量のEarl平衡塩溶液を含むウェルに配置された。1時間曝した後、フロースルーが採取され、Envision機器を用いて蛍光が測定された。24時間及び48時間の試験結果が、その後、0時間のデータと比較されて、ゼラチン透過性における低下が生じているかを測定した。
【0193】
0.1%トリトンX−100で処理されたインビトロ尿管上皮から拡散したゼラチンの量は、24及び48時間の回復後で低いことがわかった。これらの結果は、0.1%トリトンX−100による処理後のインビトロヒト尿路上皮の透過性の回復を示唆する。
【0194】
実施例9(図12、13、14A〜14D、及び15)
本調査の目的は、雌スプラーグドーリーラットの膀胱内に滴下注入により投与された、8のうち1のビヒクル製剤で、BOTOX(登録商標)として知られる、ボツリヌストキシンタイプAの効果を評価することであった。効果は、投与後8日で試験され、効能及び耐性が免疫組織化学(IHC)及び病理組織診断によりそれぞれ評価された。
【0195】
陽性対照:4匹のラットが排尿筋内への注入により、10ユニットのBOTOX(登録商標)入り生理食塩水を投与された。
【0196】
陰性対照:ビヒクルを含む製剤のみ(表1に示されるように、BOTOX(登録商標)の添加がない)。
【0197】
切断SNAP25は、シナプス末端でのBOTOX(登録商標)活性のバイオマーカー及び送達の方法の機能性の有効なインジケーターとして使用された。本調査では、尿管上皮を横切るBOTOX(登録商標)の成功的な移動を確認するために使用された。シナプトフィジン発現は、シナプス末端を識別し、切断SNAP25の局在性の特異性を確認するために使用された。病理組織診断は、膀胱細胞への製剤の影響を評価するためになされた。
【0198】
150〜200グラムの間の重量の雌ラットは、表1に従い、0.5mlのビヒクル製剤またはビヒクル製剤+30UのBOTOX(登録商標)を投与された。
表1:
a=評価のために提出された5ビヒクル+BOTOX処理膀胱のみ
【0199】
製剤の膀胱内の滴下注入が以下のように行われた。ラットはイソフルランで麻酔をかけられ、膀胱は指先の圧を下腹部にかけることにより空にした。麻酔中は、カテーテルが、尿道を介して膀胱に導入された。その後、製剤がゆっくりと0.5ml+0.1ml(カテーテルにより作成されたデッドスペースに収容するため)の投与量で膀胱内に2分間の経過にわたって投与された。製剤は、麻酔回復前60分間、膀胱にとどまらせた。ラットは滴下注入後1週間で安楽死させた。
【0200】
膀胱が採取され、10%ホルマリンで固定され、標準的な組織学的技術を用いて処理された。追加の切片が調製され、切断SNAP25及びシナプトフィジンについての蛍光免疫組織化学のために処理された。
【0201】
免疫蛍光法:1動物あたり1組織ブロックが、長手方向の面でクリオスタット切片(14μm厚)にされ、スライドに乗せられた。各ブロックから3つのスライドが準備され、各スライドの3つの切片はほぼ140μm離された。2つのスライドが、免疫蛍光法のために処理された。組織切片は、ブロッキングバッファ(1XPBS+0.1%TX−100+10%正常ロバ血清)中で、非特異的シグナルについての第1のブロックがなされ、その後、4℃で、一晩、所望の濃度の一次抗体入りブロッキングバッファ中の組み合わせでインキュベートした。使用された一次抗体は、以下の、マウス抗カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP;Sigma、C7113、1:5,000)、抗切断SNAP25(SNAP25197;Allergan、1:1,000)、ウサギ抗シナプス小胞糖タンパク質2C(SV2C;Santa Cruz Biotechnologies、sc−28957、1:800)及びウサギ抗小胞アセチルコリン送達体(VAChT;Sigma、V5387、1:3,000)であった。洗浄後に、切片は、4℃で2時間、二次抗体(Jackson ImmunoResearch)でインキュベートされ、その後、再度洗浄された。スライドに載せられた切片は、1.5μg/ml DAPIによりFluorマウントGを用いてカバーガラスをかけた。3つ目のスライドが、解剖学的評価のために、Hematoxylin&Eosin(H&E)で染色された。
【0202】
データ分析及び定量化:画像は、Leica DMLB 明視野顕微鏡、Nikon E800蛍光広視野顕微鏡またはZeiss LSM−710共焦点顕微鏡のいずれかでImage−Pro(登録商標)(MediaCybernectics)、Metamorph(登録商標)(Molecular Devices)またはZEN(Carl Zeiss)ソフトウェアを使用して分析され、かつ取り込まれた。Imaris(登録商標)(Bitplane)ソフトウェアが、神経線維の空間的相関関係を確立するために、高解像度、3D定性分析法のために使用された。神経線維のタイプは、それらの形態及び神経化学に基づいて特定された。半定量的分析については、各スライドに対し、3切片全てが顕微鏡で注意深く観察され、スコア(0から4)が、(図12及び図13に示されるように)SNAP25197染色の範囲、または(図14A図14Dに示されるように)膀胱解剖学的形態(H&E)の完全性のいずかれかで、各動物に付与された。各処理/製剤について平均スコアが算出され、結果は、部分的に、表2及び図15に示される。
【0203】
製剤は、以下に基づいて評価された。
1.膀胱壁における組織学的変化;「紡錘細胞浸透」の診断は膀胱についてなされ、不確定性起源のより多くの数の紡錘細胞が、粘膜固有層の浸透がみられ(図14B、14C、及び14D)、反応性変化として、これらは線維化の潜在的な前駆体として望ましくないと考えられた、及び
2.切断SNAP25スコア。
【0204】
結果の概要:結果は表2に概要が示される。
【0205】
表2:







【0206】
試験製剤:正の免疫組織学的スコアが、0.1%(w/v)チロキサポールの製剤を除くBOTOX(登録商標)の膀胱内の滴下注入後の試料全てで観察された。図15は、いくつかの例示的な製剤のIHCスコアを示す。
【0207】
実施例10
過活動膀胱の治療
【0208】
本実施例は、神経因性または特発性膀胱機能障害に起因する、過度反射性膀胱を有する患者の治療を記載する。
【0209】
神経因性または特発性膀胱機能障害に起因する、過度反射性膀胱の症候(膀胱感染、失禁、及び切迫尿失禁)を有する何人かの患者が、膀胱滴下注入により治療される。約100ユニットのBOTOX(登録商標)、0.1%(w/v)トリトン(商標)X−100及び1%(w/v)キトサンを含む医薬組成物。医薬組成物は、軽い鎮静下で患者の膀胱に滴下注入された。平均最大膀胱容量における有意な増加及び平均最大利尿筋排尿圧における有意な低下が、治療後7日で観察された。
【0210】
多くの代替及び変更が、本開示の精神及び範囲を逸脱することなく、当業者によりなされることとしてもよい。したがって、記載された実施形態は、例示の目的のためのみに述べられていること、及び実施形態は以下のクレームの範囲を限定するものとして解釈されるべきではないことが理解されるべきである。以下のクレームは、よって、文言上で述べられている要素の組み合わせだけでなく、実質的に同じ結果を得るための実質的に同じ方法における実質的に同じ機能を実施するための均等な要素の全てを含むと読み取られるべきである。よって、クレームは、上述のように記載されているもの、概念的に均等なもの、及び本開示の思想を組み入れるものを含むことが理解されるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
図8A
図8B
図9A
図9B
図10
図11
図12
図13
図14A
図14B
図14C
図14D
図15