(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
エスカレータはほぼ一定速度で移動し、その稼働時間は一日中であることも多いので、チェーンに対する給油は必須のものとなり、固定的な給油装置がエスカレータのトラスと呼ばれる踏み段の裏側に設置される。したがって、給油に伴う油の垂れや飛び散りが乗客に対して生じることはない。
【0009】
これに対し、エレベータのドア開閉は、加速や減速が行われて速度は一定しないが、開閉頻度はエスカレータの稼働時間に比較すると格段に低い。したがって、チェーンに対する給油は、例えば1年に1回程度の保守点検の際に、手差しで行われる。ドア開閉に用いられるドアチェーンは、ドアの上部に設けられるので、手差しの給油の際の油垂れ等は、ドアを通る乗客のクレームの原因ともなり得る。このように、エレベータの給油は、エスカレータで一般的に用いられる給油装置をそのまま用いることができないが、手差しの給油をチェーンの全長に渡り行うのはかなりの時間を要し、その間、油垂れに対する注意を払い続けなければならない。そこで、油垂れの心配がなく、短い時間でチェーンの全長に渡る給油を可能とするドアチェーンの給油支援装置が要望される。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るドアチェーンの給油支援装置は、エレベータのドア開閉装置に用いられる
ドアチェーンに対する給油を支援する給油支援装置であって、
互いに向かい合う2つの挟み部、及び、支点を挟んで反対側に互いに向かい合う2つの操作柄部が設けられており、且つ、互いに向かい合う
2つの操作柄部を
片手で把持することで支点の反対側
の互いに向かい合う
2つの挟み部の開閉を調整できるプライヤの構造を有し、
2つの挟み部は、ドアチェーンを挟むために互いに向かい合った一方側の挟み部と他方側の挟み部で構成され、一方側の挟み部と他方側の挟み部の開閉に対する付勢力を与える付勢手段と
、一方側
の挟み部において他方側の挟み部に向かい合って嵌め込まれており油を予め浸透させた状態の一方側のパッドと
、他方側
の挟み部において一方側のパッドに向かい合って嵌め込まれており油を浸透させていない状態の他方側のパッドと、を含むことを特徴とする。
【0011】
上記構成の給油支援装置によれば、油を予め浸透させた状態の一方側のパッドと油を浸透させていない状態の他方側のパッドの間にチェーンを挟み込めるので、2つの互いに向い合う挟み部の開閉を調整することで、一方側のパッドから油を絞り出してチェーンに給油できる。余分な油は他方側のパッドで受けることができるので、油垂れの心配がない。また、チェーンを挟み込んだ状態で給油支援装置をチェーンに対し相対的に移動することで、チェーンの全長に渡り短時間で給油を行うことができる。
【0012】
本発明に係るドアチェーンの給油支援装置において、一方側の挟み部に、一方側のパッドに連通する注油路が設けられ
ていることが好ましい。
【0013】
上記構成の給油支援装置によれば、注油路に外部から注油することで一方側のパッドに油を供給できる。仮に、一方側のパッドから油が垂れても、一方側のパッドに向い合う他方側のパッドが垂れてくる油を受けるので、給油支援装置からの油垂れの心配がない。
【0014】
本発明に係るドアチェーンの給油支援装置において、一方側のパッド及び他方側のパッドは、対応する挟み部にそれぞれ着脱自在に
嵌め込まれた
状態であることが好ましい。
【0015】
上記構成の給油支援装置によれば、例えば、チェーンの全長に渡る給油によって一方側のパッド及び他方側のパッドが汚れた場合に、容易に交換できる。これにより、給油支援装置は、チェーンの給油の他にチェーンの清掃を行うことができる。
【0016】
本発明に係るドアチェーンの給油支援方法は、
互いに向かい合う2つの挟み部、及び、支点を挟んで反対側に互いに向かい合う2つの操作柄部が設けられており、且つ、互いに向
かい合う2つの操作柄部を
片手で把持することで支点の反対側
の互いに向かい合う
2つの挟み部の開閉を調整できるプライヤの構造を有し、
2つの挟み部は、ドアチェーンを挟むために互いに向かい合った一方側の挟み部と他方側の挟み部で構成され、一方側の挟み部と他方側の挟み部の開閉に対する付勢力を与える付勢手段
、一方側の挟み部において他方側の挟み部に向かい合って嵌め込まれた状態の一方側のパッド、及び、
他方側の挟み
部において一方側のパッドに向かい合って嵌め込まれた状態の他方側のパッドを含む給油支援装置を用いて、ドア開閉装置に用いられる
ドアチェーンに対する給油を支援する給油支援方法であって、一方側の挟み部に設けられる注油路に注油して一方側のパッドに油を浸透させ、操作柄部を把持して
一方側の挟み部と他方側の挟み部の間に
ドアチェーンが入るように
一方側の挟み部と他方側の挟み部の開閉を調整し、操作柄部の把持力を調整して
一方側の挟み部と他方側の挟み部の間隔を
狭めて一方側のパッドと他方側のパッドの間に
ドアチェーンを挟み込み、
さらに、一方側の挟み部と他方側の間隔を狭めて一方側のパッドから油を絞り出して
ドアチェーンに給油し、余分な油を他方側のパッドで受け、
ドアチェーンに対し給油支援装置を相対的に移動させて
ドアチェーンの延伸方向に沿って給油を行うことを特徴とする。
【0017】
上記構成のドアチェーンの給油支援方法によれば、油を予め浸透させた状態の一方側のパッドと油を浸透させていない状態の他方側のパッドの間にチェーンを挟み込むので、2つの互いに向い合う挟み部の開閉を調整することで、一方側のパッドから油を絞り出してチェーンに給油できる。余分な油は他方側のパッドで受けることができるので、油垂れの心配がない。また、チェーンを挟み込んだ状態で給油支援装置をチェーンに対し相対的に移動することで、チェーンの全長に渡り短時間で給油を行うことができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るドアチェーンの給油支援装置及びドアチェーンの給油支援方法によれば、油垂れの心配がなく、短い時間でチェーンの全長に渡る給油が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき、詳細に説明する。以下では、エレベータの開閉ドアとして、乗りかごドアを述べるがこれは説明のための例示である。例えば、乗りかごドアの開閉とは別に、乗場ドアがドアチェーンを用いて開閉するシステムの場合には、エレベータの乗場ドアのドアチェーンの給油のために、ドアチェーンの給油支援装置を用いることができる。また、エレベータの開閉ドアとして、4枚ドアを述べるが、これは説明のための例示であって、開閉ドアの数は4枚以外であってもよい。例えば、2枚ドアであってもよい。
【0021】
以下では、給油支援装置のプライヤ構造として、2つの互いに向い合う操作柄部の間隔が狭くなるように握ると、支点の反対側の2つの互いに向い合う挟み部の間隔も狭くなる方式のものを述べる。これは説明のための例示であって、これとは逆に、2つの互いに向い合う操作柄部の間隔を拡げるように握ると、支点の反対側の2つの互いに向い合う挟み部の間隔が狭まる逆作用方式のプライヤ構造であってもよい。
【0022】
以下で述べる形状、寸法、開閉角度等は、説明のための例示であって、ドアチェーンの給油支援装置の仕様等に合わせ、適宜変更が可能である。以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0023】
図1は、エレベータの乗りかごにおけるドア開閉システム10を示す図である。
図2は、ドア開閉システム10におけるドアチェーン40に、ドアチェーンの給油支援装置50を用いて給油作業を行う様子を示す図である。以下では、ドアチェーンの給油支援装置50を、特に断らない限り、給油支援装置50と呼ぶ。
図1は、エレベータが設置される建物の乗場47側から見た乗りかご46の正面図であり、
図2は、建物の中に設けられる昇降路45の断面図を用いて乗りかご46等を示す図である。
【0024】
図1,2に直交する3方向を示す。上下方向は昇降路45の延びる方向で、上層階側が上方向、下層階側が下方向である。左右方向と奥行方向とは、乗場47の床面に平行な方向で、左右方向は乗場47から昇降路45を見て横方向となる方向で、昇降路45に向かって右側が右方向、左側が左方向である。奥行方向は、左右方向に垂直な方向で、乗場47側が乗場方向、昇降路45側が昇降路方向である。
【0025】
ドア開閉システム10は、乗りかご46の乗降口に設けられる4枚のドア12,13,14,15を開閉するシステムである。
図1は、4枚のドア12,13,14,15が全閉状態のときを示す。4枚のドア12,13,14,15は全体が連動して開閉されるので、
図1において中央よりも左側に示されるドア12,14は中央側から左方向に開閉し、
図1で中央よりも右側に示されるドア13,15は中央側から右方向に開閉する。中央側の2枚のドア12,13は、左右側のドア14,15よりも高速に開閉する。
図1には、4枚のドア12,13,14,15の開閉方向と開閉速度の大きさをそれぞれ矢印で模式的に示した。
【0026】
コロ保持部16は、4枚のドア12,13,14,15のそれぞれの上部に取り付けられ、円筒状の部材であるコロ18を回転自在に保持する部材である。案内レール20は、4枚のドア12,13,14,15のそれぞれの上部に渡って設けられ、ドア開閉を案内する。4枚のドア12,13,14,15は、それぞれに設けられるコロ18が案内レール20の上に載せられ、4枚のドア12,13,14,15が開閉するときは、それぞれに設けられるコロ18が案内レール20の上を転動する。
【0027】
チェーン取付部22,23,24,25は、ドア12,13,14,15のそれぞれのコロ保持部16と一体化して固定される部材で、ドア開閉に用いられるチェーンであるドアチェーン40の端部が取り付けられる。
【0028】
ドアチェーン40を駆動する駆動系は、モータ出力軸26、外輪と内輪とを有する第1プーリ28、外輪と内輪とを有する第2プーリ32、内輪と外輪とを有する第3プーリ36、第4プーリ38を含む。また、モータ出力軸26と第1プーリ28の外輪とに懸架される第1ベルト30、第1プーリ28の内輪と第2プーリ32の外輪とに懸架される第2ベルト34を含む。さらに、ドア開閉状態を検出する位置スイッチ部39、第3プーリ36の内輪と位置スイッチ部39とを結ぶ第3ベルト37を含む。
図1において、チェーンを一点鎖線で示し、ベルトを実線で示す。
【0029】
ドアチェーン40は、複数のチェーン41,42,43,44の集合体である。各チェーン41,42,43,44は、駆動系の第2プーリ32、第3プーリ36、第4プーリ38と、4つのチェーン取付部22,23,24,25との間に、以下のように懸架される。各チェーン41,42,43,44の全長の例を挙げると、約1m〜2mである。
【0030】
チェーン41とチェーン42は、共に、一方端がドア12用のチェーン取付部22に取り付けられ、他方端がドア13用のチェーン取付部23に取り付けられる。そして、チェーン41は第2プーリ32の内輪に懸架され、チェーン42は第3プーリ36の外輪に懸架される。第2プーリ32の内輪の外径と第3プーリ36の外輪の外径とは同じ寸法である。すなわち、等価的には、チェーン41とチェーン42は、第2プーリ32の内輪と、第3プーリ36の外輪との間に懸架された1つの無端状ループとなるチェーンである。その無端状ループの下方側の部分チェーンの中間でチェーン取付部22を介して、ドア12に接続され、上方側の部分チェーンの中間でチェーン取付部23を介して、ドア13に接続される。ここで、モータ出力軸26が回転すると、チェーン41とチェーン42が一体となって移動するが、無端状ループの下方側の部分チェーンと上方側の部分チェーンとは左右方向に関して互いに逆方向に移動する。すなわち、ドア12が左方向に移動するときはドア13が右方向に移動し、逆にドア12が右方向に移動するときはドア13が左方向に移動する。このように、ドア12,13は、一組となって連動して開閉する。
【0031】
チェーン43とチェーン44は、共に、一方端がドア14用のチェーン取付部24に取り付けられ、他方端がドア15用のチェーン取付部25に取り付けられる。そして、チェーン43は第3プーリ36の内輪に懸架され、チェーン44は第4プーリ38に懸架される。第3プーリ36の内輪の外径と第4プーリ38の外径とは同じ寸法である。すなわち、等価的には、チェーン43とチェーン44は、第3プーリ36の内輪と、第4プーリ38との間に懸架された1つの無端状ループとなるチェーンである。チェーン41,42の場合と同様に、無端状ループの下方側と上方側に分かれそれぞれの中間でチェーン取付部24,25を介して、ドア14,15に接続される。ここで、モータ出力軸26の回転によってチェーン41,42を介して第3プーリ36が回転すると、チェーン43とチェーン44が一体となって移動し、これによってドア14,15は、一組となって連動してあ開閉する。
【0032】
第3プーリ36において、外輪の回転によってチェーン41,42が移動し、内輪の回転によってチェーン43,44が移動する。外輪の外径と内輪の外径の比で、チェーン41,42の移動速度とチェーン43,44の移動速度の比が定まる。外輪の外径>内輪の外径であるので、(チェーン41,42の移動速度)>(チェーン43,44の移動速度)となり、これによって(ドア12,13の開閉速度)>(ドア14,15の開閉速度)となる。
【0033】
エレベータのドア開閉の動力伝達機構にベルトでなくチェーンを用いるのは、エレベータでは、ドアの開閉に伴い、速度の方向が左右方向に切り替えられることから、動力伝達機構に懸る加速度が正負で大きく変化するためである。ベルトでは、大きい加速度変化による負荷に対して強度が不足することがある。また、ベルトと異なり、チェーンはすべりが少ないので、ドア開閉位置の正確性がよい。特に、病院用のエレベータ、貨物専用のエレベータ等のように、大型で開閉負荷が大きいエレベータのドア開閉には、チェーンが用いられることが多い。
【0034】
図2は、ドアチェーン40に給油作業を行う様子を示す図である。ドアチェーン40に対する給油は、エレベータの動作モードを保守モードとして、保守作業員48が給油支援装置50を持って乗場47に赴いて行われる。保守作業員48は、図示しない乗場扉を開状態として、昇降路45内における乗りかご46の位置を調整して、乗りかご46の上方側に設けられるドアチェーン40が給油作業に適した位置に来るようにする。そして、給油支援装置50を用いて、ドアチェーン40を構成する複数のチェーン41,42,43,44のそれぞれに給油する。
【0035】
図3は、チェーン41に給油作業中の給油支援装置50を示す斜視図である。
図4は、
図3における給油支援装置50の上面図と側面図である。
図4(a)は、
図3の状態を上方向から見た上面図であり、(b)は、左方向から見た側面図である。
図3には、給油作業中の保守作業員48の利き腕である右手49を示す。これらの図を用いて、給油支援装置50の構成を述べるが、まず、ドアチェーン40の基本構造としてのチェーン100の構成を述べる。チェーン100は、ドアチェーン40を構成する複数のチェーンの1つで、例えばチェーン41である。
【0036】
図3、
図4(a)に示すように、チェーン100を形成するには、外リンクを構成する2枚の外プレート102,103を2本のピン106で結合し、内リンクを構成する2枚の内プレート104,105を2個のブシュ108で結合する。このとき、ブシュ108とピン106を同軸として組立て、複数の組立体を無端状に接続する。したがって、チェーン100が駆動されるときは、同軸
に組立てられたブシュ108とピン106との間が接触するので、接触抵抗を少なくし、接触による摩耗を抑制するために、ブシュ108とピン106との間に潤滑のための給油が必要である。給油支援装置50は、チェーン100のブシュ108とピン106との間に給油する作業を支援する装置である。
【0037】
給油支援装置50は、ラジオペンチやニッパ等で知られるプライヤの構造を有する。給油支援装置50におけるプライヤ構造は、操作柄部52と、支点60を挟んで操作柄部52の反対側の挟み部62とを含んで構成される。
【0038】
操作柄部52は、保守作業員48が右手49で把持して、その把持を加減することで挟み部62の開閉を行う柄部である。操作柄部52は、右手49で把持できる長さを有する一方側の操作柄部54と他方側の操作柄部56との2つで構成される。一方側の操作柄部54の一端側と他方側の操作柄部56の一端側とは、支点60において互いに回転可能に保持される。一方側の操作柄部54の他端側と他方側の操作柄部56の他端側は把持部となって、互いに向かい合って配置される。
【0039】
挟み部62は、チェーン100を挟むための2つの互いに向い合う部材である。2つの部材を区別して、一方側の挟み部64と他方側の挟み部66と呼ぶと、一方側の挟み部64は、他方側の操作柄部56が支点60を超えて延びる部分に対応し、他方側の挟み部66は、一方側の操作柄部54が支点60を超えて延びる部分に対応する。したがって、一方側の操作柄部54と他方側の操作柄部56は、支点60において互いにX字状に交差し、他方側の挟み部66と一方側の挟み部64となる。保守作業員48が右手49で2つの向い合う操作柄部54,56の把持を加減して、一方側の操作柄部54と他方側の操作柄部56との間の開き角を狭めると、一方側の挟み部64と他方側の挟み部66との間の支点60に対する開き角が狭まる。逆に、保守作業員48が右手49で2つの向い合う操作柄部54,56の把持を反対方向に加減して、一方側の操作柄部54と他方側の操作柄部56との間の開き角を拡げると、一方側の挟み部64と他方側の挟み部66との間の開き角が拡がる。ここで開き角は、支点60に対する見込み角である。
【0040】
板ばね58は、2つの向い合う挟み部64,66の開閉に対する付勢力を与える付勢手段である。2つの向い合う挟み部64,66の開閉は、支点60を挟んで2つの向い合う操作柄部54,56の開閉に対応するので、板ばね58は、2つの向い合う操作柄部54,56の開閉に対する付勢力を与える。板ばね58は、一方側の操作柄部54の一端側と他方側の操作柄部56の一端側とが支点60に向かって近接するときの支点60の近傍に設けられる。板ばね58の付勢力は、2つの向い合う操作柄部54,56の間の開き角を広げる向きに、2つの向い合う操作柄部54,56に対して与えられる。
【0041】
板ばね58を設けることで、保守作業員48は、2つの向い合う操作柄部54,56の開閉を加減するときに、板ばね58の付勢力に抗して、右手49の把持力を加減すればよくなる。右手49が2つの向い合う操作柄部54,56を握る力を強くすると、2つの向い合う操作柄部54,56の間の開き角が狭くなり、逆に握る力を緩めると、2つの向い合う操作柄部54,56の間の開き角が拡がる。このように、保守作業員48は、2つの向い合う操作柄部54,56を握り、その握る力を強めたり緩めたりすることで、2つの向い合う挟み部64,66の開閉を加減できる。
【0042】
一方側の挟み部64と他方側の挟み部66には、それぞれ油を吸収できる材質のパッド70,72が着脱自在に取り付けられる。
図3、
図4(a)に示すように、2つのパッド70,72は、円板状の形状を有する。2つの挟み部64,66には、円板状のパッド70,72の外周面の一部を保持する部分円弧を有するパッド保持隅部が設けられる。パッド保持隅部は、給油支援装置50に対するチェーン100の相対的な左右方向の移動を妨げない位置に4カ所設けられる。
図3、
図4(a)において、奥行方向に沿って隣接するパッド保持隅部の間隔L
0を示す。間隔L
0はチェーン100の奥行方向の寸法L
Cよりも大きく設定される。パッド70,72は、この4カ所のパッド保持隅部で囲まれた部分円弧の内側に嵌め込まれる。パッド保持隅部を部分円弧とすることで、パッド70,72を着脱自在に挟み部62に取り付けることができる。また、L
0>L
Cとすることで、パッド保持隅部はチェーン100の相対的な移動を妨げず、さらにチェーン100の相対的な左右方向の移動によるパッド70,72の左右方向の位置ずれや脱着が防止される。
【0043】
注油部74は、一方側の挟み部64に設けられ、パッド70にチェーン100の給油用の油を注入を案内する部材である。注油部74は、カップ状の蓋部76と、蓋部76によって覆われる注油口78(
図4(a)、
図6参照)と、蓋部76と注油口78を開閉自在に支持する可撓性接続部80と、蓋部76に設けられる開閉用つまみ82と、を含む。注油口78は、リング状の部材で、その内径開口に対応して、一方側の挟み部64に注油路79(
図6参照)が設けられる。
【0044】
給油支援装置50を用いてチェーン100に給油するときには、注油部74を用いて一方側のパッド70にチェーン給油用の油が注油される。他方側の挟み部66には注油部74が設けられないので、他方側のパッド72には注油が行われない。したがって、
図3における給油支援装置50においては、一方側のパッド70が油を予め浸透させた状態であるが、他方側のパッド72は、油を浸透させていない状態である。
【0045】
この状態で、給油支援装置50の2つの向い合う操作柄部54,56を握って、一方側の挟み部64と他方側の挟み部66の間の開き角を適当に広げて、一方側のパッド70と他方側のパッド72の間にチェーン100を挟み込む。そして、2つの向い合う操作柄部54,56を強めに握ると、一方側のパッド70に浸透していた油が絞り出され、チェーン100の外プレート102,103と内プレート104,105を伝って、ブシュ108とピン106に油が給油される。余分な油は、さらに外プレート102,103と内プレート104,105を伝って、他方側のパッド72によって受け止められて吸い込まれる。これによって、給油の際に油が給油支援装置50の外に垂れることがない。この給油状態で、チェーン100に対し給油支援装置50を左右に相対的に移動させる簡単な操作で、チェーン100の延伸方向に沿って順次給油を行うことができる。
【0046】
次に、給油支援装置50を用いたドアチェーンの給油支援方法について、
図5〜
図7を用いて説明する。以下では、ドアチェーンの給油支援方法を、単に、給油支援方法と呼ぶ。
図5は、給油支援方法の手順を示すフローチャートである。
図6、
図7は、
図5の手順の内容を示す図である。
【0047】
給油支援方法の最初の手順は、保守現場の設定である(S10)。エレベータのドアチェーン40の保守は、予め定められた保守日程に従って、該当エレベータに保守作業員48が赴いて行われる。保守日程は、例えば1年に1回の定期保守期日等である。保守作業員48は、給油支援装置50を持ち、保守対象のエレベータの任意の乗場47に行く。保守現場の設定は、その任意の乗場47において、エレベータの動作モードを保守モードとし、乗場扉を開き、乗りかご46の位置を保守作業に適した位置に設定して行われる。これについては
図2において述べたので、これ以上の説明を省略する。なお、
図2のように、乗りかご46用のドアチェーン40に対する給油作業は、乗場47側から行われるが、乗場扉に用いられるドアチェーンに給油する場合においては、乗りかご46側から給油作業が行われる。
【0048】
次に、給油支援装置50に定められた給油用の油を注油する(S12)。
図6は、給油支援装置50への注油を示す図である。給油支援装置50は、所定の工具箱等に収納されているが、板ばね58の付勢力のため、2つの向い合う操作柄部54,56の間の開き角は最大となって、そのままでは収納体積が大きい。そこで、適当な締付バンド90を用いて2つの向い合う操作柄部54,56の間の開き角を狭めて工具箱等に収納される。
【0049】
この状態の給油支援装置50において、保守作業員48は、一方側の挟み部64に設けられている注油部74の開閉用つまみ82をつまんで、蓋部76を開ける。蓋部76を開けるとリング状の注油口78が露出する。リング状の注油口78が設けられる一方側の挟み部64には、リング状の注油口78の内径開口に対応して注油路79が貫通しているので、一方側のパッド70が注油口78を経て注油路79の下に露出する。場合によっては、注油部74を省略し、一方側の挟み部64に注油路79を設けるだけとしてもよい。
【0050】
保守作業員48は、予め注油ボトル92を準備する。注油ボトル92は、先端に注油用のノズルを有し、内部に給油用の油94が収納された柔らかいプラスチックボトルである。保守作業員48が注油ボトル92のノズルの先を注油口78に向けて、注油ボトル92の柔らかい本体部を手で押さえると、内部の油94がノズルから油滴96となって出る。油滴96は注油路79を通り、一方側のパッド70に吸い込まれる。これによって、油94を一方側のパッド70に浸透させることができる。その後、開閉用つまみ82をつまんで、蓋部76を閉じる。これにより給油支援装置50における注油が完了する。仮に、油滴96の供給が多すぎて一方側のパッド70から余分の油が垂れることがあっても、一方側のパッド70に向い合う他方側のパッド72が垂れてくる油を受けるので、給油支援装置50からの油垂れの心配がない。
【0051】
かかる注油ボトル92としては、エンジンフラッパと呼ばれるものを用いることができる。また、給油用の油94としては、産業機器用の潤滑油を用いることができる。例えばモービル社のガーゴイルDTE(製品名)を用いることができる。
【0052】
給油支援装置50に注油が完了すると、保守作業員48は、ドアチェーン40を構成する複数のチェーン41,42,43,44の中の1つを給油対象のチェーンに選択する(S14)。
図3は、チェーン41が選択された例である。
【0053】
次に、選択されたチェーン41を給油支援装置50の2つの向い合う挟み部64,66で挟み込む(S16)。この工程は、いくつかの手順で進められる。最初に、注油が完了した給油支援装置50から締付バンド90を外す。これによって、2つの向い合う操作柄部54,56の間の開き角度は板ばね58の付勢力によって最大限に広がる。これとともに、2つの向い合う挟み部64,66の間の開き角度も最大限となる。保守作業員48は、この状態の2つの向い合う操作柄部54,56に右手49を添えて持つ。握り力はほとんど加えない。そして、右手49で持った給油支援装置50をチェーン41に向かって運び、2つの向い合う挟み部64,66の間に、チェーン41を配置する。
図7はその状態を示す図である。その後、保守作業員48は、右手49で2つの向い合う操作柄部54,56を握る力を強めて、2つの向い合う挟み部64,66の開き角を狭め、
図3の状態に示すように、一方側のパッド70と他方側のパッド72とをチェーン41に接触させる。ここまでの手順がS16の挟み込みの工程である。
【0054】
次に、チェーン41に対する給油が行われる(S18)。この工程も、いくつかの手順で進められる。まず、保守作業員48は、右手49で、2つの向い合う操作柄部54,56を次第に強く握る。これにより、一方側のパッド70に浸透していた油が絞り出され、チェーン100の外プレート102,103と内プレート104,105を伝って、ブシュ108とピン106に油が給油される。余分な油は、さらに外プレート102,103と内プレート104,105を伝って、他方側のパッド72によって受け止められて吸い込まれる。これによって、給油の際に油が給油支援装置50の外に垂れることがない。
図3、
図4(a)に示すように、一方側のパッド70は、約2組のブシュ108とピン106を挟み込める大きさであるので、以上の手順では、約2組のブシュ108とピン106にのみ給油が行われる。
【0055】
次に、一方側のパッド70から油が絞り出されている給油状態で、チェーン100に対し給油支援装置50を左右に相対的に移動させる。1つの方法は、給油支援装置50を移動させずに、ドアチェーン40を駆動する駆動系を動作させてチェーン41を左右方向に移動させる。この方法では、全部のチェーン41,42,43,44が移動し、これに伴い全部のドア12,13,14,15も開閉するので、移動速度によっては注意が必要である。もう1つの方法は、ドアチェーン40を駆動する駆動系を停止させたままで、保守作業員48が給油支援装置50を握った右手49を、チェーン41に沿って左右方向に移動させる。この場合は、
図1で示すように、チェーン41は第2プーリ32を挟んで上方側の部分と下方側の部分の2つの部分があるので、給油作業は2回に分けて行うことになり、第2プーリ32に懸架されている部分については給油されない。第2プーリ32に懸架されている部分についての給油は、ドアチェーン40を駆動する駆動系を駆動させて行うことができる。ここまでの手順が、チェーン41に対するS18の給油の工程である。
【0056】
チェーン41の全長に対して給油が完了すると、挟み込み解除が行われる(S20)。保守作業員48は、2つの向い合う操作柄部54,56を握る力を緩め、2つの向い合う挟み部64,66とチェーン41とが接触しないようにして、給油支援装置50をチェーン41から離す。
【0057】
次に、全てのチェーンに給油完了か否かが判断される(S22)。今の場合、チェーン41の給油が完了しただけなので、判断は否定される。S22の判断が否定されると、S14に戻り、別のチェーンの選択が行われる。例えば、チェーン42が選択されると、選択されたチェーン42について上記の手順が繰り返される。S22に来ると、まだチェーン43,44が未給油であるので判断が否定され、上記の手順が繰り返される。これを繰り返して、全部のチェーン41,42,43,44の給油が完了すると、S22の判断が肯定され、ドアチェーン40に対する給油の保守作業が終了する。給油の保守作業が終了すると、一方側のパッド70及び他方側のパッド72を新しいパッド70,72に交換し、締付バンド90を用いて2つの向かい合う操作柄部54,56の間の開き角を狭めて、所定の工具箱等に収納する。
【0058】
なお、給油作業の途中で、一方側のパッド70に浸透させた油が絞り出され切ったときは、注油部74を用いて再注油を行うことができる。また、チェーン41等の全長に渡る給油によって一方側のパッド70及び他方側のパッド72が汚れた場合には、これらを一方側の挟み部64,66から取り外して交換する。これにより、給油支援装置は、チェーンの給油の他にチェーンの清掃も行うことができる。