特許第6739195号(P6739195)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6739195
(24)【登録日】2020年7月27日
(45)【発行日】2020年8月12日
(54)【発明の名称】カッタビット
(51)【国際特許分類】
   E21D 9/087 20060101AFI20200730BHJP
【FI】
   E21D9/087 C
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-52274(P2016-52274)
(22)【出願日】2016年3月16日
(65)【公開番号】特開2017-166216(P2017-166216A)
(43)【公開日】2017年9月21日
【審査請求日】2019年2月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】594086152
【氏名又は名称】株式会社丸和技研
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 泰司
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 誠
(72)【発明者】
【氏名】緒方 勤
【審査官】 彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−087426(JP,A)
【文献】 特許第5139968(JP,B2)
【文献】 特開2014−141846(JP,A)
【文献】 特開平09−078986(JP,A)
【文献】 特表平03−503429(JP,A)
【文献】 中国実用新案第202250091(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 9/087
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材と前記母材に固定された刃材と、前記刃材の後面側に積層された補助刃材と、を備えるカッタビットであって、
前記母材には、その先端側に開口し、底部に段差を有する凹部が形成されており、
前記刃材は、前記母材の先端部において前面および背面が露出している上段刃部と、前記凹部に埋め込まれた下段刃部とを有し、
前記上段刃部は、前面側の露出面が背面側の露出面よりも大きく、
前記下段刃部は、前記凹部内において前面および底面が前記母材に直接固定されているとともに、後面が前記補助刃材に固定されていて、
前記補助刃材は、背面が前記母材の先端部において露出しているとともに、前記凹部内において前面、後面および底面が前記母材に直接固定されていることを特徴とする、カッタビット。
【請求項2】
前記上段刃部の後面および底面は直交しており、
前記下段刃部の後面は、前記上段刃部の後面の延長線上にあり、
前記下段刃部の前面は、当該下段刃部の後面と平行であり、
前記下段刃部の底面は、前記上段刃部の底面と平行で、かつ、当該上段刃部の底面よりも小さい幅を有していることを特徴とする、請求項1に記載のカッタビット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地山の切削を行うカッタビットに関する。
【背景技術】
【0002】
シールド工法、推進工法、TBM等によるトンネル工事、現場打ち杭の施工、地中連続壁の施工等に伴う掘削孔や掘削溝等の施工は、カッタビットが設置された掘削機により行う。
カッタビットは、地山の切削に伴い磨耗する。磨耗したカッタビットは、掘削作業を中断して交換する必要があるが、掘削作業を中断すると、工期短縮化の妨げになるとともに、工事費の低減化の妨げになる。カッタビット全体を強度の高い材料により構成すれば、カッタビットの交換頻度を低減させることが可能であるものの、コストが高くなるとともに、掘削機への取り付け方法も制限されてしまう。そのため、長距離掘削に耐え得る機能を有しており、交換作業を省略あるいは交換作業の回数を低減させることを可能としたカッタビットが開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、複数のチップが積層された状態で刃先部に埋め込まれたカッタビットが開示されている。このカッタビットによれば、表面側のチップおよび母材(シャンク)が磨耗すると、新たなチップが露出するため、長期間にわたって切削能力が維持される。
また、特許文献2には、施工範囲の地層(地質)および層厚に適合した材質および枚数のチップが母材に貼りつけられたカッタビットが開示されている。このカッタビットによれば、施工時の土質の変化に対応してチップが積層されているため、カッタビットの長寿命化を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5139968号公報
【特許文献2】特開2014−141846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のカッタビットは、チップの露出面が少ないため、母材の摩耗が多くなってしまう。そのため、母材の摩耗が激しい場合には、チップが早期に脱落するおそれがあった。
また、特許文献2のカッタビットは、チップが2面のみにおいてろう付けされているため、外力により想定よりも早く母材から脱落するおそれがあった。
本発明は、前記の問題点を解決するものであり、チップの脱落を防止することでカッタビットの長寿命化を図り、かつ、切削能力の向上を図ることを可能としたカッタビットを提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような課題を解決するために、本発明は、母材と前記母材に固定された刃材と、前記刃材の後面側に積層された補助刃材とを備えるカッタビットであって、前記母材にはその先端側に開口し、底部に段差を有する凹部が形成されており、前記刃材は、前記母材の先端部において前面および背面が露出している上段刃部と、前記凹部に埋め込まれた下段刃部とを有し、前記上段刃部は前面側の露出面が背面側の露出面よりも大きく、前記下段刃部は前記凹部内において前面および底面が前記母材に直接固定されているとともに後面が前記補助刃材に固定されていて、前記補助刃材は背面が前記母材の先端部において露出しているとともに前記凹部内において前面、後面および底面が前記母材に直接固定されていることを特徴としている。
かかるカッタビットによれば、刃材が母材に埋め込まれているため、固定面(ろう付け面)が多く、刃材が脱落し難い。そのため、カッタビットの長寿命化を図ることができる。また、上段刃部の前面側の露出面が大きいため、母材の摩耗を最小限に抑えることができ、ひいては、早期に刃材が脱落することを防止することができる。
ここで、本明細書において、「前面」はカッタビットの進行方向前側の面であり、「後面」はカッタビットの進行方向後側の面である。また、「背面」は地山(切削面)に対向する面であり、「底面」はカッタヘッド側の面である。
【0007】
また、本発明のカッタビットによれば、刃材が摩耗して脱落したとしても、補助刃材が露出するため、長期間にわたってカッタビットの切削能力が維持される。
なお、前記カッタビットは、前記上段刃部の後面および底面は直交しており、前記下段刃部の後面は前記上段刃部の後面の延長線上にあり、前記下段刃部の前面は当該下段刃部の後面と平行であり、前記下段刃部の底面は前記上段刃部の底面と平行で、かつ、当該上段刃部の底面よりも小さい幅を有したものであるのが望ましい。
かかるカッタビットによれば、刃材の前面側の露出面を大きくすることが可能となるため、母材の摩耗を最小限に抑えることができ、また、刃材が早期に脱落することを防止することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明のカッタビットによれば、チップの脱落を防止することでカッタビットの長寿命化を図り、かつ、切削能力の向上を図ることを可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係るカッタビットを示す側面図である。
図2図1のカッタビットの分解斜視図である。
図3】(a)〜(c)刃材の形状を決定する方法の手順を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態では、掘削機のカッタヘッドに固定されて地山の切削を行うカッタビット1について説明する。カッタビット1は、図1に示すように、母材2と、母材2に固定された第一刃材(刃材)3と、第二刃材(補助刃材)4とを備えている。
母材2は、いわゆるシャンク材である。本実施形態の母材2は、第一刃材3および第二刃材4よりも膨張係数が大きく、かつ、構造部材として十分な剛性、強度を有する材料により構成されている。本実施形態では、母材2を構成する材料として、SS材やS45C材等を使用するが、母材2を構成する材料は限定されるものではない。
母材2には、図2に示すように、その先端側に開口する凹部21が形成されている。本明細書において、母材の先端とは、母材2の前面22と背面23との角部をいう。凹部21は、母材2の先端に形成された欠損部分である。本実施形態の凹部21の底部には、階段状の段差が形成されている。第一刃材3および第二刃材4は、母材2に直接固定(ろう付け)される。
【0011】
母材2の前面22は、カッタビット1の進行方向前側の面であり、図1に示すように、先端部(第一刃材3)側に向うに従って後面24から離れるように傾斜している。母材2の背面23は、地山G(切削面)に対向する面であり、先端部(第一刃材3)側に向うに従って底面25から離れるように傾斜している。背面23の延長面と前面22の延長面とが交わる角部は鋭角となる。本実施形態では、背面23に折れ点が形成されているが、背面23は平面(折れ点のない平坦な面)であってもよい。
母材2の後面24は、カッタビット1の進行方向後側の面であり、底面25は、図示せぬカッタヘッドに当接する面である。母材2の後面24と底面25は、直角に交わっている。なお、後面24および底面25の必ずしも直角である必要はない。
底面25には、段差が形成されていて、カッタヘッドに係止することが可能に構成されている。なお、底面25の段差は必要に応じて形成すればよい。また、母材2の形状は限定されない。
【0012】
母材2の後部(凹部21の底部よりも後面側)には、図2に示すように、カッタヘッドに固定する際に使用するボルト孔26,26が形成されている。ボルト孔26は、母材2の背面24から底面25を貫通している。図1に示すように、ボルト孔26の内部にはボルトの頭部を係止するための段差が形成されている。本実施形態では、前後に並設された二つのボルト孔26,26が形成されている。なお、ボルト孔26の配置や数は限定されるものではない。また、ボルト孔26は、必要に応じて形成すればよく、母材2のカッタヘッドへの固定方法によっては省略してもよい。
【0013】
第一刃材3は、超硬チップにより構成されている。本実施形態の第一刃材3は、図1に示すように、母材2の先端部において前面および背面が露出している上段刃部31と、凹部21に埋め込まれた下段刃部32とを有している。なお、図1中の一点鎖線は、上段刃部31と下段刃部32との強化を示す仮想線である。
上段刃部31は、断面視四角形状を呈しており、上段刃部31先端(前面と背面との交差部)は鋭角となっている。一方、上段刃部31の後端(底面と後面との交差部)は直角になっている。さらに、前面下側の端部(前面と底面との交差部)は鋭角、後面上側の端部(背面と後面との交差部)は鈍角になっている。また、上段刃部31は、前面側の露出面が背面側の露出面よりも大きい。
上段刃部31の前面は、母材2の前面22と面一になるように形成されている。すなわち、上段刃部31の前面は、母材2の前面22の欠損部分に配置されている。上段刃部31の背面は、母材2の背面23と面一になるように形成されている。すなわち、上段刃部31の背面は、母材2の背面23の欠損部分の一部に配置されている。上段刃部31の底面の一部は、母材2にろう付けされていて、当該底面の他の部分には下段刃部32が一体に形成されている。
【0014】
下段刃部32は、断面視矩形状を呈していて、上段刃部31の底面の後側部分に突設されている。下段刃部32の後面は、上段刃部31の後面の延長線上にある。また、下段刃部32の前面は、後面と平行であり、下段刃部32の底面は上段刃部31の底面と平行である。さらに、下段刃部32の底面は、上段刃部31の底面よりも小さい幅を有している。すなわち、第一刃材3は、先端が鋭角で、かつ、上段刃部31が下段刃部32よりも前側に突出した鏃状を呈している。
下段刃部32の前面、後面および底面は、凹部21内において母材2または第二刃材4にろう付け固定されている。なお、下段刃部32の前面および底面は、凹部21の内面に直接固定されていて、下段刃部32の後面は第二刃材4に固定されている。
【0015】
第一刃材3の形状の設定方法は限定されるものではないが、本実施形態では以下の手順により行う。
まず、図3(a)に示す一般的な貼り付けタイプのカッタビット10に対して、図3(b)に示すように、刃材30の背面後端(点A)を中心として、刃材30を回転させる。このときの回転角度θは、例えば、カッタビット1の先端の角度θの1/2とする。なお、回転角度θの大きさは限定されるものではない。
次に、図3(c)に示すように、回転させた刃材30の前面と底面との角(点B)からカッタビット1の底面と平行な線(水平線)を延ばし前面との交点(点C)を設定する。点Cを上段刃部31の前面の端点とし、点Cから刃材30の前面に垂線をおろし、この垂線を上段刃部31の底面とすることで、第一刃材3の形状を決定する。
【0016】
第二刃材4は、超硬チップにより構成されており、図1に示すように、第一刃材3の後面に積層されている。第二刃材4は、断面視四角形状の板状チップであり、前面と背面の角は鋭角、前面と底面の角および底面と後面の角は直角、後面と背面の角は鈍角である。第二刃材4の背面は、母材2の背面と面一になるように形成されていて、母材2の先端部において露出している。
第二刃材4の底面および後面は、母材2の凹部21の内面に直接固定されている。また、第二刃材32の前面は、第一刃材31の後面および母材2に固定されている。
【0017】
以上、本実施形態のカッタビット1によれば、第一刃材3の下段刃部32が凹部21に根入れされているため、母材2との接合性が高い。第一刃材3を凹部21に根入れすることで、従来の貼り付けタイプのカッタビット(図3(a)参照)に比べて、ろう付け面積が大きく確保することができる。また、第一刃材3は、凹部21内において、3面でろう付けされているため、抜け出し難い。そのため、第一刃材3が衝撃などにより脱落することが防止され、カッタビット1の限界摩耗量が伸び、ひいては、カッタビット1の長寿命化が可能となる。
【0018】
また、第一刃材3の前面側の露出面が大きいため、母材2の摩耗量が少なくなる。そのため、母材2の摩耗により第一刃材3が脱落または破損することを防止し、カッタビット1に長寿命化が可能となる。また、第一刃材3の脱落を防止することによって掘削機等に悪影響を及ぼすことがない。
第一刃材3の背面には、第二刃材4が積層されているため、第一刃材3が摩耗等によって脱落しても、第二刃材4が現れる。したがって、カッタビット1を交換せずとも連続して切削することができる。
凹部21には、段差が形成されているため、第二刃材4についても凹部21内において3面でろう付けすることができる。そのため、第二刃材4が早期に脱落(抜け出す)することが防止されている。
【0019】
以上、本発明に係る実施形態について説明した。しかし、本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
本発明のカッタビット1は、トンネル施工に使用するシールド機、推進機、TBMや、現場打ち杭の施工、地中連続壁の施工等に伴う掘削孔や掘削溝等の施工に使用する掘削機等、あらゆる種類の掘削機に適用することができる。
また、カッタビット1は、先行ビット、メインビット、双頭ビット等、あらゆる種類のカッタビットに適用することができる。
【0020】
前記実施形態では、刃材(第一刃材3)の背面に、補助刃材(第二刃材4)を積層する場合について説明したが、第二刃材4は必ずしも設ける必要はない。また、前記実施形態では、刃材(第一刃材3)の背面に1枚の補助刃材(第二刃材4)が積層されている場合について説明したが、補助刃材は、地山状況や掘削延長等に応じて2枚以上積層してもよい。
刃材(第一刃材3および第二刃材4)を構成する材料は、限定されるものではなく、予想される地質等に応じて適宜決定すればよい。また、第一刃材3と第二刃材4には、異なる材質のカッタチップを使用してもよいし、同じ材質のカッタチップを使用してもよい。
【符号の説明】
【0021】
1 カッタビット
2 母材
21 凹部
22 前面
23 背面
24 後面
25 底面
3 第一刃材(刃材)
31 上段刃部
32 下段刃部
4 第二刃材(補助刃材)
図1
図2
図3