特許第6738759号(P6738759)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6738759タッチパネル用粘着剤組成物及びタッチパネル用粘着シート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6738759
(24)【登録日】2020年7月22日
(45)【発行日】2020年8月12日
(54)【発明の名称】タッチパネル用粘着剤組成物及びタッチパネル用粘着シート
(51)【国際特許分類】
   C09J 133/10 20060101AFI20200730BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20200730BHJP
   C09J 11/08 20060101ALI20200730BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20200730BHJP
   C09J 125/06 20060101ALI20200730BHJP
   G06F 3/041 20060101ALI20200730BHJP
【FI】
   C09J133/10
   C09J11/06
   C09J11/08
   C09J7/38
   C09J125/06
   G06F3/041 495
【請求項の数】8
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2017-72343(P2017-72343)
(22)【出願日】2017年3月31日
(65)【公開番号】特開2018-172567(P2018-172567A)
(43)【公開日】2018年11月8日
【審査請求日】2019年9月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004592
【氏名又は名称】日本カーバイド工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】竹口 港
(72)【発明者】
【氏名】中野 宏人
【審査官】 澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−105329(JP,A)
【文献】 特開2016−074761(JP,A)
【文献】 特開2015−40237(JP,A)
【文献】 特開2017−066295(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00 −201/10
G06F 3/041
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数が5〜9である分岐状のアルキル基を有するアルキルメタクリレートに由来する構成単位を全構成単位に対して60質量%以上及び、水酸基を有するモノマーに由来する構成単位を全構成単位に対して0.1質量%〜20質量%含み、かつ、ガラス転移温度(Tg)が−15℃以上である(メタ)アクリル系ポリマー100質量部と、
架橋剤0.1質量部〜3質量部と、
数平均分子量(Mn)が100〜700であるポリブテン5質量部〜70質量部と、を含むタッチパネル用粘着剤組成物。
【請求項2】
前記水酸基を有するモノマーを単独重合体としたときのガラス転移温度(Tg)は、10℃以上である請求項1に記載のタッチパネル用粘着剤組成物。
【請求項3】
前記水酸基を有するモノマーに対する前記ポリブテンの配合比率が、質量基準で、0.5〜25である請求項1又は請求項2に記載のタッチパネル用粘着剤組成物。
【請求項4】
前記(メタ)アクリル系ポリマーの重量平均分子量(Mw)が40万〜300万である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のタッチパネル用粘着剤組成物。
【請求項5】
前記(メタ)アクリル系ポリマーのガラス転移温度(Tg)は、−8℃以上である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のタッチパネル用粘着剤組成物。
【請求項6】
前記(メタ)アクリル系ポリマーにおける窒素原子を有するモノマーに由来する構成単位の含有率が、全構成単位に対して0.05質量%以下である、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のタッチパネル用粘着剤組成物。
【請求項7】
さらに、ポリスチレンを、前記(メタ)アクリル系ポリマー100質量部に対して、0.1質量部〜20質量部含む、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のタッチパネル用粘着剤組成物。
【請求項8】
請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載のタッチパネル用粘着剤組成物の架橋物である粘着剤層を有するタッチパネル用粘着シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タッチパネル用粘着剤組成物及びタッチパネル用粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、携帯情報端末などの入力装置には、タッチパネルが用いられている。タッチパネルは一般的に、ガラス基板、透明導電性フィルム、意匠フィルム、保護板など(以下、総称して「タッチパネル構成部材」ともいう。)から構成されている。
各タッチパネル構成部材は、タッチパネル構成部材の大きさに裁断された粘着シートによって、それぞれ貼り合わされている。
【0003】
近年、携帯電話、携帯情報端末などの薄肉化に伴い、タッチパネルを構成する部材を貼合する粘着シートの粘着剤層に対しても薄肉化が求められている。しかし、粘着剤層を薄肉化した場合、タッチパネル内部の静電容量が大きくなるため誤作動を起こすことがある。そのため、近年では、粘着剤層を薄肉化してもタッチパネル内部の静電容量が大きくならないような、比誘電率の低い粘着剤層が求められている。
【0004】
比誘電率の低い粘着剤層を形成できる粘着剤組成物として、(a1)炭素数10〜18のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステル単量体3〜39質量%と、(a2)炭素数1〜9のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステル単量体20〜97質量%と、を含む単量体混合物(ここで、前記(a1)成分と前記(a2)成分との合計は45重量%以上かつ100重量%以下である。)の(A)共重合体と、(B)架橋剤と、(C)可塑剤と、を含み、前記(C)可塑剤の含有量が、前記(A)共重合体100質量部に対して5〜40質量部である、光学用粘着剤組成物が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
さらに、近年、粘着シートは、視認性を高めるために、基材を有しない粘着シートが用いられている。基材を有しない粘着シートの粘着剤層は、使用されるまでの間は剥離シートによって保護されている。
粘着シートの裁断には、多くの場合、切断刃が用いられる。剥離シートで保護された粘着シートを切断刃で裁断した場合、切断刃の応力によって、粘着剤層が変形しやすい。
粘着剤層が変形した粘着シートを、タッチパネル構成部材に貼合した場合、貼り合せた複数のタッチパネル構成部材の間から粘着剤層がはみ出るという問題がある。また、粘着シートを裁断した際に、粘着剤層が切断刃に付着してしまうため、切断刃を連続して使用しにくいという問題がある。
そのため、粘着シートに対して、裁断の際に、上記の問題が生じることなく容易に裁断できる程度の加工性(以下、単に「加工性」ともいう。)が求められる。
【0006】
比誘電率の低い粘着剤層を形成でき、粘着剤層の加工性にも優れる粘着剤組成物として、炭素数が5〜9の分岐鎖アルキル基を有するアルキルメタクリレートに由来する構成単位を全構成単位に対して35質量%以上と、水酸基を有する単量体に由来する構成単位を全構成単位に対して0.1質量%以上35質量%以下と、を含み、かつ、ガラス転移温度が−55℃〜−10℃である(メタ)アクリル系ポリマーを含有する粘着剤が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2015−105329号公報
【特許文献2】特開2016−74761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
発明者らが検討したところ、特許文献1及び特許文献2には、以下のような問題点があった。
特許文献1に記載の粘着剤組成物は、共重合体の単量体成分として炭素数10〜18のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルを含むため、粘着剤層の凝集力が不足し、粘着シートの裁断時に切断刃に粘着剤層がくっつきやすく、加工性に劣る場合がある。また、特許文献1に記載の粘着剤組成物は可塑剤を含むため、可塑剤の種類によっては、粘着剤層の凝集力がより低下し加工性にさらに劣る場合がある。くわえて、共重合体の単量体成分として直鎖のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルの含有率が高いため、粘着剤層の比誘電率が高い場合がある。
【0009】
また、タッチパネルは、携帯電話、携帯情報端末などの画像表示部に組み込まれて使用される場合が多い。タッチパネルに使用される粘着シートが透明性に劣ると、輝度が低下するなどして視認性が低下する。
特許文献1に記載の粘着剤組成物は、粘着シートを形成した際の透明性について何ら検討されておらず、透明性に劣る場合があった。
【0010】
特許文献2に記載の粘着剤組成物は、比誘電率及び加工性について、一定の性能を有しているものの、近年の傾向としては、さらに低い比誘電率及びより優れた加工性が求められる。
【0011】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、比誘電率が低く、かつ、加工性及び透明性に優れる粘着剤層の形成に適したタッチパネル用粘着剤組成物、及び該粘着剤組成物の架橋物である粘着剤層を有するタッチパネル用粘着シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための具体的な手段には、以下の態様が含まれる。
<1> 炭素数が5〜9である分岐状のアルキル基を有するアルキルメタクリレートに由来する構成単位を全構成単位に対して60質量%以上及び、水酸基を有するモノマーに由来する構成単位を全構成単位に対して0.1質量%〜20質量%含み、かつ、ガラス転移温度(Tg)が−15℃以上である(メタ)アクリル系ポリマー100質量部と、
架橋剤0.1質量部〜3質量部と、
数平均分子量(Mn)が100〜700であるポリブテン5質量部〜70質量部と、を含むタッチパネル用粘着剤組成物。
【0013】
<2> 前記水酸基を有するモノマーを単独重合体としたときのガラス転移温度(Tg)は、10℃以上である<1>に記載のタッチパネル用粘着剤組成物。
【0014】
<3> 前記水酸基を有するモノマーに対する前記ポリブテンの配合比率が、質量基準で、0.5〜25である<1>又は<2>に記載のタッチパネル用粘着剤組成物。
【0015】
<4> 前記(メタ)アクリル系ポリマーの重量平均分子量(Mw)が40万〜300万である<1>〜<3>のいずれか1つに記載のタッチパネル用粘着剤組成物。
【0016】
<5> 前記(メタ)アクリル系ポリマーのガラス転移温度(Tg)は、−8℃以上である<1>〜<4>のいずれか1つに記載のタッチパネル用粘着剤組成物。
【0017】
<6> 前記(メタ)アクリル系ポリマーにおける窒素原子を有するモノマーに由来する構成単位の含有率が、全構成単位に対して0.05質量%以下である、<1>〜<5>のいずれか1つに記載のタッチパネル用粘着剤組成物。
【0018】
<7> さらに、ポリスチレンを、前記(メタ)アクリル系ポリマー100質量部に対して、0.1質量部〜20質量部含む、<1>〜<6>のいずれか1つに記載のタッチパネル用粘着剤組成物。
【0019】
<8> <1>〜<7>のいずれか1つに記載のタッチパネル用粘着剤組成物の架橋物である粘着剤層を有するタッチパネル用粘着シート。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、比誘電率が低く、かつ、加工性及び透明性に優れる粘着剤層の形成に適したタッチパネル用粘着剤組成物、及び該粘着剤組成物の架橋物である粘着剤層を有するタッチパネル用粘着シートが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の粘着剤組成物について詳細に説明する。なお、本発明において、数値範囲における「〜」は、「〜」の前後の数値を含むことを意味する。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本明細書において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合は、特に断らない限り、組成物中に存在する該複数の物質の合計量を意味する。
【0022】
本明細書において、(メタ)アクリル系ポリマーとは、少なくとも主成分である(メタ)アクリロイル基を有するモノマーが重合して形成されたポリマーを意味する。(メタ)アクリル系ポリマーにおける主成分とは、ポリマーを形成するモノマー成分の中で最も含有率(質量%)が多いことを意味する。例えば、(メタ)アクリル系ポリマーの場合、主成分となる(メタ)アクリロイル基を有するモノマーに由来する構成単位の含有率が全構成単位の50質量%以上であることをいう。
本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」及び「メタクリル」の少なくとも一方を意味し、「(メタ)アクリレート」は「アクリレート」及び「メタクリレート」の少なくとも一方を意味し、「(メタ)アクリロイル」は「アクリロイル」及び「メタクリロイル」の少なくとも一方を意味する。
【0023】
≪タッチパネル用粘着剤組成物≫
本発明のタッチパネル用粘着剤組成物(以下、単に「粘着剤組成物」ともいう。)は、炭素数が5〜9である分岐状のアルキル基を有するアルキルメタクリレートに由来する構成単位を全構成単位に対して60質量%以上及び、水酸基を有するモノマーに由来する構成単位を全構成単位に対して0.1質量%〜20質量%含み、かつ、ガラス転移温度(Tg)が−15℃以上である(メタ)アクリル系ポリマー(以下、「特定(メタ)アクリル系ポリマー」ともいう。)100質量部と、
架橋剤0.1質量部〜3質量部と、
数平均分子量(Mn)が100〜700であるポリブテン5質量部〜70質量部と、を含む。
本発明の粘着剤組成物は、必要に応じて、更に、上記で説明した成分以外の他の成分を含んでいてもよい。
【0024】
本発明の粘着剤組成物は、比誘電率が低く、かつ、加工性及び透明性に優れる粘着剤層を形成することが可能である。この理由は、明らかではないが、以下のように推測される。
【0025】
本発明の粘着剤組成物は、特定(メタ)アクリル系ポリマー100質量部と、架橋剤0.1質量部〜3質量部と、ポリブテン5質量部〜70質量部とを含む。
特定(メタ)アクリル系ポリマーに用いられる、炭素数が5〜9である分岐状のアルキル基を有するアルキルメタクリレートは、炭素数が同程度の直鎖状のアルキル基を有するアルキルアクリレートと比べて、モル体積が比較的大きく、かつ、双極子モーメントが比較的小さい傾向がある。本発明の粘着剤組成物に含まれる特定(メタ)アクリル系ポリマーも、同様に、モル体積が比較的大きく、かつ、双極子モーメントが比較的小さくなる傾向がある。そのため、本発明の粘着剤組成物より形成された粘着剤層は、比誘電率が低くなると推測される。
【0026】
本発明の粘着剤組成物に含まれる特定(メタ)アクリル系ポリマーは、水酸基を有するモノマーに由来する構成単位を含む。特定(メタ)アクリル系ポリマーは、水酸基を有するモノマーに由来する構成単位を全構成単位に対して0.1質量%以上含むので、架橋剤との架橋反応が適切に進行することが可能となる。そのため、本発明の粘着剤組成物より形成された粘着剤層に凝集力を付与することが可能となり、加工性に優れると推察される。また、特定(メタ)アクリル系ポリマーは、水酸基を有するモノマーに由来する構成単位の含有率が全構成単位に対して20質量%以下であるため、特定(メタ)アクリル系ポリマーの双極子モーメントが大きくなり過ぎず、本発明の粘着剤組成物より形成された粘着剤層の比誘電率を一定以下の値に保つことが可能である。
【0027】
特定(メタ)アクリル系ポリマーは、ガラス転移温度(Tg)が−15℃以上である。ガラス転移温度(Tg)が−15℃以上であると、本発明の粘着剤組成物より形成された粘着剤層に十分な凝集力を付与することが可能となり、加工性に優れると推察される。
【0028】
本発明の粘着剤組成物は、特定量の架橋剤を含む。特定(メタ)アクリル系ポリマー100質量部に対する架橋剤の含有量が0.1質量部以上であると、架橋剤と、特定(メタ)アクリル系ポリマー中に含まれる水酸基と、が反応して、架橋反応が適切に進行することが可能となる。これにより、粘着剤層に凝集力が付与され、加工性に優れると推察される。また、架橋剤の含有量が3質量部以下であるので、架橋剤による双極子モーメントの増加が少なく、粘着剤層全体での双極子モーメントが大きくなりすぎず、比誘電率が低くなると推察される。
【0029】
本発明の粘着剤組成物は、特定量のポリブテンを含む。ポリブテンは、炭化水素の分子構造を有するため、極性基を有するポリマーと比べて、比誘電率が低い傾向がある。ポリブテンの含有量が5質量部以上であると、本発明の粘着剤組成物は、比誘電率が低い粘着剤層を形成することが可能となる。ポリブテンの含有量が特定(メタ)アクリル系ポリマー100質量部に対して70質量部以下であると、粘着剤層が柔らかくなりすぎず、加工性を保つことが可能である。さらに、ポリブテンの数平均分子量(Mn)が特定範囲であり、かつ、含有量が70質量部以下であるため、粘着剤組成物において、ポリブテンと特定(メタ)アクリル系ポリマーとは適度に相溶することが可能となり、透明性に優れた粘着剤層が得られると推察される。
【0030】
このように、本発明の粘着剤組成物は、比誘電率が低く、かつ、加工性及び透明性に優れる粘着剤層の形成に適していると推察される。
以下、本発明の粘着剤組成物に用いられる各成分の詳細について説明する。
【0031】
<特定(メタ)アクリル系ポリマー>
本発明の粘着剤組成物に含まれる特定(メタ)アクリル系ポリマーは、炭素数が5〜9である分岐状のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(以下、「特定アルキルメタクリレート」ともいう。)に由来する構成単位を全構成単位に対して60質量%以上及び、水酸基を有するモノマーに由来する構成単位を全構成単位に対して0.1質量%〜20質量%含む。
すなわち、特定(メタ)アクリル系ポリマーは、少なくとも、特定アルキルメタクリレートと、水酸基を有するモノマーとを、共重合させて得ることができる。
【0032】
特定アルキルメタクリレートは、炭素数が5〜9である分岐状のアルキル基を有するアルキルメタクリレートである。
アルキル基の炭素数が5未満であるアルキル(メタ)アクリレートは、モル体積が小さく、かつ、双極子モーメントが大きい傾向がある。そのため、特定アルキルメタクリレートに替えて炭素数が5未満のアルキル(メタ)アクリレートを用いた粘着剤組成物は、比誘電率の低い粘着剤層を得ることが困難である。
また、アルキル基の炭素数が9を超えるアルキル(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリル系ポリマーとしたときの体積収縮率が大きい傾向があり、(メタ)アクリル系ポリマーのモル体積が小さくなる傾向があり、比誘電率が高くなる傾向がある。さらに、アルキル基の炭素数の増加に伴い、重合性が低下する傾向にあるため、分子量が大きい(メタ)アクリル系ポリマーを得ることが困難となり、(メタ)アクリル系ポリマーの凝集力が低くなり、加工性に劣る可能性がある。
このため、特定アルキルメタクリレートに替えて炭素数が9を超えるアルキル(メタ)アクリレートを用いた粘着剤組成物は、比誘電率が低く、かつ、加工性に優れる粘着剤層を形成することが困難となる。
比誘電率及び加工性の観点から、特定アルキルメタクリレートが有する分岐状のアルキル基の炭素数としては、7〜9が好ましい。
【0033】
特定アルキルメタクリレートの具体例としては、2−エチルヘキシルメタクリレート、イソペンチルメタクリレート、イソヘキシルメタクリレート、イソヘプチルメタクリレート、イソオクチルメタクリレート、イソノニルメタクリレート等が挙げられる。
これらの中でも、特定アルキルメタクリレートとしては、重合の際の体積収縮率が小さく、比誘電率をより向上できるため、2−エチルヘキシルメタクリレートが好ましい。
特定アルキルメタクリレートは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
特定アルキルメタクリレートに由来する構成単位の含有率は、特定(メタ)アクリル系ポリマーの全構成単位に対して、60質量%以上である。
特定アルキルメタクリレートに由来する構成単位の含有率が、60質量%未満であると、本発明の粘着剤組成物は、比誘電率の低い粘着剤層を得ることが困難となる。
比誘電率、加工性及び粘着力の観点から、特定アルキルメタクリレートに由来する構成単位の含有率としては、特定(メタ)アクリル系ポリマーの全構成単位に対して、80質量%以上が好ましく、85質量%以上がより好ましい。
耐湿熱白化性の観点から、特定アルキルメタクリレートに由来する構成単位の含有率としては、99質量%以下が好ましく、95質量%以下がより好ましい。
【0035】
本発明の粘着剤組成物に含まれる特定(メタ)アクリル系ポリマーは、水酸基を有するモノマーに由来する構成単位を有する。
特定(メタ)アクリル系ポリマーが水酸基を有するモノマーに由来する構成単位を有するため、後述する架橋剤との架橋反応が可能となる。また、本発明の粘着剤組成物より形成された粘着剤層は、架橋構造を有することで適度な硬さが付与され、加工性及び耐久性に優れる傾向がある。
【0036】
水酸基を有するモノマーとしては、上記の特定アルキルメタクリレートと重合可能であれば特に制限はなく、例えば、水酸基及びエチレン性不飽和結合基を有するモノマーが挙げられる。
水酸基を有するモノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−メチル−3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、1,3−ジメチル−3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2,2,4−トリメチル−3−ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、2−エチル−3−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール−プロピレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、アリルアルコール、メタリルアルコールが挙げられる。
【0037】
後述の架橋剤との反応性が良好な点から、水酸基を有するモノマーとしては、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、ヒドロキシアルキルメタクリレートがより好ましい。
【0038】
また、上記特定アルキルメタクリレートとの共重合性が良好である点、及び架橋剤との架橋反応が良好である点から、ヒドロキシアルキルメタクリレートとしては、炭素数が1〜5のヒドロキシアルキル基を有するヒドロキシアルキルメタクリレートが好ましく、炭素数が2〜4のヒドロキシアルキル基を有するヒドロキシアルキルメタクリレートがより好ましく、炭素数が2のヒドロキシエチル基を有する2−ヒドロキシエチルメタクリレートが更に好ましい。
なお、共重合性が良好なモノマーから形成された特定(メタ)アクリル系ポリマーは、ヘイズが少なく、透明性に優れる傾向がある。
水酸基を有するモノマーは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
本発明の粘着剤組成物に含まれる(メタ)アクリル系ポリマーにおいて、水酸基を有するモノマーに由来する構成単位の含有率は、特定(メタ)アクリル系ポリマーの全構成単位に対して、0.1質量%〜20質量%である。
水酸基を有するモノマーに由来する構成単位が、0.1質量%未満であると、後述する架橋剤と十分に反応することが困難となりやすく、粘着剤層を形成したときの凝集力が低く、加工性に劣る傾向がある。また、水酸基を有するモノマーに由来する構成単位が20質量%を超えると、(メタ)アクリル系ポリマーにおける水酸基の割合が高くなりすぎて、比誘電率の低い粘着剤層が得られにくい傾向がある。
凝集力が高く、加工性に優れ、かつ、比誘電率も低い粘着剤層を形成する観点から、水酸基を有するモノマーに由来する構成単位の含有率としては、特定(メタ)アクリル系ポリマーの全構成単位に対して、1質量%〜15質量%が好ましく、5質量%〜15質量%がより好ましく、8質量%〜12質量%が更に好ましい。
【0040】
本発明の粘着剤組成物に含まれる特定(メタ)アクリル系ポリマーは、上記特定メタクリレートに由来する構成単位及び水酸基を有するモノマーに由来する構成単位以外の、窒素原子を有するモノマーに由来する構成単位を含んでいてもよい。
本発明の粘着剤組成物に含まれる特定(メタ)アクリル系ポリマーが、窒素原子を有するモノマーに由来する構成単位を含むと、被着体に対する密着性が向上する傾向がある。
【0041】
窒素原子を有するモノマーとしては、共重合性が良好な観点から、窒素原子を有する(メタ)アクリル系モノマーが好ましい。
窒素原子を有する(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリロイルモルホリン、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−(ジメチルアミノ)プロピル(メタ)アクリルアミド、及びジアセトン(メタ)アクリルアミドが挙げられる。
【0042】
粘着剤組成物に含まれる特定(メタ)アクリル系ポリマーが窒素原子を有するモノマーに由来する構成単位を含む場合、該粘着剤組成物より形成された粘着剤層は、高温高湿環境下において、経時により黄変しやすい傾向がある。
そのため、本発明の粘着剤組成物に含まれる特定(メタ)アクリル系ポリマーが、窒素原子を有するモノマーに由来する構成単位を含む場合、窒素原子を有するモノマーに由来する構成単位の含有率としては、特定(メタ)アクリル系ポリマーの全構成単位に対して、0.05質量%以下が好ましく、0.01質量%以下がより好ましく、実質的に含まないことが更に好ましい。
なお、実質的に含まないとは、不可避的に混入した窒素原子を有するモノマーに由来する構成単位の存在を許容するが、意図して添加された窒素原子を有するモノマーに由来する構成単位の存在は許容されないことを意味する。
【0043】
特定(メタ)アクリル系ポリマーは、特定アルキルメタクリレートに由来する構成単位及び水酸基を有するモノマーに由来する構成単位に加えて、必要に応じて、その他のアルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位(以下、「他の構成単位」ともいう。)を含んでいてもよい。
他の構成単位としては、上記特定アルキルメタクリレート以外のアルキル(メタ)アクリレート(以下、「その他のアルキル(メタ)アクリレート」)に由来する構成単位、環状基を有するモノマーに由来する構成単位、酸性基を有するモノマーに由来する構成単位等が挙げられる。
【0044】
その他のアルキル(メタ)アクリレートとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n−オクチルアクリレート、イソオクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、n−ノニルアクリレート、イソノニルアクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0045】
特定(メタ)アクリル系ポリマーが、その他のアルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含む場合、その他のアルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位の含有率としては、比誘電率をより低くする観点から、特定(メタ)アクリル系ポリマーの全構成単位に対して、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下が更に好ましい。
【0046】
環状基を有するモノマーにおける環状基としては、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、環状の脂肪族炭化水素基等が挙げられる。
環状基を有するモノマーとしては、環状基を有する(メタ)アクリレート、環状基を有する(メタ)アクリルアミド、環状基を有するモノビニル化合物等が挙げられる。
【0047】
特定(メタ)アクリル系ポリマーが環状基を有するモノマーに由来する構成単位を含む場合、環状基を有するモノマーに由来する構成単位の含有率は、耐湿熱白化性の観点及び粘着力の観点から、特定(メタ)アクリル系ポリマーの全構成単位に対して、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましい。
【0048】
酸性基を有するモノマーにおける酸性基としては、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基などが挙げられる。これらの中でも、(メタ)アクリル系ポリマーと架橋剤との反応速度を制御する観点から、酸性基を有するモノマーにおける酸性基としては、カルボキシ基が好ましい。
【0049】
カルボキシ基を有するモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、ケイ皮酸等の不飽和カルボン酸、カルボキシエチルアクリレート(例えば、β−カルボキシエチルアクリレート)、カルボキシペンチルアクリレート等のカルボキシアルキルアクリレート、アクリル酸ダイマー、アクリル酸トリマー、無水イタコン酸、無水マレイン酸、無水フマル酸等の不飽和ジカルボン酸無水物などが挙げられる。
【0050】
特定(メタ)アクリル系ポリマーが酸性基を有するモノマーに由来する構成単位を含む場合、酸性基を有するモノマーに由来する構成単位の含有率は、特定(メタ)アクリル系ポリマーの全構成単位に対して、0.5質量%以下が好ましく、0.2質量%以下がより好ましく、実質的に含まないことが更に好ましい。
酸性基を有するモノマーに由来する構成単位の含有率が、上記範囲であると、粘着剤層が、例えば、タッチパネルの透明電極等の金属と接触する場合に、金属の腐食を抑制できるため、タッチパネル用途の粘着剤組成物として、より好適に使用できる。
なお、実質的に含まないとは、不可避的に混入した酸性基を有するモノマーに由来する構成単位の存在を許容するが、意図して添加された酸性基を有するモノマーに由来する構成単位の存在は許容されないことを意味する。
【0051】
本発明の粘着剤組成物に含まれる特定(メタ)アクリル系ポリマーのガラス転移温度(Tg)は、−15℃以上である。
特定(メタ)アクリル系ポリマーのガラス転移温度(Tg)が−15℃未満であると、粘着剤層の凝集力が低くなりすぎて、粘着剤層の加工性に劣る可能性がある。また、粘着剤層の耐久性及び粘着力にも劣る可能性がある。
粘着剤層の加工性、耐久性及び粘着力をより向上させる観点から、特定(メタ)アクリル系ポリマーのガラス転移温度(Tg)としては、−8℃以上が好ましく、−6℃以上がより好ましく、−2℃以上が更に好ましい。
また、粘着剤層の粘着力及び耐久性をより向上させる観点から、特定(メタ)アクリル系ポリマーのガラス転移温度(Tg)としては、30℃以下が好ましく、20℃以下がより好ましい。
【0052】
特定(メタ)アクリル系ポリマーのガラス転移温度(Tg)は、下記式の計算により求められるモル平均ガラス転移温度である。
1/Tg=m/Tg+m/Tg+・・・+m(k−1)/Tg(k−1)+m/Tg
・・・(式1)
式1中、Tg、Tg、・・・、Tg(k−1)、Tgは、特定(メタ)アクリル系ポリマーを構成する各モノマーを単独重合体としたときの絶対温度(K)で表されるガラス転移温度である。m、m、・・・、m(k−1)、mは、特定(メタ)アクリル系ポリマーを構成する各モノマーのモル分率をそれぞれ表し、m+m+・・・+m(k−1)+m=1である。
【0053】
なお、「単独重合体としたときの絶対温度(K)で表されるガラス転移温度」は、そのモノマーを単独で重合して製造した単独重合体の絶対温度(K)で表されるガラス転移温度をいう。単独重合体のガラス転移温度は、その単独重合体を、示差走査熱量測定装置(DSC)(セイコーインスツルメンツ株式会社製、EXSTAR6000)を用い、窒素気流中、測定試料10mg、昇温速度10℃/分の条件で測定を行い、得られたDSCカーブの変曲点を、単独重合体のガラス転移温度としたものである。
【0054】
代表的なモノマーの「単独重合体のセルシウス温度(℃)で表されるガラス転移温度」は、メチルアクリレートは5℃であり、メチルメタクリレートは103℃であり、エチルアクリレートは−27℃であり、n−ブチルアクリレートは−57℃であり、2−エチルヘキシルアクリレートは−76℃であり、2−エチルヘキシルメタクリレートは−10℃であり、n−ブチルメタクリレートは21℃であり、ラウリルメタクリレートは−65℃であり、2−ヒドロキシエチルメタクリレートは55℃であり、2−ヒドロキシエチルアクリレートは−15℃であり、4−ヒドロキシブチルアクリレートは−39℃であり、t−ブチルアクリレートは41℃であり、アクリル酸は163℃であり、メタクリル酸は185℃であり、ベンジルアクリレートは6℃であり、ベンジルメタクリレートは54℃であり、フェノキシエチルアクリレートは−22℃であり、フェノキシエチルメタクリレートは54℃であり、アクリルアミドは165℃である。
例えば、単独重合体のガラス転移温度が異なるモノマーを用いることで、特定(メタ)アクリル系ポリマーのガラス転移温度(Tg)を適宜調製できる。
なお、絶対温度(K)から273を引くことで絶対温度(K)をセルシウス温度(℃)に換算可能であり、セルシウス温度(℃)に273を足すことでセルシウス温度(℃)を絶対温度(K)に換算可能である。
【0055】
本発明の粘着剤組成物に含まれる特定(メタ)アクリル系ポリマーにおいて、水酸基を有するモノマーを単独重合体としたときのガラス転移温度(Tg)は、10℃以上であることが好ましい。
水酸基を有するモノマーを単独重合体としたときのガラス転移温度(Tg)が10℃以上であると、特定(メタ)アクリル系ポリマーのガラス転移温度(Tg)を高めることが可能となり、粘着剤層の加工性及び耐久性に優れる傾向がある。
水酸基を有するモノマーを単独重合体としたときのガラス転移温度(Tg)は、既述の単独重合体のガラス転移温度の測定方法により求めることができる。
【0056】
特定(メタ)アクリル系ポリマーの重量平均分子量(Mw)は、40万〜300万であることが好ましい。
特定(メタ)アクリル系ポリマーの重量平均分子量(Mw)が、40万以上であると、粘着剤層に十分な凝集力を付与することが可能となり、加工性に優れる傾向がある。また、特定(メタ)アクリル系ポリマーの重量平均分子量(Mw)が、300万以下であると、粘着剤組成物の製造が容易となる。
上記観点から、特定(メタ)アクリル系ポリマーの重量平均分子量(Mw)としては、40万〜80万がより好ましく、45万〜70万が更に好ましい。
【0057】
特定(メタ)アクリル系ポリマーの重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて下記(1)〜(3)に従って測定される値である。
【0058】
(1)特定(メタ)アクリル系ポリマーの溶液を剥離紙に塗布し、100℃で2分間乾燥させ、フィルム状の特定(メタ)アクリル系ポリマーを得る。
(2)上記(1)で得られたフィルム状の特定(メタ)アクリル系ポリマーをテトラヒドロフランに固形分0.2質量%となるように溶解させる。
(3)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、下記条件にて、標準ポリスチレン換算値として、特定(メタ)アクリル系ポリマーの重量平均分子量(Mw)を測定する。
【0059】
(条件)
GPC :HLC−8220 GPC(東ソー株式会社製)
カラム :TSK−GEL GMHXL 4本使用(東ソー株式会社製)
移動相溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
流速 :0.6mL/分
カラム温度:40℃
【0060】
特定(メタ)アクリル系ポリマーの製造方法は、特に限定されない。特定(メタ)アクリル系ポリマーは、炭素数が5〜9の分岐鎖アルキル基を有するアルキルメタクリレートと、水酸基を有するモノマーと、必要に応じて他のモノマーとを重合して製造することが可能である。
特定(メタ)アクリル系ポリマーの重合方法は、特に限定されず、通常用いられる重合方法から適宜選択できる。重合方法としては、溶液重合法、乳化重合法、懸濁重合法等が挙げられる。これらの中でも、重合方法としては、製造が比較的簡単に行えることから、溶液重合法が好ましい。
【0061】
溶液重合法では、一般に、重合槽内に所定の有機溶媒、モノマー、重合開始剤、及び必要に応じて連鎖移動剤を仕込み、窒素気流中、有機溶媒の還流温度で、撹拌しながら数時間加熱反応させる。この場合、有機溶媒、モノマー、重合開始剤及び連鎖移動剤の少なくとも一部を逐次添加してもよい。
【0062】
重合反応時に用いられる有機溶媒としては、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、n−プロピルベンゼン、t−ブチルベンゼン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、テトラリン、デカリン、芳香族ナフサ等の芳香族炭化水素類、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、n−デカン、ジペンテン、石油スピリット、石油ナフサ、テレピン油等の脂肪系又は脂環族系炭化水素類、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸n−アミル、酢酸2−ヒドロキシエチル、酢酸2−ブトキシエチル、酢酸3−メトキシブチル、安息香酸メチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチル−イソブチルケトン、イソホロン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等のケトン類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールエーテル類、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、s−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール等のアルコール類が挙げられる。
特定(メタ)アクリル系ポリマーの製造に際しては、エステル類、ケトン類等の重合反応中に連鎖移動を生じにくい有機溶媒の使用が好ましい。特定(メタ)アクリル系ポリマーの溶解性の観点及び重合反応の容易さの観点からは、有機溶媒としては、酢酸エチル及びメチルエチルケトンからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、酢酸エチルがより好ましい。
有機溶媒は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0063】
重合開始剤としては、通常の溶液重合法で用いられる有機過酸化物、アゾ化合物等を使用できる。
有機過酸化物としては、t−ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、ジクミルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、カプロイルペルオキシド、ジ−イソプロピルパーオキシジカルボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカルボネート、t−ブチルパーオキシピバレート、2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)ブタン、2,2−ビス(4,4−ジ−t−オクチルパーオキシシクロヘキシル)ブタンが挙げられる。
アゾ化合物としては、2,2’−アゾビス−イソブチルニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2’−アゾビス−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、1,1’−アゾビス−シクロヘキサン−1−カルボニトリル、2,2’−アゾビス(イソ酪酸メチル)等が挙げられる。
【0064】
特定(メタ)アクリル系ポリマーの製造に際しては、重合反応中にグラフト反応を起こさない重合開始剤の使用が好ましく、かかる観点から、アゾ化合物が好ましい。
【0065】
重合開始剤の使用量は、特定(メタ)アクリル系ポリマーを構成するモノマーの合計量100質量部に対して、0.01質量部〜2質量部が好ましく、0.1質量部〜1質量部がより好ましい。
【0066】
特定(メタ)アクリル系ポリマーを製造する重合温度としては、60℃〜100℃が好ましく、70℃〜95℃がより好ましく、80℃〜95℃が更に好ましい。
【0067】
なお、特定(メタ)アクリル系ポリマーの重量平均分子量(Mw)は、重合温度、時間、溶剤量、触媒の種類及び量、並びに重合開始剤の種類及び量によって容易に調節することが可能である。
【0068】
<架橋剤>
本発明の粘着剤組成物は、架橋剤を含む。
本発明の粘着剤組成物に含まれる架橋剤としては、特定(メタ)アクリル系ポリマーと反応して架橋構造を形成し得るものであれば、特に限定されない。
架橋剤としては、ポリイソシアネート化合物、ポリエポキシ化合物、ポリアジリジン化合物、メラミンホルムアルデヒド縮合物、金属キレート化合物等が挙げられる。これらの中でも、水酸基を有するモノマーとの反応性が良好である観点から、架橋剤としては、ポリイソシアネート化合物が好ましい。
【0069】
ポリイソシアネート化合物としては、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート化合物、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート化合物の水素添加物等の脂肪族又は脂環族ポリイソシアネート化合物などが挙げられる。
【0070】
また、上記ポリイソシアネート化合物の2量体又は3量体、上記ポリイソシアネート化合物とトリメチロールプロパン等のポリオール化合物とのアダクト体、上記イソシアネート化合物のビウレット体なども、ポリイソシアネート化合物として使用できる。
これらの中でも、ポリイソシアネート化合物としては、キシリレンジイソシアネートの2量体、3量体、及びアダクト体からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、キシリレンジイソシアネートのアダクト体が特に好ましい。
これらのポリイソシアネート化合物は、1種を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0071】
ポリイソシアネート化合物としては、「コロネート(登録商標)HX」、「コロネート(登録商標)HL−S」、「コロネート(登録商標)2234」「アクアネート(登録商標)200」、「アクアネート(登録商標)210」〔以上、東ソー株式会社製〕、「デスモジュール(登録商標)N3300」、「デスモジュール(登録商標)N3400」〔以上、コベストロ社製〕、「デュラネート(登録商標)E−405−80T」、「デュラネート(登録商標)24A−100」、「デュラネート(登録商標)TSE−100」〔以上、旭化成株式会社製〕、「タケネート(登録商標)D−110N」、「タケネート(登録商標)D−120N」、「タケネート(登録商標)M−631N」「MT−オレスター(登録商標)NP1200」〔以上、三井化学株式会社製〕の商品名により市販されているものを好適に使用できる。
【0072】
本発明の粘着剤組成物において、架橋剤の含有量は、特定(メタ)アクリル系ポリマー100質量部に対して、0.1質量部〜3質量部である。
架橋剤の含有量が0.1質量部未満であると、特定(メタ)アクリル系ポリマーと反応して十分な架橋構造を形成することが困難となり、加工性に優れる粘着剤層が得られにくい可能性がある。また、架橋剤の含有量が3質量部を超えると、架橋剤は、双極子モーメントが比較的大きいので、かかる架橋剤の割合が高くなりすぎてしまい、低い比誘電率の粘着剤層が得られにくい可能性がある。
上記観点から、架橋剤の含有量としては、特定(メタ)アクリル系ポリマー100質量部に対して、0.1質量部〜2質量部が好ましく、0.1質量部〜1質量部がより好ましい。
【0073】
<ポリブテン>
本発明の粘着剤組成物は、数平均分子量(Mn)が100〜700であるポリブテン(以下、「特定ポリブテン」ともいう。)を含む。
特定ポリブテンの数平均分子量(Mn)が100未満であると、ポリブテンが揮発しやすい傾向があり、比誘電率の低い粘着剤層が得られにくい可能性がある。特定ポリブテンの数平均分子量(Mn)が700を超えると、特定ポリブテンと特定(メタ)アクリル系ポリマーとの相溶性が低下し、粘着剤層を形成したときの透明性が劣る。
上記観点から、特定ポリブテンの数平均分子量(Mn)としては、200〜650が好ましく、300〜600がより好ましい。
特定ポリブテンは、1種を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
なお、特定ポリブテンの数平均分子量(Mn)は、蒸気圧式分子量測定法(VPO法)により測定される。
【0074】
本明細書において「ポリブテン」とは、ブテンに由来する構成単位の含有率が、全構成単位に対して50質量%である重合体を意味する。
ブテンに由来する構成単位の含有率としては、60質量%以上が好ましく、70質量%以上が好ましく、80質量%以上が更に好ましい。
ブテンとしては、1−ブテン、cis−2−ブテン、trans−2−ブテン、2−メチルプロペンが挙げられる。
本明細書におけるポリブテンは、ポリブテンの水素化物であってもよい。
【0075】
本発明の粘着剤組成物において、特定ポリブテンの含有量は、特定(メタ)アクリル系ポリマー100質量部に対して、5質量部〜70質量部である。
特定ポリブテンの含有量が5質量部未満であると、比誘電率の低い粘着剤層が得られにくい可能性がある。特定ポリブテンの含有量が70質量部を超えると、粘着剤層が柔らかくなりすぎる傾向があり、加工性に劣る可能性がある。また、特定(メタ)アクリル系ポリマーと十分に相溶することが困難となり、粘着剤層の透明性が劣る可能性がある。
上記観点から、特定ポリブテンの含有量としては、特定(メタ)アクリル系ポリマー100質量部に対して、7質量部〜60質量部が好ましく、10質量部〜50質量部がより好ましく、10質量部〜40質量部が更に好ましい。
【0076】
本発明の粘着剤組成物において、前記水酸基を有するモノマーに対する特定ポリブテンの配合比率は、質量基準で、0.5〜25であることが好ましい。
水酸基を有するモノマーに対する特定ポリブテンの配合比率が上記範囲であると、比誘電率が低く、かつ、加工性に優れる粘着剤層が得られやすい傾向がある。
上記観点から、水酸基を有するモノマーに対する特定ポリブテンの配合比率は、質量基準で、1.0〜10がより好ましく、1.0〜5.0が更に好ましい。
【0077】
<ポリスチレン>
本発明の粘着剤組成物は、さらに、ポリスチレンを含んでいてもよい。
本発明の粘着剤組成物がポリスチレンを含むと、比誘電率がより低い粘着剤層が得られやすい傾向がある。
本明細書において「ポリスチレン」とは、スチレン系モノマーに由来する構成単位の含有率が、全構成単位に対して50質量%である重合体を意味する。
スチレン系モノマーに由来する構成単位の含有率としては、60質量%以上が好ましく、70質量%以上が好ましく、80質量%以上が更に好ましい。
ポリスチレンとしては、例えば、スチレン系モノマーのホモポリマー、及び、スチレン系モノマーと、スチレン系モノマーと共重合可能なモノマーと、のポリマーが挙げられる。また、ポリスチレンとしては、これらのポリマーの水素化物が挙げられる。これらの中でも、相溶性の観点から、ポリスチレンとしては、スチレン系モノマーのホモポリマーが好ましい。
【0078】
スチレン系モノマーのホモポリマーを構成し得るスチレン系モノマーとしては、スチレン、アルキルスチレン(メチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、エチルスチレン、ジエチルスチレン、トリエチルスチレン、プロピルスチレン、ブチルスチレン、ヘキシルスチレン、オクチルスチレン等)、ハロゲン化スチレン(クロロスチレン、ブロモスチレン等)などのスチレン骨格を有するモノマーが挙げられる。
これらの中でも、スチレン系モノマーとしては、架橋剤と反応し得る官能基を有さず、かつ、入手が容易であるという観点から、スチレンが好ましい。
【0079】
ポリスチレンの重量平均分子量(Mw)は、200〜700が好ましい。ポリスチレンの重量平均分子量(Mw)が上記範囲であると、特定(メタ)アクリル系ポリマーとの相溶性がより良好となり、粘着剤層の透明性がより優れる傾向がある。上記観点から、ポリスチレンの重量平均分子量(Mw)としては、250〜600がより好ましく、300〜500が更に好ましい。
なお、ポリスチレンの重量平均分子量(Mw)は、既述の特定(メタ)アクリル系ポリマーの重量平均分子量(Mw)の測定方法と同様にして測定される。
【0080】
ポリスチレンは、市販品を使用してもよい。
市販品の例としては、イーストマンケミカル社製のPiccolastic A5(商品名、スチレンホモポリマー、重量平均分子量:350)、Regalrez 1018(商品名、スチレンホモポリマーの水素化物、重量平均分子量:350))等が挙げられる。
【0081】
本発明の粘着剤組成物がポリスチレンを含む場合、ポリスチレンの含有量としては、特定(メタ)アクリル系ポリマー100質量部に対して、0.1質量部〜20質量部が好ましい。ポリスチレンの含有量が上記範囲であると、比誘電率の低い粘着剤層が得られやすく、かつ、粘着剤層としたときの透明性がより優れる傾向がある。
上記観点から、ポリスチレンの含有量としては、特定(メタ)アクリル系ポリマー100質量部に対して、1質量部〜10質量部がより好ましく、3質量部〜8質量部が更に好ましい。
【0082】
本発明の粘着剤組成物は、さらに、可塑剤を含んでいてもよい。
可塑剤としては、例えば、フタル酸系可塑剤、アジピン酸系可塑剤、ブタジエン系可塑剤、イソプレン系可塑剤が挙げられる。
【0083】
フタル酸系可塑剤としては、例えば、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸イソブチル、フタル酸ジノルマルヘキシル、フタル酸ビス(2−エチルヘキシル)、フタル酸ビス(2−ノルマルヘキシル)、フタル酸ジノルマルオクチル、フタル酸ジイソノリル、フタル酸ジノニル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジウンデシル、フタル酸ビスブチルベンジルに代表されるフタル酸エステルが挙げられる。
【0084】
アジピン酸系可塑剤としては、例えば、アジピン酸ビス(2−エチルヘキシル)、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジイソデシルに代表されるアジピン酸エステルが挙げられる。
【0085】
ブタジエン系可塑剤としては、例えば、ポリブタジエン、両末端水酸基ポリブタジエン、水素化ポリブタジエン、両末端水酸基水素化ポリブタジエン、エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化水素化ポリブタジエンが挙げられる。
【0086】
イソプレン系可塑剤としては、例えば、ポリイソプレン、水素化ポリイソプレンが挙げられる。
【0087】
本発明の粘着剤組成物が可塑剤を含む場合、可塑剤の含有量としては、粘着剤層としたときの透明性をより向上させる観点から、特定(メタ)アクリル系ポリマー100質量部に対して、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましく、1質量部以下が更に好ましい。
また、本発明の粘着剤組成物は、粘着剤層としたときの透明性をより向上させる観点から、可塑剤を含まないことが特に好ましい。
【0088】
[タッチパネル用粘着シート]
本発明のタッチパネル用粘着シート(以下、単に「粘着シート」ともいう。)は、本発明の粘着剤組成物の架橋物である粘着剤層を有する。また、本発明の粘着シートが有する粘着剤層は、比誘電率が低く、かつ、加工性及び透明性に優れる。
【0089】
本発明の粘着シートは、基材を有しないタイプ(無基材タイプ)の粘着シートであってもよく、基材を有するタイプ(有基材タイプ)の粘着シートであってもよい。例えば、透明性の観点からは、本発明の粘着シートは、無基材タイプの粘着シートであることが好ましい。
【0090】
本発明の粘着シートが基材を有する場合、基材の材料としては、樹脂フィルム(例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステルフィルム)が挙げられる。
また、基材は、透明であることが好ましい。
基材の厚さは、特に限定されず、例えば、耐久性の観点からは、5μm〜100μmが好ましい。
【0091】
粘着剤層は、露出した面が剥離フィルムによって保護されていてもよい。
剥離フィルムは、粘着剤層からの剥離が容易に行なえるものであれば、特に限定されない。剥離フィルムとしては、例えば、少なくとも片面に剥離処理剤を用いた易剥離処理が施された樹脂フィルム(例えば、PET等のポリエステルフィルム)が挙げられる。
剥離処理剤としては、フッ素系樹脂、パラフィンワックス、シリコーン、長鎖アルキル基化合物等が挙げられる。
剥離フィルムは、粘着シートを実用に供するまでの間、粘着剤層の表面を保護し、使用時に剥離される。
【0092】
粘着剤層の厚さは、特に制限されるものではなく、用途、求められる性能等に応じて、適宜設定できる。粘着剤層の厚さは、段差追従性の観点及び粘着シートの生産性の観点から、例えば、20μm〜300μmの範囲に設定することが好ましい。
【0093】
粘着剤層は、本発明の粘着シートをタッチパネル構成部材の貼合、及び液晶ディスプレイ(LCD)とタッチパネルとの貼合に適用したときの視認性の観点から、透明性が高いことが好ましい。
【0094】
粘着剤層の透明性は、ヘイズ(JIS K 7136(2000年))により評価できる。
粘着剤層のヘイズは、本発明の粘着シートをタッチパネル構成部材の貼合、及び液晶ディスプレイ(LCD)とタッチパネルとの貼合に適用したときの視認性の観点から、2.0%未満が好ましく、1.0%未満がより好ましく、0.5%以下が更に好ましい。
【0095】
本発明のタッチパネル用粘着シートは、比誘電率が低く、かつ、加工性及び透明性に優れているため、例えば、ガラス基板、透明導電性フィルム、意匠フィルム、保護板などのタッチパネル構成部材の貼合に用いることができる。また、タッチパネル構成部材と液晶表示装置との貼合や、タッチパネルと液晶表示装置との貼合に用いることができる。
【0096】
[粘着シートの作製方法]
本発明の粘着シートの作製方法は、特に限定されない。本発明の粘着シートは、例えば、以下の方法によって作製することができる。
無基材タイプの粘着シートは、例えば、剥離フィルムの剥離処理面に粘着剤組成物を塗布し、乾燥させ、架橋反応を起こして粘着剤層を形成した後、この粘着剤層上に別の剥離フィルムを剥離処理面が接するように重ねることで作製できる。
有基材タイプの粘着シートは、例えば、基材の両面に粘着剤組成物を塗布し、架橋反応を起こして粘着剤層を形成した後、基材の両面に形成された粘着剤層上に、それぞれ剥離フィルムを剥離処理面が接するように重ねることで作製できる。
また、有基材タイプの粘着シートは、例えば、剥離フィルムの剥離処理面に粘着剤組成物を塗布し、乾燥させ、架橋反応を起こして粘着剤層を形成した後、得られた剥離フィルム付きの粘着剤層を基材の両面に重ねる方法によっても作製できる。
【0097】
剥離フィルム、基材等に粘着剤組成物を塗布する方法としては、グラビアロールコーター、リバースロールコーター、キスロールコーター、ディップロールコーター、バーコーター、ナイフコーター、スプレーコーター、ドクターブレード等を用いた公知の塗布方法が挙げられる。
【0098】
[タッチパネル]
本発明の粘着剤組成物又は粘着シートを用いたタッチパネルは、タッチパネル構成部材と、既述の本発明の粘着剤組成物で形成された粘着剤層を有する。例えば、一実施形態である静電容量方式のタッチパネルでは、透明導電性フィルム、意匠フィルム等が粘着剤層によって貼合され、積層した構成(例えば、透明導電性フィルム/粘着剤層/透明導電性フィルム/粘着剤層/意匠フィルム)となる。
また、タッチパネルは、例えば液晶ディスプレイ(LCD)などの表示装置に、粘着剤層によって貼合されていてもよい。
【0099】
本発明の粘着剤組成物で形成された粘着剤層は、上述したように、比誘電率が低く、加工性に優れる。かかる粘着剤層を有するタッチパネルは、動作時にタッチパネル内部の静電容量が適切な値に保たれるため、静電容量に起因する誤作動が抑制される。また、粘着剤層は、透明性に優れるため、視認性が良好となる。
【0100】
本発明の粘着剤組成物で形成された粘着剤層は、粘着力、及び耐久性にも優れる。かかる粘着剤層を有するタッチパネルは、落下等の衝撃を受けても構成部材が剥がれ難く、高温又は高温高湿環境下であっても剥がれや発泡などの不具合が生じ難い。
【実施例】
【0101】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0102】
(製造例1)
−(メタ)アクリル系ポリマーの製造−
攪拌機、還流冷却器、逐次滴下装置及び温度計を備えた反応装置に、酢酸エチル216質量部とアゾビスイソブチロニトリル0.075質量部とを仕込んだ。次いで、別の反応装置に特定アルキルメタクリレートとして2−エチルヘキシルメタクリレート(2EHMA)540質量部(全構成単位に対して90質量%)、水酸基を有するモノマーとして2−ヒドロキシエチルメタクリレート(2HEMA)60質量部(全構成単位に対して10質量%)からなるモノマー混合液600質量部を準備し、このうち180質量部を反応装置に仕込み、加熱し、還流温度で30分間還流を行った。次いで、還流温度条件下でモノマー混合液の残り420質量部、酢酸エチル12.5質量部及びアゾビスイソブチロニトリル0.017質量部を90分間にわたって逐次滴下し、滴下終了後、更に90分間の重合反応を行った。その後、酢酸エチル15質量部及びt−ブチルパーオキシピバレート0.13質量部の混合液を50分にわたって逐次滴下し、更に130分間重合反応を行った。
反応終了後、混合溶媒(酢酸エチル:トルエン=13:8(質量基準))にて固形分46質量%に希釈し、(メタ)アクリル系ポリマーの溶液を得た。
得られた(メタ)アクリル系ポリマーのモノマー組成(質量%)、ガラス転移温度(Tg)及び重量平均分子量(Mw)を表1に示す。
なお、ガラス転移温度(Tg)及び重量平均分子量(Mw)は既述の方法で測定又は計算したものである。
【0103】
(製造例2〜製造例15)
製造例1において、モノマーを表1に示すように変更し、開始剤の量などを適宜調製したこと以外は、製造例1と同様の方法により、製造例2〜製造例15の(メタ)アクリル系ポリマーの溶液を調製した。得られた(メタ)アクリル系ポリマーの溶液の固形分の組成(質量%)、ガラス転移温度(Tg)及び重量平均分子量(Mw)を表1に示す。
なお、ガラス転移温度(Tg)及び重量平均分子量(Mw)は既述の方法で測定又は計算したものである。
【0104】
(実施例1)
−粘着剤溶液の調製−
製造例1で得た(メタ)アクリル系ポリマーの溶液217.4質量部(固形分として100質量部)に対して、架橋剤としてD−110N(商品名:タケネートD−110N、三井化学株式会社製、m―キシレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体)を固形分として0.2質量部加えて、さらにポリブテン(商品名:ポリブテン0N、日油株式会社製、数平均分子量(Mn):370)を固形分として10質量部加えて、均一になるまで混合し、粘着剤溶液を調製した。
【0105】
−試験用サンプルの作製−
上記で調製した粘着剤溶液を、シリコーン系剥離処理剤で易剥離処理された剥離フィルム(商品名:フィルムバイナ100E、藤森工業株式会社製)の剥離処理面に、ドクターブレードを用いて、乾燥後の塗布層の厚みが50μmとなるように塗布した。
その後、剥離フィルムを100℃、2分間の乾燥条件で乾燥し、剥離フィルム上に塗布層を形成した。塗布層が露出した面を別途用意した剥離フィルム(商品名:フィルムバイナ25E、藤森工業株式会社製)に貼り合せ、無基材タイプの粘着シートを作製した。その後、作製した粘着シートを、温度23℃、50%RHの環境下で4日間養生して架橋反応を進行させ、架橋構造が形成された粘着剤層を有する試験用サンプルを得た。
【0106】
[評価]
上記で作製した各試験用サンプルについて、以下の方法に従って、比誘電率、加工性及び透明性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0107】
<比誘電率>
比誘電率測定サンプルは以下の手順により作製した。
(1) 上記で作製した試験用サンプルの一方の剥離フィルムを剥がし、粘着剤層と電解銅箔(古河電気工業株式会社製、箔厚:10μm、NC−WC(両面光沢)箔)とを貼り合せた。
(2) 新たに試験用サンプルを用意し、剥離フィルムの一方を剥がした。
(3) 電解銅箔を貼り合せた試験用サンプルの残りの剥離フィルムを剥がし、粘着剤層が露出した面と、(2)において用意した試験用サンプルの粘着剤層が露出した面と、を貼り合せた。
(4) 粘着剤層の厚みが200μmになるまで、上記(2)及び(3)の試験サンプルを貼り合わせる手順を繰り返した。
(5)粘着剤層が200μmの厚みになったところで、最後に貼り合せた試験用サンプルの剥離フィルムを剥がし、粘着剤層が露出した面に、(1)で用いた電解銅箔を貼り合せた。
(1)〜(5)の手順により得られた、2枚の電解銅箔の間に200μmの厚みの粘着剤層が積層されたサンプルを、50mm×50mmのサイズにカットして比誘電率測定サンプルとした。
【0108】
比誘電率の測定は、Agilent Technologies製マテリアル・アナライザ 4291Bを用いて以下の条件で行った。
【0109】
−測定条件−
測定治具:Agilent Technologies製Dielectric Test Fixture 16453A
測定周波数:1MHz
【0110】
粘着剤層の比誘電率は以下の基準で評価した。
−評価基準−
A:比誘電率が2.7以下であり、比誘電率が低く、良好である。
B:比誘電率が2.7を超えて3.0以下であり、許容範囲内である。
C:比誘電率が3.0を超え、実用上許容できない。
【0111】
<加工性>
粘着剤層の加工性は、JIS Z 0237(2009年)の保持力により評価(いわゆる、クリープ評価)した。具体的には、以下に記載する試験により評価した。
作製した試験用サンプルの一方の剥離フィルムを剥がし、粘着剤層が露出した面を、易接着処理されたPETフィルム(商品名:A−4100、厚さ:100μm、東洋紡株式会社製)の易接着処理された面に貼り合せた。このPETフィルムを貼り合わせた試験用サンプル(以下、「粘着シート」という。)を25mm×50mmのサイズに裁断した後、もう一方の剥離フィルムを剥がし、試験用サンプルの端から10mmまでがステンレス(以下、「SUS」ともいう。)板に接するように重ね、圧着して貼合し、加工性評価用サンプル(貼合面積:25mm×10mm)とした。
この加工性評価用サンプルを、23℃、50%RHの環境下において、SUS板が地面と法線方向、かつ、片面粘着シートの未貼合部分が下となるように保持し、片面粘着シートに1.0kgの荷重が加わるようにおもりをつるした。荷重を掛けてから、1時間後の片面粘着シートの移動距離を測定し、下記の評価基準に従って加工性を評価した。なお、片面粘着シートの移動距離が短いほど、粘着剤層の凝集力が高く、加工性(いわゆる、裁断加工性)が優れていることを示す。
【0112】
−評価基準−
A:粘着シートの移動距離が0.2mm未満である。
B:粘着シートの移動距離が0.2mm以上0.4mm未満である。
C:粘着シートの移動距離が0.4mm以上である。
【0113】
<粘着シートの透明性>
作製した試験用サンプルを80mm×60mmのサイズに裁断した。試験用サンプルの一方の剥離フィルムを剥がし、粘着剤層が露出した面を厚さ1.8mmのガラス板(光学ソーダガラス、サイズ:250mm×200mm、松浪硝子工業株式会社製)に重ね、卓上ラミネート機を用いて圧着し、透明性評価用サンプルとした。
【0114】
透明性評価用サンプル及び光学ソーダガラスについて、ヘイズ測定装置(機器名:ヘーズメーターNDH 5000SP、日本電色工業株式会社製)を用いて、それぞれヘイズ(単位:%)を測定した。
「透明性評価用サンプルのヘイズ」の値から「光学ソーダガラスのヘイズ」の値を引いた値を粘着剤層のヘイズ(シートヘイズ)とし、下記の評価基準に従って、粘着シートの透明性を評価した。なお、粘着剤層のヘイズ(シートヘイズ)が小さいほど、粘着シートの透明性が優れていることを示す。
【0115】
−評価基準−
A:粘着剤層のヘイズ(シートヘイズ)が0.5未満である。
B:粘着剤層のヘイズ(シートヘイズ)が0.5以上2.0未満である。
C:粘着剤層のヘイズ(シートヘイズ)が2.0以上である。
【0116】
(実施例2〜15及び比較例1〜15)
実施例2〜15及び比較例1〜15では、実施例1の組成を表1に示した組成に変更した以外は、実施例1と同様にして表1に示すような粘着剤溶液を調製した。調製した粘着剤溶液を用いて、実施例1と同様にして試験用サンプルを作製した。得られた試験用サンプルについて、実施例1と同様にしてそれぞれ評価を行った。結果を表1に示す。
【0117】
【表1】
【0118】
表1における略号は以下の通りである。なお、表1中の質量部数は、固形分換算値である。表1中の「−」は、該当の成分を含まないことを示す。また、モノマーの略号の下に、アルキル基の炭素数と、単独重合体としたときのガラス転移温度(Tg)を示す。
【0119】
・2EHA:2−エチルヘキシルアクリレート(炭素数が8である分岐状のアルキル基を有するアルキルアクリレート)
・2EHMA:2−エチルヘキシルメタクリレート(炭素数が8である分岐状のアルキル基を有するアルキルメタクリレート)
・nBMA:n−ブチルメタクリレート(炭素数が4である直鎖状のアルキル基を有するアルキルメタクリレート)
・LMA:ラウリルメタクリレート(炭素数が12である直鎖状のアルキル基を有するアルキルメタクリレート)
・2HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート(水酸基を有するモノマー)
・2HEA:2−ヒドロキシエチルアクリレート(水酸基を有するモノマー)
・AM:アクリルアミド(窒素原子を有するモノマー)
・D−110N:イソシアネート化合物(商品名:タケネートD−110N、三井化学株式会社製、m−キシレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体)
・0N:ポリブテン(商品名:日油ポリブテン0N、日油株式会社製、数平均分子量(Mn):370)
・015N:ポリブテン(商品名:日油ポリブテン015N、日油株式会社製、数平均分子量(Mn):580)
・30N:ポリブテン(商品名:日油ポリブテン30N、日油株式会社製、数平均分子量(Mn):1350)
・D643:可塑剤(商品名:D643、化学名:アジピン酸系ポリエステル、株式会社ジェイプラス製、分子量:約1800)
・ピコラスチックA5:ポリスチレン(商品名:ピコラスチックA5、イーストマンケミカル社製、重量平均分子量(Mw):350)
【0120】
炭素数が5〜9である分岐状のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(特定アルキルメタクリレート)に由来する構成単位を全構成単位に対して60質量%以上及び、水酸基を有するモノマーに由来する構成単位を全構成単位に対して0.1質量%〜20質量%含み、かつ、ガラス転移温度(Tg)が−15℃以上である(メタ)アクリル系ポリマー100質量部と、架橋剤0.1質量部〜3質量部と、数平均分子量(Mn)が100〜700であるポリブテン5質量部〜70質量部と、を含む実施例1〜15の粘着剤組成物の架橋物である粘着剤層は、比誘電率が低く、かつ、加工性及び透明性に優れていた。
特に、実施例1、2、7、9、11、13及び14の粘着剤組成物の架橋物である粘着剤層は、比誘電率が特に低く、かつ、加工性及び透明が非常に優れていた。
【0121】
これに対して、ポリブテンを含まない比較例1、ポリブテンの含有量が5質量部未満である比較例2の粘着剤組成物の架橋物である粘着剤層は、実施例と比べて比誘電率が高かった。ポリブテンの代わりに可塑剤を含む比較例5の架橋物である粘着剤層は、実施例と比べて比誘電率が高く、かつ、透明性が劣っていた。ポリブテンの含有量が70質量部を超える比較例3の粘着剤組成物の架橋物である粘着剤層は、加工性及び透明性に劣っていた。数平均分子量(Mn)が700を超えるポリブテンを含む比較例4の粘着剤組成物の架橋物である粘着剤層は、透明性に劣っていた。
【0122】
(メタ)アクリル系ポリマーのガラス転移温度(Tg)が−15℃未満である比較例9の粘着剤組成物の架橋物である粘着剤層は、加工性に劣っていた。
(メタ)アクリル系ポリマーにおける水酸基を有するモノマーに由来する構成単位の含有量が0.1質量部未満である比較例10の粘着剤組成物の架橋物である粘着剤層は、加工性に劣っていた。一方、(メタ)アクリル系ポリマーにおける水酸基を有するモノマーに由来する構成単位の含有量が全構成単位に対して20質量%を超える比較例11の粘着剤組成物の架橋物である粘着剤層は、実施例と比べて比誘電率が高かった。これは、極性基である水酸基が比誘電率を上げるためである。
【0123】
(メタ)アクリル系ポリマーにおける特定アルキルメタクリレートに由来する構成単位の含有量が全構成単位に対して60質量%未満である比較例6及び特定アルキルメタクリレートに替えて炭素数が4の直鎖状のアルキル基を有するアルキルメタクリレートに由来する構成単位の含有量を全構成単位に対して60質量%以上含む比較例7の粘着剤組成物の架橋物である粘着剤層は、実施例と比べて比誘電率が高かった。これは、特定アルキルメタクリレートに由来する構成単位の含有量が少なすぎて粘着剤層の比誘電率が高くなるためである。また、比較例7の粘着剤組成物の架橋物である粘着剤層は、透明性が劣っていた。
特定アルキルメタクリレートに替えて炭素数が12の直鎖状のアルキル基を有するアルキルメタクリレートに由来する構成単位の含有量を全構成単位に対して60質量%以上含み、ガラス転移温度(Tg)が−15℃未満である(メタ)アクリル系ポリマーを含む比較例8の粘着剤組成物の架橋物である粘着剤層は、実施例と比べて加工性に劣っていた。
架橋剤の含有量が0.1質量部未満である比較例12の粘着剤組成物の架橋物である粘着剤層は、加工性に劣っていた。これに対して、架橋剤の含有量が3質量部を超える比較例13の粘着剤組成物の架橋物である粘着剤層は、比誘電率が高く、かつ、透明性が劣っていた。
特定アルキルメタクリレートに由来する構成単位の含有量が全構成単位に対して60質量%未満であり、かつ、ガラス転移温度(Tg)が−15℃未満である(メタ)アクリル系ポリマーを含む比較例14及び15の粘着剤組成物の架橋物である粘着剤層は、加工性に劣っていた。
【0124】
以上より、本発明の粘着剤組成物の架橋物である粘着剤層は、比誘電率が低く、加工性及び透明性に優れる。