特許第6739267号(P6739267)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6739267
(24)【登録日】2020年7月27日
(45)【発行日】2020年8月12日
(54)【発明の名称】流体封入式筒形防振装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 13/14 20060101AFI20200730BHJP
【FI】
   F16F13/14 Z
【請求項の数】7
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-143514(P2016-143514)
(22)【出願日】2016年7月21日
(65)【公開番号】特開2017-62028(P2017-62028A)
(43)【公開日】2017年3月30日
【審査請求日】2019年4月5日
(31)【優先権主張番号】特願2015-187101(P2015-187101)
(32)【優先日】2015年9月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】特許業務法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【弁理士】
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【弁理士】
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 博之
【審査官】 熊谷 健治
(56)【参考文献】
【文献】 特表2003−533654(JP,A)
【文献】 特開昭62−009042(JP,A)
【文献】 特開平04−165139(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 11/00−13/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナ軸部材とアウタ筒部材がゴム弾性体で連結されていると共に、非圧縮性流体が封入された第一及び第二の流体室が設けられて、該第一の流体室と該第二の流体室がオリフィス通路で連通された流体封入式筒形防振装置において、
前記インナ軸部材と前記アウタ筒部材とを長さ方向両側でそれぞれ弾性的に連結する第一の端部ゴム壁および第二の端部ゴム壁と、該長さ方向の中間部分で弾性的に連結する中間ゴム壁とを含んで前記ゴム弾性体が構成されており、該中間ゴム壁の該長さ方向一方の側に前記第一の流体室が設けられていると共に該長さ方向他方の側に前記第二の流体室が設けられている一方、
該インナ軸部材と該アウタ筒部材との間を周方向に延びるオリフィス部材が設けられており、該オリフィス部材によって前記オリフィス通路が形成されていると共に、
該オリフィス部材がオリフィス部材本体の前記長さ方向両端面にそれぞれ蓋部材を重ね合わせた構造を有しており、該オリフィス部材本体を前記長さ方向に貫通する複数の貫通孔が形成されていると共に、該複数の貫通孔の端部開口が該蓋部材で覆われてそれら貫通孔が相互に直列的に連通されており、相互に連通されたそれら複数の貫通孔によって該インナ軸部材または該アウタ筒部材の該長さ方向で往復して周方向に蛇行状態で延びる前記オリフィス通路が形成されていることを特徴とする流体封入式筒形防振装置。
【請求項2】
前記オリフィス通路の断面積が少なくとも前記長さ方向に延びる部分で略一定とされている請求項1に記載の流体封入式筒形防振装置。
【請求項3】
前記オリフィス通路において前記長さ方向で折り返す部分の通路における外周側内面が、円弧状の湾曲面とされている請求項1又は2に記載の流体封入式筒形防振装置。
【請求項4】
前記複数の貫通孔が前記インナ軸部材または前記アウタ筒部材の中心軸と平行に延びている請求項1〜3の何れか1項に記載の流体封入式筒形防振装置。
【請求項5】
前記オリフィス部材が前記インナ軸部材の外周面に配されている請求項1〜4の何れか1項に記載の流体封入式筒形防振装置。
【請求項6】
前記インナ軸部材の外周面と前記アウタ筒部材の内周面の何れかに配されたオリフィス部材によって前記オリフィス通路が形成されていると共に、該オリフィス通路の形成された該オリフィス部材が前記中間ゴム壁から前記第一の流体室と前記第二の流体室の少なくとも一方の内部に延び出しており、延び出した前記長さ方向端部が前記第一の端部ゴム壁と前記第二の端部ゴム壁の少なくとも一方にまで達している請求項1〜の何れか1項に記載の流体封入式筒形防振装置。
【請求項7】
前記オリフィス通路の少なくとも一方の端部が前記長さ方向に向けて開口している請求項1〜の何れか1項に記載の流体封入式筒形防振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に封入された非圧縮性流体の流動作用による防振効果が発揮される流体封入式の防振装置に係り、例えば車両のボデーマウントやデフマウント、エンジンマウント、サブフレームマウント、キャブマウント、サスペンションブッシュなどに用いることのできる流体封入式筒形防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、振動伝達系を構成する部材間に介装される防振連結体や防振支持体の一種として、インナ軸部材の外周側にアウタ筒部材を離隔配置せしめて本体ゴム弾性体で連結した筒形防振装置が知られている。また、より高度な防振性能を実現するために、例えば特開平6−307493号公報(特許文献1)や特許第5462040号公報(特許文献2)に開示されているように、非圧縮性流体が封入された複数の流体室を設けてそれらの流体室をオリフィス通路で連通せしめた流体封入式筒形防振装置が提案されている。このような流体封入式筒型防振装置では、オリフィス通路の長さの確保やオリフィス通路の形成し易さなどから、周方向に延びるオリフィス通路が好適に採用されている。
【0003】
ところで、軸直角方向の振動入力が想定された流体封入式筒形防振装置では、特許文献1のように、複数の流体室が周方向に離れて配置されていることから、それら複数の流体室を連通するように周方向に延びるオリフィス通路の長さを長く設定することが比較的容易であった。
【0004】
ところが、特許文献2のような軸方向の振動入力が想定された流体封入式筒形防振装置において、周方向に延びるオリフィス通路を採用すると、優れた防振性能を得ることが難しいなどの問題があった。
【0005】
すなわち、軸直角方向の振動入力が想定された特許文献1の流体封入式筒形防振装置は、オリフィス通路で連通された複数の流体室が隔壁を挟んで周方向に配置されており、軸方向では1つの流体室だけが配されているが、軸方向の振動入力が想定された特許文献2の流体封入式筒形防振装置では、2つの流体室が隔壁を挟んで軸方向に配置されている。それ故、オリフィス通路が形成されたオリフィス部材の軸方向寸法が小さくなり易く、周方向に一周を超える長さをもったオリフィス通路を形成しようとすると、オリフィス通路の断面積が小さくなって、流体マスによる防振効果が効率的に発揮されなくなるおそれがある。一方で、オリフィス部材において軸方向に複数段とならないようにオリフィス通路の長さを限定すると、オリフィス通路のチューニングの自由度が制限されてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−307493号公報
【特許文献2】特許第5462040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、例えば小径の筒形防振装置などでもオリフィス通路による防振特性のチューニング自由度が確保され易い、新規な構造の流体封入式筒形防振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。また、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに限定されることなく、明細書全体および図面に記載され、或いはそれらの記載から当業者が把握することの出来る発明思想に基づいて認識されるものであることが理解されるべきである。
【0009】
本発明の第一の態様は、インナ軸部材とアウタ筒部材がゴム弾性体で連結されていると共に、非圧縮性流体が封入された第一及び第二の流体室が設けられて、該第一の流体室と該第二の流体室がオリフィス通路で連通された流体封入式筒形防振装置において、前記インナ軸部材と前記アウタ筒部材とを長さ方向両側でそれぞれ弾性的に連結する第一の端部ゴム壁および第二の端部ゴム壁と、該長さ方向の中間部分で弾性的に連結する中間ゴム壁とを含んで前記ゴム弾性体が構成されており、該中間ゴム壁の該長さ方向一方の側に前記第一の流体室が設けられていると共に該長さ方向他方の側に前記第二の流体室が設けられている一方、該インナ軸部材と該アウタ筒部材との間を周方向に延びるオリフィス部材が設けられており、該オリフィス部材によって前記オリフィス通路が形成されていると共に、該オリフィス部材がオリフィス部材本体の前記長さ方向両端面にそれぞれ蓋部材を重ね合わせた構造を有しており、該オリフィス部材本体を前記長さ方向に貫通する複数の貫通孔が形成されていると共に、該複数の貫通孔の端部開口が該蓋部材で覆われてそれら貫通孔が相互に直列的に連通されており、相互に連通されたそれら複数の貫通孔によって該インナ軸部材または該アウタ筒部材の該長さ方向で往復して周方向に蛇行状態で延びる前記オリフィス通路が形成されていることを特徴とする。
【0010】
本態様の流体封入式筒形防振装置では、第一の流体室と第二の流体室を連通するオリフィス通路がインナ軸部材またはアウタ筒部材の長さ方向で往復して周方向に蛇行状態で延びるように設けられていることから、例えばオリフィス通路の形成部位が小径で周長を十分に確保し難いような場合でも、オリフィス通路の長さをインナ軸部材またはアウタ筒部材の長さ方向で確保することが可能になり、オリフィス通路による防振特性のチューニング自由度の向上が図られ得る。
【0011】
また、本態様では、オリフィス通路のインナ軸部材またはアウタ筒部材の長さ方向に延びる端部を第一の流体室や第二の流体室に開口させて連通させることができ、それによって、流体室とオリフィス通路との流出入部分における流体流動方向を略直線状に設定することが可能になる。その結果、流体室とオリフィス通路との流出入部分における損失が抑えられると共に、流動抵抗に起因するキャビテーション等の不具合の軽減も図られ得ることとなる。
【0012】
また、本態様の流体封入式筒形防振装置では、第一の流体室と第二の流体室が中間ゴム壁を長さ方向で挟んだ両側に配されていることから、長さ方向の振動入力に対して、第一の流体室と第二の流体室の相対的な圧力差が有効に惹起されて、オリフィス通路を流動する流体の流動作用に基づいた防振効果が発揮される。さらに、例えば第一の端部ゴム壁と第二の端部ゴム壁とにおいてインナ軸部材またはアウタ筒部材の長さ方向の傾斜角度や拡張ばねを相互に異ならせることで、インナ軸部材とアウタ筒部材との間でのこれらの何れかの長さ方向の振動入力時に第一の流体室と第二の流体室の圧力差を積極的に生ぜしめてオリフィス通路を通じての流体流動量を効率的に確保することにより、インナ軸部材またはアウタ筒部材の長さ方向における振動に対する流体流動作用に基づく防振効果を一層効率的に得ることが可能になる。更にまた、本態様の流体封入式筒形防振装置では、オリフィス通路を形成するスペースをオリフィス部材によって一層容易に且つ効率的に確保することが可能になり、オリフィス通路のチューニング自由度の更なる向上も図られ得る。なお、本態様において、オリフィス通路は、「オリフィス部材」の内部にオリフィス通路が形成されている他、オリフィス部材とインナ軸部材やアウタ筒部材との重ね合わせ面間にオリフィス通路が形成されることも可能である。加えて、本態様の流体封入式筒形防振装置によれば、長さ方向で往復して周方向に蛇行状態で延びるオリフィス通路をオリフィス部材に対して容易に形成することができる。しかも、長さ方向の振動入力時に封入流体が振動入力方向に延びる貫通孔内を移動せしめられることから、流体マスが振動入力方向で入力振動に対して位相差をもって移動することなどによって流体マスの移動に伴う振動エネルギーの低減作用などが発揮されて、防振性能の向上や有効な防振効果が発揮され得る周波数域の拡張なども図られ得る。
【0013】
本発明の第二の態様は、前記第一の態様に従う構造とされた流体封入式筒形防振装置において、前記オリフィス通路の断面積が少なくとも前記長さ方向に延びる部分で略一定とされているものである。
【0014】
本態様の流体封入式筒形防振装置では、オリフィス通路におけるインナ軸部材またはアウタ筒部材の長さ方向に延びる部分の断面積を略一定にすることで、周方向に折り返すオリフィス通路を形成するスペース効率の向上が図られ得る。また、防振すべき入力振動がインナ軸部材またはアウタ筒部材の長さ方向とされる場合には、振動入力方向となる当該長さ方向の流体流動がより効率的に惹起されることで、流体の流動マスに基づく防振効果の向上も図られ得る。なお、本態様においてインナ軸部材またはアウタ筒部材の長さ方向に延びるオリフィス通路部分は、好適には当該長さ方向で直線的に且つ相互に平行に延びるように形成される。
【0015】
本発明の第三の態様は、前記第一又は第二の態様に従う構造とされた流体封入式筒形防振装置であって、前記オリフィス通路において前記長さ方向で折り返す部分の通路における外周側内面が、円弧状の湾曲面とされているものである。
【0016】
本態様の流体封入式筒形防振装置では、オリフィス通路において直線状に延びる端部で折り返す部分で、流動流体が円弧状の湾曲面で案内されることにより、著しい乱流が抑えられて安定した流体流動が実現されることとなり、目的とする防振効果の安定化や向上が図られ得る。
【0022】
本発明の第の態様は、前記第一〜三の何れか一つの態様に従う構造とされた流体封入式筒形防振装置において、前記複数の貫通孔が前記インナ軸部材又は前記アウタ筒部材の中心軸と平行に延びているものである。
【0023】
本態様の流体封入式筒形防振装置では、各貫通孔がインナ軸部材又はアウタ筒部材の中心軸に対して非傾斜で延びていることから、インナ軸部材又はアウタ筒部材の中心軸と平行な方向の振動入力に対する防振効果をより効果的に得ることができる。また、貫通孔が相互に平行に設けられることから、貫通孔ひいてはオリフィス通路の断面積や長さ(貫通孔の総数)をより優れたスペース効率で設定することも可能になる。
【0024】
本発明の第の態様は、前記第一〜四の何れか一つの態様に従う構造とされた流体封入式筒形防振装置において、前記オリフィス部材が前記インナ軸部材の外周面に配されているものである。
【0025】
本態様の流体封入式筒形防振装置では、インナ軸部材に設けられる比較的小径のオリフィス部材であっても、オリフィス通路が長さ方向で往復して周方向に蛇行状態で延びる構造とされていることによって、オリフィス通路の通路長さを十分に確保することができる。
【0026】
本発明の第の態様は、前記第一〜の何れか一つの態様に従う構造とされた流体封入式筒形防振装置において、前記インナ軸部材の外周面と前記アウタ筒部材の内周面の何れかに配されたオリフィス部材によって前記オリフィス通路が形成されていると共に、該オリフィス通路の形成された該オリフィス部材が前記中間ゴム壁から前記第一の流体室と前記第二の流体室の少なくとも一方の内部に延び出しており、延び出した前記長さ方向端部が前記第一の端部ゴム壁と前記第二の端部ゴム壁の少なくとも一方にまで達しているものである。
【0027】
本態様の流体封入式筒形防振装置では、オリフィス部材におけるインナ軸部材またはアウタ筒部材の長さ方向寸法を少なくとも当該長さ方向一方の側において流体室を越えて端部ゴム壁に至るまで大きく設定することで、オリフィス通路の長さ特にインナ軸部材またはアウタ筒部材の長さ方向に延びる部分の長さを、中間ゴム壁や流体室における当該長さ方向の寸法で制限されることなく一層大きく設定することが可能になる。
【0028】
本発明の第の態様は、前記第一〜の何れか一つの態様に従う構造とされた流体封入式筒形防振装置において、前記オリフィス通路の少なくとも一方の端部が前記長さ方向に向けて開口しているものである。
【0029】
本態様の流体封入式筒形防振装置では、長さ方向に入力される振動に対して、オリフィス通路における流体の流出入部分で流体流動がスムーズに生ぜしめられて、流体の流動抵抗が低減されることから、防振性能の向上が図られると共に、キャビテーションに起因する異音の発生などを防止することも可能となり得る。
【発明の効果】
【0030】
本発明に従う構造とされた流体封入式筒形防振装置では、中間ゴム壁に対してインナ軸部材またはアウタ筒部材の長さ方向両側に配された流体室を連通するオリフィス通路が、長さ方向で往復して周方向に蛇行状態で延びる新たな態様をもって実現される。その結果、インナ軸部材またはアウタ筒部材の長さ方向の振動に対する防振効果が発揮されると共に、オリフィス通路による防振特性のチューニング自由度が確保され易いなどといった技術的効果が達成される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の第1の実施形態としての流体封入式筒形防振装置を示す縦断面図であって、図2におけるI−I断面図。
図2図1におけるII−II断面図。
図3図1に示される流体封入式筒形防振装置を構成する第三の一体加硫成形品を示す平面図。
図4図3におけるIV−IV断面図。
図5図3に示される第三の一体加硫成形品のオリフィス部材を構成するオリフィス部材本体を示す斜視図。
図6図5に示されるオリフィス部材本体の平面図。
図7図5に示されるオリフィス部材本体の底面図。
図8図6におけるVIII−VIII断面図。
図9図3に示される第三の一体加硫成形品のオリフィス部材を構成する環状プレートを示す斜視図。
図10図9に示される環状プレートの平面図。
図11】本発明の第2の実施形態としての流体封入式筒形防振装置を示す縦断面図。
図12】本発明に係る流体封入式筒形防振装置におけるオリフィス通路の別の態様を説明するための説明図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0033】
先ず、図1,2には、本発明に係る流体封入式筒形防振装置の第1の実施形態として自動車用のエンジンマウント10が示されている。このエンジンマウント10は、インナ軸部材としての内筒金具12とアウタ筒部材としての外筒金具14とがゴム弾性体16によって弾性的に連結された構造とされており、図示しない自動車のパワーユニットとボデーとの間に装着されて、パワーユニットをボデーに対して防振支持せしめるようになっている。なお、以下の説明において、原則として、軸方向とはエンジンマウント10の中心軸方向である図1中の上下方向を言う。また、上下方向とは、図1中の上下方向を言う。
【0034】
より詳細には、内筒金具12は、全体として厚肉小径の略ストレートな円筒形状を有しており、上下方向に延びている。また、内筒金具12の上端部には、略円環板形状を有する上フランジ状金具18が溶接などで固着されている。上フランジ状金具18は、内筒金具12と同一中心軸上で軸直角方向に広がって配設されており、中央部分には、内筒金具12の中心孔20と略同じ内径の中央孔22が形成されている。なお、これら内筒金具12および上フランジ状金具18は、例えば鉄やアルミニウム合金などの金属により形成される。
【0035】
また、本実施形態の内筒金具12の外周面は、全体として段付円筒形状とされている。すなわち、内筒金具12の軸方向中間部分における外周面には、軸方向で所定の距離を隔てて、下方から上方に向かって逆テーパ状に拡径する第一および第二の段差面24,26が設けられており、第一の段差面24が第二の段差面26よりも上方に位置している。そして、内筒金具12にこれらの段差面24,26が設けられることにより、内筒金具12の外径寸法が下方になるにつれて段階的に小さくなるようにされており、内筒金具12における第一の段差面24よりも上方が大径筒部28とされているとともに、第二の段差面26よりも下方が小径筒部30とされている一方、第一および第二の段差面24,26間が、後述するオリフィス部材66が嵌着される嵌着筒部32とされている。
【0036】
かかる内筒金具12は、中心孔20,22に挿通される図示しない取付ボルトにより、自動車のパワーユニットに取り付けられるようになっている。
【0037】
一方、外筒金具14は、内筒金具12の外径寸法よりも十分に大きな内径寸法と内筒金具12よりも小さな軸方向寸法を有して上下方向に延びており、内筒金具12に外挿されて、内筒金具12と略同一中心軸上に配設されている。そして、かかる配設状態下、内筒金具12と外筒金具14は、径方向に所定距離を隔てて対向位置せしめられているとともに、外筒金具14が内筒金具12の軸方向中間部分に位置せしめられており、外筒金具14の軸方向両側から内筒金具12の軸方向両端部が、それぞれ所定長さで突出せしめられている。かかる外筒金具14の上端部分には、周方向の全周に亘って小径とされた括れ状部34が設けられているとともに、当該括れ状部34の上方には径方向外方にフランジ状に広がる略円環板形状の取付板部36が一体形成されている。そして、取付板部36には複数のボルト挿通孔38が形成されており、当該ボルト挿通孔38に挿通される取付ボルトにより、外筒金具14が自動車のボデーに取り付けられるようになっている。一方、外筒金具14の下端部分には、かしめ加工によって全周に亘って縮径される環状のかしめ部39が形成されている。
【0038】
そして、これら互いに内外挿状態で配設された内筒金具12および外筒金具14は、それぞれの上端部間が、第一の端部ゴム壁としての第一の本体ゴム弾性体40によって相互に連結されている。この第一の本体ゴム弾性体40は、全体として厚肉の略円環ブロック形状を有しており、内周面が内筒金具12の大径筒部28の外周面に加硫接着されているとともに、外周面が外筒金具14において括れ状部34を含む上端部分の内周面に加硫接着されていることにより、内外筒金具12,14を備えた第一の一体加硫成形品42として形成されている。本実施形態では、第一の一体加硫成形品42において、内筒金具12の長さ方向と外筒金具14の長さ方向が相互に一致していると共に、それら内外筒金具12,14の長さ方向がエンジンマウント10の軸方向と一致しているが、例えば、内筒金具12と外筒金具14の何れか一方の長さ方向が、エンジンマウント10の軸方向に対して傾斜していても良い。
【0039】
また、第一の本体ゴム弾性体40は、外筒金具14の上端部分より上方では、外周面が全体として上方に向かうにつれて次第に内周側に傾斜するテーパ面とされているとともに、第一の本体ゴム弾性体40の上端面は上フランジ状金具18の下端面に加硫接着されている。一方、第一の本体ゴム弾性体40の下端面は、全体として外筒金具14から内筒金具12に向かって内周側に行くに従って上方に傾斜するテーパ状内面44とされている。
【0040】
さらに、外筒金具14の内周面上には、第一の本体ゴム弾性体40の下端面から下方に向かって延び出す筒形のシールゴム層46が、外筒金具14の内周面の略全体を覆うようにして、第一の本体ゴム弾性体40と一体形成されて、外筒金具14に加硫接着されている。なお、かかるシールゴム層46は、外筒金具14の下端よりも下方まで延び出して軸方向の緩衝ゴムが構成されている。
【0041】
また、内筒金具12における下端部分(小径筒部30)と外筒金具14の下端部分とは第二の端部ゴム壁としての第二の本体ゴム弾性体48により連結されている。この第二の本体ゴム弾性体48は全体として円環ブロック状とされており、上端面が全体として内周側に向かって次第に僅かに下傾する逆テーパ面とされているとともに、下端面が全体として内周側に向かって次第に下傾する逆テーパ面とされている。そして、かかる第二の本体ゴム弾性体48は、外周面が大径の略円筒形状の外側嵌着金具50の内周面に加硫接着されているとともに、内周面が小径の略円筒形状の内側嵌着金具52の外周面に加硫接着されていることにより、これら外内嵌着金具50,52を備えた第二の一体加硫成形品54として形成されている。
【0042】
ここで、外側嵌着金具50は、全体として上下方向に延びる略ストレートな円筒形状とされている一方、内側嵌着金具52は、上下方向で外径寸法が異ならされている。すなわち、内側嵌着金具52の軸方向中間部分には下方に向かってテーパ状に拡開するテーパ状部56が設けられており、当該テーパ状部56よりも上方が略ストレートに延びる上方筒部57とされる一方、テーパ状部56よりも下方が上方筒部57よりも大径で略ストレートに延びる拡径筒部58とされている。なお、拡径筒部58の内周側には略筒状の封止ゴム層60が設けられているとともに、テーパ状部56には、板厚方向に貫通する複数の貫通孔62が設けられており、第二の本体ゴム弾性体48が貫通孔62を通じて拡径筒部58の内周側まで回り込んで、第二の本体ゴム弾性体48と封止ゴム層60とが一体的に形成されている。
【0043】
また、内側嵌着金具52における上方筒部57の内径寸法が内筒金具12の小径筒部30の外径寸法と略同じか僅かに大きくされているとともに、外側嵌着金具50の外径寸法が外筒金具14における下端部分の内径寸法より僅かに小さくされている。そして、内筒金具12の小径筒部30に内側嵌着金具52が外嵌されるとともに、外筒金具14の下端部分にシールゴム層46を介して外側嵌着金具50が内嵌されることで、第二の一体加硫成形品54が、内筒金具12における小径筒部30と外筒金具14の下端部分との径方向間に嵌め入れられて、内筒金具12と外筒金具14の下端部分が第二の本体ゴム弾性体48により連結されている。なお、内筒金具12の小径筒部30に内側嵌着金具52が外嵌されて、封止ゴム層60を挟んで拡径筒部58が小径筒部30に対して流体密に嵌着されており、これにより、後述する第二の流体室110が流体密に封止されるようになっている。
【0044】
さらに、内筒金具12と外筒金具14の軸方向中間部分は、中間ゴム壁としての仕切ゴム弾性体64により相互に弾性的に連結されている。この仕切ゴム弾性体64は、全体として略円環形状のブロック形状とされており、上下両端面が、それぞれ軸方向内方に湾曲して周方向の全周に亘って延びる湾曲環状面を備えている。
【0045】
かかる仕切ゴム弾性体64は、内周面が後述するオリフィス通路104を備えるオリフィス部材66の外周面に加硫接着されるとともに、外周面が略筒形状の嵌着筒金具68の内周面に加硫接着されることにより、図3,4に示されるように、オリフィス部材66と嵌着筒金具68を備えた第三の一体加硫成形品70として形成されている。なお、嵌着筒金具68は、上下方向に略ストレートに延びる筒形状とされている。
【0046】
また、オリフィス部材66は、全体として周方向の全周に亘って連続して延びる円環ブロック形状とされており、図5〜8に示されるオリフィス部材本体72に対して、図9,10に示される蓋部材としての環状プレート74が組み付けられることにより構成されている。なお、これらオリフィス部材本体72や環状プレート74は、金属や硬質の合成樹脂などにより好適に形成され得る。
【0047】
このオリフィス部材本体72は、全体として円環状のブロック形状とされており、内筒金具12における嵌着筒部32と略同じ上下方向寸法を有している。すなわち、オリフィス部材本体72は、厚肉円筒形状の周壁76を備えており、周壁76で囲まれた中央部分を軸方向上下に貫通して内孔78が形成されている。なお、内孔78の内周面には上下方向に延びる複数(本実施形態では8つ)の係合突条79が周方向で略等間隔に形成されている。また、かかるオリフィス部材本体72の上下両端面には、略円形の収容凹部80,80がオリフィス部材本体72と同心的に設けられており、収容凹部80,80の外周側には、収容凹部80,80のそれぞれの底面81,81より上下それぞれの方向に突出する環状の外周カラー82,82が形成されている。なお、外周カラー82,82の内周面において、周上の一部からは、径方向内方に突出する位置決め突起84,84が一体形成されている。
【0048】
ここにおいて、周壁76における外周カラー82,82よりも内周側には、上下の底面81,81間を軸方向と平行に直線状に貫通する複数の貫通孔86が形成されており、本実施形態では奇数である15個の貫通孔86が相互に平行に形成されている。これらの貫通孔86は、それぞれ略同一円周上に位置しており、周方向で略等間隔に離隔して位置している。さらに、それぞれの貫通孔86は略同じ大きさの円形断面を有しており、それぞれ略一定断面で軸方向へ直線的に延びている。
【0049】
また、上下の収容凹部80,80の底面81,81には、所定の深さ寸法をもって上下のそれぞれの方向に開口する連通凹部88が複数形成されている。本実施形態では、上下の収容凹部80,80の底面81,81において、それぞれ7個の連通凹部88が形成されており、これらの連通凹部88が略同一円周上に位置している。これらの連通凹部88は、それぞれ所定幅で収容凹部80の周方向に延びる略円弧状溝とされており、周方向における両端部内面90,90が貫通孔86の断面に対応した略半円形の湾曲面とされている。また、連通凹部88の周方向長さは、周方向で隣り合う二つの貫通孔86,86間に跨がって延びるように設定されており、各連通凹部88の周方向両端部分の底面に二つの貫通孔86,86が開口せしめられている。
【0050】
なお、オリフィス部材本体72の上側では、15個の貫通孔86のうち1個を除いた14個の貫通孔86について、周方向で隣り合う二つの貫通孔86,86を互いに接続するようにして、合計7つの連通凹部88が設けられている。これにより、これらの貫通孔86,86が上部の連通凹部88を通じて相互に連通されている。特に、連通凹部88の周方向両端に貫通孔86,86が位置するようにされているとともに、連通凹部88における端部内面90,90の曲率半径と貫通孔86,86の半径が略等しくされていることから、連通凹部88の端部内面90,90と貫通孔86,86の内面が段差なく連続して滑らかに繋がるようになっている。
【0051】
また、オリフィス部材本体72の下側でも、1個を除いた14個の貫通孔86について、周方向で隣り合う二つの貫通孔86,86を互いに接続するようにして、合計7つの連通凹部88が設けられている。これら下側の7つの連通凹部88は、上側の7つの連通凹部88に対して、周方向で1個の貫通孔86の分だけ相対的にずれて形成されている。これにより、15個の貫通孔86の全てが、上下各7つの連通凹部88を介して、互いに直列的に接続されて連続せしめられている。また、オリフィス部材本体72の上側で他の14個の貫通孔86から外れて位置せしめられた1個の貫通孔86aの上側開口と、オリフィス部材本体72の下側で他の14個の貫通孔86から外れて位置せしめられた1個の貫通孔86bの下側開口とが、かかる直列的に接続された連続構造における各一方の開口端とされている。
【0052】
さらに、環状プレート74は、全体として略環状板形状とされており、外径寸法が収容凹部80の内径寸法と略同じか僅かに小さくされて、オリフィス部材本体72の上下両端に設けられた収容凹部80,80に対して一対の環状プレート74,74が嵌め込まれて組み付け可能とされている。また、環状プレート74の中央には板厚方向に貫通する中央孔96が形成されており、当該中央孔96の内径寸法がオリフィス部材本体72の内孔78の内径寸法と略等しくされている。更にまた、環状プレート74の外周縁部には、周上の一部において、位置決め凹部98が設けられている。この位置決め凹部98は、環状プレート74の外周側に開口する切欠きとされており、オリフィス部材本体72に設けられた位置決め突起84と略対応する大きさとされている。かかる位置決め凹部98,98に対して位置決め突起84,84を挿し入れることで、収容凹部80,80内で環状プレート74,74が周方向で位置決めされるようになっている。
【0053】
ここで、上側の収容凹部80に収容される環状プレート74の周上の一部には、板厚方向で貫通する円形の上連通孔100が設けられている一方、下側の収容凹部80に収容される環状プレート74の周上の一部には、板厚方向で貫通する円形の下連通孔102が設けられている。これら上下の連通孔100,102の内径寸法はオリフィス部材本体72に設けられた貫通孔86の内径寸法と略同じか僅かに大きくされている。そして、上側の収容凹部80に環状プレート74が位置決め状態で組み付けられることにより、上連通孔100が、オリフィス部材本体72の上部において上記貫通孔86aの開口部上に位置する一方、下側の収容凹部80に環状プレート74が位置決め状態で組み付けられることにより、下連通孔102が、オリフィス部材本体72の下部において上記貫通孔86bの開口部上に位置するようになっている。
【0054】
なお、上側の収容凹部80に収容される環状プレート74と下側の収容凹部80に収容される環状プレート74とは別の形状のものを採用してもよいが、本実施形態では、同一形状の環状プレート74を採用しており、例えば、図5に示されるオリフィス部材本体72の上側の収容凹部80に対して、図9に示す環状プレート74を上下反転させた状態で収容して固着するとともに、下側の収容凹部80に対して図9に示す状態で環状プレート74を収容して固着することで、本実施形態のオリフィス部材66が構成されている。
【0055】
かかるオリフィス部材66では、オリフィス部材本体72の上下に設けられた収容凹部80,80に環状プレート74,74が組み込まれて圧入などで固着されることから、オリフィス部材本体72に設けられた各連通凹部88の上方開口部または下方開口部が、オリフィス部材本体72の軸方向各一方の端面に重ね合わされた環状プレート74,74により覆蓋される。これにより、オリフィス部材66内部には、直列的に連通された各貫通孔86と各連通凹部88により、軸方向で往復して周方向に蛇行状態で延びる1本のオリフィス通路104が形成される。すなわち、オリフィス部材本体72の各貫通孔86によりオリフィス通路104において略一定断面積で軸方向に延びる部分が構成されているとともに、環状プレート74,74で覆われたオリフィス部材本体72の各連通凹部88によりオリフィス通路104において軸方向で折り返す部分が構成されている。なお、好適には、オリフィス通路104の略全長に亘って断面積が略一定とされる。そして、当該オリフィス通路104の一方の端部(上方開口部)が上連通孔100を通じて外部に連通しているとともに、他方の端部(下方開口部)が下連通孔102を通じて外部に連通している。
【0056】
かかる第三の一体加硫成形品70が内筒金具12と外筒金具14の軸方向中間部分における径方向間に嵌合されることで、内筒金具12と外筒金具14の軸方向中間部分は、仕切ゴム弾性体64により相互に弾性的に連結されている。すなわち、オリフィス部材66におけるオリフィス部材本体72の内孔78の内径寸法は内筒金具12の嵌着筒部32における外径寸法と略同じか僅かに大きくされているとともに、嵌着筒金具68の外径寸法は外筒金具14の軸方向中間部分における内径寸法より僅かに小さくされている。そして、オリフィス部材66のオリフィス部材本体72における内孔78および環状プレート74の中央孔96が内筒金具12の嵌着筒部32に外挿されて、オリフィス部材本体72が内筒金具12に圧入などで固着されるとともに、外筒金具14の軸方向中間部分に嵌着筒金具68がシールゴム層46を介して内挿されて外筒金具14の筒状部が八方絞り加工等で縮径されて位置決め状態で固定される。なお、オリフィス部材66が内筒金具12の嵌着筒部32に外嵌される際に、内孔78に設けられた係合突条79が嵌着筒部32の外面との当接で適宜に変形などすることで、オリフィス部材66と内筒金具12との寸法誤差の許容と固着力の確保が図られ得る。
【0057】
上記の如き第一の一体加硫成形品42に対して第二、第三の一体加硫成形品54,70を組み付けることにより本実施形態のエンジンマウント10が構成されている。すなわち、内外筒金具12,14の上端部間が第一の本体ゴム弾性体40で連結されている一方、下端部間が第二の本体ゴム弾性体48で連結されているとともに、軸方向中間部分間が仕切ゴム弾性体64で連結されていることから、内筒金具12と外筒金具14とを連結するゴム弾性体16が、第一の本体ゴム弾性体40と第二の本体ゴム弾性体48と仕切ゴム弾性体64とを含んで構成されている。
【0058】
ここにおいて、内外筒金具12,14の上端部間が第一の本体ゴム弾性体40で流体密に連結されているとともに、下端部間が第二の本体ゴム弾性体48で流体密に連結されていることから、第一の本体ゴム弾性体40と第二の本体ゴム弾性体48との軸方向間において、内筒金具12と外筒金具14の径方向対向面間には、外部空間に対して遮断された密閉状態の流体封入領域106が、円環形状をもって形成されている。そして、この流体封入領域106には、水やアルキレングリコール、ポリアルキレングリコール、シリコーン油などの適当な非圧縮性流体が充填されて封入されている。なお、非圧縮性流体の充填と封入は、例えば第一の一体加硫成形品42に対する第二、第三の一体加硫成形品54,70の組付けを、上記の如き非圧縮性流体中で行うことなどによって有利になされ得る。
【0059】
また、第一の一体加硫成形品42に対して第二、第三の一体加硫成形品54,70を組み付ける際には、第一の一体加硫成形品42の下方から第三、第二の一体加硫成形品70,54を順次嵌め入れて、外筒金具14の筒状部に八方絞り加工などを施し、外筒金具14の下端にかしめ加工を施してかしめ部39を縮径形成することにより、第二、第三の一体加硫成形品54,70が第一の一体加硫成形品42により保持され得る。なお、第一の一体加硫成形品42に対して第三の一体加硫成形品70を下方から嵌め入れる際には、第三の一体加硫成形品70の軸方向位置が、オリフィス部材66の中心孔の上部開口縁部(環状プレート74の中央孔96の開口縁部)と内筒金具12の第一の段差面24とが当接すること、および第一の本体ゴム弾性体40の下端と嵌着筒金具68の上端とが当接することにより規定され得る。また、第一の一体加硫成形品42に対して第二の一体加硫成形品54を下方から嵌め入れる際には、第二の一体加硫成形品54の軸方向位置が、嵌着筒金具68の下端と外側嵌着金具50の上端とが当接することにより規定され得る。
【0060】
さらに、流体封入領域106内に第三の一体加硫成形品70が収容配置されることにより、流体封入領域106が第三の一体加硫成形品70を挟んだ上下両側に仕切られている。これにより、第三の一体加硫成形品70の上側には、壁部の一部が第一の本体ゴム弾性体40で構成された第一の流体室108が形成されているとともに、第三の一体加硫成形品70の下側には、壁部の一部が第二の本体ゴム弾性体48で構成された第二の流体室110が形成されており、これら第一および第二の流体室108,110に非圧縮性流体が封入されている。
【0061】
そして、オリフィス部材66内に設けられたオリフィス通路104が上側の環状プレート74の上連通孔100を通じて第一の流体室108に連通しているとともに、下側の環状プレート74の下連通孔102を通じて第二の流体室110に連通している。すなわち、第一の流体室108と第二の流体室110とがオリフィス通路104を通じて相互に連通されている。なお、オリフィス通路104は、貫通孔86aで構成された一方の端部が、第一の流体室108に対して軸方向に開口していると共に、貫通孔86bで構成された他方の端部が、第二の流体室110に対して軸方向に開口している。
【0062】
かかるエンジンマウント10の内外筒金具12,14間へ軸方向の振動が入力されて、例えば外筒金具14に対して内筒金具12が下方に変位する際には、内筒金具12とともに、内筒金具12に固定されている内側嵌着金具52およびオリフィス部材66も下方に変位する。これに伴い、第一の本体ゴム弾性体40、第二の本体ゴム弾性体48、仕切ゴム弾性体64も下方に剪断変形せしめられて、ゴム弾性体16の弾性変形により防振効果が発揮される。また、振動の入力に伴い、第一の流体室108と第二の流体室110間に相対的な圧力変動が生ぜしめられるが、オリフィス通路104を通じた非圧縮性流体の流動により振動が減衰せしめられる。これらの作用により、入力された振動に対して防振効果が発揮され得る。
【0063】
ここにおいて、本実施形態のエンジンマウント(流体封入式筒形防振装置)10では、オリフィス通路104が、軸方向で往復して周方向に蛇行状態で延びるように設けられていることから、例えば特許文献1に記載の従来構造の液封防振装置のようにオリフィス通路が周方向に延びる場合に比べて、オリフィス通路104の長さ寸法を十分に大きく確保することができる。これにより、オリフィス通路104の長さを優れたスペース効率で確保可能であることから、内筒金具12の外周面に外挿状態で配された小径のオリフィス部材66であっても、オリフィス通路104の通路長を十分な長さで形成することができる。また、オリフィス通路104による防振特性のチューニングが優れた設定自由度をもってなされ得る。特に、本実施形態のようにオリフィス通路104を配することにより、防振効果が発揮される周波数がブロード化して、より幅広い周波数の振動に対して防振効果を得ることも可能になる。このように流体の流動作用に基づく防振効果がより広い周波数域で発揮され得る理由としては、例えば、オリフィス通路104が貫通孔86で形成された軸方向に延びる部分を複数備えているとともに、周方向で隣り合う貫通孔86,86において振動入力時の流体流動方向が相互に逆位相で生じることにより、複数の貫通孔86内の流体マスの移動が入力振動に対して位相差をもって生ぜしめられることなどが考えられる。さらに、オリフィス通路104が蛇行状態で周方向に延びていることから、オリフィス通路104の流体流動の位相遅れや減衰作用が軸方向端部の折返し部分(連通凹部88)で大きくなることによっても、防振効果のブロード化が図られ得る。
【0064】
また、オリフィス通路104の長さ方向両端部分が両流体室108,110に対して軸方向に略直線状に延びていることから、オリフィス通路104における流体の流出入部分において、オリフィス通路104を通じての両流体室108,110間の流体流動がスムーズになされる。すなわち、流体がオリフィス通路の内壁などに打ち当たるなどして局所的に流動抵抗が大きくなることなどが回避されて、流動抵抗に起因するキャビテーションなどの不具合の発生も効果的に抑えられ得る。
【0065】
さらに、かかるオリフィス通路104が硬質部材であるオリフィス部材66の内部に形成されることから、オリフィス通路104が安定して確保され得る。特に、オリフィス通路104を構成する複数の貫通孔86は、それぞれ軸方向で略一定の断面形状とされており、且つそれぞれの貫通孔86が軸方向で直線的に、そして相互に平行に延びていることから、オリフィス部材66の内部のスペースを巧く利用してオリフィス通路104を配することができる。更にまた、本実施形態では、主な振動入力方向がエンジンマウント10の軸方向であることから、貫通孔86内の流体流動が効率的に惹起されて、防振効果の向上が図られ得る。加えて、オリフィス通路104を構成する貫通孔86が軸方向に延びているとともに主たる振動入力方向が軸方向であり、貫通孔86内の流体マスが振動入力方向に移動することから、流体マスの移動による振動エネルギーの相殺的な低減作用も発揮され得る。
【0066】
次に、図11には、本発明に係る流体封入式筒形防振装置の第2の実施形態として自動車用のエンジンマウント112が示されている。本実施形態では、前記第1の実施形態よりもオリフィス部材114の軸方向寸法が大きくされており、当該オリフィス部材114の上端部分が第一の本体ゴム弾性体40にまで達している。なお、以下の説明において、前記第1の実施形態と実質的に同一の部材および部位には、図中に、前記第1の実施形態と同一の符号を付すことにより詳細な説明を省略する。
【0067】
すなわち、前記第1の実施形態では、オリフィス部材66の上面と第一の本体ゴム弾性体40の下面(テーパ状内面44)とが軸方向で相互に離隔していたが、本実施形態では、第一の本体ゴム弾性体40のテーパ状内面44における内周側において、下方に開口する円形凹部116が形成されている。そして、オリフィス部材114は、前記第1の実施形態のオリフィス部材66よりも上下方向寸法が大きくされており、仕切ゴム弾性体64から第一の流体室108の内部に延び出して、かかるオリフィス部材114の上端部分が第一の本体ゴム弾性体40の円形凹部116内に入り込み、相互に固着または非固着で組み付けられている。なお、本実施形態のオリフィス部材114の基本的構造は、前記第1の実施形態のオリフィス部材66と同様であり、オリフィス部材本体72の上下両端の収容凹部80,80に環状プレート74,74が収容されて固着されることで、オリフィス部材114内部にオリフィス通路118が形成されている。
【0068】
そして、本実施形態のオリフィス部材本体72の周壁76における軸方向中間部分には、例えば径方向に延びる上連通孔119が設けられており、複数の貫通孔86のうちのオリフィス通路118の一方の端部となる前記貫通孔86aが、かかる上連通孔119を通じて外部(第一の流体室108)と連通されている。これにより、第一の流体室108と第二の流体室110がオリフィス通路118により相互に連通されている。
【0069】
かかる形状とされた本実施形態のエンジンマウント112では、前記第1の実施形態に比べて、オリフィス部材本体72に設けられる貫通孔86の長さ寸法(上下方向寸法)が大きく設定可能とされることから、オリフィス通路118の長さをより長くすることができる。これにより、防振特性のチューニングの設定自由度が更に向上され得る。
【0070】
以上、本発明の実施形態および実施例について説明してきたが、本発明はかかる実施形態における具体的な記載によって限定的に解釈されるものでなく、当業者の知識に基づいて種々なる変更,修正,改良などを加えた態様で実施可能である。
【0071】
たとえば、本発明に係る流体封入式筒形防振装置の具体的な構造は何等限定されるものではない。前記実施形態では、第一の本体ゴム弾性体40、第二の本体ゴム弾性体48、仕切ゴム弾性体64が、それぞれ外周側と内周側の筒状の金具を備える第一の一体加硫成形品42、第二の一体加硫成形品54、第三の一体加硫成形品70として形成されていたが、かかる態様に限定されない。
【0072】
具体的には、例えば第一および第二の本体ゴム弾性体と仕切ゴム弾性体を内筒金具の外周面に一体加硫成形せしめて、それら各ゴム弾性体間で周方向に延びる環状凹所を外周面に開口させると共に、各ゴム弾性体の外周面に嵌着筒金具を加硫接着する一方、それら各嵌着筒金具に対して外筒金具を外嵌固定することで各環状凹所を流体密に覆蓋して、第一および第二の流体室を形成することも可能である。
【0073】
さらに、オリフィス部材は、その具体的な形状や寸法に加えて配設態様も限定されるものではない。たとえば、前記実施形態では、第三の一体加硫成形品70において内周側にオリフィス部材66,114が設けられる一方、外周側に嵌着筒金具68が設けられて、オリフィス部材66,114が内筒金具12に外嵌されるとともに嵌着筒金具68が外筒金具14に内嵌されていたが、内周側に嵌着筒金具が設けられるとともに外周側にオリフィス部材が設けられて、内筒金具に嵌着筒金具が外嵌される一方、外筒金具にオリフィス部材が内嵌されるようにしてもよい。あるいは、内外周面において内筒金具と外筒金具に固定される中間ゴム壁に対して、その径方向中間部分にオリフィス部材を固着支持せしめることで、オリフィス部材が、内外筒金具の何れに対しても中間ゴム壁によって弾性的に支持された構造を採用することも可能である。即ち、インナ軸部材とアウタ筒部材との間を周方向に延びるように設けられるオリフィス部材は、インナ軸部材とアウタ筒部材との軸直角方向の対向部間に配されていれば良く、かかるオリフィス部材がインナ軸部材とアウタ筒部材の少なくとも一方に対して、ゴム弾性体としての中間ゴム壁を介して連結されることでインナ軸部材とアウタ筒部材の弾性的な相対変位が許容されることとなる。
【0074】
また、オリフィス部材は全周に亘って連続した円環形状とされる必要はなく、周方向で1周に満たない周方向長さで延びる非円環形状とされてもよい。また、本発明において、インナ軸部材やアウタ筒部材から独立したオリフィス部材は必須なものではなく、例えばインナ軸部材の外周やアウタ筒部材の内周に突出部分を設けて、当該突出部分にオリフィス通路を形成してもよいし、中間ゴム壁に対して、特別なオリフィス部材を設けることなく直接にオリフィス通路を形成してもよい。なお、インナ軸部材の外周にオリフィス部材を設ける場合にはインナ軸部材と平行な長さ方向で往復して延びるオリフィス通路が好適であり、アウタ筒部材の内周にオリフィス部材を設ける場合にはアウタ筒部材と平行な長さ方向で往復して延びるオリフィス通路が好適であるが、本発明の目的や作用効果から、オリフィス通路のインナ軸部材やアウタ筒部材に対する厳密な平行構造が要求されるものでないことは理解されなければならない。
【0075】
更にまた、前記第2の実施形態では、オリフィス部材114における上側の環状プレート74は必須なものではない。すなわち、オリフィス部材本体における貫通孔および連通凹部の上部開口が第一の端部ゴム壁で覆蓋されることによりオリフィス通路が形成されるようにしてもよい。また、前記第2の実施形態では、オリフィス部材114の上端部分が第一の本体ゴム弾性体40に入り込んでいたが、それに代えて、または加えて、オリフィス部材の下端部分が第二の端部ゴム壁に入り込んでいてもよい。このように、オリフィス部材の下端部分が第二の端部ゴム壁に入り込む場合には、第二の流体室への下連通孔を、例えば第一の流体室への上連通孔と同様にオリフィス部材の周壁に設けることができるし、また、オリフィス部材における下側の環状プレートは必要なものではない。
【0076】
さらに、オリフィス部材におけるオリフィス通路は、前記実施形態のように周方向の略全周に亘って設けられてもよいが、周上で部分的に形成してもよい。このように、オリフィス通路を周上で部分的に形成する場合には、例えばオリフィス部材の軸方向長さを周上で部分的に大きくして、当該部分にオリフィス通路を設けることでオリフィス通路の長さを確保することができる。また、周上で部分的にオリフィス通路を形成する場合には、オリフィス部材の周上の複数部分においてそれぞれ並列的に延びるオリフィス通路を互いに独立して形成して、各オリフィス通路によって第一の流体室と第二の流体室をそれぞれ連通させることも可能である。
【0077】
更にまた、前記実施形態では、オリフィス部材本体72の周壁76に上下方向に延びる円形の貫通孔86が設けられることでオリフィス通路104,118において上下方向に延びる部分が構成されていたが、かかる態様に限定されるものではない。すなわち、例えばオリフィス部材の内周面や外周面に半円形断面をもって上下方向に延びる軸方向溝を設けて、オリフィス部材をインナ軸部材に外嵌したりアウタ筒部材に内嵌したりすることにより軸方向溝の開口部をインナ軸部材の外周面やアウタ筒部材の内周面で覆蓋してオリフィス通路を形成するようにしてもよい。なお、かかる場合には、インナ軸部材の外周面やアウタ筒部材の内周面にシールゴム層が設けられて、オリフィス通路のシール性が確保されることが好適である。
【0078】
また、前記実施形態では、軸直角方向に広がって内筒金具12と外筒金具14とを連結する仕切ゴム弾性体64を挟んだ軸方向両側にそれぞれ環状の第一および第二の流体室108,110が形成されており、インナ軸部材とアウタ筒部材との間の軸方向の入力振動に対して、これらの流体室108,110間におけるオリフィス通路104,118を通じての流体流動に基づく防振効果が発揮されるようになっていたが、本発明は、例えば軸方向に広がってインナ軸部材とアウタ筒部材とを連結する仕切ゴム壁により周方向でそれぞれ略半周に亘って広がる流体室が形成されており、インナ軸部材とアウタ筒部材との間の軸直角方向の入力振動に対して、流体室間におけるオリフィス通路を通じての流体流動に基づく防振効果が発揮される筒形防振装置などにも適用可能である。たとえば、特開2012−092875号公報に記載されているように、軸直角方向の防振効果を目的とする流体封入式筒形防振装置に本発明を適用する際には、アウタ筒部材の内周面に沿って配されたオリフィス部材に対して、本発明に従って長さ方向に往復して延びるオリフィス通路を形成することができる。また、インナ軸部材とアウタ筒部材の一方から他方に向かって流体室内に突出するストッパ部を、必要に応じてインナ軸部材の外周面やアウタ筒部材の内周面に沿って周方向に延長形成してオリフィス部材として利用し、かかるストッパ部において長さ方向に往復して延びるオリフィス通路を形成することも可能である。
【0079】
更にまた、オリフィス部材の具体的な構造も限定されるものではなく、例えば円筒形スリーブの内周面又は外周面に対して、軸方向に延びる複数本の軸方向溝とそれら軸方向溝の両端部を交互に連通する折返し溝からなる蛇行溝を、切削や型成形などで形成して、かかる蛇行溝を円筒形スリーブに内挿または外挿される蓋スリーブやインナ軸部材又はアウタ筒部材で覆蓋することにより、目的とするオリフィス通路を形成することも可能である。
【0080】
さらに、オリフィス通路における軸方向端部での折り返しの回数、換言すれば軸方向に延びる部分の数(オリフィス部材本体における貫通孔の数)は、オリフィス通路のチューニングによって適宜に設定可能であって何等限定されるものではない。
【0081】
また、図12に示されているように、オリフィス通路120において軸方向で折り返す部分を構成する折返し流路部122の外周側内面124を流路方向で滑らかな円弧状の湾曲面とすることも可能である。これにより、流体がオリフィス通路120内において軸方向で折り返す際にも、流路方向で略半円状の滑らかな湾曲面からなる外周側内面124に案内されて滑らかな流動が実現されて、オリフィス通路120内での流体流動において、局所的に流動抵抗が大きくなることなどが回避されて、所望の防振特性がより安定して発揮され得る。なお、図12では、折返し流路部122の内周側内面126も、流路方向で滑らかな円弧状の湾曲面とされており、流路断面積の拡縮に伴うエネルギー損失の低減や乱流の抑制などが図られている。因みに、図12は、前記第一または第二の実施形態で採用され得るオリフィス部材66,114について周壁76の厚さ方向中間部分を展開状態で示す周方向の断面図である。
【0082】
なお、本発明の構成は、前記実施形態に示したエンジンマウントだけでなく、ボデーマウントやデフマウント、サスペンションブッシュなどの車両用の流体封入式筒形防振装置や、それ以外の各種の流体封入式筒形防振装置に採用され得る。
【符号の説明】
【0083】
10,112:エンジンマウント(流体封入式筒形防振装置)、12:内筒金具(インナ軸部材)、14:外筒金具(アウタ筒部材)、16:ゴム弾性体、40:第一の本体ゴム弾性体(第一の端部ゴム壁)、48:第二の本体ゴム弾性体(第二の端部ゴム壁)、64:仕切ゴム弾性体(中間ゴム壁)、66,114:オリフィス部材、72:オリフィス部材本体、74:環状プレート(蓋部材)、104,118,120:オリフィス通路、108:第一の流体室、110:第二の流体室,124:外周側内面
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