(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記有効成分は、2−メチル酪酸、2−エチル酪酸、2−エチル吉草酸、2−エチルヘキサン酸、2−フェニル酪酸、2−イソプロピルヘキサン酸、2−エチルヘキサナール、2,3−ブタンジオン及び2,3−ヘプタンジオンからなる群から選択される1種又は2種以上を有効成分とする、OR51E1の応答抑制剤。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
イソ吉草酸や吉草酸は、身体等に由来したにおい物質であるため、これを完全に除去することや発生を抑制することも困難である。また、芳香剤や消臭剤を利用することも可能であるが、限界があるほか個々の嗜好に適合させることは困難であった。
【0007】
本明細書は、OR51E1に対するアンタゴニストを有効成分とする悪臭抑制剤及びその利用を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、イソ吉草酸に対して応答するOR51E1にアンタゴニストを探索したところ、一定の構造を有する化合物が、アンタゴニストとして作用するという知見を得た。本明細書によれば、こうした知見に基づき、以下の手段が提供される。
【0009】
[1]悪臭抑制剤であって、
以下の式(1)及び(2)で表される化合物からなる群から選択される1種又は2種以上を有効成分とする、悪臭抑制剤。
【化1】
(ただし、式(1)中、R
1は、水素原子又は水酸基を表し、R
2は、炭素数1以上6以下の炭化水素基又は置換されていてもよいフェニル基を表し、R
3は、水素原子又は炭素数1〜4の炭化水素基を表す。)
【化2】
(ただし、式(2)中、R
4は、炭素数1〜6の炭化水素基を表す。)
[2]前記式(1)中、R
2は、炭素数2以上6以下の鎖状アルキル基又はフェニル基を表し、前記式(2)中、R
4は、炭素数1〜4の鎖状アルキル基を表す、[1]に記載の悪臭抑制剤。
[3]前記式(1)中、R
2は、炭素数2以上4以下の直鎖アルキル基又はフェニル基を表し、前記式(2)中、R
4は、炭素数1〜4の直鎖アルキル基を表す、[2]記載の悪臭抑制剤。
[4]前記式(1)中、R
3は、水素原子又はメチル基を表す、[1]〜[3]のいずれかに記載の悪臭抑制剤。
[5]2−メチル酪酸、2−エチル酪酸、2−エチル吉草酸、2−エチルヘキサン酸、2−フェニル酪酸、2−イソプロピルヘキサン酸、2−エチルヘキサナール、2,3−ブタンジオン及び2,3−ヘプタンジオンからなる群から選択される1種又は2種以上を有効成分とする、悪臭抑制剤。
[6]イソ吉草酸及び吉相酸のいずれか又は双方を含む悪臭に対する、[1]〜[5]のいずれかに記載の悪臭抑制剤。
[7][1]〜[6]のいずれかに記載の悪臭抑制剤を用いる、悪臭抑制方法。
[8][1]〜[6]のいずれかに記載の悪臭抑制剤を備える、悪臭抑制用製品。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書は、OR51E1に対するアンタゴニストを有効成分とする悪臭抑制剤(以下、単に悪臭抑制剤ともいう。)及びその利用を提供する。本悪臭抑制剤によれば、吉草酸及びイソ吉草酸のほか、n−酪酸やヘキサン酸などの各種の悪臭を、これらのにおい物質が結合するOR51E1に対するアンタゴニスト作用により抑制することができる。このため、こうしたにおい物質を吸着等により除去したり、あるいは、他の芳香剤等によりマスキングすることなく、簡易に悪臭を抑制できる。この結果、意図した又は嗜好にあったにおい環境、快適なにおい環境を容易に実現できるようになる。
【0012】
ここで、吉草酸及びイソ吉草酸は、衣類着用後の汗様の悪臭や足の悪臭の原因となるにおい物質の1つであるほか、納豆様臭の悪臭の原因となるにおい物質とされている。また、ヘキサン酸は、ヤギ様、汗様と表現される悪臭の原因となるにおい物質とされている。また、n−酪酸は、銀杏の異臭や足の悪臭の原因となるにおい物質とされている。
【0013】
OR51E1は、こうした各種の悪臭のにおい物質に対する応答性を有しており、OR51E1における応答性をアンタゴニスト作用により抑制する悪臭抑制剤は、多様な悪臭を抑制できるため有用である。
【0014】
「におい物質」とは、ヒトに供給したとき、なんらかのにおいを感知させる物質をいう。概して、常温又は体温付近の温度で少なくとも一部が気体となる物質である。
【0015】
「におい質」とは、においの性質を意味することができる。「におい質」は、例えば、ヒトがにおいを嗅ぐことにより連想される、体感的、感覚的又は物質的な表現で表される性質ということができる。
【0016】
「嗅覚受容体」又は「受容体」は、嗅細胞(嗅覚受容神経)にあるGタンパク質結合受容体の1種であればよく、由来動物種を特に限定しない。本評価方法の目的に応じて、由来動物種や受容体の種類を選択することができ、必要に応じて1又は2以上の受容体を用いることができる。ヒトにおいて知覚されうるにおい物質の応答評価のためには、ヒト由来の受容体を用いることが好ましい。
【0017】
例えば、ヒト嗅覚受容体のアミノ酸配列及びそれをコードするDNAの塩基配列は公知である。代表的なポリヌクレオチド(cDNA)を含む塩基配列は公知のデータベースGenBank(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/genbank/)等から容易に取得できる。
【0018】
本明細書において、「アンタゴニスト」とは、あるにおい物質に対して応答する嗅覚受容体に対し、そのにおい物質による受容体応答性を抑制する作用を奏する物質をいう。本明細書において、このような作用を奏する剤を、それぞれ、抑制剤といい、受容体応答性の抑制の結果、悪臭を抑制するとき、悪臭抑制剤ということができる。
【0019】
以下、本開示の評価方法等についての実施形態を詳細に説明する。
【0020】
(悪臭抑制剤)
本悪臭抑制剤は、式(1)及び式(2)で表される化合物からなる群から選択される1種又は2種以上を有効成分とすることができる。
【0023】
(式(1)で表される化合物)
[R
1]
式(1)中、R
1は、水素原子又は水酸基を表す。R
1が水素原子であるとき、式(1)で表される化合物は、アルデヒドであり、R
1が水酸基であるとき、式(1)で表される化合物は、カルボン酸である。
【0024】
[R
2]
式(1)中、R
2は、炭素数1以上6以下の炭化水素基又は置換されていてもよいフェニル基である。炭化水素基は、直鎖状、分岐状及び環状等のいずれであってもよいが、好適には、直鎖状である。炭化水素基は、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基のいずれであってもよい。例えば、アルキル基とすることができる。炭素数1以上6以下のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、1−メチルブチル基、n−ヘキシル基等が挙げられる。また、炭素数が1以上6以下のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、イソプロペニル基、3−ブテニル基、1−メチルアリル基、2−ブテニル基、1−ブテニル基、ブチレニル基、イソブチレニル基、ペンテニル基、イソペンテニル基、ヘキセニル基等が挙げられる。また、炭素数が1以上6以下のアルキニル基としては、エチニル基、プロパ−2−イン−1−イル基等が挙げられる。また、炭素数が1以上6以下の環状炭化水素基としては、シクロプロパン、シクロブタン、シクロヘキサン、シクロプロペン、シクロブテン等が挙げられる。R
2は、例えば、炭素数1〜6のアルキル基であることが好適な場合があり、また例えば炭素数2〜6のアルキル基であってもよいし、また例えば炭素数2〜4のアルキル基であってもよい。
【0025】
R
2は、また、置換されていないフェニル基及び置換されたフェニル基のいずれかであってもよい。置換基としては、特に限定しないが、水酸基、ハロゲン原子、炭素数1〜4程度のアルキル基、炭素数1〜4程度のアルコキシ基が挙げられる。炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等が挙げられる。R
2が置換されているときの置換個数や位置は特に限定するものではなく、オルト位、メタ位及びパラ位から適宜選択される。R
2は、例えば、置換されていないフェニル基であることが好適な場合がある。
【0026】
[R
3]
式(1)中、R
3は、水素原子又は炭素数1以上4以下のアルキル基とすることができる。炭素数1以上4以下のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基が挙げられる。R
3は、特に限定するものではないが、水素原子又は炭素数1〜2程度のアルキル基であることが好適な場合があり、また例えば水素原子又はメチル基であってもよい。
【0027】
式(1)で表される化合物には、式(1)におけるR
1、R
2及びR
3を、適宜組み合わせた各種化合物が含まれる。こうした化合物としては、例えば、2−メチル酪酸、2−エチル酪酸、2−エチル吉草酸、2−エチルヘキサン酸、2−フェニル酪酸、2−エチルヘプタン酸、2−エチルオクタン酸、2−イソプロピルヘキサン酸、2−イソプロピルペンチル酸、2−イソプロピル酪酸、2−エチルブタナール、2−エチルペンタナール、2−エチルヘキサナール、2−イソプロピルブタナール、2−イソプロピルペンタナール、2−イソプロピルヘキサナール等が挙げられる。なかでも、例えば、2−エチル酪酸、2−エチル吉草酸、2−エチルヘキサン酸、2−フェニル酪酸、2−イソプロピルヘキサン酸、2−エチルヘキサナールが好適な場合がある。また例えば、2−エチル吉草酸、2−エチルヘキサン酸、2−フェニル酪酸、2−イソプロピルヘキサン酸、2−エチルヘキサナールが好適な場合がある。さらに例えば、2−エチルヘキサン酸、2−エチルヘキサナールが好適な場合がある。
【0028】
(式(2)で表される化合物)
[R
4]
式(2)中、R
4は、炭素数1以上6以下の炭化水素基とすることができる。炭化水素基は、直鎖状、分岐状及び環状並びにこれらの組合せのいずれであってもよいが、好適には、直鎖状である。鎖状の炭化水素基は、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基が挙げられる。また、環状の炭化水素基としては、シクロアルキル基、シクロアルケニル基等が挙げられる。
【0029】
炭素数1以上6以下のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、1−メチルブチル基、n−ヘキシル基等が挙げられる。また、炭素数が1以上6以下のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、イソプロペニル基、3−ブテニル基、1−メチルアリル基、2−ブテニル基、1−ブテニル基、ブチレニル基、イソブチレニル基、ペンテニル基、イソペンテニル基、ヘキセニル等が挙げられる。また、炭素数が1以上6以下のアルキニル基としては、エチニル基、プロパ−2−イン−1−イル基等が挙げられる。
【0030】
炭素数が1以上4以下の環状炭化水素基としては、シクロプロパン、シクロブタン、シクロヘキサン、シクロプロペン、シクロブテン等が挙げられる。
【0031】
R
4は、例えば、炭素数1〜4のアルキル基であることが好適な場合があり、また例えば炭素数1〜3のアルキル基が好適な場合があり、また例えば炭素数1〜2のアルキル基が好適な場合がある。さらに例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル、n−ブチル基等が好適な場合がある。
【0032】
式(2)で表される化合物には、式(2)におけるR
4によって規定される各種化合物が含まれる。こうした化合物としては、2,3−ブタンジオン、2.3−ペンタンジオン、2,3−ヘキサンジオン、2,3−ヘプタンジオン等が挙げられる。特に限定するものではないが、例えば、2,3−ブタンジオン、2.3−ヘプタンジオンが好適な場合があり、また例えば2,3−ヘプタンジオンが好適な場合がある。
【0033】
本悪臭抑制剤における有効成分としては、式(1)で表される化合物及び式(2)で表される化合物からなる群から選択される1種の化合物を単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。2種以上の化合物を組み合わせて用いるとき、式(1)で表される化合物を2種以上組み合せてもよいし、式(2)で表される化合物を2種以上組み合せて用いてもよいし、式(1)及び式(2)で表される化合物をそれぞれ組み合わせて用いることもできる。化合物の選択は、抑制しようとする悪臭におけるにおい物質の組成や程度、悪臭が発生する可能性のあるにおい環境における温度、化合物の揮発性、化合物のにおい物質としてのにおい閾値やにおい質などを適宜考慮して設定することができる。
【0034】
なお、例えば、におい閾値は、永田ら、三点比較式臭袋法によるにおい物質の閾値測定結果、日環セ所報No.17(1990), p.77−89に基づいて取得することができる。
【0035】
(悪臭抑制剤の利用)
[悪臭抑制剤]
本明細書によれば、本悪臭抑制剤を備える悪臭抑制製品が提供される。本悪臭抑制剤は、OR51E1における応答を誘導する全てのにおい物質による悪臭を、当該受容体に対するアンタゴニスト作用によって抑制することができる。
【0036】
本悪臭抑制剤は、OR51E1に対するアンタゴニスト作用による悪臭抑制効果を奏し、悪臭の原因となるにおい物質の除去や芳香剤によるマスキングを伴わない。このため、居住空間、労働や作業を行う作業空間、車両、飛行機などの各種移動体の車室内空間、学校等の各種公共の空間、医療機関における各種空間など、多様な環境のもとで、嗜好に応じたにおい、作業に応じたにおい、身体状況等に応じたにおいなど、種々のにおい環境を阻害することなく、OR51E1が応答する悪臭を選択的にかつ効率的に抑制できる。
【0037】
本悪臭抑制剤は、悪臭の抑制を意図した公知の悪臭抑制製品としての各種態様で用いることができる。例えば、各種消臭剤、各種芳香剤、身体用又は顔用洗浄剤、衣料用洗剤、衣料用柔軟剤、化粧料及びフレグランス製品中に備えるようにすることができる。すなわち、これらを構成する組成物中に、本悪臭抑制剤を備えることで、当該製品の使用時において悪臭を抑制しあるいは将来発生する悪臭を予防することができる。本悪臭抑制剤は、特に限定されないで、各種製品の態様、すなわち、液剤、繊維等の担体に担持されたシート状体、ゲル剤等において、揮発可能な状態で備えられる。このような製品において本悪臭抑制剤を備えさせることは当業者であれば適宜実施できる。
【0038】
また、本悪臭抑制剤は、衣料品や寝具に取り付けあるいは貼付などして適用するパッドやシート、身体に直接貼付又は取り付けして適用するパッド、シート、サポーター、靴又は靴の中敷き、衣類や靴類の収容を意図した収容体に適用することができる。すなわち、衣類や身体に適用されるパッド、シート、サポ−ターのほか、上記収容体を構成する布や不織布などのシート状の担体に、本悪臭抑制剤を種々の形態で含浸又は担持させることにより、悪臭発生源である身体や衣類近傍において、悪臭抑制作用を発揮させることができる。本悪臭抑制剤は、こうした担体に担持等させる場合には、含浸、コート、カプセル化など、当該分野において当業者において周知の方法を適用することができる。本悪臭抑制剤の担持等にあたっては、公知の樹脂や繊維など高分子材料を含む有機材料、セラミックスなどの無機材料などの各種マトリックスを適宜用いることができる。
【0039】
また、本悪臭抑制剤は、アロマディフューザー、加湿機、空気清浄機、暖房・冷房などを意図した空調機に適用できる。これらにおいては、種々の態様で本悪臭抑制剤を適用できる。例えば、空気などの流体が通過するフィルター等に種々の形態で担持等させることができる。また、必要に応じて、本悪臭抑制剤を放出可能に構成することもできる。例えば、本悪臭抑制剤を、そのままあるいは適当な組成物として貯留する容器を備え、当該容器から適宜揮発させたり、積極的に放出したりするようにしてもよい。
【0040】
[悪臭抑制方法]
本明細書によれば、本悪臭抑制剤を用いる悪臭抑制方法が提供される。本悪臭抑制剤は、上記した各種製品の態様に限定されないで、OR51E1における応答を誘導する全てのにおい物質に対して、アンタゴニスト作用によって、当該におい物質による悪臭を抑制できる。
【0041】
例えば、所定空間におけるOR51E1が応答するにおい物質の量をモニタリングして、そのにおい物質の発生や増大を検知したときに、本悪臭抑制剤を揮発又は放出する工程を備えることができる。こうすることで、効率的に悪臭を抑制できる。また、におい物質をモニタリングして、前記におい物質が低下したときに、本悪臭抑制剤の揮発又は放出を抑制するようにすることができる。なお、におい物質のモニタリングには、公知のガスセンサやにおいセンサを用いることができる。
【0042】
例えば、所定空間における本悪臭抑制剤の量をモニタリングして、本悪臭抑制剤の量が低下したときに、例えば、空間における空気清浄機能の作用を抑制して、本悪臭抑制剤の量が低下しすぎないようにする工程を備えることができる。なお、この場合、積極的に、本悪臭抑制剤の揮発又は放出を伴うこともできる。なお、本悪臭抑制剤のモニタリングには、公知のガスセンサやにおいセンサを用いることができる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を、実施例を挙げて具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0044】
(全ヒト嗅覚受容体の体臭様の悪臭の原因におい物質(イソ吉草酸、n−吉草酸、n−酪酸、ヘキサン酸)に対する応答評価)
ヒト嗅覚受容体は登録されている配列情報を基に、PCR法によりクローニングした。PCR法により増幅した各遺伝子をFlexi Vector(Promega)に常法に従って組み込み、 SgfIとPmeIサイトを利用して、pF5K CMV−neo Flexi Vectorを作製した。
【0045】
HEK293細胞を10%ウシ胎児血清(FBS)−ペニシリン/ストレプトマイシンを含むDME培地にて培養後、表1に示す組成の反応液を調整し、クリーンベンチ内で30分放置した後、384ウェル(ポリーL−リジンコート・ホワイトプレート)の各ウェルに添加した。次いで、HEK293細胞を3.0×10
5/cm
2の割合で各ウェルに播種し、CO
2インキュベータ内で24時間培養した。
【0046】
【表1】
【0047】
CRE応答の測定には、細胞内cAMP量の増加をホタルルシフェラーゼ遺伝子由来の発光値としてモニターするルシフェラーゼレポータージーンアッセイを用いた。また、CMVプロモーター下流にウミシイタケルシフェラーゼ遺伝子を融合させたものを同時に遺伝子導入し、遺伝子導入効率や細胞数の誤差を補正する内部標準として用いた。
【0048】
24時間培養後、培地を取り除き、無血清培地で調製した各におい物質(1mM)を添加し、4時間CO
2インキュベータ内に放置した。ルシフェラーゼ活性はDual−Glo Luciferase assay system(Promega社)の添付プロトコルに準じて測定した。におい物質刺激により誘導されたホタルルシフェラーゼ由来の発光値及び陽性・陰性コントロールの発光値の相対反応比(Relative Response Ratio:RRR、RRR=(サンプル−陰性コントロール)/(陽性コントロール−陰性コントロール))を応答強度の指標とした。各種におい物質に対する応答性評価結果を、
図1に示す。
【0049】
図1に示すように、これらの各におい物質に対して特異的に応答する受容体があることがわかった。また、これらの各におい物質に対して共通してOR51E1が高い応答性を示すこともわかった。
【0050】
また、イソ吉草酸、n−吉草酸、4−メチル吉草酸、n−酪酸、ヘキサン酸、イソ酪酸、酢酸、プロピオン酸各1mMについてのヒト嗅覚受容体OR51E1の応答性の結果と、永田ら、三点比較式臭袋法によるにおい物質の閾値測定結果、日環セ所報No.17(1990), p.77−89における記載とに基づいて、これらのにおい閾値を測定した結果を
図2に示す。なお、イソ吉草酸1mMを1、測定毎の最小値を0として、標準化した。
【0051】
図2に示すように、OR51E1の応答強度とヒトの嗅覚閾値との間に負の相関があることもわかった。すなわち、官能検査における閾値濃度が低いと、OR51E1が強く応答することが確認できた。以上のことから、ヒトがイソ吉草酸等のにおいを認識する際の嗅覚受容体として、OR51E1の寄与が大きいことがわかった。
【実施例2】
【0052】
(2−エチルヘキサン酸の濃度とn−酪酸、イソ吉草酸、n−吉草酸及び4−メチル吉草酸に対するOR51E1応答性との関係)
実施例1と同様の手順でOR51E1をRTP1sとともにそれぞれ発現させた細胞を作製して24時間培養後、培地を取り除き、2−エチルヘキサン酸の各濃度(100、1000、10000μM)を添加した無血清培地で置換して、20分間CO
2インキュベータ内に放置して前処理を行った。その後、n−酪酸、イソ吉草酸、n−吉草酸及び4−メチル吉草酸各1mMとなるように調整した無血清培地を添加し混合して、4時間CO
2インキュベータ内に放置し、実施例1と同様にして2ーエチルヘキサン酸の濃度に対する応答性を調べた。なお、2−エチルヘキサン酸を添加しないものの応答性を100とした。結果を、
図3に示す。
【0053】
図3に示すように、これらの受容体の応答性は、2−エチルヘキサン酸の濃度に応じて低下することが確認された。
【実施例3】
【0054】
(OR51E1に対する応答性抑制作用と分子構造との関係)
実施例1と同様の手順でOR51E1をRTP1sとともにそれぞれ発現させた細胞を作製して24時間培養後、培地を取り除き、応答抑制成分としての2−メチル酪酸、2−エチル吉草酸、2ーエチルヘキサン酸、2−フェニル酪酸、2−イソプロピルヘキサン酸、2,3−ブタンジオンの各濃度(30、100、300、1000、3000、10000μM)でそれぞれ含む無血清培地で置換して、20分間CO
2インキュベータ内に放置して前処理を行った。その後、におい物質としてイソ吉草酸を1mMとなるように調整した無血清培地を添加し混合して、4時間CO
2インキュベータ内に放置し、実施例1と同様にして応答性を調べた。なお、応答抑制成分を添加しない0μMでの応答性を100とした。結果を
図4〜6に示す。
【0055】
【化5】
【0056】
図4〜6に示すように、応答抑制成分の濃度に応じて、におい物質に対するOR51E1の応答性が低下することがわかった。なかでも、2−エチルヘキサン酸、2−エチル吉草酸、2−フェニル酪酸、2−エチル酪酸の抑制作用が大きいことがわかった。また、2−イソプロピルヘキサン酸、2,3−ブタンジオンも優れた抑制作用を有していることがわかった。
【0057】
また、これらの各種の応答抑制成分による結果から、n−酪酸の2位の炭素原子には、炭素数1〜6程度のアルキル基などの炭化水素基やフェニル基等が付加した場合に、有効な作用が奏されることがわかった。また、n−酪酸の3位の炭素原子には、水素原子や炭素数1〜4程度のアルキル基などの炭化水素基が結合したものであってもよいことがわかった。
【実施例4】
【0058】
(2−エチルヘキサン酸及び2,3−ブタンジオンによる悪臭抑制能の官能評価)
臭気官能評価に熟練したパネル5名に対して、パネル毎に、イソ吉草酸が臭気強度3(表2参照)で感じられるようにイソ吉草酸ガスを濃度調整し、また、悪臭抑制作用を評価するための添加成分として、2−エチルヘキサン酸及び2,3−ブタンジオンを、検知閾値レベル、臭気強度3レベル及びこれらの中間レベルの3段階のそれぞれになるように調整して混合して、パネルに呈示した。パネルは呈示された混合臭気のイソ吉草酸の臭気強度を評価した。結果を
図7及び
図8に示す。
【0059】
【表2】
【0060】
図7及び
図8に示すように、2−エチルヘキサン酸及び2,3−ブタンジオンは、いずれも、その添加濃度に応じて、パネルが検知したイソ吉草酸臭強度を低減した。以上のことから、これらの悪臭抑制成分によるOR51E1応答性抑制作用は、ヒトの嗅覚受容体においても同様に作用することがわかった。
【実施例5】
【0061】
(各種悪臭抑制成分による悪臭抑制能の官能評価)
ガラス瓶にいれた綿球に、プロピレングリコールで質量比で2000倍希釈したイソ吉草酸を20μl滴下し、以下の表3に示す各悪臭抑制成分を、同表に示す質量比で希釈した溶液を各20μl滴下した。ガラス瓶を密閉して、イソ吉草酸及び各化合物を十分に揮発させた。なお、コントロールとして、悪臭抑制成分を添加しない無添加の検体も準備した。
【0062】
【表3】
【0063】
これらの瓶内から揮発するガスを、におい評価に関して熟練した7人のパネルにより官能評価を行った。評価は、悪臭の程度を0から5.0の十段階で評価した。7人の評価結果の平均を
図9に示す。
【0064】
図9に示すように、無添加検体では、イソ吉草酸臭強度は3を超えたが、2−エチルヘキサン酸、2,3−ブタンジオン、2,3−ヘプタンジオン、2−エチルヘキサナール、では、イソ吉草酸臭強度は2を下回った。また、2,3−ヘプタンジオン及び2−エチルヘキサナールでは、イソ吉草酸臭強度は1を下回った。なお、OR51E応答抑制作用が認められなかったn−酪酸メチルでは、悪臭抑制作用を奏し得なかった。以上のことから、2−エチルヘキサン酸、2,3−ブタンジオン、2,3−ヘプタンジオン、2−エチルヘキサナールは、いずれも良好な悪臭抑制剤であることがわかった。
【0065】
また、2,3−ヘプタンジオン及び2−エチルヘキサナールが優れた悪臭抑制作用を示したことから、におい物質と同じ官能基を持つカルボン酸のみならず対応するアルデヒドであっても有効な悪臭抑制作用を奏すること、及び2,3−ジオン構造が有効であることがわかった。