特許第6739238号(P6739238)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6739238
(24)【登録日】2020年7月27日
(45)【発行日】2020年8月12日
(54)【発明の名称】組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 220/12 20060101AFI20200730BHJP
   C08F 2/00 20060101ALI20200730BHJP
   C09J 4/02 20060101ALI20200730BHJP
   C09J 5/00 20060101ALI20200730BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20200730BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20200730BHJP
   C08F 2/40 20060101ALI20200730BHJP
   C08F 4/40 20060101ALI20200730BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20200730BHJP
【FI】
   C08F220/12
   C08F2/00 C
   C09J4/02
   C09J5/00
   C09J11/06
   C08F2/44 C
   C08F2/40
   C08F4/40
   H01L21/304 611B
【請求項の数】15
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-108687(P2016-108687)
(22)【出願日】2016年5月31日
(65)【公開番号】特開2017-214477(P2017-214477A)
(43)【公開日】2017年12月7日
【審査請求日】2019年3月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石田 泰則
(72)【発明者】
【氏名】栗村 啓之
(72)【発明者】
【氏名】武末 博則
(72)【発明者】
【氏名】玉井 希
【審査官】 岸 智之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/186803(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 220/12
C08F 2/00
C08F 2/40
C08F 2/44
C08F 4/40
C09J 4/02
C09J 5/00
C09J 11/06
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記第一剤と(B)下記第二剤を含有する組成物。
(A)第一剤は、(1)水酸基と非環式飽和炭化水素をエステル結合を介して有する単官能(メタ)アクリレートモノマー、(2)環式炭化水素をエステル結合を介して有する単官能(メタ)アクリレートモノマー、(3)エチレングリコール構造を有しない多官能(メタ)アクリレートモノマー、(4)熱ラジカル重合開始剤を含有し、(1)、(2)、(3)の合計100質量部中、(1)の使用量が50〜98質量部であり、(2)の使用量が1〜40質量部であり、(3)の使用量が1〜30質量部である組成物。
(B)第二剤は、(1)水酸基と非環式飽和炭化水素をエステル結合を介して有する単官能(メタ)アクリレートモノマー、(2)環式炭化水素をエステル結合を介して有する単官能(メタ)アクリレートモノマー、(3)エチレングリコール構造を有しない多官能(メタ)アクリレートモノマー、(5)還元剤を含有し、(1)、(2)、(3)の合計100質量部中、(1)の使用量が1〜45質量部であり、(2)の使用量が45〜98質量部であり、(3)の使用量が1〜30質量部である組成物。
【請求項2】
(A)第一剤と(B)第二剤を5:1〜1:5の混合質量比率で含有する請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
(C)下記第一剤と(D)下記第二剤を含有する組成物。
(C)第一剤は、(1)水酸基と非環式飽和炭化水素をエステル結合を介して有する単官能(メタ)アクリレートモノマー、(2)環式炭化水素をエステル結合を介して有する単官能(メタ)アクリレートモノマー、(3)エチレングリコール構造を有しない多官能(メタ)アクリレートモノマー、(4)熱ラジカル重合開始剤を含有し、(1)、(2)、(3)の合計100質量部中、(1)の使用量が1〜45質量部であり、(2)の使用量が45〜98質量部であり、(3)の使用量が1〜30質量部である組成物。
(D)第二剤は、(1)水酸基と非環式飽和炭化水素をエステル結合を介して有する単官能(メタ)アクリレートモノマー、(2)環式炭化水素をエステル結合を介して有する単官能(メタ)アクリレートモノマー、(3)エチレングリコール構造を有しない多官能(メタ)アクリレートモノマー、(5)還元剤を含有し、(1)、(2)、(3)の合計100質量部中、(1)の使用量が50〜98質量部であり、(2)の使用量が1〜40質量部であり、(3)の使用量が1〜30質量部である組成物。
【請求項4】
(C)第一剤と(D)第二剤を5:1〜1:5の混合質量比率で含有する請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
更に、(6)エラストマー成分を含有する請求項1〜4のうちの1項記載の組成物。
【請求項6】
更に、(7)密着性付与成分を含有する請求項1〜5のうちの1項記載の組成物。
【請求項7】
更に、(8)重合禁止剤を含有する請求項1〜6のうちの1項記載の組成物。
【請求項8】
更に、パラフィン類を含有する請求項1〜7のうちの1項記載の組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のうちの1項記載の組成物を含有する接着剤。
【請求項10】
用途が仮固定用である請求項1〜8のうちの1項記載の組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のうちの1項記載の組成物を使用して被着体を接着する積層体の積層方法。
【請求項12】
基材、請求項1〜10のうちの1項記載の組成物、部材の順に積層する積層体の積層方法。
【請求項13】
請求項1〜10のうちの1項記載の組成物を用いて、部材を基材に仮固定し、前記組成物を硬化し、仮固定された部材を加工した後、前記組成物の硬化体を水に浸漬することにより、加工された部材を基材から取り外す部材の仮固定方法。
【請求項14】
部材が、単結晶シリコンインゴット、多結晶シリコンインゴット、サファイヤインゴット、シリコンカーバイドインゴット又は窒化ガリウムインゴットから選ばれる1種以上である請求項13記載の部材の仮固定方法。
【請求項15】
加工された部材が、ウエハである請求項13又は14記載の部材の仮固定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、組成物に関するものである。本実施形態は、色々な部材を加工するに際しての部材の仮固定方法であり、それに好適な組成物に関するものである。本実施形態は、例えば、シリコンインゴットからシリコンウエハを加工するに際して、当該部材を仮固定する方法と、当該用途に好適な(メタ)アクリル系仮固定用接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンウエハ等の半導体実装部品等の仮固定用接着剤としては、(メタ)アクリル系仮固定用接着剤が提案されている(特許文献1)。しかしながら、特許文献1は、(1)の使用量が50〜98質量部であり、(2)の使用量が1〜40質量部であることについて、記載はない。
【0003】
特許文献2〜3では(メタ)アクリル系仮固定用接着剤が提案されている。しかしながら、本実施形態の組成物の製造方法を選択することにより、混合比率を変更するだけで、異なるワークに対しても、加工後の洗浄工程において部材が剥離せず、低温の温水で速やかに剥離が可能となる。特許文献2〜3には、混合比率の変更による洗浄性又は剥離性の変化について記載がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2015/186803号公報
【特許文献2】特開2012−229379号公報
【特許文献3】国際公開第2013/161221号公報
【0005】
例えば、切削加工後の部材の寸法精度を向上させるために、加工時に部材の脱落がなく、加工後の洗浄工程において部材が剥離せず、低温の温水で速やかに剥離し、異なるワークにも適用可能な組成物の製造方法が望まれていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本実施形態は、例えば、第一剤と第二剤の各(メタ)アクリレートモノマーの使用量を相違することにより、上記課題を解決する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、本発明形態は、(A)下記第一剤と(B)下記第二剤を含有する組成物であり、
(A)第一剤は、(1)水酸基と非環式飽和炭化水素をエステル結合を介して有する単官能(メタ)アクリレートモノマー、(2)環式炭化水素をエステル結合を介して有する単官能(メタ)アクリレートモノマー、(3)エチレングリコール構造を有しない多官能(メタ)アクリレートモノマー、(4)熱ラジカル重合開始剤を含有し、(1)、(2)、(3)の合計100質量部中、(1)の使用量が50〜98質量部であり、(2)の使用量が1〜40質量部であり、(3)の使用量が1〜30質量部である組成物。
(B)第二剤は、(1)水酸基と非環式飽和炭化水素をエステル結合を介して有する単官能(メタ)アクリレートモノマー、(2)環式炭化水素をエステル結合を介して有する単官能(メタ)アクリレートモノマー、(3)エチレングリコール構造を有しない多官能(メタ)アクリレートモノマー、(5)還元剤を含有し、(1)、(2)、(3)の合計100質量部中、(1)の使用量が1〜45質量部であり、(2)の使用量が45〜98質量部であり、(3)の使用量が1〜30質量部である組成物。
(A)第一剤と(B)第二剤を5:1〜1:5の混合質量比率で含有する該組成物であり、
(C)下記第一剤と(D)下記第二剤を含有する組成物であり、
(C)第一剤は、(1)水酸基と非環式飽和炭化水素をエステル結合を介して有する単官能(メタ)アクリレートモノマー、(2)環式炭化水素をエステル結合を介して有する単官能(メタ)アクリレートモノマー、(3)エチレングリコール構造を有しない多官能(メタ)アクリレートモノマー、(4)熱ラジカル重合開始剤を含有し、(1)、(2)、(3)の合計100質量部中、(1)の使用量が1〜45質量部であり、(2)の使用量が45〜98質量部であり、(3)の使用量が1〜30質量部である組成物。
(D)第二剤は、(1)水酸基と非環式飽和炭化水素をエステル結合を介して有する単官能(メタ)アクリレートモノマー、(2)環式炭化水素をエステル結合を介して有する単官能(メタ)アクリレートモノマー、(3)エチレングリコール構造を有しない多官能(メタ)アクリレートモノマー、(5)還元剤を含有し、(1)、(2)、(3)の合計100質量部中、(1)の使用量が50〜98質量部であり、(2)の使用量が1〜40質量部であり、(3)の使用量が1〜30質量部である組成物。
(C)第一剤と(D)第二剤を5:1〜1:5の混合質量比率で含有する該組成物であり、更に、(6)エラストマー成分を含有する該組成物であり、更に、(7)密着性付与成分を含有する該組成物であり、更に、(8)重合禁止剤を含有する該組成物であり、更に、パラフィン類を含有する該組成物であり、該組成物を含有する接着剤であり、用途が仮固定用である該組成物であり、該組成物を使用して被着体を接着する積層体の積層方法であり、基材、該組成物、部材の順に積層する積層体の積層方法であり、該組成物を用いて、部材を基材に仮固定し、前記組成物を硬化し、仮固定された部材を加工した後、前記組成物の硬化体を浸漬することにより、加工された部材を基材から取り外す部材の仮固定方法であり、部材が、単結晶シリコンインゴット、多結晶シリコンインゴット、サファイヤインゴット、シリコンカーバイドインゴット又は窒化ガリウムインゴットから選ばれる1種以上である該部材の仮固定方法であり、加工された部材が、ウエハである該部材の仮固定方法である。
【発明の効果】
【0008】
本実施形態は、例えば、加工時に部材の脱落がなく、加工後の洗浄工程において部材が剥離せず、低温の温水で速やかに剥離し、異なるワークにも適用可能な組成物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本実施形態を詳細に説明する。ここで、単官能(メタ)アクリレートとは、分子内に(メタ)アクリロイル基を1個有する化合物をいい、多官能(メタ)アクリレートとは、分子内に(メタ)アクリロイル基を2個以上有する化合物をいう。
【0010】
本実施形態で使用する(メタ)アクリレートモノマーは、(1)水酸基と非環式飽和炭化水素をエステル結合を介して有する単官能(メタ)アクリレートモノマー、(2)環式炭化水素をエステル結合を介して有する単官能(メタ)アクリレートモノマー、(3)エチレングリコール構造を有しない多官能(メタ)アクリレートモノマーを含有する。
【0011】
本実施形態で使用する(1)水酸基と非環式飽和炭化水素をエステル結合を介して有する単官能(メタ)アクリレートモノマーとは、例えば、分子中に、一つ以上の水酸基と、一つ以上の非環式飽和炭化水素とを、エステル結合を介して有する単官能(メタ)アクリレートモノマーをいう。非環式飽和炭化水素の水素が水酸基で置換していることが好ましい。(1)としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレンエーテルモノ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレンエーテルモノ(メタ)アクリレート等のポリオール類の水酸基と(メタ)アクリル酸とのエステル化反応等により得られる化合物、トリメチロールプロパンモノ(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールモノ(メタ)アクリレート等の化合物、即ち、2個以上の水酸基を含有する化合物の少なくとも1つの水酸基を残して、他の水酸基が(メタ)アクリル酸とエステル化反応して得られる化合物等が挙げられる。これらの1種以上が使用できる。
【0012】
これらの中では、接着性、耐熱性、剥離性、耐洗浄性の点で、(1−1)ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートと、(1−2)2個以上の水酸基を含有する化合物のうち1つの水酸基が(メタ)アクリル酸とエステル化反応して得られる化合物とから選ばれる1種以上が好ましい。(1−1)ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの中では、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが好ましい。(1−2)2個以上の水酸基を含有する化合物のうち1つの水酸基が(メタ)アクリル酸とエステル化反応して得られる化合物の中では、グリセリンモノ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0013】
本実施形態で使用する(2)環式炭化水素をエステル結合を介して有する単官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、例えば、以下のものが挙げられる。これらの1種以上が使用できる。環式炭化水素としては、耐洗浄性や、エラストマー成分との溶解性の点で、脂肪族環と芳香族環から選ばれる1種以上が好ましい。これらの混合物も使用できる。脂肪族環の中では、ジシクロペンテニル基とジシクロペンタニル基から選ばれる1種以上が好ましく、ジシクロペンテニル基がより好ましい。芳香族環の中では、耐洗浄性や、エラストマー成分との溶解性の点で、ベンゼン環が好ましい。
【0014】
(2−1)ジシクロペンテニル基を有する(メタ)アクリレートとしては、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート及びジシクロペンテニルオキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらの1種以上が使用できる。これらの中では、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレートとジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレートから選ばれる1種以上が好ましい。
【0015】
(2−2)ジシクロペンタニル基を有する(メタ)アクリレートとしては、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルオキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルオキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート及びジシクロペンタニルオキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらの1種以上が使用できる。これらの中では、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレートとジシクロペンタニルオキシエチル(メタ)アクリレートから選ばれる1種以上が好ましい。
【0016】
(2−3)ベンゼン環を有する(メタ)アクリレートとしては、一般式(C)又は(D)で示される(メタ)アクリル系モノマー等が挙げられる。
【0017】
一般式(C) Z−O−(RO)−R
一般式(D) Z−O−(R−R
(式中、Zは(メタ)アクリロイル基を示し、Rは−CH−、−C−、−C−、−CHCH(CH)−、−C−又は−C12−を示し、Rはフェニル基又は炭素数1〜3のアルキル基を有するフェニル基を示し、qは1〜10の整数を示す。)
【0018】
このような(メタ)アクリレートとしては、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、フェノキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート及びフェノキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらの1種以上が使用できる。これらの中では、フェノキシエチル(メタ)アクリレートとベンジル(メタ)アクリレートから選ばれる1種以上が好ましい。
【0019】
(2)の中では、水中で組成物の硬化体が膨潤しにくくなる、耐洗浄性に優れる、エラストマー成分が溶解しやすくなり、仮固定用接着剤の製造が容易になる、という点で、分子中に水酸基を有しないことが好ましい。
【0020】
本実施形態で使用する(3)エチレングリコール構造を有しない多官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、分子内にエチレングリコール構造を有さず、かつ、2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能(メタ)アクリレートモノマーが挙げられる。これらの1種以上が使用できる。
【0021】
2官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、2−エチル−2−ブチル−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、ジメチロール−トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール変性トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ステアリン酸変性ペンタエリストールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0022】
3官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス[(メタ)アクリロイキシエチル]イソシアヌレート等が挙げられる。
【0023】
4官能以上の(メタ)アクリレートモノマーとしては、ジメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリストールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリストールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0024】
(3)の中では、分子内に芳香族環を有しないことが好ましい。(3)の分子量は、1000以下が好ましく、500以下がより好ましく、400以下が最も好ましい。(3)の分子量は、50以上が好ましく、100以上がより好ましく、200以上が最も好ましい。(3)の中では、分子内にプロピレングリコール構造も有しないことが好ましい。
【0025】
これらの中では、高接着強度、耐熱性、耐洗浄性、作業性、剥離性の点で、2官能(メタ)アクリレートモノマーが好ましい。2官能(メタ)アクリレートモノマーの中では、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロール−トリシクロデカンジ(メタ)アクリレートから選ばれる1種以上が好ましく、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0026】
本実施形態で使用する(4)熱ラジカル重合開始剤は、例えば、二剤に分けた時の反応性の点で、優れる。熱ラジカル重合開始剤としては、クメンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド、ターシャリーブチルハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンジハイドロパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド及びターシャリーブチルパーオキシベンゾエート等の有機過酸化物が好ましい。これらの1種以上が使用できる。これらの中では、(1)、(2)、(3)との反応性の点で、クメンハイドロパーオキサイドが好ましい。
【0027】
(4)の使用量は、(1)、(2)、(3)の合計100質量部に対して、0.5〜15質量部が好ましく、1〜8質量部が好ましい。0.5質量部以上だと硬化速度が速く作業性が優れ、15質量部以下だと貯蔵安定性に優れる。
【0028】
本実施形態で使用する(5)還元剤は、例えば、(4)重合開始剤と反応し、ラジカルを発生する公知の還元剤であれば使用できる。(5)還元剤としては、(4)との反応性の点で、バナジルアセチルアセトネート、バナジウムアセチルアセトネート、コバルトアセチルアセトネート、銅アセチルアセトネート、ナフテン酸バナジル、ステアリン酸バナジル、ナフテン酸銅、オクチル酸コバルト等の、還元性を有する金属塩が好ましく、バナジルアセチルアセトネートがより好ましい。これらの1種以上が使用できる。
【0029】
(5)の使用量は、(1)、(2)、(3)の合計100質量部に対して、0.01〜5質量部が好ましく、0.05〜2質量部がより好ましい。0.01質量部以上だと硬化速度が速く、接着性が大きく、5質量部以下だと未反応の成分が残らず、接着性が大きい。
【0030】
本実施形態では、切削加工後の部材の寸法精度を向上し、高接着強度を得るために、(6)エラストマー成分を使用することができる。
【0031】
本実施形態で使用するエラストマー成分としては、(メタ)アクリロニトリル−ブタジエン−(メタ)アクリル酸共重合体、(メタ)アクリロニトリル−ブタジエン−(メタ)アクリレート共重合体、メチル(メタ)アクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体、(メタ)アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合体、並びに(メタ)アクリロニトリル−ブタジエンゴム、線状ポリウレタン、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム及びブタジエンゴム等の各種合成ゴム、天然ゴム、スチレン−ポリブタジエン−スチレン系合成ゴムといったスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリエチレン−EPDM合成ゴムといったオレフィン系熱可塑性エラストマー、並びにカプロラクトン型、アジペート型及びPTMG型といったウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリブチレンテレフタレート−ポリテトラメチレングリコールマルチブロックポリマーといったポリエステル系熱可塑性エラストマー、ナイロン−ポリオールブロック共重合体といったポリアミド系熱可塑性エラストマー、1,2−ポリブタジエン系熱可塑性エラストマー、並びに塩ビ系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。これらのエラストマー成分は相溶性が良ければ、1種以上が使用できる。
【0032】
又、末端(メタ)アクリル変性したポリブタジエンも使用できる。
【0033】
これらの中では、(メタ)アクリル系モノマーに対する溶解性や接着性の点で、メチル(メタ)アクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体及び/又は(メタ)アクリロニトリル−ブタジエンゴムが好ましく、その併用がより好ましい。併用する場合、その使用割合は、例えば、メチル(メタ)アクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体と(メタ)アクリロニトリル−ブタジエンゴムの合計100質量部中、質量比で、メチル(メタ)アクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体:(メタ)アクリロニトリル−ブタジエンゴム=50〜95:5〜50が好ましく、60〜80:20〜40がより好ましい。(メタ)アクリロニトリル−ブタジエンゴムを使用する場合、(メタ)アクリロニトリル含量(ニトリル含量)は36〜45質量%が好ましい。
【0034】
(6)の使用量は、(1)、(2)、(3)の合計100質量部に対して、5〜45質量部が好ましく、20〜35質量部がより好ましい。5質量部以上だと粘度及び接着性が向上し、45質量部以下だと、粘度が低く、作業上、不具合が生じない。
【0035】
本実施形態の組成物は、(7)密着性付与成分を使用することができる。密着性付与成分の中では、リン酸塩が好ましい。
【0036】
リン酸塩としては、一般式(A)で示される化合物等が挙げられる。
【0037】
【化1】
【0038】
リン酸塩としては、アシッドホスホオキシエチル(メタ)アクリレート、アシッドホスホオキシプロピル(メタ)アクリレート及びビス(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)ホスフェート等が挙げられる。これらの1種以上が使用できる。これらの中では、効果が大きい点で、アシッドホスホオキシエチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0039】
(7)密着性付与成分の使用量は、(1)、(2)、(3)の合計100質量部に対して、0.1〜7質量部が好ましく、1〜5質量部がより好ましい。0.1質量部以上だと接着強度が向上し、加工時の寸法精度に優れ、7質量部以下だと接着強度が向上する。
【0040】
本実施形態の組成物は、貯蔵安定性を改良する目的で、(8)重合禁止剤を使用することができる。重合禁止剤としては、ハイドロキノン、パラベンゾキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、2,6−シタイシャリーブチルーp−クレゾール、2,2‘−メチレンビス(4−メチル−6−ターシャリーブチルフェノール)、トリフェニルホスフェート、フェノチアジン及びN−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン等が挙げられる。これらの1種以上が使用できる。これらの中では、貯蔵安定性の点で、パラベンゾキノンとハイドロキノンモノメチルエーテルから選ばれる1種以上が好ましく、パラベンゾキノンがより好ましい。
【0041】
(8)の使用量は、(1)、(2)、(3)の合計100質量部に対して、0.001〜3質量部が好ましく、0.01〜1質量部がより好ましい。0.001質量部以上だと効果があり、3質量部以下だと接着強度が向上する。
【0042】
本実施形態の組成物は、空気に接している部分の硬化を迅速にするためにパラフィン類を使用することができる。パラフィン類としては、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、カルナバろう、蜜ろう、ラノリン、鯨ろう、セレシン及びカンデリラろう等が挙げられる。これらの1種以上が使用できる。
【0043】
パラフィン類の使用量は、(1)、(2)、(3)の合計100質量部に対して、0.1〜5質量部が好ましく、0.3〜2.5質量部がより好ましい。0.1質量部以上だと空気に接している部分の硬化が良くなり、5質量部以下だと接着強度が向上する。
【0044】
本実施形態の組成物は、第一剤と第二剤からなる二剤型の組成物である。本実施形態の組成物は、第一剤と第二剤を混合して使用する。第一剤と第二剤の混合質量比率は、5:1〜1:5が好ましく、2:1〜1:2がより好ましく、1:1が最も好ましい。
【0045】
(1)、(2)、(3)の使用量は、下記の例<1>の組み合わせ又は例<2>の組み合わせの場合に分けられる。
【0046】
例<1>の組み合わせ
【0047】
例<1>の場合、第一剤の使用量は下記の通りである。
(1)の使用量は、(1)、(2)、(3)の合計100質量部中、50〜98質量部が好ましく、55〜95質量部がより好ましい。(1)の使用量が50質量部以上だと、切削加工後の部材の寸法精度を向上させるための高接着強度が得られ、加工時に発生する加工熱に対する耐熱性も向上し、水に膨潤しやすくなるため、加工後の部材の剥離性が向上する。(1)の使用量が98質量部以下だと、耐洗浄性に優れる。
(2)の使用量は、(1)、(2)、(3)の合計100質量部中、1〜40質量部が好ましく、2〜35質量部がより好ましく、8〜16質量部が最も好ましい。(2)の使用量が1質量部以上だと、耐洗浄性に優れる。(2)の使用量が40質量部以下だと、耐洗浄性に優れる。
(3)の使用量は、高接着強度、耐熱性、耐洗浄性、作業性、剥離性の点で、(1)、(2)、(3)の合計100質量部中、1〜30質量部が好ましく、5〜15質量部がより好ましい。(1)の使用量が1質量部以上だと、切削加工後の部材の寸法精度を向上させるための高接着強度が得られ、加工時に発生する加工熱に対する耐熱性が向上し、耐洗浄性に優れ、剥離後に組成物の硬化体がフィルム状となるため、部材表面に対して組成物の硬化体が糊残りせず、作業性が優れる。(3)の使用量が30質量部以下だと、加工後の部材の剥離性に優れる。
【0048】
例<1>の場合、第二剤の使用量は下記の通りである。
(1)の使用量は、(1)、(2)、(3)の合計100質量部中、1〜45質量部が好ましく、3〜30質量部がより好ましい。(1)の使用量が1質量部以上だと、切削加工後の部材の寸法精度を向上させるための高接着強度が得られ、加工時に発生する加工熱に対する耐熱性も向上し、水に膨潤しやすくなるため、加工後の部材の剥離性が向上する。(1)の使用量が45質量部以下だと、耐洗浄性に優れる。
(2)の使用量は、(1)、(2)、(3)の合計100質量部中、45〜98質量部が好ましく、60〜95質量部がより好ましい。(2)の使用量が45質量部以上だと、耐洗浄性に優れる。(2)の使用量が98質量部以下だと、耐洗浄性に優れる。
(3)の使用量は、高接着強度、耐熱性、耐洗浄性、作業性、剥離性の点で、(1)、(2)、(3)の合計100質量部中、1〜30質量部が好ましく、5〜15質量部がより好ましい。(1)の使用量が1質量部以上だと、切削加工後の部材の寸法精度を向上させるための高接着強度が得られ、加工時に発生する加工熱に対する耐熱性が向上し、耐洗浄性に優れ、剥離後に組成物の硬化体がフィルム状となるため、部材表面に対して組成物の硬化体が糊残りせず、作業性が優れる。(3)の使用量が30質量部以下だと、加工後の部材の剥離性に優れる。
【0049】
例<2>の組み合わせ
【0050】
例<2>の場合、第一剤の使用量は下記の通りである。
(1)の使用量は、(1)、(2)、(3)の合計100質量部中、1〜45質量部が好ましく、3〜30質量部がより好ましい。(1)の使用量が1質量部以上だと、切削加工後の部材の寸法精度を向上させるための高接着強度が得られ、加工時に発生する加工熱に対する耐熱性も向上し、水に膨潤しやすくなるため、加工後の部材の剥離性が向上する。(1)の使用量が45質量部以下だと、耐洗浄性に優れる。
(2)の使用量は、(1)、(2)、(3)の合計100質量部中、45〜98質量部が好ましく、60〜95質量部がより好ましい。(2)の使用量が45質量部以上だと、耐洗浄性に優れる。(2)の使用量が98質量部以下だと、耐洗浄性に優れる。
(3)の使用量は、高接着強度、耐熱性、耐洗浄性、作業性、剥離性の点で、(1)、(2)、(3)の合計100質量部中、1〜30質量部が好ましく、5〜15質量部がより好ましい。(1)の使用量が1質量部以上だと、切削加工後の部材の寸法精度を向上させるための高接着強度が得られ、加工時に発生する加工熱に対する耐熱性が向上し、耐洗浄性に優れ、剥離後に組成物の硬化体がフィルム状となるため、部材表面に対して組成物の硬化体が糊残りせず、作業性が優れる。(3)の使用量が30質量部以下だと、加工後の部材の剥離性に優れる。
【0051】
例<2>の場合、第二剤の使用量は下記の通りである。
(1)の使用量は、(1)、(2)、(3)の合計100質量部中、50〜98質量部が好ましく、55〜95質量部がより好ましい。(1)の使用量が50質量部以上だと、切削加工後の部材の寸法精度を向上させるための高接着強度が得られ、加工時に発生する加工熱に対する耐熱性も向上し、水に膨潤しやすくなるため、加工後の部材の剥離性が向上する。(1)の使用量が98質量部以下だと、耐洗浄性に優れる。
(2)の使用量は、(1)、(2)、(3)の合計100質量部中、1〜40質量部が好ましく、2〜35質量部がより好ましく、8〜16質量部が最も好ましい。(2)の使用量が1質量部以上だと、耐洗浄性に優れる。(2)の使用量が40質量部以下だと、耐洗浄性に優れる。
(3)の使用量は、高接着強度、耐熱性、耐洗浄性、作業性、剥離性の点で、(1)、(2)、(3)の合計100質量部中、1〜30質量部が好ましく、5〜15質量部がより好ましい。(1)の使用量が1質量部以上だと、切削加工後の部材の寸法精度を向上させるための高接着強度が得られ、加工時に発生する加工熱に対する耐熱性が向上し、耐洗浄性に優れ、剥離後に組成物の硬化体がフィルム状となるため、部材表面に対して組成物の硬化体が糊残りせず、作業性が優れる。(3)の使用量が30質量部以下だと、加工後の部材の剥離性に優れる。
【0052】
本実施形態においては、組成物から得られる硬化体のガラス転移温度が80〜250℃の範囲内であることが好ましい。該組成物から得られる硬化体のガラス転移温度がこの範囲内にあることにより、加工時の加工熱により被加工部材が発熱し、該部材と基材の接着性が低下しても、寸法精度の悪化が抑制され、寸法精度が格段に向上する。
【0053】
本実施形態の組成物から得られる硬化体のガラス転移温度の測定方法は特に制限はないが、DSCや動的粘弾性スペクトル等の公知の方法で測定され、好ましくは動的粘弾性スペクトルが用いられる。
【0054】
本実施形態の組成物を用いて部材(例えば、シリコン)と基板(例えば、擦りガラス)を貼りあわせて、引張り接着強さを測定した際に、引張り接着強さが10MPa以上であることが好ましい。引張り接着強さが10MPa以上だと、被加工部材と基材の接着性が十分になり、加工中に該部材が剥離せず、寸法精度が向上し、加工装置が故障しない。引張り接着強さは、寸法精度の点で、15MPa以上であることがより好ましい。
【0055】
本実施形態の組成物は仮固定用接着剤として使用できる。本実施形態の仮固定用接着剤の使用方法としては、固定する一方の部材又は基板の接着面に仮固定用接着剤を適量塗布し、続いてもう一方の部材又は基板を重ね合わせるという方法や、予め仮固定する部材を多数積層しておき、仮固定用接着剤を隙間に浸透させて塗布させる方法等により仮固定用接着剤を塗布し、仮固定用接着剤を硬化させ、部材同士を仮固定する方法等が挙げられる。
【0056】
基材(例えば、支持基板)としては、例えば、擦りガラスが挙げられる。擦りガラスはシリコンインゴット等を加工する際の基材として好ましい。擦りガラスを使用した場合、加工の際に用いられるワイヤーやブレード等が摩耗しづらく、安価で入手しやすく、接着性が得られやすい、という利点がある。
【0057】
基材として用いられる擦りガラスの表面粗さとしては一般的にRaとして0.2〜10μm程度のものが用いられる。
【0058】
本実施形態の組成物は、硬化体の膨潤性能を制御することにより、耐洗浄性と剥離性を両立することが可能となる。具体的には洗浄で使用される23℃の純水に接着剤の硬化体を60分間浸漬させた時の膨潤率が0.1〜10%の範囲にあることが好ましく、接着剤の硬化体を50℃の純水に60分間浸漬させた時の膨潤率が0.1〜10%の範囲にあることが好ましい。接着剤の硬化体が水と接触すると、直接水と接触した部分のみが膨潤し、水と接触していない部分は膨潤しないために、接着剤の硬化体の厚みに分布が生じ、接着剤の硬化体と、部材及び/又は基材との間に、隙間が生じ、隙間に水が侵入し、剥離を達成する。しかしながら、洗浄で使用される23℃前後の純水において膨潤による剥離が生じると洗浄が不十分になる場合がある。耐洗浄性の点で、23℃の純水に60分間浸漬させた時の膨潤率が0.1〜5%の範囲にあることがより好ましく、剥離性の点で、50℃の純水に60分間浸漬させた時の膨潤率が6〜20%の範囲にあることがより好ましい。
【0059】
本実施形態の仮固定用接着剤は各種部材を基材に仮固定し、部材を所望の形状に切断、研削、研磨等の加工を施した後、該仮固定用接着剤の硬化体を浸漬することにより、組成物を部材から剥離することができる。浸漬する媒体としては、水が好ましい。
【0060】
仮固定方法としては、本実施形態の仮固定用接着剤を用いて、部材を仮固定し、前記仮固定用接着剤の硬化体を作製し、該仮固定された部材を加工し、該仮固定用接着剤の硬化体を浸漬し、該仮固定用接着剤の硬化体を剥離する仮固定方法等が挙げられる。
【0061】
本実施形態の仮固定方法では、(a)水として、適度に加熱した温水、例えば、40〜99℃の温水を用いることが、水中での剥離性が短時間に達成でき、生産性が向上する点で、好ましい。仮固定用接着剤の硬化体と水との接触の方法については、水中に接合体ごと浸漬する方法が、簡便である点で、好ましい。温水の温度は、45〜85℃が好ましく、50〜70℃がより好ましい。
【0062】
水に浸漬させる時間は、1〜60分の範囲であることが好ましい。1分以上だと剥離性が優れ、60分以下だと生産性が優れる。剥離性と生産性の点で、5〜30分が好ましく、5〜20分がより好ましい。
【0063】
前記の方法で部材を固定した後、本実施形態においては、仮固定された部材を所望の形状に切断、研削、研磨、孔開け等の加工を施した後、該仮固定用接着剤の硬化体を浸漬することにより、仮固定用接着剤の硬化体を部材から剥離することができる。
【0064】
本実施形態においては、仮固定された部材を所望の形状に切断、研削、研磨、孔開け等の加工を施した後、該仮固定用接着剤の硬化体を加熱処理することにより、仮固定用接着剤の硬化体から部材を剥離することもできる。加熱処理の温度は、150〜300℃が好ましく、150〜250℃がより好ましい。
【0065】
本実施形態の仮固定用接着剤は、シリコン、樹脂、カーボン、金属、水晶、サファイア、シリコンカーバイド及びガラスから選ばれる1種以上の部材の接着に使用できる。シリコン、水晶、サファイア、シリコンカーバイドから選ばれる1種以上のインゴットを、80〜1000μmの厚みを有するウエハに加工する際の接着に、本実施形態の仮固定用接着剤を使用した場合、より大きな効果を有する。ウエハの厚みが80μm以上だと加工後の寸法精度に優れ、1000μm以下だと剥離性に優れる。ウエハの厚みは100〜800μmが好ましく、120〜400μmがより好ましく、150〜250μmが最も好ましい。
【0066】
インゴットとしては、単結晶シリコンインゴット、多結晶シリコンインゴット、サファイヤインゴット、シリコンカーバイドインゴット又は窒化ガリウムインゴットから選ばれる1種以上が好ましい。本実施形態では、これらのインゴットを用いてウエハを作製することが好ましい。
特に、シリコンインゴットを切断してシリコンウエハを製造する場合に、本実施形態の仮固定用接着剤は、大きな効果を有する。
【0067】
シリコンウエハを製造する方法としては、例えば、本実施形態の仮固定用接着剤を用いて、シリコンインゴットを基材に仮固定した後、シリコンインゴットを切断してシリコンウエハを作製し、仮固定用接着剤の硬化体を水に浸漬し、シリコンウエハを基材から取り外す方法等が挙げられる。基材は、部材を支えるために使用するものであり、例えば、部材を仮固定するものである。
【0068】
シリコンインゴットは、固体シリコンを加熱炉内で融解、凝固させる方法等により得られる。シリコンインゴットは、ワイヤーソー等により切断する。ワイヤーソーとしては、ピアノ線等が挙げられる(特許文献4、5参照)。シリコンウエハは、太陽電池や半導体等に使用できる。
【0069】
【特許文献4】特開平7−153724号公報
【特許文献5】特開平11−60400号公報
【0070】
本実施形態によりウエハを製造する場合、部材に単結晶シリコンインゴット又は多結晶シリコンインゴットを使用することが好ましい。
【0071】
部材に単結晶シリコンインゴット又は多結晶シリコンインゴットを使用することで、実施形態の仮固定用接着剤は、大きな効果を有する。
【0072】
本実施形態によりウエハを製造する場合、部材に単結晶シリコンカーバイドを使用しても良い。
【0073】
部材に単結晶シリコンカーバイドを使用することで、実施形態の仮固定用接着剤は、大きな効果を有する。本手法を用いれば従来加工が困難であったシリコンカーバイドの加工を実施できる。
【実施例】
【0074】
以下の実験例により本実施形態を詳細に説明するが、本実施形態はこれら実験例に限定されるものではない。各使用材料の使用量の単位は質量部で示す。特記しない限り、温度23℃、湿度50%RHの環境下で、行った。
【0075】
実験例1
表1〜2の組成で各使用材料を混合して、第一剤と第二剤からなる仮固定用接着剤を調製し、物性を評価した。第一剤と第二剤の混合質量比率は表1に示した。結果を表1〜に示した。
【0076】
(使用材料)
2−ヒドロキシエチルメタクリレート:市販品
フェノキシエチルメタクリレート:市販品
グリセリンモノメタクリレート:市販品
ベンジルメタクリレート:市販品
2−ヒドロキシプロピルメタクリレート:市販品
2−エチルヘキシルメタクリレート:市販品
ラウリルメタクリレート:市販品
2.2−ビス[4−(メタクリロキシポリエトキシ)フェニル]プロパン:市販品、ポリエトキシ構造はペンタエトキシ構造である。
1.9−ノナンジオールジメタクリレート:市販品
ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート:市販品
ジメチロール−トリシクロデカンジメタクリレート:市販品
γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン:市販品
クメンハイドロパーオキサイド:市販品
メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体(MMA−BD−ST共重合体):市販品
アクリロニトリル−ブタジエンゴム(AN−BDゴム):高ニトリルNBR、ニトリル含量41質量%、市販品
パラフィン類:パラフィンワックス、市販品
ハイドロキノンモノメチルエーテル:市販品
パラベンゾキノン:市販品
アシッドホスホオキシエチルメタクリレート:市販品
SPCC:SPCC−Dブラスト処理鋼板、市販品
単結晶シリコンウエハ(Siウエハ):市販品、単結晶
単結晶シリコンインゴット(Siインゴット):市販品、単結晶
シリコンカーバイドインゴット:市販品
【0077】
物性については、次のようにして測定した。
【0078】
[固着時間]JIS K6856に従い、試験片(100mm×25mm×1.6mmt、SPCC−Dブラスト処理)の片側に第一剤と第二剤を等量混合したものを塗布し、その後直ちにもう片側の試験片を重ね合わせて貼り合せたものを試料とした。試料の固着時間(単位:分)は、温度23℃、湿度50%RHの環境下で、プッシュプルゲージで引っ張ってから、0.4MPa以上の強度が測定されるまでの時間を測定した。
【0079】
[引張り接着強さ]JIS K6849(1994)に準じて、試験片(15mm×15mm×0.725mmt、Siウエハ)の片側に第一剤と第二剤を等量混合したものを塗布し、その後、直ちにもう片側の試験片(擦りガラス(青板ガラス、15mm×15mm×0.7mmt、Ra:5μm))を重ね合わせて貼り合わせた後、接着部位を直径8mmの円形として、23℃で24時間養生したものを試料とした。試料の引張接着強さ(単位:MPa)は、温度23℃、湿度50%RH環境下において、引張速度10mm/分で測定した。
【0080】
[23℃水膨潤率(%)]PETフィルム上に、1mm厚のシリコンシートからなる型枠を配置した。仮固定用接着剤を型枠に流し込んだ。仮固定用接着剤を流し込んだ型枠の表面に1mm厚のPETフィルムを配置した。即ち、2枚のPETフィルムの間に、仮固定用接着剤が流し込まれた型枠を挟み込んだ構造体を作製した。その後、仮固定用接着剤を、23℃で24時間養生し、厚さ1mmの仮固定用接着剤の硬化体を作製した。作製した硬化体を25mm×25mmの正方形状に切断した後、得られた硬化体を、ASTMD570の吸水率測定法に準じて測定した。水膨潤率(%)は下記の式から求めた。水は23℃の純水を用いた。硬化体を水に60分間浸漬した後に測定した。
水膨潤率(%)=100×(水浸漬後の硬化体質量−水浸漬前の硬化体質量)/(水浸漬前の硬化体質量)
【0081】
[50℃水膨潤率(%)]PETフィルム上に、1mm厚のシリコンシートからなる型枠を配置した。仮固定用接着剤を型枠に流し込んだ。仮固定用接着剤を流し込んだ型枠の表面に1mm厚のPETフィルムを配置した。即ち、2枚のPETフィルムの間に、仮固定用接着剤が流し込まれた型枠を挟み込んだ構造体を作製した。その後、仮固定用接着剤を、23℃で24時間養生し、厚さ1mmの仮固定用接着剤の硬化体を作製した。作製した硬化体を25mm×25mmの正方形状に切断した後、得られた硬化体を、ASTMD570の吸水率測定法に準じて測定した。水膨潤率(%)は下記の式から求めた。但し、水は50℃の純水を用いた。硬化体を水に60分間浸漬した後に測定した。
水膨潤率(%)=100×(水浸漬後の硬化体質量−水浸漬前の硬化体質量)/(水浸漬前の硬化体質量)
【0082】
[ガラス転移温度(℃)]PETフィルム上に、1mm厚のシリコンシートからなる型枠を配置した。仮固定用接着剤を型枠に流し込んだ。仮固定用接着剤を流し込んだ型枠の表面に1mm厚のPETフィルムを配置した。即ち、2枚のPETフィルムの間に、仮固定用接着剤が流し込まれた型枠を挟み込んだ構造体を作製した。その後、仮固定用接着剤を、23℃で24時間養生し、厚さ1mmの仮固定用接着剤の硬化体を作製した。硬化体をカッターにて長さ50mm×幅5mmに切断し、ガラス転移温度測定用硬化体とした。ガラス転移温度は、セイコー電子産業社製、動的粘弾性測定装置「DMS210」により測定した。窒素雰囲気下で、前記硬化体に1Hzの引張方向の応力及び歪みを加え、毎分2℃の昇温速度で昇温しながらtanδを測定し、該tanδのピークトップの温度をガラス転移温度とした。
【0083】
【表1】

【0084】
【表2】


【0085】
実験例2
表1〜2に示す仮固定用接着剤を使用し、Siインゴット加工試験を行い、物性を評価した。結果を表3〜4に示した。第一剤と第二剤の混合質量比率は表3〜4に示した。
【0086】
[Siインゴット加工試験]125mm×125mm×400mmのSi(シリコン)インゴットと擦りガラス(青板ガラス、125mm×400mm×20mmt、Ra:5μm)を表2に示す仮固定用接着剤にて接着硬化させた。具体的には、以下のように行った。ワイヤー装置にSiインゴットと擦りガラスの接着試験体を取り付けるために、擦りガラス(Siインゴットを貼り合せていない面)に、表2に示す仮固定用接着剤を塗布し、仮固定用接着剤の表面にアルミ製の治具を貼り合わせた。その後、接着試験体を23℃で24時間養生した。養生した接着試験体のSiインゴット部分のみをワイヤーソー装置を使用して180μm厚に切断した。切断中のSiインゴットの脱落の有無を観察した(Siインゴット加工試験(脱落状態))。Siインゴットのみを切断した接着試験体を23℃の純水に60分間浸漬し、切断されたSiウエハが脱落しないかを観察した(Siインゴット加工試験(洗浄試験))。次いで、50℃純水に浸漬した、純水に浸漬してから、Siウエハと青板ガラスが全て剥離するまでの時間を測定した(Siインゴット加工試験(剥離時間))。この時、接着剤の硬化体の剥離状態についても観察した(Siインゴット加工試験(剥離状態))。最後に、アルミ製の治具をホットプレートにて200℃1時間加熱し、アルミ製の治具と擦りガラスが分離できるかを確認した(治具剥離)。剥離状態では、界面で剥離することが、基材や部材の表面上に、仮固定用接着剤の糊残りが少ない点で、好ましい。
【0087】
【表3】
【0088】
【表4】
【0089】
本実施形態の仮固定用接着剤を使用することにより、短時間で硬化し、高い接着強度を発現できる。仮固定用接着剤の硬化体は水に接触することにより接着強度が低下し、部材間の接着性、又は、部材と治具との接着性が低下するので、容易に部材の回収ができる。本実施形態の仮固定用接着剤を使用して、シリコンインゴットを切断した場合、シリコンインゴットが脱落せず、良好な加工性を示し、加工後は容易に剥離する。
【0090】
本実施形態ではない仮固定用接着剤は、効果を示さなかった。実験例1−5〜実験例1−8の組成物、実験例1−16〜実験例1−19の組成物は、水膨潤率、特に50℃の水膨潤率が小さいので剥離性が小さく、接着性も小さかった。実験例1−9〜実験例1−11の組成物(実験例2−13〜実験例2−15を参照)、実験例1−20の組成物(実験例2−24を参照)は、加工試験においてSiウエハが脱落し、加工性を示さなかった。(1)と(2)の使用量が同一の場合(実験例1−11の組成物(実験例2−15を参照))、加工試験においてSiウエハが脱落し、加工性を示さなかった。
【0091】
本実施形態の仮固定用接着剤は、第一剤と第二剤において、各(メタ)アクリレートモノマーの使用量が異なる。特に(1)と(2)の使用量が異なる。本実施形態の仮固定用接着剤は、第一剤と第二剤の混合質量比率を変更してもよい。本実施形態の仮固定用接着剤は、混合比率を変更するだけで、異なるワークに対しても、加工後の洗浄工程において部材が剥離せず、低温の温水で速やかに剥離が可能となる。
【0092】
本実施形態は、例えば、以下の特徴を有する。本実施形態により、切削加工後の部材の寸法精度が向上し、高い接着強度を有し、加工時に発生する加工熱に対する耐熱性を有し、水中での剥離性に優れ、加工後の洗浄工程においては剥離せず、混合比率を変更するだけで剥離性と耐洗浄性を変更可能であり、部材に糊残りがなく、環境的や作業性に優れ、硬化速度が速い、安全な二剤型(メタ)アクリル系接着剤が得られる。
【0093】
本実施形態は、二剤の(メタ)アクリル系接着剤を混合することにより短時間で硬化する。このためにエポキシ系接着剤に比べて、作業性及び作業時間短縮の点で、著しく優れ、アミンやポリチオールといった悪臭物質を硬化剤として使用しないため、安全性、作業性に優れる。本実施形態の硬化体は、加工時に用いる切削水等に影響されずに、高い接着強度と高い弾性率を有するため、部材の加工時にずれを生じにくく、寸法精度の点で優れた部材が容易に得られる。本実施形態の硬化体は、ガラス転移温度が高いため、加工時に生成する加工熱に対する耐熱性を有し、寸法精度の点で、優れる。本実施形態は、硬化体が温水と接触して膨潤し、剥離するが、その膨潤率を制御しているので、水を使用した洗浄工程に対する耐洗浄性を有する。本実施形態は、混合比率を変更するだけで、異なるワークに対しても、加工後の洗浄工程において部材が剥離せず、低温の温水で速やかに剥離が可能となる。
これにより、生産性や作業性が優れる。