特許第6738812号(P6738812)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6738812
(24)【登録日】2020年7月22日
(45)【発行日】2020年8月12日
(54)【発明の名称】波長変換発光デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/50 20100101AFI20200730BHJP
   G02B 5/20 20060101ALI20200730BHJP
【FI】
   H01L33/50
   G02B5/20
【請求項の数】13
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-535661(P2017-535661)
(86)(22)【出願日】2015年12月23日
(65)【公表番号】特表2018-501659(P2018-501659A)
(43)【公表日】2018年1月18日
(86)【国際出願番号】EP2015081123
(87)【国際公開番号】WO2016110415
(87)【国際公開日】20160714
【審査請求日】2018年12月18日
(31)【優先権主張番号】62/100,194
(32)【優先日】2015年1月6日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】62/182,090
(32)【優先日】2015年6月19日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517152128
【氏名又は名称】ルミレッズ ホールディング ベーフェー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】ミュラー,ゲルト
(72)【発明者】
【氏名】ミュラー−マッハ,レギーナ
(72)【発明者】
【氏名】シュミット,ペーター ヨーゼフ
(72)【発明者】
【氏名】チェンバリン,ダニエル ラッセル
(72)【発明者】
【氏名】シチェキン,オレク ボリソヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】ベクテル,ハンス−ヘルムート
【審査官】 村井 友和
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/190778(WO,A1)
【文献】 特表2007−527118(JP,A)
【文献】 特開2014−160555(JP,A)
【文献】 特表2012−528920(JP,A)
【文献】 特表2014−501685(JP,A)
【文献】 特開2014−022650(JP,A)
【文献】 特表2011−507287(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0050086(US,A1)
【文献】 特開2012−60180(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00−33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光ダイオードによって生成されて、母材及びドーパントを有する蛍光体層によって変換される所定量の光に対して、増大する励起密度における前記蛍光体層の効率の所定の最大低下に合わせて、前記蛍光体層の最大ドーパント濃度を選定する、ことを有し、
前記蛍光体層は、2つ以上の領域を有し、
前記2つ以上の領域のうち、前記発光ダイオードに最も近く配置される領域が最も低いドーパント濃度を有し、前記発光ダイオードに最も遠く配置される領域が最も高いドーパント濃度を有する、
方法。
【請求項2】
前記2つ以上の領域の各々内でドーパント濃度は均一である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記2つ以上の領域は、
第1のドーパント濃度を持つ第1の領域と、
第2のドーパント濃度を持つ第2の領域と
を有し、
前記第2のドーパント濃度は前記第1のドーパント濃度よりも低く、且つ
前記蛍光体は、前記発光ダイオードによって放たれた光が、前記第1の領域よりも前に前記第2の領域に到達するように配置される、
請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記蛍光体層の前記2つ以上の領域中のドーパント濃度が傾斜される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ドーパントはEu2+である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ドーパントはCe3+である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
第1のピーク波長を持つ光を放つ発光ダイオードと、
前記発光ダイオードによって放たれた光の経路内に配置された蛍光体であり、前記発光ダイオードによって放たれた光を吸収して、第2のピーク波長を持つ光を放つ蛍光体と
を有し、
前記蛍光体は母材及びドーパントを有し、且つ
前記発光ダイオードからの所定の発光において、前記蛍光体の効率の所定の最大低下を超えないように、前記ドーパントの濃度及び前記ドーパントの配置が選定されており
前記蛍光体は、2つ以上の領域を有し、
前記2つ以上の領域のうち、前記発光ダイオードに最も近い領域が最も低いドーパント濃度を有し、前記発光ダイオードに最も遠い領域が最も高いドーパント濃度を有する、
構造体。
【請求項8】
前記2つ以上の領域の各々が、前記発光ダイオードからの所定の発光において前記蛍光体の効率の所定の最大低下を超えないように選定されたドーパント濃度で、均一にドープされている、請求項7に記載の構造体。
【請求項9】
前記2つ以上の領域は、
第1のドーパント濃度を持つ第1の領域と、
第2のドーパント濃度を持つ第2の領域と
を有し、
前記第2のドーパント濃度は前記第1のドーパント濃度よりも低く、且つ
前記蛍光体は、前記発光ダイオードによって放たれた光が、前記第1の領域よりも前に前記第2の領域に到達するように配置されている、
請求項7に記載の構造体。
【請求項10】
前記第1及び第2の領域は、それぞれ、第1及び第2の層を有し、前記第2の層が、前記発光ダイオードと前記第1の層との間に配置されている、請求項9に記載の構造体。
【請求項11】
前記第2の領域は、前記発光ダイオードに近接した層であり、
前記第1の領域は、前記第2の領域とは反対側の層であり、且つ
前記第2の領域と前記第1の領域との間で前記ドーパントの濃度が傾斜されている、
請求項9に記載の構造体。
【請求項12】
前記ドーパントはEu2+である、請求項7に記載の構造体。
【請求項13】
前記ドーパントはCe3+である、請求項7に記載の構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長変換式の例えば発光ダイオードなどの発光デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
現在利用可能な最も効率的な光源の中に、発光ダイオード(LED)、共振器型(resonant cavity)発光ダイオード(RCLED)、垂直共振器面発光レーザ(VCSEL)及び端面発光レーザを含む半導体発光デバイスがある。可視スペクトルで動作可能な高輝度発光デバイスの製造において現在関心ある材料系は、III−V族半導体、特に、III族窒化物材料とも呼ばれる、ガリウム、アルミニウム、インジウム、及び窒素の二元、三元、及び四元合金を含む。典型的に、III族窒化物発光デバイスは、有機金属化学気相成長法(MOCVD)、分子線エピタキシー(MBE)又はその他のエピタキシャル技術により、サファイア、炭化シリコン、III族窒化物若しくは複合材の基板、又はその他の好適な基板の上に、異なる組成及びドーパント濃度の複数の半導体層のスタック(積層体)をエピタキシャル成長することによって製造される。スタックは、しばしば、基板上に形成された、例えばSiでドープされた1つ以上のn型層と、該1つ以上のn型層上に形成された活性領域内の1つ以上の発光層と、活性領域上に形成された、例えばMgでドープされた1つ以上のp型層とを含んでいる。これらn型領域及びp型領域の上に、電気コンタクトが形成される。
【0003】
白色光のソリッドステート光源を作り出すため、LED又はレーザからの青色光が、例えばYAG:Ce蛍光体などの黄緑色蛍光体、又は赤色及び緑色の蛍光体の組み合わせを照らして、蛍光体によって生成される光と、漏れ貫く青色光との組み合わせが白色光を作り出すようにする。一部の蛍光体は、高出力の青色光源によって生成される非常に明るい青色光(例えば、100W/cm超)の下でクエンチ(消光)又は飽和される。クエンチング又は飽和は、望ましくない色シフト及び低減された光出力につながり得る。
【発明の概要】
【0004】
本発明の1つの目的は、高い励起密度であっても効率的なものである波長変換材料を有する波長変換発光デバイスを提供することである。
【0005】
本発明の1つの目的は、特に、例えば暖白色光を生成するための2つ以上の蛍光体が使用される場合(これは、使用される全ての蛍光体に対して一定の変換効率を要求し得るものである)に、蛍光体変換式の光源における輝度増大に伴う色シフトを回避又は最小化することである。
【0006】
本発明の実施形態に従った一方法において、光源によって生成されて、母材及びドーパントを有する蛍光体層によって変換される所定量の光に対して、増大する励起密度における蛍光体の効率の所定の最大低下に合わせて、蛍光体層の最大ドーパント濃度が選定される。
【0007】
本発明の実施形態に従った一構造体は、第1のピーク波長を持つ光を放つ発光ダイオードと、発光ダイオードによって放たれた光の経路内に配置された蛍光体とを含む。蛍光体は、発光ダイオードによって放たれた光を吸収して、第2のピーク波長を持つ光を放つ。蛍光体は母材及びドーパントを含む。発光ダイオードからの所定の発光において、蛍光体の効率の所定の最大低下を超えないように、ドーパントの濃度及びドーパントの配置が選定される。
【0008】
本発明の実施形態に従った一構造体は、第1のピーク波長を持つ光を放つ発光ダイオードと、発光ダイオードによって放たれた光の経路内に配置された蛍光体とを含む。蛍光体は、発光ダイオードによって放たれた光を吸収して、第2のピーク波長を持つ光を放つ。発光ダイオードと蛍光体との間に材料が配置される。この材料は、蛍光体の効率の所定の最大低下を超えないように、発光ダイオードから蛍光体に到達する光の量を低減する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】同じ母材(Ba0.1Sr0.9Siと異なる濃度のドーパントEu2+とを有する2つの蛍光体についての、放射照度の関数としての量子効率のプロットである。
図2】光源と波長変換構造とを含むデバイスの断面図である。
図3】例えば0.2W/mmのような所与の励起密度でドループ(すなわち、増大する励起密度での蛍光体の効率の低下)を示す材料と、該所与の励起密度でドループを示さない材料との、2つの材料についての、励起密度の関数としての放射パワー/入射パワーのプロットである。
図4】蛍光体粒子の表面の一部を例示している。
図5】ステップ傾斜された波長変換構造の断面図である。
図6図5の構造の一例についての位置の関数としての活性剤濃度のプロットである。
図7】連続傾斜された波長変換構造の断面図である。
図8図7の構造の一例についての位置の関数としての活性剤濃度のプロットである。
図9図7の構造の他の一例についての位置の関数としての活性剤濃度のプロットである。
図10】複数の蛍光体を含む波長変換構造の断面図である。
図11】蛍光体粒子についての位置の関数としての濃度のプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
蛍光体は基本的に、活性剤又はドーパント(ここでは、“活性剤”及び“ドーパント”は入れ換え可能に使用される)でドープされた結晶母材(格子と呼ばれるときもある)である。一般的な活性剤種の例は、Eu2+、Eu3+、及びCe3+を含む。蛍光体が、特定の波長域(励起スペクトル)内の光に曝されるとき、活性剤が、励起光を吸収して、より長い波長(発光スペクトル)の光を放つ。
【0011】
上述のように、一部の蛍光体は、例えばLEDからの青色光に曝されるときに飽和になる。特に、励起密度(すなわち、蛍光体に入射する面積当たりの光の量)が増大するにつれて、蛍光体の効率が低下する。増大する励起密度に伴う効率の低下を、ここでは、“ドループ”と称することがある。
【0012】
数多くのプロセスがドループを発生させ又は悪化させ得る。本発明の実施形態を特定の理論に限定するものではないが、ドループに影響を及ぼし得る2つのプロセスは、基底状態の枯渇(exhaustion)及び励起状態相互作用である(本発明の実施形態は、基底状態の枯渇に対処しないことがある)。励起状態相互作用は、励起状態吸収(exited state absorption;ESA)及び量子力学的相互作用(quantum-mechanical interaction;QMI)を含み得る。ESAは、母材の電子バンド構造、及び/又は母材のバンド構造に対するドーパント準位のエネルギー位置に依存し得る。QMIは、母材の結晶構造、特に、発光励起ドーパントと吸収励起ドーパントとの間の距離に依存し得る。例えば、励起された活性剤によって放出された光子が、既に励起された別の活性剤によって吸収されて、光子を放出するのではなく電子を母材の伝導帯に励起し、それにより蛍光体の効率を低下させることがある。この効果は、より高い温度でいっそう見受けられ得る。
【0013】
活性剤濃度が増加するにつれて、図1に例示するように、任意の励起密度での効率の低下が更に顕著になり得る。図1は、青色発光レーザからの放射照度(W/mm単位)の関数としての、測定された量子効率のプロットである。図1に例示される2つの蛍光体は、同じ母材(Ba0.1Sr0.9Si、及び同じ活性剤Eu2+を有している。0.5%(カーブ10)及び2.4%(カーブ14)という2つの異なる活性剤濃度が例示されている。図1に例示されるように、高い方の活性剤濃度では、最高励起密度での蛍光体の効率が、低い方の活性剤濃度を有する蛍光体の最高励起密度での効率よりも低い。
【0014】
本発明の実施形態では、増大する励起密度で観測される効率低下であるドループを抑制又は排除するようにして、蛍光体が合成され又はデバイスに適用される。後述する実施形態における蛍光体の母材は、例えば、CaS、(Ca,Sr)Ga、Ba2−xSi5−yAl8−y、ただし、MはSr又はCaを表し、0≦x≦1、且つ0.0005<y<0.05(BSSNE)、Ca1−xSrAlSiN、ただし、0≦x≦1、好ましくは0<x<0.95(SCASN)、eCas、YAG、又はその他の好適な母材とし得る。ここに記載される実施形態における蛍光体の活性剤は、例えば、希土類材料、ユウロピウム、Eu2+、セリウム、Ce3+、又はその他の好適材料とし得る。以下の例では、活性剤はユウロピウムである。しかしながら、セリウムドープされた蛍光体も、しばしば、ユウロピウムドープされた蛍光体よりもはるかに高い入射パワー密度で、ドループを被り得る。例えば、Ce3+蛍光体は、Eu2+蛍光体が1W/mmで示すのと同程度のドループを約50W/mmで示し得る。
【0015】
図2は、本発明の実施形態に従ったデバイスを例示している。例えば発光ダイオード(LED)などの発光デバイス18から放たれる光の経路内に、波長変換構造20が配置されている。波長変換構造20は、母材とドーパントとを含む蛍光体とし得る。波長変換構造20は、発光デバイス18と直に接触していてもよいし、発光デバイス18から離間されていてもよい。波長変換構造20は、1つ以上の蛍光体を含み得る。
【0016】
一部の実施形態において、例えばレンズ(図2には図示せず)などの1つ以上の光学素子が、図2のデバイスに含められ得る。例えば、発光デバイス18から取り出された光を整形、フィルタリング、及び/又は少なくとも部分的にコリメートするために、発光デバイス18と波長変換構造20との間に光学素子が配置され得る。それに加えて、あるいは代えて、波長変換構造20から取り出された光を整形、フィルタリング、及び/又は少なくとも部分的にコリメートするために、波長変換構造20の上に光学素子が配置されてもよい。光学素子の例は、フィルタ、ドームレンズ、フレネルレンズ、複合放物線集光器、及びその他の好適構造を含む。
【0017】
一部の実施形態において、発光デバイス18によって生成されて、波長変換構造20よって変換される所定量の光に対して、増大する励起密度における波長変換構造の効率の所定の最大低下(すなわち、最大許容ドループ)に合わせて、波長変換構造20内の最大平均ドーパント濃度が選定される。効率の所定の最大低下は、結果として得られる総放射の色シフトをもたらすことがある。一部の用途、特に、例えば暖白色光を生成する装置などの、複数の蛍光体を使用する用途は、使用される全ての蛍光体に対して一定又はほぼ一定の変換効率を要求することがある。従って、一部の実施形態において、用途において許容され得る色シフトが、効率の所定の最大低下を決定し得る。
【0018】
波長変換構造20は、実質的に均一な平均ドーパント濃度の蛍光体層、層状構造、又は、例えば以下の例の何れかに記載される蛍光体などの傾斜組成構造とし得る。
【0019】
実際には、図2の波長変換構造20の厚さは有限である。例えば、後述するように、ドーパント濃度を低下させることによってドループは抑制され得るが、ドーパント濃度が低下されるにつれて、所定量の変換光のために、より大きい厚さが必要とされ、その極限では、ゼロのすぐ近くのドーパント濃度が無限の厚さを必要とする。従って、一部の実施形態において、所定の波長変換構造厚さ20に対して、増大する励起密度における波長変換構造の効率の所定の最大低下(すなわち、最大許容ドループ)に対して、波長変換構造20内の最大平均ドーパント濃度が選定される。
【0020】
発光デバイス18は、波長変換構造20内の1つ以上の波長変換材料を励起し得る光を放つ如何なる好適なデバイスともし得る。一部の実施形態において、発光デバイス18は、青色光又はUV光を発するIII族窒化物LEDである。III族窒化物LEDは、例えば、電気コンタクトが形成された面とは反対側のLEDの面を通して光の大部分が取り出されるフリップチップデバイスであってもよいし、電気コンタクトがデバイスの両面に形成される縦型デバイスであってもよいし、又は、光の大部分が取り出されるデバイスの面に双方の電気コンタクトが形成される横型デバイスであってもよい。III族窒化物デバイス層が上に成長された成長基板は、デバイスの一部であってもよいし、薄化されてもよいし、又は完全に除去されてもよい。如何なる好適な発光デバイスが使用されてもよい。
【0021】
以下の例では、半導体発光デバイスは、青色光又はUV光を発するIII族窒化物LEDであるが、デバイスの発光が波長変換構造20の励起スペクトルと重なる限りにおいて、例えばレーザダイオードなどの、LED以外の半導体発光デバイスや、例えばその他のIII−V族材料、III族リン化物、III族ヒ化物、II−VI族材料、ZnO、又はSi系材料などの、その他の材料系からなる半導体発光デバイスが使用されてもよい。
【0022】
好適な波長変換構造20は、以下の実施形態にて記載される蛍光体及び/又は構造のうちの1つ以上を含み得る。波長変換構造20は、LED上に、又はLEDから離間して配置され得る。一部の実施形態において、波長変換構造内のドーパントの濃度、及び/又はドーパントの配置が、発光構造18からの所定の発光に対して、波長変換構造の効率の所定の最大低下を超えない(すなわち、最大ドループレベルが超過されない)ように選定される。
【0023】
波長変換構造は、例えば、コンベンショナルな蛍光体、有機蛍光体、量子ドット、有機半導体、II−VI族若しくはIII−V族半導体、II−VI族若しくはIII−V族半導体量子ドット若しくはナノ結晶、染料、ポリマー、又は発光するその他の材料とし得る1つ以上の波長変換材料を含む。波長変換材料は、LEDによって発せられた光を吸収して、1つ以上の異なる波長の光を発する。LEDによって発せられた未変換の光が、この構造から取り出される光の最終的なスペクトルの一部をなすことが多いが、必ずしもそうである必要はない。構造から取り出される光の最終的なスペクトルは、白色、多色、又は単色とし得る。
【0024】
一般的な組み合わせの例は、黄色発光の波長変換材料と組み合わされた青色発光のLED、緑色発光及び赤色発光の波長変換材料と組み合わされた青色発光のLED、青色発光及び黄色発光の波長変換材料と組み合わされたUV発光のLED、並びに青色発光、緑色発光及び赤色発光の波長変換材料と組み合わされたUV発光のLEDを含む。構造から取り出される光のスペクトルを調整するために、他の色の光を発する波長変換材料が追加されてもよい。波長変換構造は、例えばTiOといった、光散乱要素又は光拡散要素を含んでいてもよい。
【0025】
一部の実施形態において、波長変換構造20は、LEDとは別個に製造されて、例えばウエハボンディング又はシリコーン若しくはエポキシなどの好適な接着剤によってLEDに取り付けられる構造体である。そのような予め製造される波長変換素子の一例は、セラミック蛍光体であり、それは、例えば、粉末蛍光体又は蛍光体の前駆物質を、個々の波長変換素子へと後にダイシングされ得るものであるセラミックスラブへと焼結することによって形成される。セラミック蛍光体はまた、例えば、テープキャスティングによって形成されてもよく、その場合、ダイシング又は切断を必要とせずに、セラミックが正確な形状に製造される。好適な非セラミックの事前形成波長変換素子の例は、ロール、キャスト、又はその他の方法でシートへと形成される例えばシリコーン又はガラスなどの透明材料に分散され、次いで個々の波長変換素子へと個片化される粉末蛍光体、及びシリコーンと混合されて透明基板上に置かれた蛍光体を含む。
【0026】
光が頂面を通してデバイスを出て行くことを強いるために、LED及び波長変換素子の側面に反射材料(図2には図示せず)が配置されてもよい。
【0027】
一部の蛍光体では、活性剤濃度を低下させることによってドループが抑制又は排除され得る。一部の実施形態において、波長変換構造20は、特定の活性剤濃度でドループに悩まされる母材及び活性剤を含んだ蛍光体を含む。この蛍光体は、増大する励起強度において効率の低下を示さない活性剤濃度にドープされる。そのような蛍光体の効率カーブを図3に例示する(図3に例示される蛍光体は、図1に例示したのと同じ蛍光体とし得る)。図3は、同じ母材と相異なるドーパント濃度とを有する2つの蛍光体についての、入射パワー(励起密度)の関数としての、所与の蛍光体厚さでの放射パワー/入射パワーのプロットである。カーブ22は、カーブ24の蛍光体よりも高い活性剤濃度を有する蛍光体を表している。
【0028】
図3に例示されるように、高い方の活性剤濃度を有する蛍光体(カーブ22)が、25で指し示される入射パワーでドループを示す一方で、低い方の活性剤濃度を有する蛍光体(カーブ24)は、25で指し示される入射パワーではドループを示していない。一部の実施形態において、蛍光体は、特定の活性剤濃度で、選択された励起密度においてドループに悩まされる(すなわち、入射パワー25におけるカーブ22)母材を含む。蛍光体が所与の励起密度においてドループに悩まされないように、活性剤濃度が低下され得る(すなわち、入射パワー25におけるカーブ24)。この蛍光体は、選択された励起密度ではない励起密度においてドループを示し得る(すなわち、入射パワー27におけるカーブ24)。
【0029】
カーブ22及び24によって表される蛍光体内の活性剤は、一部の実施形態において、例えば、希土類材料、ユウロピウム、又はEu2+とし得る。
【0030】
より低い活性剤濃度を持つ蛍光体は、より少ない活性剤を有するので、同量の蛍光体では、カーブ24によって示される蛍光体は、所与の入射パワー密度で、カーブ22によって示される蛍光体よりも少ない光を発することになり得る。従って、所与の輝度に到達するために、カーブ24によって表される蛍光体を波長変換構造20が含むデバイスでは、より多くの蛍光体が使用され得る。
【0031】
一部の実施形態において、カーブ24によって示される蛍光体が波長変換構造20に含められる(カーブ22によって示される蛍光体は、カーブ24によって示される蛍光体の性能を比較する基準として上述されており、デバイスには含められない)。カーブ24によって示される蛍光体は、一部の実施形態において、母材とともに波長変換構造20に含められる唯一の蛍光体とし得る。カーブ24によって示される蛍光体は、実質的に均一なドーパント濃度の単一の層にて配置され得る。カーブ24によって示される蛍光体における活性剤濃度は、波長変換構造20の全体にわたって実質的に均一であり、すなわち、その活性剤濃度は、波長変換構造20内の水平面又は垂直面において傾斜されない。
【0032】
一部の実施形態において、波長変換構造20は、各蛍光体粒子内の活性剤間の距離を増大させるように作製された粉末蛍光体を含み、それにより、ドループが抑制又は排除され得る。
【0033】
図4に例示するように、蛍光体部分30は、活性剤32同士間の間隔34によって特徴付けられ得る。一部の実施形態において、間隔34が、同じ母材及び同じ活性剤濃度を持った所与の商業的に使用されている蛍光体と比較して増大され得る。一部の実施形態において、活性剤32は、希土類材料、ユウロピウム、又はEu2+とし得る。平均間隔34は、一部の実施形態において少なくとも15Å、一部の実施形態において少なくとも18Å、一部の実施形態において少なくとも20Å、一部の実施形態において少なくとも25Å、そして、一部の実施形態において50Å以下とし得る。
【0034】
一部の実施形態において、波長変換構造20は、傾斜された活性剤濃度を持つ蛍光体を含む。活性剤濃度は、波長変換構造20の主面に垂直な方向で傾斜され得る。活性剤濃度は、励起光源に最も近い領域で最も低く、励起光源から最も遠い領域で最も高いとし得る。
【0035】
例えばセラミック蛍光体などの均一ドープされた蛍光体において、励起パワーは、蛍光体中の深さとともに指数関数的に低下する。実際には、光が蛍光体によって吸収されるにつれて、励起密度が低下する。蛍光体中の深さとともに励起密度が低下するにつれて、蛍光体によって示されるドループも減少し得る。
【0036】
傾斜蛍光体を有する波長変換構造20においては、均一ドープされるときの同じ蛍光体と比較して、ドループが抑制又は排除され得る。ここで使用されるとき、活性剤濃度を“傾斜させる”は、濃度における単一のステップ(段差)的な変化以外の、濃度における如何なる変化をも指し得る。傾斜された活性剤濃度プロファイルは、例えば、線形、ステップ傾斜、又はべき乗則プロファイルを含め、如何なる形状をとってもよく、また、一定の活性剤濃度の領域を複数含んでいてもよいし、全く含んでいなくてもよい。
【0037】
図5は、スラブ(平板)型傾斜された波長変換構造20の一例を示している。この波長変換構造20は、異なる活性剤濃度の複数の層52、54、56、及び58を含んでいる。層52、54、56、及び58の各々の中では、活性剤濃度は一定且つ均一とし得るが、これら必ずしも必要でない。図5の波長変換構造20は、セラミック又はその他の好適構造とし得る。図5には4つの層が例示されているが、より多数又は少数の層が使用されてもよい。一部の実施形態において、2から10の層が含められる。図5の波長変換構造20の総厚は、一部の実施形態において少なくとも100μmの厚さ、一部の実施形態において400μm以下の厚さ、一部の実施形態において少なくとも200μmの厚さ、そして一部の実施形態において300μm以下の厚さとし得る。各層が同じ厚さであってもよいが、これは必ずしも必要とされない。各層は、一部の実施形態において少なくとも10μmの厚さ、そして一部の実施形態において100μm以下の厚さを有し得る。
【0038】
波長変換構造20の表面50は光源18に面する。従って、層52が、最も低い活性剤濃度を有し得る。波長変換構造20の表面60は光源18から遠い側にある。従って、層58が、最も高い活性剤濃度を有し得る。図6は、波長変換構造20の一例について、表面50から表面60までの位置の関数として活性剤濃度を示している。相異なる一定の活性剤濃度の4つの層が例示されている。表面50から表面60まで、濃度が複数段で上昇している。
【0039】
図7は、スラブ型波長変換構造20の別の一例を示している。図7の波長変換構造は、図5に示したような段差的な傾斜ではなく、連続的に傾斜される。図5においてのように、図7において、表面50が光源に近い側であり、表面60が光源から遠い側である。図8及び9は、図7の構造についての2つの取り得る傾斜プロファイルを、位置の関数としての活性剤濃度のプロットにて例示している。各々の傾斜プロファイルにおいて、活性剤濃度は、表面50における最低濃度から表面60における最高濃度まで上昇している。図8は、線形の傾斜プロファイルを例示している。図9は、二次の傾斜プロファイルを例示している。波長変換構造20を傾斜させることには、例えば指数関数、多項式、又はその他の好適プロファイルなど、他のプロファイルが使用されてもよい。
【0040】
一部の実施形態において、粉末蛍光体の中の個々の粒子は、その粒子を横切って変化するドーパント濃度を持つ。個々の粒子が、第1の平均ドーパント濃度を持つ第1の領域と、第2の平均ドーパント濃度を持つ第2の領域とを有していてもよく、第1及び第2の平均ドーパント濃度は相異なる。これら第1及び第2の領域は、ドループを抑制又は排除するように構成され得る。
【0041】
図5及び7の傾斜された蛍光体にて記述したのと同じ効果(より高濃度にドープされた蛍光体部分が、より低濃度の蛍光体部分によって“スクリーン”されて、より高濃度の部分における励起密度が低下される)が、粉末蛍光体において、各粒子の中心部分が各粒子の外側部分よりも高濃度ドープされるように、粒子を横切って変化するドーパント濃度を持つ蛍光体粒子を形成することによって達成され得る。
【0042】
図11は、そのような蛍光体粒子の一例についての、直径の関数としてのドーパント濃度のプロットである。このプロットにおいて、70及び72は粒子の外縁を表しており、74は中心を表している。ドーパント濃度は、粒子のエッジにおいて、中心においてよりも低く、中心で最も高いとし得る。各粒子の低めにドープされた外側部分は、発光ダイオードからの光を“見る”粒子の第1の部分である。各粒子の低めにドープされた外側部分は、故に、より高濃度にドープされた中心における励起密度を低下させ、それにより、ドループが抑制され、蛍光体の効率が高められ得る。蛍光体粒子内の濃度傾斜は、図11に例示した特定のプロファイルに限定されない。外側部分よりも中心で高濃度にドープされた蛍光体粒子は、ドープされたコアを用意又は合成し、ドープされたコアの周囲に非ドープのシェルを成長させ、そして、熱プロセスにて、ドーパントを部分的に外側領域の中まで拡散させることによって形成され得る。
【0043】
図5及び7に例示した波長変換構造において、及び図11に例示した粒子において、活性剤は、例えば、希土類材料、セリウム、Ce3+、ユウロピウム、又はEu2+とし得る。
【0044】
図10は、ドループを示す蛍光体を、該蛍光体の励起密度を低下させるためにスクリーンする構造を有する波長変換構造20を例示している。
【0045】
表面62が光源に近い側であり、表面64が光源から遠い側である。スクリーン構造66が、光源に近い側に配置される。増大する励起密度において効率の低下を示す蛍光体68が、光源から遠い側に配置される。スクリーン構造66は、光源からの光を吸収して、蛍光体68に入射する励起密度を効果的に低下させる。例えば材料、厚さ、及び吸収係数などの、スクリーン構造66の特性が、蛍光体68に入射する励起密度を、蛍光体の効率の所定の最大低下を超えない点まで低下させるように選定され得る。好適なスクリーン構造66の例は、非波長変換材料、波長変換材料、蛍光体、光を散乱するように設計された層、フィルタ、反射器、及びその他の好適構造を含む。
【0046】
一部の実施形態において、構造66は、増大する励起密度において効率の低下を示さない又は蛍光体68よりも小さいドループのみを示す第2の蛍光体である。一部の実施形態において、構造66は、ガーネット蛍光体、YAG:Ce蛍光体、又はその他の好適な蛍光体である。
【0047】
本発明を詳細に説明したが、当業者が認識するように、本開示を所与として、ここに記載の発明概念の精神を逸脱することなく、本発明に変更が為され得る。故に、本発明の範囲は、図示して説明した特定の実施形態に限定されるものではない。
図1
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図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11