(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
本実施形態に係るサーミスタ焼結体は、
図1(a)に示すように、Y
2O
3相と、Y(Cr
,Mn)O
3相と、を備える複合組織からなる酸化物焼結体である。
Y
2O
3相は電気的な絶縁体としての性質を有し、サーミスタ焼結体の抵抗値に影響を与える。また、Y(Cr
,Mn)O
3相は半導体としての性質を有し、サーミスタ焼結体のB定数に影響を与える。
【0015】
本実施形態に係るサーミスタ焼結体は、抵抗値およびB定数の高いY
2O
3相と、抵抗値およびB定数の低いY(Cr,Mn)O
3相と、を有する焼結体組織になっている。サーミスタ焼結体において、Y
2O
3相がY(Cr
,Mn)O
3相よりも多く占めており、Y
2O
3相が50体積%超〜90体積%、Y(Cr
,Mn)O
3相が残部(10体積%〜50体積%未満)を占める。
本実施形態に係るサーミスタ焼結体は、典型的には海島構造(sea-island structure)をなし、主相をなすY
2O
3相に副相をなすY(Cr
,Mn)O
3相が分散した複合組織をなす。サーミスタ焼結体は、好ましくはY
2O
3相が60〜90体積%であり、より好ましくは65〜75体積%である。
本実施形態に係るサーミスタ焼結体が海島構造をなす場合には、粒界が明確に特定できないこともあるが、Y
2O
3相は概ね0.5〜30μmの平均粒径(d50)を有し、Y(Cr
,Mn)O
3相は概ね1.0〜10μmの平均粒径を有している。
【0016】
本実施形態に係るサーミスタ焼結体のY
2O
3相およびY(Cr
,Mn)O
3相のそれ
ぞれの組成分析を行った。
結果を
図1(b)に示すが、Y(Cr,Mn)O
3相にCaおよびSrが固溶していることが確認された。Y(Cr,Mn)O
3相にCaおよびSrが固溶することで、Y(Cr
,Mn)O
3相のB定数を安定させるのに寄与する。
【0017】
Y
2O
3相と、Y(Cr
,Mn)O
3相と、を備え、酸素を除くCr,Mn,Ca,SrおよびYの化学組成は、Cr:3〜12モル%,Mn:5〜15モル%,Ca:1〜8モル%、Sr:1〜25モル%、残部が不可避不純物およびYからなる。本実施形態に係るサーミスタ焼結体は、CaとSrを複合で添加、含有するところに特徴を有している。
【0018】
本実施形態に係るサーミスタ焼結体は、上記の組成範囲を採用するのに加えて、CrとMnの比であるCr(モル%)/Mn(モル%)が1.8〜0.25であることが好ましい。
【0019】
好ましいCrの範囲は5〜10モル%、より好ましいCrの範囲は6〜10モル%である。
また、好ましいMnの範囲は6〜12モル%であり、より好ましくは7〜11モル%である。
Cr(モル%)/Mn(モル%)は、1.7〜0.5であることが好ましく、1.6〜0.6であることがより好ましく、1.2〜0.7であることがさらに好ましい。
【0020】
CaおよびSrは、Y(Cr
,Mn)O
3相に固溶されることで、サーミスタ焼結体のB定数を安定させる作用を有する。好ましいCaの範囲は2〜7モル%であり、より好ましいCaの範囲は3〜5モル%である。また、好ましいSrの範囲は1〜15モル%、より好ましいSrの範囲は4〜10モル%である。
【0021】
[サーミスタ焼結体の製造方法]
次に、
図2を参照して本実施形態に係るサーミスタ焼結体を製造する方法の一例を説明する。
本実施形態における製造方法は、
図2に示すように、原料粉末の秤量、原料粉末の混合、原料粉末の乾燥、仮焼き、仮焼き後の混合・粉砕、乾燥・造粒、成形および焼結の工程を備える。以下、順に各工程を説明する。
【0022】
[原料粉末の秤量]
本実施形態において、イットリウム酸化物(Y
2O
3)粉末、クロム酸化物(Cr
2O
3)粉末、マンガン酸化物(MnO,Mn
2O
3,Mn
3O
4等)粉末、CaCO
3粉末およびSrCO
3粉末を原料粉末とする。
以上の原料粉末を、上述した化学組成をなすように秤量する。
【0023】
Y
2O
3粉末はY
2O
3相の生成に寄与し、Y
2O
3粉末、Cr
2O
3粉末およびMn
3O
4粉末はY(Cr
,Mn)O
3相の生成に寄与する。CaCO
3粉末およびSrCO
3粉末は、焼結助剤として機能するのに加えて、Y(Cr
,Mn)O
3相にCaおよびSrとなって固溶し、B定数を安定させるのに寄与する。
原料粉末は、高い特性のサーミスタ焼結体を得るために、98%以上、好ましくは99%以上、より好ましくは99.9%以上の純度を有する。
また、原料粉末の粒径は、仮焼が進行する限り限定されるものでないが、平均粒径(d50)で0.1〜6.0μmの範囲で選択することができる。
【0024】
[原料粉末の混合・ボールミル]
所定量だけ秤量されたY
2O
3粉末、Cr
2O
3粉末、Mn
3O
4粉末、CaCO
3粉末およびSrCO
3粉末を混合する。混合は、例えば、混合粉末に水を加えたスラリー状
としてボールミルによって行うことができる。混合には、ボールミル以外の混合機を用いることもできる。
【0025】
[原料粉末の乾燥]
混合後のスラリーをスプレードライヤ、その他の機器によって乾燥・造粒して、仮焼用の混合粉末とすることが好ましい。
【0026】
[仮焼き]
乾燥後の仮焼用の混合粉末を仮焼きする。仮焼きすることにより、Y
2O
3粉末、Cr
2O
3粉末、Mn
3O
4粉末、CaCO
3粉末およびSrCO
3粉末から、Y
2O
3相とY(Cr
,Mn)O
3相の複合組織を有する仮焼結体を得る。
仮焼きは、仮焼用の混合粉末を例えば坩堝に投入し、大気中で800〜1300℃の温度範囲で保持することで行われる。仮焼きの温度が800℃未満では複合組織の生成が不十分であり、また、1300℃を超えると焼結密度の低下や抵抗値の安定性の低下を招く恐れがある。そこで仮焼の保持温度は、800〜1300℃の範囲とする。
仮焼きにおける保持時間は、保持温度に応じて適宜設定されるべきであるが、上記温度範囲であれば、0.5〜100時間程度の保持時間で仮焼の目的を達成できる。
【0027】
[混合・粉砕・ボールミル]
仮焼後の粉末を混合および粉砕する。混合・粉砕は仮焼き前と同様に、水を加えてスラリー状とし、ボールミルを用いて行うことができる。
ここで、仮焼き後の粉末にはY(Cr,Mn)O
3相およびY
2O
3相が形成されてお
り、Y(Cr,Mn)O
3相にはCaが固溶している。このCaが固溶しているY(Cr,Mn)O
3相は水との反応が生じにくいため、以後の乾燥・造粒の工程、成形の工程において水を用いることができる。
【0028】
[乾燥・造粒]
粉砕後の粉末は、スプレードライヤ、その他の機器によって乾燥・造粒することが好ましい。
【0029】
[成形]
仮焼後の造粒粉を所定の形状に成形する。
成形は、金型を用いたプレス成形のほかに、冷間静水圧プレス(CIP:Cold Isostatic Press)を用いることができる。
成形体の密度が高いほど、高い密度の焼結体を得るのが容易であるから、可能な限り成形体の密度を高くしたい。そのためには高い密度を得ることができるCIPを用いることが好ましい。
【0030】
[焼結]
次に、得られた成形体を焼結する。
焼結は、大気中で1400〜1650℃の温度範囲で保持することで行われる。焼結の温度が1400℃未満では複合組織の生成が不十分であり、また、1650℃を超えると焼結体が融解したり焼結坩堝等との反応が生じたりする。焼結における保持時間は、保持温度に応じて適宜設定されるべきであるが、上記温度範囲であれば、0.5〜200時間程度の保持時間で緻密な焼結体を得ることができる。
【0031】
得られたサーミスタ焼結体は、そのサーミスタ特性を安定化させるために、アニール(annealing:焼き鈍し)を施すことが好ましい。アニールは、例えば大気中、1000℃で保持することにより行われる。
【0032】
[温度センサ素子]
以上のようにして得られたサーミスタ焼結体が適用される温度センサ素子10の具体例を説明する。
温度センサ素子10は、
図3(a)に示すように、素子本体11と、被覆層16と、を備えている。
素子本体11は、抵抗値の変化を電圧変化として取り出すための検出回路とともに用いることによって、素子本体11が置かれている環境の温度を検出して電気信号からなる温度検出信号を生成させる。
被覆層16は、素子本体11の要部を封止して気密状態に保持することによって、環境条件に基づいて特にサーミスタ焼結体の化学的、物理的変化の発生を防止するとともに、機械的に保護する。
【0033】
この例における素子本体11は、
図3(b)に示すように、平板状のサーミスタ焼結体からなる感熱体12と、電極13A,13Bと、接続電極14A,14Bと、リード線15A,15Bと、を備えている。
【0034】
電極13A,13Bは、板状をなすサーミスタ焼結体の表裏両面の全域に、それぞれ膜状に形成されている。電極13A,13Bは、白金(Pt)、その他の貴金属から構成される。
電極13A,13Bは、厚膜または薄膜として形成される。厚膜の電極13A,13Bは、白金粉末に有機バインダを混合して作製したペーストをサーミスタ焼結体の表裏両面に塗布し、乾燥した後に焼結して形成する。また、薄膜電極は、真空蒸着またはスパッタリングによって形成することができる。
電極13A,13Bが形成されたサーミスタ焼結体は、所定の寸法に加工される。
【0035】
接続電極14A,14Bは、それぞれ電極13A,13Bの表面に形成される金属膜から構成される。接続電極14A,14Bも、白金(Pt)、その他の貴金属から構成される。
リード線15A,15Bは、一端側が接続電極14A,14Bを介して電極13A,13Bに電気的および機械的に接続される。リード線15A,15Bは、他端側がと外部の検出回路と接続される。リード線15A,15Bは、耐熱性を有する、例えば白金または白金とイリジウム(Ir)の合金からなる線材から構成される。
【0036】
リード線15A,15Bは、以下のようにして電極13A,13Bに接続される。
リード線15A,15Bのそれぞれの一端側に予め接続電極14A,14Bをなす白金粉末を含むペーストを塗布しておく。リード線15A,15Bのそれぞれの白金ペーストが塗布された側を電極13A,13Bに接触させた状態で白金ペーストを乾燥させ、その後、白金粉末を焼結する。
【0037】
図3(a)に示される被覆層16は、一例としてSiO
2、CaO、SrO、BaO、Al
2O
3およびSnO
2を原料とするガラスを用いることができる。このようなガラスによって、素子本体11と、リード線15A,15Bの一方端側を封止する。
【0038】
被覆層16で感熱体12などを封止する方法は任意であるが、例えばガラスからなる被覆層16となるガラス管をサーミスタ焼結体などに被せた後に、ガラス管を溶融させて封止することができる。
【0039】
温度センサ素子10は、ガラス封止・冷却後にアニール処理をすることが好ましい。このアニール処理により素子本体11の抵抗が減少するのを防止することができる。
【0040】
次に、
図4を参照して他の形態の温度センサ素子20を説明する。
温度センサ素子20は、
図4(a)に示すように、素子本体21と、被覆層26と、を備えており、外観上は温度センサ素子10と類似する。素子本体21および被覆層26は、それぞれ温度センサ素子10の素子本体11および被覆層16と同様の機能を備えている。
【0041】
この例における素子本体21は、
図4(a)に示すように、平板状のサーミスタ焼結体と、電極23A,23Bと、接続電極24A,24Bと、リード線25A,25Bと、を備えている。
【0042】
素子本体21は、素子本体11に対してサーミスタ焼結体と電極23A,23Bの部分に特徴を有する。
図4(b)の中段に示すように、素子本体21において、サーミスタ焼結体と電極23A,23Bとは、サーミスタチップ33を構成する。サーミスタチップ33は以下のようにして製造される。
【0043】
前述した粉砕された仮焼き粉末に例えばエチルセルローズ系のバインダを混合してシート状に成形する。仮焼きの条件は前述の通りである。
次に、成形されたシートから所定寸法の大きさに打ち抜いて、焼結する。焼結の条件は前述の通りである。そして、焼結して得られたウエハを研磨して、
図4(b)の中段に示すように所定厚さのサーミスタ焼結体からなるウエハ31を得る。その後、研磨済みのウエハ31(サーミスタ焼結体)の表裏両面に電極形成用のペーストを印刷によって塗布した後に焼結して、電極膜形成済ウエハ30を得る。ペーストに含まれる導電材料としては、白金(Pt)、その他の貴金属から選択される。焼結は、白金を選択した場合には、1300℃程度で行われる。その後に所定寸法になるように切断することによって、
図8(b)の中段に示すように、膜状の電極23A,23Bが表裏に形成されたサーミスタチップ33が得られる。
【0044】
次に、サーミスタ焼結体の表裏両面の電極23A,23B上に、Ptペーストを用いてリード線25A,25Bを接合した後に、焼き付け処理を行って接続電極24A,24Bを形成して、
図4(b)の下段に示す素子本体21を作製する。
【0045】
次に、被覆層26を形成するが、被覆層26は前述したガラスを用いることができるし、サーミスタ焼結体と類似する構成材料からなる被覆材を用いることもできる。
この被覆材としては、特許文献2に開示されるY
2O
3,Cr
2O
3およびMn
3O
4を仮焼した粉末とB
2O
3粉末を焼結した複合酸化物を用いることができる。つまり、本発明におけるサーミスタ焼結体の被覆層は、その目的を達成できる限り任意である。
【0046】
[実施例1]
次に、本発明のサーミスタ焼結体を実施例に基づいて説明する。
以下の平均粒径を有する原料粉末を用意し、上述した製造工程にしたがって、
図5に示す種々の組成を有するサーミスタ焼結体を作製した。この表中、No.1はCaおよびSrを含まない試料であり、No.2〜7は、Caを含むがSrを含まない試料であり、No.8〜13はSrを含むがCaを含まない試料である。また、No.14〜23はCaおよびSrを含む試料である。試料製造の仮焼きは1000℃×24時間、焼結は1500℃×24時間の条件とし、いずれも大気中で行った。
Y
2O
3粉末:0.1μm Cr
2O
3粉末:2.0μm Mn
3O
4粉末:5.0μm
CaCO
3粉末:2.0μm SrCO
3粉末:2.0μm
【0047】
得られたそれぞれの焼結体についてB定数を求めた。その結果を
図5、
図6(a),(b)および
図7に示す。なお、B定数は、25℃と50℃の間の値(B25/50)である。
【0048】
図6(a)に示されるように、Caが単独で添加された場合には、B定数は5モル%近傍に最小値を持つ。また、
図6(b)に示されるように、Srが単独で添加された場合にも、B定数は20モル%近傍に最小値を持つ。このように、特性(B定数)に最小値を持つ材料は、目標から組成がずれてしまうと所望する特性が得られなくなるので、厳重に製造プロセスの条件を管理する必要がある。
【0049】
以上に対して、
図7に示されるように、CaとSrを複合添加すると、Srが5〜25モル%の範囲においてB定数が安定する。したがって、仮に組成ずれが生じたとしても、当該範囲内であれば所望する特性が得られやすい。
ここで、本実施形態において、Y
2O
3相およびY(Cr
,Mn)O
3相の他に第三相としてSrCrO
3相、SrMnO
3相が生成されることがある。SrCrO
3相は仮焼きの際の合成が不十分な部分に生じ、SrMnO
3相はSrの量が多い組成で生じる。この第三相のうち、SrCrO
3相は水と反応して溶出する。この溶出が組成ずれの要因となるが、本発明によれば、仮に組成ずれが生じたとしても所望する特性が得られやすい。
【0050】
次に、
図5のいくつかの試料について、−40℃〜1050℃の範囲の抵抗値を測定することにより、複数の温度域のB定数を求めた。B定数は下記式に基づいている。
【0051】
B(m/n)=(lnRm−lnRn)/(1/Tm−1/Tn)
Rm:Tm℃における抵抗値 Rn:Tn℃における抵抗値
【0052】
結果を
図8に示す。
CaとSrが複合で添加されたサーミスタ焼結体(試料No.19)と、Caが単独で添加されたサーミスタ焼結体(試料No.4)と、を比較すると以下の通りである。
400〜600℃程度の中温域ではCaとSrが複合で添加されたサーミスタ焼結体とCaが単独で添加されたサーミスタ焼結体のB定数は同程度といえる。しかし、中温域より低い低温域および中温域より高い高温域においては、CaとSrが複合で添加されたサーミスタ焼結体のB定数が低い。つまり、CaとSrが複合で添加されたサーミスタ焼結体は、低温域および高温域においてB定数を低下させる効果を有しており、当該温度域における電気抵抗値の調整が求められる用途に有効である。
【0053】
[実施例2]
次に、
図9に示す種々の組成を有するサーミスタ焼結体を作製した。
図9に示すサーミスタ焼結体は、Cr(モル%)/Mn(モル%)が1.5である点で実施例1と異なる。使用した原料粉末および製造工程は実施例1と同じである。
得られたそれぞれの焼結体について、実施例1と同様にしてB定数を求めた。その結果を
図10に示すが、CaとSrを複合添加すると、Srが3〜10モル%の範囲、特に5〜7%の範囲においてB定数が安定する。
【0054】
次に、
図11に示す種々の組成を有するサーミスタ焼結体を作製した。
図11に示すサーミスタ焼結体は、Caを4モル%含むことおよびCr(モル%)/Mn(モル%)が0.8である点で実施例1と異なる。使用した原料粉末および製造工程は実施例1と同じである。
得られたそれぞれの焼結体について、実施例1と同様にしてB定数を求めた。その結果を
図12に示すが、CaとSrを複合添加すると、Srが3〜10モル%の範囲、特に5〜7%の範囲においてB定数が安定する。
【0055】
以上の実施例2におけるB定数の結果をも考慮すると、Cr(モル%)/Mn(モル%)が1.0に限らず、CaとSrを複合添加すると、B定数が安定することがわかる。
【0056】
次に、実施例1と同様に、
図9および
図11のいくつかの試料について、−40℃〜1050℃の範囲の抵抗値を測定することにより、複数の温度域のB定数を求めた。結果を前述の
図8に示す。
図8より、Cr(モル%)/Mn(モル%)が大きくなる、つまりMnに対してCrがリッチになると、B定数が大きくなる傾向にある。また、試料No.31と試料No.35の比較より、Cr(モル%)/Mn(モル%)が0.8とMnがCrに対してリッチになっても、Cr(モル%)/Mn(モル%)が1.0と同様に、中温域より低い低温域および中温域より高い高温域においては、CaとSrが複合で添加されるとB定数が低くなる。
【0057】
以上、本発明を好ましい実施形態および実施例に基づいて説明したが、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることができる。
【0058】
本発明のサーミスタ焼結体およびサーミスタは、−50℃から1200℃程度までの広い温度範囲にわたって使用可能であり、従って、自動車排気ガス処理装置用の温度センサや、給湯器、ボイラ、オーブンレンジおよびストーブ等における、高温の温度測定用として広く利用することができる。
【0059】
また、本発明のサーミスタ焼結体は、直方晶系の結晶構造のみからなることが好ましいが、六方晶系の結晶構造が存在することを排除するものではない。本発明の特性が得られる限り直方晶系の結晶構造に対して微量の六方晶系の結晶構造が含まれていても、本発明のサーミスタ焼結体に該当する。
【0060】
また、本発明は、Y
2O
3相とY(Cr
,Mn)O
3相とを備えるが、他の相(第三相)が存在することを許容する。この第三相として前述したSrCrO
3、SrMnO
3が
掲げられるが、本発明のサーミスタ焼結体はこれらの第三相を含んでいてもB定数が安定するという効果を享受できる。
相とを備える焼結体からなり、酸素を除くCr,Mn,CaおよびYの化学組成が、Cr:3〜12モル%,Mn:5〜15モル%,Ca:1〜8モル%、Sr:1〜25モル%、残部が不可避不純物およびYからなる。本発明のサーミスタ焼結体は、CaおよびSrがY(Cr