(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
電磁波が伝播する経路中に液体試料を配置し、当該液体試料を透過した電磁波の特性を計測するシステムに用いられ、上記液体試料としての液膜を生成するための液膜生成装置であって、
液体を噴出して、表面が平坦な板状の液膜を空間上に生成するノズルと、
上記ノズルにより生成された上記液膜を、当該液膜の表面に沿って平行に触れさせるスロープ壁と、
上記スロープ壁から流れ落ちる液体を回収して貯蔵する回収タンクと、
上記回収タンクに貯蔵された液体を吸い上げて、当該液体を加圧して上記ノズルから噴出させるポンプとを備えたことを特徴とする液膜生成装置。
上記ノズルの開口部から噴出した液体により形成される2本の流体柱の間に液体の表面張力によって生成される液膜の、上記ノズルの開口部から上記2本の流体柱が衝突する流体柱集合点までの長さの略1/3またはそれよりも下流側の位置に、上記スロープ壁を配置したことを特徴とする請求項1または2に記載の液膜生成装置。
上記ノズルの開口部における液体の突沸による飛散を防止するための飛散防止壁を、上記ノズルの開口部の周囲に更に備えたことを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の液膜生成装置。
上記飛散防止壁は、上記ノズルから噴出された液体の出口側の開口部が、上記ノズル側から上記スロープ壁側に向かって傾斜していることを特徴とする請求項6に記載の液膜生成装置。
上記位置決め構造は、上記ノズルの円筒状管において互いに対向する位置に設けられた平坦面と、上記ノズル支持体の互いに対向する位置に設けられた平坦面とにより構成されていることを特徴とする請求項8に記載の液膜生成装置。
電磁波が伝播する経路中に液体試料を配置し、当該液体試料を透過した電磁波の特性を計測するシステムに用いられ、上記液体試料としての液膜を生成するための液膜カートリッジであって、
液体を噴出して、表面が平坦な板状の液膜を空間上に生成するノズルと、
上記ノズルにより生成された上記液膜を、当該液膜の表面に沿って平行に触れさせるスロープ壁とを備えたことを特徴とする液膜カートリッジ。
上記ノズルの開口部から噴出した液体により形成される2本の流体柱の間に液体の表面張力によって生成される液膜の、上記ノズルの開口部から上記2本の流体柱が衝突する流体柱集合点までの長さの略1/3またはそれよりも下流側の位置に、上記スロープ壁を配置したことを特徴とする請求項11または12に記載の液膜カートリッジ。
上記ノズルの開口部における液体の突沸による飛散を防止するための飛散防止壁を、上記ノズルの開口部の周囲に更に備えたことを特徴とする請求項11〜14の何れか1項に記載の液膜カートリッジ。
上記飛散防止壁は、上記ノズルから噴出された液体の出口側の開口部が、上記ノズル側から上記スロープ壁側に向かって傾斜していることを特徴とする請求項15に記載の液膜カートリッジ。
上記位置決め構造は、上記ノズルの円筒状管において互いに対向する位置に設けられた平坦面と、上記ノズル支持体の互いに対向する位置に設けられた平坦面とにより構成されていることを特徴とする請求項17に記載の液膜カートリッジ。
【背景技術】
【0002】
従来、紫外線、赤外線、マイクロ波、テラヘルツ波などの電磁波を用いて物質の特性を計測する分光装置が提供されている。分光法は、電磁波によって計測される物理量によって、吸収分光法または発光分光法に分類される。吸収分光法では、分光計測の対象となる試料に電磁波を透過させ、試料を通過中に電磁波と試料とが相互作用することによって生じる電磁波の変化から、試料の物理的性質あるいは化学的性質を計測する。一方、発光分光法では、何らかの方法で試料から電磁波を放出させ、その電磁波の強さを計測する。
【0003】
分光計測の試料として用いる被計測物質には、ガス状、固体状、液体状などの形態がある。それぞれの形態に応じて、電磁波が適切に透過するように被計測物質の設置方法が工夫されている。例えば、液体状の試料について精度の高い計測を行うには、分光装置に配置する試料は、電磁波が透過する程度に薄く形成する必要がある。特に、液体試料をテラヘルツ波で分光計測する場合には、水分子によるテラヘルツ波の吸収効果が強いため、計測信号のSN比の悪化を防ぐために、液体を板状の均一な薄膜にし、板状の部分にテラヘルツ波を透過させて計測を行う必要がある。
【0004】
一般に、液体試料の計測では、ガラスなどの電磁波を透過する材料で作られた容器(一般的には溶液セルと呼ばれる)に試料を挟みこみ、溶液セルの外部から電磁波を入射し、溶液セルを透過した電磁波を計測している。しかしながら、液体試料を溶液セルに挟み込んで計測すると、液体試料の分光情報に対してセル材料の分光情報がノイズとして重畳し、真の分光情報を計測する妨げとなる。
【0005】
従来、このような問題に鑑みて、溶液セルを用いることなく、ノイズの少ない分光情報を計測可能にすること目的とした装置が提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。この特許文献1,2に記載の装置では、特別な構造のノズルを用い、ポンプの圧力によってノズルから液体試料を噴出することにより、薄い平坦な板状の液膜を生成するようになされている。
【0006】
しかしながら、液体をポンプで加圧してノズルから噴出させると、ノズルの開口部から液体が飛散してしまう。そして、この飛散した液体が、ノズルに接近して配置されている光学系を汚してしまうという問題があった。なお、ノズルにより生成された液膜を電磁波が通過する部分には、被計測対象の液体以外のものを介在させない必要がある。そのため、ノズルの周辺を閉空間にすることができず、液体の飛び散りを完全に防ぐための壁を設けることは難しい。
【0007】
ノズル開口部での液体の飛散は、噴出される液体内に含まれている気泡が原因で発生すると考えられる。すなわち、ノズルから噴出された計測対象の液体を回収タンクに貯蔵して、それをポンプによって循環させて利用する場合、加圧されてノズルから噴出された液体が回収タンクに入るときに、貯蔵されている液体の表面で反射して飛散が生じる。このとき、回収タンクに貯蔵された液体内には、撹拌によって気泡が発生する。そして、この気泡を含んだ液体がポンプにより吸い上げられ、再び加圧してノズルに送り込まれる。この液体内の気泡がノズル口での突沸の原因となり、液体の飛散を発生させてしまうのである。
【0008】
なお、吐水口から吐水される際の水の飛散を防止できるようにした技術が提案されている(例えば、特許文献3参照)。この特許文献3には、給水源から吐水口へ向かう通水路の上面側に流路拡張部を形成することにより、気泡混合水のうちの空気が選択的に流路拡張部の上壁面に導かれ、その後、拡張部から通常部へ流路が縮小される部分の段差に衝突することによって、気泡が細分化または消滅し、その結果、吐水口から吐水される際の水の飛散を防止できることが開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、第1の実施形態による液膜生成装置の構成例を示す図である。
図2は、第1の実施形態の液膜生成装置に用いられる液膜カートリッジの構成例を示す図であり、(a)は正面図、(b)は側面図である。
図3は、第1の実施形態による液膜生成装置を適用した分光装置の一例であるテラヘルツ時間分解分光装置の構成例を示す図である。
【0018】
まず、
図3を参照して、テラヘルツ時間分解分光装置の構成を説明する。本実施形態のテラヘルツ時間分解分光装置は、テラヘルツ波が伝播する経路中に液体試料を配置し、当該液体試料を透過したテラヘルツ波の特性を時間分解計測するものである。具体的には、液体試料を透過したテラヘルツ波の時間波形を検出し、その検出信号をフーリエ変換して、テラヘルツ波の周波数毎の振幅と位相の情報を得る。光源としては、励起光であるフェムト秒レーザパルスを用いる。
【0019】
図3に示すように、本実施形態のテラヘルツ時間分解分光装置30は、フェムト秒レーザ光源31、レーザ光分光部32、テラヘルツ波発生用半導体33、第1および第2の放物面ミラー34,35、テラヘルツ波検出用半導体36、テラヘルツ信号検出装置37および可変光学遅延部38を備えて構成されている。
【0020】
レーザ光分光部32は、フェムト秒レーザ光源31から放射されるレーザ光(フェムト秒レーザパルス)を、テラヘルツ光源であるテラヘルツ波発生用半導体33を動作させるためのポンプ光と、テラヘルツ波検出部であるテラヘルツ波検出用半導体36に入射しているテラヘルツ波が作り出す微弱電流を増大させるためのサンプリング光との2つに分ける。具体的に、レーザ光分光部32は、半透過ミラーにより構成される。テラヘルツ波発生用半導体33は、レーザ光分光部32により分光されたポンプ光をもとに、テラヘルツ波を発生する。
【0021】
第1の放物面ミラー34は、テラヘルツ波発生用半導体33から発生されたテラヘルツ波を反射し、収差なく平行な光線束として出力する。第1の放物面ミラー34で反射したテラヘルツ波は、試料液膜100を透過して、第2の放物面ミラー35に至る。第2の放物面ミラー35は、試料液膜100を透過して平行に入射する光線束を反射し、テラヘルツ波検出用半導体36の焦点に集める。
【0022】
テラヘルツ波検出用半導体36は、第2の放物面ミラー35により集束されたテラヘルツ波を検出し、その波形を表すテラヘルツ波信号を出力する。テラヘルツ信号検出装置37は、このテラヘルツ波信号を検出し、当該検出信号をフーリエ変換することにより、テラヘルツ波の周波数毎の振幅と位相の情報を得る。
【0023】
可変光学遅延部38は、レーザ光分光部32により分光されたサンプリング光が伝播する経路中に設けられ、当該サンプリング光の遅延量を可変設定する。この可変光学遅延部38は、2つの反射ミラー38a,38bを有しており、この反射ミラー38a,38bが矢印Aの方向に物理的に平行移動可能に構成されている。これにより、サンプリング光の遅延時間を可変にしている。この可変光学遅延部38は、サンプリング光がテラヘルツ波検出部36に到達するタイミングをずらしながらテラヘルツ波の時間変化を計測するために用いられる。
【0024】
次に、
図1を参照して、試料液膜100を生成するための液膜生成装置10の概要について説明する。なお、
図1では、液膜生成装置10の内部を図示している。第1の実施形態による液膜生成装置10は、容器11、チューブポンプ12(特許請求の範囲のポンプの一例)、往路配管13、復路配管14および液膜カートリッジ20を備えて構成されている。容器11には、液体の回収タンク11aが設けられている。詳細は
図2を用いて説明するが、液膜カートリッジ20には、液体を噴出して試料液膜100を生成するノズルと、ノズルにより生成された試料液膜100を接触させるスロープ壁とが設けられている。
【0025】
チューブポンプ12は、回収タンク11aから復路配管14を介して計測対象の液体を吸い上げて、吸い上げた液体を加圧し、往路配管13を介して液膜カートリッジ20に導出する。
【0026】
液膜カートリッジ20は、チューブポンプ12により回収タンク11aから導出された液体をノズルから噴出することにより、表面が平坦な板状の試料液膜100を空間上に生成する。そして、ノズルにより生成された試料液膜100を空間上でスロープ壁に触れさせることにより、液膜を液滴化する。この液膜カートリッジ20は、容器11に対して着脱可能に構成されている。
【0027】
回収タンク11aは、液膜カートリッジ20のスロープ壁から緩やかに流れ落ちる液体を回収して貯蔵する。回収タンク11aに貯蔵された液体は、チューブポンプ12によって再び吸い上げられ、加圧されて液膜カートリッジ20のノズルから噴出される。このように、第1の実施形態の液膜生成装置10では、回収タンク11a内の液体が循環し、その循環の過程でノズルにより試料液膜100が生成されるようになっている。
【0028】
次に、
図2を参照して、第1の実施形態による液膜カートリッジ20の構成について説明する。
図2に示すように、第1の実施形態による液膜カートリッジ20は、ノズル部210と、当該ノズル部210を装着して使用するノズルカバー220とにより構成されている。このノズルカバー220は、液膜カートリッジ20の筐体を構成している。
【0029】
ノズルカバー220は、ノズル部210内のノズル21により生成された試料液膜100に透過させるテラヘルツ波が通過するための窓23と、窓23より下流側に設けられたスロープ壁24と、スロープ壁24から延伸する流路25と、窓23より上流側に設けられた飛散防止壁26とを備えている。なお、
図2に示した窓23の形状は一例であり、この形状に限定されるものではない。
【0030】
ノズル21は、上述のように、チューブポンプ12から加圧して供給された液体を噴出して、表面が平坦な板状の試料液膜100を空間上に生成する。このノズル21は、例えば特許文献2に記載のものを用いることができる。なお、ノズル21は、これを支持する筐体であるノズル支持体22の中に挿入されて固定されるようになっている。そして、このノズル支持体22がノズルカバー220に固定されている。
【0031】
図4は、ノズル21により生成される液膜の空間的な配置を説明するための図である。この
図4は、スロープ壁24がない場合に形成される液膜の様子を示している。ここでは、空間を定義する3次元座標軸をx−y−zで示す。ノズル21の中心軸21aは、y軸方向に向いているものとする。ノズル21の先端には、中心軸21aに直交するスリット状の開口部21bが設けられおり、このスリットはx軸と平行であるものとする。
【0032】
図4に示すように、ノズル21の先端に設けられた開口部21bより噴出した液体は、互いに直交する複数の液膜面101〜103を順次形成する。第1の液膜面101は、ノズル21の開口部21bから噴出した液体で、z−y平面内に流れる2本の紐状の流体柱111の間に液体の表面張力により形成される。すなわち、2本の紐状の流体柱111は、滑らかな弧を描きながら流体柱集合点121で衝突し、ノズル21の開口部21bから流体柱集合点121までの間に液体の表面張力により第1の液膜面101を形成する。よって、第1の液膜面101は、x軸に垂直でz−y平面に平行な面である。
【0033】
流体柱集合点121で衝突した2本の紐状の流体柱111は、90度角度を変えて、x−y平面内に流れる2本の紐状の流体柱112となり、滑らかな弧を描きながら次の流体柱集合点122で衝突する。これにより、1つ目の流体柱集合点121から2つ目の流体柱集合点122までの間に液体の表面張力により第2の液膜面102が形成される。よって、第2の液膜面102は、第1の液膜面101に対して垂直であり、x軸に垂直でx−y平面に平行な面となる。
【0034】
第3の液膜面103も第1の液膜面101や第2の液膜面102と同様に、2つ目の流体柱集合点122から3つ目の流体柱集合点123までの間に液体の表面張力により形成される。第3の液膜面103は、第2の液膜面102に対して垂直であり、x軸に垂直でz−y平面に平行な面となる。
【0035】
図2に示すスロープ壁24は、ノズル21により生成された平面状の試料液膜100を、当該試料液膜100の表面に沿って触れさせる。加圧されている試料液膜100をそのまま回収タンク11aにて回収すると、回収タンク11aに液体が入るときに、貯蔵されている液体の表面で反射が生じ、回収タンク11a内の液体に撹拌によって気泡が混入しまう。この気泡の混入を防ぐために、試料液膜100をスロープ壁24に触れさせて減速させ、スロープ壁24をつたって流路25から緩やかに流れ落ちる液体を回収タンク11aにて回収するようにしている。
【0036】
なお、流路25の少なくとも末端部(液膜カートリッジ20の端部)が、回収タンク11aに貯蔵されている液体に触れるように、液膜カートリッジ20を配置するようにしてもよい。このようにすれば、流路25から流れ落ちる液体が回収タンク11aに回収される際に、液体表面上での反射が全く起こらないようにすることができる。
【0037】
図5は、試料液膜100をスロープ壁24に触れさせた状態を示す図である。
図5に示すように、本実施形態では、ノズル21の開口部21aから噴出した液体により形成される2本の流体柱111の間に液体の表面張力によって生成される第1の液膜面101を、スロープ壁24に接触させる。これにより、第1の液膜面101の上流側は表面が平坦な板状の液膜となっているが、下流側はスロープ壁24に触れて液滴化されている。この上流側の平坦な部分が、テラヘルツ波が通過する窓23のところに位置するようにする。
【0038】
ところで、加圧されている試料液膜100がスロープ壁24に当たったときに飛散すると、飛散した液体が窓23に付着したり、窓23から外に飛び出して周囲の光学素子に付着したりすることがある。よって、この液体の飛散を防ぐために、試料液膜100をスロープ壁24に対して滑らかに接触させるのが望ましい。そのために、スロープ壁24の壁面には、試料液膜100が接触するときの衝撃を吸収することが可能な角度を持たせる。本実施形態では、スロープ壁24の壁面を滑らかな曲面により形成している。具体的には、スロープ壁24の壁面はサイクロイド曲面またはそれに近い曲面となっている。
【0039】
飛散防止壁26は、ノズル21の開口部21aにおける液体の突沸による飛散を防止するための壁であり、当該開口部21aの周囲に配置される。
【0040】
以上詳しく説明したように、第1の実施形態では、チューブポンプ12により回収タンク11aから吸い上げて加圧した液体をノズル21から噴出することによって試料液膜100を生成し、当該生成された試料液膜100を、当該試料液膜100の表面に沿ってスロープ壁24に触れさせ、スロープ壁24から流れ落ちる液体を回収して回収タンク11aに貯蔵するようにしている。
【0041】
このように構成した第1の実施形態によれば、加圧された液体がノズル21から勢いよく噴出することによって生成された試料液膜100が、スロープ壁24に触れて液滴となり、減速する。そして、減速した状態でスロープ壁24をつたって流れ落ちる液体が回収タンク11aに回収されるようになる。このため、液体が回収タンク11aに入るときに、回収タンク11aの液体内に撹拌によって気泡が発生しないようにすることができる。これにより、回収タンク11a内の液体をチューブポンプ12により吸い上げて再び加圧してノズル21から噴出する場合に、噴出する液体内に気泡が含まれない状態とすることができるので、ノズル21の先端で気泡が原因の飛散が発生することを防止することができる。
【0042】
また、第1の実施形態では、ノズル21から噴出することによって生成された試料液膜100が、その噴出後に空間上でスロープ壁24に触れて減速するので、ノズル21から噴出される前(液膜が生成される前)の液体の流路上に余計な凹凸構造を設ける必要がない。また、第1の実施形態では、チューブポンプ12の圧力を下げて液体の流速を落としているわけではなく、薄くて平坦な試料液膜100を生成するために必要な圧力をかけて液体をノズル21から強く噴出しつつ、噴出された液体のスロープ壁24への接触により流速を落としているので、テラヘルツ波が適切に透過する試料液膜100を生成することができる。
【0043】
すなわち、ノズル21により生成される試料液膜100のスピードを減速させるためだけであれば、チューブポンプ12の圧力を下げれば良いのであるが、チューブポンプ12の圧力を下げると、テラヘルツ波の計測として扱えるような液膜を作れなくなってしまう。すなわち、循環の途中に高圧を必要とするノズル21が存在するため、加圧力の低いポンプを用いて循環全体のループを全て低圧にすることはできない。これに対し、第1の実施形態によれば、循環ループの一部では高圧となり、一部では回収タンク11aの液体内に気泡が生じないくらいまで低速となるような液体の循環系を構成することができる。
【0044】
以上により、第1の実施形態によれば、テラヘルツ波が適切に透過するような薄くて平坦な試料液膜100を生成でき、かつ、気泡が原因の液体の飛散がノズル21の先端で発生することを防止することができる。なお、第1の実施形態では、液膜生成装置をテラヘルツ時間分解分光装置30に適用する例について説明したが、赤外線等の他の電磁波を用いた分光装置に適用することも可能であり、その場合に、それらの電磁波が適切に透過するような薄くて平坦な試料液膜を生成でき、かつ、気泡が原因の液体の飛散がノズル21の先端で発生することを防止することができる。
【0045】
また、第1の実施形態では、スロープ壁24の壁面をサイクロイド曲面またはそれに近い面としているので、接触の衝撃によって液体を飛散させることなく、試料液膜100を接触させて急速に減速することができる。このため、ノズル21から噴出した試料液膜100のスピードが長い流路上で自然に減速するのを待つ必要がなく、液膜カートリッジ20をコンパクトに構成することができる。すなわち、ノズル21とスロープ壁24との距離は第1の液膜面101の長さよりも短くてよく、スロープ壁24の先に延伸する流路25も長くする必要がないので、ノズル21から流路25の先端までの空間的距離が短くなり、液膜カートリッジ20をコンパクトにすることができる。
【0046】
また、第1の実施形態によれば、試料液膜100の液膜面にスジ状の波が生じることを防ぐことができるというメリットも有する。スジ状の波が生じないようにすることで、それに起因したノイズが計測信号に重畳しないようにすることができる。このメリットは、特にテラヘルツ波を用いた分光装置に有効である。
【0047】
図4において、ノズル21によって平坦な液膜を生成すると説明したが、実際には、全く平坦な液体状薄膜を作ることは困難である。実際には、
図6に示すように、液膜面にはスジ状の波が生じる。すなわち、上述したように、試料液膜100は、2の流体柱111の間に表面張力で形成されている。このとき、液膜の上部の半分付近(ノズル21の開口部21aから2本の流体柱111が衝突する流体柱集合点121までの長さの1/3付近)から、スジ状の波が液膜の表面に発生する。この波は、2本の流体柱111から発生し、液膜の下部にいくほど、その数は増える。このスジ状の波の幅の大きさは、テラヘルツ波の波長と同程度となるため、テラヘルツ波が通過する付近にスジ状の波が存在する場合には、干渉効果が生じ、それに起因したノイズが計測信号に重畳してしまう。
【0048】
これに対して、第1の実施形態では、
図5に示したように、試料液膜100(第1の液膜面101)をスロープ壁24に接触させることにより、試料液膜100の上流側だけが平坦な板状の液膜となるようにし、下流側はスロープ壁24に触れて液滴化されるようにしている。このため、加圧された液体をスロープ壁24によって減速させると同時に、液膜上に生じるスジ状の波を減少させることができ、テラヘルツ波の計測信号に重畳するノイズを減少させることができる。
【0049】
スジ状の波の低減効果を高めるために、第1の液膜面101の長さ(すなわち、ノズル21の開口部21aから2本の流体柱111が衝突する流体柱集合点121までの長さ)の略1/3の位置で試料液膜100が接触するように、スロープ壁24を配置するのが好ましい。なお、上述のように、スジ状の波は液膜の下部にいくほど増えるので、上記略1/3の位置よりも下流側にスロープ壁24を配置するようにしてもよい。
【0050】
なお、上記第1の実施形態では、ノズルカバー220内にスロープ壁24を設け、このノズルカバー220にノズル部210を装着して成るカートリッジ構成について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、容器11の一部としてスロープ壁24を設けるようにしてもよい。ただし、液膜カートリッジ20の構成としてスロープ壁24を設けることにより、ディスポーザブルにして不純物フリーの計測を行うことができるようになる点で好ましい。
【0051】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態を図面に基づいて説明する。
図7は、第2の実施形態による液膜生成装置10’の構成例を示す図である。
図8は、第2の実施形態の液膜生成装置10’に用いられる液膜カートリッジ20’の構成例を示す図であり、(a)は正面図、(b)は側面図である。なお、
図7および
図8では、説明の便宜上、液膜カートリッジ20’の内部を図示している。また、
図7および
図8において、
図1および
図2に示した構成要素と同一の機能を有する構成要素には同一の符号を付している。
【0052】
図7に示すように、第2の実施形態による液膜生成装置10’は、液体の回収タンク11’、チューブポンプ12、往路配管13、復路配管14および液膜カートリッジ20’を備えて構成されている。液膜カートリッジ20’は、筒状の筐体の中にノズル部210やスロープ壁24(
図7では図示せず)などを備えたものである。回収タンク11’は、例えば円筒形状をしており、その先端の開口部を液膜カートリッジ20’(当該液膜カートリッジ20’の筐体であるノズルカバー220’)の底部に着脱可能に構成されている。
【0053】
例えば、
図9に示すように、ノズルカバー220’の底部に、回収タンク11’の先端における円筒形の開口部91が嵌合するリング部93を設けるとともに、そのリング部93の下方にネジ部94を設ける。一方、回収タンク11’の開口部91の外周にもネジ部92を設ける。これにより、回収タンク11’の開口部91をノズルカバー220’のリング部93に嵌めて、回収タンク11’を一の方向に回転させることにより、ネジ部92,94が噛み合い、回収タンク11’をノズルカバー220’の底部に固定することができる。また、回収タンク11’を逆方向に回転させることにより、ノズルカバー220’から回収タンク11’を取り外すことができる。なお、回収タンク11’とノズルカバー220’とを着脱可能にする構造は、
図9の例に限定されるものではない。
【0054】
チューブポンプ12は、回収タンク11’から復路配管14を介して計測対象の液体を吸い上げて、吸い上げた液体を加圧し、往路配管13を介して液膜カートリッジ20’のノズル21(
図8および
図4参照)に導出する。ノズル21は、チューブポンプ12により回収タンク11’から導出された液体を噴出することにより、表面が平坦な板状の試料液膜100を空間上に生成する。そして、ノズル21により生成された試料液膜100を空間上でスロープ壁24(
図8参照)に触れさせることにより、液膜を液滴化する。
【0055】
回収タンク11’は、液膜カートリッジ20’のスロープ壁24から流路25’を介して緩やかに流れ落ちる液体を回収して貯蔵する。回収タンク11’に貯蔵された液体は、復路配管14を介してチューブポンプ12によって再び吸い上げられて加圧され、往路配管13を介して液膜カートリッジ20’のノズル21から噴出される。このように、第2の実施形態の液膜生成装置10’では、回収タンク11’内の液体が循環し、その循環の過程でノズル21により試料液膜100が生成されるようになっている。
【0056】
第2の実施形態では、往路配管13は、液膜カートリッジ20’の内部を通ってノズル21に接続されている。また、復路配管14は、液膜カートリッジ20’の内部を通り、液膜カートリッジ20’の底部から抜けて回収タンク11’内に挿入される。
【0057】
次に、
図8を参照して、第2の実施形態による液膜カートリッジ20’の構成について説明する。
図8に示すように、第2の実施形態の液膜カートリッジ20’は、ノズルカバー220’の中に、ノズル部210と、スロープ壁24と、スロープ壁24から延伸する流路25’と、飛散防止壁26’とを備えて構成されている。ノズルカバー220’は、ノズル部210内のノズル21により生成された試料液膜100に透過させるテラヘルツ波が通過するための窓23を有している。スロープ壁24は窓23より下流側に設けられ、飛散防止壁26’は窓23より上流側に設けられている。
【0058】
図8に示すように、ノズル部210は、少なくとも中央部が開口された固定用板27に固定されている。スロープ壁24および飛散防止壁26’は、固定用板27に固定された支持板81に立設されている。支持板81は、テラヘルツ波が通過するための窓23には対向しない位置、具体的には、ノズルカバー220’の壁面付近に配置されている。
図8(b)に示すように、第2の実施形態では、飛散防止壁26’は、ノズル21から噴出された液体の出口側の開口部26aが、上方から下方(ノズル21側からスロープ壁24側)に向かって傾斜している。傾斜の最下部には、支持板81がある。
【0059】
これにより、ノズル21の開口部21bにおける液体の突沸によって飛散防止壁26’に付着した液滴は、その自重により開口部26aの傾斜を伝って支持板81に至り、支持板81から更に下方に伝っていく。このため、飛散防止壁26’に付着した液滴が窓23に落ちて、窓23の外側にあるテラヘルツ波の光学素子に付着することを防止することができる。
【0060】
以上のように、第2の実施形態では、第1の実施形態で説明した容器11をなくし、回収タンク11’を液膜カートリッジ20’(ノズルカバー220’)に取り付けて使用するように構成したので、全体の構成をコンパクトにすることができる。また、回収タンク11’および液膜カートリッジ20’の全てをディスポーザブルにして、不純物フリーの計測を行うことができるようになる。
【0061】
また、第2の実施形態では、飛散防止壁26’の出口側の開口部26aに、上方から下方に向かう傾斜を設けているので、飛散防止壁26’に付着した液滴が傾斜を伝って支持板81に流れていくようにすることができる。これにより、飛散防止壁26’に付着した液滴が窓23に落ちて、窓23の外側にあるテラヘルツ波の光学素子に付着することを防止することができる。
【0062】
以上、第1および第2の実施形態において、加圧した液体をノズル21から噴出することによって生成した試料液膜100を、当該試料液膜100の表面に沿ってスロープ壁24に触れさせる構成について説明したが、試料液膜100をスロープ壁24に適切に触れさせるための工夫について、以下に説明する。まず、第1の工夫点を
図10に基づいて説明する。
【0063】
図10は、ノズル21およびノズル支持体22の構成例を示す図である。この
図10は、ノズル21の先端側から見た状態を示している。
図10に示すように、ノズル21の円筒状管の周面の互いに対向する位置に、平坦面21c,21cを形成する。一方、このノズル21が挿入されるノズル支持体22にも、平坦面21c,21cに対向する平坦面22c,22cを設ける。
【0064】
ノズル21の円筒状管およびノズル支持体22の断面形状が円形であると、ノズル支持体22の中に挿入するノズル21の角度、ひいては開口部21bの向きが一定に定まらない。これに対し、
図10のように構成すれば、ノズル支持体22の中で固定されるノズル21の角度が常に同じとなるようにすることができる。これにより、ノズル21によって生成される試料液膜100を、スロープ壁24に対して常にまっすぐに接触させることができる。
【0065】
なお、ノズル支持体22内におけるノズル21の固定角度を常に一定とするための位置決め構造は、上記のように平坦面21c,22cを設ける構成に限定されるものではない。例えば、ノズル21およびノズル支持体22の何れか一方に凸部を設けるとともに、他方に凹部を設け、これらの凸部と凹部とを嵌合させる構成としてもよい。
【0066】
ただし、ノズル21の構成は、対称性を有するものとするのが好ましい。ノズル21の構成が非対称になると、ノズル21の開口部21bから液体が傾いた状態で噴出され、生成される試料液膜100がスロープ壁24に対して傾いた状態で接触することになってしまう可能性があるからである。
【0067】
次に、第2の工夫点を
図11に基づいて説明する。
図11は、第2の実施形態による液膜生成装置10’の変形例を示す図である。なお、ここでは第2の実施形態による液膜生成装置10’の変形例としての構成を示すが、第1の実施形態による液膜生成装置10の変形例としても同様の構成を採用することが可能である。
【0068】
図11に示す例において、ノズルカバー220’は、透明材料(例えば、透明樹脂)により構成されている。ノズルカバー220’の外側には、カメラ111が設置されている。カメラ111は、ノズルカバー220’の内部にあるノズル21から噴出される試料液膜100を撮影する。カメラ111により撮影された画像データは、制御部112に送られる。
【0069】
制御部112は、画像データを解析して試料液膜100の状態を判定し、その結果に応じてチューブポンプ12を適宜制御する。例えば、試料液膜100がスロープ壁24に当たっている場合、制御部112は、スロープ壁24に当たっている部分の試料液膜100の幅を画像処理により計測し、試料液膜100の幅が規定の幅よりも狭い場合は、チューブポンプ12の回転数を増加させる。逆に、試料液膜100の幅が規定の幅よりも広い場合は、チューブポンプ12の回転数を減少させる。
【0070】
また、制御部112は、試料液膜100が短すぎてスロープ壁24まで届いていないことを画像処理により検出した場合は、チューブポンプ12の回転数を増加させる。逆に、試料液膜100が広がりすぎて、スロープ壁24に当たる前に液膜が消えてしまっていることを画像処理により検出した場合、制御部112は、チューブポンプ12の回転数を減少させる。
【0071】
このように、ノズルカバー220’を透明樹脂とすることにより、試料液膜100の状態をノズルカバー220’の外側からカメラ111で撮影することができる。そして、制御部112が撮影画像を解析することにより、試料液膜100がスロープ壁24に適切に当たっているか否かを判定し、スロープ壁24に適切に当たるようにチューブポンプ12の駆動を制御して、適切な試料液膜100を生成するようにすることができる。
【0072】
なお、上記第1および第2の実施形態では、スロープ壁24の壁面をサイクロイド曲面またはそれに近い面とする例について説明したが、本発明はこれに限定されない。すなわち、試料液膜100の表面が滑らかに接触可能な面であれば、サイクロイド曲面以外の面を採用することも可能である。
【0073】
その他、上記第1および第2の実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその要旨、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。