【文献】
FEMS Microbiology Letters,2004年,Vol. 235,pp. 17-23
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記組換え宿主細胞が、該組換え宿主細胞と同じ条件下で培養された場合の対応する野生型宿主細胞の力価よりも少なくとも約5%高い力価を有する、請求項2記載の細胞培養物。
【発明を実施するための形態】
【0018】
詳細な説明
全体的概観
本開示は、少なくとも一部には、組換え宿主細胞における脂肪酸生合成経路のさまざまな局面の改変により、宿主細胞による脂肪酸誘導体の産生強化が促進されるという発見に基づく。本開示は、所望の特性を有する脂肪酸誘導体の組成物、およびそれを産生するための方法に関する。さらに、本開示は、組換え宿主細胞(例えば、微生物)、組換え宿主細胞の培養物、組換え宿主細胞の作製および使用の方法、例えば、所望の特性を有する脂肪酸誘導体の発酵産生における培養組換え宿主細胞の使用にも関する。
【0019】
より具体的には、所望の脂肪酸誘導体組成物(例えば、アシル-CoA、脂肪酸、脂肪アルデヒド、短鎖および長鎖アルコール、炭化水素、脂肪アルコール、エステル(例えば、蝋、脂肪酸エステルまたは脂肪エステル)、末端オレフィン、内部オレフィン、ならびにケトンの産生が、脂肪酸、脂肪エステル、アルカン、アルケン、オレフィンもしくは脂肪アルコールの産生、分解および/または分泌のための生合成経路に関与する1つまたは複数の遺伝子の発現を改変することによって強化される。本開示は、操作されていないかまたは天然の宿主細胞(例えば、対照細胞としての役目を果たす野生型宿主細胞)に比して強化された脂肪酸生合成をもたらすように操作された組換え宿主細胞を提供し、これは例えば、菌株改良を通じて実現される。そのため、本開示では、本開示の組換え宿主細胞、方法および組成物において有用なポリヌクレオチドを特定している。そのようなポリヌクレオチドに対する絶対的な配列同一性は必要でないことは認識されるであろう。例えば、ある特定のポリヌクレオチド配列に変化を加えて、コードされるポリペプチドを活性に関してスクリーニングすることができる。そのような変化には、典型的には、保存的突然変異およびサイレント突然変異(例えば、コドン最適化)が含まれる。遺伝子操作または改変されたポリヌクレオチドおよびコードされる変異型ポリペプチドは、当技術分野において公知の方法を用いて、触媒活性の増大、安定性の増大、または阻害の低下(例えば、フィードバック阻害の低下)を非限定的に含む、所望の機能に関してスクリーニングすることができる。
【0020】
本開示は、本明細書に記載の脂肪酸生合成経路のさまざまな段階(すなわち、反応)に関与する酵素活性を酵素分類(EC)番号に従って特定し、そのようなEC番号によって分類される例示的なポリペプチド(例えば、酵素)、およびそのようなポリペプチドをコードする例示的なポリヌクレオチドを提供する。アクセッション番号および/または配列識別子番号(SEQ ID NO)によって特定されるそのような例示的なポリペプチドおよびポリヌクレオチドは、本明細書に記載の組換え宿主細胞を得る目的で親宿主細胞における脂肪酸経路を操作するために有用である。本明細書に記載のポリペプチドおよびポリヌクレオチドは例示的であって非限定的である。当業者は、本明細書に記載の例示的なポリペプチドの相同体の配列を、様々なデータベース(例えば、National Center for Biotechnology Information(NCBI)によって提供されているrhw Entrezデータベース、Swiss Institute of Bioinformaticsによって提供されているExPasyデータベース、Technical University of Braunschweigによって提供されているBRENDAデータベース、ならびにBioinformatics Center of Kyoto UniversityおよびUniversity of Tokyoによって提供されているKEGGデータベース、これらはすべてWorld Wide Web上で利用可能である)を通じて利用可能である。
【0021】
定義
本明細書および添付の特許請求の範囲において用いる場合、単数形の「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、文脈によって明らかに別様に規定されている場合を除き、複数形の指示物も含む。したがって、例えば、「1つの組換え宿主細胞」への言及は2つまたはそれ以上のそのような組換え宿主細胞を含み、「1つの脂肪アルコール」への言及は1つもしくは複数の脂肪アルコール、または脂肪アルコールの混合物への言及を含み、「1つの核酸コード配列」への言及は1つまたは複数の核酸コード配列を含み、「1つの酵素」への言及は1つまたは複数の酵素を含み、他についても同様である。
【0022】
アクセッション番号:本記載を通じて、配列アクセッション番号は、米国国立衛生研究所(National Institutes of Health、U.S.A.)によって管理されているNCBI(National Center for Biotechnology Information)によって提供されるデータベースから(これらは本明細書では「NCBIアクセッション番号」として、または代替的には「GenBankアクセッション番号」として識別される)、ならびにSwiss Institute of Bioinformaticsによって提供されるUniProt Knowledgebase(UniProtKB)およびSwiss-Protデータベースから(これらは本明細書では「UniProtKBアクセッション番号」として識別される)得た。
【0023】
酵素分類(EC)番号:EC番号は、国際生化学分子生物学連合(International Union of Biochemistry and Molecular Biology)(IUBMB)の命名委員会によって確立されており、その記述はWorld Wide WebのIUBMB酵素命名ウェブサイトで利用可能である。EC番号は、酵素を、それが触媒する反応に応じて分類する。
【0024】
本明細書で用いる場合、「ヌクレオチド」という用語は、複素環塩基、糖、および1つまたは複数のリン酸基からなるポリヌクレオチドのモノマー単位のことを指す。天然の塩基(グアニン(G)、アデニン(A)、シトシン(C)、チミン(T)およびウラシル(U))は、典型的にはプリンまたはピリミジンの誘導体であるが、天然および非天然の塩基類似体も含まれることが理解されるべきである。天然の糖は、ペントース(五炭糖)デオキシリボース(DNAを形成する)またはリボース(RNAを形成する)であるが、天然および非天然の糖類似体も含まれることが理解されるべきである。核酸は、典型的にはリン酸結合を介して連結して核酸またはポリヌクレオチドを形成するが、多くの他の結合も当技術分野において公知である(例えば、ホスホロチオエート、ボラのホスフェートなど)。
【0025】
本明細書で用いる場合、「ポリヌクレオチド」という用語は、リボヌクレオチド(RNA)またはデオキシリボヌクレオチド(DNA)の重合体のことを指し、それらは一本鎖でも二本鎖でもよく、非天然または改変ヌクレオチドを含むこともできる。「ポリヌクレオチド」、「核酸配列」および「ヌクレオチド配列」という用語は、本明細書において、RNAまたはDNAのいずれかである任意の長さの重合型のヌクレオチドを指す目的で互換的に用いられる。これらの用語は分子の一次構造を指しており、それ故、二本鎖および一本鎖のDNA、ならびに二本鎖および一本鎖のRNAを含む。これらの用語は、同等のものとして、メチル化および/またはキャッピングされたポリヌクレオチドなどの、ただしそれらに限定はされないヌクレオチド類似体および修飾ポリヌクレオチドでできたRNAまたはDNAのいずれかの類似体を含む。ポリヌクレオチドは、プラスミド、ウイルス、染色体、EST、cDNA、mRNA、およびrRNAを非限定的に含む、任意の形態にあってよい。
【0026】
本明細書で用いる場合、「ポリペプチド」および「タンパク質」という用語は、アミノ酸残基の重合体を指す目的で互換的に用いられる。「組換えポリペプチド」という用語は、組換え手法によって産生されるポリペプチドのことを指し、ここでは概して、発現させるタンパク質をコードするDNAまたはRNAを適した発現ベクター中に挿入し、続いてそれを、該ポリペプチドを産生させる目的で宿主細胞を形質転換するために用いる。
【0027】
本明細書で用いる場合、「ホモログ」および「相同な」という用語は、対応するポリヌクレオチド配列またはポリペプチド配列に対して少なくとも約50%同一である配列を含むポリヌクレオチドまたはポリペプチドのことを指す。好ましくは、相同なポリヌクレオチドまたはポリペプチドは、対応するアミノ酸配列またはポリヌクレオチド配列に対して少なくとも約80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または少なくとも約99%の相同性を有するポリヌクレオチド配列またはアミノ酸配列を有する。本明細書で用いる場合、配列「相同性」および配列「同一性」という用語は、互換的に用いられる。
【0028】
当業者は、2つまたはそれ以上の配列の間の相同性を決定するための方法を熟知しているであろう。手短に述べると、2つの配列間の「相同性」の計算は、以下のように行うことができる。配列を、最適な比較のために整列させる(例えば、最適なアラインメントのために第1および第2のアミノ酸配列または核酸配列の一方または両方にギャップを導入することができ、比較のために非相同配列を無視することができる。好ましい態様において、比較のために整列させる第1の配列の長さは、第2の配列の長さの少なくとも約30%、好ましくは少なくとも約40%、より好ましくは少なくとも約50%、さらにより好ましくは少なくとも約60%、さらにより好ましくは少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または約100%である。続いて、第1および第2の配列の対応するアミノ酸位置またはヌクレオチド位置にあるアミノ酸残基またはヌクレオチドを比較する。第1の配列における位置が第2の配列における対応する位置と同じアミノ酸残基またはヌクレオチドによって占められている場合には、その分子はその位置で同一である。2つの配列間の%相同性は、2つの配列の最適なアラインメントのために導入する必要があるギャップの数および各ギャップの長さを考慮に入れた、配列が共通に持つ同一な位置の数の関数である。
【0029】
2つの配列間での配列の比較および%相同性の決定は、BLAST(Altschul et al., J. Mol. Biol, 215(3): 403-410 (1990))などの数学的アルゴリズムを用いて実現することができる。2つのアミノ酸配列間の%相同性を、GCGソフトウェアパッケージのGAPプログラムに組み込まれているNeedleman and Wunschのアルゴリズムを用い、Blossum 62行列またはPAM250行列のいずれか、ならびに16、14、12、10、8、6または4のギャップ加重および1、2、3、4、5または6の長さ加重を用いて決定することもできる(Needleman and Wunsch, J. Mol. Biol., 48: 444-453 (1970))。また、2つのヌクレオチド配列間の%相同性を、GCGソフトウェアパッケージのGAPプログラムを用いNWSgapdna.CMP行列、ならびに40、50、60、70または80のギャップ加重および1、2、3、4、5または6の長さ加重を用いて決定することもできる。当業者は、初期の相同性計算を行い、それに応じてアルゴリズムパラメーターを調整することができる。好ましいパラメーターのセット(および、分子が添付の特許請求の範囲の相同性の限度内にあるか否かを判定するためにどのパラメーターを適用すべきかを実施者が分かっていない場合に用いるべきセット)では、Blossum 62スコアリング行列を、ギャップペナルティ12、ギャップ延長ペナルティ4およびフレームシフトギャップペナルティ5で用いる。配列アラインメントのそのほかの方法は、バイオテクノロジーの技術分野で公知である(例えば、Rosenberg, BMC Bioinformatics, 6: 278 (2005);Altschul, et al., FEBS J., 272(20): 5101-5109 (2005)を参照)。
【0030】
本明細書で用いる場合、「低ストリンジェントな、中ストリンジェントな、高ストリンジェントなまたは超高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」という用語は、ハイブリダイゼーションおよび洗浄に関する条件を述べている。ハイブリダイゼーション反応を行うための手引きは、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, N.Y. (1989), 6.3.1 - 6.3.6.に見ることができる。この参考文献には水性および非水性の方法が記載されており、いずれの方法を用いることもできる。本明細書において言及する具体的なハイブリダイゼーション条件は、以下の通りである:1)低ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件--6×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)、約45℃の後に、0.2×SSC、0.1% SDS中、少なくとも50℃で2回洗浄(低ストリンジェントな条件の場合、洗浄の温度は55℃まで上げることができる);2)中ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件--6×SSC、約45℃の後に、0.2×SSC、0.1% SDS中、60℃での1回または複数回の洗浄;3)高ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件--6×SSC、約45℃の後に、0.2.X SSC、0.1% SDS中、65℃での1回または複数回の洗浄;および4)超高ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件--0.5Mリン酸ナトリウム、7% SDS、65℃の後に、0.2×SSC、1% SDS、65℃での1回または複数回の洗浄。別に指定する場合を除き、超高ストリンジェントな条件(4)が好ましい条件である。
【0031】
「内因性」ポリペプチドとは、組換え細胞が遺伝子工学的に操作されて作製されるまたは由来する宿主細胞(例えば親微生物細胞)のゲノムによってコードされる、ポリペプチドのことを指す。
【0032】
「外来性」ポリペプチドとは、親微生物細胞のゲノムによってはコードされないポリペプチドのことを指す。変異型(すなわち、突然変異型)ポリペプチドは、外来性ポリペプチドの一例である。
【0033】
「異種」という用語は、一般に、異なる種に由来するか、または異なる生物に由来することを意味する。本明細書で用いる場合、これは、特定の生物内に天然では存在しないヌクレオチド配列またはポリペプチド配列のことを指す。異種発現とは、タンパク質またはポリペプチドが、そのタンパク質を通常は発現しない細胞に実験的に追加されることを意味する。そのため、異種とは、移入されるタンパク質が、レシピエントとは異なる細胞型または異なる種に元々は由来するという事実を指す。例えば、植物細胞にとって内因性のポリヌクレオチド配列を、組換え法を用いて細菌宿主細胞に導入することができ、その場合、植物ポリヌクレオチドは組換え細菌宿主細胞における異種ポリヌクレオチドである。
【0034】
本明細書で用いる場合、ポリペプチドの「断片」という用語は、完全長ポリペプチドまたはタンパク質のより短い部分のことを指し、そのサイズは、4アミノ酸残基から、アミノ酸配列全体マイナス1アミノ酸残基までの範囲にわたる。本開示のある態様において、断片とは、ポリペプチドまたはタンパク質のあるドメイン(例えば、基質結合ドメインまたは触媒ドメイン)のアミノ酸配列全体のことを指す。
【0035】
本明細書で用いる場合、「突然変異誘発」という用語は、生物の遺伝情報を安定的な様式で変化させる工程のことを指す。核酸配列をコードするタンパク質の突然変異誘発により、突然変異型タンパク質が生じる。また、突然変異誘発とは、タンパク質活性の改変をもたらす非コード性核酸配列の変化のことも指す。
【0036】
本明細書で用いる場合、「遺伝子」という用語は、RNA産物またはタンパク質産物のいずれかをコードする核酸配列、ならびに、そのRNAもしくはタンパク質の発現に影響を及ぼす機能的に連結された核酸配列(例えば、そのような配列には、プロモーター配列またはエンハンサー配列が非限定的に含まれる)またはそのRNAもしくはタンパク質に影響を及ぼす配列をコードする機能的に連結された核酸配列(例えば、そのような配列には、リボソーム結合部位または翻訳制御配列が非限定的に含まれる)のことを指す。
【0037】
発現制御配列は当技術分野において公知であり、これには例えば、宿主細胞におけるポリヌクレオチド配列の発現をもたらす、プロモーター、エンハンサー、ポリアデニル化シグナル、転写終結因子、配列内リボソーム進入部位(IRES)などが含まれる。発現制御配列は、転写に関与する細胞タンパク質と特異的に相互作用する(Maniatis et al., Science, 236: 1237-1245 (1987))。例示的な発現制御配列は、例えば、Goeddel, Gene Expression Technology: Methods in Enzymology, Vol. 185, Academic Press, San Diego, Calif. (1990)に記載されている。
【0038】
本開示の方法において、発現制御配列は、ポリヌクレオチド配列と機能的に連結されている。「機能的に連結された」という用語は、適切な分子(例えば、転写活性化タンパク質)が発現制御配列に結合した時に遺伝子発現を可能にするような様式で、ポリヌクレオチド配列と該発現制御配列が接続されていることを意味する。機能的に連結されたプロモーターは、転写および翻訳の方向の観点では、選択されたポリヌクレオチド配列の上流に位置する。機能的に連結されたエンハンサーは、選択されたポリヌクレオチドの上流、内部または下流に位置することができる。
【0039】
本明細書で用いる場合、「ベクター」という用語は、それに連結された別の核酸、すなわちポリヌクレオチド配列を輸送しうる核酸分子のことを指す。有用なベクターの一種は、エピソーム(すなわち、染色体外での複製が可能な核酸)である。有用なベクターは、それに連結された核酸の自律複製および/または発現を可能にするものである。機能的に連結された遺伝子の発現を導くことができるベクターを、本明細書では「発現ベクター」と称する。一般に、組換えDNA手法において有用な発現ベクターは、ベクター形態では染色体に結合していない環状二本鎖DNAループ全般を指す「プラスミド」の形態にあることが多い。プラスミドはベクターの最も一般的に用いられる形態であることから、「プラスミド」および「ベクター」という用語は本明細書において互換的に用いられる。しかし、同等の機能を果たす他の形態の発現ベクター、および当技術分野において今後公知となる他の形態の発現ベクターも同じく含まれる。いくつかの態様において、組換えベクターは、ポリヌクレオチド配列に機能的に連結されたプロモーターをさらに含む。いくつかの態様において、プロモーターは、発生段階調節性の(developmentally-regulated)、オルガネラ特異的な、組織特異的な、誘導性の、構成性の、または細胞特異的なプロモーターである。組換えベクターは典型的に、(a)ポリヌクレオチド配列と機能的に結びついた発現制御配列;(b)ポリヌクレオチド配列と機能的に結びついた選択マーカー;(c)ポリヌクレオチド配列と機能的に結びついたマーカー配列;(d)ポリヌクレオチド配列と機能的に結びついた精製部分;(e)ポリヌクレオチド配列と機能的に結びついた分泌配列;および(f)ポリヌクレオチド配列と機能的に結びついたターゲティング配列、を含む少なくとも1つの配列を含む。ある態様において、ヌクレオチド配列は宿主細胞のゲノムDNAに安定的に組み込まれており、ヌクレオチド配列の発現は、調節プロモーター領域の制御下にある。本明細書に記載の発現ベクターは、本明細書に記載のポリヌクレオチド配列を、宿主細胞におけるポリヌクレオチド配列の発現に適した形態で含む。当業者には、発現ベクターの設計が、形質転換させようとする宿主細胞の選択、所望のポリペプチドの発現レベルなどの要因に依存しうることが理解されるであろう。本明細書に記載の発現ベクターは、本明細書に述べるようなポリヌクレオチド配列によってコードされる、融合ポリペプチドを含むポリペプチドを産生させるために宿主細胞に導入することができる。
【0040】
原核生物、例えば大腸菌(E. coli)におけるポリペプチドをコードする遺伝子の発現は、融合または非融合ポリペプチドのいずれかの発現を導く構成性または誘導性プロモーターを含有するベクターを用いて実施されることが最も多い。融合ベクターは、その中にコードされているポリペプチド、通常は組換えポリペプチドのアミノ末端またはカルボキシ末端に、いくつかのアミノ酸を付加する。そのような融合ベクターは、典型的には、以下の3つの目的の1つまたは複数に役立つ:(1)組換えポリペプチドの発現を増大させること;(2)組換えポリペプチドの溶解性を高めること;および(3)アフィニティー精製におけるリガンドとして作用することによって、組換えポリペプチドの精製を助けること。多くの場合、融合発現ベクターでは、融合部分と組換えポリペプチドの接合部にタンパク質分解切断部位が導入されている。これにより、融合ポリペプチドの精製後に、融合部分からの組換えポリペプチドの分離が可能になる。ある態様において、本開示のポリヌクレオチド配列は、バクテリオファージT5由来のプロモーターと機能的に連結されている。
【0041】
ある態様において、宿主細胞は酵母細胞であり、発現ベクターは酵母発現ベクターである。酵母S.セレビシエ(S. cerevisiae)における発現のためのベクターの例には、pYepSec1(Baldari et al., EMBO J., 6: 229-234 (1987)), pMFa(Kurjan et al., Cell, 30: 933-943 (1982))、pJRY88(Schultz et al., Gene, 54: 113-123 (1987))、pYES2(Invitrogen Corp., San Diego, CA)、およびpicZ(Invitrogen Corp., San Diego, CA)が含まれる。
【0042】
他の態様において、宿主細胞は昆虫細胞であり、発現ベクターはバキュロウイルス発現ベクターである。培養昆虫細胞(例えば、Sf9細胞)におけるタンパク質の発現のために利用しうるバキュロウイルスベクターには、例えば、pAc系列(Smith et al., Mol. Cell. Biol., 3: 2156-2165 (1983))およびpVL系列(Lucklow et al., Virology, 170: 31-39 (1989))が含まれる。
【0043】
さらにもう1つの態様において、本明細書に記載のポリヌクレオチド配列を、哺乳動物発現ベクターを用いて哺乳動物細胞において発現させることもできる。原核細胞および真核細胞のいずれについても他の適した発現系が当技術分野において周知である;例えば、Sambrook et al., "Molecular Cloning: A Laboratory Manual," second edition, Cold Spring Harbor Laboratory, (1989)を参照されたい。
【0044】
本明細書において言及される「対応する野生型宿主細胞」という用語は、対照細胞としての役目を果たす細胞を意味する。例えば、組換え宿主細胞においてあるポリペプチドがアップレギュレートされているならば、同じポリペプチドは対照細胞にはより低いレベルで存在すると考えられる。その反対に、組換え宿主細胞においてあるポリペプチドがダウンレギュレートされているならば、同じポリペプチドは対照細胞にはより高いレベルで存在すると考えられる。さらに、「組換え宿主細胞または操作された宿主細胞」とは、例えば、アシル-CoA、脂肪酸、脂肪アルデヒド、短鎖および長鎖アルコール、炭化水素、脂肪アルコール、エステル(例えば、蝋、脂肪酸エステルまたは脂肪エステル)、末端オレフィン、内部オレフィン、ならびにケトンを含む脂肪酸誘導体のうち1つまたは複数を産生するために用いられる微生物のことである。いくつかの態様において、組換え宿主細胞は、各ポリヌクレオチドが脂肪酸生合成酵素活性を有するポリペプチドをコードする、1つまたは複数のポリヌクレオチドを含む。
【0045】
本明細書で用いる場合、「アシル-CoA」とは、アルキル鎖のカルボニル炭素と補酵素A(CoA)の4'-ホスホパンテチオニル部分のスルフヒドリル基との間に形成され、式R-C(O)S-CoAを有するアシルチオエステルのことを指し、式中、Rは少なくとも4個の炭素原子を有する任意のアルキル基のことである。
【0046】
本明細書で用いる場合、「アシル-ACP」とは、アルキル鎖のカルボニル炭素とアシルキャリアータンパク質(ACP)のホスホパンテテイニル部分のスルフヒドリル基との間に形成されるアシルチオエステルのことを指す。ホスホパンテテイニル部分は、ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼの1つであるホロ-アシルキャリアータンパク質シンターゼ(ACPS)の作用により、ACP上の保存されているセリン残基に翻訳後に連結される。いくつかの態様において、アシル-ACPは完全飽和アシル-ACPの合成における中間体である。他の態様において、アシル-ACPは不飽和アシル-ACPの合成における中間体である。いくつかの態様において、炭素鎖は約5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、または26個の炭素を有すると考えられる。これらのアシル-ACPはそれぞれ、それらを脂肪酸誘導体に変換する酵素の基質である。
【0047】
本明細書で用いる場合、「脂肪酸誘導体」という用語は、「脂肪酸」または「脂肪酸誘導体」を意味し、これは「脂肪酸またはその誘導体」とも呼ばれ得る。「脂肪酸」という用語は、式RCOOHを有するカルボン酸を意味する。Rは脂肪族基、好ましくはアルキル基を表す。Rは約4〜約22個の炭素原子を含むことができる。脂肪酸は飽和、一不飽和または多不飽和であってよい。「脂肪酸誘導体」とは、産生宿主生物の脂肪酸生合成経路から部分的に作られた生成物である。「脂肪酸誘導体」には、アシル-ACPまたはアシル-ACP誘導体から部分的に作られた生成物が含まれる。例示的な脂肪酸誘導体には、例えば、アシル-CoA、脂肪酸、脂肪アルデヒド、短鎖および長鎖アルコール、脂肪酸アルコール、炭化水素、エステル(例えば、蝋、脂肪酸エステルまたは脂肪エステル)、末端オレフィン、内部オレフィン、およびケトンが含まれる。
【0048】
本明細書において言及される「脂肪酸誘導体組成物」は、組換え宿主細胞によって産生され、典型的には、脂肪酸誘導体の混合物を含む。場合によっては、混合物は、複数の種類の生成物(例えば、脂肪酸および脂肪アルコール、脂肪酸および脂肪酸エステルまたはアルカンならびにオレフィン)を含む。また別の場合には、脂肪酸誘導体組成物は、例えば、さまざまな鎖長および飽和性または分枝の特徴を有する脂肪アルコール(または別の脂肪酸誘導体)の混合物を含みうる。さらに別の場合には、脂肪酸誘導体組成物は、複数の種類の生成物と、さまざまな鎖長および飽和性または分枝の特徴を有する生成物との両方の混合物を含む。
【0049】
本明細書で用いる場合、「脂肪酸生合成経路」という用語は、脂肪酸およびその誘導体を生成する生合成経路を意味する。脂肪酸生合成経路は、所望の特性を有する脂肪酸誘導体を産生するために本明細書において考察されるもののほかに、別の酵素または酵素活性を有するポリペプチドを含みうる。
【0050】
本明細書で用いる場合、「脂肪アルデヒド」とは、カルボニル基(C=O)を特徴とする式RCHOを有するアルデヒドを意味する。いくつかの態様において、脂肪アルデヒドは、脂肪アルコールから作られる任意のアルデヒドである。ある態様において、R基は、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10、少なくとも11、少なくとも12、少なくとも13、少なくとも14、少なくとも15、少なくとも16、少なくとも17、少なくとも18、または少なくとも19炭素長である。代替的または追加的に、R基は、20もしくはそれ未満、19もしくはそれ未満、18もしくはそれ未満、17もしくはそれ未満、16もしくはそれ未満、15もしくはそれ未満、14もしくはそれ未満、13もしくはそれ未満、12もしくはそれ未満、11もしくはそれ未満、10もしくはそれ未満、9もしくはそれ未満、8もしくはそれ未満、7もしくはそれ未満、または6もしくはそれ未満の炭素長である。したがって、R基は、上記の終点の任意の2つを境界とするR基を有しうる。例えば、R基は、6〜16炭素長、10〜14炭素長、または12〜18炭素長でありうる。いくつかの態様において、脂肪アルデヒドはC6、C7、C8、C9、C10、C11、C12、C13、C14、C15、C16、C17、C18、C19、C20、C21、C22、C23、C24、C25、またはC26脂肪アルデヒドである。ある態様において、脂肪アルデヒドは、C6、C7、C8、C9、C10、C11、C12、C13、C14、C15、C16、C17、またはC18脂肪アルデヒドである。
【0051】
本明細書で用いる場合、「脂肪アルコール」は、式ROHを有するアルコールを意味する。いくつかの態様において、R基は、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10、少なくとも11、少なくとも12、少なくとも13、少なくとも14、少なくとも15、少なくとも16、少なくとも17、少なくとも18、または少なくとも19炭素長である。代替的または追加的に、R基は、20もしくはそれ未満、19もしくはそれ未満、18もしくはそれ未満、17もしくはそれ未満、16もしくはそれ未満、15もしくはそれ未満、14もしくはそれ未満、13もしくはそれ未満、12もしくはそれ未満、11もしくはそれ未満、10もしくはそれ未満、9もしくはそれ未満、8もしくはそれ未満、7もしくはそれ未満、または6もしくはそれ未満の炭素長である。したがって、R基は、上記の終点の任意の2つを境界とするR基を有しうる。例えば、R基は、6〜16炭素長、10〜14炭素長、または12〜18炭素長でありうる。いくつかの態様において、脂肪アルコールは、C6、C7、C8、C9、C10、C11、C12、C13、C14、C15、C16、C17、C18、C19、C20、C21、C22、C23、C24、C25、またはC26脂肪アルコールである。ある態様において、脂肪アルコールは、C6、C7、C8、C9、C10、C11、C12、C13、C14、C15、C16、C17、またはC18脂肪アルコールである。
【0052】
脂肪酸誘導体、例えば脂肪アルコールのR基は直鎖であっても分枝鎖であってもよい。分枝鎖は複数の分枝点を有してもよく、環状分枝を含んでもよい。いくつかの態様において、分枝脂肪酸、分枝脂肪アルデヒドまたは分枝脂肪アルコールは、C6、C7、C8、C9、C10、C11、C12、C13、C14、C15、C16、C17、C18、C19、C20、C21、C22、C23、C24、C25、またはC26分枝脂肪酸、分枝脂肪アルデヒドまたは分枝脂肪アルコールである。特定の態様において、分枝脂肪酸、分枝脂肪アルデヒドまたは分枝脂肪アルコールは、C6、C7、C8、C9、C10、C11、C12、C13、C14、C15、C16、C17またはC18分枝脂肪酸、分枝脂肪アルデヒドまたは分枝脂肪アルコールである。ある態様において、分枝脂肪酸、分枝脂肪アルデヒドまたは分枝脂肪アルコールのヒドロキシル基は、第一級(C1)位置にある。
【0053】
ある態様において、分枝脂肪酸誘導体は、イソ-脂肪酸誘導体、例えばイソ-脂肪アルデヒド、イソ-脂肪アルコール、またはアンテイソ(antesio)-脂肪酸誘導体、アンテイソ-脂肪アルデヒド、またはアンテイソ-脂肪アルコールである。例示的な態様において、分枝脂肪酸誘導体は、イソ-C7:0、イソ-C8:0、イソ-C9:0、イソ-C10:0、イソ-C11:0、イソ-C12:0、イソ-C13:0、イソ-C14:0、イソ-C15:0、イソ-C16:0、イソ-C17:0、イソ-C18:0、イソ-C19:0、アンテイソ-C7:0、アンテイソ-C8:0、アンテイソ-C9:0、アンテイソ-C10:0、アンテイソ-C11:0、アンテイソ-C12:0、アンテイソ-C13:0、アンテイソ-C14:0、アンテイソ-C15:0、アンテイソ-C16:0、アンテイソ-C17:0、アンテイソ-C18:0、およびアンテイソ-C19:0分枝脂肪アルコールから選択される。
【0054】
分枝または非分枝脂肪酸誘導体のR基は、飽和性でも不飽和性でもよい。不飽和である場合には、R基は1つまたは複数の不飽和点を有しうる。いくつかの態様において、不飽和脂肪酸誘導体は一不飽和脂肪酸誘導体である。ある態様において、不飽和脂肪酸誘導体は、C6:1、C7:1、C8:1、C9:1、C10:1、C11:1、C12:1、C13:1、C14:1、C15:1、C16:1、C17:1、C18:1、C19:1、C20:1、C21:1、C22:1、C23:1、C24:1、C25:1、またはC26:1不飽和脂肪酸誘導体である。ある態様において、不飽和脂肪酸誘導体は、C10:1、C12:1、C14:1、C16:1、またはC18:1不飽和脂肪酸誘導体である。他の態様において、不飽和脂肪酸誘導体は、ω-7位置で不飽和である。ある態様において、不飽和脂肪酸誘導体は、シス二重結合を含む。
【0055】
本明細書で用いる場合、「クローン」という用語は、典型的には、単一の共通の祖先の子孫でありかつ該祖先と本質的に遺伝的に同一である、細胞または細胞群、例えば、単一の細菌細胞から生じたクローン化された細菌コロニーの細菌のことを指す。
【0056】
本明細書で用いる場合、「培養物」という用語は、典型的には、生細胞を含む液体培地のことを指す。1つの態様において、培養物は、制御された条件下で所定の培地中で再生する細胞、例えば、選択された炭素源および窒素を含む液体培地中で増殖させた組換え宿主細胞の培養物が含まれる。「培養する」または「培養」は、組換え宿主細胞の集団を、液体培地または固体培地中で、適した条件下で増殖させることを指す。特定の態様において、培養するとは、基質の最終産物への発酵性生物変換のことを指す。培養培地は周知であり、そのような培地の個々の構成成分は、例えば、Difco(商標)およびBBL(商標)の商標として、販売元から入手可能である。1つの非限定的な例では、水性栄養培地は、窒素、塩および炭素の複合的な供給源を含む「富栄養培地」、例えば、そのような培地当たり10g/Lのペプトンおよび10g/Lの酵母エキスを含むYP培地などである。培養物の宿主細胞は、米国特許第5,000,000号;第5,028,539号;第5,424,202号;第5,482,846号;第5,602,030号;WO2010127318号に記載に記載された方法に従って、炭素を効率的に同化し、セルロース系材料を炭素源として用いるようにさらに遺伝子操作することができる。加えて、いくつかの態様において、スクロースを炭素源として用いうるようなインベルターゼを発現するように宿主細胞を遺伝子操作する。
【0057】
本明細書で用いる場合、「遺伝子操作されたポリヌクレオチド配列を発現するのに有効な条件下」という用語は、宿主細胞が所望の脂肪酸誘導体を産生することを可能にする任意の条件を意味する。適した条件には、例えば、発酵条件が含まれる。
【0058】
本明細書で用いる場合、組換え宿主細胞におけるタンパク質、例えば酵素の「改変された」または「変更されたレベルの」活性とは、親または天然宿主細胞を基準として測定した、活性における1つまたは複数の特性の差異のことを指す。典型的には、活性の差異は、改変された活性を有する組換え宿主細胞と、対応する野生型宿主細胞との間で測定される(例えば、対応する野生型宿主細胞に対する組換え宿主細胞の培養物の比較)。活性の改変は、例えば、組換え宿主細胞によって発現されるタンパク質の量の改変(例えば、タンパク質をコードするDNA配列のコピー数の増加もしくは減少、タンパク質をコードするmRNA転写物の数の増加もしくは減少、および/またはmRNAからのタンパク質のタンパク質翻訳の量の増加もしくは減少の結果として);タンパク質の構造の変化(例えば、一次構造に対する変化、例えば、基質特異性の変化、観察される速度論的パラメーターの変化をもたらすタンパク質のコード配列に対する変化など);および、タンパク質安定性の変化(例えば、タンパク質の分解の増加もしくは減少)の結果でありうる。いくつかの態様において、ポリペプチドは、本明細書に記載のいずれかのポリペプチドの突然変異体または変異体である。場合によっては、本明細書に記載のポリペプチドのコード配列は、特定の宿主細胞における発現のためにコドンが最適化される。例えば、大腸菌における発現のために、1つまたは複数のコドンを、例えば、Grosjean et al., Gene 18:199-209 (1982)に記載されたように最適化することができる。
【0059】
「調節配列」という用語は、本明細書で用いる場合、典型的には、タンパク質をコードするDNA配列と機能的に連結された、該タンパク質の発現を最終的に制御するDNAの塩基の配列のことを指す。調節配列の例には、RNAプロモーター配列、転写因子結合配列、転写終結配列、転写のモジュレーター(エンハンサーエレメントなど)、RNA安定性に影響を及ぼすヌクレオチド配列、および翻訳調節配列(例えば、リボソーム結合部位(例えば、原核生物におけるShine-Dalgarno配列、または真核生物におけるKozak配列)、開始コドン、終止コドンなど)が非限定的に含まれる。
【0060】
「変更されたレベルの発現」および「改変されたレベルの発現」という用語は互換的に用いられ、ポリヌクレオチド、ポリペプチドまたは炭化水素が、遺伝子操作された宿主細胞において、同じ条件下での対応する野生型細胞におけるその濃度と比較して異なる濃度で存在することを意味する。
【0061】
本明細書で用いる場合、「力価」という用語は、宿主細胞培養物の単位容積当たりで産生される脂肪酸誘導体の数量のことを指す。本明細書に記載の組成物および方法の任意の局面において、脂肪酸誘導体は、約25mg/L、約50mg/L、約75mg/L、約100mg/L、約125mg/L、約150mg/L、約175mg/L、約200mg/L、約225mg/L、約250mg/L、約275mg/L、約300mg/L、約325mg/L、約350mg/L、約375mg/L、約400mg/L、約425mg/L、約450mg/L、約475mg/L、約500mg/L、約525mg/L、約550mg/L、約575mg/L、約600mg/L、約625mg/L、約650mg/L、約675mg/L、約700mg/L、約725mg/L、約750mg/L、約775mg/L、約800mg/L、約825mg/L、約850mg/L、約875mg/L、約900mg/L、約925mg/L、約950mg/L、約975mg/L、約1000mg/L、約1050mg/L、約1075mg/L、約1 100mg/L、約1125mg/L、約1150mg/L、約1175mg/L、約1200mg/L、約1225mg/L、約1250mg/L、約1275mg/L、約1300mg/L、約1325mg/L、約1350mg/L、約1375mg/L、約1400mg/L、約1425mg/L、約1450mg/L、約1475mg/L、約1500mg/L、約1525mg/L、約1550mg/L、約1575mg/L、約1600mg/L、約1625mg/L、約1650mg/L、約1675mg/L、約1700mg/L、約1725mg/L、約1750mg/L、約1775mg/L、約1800mg/L、約1825mg/L、約1850mg/L、約1875mg/L、約1900mg/L、約1925mg/L、約1950mg/L、約1975mg/L、約2000mg/L(2g/L)、3g/L、5g/L、10g/L、20g/L、30g/L、40g/L、50g/L、60g/L、70g/L、80g/L、90g/L、100g/L、または前記の値の任意の2つを境界とする範囲の力価で産生される。他の態様において、脂肪酸誘導体は、100g/Lを上回る、200g/Lを上回る、300g/Lを上回る、またはそれ以上、例えば500g/L、700g/L、1000g/L、1200g/L、1500g/Lまたは2000g/Lなどの力価で産生される。本開示の方法による組換え宿主細胞によって産生される脂肪酸誘導体の好ましい力価は、5g/L〜200g/L、10g/L〜150g/L、20g/L〜120g/L、および30g/L〜100g/Lである。1つの態様において、本開示の方法による組換え宿主細胞によって産生される脂肪酸誘導体の力価は、約1g/L〜約250g/L、より詳細には90g/L〜約120g/Lである。力価が、所与の組換え宿主細胞培養物によって産生されるある特定の脂肪酸誘導体または脂肪酸誘導体の組み合わせのことを指してもよい。
【0062】
本明細書で用いる場合、「宿主細胞によって産生される脂肪酸誘導体の収量」とは、投入炭素源が宿主細胞において生成物(すなわち、脂肪アルコールまたは脂肪アルデヒド)に変換される効率のことを指す。本開示の方法による脂肪酸誘導体を産生するように操作された宿主細胞は、少なくとも3%、少なくとも4%、少なくとも5%、少なくとも6%、少なくとも7%、少なくとも8%、少なくとも9%、少なくとも10%、少なくとも11%、少なくとも12%、少なくとも13%、少なくとも14%、少なくとも15%、少なくとも16%、少なくとも17%、少なくとも18%、少なくとも19%、少なくとも20%、少なくとも21%、少なくとも22%、少なくとも23%、少なくとも24%、少なくとも25%、少なくとも26%、少なくとも27%、少なくとも28%、少なくとも29%、または少なくとも30%、または前記の値の任意の2つを境界とする範囲の収量を有する。他の態様において、1つまたは複数の脂肪酸誘導体は、30%を上回る、40%を上回る、50%を上回る、60%を上回る、70%を上回る、80%を上回る、90%を上回る、またはそれ以上の収量で産生される。代替的または追加的に、収量は、約30%もしくはそれ未満、約27%もしくはそれ未満、約25%もしくはそれ未満、または約22%もしくはそれ未満である。したがって、収量は上記の終点の任意の2つを境界とすることができる。例えば、本開示の方法による組換え宿主細胞によって産生される脂肪アルコールまたは脂肪アルデヒドの収量は、5%〜15%、10%〜25%、10%〜22%、15%〜27%、18%〜22%、20%〜28%、または20%〜30%でありうる。1つの特定の態様において、組換え宿主細胞によって産生される1つまたは複数の脂肪酸誘導体の収量は約10%〜約40%である。もう1つの特定の態様において、組換え宿主細胞によって産生される1つまたは複数の脂肪酸誘導体の収量は約25%である。収量が、所与の組換え宿主細胞培養物によって産生されるある特定の脂肪酸誘導体または脂肪酸誘導体の組み合わせのことを指してもよい。
【0063】
本明細書で用いる場合、「産生能」という用語は、宿主細胞培養物の単位容積当たり・単位時間当たりに産生される1つまたは複数の脂肪酸誘導体の数量のことを指す。本明細書に記載の組成物および方法の任意の局面において、組換え宿主細胞によって産生される1つまたは複数の脂肪酸誘導体の産生能は、少なくとも100mg/L/時、少なくとも200mg/L/時、少なくとも300mg/L/時、少なくとも400mg/L/時、少なくとも500mg/L/時、少なくとも600mg/L/時、少なくとも700mg/L/時、少なくとも800mg/L/時、少なくとも900mg/L/時、少なくとも1000mg/L/時、少なくとも1100mg/L/時、少なくとも1200mg/L/時、少なくとも1300mg/L/時、少なくとも1400mg/L/時、少なくとも1500mg/L/時、少なくとも1600mg/L/時、少なくとも1700mg/L/時、少なくとも1800mg/L/時、少なくとも1900mg/L/時、少なくとも2000mg/L/時、少なくとも2100mg/L/時、少なくとも2200mg/L/時、少なくとも2300mg/L/時、少なくとも2400mg/L/時、または少なくとも2500mg/L/時である。例えば、本方法による組換え宿主細胞によって産生される1つまたは複数の脂肪酸誘導体の産生能は、500mg/L/時〜2500mg/L/時、または700mg/L/時〜2000mg/L/時であってよい。1つの特定の態様において、収量は約0.7mg/L/h〜約3g/L/hである。産生能は、所与の組換え宿主細胞培養物によって産生されるある特定の脂肪酸誘導体にも脂肪酸誘導体の組み合わせにも適用され得る。
【0064】
本明細書で用いる場合、「総脂肪種」および「総脂肪酸生成物」という用語は、国際特許出願公開第WO2008/119082号に記載されたようなGC-FIDによって評価される、脂肪アルコール、脂肪アルデヒドおよび脂肪酸の量を指して、本明細書において互換的に用いうる。脂肪エステル分析に言及する際には、これらの同じ用語を、脂肪エステルおよび遊離脂肪酸を意味して用いてもよい。
【0065】
本明細書で用いる場合、「グルコース利用率」という用語は、グラム数/リットル/時(g/L/hr)として報告される、培養物によって単位時間当たりに用いられるグルコースの量のことを指す。本明細書で用いる場合、「炭素源」という用語は、原核細胞または単純な真核細胞の増殖のための炭素の供給源として用いるのに適した基質または化合物のことを指す。炭素源は、重合体、炭水化物、酸、アルコール、アルデヒド、ケトン、アミノ酸、ペプチドおよび気体(例えば、COおよびCO
2)を非限定的に含む、さまざまな形態をとりうる。例示的な炭素源には、単糖類、例えばグルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、キシロースおよびアラビノースなど;オリゴ糖類、例えばフルクトオリゴ糖およびガラクトオリゴ糖など;多糖類、例えばデンプン、セルロース、ペクチンおよびキシランなど;二糖類、例えばスクロース、マルトース、セロビオースおよびツラノースなど;セルロース系材料および異形物、例えばヘミセルロース、メチルセルロースおよびカルボキシメチルセルロースナトリウムなど;飽和または不飽和脂肪酸、コハク酸塩、乳酸塩および酢酸塩;アルコール、例えばエタノール、メタノールおよびグリセロールなど、またはそれらの混合物が非限定的に含まれる。また、炭素源が、光合成の生成物、例えばグルコースなどであってもよい。ある好ましい態様において、炭素源はバイオマスである。他の好ましい態様において、炭素源はグルコースである。他の好ましい態様において、炭素源はスクロースである。
【0066】
本明細書で用いる場合、「バイオマス」という用語は、炭素源の由来となる任意の生体物質のことを指す。いくつかの態様において、バイオマスは処理されて、生物変換に適した炭素源となる。他の態様において、バイオマスは炭素源にするためのさらなる処理を必要としない。炭素源は、バイオ燃料に変換することができる。例示的なバイオマス源には、植物体または草木、例えばトウモロコシ、サトウキビまたはアメリカクサキビなどがある。もう1つの例示的なバイオマス源は、代謝廃棄産物、例えば動物性物質(例えば、牛糞肥料)などである。さらに例示的なバイオマス源には、藻類および他の海洋植物が含まれる。バイオマスにはまた、発酵廃棄物、エンシレージ、わら、木材、廃水、ゴミ、セルロース系都市廃棄物、および残飯を非限定的に含む、工業、農業、林業および家庭からの廃棄物も含まれる。「バイオマス」という用語はまた、炭水化物(例えば、単糖類、二糖類または多糖類)などの炭素源のことも指す。
【0067】
本明細書で用いる場合、生成物(脂肪酸およびその誘導体など)に関する「単離された」という用語は、細胞構成成分、細胞培養培地、または化学前駆体もしくは合成前駆体から単離された生成物のことを指す。本明細書に記載の方法によって産生される脂肪酸およびその誘導体は、発酵ブロス中、さらには細胞質中で比較的不混和性でありうる。このため、脂肪酸およびその誘導体は、細胞内または細胞外のいずれかで有機相に収集することができる。
【0068】
本明細書で用いる場合、「精製する」、「精製された」、または「精製」という用語は、例えば単離または分離による、分子のその環境からの除去または単離を意味する。「実質的に精製された」分子は、それらに付随する他の構成成分を少なくとも約60%含まない(例えば、少なくとも約70%含まない、少なくとも約75%含まない、少なくとも約85%含まない、少なくとも約90%含まない、少なくとも約95%含まない、少なくとも約97%含まない、少なくとも約99%含まない)。本明細書で用いる場合、これらの用語はまた、試料からの混入物の除去のことも指す。例えば、混入物の除去は、試料中の脂肪酸誘導体のパーセンテージの増加をもたらすことができる。例えば、脂肪酸誘導体が組換え宿主細胞において産生される場合、脂肪酸誘導体は、組換え宿主細胞タンパク質の除去によって精製することができる。精製後に、試料中の脂肪酸誘導体のパーセンテージは増加する。「精製する」、「精製された」、および「精製」という用語は、完全に純粋であることを必要としない相対的な用語である。したがって、例えば、脂肪酸誘導体が組換え宿主細胞において産生される場合、精製された脂肪酸誘導体は、他の細胞構成成分(例えば、核酸、ポリペプチド、脂質、炭水化物、または他の炭化水素)から実質的に分離された脂肪酸誘導体である。
【0069】
菌株改良
脂肪酸誘導体の高い力価、収量および/または産生能を引き起こすために、産生宿主細胞にいくつかの改変を加えた。FadRは、脂肪酸分解経路および脂肪酸生合成経路に関与する重要な調節因子である(Cronan et al., Mol Microbiol, 29(4): 937-943 (1998))。大腸菌のACS酵素FadDおよび脂肪酸輸送タンパク質FadLは、脂肪酸取り込み系の構成成分である。FadLは細菌細胞内への脂肪酸の輸送を媒介し、FadDはアシル-CoAエステルの形成を媒介する。他の炭素源が利用できない場合には、外来性の脂肪酸が細菌によって取り込まれてアシル-CoAエステルに変換され、これは、転写因子FadRと結合して、脂肪酸の輸送(FadL)、活性化(FadD)およびβ-酸化(FadA、FadB、FadEおよびFadH)を担うタンパク質をコードするfad遺伝子の発現を低下させることができる。代替的な炭素源が利用できる場合には、細菌は脂肪酸をアシル-ACPとして合成し、これは、リン脂質合成には用いられるがβ-酸化の基質ではない。したがって、アシル-CoAおよびアシル-ACPはいずれも、異なる最終産物をもたらしうる、脂肪酸の独立した供給源である(Caviglia et al., J Biol. Chem., 279(12): 1163-1169 (2004))。
【0070】
大腸菌などの宿主細胞における脂肪酸生合成を律しうる因子に関して、当技術分野では見解が対立している。提唱案の1つは、脂肪酸生合成のための主な前駆体、例えば、アセチル-CoAおよびマロニル-CoAが限られることにより、脂肪酸誘導体の合成の減少が生じうるというものである。脂肪酸生合成を経由する流れを増大させる1つのアプローチは、経路内のさまざまな酵素を操作することである(
図1および2を参照)。実施例3では、マロニル-CoAのアシル-ACPへの変換のための生合成経路における酵素をコードするfabオペロンの構築、および大腸菌宿主細胞の染色体への組み込みについて述べている。理論に拘束されることは望まないが、このことは脂肪酸生合成の流れを増大させる可能性がある。アセチル-CoAカルボキシラーゼ(acc)複合体および脂肪酸生合成(fab)経路を介したアセチル-CoAからのアシル-ACPの供給は、脂肪酸誘導体の産生の速度を律する可能性のあるもう1つの段階である(
図3参照)。実施例2は、最適化された型の大腸菌コリネバクテリウム・グルタミクムaccABCD(±birA)の過剰発現の影響により、そのような遺伝的改変が大腸菌におけるアセチル-coAおよびマロニル-CoAの産生増大を導きうることが実証されたことを示している。
【0071】
もう1つのアプローチでは、実施例4に示されているように、大腸菌宿主細胞におけるrph遺伝子およびilvG遺伝子の突然変異により、より多くの遊離脂肪酸(FFA)産生がもたらされ、それがひいてはより多くの脂肪アルコール産生につながったことが示された。さらなるもう1つのアプローチでは、力価または収量を増大させる有益な突然変異を見いだすために、トランスポゾン突然変異誘発およびハイスループットスクリーニングを実施した。実施例5に示されているように、yijP遺伝子におけるトランスポゾン挿入により、振盪フラスコ発酵および流加発酵における脂肪アルコール収量を改善することができる。
【0072】
組換え宿主細胞による脂肪酸誘導体の産生
本開示は、本明細書に記載の脂肪酸生合成経路における使用に適する活性を有するポリペプチド(すなわち、酵素)の数多くの例を提供する。そのようなポリペプチドは、本明細書において「脂肪酸生合成ポリペプチド」または「脂肪酸生合成酵素」と総称される。本開示の組換え宿主細胞における使用に適する脂肪酸経路ポリペプチドの非限定的な例は、本明細書において提供される。いくつかの態様において、本開示は、脂肪酸生合成ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を含む組換え宿主細胞を含む。脂肪酸生合成ポリペプチドをコードするオープンリーディングフレームおよび機能的に連結された調節配列を含むポリヌクレオチド配列を、組換え宿主細胞の染色体中に組み込むこと、組換え宿主細胞内に常在する1つもしくは複数のプラスミド発現系の中に組み入れること、またはその両方が可能である。1つの態様において、脂肪酸生合成ポリヌクレオチド配列は、操作される組換え宿主細胞の親宿主細胞(すなわち、対照細胞)にとって内因性であるポリペプチドをコードする。そのような内因性ポリペプチドのいくつかは、組換え宿主細胞において過剰発現される。もう1つの態様において、脂肪酸生合成ポリヌクレオチド配列は、外来性または異種ポリペプチドをコードする。換言すれば、ポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドは親宿主細胞にとって外来性である。さらにもう1つの態様において、遺伝子改変された宿主細胞は、宿主細胞が脂肪酸生合成酵素の基質、すなわち脂肪アシル-チオエステル基質を産生する速度を増大させるポリペプチド(タンパク質)をコードする遺伝子を過剰発現する。ある態様において、発現される遺伝子によってコードされる酵素は脂肪酸生合成に直接関与する。そのような組換え宿主細胞を、1つまたは複数の脂肪酸生合成ポリペプチド(すなわち、脂肪酸生合成に関与する酵素)をコードするポリヌクレオチド配列を含むようにさらに操作してもよい。そのようなポリペプチドの例としては、チオエステラーゼ活性を有するポリペプチドもしくはタンパク質(組換え宿主細胞は脂肪酸を合成する);またはチオエステラーゼ活性およびカルボン酸レダクターゼ(CAR)活性を有するポリペプチドもしくはタンパク質(組換え宿主細胞は脂肪アルデヒドおよび脂肪アルコールを合成する);または、チオエステラーゼ活性、カルボン酸レダクターゼ活性およびアルコールデヒドロゲナーゼ活性を有するポリペプチドもしくはタンパク質(組換え宿主細胞は脂肪アルコールを合成する);またはアシル-CoAレダクターゼ(AAR)活性を有するポリペプチドもしくはタンパク質(組換え宿主細胞は脂肪アルデヒドおよび脂肪アルコールを合成する);または、アシル-CoAレダクターゼ(AAR)活性およびアルコールデヒドロゲナーゼ活性を有するポリペプチドもしくはタンパク質(組換え宿主細胞は脂肪アルコールを合成する);または脂肪アルコール生成性のアシル-CoAレダクターゼ(FAR)活性を有するポリペプチドもしくはタンパク質(組換え宿主細胞は脂肪アルコールを合成する);またはチオエステラーゼ活性、カルボン酸レダクターゼ活性およびアルデヒドデカルボニラーゼ活性を有するポリペプチドもしくはタンパク質(組換え宿主細胞はアルカンを合成する);またはアシル-CoAレダクターゼ活性およびアルデヒドデカルボニラーゼ活性を有するポリペプチドもしくはタンパク質(組換え宿主細胞はアルカンを合成する);またはエステルシンターゼ活性を有するポリペプチドもしくはタンパク質(例えば、一酵素系;
図5参照)(組換え宿主細胞は脂肪エステルを合成する);またはチオエステラーゼ活性、アシル-CoAシンターゼ活性およびエステルシンターゼ活性を有するポリペプチドもしくはタンパク質(例えば、三酵素系;
図5参照)(組換え宿主細胞は脂肪エステルを合成する);またはOleA活性を有するポリペプチドもしくはタンパク質(組換え宿主細胞は脂肪族ケトンを合成する);またはOleABCD活性を有するポリペプチドもしくはタンパク質(組換え宿主細胞は内部オレフィンを合成する);またはチオエステラーゼ活性およびデカルボキシラーゼ活性を有するポリペプチドもしくはタンパク質(組換え宿主細胞は末端オレフィンを合成する);またはそれらの組み合わせが挙げられる。いくつかの態様において、脂肪酸生合成ポリヌクレオチドによってコードされる少なくとも1つのポリペプチドは、外来性(または異種)ポリペプチド(例えば、親宿主細胞以外の生物から生じたポリペプチド、または親微生物細胞にとって天然であるポリペプチドの変異体)または内因性ポリペプチド(すなわち、親宿主細胞にとって天然であるポリペプチド)であり、ここで内因性ポリペプチドは組換え宿主細胞において過剰発現される。
【0073】
以下の表1は、特定の脂肪酸誘導体の産生を促進するために組換え宿主細胞において発現させることのできる例示的なタンパク質のリストを提示している。
【0075】
脂肪酸の産生
組換え宿主細胞は、チオエステラーゼ、例えば、酵素委員会番号(Enzyme Commission number)EC 3.1.1.5またはEC 3.1.2‐(例えば、EC 3.1.2.14)をコードするオープンリーディングフレームを、組換え宿主細胞におけるタンパク質の発現を促進する機能的に連結された調節配列とともに含む、1つまたは複数のポリヌクレオチド配列を含みうる。組換え宿主細胞において、オープンリーディングフレームコード配列および/または調節配列は、チオエステラーゼをコードする対応する野生型遺伝子に比して改変される。組換え宿主細胞におけるチオエステラーゼの活性は、対応する宿主細胞において対応する野生型遺伝子から発現されるチオエステラーゼの活性に比して改変される。いくつかの態様において、脂肪酸を含む脂肪酸誘導体組成物は、組換え細胞を、炭素源の存在下で、チオエステラーゼを発現させるのに適した条件下で培養することによって産生される。関連した態様において、組換え宿主細胞は、チオエステラーゼ活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および、他の脂肪酸生合成酵素活性を有するポリペプチドをコードする1つまたは複数のさらなるポリヌクレオチドを含む。いくつかのそのような場合には、チオエステラーゼの作用によって生成された脂肪酸が、異なる脂肪酸生合成酵素活性を有する1つまたは複数の酵素によって、別の脂肪酸誘導体、例えば脂肪エステル、脂肪アルデヒド、脂肪アルコール、または炭化水素などに変換される。
【0076】
それらから作られる脂肪酸または脂肪酸誘導体の鎖長は、特定のチオエステラーゼの発現を改変することによって選択することができる。チオエステラーゼは、生成される脂肪酸誘導体の鎖長に影響を及ぼす。脂肪酸誘導体基質の鎖長は、選択されたチオエステラーゼ(EC 3.1. 2.14またはEC 3.1.1.5)の発現を改変することによって選択することができる。それゆえに、宿主細胞は、好ましい脂肪酸誘導体基質の産生を増加させるために、1つまたは複数の選択されたチオエステラーゼを発現するように、過剰発現するように、発現が減弱するように、または発現しないように操作することができる。例えば、C
10脂肪酸は、C
10脂肪酸を生成する選好性を有するチオエステラーゼを発現させること、および、C
10脂肪酸以外の脂肪酸を生成する選好性を有するチオエステラーゼ(例えば、C
14脂肪酸を生成することを選好するチオエステラーゼ)を減弱させることによって産生させることができる。このことは、炭素鎖長10を有する脂肪酸の比較的均一な集団をもたらすと考えられる。また別の場合には、非C
14脂肪酸を生成する内因性チオエステラーゼを減弱させること、およびC
14-ACPを利用するチオエステラーゼを発現させることによって、C
14脂肪酸を産生させることができる。場合によっては、C
12脂肪酸は、C
12-ACPを利用するチオエステラーゼを発現させること、および非C
12脂肪酸を生成するチオエステラーゼを減弱させることによって産生させることができる。例えば、C12脂肪酸は、C12脂肪酸を生成する選好性を有するチオエステラーゼを発現させること、およびC12脂肪酸以外の脂肪酸を生成する選好性を有するチオエステラーゼを減弱させることによって産生させることができる。このことは、炭素鎖長12を有する脂肪酸の比較的均一な集団をもたらすと考えられる。脂肪酸誘導体は培養培地から回収され、脂肪酸誘導体の実質的にすべてが細胞外に産生される。組換え宿主細胞によって産生された脂肪酸誘導体組成物は、個々の脂肪酸誘導体の分布、ならびに脂肪酸誘導体組成物の構成成分の鎖長および飽和度を決定する目的で、当技術分野において公知の方法、例えばGC-FIDを用いて分析することができる。アセチル-CoA、マロニル-CoAおよび脂肪酸の過剰産生は、当技術分野において公知の方法を用いて、例えば、細胞溶解後の放射活性前駆体、HPLCまたはGC-MSの使用によって検証することができる。脂肪酸経路に用いるためのチオエステラーゼおよびそれらをコードするポリヌクレオチドのさらなる非限定的な例は、参照により本明細書に明示的に組み入れられるPCT出願公開第WO2010/075483号に提供されている。
【0077】
脂肪アルデヒドの産生
1つの態様において、組換え宿主細胞は脂肪アルデヒドを産生する。いくつかの態様において、組換え宿主細胞によって産生された脂肪酸は脂肪アルデヒドに変換される。いくつかの態様において、組換え宿主細胞によって産生された脂肪アルデヒドは、続いて脂肪アルコールまたは炭化水素に変換される。いくつかの態様においては、天然(内因性)脂肪アルデヒド生合成ポリペプチド、例えばアルデヒドレダクターゼなどが宿主細胞(例えば、大腸菌)に存在し、脂肪アルデヒドを脂肪アルコールに変換させるのに有効である。他の態様においては、天然(内因性)脂肪アルデヒド生合成ポリペプチドを過剰発現させる。さらなる他の態様においては、外来性脂肪アルデヒド生合成ポリペプチドを組換え宿主細胞に導入して、発現または過剰発現させる。天然宿主細胞または組換え宿主細胞は、脂肪アルデヒド生合成活性を有する酵素(例えば、脂肪アルデヒド生合成ポリペプチドまたは脂肪アルデヒド生合成ポリペプチドまたは酵素)をコードするポリヌクレオチドを含みうる。脂肪アルデヒドは、脂肪アルデヒド生合成酵素が宿主細胞において発現または過剰発現された時に産生される。脂肪アルデヒドを産生するように操作された組換え宿主細胞は、典型的には、脂肪アルデヒドの一部を脂肪アルコールに変換する。いくつかの態様において、脂肪アルデヒドは、脂肪アルデヒド生合成活性、例えばカルボン酸レダクターゼ(CAR)活性などを有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを、組換え宿主細胞において発現または過剰発現させることによって産生される。CarBは例示的なカルボン酸レダクターゼの1つである。本開示の実施に当たっては、カルボン酸レダクターゼポリペプチドをコードする遺伝子を、宿主細胞において発現または過剰発現させる。いくつかの態様において、CarBポリペプチドはSEQ ID NO:7のアミノ酸配列を有する。他の態様において、CarBポリペプチドはSEQ ID NO:7の変異体または突然変異体である。カルボン酸レダクターゼ(CAR)ポリペプチドおよびそれらをコードするポリヌクレオチドの例には、FadD9(EC 6.2.1.-、UniProtKB Q50631、GenBank NP_217106、SEQ ID NO:34)、CarA(GenBank ABK75684)、CarB(GenBank YP889972;SEQ ID NO:33)、ならびに参照により本明細書に明示的に組み入れられるPCT公開第WO2010/042664号および米国特許第8,097,439号に記載された関連ポリペプチドが非限定的に含まれる。いくつかの態様において、組換え宿主細胞は、チオエステラーゼをコードするポリヌクレオチドをさらに含む。いくつかの態様において、脂肪アルデヒドは、脂肪アルデヒド生合成ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、例えばアシル-ACPレダクターゼ(AAR)活性を有するポリペプチドなどを、組換え宿主細胞において発現または過剰発現させることによって産生される。組換え宿主細胞におけるアシル-ACPレダクターゼの発現は、脂肪アルデヒドおよび脂肪アルコールの産生(
図4参照)。組換え宿主細胞(例えば、大腸菌)に存在する天然(内因性)アルデヒドレダクターゼは、脂肪アルデヒドを脂肪アルコールに変換することができる。例示的なアシル-ACPレダクターゼポリペプチドは、PCT公開第WO2009/140695号および第WO/2009/140696号に記載されており、これらはいずれも参照により本明細書に明示的に組み入れられる。脂肪アルデヒドを含む組成物(脂肪アルデヒド組成物)は、炭素源の存在下で、脂肪アルデヒド生合成酵素を発現させるのに有効な条件下で宿主細胞を培養することによって、産生される。いくつかの態様において、脂肪アルデヒド組成物は脂肪アルデヒドおよび脂肪アルコールを含む。典型的には、脂肪アルデヒド組成物は、組換え宿主細胞の細胞外環境、すなわち細胞培養培地から回収される。
【0078】
脂肪アルコールの産生
いくつかの態様において、組換え宿主細胞は、脂肪アルコール生合成活性を有するポリペプチド(酵素)(脂肪アルコール生合成ポリペプチドまたは脂肪アルコール生合成酵素)をコードするポリヌクレオチドを含み、脂肪アルコールが組換え宿主細胞によって産生される。脂肪アルコールを含む組成物(脂肪アルコール組成物)は、炭素源の存在下で、脂肪アルコール生合成酵素を発現させるのに有効な条件下で組換え宿主細胞を培養することによって、産生させうる。いくつかの態様において、脂肪アルコール組成物は脂肪アルコールを含むが、脂肪アルコール組成物が他の脂肪酸誘導体を含んでもよい。典型的には、脂肪アルコール組成物は、組換え宿主細胞の細胞外環境、すなわち細胞培養培地から回収される。1つのアプローチでは、アシル-ACPの遊離脂肪酸(FFA)への変換を触媒するチオエステラーゼ、および遊離脂肪酸を脂肪アルデヒドに変換するカルボン酸レダクターゼ(CAR)を発現させることによって、脂肪アルコールを産生するように組換え宿主細胞を操作した。宿主細胞(例えば、大腸菌)に存在する天然(内因性)アルデヒドレダクターゼは、脂肪アルデヒドを脂肪アルコールに変換することができる。いくつかの態様において、宿主細胞に存在する天然(内因性)脂肪アルデヒド生合成ポリペプチド、例えばアルデヒドレダクターゼなどは、脂肪アルデヒドを脂肪アルコールに変換するのに十分でありうる。しかし、他の態様において、天然(内因性)脂肪アルデヒド生合成ポリペプチドは過剰発現され、さらに別の態様において、外来性脂肪アルデヒド生合成ポリペプチドは組換え宿主細胞に導入されて、発現または過剰発現される。いくつかの態様において、脂肪アルコールは、脂肪アルデヒドを脂肪アルコールに変換する脂肪アルコール生合成活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを、組換え宿主細胞において発現または過剰発現させることによって産生される。例えば、アルコールデヒドロゲナーゼ(アルデヒドレダクターゼ、例えば、EC 1.1.1.1)を、本開示の実施に際して用いてもよい。本明細書で用いる場合、アルコールデヒドロゲナーゼとは、脂肪アルデヒドのアルコール(例えば、脂肪アルコール)への変換を触媒しうるポリペプチドのことを指す。当業者は、ある種のアルコールデヒドロゲナーゼは他の反応も触媒しうることを理解していると考えられ、これらの非特異的アルコールデヒドロゲナーゼもアルコールデヒドロゲナーゼの範囲に含まれる。本開示に従って有用なアルコールデヒドロゲナーゼポリペプチドの例には、アシネトバクター属種M-1(Acinetobacter sp. M-1)のAlrA(SEQ ID NO:3)またはAlrAホモログ、例えばAlrAadp1(SEQ ID NO:4)など、および内因性大腸菌アルコールデヒドロゲナーゼ、例えばYjgB(AAC77226)(SEQ ID NO:5)、DkgA(NP_417485)、DkgB(NP_414743)、YdjL(AAC74846)、YdjJ(NP_416288)、AdhP(NP_415995)、YhdH(NP_417719)、YahK(NP_414859)、YphC(AAC75598)、YqhD(446856)およびYbbO[AAC73595.1]などが非限定的に含まれる。そのほかの例は、国際特許出願公開第WO2007/136762号、WO2008/119082号およびWO 2010/062480号に記載されており、これらはそれぞれ、参照により本明細書に明示的に組み入れられる。ある態様において、脂肪アルコール生合成ポリペプチドはアルデヒドレダクターゼ活性またはアルコールデヒドロゲナーゼ活性を有する(EC 1.1.1.1)。
【0079】
もう1つのアプローチでは、脂肪アルコール生成性アシル-CoAレダクターゼ、または脂肪アシル-チオエステル基質(例えば、脂肪アシル-CoAまたは脂肪アシル-ACP)を脂肪アルコールに変換する脂肪アシルレダクターゼ(FAR)を発現させることによって、脂肪アルコールを産生するように組換え宿主細胞を操作した。いくつかの態様において、脂肪アルコールは、脂肪アルコール生成性アシル-CoAレダクターゼ(FAR)活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを組換え宿主細胞において発現または過剰発現させることによって産生される。この態様に従って有用なFARポリペプチドの例は、PCT公開第WO2010/062480号に記載されており、これは参照により本明細書に明示的に組み入れられる。脂肪アルコールを、脂肪アシル-ACPおよび脂肪アシル-CoA中間体を利用するアシル-CoA依存性経路、ならびに脂肪アシル-ACP中間体を利用するが脂肪アシル-CoA中間体は利用しないアシル-CoA非依存的経路を介して産生させることもできる。特定の態様において、過剰発現される遺伝子によってコードされる酵素は、脂肪酸シンターゼ、アシル-ACPチオエステラーゼ、脂肪アシル-CoAシンターゼおよびアセチル-CoAカルボキシラーゼから選択される。いくつかの態様において、過剰発現される遺伝子によってコードされるタンパク質は、宿主細胞にとって内因性である。他の態様において、過剰発現される遺伝子によってコードされるタンパク質は、宿主細胞にとって異種である。脂肪アルコールはまた、さまざまなアシル-ACP分子またはアシル-CoA分子を対応する第一級アルコールに還元することのできる酵素により、天然にも作られる。参照により本明細書に明示的に組み入れられる、米国特許公開第20100105963号および第20110206630号ならびに米国特許第8097439号も参照されたい。組換え宿主細胞による脂肪アルコールの産生を増加させるための戦略には、脂肪アルコール生合成を増加させるような産生宿主における天然脂肪酸生合成遺伝子の過剰発現および/または異なる生物由来の外因性脂肪酸生合成遺伝子の発現により、脂肪酸生合成経路を経由する流れを増大させることが含まれる。
【0080】
エステルの産生
本明細書で用いる場合、「脂肪エステル」という用語は、エステルに関して用いることができる。本明細書において言及される脂肪エステルは、脂肪酸から作られるあらゆるエステル、例えば脂肪酸エステルでありうる。いくつかの態様において、脂肪エステルはA側およびB側を含む。本明細書で用いる場合、エステルの「A側」とは、エステルのカルボン酸酸素に結びついた炭素鎖のことを指す。本明細書で用いる場合、エステルの「B側」とは、エステルの親カルボン酸を含む炭素鎖のことを指す。脂肪エステルが脂肪酸生合成経路に由来する態様において、A側はアルコールにより与えられ、B側は脂肪酸により与えられる。あらゆるアルコールを、脂肪エステルのA側を形成するために用いることができる。例えば、アルコールが脂肪酸生合成経路に由来してもよい。または、アルコールを非脂肪酸生合成経路を介して生成させることもできる。さらに、アルコールを外来的に与えることもできる。例えば、脂肪エステルが生物によって産生される場合には、アルコールを発酵ブロス中に供給することができる。または、脂肪エステルがアルコールも産生しうる生物によって産生される場合には、脂肪酸または酢酸などのカルボン酸を外来的に供給することもできる。A側またはB側を含む炭素鎖は、任意の長さであってよい。1つの態様において、エステルのA側は少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、10、12、14、16、または18炭素長である。脂肪エステルが脂肪酸メチルエステルである場合、エステルのA側は1炭素長である。脂肪エステルが脂肪酸エチルエステルである場合、エステルのA側は2炭素長である。エステルのB側は、少なくとも約4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、または26炭素長であってよい。A側および/またはB側は、直鎖または分枝鎖でありうる。分枝鎖は1つまたは複数の分枝点を有しうる。加えて、分枝鎖が環状分枝を含むこともできる。その上、A側および/またはB側は飽和性でも不飽和性でもよい。不飽和である場合には、A側および/またはB側は1つまたは複数の不飽和点を有しうる。1つの態様において、脂肪エステルは生合成で生成される。この態様においては、第1の脂肪酸が活性化される。「活性化」脂肪酸の非限定的な例には、アシル-CoA、アシルACPおよびアシルリン酸がある。アシル-CoAは脂肪酸の生合成または分解の直接的な生成物でありうる。加えて、アシル-CoAを、遊離脂肪酸、CoAおよびアデノシンヌクレオチド三リン酸(ATP)から合成することもできる。アシル-CoAを生成する酵素の一例はアシル-CoAシンターゼである。いくつかの態様において、組換え宿主細胞は、エステルシンターゼ活性を有するポリペプチド、例えば、酵素(エステルシンターゼポリペプチドまたはエステルシンターゼ)をコードするポリヌクレオチドを含む。
【0081】
脂肪エステルは、組換え宿主細胞において発現または過剰発現されたエステルシンターゼポリペプチドによって触媒される反応によって生成される。いくつかの態様において、脂肪エステルを含む組成物は、組換え細胞を、炭素源の存在下で、エステルシンターゼを発現させるのに有効な条件下で培養することによって産生される。いくつかの態様において、脂肪エステル組成物は細胞培養物から回収される。エステルシンターゼポリペプチドには、例えば、EC 2.3.1.75に分類されるエステルシンターゼポリペプチド、または、チオエステラーゼ、エステルシンターゼ、アシル-CoA:アルコールトランスアシラーゼ、アシルトランスフェラーゼ、または脂肪アシル-CoA:脂肪アルコールアシルトランスフェラーゼを非限定的に含む、アシル-チオエステルの脂肪エステルへの変換を触媒する他の任意のポリペプチドが含まれる。例えば、ポリヌクレオチドが、ホホバ(Simmondsia chinensis)、アシネトバクター属種菌株ADP、アルカニボラックス・ボルクメンシス(Alcanivorax borkumensis)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、ファンジバクター・ジャデンシス(Fundibacter jadensis)、アラビドプシス・タリアナ(Avabidopsis thaliana)、またはアルカリゲネス・ユートロフス(Alkaligenes eutrophus)由来の二機能性エステルシンターゼ/アシル-CoA:ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼであるwax/dgatをコードしてもよい。1つの特定の態様において、エステルシンターゼポリペプチドは、アシネトバクター属種のジアシルグリセロールO-アシルトランスフェラーゼ(wax-dgaT;UniProtKB Q8GGG1、GenBank AAO17391)またはホホバの蝋シンターゼ(UniProtKB Q9XGY6、GenBank AAD38041である。もう1つの態様において、エステルシンターゼポリペプチドは、例えば、ES9(マリノバクター・ハイドロカーボノクラスティカス(Marinobacter hydrocarbonoclasticus)DSM 8798由来の蝋エステルシンターゼ、UniProtKB A3RE51(SEQ ID NO:6);マリノバクター・ハイドロカーボノクラスティカスDSM8789のES8(GenBankアクセッション番号ABO21021;SEQ ID NO:7);ws2遺伝子によってコードされるGenBank ABO21021;またはES376(ws1遺伝子によってコードされる、マリノバクター・ハイドロカーボノクラスティカスDSM 8798に由来するもう1つの蝋エステルシンターゼ、UniProtKB A3RE50、GenBank ABO21020。1つの特定の態様においては、エステルシンターゼポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを、組換え宿主細胞において過剰発現させる。いくつかの態様において、脂肪酸エステルは、3種の脂肪酸生合成酵素:チオエステラーゼ酵素、アシル-CoAシンテターゼ(fadD)酵素およびエステルシンターゼ酵素を発現するように操作された組換え宿主細胞によって産生される(例えば、三酵素系;
図5参照)。他の態様において、脂肪酸エステルは、エステルシンターゼ酵素という1つの脂肪酸生合成酵素を発現するように操作された組換え宿主細胞によって産生される(例えば、一酵素系;
図5参照)。これらの態様における使用に適するエステルシンターゼポリペプチドおよびそれらをコードするポリヌクレオチドの非限定的な例には、PCT公開第WO2007/136762号およびWO2008/119082号、ならびにWO/2011/038134号(三酵素系)およびWO/2011/038132号(一酵素系)に記載されたものが含まれ、これらはそれぞれ、参照により本明細書に明示的に組み入れられる。組換え宿主細胞は、宿主細胞の細胞外環境に、脂肪酸メチルエステル、脂肪酸エチルエステルまたは蝋エステルなどの脂肪エステルを産生することができる。
【0082】
炭化水素の産生
本開示のこの局面は、少なくとも一部には、組換え宿主細胞において、脂肪アルデヒド生合成ポリペプチド、例えばアシル-ACPレダクターゼポリペプチド(EC 6.4.1.2)、および炭化水素生合成ポリペプチド、例えばデカルボニラーゼの発現レベルを変更することにより、組換え宿主細胞による炭化水素の産生強化が促進されるという発見に基づく。1つの態様において、組換え宿主細胞は、アルカンまたはアルケン(例えば、末端オレフィンもしくは内部オレフィン)またはケトンなどの炭化水素を産生する。いくつかの態様において、組換え宿主細胞によって産生された脂肪アルデヒドは、脱カルボニルによって変換され、炭素原子が除去されて炭化水素となる。他の態様において、組換え宿主細胞によって産生された脂肪酸は脱カルボキシルによって変換され、炭素原子が除去されて末端オレフィンとなる。いくつかの態様において、アシル-ACP中間体は脱カルボキシルによって変換され、炭素原子が除去されて内部オレフィンまたはケトンとなる(
図6参照)。いくつかの態様において、組換え宿主細胞は、炭化水素生合成活性を有するポリペプチド(酵素)(炭化水素生合成ポリペプチドまたは炭化水素生合成酵素)をコードするポリヌクレオチドを含み、組換え宿主細胞における炭化水素生合成酵素の発現または過剰発現によって炭化水素が産生されるアシル-アシルキャリアータンパク質レダクターゼ(AAR)およびアルデヒドデカルボニラーゼ(ADC)(これらは一緒になって脂肪酸代謝の中間体をアルカンおよびアルケンに変換する)からなるシアノバクテリウム由来のアルカン生合成経路を用いて、炭化水素の産生のための組換え宿主細胞を遺伝子操作した(
図6)。シアノバクテリウムにおいて飽和アシル-ACPがアルカンに変換されるこの経路における2つの反応のうち第2のものは、組成不明の複核金属補因子を伴うフェリチン様タンパク質である酵素アルデヒドデカルボニラーゼ(ADC)による、脂肪アルデヒド中間体のC1-C2結合の分断を伴う。いくつかの態様において、炭化水素は、アルデヒドデカルボニラーゼ(ADC)活性(例えば、EC 4.1.99.5)などの炭化水素生合成活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを、組換え宿主細胞において発現または過剰発現させることによって産生される。この態様に従って有用なアルデヒドデカルボニラーゼをコードする例示的なポリヌクレオチドには、参照により本明細書に明示的に組み入れられるPCT公開第WO2008/119082号およびWO2009/140695号に記載されたもの、ならびに以下の表2に提示された配列が非限定的に含まれる。いくつかの態様において、組換え宿主細胞は、脂肪アルデヒド生合成ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドをさらに含む。いくつかの態様において、組換え宿主細胞は、アシル-ACPレダクターゼをコードするポリヌクレオチドをさらに含む。例えば、以下の表2を参照されたい。
【0083】
(表2)例示的な炭化水素生合成ポリヌクレオチドおよびポリペプチド
【0084】
いくつかの態様において、を含む組成物は、組換え細胞を、炭素源の存在下で、アシル-CoAレダクターゼおよびデカルボニラーゼポリヌクレオチドを発現させるのに有効な条件下で培養することによって産生される。いくつかの態様において、炭化水素組成物は飽和および不飽和炭化水素を含む。しかし、炭化水素組成物が他の脂肪酸誘導体を含んでもよい。典型的には、炭化水素組成物は、組換え宿主細胞の細胞外環境、すなわち細胞培養培地から回収される。本明細書で用いる場合、アルカンとは、炭素(C)および水素(H)のみからなる飽和炭化水素または化合物のことを指し、これらの原子は単一の結合によって連結されている(すなわち、それらは飽和化合物である)。オレフィンおよびアルケンは、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を含む炭化水素のことを指す(すなわち、それらは不飽和化合物である)。末端オレフィン、α-オレフィン、末端アルケンおよび1-アルケンは、化学式がCxH2xであるα-オレフィンまたはアルケンの同一化合物を指し、これは、炭化水素鎖が直鎖状であることおよび二重結合の位置が第一の位置またはα位置にあることにより、類似の分子式を有する他のオレフィンとは区別される。いくつかの態様において、末端オレフィンは、例えば、参照により本明細書に明示的に組み入れられるPCT公開第WO2009/085278号に記載されたようなデカルボキシラーゼ活性を有するポリペプチドといった、炭化水素生合成ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを、組換え宿主細胞において発現または過剰発現させることによって産生される。いくつかの態様において、組換え宿主細胞は、チオエステラーゼをコードするポリヌクレオチドをさらに含む。他の態様において、ケトンは、例えば、参照により本明細書に明示的に組み入れられるPCT公開第WO2008/147781号に記載されたようなOleA活性を有するポリペプチドといった、炭化水素生合成ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを、組換え宿主細胞において発現または過剰発現させることによって産生される。関連した態様において、内部オレフィンは、OleCD活性またはOleBCD活性を有するポリペプチドといった炭化水素生合成ポリペプチドを、例えば、参照により本明細書に明示的に組み入れられるPCT公開第WO2008/147781号に記載されたようなOleA活性を有するポリペプチドとともにコードするポリヌクレオチドを、組換え宿主細胞において発現または過剰発現させることによって産生される。
【0085】
組換え宿主細胞および細胞培養物
組換え宿主細胞による脂肪酸誘導体の産生を増加させるための戦略には、産生宿主における、天然脂肪酸生合成遺伝子の過剰発現および異なる生物由来の外因性脂肪酸生合成遺伝子の発現による、脂肪酸生合成経路を経由する流れの増大が含まれる。本明細書で用いる場合、組換え宿主細胞または操作された宿主細胞とは、例えば、新たな遺伝因子の人為的導入、および/または宿主細胞内に天然に存在する遺伝因子の人為的改変によって、対応する野生型宿主細胞に比して遺伝子構造が変更された宿主細胞のことを指す。そのような組換え宿主細胞の子孫も、これらの新たな、および/または改変された遺伝因子を含有する。本明細書に記載の本開示の諸局面の任意のものにおいて、宿主細胞は、植物細胞、昆虫細胞、真菌細胞(例えば、カンジダ属種(Candida sp.)などの糸状菌、またはサッカロミセス属種(Saccharomyces sp.)などの出芽酵母)、藻類細胞および細菌細胞からなる群より選択されうる。1つの好ましい態様において、組換え宿主細胞は組換え微生物細胞である。微生物細胞である宿主細胞の例には、エシェリキア属(Escherichia)、バチルス属(Bacillus)、ラクトバチルス属(Lactobacillus)、ザイモモナス属(Zymomonas)、ロドコッカス属(Rhodococcus)、シュードモナス属(Pseudomonas)、アスペルギルス属(Aspergillus)、トリコデルマ属(Trichoderma)、ニューロスポラ属(Neurospora)、フザリウム属(Fusarium)、ヒューミコーラ属(Humicola)、リゾムコール属(Rhizomucor)、クリベロミセス属(Kluyveromyces)、ピキア属(Pichia)、ムコール属(Mucor)、ミセリオフトラ属(Myceliophtora)、ペニシリウム属(Penicillium)、ファネロカエテ属(Phanerochaete)、プレウロタス属(Pleurotus)、トラメテス属(Trametes)、クリソスポリウム属(Chrysosporium)、サッカロミセス属(Saccharomyces)、ステノトロホモナス属(Stenotrophamonas)、シゾサッカロミセス属(Schizosaccharomyces)、ヤロウイア属(Yarrowia)、またはストレプトミセス属(Streptomyces)に由来する細胞が非限定的に含まれる。いくつかの態様において、宿主細胞はグラム陽性細菌細胞である。他の態様において、宿主細胞はグラム陰性細菌細胞である。いくつかの態様において、宿主細胞は大腸菌細胞である。他の態様において、宿主細胞は、バチルス・レンタス(Bacillus lentus)細胞、バチルス・ブレビス(Bacillus brevis)細胞、バチルス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)細胞、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus lichenoformis)細胞、バチルス・アルカロフィラス(Bacillus alkalophilus)細胞、バチルス・コアギュランス(Bacillus coagulans)細胞、バチルス・サーキュランス(Bacillus circulans)細胞、バチルス・プミルス(Bacillus pumilis)細胞、バチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)細胞、バチルス・クラウジ(Bacillus clausii)細胞、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)細胞、バチルス・サブティリス(Bacillus subtilis)細胞、またはバチルス・アミロリクエファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)細胞である。他の態様において、宿主細胞は、トリコデルマ・コニンギ(Trichoderma koningii)細胞、トリコデルマ・ビリデ(Trichoderma viride)細胞、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)細胞、トリコデルマ・ロンギブラキアタム(Trichoderma longibrachiatum)細胞、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)細胞、アスペルギルス・フミガータス(Aspergillus fumigates)細胞、アスペルギルス・フェチダス(Aspergillus foetidus)細胞、アスペルギルス・ニディランス(Aspergillus nidulans)細胞、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)細胞、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)細胞、ヒューミコラ・インソレンス(Humicola insolens)細胞、ヒューミコラ・ラヌギノサ(Humicola lanuginose)細胞、ロドコッカス・オパクス(Rhodococcus opacus)細胞、リゾムコール・ミエヘイ(Rhizomucor miehei)細胞、またはムコール・ミエヘイ(Mucor michei)細胞である。さらに他の態様において、宿主細胞は、ストレプトミセス・リビダンス(Streptomyces lividans)細胞またはストレプトミセス・ムリヌス(Streptomyces murinus)細胞である。さらに他の態様において、宿主細胞はアクチノミセス(Actinomycetes)細胞である。いくつかの態様において、宿主細胞はサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)細胞である。他の態様において、宿主細胞は、真核植物、藻類、ラン色細菌、緑色硫黄細菌、緑色非硫黄細菌、紅色硫黄細菌、紅色非硫黄細菌、好極限性細菌、酵母、真菌、それらの操作された生物、または合成生物に由来する細胞である。いくつかの態様において、宿主細胞は、光依存性であるかまたは炭素を固定する。いくつかの態様において、いくつかの態様において、宿主細胞は独立栄養活性を有する。いくつかの態様において、宿主細胞は、光の存在下などにおいて光独立栄養活性を有する。いくつかの態様において、宿主細胞は、光の非存在下において従属栄養性または混合栄養性である。ある態様において、宿主細胞は、アラビドプシス・タリアナ、パニカム・ウィルガツム(Panicum virgatum)、ミスカンサス・ギガンテス(Miscanthus giganteus)、トウモロコシ(Zea mays)、ボツリオコッカス・ブラウニー(Botryococcuse braunii)、クラミドモナス・レインハルディ(Chlamydomonas reinhardtii)、ドナリエナ・サリナ(Dunaliela salina)、シネココッカス属種PCC7002、シネココッカス属種PCC7942、シネコシスティス(Synechocystis)属種PCC 6803、サーモシネココッカス・エロンガタス(Thermosynechococcus elongates)BP-1、クロロビウム・テピダム(Chlorobium tepidum)、クロロフレクサス・オウランティアカス(Chlorojlexus auranticus)、クロマチウム・ビノサム(Chromatiumm vinosum)、ロドスピリラム・ラブラム(Rhodospirillum rubrum)、ロドバクター・カプスラータ(Rhodobacter capsulatus)、ロドシュードモナス・パルストリス(Rhodopseudomonas palusris)、クロストリジウム・リュングダーリイ(Clostridium ljungdahlii)、クロストリジウム・サーモセラム(Clostridiuthermocellum)、ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、サッカロミセス・セレビシエ、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、シュードモナス・フルオレセンス(Pseudomonas fluorescens)、またはザイモモナス・モビリス(Zymomonas mobilis)に由来する細胞である。
【0086】
組換え宿主細胞による脂肪酸誘導体組成物の産生
脂肪酸、アシル-CoA、脂肪アルデヒド、短鎖および長鎖アルコール、炭化水素(例えば、アルカン、アルケンまたはオレフィン、例えば末端オレフィンもしくは内部オレフィンなど)、脂肪アルコール、エステル(例えば、蝋エステル、脂肪酸エステル(例えば、メチルエステルまたはエチルエステル))、ならびにケトンを非限定的に含む多種多様な脂肪酸誘導体を、本明細書に述べるような菌株改良を含む組換え宿主細胞によって産生させることができる。本開示のいくつかの態様において、ある特定の組成物における脂肪酸誘導体の力価がより高いとは、組換え宿主細胞培養物によって産生されるある特定の種類の脂肪酸誘導体(例えば、脂肪アルコール、脂肪酸エステルまたは炭化水素)の力価が、対応する野生型宿主細胞の対照培養物によって産生される同じ脂肪酸誘導体の力価に比してより高いことをいう。そのような場合に、脂肪酸誘導体組成物は、例えば、種々の鎖長および飽和性または分枝の特性を有する脂肪アルコールの混合物を含みうる。本開示の他の態様において、特定の組成物における脂肪酸誘導体の力価がより高いとは、複数の異なる脂肪酸誘導体の組み合わせ(例えば、脂肪アルデヒドおよびアルコール、または脂肪酸およびエステル)の力価が、対応する野生型宿主細胞の対照培養物によって産生される同じ脂肪酸誘導体の力価に比してより高いことをいう。
【0087】
宿主細胞の遺伝子操作
いくつかの態様においては、ポリヌクレオチド(または遺伝子)配列が、ポリヌクレオチド配列と機能的に連結したプロモーターを含む組換えベクターにより、宿主細胞に与えられる。ある態様において、プロモーターは、発生段階調節性の、オルガネラ特異的な、組織特異的な、誘導性の、構成性の、または細胞特異的なプロモーターである。いくつかの態様において、組換えベクターは、(a)ポリヌクレオチド配列と機能的に結びついた発現制御配列;(b)ポリヌクレオチド配列と機能的に結びついた選択マーカー;(c)ポリヌクレオチド配列と機能的に結びついたマーカー配列;(d)ポリヌクレオチド配列と機能的に結びついた精製部分;(e)ポリヌクレオチド配列と機能的に結びついた分泌配列;および(f)ポリヌクレオチド配列と機能的に結びついたターゲティング配列、を非制限的に含む、少なくとも1つの配列を含む。本明細書に記載の発現ベクターは、本明細書に記載のポリヌクレオチド配列を、宿主細胞におけるポリヌクレオチド配列の発現に適した形態で含む。当業者には、発現ベクターの設計が、形質転換させようとする宿主細胞の選択、所望のポリペプチドの発現レベルなどの要因に依存しうることが理解されるであろう。本明細書に記載のポリヌクレオチド配列によってコードされるポリペプチド、例えば融合ポリペプチドを産生させるために、本明細書に記載の発現ベクターは宿主細胞に導入することができる。原核生物、例えば大腸菌(E. coli)におけるポリペプチドをコードする遺伝子の発現は、融合または非融合ポリペプチドのいずれかの発現を導く構成性または誘導性プロモーターを含有するベクターを用いて実施されることが最も多い。融合ベクターは、その中にコードされているポリペプチド、通常は組換えポリペプチドのアミノ末端またはカルボキシ末端に、いくつかのアミノ酸を付加する。そのような融合ベクターは、典型的には、以下の3つの目的の1つまたは複数に役立つ:(1)組換えポリペプチドの発現を増大させること;(2)組換えポリペプチドの溶解性を高めること;および(3)アフィニティー精製におけるリガンドとして作用することによって、組換えポリペプチドの精製を助けること。多くの場合、融合発現ベクターでは、融合部分と組換えポリペプチドの接合部にタンパク質分解切断部位が導入されている。これにより、融合ポリペプチドの精製後に、融合部分からの組換えポリペプチドの分離が可能になる。そのような酵素およびそれらのコグネイト認識配列の例には、第Xa因子、トロンビンおよびエンテロキナーゼが含まれる。例示的な融合発現ベクターには、pGEX(Pharmacia Biotech, Inc., Piscataway, NJ;Smith et al., Gene, 67: 31-40 (1988))、pMAL(New England Biolabs, Beverly, MA)、およびpRITS(Pharmacia Biotech, Inc., Piscataway, N. J.)が含まれ、これらはそれぞれ、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)、マルトースE結合タンパク質またはプロテインAを標的組換えポリペプチドと融合させるものである。誘導性の非融合大腸菌発現ベクターの例には、pTrc(Amann et al., Gene (1988) 69:301-315)およびpET 11d(Studier et al., Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, Calif. (1990) 60-89)が含まれる。pTrcベクターからの標的遺伝子発現は、ハイブリッドtrp-lac融合プロモーターからの宿主RNAポリメラーゼ転写に依拠する。pET 11dベクターからの標的遺伝子発現は、共発現させたウイルスRNAポリメラーゼ(T7 gn1)によって媒介されるT7 gn10-lac融合プロモーターからの転写に依拠する。このウイルスポリメラーゼは、宿主菌株BL21(DE3)またはHMS174(DE3)により、lacUV 5プロモーターの転写制御下にあるT7 gn1遺伝子を保有する常在性λプロファージから供給される。原核細胞および真核細胞の両者に適した発現系は、当技術分野において周知である;例えば、Sambrook et al., "Molecular Cloning: A Laboratory Manual," second edition, Cold Spring Harbor Laboratory, (1989)を参照されたい。誘導性の非融合大腸菌発現ベクターの例には、pTrc(Amann et al., Gene, 69: 301-315 (1988))およびPET 11d(Studier et al., Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, CA, pp. 60-89 (1990))が含まれる。ある態様において、本開示のポリヌクレオチド配列は、バクテリオファージT5に由来するプロモーターと機能的に連結されている。1つの態様において、宿主細胞は酵母細胞である。この態様において、発現ベクターは酵母発現ベクターである。ベクターは、外来性核酸(例えば、DNA)を宿主細胞に導入するための、当技術分野で認知された種々の手法を介して原核細胞または真核細胞に導入することができる。宿主細胞の形質転換またはトランスフェクションのために適した方法は、例えば、Sambrook et al.(前記)に見いだすことができる。細菌細胞の安定的な形質転換に関しては、用いる発現ベクターおよび形質転換手法によっては、発現ベクターを取り込んで複製する細胞の割合はわずかに過ぎないことが知られている。これらの形質転換体の同定および選択のために、選択マーカー(例えば、抗生物質に対する耐性)をコードする遺伝子を、関心対象の遺伝子とともに宿主細胞に導入することができる。選択マーカーには、アンピシリン、カナマイシン、クロラムフェニコール、またはテトラサイクリンなど、ただしこれらには限定されない薬物に対する耐性を付与するものが含まれる。選択マーカーをコードする核酸は、本明細書に記載のポリペプチドをコードするベクターと同一ベクター上で宿主細胞中に導入することができ、または別個のベクター上で導入することもできる。導入された核酸によって安定的に形質転換された細胞は、適切な選択薬の存在下における増殖によって同定することができる。
【0088】
宿主細胞
本明細書で用いる場合、操作された宿主細胞または組換え宿主細胞とは、本明細書にさらに述べるような脂肪酸誘導体組成物を産生させるために用いられる細胞のことである。宿主細胞は、宿主細胞における1つまたは複数のポリヌクレオチドまたはポリペプチドの発現が、同じ条件下にある対応する野生型宿主細胞(例えば、対照細胞)におけるそれらの発現と比較して変更または改変されているならば、操作された宿主細胞または組換え宿主細胞と称される。本明細書に記載の本開示の局面の任意のものにおいて、宿主細胞は、真核植物、藻類、ラン色細菌、緑色硫黄細菌、緑色非硫黄細菌、紅色硫黄細菌、紅色非硫黄細菌、好極限性細菌、酵母、真菌、それらの操作された生物、または合成生物からなる群より選択することができる。いくつかの態様において、宿主細胞は光依存性であるかまたは炭素を固定する。宿主細胞は独立栄養活性を有する。本明細書に述べるように、さまざまな宿主細胞を、脂肪酸誘導体を産生させるために用いることができる。
【0089】
突然変異体または変異体
いくつかの態様において、ポリペプチドは、本明細書に記載のポリペプチドのいずれかの突然変異体または変異体である。突然変異型および変異体という用語は、本明細書で用いる場合、野生型ポリペプチドとは少なくとも1つのアミノ酸が異なるアミノ酸配列を有するポリペプチドのことを指す。例えば、突然変異体は、以下の保存的アミノ酸置換のうち1つまたは複数を含みうる:脂肪族アミノ酸、例えばアラニン、バリン、ロイシンおよびイソロイシンなどの、別の脂肪族アミノ酸による置き換え;セリンのトレオニンによる置き換え;トレオニンのセリンによる置き換え;酸性残基、例えばアスパラギン酸およびグルタミン酸などの、別の酸性残基による置き換え;アミド基を保有する残基、例えばアスパラギンおよびグルタミンなどの、アミド基を保有する別の残基による置き換え;塩基性残基、例えばリジンおよびアルギニンなどの、別の塩基性残基との交換;ならびに、芳香族残基、例えばフェニルアラニンおよびチロシンなどの、別の芳香族残基による置き換え。いくつかの態様において、突然変異型ポリペプチドは、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、30、40、50、60、70、80、90、100個、またはそれ以上のアミノ酸置換、付加、挿入または欠失を有する。ポリペプチドの好ましい断片または突然変異体は、対応する野生型ポリペプチドの生物学的機能(例えば、酵素活性)の一部またはすべてを保っている。いくつかの態様において、断片または突然変異体は、対応する野生型ポリペプチドの生物学的機能の少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%または少なくとも98%、またはそれ以上を保っている。他の態様において、断片または突然変異体は、対応する野生型ポリペプチドの生物学的機能の約100%を保っている。生物活性に影響を及ぼさずにどのアミノ酸残基を置換し、挿入し、または欠失させることができるかを判定する上での手引きは、当技術分野において周知のコンピュータプログラム、例えば、LASERGENE(商標)ソフトウェア(DNASTAR, Inc., Madison, WI)を用いて見いだすことができる。さらに他の態様において、断片または突然変異体は、対応する野生型ポリペプチドと比較して増大した生物学的機能を示す。例えば、断片または突然変異体は、対応する野生型ポリペプチドと比較して、酵素活性の点で少なくとも10%、少なくとも25%、少なくとも50%、少なくとも75%または少なくとも90%の改善を呈しうる。他の態様において、断片または突然変異体は、対応する野生型ポリペプチドと比較して、酵素活性の点で少なくとも100%(例えば、少なくとも200%または少なくとも500%)の改善を呈する。本明細書に記載のポリペプチドが、ポリペプチドの機能に実質的な影響を及ぼさないさらなる保存的または非必須のアミノ酸置換を有してもよいことは理解されよう。ある特定の置換が許容される(すなわち、カルボン酸レダクターゼ活性といった所望の生物学的機能に有害な影響を及ぼさない)か否かは、Bowie et al. (Science, 247: 1306-1310 (1990))に記載されたようにして判定することができる。保存的アミノ酸置換とは、アミノ酸残基が類似の側鎖を有するアミノ酸残基によって置き換えられたもののことである。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当技術分野において定義されている。これらのファミリーには、塩基性側鎖(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β-分枝側鎖(例えば、トレオニン、バリン、イソロイシン)および芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を有するアミノ酸が含まれる。
【0090】
変異体は天然に存在してもよく、またはインビトロで作製してもよい。特に、そのような変異体は、部位指定突然変異誘発、ランダム化学的突然変異誘発、エキソヌクレアーゼIII削除手順、または標準的なクローニング手法といった遺伝子工学の手法を用いて作製することができる。または、そのような変異体、断片、類似体または誘導体を、化学的な合成または修飾の手順を用いて作製することもできる。
【0091】
変異体の作製方法は当技術分野において周知である。これらには、産業用または研究室での用途における価値を高める特性を有するポリペプチドをコードする核酸を作製するために、天然の分離物から得られた核酸配列を改変する手順が含まれる。そのような手順では、天然の分離物から得られた配列とは1つまたは複数のヌクレオチドが異なる多数の変異体配列を作製し、特徴づけを行う。典型的には、これらのヌクレオチドの違いによって、天然の分離物の核酸によってコードされるポリペプチドとのアミノ酸変化がもたらされる。例えば、変異体は、ランダム突然変異誘発および部位指定突然変異誘発を用いることによって調製することができる。ランダム突然変異誘発および部位指定突然変異誘発は、例えば、Arnold, Ciirr. Opin. Biotech, 4: 450-455 (1993)に記載されている。ランダム突然変異誘発は、エラープローンPCR(例えば、Leung et al., Technique, 1: 11-15 (1989);およびCaldwell et al., PCR Methods Applic, 2: 28-33 (1992)を参照)。エラープローンPCRでは、PCR産物の全長にわたって高い点突然変異率が得られるように、DNAポリメラーゼのコピー忠実度(copying fidelity)が低くなる条件下でPCRを行う。手短に述べると、そのような手法では、突然変異させようとする核酸(例えば、カルボン酸レダクターゼ酵素をコードするポリヌクレオチド配列)を、PCRプライマー、反応緩衝液、MgCl
2、MnCl
2、Taqポリメラーゼ、およびPCR産物の全長にわたって高い点突然変異率を得るのに適した濃度のdNTPと混合する。例えば、反応は、20fmolの突然変異させようとする核酸、30pmolの各PCRプライマー、50mM KCl、10mM Tris HCl(pH 8.3)、0.01%ゼラチン、7mM MgCl
2、0.5mM MnCl
2、5単位のTaqポリメラーゼ、0.2mM dGTP、0.2mM dATP、1mM dCTP、および1mM dTTPを含む反応緩衝液を用いて行うことができる。PCRは、94℃で1分、45℃で1分、および72℃で1分を30サイクルとして行うことができる。しかし、これらのパラメーターを適宜変更しうることは理解されるであろう。続いて、突然変異させた核酸を適切なベクター中にクローニングし、突然変異させた核酸によってコードされるポリペプチドの活性を評価する。部位指定突然変異誘発は、クローニングされた関心対象の任意のDNA中に部位特異的突然変異を生じさせるためにオリゴヌクレオチド指定突然変異誘発を用いて達成することができる。オリゴヌクレオチド突然変異誘発は、例えば、Reidhaar-Olson et al., Science, 241 : 53-57 (1988)に記載されている。手短に述べると、そのような手順では、クローニングされたDNA中に導入しようとする1つまたは複数の突然変異を保有する複数の二本鎖オリゴヌクレオチドを合成し、突然変異させようとするクローニングされたDNA(例えば、CARポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列)中に挿入する。突然変異したDNAを含有するクローンを回収し、それらがコードするポリペプチドの活性を評価する。変異体を作製するためのもう1つの方法は、アセンブリPCRである。アセンブリPCRでは、小さなDNA断片の混合物からのPCR産物のアセンブリが行われる。同一のバイアル内で多数の異なるPCR反応が並行して起こり、ある反応の産物が別の反応の産物をプライミングする。アセンブリPCRは、例えば、米国特許第5,965,408号に記載されている。変異体を作製するさらにもう1つの方法は、セクシャル(sexual)PCR突然変異誘発である。セクシャルPCR突然変異誘発では、DNA分子のランダム断片化の結果として、異なってはいるが類縁性の高いDNA配列のDNA分子間で、配列相同性に基づき、強制的な相同組換えがインビトロで起こる。これに続いて、PCR反応におけるプライマー伸長により、交差組換え(crossover)の固定が行われる。セクシャルPCR突然変異誘発は、例えば、Stemmer, Proc. Natl. Acad. Sci., U.S.A., 91: 10747-10751 (1994)に記載されている。
【0092】
変異体を、インビボ突然変異誘発によって作製することもできる。いくつかの態様においては、DNA修復経路の1つまたは複数に突然変異を保持する大腸菌株などの細菌株において配列を増幅させることにより、核酸配列中にランダム突然変異を生じさせる。そのような「ミューテーター(mutator)」菌株は、野生型菌株よりも高いランダム突然変異率を有する。これらの菌株の1つでDNA配列(例えばCARポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列)を増幅させることにより、最終的には、DNA内にランダム突然変異が生じることになる。インビボ突然変異誘発における使用に適したミューテーター菌株は、例えば、国際特許出願公開WO 91/16427に記載されている。また、変異体を、カセット突然変異誘発を用いて作製することもできる。カセット突然変異誘発では、二本鎖DNA分子の小さな領域を、天然配列とは異なる合成オリゴヌクレオチド「カセット」で置き換える。オリゴヌクレオチドは、多くの場合、完全および/または部分的にランダム化された天然配列を含有する。また、リカーシブ・アンサンブル(recursive ensemble)突然変異誘発を、変異体を作製するために用いることもできる。リカーシブ・アンサンブル突然変異誘発は、表現型が関連している突然変異体の多様な集団(メンバーのアミノ酸配列が異なっている)を作製するために開発されたタンパク質工学(すなわち、タンパク質突然変異誘発)のためのアルゴリズムである。この方法では、フィードバック機構を用いて、連続した複数回のコンビナトリアルカセット突然変異誘発を制御する。リカーシブ・アンサンブル突然変異誘発は、例えば、Arkin et al, Proc. Natl. Acad. Sci., U.S.A., 89: 7811-7815 (1992)に記載されている。いくつかの態様においては、エクスポネンシャル・アンサンブル(exponential ensemble)突然変異誘発を用いて変異体が作製される。エクスポネンシャル・アンサンブル突然変異誘発は、ユニークかつ機能的な突然変異体のパーセンテージが高いコンビナトリアルライブラリーを作製するための工程であり、この工程では、少数の残基群を並行してランダム化することにより、変更された各位置で機能的タンパク質をもたらすアミノ酸を同定する。エクスポネンシャル・アンサンブル突然変異誘発は、例えば、Delegrave et al., Biotech. Res, 11: 1548-1552 (1993)に記載されている。いくつかの態様においては、シャフリング(shuffling)手順を用いて変異体が作製され、この手順では、例えば、米国特許第5,965,408号および第5,939,250号に記載されているように、別個のポリペプチドをコードする複数の核酸の部分を融合させて、キメラポリペプチドをコードするキメラ核酸配列を作製する。挿入突然変異誘発は、1つまたは複数の塩基の挿入によるDNAの突然変異誘発である。挿入突然変異は、ウイルスもしくはトランスポゾンによって媒介されて天然に起こることもあれば、または、例えばトランスポゾン突然変異誘発によって、研究室において研究目的で人工的に作製することもできる。外因性DNAが宿主のDNAに組み込まれる場合、その結果としての突然変異の重大性は、DNAが挿入される宿主ゲノム中の位置に全面的に依存する。例えば、トランスポゾンが必須の遺伝子の中央部、プロモーター領域内、またはリプレッサー領域もしくはエンハンサー領域に挿入された場合には、重大な影響が顕在化する可能性がある。脂肪酸誘導体の力価または収量を増大させる有益な突然変異を見いだすために、トランスポゾン突然変異誘発およびハイスループットスクリーニングを行った。
【0093】
組換え宿主細胞の培養および細胞培養物/発酵
本明細書で用いる場合、「発酵」という用語は、組換え宿主細胞の培養物を炭素源を含む培地中で繁殖させることによる、宿主細胞による有機材料の標的物質への変換、例えば、組換え宿主細胞による炭素源の脂肪酸またはその誘導体への変換のことを広く指す。本明細書で用いる場合、「産生を許容する条件」という用語は、宿主細胞が所望の生成物、例えば脂肪酸または脂肪酸誘導体などを産生することを可能にする、あらゆる条件のことを意味する。同様に、「ベクターのポリヌクレオチド配列が発現される条件」という用語は、宿主細胞がポリペプチドを合成することを可能にする、あらゆる条件のことを意味する。適した条件には、例えば、発酵条件が含まれる。発酵条件は、温度範囲、通気レベル、供給速度および培地組成を非限定的に含む多くのパラメーターを含みうる。これらの条件のそれぞれは、個々に、または組み合わされて、宿主細胞が増殖することを可能にする。発酵は、好気性、嫌気性、またはそれらの変形物(微好気性など)であってよい。例示的な培養培地には、ブロスまたはゲルが含まれる。一般に、培地は、宿主細胞によって直接代謝されうる炭素源を含む。加えて、炭素源の動態化(例えば、デンプンまたはセルロースの発酵性糖への解重合)およびその後の代謝を促進するために、培地中に酵素を用いることもできる。小規模産生のためには、遺伝子操作された宿主細胞を、例えば約100mL、500mL、1L、2L、5Lまたは10Lバッチ中で増殖させ、発酵させて、所望のポリヌクレオチド配列、例えばCARポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列などを発現するように誘導することができる。大規模産生のためには、遺伝子操作された宿主細胞を、約10L、100L、1000L、10,000L、100,000L、および1,000,000Lまたはそれ以上のバッチ中で増殖させ、発酵させて、所望のポリヌクレオチド配列を発現するように誘導することができる。または、大規模流加発酵を実施することもできる。本明細書に記載の脂肪酸誘導体組成物は、組換え宿主細胞培養物の細胞外環境において認められ、培養培地から容易に単離することができる。脂肪酸誘導体は組換え宿主細胞によって分泌され、組換え宿主細胞培養物の細胞外環境に輸送されるか、または細胞外環境に受動的に移行する。脂肪酸誘導体は、当技術分野において公知の慣行的な方法を用いて、組換え宿主細胞培養物から単離される。
【0094】
組換え宿主細胞由来の生成物
本明細書で用いる場合、「現代炭素分率(fraction of modern carbon)」すなわちfMという用語は、米国国立標準技術研究所(National Institute of Standards and Technology(NIST))標準物質(Standard Reference Material(SRM))4990Bおよび4990C、それぞれシュウ酸標準品HOxIおよびHOxIIとして知られるもの、によって定義されるものと同じ意味を有する。基本的定義はHOxIの14C/12C同位体比の0.95倍に相当する(西暦1950年を基準とする)。これは、減衰補正された産業革命前の木とおおむね等しい。現在の生体生物圏(植物材料)については、fMはおよそ1.1である。生物的に産生された有機化合物、特に本明細書における脂肪酸生合成経路を用いて産生された脂肪酸誘導体を含むバイオ生成物(bioproduct)(例えば、本開示に従って産生された脂肪酸誘導体は、これまで再生可能資源から産生されたことはなく、したがって新規な組成物である。これらの新たなバイオ生成物は、石油化学炭素由来の有機化合物とは、二核種炭素同位体フィンガープリント法(dual carbon-isotopic fingerprinting)または
14C年代測定法(
14C dating)に基づいて区別することができる。さらに、生物起源炭素の具体的な供給源(例えば、グルコースとグリセロールとの対比)を、二核種炭素同位体フィンガープリント法によって決定することもできる(例えば、米国特許第7,169,588号を参照されたい。これは参照により本明細書に組み込まれる)。バイオ生成物を石油ベースの有機化合物と区別しうることは、これらの材料の流通下でのトラッキングに有益である。例えば、生物学に基づく炭素同位体プロファイルと石油ベースの炭素同位体プロファイルの両方を含む有機化合物または化学物質は、石油ベースの材料だけでできた有機化合物および化学物質と区別することができる。それ故に、本明細書におけるバイオ生成物は、そのユニークな炭素同位体プロファイルに基づいて、流通下で追跡またはトラッキングすることができる。バイオ生成物は、各試料中の安定炭素同位体比(
13C/
12C)を比較することによって、石油ベースの有機化合物と区別することができる。所与のバイオ生成物における
13C/
12C比は、二酸化炭素が固定された時点の大気中の二酸化炭素における
13C/
12C比の結果である。それはまた、厳密な代謝経路も反映する。地域的変動も起こる。石油、C3植物(広葉植物)、C4植物(イネ科草本)、および海洋炭酸塩はすべて、
13C/
12Cおよび対応するδ
13C値の点で有意差を示す。さらに、C3植物およびC4植物の脂質物質は、代謝経路の結果として、同じ植物の炭水化物成分から誘導される材料とは異なる分析結果を示す。測定精度内で、
13Cは同位体分別効果に起因する大きな変動を示し、バイオ生成物に関して最も重要なのは光合成機構である。植物における炭素同位体比の違いの主因は、植物における光合成炭素代謝の経路の違い、特に一次カルボキシル化(すなわち、大気CO
2の初期固定)時に起こる反応の違いと密接に関連している。草木の二大クラスは、「C3」(またはカルビン・ベンソン)光合成回路が組み込まれているものと、「C4」(またはハッチ・スラック)光合成回路が組み込まれているものである。C3植物では、一次CO
2固定またはカルボキシル化反応にリブロース-1,5-二リン酸カルボキシラーゼ酵素が関与し、最初の安定生成物は3-炭素化合物である。広葉樹および針葉樹などのC3植物は、温帯気候帯において優勢である。C4植物では、もう1つの酵素であるホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼが関与するさらなるカルボキシル化反応が、一次カルボキシル化反応である。最初の安定炭素化合物は4-炭素酸であり、それが後に脱炭酸される。そのようにして放出されたCO
2は、C3回路によって再び固定される。C4植物の例には、暖地型牧草、トウモロコシ、およびサトウキビがある。C4植物およびC3植物はいずれも、ある範囲の
13C/
12C同位体比を示すが、典型的な値は、C4植物については約-7〜約-13パーミル、C3植物については約-19〜約-27パーミルである(例えば、Stuiver et al, Radiocarbon 19:355 (1977)を参照)。石炭および石油は一般に後者の範囲に含まれる。
13C測定尺度は、元はピーディー(Pee Dee)ベレムナイト(PDB)石灰石によって設定されたゼロ点によって定義されたものであり、ここでの値は、この材料からの千分の一偏位(parts per thousand deviations)で与えられる。「δ13C」値は、千分率(パーミル)で表されて‰と略記され、以下のように計算される:
δ13C(‰)=[(
13C/
12C)試料-(
13C/
12C)標準物質]/(
13C/
12C)標準物質×1000
【0095】
PDB標準物質(reference material;RM)が枯渇したことから、IAEA、USGS、NIST、および他の選ばれた国際的同位体研究所の協同で、一連の代替RMが開発されている。PDBからのパーミル偏位の表記がδ
13Cである。測定は、CO
2に対して、高精度安定同位体比質量分析(high precision stable ratio mass spectrometry)(IRMS)により、質量44、45および46の分子イオンに関して行われる。本明細書に記載の組成物は、本明細書に記載の方法のいずれかによって産生されたバイオ生成物を含み、これには例えば、脂肪アルデヒドおよびアルコール生成物が含まれる。具体的には、バイオ生成物は、約-28もしくはそれ以上、約-27もしくはそれ以上、-20もしくはそれ以上、-18もしくはそれ以上、-15もしくはそれ以上、-13もしくはそれ以上、-10もしくはそれ以上、または-8もしくはそれ以上のδ
13Cを有することができる。例えば、バイオ生成物は、約-30〜約-15、約-27〜約-19、約-25〜約-21、約-15〜約-5、約-13〜約-7、または約-13〜約-10のδ
13Cを有することができる。別の場合には、バイオ生成物は、約-10、-11、-12、または-12.3のδ
13Cを有することができる。本明細書における本開示に従って産生されたバイオ生成物は、各化合物における
14Cの量を比較することによって、石油ベースの有機化合物と区別することもできる。
14Cは5730年という核半減期を有するので、「古い(older)」炭素を含有する石油ベース燃料を、「新しい(newer)」炭素を含有するバイオ生成物と区別することができる(例えば、Currie, "Source Apportionment of Atmospheric Particles", Characterization of Environmental Particles, J. Buffle and H. P. van Leeuwen, Eds., 1 of Vol.I of the IUPAC Environmental Analytical Chemistry Series (Lewis Publishers, Inc.) 3-74, (1992)を参照)。放射性炭素年代測定法における基本的仮定は、大気中の
14C濃度の不変性が生体における
14Cの不変性をもたらすというものである。しかし、1950年以降の大気圏内核実験および1850年以降の化石燃料の燃焼により、
14Cはもう1つの地球化学的時間特性(geochemical time characteristic)を獲得した。大気CO
2における(したがって生体生物圏(living biosphere)における)その濃度は、1960年代中頃の核実験のピーク時にはおよそ2倍になった。それ以後は、7〜10年というおよその緩和「半減期」で、約1.2×10
-12という定常状態宇宙線起源(大気)ベースライン同位対比(
14C/
12C)へと徐々に戻りつつある(この後者の半減期は文字通りに解釈してはならない;そうではなくて、核時代の幕開け以降の大気および生物圏
14Cの変動を追跡するには、詳細な大気核投入/減衰関数(atomospheric nuclear input/decay function)を用いなければならない)。近年の生物圏炭素の年代測定(annual dating)に裏づけを与えるのは、この後者の生物圏
14C時間特性である。
14Cは加速器質量分析(AMS)によって測定することができ、その結果は「現代炭素分率」(fM)という単位で与えられる。fMは、米国国立標準技術研究所(National Institute of Standards and Technology(NIST))標準物質(Standard Reference Material(SRM))4990Bおよび4990Cによって定義される。本明細書で用いる場合、「現代炭素分率」すなわち「fM」は、米国国立標準技術研究所(NIST)標準物質(SRM)4990Bおよび4990C、それぞれシュウ酸標準品HOxIおよびHOxIIとして知られるものによって定義されるのと同じ意味を有する。基本的定義はHOxIの
14C/
12C同位体比の0.95倍に相当する(西暦1950年を基準とする)。これは、減衰補正された産業革命前の木にほぼ等しい。現在の生体生物圏(植物材料)については、fMはおよそ1.1である。本明細書に記載の組成物は、少なくとも約1のfM
14Cを有しうるバイオ生成物を含む。例えば、バイオ生成物は、少なくとも約1.01のfM
14C、約1〜約1.5のfM
14C、約1.04〜約1.18のfM
14C、または約1.111〜約1.124のfM
14Cを有しうる。
【0096】
14Cのもう1つの測定値は、現代炭素パーセント(percent of modern carbon)(pMC)として知られている。
14C年代値を用いる考古学者または地質学者にとっては、西暦1950年が「0年前(zero years old)」に相当する。これはまた、100pMCも表す。熱核兵器のピークであった1963年に、大気中の「爆弾由来炭素(bomb carbon)」は、正常レベルのほぼ2倍に達した。その出現以降、大気圏内でのその分布は概算されており、西暦1950年以降に生きる植物および動物については100pMCを上回る値を示す。これは時間の経過とともに徐々に減少しており、現在の値は107.5pMC付近である。これは、トウモロコシなどの新鮮なバイオマス材料が107.5pMCに近い
14C特性を与えると考えられることを意味する。石油ベースの化合物はpMC値がゼロであると考えられる。化石炭素を現代炭素と混合すると、現代pMC含有量の希釈が起こることになる。107.5pMCが現代バイオマス材料の
14C含有量を表し、0pMCが石油ベース生成物の
14C含有量を表すと仮定すると、その材料について測定されるpMC値は、この2種類の構成成分の比率を反映することになる。例えば、現代の大豆に100%由来する材料は、107.5pMCに近い放射性炭素特性を与えると考えられる。この材料を石油ベース生成物で50%希釈したとすると、放射性炭素特性は約54pMCになると考えられる。生物学に基づく炭素含有量は、「100%」を107.5pMCに割り当て、「0%」を0pMCに割り当てることによって導き出される。例えば、99pMCと測定される試料は、93%の生物学に基づく炭素含有量換算値を与えることになる。この値は、生物学に基づく炭素結果平均値と呼ばれ、分析される材料内のすべての構成成分が現代生物材料または石油ベース材料のいずれかに由来すると仮定している。本明細書に述べたような1つまたは複数の脂肪酸誘導体を含むバイオ生成物は、少なくとも約50、60、70、75、80、85、90、95、96、97、98、99、または100のpMCを有することができる。別の場合には、本明細書に記載の脂肪酸誘導体は、約50〜約100;約60〜約100;約70〜約100;約80〜約100;約85〜約100;約87〜約98;または約90〜約95のpMCを有することができる。さらに別の場合には、本明細書に記載の脂肪酸誘導体は、約90、91、92、93、94、または94.2のpMCを有することができる。
【0097】
組換え宿主細胞によって産生された脂肪酸誘導体組成物のスクリーニング
条件が発現を可能とするのに十分であるかを判定するために、宿主細胞を、例えば、約4、8、12、24、36または48時間にわたって培養することができる。培養中および/または培養後に、試料を集菌して分析し、該条件が発現を可能にするかを判定することができる。例えば、試料中の宿主細胞または宿主細胞を増殖させた培地を、所望の生成物の存在について調べることができる。ある生成物の存在について調べる場合には、例えば、TLC、HPLC、GC/FID、GC/MS、LC/MS、MSなど、ただしこれらには限定されないアッセイを用いることができる。「総脂肪種」に関しては、GC/FIDアッセイを用いて、96ウェルプレートレベルで、1リットルおよび5リットルのタンクレベルで、ならびに1000Lパイロットプラントレベルで、組換え宿主細胞培養物をスクリーニングする。
【0098】
脂肪酸誘導体組成物の有用性
脂肪酸は、長い脂肪族尾部(鎖)を有するカルボン酸であり、これは飽和性または不飽和性のいずれかである。天然に存在するほとんどの脂肪酸は、4〜28個の偶数の炭素原子の鎖を有する。脂肪酸は通常、トリグリセリドに由来する。それらに他の分子が結びついていない場合、それらは「遊離」脂肪酸として知られる。脂肪酸は通常、工業的には、トリグリセリドの加水分解により、グリセロールが除去されて製造される。現在は、ヤシ油、ダイズ油、ナタネ油、ココナッツ油およびヒマワリ油などが、脂肪酸の最も一般的な供給源である。そのような供給源に由来する脂肪酸の大半は、ヒトの食品に用いられる。ココナッツ油およびパーム核油(主として炭素12個および14個の脂肪酸からなる)。これらは、洗浄剤およびクレンジング剤ならびに化粧品用の界面活性剤としてさらに加工するのに特に適する。ヤシ油、ダイズ油、ナタネ油およびヒマワリ油、さらには獣脂などの動物性脂肪は、主として長鎖脂肪酸(例えば、C18、飽和および不飽和)を含有し、それらはポリマー用途および潤滑剤のための原料として用いられる。生態学的および毒物学的研究により、再生可能資源をベースとする脂肪酸由来生成物は石油化学品ベースの物質よりも好適な特性を有することが示唆されている。脂肪アルデヒドは、多くの特殊化学物質を産生するために用いられる。例えば、アルデヒドは、ポリマー、樹脂(例えば、ベークライト)、染料、香味剤、可塑剤、香料、医薬品および他の化学物質を産生するために用いられ、溶媒、保存料、または消毒薬として用いられるものもある。加えて、ビタミンおよびホルモンなどのある種の天然化合物および合成化合物はアルデヒドであり、多くの糖類はアルデヒド基を含有する。脂肪アルデヒドは、化学的または酵素的還元によって脂肪アルコールに変換することができる。脂肪アルコールは多くの商業用途を有する。全世界での脂肪アルコールおよびその誘導体の年間売上高は10億米ドルを超える。短鎖(shorter chain)脂肪アルコールは、化粧品産業および食品産業において、乳化剤、軟化剤、および増粘剤として用いられる。脂肪アルコールは、その両親媒性ゆえに、パーソナルケア用品および家事用品、例えば洗剤などに役立つ非イオン界面活性剤として作用する。また、脂肪アルコールは、蝋、ゴム、樹脂、医薬軟膏およびローション、潤滑油添加物、繊維用帯電防止剤および表面処理剤、可塑剤、化粧品、工業用溶媒、ならびに脂肪用の溶媒として使用される。本開示はまた、本明細書に記載の方法のいずれかによって産生された脂肪アルコールを含む界面活性剤組成物または洗剤組成物も提供する。当業者は、界面活性剤組成物または洗剤組成物の意図する目的に応じて、異なる脂肪アルコールを産生して用いることができることを理解するであろう。例えば、本明細書に記載の脂肪アルコールが、界面活性剤または洗剤の産生のための原料として用いられる場合、当業者は、脂肪アルコール原料の特性が、産生される界面活性剤または洗剤組成物の特性に影響を及ぼすことを理解するであろう。それ故に、原料として用いるための特定の脂肪アルコールを産生することにより、界面活性剤または洗剤組成物の特性を選択することができる。本明細書に記載の脂肪アルコールベースの界面活性剤および/または洗剤組成物は、当技術分野において周知の他の界面活性剤および/または洗剤と混合することができる。いくつかの態様において、混合物は、重量比で少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、または前記の値の任意の2つを境界とする範囲の脂肪アルコールを含むことができる。他の例では、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21または22炭素長である炭素鎖を含む脂肪アルコールを、重量比で少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または前記の値の任意の2つを境界とする範囲で含む界面活性剤または洗剤組成物を製造することができる。そのような界面活性剤または洗剤組成物は、非微生物源由来のマイクロエマルションまたは界面活性剤または洗剤などの少なくとも1つの添加物も含むことができ、それらは脂肪アルコールとの重量比で少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%または前記の値のいずれか2つを境界とする範囲の量で存在しうる。エステルには多くの商業的用途がある。例えば、代替燃料の1つであるバイオディーゼル油は、エステル(例えば、脂肪酸メチルエステル、脂肪酸エチルエステルなど)で構成される。ある種の低分子量エステルは心地よい香りの揮発性物質であり、そのため芳香剤または香味剤として有用である。加えて、エステルは、ラッカー、塗料およびワニス用の溶媒としても用いられる。その上、蝋、脂肪および油といった天然物にも、エステルで構成されるものがある。エステルはまた、樹脂およびプラスチック中の柔軟剤および可塑剤、難燃剤、ならびにガソリンおよび油中の添加物としても用いられる。加えて、エステルは、ポリマー、フィルム、繊維、染料および医薬品の製造にも用いることができる。炭化水素には多くの商業的用途がある。例えば、比較的短鎖のアルカンは燃料として用いられる。より長鎖のアルカン(例えば、炭素が5〜16個)は、輸送燃料(例えば、ガソリン、ディーゼル油、または航空燃料)として用いられる。16個を上回る炭素原子を有するアルカンは、燃料油および潤滑油の重要な構成成分である。室温では固体であるさらに長いアルカンは、例えば、パラフィン蝋として用いることができる。加えて、より長鎖のアルカンを分解して、商業的に有用な短鎖炭化水素を製造することもできる。短鎖アルカンと同様に、短鎖アルケンも輸送燃料に用いられる。より長鎖のアルケンは、プラスチック、潤滑剤および合成潤滑剤に用いられる。加えて、アルケンは、アルコール、エステル、可塑剤、界面活性剤、第三級アミン、石油増進回収剤、脂肪酸、チオール、アルケニルコハク酸無水物、エポキシド、塩素化アルカン、塩素化アルケン、蝋、燃料添加物、および牽引流低減剤を産生するための原料としても用いられる。ケトンは、溶媒として商業的に用いられる。例えば、アセトンは溶媒としてよく用いられるが、ポリマーを製造するための原料でもある。ケトンはまた、ラッカー、塗料、爆薬、香料、および繊維の加工にも用いられる。さらに、ケトンは、アルコール、アルケン、アルカン、イミン、およびエナミンを製造するのにも用いられる。潤滑剤は、典型的には、オレフィン、特にポリオレフィンおよびα-オレフィンで構成される。潤滑剤は、原油から精製することができ、または原油から精製された原料を用いて製造することもできる。原油からこれらの特殊化学品を得るには、莫大な金融投資ならびに大量のエネルギーを必要とする。それはまた、多くの場合、より小さいモノマーを産生するために原油中の長鎖炭化水素が分解されることから、非効率な工程でもある。続いて、これらのモノマーは、より複雑な特殊化学品を製造するための原料として用いられる。以下の実施例によって、本開示をさらに例示する。これらの実施例は例示の目的で提示されるのにすぎない。決して、これらの実施例を、本開示の範囲または内容を限定するものと解釈してはならない。
【実施例】
【0099】
実施例1
産生宿主の改変‐アシル-CoAデヒドロゲナーゼの減弱化
本実施例では、脂肪酸分解酵素の発現が減弱化されている、遺伝子操作された宿主細胞の構築について述べる。
【0100】
Datsenko et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97: 6640-6645 (2000)によって記載されたLambda Red(Red-Driven Integrationとしても知られる)系に以下の改変を加えた上で用いて、大腸菌MG1655(大腸菌K株の1つ)のfadE遺伝子を欠失させた。
【0101】
以下の2つのプライマーを、fadEの欠失を作製するために用いた:
。
【0102】
Del-fadE-FプライマーおよびDel-fadE-Rプライマーを用いて、PCRにより、プラスミドpKD13(Datsenko et al., 前記によって記載)からカナマイシン耐性(KmR)カセットを増幅した。続いて、このPCR産物を用いて、あらかじめアラビノースで3〜4時間誘導した、pKD46(Datsenko et al., 前記に記載)を含有するエレクトロコンピテント大腸菌MG1655細胞を形質転換させた。super optimal broth with catabolite repression(SOC)培地中で37℃で3時間増殖させた後に、細胞を、50μg/mLのカナマイシンを含有するLuria寒天プレートに播いた。37℃で終夜培養した後に、耐性コロニーを同定して単離した。fadE遺伝子の破壊は、大腸菌fadE遺伝子に隣接するように設計したプライマーfadE-L2およびfadE-R1を用いるPCR増幅によって確認した。
【0103】
fadE欠失確認プライマーは以下とした:
。
【0104】
fadE欠失を確認した後に、単一のコロニーを用い、Datsenko et al., 前記によって記載されたようにpCP20プラスミドを用いて、KmRマーカーを除去した。fadE遺伝子が欠失しかつKmRマーカーが除去された、得られたMG1655大腸菌株を、大腸菌MG1655 ΔfadEまたは大腸菌MG 1655 D1と名付けた。fadE遺伝子が欠失したMG1655大腸菌株による脂肪酸誘導体(総脂肪種)の産生を、大腸菌MG1655による脂肪酸誘導体の産生と比較した。fadE遺伝子の欠失は、脂肪酸誘導体の産生に影響を及ぼさなかった(
図7)。いくつかの例示的な宿主細胞株が本明細書に記載されており、その例が以下の表3において記載されている。
【0105】
(表3)大腸菌株の遺伝的特徴づけ
プラスミド:pDG109、pLC56およびpV171.1は、carBおよびtesAのさまざまな発現を伴うpCL_P
trccarB_tesA_alrA_fabB_fadRオペロンである。iFAB138はSEQ ID NO:19である。
【0106】
実施例2
脂肪酸合成経路を経由する流れの増大‐アセチルCoAカルボキシラーゼ媒介性
脂肪エステル産生:
脂肪酸生合成のための主な前駆体はマロニル-CoAおよびアセチル-CoAである(
図1)。これらの前駆体は大腸菌における脂肪酸生合成の速度を制限することが示唆されている。本実施例では、合成accオペロン[コリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)accABCD(±birA)]を過剰発現させ、この遺伝子改変が、大腸菌におけるアセチル-coAおよびマロニル-CoAの産生の増大をもたらした。1つのアプローチでは、マロニル-CoAレベルを上昇させる目的で、コリネバクテリウム・グルタミクム(C.グルタミクム)由来のアセチル-CoAカルボキシラーゼ酵素複合体を大腸菌で過剰発現させた。アセチル-CoAカルボキシラーゼ(acc)は、4つの別個のサブユニット、accA、accB、accCおよびaccDからなる(
図3)。C.グルタミクムaccの利点は、2つのサブユニットが、融合タンパク質accCBおよびaccDAとしてそれぞれ発現されることであり、これにより、その均衡のとれた発現が容易になる。さらに、accBサブユニットをビオチン化するC.グルタミクムbirA(
図3)も過剰発現させた。例示的なC.グルタミクムbirA DNA配列は、SEQ ID NO:55およびSEQ ID NO:56として提示されている。C.グルタミクムbirAタンパク質配列はSEQ ID NO:57として提示されている。
【0107】
C.グルタミクムacc遺伝子の合成オペロンを、OP80中に以下のようにクローニングした(参照により本明細書に組み入れられるWO2008/119082号を参照)Ptrc1-accDACB、Ptrc3-accDACB、Ptrc1-accCBDAおよびPtrc3-CBDA。Ptrc1およびPtrc3は、一般的に用いられるPtrcプロモーターの誘導体であり、これは標的遺伝子の減弱転写を可能にする。天然配列は、好適なコドン使用を示した(accCBにおけるArg6のコドンのみが変化していた)ことからみて、染色体DNAから転写されたことに注目されたい。C.グルタミクムbirA遺伝子はコドン最適化されており、遺伝子合成によって得た。これはオペロン構築物4種のすべてにおいて、acc遺伝子の下流にクローニングされた。本発明者らは以下では、オペロン構成accDACBをaccD-、オペロン構成accDACB+birAをaccD+と称する。その結果得られたプラスミドを、大腸菌由来のリーダーレスチオエステラーゼ'tesAおよびアシル-CoAシンテターゼfadDの組み込みコピー(i)、ならびにマリノバクター・ハイドロカーボノクラスティカス由来のエステルシンターゼ9(ES9)(SEQ ID NO:6)を含有する大腸菌DAM1_i377に形質転換導入した。遺伝子はすべて、Ptrcプロモーターによって制御される。これらの菌株を振盪フラスコ内で5NBT培地(下記)中にて増殖させて、下記の短鎖-CoAアッセイを用いてマロニル-CoAに関して分析した。
図8は、8種のC.グルタミクムacc±birA構築物のうち6種が対数増殖期にマロニル-CoAレベルの上昇を示したことを示しており、このことは大腸菌におけるそれらの機能性を実証している。birAの共発現により、ptrc1/3_accDACB菌株、特にPtrc3-accDACB-birAオペロン構成を含有するプラスミド(プラスミドpAS119.50D;SEQ ID NO:62)におけるマロニル-CoAレベルはさらに増大した。
【0108】
panKとacc-birA過剰発現とを組み合わせることの影響を検討するために、最適化されたpanK遺伝子を、ptrc1/3_accDACB-birA中のbirAの下流にクローニングした。パントテン酸キナーゼpanK(またはCoaA)は、例えば、アセチル-CoAカルボキシラーゼの基質であるアセチル-CoAの形成といった多くの反応に関与する必須の補因子である、補酵素Aの生合成における第1の段階を触媒する。その結果得られたプラスミドをDAM1_i377に形質転換導入し、振盪フラスコ内で5NBT(+TVS1)培地中にて増殖させた上で、下記の方法を用いて菌株を短鎖-CoAに関して分析した。
図9に示されているように、対数期におけるpanK共発現により、マロニル-CoAレベルはさらに増大し、アセチル-CoAレベルも増大したが、このことはpanKがマロニル-CoAレベルをさらに増大させうることを実証している。アセチル-CoAカルボキシラーゼ酵素複合体の共発現が脂肪エステル産生に及ぼす影響を、エステルシンターゼ9(SEQ ID NO:6)を、別の大腸菌産生宿主におけるacc遺伝子とともに、またはそれを伴わずに発現させることによって評価した。より具体的には、プラスミドOP80(ベクター対照)、pDS57(ES9を伴う)、pDS57-accD-(ES9およびaccDACBを伴う)またはpDS57-accD+(ES9およびaccDACB-birAを伴う;SEQ ID NO:63)を大腸菌株DV2に形質転換導入し、対応する形質転換体を、100mg/Lのスペクチノマイシンを加えたLBプレート上で選択した。
【0109】
各プラスミドの2つの形質転換体を、100mg/Lのスペクチノマイシンを加えたLBブロス中に独立に播種し、32℃で5〜8時間増殖させた。培養物を、以下の組成を有する最小培地中に30倍に希釈した:0.5g/L NaCl、1mM MgSO
4×7 H
2O、0.1mM CaCl
2、2g/L NH
4Cl、3g/L KH
2PO
4、6g/L Na
2HPO
4、1mg/Lチアミン、1×微量金属溶液、10mg/Lクエン酸第二鉄、100mM Bis-Tris(pH7.0)、30g/Lグルコースおよび100mg/Lスペクチノマイシン。32℃で終夜増殖させた後に、培養物を四重反復試験の形で、培地が2g/Lではなく1g/LのNH
4Clを含有し、1mM IPTGおよび2%(v/v)メタノールを加えた点を除いて上記と同じ組成の最小培地中に、10倍に希釈した。その結果得られた培養物を、続いて振盪機にて32℃で増殖させた。脂肪酸メチルエステル(FAME)の生成は、フレームイオン検出器付きガスクロマトグラフィー(GC-FID)によって分析した。試料を容積比1:1 vol/volの酢酸ブチルで抽出した。ボルテックス処理後に、試料を遠心分離し、有機相をガスクロマトグラフィー(GC)によって分析した。分析条件は以下の通りとした:装置:Trace GC Ultra、Thermo Electron Corporation、フレームイオン化検出器(FID)付き;カラム:DB-1(1%ジフェニルシロキサン;99%ジメチルシロキサン)CO1 UFM 1/0.1/5 01 DET、Thermo Electron Corporation製、相pH 5、FT:0.4μm、長さ5m、内径:0.1mm;注入口条件:250℃スプリットレス、試料濃度に応じて3.8分間 1/25スプリット法を75mL/mのスプリット流で使用;担体ガス、流速:ヘリウム、3.0mL/m;ブロック温度:330℃;オーブン温度:50℃で0.5分間保持、100℃/mで330℃に、330℃で0.5分間保持;検出器温度:300℃;注入量:2μL;実行時間/流速:6.3分間/3.0mL/m(スプリットレス法)、3.8分間 1.5mL/m(スプリット1/25法)、3.04分間/1.2mL/m(スプリット1/50法)。産生されたFAMEを
図10に示している。大腸菌DV2におけるES9単独での発現により、対照DV2 OP80を上回るFAME産生が導かれた。C.グルタミクムのアセチル-CoAカルボキシラーゼ複合体の共発現により、FAMEのおよそ1.5倍の増加が導かれ、C.グルタミクムのビオチンタンパク質リガーゼのさらなる発現により、FAMEのおよそ5倍の増加が導かれた。これらの結果は、マロニル-CoAの供給増加により、ES9が大腸菌における脂肪酸生合成機構の中間体を脂肪酸メチルエステルへと変換する能力が向上することを示唆する。
【0110】
短鎖CoAアッセイ:0.467mlの10% TCAを内部標準物質としてのクロトニル-CoAとともに用いて15mlファルコンチューブを調製し、2mlのシリコーン油の層を上に重ねた。チューブを氷上で冷却し、1ml OD600=31.2に等しい発酵ブロスの層をシリコーン油の上に注意深く重ねた。試料を、11,400g、4℃での4回の4分間サイクルによって遠心分離した。各試料について、TCA/細胞抽出物の400mlアリコートを取り出して、1mlオクチルアミン(CHCl3)による中和のために、新たなEppendorfチューブに入れた。ボルテックス処理の後に、試料を13,000gで30秒間遠心分離した。最上層の200mlを0.2um PTFEシリンジフィルターを用いて濾過し、続いてLC-MS/MS分析に供した。
【0111】
実験に用いた培地の説明:
【0112】
1000倍濃縮した微量ビタミン溶液
0.06g/L リボフラビン
6g/L ナイアシン
5.4g/L パントテン酸
1.4g/L ピリドキシン
0.06g/L ビオチン
0.01g/L 葉酸
1000倍濃縮した微量金属溶液
2mL/L 濃塩酸
0.5g/L ホウ酸
1.9g/L 硫酸銅、五水和物、USP
1g/L 無水塩化亜鉛
2g/L モリブデン酸ナトリウム(sodium molybdenate)脱水物
2g/L 塩化カルシウム脱水物
【0113】
脂肪アルコールの産生:
アセチル-CoAカルボキシラーゼ酵素複合体の共発現が脂肪アルコールの産生に及ぼす影響を、シネココッカス・エロンガタス由来のアシル-ACPレダクターゼ(AAR)(SEQ ID NO:38)を、大腸菌DV2におけるacc遺伝子とともに、またはそれを伴わずに発現させることによって評価した。accD+オペロンの構成を選んだのは、エステルシンターゼと共発現させた時に最も優れた結果が得られたためである(前出の例を参照)。Infusion技術(Clontech Laboratories, Inc., Mountain View, CA)を用いて、accDABC-birAオペロンをpLS9-185(pCL1920誘導体)中のaar遺伝子の下流にクローニングした。その結果得られたプラスミドを大腸菌DV2に形質転換導入し、対応する形質転換体を、100mg/Lのスペクチノマイシンを加えたLBプレート上で選択した。産生された脂肪アルコールを
図11に示している。AARとaccD+との共発現により、AARのみの対照(pLS9-185)と比較して、脂肪アルコール力価のおよそ1.5倍の増大が導かれた。このデータには再現性があった(三重反復試験試料を示した)。これらの結果は、マロニル-CoAレベルを増大させることにより、このアシル-ACPレダクターゼを用いた場合に脂肪酸産生の改善が導かれることを実証している。加えて、実施例3では、acc遺伝子とfabオペロン全体との共発現について述べる。
【0114】
実施例3
脂肪酸合成経路を経由する流れの増大‐iFAB
脂肪酸誘導体の産生:
組換え宿主細胞における脂肪酸合成経路を経由する流れを増大させるための戦略には、大腸菌における、天然大腸菌脂肪酸生合成遺伝子の過剰発現および異なる生物由来の外因性脂肪酸生合成遺伝子の発現の両方が含まれる。本研究では、異なる生物由来の脂肪酸生合成遺伝子を、大腸菌DV2のゲノム中で組み合わせ(表3)、lacUV5プロモーターの制御下に置き、IS5-11部位に組み込んだ。iFAB 130〜145を含む16種の菌株を評価した。iFAB 130〜145の詳細な構造は表4および5に提示されている。
【0115】
(表4)iFAB 130〜145に用いた種々の種由来の構成成分
【0116】
各「iFAB」は、さまざまなfab遺伝子を以下の順に含んだ:1)エノイル-ACPレダクターゼ(BS_fabI、BS_FabL、Vc_FabVまたはEc_FabI);2)b-ケトアシル-ACPシンテターゼIII(St_fabH);3)マロニル-CoA-ACPトランスアシラーゼ(St_fabD);4)b-ケトアシル-ACPレダクターゼ(St_fabG);5)3-ヒドロキシ-アシル-ACPデヒドラターゼ(St_fabAまたはSt_fabZ);6)b-ケトアシル-ACPシンテターゼII(Cac_fabF)。St_fabAがtrans-2,cis-3-デセノイル-ACPイソメラーゼ活性も有すること、Cac_fabFがb-ケトアシル-ACPシンテターゼII活性およびb-ケトアシル-ACPシンテターゼI活性を有することに留意されたい(Zhu et al., BMC Microbiology 9: 119 (2009))。iFAB 130〜145の具体的な組成については、以下の表5を参照されたい。
【0117】
(表5)iFAB 130〜145の組成
プラスミドpCL_P
trc_tesAを菌株のそれぞれに形質転換導入し、FA2培地中での発酵を、導入から集菌まで20時間かけて32℃および37℃の両方で行った。二重反復プレートスクリーニングによる総脂肪種の産生に関するデータを
図12Aおよび12Bに示している。このスクリーニングにより、最も優れた構築物はiFAB 138を伴うDV2であると判定された。EG149のゲノム中でのiFAB138の配列は、SEQ ID NO:19として提示されている。
【0118】
脂肪エステルの産生:
完全合成fabオペロンを大腸菌染色体に組み込み、大腸菌DAM1 pDS57における発現によるFAME産生の増加に関して評価した。加えて、コリネバクテリウム・グルタミクム由来の4種の合成accオペロンを共発現させて、FAME産生能の改善に関して評価した。FAMEをより高い速度かつより高い力価で産生するいくつかの菌株が得られた。16種類のiFABオペロン(表5)をlacUV5プロモーターの制御下に置き、大腸菌DAM1のIS5-11部位に組み込んだ。これらの菌株をDAM1 ifab130〜145と命名した。それらに、FAME産生の評価のために、pDS57(エステルシンターゼ377を含む)または異なる型のaccオペロンを共発現するpDS57(上記参照)による形質転換を行った。例示的なプラスミドは表6に記載されている。
【0119】
(表6)エステルシンターゼES9(マリノバクター・ハイドロカーボノクラスティカス由来)および合成accオペロン(コリネバクテリウム・グルタミクム由来)を含むプラスミド
pDS57=pCL_ptrc-ES9
【0120】
DAM1 ifab菌株を、96ウェルプレート(4NBT培地)、振盪フラスコ(5NBT培地)(培地の説明については上記参照)および発酵槽において32℃で分析した。最も優れた結果は96ウェルプレートおよび振盪フラスコにおいて得られ、pDS57-acc-birAプラスミドを伴ういくつかのDAM1 ifab菌株がより高いFAME力価を示した。特に、pDS57-accDACB-birAを伴うDAM1 ifab131、ifab135、ifab137、ifab138およびifab143は20〜40%の力価改善を示し、このことは、これらの菌株では脂肪酸経路を経由するより高度な流れが達成され、その結果、より優れた産物形成速度がもたらされたことを示している(これらの結果はいくつかの独立した実験において再現性があった)。
【0121】
fabHおよびfabIの過剰発現が脂肪酸メチルエステル(FAME)産生に及ぼす影響:
組換え宿主細胞における脂肪酸合成経路を経由する流れを増大させるための戦略には、天然脂肪酸生合成遺伝子の過剰発現および異種脂肪酸生合成遺伝子の発現の両方が含まれる。FabHおよびfabIは、フィードバック阻害されることが示されている2つの脂肪酸生合成酵素である(Heath and Rock, JBC 271 : 1833-1836 (1996))。FabHおよびFabIがFAME産生の速度を律するか否かを明らかにするための研究を実施した。FabH相同体およびfabI相同体(大腸菌、枯草菌、アシネトバクター・バイリイADP1、マリノバクター・アクアエオレイVT8、およびロドコッカス・オパクスに由来)を、大腸菌DAM1 pDS57(優れたFAME産生株であることが観察されている菌株)において合成オペロンとして過剰発現させて評価した。1つのアプローチでは、蝋(A.バイリイ、M.アクアエオレイ)またはトリアシルグリセリド(R.オパクス)を蓄積する生物からfabHfabIオペロンを構築し、大腸菌DAM1 pDS57の染色体に組み込んだ。1つの関連したアプローチでは、C.グルタミクム由来の合成accオペロンを共発現させた(上記の実施例2に記載した通り)。表7にまとめたように、11種類のfabHIオペロンを構築した(アセンブリはインビトロで行った)。fabHIオペロンをIPTG誘導性lacUV5プロモーターの制御下に置き、大腸菌DAM1のIS5-11部位に組み込んだ。これらの菌株を、以下の表に示すように命名した。それらに、FAME産生の評価のために、pDS57(エステルシンターゼ377を含む)または異なる型のaccオペロンを共発現するpDS57による形質転換を行った。
【0122】
(表7)組み込まれたfabHIオペロンの遺伝子型
Bs:枯草菌;Ec:大腸菌;ADP1:アシネトバクター属種ADP1;VT8:マリノバクター・アクアエオレイVT8;Ro:ロドコッカス・オパクスB4
【0123】
DAM1 ifabHI菌株を、96ウェルプレート(4NBT培地)、振盪フラスコ(5NBT培地)および発酵槽において32℃で分析した。振盪フラスコでは、pDS57プラスミドを保持するいくつかのifabHI菌株が対照DAM1 pDS57菌株よりも優れた成績を示し、10〜15%高いFAME力価に達した(
図13)。ifabHI菌株にpDS57-acc-birAプラスミドによる形質転換を行った場合にはFAME力価のさらなる増大が得られ、特に、菌株StEP156(DAM1 IS5-11::lacUV5(ecRBS)ADP1fabH(ecRBS)ADP1fabI pDS57-accDACB-birA)(
図14)では、FAME力価の50%の増大が観察された。
【0124】
ifabHIを伴う菌株のいくつかを発酵槽で発酵させたところ、FAME力価の増大、特異的産生能および収量も観察されたが(
図15)、このことは、これらの菌株では脂肪酸経路を経由する流れの増大が達成され、その結果、より優れた産物形成速度がもたらされたことを示している。特に、stEP129(DAM1 5-11::UV5(ecRBS)ADP1fabH(ecRBS)ADP1fabIpDS57)は、いくつかの独立した発酵実行(run)において、より高いFAME力価および収量を示した。fabHおよびfabIの他の組み合わせを用いても同様の効果を達成しうる可能性がある。本明細書ではFAMEを例示したものの、脂肪酸生合成遺伝子を変更するこのアプローチは、あらゆる脂肪酸誘導体の産生を増加させるために有用なアプローチである。
【0125】
オペロンFAB138の前方に強力なプロモーターを挿入することが脂肪酸メチルエステル(FAME)産生に及ぼす影響:
iFAB138のlacUV5プロモーターを、iFAB138のより高いレベルでの発現を導くT5プロモーター(SEQ ID NO:2)に置き換え、そのことはmRNA分析によって確かめられた。T5プロモーターからのiFAB138の発現は、脂肪エステルのより高い力価、収量および産生能をもたらした。菌株shu.002(表3)は、iFAB138オペロンの発現を制御するT5プロモーター(SEQ ID NO:19)を含む点を除き、菌株BD64(表3)の同質遺伝子である。
【0126】
(表8)iT5_138カセットを作製し、新たな菌株へのその挿入を検証するために用いたプライマー
【0127】
プライマーDG405およびDG406(表8)を用いて、PCR産物の各末端に50bpの相同性を付加するcat-loxPおよびT5プロモーターカセットが増幅され、その結果、それが任意の菌株に組み込まれて、iFAB138オペロンの発現を調節するlacUV5プロモーターを置き換えるようにした。cat-loxP-T5プロモーターをBD64/pKD46菌株に形質転換導入した。形質転換体をLB+クロラムフェニコールプレート上に37℃で終夜放置して回収し、新たなLB+クロラムフェニコールプレートに植え継いで、プライマーDG422およびDG423を用いるコロニーPCRによって検証した。プラスミドpJW168(Palmeros et al., Gene 247: 255-264 (2000))を菌株BD64 i-cat-loxP-T5_138に形質転換導入し、LB+カルベニシリンプレート上にて32℃で選択した。catマーカーを除去するために、cre-リコンビナーゼの発現をIPTGによって誘導した。プラスミドpJW168は培養物を42℃で増殖させることによって除去した。pJW168の喪失およびcatマーカーの除去を検証するために、コロニーをそれぞれLB+クロラムフェニコールおよびLB+カルベニシリンに植え継いだ。コロニーを陽性対照としてのLBにも植え継ぎ、植え継いだプレートすべてを32℃でインキュベートした。catマーカーの除去は、プライマーDG422およびDG423を用いるコロニーPCRによって確かめた。その結果得られたPCR産物を、プライマーEG744、EG749およびoTREE047を用いるシークエンシングによって検証し、この菌株をshu.002と呼称した。
図16は、iFAB138座位:FAB138の前方に組み込まれたcat-loxP-P
T5カセットの略図(
図16A)およびP
T5_iFAB138領域の略図(
図16B)を示している。組み込み部位に対する相同性を有するiFAB138の前方に組み込まれたcat-loxP-T5プロモーターの配列はSEQ ID NO:1として提示されており、組み込み部位に対する相同性を有するiT5_FAB138プロモーター領域の配列はSEQ ID NO:2として提示されている。脂肪酸の流れの増大を導くにはいくつかの条件がある。本実施例では、オペロンiFAB138のプロモーター強度を変更することによって脂肪酸の流れの増大が達成された。T5プロモーターからのiFAB138の発現は有益であったが、それでもなお、このプロモーター変化をyijP::Tn5カセットの挿入と組み合わせると、脂肪酸エステルおよび他の脂肪酸誘導体の力価、収量および産生能のさらなる改善が観察された(データは提示せず)。
【0128】
実施例4
rphおよびilvGの突然変異を修復することによって、遊離脂肪酸(FFA)生成物の量を増加させる
この菌株においてilvGおよびrph突然変異を修復した結果、FFAがより多く産生された。菌株EG149およびV668(表3)を、pCL_P
trc_tesAで形質転換した。FA2培地中での発酵を32℃で40時間行って、pCL_P
trc_tesAを有する菌株EG149およびV668のFFA産生を比較した。rphおよびilvG突然変異の修復は、pCL_P
trc_tesAを有する基準菌株と比べてFFA産生の116%の増加をもたらした。
図17に見られるように、V668/pCL_P
trc_tesAは、EG149/pCL_P
trc_tesA対照よりも多くのFFAを産生した。FFAはLS9生成物の前駆体であるため、FFA産生の増加は、新たな菌株がLS9生成物をより高レベルで産生しうることの優れた指標となる。
【0129】
実施例5
トランスポゾン突然変異誘発による脂肪酸誘導体産生の増大‐yijP
脂肪アルコール産生:
大腸菌による脂肪アルコールの産生の力価、収量、産生能を改善するために、トランスポゾン突然変異誘発およびハイスループットスクリーニングを実施し、有益な突然変異のシークエンシングを行った。yijP菌株におけるトランスポゾン挿入は、振盪フラスコ発酵および流加発酵のいずれにおいても、該菌株の脂肪アルコール収量を改善することが示された。SL313菌株は脂肪アルコールを産生する。この菌株の遺伝子型を表3に提示している。続いて、脂肪アルコールの産生を測定するために、トランスポゾンクローンをハイスループットスクリーニングに供した。手短に述べると、コロニーを選び取り、LBを含有するディープウェルプレートに入れて、終夜増殖させ、新たなLBに播種して、3時間増殖させ、新たなFA2.1培地に播種して、16時間増殖させ、続いて酢酸ブチルを用いて抽出した。粗抽出物をBSTFA(N,O-ビス[トリメチルシリル]トリフルオロアセトアミド)で誘導体化した後に、GC/FIDを用いて分析した。pDG109プラスミドの選択を維持するために、すべての培地にスペクチノマイシン(100mg/L)を含めた。対照菌株SL313と同程度に総脂肪種を産生するが対照よりも脂肪アルコール種のパーセンテージが高くかつ遊離脂肪酸のパーセンテージが低いクローンを選ぶことにより、ヒットを選択した。菌株68F11がヒットとして同定され、これを、FA2.1培地を用いる振盪フラスコ発酵で検証した。トランスポゾンヒット68F11と対照菌株SL313との比較により、68F11は対照よりも高いパーセンテージで脂肪アルコール種を産生する一方で、両方の菌株とも総脂肪種は同程度の力価で産生することが示された。LC535と名付けられたヒット68F11の単一コロニーについて、トランスポゾン挿入の場所を同定するためにシークエンシングを行った。手短に述べると、キットZR Fungal/Bacterial DNA MiniPrep(商標)(Zymo Research Corporation, Irvine, CA)を製造元の説明書に従って用いて、10mLの終夜LB培養物からゲノムDNAを精製した。精製されたゲノムDNAのシークエンシングを、トランスポゾンの内部にあるプライマーを用いて、トランスポゾンから外側に向かって行った:
。
【0130】
菌株LC535は、yijP遺伝子中にトランスポゾン挿入を有することが明らかにされた(
図18)。yijPは、機能が不明である、保存されている内膜タンパク質をコードする。yijP遺伝子はオペロン内にあり、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼをコードするppc遺伝子、および機能不明なDNA結合性転写調節因子と予想されるものをコードするyijO遺伝子とともに共転写される。トランスポゾンの内部にあるプロモーターが、yijP、ppcおよびyijOの転写のレベルおよびタイミングに影響を及ぼしている可能性が高く、隣接遺伝子frwD、pflC、pfld、およびargEに対しても影響を及ぼしている可能性がある。トランスポゾンカセットの内部にあるプロモーターは
図18に示されており、これが隣接遺伝子の発現に影響を及ぼしている可能性がある。菌株LC535を異なった2日での流加発酵にて評価した。いずれの発酵によっても、LC535が脂肪アルコールを対照SL313よりも高い収量で産生したことが実証され、改善度は炭素投入量に基づく絶対的収量で1.3〜1.9%であった。yijPトランスポゾンカセットを、脂肪アルコールを菌株SL313よりも高い収量で産生する別の菌株V940においてさらに評価した。yijP::Tn5-catカセットを、菌株LC535から、以下のプライマーを用いて増幅した:
。
【0131】
この直鎖状DNAをエレクトロポレーションによって菌株SL571に導入し、lambda red組換え系を用いて染色体に組み込んだ。トランスポゾン領域の外側にあるプライマーを用いて、コロニーをスクリーニングした:
。
【0132】
正しいyijPトランスポゾンカセットを有するコロニーを、産生プラスミドpV171.1で形質転換して、菌株D851を作製した。D851を、yijPトランスポゾンカセットを含まない菌株V940と比較して、振盪フラスコ発酵にて試験した。この発酵の結果から、yijPトランスポゾンカセットにより、V940菌株に比して、D851菌株においてより高いパーセンテージの脂肪アルコール産生がもたらされ、総脂肪種はV940対照菌株と同程度の力価で産生されることが示された。菌株D851を、異なった2日での流加発酵にて評価した。これらの発酵によるデータは表9に示されており、これは、5リットル流加発酵では、yijP::Tn5-catトランスポゾン挿入を有する菌株において総脂肪種(「FAS」)収量が増加したこと、および%脂肪アルコール(「FALC」)が増加したことを示している。「総脂肪種」および「総脂肪酸生成物」という用語は、国際特許出願公開第WO2008/119082号に記載されたようなGC-FIDによって評価される、脂肪アルコール、脂肪アルデヒドおよび遊離脂肪酸の量のことを指して、本明細書において互換的に用いうる。脂肪エステル分析に言及する際には、これらの同じ用語を、脂肪エステルおよび遊離脂肪酸を意味して用いてもよい。本明細書で用いる場合、「脂肪エステル」という用語は、βヒドロキシエステルを含む。
【0133】
(表9)FASおよびFALCの力価および収量に対するyijpトランスポゾン挿入の効果
【0134】
タンク発酵法:
タンクでの脂肪酸および脂肪酸誘導体の産生について評価するために、所望の菌株のグリセロールバイアルを用いて振盪フラスコ内の20mL LB+スペクチノマイシンに播種し、32℃でおよそ6時間培養した。4mLのLB培養物を用いて125mLの低PFA播種培地(以下)に播種し、これを続いて32℃の振盪機にて終夜培養した。50mLの終夜培養物を用いて1Lのタンク培地に播種した。タンクを、pH 7.2および30.5℃でpH固定条件下、最大供給速度16g/L/hr グルコースで動作させた。
【0135】
(表10)低P FA播種培地
【0136】
(表11)タンク培地
【0137】
さらなる研究により、yijPトランスポゾン挿入を伴う菌株におけるFASおよびFALCの力価および収量の改善が、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(ppc)の活性の低下に起因することが示唆されている。この仮説を評価するために、以下の菌株においてインビトロでppc酵素アッセイを実施した。
【0138】
FA2.3培地(上記)中で標準的な振盪フラスコプロトコールを用いる振盪フラスコ発酵で増殖させて誘導から12〜16時間後に回収した細胞におけるppc活性を測定した。およそ5mLの細胞を遠心分離し、細胞ペーストを、プロテアーゼインヒビターカクテル溶液とともにBugBusterタンパク質抽出試薬(Novagen)中に懸濁させた。細胞懸濁液を、振盪機上で穏やかに振盪しながら20分間インキュベートした。不溶性細胞片を16,000×g、4℃で20分間の遠心分離によって除去し、その後に上清を新しいチューブに移した。細胞溶解物におけるppc活性を、以下の反応混合物を用いるクエン酸シンターゼとのカップリング反応によって決定した:0.4mMアセチル-CoA、10mMホスホエノールピルビン酸、0.5mMモノブロモビマン、5mM MgCl
2、10mM NaHCO
3、および10単位のブタ心臓由来クエン酸シンターゼ、100mM Tris-HCl(pH 8.0)中。オキサロ酢酸およびアセチル-CoAを用いたクエン酸シンターゼとの反応におけるCoAの形成は、モノブロモビマンによるCoAの蛍光性誘導体化を用いて測光的にモニターした。ppcアッセイの結果により、yijP::Tn5-catトランスポゾンカセットが細胞におけるppc活性を野生型細胞と比較して2.7分の1に低下させたことが示された。ppcの欠失を伴う細胞は十分に増殖せず、活性は野生型細胞の約10分の1の低さであった。これらの結果はまた、脂肪アルコール産生の収量を最も高くするには、ppc発現レベルが野生型レベルよりも低いことが必要なことも示している。yijP::Tn5-catトランスポゾンカセットを伴うかまたは伴わない2つの菌株におけるppcタンパク質の存在量を評価するために、プロテオミクスデータも収集した。バイオリアクター内で標準的な脂肪アルコール産生条件(上記)下で増殖させた菌株V940およびD851からタンパク質試料を収集した。試料は2つの異なる時点:32時間および48時間で回収し、分析用に調製した。
【0139】
試料収集およびタンパク質単離は以下の通りに実施した。
【0140】
20mlの発酵ブロスを各バイオリアクターから各時点で収集した。試料を氷冷PBSで急冷し、4℃での遠心分離(4500rpm/10分間)によって回収した。細胞ペレットを氷冷PBSで洗浄し、もう一度遠心分離した上で、さらなる処理のために-80℃で貯蔵した。
【0141】
全タンパク質抽出はフレンチプレスプロトコールを用いて行った。手短に述べると、細胞ペレットを7mlの氷冷PBS中に再懸濁させて、細菌が確実に完全に可溶化されるようにフレンチプレスを2000psiで2回行った。試料を10000rpm、4℃で20分間遠心分離して、可溶化されなかった細胞および細胞片をタンパク質画分から分離した。清澄な溶解物の全タンパク質濃度を、BCAタンパク質アッセイ試薬を用いて決定した。試料を2mgタンパク質/mlの濃度になるように希釈して、-80℃で凍結させた。
【0142】
試料を適切な緩衝液中に再懸濁させて、37℃で終夜トリプシン処理して、凍結乾燥させた。断片化されたタンパク質試料を、同位体が濃縮されたメチルピペラジン酢酸により室温で30分間かけて標識した。標識試料を陽イオン交換液体クロマトグラフィーを用いて分離し、イオントラップ質量分析計を用いる質量分析に供した。バックグラウンド減算およびバイアス補正を用いて生データを標準化した。
【0143】
プロテオミクスデータにより、32時間および48時間の時点でV940と比較した場合、D851菌株におけるppcタンパク質の相対的存在量の有意な減少が示された。D851では32時間の時点でV940のppcレベルの約15%であり、48時間の時点ではV940のppcレベルの約35%であった。これらのデータは、yijP::Tn5-catトランスポゾンカセットが細胞におけるppc存在量の有意な減少をもたらすことを示している。このことは、yijP::Tn5-catトランスポゾンヒットを保有する菌株による脂肪アルコールの産生に関して観察された利点が、ppcタンパク質の量の減少に起因することを示唆する。
【0144】
これらの結果は、ppc活性を変更することにより、脂肪酸誘導体の収量を改善しうることを示している。ppc遺伝子の発現を変更するにはいくつかのやり方があり、yijPトランスポゾンの挿入はこれを実現するやり方の1つである。理論に拘束されることは望まないが、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ活性が低下することの影響が、TCAサイクルを経由する炭素の流れを律することであるならば、クエン酸シンターゼ(gltA)の活性を低下させることによって、またはTCAサイクルに関与するいずれかの酵素の活性を低下させてTCAサイクルを緩徐化することによって、同様の結果を達成しうると考えられる。
【0145】
実施例6
脂肪酸合成経路を経由する流れの増大‐アシルキャリアータンパク質(ACP)により媒介される脂肪アルコール産生
大腸菌以外の供給源に由来する末端経路酵素を異種宿主としての大腸菌において発現させて、脂肪アシル-ACPを生成物に変換させる場合には、組換え経路酵素の大腸菌脂肪アシル-ACPに対する認識、親和性および/または代謝回転の点で制約が存在する可能性がある。ACPタンパク質はあらゆる生物を通じてある程度は保存されているものの、それらの一次配列は大きく異なる可能性があることに留意されたい。この仮説を検証するために、いくつかのシアノバクテリウム由来のacp遺伝子を、pCL1920誘導体であるpLS9-185に存在するシネココッカス・エロンガタスPCC7942アシル-ACPレダクターゼ(AAR)の下流にクローニングした。加えて、広い基質特異性を有するホスホパンテテイニルトランスフェラーゼをコードする枯草菌由来のsfp遺伝子(アクセッション番号X63158;SEQ ID NO:53)も、各々のacp遺伝子の下流にクローニングした。この酵素は、活性のないapo-ACPの、活性のあるholo-ACPへの変換に関与する。構築したプラスミドは表12に記載されている。
【0146】
(表12)S.エロンガタスPCC7942 AARの下流で、枯草菌sfpを伴うかまたは伴わずにシアノバクテリウムACPを共発現するプラスミド
【0147】
acp遺伝子はすべて、InFusion技術(Clontech Laboratories, Inc., Mountain View, CA)を用いて、合成RBSとともに、pLS9-185中のaar遺伝子のすぐ下流にあるEcoRI部位にクローニングした。EcoRI部位はacp遺伝子の下流に再構成した。同様に、枯草菌sfp遺伝子も、このEcoRI部位に合成RBSとともにInFusionクローニングした。プラスミドすべてを大腸菌MG1655 DV2に形質転換導入した(表3)。これらの実験に関する対照は、AARのみの発現とした(pLS9-185)。標準的な振盪フラスコ発酵実験による結果を
図19に示している。プラスミドpDS171S、pDS172S、pDS168およびpDS169を含有する菌株では脂肪アルコール力価の有意な改善が観察され、このことはACP過剰発現が、このケースではおそらく異種末端経路酵素によるアシル-ACPの認識、親和性および/または代謝回転を補助することによって、脂肪アルコールの産生に有益となりうることを実証している(ACPの供給源およびsfpの有無については表12参照)。
【0148】
脂肪酸の産生:
ACPの過剰発現が遊離脂肪酸の産生も増加させうるか否かを評価するために、sfpを伴う1つのシアノバクテリウムACP遺伝子をpDS171s(表12)から増幅させて、pCLベクター中の'tesAの下流にクローニングした。その結果得られたオペロンはPtrc3プロモーターの制御下に置かれており、そのためにPtrc野生型プロモーターよりも幾分低い転写レベルがもたらされる。構築物を大腸菌DV2中にクローニングし、脂肪酸産生に関して評価した。対照菌株には、シアノバクテリウムACPおよび枯草菌sfpを含まない同一のプラスミドを含有させた。標準的なマイクロタイタープレート発酵実験による結果を
図20に示している。異種ACPを共発現する菌株において脂肪酸力価の有意な改善が観察され、このことは、このケースではおそらく脂肪酸生合成経路を経由する流れが増大することによって、ACP過剰発現が脂肪アルコールの産生に有益となりうることを実証している。