【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明の上記の課題は、主請求項の特徴を持つ製造方法、並びに副請求項に従う該製造方法の製造物によって解消される。該方法の及びその方法で製造された製造物の有利な形態はそれらを引用する請求項に記載される。
【0026】
本発明の対象は、大規模に簡単かつ費用効果高く実施でき、高い相純度を有し、そして簡単に焼結できるかまたは理論密度の95%超まで緻密化できる、リチウム−チタンホスフェートをベースとする材料を製造するための製造方法である。この方法で製造されたリチウム−チタンホスフェートベースの材料は、それの高いリチウムイオン伝導度の故に、リチウム電池またはLi/空気電池またはリチウムイオン蓄電池中に固形電解質として使用するのに特に適している。
【0027】
この際、本発明に従い製造された材料は以下の組成を有する:Li
1+x+yM
xTi
2−x(PO
4)
3−y(SiO
4)
y、式中、Mは、Al、Ga、In、Sc、V、Cr、Mn、Co、Fe、Y、La−Luであり、0≦x≦0.5であり、並びに0≦y≦0.5である。
【0028】
本発明は、相純粋でかつ簡単に焼結可能な、リチウム−チタンホスフェートをベースとする材料を製造するために、簡単で費用効果高くかつ簡単に制御可能な方法(合成)を開示するものである。純粋な非置換リチウム−チタンホスフェート(LiTi
2(PO
4)
3)の他に、チタンが、Al、Ga、In、Sc、V、Cr、Mn、Co、Fe、Y、La−Luなどの遷移金属によって少なくとも部分的に置き換えられている化合物も包含される。この際、La−Luという名称は、原子番号57〜71の元素のこ
とである。更に、ホスフェートが部分的にシリケートに置き換えられている化合物も包含される。上記の置換は、代替的にまたは累積的にも起こり得る。
【0029】
本発明による材料は、簡単にかつ圧力で援助したか焼をせずに、高密度の部材に緻密化できるという有利な特性を有する。
【0030】
本発明による方法は、先ずリチウムイオン、チタンイオン及び場合により更に別のイオンから水溶液中でゾルを提供し、これが、ホスフェートイオンを添加するとゲルに変換されるという、それ自体既知のゾルゲル法に基づくものである。
【0031】
ゾルは、コロイドの特殊なケースである。コロイドとは、固形、液状またはガス状の分散媒体中に微細に分散して存在している粒子または液滴のことである。この際、個々の粒子または液滴の大きさは、典型的にはナノメータ範囲またはマイクロメータの範囲である。ゾルとは、第一の成分がスポンジ状の三次元網状構造を形成し、それの細孔が、更に別の成分、特に溶剤で満たされている単層系のことである。ゾルは縮合によってゲルに変換でき、そしてこのゲルは、それを加水分解によって再びゾルに転化できる。
【0032】
本発明の枠内において、ゾルとは、連続的相転移の枠内で粘弾性固体(ゲル)に変換し得るポリマー溶液のことである。ゲルでは、溶剤中での合成の時に溶剤を取り込んで三次元網状構造を形成するか、または既に存在する網状構造が溶剤を取り込んで膨潤する、第一の成分からなる三次元網状構造が存在する。ゲルは、網状構造がそれの外形を維持し、そして弾性の特性を有することを特徴とする。
【0033】
本発明に従い製造された粉体は、以下の一般式Li
1+x+yM
xTi
2−x(PO
4)
3−y(SiO
4)
y(式中、Mは、Al、Ga、In、Sc、V、Cr、Mn、Co、Fe、Y、La−Luであり、0≦x≦0.5であり、並びに0≦y≦0.5である)を有する組成を持つ。
【0034】
リチウムが部分的にMで置換されて存在するリチウム−チタンホスフェート(LTP)をベースとする化合物は、以下ではLMTPとも略す。
【0035】
ホスフェートが部分的にシリケートで置換されて存在するリチウム−チタンホスフェート(LTP)をベースとする化合物は、以下ではLTPSとも略す。
【0036】
リチウムが部分的にMで置換されているだけでなく、ホスフェートも部分的にシリケートで置換されて存在するLTPベースの化合物は、以下ではLMTPSとも略す。
【0037】
本発明では、LTP、LMTP、LTPSまたはLMTPS粉体の製造のための方法では、低廉な原料を使用でき、そして該方法自体は、簡単な実験質装置を用いて行われる。該方法は、例えば10g〜1000gの収量を持つ実験室規模から簡単に、数トンの収量を有する工業用途のために規模拡大することもできる。
【0038】
原料としては、酸性水溶液を仕込む。本発明では、第一のプロセスステップとしては、安定なTiO
2+硝酸塩溶液を用意する。
【0039】
TiO
2+は、既知のように、好ましくは長い(TiO)
n2n+鎖を形成し、そして錯体チタン水酸化物−酸化物自体は、極めて酸性の条件下では沈殿するため、比較的安定な溶液の調製は簡単ではない。
【0040】
本発明は、第一の本質的なプロセスステップにおいて安定なTiO
2+溶液を提供することによってこの問題を解決する。このためには、先ず、チタン(IV)イソプロポキシドを、十分な量の蒸留水に加える。イソプロパノール中にチタン水酸化物−酸化物沈殿物(TiO
2*nH
2O)が直ぐに形成する。
【0041】
新鮮な沈殿物は、硝酸を用いて簡単に再び溶解できる。新鮮とは、短時間のみ、すなわち数時間のみ空気に曝される沈殿物のことを言う。
【0042】
本発明の枠内において、チタン水酸化物−酸化物沈殿物が室温において短時間のうちに再び首尾良く溶液にできることが特色である。チタン水酸化物−酸化物沈殿物が再び新たに速やかに形成し、これが、存在する硝酸によってもはや溶解し得ないことが判明した。これが既に再度、溶液にされそして再び沈殿した沈殿物はもはや溶解し得ないこと、及び初回の(新鮮な)沈殿物が、所定の時間後に、前の段落に説明したように通常はもはや溶解し得ないことを意味する。
【0043】
この際、沈殿プロセスは、いつ溶液からゾルが生じるかの正確な時点を決定するのが当業者にすら困難であるように連続的に進行する。
【0044】
本発明では、硝酸中への新鮮なチタン水酸化物−酸化物沈殿物の溶解は、本発明に従い、0と10℃との間の低温、有利には0と8℃との間の温度で行われる。この際、pH値は0〜1の範囲である。この場合、チタン水酸化物−酸化物沈殿物の転移プロセスは、通常10〜20日間の時間に延長できる。
【0045】
この時間の間に、すなわちTiO
2+硝酸塩溶液が存在する間に、ポリカルボン酸、例えばクエン酸が加えられる。この状態において、次いで安定した水性の系が形成し、これは、室温においても、更に改質せずとも、比較的長い時間、すなわち20日間超の時間でも保存することができる。中でも、TiO
2+の二倍モル量のクエン酸の添加が、前述の効果を達成するために全く十分であることが判明した。クエン酸の他は、例えば少なくとも二つのカルボン酸を持つ他のポリカルボン酸、例えばシュウ酸、フマル酸または更には酒石酸も適している。
【0046】
次いで、この本発明による安定したTiO
2+硝酸塩溶液をベースとして、純粋または置換リチウム−チタンホスフェートのどちらを得るべきかに依存して、リチウム及びMの所望の化学理論量のための然るべき量の塩の添加を行うことができる。
【0047】
リチウム及び遷移金属Mは、例えば、硝酸塩、酢酸塩または炭酸塩として上記の水性系に加えることができる。更に、LiまたはMの適当な酸化物を、前もって硝酸に溶解することもできる。原則的には、後段のか焼プロセスによって分解され得、かつ不純物を水性系中に残さないものであれば、所望の元素(Li、Al、Ga、In、Sc、V、Cr、Mn、Co、Fe、Y、La−Lu)の任意の可溶性の塩または任意の酸を使用できる。
【0048】
ホスフェート基を形成するためには、一般的にリン酸及び/またはリン酸二水素アンモニウムが加えられる。
【0049】
リン酸及び/またはリン酸二水素アンモニウムの添加の際には、新鮮に形成したTiO
2+硝酸塩溶液を直ぐに更に処理する時には、クエン酸を予め添加することも有意義であることが判明した。クエン酸を添加しない場合は、TiO
2+硝酸塩溶液中に自然発生的に沈殿物が生じるかもしれない。加えて、ゾル中には、後で所望の特性を持たない比較的大きな粒子が形成するかもしれない。
【0050】
ホスフェート基の部分的な置換のためには、例えば、可溶性のシリケートまたはオルトシリケート酸もしくはオルトシリケート酸のアルキルエステルの然るべき量での添加が考慮される。しかし、この添加は、常に、リン酸及び/またはリン酸二水素アンモニウムの添加の前に行われる。
【0051】
この本発明による方法の格別な利点の一つは、様々な適当な出発材料を使用できる点にある。例えば、US6,475,677B1(特許文献1)には、NH
4H
2PO
4、Al(PO
3)
3、LiCO
3、SiO
2及びTiO
2が出発材料として具体的に開示されている。US20120295168A1(特許文献2)では、アナターゼ変態のTiO
2、LiOH、Al(OH)
3、並びにオルトリン酸を必ず使用しなければならない。
【0052】
本発明では、−TiO
2+溶液を調製する時に−、例えば硝酸塩、酢酸塩、炭酸塩または水酸化物または類似物の形のLi、Al、Ga、In、Sc、V、Cr、Mn、Co、Fe、Y及びLa−Luの元素の全ての可溶性の塩または酸を有利に使用できる。加えて、オルトケイ酸、ケイ酸テトラエチルエステル(TEOS)または他の有機系ケイ素源、並びにNH
4H
2PO
4、(NH
4)
2HPO
4をまたはH
3PO
4をも使用することができる。
【0053】
使用する化合物は可溶性であるべきであり、そして通常は、対応する組成のみを有するべき、すなわちできるだけ不純物を含むべきではない。
【0054】
TiO
2+、リチウム及びMの塩(イオン)、場合によっては並びにシリケートまたはオルトシリケート酸及び/もしくはオルトシリケート酸のアルキルエステルを含む水性系への最後の添加としてのリン酸またはリン酸二水素アンモニウムの添加に留意すべきである。
【0055】
リン酸またはリン酸二水素アンモニウムの添加は、0と10℃との間、有利には0と5℃との間の低温で行われる。塩が溶解されているために、0℃でも氷は形成しない。場合によっては生じるリン酸チタンが沈殿する傾向が原則的に非常に強いために、上記の低温を維持することによって、この沈殿傾向を有利に減少でき、少なくとも強く制限することができる。
【0056】
リン酸またはリン酸二水素アンモニウムを水性系に添加し、そしてこれと混合したら、直ぐに均一なゾルが形成する。このプロセスは、通常は数秒間内に、例えば2秒間内に終わる。
【0057】
純粋または置換LDP成分の混合は、溶液中でナノメータスケールで行われ、これは、製造すべき粉体の相純度に対して有利な効果を持つ。更に、上記の低温は、通常はゾル内での粒子の成長を阻止する。それに対して、ゾル中での小さな粒径は、粉体製造の間に小さな粒度ももたらし、これは、次の焼結プロセスにとって有利である。
【0058】
このようにして形成されたゾルは通常は長期間安定しない。或る一定の時間後に、このゾルは連続的に均一なゲルに変化していく。この際、この変化は、温度に応じて、数分間の期間で、例えば30分間〜1時間の期間で起こる。ゲルへの上記変化は室温では数分間の範囲で比較的短時間で、0℃あたりの低温では、相応してゆっくりと、すなわち1時間までの期間で起こる。
【0059】
DE102012103409B3(特許文献3)にも同様に自発的に形成するゲルが記載されており、これは、リン酸二水素アンモニウム(NH
4H
2PO
4)を、硝酸アルミニウム(Al(NO
3)
3)、酢酸リチウム(LiCH
3OO)及びチタン(IV)イソプロポキシド(Ti(OCH
2)CH
3)
4)からなる水性混合物中に加えると直ぐに得られる。しかし、硝酸アルミニウム(Al(NO
3)
3)、酢酸リチウム(LiCH
3OO)及びチタン(IV)イソプロポキシド(Ti(OCH
2(CH
3)
2)
4)からなる水性混合物は、本発明の意味でのゾルではないと考えられる。というのも、後続のゲル形成のプロセスステップは、これまで再現できなかったからである。
【0060】
DE102012103409B3(特許文献3)に記載された、存在していない相の純粋さは、出発材料の水性混合物は純粋な溶液としてもゾルとしても存在せず、恐らくは比較的大きな粒子の沈殿物を既に含むことを推論させる。これは、得られた粉体の緻密化のために、通常は比較的大きな粒子が存在している時しか必要ではない圧力で援助した焼結プロセスが何のために必要であるかの説明ともなるであろう。
【0061】
本発明では純粋または置換リチウム−チタンホスフェート粉体は有利に室温下に圧縮され(例えば100MPaで)、次いで無加圧で焼結するが、DE102012103409B3(特許文献3)では、粉体は約900℃の温度で圧縮され、次いで焼結される。しかし、高温での緻密化のためには、不利に複雑な装置を用意する必要がある。
【0062】
本発明では、得られた均一なゲルを次いで、予焼結する前に、数時間乾燥する。例えば、均一なゲルを先ず100℃未満の比較的低い温度で数時間予め乾燥し、次いで100℃を超える温度で更に数時間完全に乾燥させることができる。
【0063】
その後、予焼結ステップをおおよそ600℃の温度で行い、その際、所望の純粋または置換リチウム−チタンホスフェート粉体が得られる。
【0064】
約600℃の温度では、有機構成分の主成分が、予め乾燥したゲルから蒸発されるということから出発する。乾燥されたゲルとは、本発明の枠内では、有機構成分及び非晶質の無機系構成分を含む粉体のことである。
【0065】
しかし、こうして得られた粉体は通常は未だ相純粋ではない。加えて、部分的に比較的大きな凝集物が観察され得る。この理由から、材料を緻密化をするための本焼結プロセスの前に、存在する凝集物を破壊し、有機構成分中の粘着性残渣を蒸発し、そして予焼結された粉体が焼結可能となることが保証されるように、例えばボールミル及びセラミック製ボールを用いた粉砕プロセスが提案される。
【0066】
予焼結された粉体は、白みがかった灰色であり、そして粉砕ステップの後に、50nmと100nmの間の粒度を有する。この際、この粒度は、凝集していない粉体の粒度である。
【0067】
次に、本発明の枠内では、予焼結され、場合により及び粉砕された粉体のための簡単な緻密化ステップが提案される。このためには、有利には、粉体を先ず室温で圧縮し、次いで高温で数時間焼結する。粉体の圧縮のためには、特に一軸圧縮が適している。圧縮圧としては、50MPaと200MPa、特におおよそ100MPaの押し圧力が有効であることが判明した。
【0068】
それに次いで、後続の焼結ステップを820℃と1050℃との間の温度、有利には870℃と920℃との間の温度で行うことができる。焼結は、数時間、有利には少なくとも5時間の期間にわたって行うのがよい。この際、上記の時間は、最大の調節温度での維持時間であり、そのため、必要な加熱段階及び冷却段階は考慮しない。加熱及び冷却速度としては、典型的には3〜15K/分の値を提示できる。焼結の間は、通常は加圧はしない。
【0069】
焼結された粉体をまたは緻密化されたペレットもX線回折(XRD)で検査すると、本発明に従い製造された純粋または置換リチウム−チタンホスフェート材料の試料中には、異相は検出できないことが分かった。粉体回折図は、DE102012103409B3(特許文献3)に記載されるような異相、例えばAlPO
4またはTiP
2O
7の反射を殆ど示さない。
【0070】
本発明に従い製造された試料の密度は、理論密度の99%超に到達した。このような高い密度を持つLTP、LMTP、LTPSまたはLMTPS材料を、簡単な緻密化及び焼結ステップを介して製造できるこのような方法は、これまで知られていない。
【0071】
本発明に従い製造された材料の高い密度は、1×10
−4〜1×10
−3S/cmの範囲の非常に良好なリチウムイオン伝導度をもたらす。それ故、焼結された純粋または置換リチウム−チタンホスフェート材料は、リチウム電池中で有利に固形電解質として直接使用できる。
【0072】
イオン伝導度は、対応するペレットの電気化学的インピーダンス分光分析によって求めた。結果を
図4に示す。
【0073】
しかし、上記の緻密化ステップの他に、上記の粉体でできたLTPベースの緻密な部材は、流延成形によっても直接製造でき、またはLTPベースの緻密な層は、スクリーン印刷によって他の基材上に施与することができる。
【0074】
まとめると、本発明は、Li
1+x+yM
xTi
2−x(PO
4)
3−y(SiO
4)
y(式中、Mは、Al、Ga、In、Sc、V、Cr、Mn、Co、Fe、Y、La−Luであり、0
≦x≦0.5であり、そして0≦y≦0.5である)の組成を有し、そして緻密化された形態で1×10
−4〜1×10
−3S/cmの範囲の非常に良好なリチウムイオン伝導度を室温で示す、リチウム−チタンホスフェートをベースとする、相純粋で焼結が簡単な材料を提供するものと言うことができる。それに加えて、本発明は、好ましくは固形電解質として使用できるこれらの純粋または置換リチウム−チタンホスフェート材料のための簡単でかつ費用効果の高い製造方法を開示するものである。