【実施例】
【0016】
次に、上記特徴を有する好ましい実施例を、図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明に係るクラッチ装置60を用いたモータユニットAの一例を示す。
【0017】
このモータユニットAは、ケース10内に、ロータ軸21の前側に駆動歯車22を設けたモータ20と、ロータ軸21と略平行に設けられ前側に対する後側に従動歯車33を有する出力軸30と、駆動歯車22から従動歯車33へ回転力を伝達する複数の平歯車41,42,43,44とを具備し、従動歯車33内にクラッチ装置60を構成している。
なお、本明細書中、「前側」とは、ロータ軸21の軸方向において駆動歯車22を有する側を意味するものとする。
【0018】
ケース10は、前端面を開口した中空矩形箱状のケース本体11と、このケース本体11の開口部を閉鎖するようにして着脱可能に装着される蓋部材12とから構成される。ケース本体11及び蓋部材12は、それぞれ合成樹脂材料によって一体成形されている。
【0019】
モータ20は、円筒状のケーシング22と、このケーシング22の内周面に固定されたステータ及びコイル(図示せず)と、ステータ内で回転するように支持されたロータ(図示せず)と、このロータの中心部に固定されるとともに前端側を前方へ突出させたロータ軸21とを具備し、ブラシレスDCモータを構成している。
そして、このモータ20のロータ軸21の前端側には、同軸状に駆動歯車22が固定される。この駆動歯車22は平歯車であり、後述する平歯車41の大歯車Lに噛み合っている。
【0020】
出力軸30は、ケース10内において、モータ20のロータ軸21に対し、直交方向へ間隔を置いて略平行に配置され、ケース10の内壁面によって回転自在に支持されている。
この出力軸30の外周部には、前側から順に、出力歯車31、前側軸受部材32、従動歯車33、後側軸受部材34、磁性回転体35が、環状に固定されている。
【0021】
出力歯車31は、図示例によれば平歯車であり、ケース10の前端面から前方へ突出し露出している。この出力歯車31は、図示例によれば、出力軸30と一体の部材として構成される。なお、他例としては、それぞれ別体の出力軸30と出力歯車31を連結するようにしてもよい。
また、この出力歯車31は、モータユニットAによる駆動対象物(図示せず)の態様に応じて、例えば、ウォームギヤやはすば歯車等、他の種類の歯車に置換することが可能である。
【0022】
前側軸受部材32及び後側軸受部材34は、ボールベアリングやすべり軸受け等の周知の軸受部材である。前側軸受部材32は、軸受ブラケット等を介してケース10内面に固定され、その内周部により、出力軸30における従動歯車33よりも前側の部分を回転自在に支持している。略同様に、後側軸受部材34は、軸受ブラケット等を介してケース10内面に固定され、その内周部により出力軸30における従動歯車33よりも後側の部分を回転自在に支持している。
【0023】
従動歯車33は、出力軸30の外周部に支持された略円筒状の平歯車である。この従動歯車33は、後述する平歯車44の小歯車Sに噛み合っており、この小歯車Sから回転力を受ける。
この従動歯車33内には、出力軸30に過剰な回転負荷が作用した際に、回転力の伝達経路を切断するクラッチ装置60が設けられる。
【0024】
磁性回転体35は、径方向の片半部側をN極とし、他半部側をS極とした略円盤状の2極(換言すれば極対数が1)の永久磁石である。この磁性回転体35の他例としては、極対数が複数の態様とすることも可能である。
【0025】
そして、上記構成の磁性回転体35よりも後側には、ケース本体11の底部に、制御基板50が固定されている。この制御基板50は、モータ20の駆動電力を制御する駆動回路や、磁性回転体35を検知するための複数の磁気検出部36等を一体的に具備している。
磁気検出部36は、検出される磁束に応じた電圧信号を出力するホール素子である。この磁気検出部36は、磁性回転体35の後端面に対向するように、制御基板50上に2つ設けられる。これら2つの磁気検出部36は、周方向に角度90°間隔を置いて配置され、磁性回転体35の磁極位置に応じた正弦波信号を出力する。
【0026】
また、平歯車41,42,43,44の各々は、前側の大歯車Lと、後側の小歯車Sとを同軸一体状に連結してなる。各平歯車における大歯車Lと小歯車Sの外径は、ロータ軸21と出力軸30の間の減速比に応じて適宜に設定される。
これら平歯車41,42,43,44は、水平方向に隣接する大歯車Lと小歯車Sとを噛み合わせるようにして、ロータ軸21の前側から出力軸30の後側へ向かう階段状に配置される。
【0027】
さらに、これら平歯車41,42,43,44は、
図4に示すように、ロータ軸21の軸方向の一方側から平面視した際に、回転力の伝達経路が略S字状にカーブするように略曲線状に配置され、それぞれ、ケース10の内面又は駆動歯車22等に対し、回転軸等を介して回転自在に支持される。
【0028】
これら平歯車41,42,43,44の配置について詳細に説明すれば、最もロータ軸21側の平歯車41は、ロータ軸21と出力歯車31とを結ぶ仮想平面に対し、交差方向の一方側(
図4における上側)に位置し、その前部側の大歯車Lを駆動歯車22に噛み合わせている。
次の平歯車42は、平歯車41よりも更に一方側に位置し(
図4参照)、その前側の大歯車Lを平歯車41の小歯車Sに噛み合わせている(
図3参照)。
次の平歯車43は、平歯車42よりも一方側に対する他方側(
図4における下側)に位置し、その前側の大歯車Lを平歯車42の小歯車Sに噛み合わせている(
図3参照)
最も出力歯車31側の平歯車41は、上記仮想平面に対し、一方側に対する他方側(
図4における下側)に位置し、その前部側の大歯車Lを平歯車43の小歯車Sに噛み合わせるとともに、その後部側の小歯車Sを従動歯車33に噛み合わせている(
図3参照)。
【0029】
また、クラッチ装置60は、出力軸30の外周部に回転自在且つ軸方向移動可能に支持された入力ディスク61と、この入力ディスク61の後方側(
図5によれば下方側)に位置し、同出力軸30の外周部に回転不能且つ軸方向移動不能に固定された出力ディスク62と、入力ディスク61を押圧して出力ディスク62へ押し付ける付勢部材63とを備える(
図5参照)。このクラッチ装置60は、出力軸30に対し外部から加わる回転負荷が過剰な場合に、入力ディスク61を付勢部材63の付勢力に抗して出力ディスク62から引き離す。
【0030】
以下の説明中、「ディスク径方向」とは、入力ディスク61及び出力ディスク62の径方向を意味し、「ディスク径外方向」とは、ディスク径方向において中心部から離れる方向を意味する。また、「ディスク厚方向」とは、ディスク径方向に直交する方向(換言すればディスクの軸方向)を意味する。また、「ディスク周方向」とは、入力ディスク61又は出力ディスク62の周方向を意味する。
【0031】
入力ディスク61は、略円盤状の部材であり、その中心側に出力軸30をすきまばめ状に挿通するとともに、外周寄りの出力ディスク62側の面に、全周にわたる環状に歯部61aを有する。
この入力ディスク61は、従動歯車33内に挿入されるとともに、従動歯車33と一体回転するように、従動歯車33の内周面に固定される。そして、この入力ディスク61は、出力軸30に環状に装着された付勢部材63(図示例によれば圧縮コイルスプリング)により押圧され、出力ディスク62へ押し付けられている。
【0032】
出力ディスク62は、軸方向において入力ディスク61と略対象形状の部材であり、その中心側に出力軸30をしまりばめ状に挿通するとともに、外周寄りの入力ディスク61側の面に、全周にわたる環状に歯部62aを有する。
【0033】
入力ディスク61の歯部61aと、出力ディスク62の歯部62aとは、それぞれ、他方の歯部に対し重なり合うとともに軸方向へ嵌脱可能に形成される。
これら歯部61a,62aの各々は、径方向へ連続する凹部1と凸部2を、周方向へ交互に配設してなる(
図6参照)。
【0034】
同ディスク61(又は62)上の凹部1と凸部2は、互いに対称形状の曲面状であり、滑らかに接続される。
凹部1と凸部2の各々は、図示する好ましい一例によれば、その表面が断面円弧状に形成され、ディスク厚方向に沿う高さh(歯たけ)が、ディスク径方向において一定に維持されたまま、ディスク径外方向へゆくにしたがって、周方向幅w(w1〜w3)、半径R(R1〜R3)、ピッチp(p1〜p3)、及び圧力角θ(θ1〜θ3)を、連続的に大きくしている(
図7及び
図9参照)。
なお、周方向幅wは、
図7に示すように、同入力ディスク61上において、凸部2表面と凹部1表面との境目を結ぶ基準線L1と、凸部2表面(又は凹部1表面)とが交わる2点間の距離である。
【0035】
下側に位置する出力ディスク62の凹部1の底には、両ディスク61,62間に小異物等が挟まった場合に、小異物等を逃がすために、凹部1よりも幅の小さい小凹部1aが設けられる。この小凹部1aは、幅bの全長にわたり、出力ディスク62の径方向へ連続して同一深さyの断面円弧状に形成される。
【0036】
次に、入力ディスク61の歯部61aの寸法について詳細に説明する。
なお、出力ディスク62の歯部62aは、歯部61aと同寸法且つ同形状であるため、寸法について重複する説明を省略する。
【0037】
歯部61aの各部の寸法は、入力ディスク61の任意の半径rにおける凹部1及び凸部2のディスク周方向のピッチをp、同半径rにおける凹部1及び凸部2の各表面の半径をR、凹部1及び凸部2の周方向幅をw、凹部1及び凸部2のそれぞれの高さをh、ディスク毎の凹部1及び凸部2の数をn、回転負荷により入力ディスク61の凸部2と出力ディスク62の凸部2とが圧接する部分の圧力角をθとし(
図7参照)、後述する関係式が成立するように設定される。
なお、本明細書中、半径Rは歯先半径、周方向幅wは歯厚、高さhは歯たけと呼称する場合もある。
【0038】
ここで、高さhは、同入力ディスク61上の任意の半径rにおいて、凸部2表面と凹部1表面との境目を結ぶ基準線L1から、凸部2の頂部までの高さ寸法である(
図7参照)。この高さhは、凹部1における基準線L1から底までの深さ寸法と同一である。
また、圧力角θは、歯部61a側の凸部2と歯部62a側の凸部2との共通法線L2と、基準線L1とがなす角度である。
図7に示すように、凸部2の両側において、左右の圧接点における接線間の角度は、圧力角θの2倍になる。
また、半径Rは、入力ディスク61の任意の半径rにおいて、凸部2表面又は凹部1表面のディスク周方向に沿う輪郭線の半径寸法である(
図7参照)。
また、ピッチpは、凹部1及び凸部2の略正弦波状の輪郭線における1周期分の間隔である(
図7参照)。
【0039】
<歯型の関係式>
ピッチp、歯先半径R、歯厚w、歯たけh、圧力角θ等は、下記の関係式を満たすように設定される。
p=2πr/n
R=πr/2ncosθ
w=πr/n=2Rcosθ
h=R(1−sinθ)=πr(1−sinθ)/2ncosθ=一定
2hn/πr=1/cosθ−tanθ
このように、ピッチp、歯先半径R及び圧力角θ等を、入力ディスク61の任意の半径rに応じて滑らかに連続的に変化するように設定することで、凹部1断面の輪郭及び凸部2断面の輪郭を、歯たけhが一定の円弧状にすることができる。
【0040】
<圧力角θについて>
圧力角θは、好ましくは後述する関係式を満足する値とする。
入力ディスク61の歯部61aと出力ディスク62の歯部62aとは同形状であり、これら歯部61a,62aが押し付けられて噛み合った状態で、両ディスク61,62の任意の半径rでの周方向の任意の点において(
図10参照)、圧力角をθ、トルクによる歯面荷重をf
t、歯部61a,62a間の静止摩擦力をf
f、歯部61a,62a間の静摩擦係数をμ、歯部61a,62a間の滑り力をf
s 、付勢部材63のばね力をP
sとすると、以下の関係式が成り立つ。なお、静摩擦係数をμは、歯部61a,62aの材質や表面粗さ等に応じて、予め実験等により求められた値を用いる。
f
f=μ(f
tcosθ+P
ssinθ)
f
s=f
tsinθ−P
scosθ
ここで、摩擦力=滑り力となる場合で両ディスク61,62間が滑るものとすると、以下の関係式が成り立つ。
μ(f
tcosθ+P
ssinθ)=f
tsinθ−P
scosθ
f
t=(μsinθ+cosθ)P
s/(sinθ−μcosθ)
P
s=kZ
0(k:付勢部材63のばね定数、Z
0:付勢部材63の初期たわみ)より、以下の式が成り立つ。
f
t=(μsinθ+cosθ)kZ
0/(sinθ−μcosθ)
ここで、(μsinθ+cosθ)/(sinθ−μcosθ)を「摩擦/形状係数」と呼ぶ。
θ≧tan
-1μの関係とすれば、摩擦/形状係数の分母が0になることはなく、歯面荷重f
tは有限の値となる。
したがって、例えば、μ=0.1とすると、θ=tan
-1μ=5.7°が下限値である。
【0041】
<滑りトルクについて>
付勢部材63による単位面積当たりのばね力を予圧p
sとすると、以下の関係式が成立する。
ps=kZ
0/(π(D
2−d
2)/4)
ここで、Dは歯部61a,62aの最大径(
図8によればD3)、dは歯部61a,62aの最小径(
図8によればD1)を意味する。
摩擦/形状係数をαと置くと、次式が得られる。
α=(μsinθ+cosθ)/(sinθ−μcosθ)
圧力角θについては、次式の関係が成り立つ。
2hn/πr=1/cosθ−tanθ
任意の半径rにおける滑り力f
sは、次式で求められる。
f
s=2πrαp
s これに半径rをかけてトルクとし、内径dから外径Dまで半径間において積分すると、以下のように、滑りトルクTを算出することができる。
【数1】
【0042】
よって、上記構成のクラッチ装置60によれば、出力軸30に過剰なトルクが加わった場合に、入力ディスク61を出力ディスク62に対し滑らせて軸方向へ離し、これら両ディスク61,62間の動力伝達経路を遮断することができ、この際、入力ディスク61の歯部61aが、出力ディスク62の歯部62aに対し、局部的な抵抗を生じることなくなめらかに滑るため、両歯部61a,62aの変形や損傷等を効果的に抑制することができる。
しかも、上述した関係式を用いて、両ディスク61,62における歯部61a,62aの各部の寸法を、効率的に設定することができ、このため、回転負荷トルクや収容寸法等に応じた設計変更が容易であり、生産性に優れている。
【0043】
また、上記クラッチ装置60を用いたモータユニットAによれば、上述したように複数の平歯車41,42,43,44を階段状且つ略S字状に配置して、これら複数の平歯車を密集させるとともに、これら平歯車群の後方側に、磁性回転体35や、磁気検出部36を有する制御基板50等を配置するようにしたため、ロータ軸21と出力軸30との間のスペースや、ケース10内における平歯車群の後方側のスペース等を有効活用することができ、生産性も良好である。
また、例えばポテンショメータを用いた従来技術等に比較し、軸方向の突出寸法を減らせる上、回転抵抗も小さくすることができる。さらに、上述した従動歯車33及び磁性回転体35等の配置により、出力軸30を安定的に支持することができる。
【0044】
なお、上記実施例によれば、モータ20としてブラシレスDCモータを構成したが、他例としては、モータ20をブラシモータ等の他の種類のモータとすることも可能である。
【0045】
また、上記実施例によれば、4つの平歯車41,42,43,44を設けたが、他例としては平歯車の数を、6以上や5以下に設定することも可能である。
【0046】
また、上記実施例によれば、磁気検出部36としてホール素子を用いたが、磁気検出部36の他例としては、磁気式エンコーダや、その他のセンサーを用いることも可能である。
【0047】
また、上記実施例によれば、磁気検出部36の数を二つとしたが、磁性回転体35の回転位置検知方法等に応じて、磁気検出部36の数を、単数や三以上とすることも可能である。
【0048】
また、上記実施例によれば、特に好ましい態様として出力ディスク62のみに小凹部1aを設けたが、他例としては、両ディスク61,62のそれぞれに小凹部1aを設けた態様や、両ディスク61,62から小凹部1aを省いた態様とすることも可能である。
【0049】
また、上記実施例によれば、歯部61a,62aを両ディスク61,62の外周寄りに形成して、各凹部1及び各凸部2に、過大な荷重が加わらないようにしているが、他例としては、歯部61a,62aを両ディスク61,62の中心寄りに形成したり、歯部61a,62aを両ディスク61,62の中心部から外周にかけて形成したりすることも可能である。
【0050】
また、上記実施例によれば、モータユニットA内の回転力伝達機構にクラッチ装置60を適用したが、他例としては、上記モータユニットA以外の回転力伝達機構に、クラッチ装置60を適用することも可能である。