特許第6739086号(P6739086)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6739086
(24)【登録日】2020年7月27日
(45)【発行日】2020年8月12日
(54)【発明の名称】バインダ
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20200730BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20200730BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20200730BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20200730BHJP
   H01M 4/1391 20100101ALI20200730BHJP
【FI】
   H01M4/62 Z
   H01M4/131
   H01M4/505
   H01M4/525
   H01M4/1391
【請求項の数】13
【全頁数】39
(21)【出願番号】特願2019-562672(P2019-562672)
(86)(22)【出願日】2019年4月26日
(86)【国際出願番号】JP2019018068
【審査請求日】2019年11月12日
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2018/041402
(32)【優先日】2018年11月7日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000215785
【氏名又は名称】TPR株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】515066771
【氏名又は名称】株式会社アイ・エレクトロライト
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】副田 和位
(72)【発明者】
【氏名】高橋 卓矢
【審査官】 阿川 寛樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−256596(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/123143(WO,A1)
【文献】 特開2012−089411(JP,A)
【文献】 特開2004−259515(JP,A)
【文献】 特開平10−144309(JP,A)
【文献】 特開2003−297343(JP,A)
【文献】 特開平08−222225(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/052715(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/186076(WO,A1)
【文献】 特開2016−029630(JP,A)
【文献】 特開2014−096238(JP,A)
【文献】 特開2016−219358(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00−4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学デバイスの電極材料を連結させるバインダであって、
塩基を水系において中和するpH調節機能剤と、
電極活物質由来の金属イオンと水系において架橋し、疎水性ゲルを形成する金属架橋増粘剤と、を含有し、
前記pH調節機能剤は、グルコン酸塩、アルカリ金属リン酸塩、アルカリ金属クエン酸塩、ジカルボン酸もしくはその塩、弱酸であるオキソ酸もしくはその塩、および、ヒドロキシ酸もしくはその塩からなる群より選ばれる1以上の化合物であり、
前記金属架橋増粘剤は、水溶性のアルギン酸塩、カラギナン、ペクチン、ジェランガム、グルコマンナン、キサンタンガム、カルボキシメチルデンプン、デキストラン、およびヒアルロン酸からなる群より選ばれる1以上の化合物であり、
前記電極活物質が、アルカリ金属複合酸化物であることを特徴とするバインダ。
【請求項2】
前記pH調節機能剤および前記金属架橋増粘剤の質量の合計が100質量%となるように、前記pH調節機能剤を15質量%以上95質量%以下、前記金属架橋増粘剤を5質量%以上85質量%以下含有する、請求項1に記載のバインダ。
【請求項3】
前記アルカリ金属複合酸化物が、組成がLi1+uNi1−x−y−zCoMnで表される複合酸化物である、請求項1または2に記載のバインダ:
但し、Mは、Fe,V,Mg,Al,Ti,Mo,Nb,ZrおよびWからなる群より選ばれる1以上の元素であり、
−0.05≦u≦0.50
0≦x≦0.35
0≦y≦0.35
0≦z≦0.1
0≦x+y+z≦0.7
である。
【請求項4】
請求項1からのいずれか1項に記載のバインダと、水もしくは水を含有する親水性有機溶媒とを含む、電気化学デバイスの電極材料を連結させるためのバインダ含有液。
【請求項5】
請求項1からのいずれか1項に記載のバインダと、
ポリアクリル酸共重合体樹脂のエマルジョン、スチレンブタジエン共重合体ゴムのエマルジョン、含フッ素共重合体のエマルジョン、もしくは、含フッ素共重合体の水分散体と、を含有する、電気化学デバイスの電極材料を連結させるためのバインダ含有液。
【請求項6】
さらに、導電助剤を含有する、請求項またはに記載のバインダ含有液。
【請求項7】
請求項1からのいずれか1項に記載のバインダと、
ポリアクリル酸共重合体樹脂、スチレンブタジエン共重合体ゴム、もしくは、含フッ素共重合体と、を含有する電気化学デバイスの電極材料を連結させるための組成物。
【請求項8】
さらに、導電助剤を含有する、請求項に記載の組成物。
【請求項9】
請求項1からのいずれか1項に記載のバインダ、電極活物質、導電助剤および水を含有する電極用スラリー。
【請求項10】
固形分濃度が30質量%以上100質量%未満である、請求項に記載の電極用スラリー。
【請求項11】
請求項1からのいずれか1項に記載のバインダ、または、請求項もしくはに記載の組成物を含有する、電気化学デバイス用電極。
【請求項12】
正極および負極を備え、当該正極と当該負極との間に電解液を含む電気化学デバイスであって、
前記正極および/または負極は、請求項11に記載の電気化学デバイス用電極である、電気化学デバイス。
【請求項13】
前記電気化学デバイスは、リチウムイオン二次電池である、請求項12に記載の電気化学デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気化学デバイスの電極材料を連結させるバインダに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機器、電気自動車等に搭載される電気化学デバイス(例えば、電気化学キャパシタ、リチウムイオン二次電池等の蓄電デバイスが包含される)が開発されている。これらの中でも、リチウムイオン二次電池は、機器の小型化や軽量化を可能にし、充放電効率がよく、高いエネルギー密度を有しているため、例えば、携帯機器やノート型PC、家電機器、さらにはハイブリッド自動車や電気自動車の電源として使用されている。また、太陽光発電や風力発電などの自然エネルギーシステムと組み合わせ、発電した電力の貯蔵用蓄電デバイスとして新たに注目されている。
【0003】
電気化学デバイスを構成する電極は、電気エネルギーの蓄電に直接関わる電極活物質、活物質間の導通パスを担う導電助剤、バインダ、および集電体等から構成される。電気化学デバイスの特性は電極に大きく依存し、それぞれの材料自体の特性と、材料の組み合わせ方とに大きく影響を受ける。
【0004】
昨今、容量および充放電サイクル特性に優れた電気化学デバイスを作製するために、水との反応性が高い電極活物質(例えば、層状金属酸化物系の活物質)を使用することが研究されている。そして、電極活物質、導電助剤、およびバインダを含む電極用スラリーを製造する際、コスト、安全性、および管理の容易さ等の観点から、水系バインダの使用が検討されている。
【0005】
しかしながら、通常、水との反応性が高い電極活物質は、電極用スラリーの作製時に加水分解して劣化してしまう。電極活物質が劣化した場合、電気化学デバイスの容量および充放電サイクル特性が低下し、また耐熱性も失うという問題が発生する。さらに、加水分解によって電極用スラリーがアルカリ化し、集電体が腐食してしまうという問題も発生する。
【0006】
そのため、電極用スラリーのアルカリ化の抑制を目的として、系内にプロトンを含有する水系バインダの使用(特許文献1)が試みられている。
【0007】
一方、近年、リチウムイオン二次電池等の用途の拡大に伴い、電極容量の増大化に対する要求が高まっている。そして、前記要求に対応可能な活物質として、ニッケルを高濃度に含有する活物質(以下、「高ニッケル系活物質」と称する場合がある)が注目されており、今後、使用量が増加すると見込まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO2016/052715号(2016年4月7日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前記高ニッケル系活物質は、水との反応性が非常に高いため、水の存在下にて加水分解が急激に進行する。その結果、電極用スラリーはpH12程度の強アルカリ性、かつゲル状となり、集電体に塗工することができなくなってしまうという問題点、および、スラリーが強アルカリ性であるがゆえに集電体を腐食させるという問題点を有する。
【0010】
そのため、現状では、前記高ニッケル系活物質を含有する電極用スラリーは、有機溶媒およびフッ素樹脂系バインダを用いて作製されている。また、有機溶媒への水の混入により発生するアルカリへの対策のため、シュウ酸および酢酸等の弱酸を中和剤として用いて電極用スラリーが作製されている。
【0011】
しかし、有機溶媒の使用は、安全性、環境への影響、取扱い性等の観点から好ましくない。また、スラリー作製に利用される溶剤は親水性である場合が多い。そのため、有機溶媒を使用したとしても、空気中の水分が有機溶媒中に混入することによって前記高ニッケル系活物質の加水分解が生じ得るため、乾燥した特殊な環境下で製造しなければならないという問題がある。
【0012】
さらに、前記フッ素樹脂系バインダは、電池作製時にわずかに混入した水分の影響を強く受ける。すなわち、前記フッ素樹脂系バインダは、充放電の作動時に、前記高ニッケル系活物質の加水分解により生じたアルカリと反応して脱フッ素化され、バインダ機能を失うという懸念がある。また、前記弱酸の使用は、前記弱酸と電極活物質とが反応することによって電極活物質の劣化を促進してしまうことから好ましくない。
【0013】
以上のことから、優れた電池性能を確保する観点より、前記高ニッケル系活物質を用いる場合であっても、溶媒として水を用い、かつ、電極用スラリーをアルカリ化させることなく電極を作製し得る技術が必要とされている。
【0014】
特許文献1には、酸フォームのアルギン酸(Alg−H)を主成分とするバインダが開示されている。当該バインダは、電極用スラリー中の塩基を中和することにより、電極活物質の劣化を抑制することができる。通常、水系における電極活物質の劣化は、前記バインダによって抑制することが可能である。
【0015】
Alg−Hを主成分とする前記バインダと、前記高ニッケル系活物質とを用いて水系にて電極用スラリーを調製する場合、電極用スラリー中の塩基を中和することは可能である。しかし、前記高ニッケル系活物質は水と非常に反応しやすいため、前記中和によって生じた新たな水分子が前記高ニッケル系活物質と反応してしまい、加水分解が停止しないという問題が生じ得る。
【0016】
それゆえ、前記高ニッケル系活物質の劣化抑制という観点からは、特許文献1に記載のバインダにはなお改善の余地があった。
【0017】
本発明は、前記問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、非常に加水分解されやすい電極活物質を用いる場合であっても、溶媒として水を用い、かつ、電極用スラリーをアルカリ化させることなく作製することが可能なバインダを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前記の課題を解決するために、本発明者は鋭意検討した結果、pH調節機能剤および金属架橋増粘剤を含有するバインダを用いることによって前記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下の発明を包含する。
【0019】
〔1〕電気化学デバイスの電極材料を連結させるバインダであって、塩基を水系において中和するpH調節機能剤と、電極活物質由来の金属イオンと水系において架橋し、疎水性ゲルを形成する金属架橋増粘剤と、を含有することを特徴とするバインダ。
【0020】
〔2〕前記pH調節機能剤は、グルコン酸塩、アルカリ金属リン酸塩およびアルカリ金属クエン酸塩、ジカルボン酸もしくはその塩、弱酸であるオキソ酸もしくはその塩、ヒドロキシ酸もしくはその塩、およびアルギン酸(Alg−H)からなる群より選ばれる1以上の化合物である、〔1〕に記載のバインダ。但し、前記アルギン酸(Alg−H)は、アルギン酸中のカルボニル基がプロトン以外の陽イオンと結合していないアルギン酸を示す。
【0021】
〔3〕前記金属架橋増粘剤は、水溶性のアルギン酸塩、アルギン酸エステル、カラヤガム、カラギナン、ペクチン、ジェランガム、グルコマンナン、ローカストビンガム、キサンタンガム、グルコース、カルボキシメチルデンプン、カルボキシメチルセルロースもしくはその塩、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、マンノース、ガラクトース、アラビノース、フコース、リボース、フルクトース、デキストラン、およびヒアルロン酸からなる群より選ばれる1以上の化合物である、〔1〕または〔2〕に記載のバインダ。
【0022】
〔4〕前記pH調節機能剤および前記金属架橋増粘剤の質量の合計が100質量%となるように、前記pH調節機能剤を15質量%以上95質量%以下、前記金属架橋増粘剤を5質量%以上85質量%以下含有する、〔1〕から〔3〕のいずれか一つに記載のバインダ。
【0023】
〔5〕前記電極活物質が、アルカリ金属複合酸化物である、〔1〕から〔4〕のいずれか一つに記載のバインダ。
【0024】
〔6〕前記アルカリ金属複合酸化物が、組成がLi1+uNi1−x−y−zCoMnで表される複合酸化物である、〔5〕に記載のバインダ:
但し、Mは、Fe,V,Mg,Al,Ti,Mo,Nb,ZrおよびWからなる群より選ばれる1以上の元素であり、
−0.05≦u≦0.50
0≦x≦0.35
0≦y≦0.35
0≦z≦0.1
0≦x+y+z≦0.7
である。
【0025】
〔7〕〔1〕〜〔6〕のいずれか一つに記載のバインダと、水もしくは水を含有する親水性有機溶媒とを含有する、バインダ含有液。
【0026】
〔8〕〔1〕〜〔6〕のいずれか一つに記載のバインダと、ポリアクリル酸共重合体樹脂、スチレンブタジエン共重合体ゴム、もしくは、含フッ素共重合体のエマルジョンと、水と、を含有する、バインダ含有液。
【0027】
〔9〕さらに、導電助剤を含有する、〔7〕または〔8〕に記載のバインダ含有液。
【0028】
〔10〕〔1〕〜〔6〕のいずれか一つに記載のバインダと、ポリアクリル酸共重合体樹脂、スチレンブタジエン共重合体ゴム、もしくは、含フッ素共重合体と、を含有する組成物。
【0029】
〔11〕さらに、導電助剤を含有する、〔10〕に記載の組成物。
【0030】
〔12〕〔1〕〜〔6〕のいずれか一つに記載のバインダ、電極活物質、導電助剤および水を含有する電極用スラリー。
【0031】
〔13〕固形分濃度が30質量%以上100質量%未満である、〔12〕に記載の電極用スラリー。
【0032】
〔14〕〔1〕〜〔6〕のいずれか一つに記載のバインダ、または、〔10〕もしくは〔11〕に記載の組成物を含有する、電気化学デバイス用電極。
【0033】
〔15〕正極および負極を備え、当該正極と当該負極との間に電解液を含む電気化学デバイスであって、
前記正極および/または負極は、〔14〕に記載の電気化学デバイス用電極である、電気化学デバイス。
【0034】
〔16〕前記電気化学デバイスは、リチウムイオン二次電池である、〔15〕に記載の電気化学デバイス。
【発明の効果】
【0035】
本発明の一実施形態に係るバインダは、電極活物質が高ニッケル系活物質である場合でも、電極用スラリーのpHに対する緩衝作用によって、当該電極活物質の加水分解を抑制し、電極用スラリーのpHを中性付近に保つことができる。この特性により、水系においても前記電極活物質の劣化を抑制し、熱安定性および耐電圧性に優れ、かつ安全性の高い電気化学デバイスを提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】実施例2で用いたリチウムイオン二次電池1について、正極活物質として、NMC532を用いた場合の充放電曲線である。
図2】実施例2で用いたリチウムイオン二次電池1について、正極活物質として、NMC622を用いた場合の充放電曲線である。
図3】実施例2で用いたリチウムイオン二次電池1について、正極活物質として、NMC811を用いた場合の充放電曲線である。
図4】実施例2で用いたリチウムイオン二次電池1について、正極活物質として、NCAを用いた場合の充放電曲線である。
図5】実施例3において、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の高温サイクル特性を検討した結果を示すグラフである。
図6】実施例4において、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の高電圧に対する耐久性を検討した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更、実施することができる。
【0038】
なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上、B以下」を意味する。また、「質量」と「重量」、「質量%」と「重量%」は同義語として扱う。
【0039】
〔1.バインダ〕
本発明の一実施形態に係るバインダは、電気化学デバイスの電極材料を連結させるバインダであって、塩基を水系において中和するpH調節機能剤と、電極活物質由来の金属イオンと水系において架橋し、疎水性ゲルを形成する金属架橋増粘剤と、を含有する。
【0040】
前記バインダは、電極活物質、集電体、および導電助剤等の電極材料を連結させる役割を果たす。本発明の一実施形態に係るバインダは、当該役割のみならず、水を含有する電極スラリー等の水系において、高ニッケル系活物質等の電極活物質の加水分解を抑制し、水系のpHを中性付近に保持することによって、放電容量特性維持率、耐熱性等に優れた電気化学デバイスを提供することができる。そこで、まず、本発明の一実施形態に係るバインダが含有する成分について説明する。
【0041】
(1.pH調節機能剤)
本発明の一実施形態に係るバインダは、塩基を水系において中和するpH調節機能剤を含有する。水系では、電極活物質の加水分解によって、電極活物質由来の金属イオンが電極用スラリー中に溶出する場合がある。このとき、電極用スラリーのpHがアルカリ性にシフトする場合がある。
【0042】
前記「電極活物質由来の金属イオン」とは、電極活物質から生じ得る金属イオンであることを意味する。本明細書において「水系」とは、水が存在する環境を意味する。例えば、後述する本発明の一実施形態に係る電極用スラリーのように、水を含有する環境が該当する。水系は、好ましくは有機溶媒を含有しない環境であるが、水と、水に任意の割合で混合可能な有機溶媒とを含有する環境であってもよい。このような有機溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン;ジメチルスルホキシド;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、t−ブタノール等のアルコール類を挙げることができる。前記有機溶媒は、1種であっても2種以上であってもよい。なお、前記電極活物質は、正極活物質であってもよく、負極活物質であってもよく、その両方でもよい。
【0043】
電極活物質の製造時および製造後には、電極活物質の原料であり、かつ、Li等を含有する塩基を含んでいる炭酸リチウム、または水酸化リチウム等が、電極活物質の表面に付着している場合がある。この場合、前記原料が加水分解されることにより、前記塩基が電極用スラリー中に溶出し、電極用スラリーのpHがアルカリ性となる。
【0044】
前記原料が電極活物質の表面に付着する要因としては、1:電極活物質の製造時における前記原料を用いた加熱工程の際、加熱が不十分なことにより、前記原料が未反応物として残ること、2:電極活物質の製造後、保存中に、電極活物質が空気中の水分や酸素と反応することによって、電極活物質の粒子が僅かに分解され、炭酸リチウム、または水酸化リチウム等が電極活物質の粒子表面に生成されること、等が挙げられる。
【0045】
電極基材(集電体)となるアルミニウム箔は、塩基によって腐食を受けるため、前記pHの制御が不十分であると、腐食によって電池特性が低下するという懸念がある。そのため、本発明の一実施形態に係るバインダはpH調節機能剤を含有し、前記pH調節機能剤は、前記塩基を水系において中和する。これによって、前記バインダが含有される電極用スラリーのpHの上昇を抑制し、pHがアルカリ性となることを防止することができる。その結果、前記アルミニウム箔の腐食を抑制することができる。
【0046】
また、後述するように、前記pH調節機能剤は、前記金属架橋増粘剤と前記バインダにおいて共存することによって、水系において電極用スラリーのpHに対する緩衝効果を発揮することができる。これにより、電極用スラリーのpHを中性付近に保つことができる。
【0047】
「塩基を水系において中和する」とは、pH調節機能剤が、前記塩基を水系において中和することができればよいことを意味しており、pH調節機能剤が、前記塩基を水系においてのみ中和可能であることを意味するものではない。
【0048】
前記pH調節機能剤としては、前記塩基を水系において中和することができれば特に限定されないが、例えば、グルコン酸K、グルコン酸Na等のグルコン酸塩;リン酸二ナトリウム(NaHPO)、ポリリン酸ナトリウム(Na10、Na13等)、メタリン酸ナトリウム((NaPO)n等)等のアルカリ金属リン酸塩;クエン酸1ナトリウム、クエン酸2ナトリウム等のアルカリ金属クエン酸塩;マロン酸、コハク酸、グルタル酸等のジカルボン酸もしくはその塩;リン酸一ナトリウム(NaHPO)、リン酸一カリウム(KHPO)、オルトケイ酸、メタケイ酸、メタニケイ酸等の、弱酸であるオキソ酸もしくはその塩;グリコール酸、乳酸、リンゴ酸等のヒドロキシ酸もしくはその塩;アルギン酸中のカルボニル基がプロトン以外の陽イオンと結合していないアルギン酸(Alg−H)が挙げられる。前記pH調節機能剤は、1種類を用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。また、前記pH調節機能剤は無水物であってもよいし、結晶水を有していてもよい。
【0049】
前記「弱酸であるオキソ酸」は、ポーリング則の第二則においてn=0またはn=1のオキソ酸であることが好ましい。また、乳酸およびリンゴ酸は、D体、L体、DL体のいずれであってもよい。
【0050】
前記pH調節機能剤は、本発明の一実施形態に係るバインダが含有する前記pH調節機能剤、および前記金属架橋増粘剤の質量の合計を100質量%としたときに、15質量%以上含有されることが好ましく、20質量%以上含有されることがより好ましい。また、前記pH調節機能剤は、本発明の一実施形態に係るバインダが含有する前記pH調節機能剤、および前記金属架橋増粘剤の質量の合計を100質量%としたときに、95質量%以下含有されることが好ましく、90質量%以下含有されることがより好ましい。
【0051】
(2.金属架橋増粘剤)
本発明の一実施形態に係るバインダは、電極活物質由来の金属イオンと水系において架橋し、疎水性ゲルを形成する金属架橋増粘剤を含有する。本明細書において、金属架橋増粘剤とは、前記金属イオンと水系において架橋されることによって増粘し、金属と結合して疎水性のゲルを形成する性質を有する物質のことを言う。
【0052】
金属架橋増粘剤としては、前記性質を有していれば特に限定されないが、例えば、水溶性のアルギン酸塩、アルギン酸エステル、カラヤガム、カラギナン、ペクチン、ジェランガム、グルコマンナン、ローカストビンガム、キサンタンガム、グルコース、カルボキシメチルデンプン、カルボキシメチルセルロースもしくはその塩、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、マンノース、ガラクトース、アラビノース、フコース、リボース、フルクトース、デキストラン、およびヒアルロン酸等が挙げられる。
【0053】
前記水溶性のアルギン酸塩としては、リチウム塩(アルギン酸Li)、ナトリウム塩(アルギン酸Na)、カリウム塩(アルギン酸K)、マグネシウム塩(アルギン酸Mg)、水銀塩(アルギン酸Hg)等を挙げることができる。前記金属架橋増粘剤は、1種類を用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
前記金属架橋増粘剤は、本発明の一実施形態に係るバインダが含有する、前記pH調節機能剤、および前記金属架橋増粘剤の質量の合計を100質量%としたときに、5質量%以上含有されることが好ましく、10質量%以上含有されることがより好ましい。また、前記金属架橋増粘剤は、本発明の一実施形態に係るバインダが含有する前記pH調節機能剤、および前記金属架橋増粘剤の質量の合計を100質量%としたときに、85質量%以下含有されることが好ましく、50質量%以下含有されることがより好ましい。
【0055】
「電極活物質由来の金属イオンと水系において架橋し、疎水性ゲルを形成する」態様としては、以下の(i)および(ii)に示す態様等を挙げることができる。
【0056】
(i)金属架橋増粘剤が、電極活物質と接触し、少量の水によって電極活物質の表面から生成した多価金属イオン(例えば、遷移金属イオン)を介して、その接触界面において、電極活物質を構成する金属(例えば遷移金属)と架橋する。
【0057】
(ii)この架橋反応によって、電極活物質の表面に形成された金属架橋増粘剤由来の疎水性ゲルが電極活物質をコーティングする。
【0058】
これによって、電極活物質の表面を前記疎水性ゲルによって被覆することができる。電極活物質の表面が被覆されることによって、電極活物質と、電極スラリー等に存在する水との接触を防ぐことができるため、電極活物質の加水分解を抑制することができる。また、前記疎水性ゲルによって被覆された電極活物質は疎水性となり、水へ膨潤することがなくなる。したがって、加水分解を受けやすい高ニッケル系活物質等を用いる場合であっても、その性能を十分に発揮させることができる。
【0059】
また、前述したように、水系では、電極活物質の加水分解によって、電極活物質由来の金属イオン(アルカリ金属イオンおよび遷移金属イオン)が電極用スラリー中に溶出する場合がある。電池等の電気化学デバイスの構築時、電解液中に電極活物質由来のアルカリ金属イオンおよび遷移金属イオンが溶出すると、電極活物質の結晶構造が変化して容量が低下することがある。また、遷移金属イオンに関しては、溶出したイオンが負極表面で析出して内部短絡の原因となることもある。特に、高ニッケル系活物質は、電極容量の増大に寄与するという利点を有する一方で、加水分解されやすい特性を有しているため、加水分解に伴う上述した問題が顕著である。
【0060】
しかし、本発明の一実施形態に係るバインダは、金属架橋増粘剤が、架橋によって、電極活物質から溶出した金属イオンを封止することができる。これによって、電解液中へのアルカリ金属イオンおよび遷移金属イオンの溶出、並びに、遷移金属イオンの負極表面での析出を抑制することができる。したがって、電極活物質の劣化を抑制することができ、電気化学デバイスの寿命を向上させることができる。
【0061】
さらに、前記疎水性ゲルは、高い耐熱性を示す。それゆえ、電極活物質を熱から保護する機能を発現し、電気化学デバイスの高温環境下での性能を向上させることができる。すなわち、本発明の一実施形態に係るバインダは、高い耐熱性を有するため、高温耐久性に優れた長寿命の電気化学デバイスを構築することができる。
【0062】
このように、金属架橋増粘剤は、電極活物質を水分からマスキングする効果を奏することができる。一方、金属架橋増粘剤が電極活物質の表面を被覆する作用は、本発明の一実施形態に係るバインダが存在する水系のpHがアルカリ性ではない状態である場合に発現する。例えば、水を含有する電極用スラリーのpHがアルカリ性である場合は、前記多価金属イオンによる架橋反応が生じにくいため、金属架橋増粘剤は、電極活物質の表面を被覆することができない。
【0063】
しかし、本発明の一実施形態に係るバインダは、前記pH調節機能剤を含有するため、前記電極用スラリーのpHを中性付近にすることができる。さらに、後述するように、前記金属架橋増粘剤は、本発明の一実施形態に係るバインダが含有するpH調節機能剤と共存することによってpHの緩衝効果を奏することができるため、電極用スラリーのpHを、長期間、中性付近に保つことができる。それゆえ、水系のpHがアルカリ性ではない状態を保持することができる。
【0064】
(3.pH調節機能剤と金属架橋増粘剤とによるpH緩衝効果)
前記pH調節機能剤は、前記金属架橋増粘剤と前記バインダにおいて共存することによって、水系において電極用スラリーのpHに対する緩衝効果を発揮することができる。
【0065】
すなわち、前記金属架橋増粘剤が前記アルカリ金属イオンおよび遷移金属イオンと架橋することによってキレートを形成し、前記pH調節機能剤が電極用スラリー中に存在する塩基を中和することにより、pHがアルカリ性ではない状態となる。その結果、酸塩基平衡により電極用スラリーのpHの変化が抑制され、pHを中性付近に保つことができる。
【0066】
さらに金属架橋増粘剤は、電極活物質の表面を、前記疎水性ゲルによって被覆することができる。電極活物質の表面が被覆されることによって、電極活物質と、電極スラリー等に存在する水との接触を防ぐことができるため、電極活物質の更なる加水分解を抑制することができる。また、前記疎水性ゲルによって被覆された電極活物質は疎水性となり、水へ膨潤することがなくなる。
【0067】
それゆえ、電極活物質からのアルカリ金属イオンおよび遷移金属イオンの溶出、並びに、電極用スラリーのpHのアルカリ化を抑制することができる。したがって、電極用スラリーを、pHを上昇させることなく長期間保存することが可能になると共に、集電体の腐食を十分に抑制することができる。
【0068】
従来は、高ニッケル系活物質を含有するスラリーを水系で調製する場合、pHがアルカリ化するため、上述したように、シュウ酸および酢酸等の弱酸によって中和する方法が取られていた。しかしながら、この場合は、前記金属架橋増粘剤が共存しないため、前記緩衝効果を得ることはできず、前記疎水ゲルによって電極活物質の表面を被覆することもできない。それゆえ、電極活物質の加水分解を抑止できず, pHを中性付近に保つことは短時間しかできなかった。また、前記弱酸と電極活物質とが反応することによって電極活物質を分解してしまい、電池等の電気化学デバイスの寿命を低下させる要因となっていた。
【0069】
本発明の一実施形態に係るバインダは、前記緩衝効果を示すことができるため、このような問題を生じさせることはない。したがって、電極活物質の劣化を抑制し、電気化学デバイスの長寿命化に貢献することができる。
【0070】
なお、金属架橋増粘剤の金属イオン封止効果が不足する場合、および/または、pH調節機能剤の中和効果が不足する場合、本発明の一実施形態に係るバインダは、pH調整剤および/またはキレート化剤をさらに含んでもよい。
【0071】
pH調整剤および/またはキレート化剤としては、例えば、ホウ酸バッファー、リン酸バッファー、酢酸バッファー、Trisバッファー、HEPESバッファー、キトサン、キチン、Alg−H、EDTA;EDTA2K、EDTA2Na、EDTA3Na、EDTA4Na等のエデト酸塩(エチレンジアミン四酢酸塩)等が挙げられる。pH調整剤および/またはキレート化剤としては、1種類のみ用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0072】
このように、本発明の一実施形態に係るバインダは、pH調節機能剤を含有するため、水系のpHがアルカリ性ではない状態を作ることができる。
【0073】
その結果、前記バインダが含有する金属架橋増粘剤が電極活物質の表面を被覆することができる。つまり、本発明の一実施形態に係るバインダは、pH調節機能剤および金属架橋増粘剤が協働することによって、水系において電極活物質の加水分解を抑制していると言える。
【0074】
ここで、特許文献1に開示されたバインダは、Alg−Hを主成分としている。当該バインダを、例えば高ニッケル系活物質を含有する電極用スラリーの調製に用いた場合、電極活物質製造時の残存原料(未反応の原料)等の加水分解によって電極用スラリー中に溶出した塩基をAlg−Hが中和し、水が発生する。これによって、電極用スラリーのアルカリ化を抑制することができる。
【0075】
しかし、高ニッケル系活物質は水と非常に反応しやすいため、前記中和によって生じた新たな水分子が前記高ニッケル系活物質と反応してしまうことによって、加水分解が停止せず、高ニッケル系活物質からの金属イオンの溶出が続いてしまうという問題が生じる。
【0076】
すなわち、特許文献1に開示されたバインダは、通常、水との反応性が高い電極活物質の劣化を十分に抑制することができるものの、高ニッケル系活物質のように、水との反応性が非常に強い電極活物質の場合は、劣化を抑制しきれない場合があり得る。
【0077】
一方、本発明の一実施形態に係るバインダは、上述したように、pH調節機能剤および金属架橋増粘剤の協働によって、水との反応性が非常に強い電極活物質であっても加水分解を十分に抑制することができる。そのため、加水分解が停止しないという問題は生じない。
【0078】
(4.本発明の一実施形態に係るバインダの製造)
本発明の一実施形態に係るバインダは、pH調節機能剤および金属架橋増粘剤を、分散機を用いて均一に混合し、分散させることによって調製することができる。これに別途、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース(CMC)等の増粘剤を加えてもよい。粒径がより均一なバインダを得るため、前記調製は、ジルコニアボール等の粉砕子を用いた粉砕処理を行いながら行うことが好ましい。
【0079】
分散機としては、例えば、ジェットミル、サンドミル、ボールミル、ビーズミル、LMZミル、DCPパールミル、遊星ボールミル、ホモジナイザー、二軸混練機、薄膜旋回型高速ミキサー等の分散機を利用することができる。
【0080】
本発明の一実施形態に係るバインダの平均粒子径は、電極活物質と同等の粒径であることが好ましいため、メジアン径D50が100nm以上であることが好ましく、200nm以上であることがより好ましい。また、D50が20μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。前記平均粒子径は、かさ密度測定器MT−3300(マイクロトラック社製)を用いたレーザー回折法によって粒子径分布を測定し、算出することができる。
【0081】
製造した結果物が本発明の一実施形態に係るバインダであることを確認する方法としては、前記バインダを含有する水溶液に比色分析法を適用することによる成分検出方法、前記バインダの粉末をFT−IRによる測定によって検出する方法等を挙げることができる。
【0082】
(5.本発明の一実施形態に係るバインダの組成)
本発明の一実施形態に係るバインダは、前記pH調節機能剤および前記金属架橋増粘剤の質量の合計が100質量%となるように、前記pH調節機能剤を15質量%以上95質量%以下、前記金属架橋増粘剤を5質量%以上85質量%以下含有することが好ましい。
【0083】
前記pH調節機能剤および前記金属架橋増粘剤以外の成分としては、例えば、上述したゼラチン、ポリビニルピロリドン、CMCなどの増粘剤;pH調整剤および/またはキレート化剤等を必要に応じて含有することができる。
【0084】
前記pH調節機能剤および前記金属架橋増粘剤以外の成分の含有量は、前記pH調節機能剤および前記金属架橋増粘剤の質量と、前記成分の質量との合計を100質量%としたときに、0〜15質量%であることが好ましく、0〜12質量%であることがより好ましく、0〜10質量%であることがさらに好ましい。
【0085】
(6.電極活物質)
上述のように、本発明の一実施形態に係るバインダは、高ニッケル系活物質のように非常に加水分解しやすい電極活物質であっても、加水分解を十分に抑制することができる。そのため、本発明の一実施形態に係るバインダと共に用いる電極活物質としては、正極活物質であって、当該正極活物質がアルカリ金属複合酸化物であることが好ましい。
【0086】
前記アルカリ金属複合酸化物としては、例えば、リチウムイオン二次電池の正極活物質である場合、以下のリチウム複合酸化物を挙げることができる。すなわち、ニッケル酸リチウム〔LiNiO(以下「LNO」と称する)〕;三元系材料〔LiNi0.33Co0.33Mn0.33(以下「NMC111」と称する)〕;高ニッケル含有三元系材料〔LiNi0.5Co0.2Mn0.3(以下「NMC532」と称する)、LiNi0.6CO0.2Mn0.2(以下「NMC622」と称する)、LiNi0.8Co0.1Mn0.1(以下「NMC811」と称する)〕;ニッケル−コバルト−アルミニウム酸リチウム〔LiNi0.8Co0.15Al0.05(以下「NCA」と称する)〕;リン酸ニッケルリチウム〔LiNiPO(以下「LNP」と称する)〕;リチウムリッチ固溶体系〔LiMnO−LiNi0.33Mn0.33Co0.33(以下「L2M」と称する)〕;スピネル型ニッケル−マンガン酸リチウム〔LiNi0.5Mn1.5(以下「LNM」と称する)〕;ニッケル−鉄−マンガン酸リチウム〔LiNi0.33Fe0.33Mn0.33,(以下「NFM」と称する)〕;などの材料が挙げられる。
【0087】
前記アルカリ金属複合酸化物は、構成する元素の比率が、例示した化学式に記載した比率から多少ずれていても、何ら問題なく使用することができる。
【0088】
前記アルカリ金属複合酸化物は、ニッケルを含有しないアルカリ金属複合酸化物であってもよい。当該アルカリ金属複合酸化物としては、コバルト酸リチウム(LiCoO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、リン酸鉄リチウム(LiFePO)等を挙げることができる。
【0089】
また、前記アルカリ金属複合酸化物としてリチウム複合酸化物を例示したが、もちろんこれに限られるものではなく、適用する電気化学デバイスの種類に応じて適宜変更することが可能である。例えば、電気化学デバイスがナトリウムイオン二次電池である場合は、前記リチウム複合酸化物のリチウムをナトリウムに置換したナトリウム複合酸化物を用いればよい。また、例えば電気化学デバイスがカリウムイオン二次電池である場合は、カリウム複合酸化物を用いればよい。
【0090】
電極活物質は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。また、電極活物質としては、少量のフッ素、ホウ素、アルミニウム、クロム、ジルコニウム、モリブデン、鉄等の元素をドープした電極活物質、前記アルカリ金属複合酸化物の粒子表面を、炭素、MgO、Al、SiOからなる群から選ばれる1以上の化合物等で表面処理した電極活物質等も使用できる。
【0091】
本発明の一実施形態に係るバインダと共に用いる電極活物質は、アルカリ金属複合酸化物からなる負極活物質であってもよい。当該負極活物質としては、チタン酸リチウム(LiTi12、LiTiなど)、チタン酸リチウムの粒子表面を炭素、MgO、AlおよびSiOからなる群から選ばれる1以上の化合物等で表面処理した負極活物質等を挙げることができる。
【0092】
本発明の一実施形態に係るバインダは、Niを含有するアルカリ金属複合酸化物と共に用いた場合に最も有効にその特性を発揮するが、電極活物質はアルカリ金属複合酸化物に限られるものではない。本発明の一実施形態に係るバインダを、アルカリ金属複合酸化物ではない電極活物質と共に用いることも、もちろん可能である。
【0093】
当該電極活物質としては、例えば、TiO、Nb、TiNb、CuO、CuO、MnO、MoO、V、CrO、MoO、Fe、Ni、CoO等の遷移金属酸化物;TiS、MoS、NbSe等の金属カルコゲン化物;ポリアセン、ポリパラフェニレン、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子化合物および黒鉛からなる群から選ばれる1以上の化合物等が挙げられる。
【0094】
前記アルカリ金属複合酸化物は、組成がLi1+uNi1−x−y−zCoMnで表される複合酸化物であることが好ましい。但し、MはFe,V,Mg,Al,Ti,Mo,Nb,ZrおよびWからなる群より選ばれる1以上の元素であり、
−0.05≦u≦0.50
0≦x≦0.35
0≦y≦0.35
0≦z≦0.1
0≦x+y+z≦0.7
である。
【0095】
Mが前記群より選ばれる2以上の元素である場合、zは2以上の元素のモル数の合計として0以上0.1以下であればよい。この場合、各元素の比は任意である。
【0096】
前記組成を有するアルカリ金属複合酸化物は、Niを多く含有している。そのため、本発明の一実施形態に係るバインダによって加水分解を効果的に抑制することができ、水系においても安定的に用いることができる。その結果、電極容量の高い電気化学デバイスを提供し得るという、前記アルカリ金属複合酸化物が本来有する有用な特性をいかんなく発揮することができる。なお、前記組成における「1−x−y−z」の値が0.6〜1.0程度の値であるアルカリ金属複合酸化物が、一般的に高ニッケル系活物質に該当するが、前記バインダと共に用いる電極活物質は、これに限られるものではない。
【0097】
〔2.バインダ含有液〕
(2−1.本発明の一実施形態に係るバインダと、水もしくは水を含有する親水性有機溶媒とを含むバインダ含有液)
本発明の一実施形態に係るバインダ含有液は、本発明の一実施形態に係るバインダと、水もしくは水を含有する親水性有機溶媒とを含む液体である。当該バインダ含有液を、以下、「バインダ含有液1」とも称する。また、以下、「水を含有する親水性有機溶媒」を単に「含水有機溶媒」と称する場合がある。
【0098】
バインダ含有液1は、前記バインダが、水もしくは含水有機溶媒に分散した液体であってもよいし、前記バインダの一部もしくは全部が、水もしくは含水有機溶媒に溶解した液体であってもよい。
【0099】
前記バインダは、既に説明したように、水系での使用に非常に適している。それゆえ、バインダ含有液1のように、予め、前記バインダを水もしくは含水有機溶媒中に存在させておくことにより、前記バインダを水系において安定的に保存することができる。また、例えば、バインダ含有液1に電極活物質を加え、混合することによって、電極用スラリーを容易に調製することができる。
【0100】
前記水は特に限定されず、一般的に用いられる水を使用することができる。例えば、水道水、蒸留水、水および超純水等を用いることができる。中でも、蒸留水、水および超純水が好ましい。
【0101】
前記含水有機溶媒は、水と親水性有機溶媒とを配合した溶媒である。親水性有機溶媒とは、水と均一に混和可能な水溶性有機溶媒である。親水性有機溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン;ジメチルスルホキシド;メタノール、エタノール、2−プロパノール(IPA)、イソプロパノール、n−ブタノール、t−ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン(MEK)などのケトン類;1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)などのエーテル類;N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトニトリル、酢酸エチルなどが挙げられる。親水性有機溶媒は、1種類を用いてもよいし、2種類以上を用いてもよい。
【0102】
前記含水有機溶媒における水と親水性有機溶媒との配合比は、親水性有機溶媒の種類、水と親水性有機溶媒との親和性等を考慮して適宜決定すればよい。
【0103】
バインダ含有液1は、例えば、本発明の一実施形態に係るバインダと、水もしくは前記含水有機溶媒とを混合することによって調製することができる。混合の方法は特に限定されず、各種の粉砕機、混合器、攪拌機等を用いる混合、超音波による分散等の方法を用いることができる。
【0104】
例えば、ミキサー、高速回転ミキサー、シェアミキサー、ブレンダー、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、ボールミル等のせん断力或いは衝突による処理方法;ワーリングブレンダー、フラッシュミキサー、タービュライザーなどを用いた方法を挙げることができる。これらの方法は、適宜組み合わせて用いることもできる。
【0105】
バインダ含有液1における本発明の一実施形態に係るバインダの濃度は、長期保存性の観点から、水もしくは含水有機溶媒の質量と、前記バインダの質量との合計質量を100質量%としたときに、0.5〜90質量%であることが好ましい。
【0106】
(2−2.本発明の一実施形態に係るバインダと、所定のエマルジョンとを含有するバインダ含有液)
本発明の一実施形態に係るバインダ含有液は、本発明の一実施形態に係るバインダと、ポリアクリル酸共重合体樹脂のエマルジョン、スチレンブタジエン共重合体ゴムのエマルジョン、含フッ素共重合体のエマルジョン、もしくは、含フッ素共重合体の水分散体と、を含有する液体である。当該バインダ含有液を、以下、「バインダ含有液2」とも称する。
【0107】
前記ポリアクリル酸共重合体樹脂、スチレンブタジエン共重合体ゴム、もしくは含フッ素共重合体は、前記バインダの結着能力を高めることができる。それゆえ、前記構成によれば、前記バインダの基本的な機能である、電気化学デバイスの電極材料を連結させる機能を強化することができる。
【0108】
本発明の一実施形態に係るバインダについては、既に説明したとおりである。前記エマルジョンとは、分散媒(液体)と、当該分散媒中に分散された分散質としての有機ポリマーとを含む液体である。
【0109】
「ポリアクリル酸共重合体樹脂のエマルジョン」とは、アクリル酸モノマーおよび他の反応性モノマー等を水中で乳化重合することによって得られる共重合体樹脂のエマルジョンである。「他の反応性モノマー」としては、フッ化ビニリデンモノマー;スチレンモノマー;アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル、クロトンニトリル、α−エチルアクリロニトリル、α−シアノアクリレート、シアン化ビニリデン、フマロニトリル等のα、β−不飽和ニトリルモノマー等の、ニトリル基を含むエチレン性不飽和モノマー;メタアクリル酸、アクリル酸等の単官能モノマー、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、グルタコン酸、1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸、3−メチル−1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸、4−メチル−1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸、メチル−3,6−エンドメチレン−1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸、エキソ−3,6−エポキシ−1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸、ハイミック酸等の、カルボン酸を含むエチレン性不飽和モノマー;前記カルボン酸を含むエチレン性不飽和モノマーの無水物;前記無水物のケン化物;メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、イソプロピルビニルケトン、イソブチルビニルケトン、t-ブチルビニルケトン、ヘキシルビニルケトン等の、ケトン基を含むエチレン性不飽和モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、トリメチル酢酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等の、有機酸ビニルエステル基を含むエチレン性不飽和モノマー;等を挙げることができる。他の反応性モノマーは、1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0110】
また、ポリアクリル酸共重合体樹脂の末端部を、特定の官能基によって置換することにより、特定のモノマー等と反応することが可能な変性体とすることもできる。変性体としては、エポキシ変性体、カルボキシ変性体、イソシアネート変性体、水素変性体等を挙げることができる。
【0111】
「スチレンブタジエン共重合体ゴム」とは、スチレンとブタジエンとの共重合体の粒子であり、スチレンに由来する共重合成分と、ブタジエンに由来する共重合成分とを有する。スチレンに由来する共重合成分の含有量は、スチレンブタジエン共重合体を構成する共重合成分全体を基準として、50〜80モル%であることが好ましい。ブタジエンに由来する共重合成分の含有量は、前記共重合成分全体を基準として、20〜50モル%であることが好ましい。
【0112】
スチレンブタジエン共重合体は、スチレンに由来する共重合成分およびブタジエンに由来する共重合成分以外の他の反応性モノマーを有していてもよい。「他の反応性モノマー」としては、例えば、「ポリアクリル酸共重合体樹脂のエマルジョン」の成分として前述したものを用いることができる。
【0113】
スチレンブタジエン共重合体が前記他の反応性モノマーを有する場合、他の反応性モノマーの含有量は、スチレンブタジエン共重合体を構成する共重合成分全体を基準として、1〜30モル%であることが好ましい。スチレンブタジエン共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体のいずれであってもよい。また、スチレンブタジエン共重合体は、カルボキシ変性されていてもよい。
【0114】
「スチレンブタジエン共重合体ゴムのエマルジョン」とは、スチレンのモノマーおよびブタジエンのモノマー、並びに、必要に応じて他の反応性モノマーを水中で乳化重合することによって得られるゴム粒子のエマルジョンであり、ラテックスまたは合成ゴムラテックスと称される場合もある。
【0115】
なお、スチレンブタジエン共重合体ゴムの代わりに、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、天然ゴム(NR)等を用いることもできる。
【0116】
「含フッ素共重合体」とは、少なくとも1種のフッ素含有モノマーの重合体を分子中に含む共重合体である。含フッ素共重合体としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)とポリビニルアルコール(PVA)との共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン(PVdF‐co‐HFP)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、プロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)等を挙げることができる。
【0117】
「含フッ素共重合体」のエマルジョン」とは、1種のフッ素含有モノマーおよび他の反応性モノマー、もしくは、2種以上のフッ素含有モノマー等を水中で乳化重合することによって得られる共重合体樹脂のエマルジョンである。「含フッ素共重合体の水分散体」とは、1種のフッ素含有モノマーおよび他の反応性モノマー、もしくは、2種以上のフッ素含有モノマー等を共重合してなる共重合体樹脂の水溶液、または、前記共重合体樹脂が水中に分散した分散液である。
【0118】
前記他の反応性モノマーとしては、PVA、ヘキサフルオロプロピレン、エチレン、プロピレン等が挙げられる。
【0119】
ポリアクリル酸共重合体樹脂のエマルジョン、スチレンブタジエン共重合体ゴムのエマルジョン、含フッ素共重合体のエマルジョン、もしくは、含フッ素共重合体の水分散体中の、ポリアクリル酸共重合体樹脂、スチレンブタジエン共重合体ゴム、もしくは含フッ素共重合体の含有量(固形分濃度)としては、0.1〜80質量%であることが好ましく、0.5〜65質量%であることがより好ましい。
【0120】
バインダ含有液2の固形分濃度は、0.5〜95質量%であることが好ましく、1.0〜85質量%であることがより好ましい。前記固形分濃度とは、本発明の一実施形態に係るバインダと、ポリアクリル酸共重合体樹脂、スチレンブタジエン共重合体ゴムもしくは含フッ素共重合体との合計の質量の、バインダ含有液2の質量に対する割合である。
【0121】
バインダ含有液2において、本発明の一実施形態に係るバインダと、ポリアクリル酸共重合体樹脂、スチレンブタジエン共重合体ゴムもしくは含フッ素共重合体との質量比は、前記バインダと、ポリアクリル酸共重合体樹脂、スチレンブタジエン共重合体ゴムもしくは含フッ素共重合体との合計の質量を100質量%としたときに、前記バインダが25〜96.6質量%であることが好ましい。
【0122】
ポリアクリル酸共重合体樹脂のエマルジョン、スチレンブタジエン共重合体ゴムのエマルジョン、もしくは含フッ素共重合体のエマルジョンを調製する際の乳化重合法としては、一般的な乳化重合法であるソープフリー乳化重合法、シード重合法等を用いることができる。例えば、不活性ガスを充填した密閉型容器をヒーター付き攪拌機に設置し、容器内に反応用モノマー、乳化剤、重合開始剤、水、必要に応じて分散剤、連鎖移動剤、pH調整剤等を投入して混合し、加熱撹拌しながらモノマー等を水に乳化させる。さらに加熱撹拌を行ってモノマーを共重合させることにより、前記エマルジョンを調製することができる。
【0123】
乳化重合は、撹拌の代わりに剪断または超音波によって行ってもよい。乳化機としては、ホモディスパー、ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、遠心混合機、高速回転ミキサー、シェアミキサー、ブレンダー等を使用することができる。
【0124】
乳化剤としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸塩及び脂肪族スルホン酸塩等のアニオン性界面活性剤;ポリエチレングリコールアルキルエーテル及びポリエチレングリコールアルキルエステル等のカチオン性界面活性剤;並びに両性界面活性剤が挙げられる。
【0125】
重合開始剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム及び過リン酸カリウム等の無機過酸化物;t−ブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド及びt−ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル及びアゾビスイソ酪酸メチル等のアゾ化合物等が挙げられる。
【0126】
含フッ素共重合体の水分散体は、例えば、一次粒子径が100〜500nm程度のフッ素樹脂の粒子をフッ素樹脂分散剤とともに水へ混合し、撹拌機を用いて分散させる方法によって調製することができる。フッ素系樹脂分散剤としては、フルオロカーボン鎖を持つ界面活性物質であれば、特に限定なく使用することができる。
【0127】
前記エマルジョンまたは前記水分散体中の共重合体の構造は特に限定されず、例えば、粒子内で架橋された構造、粒子間で架橋された構造、コア−シェル構造等の複合構造等を取ることができる。前記エマルジョン中の共重合体の粒子の形状は特に限定されず、球形、板状、中空構造、複合構造等を取ることができ、2種類以上の構造を備えていてもよい。また、ポリアクリル酸共重合体樹脂、スチレンブタジエン共重合体ゴム、もしくは含フッ素共重合体は、それぞれ、2種類以上の組成を有していてもよい。前記エマルジョンまたは前記水分散体を調製するための水は、バインダ含有液1について説明したものと同様である。
【0128】
バインダ含有液2は、本発明の一実施形態に係るバインダと、前記エマルジョンまたは前記水分散体とを混合することによって調製することができる。混合の方法は特に限定されない。
【0129】
(2−3.導電助剤を含有するバインダ含有液)
バインダ含有液1および2は、さらに導電助剤を含有していてもよい。導電助剤としては、特に制限はなく、金属、炭素材料、導電性高分子、導電性ガラスなどが挙げられる。このうち炭素材料が好ましく、例えば、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、フラーレン等のナノカーボン;アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック、チャネルブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、バルカン、グラフェン、気相成長カーボンファイバー(VGCF)、黒鉛等が挙げられる。より好ましくは、アセチレンブラックである。カーボンナノチューブは単層、二層、多層のいずれのカーボンナノチューブでもよい。導電助剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いる場合のように、2種以上を併用することもできる。
【0130】
また、前処理として、前記炭素材料に表面処理を施してもよい。表面処理としては、酸化処理、グラフト重合反応、カップリング処理、機械的処理、プラズマ処理、黒鉛化、賦活化処理などを挙げることができる。前処理を施すことにより、前記炭素材料の表面状態を変化させ、前記炭素材料自体の凝集を阻害することにより、前記炭素材料の分散性を向上させることができる。
【0131】
導電助剤を含有するバインダ含有液1および2は、前記導電助剤が、バインダ含有液中に均一に分散した溶液である。「均一に分散」とは、50メッシュのフィルタを用いてろ過した場合に凝集物がなく、かつ、遠心分離を行った場合に沈殿物がない状態をいう。導電助剤が溶媒中に分散した溶液であることを判別するための遠心分離の条件としては、遠心加速度を7000(×g)、処理時間を10分程度とすることが好ましい。
【0132】
バインダ含有液1および2は、本発明の一実施形態に係るバインダを分散もしくは溶解させ、またはエマルジョンとしているため、後述する電極用スラリーを作製する際に、電極活物質および導電助剤の均一分散を容易に行うことができる。特に、導電助剤が電極用スラリーに均一に分散すると、導電性が最大限発揮されることにより、電極の電気抵抗を低減することができる。その結果、電池の出力特性を向上させることができる。
【0133】
導電助剤を含有するバインダ含有液1および2は、本発明の一実施形態に係るバインダおよび導電助剤を主成分として含有するが、その他の添加剤を含んでいてもよい。このような添加剤としては、例えば、分散安定剤、レベリング剤、粘度調整剤等がある。
【0134】
導電助剤を含有するバインダ含有液は、例えば、バインダ含有液1または2と導電助剤とを混合することによって調製することができる。また、例えば、本発明の一実施形態に係るバインダの粉体と導電助剤の粉体とを混合し、得られた混合物を、水もしくは前記含水有機溶媒へ添加して分散させる方法;前記混合物を、前記ポリアクリル酸共重合体樹脂のエマルジョン、スチレンブタジエン共重合体ゴムのエマルジョン、含フッ素共重合体のエマルジョン、もしくは、含フッ素共重合体の水分散体へ添加して分散させる方法等によって調製することもできる。なお、以下、導電助剤と混合する対象である液体を、便宜上、「溶媒」と称する場合がある。
【0135】
導電助剤を溶媒に均一に分散させるため、導電助剤または前記混合物の溶媒への添加は、溶媒に超音波を照射した状態で少量ずつ行うことが好ましい。超音波を照射する代わりに、溶媒をボールミル、ビーズミル等を用いて撹拌しながら前記添加を少量ずつ行うことも好ましい。
【0136】
導電助剤を含有するバインダ含有液1および2は、粘度が10mPa・s〜10000mPa・sであることが好ましい。粘度は25℃で測定した値であり、粘度計(例えば、ブルックフィールド社製 B型粘度計)を用いて測定することができる。
【0137】
導電助剤のメジアン径(「D50」又は「50%粒子径」とも呼ばれる)は、10μm〜1μmの範囲であることが好ましい。導電助剤の粒度分布を前記範囲とすることにより、導電助剤を溶媒中へ、より高濃度で、安定的かつ均一に分散させることができる。前記メジアン径は、かさ密度測定器MT−3300(マイクロトラック社製)を用いたレーザー回折法によって粒子径分布を測定し、算出することができる。
【0138】
バインダ含有液1および2における導電助剤の濃度は、0.1質量%〜15質量%であることが好ましい。前記濃度が15質量%を超えると、導電助剤を溶媒中へ安定的かつ均一に分散させることが困難となる恐れがある。
【0139】
導電助剤を溶媒と混合する際には、金属イオンが混入する場合がある。金属イオンが混入すると、電気化学デバイスの電気特性に悪影響を与え得るため、通常、金属イオンの混入は好ましくない。一方、バインダ含有液1および2は、本発明の一実施形態に係るバインダが含有する金属架橋増粘剤が金属イオン封止効果を奏することができるため、金属イオンが混入していても、電気特性への影響がない。
【0140】
〔3.組成物〕
本発明の一実施形態に係る組成物は、本発明の一実施形態に係るバインダと、ポリアクリル酸共重合体樹脂、スチレンブタジエン共重合体ゴム、もしくは、含フッ素共重合体と、を含有する。前記組成物は、水および有機溶媒を、殆どまたは全く含有しない。前記組成物は、例えば、前記バインダ含有液2をスプレードライに供し、バインダ含有液2が含有する水を蒸発させることによって調製することができる。
【0141】
スプレードライは、高温の気体によって溶液等を急速に乾燥することによって、残留液または残留溶媒を殆どまたは全く有さない複数の粒子またはドライパウダーを生成する方法である。スプレードライによって、粒度分布が比較的狭い範囲に揃った粒子を得ることができる。
【0142】
よって、前記組成物は、取扱いが容易であり、かつ、水もしくは水を含有する親水性有機溶媒に分散しやすいという利点を有する。
【0143】
スプレードライの方式および装置は特に限定されず、噴霧方式として、ノズル噴霧方式、遠心噴霧方式等を用いることができる。また、前記粒子またはドライパウダーの回収方式としては、テークアップ方式、ブローダウン方式、バグフィルター一括捕集方式等を用いることができる。加熱乾燥媒体としては、加熱空気、窒素、酸素、二酸化炭素、またはアルゴン等の気体を用いることができる。
【0144】
前記組成物の粒子サイズは、前記組成物を適用する電極の抵抗値を高くしない範囲であればよく、平均粒子径(メジアン径)が10〜100μmであることが好ましい。平均粒子径が100μmより大きい場合は、前記電極の抵抗値が高くなるため、好ましくない。なお、前記平均粒子径は、かさ密度測定器MT−3300(マイクロトラック社製)を用いたレーザー回折法によって粒子径分布を測定し、算出することができる。
【0145】
〔4.電極用スラリー〕
本発明の一実施形態に係る電極用スラリーは、本発明の一実施形態に係るバインダ、電極活物質、導電助剤および水を含有する。各成分については既に説明したとおりである。
【0146】
本発明の一実施形態に係る電極用スラリーは、前記バインダを含有するため、水を含有するにも関わらず、電極活物質の加水分解を抑制し、かつ、pHが中性付近に保持されている。このことは、後述する実施例1で実証されている。
【0147】
よって、加水分解を非常に受けやすい高ニッケル系活物質を用いる場合であっても、当該活物質を劣化させることなく、その特性を最大限に発揮させることができる。また、集電体に塗工した場合、集電体を腐食させることなく、電気化学デバイス用電極を製造することができる。したがって、集電体に耐食性を付与するための処理を施す必要がない。
【0148】
前記電極用スラリーは、例えば、本発明の一実施形態に係るバインダと、電極活物質と導電助剤とを粉体混合し、その後、溶媒である水を配合して混練することにより得ることができる。
【0149】
既に述べたように、例えば高ニッケル系活物質を含有するスラリーは、当該活物質が加水分解を受けやすいことを鑑み、有機溶媒およびフッ素樹脂系バインダを用いて作製されているのが現状である。一方、本発明の一実施形態に係る電極用スラリーは、本発明の一実施形態に係るバインダを含有するため、高ニッケル系活物質を用いる場合であっても、有機溶媒を用いず、水を用いて調製することができる。
【0150】
よって、本発明の一実施形態に係る電極用スラリーは、製造コストの面で有利であり、かつ、安全性、環境への影響、取扱い性等の観点から好ましい。また、前記バインダによるpHに対する緩衝効果によって、pHを上昇させることなく長期間保存することができるという利点を有する。
【0151】
前記電極用スラリーの固形分濃度は、電気化学デバイスの容量、抵抗等の面から好適であるため、30質量%以上100質量%未満であることが好ましく、70質量%以上100質量%未満であることがより好ましく、80質量%以上100質量%未満であることがさらに好ましい。
【0152】
前記電極用スラリーの固形分中の各成分の比率については、例えば、電極活物質、バインダおよび導電助剤の合計量を100質量%とした場合、電極活物質が60〜99質量%、バインダが0.1〜25質量%、導電助剤が0.1〜10質量%であることが好ましい。また、電極活物質が80〜95質量%、バインダが0.5〜15質量%、導電助剤が0.5〜5質量%であることがより好ましい。
【0153】
導電助剤としては、「導電助剤を含有するバインダ含有液」の項で説明したものと同じものを用いることができる。
【0154】
本発明の一実施形態に係る電極用スラリーは、後述するように、例えば、電極基材(集電体)の表面に塗布し、乾燥させることによって、電極基材の表面に電極合材層が存在する、本発明の一実施形態に係る電気化学デバイス用電極を製造することができる。電極合材層と電極基材との接着強度が不足する場合は、例えば、前記電極用スラリーに、本発明の一実施形態に係るバインダ以外の他のバインダ(以下、「他のバインダ」と称する)をさらに含有させてもよい。前記他のバインダは、電極合材層を構成する粒子相互間の強固な物理的あるいは化学的接合、および電極合材層と電極基材との強固な界面接合を可能にする物質であれば、その種類は特に制限されない。前記他のバインダは、1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0155】
前記他のバインダの使用量は、本発明の一実施形態に係るバインダの効果を妨げないという観点から、前記バインダの質量と前記他のバインダの質量との合計を100質量%としたときに、固形分の質量として、0.01〜75質量%であることが好ましく、0.01〜50質量%であることがより好ましく、0.01〜25質量%であることがさらに好ましい。
【0156】
前記他のバインダとしては、例えば、前述したポリアクリル酸共重合体樹脂のエマルジョン、スチレンブタジエン共重合体ゴムのエマルジョン、含フッ素共重合体のエマルジョン、もしくは、含フッ素共重合体の水分散体を用いることができる。
【0157】
〔5.電気化学デバイス用電極〕
本発明の一実施形態に係る電気化学デバイス用電極は、本発明の一実施形態に係るバインダを含有する。例えば、本発明の一実施形態に係る電極用スラリーを電極基材(集電体)の表面に塗布し、乾燥させることによって、電極基材の表面に電極合材層が存在する、本発明の一実施形態に係る電気化学デバイス用電極を製造することができる。
【0158】
前記塗布の方法としては、ナイフコーター、コンマコーター、ダイコーター等を用いた方法を挙げることができる。電極基材としては、アルミニウム箔、銅箔等を用いることができる。
【0159】
前記電極用スラリーの電極基材への塗布量は特に限定されないが、例えば、乾燥後の電極合材層の厚みが0.02〜0.40mm、好ましくは0.05〜0.25mmの範囲となるように設定することができる。
【0160】
乾燥工程の温度は特に限定されないが、例えば、50〜180℃、好ましくは80〜150℃の範囲内で適宜設定することができる。乾燥工程の時間としては、例えば、10〜120秒、好ましくは10〜80秒の範囲内で適宜設定することができる。また、さらに、減圧下、120℃にて数時間乾燥させる方法を取ることもできる。この場合の減圧条件は、圧力が10Pa以下であることが好ましい。
【0161】
前記電気化学デバイス用電極は、前記バインダを含有するため、電極活物質の加水分解が抑制されている。よって、電極活物質として、加水分解を受けやすい高ニッケル系活物質等を用いた場合であっても、電極活物質本来の特性を十分に発揮させることができる電極を提供することができる。
【0162】
また、前記電気化学デバイス用電極は、前記バインダを含有するため、前記電極合材層のpHの上昇が抑制されている。それゆえ、集電体に耐食性処理を施す必要がないため、容易に製造することができ、低いコストで製造することができる。
【0163】
前記電気化学デバイス用電極は、電気化学デバイスの正極として用いてもよいし、負極として用いてもよい。
【0164】
〔6.電気化学デバイス〕
本発明の一実施形態に係る電気化学デバイスは、正極および負極を備え、当該正極と当該負極との間に電解液を含む電気化学デバイスであって、前記正極および/または負極は、本発明の一実施形態に係る電気化学デバイス用電極である。
【0165】
また、電気化学デバイスには、正極と負極との短絡を防止するために、正極と負極との間にセパレータが配置される。正極および負極にはそれぞれ集電体が備えられており、両集電体は電源に接続されている。この電源の操作によって充放電の切り替えがなされる。
【0166】
前記電気化学デバイスの例としては、リチウムイオン二次電池、電気化学キャパシタ等が挙げられ、さらには非リチウムイオン電池、リチウムイオンキャパシタ、色素増感型太陽電池等も包含される。
【0167】
前記電気化学デバイスは、高性能であり、かつ安全性の高い蓄電デバイスとして利用することができる。よって、前記電気化学デバイスは、携帯電話機器、ノートパソコン、携帯情報端末(PDA)、ビデオカメラ、デジタルカメラ等の小型電子機器;電動自転車、電動自動車、電車等の移動用機器(車両);火力発電、風力発電、水力発電、原子力発電、地熱発電等の発電用機器;自然エネルギー蓄電システム等に搭載されてもよい。
【0168】
中でも、本発明の一実施形態に係る電気化学デバイスは、リチウムイオン二次電池であることがより好ましい。高ニッケル系活物質は、電極容量を増大させることができるため、リチウムイオン二次電池の電極材料として有力であるが、上述したように、非常に加水分解されやすいという問題がある。
【0169】
本発明の一実施形態に係る電気化学デバイスは、本発明の一実施形態に係るバインダを含有する電気化学デバイス用電極を備えるため、有機溶媒を用いて調製したスラリーから調製した電極を備える電気化学デバイスと全く遜色のない充放電特性を示す。このことは実施例2で実証されている。
【0170】
また、本発明の一実施形態に係る電気化学デバイスは、有機溶媒を用いて調製したスラリーから調製した電極を備える電気化学デバイスよりも高温安定性に優れ、かつ、耐電圧性が高いという特性を有する。このことは、実施例3および4で実証されている。
【0171】
以上のことから、本発明の一実施形態に係る電気化学デバイスは、リチウムイオン二次電池等の容量増大に貢献することができ、かつ、高温安定性および耐電圧性に優れた電気化学デバイスを提供することができると言える。
【0172】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0173】
本発明について、実施例および比較例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0174】
〔製造例1〕
[1.バインダの作製]
以下に示す材料を用い、以下に示す方法にて、バインダを作製した。
【0175】
(材料)
pH調節機能剤:マロン酸
金属架橋増粘剤:アルギン酸Na
(製造方法)
ボールミル容器にマロン酸を50g、アルギン酸Naを50g入れ、さらに分散媒としてヘプタンを7g、粉砕子として直径2mmのジルコニアボールを500g加え、室温で60時間粉砕処理を行った。ジルコニアボールを除去した後、被粉砕物をメタノールで洗浄した。そして、10−2Paにおいて100℃で30時間乾燥させることによって、バインダを得た。
【0176】
[2.正極合材層形成用スラリーの作製]
[1.]で得たバインダを2質量部、正極活物質としてNCA、NMC532、NMC622またはNMC811を95質量部、導電助剤としてアセチレンブラックを3質量部使用して混合した。
【0177】
得られた混合物に水を25質量部加えてプラネタリミキサー(TKハイビスミックス:プライミクス社製)を用いて混錬することにより、正極合材層形成用スラリーを作製した。当該正極合材層形成用スラリーは、本発明の一実施形態に係る電極用スラリーに該当する。
【0178】
[3.電気化学デバイス用正極の作製]
[2.]で得た正極合材層形成用スラリーを、厚み15μmの長尺状のアルミニウム箔(正極集電体)の両面に、片面あたりの目付量が12mg/cmとなるように、ローラーコート法によって帯状に塗布した。前記目付量は正極活物質基準の値である。すなわち、前記目付量は、正極活物質を片面あたりに12mg/cmとなるように塗布することを意味する。
【0179】
その後、正極合材層形成用スラリーを塗布した前記アルミニウム箔を100℃で80秒間乾燥することにより、正極合材層を形成した。この正極合材層をロールプレス機により圧延して、正極充填密度を3.0g/ccに調整することによって、電気化学デバイス用正極を得た。
【0180】
[4.電気化学デバイス用負極の作製]
負極活物質としての天然黒鉛粉末(NC、平均粒径:10μm、比表面積:3 m/g)と 、バインダとしてのスチレンブタジエンゴム(SBR)と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、質量比がNC:SBR:CMC=96:2:2となり、かつ、固形分濃度が55質量%となるように超純水と混合して、負極合材層形成用スラリーを調製した。
【0181】
前記負極合材層形成用スラリーを、厚み10μmの長尺状の銅箔(負極集電体)の両面に、片面あたりの目付量が5.9mg/cmとなるようにローラーコート法によって帯状に塗布して乾燥(乾燥温度80℃、60分間)することにより、負極合材層を形成した。前記目付量は負極活物質基準の値である。すなわち、前記目付量は、負極活物質を片面あたりに5.9mg/cmとなるように塗布することを意味する。
【0182】
この負極合材層をロールプレス機により圧延して、負極充填密度を1.5g/ccに調整することによって、電気化学デバイス用負極を得た。
【0183】
〔製造例2〕〜〔製造例6〕
製造例1におけるバインダの材料を、表1に示す材料に変更したこと以外は、製造例1と同様の使用量および方法により、バインダ、正極合材層形成用スラリー、電気化学デバイス用正極および電気化学デバイス用負極を作製した。
【0184】
〔製造例7〕
[1.バインダの作製]
以下に示す材料を用い、以下に示す方法にて、バインダを作製した。
【0185】
(材料)
pH調節機能剤:グルコン酸K、マロン酸
金属架橋増粘剤:アルギン酸K
(製造方法)
ボールミル容器にグルコン酸Kを30g、マロン酸を20g、アルギン酸Kを50g入れ、さらに分散媒としてヘプタンを7g、粉砕子として直径2mmのジルコニアボールを500g加え、室温で60時間粉砕処理を行った。ジルコニアボールを除去した後、被粉砕物をメタノールで洗浄した。そして、10−2Paにおいて100℃で30時間乾燥させることによって、バインダを得た。
【0186】
さらに、製造例1と同じ方法によって、正極合材層形成用スラリー、電気化学デバイス用正極および電気化学デバイス用負極を作製した。
【0187】
〔製造例8〕〜〔製造例55〕
製造例7におけるバインダの材料を、表1〜表6に示す材料に変更したこと以外は、製造例7と同様の使用量および方法により、バインダ、正極合材層形成用スラリー、電気化学デバイス用正極および電気化学デバイス用負極を作製した。
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【0188】
【表6】
〔比較製造例1〕
バインダとしてポリフッ化ビニリデン(EQ−Lib−PVdF、MTI製)を2質量部、正極活物質としてNCA、NMC622またはNMC811を95質量部、導電助剤としてアセチレンブラックを3質量部使用して混合した。
【0189】
得られた混合物に、非水系溶剤としてN−メチル−2−ピロリドンを25質量部加えてプラネタリミキサー(TKハイビスミックス:プライミクス社製)を用いて混錬することにより、正極合材層形成用スラリーを作製した。当該正極合材層形成用スラリーを用い、製造例1と同様の方法によって、電気化学デバイス用正極および電気化学デバイス用負極を作製した。
【0190】
〔比較製造例2〕
バインダとしてポリフッ化ビニリデンの代わりにAlg−H(富士フイルム和光純薬株式会社製)を用い、N−メチル−2−ピロリドンの代わりに水を用いたこと以外は、比較製造例1と同様の使用量および方法によって、電気化学デバイス用正極および電気化学デバイス用負極を作製した。
【0191】
〔比較製造例3〕
ポリビニルピロリドン(PVP)2質量部と、正極活物質(NCA、NMC622またはNMC811)95質量部と、アセチレンブラック3質量部とを混合した。得られた混合物1に、酢酸の1質量%水溶液を、前記混合物1と酢酸の1質量%水溶液との総量に対して0.05質量%となるように添加して混合し、混合物2を得た。
【0192】
混合物2に、水を25質量部加えてプラネタリミキサー(TKハイビスミックス:プライミクス社製)を用いて混錬することにより、正極合材層形成用スラリーを作製した。当該正極合材層形成用スラリーを用い、製造例1と同様の方法によって、電気化学デバイス用正極および電気化学デバイス用負極を作製した。
【0193】
〔比較製造例4〕
酢酸の1質量%水溶液の代わりに、ギ酸の1質量%水溶液を用いて調製した混合物3を使用したこと以外は、比較製造例3と同様の方法によって、電気化学デバイス用正極および電気化学デバイス用負極を作製した。
【0194】
〔実施例1〕
(本発明の一実施形態に係る正極合材層形成用スラリーのpHの測定)
本発明の一実施形態に係る正極合材層形成用スラリーのpHが塩基性になると、正極電極基材(正極集電体)となるアルミニウム箔を腐食するため好ましくない。そこで、製造例1〜55および比較製造例2〜4で作製した正極合材層形成用スラリーのpH値を確認した。アルミニウム箔の腐食は、pHが約9.0以上で起こるため、本発明の一実施形態に係る正極合材層形成用スラリーのpH値は、9.0未満の値に収まる必要がある。
【0195】
ここでは、pHメータ(LAQUAtwin:HORIBA製)を用いて、作製から6時間後の正極合材層形成用スラリーのpHを測定した。製造例1〜55で作製した正極合材層形成用スラリーのpH値を表1〜6に「pH」として示した。また、比較製造例2〜4で得られた正極合材層形成用スラリーのpH値を表8〜10に「pH」として示した。
【0196】
表8〜10に示すように、比較製造例2〜4で得られた正極合材層形成用スラリーのpHはいずれも10を超えており、アルミニウム箔を腐食する強塩基性となっていた。一方、表1〜6に示すように、製造例1〜77で得られた正極合材層形成用スラリーのpH全てのpHが9未満であり、中性に近いものが数多く見られた。
【0197】
以上の結果から、本発明の一実施形態に係る正極合材層形成用スラリーは、本発明の一実施形態に係るバインダを用いているため、当該バインダによるpH緩衝効果によってpHの上昇が抑えられ、溶剤として水を用いた場合でもアルミニウム箔を腐食することがないことが明らかとなった。
【0198】
〔実施例2〕
(本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の放電容量維持率)
<1.本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の構築>
製造例1〜55および比較製造例1〜4で作製したそれぞれの電気化学デバイス用正極と、ポリエチレン(PE)の両面にポリプロピレン(PP)が積層された三層構造であって、厚さ20μmであるセパレータシート(宇部興産製)と、金属リチウム箔とを、この順で積層し、得られた積層体をCR2302型のコイン電池ケース内に配置した。
【0199】
ここに、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とをEC:DMC=1:1の体積比で含む混合溶媒に、支持塩としてLiPFを1.0mol/Lの濃度となるように溶解させた非水電解液を注液した。そして、周囲に絶縁パッキンを配置した状態でステンレス製蓋を重ね、かしめ機によって加圧し密閉することによって、コイン型リチウムイオン電池を構築した。
【0200】
製造例で作製した電気化学デバイス用正極を用いたコイン型リチウムイオン電池は、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池に該当する。以下、当該リチウムイオン二次電池を、それぞれ「リチウムイオン二次電池1〜55」と称し、比較製造例1〜4で作製した電気化学デバイス用正極を用いたコイン型リチウムイオン電池を、「比較用リチウムイオン二次電池1〜4」と称する。
【0201】
<2.放電容量特性維持率の測定>
製造例1〜55で製造した正極合材層形成用スラリーは、製造例1の[2.]に記載したように、溶剤として水を用いる。一方、前記正極合材層形成用スラリーに用いた正極活物質は加水分解されやすいため、特に高温環境下(例えば、電池の周囲の温度が60℃である環境下)での電池特性が低下する可能性がある。そこで、リチウムイオン二次電池1〜55の放電容量を、有機溶剤を用いて電極用スラリーを調製した比較用リチウムイオン二次電池1の放電容量と比較し、放電容量の低下が見られないかどうかを確認した。
【0202】
まず、リチウムイオン二次電池1〜55および比較用リチウムイオン二次電池1〜4を、それぞれ定電流−定電圧(CC−CV)充電方式により充電した。なお、CVモードでは、電流値がCCモードでの設定電流値の10分の1になった時点で充電を終了した。次に、各電池について、60℃にて、1時間率(1.0Cレート)が2.8mAの定電流で放電を行った。電圧範囲は3.0〜4.3Vであった。
【0203】
測定した放電容量から、以下の式(1)に基づき、比較用リチウムイオン二次電池1の放電容量に対するリチウムイオン二次電池1〜55の放電容量特性維持率を算出した。
放電容量特性維持率(%)=(リチウムイオン二次電池1〜55のいずれかの放電容量)/(比較用リチウムイオン二次電池1の放電容量)×100・・式(1)
また、この試験における比較用リチウムイオン二次電池1の放電容量特性維持率を100%として、リチウムイオン二次電池1〜55の放電容量特性維持率を下記の基準で評価した。S、A、Bが合格、Cは不合格である。
S:放電容量特性維持率が、比較用リチウムイオン二次電池1と比較して、−1.0%未満である。
A:放電容量特性維持率が、比較用リチウムイオン二次電池1と比較して、−1.0%以上、−3.0%未満である。
B:放電容量特性維持率が、比較用リチウムイオン二次電池1と比較して、−3.0%以上、−5.0%未満である。
C:放電容量特性維持率が、比較用リチウムイオン二次電池1と比較して、−5.0%以上である。
【0204】
リチウムイオン二次電池1〜55の放電容量特性維持率の評価結果を表1〜6に「電池性能」として示した。また、表7には、比較用リチウムイオン二次電池1の放電容量を「発現放電容量」として記載した。表8〜10には、比較用リチウムイオン二次電池2〜4の放電容量特性維持率を、式(1)に基づき、比較用リチウムイオン二次電池1の放電容量と比較した結果を「電池性能」として示した。
【0205】
また、図1〜4に、リチウムイオン二次電池1について、正極活物質として、NMC532、NMC622、NMC811、NCAをそれぞれ用い、前記<2.>に記載した充電および放電を行った場合の充放電曲線を示した。図1〜4において、(a)は充放電曲線の全体図であり、(b)は、前記全体図の一部の拡大図である。横軸は容量を表し、縦軸は電圧を表す。
【表7】
【表8】
【表9】
【0206】
【表10】
表1〜6および図1〜4に示すように、リチウムイオン二次電池1〜55は、正極活物質がNCA、NMC622、NMC811の何れの高ニッケル系活物質である場合も、比較用リチウムイオン二次電池1と遜色のない放電容量を示した。
【0207】
つまり、リチウムイオン二次電池1〜55は、本発明の一実施形態に係るバインダを用いているため、加水分解を受けやすい高ニッケル系活物質を正極活物質として用いた場合であっても、本発明の一実施形態に係る電極用スラリーに含有される水による高ニッケル系活物質の加水分解を抑制することができていると言える。その結果、リチウムイオン二次電池1〜55は、高ニッケル系活物質の特性を十分に維持し、高温環境下においても優れた放電容量を示したと言える。
【0208】
このように、本発明の一実施形態に係るバインダは、安全性、環境への影響、取扱い性等の観点から好ましくない有機溶剤を使用することなく、水系で、高ニッケル系活物質を加水分解させることなく、本発明の一実施形態に係る電気化学デバイス用電極を作製することができ、優れた特性を示す電気化学デバイスを提供することができるため、非常に有用であると言える。
【0209】
なお、表8〜10に示すように、本発明の一実施形態に係るバインダに該当しないバインダを用い、水系で正極合材層形成用スラリーを作製した比較用リチウムイオン二次電池2〜4は、比較用リチウムイオン二次電池1と比較して不十分な放電容量しか示すことができなかった。
【0210】
〔実施例3〕
(本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の高温サイクル特性)
<1.本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の構築>
製造例7、製造例24、製造例53および比較製造例1において、正極活物質としてNCAを用いて作製した電気化学デバイス用正極と、電気化学デバイス用負極とを、ポリエチレン(PE)の両面にポリプロピレン(PP)が積層された三層構造であって、厚さ20μmのセパレータシート(宇部興産製)を介して対面に配置した。このように配置した電気化学デバイス用正極、電気化学デバイス用負極およびセパレータシートを楕円状に捲回することによって捲回電極体を作製した。
【0211】
次に、前記捲回電極体を円筒型の電池ケース内に配置した。ここに、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とをEC:DMC=1:1の体積比で含む混合溶媒に、支持塩としてLiPFを1.0mol/Lの濃度となるように溶解させた非水電解液を注液した。そして、前記捲回電極体の端部において露出した正極集電体および負極集電体に、それぞれ正極端子および負極端子を溶接した後、電池ケースを封口し、18650型のリチウムイオン二次電池を構築した。
【0212】
製造例で作製した電気化学デバイス用正極を用いた18650型のリチウムイオン電池は本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池に該当する。以下、当該リチウムイオン二次電池を、それぞれ「リチウムイオン二次電池7a,24a,53a」と称し、比較製造例1で作製した電気化学デバイス用正極を用いた18650型のリチウムイオン電池を「比較用リチウムイオン二次電池1a」と称する。
【0213】
<2.高温サイクル特性の測定>
本実施例では、高温環境下での、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池のサイクル特性を、有機溶剤を用いて電極用スラリーを調製した比較用リチウムイオン二次電池1aと比較して検討した。
【0214】
まず、リチウムイオン二次電池7a,24a,53aおよび比較用リチウムイオン二次電池1aを、それぞれ定電流−定電圧(CC−CV)充電方式により充電した。なお、CVモードでは、電流値がCCモードでの設定電流値の10分の1になった時点で充電を終了した。次に、60℃にて、1時間率(1.0Cレート)が2000mAの定電流で放電を行った。電圧範囲は3.0〜4.3Vであった。この工程を1サイクルとし、100サイクル繰り返した。
【0215】
各サイクルにおいて測定した放電容量を以下の式(2)に代入し、各電池について放電容量特性維持率を算出した。
放電容量特性維持率(%)=(初回サイクルにおける放電容量値)/(各サイクルにおける放電容量値)×100・・式(2)
結果を図5に示した。図5は、1サイクルから100サイクルまでの放電容量特性維持率の変化を示す図である。図5において、「本発明品」は、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の結果を示す。各サイクルの放電容量特性維持率を三角形で示したグラフは、リチウムイオン二次電池53aの結果を、四角形で示したグラフは、リチウムイオン二次電池7aの結果を、黒丸で示したグラフは、リチウムイオン二次電池24aの結果をそれぞれ示している。また、「従来binder(PVdF)」は、比較用リチウムイオン二次電池1aの結果を示している。
【0216】
本実施例の試験において、放電容量特性維持率が80%を下回ると、その電池は寿命を迎えたと判断される。図5に示すように、比較用リチウムイオン二次電池1aは、60サイクルで放電容量特性維持率が80%に低下し、その後も急激に低下した。
【0217】
対照的に、リチウムイオン二次電池7a,24a,53aは、60サイクルでは、比較用リチウムイオン二次電池1aを大きく上回る85%超の放電容量特性維持率を示し、90サイクル超〜100サイクルまで、80%に低下することはなかった。すなわち、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、高温でのサイクル特性が非常に良好であることが明らかとなった。
【0218】
60℃という高温環境下では、バインダの熱安定性が電気化学デバイスの寿命に直結する。図5に示す結果は、本発明の一実施形態に係るバインダの熱安定性が、従来のバインダであるPVdFよりも優れていることに起因すると考えられる。
【0219】
〔実施例4〕
(本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の高電圧耐久性)
<1.本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の構築>
正極活物質としてLMNを用いたこと以外は、製造例4と同じ方法でバインダ、正極合材層形成用スラリー、および電気化学デバイス用正極を作製し、実施例2と同じ方法で、コイン型リチウムイオン電池を作製した。
【0220】
以下、当該コイン型リチウムイオン電池を「リチウムイオン二次電池10b」と称する。リチウムイオン二次電池10bは、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池に該当する。
【0221】
また、正極活物質としてLMNを用いたこと以外は、比較製造例1と同じ方法でバインダ、正極合材層形成用スラリー、および電気化学デバイス用正極を作製し、実施例2と同じ方法で、コイン型リチウムイオン電池を作製した。以下、当該コイン型リチウムイオン電池を「比較用リチウムイオン二次電池1b」と称する。
【0222】
<2.高電圧に対する耐久性の比較>
本実施例では、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の高電圧に対する耐久性を、有機溶剤を用いて電極用スラリーを調製した比較用リチウムイオン二次電池1bと比較して検討した。
【0223】
まず、リチウムイオン二次電池10bおよび比較用リチウムイオン二次電池1bを、それぞれ定電流−定電圧(CC−CV)充電方式により充電した。なお、CVモードでは、電流値がCCモードでの設定電流値の10分の1になった時点で充電を終了した。次に、各電池について、60℃にて、1時間率(1.0Cレート)が1.86mAの定電流で放電を行った。電圧範囲は3.5〜4.9Vであった。この工程を1サイクルとし、50サイクル繰り返した。
【0224】
各サイクルにおいて測定した充電容量および放電容量を以下の式(3)に代入し、50サイクル分のクーロン効率を算出し、横軸をサイクル数、縦軸をクーロン効率とするグラフにプロットした。
クーロン効率(%)=(各サイクルにおける放電容量値)/(各サイクルにおける充電容量値)×100・・式(3)
結果を図6に示した。図6は、1サイクルから50サイクルまでのクーロン効率を示す図である。図中、「本発明品」がリチウムイオン二次電池10bの結果を示し、「PVdF」が比較用リチウムイオン二次電池1bの結果を示す。
【0225】
本実施例は、作動電位が4.9V vs. Li/Liという高電圧となる、正極活物質としてLMNを用いた電極における比較試験である。4.9Vは、殆どのバインダが酸化分解してしまう電位であり、従来のバインダでは、充放電のクーロン効率が低下する傾向を示すのが一般的である。
【0226】
図6に示すように、リチウムイオン二次電池10bは、バインダとしてPVdFを用いている比較用リチウムイオン二次電池1bよりも約0.4%高いクーロン効率を示している。
【0227】
つまり、比較用リチウムイオン二次電池1bでは、PVdFが高電圧下でのサイクルを経ることによって徐々に分解している可能性が考えられる。一方、リチウムイオン二次電池10bは、ほぼ100%のクーロン効率を示しており、バインダの分解が見られていないため、高電圧に対する耐久性が高いと言える。
【0228】
〔実施例5〕
(電極用スラリーの溶剤中への遷移金属の溶出の有無の確認)
製造例7で作製したバインダ2質量部と、正極活物質であるNMC532を95質量部と、アセチレンブラック3質量部とを混合した。
【0229】
得られた混合物4に、固形分が70質量%となるように水を加えてプラネタリミキサー(TKハイビスミックス:プライミクス社製)を用いて混錬することにより、正極合材層形成用スラリー(電極用スラリー)を作製した。本発明の一実施形態に係る当該正極合材層形成用スラリーを、以下、電極用スラリー1と称する。
【0230】
また、製造例7で作製したバインダの代わりに、ポリビニルピロリドン(PVP)2質量部を用いたこと以外は、電極用スラリー1と同様の方法で調製した比較用スラリー1;前記混合物4の代わりに、比較製造例3で用いた混合物2を使用したこと以外は電極用スラリー1と同様の方法で調製した比較用スラリー2;前記混合物4の代わりに、比較製造例4で用いた混合物3を使用したこと以外は電極用スラリー1と同様の方法で調製した比較用スラリー3;を、対照として用いた。比較用スラリー1〜3の調製に用いた正極活物質は、電極用スラリー1の調製に用いた正極活物質と同じである。
【0231】
電極用スラリー1および比較用スラリー1〜3中への遷移金属の溶出の有無の確認試験を、誘導結合プラズマ発光分光分析法を用いて、以下の方法で行った。測定には高周波誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP−OES)(SPS−3520型、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)を使用した。
【0232】
電極用スラリー1および比較用スラリー1〜3をそれぞれ、ろ紙(ADVANTEC No4A)を用いて濾過し、得られた濾液中の遷移金属(マンガン、コバルト、およびニッケル)をICP−OESで検出した。このとき、前記濾液の原液では検出濃度の限界値を大きく上回るため、原液を超純水で1000分の1に薄めたものを測定に使用した。結果を表11に示した。表11に示した濃度は、原液の濃度に換算した濃度(検出値を1000倍した値)である。
【0233】
【表11】
比較用スラリー1ではPVP、比較用スラリー2ではPVPおよび酢酸の1質量%水溶液、比較用スラリー3ではPVPおよびギ酸の1質量%水溶液が、それぞれ、電極用スラリー1で用いたバインダに対応する。
【0234】
表11に示すように、酸を含有する比較用スラリー2および3では、スラリー中への遷移金属の溶出が多いことが分かる。比較用スラリー2および3は、本発明の一実施形態に係るバインダを含有せず、かつ、溶剤として水を用いているので、スラリーは塩基性となる。酢酸およびギ酸は、当該スラリーのpHを調整するために添加されているが、遷移金属を多く溶出させているため、正極活物質にダメージを与えていることが分かる。
【0235】
比較用スラリー1は、酸を含有していないため、遷移金属の溶出は少ない。一方、電極用スラリー1は、比較用スラリー1よりもさらに強く、遷移金属の溶出を抑制することができていた。よって、本発明の一実施形態に係るバインダを用いることにより、正極活物質の加水分解を十分に抑制することができると言える。
【産業上の利用可能性】
【0236】
本発明は、電気化学デバイスの材料となるバインダに関するものであり、コンデンサ業界、自動車業界、電池業界、家電業界等にて広く利用可能である。
【要約】
非常に加水分解されやすい電極活物質を用いる場合であっても、溶媒として水を用い、かつ、電極用スラリーをアルカリ化させることなく作製可能なバインダを提供する。当該バインダは、塩基を水系において中和するpH調節機能剤と、電極活物質由来の金属イオンと水系において架橋し、疎水性ゲルを形成する金属架橋増粘剤と、を含有する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6