(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。尚、説明は以下の順序で行う。
1.実施の形態(選択的な素子部を移載する際のレーザアブレーション用の剥離層として、ガラス転移点と熱分解温度との差が150度以下となる樹脂を用いた電子デバイスの例)
・構成
・製造方法
・作用、効果
2.変形例1(複数の素子部を貼り合わせ後に剥離して移載する場合の例)
【0016】
<実施の形態>
[構成]
図1は、本開示の一実施の形態に係る電子デバイス(電子デバイス1)の構成を模式的に表したものである。
図2は、素子部10上に形態された樹脂層22aの構成を模式的に表したものである。電子デバイス1は、第1基板11上に、接着層12を介して複数の素子部10が配置されたものである。この電子デバイス1は、例えばLEDディスプレイなどの表示装置、または固体撮像装置などである。
【0017】
素子部10は、例えば発光素子を含んで構成されている。発光素子は、例えば赤(R),緑(G),青(B)のいずれかの色光を発する発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)チップが、保護膜によって覆われたものである。これらの素子部1
0は、例えば数μm以上数100μm以下程度の間隔をおいて配置されている。これらの素子部10は、第1基板11上に接着層12を介して配置されており、製造プロセスにおいて別基板(後述の第2基板21)から移載されたものである。尚、電子デバイス1が、固体撮像装置の場合には、素子部10は、フォトダイオードなどの受光素子(光電変換素子)を含んで構成されている。また、素子部10は、これらの発光素子および受光素子に限らず、他の様々な半導体素子を含んで構成されていてもよい。
【0018】
素子部10上には、
図2に示したように、少なくとも一部に樹脂層22aが形成されている。この樹脂層22aは、後述のレーザアブレーションによる剥離工程の後に素子部10上に形成されるものである(後述の剥離層22の一部を構成するものである)。樹脂層22aは、素子部10上の一部にのみ形成されていてもよいし、複数の素子部10のうちの選択的な素子部10にのみ形成されていてもよい。また、剥離後に、この樹脂層22aを除去する場合には、樹脂層22aが素子部10上に形成されていなくともよい。
【0019】
樹脂層22aは、ガラス転移点および熱分解温度を有すると共に、レーザ光を吸収することによって軟化、気体化またはプラズマ化する樹脂から構成されている。また、本明細書における「熱分解温度」とは、温度を徐々に上げていった場合に、樹脂の質量減少が開始する際の温度とする。この樹脂層22aに用いられる樹脂は、ガラス転移点と熱分解温度との差が150度(℃)以下となるものである。ガラス転移点と熱分解温度との差が150度以下となる樹脂としては、例えば以下の化1に示したカルド構造を有する高分子材料(カルド型樹脂)が挙げられる。カルド構造は、1つの炭素原子に4つの芳香環が結合した、ちょうつがいのような構造をもつものである。
【0021】
ここで、アブレーションでは、その加工性(あるいは転写性)が重視される。加工の際、樹脂がアブレーションされずにガラス転移点(軟化点)に達すると、その周囲に形成された樹脂などの層間膜(層間樹脂)にエネルギーが伝わり、この層間樹脂の軟化が誘発される。これは、形状異常(変形)あるいは転写時の剥離面との溶着等を引き起こす要因となる。そこで、本実施の形態では、このような形状異常や溶着を抑制するために、剥離層に用いられる樹脂のガラス転移点と熱分解温度との差を小さくする。具体的には、樹脂層22aの構成材料として、ガラス転移点と熱分解温度との差が150度以下となるような樹脂を選択する。150度程度であれば、周囲の層間樹脂として、ガラス転移点が150℃程度のものを選択することができる。つまり、樹脂層22a(
剥離層22)の周囲に配置される樹脂の選択肢を広くすることができ、材料選択の自由度を高めることができる。ガラス転移点と熱分解温度との差を150℃よりもさらに低くすることで、層間樹脂の材料選択の自由度をより高めることができる。
【0022】
また、樹脂層22aを構成する樹脂は、例えば側鎖に含まれる原子の酸化物、窒化物および炭化物における室温での蒸気圧が大気圧1013hPa以上であることが望ましい。つまり、樹脂層22aを構成する樹脂は、その酸化物、窒化物および炭化物における蒸気圧が大気圧よりも小さい原子または分子、具体的には室温で固体となる分子(例えばSiO
2など)を含まないことが望ましい。
【0023】
更に、この熱分解温度(例えば5%の質量減少が開始する際の温度)は、350度以下であることが望ましい。熱分解温度が低くなると、後述する活性化エネルギーが小さくなる傾向があるためである。このような樹脂層22aを構成する樹脂の一例としては、ガラス転移点が220度、熱分解温度が320度であるカルド型のアクリル樹脂が挙げられる。また、この他にも、ガラス転移点が高く、熱分解温度が低い傾向をもつ樹脂材料として、フルオレン誘導体が挙げられる。具体的には、フルオレン誘導体の基本構造(カルド構造)をもつフェノール、あるいはフルオレン誘導体のアクリレート等が挙げられる。
【0024】
第1基板11は、例えばインターポーザ等のプリント基板から構成されている。この第1基板11上には、素子部10の他にも素子部10の駆動用ICなどが配置されている。
【0025】
接着層12は、素子部10を第1基板11上に接着させるためのものである。この接着層12は、例えば錫(Sn)、銅(Cu)および銀(Ag)などを含む合金(半田)により構成されていてもよいし、樹脂などの接着剤により構成されていてもよい。
【0026】
[製造方法]
電子デバイス1は、例えば次のようにして形成することができる。
図3A〜
図7は、素子部10Aの形成方法を説明するための模式図である。
【0027】
まず、
図3Aに示したように、第2基板21上に、複数の素子部10(説明上、素子部10aと称する)をそれぞれ、剥離層22を介して形成する。剥離層22は、上記樹脂層22aと同様、レーザ光を吸収することによってアブレーションし気体化すると共に、ガラス転移点と熱分解温度との差が150度以下となる樹脂から構成されている。この剥離層22の膜厚は、例えば100nm以上5μm以下である。また、剥離層22は、より望ましくは、その酸化物、窒化物および炭化物の室温における蒸気圧が大気圧より小さい原子を含まずに構成され、熱分解温度は、例えば350度以下である。
【0028】
具体的には、まず、第1基板11とは別の第2基板21を用意し、この第2基板21上に剥離層22を形成した後、素子部10aを形成する。第2基板21は、レーザ光の波長を透過する材料(例えば石英)から構成されている。また、剥離層22の上に素子部10aを形成する(実装する)手法は、様々な手法があるが、一例としては、剥離層22の上に金属配線層をめっきにより形成し、めっき接合を用いて形成することができる。あるいは、素子部10aの裏面に半田用バンプを形成し、はんだ接合を用いて形成してもよい。また、剥離層22上に粘着層を形成し、接着してもよい。
【0029】
この後、第2基板21上に形成された各素子部10aを、例えば図示しない保護膜で覆い、モールドする。この保護膜は、素子部10aが発光素子(または受光素子)を含む場合は、発光(または受光)する光を透過する材料から構成される。あるいは、素子部10aが他の半導体素子を含む場合には、透湿度などの信頼性の観点から適切な材料が選択されればよい。
【0030】
続いて、各素子部10aを個々に分離する。分離方法としては、特に限定されないが、例えばフォトリソグラフィ法を用いたドライエッチングが挙げられる。これにより、例えば
図3Bに示したように、第2基板21上には、複数の素子部10aが、互いに分離されつつ2次元配置されて形成される。尚、
図3Aは、
図3B中のA−A線における矢視断面図に相当する。
【0031】
一方で、
図4に示したように、上述した第1基板11を用意し、この第1基板11上に接着層12を形成する。
【0032】
続いて、
図5Aに示したように、第1基板11(詳細には、接着層12)に対向させて、素子部10aを複数形成した第2基板21を配置する。この際、第1基板11と第2基板21との間に素子部10aが配されると共に、第1基板11と第2基板21とが(詳細には、接着層12と素子部10aとが)、離間して(間隙dを介して)配置されるように、第1基板11および第2基板21を向かい合わせて配置する。これらの第1基板11および第2基板21の少なくとも一方は、移動可能なステージに保持されており、上記所定の位置に固定されるように駆動される。
【0033】
これらの第1基板11および第2基板21が対向配置された状態で、例えば選択的な素子部10aに対応する領域D1においてのみ、剥離層22にレーザ光Lを照射する。レーザ光Lは、第2基板21の側から照射される。このレーザ光Lの波長としては、第2基板21を透過しつつ、剥離層22において選択的に吸収される波長が選択される。また、レーザ光Lは、領域D1内の剥離層22の全面に均一に照射されるように、照射径および出力強度等が設定される。レーザ光源としては、出力波長248nmのエキシマレーザ、または出力波長266nmのYAGレーザ等が挙げられる。
【0034】
これにより、
図5Bに示したように、領域D1内の剥離層22の一部または全部が気体化し(アブレーションされ)、この結果、領域D1内の素子部10aは、第2基板21から剥離され、直下にある接着層12の上に落下し、そのまま接着層12によって固定される。この後、第2基板21を第1基板11から離す。このように、剥離層22を用いたレーザアブレーションにより、第2基板21上から選択的な素子部10aを、第1基板11上に移載することができる(
図6)。ここで、素子部10aの剥離後、領域D1における剥離層22を構成する樹脂のうちの一部は気体化せず、固体のまま素子部10a上に残る(素子部10a上の少なくとも一部に樹脂層22aが形成される)。このレーザ照射後に素子部10上に形成された樹脂層22aは、例えばドライエッチングなどの処理を追加することにより、除去してもよい。尚、この第2基板21上に形成された素子部10aが、本開示の「第1素子部」の一具体例に相当する。
【0035】
この後、
図7に示したように、上記と同様にして、他の基板(第2基板21と同様に、複数の素子部10が形成された基板)から選択的な素子部10(説明上、素子部10bと称する)を剥離し、第1基板11上の領域D2に移載する。これにより、
図1に示した電子デバイスを完成する。
【0036】
[作用、効果]
本実施の形態では、電子デバイス1の製造プロセスにおいて、第1基板11上に素子部10を移載する際に、レーザアブレーションされる剥離層22が、ガラス転移点と熱分解温度との差が所定の温度以下となる樹脂により構成されている。このような構成により、次のような効果がある。
【0037】
ここで、本実施の形態の比較例として、CRC−8300(商品名:住友ベークライト株式会社製)をレーザアブレーションさせた場合のアブレーション後のチップ側面の写真について、
図8に示す。CRC−8300(商品名:住友ベークライト株式会社製)は、ガラス転移点が295度、熱分解温度が540度となるポリイミド系の感光性樹脂である。即ち、比較例で用いられる樹脂は、ガラス転移点と熱分解温度との差が245度であり、150度よりも大きい。また、本実施の形態の実施例として、ガラス転移点が220度、熱分解温度が320度であるカルド型のアクリル樹脂をレーザアブレーションさせた場合のアブレーション後のチップ側面の写真について、
図9に示す。比較例では、構造物周辺に屑が散乱し、付着していることがわかる。これに対し、実施例では、屑の付着がほとんど観察されなかった。
【0038】
このように、本実施の形態では、剥離層22(樹脂層22a)に、ガラス転移点と熱分解温度との差が所定の温度以下となる樹脂を用いることにより、レーザアブレーションによる剥離後の屑の発生を抑制することができる。これは、以下のような理由による。即ち、比較例において用いられたポリイミド系樹脂は、
図10Aに模式的に示したように、側鎖が複雑に形成された構造b100をもつことから、熱分解温度が高く(540度)、このためレーザ光のエネルギーによって樹脂が分解されにくい。この結果、樹脂の軟化(流体化)温度範囲が大きくなり、
図10Bに模式的に示したように、軟化した部分が固化して屑となり易い(b100a)。一方で、本実施の形態では、
図11Aに模式的に示したように、主鎖b11に嵩高い側鎖b12が付いたカルド型の構造b1をもつことから、熱分解温度が低い(320度)にも拘らず、耐熱性が高まる(ガラス転移点220度)。このためレーザ光のエネルギーによって樹脂が分解され易く、かつ樹脂の軟化温度範囲が小さくなる。この結果、
図11Bに模式的に示したように、軟化部分から生じる屑が少なくなる(b1a)。
【0039】
詳細には、以下のように説明することができる。即ち、樹脂の状態(相、形態)は、
図12に示したように、外部から与えられるエネルギーによって大きく変化する。具体的には、室温で固体である樹脂は、外部から光あるいは熱等により投入されるエネルギーに応じて、固体a1、流体(液体)a2および気体a3の順に変化する。ここで、気体a3は、樹脂が分解された状態、具体的には樹脂の側鎖が外部からのエネルギーにより切断され、大気中の酸素等と反応し、二酸化炭素等のガスに変化した状態を意味する。樹脂が流体a2から気体a3に変化する境界は、活性化エネルギーEaによって決まる。つまり、外部から投入されるエネルギーが、活性化エネルギーEaよりも大きい場合は、樹脂が気体化する確率が高くなり、流体a2ないし固体a1の状態のままでいる確率が小さくなる。尚、図中のEtgは、ガラス転移点に達するエネルギーを、Epは、プラズマ状態に達するエネルギーを、それぞれ表している。
【0040】
このような樹脂の状態変化において、気体化を促進したい場合は、熱分解温度そのものと、ガラス転移点と熱分解温度の差とが物性パラメータとして重要である。理由としては、以下の2点が挙げられる。即ち、
図13に示した比較例のように、熱分解温度とガラス転移点との差が大きい場合には、活性化エネルギーEaが大きいことから、外部から投入されたエネルギーEbによって樹脂の状態変化が起こる際に、流体a2となる確率が高い(
図13中のSp1)。また、プラズマ状態となる可能性は非常に低くなる(
図13中のSp2)。この流体状態の樹脂がアブレーションによって周囲に飛び散ると、周辺構造物に付着し、外気で冷やされ再び固体a1に戻る。このようにして付着し、固体化した樹脂は、下地と密着性が非常に高く、洗浄等で取り除くことが困難である。
【0041】
これに対し、本実施の形態では、熱分解温度とガラス転移点との差が小さいことから、
図14に示したように、活性化エネルギーEaが比較例よりも小さくなる。これにより、外部から投入されたエネルギーEbによって樹脂の状態変化が起こる際に、流体a2となる確率が低くなる(
図14中のSp1)。また、気体化してプラズマ状態となる可能性は高くなる(
図14中のSp2)。この結果、レーザアブレーションによって樹脂がプラズマ化し、大気中の酸素等と反応し易くなることから、ガス化が促進される。よって、レーザアブレーションの際に、上記比較例のような流体状態の樹脂の飛散物を減らし、周辺構造物に屑として固着することを抑制できる。
【0042】
また、本実施の形態では、上記のような剥離層22(樹脂層22a)を構成する樹脂が、例えば側鎖に含まれる原子の酸化物、窒化物および炭化物における蒸気圧が大気圧以上であることが望ましい。つまり、樹脂層22aを構成する樹脂は、その酸化物、窒化物および炭化物が室温および大気圧環境下において固体となる原子を含まないことが望ましい。仮に、樹脂中に、シリコン(Si)等の原子を含む場合、活性化エネルギー以上の外部エネルギーの投入により、Siが樹脂の側鎖から切り離され、大気中の酸素、窒素等と反応する。これにより、酸化物(SiO
2)あるいは窒化物(SiN)等が生成される。これらの化合物は、蒸気圧が低いため、ガス化せずに、周囲に高温状態のまま飛散し、更に周囲に浮遊する分解されたC等を取り込みながら周辺構造物に付着する。このような付着物の密着性は高く、除去が困難である。したがって、樹脂がこのような蒸気圧が低い酸化物、窒化物および炭化物を生成する原子を構成原子として含まない(樹脂に含まれる原子の酸化物、窒化物および炭化物の蒸気圧が高い)ことで、樹脂の構成要素のうちの大部分をガス化することが可能となる。
【0043】
以上説明したように、本実施の形態の電子デバイスの製造方法では、第1基板11上に複数の素子部10を第2基板21から移載する際、第2基板21上に剥離層22を介して素子部10(10a)を形成し、剥離層22へのレーザ照射によって第2基板21から素子部10(10a)を剥離する。このように剥離層22を用いたレーザアブレーションにより、第2基板21上から選択的な素子部10(10a)を第1基板11上に移載する。ここで、剥離層22に、ガラス転移点と熱分解温度との差が150度以下である樹脂を用いることにより、アブレーション時の樹脂の軟化を抑制することができる。軟化した樹脂が飛散し、屑となって固着することを抑制することができる。よって、信頼性の低下を抑制することが可能となる。
【0044】
<変形例1>
上記実施の形態では、第1基板11上の複数の素子部10のうちの選択的な素子部10(10a)を他の基板(第2基板21)から移載する手法について述べたが、上述したような樹脂を用いたレーザアブレーションは、他のプロセスにも適用することができる。例えば、本変形例のように、素子部10を貼り合わせ後に剥離して移載する際の剥離層に上述した樹脂が用いられてもよい。尚、上記実施の形態と同様の構成要素については同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0045】
具体的には、
図15Aに示したように、まず第2基板21上に剥離層22を介して、素子部10を形成する。素子部10の形成手法は、上記実施の形態と同様、めっき接合、はんだ接合または接着等、様々な手法を用いることができる。尚、本変形例では、剥離層22を素子部10毎に形成してもよいし、第2基板21の全面に形成してもよい。
【0046】
続いて、
図15Bに示したように、第1基板11(詳細には、接着層12)と、素子部10を複数形成した第2基板21とを貼り合わせる。この際、第1基板11と第2基板21との間に素子部10が配されるように、第1基板11および第2基板21を向かい合わせて貼り合わせる。これらの第1基板11および第2基板21の少なくとも一方は、移動可能なステージに保持されており、上記所定の位置に固定されるように駆動される。
【0047】
第1基板11および第2基板21が貼り合わせられた状態で、剥離層22にレーザ光Lを照射する。レーザ光Lは、第2基板21の側から照射される。このレーザ光Lの波長としては、第2基板21を透過しつつ、剥離層22において選択的に吸収される波長が選択される。また、レーザ光Lは、剥離層22の全面に均一に照射されるように、照射径および出力強度等が設定される。
【0048】
これにより、
図15Cに示したように、剥離層22の一部または全部が気体化し(アブレーションされ)、この結果、複数の素子部10は、第2基板21から剥離され、直下にある接着層12の上に落下し、そのまま接着層12によって固定される。この後、第2基板21を第1基板11から離す。このように、剥離層22を用いたレーザアブレーションにより、第2基板21上から複数の素子部10を、第1基板11上に移載することができる。ここで、素子部10の剥離後、剥離層22を構成する樹脂のうちの一部は気体化せず、固体のまま素子部10a上に残る(素子部10a上の少なくとも一部に樹脂層22aが形成される)。この樹脂層22aは、上記実施の形態と同様、除去してもよい。
【0049】
本変形例のように、基板貼り合わせ後のレーザアブレーションにより素子部10を剥離する場合にも、剥離層22に、上記実施の形態と同様の樹脂を用いることで、アブレーション時の樹脂の相変化の際に、軟化を抑制することができる。よって、上記実施の形態と同等の効果を得ることができる。
【0050】
以上、実施の形態および変形例を挙げて説明したが、本開示はこれらの実施の形態等に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、上記実施の形態では、第1基板11上に素子部10が複数配置される場合を例示したが、素子部10が1つであっても構わない。
【0051】
また、上記実施の形態等では、素子部10が発光素子または受光素子を含む場合を例に挙げて説明したが、本開示の素子部は、これらの発光素子等に限らず、他の半導体素子を含むものであってもよい。例えば、半導体素子としては、薄膜トランジスタおよび抵抗素子などが挙げられる。また、半導体素子の他にも、配線などの導電膜を含むものであってもよい。例えば、配線(導電膜)のパターンを、レーザアブレーションによって転写形成する場合等の剥離層に、本開示の樹脂を用いることができる。
【0052】
更に、上記実施の形態等では、電子デバイスの製造プロセスにおいて、素子部を移載する際のレーザアブレーションを例に挙げたが、本開示の樹脂を用いたレーザアブレーションは、他のプロセスにも適用可能である。例えば、下地が樹脂で構成されている配線基板においてレーザアブレーションによりトリミングを行う際の、下地の樹脂として、本開示の樹脂を用いてもよい。また、レーザアブレーションによる樹脂のダイレクトパターニングを行う場合や、その他レーザを用いて樹脂を加工するプロセスにおいて広く適用することが可能である。
【0053】
加えて、上記実施の形態等において、アブレーションの際のレーザ出力、波長およびパルス間隔等を変更し、投入パワーを上げる等、上記のような樹脂の選定と、レーザ光の照射条件の設定と組み合わせることにより、より屑の発生を低減することが可能である。例えば、フェムト秒レーザを用いてパルス間隔を調整することで、プラズマ化を効果的に促進することができる。
【0054】
尚、本開示内容は以下のような構成であってもよい。
(1)
第1基板上に配置された1または複数の素子部と、
各素子部上の少なくとも一部に形成された樹脂層と
を備え、
前記樹脂層は、ガラス転移点と熱分解温度との差が150度以下である樹脂から構成されている
電子デバイス。
(2)
前記樹脂に含まれる原子は、その酸化物、窒化物および炭化物における蒸気圧が大気圧以上である
上記(1)に記載の電子デバイス。
(3)
前記熱分解温度は350度以下である
上記(1)または(2)に記載の電子デバイス。
(4)
前記樹脂は、カルド構造をもつ高分子材料である
上記(1)ないし(3)のいずれか1つに記載の電子デバイス。
(5)
前記素子部が前記第1基板上に複数配置され、
前記素子部は発光素子または受光素子を含む
上記(1)ないし(4)のいずれか1つに記載の電子デバイス。
(6)
前記素子部は導電膜である
上記(1)ないし(5)のいずれか1つに記載の電子デバイス。
(7)
第1基板上に1または複数の素子部を第2基板から移載する際に、
前記1または複数の素子部のうちの一部または全部の素子部を、第2基板上に樹脂層を介して形成し、
前記第2基板上に形成された素子部を、前記樹脂層へのレーザ照射により前記第2基板から剥離して前記第1基板上に配置し、かつ
前記樹脂層として、ガラス転移点と熱分解温度との差が150度以下である樹脂を用いた
電子デバイスの製造方法。
(8)
前記樹脂に含まれる原子は、その酸化物、窒化物および炭化物における蒸気圧が大気圧
以上である
上記(7)に記載の電子デバイスの製造方法。
(9)
前記熱分解温度は350度以下である
上記(7)または(8)に記載の電子デバイスの製造方法。
(10)
前記複数の素子部のうちの一部の素子部に相当する第1素子部が、前記第2基板上に前記樹脂層を介して複数形成され、
前記第1素子部が複数形成された第2基板が、前記第1素子部を間にして前記第1基板に対向して配置され、
前記第2基板が前記第1基板に対向配置された後、前記複数の第1素子部のうちの選択的な第1素子部に対応する領域においてレーザ光が前記樹脂層に照射される
上記(7)ないし(9)のいずれか1つに記載の電子デバイスの製造方法。
(11)
前記レーザ光の照射後、前記第1素子部の上に形成された樹脂層を除去する
上記(10)に記載の電子デバイスの製造方法。
(12)
前記複数の素子部が、前記第2基板上に樹脂層を介して形成され、
前記複数の素子部が形成された第2基板が、前記複数の素子部を間にして前記第1基板に貼り合わせられ、
前記第2基板が前記第1基板に貼り合わせられた後、レーザ光が前記樹脂層に照射される
上記(7)ないし(11)のいずれか1つに記載の電子デバイスの製造方法。
(13)
前記レーザ光の照射後、前記素子部の上に形成された樹脂層を除去する
上記(12)に記載の電子デバイスの製造方法。
(14)
前記樹脂は、カルド構造をもつ高分子材料である
上記(7)ないし(13)のいずれか1つに記載の電子デバイスの製造方法。
(15)
前記素子部は発光素子または受光素子を含む
上記(7)ないし(14)のいずれか1つ記載の電子デバイスの製造方法。
(16)
前記素子部は導電膜である
上記(7)ないし(15)のいずれか1つに記載の電子デバイスの製造方法。
【0055】
本出願は、日本国特許庁において2015年3月30日に出願された日本特許出願番号第2015−069261号を基礎として優先権を主張するものであり、この出願のすべての内容を参照によって本出願に援用する。
【0056】
当業者であれば、設計上の要件や他の要因に応じて、種々の修正、コンビネーション、サブコンビネーション、および変更を想到し得るが、それらは添付の請求の範囲やその均等物の範囲に含まれるものであることが理解される。